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― 251 ―
長期間持久性トレーニングによる24時間積算心拍数
と最大酸素摂取量並びに最高心拍数との関係
佐 賀 大 学
(共同研 究者) 同
同
北
久
坂
雄 裕
久 義
鵈 永
田
The Relationship of the Accumulated Number
\of Heart Beats for 24 hour8 with V02 ma χ
and ma χimal HR Determined
by the Effect of Long-term Endurance Training
.・ . ・・ .・・ ・ by
二 Hisao Kitashima ,
Yoshihiro Hisanaga and Michitaka Sakata
びniversity of Saga
道 孝
ABSTRACT
The purpose (jf this study was to clarify the relationship of the accumu-
lated number of heart beats ,(HB )for 24 hours with the maχimal oχygen
intake and the maχimal heart rate. Subjects for this study were the train-
ing group of 25 males , which consisted of 10 middle and long distance
runners and soccer players who had been in long-term endurance train-
ing of average 4.8 years, and the control group of 27 males.
ln the training group, the ma;ximal oxygen intake was 60 , 41m//kg ・ min
(3 .631(ruin ), significantly greater than that of the control group i.e. 47.02
m びkg ・min (2 .88Z/min)(pく0 .001),and HB for 24 hours was 85 ,109
beats , significantly lesser than that of the夕ontrol group i.e. 97,410 beats
(p <0 .001).
The subject with the greater aerobic work capacity had the lesser HB
for 24 hours due to the training bradycardia, and its decrease was deter-
mined by the decrease of heart ra紬during both waking and sleeping .
It was shown that the subject with the higher daily heart rate ako has
the higher maχimal heart rate at all out eχercise.
― 252 ―
緒 言 卜
何年 もめ長期間にわたって比較的高い心拍数が
持続すると,冠動脈のアテローム性動脈硬イ匕症,
およびその他の心血管系疾患を引き起こす可能性
もあり,24時間にわたって心拍をひとつ ずつ数え
た積算心拍数を用いた検討も必要となる.また,
積算心拍数による エネルギー 所要量 の 推定も報
告り・5・り )されている, =
日常生活における24 時間積算心拍数と有酸素的
作業能との関連を検討するため,著者はすでに4
週間の短期間持久性トレーニングを実施し,その
結果24 時間積算心拍数は有意に減少し厂その減少
は覚醒時心拍数の減少によるものセ,4 週阻の短
期間では,睡眠時心拍数は変化しない こ と を 報
告3)した.そこで今回は平均4 .8年の長期間持久
性トレーニ ングを行なっている被検者 に関して,\
24時間積算心拍数と有酸素的作業能との関係; お
よび最高心拍数と24 時間積算心拍数との関係に二つ
いて検討した. ご
方 法
被検者は大学陸上競技部の中・長距離選手10 名
とサッカー選手15 名の男子計25 名であった.比較
のため,既報3)の男子被検者のうちのコントロー
ル前(13 名)とトレーニ ング前(14 名 ,1 例を除
外)の計27 名の 値を コントロール 値として用い
た.被検者特性については表1 に示し た.24 時間
積算心拍数の測定にあだっての被検者に対する詳
細な指示,24 時間積算 心 拍 数 の分 析(Memory
MAC , Heart rate memory system, ヴァイン社),
および呼気ガズ分析については既報3)と同様であ
った .最大酸素摂取量測定のための運動負荷は,
電動式自転車エルゴメータ(アイソパワー・エル
ゴメータ,竹井機器工業)を用いた負荷漸増法に
よった. ペダ ルの回転数は50rpm とし,2 分ご
とに25W 増加させ , all-outまで追い込んだ.各
変量の統計処理には,佐賀大学電子計算機センタ
ーに連結されたSPSS パッケージ・システムを用
いた . Stepwise multiple linear regression analy一
心 は変数増加方式を用い , 変 数 の 投 入 基 準は
Subjects
Athlete N=10
Soccer N=15
Training group(Athlete
& Soccer)
N =25Control group
N =27
表I Effect of long-term endurance training on car die - pulmonary function.
