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技術論文 42 富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005 EOO: ユビキタスオフィス環境の構築と 新しいワークスタイルの実践 EOO: Implementing Ubiquitous Workplaces for Innovative Work Practices 要 旨 富士ゼロックスは「オープンオフィスフロンティア OOF)」という事業ビジョンを掲げており、時間・ 空間・企業・組織という様々な枠組みを越え、ネット ワーク上に分散する知やサービスを利用できる環境 の実現に寄与することを目指している。我々は、 OOF を具現化する先進的なユビキタスオフィス環境とし て、「E Open Office EOO)」コンセプトを提案する。 EOO は、オリジナルのユビキタスコンピューティン グの思想に基づいており、アプリケーションだけでな く、スペースデザインおよびワークスタイルデザイン を含んでおり、今回我々は、意思決定・議論・企画・ 相互触発それぞれを支援する 4 つのタイプのワークプ レースを設計・構築した。 Abstract 執筆者 稲垣政富 Masatomi Inagaki1 堀切和典 Kazunori Horikiri2 廣瀬吉嗣 Yoshitsugu Hirose3 渡辺美樹 Yoshiki Watanabe4 田丸恵理子 Eriko Tamaru5 増田佳弘 Yoshihiro Masuda6 1 開発管理本部 技術企画部 Corporate Technology Planning, R&D Development Management Group2 サービス技術開発本部 サービスプラットフォーム企画推進部 Service Platform Strategy, Service Technologies Development Group3 研究本部 先端デバイス研究所 Advanced Devices & Materials Laboratory, Corporate Research Group4 オープンオフィスイニシアティブ(Open Office Initiative5 開発管理本部 ヒューマンインターフェイスデザイン開発部 Human Interface Design Development, R&D Development Management Group6 研究本部 FXPAL ジャパン FXPAL Japan, Corporate Research Group"Open Office Frontier" (OOF) encapsulates Fuji Xerox's business vision. Open Office is an unrestricted business environment that connects the knowledge of different people, breaking down the barriers of time, space, company, and structure. We present an innovative workplace concept called "E Open Office" (EOO). The EOO references the original ubiquitous computing concept covering not only applications but space design and work-style design. We have designed and implemented four types of workplaces, which include a decision-making boardroom, an enhanced discussion room, an idea-creation space, and an informal salon.

EOO: Implementing Ubiquitous Workplaces for …...Innovative Work Practices 要 旨 富士ゼロックスは「オープンオフィスフロンティア (OOF)」という事業ビジョンを掲げており、時間・

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技術論文

42 富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005

EOO: ユビキタスオフィス環境の構築と 新しいワークスタイルの実践

EOO: Implementing Ubiquitous Workplaces for Innovative Work Practices

要 旨 富士ゼロックスは「オープンオフィスフロンティア

(OOF)」という事業ビジョンを掲げており、時間・

空間・企業・組織という様々な枠組みを越え、ネット

ワーク上に分散する知やサービスを利用できる環境

の実現に寄与することを目指している。我々は、OOFを具現化する先進的なユビキタスオフィス環境とし

て、「E Open Office(EOO)」コンセプトを提案する。

EOO は、オリジナルのユビキタスコンピューティン

グの思想に基づいており、アプリケーションだけでな

く、スペースデザインおよびワークスタイルデザイン

を含んでおり、今回我々は、意思決定・議論・企画・

相互触発それぞれを支援する 4つのタイプのワークプ

レースを設計・構築した。

Abstract 執筆者 稲垣政富 (Masatomi Inagaki)1 堀切和典 (Kazunori Horikiri)2 廣瀬吉嗣 (Yoshitsugu Hirose)

3 渡辺美樹 (Yoshiki Watanabe)

4 田丸恵理子 (Eriko Tamaru)

5 増田佳弘 (Yoshihiro Masuda)

6 1 開発管理本部 技術企画部

(Corporate Technology Planning, R&D Development Management Group)

2 サービス技術開発本部 サービスプラットフォーム企画推進部 (Service Platform Strategy, Service Technologies Development Group)

3 研究本部 先端デバイス研究所 (Advanced Devices & Materials Laboratory, Corporate Research Group)

4 オープンオフィスイニシアティブ(Open Office Initiative)

5 開発管理本部 ヒューマンインターフェイスデザイン開発部 (Human Interface Design Development, R&D Development Management Group)

6 研究本部 FXPAL ジャパン (FXPAL Japan, Corporate Research Group)

"Open Office Frontier" (OOF) encapsulates Fuji Xerox's business vision. Open Office is an unrestricted business environment that connects the knowledge of different people, breaking down the barriers of time, space, company, and structure. We present an innovative workplace concept called "E Open Office" (EOO). The EOO references the original ubiquitous computing concept covering not only applications but space design and work-style design. We have designed and implemented four types of workplaces, which include a decision-making boardroom, an enhanced discussion room, an idea-creation space, and an informal salon.

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EOO: ユビキタスオフィス環境の構築と新しいワークスタイルの実践

富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005 43

1. 緒言

ブロードバンドの進展、市場のグローバル化、

より重視される企業間連携。こうしたビジネス

トレンドにおいて、時間・空間・企業・組織と

いう様々な枠組みを越え、ネットワーク上に分

散する知やサービスを利用できる環境作りが重

要になってきている。富士ゼロックスでは、こ

うした環境を「オープンオフィス」と呼び、そ

の実現に寄与することを「オープンオフィスフ

ロンティア(OOF)」という事業ビジョンとし

て掲げている。 ポイントとなるのは、「働く現場」と「ユーザ

に意識させない技術」。普段と異なる場所で仕事

をするためにわざわざ準備するのではなく、

「働く場」、「働く状況」に応じてサービスが利

用できること。また、IT を意識せずに、ユーザ

が使い慣れた操作で様々なサービスを利用でき

ることが必要である、と考えている。 我々は、OOF を具現化した将来のオフィス環

境のプロトタイプとして、経営者を 初のター

ゲットに、弊社の先進的な技術とノウハウを埋

め込んだ「Executive Open Office(EOO)」を、

2004 年 1 月構築した。以来、2 年にわたり実際

の会議の中で日常的に運用し、利用者からの

フィードバックおよび利用ログの解析をもとに

約半年毎に機能追加・改善を行ってきた。現在

は役員会議室だけでなく、研究・開発・企画部

門それぞれの会議室、さらには生産・教育部門

などその適用範囲を拡大しており、EOO の Eはもはや Executive だけを意味するのではなく、

Employee, Engineering, Experience, Educational などの意味に拡張している。本稿

では、役員会議室だけでなく、我々の構築した

ユビキタスオフィス環境全般を示すものとして

EOO を記述する。

2. 背景

IT における「ユビキタス」という言葉は、1988年に米ゼロックスパロアルト研究所(PARC)

