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Fe-Co および Co の窒化による結晶構造変化 (仙台高専 専攻科 1 ,仙台高専 総合工学科/マテリアル環境工学科 ○村上真純 1 ・浅田格 ・伊東航 キーワード:窒化,準安定相,Co 粉末,Fe-Co 合金,磁性材料 1.緒言 Nd-Fe-B などの希土類元素を含む金属間化 合物は磁性材料として広く用いられているが, 希土類元素は埋蔵量が少なく,希土類元素を含 まない新たな磁性材料の開発が進められてい る.Fe Co 3d バンドの遍歴磁性により室 温で強磁性を発現する金属であるため,結晶構 造や原子間距離に依存して磁性が変化する. Fe および Co N の状態図上では γ’相と呼ばれ 1-4 系の窒化物が得られる.Fe 4 N は強磁性 体として知られ,また N 低濃度域では準安定 相である Fe 16 N 2 が生成し巨大磁気モーメント を有する.一方で Co hcp において Fe より も広い N 固溶域をもっている. Co などの純金属は室温であっても hcp の安 定相だけではなく粒子サイズが十分に小さい ときには室温でもわずかに準安定相の fcc 構造 が存在すると報告されている 1) . 本研究では Co および Fe-Co 系合金に N を侵 入させ新たな磁性材料の探索を目的とする. 2.実験方法 試料は粒径 φ5μm の カルボニル還元 Fe 末と粒径 φ5μm Co 粉末を使用し,NH 3 ガス を流量 20ml/min で炉に導入しながらアンモニ アガス窒化を行った.窒化条件は,Co 粉末は 温度を 500℃から 650℃,時間は 0.5h1.0h2.0h4.0h8.0h とした.Fe-Co 合金は組成を Fe 80 Co 20 Fe 75 Co 25 Fe 70 Co 30 とし,MA 処理に より作製した.窒化条件は 580℃で 4.0h とし た.断面組織の形態観察には SEM を用い,結 晶構造の解析には XRD,磁化測定には VSM 用いた. 3.結果と考察 (1) Co 粉末 580℃で窒化した際の XRD 結果を Fig.1 に示 す.試料には未窒化の際にも安定相である hcp 相と準安定な fcc 相が共存しており,fcc 相の 割合は 580℃で 2.0h 窒化時に最大となった (80.1mass%).窒化後に格子定数が増加してい ることから,Co N 固溶による fcc の安定化 の可能性が考えられる. 2.0h 窒化の際に hcp の結晶子サイズが最も小さくなった.粒度の減 少に伴い相変態の臨界活性化エネルギーの値 が増加することも fcc 安定化に寄与することが 分かる. Co の窒化時間と飽和磁化および fcc 分率の変化を Fig.2 に示す.飽和磁化の値も fcc 相の割合の増加に従って増加した. (2) Fe-Co 合金 窒化前は α-(Fe,Co)のピークのみだったが, 窒化処理後は窒化物も検出された.窒化物のピ ークは Fe 75 Co 25 の際に最も顕著に増加し, Fe 70 Co 30 で最小となった.窒化後には飽和磁化 が増加し,若干ではあるが保磁力も見られた. 後者は窒化処理により六方晶 ε-Fe 2-3 N が生成 したためと考えられる.窒化前後で飽和磁化の 値が最も増加したのは Fe 70 Co 30 だった.この試 料に同条件で窒化後に 800℃から急冷したと ころ,窒化鉄のピークは消失した.これは急冷 により合金内に存在していた N がガスとなり 脱窒したためだと考えられる. 4.結言 Co 粉末のアンモニアガス窒化により Co 4 N 相の生成を抑制し N 固溶 fcc-Co のみを生成す ることができた. Fe-Co 合金の窒化では窒化鉄 が生じ,わずかに保磁力が見られた. 【参考文献】 1) Qingkun Meng et al. J.Alloy. Comp. 580 (2013) pp.187–190お問い合わせ先 氏名:村上真純 E-mail[email protected] Fig.1 Co 粉末を 580℃で窒化した際の XRD 結果 Fig.2 Co の窒化時間と飽和磁化および fcc 相分率の変化 F-001

F-001 Fe-Co および Co の窒化による結晶構造変化 · まない新たな磁性材料の開発が進められてい る.FeとCoは3dバンドの遍歴磁性により室

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  • Fe-Coおよび Coの窒化による結晶構造変化

    (仙台高専 専攻科 1,仙台高専 総合工学科/マテリアル環境工学科2)

    ○村上真純 1・浅田格2・伊東航2

    キーワード:窒化,準安定相,Co粉末,Fe-Co合金,磁性材料

    1.緒言 Nd-Fe-B などの希土類元素を含む金属間化合物は磁性材料として広く用いられているが,希土類元素は埋蔵量が少なく,希土類元素を含まない新たな磁性材料の開発が進められている.Fe と Co は 3d バンドの遍歴磁性により室温で強磁性を発現する金属であるため,結晶構造や原子間距離に依存して磁性が変化する.Feおよび Co と N の状態図上では γ’相と呼ばれる 1-4 系の窒化物が得られる.Fe4N は強磁性体として知られ,また N 低濃度域では準安定相である Fe16N2 が生成し巨大磁気モーメントを有する.一方で Co は hcp において Fe よりも広い N 固溶域をもっている. Co などの純金属は室温であっても hcp の安定相だけではなく粒子サイズが十分に小さいときには室温でもわずかに準安定相の fcc構造が存在すると報告されている 1). 本研究ではCoおよび Fe-Co系合金にNを侵入させ新たな磁性材料の探索を目的とする. 2.実験方法 試料は粒径 φ5μm の カルボニル還元 Fe 粉末と粒径 φ5μm の Co粉末を使用し,NH3ガスを流量 20ml/min で炉に導入しながらアンモニアガス窒化を行った.窒化条件は,Co 粉末は温度を 500℃から 650℃,時間は 0.5h,1.0h,2.0h,4.0h,8.0h とした.Fe-Co 合金は組成をFe80Co20,Fe75Co25,Fe70Co30とし,MA 処理により作製した.窒化条件は 580℃で 4.0h とした.断面組織の形態観察には SEM を用い,結晶構造の解析には XRD,磁化測定には VSM を用いた. 3.結果と考察 (1) Co粉末 580℃で窒化した際の XRD結果を Fig.1に示す.試料には未窒化の際にも安定相である hcp相と準安定な fcc 相が共存しており,fcc 相の割合は 580℃で 2.0h 窒化時に最大となった(80.1mass%).窒化後に格子定数が増加していることから,Co の N 固溶による fcc の安定化の可能性が考えられる.2.0h 窒化の際に hcp 相の結晶子サイズが最も小さくなった.粒度の減少に伴い相変態の臨界活性化エネルギーの値が増加することも fcc安定化に寄与することが分かる.Coの窒化時間と飽和磁化および fcc相分率の変化を Fig.2 に示す.飽和磁化の値も fcc

    相の割合の増加に従って増加した. (2) Fe-Co合金 窒化前は α-(Fe,Co)のピークのみだったが,窒化処理後は窒化物も検出された.窒化物のピークは Fe75Co25 の際に最も顕著に増加し,Fe70Co30で最小となった.窒化後には飽和磁化が増加し,若干ではあるが保磁力も見られた.後者は窒化処理により六方晶 ε-Fe2-3N が生成したためと考えられる.窒化前後で飽和磁化の値が最も増加したのは Fe70Co30だった.この試料に同条件で窒化後に 800℃から急冷したところ,窒化鉄のピークは消失した.これは急冷により合金内に存在していた N がガスとなり脱窒したためだと考えられる. 4.結言 Co 粉末のアンモニアガス窒化により Co4N相の生成を抑制し N 固溶 fcc-Co のみを生成することができた.Fe-Co合金の窒化では窒化鉄が生じ,わずかに保磁力が見られた. 【参考文献】 1) Qingkun Meng,et al.,J.Alloy. Comp.,580

    (2013) pp.187–190. お問い合わせ先 氏名:村上真純 E-mail:[email protected]

