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自らが描くことからはじめる中学校地形図学習 松岡 路秀 キーワード:中学校、地形図学習、描図活動、地図のきまり 1.はじめに 身近な地域の調査には、縮尺の大きな地図(地形図) が必要である。その地形図が読み取れるようにするた めには、縮尺、方位、等高線、地図記号など地図のき まりを学習しなければならない。しかし、これまでの 地形図学習は、教師が地図のきまりを一つひとつ説明 し、地形図を使っての確認作業で終わってしまうこと が多かった。 本実践は、生徒一一一人ひとりが校舎の屋上から学校周 辺の地図を描き、みんなが描いた地図の相違から、地 図のきまりの必要性に自らが気づき、そのしくみを理 解することによって、地形図が読み取れるようにしよ うというものである。 2.授業の展開 (1)1時限:学校周辺の地図を描こう(1) ねらい:学校の屋上から学校周辺の様子をながめ、 学校を中心とした地図を、配布した用紙 に絵地図ないしはスケッチ程度に描く。 「身近な地域(学区ないしその周辺)の調査をする ときに、どんな道具(持ち物)が必要か。」と問うと、 筆記用具、ノート、カメラ、地図などがあげられた。 「それでは身近な地域の調査に必要な地図とは、どの ような地図か。」と投げかけ、「地図帳の地図で間に 合うか。」と改めて聞いてみた。身近な地域の様子が わかる地図(大縮尺の地図)とは、どのような地図だ ろう。そのような地図を勉強する前に、まず実際に自 分で地図を描いてみることからはじめようということ にした。 地図を描くために用意した用紙を配布し、校舎の屋 上へあがり、3600 見える範囲 (図1の1万分の1の 地形図を参照)を絵地図ないしはスケッチ程度でかま わないので、学校を中心にして描かせた。屋上での描 図中に、何人かの生徒が「どっちが北か。」と聞いて くるので、「河川の上流が北である。」とだけは答え たが、方位とか地図記号などは気にせず自由に描かせ ることにした。全員が、各自自由な発想で屋上から見 た学校周辺の様子を、絵地図ないしはスケッチ程度に 描くことができた。 (2)2・3時限:学校周辺の地図を描こう(2) ねらい:みんなが描いた地図から、いろいろな描き 方やさまざまな工夫の違いを読み取り、み んなが使う一般的な地図にはきまりが必要 であることに気づく。 屋上で描いた地図(絵地図ないしはスケッチ程度の もの)を清書させる。何の規制も設けず、自由な発想 で晴書させたが、自分で地図記号をつくった場合は、 その凡例を下の表に記入するように指示した。 あるクラスで、みんなが地図を晴書しているときに、 一一一一人の生徒が「それぞれの人は、学校の横を流れてい る河川を、地図の左右どちらに描いているのか、調べ てみたい。」と言い出し、実際に調査しはじめた。そ 図1 学校周辺をあらわした1万分の1の地形図 (国土地理院発行 1:10,000地形図 福田<東京12-1-2> 平成14年1月1日発行) ー66-

自らが描くことからはじめる中学校地形図学習 · 2009. 10. 18. · 自らが描くことからはじめる中学校地形図学習 松岡 路秀 キーワード:中学校、地形図学習、描図活動、地図のきまり

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自らが描くことからはじめる中学校地形図学習

松岡 路秀

キーワード:中学校、地形図学習、描図活動、地図のきまり

1.はじめに

身近な地域の調査には、縮尺の大きな地図(地形図)

が必要である。その地形図が読み取れるようにするた

めには、縮尺、方位、等高線、地図記号など地図のき

まりを学習しなければならない。しかし、これまでの

地形図学習は、教師が地図のきまりを一つひとつ説明

し、地形図を使っての確認作業で終わってしまうこと

が多かった。

本実践は、生徒一一一人ひとりが校舎の屋上から学校周

辺の地図を描き、みんなが描いた地図の相違から、地

図のきまりの必要性に自らが気づき、そのしくみを理

解することによって、地形図が読み取れるようにしよ

うというものである。

2.授業の展開

(1)1時限:学校周辺の地図を描こう(1)

ねらい:学校の屋上から学校周辺の様子をながめ、

学校を中心とした地図を、配布した用紙

に絵地図ないしはスケッチ程度に描く。

「身近な地域(学区ないしその周辺)の調査をする

ときに、どんな道具(持ち物)が必要か。」と問うと、

筆記用具、ノート、カメラ、地図などがあげられた。

「それでは身近な地域の調査に必要な地図とは、どの

ような地図か。」と投げかけ、「地図帳の地図で間に

合うか。」と改めて聞いてみた。身近な地域の様子が

わかる地図(大縮尺の地図)とは、どのような地図だ

ろう。そのような地図を勉強する前に、まず実際に自

分で地図を描いてみることからはじめようということ

にした。

地図を描くために用意した用紙を配布し、校舎の屋

上へあがり、3600 見える範囲 (図1の1万分の1の

地形図を参照)を絵地図ないしはスケッチ程度でかま

わないので、学校を中心にして描かせた。屋上での描

図中に、何人かの生徒が「どっちが北か。」と聞いて

くるので、「河川の上流が北である。」とだけは答え

たが、方位とか地図記号などは気にせず自由に描かせ

ることにした。全員が、各自自由な発想で屋上から見

た学校周辺の様子を、絵地図ないしはスケッチ程度に

描くことができた。

(2)2・3時限:学校周辺の地図を描こう(2)

