16
経済のプリズム No132 2014.11 29 貿易収支の悪化とその背景 ~燃料輸入の増加と交易条件の悪化、海外生産比率の上昇~ 経済産業委員会調査室 縄田 康光 1.はじめに 我が国の貿易収支は、2011 年に 31 年ぶりの赤字となった。貿易収支は 1990 年代に 10 兆円前後の黒字を示し、1998 年には黒字額は 13 兆 9,914 億円に達し ていたが、2011 年以降、3年連続の赤字となり、2013 年には 11 兆 4,684 億円 図表1-1 我が国の輸出入額の推移 (単位:兆円) 図表1-2 我が国の貿易収支額の推移 (単位:億円) (出所)「貿易統計」(財務省)より作成 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 輸出額 輸入額 139,914 66,347 (25,647) (69,411) (114,684) (76,047) (150,000) (100,000) (50,000) 0 50,000 100,000 150,000 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014(上半期)

貿易収支の悪化とその背景 - House of Councillors...経済の132 201411 29 貿易収支の悪化とその背景 ~燃料輸入の増加と交易条件の悪化、海外生産比率の上昇~

  • Upload
    others

  • View
    8

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

1 経済のプリズム No132 2014.11

29

貿易収支の悪化とその背景

~燃料輸入の増加と交易条件の悪化、海外生産比率の上昇~

経済産業委員会調査室 縄田 康光

1.はじめに

我が国の貿易収支は、2011 年に 31 年ぶりの赤字となった。貿易収支は 1990

年代に 10 兆円前後の黒字を示し、1998 年には黒字額は 13 兆 9,914 億円に達し

ていたが、2011 年以降、3年連続の赤字となり、2013 年には 11 兆 4,684 億円

図表1-1 我が国の輸出入額の推移 (単位:兆円)

図表1-2 我が国の貿易収支額の推移 (単位:億円)

(出所)「貿易統計」(財務省)より作成

0102030405060708090

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

輸出額 輸入額

139,914

66,347

(25,647)

(69,411)

(114,684)

(76,047)

(150,000)

(100,000)

(50,000)

0

50,000

100,000

150,000

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

(上

半期

経済のプリズム No132 2014.11 2

30

と過去最大の赤字額を計上、2014 年上半期においても7兆 6,047 億円の赤字と

なっている(図表1-1、1-2参照)。経常収支についても1、2013 年第4四

半期、2014 年第1四半期には赤字になるなど、我が国の国際収支をめぐる状況

は大きく変化している。

本稿では、最近の貿易収支悪化の背景にある燃料輸入の増加、交易条件の悪

化、海外生産比率の上昇、最近の円安の影響等について論じることとしたい。

2.燃料輸入の増加

(1)輸入に占める鉱物性燃料の比率の増加

まず、最近の貿易収支悪化の大きな要因となっている鉱物性燃料の輸入の推

移を見ることとする。図表2は鉱物性燃料の輸入額と全輸入額に占める割合を

示したものである。2000 年に8兆 3,166 億円だった輸入額は、その後の原油価

格の高騰を受け、2008 年には 27 兆 6,583 億円に達した。その後、リーマンシ

ョックに伴う原油価格の急落により、2009 年の輸入額は 14 兆 2,016 億円と急

減したが、2011 年以降は、東日本大震災後の燃料輸入の増加や、燃料価格の高

図表2 鉱物性燃料の輸入額と全輸入額に占める割合 (単位:兆円、%)

(出所)「貿易統計」(財務省)より作成

1 経常収支は、貿易収支、サービス収支(輸送・旅行・金融・知的財産権等使用料)、第一次所

得収支(対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等)、第二次所得収支(官民の無償資金

協力、寄付、贈与の受払等)の合計である。2013 年第4四半期の経常収支は▲14,311 億円、

2014 年第1四半期は▲8,187 億円となっている(2014 年第2四半期は 3,112 億円の黒字)。

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

40.0

0

5

10

15

20

25

30

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

鉱物性燃料(右軸:%) うち「原油及び粗油」(右軸:%)

うち「LNG」(右軸:%) 鉱物性燃料輸入額(左軸:兆円)