のマーク・ワイザー博士が 初に提唱した「ユ

ビキタスコンピューティング」に由来している

(Weiser[1][2])。彼は「人とコンピュータの関

係」の歴史、すなわち、一台のコンピュータを

多くの人で共有する「メインフレーム」の時代

から一台のコンピュータを一人で専有する

「パーソナルコンピュータ」の時代へ移行して

きたという歴史の考察から、多くのコンピュー

タ(例えば数百個)を一人で同時に利用する「ユ

ビキタスコンピューティング」の時代が次に来

ると予測した。 一見シンプルに見えるこのような数の変化は

次の 2 つのパラダイムの変化をもたらすと考え

られる。 まず一つは、コンピュータを「所有」すると

いう考え方が大きく変わるという点である。コ

ンピュータがどこにでも沢山あることから、コ

ンピュータを所有して使うというよりは、そこ

にあるコンピュータを随時利用する形態に変化

していくと考えられる。もう一つは、我々の生

活の中にコンピュータが深く浸透するに従い、

コンピュータが我々にとって意識できないよう

なものに変わっていくという点である。彼はこ

のような考え方を「Calm Technology」と呼ん

でいる。これは、様々な技術が成熟して人々の

生活の中に浸透する際に、人々にとってそれを

殆ど認識できないレベルにまで洗練されていく、

という洞察に基づいている。 彼のユビキタスコンピューティングの特徴は

4 つにまとめられる。 • どこにでもある:所有するのではなく、そこ

にあるものを利用する • 装置ではなく環境:個々の装置が実現するの

ではなく、それらの相互作用で価値を提供す

る • 意識しない:道具のように、使うモノではな

く、やりたいコトに意識を集中する • 状況に応じたサービス:「今、ここで、私が、

これを、あなたと」に合わせたサービスが提

供される 例えば、モバイルなワークスタイルが「どこ

へ行くにも、自分の仕事環境を持っていく」の

に対して、ユビキタスなワークスタイルは「ど

こへ行っても、そこが自分の仕事環境に変わる」

というイメージである。 彼がユビキタスという言葉に込めた思いは、

あくまで人間を中心とするものであり、従来の

IT のように人々の意識をコンピュータそのも

のに集中させることではなく、コンピュータを

生活の背後に隠してしまうことで、すでに存在

する世界をより豊かなものにすることなのであ

る。つまり、「人がコンピュータを使ってやりた

い本当のコトとは、人と人との交流であり、ユ

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EOO: ユビキタスオフィス環境の構築と新しいワークスタイルの実践

44 富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005

ビキタスによってコンピュータを背後に隠し、

人と人をより緊密に関連付けたい」と彼は考え

ていた。 我々が提案する EOO は、こうした思いを受

け継ぎ、本来のユビキタスの理念に基づいたオ

フィス環境の構築と新しいワークスタイルの実

践を目指すものである。この様な視点からアプ

リケーション/システムとスペースデザイン/ファシリティを融合したワークプレースを実現

することで、直感的で自然な操作で誰もがコン

ピュータやネットワークを意識することなく利

用できることを目指した。ユビキタス技術で「対

話」と「自律」を強化することで、「時間」当り

の「アウトプット」の 大化をめざし、TCO(Total Cost of Ownership)削減と組織機動力

を強化することが EOO の提供価値である。

3. ワークプレースデザイン

我々は、下記 4 つのタイプのワークプレース

を検討し、それぞれに求められる要件と、それ

を満足するためのスペースデザイン/ファシリ

ティおよびアプリケーション/システムを実現

した。ここでは理解のために、各タイプに対応

する本社役員会議室を例にとって、各ワークプ

レースで行われる会議の目的と要件、およびそ

こに設置したファシリティと提供するアプリ

ケーション/システムを記述する。太字斜体のシ

ステムについては 4.2 節で詳細を述べる。

3.1 タイプ A 意思決定支援のワークプレース (例:役員 A会議室)

提案・報告とそれに対する意思決定および指

示を主目的とする会議のためのワークプレース

目的: 担当部門長からの提案・報告、役員全員

参加のもとでの意思決定および指示 要件: 会議時間内での提案内容の正しい理解

と、高度で的確な判断、および指示事項

の迅速な展開 スペースデザイン/ファシリティ: • 参加者全員の顔を見渡せる楕円型机配置

(定員 30 名) • 発表者・事務局・オブザーバ用長机

(定員 8 名) • 発言内容が全員にクリアに聞こえる机埋

込みマイク/音響システム • 各人のモニタでも細部の数字まで読み取

れる高品位書画カメラ アプリケーション/システム: • 入力機器 (発表席 PC、ノート PC、書画カ

メラ等)を容易に切替えられるマトリック

ススイッチ操作卓 • 発表者説明用タッチパネル/ペン入力液晶

端末: EOO Board (1 台) • 参加者用発表画面表示・個人メモ用ペン入

力液晶端末: EOO Pad (定員分)

3.2 タイプ B 課題共有・議論支援のワークプレース (例:役員 B 会議室)