ねらい:みんなが描いた地図から、いろいろな描き

方やさまざまな工夫の違いを読み取り、み

んなが使う一般的な地図にはきまりが必要

であることに気づく。

屋上で描いた地図(絵地図ないしはスケッチ程度の

もの)を清書させる。何の規制も設けず、自由な発想

で晴書させたが、自分で地図記号をつくった場合は、

その凡例を下の表に記入するように指示した。

あるクラスで、みんなが地図を晴書しているときに、

一一一一人の生徒が「それぞれの人は、学校の横を流れてい

る河川を、地図の左右どちらに描いているのか、調べ

てみたい。」と言い出し、実際に調査しはじめた。そ

図1 学校周辺をあらわした1万分の1の地形図

(国土地理院発行 1:10,000地形図

福田<東京12-1-2> 平成14年1月1日発行)

ー66-

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の生徒が描いた地図<図2の代表例:A>は、河川を

地図の右側に描いていた。その生徒のクラスでの調査

結果は、地図の右側が10名、左側が24名、その他が2

名だった。その他の2名は河川を地図の上側に描いて

あったが、他のクラスでは地図の下側に描いた地図も

2例あった。これらの違いは、屋上で地図を描きはじ

めたときに、最初にどちらの方向を向いて描きはじめ

たかの違いによるものと考えられる。

この生徒の調査結果の発表をもとに、授業を展開し

ていった。調査した本人の河川が右側に描かれている

地図と、河川が上側に描かれた地図を並べて比較させ

た。「河川の描かれている場所が違うということは、

地図の何が違うということになるのか。」という質問

に対して、「地図の向きが違う。」「地図の方向が違

う。」という意見から、「地図の方位の違い」に気づ

いていった。

あるクラスの生徒が、「中学校を大きく描いてもい

いか。」と聞いてきた。その生徒が描いた地図<図2

の代表例:B>は、真ん中に中学校が大きく描いてあ

り、そのまわりは河川とビニルハウス程度であった。

その生徒の学校を大きく描いた地図と、逆に学校が小

さく描かれた地図<図2の代表例:C>を並べて比較

させた。その違いを問う質問に対して、「学校の大き

さが違う。」ということから、「描かれている範囲が

違う。」に気づき、最終的には「地図の縮尺の違い」

ということに気がついていった。

地図を清書する学習のとき「地図記号を使ってもよ

いが、自分で考えたものについては、それが何を意味

するのかを地図の下の表に凡例を記入する。」ように

伝えておいた。あるクラスの生徒の描いた地図<図2

の代表例:D>の地図記号は、実にユニークで目を引

いた。このユニークな地図記号の地図と、一般的な地

図記号の地図を並べて比較することによって、「地図

記号がばらばらである。」ということは容易に気づく

ことができた。

最後に、自分たちの描いた地図の相違点からわかっ

たことをまとめてみると、以下のようになった。

①「河川の描かれている位置が違う。」ということ

から「地図の方位の違い」に気づいた。

②「描かれた学校の大きさが違う。」ということか

ら「地図に描かれている範囲の違い」に気づき、

最終的には「地図の縮尺の違い」に気づいた。

③「描かれた地図記号がばらばらである。」という

ことから「地図記号の違い」に気づいていった。

自分の描いた地図は自分でわかればよいが、みんな

が使う地図はこれらのことが統一されていないと、使

うのに不便だということが確認された。「基本となる

地図の方位や縮尺、地図記号はどうなっているのだろ

うか。」ということから、次の時間は、こうした地図

のきまりについて学習していくことにした。

(3)4時限:地形図を読む

ねらい:地形図のさまざまなきまりを理解する。

地形図の読取りができるようにする。

日本でつくられているさまざまな地図のもとになっ

ている地図(基本図)とはどのような地図であろうか。」

ということで、学校所在地の「2万5000分の1の地形

図」を配布し、地図のきまりについての地形図学習を

はじめた。まず、配布された地形図に、中学校と自宅

を探して印をつけさせた。

次に、前時に自分たちが描いた地図の相違点から確

認した3点の疑問について確認していくことにした。

1点目の「河川の描かれている位置の違い」から「地

図の方位の違い」に気づいていったことに関しては、

まず「地形図では方位はどのようになっているのか。」

を確認させた。地形図を見ると「河川の上流が上にな

っている。」ので、「地図の上が北だ。」ということ

がわかった。実は「地形図は上が北」ということが決

まっていることを伝えた。しかし、自分が描いた地図

の場合はそうとは限らないので、必ず北を示す方位記

号を入れなければならないことを確認し、自分の描い

た地図に方位記号を記入させて、自分の描いた地図の

方位を確認させた。

2点目の「描かれた学校の大きさの違い」から「地

図の描かれている範囲の違い」「地図の縮尺の違い」

に気づいていったことに関しては、まず「地図とは、

実際を何分の1かに縮めたものだ。」ということを確