1 経済のプリズム No132 2014.11

31

騰、さらには最近の円安に伴い、燃料の輸入額は再び増加傾向にあり、2013 年

には 27 兆 4,438 億円に達している2。総輸入額に占める鉱物性燃料の比率は、

2000 年から 2004 年までは2割程度であったのが、2005 年から上昇し、2008 年

には 35.0%に達し、最近も 32.0%(2011 年)、34.1%(2012 年)、33.8%(2013

年)と高い水準が続いている。

(2)LNG輸入の急増

図表3-1、3-2は原油及び粗油とLNGの輸入量・輸入額の推移を示し

たものである。これを見ると、原油及び粗油の輸入量は 2008 年(2億 4,177

図表3-1 原油及び粗油輸入量・輸入額の推移 (単位:千 kl、百万円)

図表3-2 液化天然ガス(LNG)の輸入量・輸入額 (単位:千トン、百万円)

(出所)「貿易統計」(財務省)より作成

2 2014 年上半期も 14 兆 2,638 億円と依然として増加傾向が続いている(2013 年上半期の輸入

額:13 兆 4,709 億円)。

241,766

213,000

214,618

208,872

213,018

211,750

180,000

190,000

200,000

210,000

220,000

230,000

240,000

250,000

260,000

02,000,0004,000,0006,000,0008,000,000

10,000,00012,000,00014,000,00016,000,00018,000,000

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

原油及び粗油輸入量(右軸:千kl) 原油及び粗油輸入額(左軸:百万円)

69,26364,552

70,00878,532

87,314 87,491

010,00020,00030,00040,00050,00060,00070,00080,00090,000

01,000,0002,000,0003,000,0004,000,0005,000,0006,000,0007,000,0008,000,000

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

LNG輸入量(右軸:千トン) LNG輸入額(左軸:百万円)

経済のプリズム No132 2014.11 2

32

万 kl)から 2009 年(2億 1,300 万 kl)に輸入量が落ち込み、その後も横ばい

傾向であるのに対し、LNG輸入量は、東日本大震災後の原発停止と火力発電

への依存に伴い増加しており、2010 年の 7,001 万トンから 2013 年の 8,749 万

トンへと 1,700 万トン以上増加している。図表3-3と3-4は 2010 年以降の

月毎の原油及び粗油とLNGの輸入量を示したものだが、原油輸入量が漸減傾

向にあるのに対し、LNG輸入量は 2011 年以降大きく増加していることがわか

る。

図表3-3 2010 年以降の月毎の原油及び粗油輸入量 (単位:kl)

図表3-4 2010 年以降の月毎のLNG輸入量 (単位:トン)

(出所)「貿易統計」(財務省)より作成

10,000,000

12,000,000

14,000,000

16,000,000

18,000,000

20,000,000

22,000,000

24,000,000

26,000,000

2000

年1月 4月

7月

10月

2001

年1月 4月

7月

10月

2002

年1月 4月

7月

10月

2003

年1月 4月

7月

10月

2004

年1月 4月

7月

10月

2005

年1月 4月

7月

10月

2006

年1月 4月

7月

10月

2007

年1月 4月

7月

10月

2008

年1月 4月

7月

10月

2009

年1月 4月

7月

10月

2010

年1月 4月

7月

10月

2011

年1月 4月

7月

10月

2012

年1月 4月

7月

10月

2013

年1月 4月

7月

10月

2014

年1月 4月

7月

3,500,0004,000,0004,500,0005,000,0005,500,0006,000,0006,500,0007,000,0007,500,0008,000,0008,500,000

2000

年1月 4月

7月

10月

2001

年1月 4月

7月

10月

2002

年1月 4月

7月

10月

2003

年1月 4月

7月

10月

2004

年1月 4月

7月

10月

2005

年1月 4月

7月

10月

2006

年1月 4月

7月

10月

2007

年1月 4月

7月

10月

2008

年1月 4月

7月

10月

2009

年1月 4月

7月

10月

2010

年1月 4月

7月

10月

2011

年1月 4月

7月

10月

2012

年1月 4月

7月

10月

2013

年1月 4月

7月

10月

2014

年1月 4月

7月

1 経済のプリズム No132 2014.11

33

(3)燃料価格の上昇と火力発電への依存の増大

図表4は、原油及び粗油(1kl当たり)及びLNG(1t当たり)輸入価

格(CIF価格:保険料・運賃込み価格)を示したものである。これを見ると、

①今世紀初頭には原油及び粗油の価格が1kl当たり2万円程度、LNG価格

が1t当たり3万円程度で推移していたが、②2005 年以降急騰、2008 年には原

油及び粗油が約9万円、LNGが約8万円にまで達し、③リーマンショック後、

急落したが、2011 年以降は上昇傾向にあり、LNG価格は 2008 年のピーク時

を上回る水準に達している、という状況にある。

図表4 原油及び粗油・LNGのCIF価格の推移 (単位:円)