課題の共有とそれに関する議論を主目的とす

る会議のためのワークプレース

目的: 担当者からの課題説明、関連する役員参

加のもとでの議論および指示 要件: 会議時間内での課題の共有と、深く理

解・対応するための議論、および指示事

項の的確な展開 スペースデザイン/ファシリティ: • 参加者全員がアイコンタクトでき、スク

リーンを注視できる V 字型机配置 (定員 22 名)

• 発表者・事務局・オブザーバ用長机 (定員 6 名)

• 複数の入力情報を同時に表示できる 100インチ 3 画面プロジェクタ

• 遠隔での対面リアルタイムコミュニケー

ションを支援する高性能 TV 会議 アプリケーション/システム: • 入力機器の出力表示画面を容易に切替え

られる 3 画面選択スイッチ

写真 1. 役員 A 会議室

Boardroom A

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富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005 45

• 発表者説明用タッチパネル/ペン入力液晶

端末: EOO Board (1 台) • 参加者個人メモ用ペン入力液晶端末:

EOO Pad (定員分)

3.3 タイプ C 発案・企画支援のワークプレース (例:役員 C 会議室)

アイデアの発案・企画を主目的とするコラボ

レーションのためのワークプレース

目的: 自由な発想でのアイデア出し、複数のア

イデアの比較検討、全員参加での深い議

論 要件: 参加人数や議題に応じてレイアウト変

更可能、遠隔も含め複数人が互いにアイ

デアを書込みできる スペースデザイン/ファシリティ: • レイアウト変更が容易な可動式机

(定員 16 名) • 複数の入力情報を同時に表示・書込みでき

る 72 インチ 3 画面プロジェクタ • 遠隔リアルタイムコミュニケーションを

支援する高性能 TV 会議

• 表示画面の印刷、紙文書の画面への取込み

が容易にできる複合機 アプリケーション/システム: • 入力機器の出力表示画面を容易に切替え

られる 3 画面選択スイッチ • 議論用タッチパネル/ペン入力大画面端

末: EOO Board (3 台)

3.4 タイプ D 相互触発のワークプレース (例:役員サロン)

各人の自発的な情報取得と知識共有による経

営感度の向上を主目的とするワークプレース

目的: 新情報の取得、アドホックでイン

フォーマルなコラボレーション、個人の

仕事環境提供 要件: カジュアルな空間デザイン、目的に合わ

せた様々なアプリケーション/デバイス

の提供 スペースデザイン/ファシリティ: • 円形テーブル、応接ソファ、スポットオ

フィス用テーブル • 集中執務用 DEN(定員 4 名) • 遠隔リアルタイムコミュニケーションを

支援する TV 会議 • 資料印刷、紙文書取込みのための複合機

アプリケーション/システム: • 議論用タッチパネル/ペン入力大画面端

末: EOO Board (1 台) • どこでもデスクトップ:

EOO Desk (6 台) • 光書込み電子ペーパ利用システム:

SnapTable (1 台) • 巡回型ポスターシステム:

CollaboPoster (2 台)

写真 2. 役員 B 会議室

Boardroom B

写真 3. 役員 C 会議室

Boardroom C写真 4. 役員サロン

Executive Salon

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EOO: ユビキタスオフィス環境の構築と新しいワークスタイルの実践

46 富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005

4. 技術解説

4.1 アーキテクチャ概要 図 5 に EOO のアーキテクチャを示す。EOO

は共通インフラストラクチャをベースに、対象

とする部屋の使用目的に応じて基本コンポーネ

ントとなるアプリケーションを組み合わせた統

合型システムとして構築されている。

4.1.1 コンテキストマネジメントサービス EOO のオフィス環境を構成するコンポーネ

ントは会議室のホワイトボードや居室の複写機

のように、その場に設置され、多くのユーザに

共用されるものが多い。このような共用の機器

は各ユーザが常時占有する訳ではないため、

ユーザが自分の使いやすいよう設定を変更した

り、自分の文書ファイルを置いたりすることは、

困難である。 EOO はこのような共用の機器の使い勝手の

悪さを解消するために、「どこにいってもそこ

が自分達の仕事環境に変わる」ユビキタスオ

フィス環境として構築されている。このような、

ユーザに環境が合わせて使いやすくする仕組み

をコンテキストアウェアネスと呼ぶ。EOO では

コンテキストアウェアネスを実現するためにコ

ンテキストマネジメントサービスを提供してい

る。コンテキストマネジメントサービスでは主

に以下のような要素に対してサービスを 適化

するための情報を管理している。

• ユーザ: ユーザのプロファイル、システ

ムリソース情報、認証情報等 • グループ: グループのプロファイル、所属

メンバ、システムリソース情報 • ワークプレース:

部屋のプロファイル、システム

リソース情報 • IC カード: IC カードと結び付けられたオ

ブジェクトのプロファイル また、コンテキストマネジメントサービスで

は上記のような静的な情報の他、会議の開始、

終了や会議へのユーザの参加などの動的な情報

も管理している。

4.1.2 ドキュメントマネジメントサービス EOO ではユーザやグループ、アプリケーショ

ンが参照・生成するドキュメントを管理するた

めの、ドキュメントマネジメントサービスを提

供している。EOO では拠点やセキュリティポリ

シーに応じて複数のサーバを管理しており、

ユーザはこの中から 適なドキュメントマネジ

メントサービスを利用することができる。

4.1.3 ドキュメントフローサービス EOO では複合機とドキュメントマネジメン

トサービス間を連携させ、紙文書と電子文書を

シームレスに利用するためにドキュメントフ

ローサービスを提供している。

図 5. EOO アーキテクチャ

EOO Architecture

EOO Board EOO Pad

イントラネット

EOO Desk

スキャン

リモートデスクトップ発表資料

書き込み画面

メモ保存認証

印刷

個人デスクトップPC

制御用PC制御用PC 端末PC

認証 認証

発表者画面

ICカードリーダー

認証

ICカードリーダー

認証、コンテキストログ

Web標準プロトコル

Web標準プロトコル

ICカードリーダー

Web標準プロトコル

認証

ICカードリーダー

E-Paper

RFID

認証

コンテキストマネジメントサービス

ペン入力大画面

ドキュメントフローサービス

ドキュメントマネジメントサービス

画面制御用タッチパネル

液晶ペンタブレット

複合機EOO Board EOO Pad

イントラネット

EOO Desk

スキャン

リモートデスクトップ発表資料

書き込み画面

メモ保存認証

印刷

個人デスクトップPC

制御用PC制御用PC 端末PC

認証 認証

発表者画面

ICカードリーダーICカードリーダー

認証

ICカードリーダーICカードリーダー

認証、コンテキストログ

Web標準プロトコル

Web標準プロトコル

ICカードリーダー

Web標準プロトコル

認証

ICカードリーダーICカードリーダー

E-Paper

RFID

認証

コンテキストマネジメントサービス

ペン入力大画面

ドキュメントフローサービス

ドキュメントマネジメントサービス

画面制御用タッチパネル

液晶ペンタブレット

複合機

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EOO: ユビキタスオフィス環境の構築と新しいワークスタイルの実践

富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005 47

4.2 EOO コンポーネント EOO は図 5 に示すよう共通インフラストラ

クチャの上に、EOO Board、EOO Pad、EOO Desk、CollaboPoster、E-Paper、および複合機

を基本コンポーネントとしてワークプレースの

目的に応じて組み合わせることにより実現され

ている。これらの基本コンポーネントは、ワイ

ザーの「デバイスの大きさや形態を決めること

によって特定の利用目的が定まる」という考え

方に基づいており、彼のコンセプトである

Board, Pad, Tab を発展させたものになってい

る。

4.2.1 EOO Board EOO Board は、コラボレーションをサポート

するための電子ホワイトボード型アプリケー

ションであり、設置場所・状況に合わせて 適

なサイズを選択できる。EOO Board では、実際

の会議の進行に対応して以下の機能をシームレ

スに利用することができる。

① 会議の開始 EOO Board は IC カードを用いたコンテキ

ストアウェアネスに対応しており、ユーザは

各人の IC カードをかざす事により、ユーザ

認証、ユーザと関連付けられた会議体への参

加、ユーザや会議体と関連付けられたドキュ

メントマネジメントサービスへのアクセス

を行なう。 ② 遠隔拠点との接続

複数のEOO Boardをネットワーク接続して

互いにドキュメントにメモ書きを行なった

り、各自が持つファイルを公開したりするこ

とができる。EOO Board を用いて遠隔会議

を行なう際には前述のコンテキストマネジ

メントサービスを用いることにより、IP ア

ドレス等を気にすることなく、ユーザや会議

体の情報のみを用いて相互接続することが

できる。 ③ 会議資料の呼出し

EOO Board では、会議中に呼び出す資料を

簡単に参照できるよう、ユーザコンテキスト

とグループコンテキストを利用したコンテ

キストアウェアネスを提供している。何れの

場合も IC カードと関連付けられた認証情報

を用いてドキュメントマネジメントサービ

スにアクセスを行なう。 EOO Board ではユーザの持つ情報をすばや

くグループで共有できるように紙文書から

の情報取込(Scan2Board)、ディスプレイ用

アナログ信号からの情報取込(RGB2Board)、電子ペーパからの情報取込(EPaper2Board)を提供している。 • Scan2Board は複合機のスキャン機能

を用いて紙文書を弊社DocuWorks 文書

として電子化しEOO Boardに表示する

機能であり、前述のドキュメントフロー

サービスを用いて実現されている。 • RGB2Board は、サーバに保存していな

いファイルやEOO Boardでサポートさ

れていないタイプの文書を共有しなが

ら議論するための外部入力画面取込み

機能であり、会議の参加者は各人のノー

ト PC にビデオケーブルを接続して

EOO Board にデスクトップ画面を出力、

手書きでアノテーションを加え、遠隔と

共有することができる。 • EPaper2Board は、SnapTable で書込

みが行なわれた E-Paper のコンテキス

ト情報を参照する機能であり、E-Paperと関連付けられた文書をEOO Boardに

表示することができる。 ④ 会議資料への書込み

EOO Board では、手書き情報による情報共

有をサポートしており、電子的に書込みされ

た手書き情報は自動的に EOO Board とド

キュメントマネジメントサービスに保存さ

れるほか、遠隔で接続された複数の EOO Board にもリアルタイムで反映される。

⑤ 会議資料の印刷 会議中に参照している資料や手書き情報は

EOO Board が設置されたワークプレースに

関連付けられたプリンタから印刷すること

写真 6. EOO BoardEOO Board

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EOO: ユビキタスオフィス環境の構築と新しいワークスタイルの実践

48 富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005

ができる。遠隔拠点に設置された複数の

EOO Board が接続されて遠隔会議を実施し

ている場合にはネットワークをまたがった

印刷を行なうことが可能になっている。 ⑥ 会議資料の保存

EOO Board を用いた会議中に参照・書込み

された情報は、会議を開催しているグループ

(会議体)または個人と関連付けられたド

キュメントマネジメントサービスに会議の

コンテキスト情報と共に格納される。

4.2.2 EOO Pad EOO Padは写真7のようにEOO Boardで共

有される情報を元に会議の参加者がメモ書き等

の個人的な操作を行なうために用いられる情報

端末であり、以下に挙げるようなグループワー

クにおける参加者の行動をベースに設計されて

いる。 • 端末へのログインと会議への参加 • 発表画面の受信と保存 • 発表画面へのメモ書き • 発表画面とメモ書きの履歴参照 • メモ書きの発表者への送信 • メモ書きのメール送信 • 端末のログアウトおよび発表画面とメモ書