    Fig.1 Co粉末を 580℃で窒化した際の XRD結果

    Fig.2 Coの窒化時間と飽和磁化および fcc相分率の変化

    F-001

  • Fe-Ni合金における窒化層の形成過程と構造変化

    (仙台高専 専攻科 1,仙台高専 総合工学科2,NIMS3)

    ○佐藤奈々絵 1・浅田格2・熊谷進2,3

    キーワード:窒化処理,Fe-Ni,表面処理,組織制御

    1.緒言 鋼材の表面層に窒素を富化する熱処理を窒化処理と呼ぶ.鋼材の表面から拡散侵入した窒素が様々な金属元素と化合し,硬い窒化物を形成して鋼材の表面を硬くする.窒化処理を施した鋼材では,表面に ε相(Fe2-3N)や γ’相(Fe4N)と呼ばれる鉄や合金添加元素との窒化物から成る化合物層を形成し,その直下に窒素を固溶し微細な合金添加元素との窒化物を析出した拡散層を形成する.窒化が工業的に利用されている理由は,耐磨耗性,耐疲労性、耐腐食性、耐熱性の向上のためである.また,窒化は表面に高強度である窒化物を形成し,内部は母材のままであるため破壊靭性が高いという利点を持っている. 合金元素の中でも Ni は,耐熱性,耐食性,

    靱性,焼入れ性を向上する働きがある.また,Fe-Ni系合金及びその窒化物は組成や温度に応じて様々な結晶構造と磁気的特性を持つことが知られている. 本研究では,Fe-Ni合金のバルク材とともに

    組織が微細な粉末や急冷材に対して窒化処理を施し,合金の生成相やその結晶構造を窒化処理時間に対して明らかにする.これにより,アンモニア窒化における Fe-Ni 合金の反応性や最適条件を検討することを目的とした. 2.実験方法 試料は,Fe-richの組成を持つ Fe-Ni合金を選

    択し,バルク材はアーク溶解で作製後に 890℃で均質化処理を施した.急冷材は急冷凝固法を用いて作製した.窒化処理はアンモニアガス窒化法で行い,窒化温度や窒化時間の異なる試料を作製した.窒化処理を施した試料の構造解析に X 線回折装置(XRD),組織観察に光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を使用した.Fe, Ni, N の各元素に対して試料内部の濃度分布調査にエネルギー分散型 X 線分析装置 (SEM-EDS),相同定に電子後方散乱回折(EBSD)を用いて測定を行った. 3.結果および考察

    4h 窒化処理を施した Fe50Ni50 急冷材,Fe-Ni(Ni 4mass%)急冷材,Fe-Ni(Ni 4mass%)バルク材 の XRD 結果を Fig.1 に示す.Fe50Ni50の試料では γ’-Fe4N 相,Fe-Ni(Ni 4mass%)の試料では ε’-Fe3N 相のピークが検出された. これらの試料の表面組織を観察及び分析し

    Fig.1 窒化した急冷材とバルク材の XRDパターン

    た結果,全ての試料で化合物層が確認された. Fe-Ni(Ni 4mass%)バルク材の二次電子像を

    Fig.2 に示す.化合物層の厚さは約 15μm で,結晶解析から最表面にポーラスの多い ε相,内部側に γ’相が生成した.更に化合物層直下には,通常の鉄鋼窒化では見られない γ’の粒成長が観察された.EDS 分析を行った結果,γ’相とγ’+α 相の境界おいて N の分布が少なかったことから,γ’相が粒成長しようとした際に Nが不十分だったため γ’と α の微細組織が形成したと推測される.

    Fig.2 Fe-Ni(Ni 4mass%)バルク材の二次電子像

    同組成の急冷材の窒化試料も同様の化合物層を形成し,厚さに変化は見られなかった.一方,Fe50Ni50急冷材の化合物層の厚さは約 25μm でγ’相主体の相構造だった.同組成の 4h 窒化を行った粉末試料の XRD 測定も行ったが,γ’-Fe4N と γ-(Fe,Ni)のピークのみが検出され,ε’-Fe3N のピークは検出されなかった.このことから, Fe50Ni50 の組成では γ’相主体の化合物層が得られることがわかった.

    お問い合わせ先 氏名:佐藤 奈々絵 E-mail:[email protected]

    F-002

  • Co-Cr-Ga-Si ホイスラー合金におけるマルテンサイト変態

    および相安定性におよぼす合金組成の影響

    (仙台高専マテリアル環境工学科)

    ○後藤黎・伊東航

    キーワード:Co 基ホイスラー合金, 冷却誘起形状記憶効果,マルテンサイト変態

    1.緒言 Co 基ホイスラー合金はハーフメタルと呼ば

    れ、スピントロニクス分野で盛んに研究が行われている。Co 基ホイスラー合金においてはCo2NbSn 合金以外、マルテンサイト(M)変態の発現は報告されていなかった。しかし近年Co51.7Cr26.3Ga11Si11において M 変態の発現が確認された。この合金では、通常の形状記憶効果に加え,冷却により M 相からオーステナイト相に変態する冷却誘起形状記憶効果が確認された[1][2]。なお、この合金は室温で M 相の単相合金である。Co51.7Cr26.3Ga11Si11以外の組成による合金探索はこれまで行われていないため、本研究では Co51.7Cr26.3Ga11Si11 の合金を作製し報告された特性を確認した上で、Ga と Si の組成を変化させ M 変態挙動や相安定性への影響を調査する。 2.実験方法

    Co51.7Cr26.3Ga(22-x)SiX(X = 0, 7, 11, 15)合金をアーク溶解炉により,Ar 雰囲気下で作製した。得られた試料を石英管に真空封入し、1200 ℃,

    24 時間の溶体化処理を施した。特性評価として組織観察、組成分析、変態温度の決定、結晶構造の同定を行った。

    3.実験結果および考察

    Co51.7Cr26.3Ga11Si11合金は単相組織で、高温域での変態点は Af=491℃であった。組成分析、結晶構造の同定結果も含めて、いずれも報告されたデータとよく一致しており再現実験は成功したといえる。 図 1(a)および(b)に Co51.7Cr26.3Ga7Si15合金、

    Co51.7Cr26.3Ga15Si7合金の反射電子像を示す。図1(a)より Co51.7Cr26.3Ga7Si15合金は、2 相組織であることが確認された。X 線回折からは M 構造のピークのみ観測されたが、組成分析により2 相間に組成の違いがみられた。高温域での変態点は Af=564℃であり、再現試料と比較するとΔAf=+73℃であった。

    Co51.7Cr26.3Ga15Si7合金において、図 1(b)では縞状の組織がみられた。反射電子像は試料を構成する物質の原子に応じて反射電子が放出さ

    れるため、組成差を観察するのに適している。一方で試料表面の凹凸により反射電子は鏡面反射方向に強い強度を有するため、本合金は一見 2 相組織に見えるが、M 相特有の表面起伏に由来する色の変化と考えられる。X 線回折でも M 相以外の構造のピークが確認されないため、M 相の単相組織と判断した。なお他 2 種の合金と比較して脆く、衝撃を加えると結晶粒界に沿って崩れた。高温域での変態点は Af = 437℃であり、再現試料と比較するとΔAf = -54℃であった。各試料の低温部における M 変態の挙動については当日発表する。 以上の結果から、Si を 15 at.%以上に置換す

    ると 2 相組織になってしまうため、Co-Cr-Ga-Si合金本来の諸特性に悪影響を及ぼす可能性がある。一方、Si の含有量を減らし Ga を増加させると、M 相の単相組織が得られた。

    図 1 (a) Co51.7Cr26.3Ga7Si15合金, (b)Co51.7Cr26.3Ga15Si7合金の反射電子像

    4.参考文献

    [1] 許皛, まてりあ, 第 9 号, (2016),421. [2] Xiao Xu et al. Appl. Phys. Lett. 103, (2013)

    164104.