(出所)「貿易統計」(財務省)より作成

図表5 電力9社の燃料費の推移 (単位:百万円)

(出所)「電力統計情報」(電気事業連合会)より作成

0.010,000.020,000.030,000.040,000.050,000.060,000.070,000.080,000.090,000.0

100,000.0

2000

年1月 4月

7月

10月

2001

年1月 4月

7月

10月

2002

年1月 4月

7月

10月

2003

年1月 4月

7月

10月

2004

年1月 4月

7月

10月

2005

年1月 4月

7月

10月

2006

年1月 4月

7月

10月

2007

年1月 4月

7月

10月

2008

年1月 4月

7月

10月

2009

年1月 4月

7月

10月

2010

年1月 4月

7月

10月

2011

年1月 4月

7月

10月

2012

年1月 4月

7月

10月

2013

年1月 4月

7月

10月

2014

年1月 4月

7月

石油価格(1kl当たり) LNG価格(1t当たり)

1,985,170

1,884,208

2,000,083

2,024,155

2,154,134 2,722,492

3,076,985

4,429,419

5,086,758

3,015,083 3,620,347

5,899,880

7,028,524 7,677,874

0

1,000,000

2,000,000

3,000,000

4,000,000

5,000,000

6,000,000

7,000,000

8,000,000

経済のプリズム No132 2014.11 2

34

燃料輸入額の増加の大きな部分を占めるのが、電力会社の燃料費増である。

図表5は、沖縄電力を除く電力9社(一般電気事業者)の燃料費の推移を示し

たものであるが、2010 年度には約 3.6 兆円であった燃料費が 2013 年度には約

7.7 兆円と2倍以上に増加している。これは東日本大震災後の原発停止と火力

発電への依存増大、原油・LNG価格の上昇等によるものである3。

このように火力発電への依存に伴う燃料費の増加が、原油・LNG価格の上

昇や最近の円安傾向と並んで、燃料輸入額の増加、ひいては我が国の貿易収支

悪化の背景となっている。

3.交易条件の悪化

(1)悪化が続く交易条件

次に近年の交易条件の変化について見ることとする。図表6は、2000 年以降

の輸出物価指数、輸入物価指数、交易条件を示したものである(いずれも 2010

図表6 輸出物価指数、輸入物価指数、交易条件の推移(2010 年基準)

(出所)企業物価指数(2010 年基準)(日本銀行)より作成

3 総合資源エネルギー調査会原子力小委員会は電力9社計の燃料費を2013年度で7.5兆円+α

と推計している。このうち、原発停止による燃料費増を 3.6 兆円(LNG+1.9 兆円、石油+

1.8 兆円、石炭+0.1 兆円、原子力▲0.3 兆円)とし、さらにこれを化石燃料消費量の増加によ

る要因(2.6 兆円)、燃料価格の上昇による要因(0.7 兆円)、為替要因(0.3 兆円)と分析して

いる(総合資源エネルギー調査会原子力小委員会第6回資料(2014.9))。

60

70

80

90

100

110

120

130

140

150

160

2000

年1月

2000

年4月

2000

年7月

2000

年10

月2001

年1月

2001

年4月

2001

年7月

2001

年10

月2002

年1月

2002

年4月

2002

年7月

2002

年10

月2003

年1月

2003

年4月

2003

年7月

2003

年10

月2004

年1月

2004

年4月

2004

年7月

2004

年10

月2005

年1月

2005

年4月

2005

年7月

2005

年10

月2006

年1月

2006

年4月

2006

年7月

2006

年10

月2007

年1月

2007

年4月

2007

年7月

2007

年10

月2008

年1月

2008

年4月

2008

年7月

2008

年10

月2009

年1月

2009

年4月

2009

年7月

2009

年10

月2010

年1月

2010

年4月

2010

年7月

2010

年10

月2011

年1月

2011

年4月

2011

年7月

2011

年10

月2012

年1月

2012

年4月

2012

年7月

2012

年10

月2013

年1月

2013

年4月

2013

年7月

2013

年10

月2014

年1月

2014

年4月

2014

年7月

輸出物価指数(円ベース、総平均)ⓐ 輸入物価指数(円ベース、総平均)ⓑ

交易条件(ⓐ/ⓑ*100)