Age
(yrs )
-
19 .4
±1 .1
NS
19 .9
±1 .2
19 .7
±1 .2
***
23 .1
±4 .0
Height
(cm )
66 .9
±5 .4
NS
71 .2
±5 .1
169.5
±5.5
NS
169.9
±4.7
Weight
(kg)
.06
±3 .
***
.84
士3 ,
.12±4.
NS
.73±7 .
V02ma χ
(//min)
-
3 .55±0 .3’
NS
3 .68
±0 .3’
27
3 。63
±0 .
***
2 .88
±0 .
VEma χ
(Z /min )
-
132 .9
±20 .!
34 .2
±16 .
±19 .
HRma χ
(bpm )
-
183
±14
185
±12
**
193
±8
HB24hr
(beats)
-
32,188士12,718
NS
37,056土7,867
85 ,109
土10 ,1
***
7 ,410
士8 ,1
HB24hr
(bpm )
-一 一
57±9
NS
60±6
59
±7
***
68
±6
HR
awake(bpm )-62±10
NS
66±6
‰
作≒
**p <O 。01 ***p く0 .001 NS not significant 卜
Mean values 土I SD are presented ヶ 卜 ‥‥‥‥ ‥‥ ‥‥‥ ‥‥ ‥‥ ,‥‥‥‥ ‥ ‥
Abbreviation: HR=Heart rate (bpm : beats/min) HB = Accumulated number of heart beats (beats )
HB 24hr and HR 24h.r―HB and HR for 24 hours
HR asleep and HR awake=HR daring sleeping and waking 卜 万……………… ……二
HR宗S
4817
匹49ぺ一
49
士{ 3
士
F=1.84)とした.
結果 と 考 察
24時間積算心拍数と最大酸素摂取量
平均4 .8年の長期間持久性トレーニングによる
呼吸・循環系機能への影響を表1 に示した.中・
長距離選手とサッカー選手との閧では,体重およ
び単位体重当たりの最大酸素摂取量に有意差が認
められたものの,この2 垪をまとめてトレーニン
グ群とし,コントロール群と比較した.
年齢はトレーニング群19 .7土1,2歳とコントロ
100
80
(日活
)。il
}{コ
60
40
60
40
(
日忿
)ま2
笵
’{X
△△
△
△
-253 一
一ル群23 .1±4.0歳で 有意差が 認め られた が(p
く0 .001),身長と体重に差は認められ なかった.
最大酸素摂取量は絶対値,体重当たり ともトレー
ニ ング群の方が有意 に 大 き く,トレ ーニング群
3 .63±0 .37//min (60 .41±5.15 mi/kg・m 汕) に
対し, コントロール群2 .88±0 .31//min (47 .02
±5 .10ni//kg・min )(両方ともp <0 .001)であっ
た .最高心拍数はトレーニング群185 ±12 beats/
min に対し, コントロール 群193 ±8 beats/min
で ,トレーニング群が有意に低かった(pく0 .01).
24時間積算心拍数は トレーニング 群85 ,109士
●Athlete (middle &long distance)
O Soccer
△Control
匹 <岫ゾ 。) ≒ ご言々九乱
(l、
N = 52
Y = 103.8-0.63X
r= -0 .591 p<0 .001
Syx = 7.4
○
WO
.き
ろ
○
○●
○
ご こ 、ヽ9、
●
△
I △△ 4 0
二子 分 騨
引斗
。
△ ● ○
● ○O
N =52 11
Y = 61.30 ― 0.20X
r= -0 .310 pく0 .05 ●
Syx = 5.1
. 1 1 1 1 1 1 1
40 べ 50 60
VOjma χ(m //kg ・ min)
図I HRawake and HRasleep in relation to V02 ma χ
on the training and control groups.
70
― 254 ―
10,133 beats, 1 分間当たり59 ±7 beats/mini に
対し,コントロール群97 ,410士8,181 beats, 1
分間当たり68 ±6 beats/min で,トレーニング群
が有意に低かった(pく0 .001). 覚醒時と 睡眠時
にわけてみると,トレーニング群の覚醒時心拍数
65±8 beats/min に対し, コントロール群75 ±7
beats/min, 同様に トレーニング群の睡眠時心拍
数49 ±6 beats/miri に対し,コントロール群53 ±
4 beaats/min となり, 覚醒時 および 睡眠時とも
にトレーニング群が有意に 低 か っ た(それぞれ
p<0.001 ; pく0 .01). 十 卜
4 週間程度の短期間持久性トレーニングにおい
ては, 睡眠時心拍数の減少は認められなかった3)
が,平均4 .8年の長期間持久性トレーニングにお
いては,横断的比較ではあるか,運動性徐脈によ
り覚醒時のみならず,睡眠時においても心拍数が
低下しているものと考えられる.