    お問い合わせ先 氏名:伊東航 E-mail:[email protected]

    F-003

  • 無溶媒合成による二次電池用有機材料の耐久性改善

    (米子高専物質工学科 1,関西学院大学理工学部2)

    ○田中裕真 1・谷藤尚貴2・清水剛志2・吉川浩史 2

    キーワード:ジスルフィド結合,リチウム二次電池,ナノカーボン,π骨格,分子間相互作用

    1.緒言 現行のウェアラブル端末の蓄電池には,リチウムイオン二次電池が用いられている.この二次電池の容量は 148 Ah/kg であり,電池の容量不足を感じる因子になっている.現在の電池研究において,負極を金属リチウム,正極を理論容量の高い有機材料に変更すると,理論的には電池の容量は8 倍程度改善可能な余地が存在している.この点に注目して,我々はリチウム二次電池の高容量・高機能化を実現するための研究開発を進めている.先行研究[1]では,平面性の高い有機基と強い分子間相互作用を有するカーボンナノチューブ(CNT)を導入することで,活物質と導電性炭素との分子間相互作用の強化に由来する,充放電時の繰り返し耐久性が改善される成果を得た.そこで本研究では,実用化に向けてさらなる性能改善を次なる目標に定め,様々な有機成分を利用した活物質合成を行った.

    2.実験

    材料合成は,ジメチルジスルフィドとスルフィン酸 Na塩をヨウ素で酸化的にクロスカップリングさせる反応から開始して,三段階の合成全てが無溶媒で進行した.電池に用いた加硫体 1 は,ジスルフィド前駆体と単体硫黄を 120 ºC で混合加熱することにより得られ(Scheme.1.),その生成物は精製無しに活物質として用いことができた.正極材料の成分は 30 wt%が活物質,導電助剤成分に炭素材料(CB,CNT)を 50 wt%,それらをつなぐ成分としてのバインダーとして PVDF を 20 wt%とし,それらを乳鉢でよくすり合わせて粉体とした後に,厚さ 100 μmの薄膜として,円形に切り出して正極にした.負極をリチウム金属として,電解液(1M LiClO4)と合わせて封止したコイン型電池として,充放電評価を行った.

    Scheme.1. Synthesis of new organic cathode active

    materials.

    3.結果および考察

    1,3-ジチオール環は酸化により芳香族安定性が現れる電子ドナー性の有機基であり,硫黄を含んだ高い平面性を持つ構造は強い分子間力の誘起が期待できる.そこで,今回は新たな有機基として 1,3-ジチオール環を活物質の骨格に導入した.過去の知見をもとに,今回は 3 つのそれぞれの機能が異なる成分を含む活物質を合成して,電池特性評価を行った.まず,第一成分には,一定量の充電時に自然に抵抗の増大が誘起するロック現象が生じるメタフェニレン,第二成分に,CNT との強い相互作用を誘起して,耐久性の改善に繋がることが期待できるビフェニル,そこに第三成分として,1,3-ジチオール環を導入した.それによって過充電を材料特性で防止してかつ,優れた繰り返し耐久性と大容量を兼ねそなえた有機正極活物質の創製を目指した.この活物質において導電助剤に CB のみを用いた場合,600 Ah/kgを超える高容量が確認されたが,有機系二次電池に見られる繰り返し使用による容量の低下がみられた.そこで耐久性改善のために,同じ活物質で導電助剤を CB:CNT=4:1 とした電池では容量密度が 800 Ah/kg と CB のみを用いた場合に比べ高い容量を示し,繰り返し耐久性も改善される結果を得た.

    Fig.1. Charge-Discharge curve of Active Material 1

    on the coin. (conductive adduct: CB:CNT=4:1)

    [1]谷藤尚貴ら,ファインケミカル,46,(8),pp.5-14(2017)

    お問い合わせ先 氏名:田中裕真 E-mail:[email protected]

    1.5

    2

    2.5

    3

    3.5

    0 200 400 600 800 1000

    Vo

    ltag

    e [V

    ]

    Capacity [Ah/kg]

    D1

    D2D10

    C2

    C10

    F-004

  • リチウム二次電池の実用化にむけた

    活物質開発と改良の軌跡 (米子高専物質工 1,関西学院大理工2)

    ○河野響宇 1・谷藤尚貴 1・清水剛志2・吉川浩史2

    キーワード:1,3-ジチオール環,ジスルフィド結合,リチウム二次電池,正極活物質

    1.緒言 現在広く利用されているリチウムイオン二

    次電池は,その負極を金属リチウムに置き換えることにより容量密度を約 10 倍にまで拡大できるが,現存の正極活物質の容量密度が負極に比べて大きく劣るため,負極の潜在的容量密度を十分に活かした大容量電池開発は進んでいない.そこで本研究では,酸化還元に活性かつ安定な 1,3-ジチオール環(Fig.1)を有機骨格として導入し,有機二次電池材料の機能拡張を試みることにした.

    Fig.1 1,3-ジチオール環の酸化-還元プロセス

    2.実験 2-1.新規材料の設計 前年までの研究結果から,1,3-ジチオール環の 4,5位を硫黄鎖でつないだ有機ポリスルフィドが良好な充放電特性を示すことが分かっていたため,今回はその材料の改良を目的として,過充電を防止する効果のあるロック挙動を誘起することが分かっている[1]メタフェニレンを導入した有機ポリスルフィド 1の設計・合成を行った(fig.2).

    Fig.2 活物質となる有機ポリスルフィドの構造設計

    2-2.有機ポリスルフィドの合成と電池作製 活物質合成は Scheme1 に従い行った.めの

    う乳鉢上で原料 2と 1,3-ベンゼンジチオール 3,触媒である p-トルイジン 4 を混合しコポリマー5 を合成した後に,5 と単体硫黄を試験管内で 120 ºC で約 5 日間加熱すると加硫が進行して,1が黒色の固形物として得られた.この生成物をそのまま正極活物質として用い,カーボンブラック(CB)等の導電助剤,PVDFを固相混合によって伝導度を確保した正極材料として,リチウムを負極としたコインセルを作製した.

    Scheme1. 有機ポリスルフィドの合成

    3.結果および考察 正極材料中の活物質の割合を 30%とし,導

    電助剤に CB のみを用いた電池の充放電特性を評価した結果,放電容量は 1000 Ah/kg を越え,広範なプラトー領域を有する放電動作を示した.さらに,導電助剤としてカーボンナノチューブを 10%導入した電池では,1400 Ah/kgまで放電容量は伸びた(Fig.3).次に,電池の実用化条件の目安となる正極材料中の活物質の含量を 80%以上に高めるための予備試験として,活物質の割合を 70%まで高めた条件で電池作製を試みたところ,放電容量は 700 Ah/kgを示しており,現行のリチウムイオン二次電池で正極に用いられているコバルト酸リチウム(LiCoO2)の容量である 148 Ah/kg を大きく上回る性能を持つ材料であることが確認された.

    Fig.3活物質 1の充放電曲線(活物質:PVDF:CB=70:10:20)

    [1] 安部希綱,谷藤尚貴ら,日本化学会中国四国支部大会要旨集,2D10(2013) お問い合わせ先 氏名:河野響宇 E-mail:[email protected]

    ロック挙動

    高容量

    C2 C20

    D1 D2 D20

    F-005

  • Mg-Al-Y合金の新規規則構造近傍組成における組織変化

    (仙台高専マテリアル環境工学科 1,生産システム工学専攻 2,教員 3)