1 経済のプリズム No132 2014.11

35

年基準)。輸出物価指数(2010 年基準、総平均)は、2000 年 1 月(117.5)から

2014 年8月(109.0)と下落傾向にあるのに対し4、輸入物価指数(同)は同じ

期間で 78.3から 126.7へと大幅に上昇し、その結果交易条件は 150.1から 86.0

に大きく悪化している。同図を見ると、交易条件は、リーマンショック後の燃

料価格の暴落期を除いて、ほぼ一貫して悪化傾向にあることがわかる。

(2)主要品目の輸出物価指数・輸入物価指数

図表7-1及び7-2は、輸出物価指数及び輸入物価指数における主要品目

(類別)ごとの推移を見たものである。輸出物価指数におけるウェイトが大き

い「輸送用機器」「電気・電子機器」「はん用・生産用・業務用機器」を見ると5、

「輸送用機器」と「はん用・生産用・業務用機器」が概ね横ばいで推移してい

る一方、「電気・電子機器」は大幅に下落している。一方、輸入物価指数におけ

るウェイトが大きい「石油・石炭・天然ガス」「電気・電子機器」「金属・同製

品」を見ると、「電気・電子機器」が大幅に下落しているのは輸出同様であ

図表7-1 輸出物価指数の推移(2010 年基準、円ベース)

4 2012 年末からは、やや上昇基調にある(後述)。 5 2010 年基準企業物価指数における、輸出物価指数のウェイトは、「輸送用機器」が 240.6、「電

気・電子機器」が 232.9、「はん用・生産用・業務用機器」が 192.0 等となっている。同様に輸

入物価指数のウェイトは「石油・石炭・天然ガス」が 305.4、「電気・電子機器」が 184.3、「金

属・同製品」が 117.1 等となっている。

5060708090100110120130140150160170180190200210220

2000

年1月

2000

年4月

2000

年7月

2000

年10

月2001

年1月

2001

年4月

2001

年7月

2001

年10

月2002

年1月

2002

年4月

2002

年7月

2002

年10

月2003

年1月

2003

年4月

2003

年7月

2003

年10

月2004

年1月

2004

年4月

2004

年7月

2004

年10

月2005

年1月

2005

年4月

2005

年7月

2005

年10

月2006

年1月

2006

年4月

2006

年7月

2006

年10

月2007

年1月

2007

年4月

2007

年7月

2007

年10

月2008

年1月

2008

年4月

2008

年7月

2008

年10

月2009

年1月

2009

年4月

2009

年7月

2009

年10

月2010

年1月

2010

年4月

2010

年7月

2010

年10

月2011

年1月

2011

年4月

2011

年7月

2011

年10

月2012

年1月

2012

年4月

2012

年7月

2012

年10

月2013

年1月

2013

年4月

2013

年7月

2013

年10

月2014

年1月

2014

年4月

2014

年7月

輸送用機器 電気・電子機器 はん用・生産用・業務用機器

経済のプリズム No132 2014.11 2

36

図表7-2 輸入物価指数の推移(2010 年基準、円ベース)

(出所)企業物価指数(2010 年基準)(日本銀行)より作成

るが、「石油・石炭・天然ガス」は大幅に高騰、「金属・同製品」も上昇してい

る。

すなわち、(1)輸出入ともに比重が高い「電気・電子機器」が、技術進歩、

コモディティ化(汎用化)と新興国への生産移転、価格競争により大幅に価格

が下落する傾向にある一方、(2)輸入のうち最大を占める「石油・石炭・天然

ガス」が今世紀に入り約4倍に高騰、「金属・同製品」も高騰6、(3)輸出のう

ち最大の「輸送用機器」と3番目のウェイトを占める「はん用・生産用・業務

用機器」は、ほぼ横ばいである、という傾向が認められ、これらが交易条件の

悪化につながっていると言える。

(3)先進国の中でも際立つ交易条件の悪化

内閣府の資料によると7、交易条件の悪化により、実質GNI(国民総所得)

6 ただし、輸出物価指数においても「金属・同製品」は、4番目のウェイトを占めており(千

分比で 118.2)、2000 年1月から 2014 年7月で、58.2→111.2 と上昇している。 7 「経済財政政策から見た目指すべき国家像と成長戦略への期待に関する参考図表」(2013 年

