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www.pwc.com/jp/advisory 先を行くか、後れ取るか? M&A視点での Industrial Internet of Things (Industrial IoT)

先を行くか、後れを取るか? M&A視点でのIndustrial Internet …PwC | 先を行くか、後れをとるか:M&A視点でのIndustrial Internet of Things 3 4 IDC, 新しいIDC

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先を行くか、後れを取るか?M&A視点でのIndustrial Internet of Things (Industrial IoT)

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PwC | 先を行くか、後れをとるか:M&A視点でのIndustrial Internet of Things 2

Internet of Things(IoT)は数えきれないほどの将来市場シナリオを生み出したキーワードの一つです。

2020年には、210億を超える機器にセンサーが組み込まれ、インターネットへ接続される見込みです1。また、PwCの調査「2017 Global Digital IQ Survey」によれば、回答した経営者の73%が、現在IoT関連の取り組みを進めていると答えています2。IoTは多くの業界に急速な変革を迫っており、PE投資や事業投資に新たな視点を加えるよう、突き付けています。正しい視点を持った投資家こそが、この急速に発展する分野におけるリーダーとなるでしょう。

RFIDによる在庫管理、位置情報を活用したマーケティング、Amazon Goのようレジ無し店舗など、IoTが小売業界に革新的な顧客体験をもたらしていることは、既に多くの注目を集めていますが、本稿ではIoTが産業機器や製造業にとって持つ意味に焦点を当てます。

Industrial IoTは、生産性を劇的に向上させ、製造、輸送、物流、エネルギー業界のコストを削減させる可能性を秘めています。また、新たなビジネスモデルを推進することもできるでしょう。

機器や設備にセンサーとネットワーク機能を組み込むことによって、これまでにないほどのパフォーマンス管理が可能となります。またメンテナンス時期の予測や、業務効率改善のために、得られたデータを活用することもできるでしょう3。 出典: PwC, 2017 Global Digital IQ® Survey

IoT およびAIへの投資が優先度合いが高い

どのテクノロジーへ投資することを検討されておられますか?(複数回答可)

1 ガートナー、インターネットに接続して使用される「モノ」は2017年、前年比 31%増の 84億もの規模に達すると予想2 PwC, 2017年デジタル IQ調査 , 20173 PwC, 問答集:モノのインターネット , 2017

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4 IDC, 新しいIDC Spending Guideによれば、2016年、モノのインターネットへの支出額は、製造業、輸送、電力に牽引され17.9%増となる見通し, 2017年1月5 CB Insights, モノのインターネットはディールの件数、取引額において年間最高記録を更新, 2017年3月

Industrial IoTのエコシステムを理解する

出典:PwCの調査および分析

テクノロジーへの投資だけではありません。     M&Aも増加しています。

オペレーションなどの現場

センサーで収集されるデータやネットワークを通じて転送されるデータの安全性を確保する。社外製ソリューションや統合ソリューションが含まれる場合もある。

Industrial IoTのエコシステムは多層構造であり、各階層が密接に連携しあっています。多くの企業が、この複数の層にまたがるIndustrial IoTソリューションを提供しています。

アナリティクスやプラットフォームで得られたデータを提示し、エンドユーザーが解釈、実行する。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)のヘッドセットなども含まれる

センサーにより収集されたビックデータから実行可能なインサイトを生み出す。場合によってはプラットフォームと統合

ネットワークを経由したエンドポイントのセンサーから得られるデータを収集、アナリティクスツールやエンドユーザー向け用途に加工・蓄積する

センサーの相互通信やプラットフォームへのデータ転送を行う。一般的にはセルラー方式、Wifi、または近距離無線通信技術を利用する

画像、熱、圧縮。湿度(など)のデータを得る

セキ

ュリ

ティ

y

アプリケーション

アナリティクス

プラットフォーム

センサー

ネットワーキング / コネクティビティ

Industrial IoTへの対応力やソリューションへの投資が、産業機器やテクノロジー業界の大手企業にとって、優先事項となりつつあることは、何ら驚くことではありません。このような大手企業は、センサーを自社のオペレーション・製品に組み込むことで業務データを収集し、生産効率を向上させようとしています。また、そのデータの価値を最大限に引き出すために最先端のアナリティクスやマシンラーニングを活用し始めており、さらに活用したいと考えています。 2016年、Industrial IoTへの投資は、製造業、輸送業、電力および電力関連機器業界の3業種のみで約3,250億ドルに 達しており、2020年には6,000億ドル弱にまで成長すると見込まれています4。