    ○田中初 1・菅原栞2・今野一弥 3・武田光博 3

    キーワード:Mg合金,軽量構造材料,長周期積層構造,組織観察

    1.緒言 マグネシウム(Mg)は、実用金属中で最も軽量な金属として知られている。中でも 2001年に、Mg97Zn1Y2(at.%)合金において報告された長周期積層(LPSO)型 Mg 合金は、既存の Mg合金や、超々ジュラルミンに代表される Al 系合金よりも優れた機械特性を持つことから、次世代の軽量構造材料としての期待が高まっている。 そのような背景の中、2015 年に本研究グループでは、Mg75Al10Y15において LPSO構造で初めてとなる規則構造の形成に成功した。この構造は、10H型を基本とした 20層周期の新規な構造で、Al6Y8の L12型クラスタが規則配列していると考えられている。しかし、その微細構造については、観測が困難であるため、決定には至っていない。微細構造の決定には、新規規則構造の単相試料を用いた X 線回折(XRD)や X線吸収微細構造解析(XAFS)などの方法が検討されているが、この合金系の規則構造組成周囲における状態図そのものは未だ明らかになっていない。このため本研究では、Mg-Al-Y系合金の新規規則構造近傍組成における組織変化を明らかにすることを目的とした。 2.実験方法 本研究に用いた Mg-Al-Y 系合金試料は、アルゴン(Ar)雰囲気中における射出鋳造法を用いて作製した。熱処理材は、Ar ガスと共に石英管に封入し、530~550℃, 96hの熱処理後に水中において急冷を行い作製した。熱処理温度は、示差走査熱量測定(DSC)によって決定した。作製した試料は、走査型電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型 X線分析(SEM-EDS)を行った。分析点は各試料につき 100 点以上をとり、得られた結果を三元系図にプロットすることで状態図を作成した。また化合物の確認のため、XRD分析も行った。 3.実験結果 図 1に、熱処理温度近傍(530~550℃)における Mg-Al-Y 系状態図を示した。同図中には、XRD および EDS 等から観測された各 LPSO相と共に、規則構造モデルと積層状態から予想されるAl/Y比(3/4)の理論組成線(破線)および、EDS 分析結果から推定された固相線(実線)を

    示した。図 1に見られるように、Mgbal(Al3Y4)x (at.%)の線に沿った、x3.3の Al,Y リッチ領域においては、Al, Y添加量の増加に伴い、Al-Y析出相の増加と 10H 型 LPSO 相の減少が見られた。これは、規則構造の形成領域が非常に限定的なものであることを示している。 4.結論 本研究では、Mg-Al-Y 合金の規則構造を有

    する LPSO 相近傍組成における、組織変化の調査を行った。本研究によって明らかにされた状態図は、Al Shakhshir らが 2005 年に報告した CALPHAD法にもとづく状態図とは大きく異なっており、本研究グループによって明らかにされた規則構造が、特異な相であることを示している。また、本研究の結果は、規則構造モデルによる理論組成において、10H型と18R型の LPSO 相の共晶が形成されることから、これまでのモデルとは異なる構造を有している可能性も示唆している。

    図 1 530~550℃におけるMg-Al-Y系状態図

    お問い合わせ先 氏名:今野一弥 E-mail:[email protected]

    F-006

  • Co-Nb基ホイスラー合金におけるマルテンサイト変態挙動

    (仙台高専マテリアル環境工学科)

    ○霞佳龍・伊東航

    キーワード:Co基ホイスラー型形状記憶合金,マルテンサイト変態

    1.緒言 Co 基ホイスラー合金は片側のスピンバンド

    が金属的でありながら、もう片側のスピンバンドが絶縁体的であることから、ハーフメタルと呼ばれ、スピントロニクス分野で盛んに研究が行われている。近年、Co 基ホイスラー合金において、マルテンサイト変態をし、形状記憶効果を有する Co51.7Cr26.3Ga11Si11 合金が報告された。この合金は通常の形状記憶効果に加え、 冷却誘起形状効果も有している。このようなCo 基ホイスラー型合金は、新たな形状記憶合金として注目を集めている[1]。 しかし、Co 基ホイスラー合金は、Co-Cr 系

    に関する研究は進んでいるが、Co-Nb系についての研究報告が少ない。この事を踏まえ、昨年度の研究において、Co2NbSi0.5Z0.5(Z=Ga,Al,Sn)合金のホイスラー相の安定性およびマルテンサイト変態についての調査を行った。この研究から得た Co54Nb22Si21Ga3 合金の室温における粉末 X 線回折パターンの解析結果から、主相がホイスラー構造であり、第二相が Mn23Th6型構造の二相組織になっていることがわかった[2]。 本研究では、先行研究の研究結果を参考にホ

    イスラー相単相合金を作製することを目的として合金を作製し、ホイスラー相の安定性およびマルテンサイト変態挙動についての調査を行った。

    2.実験方法 今回作製した Co55Nb22.5Si22Ga0.5 合金および

    Co55Nb22.5Si22.5 合金は、アーク溶解炉を用いてAr 雰囲気下で作製した。作製した合金を石英管内に真空封入し、融点直下の温度で 24 時間溶体化熱処理後、水中焼入れを行った。その後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いての組織観察および組成分析、示差走査熱量測定(DSC)での変態温度測定、X線回折における結晶構造の同定を行った。

    3.実験結果および考察 まず、Co55Nb22.5Si22Ga0.5合金において、組成

    分析結果より二相組織であることがわかった。図 1(b)に Co55Nb22.5Si22Ga0.5 合金の室温における粉末X線回折パターンを示す。この図より、主相がMn23Th6型構造であり、第二相がホイス

    ラー構造であるBiF3型であることがわかった。 また、Ga の影響を調査するために、

    Co55Nb22.5Si22.5 合金を作製した。この合金も、組成分析結果から二相組織であることがわかった。図 1(a)に Co55Nb22.5Si22.5合金の室温における粉末 X 線回折パターンを示す。この合金は、Mn23Th6 型構造と NiTi2 型構造を有していることがわかった。つまり、この合金において、ホイスラー相は確認できなかった。 本研究では、先行研究を元に合金を作製した

    が、主相にホイスラー構造が出現しなかった。先行研究では、Co54Nb22Si21Ga3合金の主相がホイスラー構造という解析結果が出ていた。しかし、再解析を行ったところ、第二相がホイスラー構造であり、主相はMn23Th6型構造であることがわかった。そのため、Co55Nb22.5Si22Ga0.5合金の主相は Mn23Th6 型構造となってしまった。

    図 1 各試料の室温における X 線回折パターンの解析結果

    参考文献 [1] 許皛:まてりあ 第 55巻 第 9号 (2016), 424-425

    [2] 中塩琴子:平成 28年度仙台高等専門学校マテリアル環境工学科卒業研究論文

    お問い合わせ先 氏名:伊東航 E-mail:[email protected]

    F-007

  • 透光性酸化物セラミックスのパルス通電焼結

    (*長岡技術科学大学 1,阿南高専2)

    ○南口誠 1・Nguyen Huu Hien1・奥本良博2

    キーワード:パルス通電焼結,Al2O3,MgAl2O4,透光性,ドーパント

    1.緒言 Al2O3やMgAl2O4といった透光性酸化物はセンサーや各種高温設備の耐熱窓材などに利用される他,古くから宝飾品に用いられてきた.人工物としては,従来から単結晶が利用されてきたが,原料粉末や焼結方法の進歩で多結晶体でも透光性に優れたものが得られるようになってきた.特に光の波長よりも結晶粒子径を充分に小さくすることで機械的特性と透光性を両立することができるようになり,様々な透光性酸化物セラミックスが得られるようになってきた.昨今,パルス通電焼結法は,ホットプレスや熱間等方加圧法に比べて比較的容易に透光性酸化物セラミックスが得られる方法として注目されている. ここでは,Al2O3や MgAl2O4の透光性酸化物セラミックスをパルス通電焼結法によって作製した例を紹介する.蛍光体や光学素子としてそれらの材料ではしばしば金属酸化物がドーピングすることで光学的特性を変化させることができる.例えば,Al2O3に Cr2O3をわずかに加えると赤色を発するようになり,ルビーとして古くから知られている.ルビーはレーザー発振のための触媒として初めて利用された酸化物である. 2.実験方法 本研究では,市販の Al2O3 粉末(大明化学TM-DAR),MgAl2O4粉末(大明化学,TSP-20)を用いてパルス通電焼結を行った.Al2O3 は型温度 1000℃で 60min 保持後,型温度 1200℃まで上昇させ,20min 保持した.圧力は 100MPa,真空下とした.MgAl2O4は型温度 1100℃で 60min,その後,型温度 1300℃,保持時間 20min で焼結した.圧力 100MPa,保持時間 60min で焼結した.試料はいずれも直径 15mm,厚さ約 2mm となるようにした.試料の焼結後,研削加工・バフ研摩を行った.その後,アルキメデス法による密度測定,光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡による組織観察,分光器による透過率測定などを行った.金属酸化物によるドーピングは,原料粉末の水スラリーへ硝酸塩水和物などを加えたものを,加熱したガラス容器に滴下して乾燥させた後,乳鉢により粉砕してから焼結を行った.本研究では,Crや Mn,Co のドーピングを検討した.