3月8日 内閣府)(経済財政諮問会議資料)4頁参照。

0102030405060708090100110120130140150160170180190200210220230240250

2000

年1月

2000

年4月

2000

年7月

2000

年10

月2001

年1月

2001

年4月

2001

年7月

2001

年10

月2002

年1月

2002

年4月

2002

年7月

2002

年10

月2003

年1月

2003

年4月

2003

年7月

2003

年10

月2004

年1月

2004

年4月

2004

年7月

2004

年10

月2005

年1月

2005

年4月

2005

年7月

2005

年10

月2006

年1月

2006

年4月

2006

年7月

2006

年10

月2007

年1月

2007

年4月

2007

年7月

2007

年10

月2008

年1月

2008

年4月

2008

年7月

2008

年10

月2009

年1月

2009

年4月

2009

年7月

2009

年10

月2010

年1月

2010

年4月

2010

年7月

2010

年10

月2011

年1月

2011

年4月

2011

年7月

2011

年10

月2012

年1月

2012

年4月

2012

年7月

2012

年10

月2013

年1月

2013

年4月

2013

年7月

2013

年10

月2014

年1月

2014

年4月

2014

年7月

石油・石炭・天然ガス 電気・電子機器 金属・同製品

1 経済のプリズム No132 2014.11

37

の成長率は8、2001 年度から 2005 年度平均で年 0.4%、2006 年度から 2011 年

度平均で年 0.5%押し下げられている。2006 年度から 2011 年度の実質GNI成

長率は年平均▲0.3%であり、交易条件の悪化が、経済や国民生活全体に悪影響

を与えていることになる。

また、OECD平均や主要先進国(米・英・独)では交易条件は安定的に推

移しているのに対し9、日本は交易条件の悪化が続いている10。すなわち、OE

CD平均では、1995 年以降、輸出価格と輸入価格は概ね同じペースで増加して

おり、米・英も今世紀は同様の傾向を示している。ドイツは輸出価格・輸入価

格とも概ね横ばいである。

我が国の交易条件悪化の背景としては、円高時の為替転嫁や原料費高騰時の

製品価格への転嫁がしにくい状況が続いたことが考えられる。2009 年の内閣府

の分析によると11、①為替転嫁率は 1980 年代の 30%程度から 90 年代には 10%

程度まで低下した12、②日本の輸出シェアの増加は為替転嫁率を上昇させるが、

日本の海外現地法人販売額や中国の輸出シェアの増加は為替転嫁率を低下させ

る、③円高時には為替転嫁率が低下し、円安時には為替転嫁率が上昇する傾向

がみられ、円高時においても輸出物価指数が上昇しにくくなっている、旨の状

況が見られる。

また、同じく 2013 年の内閣府の分析では13、①原油から穀物まで広範な品目

で資源価格が高騰していた 2004 年から 2008 年の局面では、投入物価から産出

物価への転嫁が十分に進まず、②我が国経済がデフレ状況に陥った 2000 年代を

通して見ても、産出物価の上昇が投入物価の上昇と釣り合ったことは一度もな

い、旨指摘している。

このように、原料費等の上昇を製品価格に十分転嫁できず、過去の円高期に

も為替転嫁をしづらかった状況が、交易条件の悪化(輸出価格の輸入価格に対

する低下)の背景にあると考えられる。

8 実質GNIは、実質GDP(国内総生産)に、海外からの所得純受取と交易条件の変化に伴

う実質所得の増減を加えたものである。 9 前記「経済財政政策から見た目指すべき国家像と成長戦略への期待に関する参考図表」5頁

参照。 10 韓国も同様に交易条件の悪化が続いている。 11 「政策課題分析シリ-ズ5 為替変動の輸出物価への影響分析-為替転嫁率に影響する要因

は何か-」(内閣府政策統括官(経済財政分析担当)、2009 年 10 月) 12 「産業活動分析(平成 25 年1~3月期) 為替レートと輸出金額・輸出価格の関係について」

(経済産業省)では、1981 年1~3月期から 2013 年1~3月期における、輸出物価の為替レ

ート弾性値を 0.3(3割程度の為替転嫁)としている。 13 「日本経済 2013-2014」(内閣府政策統括官(経済財政分析担当)、2013 年 12 月)第3章第