産業機器やテクノロジー業界の企業にとって、Industrial IoTが生み出す事業機会を取り込むためには、戦略オプションの一つとしてM&Aが切っても切り離せません。多くの先進的なアナリティクスのアプリケーションやプラットフォームが、新進気鋭のソフトウェア企業によって開発されており、こういった企業が魅力的な買収の標的となりうるでしょう。2016年、Industrial IoTに関連する投資は4年連続の成長を見せ、321件のM&Aによる投資額は総額22億ドルを超え、M&Aの件数は21%増となっています5。またIndustrial IoTは、半導体やセンサーといったいくつかのセクターにおける業界再編の要因にもなっています。

最も重要なのは、Industrial IoTが、革新的でサービスを重視したビジネスモデルを生み出している点です。以降で主なIndustrial IoTディールのトレンドやテーマ、教訓を重点的に扱います。そして、価値の源泉となるIndustrial IoT企業を探しているプライベート・エクイティや事業会社にとって、大きな将来性が見込まれる機会となる技術やソリューションについて見ていきます。

エンドユーザー

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6 Green Tech Media, BitStew、スマートグリッド用「データ・インサイト変換」事業拡大に向け1700万ドルを調達, 2015年5月 7 GE Press Release, GEとCisco、製造業の生産性拡大加速に向け提携, 2015年9月

現在はまだIndustrial IoTの黎明期であり、多くの可能性が存在するが

技術的課題も大きいです。

業界の巨人は投資へコミット

Industrial IoT分野で大きな歩みを進めている大企業は、それぞれ異なるIndustrial IoTの方向に向かっています。産業用機器業界の大手企業はセンサー自体や分析ソフトウェア技術への投資を増加させています。一方、通信ネットワークやコネクティビティ関連サービスを提供する大手企業は、ネットワークの“個々の端末”で生まれるデータを収集、保管、処理する能力・プラットフォームを拡張させています。彼らは石油掘削、市営バス、鉄道において、特にこのような取り組みを進めています。

また、既に先行しているこれらの企業はIndustrial IoT関連のケイパビリティを統合・連携させ始めています。例えば、随分と前からGEとCiscoは提携し、CiscoのネットワーキングハードウェアとGEのPredix Industrial IoTプラットフォームの統合が進められていました6, 7。

現在はまだIndustrial IoTの黎明期であり、多くの可能性が存在しますが、技術的課題も大きく、それゆえ最大手のIndustrial IoT企業同士による提携も驚くべきことではありません。これらの企業はIndustrial IoTのベースとなるプラットフォーム開発を進めている他、Industrial IoT関連のスタートアップ企業や、その投資家にとっての重要な資金源となっています。新たなセンサーやネットワーク、アナリティクスの技術に対する大手企業の需要は増加の一途をたどるでしょう。

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買収によるさらなるイノベーション

アーリーステージにあるスタートアップ企業のみがIndustrial IoT投資の対象というわけではありません。既にある一定のスケールのIndustrial IoT事業を買収することで大きく成長する事例も存在しています。また大手企業はIndustrial IoTへの投資を、自社のビジネスモデル変革の1st Stepとして位置付けることも多くなっています。