×104
12
10(
’1j
)ぶ
芯
皿}{
6
乙
つぎに個人のデータで覚醒時心拍数 ,睡眠時心
拍数,24時間積算心拍数について ,有酸素的作業
能との関係を検討する.図1 は単位体重当たりで
の最大酸素摂取量と覚醒時心拍数並びに睡眠時心
拍数との関係を示したものである.●は中・長距
離選手,C はサッカー選手,△はコ ントロールが
である.覚醒時 ,睡眠時ともに,有意な負の相関
認められた(それぞれ r ― ―0.591 p<0 .001 ;
r=-0.310 p<0 .05).同様にして24 時間積算心
拍数との関係を みたものが図2 であ り,有意な負
の相関が 認められた(r= -0.557, p<0 .001).
これらの図1 と図2 で明らかなよ うに長期間持
久性トレーニングを継続した中・長距離選手 ,サ
ッカー選手が,右に位置し,コント ロール群は左
に位置しており ,個人 のデータにおいても運動性
徐脈が認められる.
匹
2
プ1
°
△A _△ △yj1 き○
○ ○゜ 兔 △ 矗
゜ 認ぺO
0 6 00:j)O 冫
△
N = 52
Y = 130258.5―725.10X
r= -0 .557 pくO 。001
Syx = 9223
弓
○
○
●
ぷ へ
40 50 60 170
V02ma χ(m びkg ・ min) .
図2 HB24hr in relation to V02ma χ on the training and control groups.
80
1
(Ej
)χ6日
乖{
200
』
18
0
(巨豆
)χEy{
}{
160
18
0
(Ej
)χ~
}{
}{
200
160
160
200
/ ● ・●
○
N こ52
Y こ137 .4十〇.739X
r二0 .610 P< 0.001
Syx = 8.8
255 -
40
30
60 80
HR awake (bpm )
40 50
1!R asleep (bpm )
100
60
ム ●AO
。卜 /
ご
○ △●△
△ 矗
吩 べ
●_/くダ
て’iOO 盒矗矗 ム
4 ”O i j/ ・
,N こ52
Y = 133.4十〇.00061X
r °0.613 p<0 .001
Syx = 8.7
6 8 10 12
HB24hr (beats) ×104
図3 Maximal HR in relation to HRawake , HRasleep, and HB24hr
oll the training and control groups.
256 ―
表2 Stepwise multiple linear regression analysis for selected
variables at-all out eχercise (independent variables )and
HB 24hr , HR 24hr, HR awake , HR asleep (dependent
variables ).
HB 24hr = 13738.6+ 591.353HR 。。 -10 .5440 y02ma χ(ml /min)
(F 32 .0 R258.7 ***) ▽
HR 24hr= 8 ,6 十 〇。417HRmax - 0. 0074V02max (mX /min)
(F 32.6 R2 59.2 ***)
HRawake = 10.7 十 〇。469HRma 。-0 .0091 V02max (ml /min )
(F 34.8 R2 60.7 ***)
HR asleep ≒= 14.8 十 〇。244HRma χ-0 .079 VE max
(F 9 .0 R2 28.6 ***)
- 。
(Enter F -1 .8)
最高心拍数と24 時間積算心拍数
心拍数とall -out運動時に得られた 生理学的パ
ラメータが,どのような関連にあるのかを知るた
め,24時間積算心拍数,24 時間心拍数,覚醒時心
拍数, 睡眠時心拍数の4 項目を 従属変数 と し,
all-out運動時に得られた生理学的 パラメータ に
より,どの程度説明されるのかを検討した.独立
変数には,身長,体重,絶対値と体重当たりでの
最大酸素摂取量,最大換気量,最高心拍数,最大
呼吸数の7 変量をとり,変数増加方式 によるStep -
wise multiple linear regression analysisを試 み
た. \
その結果を表2 に示した.いずれも0 .1#水準
で有意に説明されている.睡眠時心拍数のみで説
明率R2 が28 .6^ となって いるものの,他の3 項
目の従属変数については約60 %の説明率が得られ
ている.いずれの従属変数においても, step l で
最高心拍数が投入され, step 2 では絶対値での最
大酸素摂取量あるいは最大換気量が投入されてい
る. step 3 以下 は独立変数のF 値が1 .8より小さ
くなり,投入されなかった.