3節。

経済のプリズム No132 2014.11 2

38

4.海外生産比率の上昇

(1)海外生産比率の上昇、日本からの調達比率の低下、第三国向け輸出の増

次に、海外生産比率の上昇等について見ることとしたい。図表8は製造業の

海外生産比率(国内全法人ベース)の推移を示したものである14。これを見る

と製造業計で 2000 年度の 11.8%から 2012 年度には 20.3%に上昇、輸送機械の

みを見ると 23.7%から 40.2%に大幅に増加している。

図表9は、日本企業の海外現地法人の売上高を示したものである。売上高は

2000 年度の約 129 兆円から 2012 年度には約 199 兆円に増加しているが、内訳

を見ると、「第三国向け輸出額」が約 26 兆 9,600 億円(2000 年度)から約 59

兆 8,300 億円(2012 年度)に大きく増加している。これは、以前は日本から輸

出されていた部分が、海外の生産拠点により代替されている状況を示している

と言える。

図表 10 は、製造業現地法人の日本からの調達比率の推移を示したものである

が、「北米」が 39.9%(2000 年度)から 28.6%(2012 年度)、同じく「アジア」

が36.6%から26.7%に、「欧州」が39.0%から28.6%へと大きく下落している。

製造業現地法人の売上増がそのまま我が国の輸出増に結びつくとは必ずしも言

えない状況にある15。

図表8 製造業の海外生産比率の推移 (単位:%)

(出所)「海外事業活動基本調査」(経済産業省)より作成

14 海外事業活動基本調査による。同調査は、海外に現地法人を有する我が国企業(金融業,保

険業及び不動産業を除く。)を対象としたものであり、第 43 回調査(2012 年度実績)では、本

社企業 6,461 社、現地法人 23,351 社(いずれも有効回答)を調査している。 15 調達額で見ると、「北米」の日本からの調達額は 2000 年度から 2012 年度で約5兆 4,450 億

円→約4兆 6,630 億円、「アジア」は同じく約5兆 2,230 億円→約 10 兆 2,700 億円、「欧州」

は約2兆 7,650 億円→約 1 兆 8,050 億円となっている。

11.8 14.3 14.6 15.6 16.2 16.7 18.1 19.1 17.0 17.0 18.1 18.0 20.3 23.7

30.6 32.2 32.6 36.0 37.0 37.8

42.0 39.2 39.3 39.2 38.6 40.2

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

製造業計

輸送機械

1 経済のプリズム No132 2014.11

39

図表9 日本企業の海外現地法人の売上高 (単位:百万円)

(出所)「海外事業活動基本調査」(経済産業省)より作成

図表 10 製造業現地法人の日本からの調達比率の推移 (単位:%)

(出所)「海外事業活動基本調査」(経済産業省)より作成

(2)自動車等の海外生産の拡大

図表 11 は、同様に輸送機械16の海外現地法人売上高を見たものであるが、売

上高が 16 兆 6,182 億円(2000 年度)から 44 兆 8,327 億円(2012 年度)に増加

16 輸送機械器具製造業(自動車、自動車車体・附随車製造業/自動車部分品・附属品製造業/

その他の輸送用機械器具製造業)を指す。

129,014,979

199,034,419

84,723,790

119,671,608

17,329,263 19,530,434

26,961,926

59,832,377

0

50,000,000

100,000,000

150,000,000

200,000,000

250,000,000

売上高 うち現地販売額

うち日本向け輸出額 うち第三国向け輸出額

20.0

25.0

30.0

35.0

40.0

45.0

50.0

北米

アジア

欧州

経済のプリズム No132 2014.11 2

40

している中で17、「第三国向け輸出」は同期間で2兆 1,243 億円から 15 兆 8,083

億円へと急増しており、その中でも北米向けは 6,998 億円から7兆 8,816 億円

と約11倍になっている。我が国の2012年度の輸送用機器の輸出額は14兆9,664

億円、うち米国向け輸出額は4兆 2,716 億円であり18、我が国自動車メーカー

等の輸出拠点が、日本から外国へと比重を移していることが伺える。図表 12

は、2000 年以降の我が国の自動車の国内生産台数、輸出台数、海外生産台数の

図表 11 日本企業の海外現地法人の売上高の推移(輸送機械) (単位:百万円)

(出所)「海外事業活動基本調査」(経済産業省)より作成

図表 12 自動車の国内生産台数、輸出台数、海外生産台数の推移 (単位:台)

(出所)日本自動車工業会資料より作成

17 海外現地法人の売上高(2012 年度)199 兆 344 億円のうち、製造業は 98 兆 3,847 億円であ

り、輸送機械(44 兆 8,327 億円)がその最大を占めている(非製造業は 100 兆 6,498 億円であ

り、「卸売業」(72 兆 4,211 億円)が最大を占めている)。 18 財務省「貿易統計」。「輸送用機器」は、自動車(乗用車・バス・トラック)、自動車の部分

品、二輪自動車、船舶を指す。

02,000,0004,000,0006,000,0008,000,00010,000,00012,000,00014,000,00016,000,000

0

10,000,000

20,000,000

30,000,000

40,000,000

50,000,000

60,000,000

輸送機械(a)(左軸) (a)のうち第三国向け輸出(b)(右軸) (b)のうち北米向け(右軸)