    3.実験結果 図1に Al2O3の焼結体,図2に MgAl2O4の焼結体外観を示す.ドーピングをしていない試料は,やや黒ずんではいるものの,透光性を示した試料になっていることがわかる.Cr ドーピングでは Al2O3,MgAl2O4いずれも透光性を維持しつつ,赤色に発色している.Mn の場合は,いずれもやや不透明になっているが,Al2O3 では橙色,MgAl2O4では黄色になっている.Co ドープでは Al2O3は黒っぽくなってかなり不透明にだが,MgAl2O4は青色になっていることがわかる.MgAl2O4の方が色彩制御は容易であった. 図1 各種ドーピングを行った透光性 Al2O3

    図 2 各種ドーピングを行った透光性 MgAl2O4 お問い合わせ先 氏名:南口 誠 E-mail:[email protected]

    Un-doped

    Cr-doped

    Mn-doped

    Co-doped

    Al2O3

    Un-doped

    Cr-doped

    Mn-doped

    Co-doped

    MgAl2O4

    F-008

  • PECSを用いた生体材料用多孔質 Mgの作製および評価

    (久留米高専専攻科物質工学専攻 1, 久留米高専材料システム工学科 2)

    ○池田沙樹 1・川上雄士2

    キーワード:生体材料,Mg,人工骨,パルス通電加圧焼結

    1.緒言 近年,マグネシウム(Mg)を生体材料として適用する試みが行われている.Mg は実用金属中最も軽量で,比強度に優れるといった特徴をもつ.加えて,生体内必須元素であるため体内で安全であることが予想されており,Mg の耐食性の悪さを生かして治療の経過に伴って徐々に融解する生体内分解材料としての利用が期待されている 1).しかし,Mg は人骨に比べてヤング率が高く,生体親和性に劣るといった問題点がある.そこで,本研究では試料の多孔質化によるヤング率の低減,細胞吸収性の向上を期待し,発泡剤として炭酸水素アンモニウム(NH₄HCO₃)を添加した.また,生体親和性の向上を目的に,バイオセラミックスである β型リン酸三カルシウム(β-TCP)の添加を行った.

    2.実験方法等 純 Mg 粉末を母材として,多孔質化に及ぼす

    添加元素の影響を調べるために β-TCP と NH₄HCO₃を 5~50wt%添加した.混合粉末をグラファイト焼結ダイ(内径 Φ15mm)に充填し,パルス通電加圧焼結(PECS)装置(SPS-510A)により焼結を行った.焼結条件は,焼結温度 400℃,焼結時間 10min,加圧力 20MPa で全て一定とした.得られた焼結体に対して機械的特性評価,生体適合性評価および電子顕微鏡による観察・分析を行った.

    3.実験結果および考察 Fig.1 に β-TCP と NH₄HCO₃の添加量と開放

    気孔率の関係を示す.β-TCP 添加量の増加に伴い空隙率は増加し,最大で 42.2%に達した.β-TCPは金属のMgと比較して焼結性が悪いため粒子が結合し合わず,空隙率の増加を引き起こしたと考えられる.一方,NH₄HCO₃の添加による空隙率の大幅な増加は得られなかった.これは,本実験において焼結を一軸加圧下で行ったことにより,発泡によって生じた空隙がつぶされたためと考えられる.Fig.2 に生体適合性評価の結果を示す.擬似体液はハンクス液を使用し,38℃で 14 日間の浸漬を行った.純Mg 試料,NH₄HCO₃添加試料の表面からアパタイトは検出されず,白色の腐食生成物が発生した.白色腐食生成物は XRD 分析の結果,Mg(OH)₂と判明した.一方,β-TCP を添加した

    場合,添加量 10wt%以下ではアパタイトは検出されず,Mg(OH)₂の発生が確認されたが,添加量 15wt%以上において試料表面でアパタイトの形成が確認でき,Mg(OH)₂は生成されなかった.Mg を疑似体液に浸漬すると Mg と水の反応によって Mg(OH)₂が生成することは報告されており 2),Mg を生体材料として利用する際の問題点とされていたが,今回 β-TCP を15wt%以上添加することで,Mg(OH)₂の生成を防ぐことができた.以上のことから,Mg の生体適合性を向上させるためには 15wt%以上のβ-TCP 添加が有効であることが明らかとなった.

    1) F. Witte: Acta Biomaterialia 6(2010), 1680-1692.

    2) G. L. Makar, J. Kruger;Intl Mater. Reviews, 38, 138

    お問い合わせ先 氏名:川上雄士 E-mail:[email protected]

    β-TCP

    NH₄HCO₃ Mg

    Fig.1 添加量と空隙率の関係

    Fig.2 ハンクス液浸漬後の各試料表面の SEM 写真 a) 純 Mg, b) NH4HCO3, c-1) β-TCP15wt%, c-2) β-TCP10wt%

    F-009

  • 0

    25

    50

    75

    100

    200 400 600 800

    Cu(0.1)

    Cu(0.2)

    Cu(0.3)

    Cu(0.4)

    Wavelength / nm

    Tra

    nsm

    itta

    nce

    %

    Fig.1 UV-Vis spectra of Cu-doped B2O3

    glass.

    0

    500

    1000

    1500

    200 400 600 800

    Cu(0.1)

    Cu(0.2)

    Cu(0.3)

    Cu(0.4)

    Cu(0.5)

    Wavelength / nm

    Inte

    nsi

    ty a

    .u.

    Fig.2 PL spectra of Cu-doped B2O3 glass

    (Excitation: 260 nm, Emcition:460 nm).

    1.E-02

    1.E-01

    1.E+00

    7 8 9 10 11

    Cu(0.1)

    Cu(0.2)

    Cu(0.3)

    Cu(0.4)

    Cu(0.5)

    Time/m sec

    Inte

    nsi

    ty a

    .u.

    Fig.3 Fluorescence decay curve (Excitation:

    260 nm, Emcition:460 nm).

    Cu添加 B2O3ガラスの作製と光学特性,発光特性の評価

    (熊本高専専攻科生産システム工学専攻 1,生物化学システム工学科 2)

    ○寺本真平 1・二見能資 2

    キーワード:蛍光ガラス,中性子線,シンチレータ

    1.緒言 中性子線やガンマ線,エックス線は,透過性が高いために通常の光検出器では検出が 難しい.特に中性子線の透過性は高い.放射線の検出方法の一つにシンチレーション式 検出法がある.この方法は,シンチレータに よって放射線を可視光に変換して,その可視光を光検出器で検出する方法である.我々は, シンチレーション式検出方法による中性子線の高感度検出を目的として,シンチレータの 開発に取り組んできた.本発表では,中性子線との反応断面積が大きいホウ素を含む材料として,酸化ホウ素 B2O3に酸化銅 CuOを添加したガラスを作製し,その光学特性と発光特性を報告する.

    2.実験方法 酸化ホウ素 B2O3 と酸化銅 CuO の粉末を

    乳鉢上で混合して原料粉末を準備した. 原料粉末をアルミナ製るつぼに入れて 加熱融解し,この融液を金属板上に流し出してガラス化させた.作製したガラスは研磨後, 光学特性と発光特性を評価した.光学特性として,紫外可視(UV-Vis)吸収スペクトルと 赤外/近赤外(IR/NIR)吸収スペクトルを測定した.発光特性の評価として,紫外可視域の 蛍光/励起(PL)スペクトルと発光寿命を測定した.