新たなビジネスモデルに投資する企業

中核的なオファリングを増強するために、隣接するIndustrial IoT 技術を持つ企業を買収し、ビジネスプラットフォームを統合する

• ルーティングソフトウェアや衛星通信のプロバイダーを買収し、コネクティビティのオファリングを強化

• ワークフローアナリティクスやソリューションを獲得するために、クラウドのソフトウェアプラットフォームを買収

転換期にある市場において協調的なパートナーシップを求め、  それがなければ得られない収益源を確保する

• フローコントロール企業とパートナーシップを結び、そのニッチ分野において自社の専門領域の強みを発揮する

事例紹介:オートメーションを進める産業機器企業

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アーリーステージにあるスタートアップ企業のみがIndustrial IoT投資の対象というわけではありません。既にある一定のスケールのIndustrial IoT事業を買収することで大きく成長する事例も存在しています。また大手企業はIndustrial IoTへの投資を、自社のビジネスモデル変革の1st Stepとして位置付けることも多くなっています。

ここでIndustrial IoTに注力している企業の1社である、GEの事例を紹介します。GEはほとんどの方々がご存じのように、GEデジタルの立ち上げ、IoTプラットフォームのPredixの開発など、大きくIoTに投資している企業の一つです。そのGEは2015年に、GE Venturesを通じて、アナリティクスサービスを開発・提供しているBitStewの資金調達(シリーズB)をリードインベスターとして参画後、2016年下期に1億5,300万ドルで買収する判断に至っています6。

GEとBitStewのM&Aの例が示すように、Industrial IoTに積極的に取り組む大手企業は新たなIndustrial IoTソリューションを獲得するために、従来の研究開発に加えて、スタートアップ企業投資にのみならず、M&Aをより積極的に活用しているように思われます。またIntelなどの代表的なテクノロジー企業と同じように、GEは将来性のあるIndustrial IoT事業のパイプラインを取り込むために、CVC(Corporate Venture Capital)チームをも保有しています。アーリーステージにあるIndustrial IoTスタートアップ企業に資金を注ぎ込んでいるのは、産業機器大手やソフトウェア大手企業ばかりではありません。建設業や鉱業などのセクターでも大手各社が同様の投資を始めつつあります。 Industrial IoTに積極的なスタートアップ企業は、 プライベート・エクイティやベンチャーキャピタルにとってもビジネスチャンスになるでしょう。しかし、こういったIndustrial IoTに積極的な企業は、M&Aを単なる新たな技術や事業・サービスの獲得以上に活用しようとしている可能性が高くなっています。また大手のインターネット企業やソフトウェア企業も、同様です。彼らにとって、買収は同時に最も才能のあるタレントを獲得する手段にもなっています。

新たなビジネスモデルに投資する企業

中核的市場 隣接市場

合併・買収

転換期にある市場

協調的パートナーシップ

Industrial IoT(広義)分野への投資はCVCからだけでなく、本体からの買収も“同時並行”で行われている

CVCからの投資例 親会社本体からの買収

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PEファームにとっての示唆

このような継続的変革から教訓を得ることができるのは、熱意を持ったIndustrial IoTの大手企業だけではありません。プライベート・エクイティ(PE)も、これに注目すべきです。さまざまな産業分野で「as a Serviceモデル」が成長している昨今において、PEファームに対しても新たな投資・成長機会があるはずです。彼らにとっては、ポートフォリオのどの企業が自社製品にセンサーやコネクティビティを組み込むことで利益を得られるか・バリューアップできるかを判断する必要があります。

例えば、PEファームのポートフォリオに産業用エアフィルター企業を持つ場合は、顧客の劣化しつつあるフィルターをIoTを用いて監視し、顧客サービスの一環として、他社に先んじてその後の販売・交換サービスを提供することができます。これはポートフォリオ会社である産業用エアフィルダー企業には成長機会であり、かつ投資家にとはってバリューアップの機会でもあります。

一方、新興企業にとっては、アナリティクスの洗練度をベースに、自社のサービスを各産業分野に応じて調整することで差別化し、事業を成長させようともしています。

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8 ARM Press Release, ARM、画像処理やコンピュータ画像埋め込みの世界的大手Apical社を買収, 2016年5月9 Wall Street Journal, モノのインターネットに賭けるソフトバンク、ARM社を買収, 2016年7月 10 Harman International Press Release, Harman、自動車向けサイバーセキュリティのTowerSec買収を完了, 2016年3月