02,000,0004,000,0006,000,0008,000,00010,000,00012,000,00014,000,00016,000,00018,000,000

国内生産台数

輸出台数

海外生産台数

1 経済のプリズム No132 2014.11

41

推移を示したものである。国内生産台数は 2007 年の約 1,160 万台(うち輸出台

数約 655 万台)をピークに192013 年には約 963 万台(うち輸出台数約 467 万台)

約 200 万台減少している。これに対し海外生産台数は、2007 年に国内生産台数

を上回り、2013 年には約 1,676 万台に達している。

(3)電子工業-輸出国から輸入国へ-

図表 13 は、電子工業の輸出入額の推移を示したものである20。2000 年には輸

出額 14 兆 2,592 億円、輸入額7兆 3,019 億円であったものが、2013 年には輸

出額9兆 1,095 億円、輸入額9兆 8,773 億円となっており、輸入額が輸出額を

逆転している。

このように、海外生産比率の上昇、我が国企業の輸出拠点の海外への展開・

移転、かつて輸出産業であった分野における輸出入の逆転等が、近年の我が国

の貿易収支の変化の背景にある。

図表13 電子工業の輸出入額の推移 (単位:百万円)

(出所)電子情報技術産業協会資料より作成

5.最近の円安の影響

次に、2012 年末以来、急速に進んだ円安の影響について見ることとしたい。

(1)円安にも関わらず増加しない輸出

図表 14-1は、2010 年以降の月次の輸出額・輸入額を示したものであるが、

2012 年7月以降 26 か月連続で貿易赤字が続いている(2014 年8月時点)。2012

19 輸出台数のピークは 2008 年(約 673 万台)である。 20 一般社団法人電子情報技術産業協会が財務省貿易統計に基づきまとめた数値による。民生用

電子機器(映像機器・音声機器)、産業用電子機器(通信機器・電子計算機及び関連装置・電

子応用装置・電気計測器・事務用機械)、電子部品・デバイス等からなる。

02,000,0004,000,0006,000,0008,000,00010,000,00012,000,00014,000,00016,000,000

電子工業輸出額

電子工業輸入額

経済のプリズム No132 2014.11 2

42

年末以降の円安傾向にも関わらず、輸出は大きくは増加しておらず、円安もあ

って増加が続いている輸入額との差が拡大する傾向が見て取れる。図表 14-2

は、2010 年以降の輸出数量指数・輸入数量指数の推移を示したものであるが21、

輸出数量指数がわずかに下落傾向にあることがわかる。円安の効果が浸透し、

輸出増につながるには時間を要すること(いわゆるJカーブ効果)、輸出につい

ては、新興国等、輸出先の景気動向も影響していること等も考慮する必要があ

るが、2014 年7月までの数値を見る限り、円安→輸出の増加という図式にはな

っていない。

図表 14-1 2010 年以降の月次輸出額・輸入額 (単位:百万円)

図表 14-2 2010 年以降の輸出数量指数・輸入数量指数の推移 (2010 年=100)

(出所)「貿易統計」(財務省)より作成

21 「数量指数」は、金額指数(基準年の輸出入額に対する比較時の輸出入額の比率)を価格指

数(一定数の商品の平均単価を指数化して加重平均したもの)で除したものである。

4,000,0004,500,0005,000,0005,500,0006,000,0006,500,0007,000,0007,500,0008,000,0008,500,000

2010

年1月

2010

年4月

2010

年7月

2010

年10

2011

年1月

2011

年4月

2011

年7月

2011

年10

2012

年1月

2012

年4月

2012

年7月

2012

年10

2013

年1月

2013

年4月

2013

年7月

2013

年10

2014

年1月

2014

年4月

2014

年7月

輸出

輸入

75

80

85

90

95

100

105

110

115

120

輸出数量指数

輸入数量指数

1 経済のプリズム No132 2014.11

43

(2)円安と輸出物価

図表 15 は、2012 年以降の輸出物価指数・輸入物価指数を示したものである。

これを見ると、契約通貨ベースでは輸出物価・輸入物価とも横ばい傾向にある

が、円安に転じた 2012 年末以降、円ベースで見ると双方とも上昇傾向にある。

輸入物価の上昇は円安に伴うものであるが、輸出物価の上昇は、契約通貨での

輸出価格を一定に保つとともに、利益の確保を図る企業の行動と推測される22。

図表 15 2012 年以降の輸出物価指数・輸入物価指数(2010 年基準、総平均)