    3.結果と考察 作製したガラスの直径は約 1 cm,厚さは

    約 2.5 mm である.Fig.1 にこれらのガラスのUV-Vis 吸収スペクトルを示した.CuO 添加量の増加に伴い, 300 nm 付近の吸収端は 長波長シフトが確認されたが,可視領域の 透過 率はほと んど 変化 しなかっ た. 赤外 /近赤外域の透過率も同様であった. Fig.2 に PL スペクトルを示した.励起波長と 蛍光波長の発光極大はそれぞれ 260 nm と 460 nmであった.CuO添加量の増加に伴い,発光強度が増加したが,スペクトル形状は一定であった.Fig.3 に発光減衰曲線を示した. この曲線は,一次関数で近似された.見積もられた蛍光寿命は 0.40 msec であった.CuO添加量の増加に伴う蛍光寿命の変化はなかった. 代表的な光検出器である光電子増倍管の 検出波長は 300 - 650 nmであり,シンチレータ

    に望まれる蛍光寿命は1 msecであることから,作製したガラスは,シンチレータとしての応用が期待される.

    お問い合わせ先 氏名:二見 能資 E-mail:[email protected]

    25mm ×

    25mmの空白

    (提出時,この

    枠・文字は削除し

    てください.)

    Ex460 nm Em260 nmEm 260 nmEx 460 nm

    F-010

  • (CH3NH3)SnCl3の Cs置換による結晶系の変化の研究

    (仙台高専生産システムデザイン工学専攻 1,仙台高専総合工学科2)

    ○佐藤颯太郎 1・栁生穂高2・矢入聡2

    キーワード:有機無機複合化合物,結晶構造

    1.背景および目的 (CH3NH3)SnCl3 は有機無機複合化合物であり,特有の光学特性や電気特性から次世代太陽電池として注目されている.また 297 Kで三斜晶,318 K で単斜晶,350 Kで三方晶,478 Kで立方晶と温度によって結晶系が変化する.CH3NH3の代わりにCsとしたCsSnCl3は380 K以下では単斜晶,それ以上になると立方晶に変化する.本研究では,結晶構造の点から有機―無機の割合を変えることでどのような変化が表れるのか調べるために,(CH3NH3)SnCl3 の 一 部 を Cs に 置 換 し た (CH3NH3)1-xCsxSnCl3を作製する.粉末 XRD 回折装置を用いて,置換条件による結晶性の変化を調査する. 2.実験方法

    (CH3NH3)1-xCsxSnCl3 を固相反応法で作製する.

    手順は以下の反応式のように CH3NH3Cl,SnCl2,

    CsCl をモル比で量りとり,混合する.xは 0 から

    1.0の範囲を 0.1 刻みで変化させる.

    (1-x)CH3NH3Cl + xCsCl+SnCl2 → (CH3NH3)1-xCsxSnCl3

    水との反応性が高いため,窒素雰囲気下のグローブボックス内で 10 分間乳鉢・乳棒で混合し,混合物をペレット状に成型する.ペレット状にした試料をパイレックス管に入れ,管内を油回転・拡散ポンプで真空状態にした後,ガスバーナーで封じ切る.その後,電気炉を用いて加熱温度 150-300℃,加熱時間 72-168 時間の条件でペレットを加熱する.得られた試料は,粉末 XRD 回折装置を用いて結晶性を評価する. 3.結果と考察

    (CH3NH3)1-xCsxSnCl3を x=0 から作製する.図 1に粉末 XRD 回折像,表 1に求めた格子定数を示す.150, 200℃で(CH3NH3)SnCl3を得られることを確認した.x=0.1-0.4においては,母体からわずかにピークがシフトした回折像を得ることができ,結晶系が三斜晶から単斜晶へ変化する傾向を確認した.しかし,x=0.1,0.3,0.4 では条件を変えての再計算の必要がある.x=0.2 では,不純物が見られず,純度の高い試料が得られたといえる.ピークがブロードであること,わずかではあるが不純物らしきピークが見えることから,温度条件を変えて最適条件を見つける必要がある.x=0.1で 250, 300℃で加熱した場合,同定できないピークが多く見られたので温度が高いと試料が得られないことが分かった.

    4.まとめと今後の展望 x=0 では,(CH3NH3)SnCl3を得られ,x=0.1,0.2,

    0.3,0.4の場合では,結晶の対称性が変化していることを確認した.しかし,わずかに不純物が析出しているため,今後は温度条件を変え最適条件を見つけていく.CH3NH3を大きさの異なる NH4に代えて条件に違いが表れるのか比較実験も行う.

    表 1. 得られた(CH3NH3)1-xCsxSnCl3のシミュレーショ

    ンによる格子定数(x=0-0.4).

    図 1. x=0-0.4まで得られた試料の粉末 XRD回折像

    お問い合わせ先 氏名:佐藤颯太郎 E-mail:[email protected]

    0 0.1 0.2 0.3 0.4 結晶系

    三斜 単斜 単斜 単斜 単斜

    格子定数

    a=5.72Å

    b=8.21Å

    c=7.91Å

    α=90.56°

    β=93.12°

    γ=90.20°

    a=5.67Å

    b=8.31Å

    c=7.82Å

    β=92.44°

    a=5.74Å

    b=8.23Å

    c=7.92Å

    β=93.16°

    a=6.60Å

    b=8.11Å

    c=8.00Å

    β=95.79°

    a=5.84Å

    b=8.13Å

    c=7.94Å

    β=93.50°

    x=0

    200℃

    x=0.1

    200℃

    x=0.2

    200℃

    x=0.3

    200℃

    x=0.4

    200℃

    10

    0

    011

    11̅1̅

    00

    2

    02̅2

    2

    03̅

    1

    222̅

    202̅

    02

    2

    12̅2̅

    20

    2

    F-011

  • 浸窒焼入れを施した Fe-M-0.2C(M=Cr,V,Al)合金の

    表面組織変化

    (仙台高専 専攻科 1

    仙台高専総合工学科/マテリアル環境工学科 2,NIMS3)

    ○小川弘人 1・浅田格 2・熊谷進 2,3

    キーワード:窒化処理,浸窒焼入れ,化合物層,表面処理,組織制御 1.緒言 鉄鋼材料の表面硬化法として,処理ひずみが小さい表面窒化が注目されており,中でも浸窒焼入れは,窒化処理後に Fe-N系状態図のオーステナイト域まで昇温,保持するため,窒素の内部拡散が促進され,硬化層深さの向上が期待される.それと同時に ε相と γ’相からなる化合物層は消失して窒素固溶オーステナイトとなるがその変態過程や合金元素の影響について未だ不透明である. 本研究では高純度な原料を用いた Fe-M-0.2C(M=Cr,Al,V)三元系合金を作製,浸窒焼入れ処理を施し,窒化層構造の変化,合金窒化物の分布などへの影響を明らかにする.

    2.実験方法 Fe-xM-0.2C(x=0.2〜2.0mass% , M=Cr, Al, V)

    の組成に秤量し,アーク溶解炉により合金化した.溶体化処理後,浸窒焼入れ処理を施した.処理条件は 4h,580℃の窒化処理後に NH3ガスを導入しながら 13min で 750°C まで昇温し,5,10min保持した後に油冷した. 窒化層の組織は,光学顕微鏡及び走査型電子

    顕微鏡(FE-SEM)を用いて観察した.SEM 観察では,同時にエネルギー分散型 X線分析(EDS)を使用して線分析,面分析により元素分析を行った.化合物層の相分析を電子後方散乱回折(EBSD)により行った.機械的性質は試料断面の硬さ分布をマイクロビッカース硬さ試験で評価した.

    3.結果・考察 全ての試料で最表面に化合物層が残留し,そ

    の直下にマルテンサイト相(M相)の形成を確認した.さらに内部には M 相とフェライト相の二相共存組織が形成されており,多層構造の窒化膜が生成された.これにより,硬化層深さの向上が期待できる.

    4h,580℃の窒化処理で生成した化合物層は,昇温により窒素が内部へ拡散して厚さが減少した.V 添加試料,Cr 添加試料では化合物層が平滑な界面を維持したまま減少したが,Crでは化合物層が厚く残留し V と同程度の厚さになるまで約 2 倍の焼入れ温度保持時間を要した.