きのドキュメントマネジメントサービスへ

の保存 会議の参加者はEOO Pad に ICカードをかざ

して認証を行なうことにより EOO Board から

発表画面の受信を開始する。また、EOO Pad へ

のログインが行なわれたことは EOO Board に

イベントとして通知され、コンテキストマネジ

メントサーバに会議の参加者として記録される。 EOO Pad のユーザインタフェースは、図 8

のように操作ボタンをその意味と共に明記し、

操作画面をモードレスにすることで、初めての

ユーザでも、すばやく操作に慣れるように設計

されている。 会議中に受信した発表画面やユーザのメモ書

きは、会議が終了し EOO Pad からログアウト

する際に、ユーザと関連付けられたドキュメン

トマネジメントサービスに自動的にアップロー

ドされる。

4.2.3 EOO Desk EOO Desk はスポットオフィス環境に設置さ

れるシンクライアント端末であり、IC カードを

EOO Desk のカードリーダにかざすことで、瞬

時に自分が普段から利用しているデスクトップ

環境を表示して日常業務を遂行することができ

る。また、コンテキストマネジメントサービス

に登録されている部屋情報を参照することによ

り、ユーザは特別な設定をすることなく EOO Desk が設置されている部屋のプリンタから印

刷することができる。

4.2.4 SnapTable SnapTable は、電子情報を簡単に物理メディ

アに変換し、手に取り、利用者間で交換できる

環境を提供することにより、インフォーマルコ

ミュニケーションを促進することを目的とした

テーブル型コミュニケーションシステムである。

その主な機能は、以下の 3 つである。 • テーブル形状のタッチパネル一体型表示画

面で電子情報を直感的に操作 • 表示画面で見ている電子情報を「手で触れら

れる」E-Paper 上に瞬時に複写 • 表示情報と同時にリンク情報を取り込んだ

E-Paper を IC カードリーダにかざし元の電

子情報へ簡単リンク

写真 7. EOO Pad と EOO Board EOO Pad and EOO Board

図 8. EOO Pad のユーザインタフェース

EOO Pad user interface

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EOO: ユビキタスオフィス環境の構築と新しいワークスタイルの実践

富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005 49

また、このシステムで提供する主な効用とし

て、以下の 3 つがあげられる。 • 画面上の電子情報に対する身体的操作(手で

持つ、並べる、手渡しするなど)を通じた深

い情報理解や情報共有の活性化 • E-Paper にキャプチャした表示情報と電子

ドキュメントへのリンク情報を介した「時間

を越えた」情報共有 • リンク情報を保持した E-Paper を別の場所

に持ち出し、その電子情報を読み出すことに

よる「空間を越えた」情報共有

4.2.5 CollaboPoster CollaboPoster は設置される場所に適した情

報を掲示することにより情報の展開を早めると

共に、「掲示者」と「閲覧者」、あるいはポスター

の前の「閲覧者」同士の対話を促進することを

目的としたインタラクティブな巡回型ポスター

システムであり、富士ゼロックスにより商品化

されている(CollaboPoster[3])。

4.3 EOO を支える富士ゼロックスの技術 EOO に導入されている様々なシステムは、

マーク・ワイザーが提唱したユビキタスコン

ピューティングに始まるゼロックスおよび富士

ゼロックスの技術に支えられている(図 10)。また、EOO Board の技術と運用によって得られ

た知見を基に商品開発を行い、遠隔型コラボ

レ ー シ ョ ン サ ー ビ ス 「富士ゼロックス

InteractiveWall(インタラクティブ・ウォール)」

として 2005 年 8 月 16 日より販売を開始した (InteractiveWall[4])

5. 評価と課題

5.1 事前調査 EOO を設計する前に、役員のワークスタイル

の特徴と現状の会議への問題意識を調査した。

役員のワークスタイル調査は、秘書を「もっと

も身近にいる観察者」と考え、秘書へのアンケー

トによって調査した。また会議の課題は、役員

へのインタビュー及びアンケート調査によって

抽出した。この結果明らかになった役員のワー

クスタイルの特徴の概要を以下に示す。

写真 9. SnapTable と E-Paper SnapTable and E-Paper

図 10. 技術の流れ History of technology development

Tab

Pad

BoardXLibris

PlasmaPoster CollaboPoster

Scan2Wall

EOO Board

EOO Pad

PIPs

認証技術

光書き込み型電子ペーパー

EOO Desk

SnapTable

ユビキタスメディアサービス(DocuWorld 2002)

1990 1995 2000 2005

LiveBoard

凡例

EOOで採用

下線 富士ゼロックス商品

技術を継承・応用

コンセプトを継承

EOOで開発

Dr. Mark Weiser

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技術論文

EOO: ユビキタスオフィス環境の構築と新しいワークスタイルの実践

50 富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005

① コラボレーションの割合 役員の活動の 80%以上でコラボレーション

が行なわれており、そのうち 2/3 が「会議」

などのフォーマルなコラボレーションで

あった。したがって、役員の会議の生産性や

創造性を向上させることは、直接的に経営の

質やスピードを向上させることにつながる

と考えられる。 ② ワークスペースと移動時間

役員のワークスペースは「自席」「拠点内オ

フィス」「拠点外オフィス」がほぼ 1/3 ずつ

であった。しかしながら、本社(東京都港区)