PEファームにとっての示唆

先行しているIndustrial IoT大手は熱心にベンチャーキャピタルが投資している、アナリティクスのアーリーステージ企業に投資しています。しかしPEファームにとって、優先的に注力すべきIndustrial IoTの投資分野はアーリーステージ企業以外にも存在します。

例えば、センサーの設計・製造企業は今後もPEファームの投資対象となり続けるでしょう。一般的にこの種の企業はソフトウェアやアナリティクス企業より成熟しており、業務効率を改善させることによる成長可能性も高いと考えられます。2016年に英国の半導体チップ設計大手ARMが画像処理技術のApicalを3億5000万ドルで買収したことを考えてください8。この会社は決して、ソフトウェアやアナリティクス会社ではありませんが、次世代の画像処理技術(自動車用途などを見据えて)強化を目的に買収されています。(その後、予想外にもARMは320億ドルで買収したソフトバンクによって買収されています)9。

サイバーセキュリティも、Industrial IoT投資の優先事項として重要性を増しつつあります。

コネクティッドカー部品の設計大手のHarman Internationalは、2016年1月に自動車向けサイバーセキュリティ事業のTowerSecを買収しました10。このことは、今日の市場にニッチなIndustrial IoT事業がどのように存在しうるかを示しています。出資者、特にモバイル機器の分散型ネットワーク向けのソリューションの出資者にとって、サイバーセキュリティ事業を市場に投入するべきタイミングは、今なのかもしれません。

フィルターにセンサーとネットワーク機器を組み込むためハードウェア開発事業者と提携

• フィルターのライフサイクルや利用データを獲得

• 空気の品質データを獲得

利用価値重視のビジネスモデルを導入

• 定期申し込みにより、利用データに基づいて自動交換を行う「サービスとしてのフィルター」

• 空調機メーカーや建物のエネルギー管理システム事業者といったアップストリームでのデータ共有の合意を探る

最終的に産業界やIndustrial IoTの大手との取引を探る

プライベート・エクイティはポートフォリオ企業にイノベーションを取り入れ

プライベート・エクイティ・ファームは従来のポートフォリオ企業にIndustrial IoT関連の技術を追加投入する機会を探り、サービスや利用価値を重視したビジネスモデルを求めています。

事例紹介:産業用エアフィルターメーカー

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PwC | Lead or lag? What the Industrial Internet of Things means for deals 8

誰が先を行き、誰が後れを取るのか。全ては決断次第である。

Industrial IoTの急速な台頭は、事業会社にとっても、PEファームにとっても、否定できないほどの機会をもたらしています。 しかし、この機会をつかむには、どのような対象を買収し、どのようなビジネスモデルを追求し、どのような提携関係を結ぶかを適切に判断することが求められます。 この新たな産業機器業界の中で、先を行く者と後れを取る者を分かつのは正しい判断です。

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あとがき - 日本企業の方々へ

本稿は、筆者が所属するPwC米国において、スタートアップ投資やイノベーションのみならず、広義の事業開発やM&Aの観点からIndustrial IoTをどのようにとらえることができるのかについて述べたものです。

本稿で取り上げているBitStewは小規模なスタートアップ企業でありながら、GEに約160億円で買収され、既にGE Digitalの一員となっています。

推察するところ、GEも、まったく見えない暗闇に巨額の投資をしたわけではないはずです。この買収の18カ月前に(年単位ではなく、月単位で表現されているのもいかにもシリコンバレーらしい)、GEのCVC機能を担うGE Venturesが、BitStewへのSeries B roundにリードインベスターとして参画し、その前後から、自らの戦略仮説をPoC(概念実証)などを通じて精緻化し続けた結果でしょう。一方この18カ月を通じ、BitStewのマネジメントサイドもより具体的な成長イメージを持てたはずです(ただ、大企業との間に横たわるコーポレートカルチャーギャップなどはかなり深いケースが多いため、今後うまくいくかどうかは定かではありませんが・・・)