(出所)企業物価指数(2010 年基準)(日本銀行)より作成

6.長期にわたる円高とそれに伴う企業の行動がもたらしたもの

我が国の企業は、長年、円高を輸出価格に十分転嫁できないことに苦しんで

きた。現地生産等の海外生産の促進は、為替が企業業績に中立的な環境を企業

が求めたという面がある。また、自動車に見られるように、輸出拠点も国内か

ら第三国に移転する動きが生じている。人口減少時代を迎えている国内ではな

く、需要の拡大が見込まれる地域に生産拠点を置く傾向は、FTA・EPAの

拡大もあり23、今後とも続くものと考えられる24。

22 近年の日本企業は輸出価格を現地通貨建てで安定させるPTM(pricing-to-market)行動を

取る傾向にある。清水順子・佐藤清隆「RIETI Discussion Paper Series 14-J-022 アベノミク

スと円安、貿易赤字、日本の輸出競争力」(2014 年7月)参照。 23 北米自由貿易協定(NAFTA)加盟国であるメキシコに多くの日系自動車メーカーが進出し、

90

95

100

105

110

115

120

125

130

135

2012

年1月

2012

年2月

2012

年3月

2012

年4月

2012

年5月

2012

年6月

2012

年7月

2012

年8月

2012

年9月

2012

年10

2012

年11

2012

年12

2013

年1月

2013

年2月

2013

年3月

2013

年4月

2013

年5月

2013

年6月

2013

年7月

2013

年8月

2013

年9月

2013

年10

2013

年11

2013

年12

2014

年1月

2014

年2月

2014

年3月

2014

年4月

2014

年5月

2014

年6月

2014

年7月

2014

年8月

輸出物価指数(円) 輸出物価指数(契約通貨)

輸入物価指数(円) 輸入物価指数(契約通貨)

経済のプリズム No132 2014.11 2

44

我が国の貿易収支の変化は、①近年の原油等の価格高騰という世界的な要因、

②東日本大震災以降の原発停止と火力発電への依存増大という我が国固有の要

因、③長年にわたる円高や企業のコスト削減努力がもたらした、海外への生産

移転等の企業行動の変化等、複合的な要因によりもたらされたと言える。今後

も貿易赤字傾向が定着するのか注目される。

【参考文献】

経済産業省『産業活動分析(平成 23 年年間回顧)【鉱物性燃料の長期的輸入動向と震

災後の液化天然ガスの輸入動向について】』、2012 年3月

経済産業省『産業活動分析(平成 25 年1~3月期)為替レートと輸出金額・輸出価格

の関係について』、2013 年6月

内閣府『政策課題分析シリ-ズ5 為替変動の輸出物価への影響分析-為替転嫁率に影

響する要因は何か-』、2009 年 10 月

内閣府『日本経済 2013-2014』、2013 年 12 月

経済社会総合研究所『平成 25 年度企業行動に関するアンケート調査』、2014 年2月

国際協力銀行『わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告-2013 年度海外直

接投資アンケート結果(第 25 回)-』、2013 年 11 月

清水順子・佐藤清隆『RIETI Discussion Paper Series 14-J-022 アベノミクスと円

安、貿易赤字、日本の輸出競争力』、2014 年7月

(内線 75262)

対米輸出拠点としているケース等。 24 「平成 25 年度企業行動に関するアンケート調査」(経済社会総合研究所、2014 年2月)によ

ると、海外現地生産を行う企業(製造業)の割合は 2012 年度で 69.8%に達し、2018 年度には

73.4%に達する見込みである。また、海外現地生産比率(製造業)は 2012 年度で 20.6%、2018

年度見込みは 25.5%となっている。また、海外に生産拠点を置く理由の第1位は、「現地・進

出先近隣国の需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる」(50.8%)であり、第2位の「労働力

コストが低い」(19.1%)を大きく上回っている(同アンケート調査は、東京・名古屋の証券

取引所第一部及び第二部に上場する全企業 2,395 社を対象とし、867 社(うち製造業 439 社)

から回答を得ている)。