    Fig.1 に Cr 添加試料の EDS ライン分析の結果を示す.M相直下に Cr窒化物の形成が確認でき,表面硬さ向上に寄与すると考えられる. 一方,窒化処理で γ’相主体となった Al添加

    試料では,昇温に伴って化合物層は減少したが,局所的に異常成長した ε相が観察された.これは表面の割れや剥離の原因になるため,Al 添加試料は相制御に注意を要する.

    Fig.2 に各試料のビッカース硬さの結果を示す.Cr 添加試料が全ての試料で最も硬く,932HVとなった.これは Cr2Nが析出し,表面硬さが向上したためと考えられる.

    Fig.1 浸窒焼入れを施した Cr添加試料の EDS結果

    Fig.2 浸窒焼入れを施した試料のビッカース硬さ

    お問い合わせ先 氏名:小川弘人 E-mail:[email protected]

    F-012

  • Fe-Cr-Mo-C 合金および SCM435H 合金鋼の 窒化と浸窒焼入れ

    (仙台高専マテリアル環境工学科 1,総合工学科2,NIMS3)

    ○佐々木智香 1・浅田格 1,2・熊谷進 1,2,3

    キーワード:窒化,浸窒焼入れ,Fe-Cr-Mo-C合金,SCM435H鋼 1.緒言 自動車業界において現在加速しつつある電

    気自動車の開発に伴い,動力伝達部品の負荷特

    性向上が望まれている.そこで注目されている

    表面硬化処理に浸窒焼入れ処理が挙げられる. 本研究では低温処理で熱処理ひずみが小さ

    い窒化処理,さらに窒化処理よりも硬化層深さ

    が向上する浸窒焼入れ処理に着目し,

    SCM435H 合金鋼とその主要な合金元素のみを添加した Fe-1.2Cr-0.3Mo-0.2C 合金について調査した.両試料を窒化・浸窒焼入れ処理し

    た際に形成される窒化面の結晶構造並びに化

    合物層の層構造や組織には特徴的な違いが予

    想され,合金元素とともに他の元素の影響につ

    いて検討することを目的とした. 2.実験方法 純度 3N の Fe,Cr,Mo,C を Fe-1.2Cr-0.3Mo-0.2C (mass.%)の組成でアーク溶解法によりアルゴン雰囲気中にて合金化し,その後 890℃で2 時間溶体化処理を行った.炉令した試料を5×5×15 mm3の直方体に切り出し,窒化ならびに浸窒焼入れ処理を施した.窒化処理は NH3ガスを流量 20 ml/minで流し,580℃,4 hの条件で行った.浸窒焼入れ処理は 4 h窒化した後,一度 750℃まで昇温して 5 min 保持後に油冷した.また,実用鋼は供試材として JIS-SCM435H 合金鋼を使用し,5×5×15 mm3 の形状に加工後 Fe-1.2Cr-0.3Mo-0.2C 合金と同様に処理を行った. 処理した試料に対して X線回折(XRD),断面の光学顕微鏡観察,電子線後方散乱回折法

    (EBSD)による層構造の分析を行った. 3.実験結果 Fe-Cr-Mo-C 合金および SCM435H 鋼の窒化試料の表面組織を Fig.1に示す.Fe-Cr-Mo-C合金においてはおよそ 22µm,SCM435H鋼ではおよそ 25µm の化合物層が確認された.化合物層と拡散層の境界ではいずれの試料も

    平滑な界面を示した.SCM435鋼の XRD結果では ε-Fe2-3N 相のピークのみが観測された.

    一方,Fig.2に示す浸窒焼入れ試料ではおおよそ平滑な界面を維持しながら化合物層の消失

    が起こっていることを確認した.これは窒化処

    理後の昇温で表面から窒素が内部へ拡散し,状

    態図上で安定な fcc-γ相へ変態するためである.また,内部拡散とともに脱窒が起こるためポー

    ラスの形態は両試料で異なっている.2つの試料を比較すると,SCM435H鋼の化合物層の方が厚く残留しており,層構造の違いも明らかと

    なった.特に SCM435H 鋼では窒化面側から化合物層/窒素マルテンサイト層/フェライト+窒素マルテンサイト層の構造となっているこ

    とがわかる.

    Fig.1 窒化処理の組織. (a)Fe-1.2Cr-0.3Mo-

    0.2C合金 (b)SCM435H鋼

    Fig.2 窒化処理の組織. (a)Fe-1.2Cr-0.3Mo-

    0.2C合金 (b)SCM435H鋼 お問い合わせ先 氏名:浅田 格 E-mail:[email protected]

    F-013

  • 時効熱処理を施した Mn-Ga-Cu-Sn 合金磁石の磁気特性

    (仙台高専専攻科生産システムデザイン工学専攻 1、

    仙台高専マテリアル環境工学科 2)

    ○境七美 1・伊東航 2

    キーワード:Mn-Ga合金磁石,磁気特性,保磁力,時効熱処理

    1.緒言 近年、ネオジム磁石に代わる希土類元素を用

    いない新しい磁石材料の開発が注目されている。磁石には様々な種類が存在するが、比較的安価にかつ安定して製造が可能な Mn 系磁石が存在する。なかでも、Mn-Ga合金に Cuを添加した Mn-Ga-Cu 合金は低温で時効熱処理すると、10 kOe を超える希土類磁石に匹敵する保磁力を発現することが明らかになっている[1]。しかし、実用化にはさらなる磁気特性の向上が求められる。一部の Mn 系磁性材料では、磁気特性がMn-Mn原子間距離に大きく依存すると報告されており、Mn-Ga-Cu合金においても元素置換によってMn-Mn原子間距離を変化させることで磁気特性の向上を試みた。一昨年度の高専シンポジウムにおいて、Mn-Ga-Cu合金の Cuの一部を Feに部分置換した結果、FCC相が安定化し強磁性相が発現せず、磁気特性が低下することを報告した。 本研究では、Mn-Ga-Cu 合金の Ga の一部を

    Sn に置換し、微細組織、結晶構造、格子定数の変化および磁気特性を調査した。

    2.実験方法 Mn55Ga(19-x)Cu26Snx (x=0, 2.0, 4.0, 5.0 at.%)合金を高周波誘導溶解炉により、Ar 雰囲気下で作製した。得られたインゴットを石英管に真空封入し、溶体化熱処理を施した後、300 ℃、10分~3日間の時効熱処理を行い、水焼き入れした。特性評価として、組織観察、組成分析、結晶構造の同定、変態温度の決定、磁化測定を行った。

    3.実験結果および考察 組織観察の結果、x= 0, 2.0, 4.0 at.%合金の溶

    体化材はすべて単相組織を得られた。結晶構造は、L10構造であった。x= 5.0 at. %合金の溶体化材は相が第二相として析出した。L10 構造相の格子定数は、Sn 置換前後でほとんど変化がなかった。 図 1 に Mn55Ga(19-x)Cu26Snx合金における保磁

    力の時効時間依存性を示す。x= 0 合金であるSn 置換前のMn55.2Ga19.0Cu25.8合金は、300 ℃で5~30 分間の時効熱処理により、最大 25 kOe

    の保磁力を示すと報告されており、時効時間が30 分間を超えると保磁力の急激な減少が見られる[1]。Sn 置換後の保磁力は、x= 2.0 合金で300 ℃、10分間の時効処理により約 23 kOeと最大の値を示し、置換前と同等の結果が得られた。一方、x= 4.0, 5.0 合金では保磁力が低下した。さらに、時効時間が長くなると、Sn 置換前と同様に保磁力が低下する傾向があった。SEM 観察の結果から、保磁力の発現は時効処理によって1 相が微細に析出したことに起因すると考えられる。x= 2.0 合金では、ブロック状組織が規則性を保ちながら組織全体に均一に導入されていた。しかし、x= 4.0, 5.0合金においては、ブロック状組織の規則性は乱れ、不均一に存在していることが確認された。これは、スピノーダル分解が過剰に進行したことによる影響と考えられる。そして、微細組織の不規則化や粗大化が磁気特性の低下に寄与していると考えられる。その他の結果は当日報告する。

    図 1 : Mn55Ga(19-x)Cu26Snx合金における 保磁力の時効時間依存性

    参考文献 [1] K. Minakuchi et al., J. Alloys Comps. 611 (2014) 284.