を拠点とする役員と本社以外(神奈川県海老

名市の事業所等)を拠点とする役員とでは大

きな差異が見られた(図 11)。本社を拠点と

する役員は半分以上の時間を自席で行って

おり、80%以上を本社内で活動している。一

方、本社以外の役員は、拠点内での活動は

1/2に過ぎず 40%近くも本社で仕事を行って

いた。

また、役員は 1 日あたり平均 1 時間以上も移

動時間に費やしていた。これは拠点に関わら

ず多く、役員は本質的に移動の多い仕事のス

タイルをしている。ただし、本社に近い人は

30 分から 1 時間程度の短距離~中距離の移

動が多いのに対して、本社から遠隔を拠点と

する役員は、2 時間近くの遠距離の移動が多

いという特徴の差異は存在する。

③ コミュニケーション インタビュー調査から「役員同士のイン

フォーマルなコミュニケーションの機会が

少ない」という問題意識が抽出できた。本社

役員は本社内にそれぞれ個人の執務スペー

スを持ち、ほとんどの時間を「スケジュール

された予定」で埋められている。したがって、

スペースがないという問題と、自由度の少な

いスケジュールのために、役員間でのざっく

ばらんなコミュニケーションをとる機会が

持てていなかったのである。 これに対して、本社以外を拠点とする役員に

は本社の中に「役員控室」という場があり、

本社での会議と会議の合間にここに集まっ

て仕事をしていた。ここで、普段会えない人

同士で有益な会話が行われるなど、重要なイ

ンフォーマルコミュニケーション場として

機能していたのである。 このように本社以外を拠点とする役員には、

「役員控室」でインフォーマルコミュニケー

ションが行われる一方で、本社役員にはその

ような場が存在していないという課題や、本

社役員は役員控室には立ち寄らないため、本

社役員と本社以外の役員との間のコミュニ

ケーションがとれないなどの課題が存在し

ていた。 ④ 現状の会議に対する課題認識

会議に対する課題意識としては、時間管理や

人数、テーマ設定の明確化などファシリテー

ションに対する課題の他に、会議前、会議中、

会議後に関して以下のような課題が抽出さ

れた。 <会議前>

• 議題に対する事前の十分な理解が足りな

い。また参加者間に議題に対する理解の差

がある。 <会議中>

• 参加者全員が議論に参加でき、活発でフラ

ンクな議論がなされること。 • 多彩な視点からの議論がなされること。

<会議後> • 目的に合致した結論が出て、次のアクション

が明確で、きちんとフォローができること。 以上から「事前に会議情報が共有でき」「多彩

なデータが提示され」「活発な議論が支援さ

れ」「議論の結果を迅速にフォローできる」会

議支援環境が望まれていると考えられる。

図 11. ワークスペースの利用割合

Workspace usage

仕事を行う場所(本社を拠点とする人)

54%26%

5%

15%

自席

本社内

本社以外の社内

社外

仕事を行う場所(本社以外を拠点とする人)

23%

26%40%

6% 5%

自席

拠点内

本社

拠点/本社以外の社内

社外

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EOO: ユビキタスオフィス環境の構築と新しいワークスタイルの実践

富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005 51

5.2 導入後評価 EOO は導入後 2 年経った現在も実際の会議

の中で日常的に利用されているが、ここでの評

価結果は導入後 1 年目のものである。EOO 会議

環境のステークホルダーの中でも特に重要なの

は、会議を主催しサポートする事務局と、その

会議の主要な参加者である役員である。この 2つの立場からの評価を実施した。

5.2.1 事務局インタビュー

必ずしもすべての事務局が EOO を使いこな

しているわけではないが、役員の主要な会議を

サポートしている事務局では、積極的に EOOを利用していた。その中で、以下のような会議

の変化が発生し、効用が生まれたことがインタ

ビューより抽出された。 • 3画面のプロジェクタが設置されているB会

議室では、一部の画面を「消す」ことによっ

て、フォーカシングをしたり、前年度と今年

度のデータを 2 画面に並べて表示して比較

するなど、経験をつみながら 3 画面の利用ノ

ウハウを蓄積している。もはや 3 面の効用

云々というレベルではなく、「3 面を使うの

は当たり前」という状況である。 • 役員から「あの資料(データ)を出してくれ」

とよく言われるようになった。これによって、

以前よりも、バックアップ資料を準備してお

く量が増した。 • EOO Board で「本当に共有しているもの」

が、その場でぱっと取れることが 大のメ

リット。履歴を議事録にはめ込み、文脈つき

議事録を作成している。 • 事務局の負荷は増えたが役員の理解度は増

していると思われるので、事務局としては良

いことだと思う。 以上のように、事務局の行動レベルの変化や

新しい効用の発見が得られたこと、それと同時

に、意識レベルも変化してきたことも重要な変

化のひとつである。

5.2.2 役員満足度評価 会議参加者である役員に対して、インタ

ビュー及びアンケート調査を行い、EOO に対す

る満足度を評価した。

① 議論は活性化したか アンケート調査から、会議室 B では 80%以

上、会議室 C では 70%近い人が、「以前より

も活発な議論が交わされるようになった」と

回答した(図 12)。また意思決定型の会議室

A でも「プレゼンテーションの理解と共有化

が以前よりも進んだ」と回答した人が 70%以上で、新しい会議環境は、それぞれの目的

に対して適切な評価を得ることができた。

役員のインタビュー調査からも、 • 質問が増えた。積極的に答えようという雰

囲気がある • 相互のコミュニケーション(いろいろな意

見を言い合う)に関して、非常に進化して

いる。 という議論の活性化を支持するコメントが

得られた他、 • 場の雰囲気がよく、顔が見えて、身近に感

じられ、気楽に発言できる。 • IT が隠れており、議論に集中できる。

など、「場」が議論を活性化させていること

も指摘された。 ② 会議の生産性は向上したか

会議のアウトプットに関して、70%の人が、

質・効率の面で、以前よりも向上した、と評

価した。 その中でも も貢献したもののひとつが

EOO 遠隔会議環境である。評価時点ではま

だ利用率は決して高くはなかったが、それで

も利用した人の間で、その効用が高く評価さ

れた。図 13 に示すように、遠隔会議では「時

間の効率化」は当然のメリットであるが、

「必要なメンバが召集できる」という効果を

80%以上の人が実感していることが分かっ

た。単に移動時間を減らすだけではなく、 • 本社の会議には本社で出席するが、本社か

ら自分の拠点の会議に遠隔で参加する。 • 役員本人は本社で会議に参加するが、拠点

図 12. 会議の活性化 Vitalization of meeting

2 0 4 5 7

00 4 8 7

1 1 11 5 1

0% 20% 40% 60% 80% 100%

会議室A

会議室B

会議室C

活発な意見交換

そう思わない ややそう思わない 

どちらとも言えない

ややそう思う

そう思う

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52 富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005