これら4 項目の 従属変数が,a11,0ut運動時で
の最高心拍数と最も関連が深いことが分かったの
で,最高心拍数との関係を示したものが図3 であ
る,いずれも0 .1%水準で有意な正の相関が得ら
れており,a11-out運動時の最高心拍数が, 睡眠
時を含めた日常の心拍数により大きく影響されて
いることが分かる.すなわち日常の心拍数が高い
と最高心拍数も高いということになる.このこと
については,トレーニングされた42―68歳の中高
年男子を対象とした仰臥位での安静時心拍数が最
高心拍数と正の相関関係にあるとの報告8)もみら
れる.
従来より年齢補正による最高心拍数から運動強
度あるいは最大酸素摂取量の推定が行なわれてい
るが,日常での心拍数から最高心拍数を推定し,
運動強度あるいは最大酸素摂取量を推定する方法
も一考に値するものと思われる.
ま と め
1. 本研究の目的は,24時間積算心拍数と最大
酸素摂取量,並びに最高心拍数との関係を明らか
にすることであった.被検者はトレーニング群と
して,持久性トレーニングを平均4 .8年の長期間
継続している中・長距離選手10名とサッカー選手
15名の計25名の男子,およびコントロール27名の
男子であった.
2. トレーニング群の最大酸素摂取量は60 .41
mZ/kg・min (3.63//min)で, コントロール群
47.02 ml/kg・min. (2.881/min)より 有意に 大き
く(両方ともpCO .OOl),トレーニング群の24時
間積算心拍数は85 ,109 beats で ,コントロール群
97,410 beats より有意に小さかった(pく0 .001).
3. 有酸素的作業能が大きいと運動性徐脈によ
り24 時間積算心拍数が少なく,その低下は覚醒時
心拍数と睡眠時心拍数の両方の低下によるもので
あった.
4. 日常の心拍数が高いとall -out運動時の最
高心拍数も高いという結果が得られた.
引 用 文 献 二
1)北嶋久雄;積算心拍数から運動量を推定するため
の基礎的研究,佐賀大学教養部研究紀要,11 :
121―139 (1979 )
2)北嶋久雄,黒田善雄,塚越克己,雨宮輝也,伊藤
静夫;酸素脈からみた積算心拍数と運動量との関
係,佐賀大学教養部研究紀要,14 : 149―164
(1982 )
― 257 -
3)北嶋久雄,熊谷秋三,近藤芳昭;24 時間積算心拍
数と最大酸素摂取量に関する4 週間持久性トレー
ニングの影響,佐賀大学教養部研究紀要,16 :
147-153 (1974)
4)吉川和利,小官秀一,小室史恵;体 内総水分量予
測式作成の試み(I ),体力科学,32 : 39―48
(1983)
5)黒田善雄,北嶋久雄,塚越克己,雨 宮輝也,伊藤
静夫,松井美智子;積算心拍数と運動量との関係
について,昭和51年度日本体育協会 スポーツ科学
研究報告No . X (1978)
6)黒田善雄,塚越克己,伊藤静夫,雨宮輝也,金子
敬二,松井美智子;積算心拍数と運動量との関係
について一第2 報一,昭和52年度日本体育協会ス
ポーツ科学研究報告No - X (1979)
7)松井美智子,黒田善雄,塚越克己,雨宮輝也,伊
藤静夫,金子敬二,白鳥金丸;積算心拍数と運動
量との関係について一第3 報一,昭和53年度日本
体育協会スポーツ科学研究報告No .XⅢ(1980)
8) Grimby , G- and B. Saltin; Physiological analysis
of physically we 11-trained middle -aged and old
athletes, Acta Med. Scand. 179 (fasc. 5):513 ―
526 (1966)
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