    お問い合わせ先 氏名:伊東 航 E-mail:[email protected]

    F-014

  • 無潤滑すべり接触における籾殻焼成多孔質炭素材料 摩擦摩耗機構

    (鶴岡高専 制御情報工学科 1, 鶴岡高専 生産システム工学専攻 2,

    三和油脂株式会社 3, 山形大学大学院理工学研究科 4)

    ○佐野礼仁 1・本間賢人 2・高橋武志 3・飯塚博 4・宍戸道明 1 キーワード:トライボロジー,籾殻, 多孔質炭素材料 1.緒言 わが国の主食である米は, 精米時に非食部である籾殻が年間約190万トン排出する. そのうち約125万トンは堆肥, 薫炭として再利用されている. 一方で, 残りの約 65 万トンは焼却によって処分されている. そこで本研究グループは, 農業系廃棄物の再資源化のため, 籾殻が有する多孔質構造を利用した籾殻焼成材を開発した. 籾殻焼成材は摺動性に優れるため, 摺動部材への応用が期待されており, さらなる摩擦摩耗機構の解明が求められている. 本研究では, 摩擦摩耗によって生じる摩耗粉の粒度分布から, 無潤滑すべり接触における籾殻焼成材の摩擦摩耗機構を考察した.

    2. 供試材 乾燥させた生籾殻にフェノール樹脂 25 wt.%を混

    合, 含浸させ, 900 ℃の窒素ガス雰囲気中で 3 hour炭化焼成する. その後, 粉砕工程を経て籾殻焼成粉体が得られる . これに再度フェノール樹脂 25 wt.%を混合, 含浸させて加圧成形し, 乾燥後再び窒素ガス雰囲気中で 3 hour 炭化焼成する. こうして得られた 150(w)×75(d)×6(t) mmの籾殻焼成材成形体を, 8(w)×8(d)×6(t) mm の形状に研削し, 試験片を得た.

    3.実験方法 摺動摩耗試験は, JIS-K7218を参照し, ブロックオ

    ンリング式の試験機にて実施した. 滑り速度 5 m/s, 試験荷重は 10 N および 20 N, 摺動時間は 6~24 hour の 6 hour 刻みとした . また , 相手材にはSUS304 (Ra=1.9) を使用した. 試験後の摩耗面を, 走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した. 撮影した画像より摩耗粉の粒度を測定し, 摩耗粉の粒度分布を作成した. 得られた結果より, 摩耗粉粒径の経時変化および荷重依存性(1)について考察した.

    4. 実験結果および考察 Fig.1に荷重 20 Nにおける摩耗粉粒度分布の経

    時変化を示す . いずれの摺動時間においても , 0.596 μm以上 0.833 μm以下の粒径を持つ摩耗粉の頻度が最も高い割合を示した. また, 摺動時間の変化による摩耗粉の粒径の変化は見られなかった. 籾殻焼成材の動摩擦係数は, 滑り距離 4000 mを越えると安定することが, 本研究グループの研究で確認されている. 摺動時間 6~24 hourにおいても, 動摩擦係数は安定するため, 摺動時間による摩耗粉の粒径の変化は見られなかったと推測される.

    Fig.2 に摩耗粉粒度分布の荷重の関係を示す. どちらの荷重においても 0.596μm 以上粒径の頻度

    Fig.1 摩耗粉粒度分布の経時変化(20 N, n=2)

    Fig.2 摩耗粉粒度分布の荷重の関係(18 hour, n=2)

    が最も高い割合を示した. また, 粒径0.833 μm以下においては低荷重よりも高荷重のほうが摩耗粉の頻度が高いが, 0.834 μm以上になるとこの傾向は逆転した. これは, 摩擦初期に生じる大型摩耗粉が粉砕され細粒化するものと推測される.

    5. 結言 本研究で得られた結果の要約を以下に示す. (1 ) 摩耗粉は , いずれの摩擦時間においても

    0.596μm以上 0.833μm以下粒子の頻度の割合が最も高かった.

    (2) 摩耗粉の粒径は , 低荷重よりも高荷重の方 が,より小さな摩耗粉の割合が高くなる傾向を示

    した.

    参考文献

    (1)大越将洋, 藤田光広, 広中清一郎 :”無潤滑すべり接触におけるジルコニアの摩擦摩耗機構”, 日本セラミックス協会学術論文誌, pp.659-661, 1996 お問い合わせ先 氏名:佐野礼仁 E-mail:[email protected]

    Mean±S.D.

    Mean±S.D.

    F-015

  • 圧粉体の摺動挙動に関するシミュレーション開発

    (仙台高専 マテリアル環境工学科 1)

    ○平間功太 1・熊谷進 1・武田光博 1

    キーワード:圧粉体, ペグ・イン・ホール, 有限要素法, 接触解析

    1. 緒言 構造材料として用いられる焼結部材に

    生じる欠陥の多くは、焼結工程に供する前の粉末圧縮成型および圧粉体の取り扱い時に起因する。知能ロボットに関する用語(JIS B0185)で穴の中に棒を挿入する作業として定義されるペグ・イン・ホール問題において、穴を構成する材料が粉末で、かつ挿入後の滑落防止のため摺動させながらの挿入を想定する場合は、粉末内部の応力伝達機構が十分に解明されていない現状にも関連して、ロボットによる自動化にとってマニピュレーションの高精度化と粉末の摺動特性の把握という学際的な問題を解決しなければならない。 本研究は、圧粉体に起因する焼結品欠陥

    の防止を目的として、圧粉体リングに鋼製(剛体)の棒を挿入する問題を想定して、圧粉体の摺動を考慮できる数値シミュレーション技術を開発する。有限要素法を用いてペグ・イン・ホール摺動時の応力分布に関する検討を行った。

    2. 数値シミュレーション 有限要素法において、接触・摺動解析で材料の非線形性を考慮しながら収束性の良い汎用ソフトは限られてくる。そこで、複数の汎用ソフトを比較・検討しながら解析を進めた。モデルは、Fig. 1に示すような中空の圧粉体と棒材の 1/4モデルを作成し、棒材を圧粉体に通し、直線移動させる。条件として、ヤング率を変化させ、応力状態を評価した。また、接触・摺動のシミュレーションの妥当性検証のため、本研究では両方のモデルを弾性体と仮定して解析を進めた。圧粉体の弾性定数は圧縮試験から 36 MPaと設定した。棒材の方はアルミニウム材から鋼材までを想定し、72~205 MPa まで変化させている。汎用有限要素ソフトは ANSYS Mechanical APDL あるいは Salome-Meca 7.8.0 を使用した。ANSYS 圧粉体と棒材の間に食い込みを設定できるため、直径差を 0.01 mm とし、食い込みながらの摺動を解析した。

    3. 結果および考察

    Fig 1. (左)数値モデルの全体像

    (右)1/4分割モデル

    Fig 2. ANSYSの(左) 相当応力 (中央) 相当弾性歪(右) 接触摩擦応力 の最大値

    Fig 3. Salome-Mecaの(左) 垂直応力+

    剪断応力(右) 歪度 の最大値

    Fig. 2に ANSYSより得られた各種コンター図結果を示す。ヤング率の変化による分布の変化はないが、最大値は全て比例的に上昇しており、圧粉体の破壊は棒材のヤング率が高いほど起こりやすい。Fig 3.には Salome - Meca の結果を示す。摺動面の縁で応力が高くなっており、この部分から圧粉体の損傷が開始することが予想される。

    お問い合わせ先 氏名:熊谷 進 E-mail:[email protected]

    F-016

    F-01Fe-CoおよびCoの窒化による結晶構造変化1.緒言2.実験方法3.結果と考察(1) Co粉末(2) Fe-Co合金4.結言【参考文献】

    F-02F-03F-04F-05F-06F-07F-08F-09F-10F-11F-12F-13F-14F-15F-16