最終的には、CVCビークルからの出資をきっかけに、事業仮説をスタートアップ企業とともに精緻化し続け、スタートアップ企業自身の成長の加速も支援しながら、最終的に買収するという非常に美しいシナリオにつながりました。

ここ数年、日本企業がさまざまな事業開発トライアルを小規模で取り組んでいるのは非常に良い傾向です。PoCをしてみたものの、その後どうすれば良いのか分からないといった声も多く聞かれます。そもそも何を達成したいのかを設定していないのはおかしいのではないかという意見も根強いようですが、まず動いてみることの意義は非常に大きいと個人的には思います。

Mariott International のDigitalチームVPのGeorge Corbinも、“Prototype-to-Pilot”の重要性を説いており、前述のSue Siegel氏も“Failing fast without losing a customer is better than spending three hundred million dollars on a project that you take all the way out for a year or two”として、早期の失敗の重要性を説いています。

一方、日本企業に限らず、欧米の大企業も数多くのトライアルを実施していますし、その後のスケールアップに向けて動き始めていることは周知の事実です。

CVC投資が首尾よく買収にまでこぎ着けることはまれでしょうし、その後、事業成長できる確証はありません。ただ、GEのような大企業でも、CVCを通じて0→1、1→10の事業開発を次々と行っており、本丸の事業領域では、10→50にするための大型投資を既に始めています。

GE VenturesのCEO Sue Siegel氏もPwC グローバルが2017年に行った「Innovation Benchmark Survey」の中で、”Emergent technologies are very powerful, but what we have to figure out is, what is the sustainable business model that we could potentially either partner up with or us within our organization to drive growth?”“新しいテクノロジーは非常にパワフルですが、私たちが考えるべきことは、成長を実現するために持続可能なビジネスモデル(共創もしくは自社リソース)は何か?”であるとして、自社の戦略の枠組みを踏まえた上でどのように活用することができるのかを考え抜くことが重要としています。

この、GE Venturesのコメントには日本企業にとっても非常に重要なエッセンスが含まれています。すなわち、M&Aや事業投資の目的は何なのか?を考え抜くということです。

当時、BitStewは従業員100人強、売上は10億円内外と市場で想定されており、買収価格を知って、「そんな買収価格はとてもではないが出せない」「GEだからできた」など、多くの日本企業の方が落胆されたことでしょう。

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考えるべき問いは変わらない

これは、インターネットやデジタル系の企業が買収・投資する場合でもまったく同じです。その会社を買収あるいはその会社に投資することで、どのようなサービスを自分たちの顧客に提供できるようになるのか、そしてそれを顧客は望んでいるのか、これらの問いに確信が持ててはじめて、大きな投資に踏み切ることができるのだと思います。

表面的なシナジーや抽象度合いが高いM&A目的(●●の強化、○○プラットフォームの獲得、△△ケイパビリティの強化)ではダメなのです。トラディショナルなR&D投資から、オープンイノベーション・出資など、近年はこれまでとは違った動き方をしている企業が数多く見受けられます(明確な成果が判明するまでには時間がかかるため、これらがうまくいっているかどうかについての言及は避けます)。

イノベーションや将来の事業開発に向けて“実際に”動くことは非常に重要であり、日本企業がこのステップに着手していることは実に良い傾向ではないでしょうか。ただし、スケールを伴った動き方については、日本企業の取り組みはまだまだこれからであるように思われます。Industrial IoTが、日本企業にとっても、非常に大きくかつ重要な市場であることは間違いありません。これまでと違う動き方ができている企業の次のステップは、大きく動くこととなるはずです。

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M&Aや事業投資の目的は何なのか?

買った・投資した後、何がしたいのか?

自社の顧客は本当にその新たな製品・サービスを望んでいるのか?

買った会社・投資した会社は自分たちがやりたいことを十分に加速させることができるのか?

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著者

Alastair RimmerPwC Global and US Deals Strategy LeaderPwC’s Deals Practice+1‐646‐471‐[email protected]

西川 裕一朗PwCアドバイザリー合同会社 パートナー[email protected]

日本語版監修