にいる関連メンバを遠隔から会議に参加

させる。 など、会議への参加機会が増すことで、大き

なメリットが得られる可能性がインタ

ビューより示唆された。

③ EOO の満足度 図 14 に EOO 会議環境全体の満足度の評価

結果を示す。90%以上の人が満足と評価をし

ており、EOO は会議の参加者である役員か

らは高い満足度が得られた。 全体の評価が高い一方で、会議室間で評価に

ばらつきがあることも今回の評価結果から

分かった。特に、もっとも先端的で「企画型」

会議を支援した会議室 C では、積極的に利

用して非常に高く評価する人がいる一方で、

あまり利用せず評価もできないという人た

ちとに大きく評価が二分された。これは今後

の課題と言える。

5.3 EOO 導入による コラボレーションの変化

EOO は複数人によるドキュメントを用いた

コラボレーションを強化することを主な目的の

一つとしている。ここでは、EOO を導入するこ

とにより、遠隔会議の質とドキュメントマネジ

メントサービスの利用度がどのように変化した

かについて述べる。

5.3.1 遠隔会議の質の変化 遠隔会議の質の変化を客観的に測定するため

に、参加者が資料を参考に購入する商品と納期、

金額を決定する模擬的な会議を行ない、どのよ

うに時間が使用されるかを分析した。 会議の比較対象として基準となる「対面会議」

の他に、「電話会議」「TV 会議」「TV 会議

+EOO」を 3 名の被験者で 17 回行い、プロセス

ごとに発言時間の平均をとった(図 15)。「電話

会議」や「TV 会議」では伝達や確認などのプ

ロセスに時間がとられるが、EOO を利用すると

会議の本質である商品決定プロセスに時間を割

くことが可能になり、対面会議の時間割合に近

づくことが分かった。

5.3.2 ドキュメントマネジメントサービスの 利用度合いの変化

ドキュメントマネジメントサービス(DMS)の利用度合いを測定するために、100 人程度の

ユーザを持つ部門を対象に、 • DMS のみを利用 • DMS と EOO を組み合わせて利用 した場合において、 • 一人が一月に該当サーバにアップロードす

る平均ファイル数 • 一人が一月に該当サーバからダウンロード

するファイル数 • 該当サーバの一月当たりのユーザの増加数 を調査した。

結果として図 16 のように、DMS と EOO を

組み合わせた場合、アップロードするファイル

数は平均約 6 倍、ダウンロードするファイル数

は平均約 2 倍、ユーザの増加数は平均約 2 倍に

増加した。

図 13. 遠隔会議の効果 Utility of teleconference

01 1 7 8

01 5 6 5

000 6 11

0% 20% 40% 60% 80% 100%

時間の効率化

タイムリーな会議の開催

必要なメンバーの招集

遠隔会議の効果

そう思わない ややそう思わない 

どちらとも言えない

ややそう思う

そう思う

01 1 7 8

01 5 6 5

000 6 11

0% 20% 40% 60% 80% 100%

時間の効率化

タイムリーな会議の開催

必要なメンバーの招集

遠隔会議の効果

そう思わない ややそう思わない 

どちらとも言えない

ややそう思う

そう思う

図 14. 満足度 Satisfaction rating

満足度

30%

60%

5% 5% 0%

そう思う ややそう思う

どちらとも言えない

ややそう思わない 

そう思わない

図 15. 発言時間の割合 Proportion of utterance

13 11 10 7

623 20

152

2441

5

21 23 16 29

11 9 9 6

38

3

10

47

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

対面会議 電話会議 TV会議 TV会議+EOO

目的説明 要求伝達 仕様伝達 商品決定 納期・金額確認 その他

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富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005 53

このように EOO を導入することにより、会

議中のコミュニケーションの質が改善されるこ

と、DMS による文書共有の利用度が活性化され

ること、が確認できた。

5.3.3 EOO の稼働率 EOO の稼働率として、EOO が設置されたあ

る部門会議室の利用時間(予約システムから算

出)に対する EOO の利用時間(コンテキスト

マネジメントサービスから算出)の割合を月毎

に集計した。 図 17 のように EOO は平均 80 パーセントの

稼働率であった。また、このうち 60 パーセント

以上の時間は遠隔会議ではなく対面会議で

EOO が使用されていることが分かった。 これは、遠隔会議のように EOO が必須に近

い状況ではない対面会議においても、会議室利

用者がコミュニケーションを強化するために

EOO を利用しているためであると考えられる。

5.4 ユーザインタフェース(UI)の評価と

改善 アンケート/ヒアリング結果、役員会議室での

実際の利用シーンの観察、および、我々自身の

日常業務での利用経験から現状の利用シナリオ

を分析し、UI 上の課題や新規機能としての要求

項目を抽出した。 これに対して、操作上の概念モデルの統一化、

人間工学的配慮、頻度の高い操作の効率化、操

作時の記憶負荷の軽減、ヒューマンエラーの抑

制、アクセシビリティ等の観点から、EOO Board および EOO Pad の UI の改良設計をお

こない、一部について実装をおこなった。

5.4.1 EOO Board の改良設計 インスタントホワイトボード機能の追加

煩雑なログイン操作をせず、ホワイトボード

として即時利用可能にするため、カードをかざ

すことなく、発表画面上に触れるだけでホワイ

トボードとして利用できるようにするようにし

た。書込みイメージを保存したり発表資料をダ

ウンロードする際には、カードによりログイン

すれば通常の利用が可能となる。

操作パネルのレイアウト見直し 従来の操作パネルには、画面名やシステム

メッセージを表示する部分が無く、ボタンの配

ファイルのアップロード数

14.9

2.6

0 2 4 6 8 10 12 14 16

EOO環境を利用

DMSのみを利用

ファイル/人・月

ファイルのダウンロード数

17.2

9.5

0 5 10 15 20

EOO環境を利用

DMSのみを利用

ファイル/人・月

ユーザの増加数

3.6

1.8

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4

EOO環境を利用

DMSのみを利用

人/月

図 16. DMS の利用度合いの変化

DMS usage transition

EOO利用割合

0%10%

20%30%40%

50%60%

70%80%

90%100%

05年

1月

05年2月

05年

3月

05年

4月

05年

5月

05年

6月

05年

7月

05年

8月

05年9月

年月

時間利用割合

EOO利用時間

0.00

10.00

2 0 .00

3 0 .00

4 0 .00

5 0 .00

6 0 .00

7 0 .00

04年

8月

04年9月

04年

10月

04年

11月

04年

12月

05年

1月

05年

2月

05年

3月

05年

4月

05年

5月

05年

6月

05年

7月

05年

8月

05年

9月

年月

時間

遠隔(クライアント)