認し、配布した地形図は何万分の1かを探させた。多

くの生徒が、「1:25,000」を見つけ、それが縮尺で

あるということに気づいていった。「実は縮尺がわか

れば、学校から自宅までの直線距離を出すことができ

る。」といい、どうやったら導き出せるかを考えさせ

た。何人かの生徒はすぐに導き出すことでき、「実際

の距離=地図上の長さ×縮尺の分母」で出せることに

気づいていった。

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<代表例:A>

左 lいたと

嘉丁ぬいた

上和.田中学校を中心とした地図

嶋二■椚=七.書

⑳ サ・ル 協 羊 〃 r J‾/いうス

伊 仁 偏 鳩d

猛り 哲

命 宝 僚 )さけL_れ

<代表例:C>

私が揃い左上和田中学校を中心とした地国

■■七号

呆 町人さ一いう ㌔ 乞固 【j塾 あう年増

田 肯んは-、 合 史 ? ミミがらしうちし、

㊨ li k lナ tク ¶モL■フけ乳

<代表例:B>

私か描いた上和田中学校を中心とした地図

■■七号

<代表例:D>

私か描いた上和田中学校を中心とした地図

寺●■■- ●

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図2 生徒が描いた地図の代表例

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今回、自分の描いた地図に縮尺を入れることは困難で

あるが、地図には必ず縮尺が必要であることを確認し

た。

3点目の「描かれた地図記号がばらばらである。」

から「地図記号の違い」に気づいていったことに関し

ては、まず地形図に描かれている中学校の地図記号と、

自分が描いた地図の中学校の地図記号とを比較させ

た。学校の地図記号が伝)だということを知っている

生徒はかなりいたがそれは高等学校のことで、小中学

校は文であるということに気づいていった。この一

例からみても、地図記号がばらばらでは使いにくいと

いうことがわかり、地図記号の統一が必要だというこ

とで、地図記号の学習に入っていった。

最後に、地形図から読み取れることを確認すると、

(》方位がわかる。

②地図記号から「どこに何があるか」がわかる。

③縮尺から「広さ」や「実際の距離」がわかる。

ということがわかった。

しかし、地形図からもう一つのことを読み取りたい。

たとえば、山登りをするとき「あの山とこの山とでは、

どちらの方が高いか。」ということである。つまり、

土地の高低であるが、地図帳では色分け(断彩図)し

て表しているが、「地形図ではどうやって表している

か。」を探させた。何人かの生徒は「線がいっぱい入

っている。」ということに気づき、それが土地の高低

を表す等高線であるということを確認し、等高線の読

み方を学習することにした。しかし、大和市(都市部)

の地形図は市街地が多くて、等高線が途中で切断され

ることが多く、読み取りにくい。そこで「等高線の模

式図のプリント」で読み取り練習をすることによって、

等高線のしくみを理解していった。

3.おわりに

本実践の成果といえるものの一つが、生徒自らが地

図を描き、いろいろな地図がある中でそれらを見比べ

る過程で、地図のきまりの必要性に自らが気づいてい

ったことである。地図の方位・地図記号・縮尺・等高

線など地図のきまりについては、教師主導の講義で終

わってしまうことが多かったが、「みんなが使う地図

のきまりはどうなっているのだろうか。」という必要

性に迫られた中での、地形図学習には大きな意義があ

ったといえる。

もう一つが、生徒たちが実に楽しそうに、生き生き

と描図活動、地図の清書、地形図学習に取り組んでい

たことである。一番上手な地図を描いた<図2の代表

例:C>の生徒は、美術部に所属しており、自分の特

技が授業の中に生かせた。あまり一生懸命ではなく、

おおざっぱな地図を描いた<図2の代表例:B>の生

徒も、中学校を大きく描くという発想が授業の中で取

り上げられ、活躍の場が与えられた。実にユニークな

地図記号を描いた<図2の代表例:D>の生徒も、得

意げであった。中でも一番活躍したのは、河川が描か

れている位置を調査した生徒<図2の代表例:A>で

ある。その鋭い感性とその発想が地理的センスであり、

それは地理学習が目指そうとしている地理的な見方

や考え方につながるものと確信している。

(まつおか みちひで:神奈川県大和市教育委員会)

TopographicaI Map Study atJunior High SchooI started from One,s own Map

*Michihide MATSUOKA

Keywords:Junior High School,Topographical Map Study,Drawing Activity,

Regulations of Map

*Kanagawa Prefecture Yamato City The Board of Education

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