遠隔(サーバ)通常使用

図 17. EOO 環境の稼動状況 Transition of EOO operating condition

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54 富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005

置についても、あまり統一が図られていなかっ

た。このため、ボタンの配置を操作対象と操作

の対応関係から見直した。

閲覧したパスのログ機能を備えたファイル一覧 ファイル一覧上でファイルが選択しにくいと

いう課題に対処するため、閲覧したフォルダの

ディレクトリパスを履歴として一覧する機能を

導入し、利用者が切り替わった場合も、以前に

選択されていたフォルダに容易に戻ることを可

能とした

5.4.2 EOO Pad の改良設計 画面レイアウトの見直し

画面の右下をホームポジションとして、利用

頻度の高いボタンがなるべく右下になるよう配

置した。また、押し間違いを考慮し、押す頻度

が多いボタンの周辺には「削除」等の不可逆的

な処理が実行されるボタンを配置しないように

した。

発表資料の自動保存画面一覧の追加 当初は「保存」ボタンを押すことで、発表者

の画面および個人メモの画面の両方を保存する

ようになっていたが、発表者が提示する画面は

すべて自動的に保存しておきたいというニーズ

に応えるため、自動保存される発表者画面と個

人メモをタブによって切り替えられるようにし

た。

6. 結び

本活動は、全社横断的なタスク活動として

2003 年 6 月にスタートした。企画部門、商品開

発本部、技術開発本部、研究本部、情報通信シ

ステム部、総務部、知的財産部、秘書室などか

ら参加したメンバで、自律・自立的に活動して

きている。開発途中から、ヘビーユーザとして

自分たちが率先利用することで、システムを短

期間で開発・安定運用させることができた。特

許も 45 件出願しており、EOO の目的である「組

織機動力の強化」を多少なりとも実感している。 2004年 1月の本社役員会議室への導入から 2

年が経過し、現在海外拠点を含めて社内で 33箇所のワークプレースに EOO が導入され、日

常的に遠隔会議が行われている。また、複数の

マスメディアに紹介され、国際学会で発表する

(Ubicomp05[5][6])など、富士ゼロックスの

事業ビジョンのプロモーションにも寄与してい

る。 現在、2007 年 1 月に予定している富士ゼロッ

クス本社部門の移転に向け、新本社のEOOワー

クプレース設計および新機能を検討している。

今後は、EOO 導入による効果測定のための KPI(Key Performance Indicators)を確定し、定

常的に KPI を収集・評価する仕組みを実現する

ことで、組織機動力向上の度合いを客観的な

データとして提示することを目指す。

5. 参考文献

1) M. Weiser, “The Computer for the 21st Century,” Scientific American, September 1991, pp. 94-104

2) M. Weiser, “Some Computer Science Issues in Ubiquitous Computing,” CACM, July 1993, pp. 75-84

3) http://www.fujixerox.co.jp/solution/ collabo/cp/

4) http://www.fujixerox.co.jp/release/2005/ 0815_i_wall.html

5) http://www.fxpal.com/UbiComp2005/ FX-Ubicomp-050911.pdf

6) http://www.fxpal.com/UbiComp2005/ UbiComp05-Inagaki.doc

Executive Open Office, SnapTable, E-Paper, CollaboPoster, DocuWorks, InteractiveWall は当社の登録商標です。

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技術論文

EOO: ユビキタスオフィス環境の構築と新しいワークスタイルの実践

富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005 55

筆者紹介

稲垣 政富 1985 年入社。以来、オブジェクト指向言語、

ハイパードキュメント、ミドルウェア、ユビキ

タスコンピューティング等の技術/商品開発お

よび事業企画に従事。現在、技術企画部で技術

戦略および EOO タスクリーダを担当。

堀切 和典 1988 年入社。以来、分散 OS、連続メディア

OS、分散文書処理、ユビキタスコンピューティ

ング環境の研究開発に従事。現在、サービス技

術開発本部に所属。情報処理学会、日本ソフト

ウェア科学会各会員。

廣瀬 吉嗣 1983 年入社。以来、デジタルフルカラーコピー

/プリンタの画質設計・評価研究、Web ユーザ

ビリティ/デザイン診断サービス開発に従事。

現在、研究本部にて次世代電子ペーパプライア

ンス研究を担当。

渡辺 美樹 1988 年入社。以来、オブジェクト指向データ

ベースの研究開発、遠隔コラボレーションシス

テム等の開発に従事。現在、本社部門にて事業

ビジョンの具現化に向けた社内実践環境の構

築を担当。情報処理学会、日本ソフトウェア科

学会各会員。

田丸 恵理子 1984 年入社。以来、ヒューマン・コンピュー

タ・インタラクション、ハイパーテキスト&メ

ディア、CSCW 等の研究・技術開発に従事。

現在ヒューマンインターフェイスデザイン開

発部で、エスノグラフィに基づくデザインプロ

セス研究に取組む。

増田 佳弘 1987 年入社。以来、オブジェクト指向言語、

ハイパーテキスト、グループウエア、ユビキタ

スコンピューティングの研究開発に従事。現

在、研究本部 FXPAL ジャパンに所属。主任

研究員。ACM、IEEE Computer、情報処理学

会、人工知能学会各会員。