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第1章
ゴム弾性
ゴム材料は、一般の金属材料とは異なり、大きく伸びるという特徴を持ち、荷重が除荷されるとほぼ元の形状に戻るという特徴も持つ。一方で、ほとんど体積変化のない非圧縮性という特徴がある。これらの特徴が、工業的に価値のある特性として多く使用されている。たとえば、ロケット、飛行機や自動車の燃料やオイル漏れを防止するシール材であり、巨大な建造物を支え地震の被害を最小限に抑える免震構造物、乗り物のタイヤ、あるいは人工血管などの医療用品として、数多くの分野で使用されており、現代社会では欠かすことのできない材料である。 本章では、ゴムの高分子材料としての特徴と有限要素法で適用されている超弾性体の基礎事項について説明する。
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1.1 ゴム材料の特徴
ゴム材料の代表である天然ゴムは、クリストファー・コロンブス(Christopher
Columbus)によるアメリカ大陸発見後に南米で発見され、その後ヨーロッパ
に広まった。1800年代に始まったヨーロッパの産業革命の頃には、すでにゴ
ム靴や防水コートのようなゴム製品が開発、使用されていた。歴史的転換点と
して 1839年にチャールズ・グッドイヤー(Charles Goodyear)によって、硫黄
を混ぜて加熱することにより、力を加えるとよく伸び、力を除くと元の長さに
戻る性質が見出された[1]。この加硫(vulcanization, curing)という加工方法に
より、ゴム材料の非常に優れた特性が引き出され、タイヤなどの工業材料とし
て急速に使用されるようになった。この巨大な変形をなしうるゴム材料は、高
分子材料の一種であり、液体と固体の両方の特性を持ち合わせており、本質的
にエントロピー弾性として力学的に説明される[2]。また、ゴム材料はエラスト
マー(elastomer)ともいわれる。ゴムの工業上における特徴を、次に挙げる。
ゴムとエラストマーは、過去には区別されていたようですが、現在ではあまり区別されておらず、同じ用語として認識してよいと思います。ゴム用語辞典[3]からの引用を以下に示します。ゴム( rubber )常温でゴム[状]弾性を有する高分子物質あるいはその材料。歴史的にはゴムが NR( Natural Rubber )を指し、エラストマーが合成ゴムを指したが、現在では区別されないことが多い。エラストマー( elastomer )常温でゴム[状]弾性を示す高分子物質。弾性的( elastic )なポリマー( polymer )を略して作られた造語。一方、弾性とともに塑性を示す高分子物質をプラストマー( plastomer )という。一般に加硫ゴム( NR・合成ゴム )はエラストマーに属する。
第 1 章 ゴム弾性
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● 応力―ひずみ関係が強い非線形性を有する。
● 微小ひずみから大ひずみ領域において利用される。
● ほぼ非圧縮の条件が保たれる。
● 荷重を除荷すると、ほぼ元の形状に戻る弾性体である。
1.2 金属との比較
材料に対して、なんらかの外力を与えると変形するが、その外力を取り除い
たときに元の形状に戻るとき、この変形は弾性的(elastic)といわれる。金属、
非金属の結晶、ガラスなどの普通の固体の弾性範囲は、せいぜい 1%程度のご
くわずかな範囲である。これらの固体をさらに大きく伸ばそうとすると、たと
えばガラスの場合は瞬時に破断してしまう。これをぜい性破壊(brittle
fracture)という。ガラスは、室温においてほぼ完全に弾性体といえる材料で
ある。あるいは、鉛などの金属の場合は弾性範囲を超えて変形することができ
るが、外力を取り除いても元に戻らない可塑的(plastic)という状態となり、
粘土のように変形させることができる。
図 1.1(a)に、一般的な鉄鋼の単軸引張試験における応力―ひずみ線図を示す。
図 1.1 応力―ひずみ線図(単軸試験)
(a)鉄鋼Strain
Nominal stressTrue stress
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
(b)加硫ゴム
0 1 2 3 4 5 6 7Strain
0
1234567
Stress[N/mm2 ]
Stress[N/mm2 ]
0
100
200
300
400
500
4
鉄鋼での弾性範囲は 0.2%程度であり、200[N⊘mm2]程度で降伏点に達し、
その後塑性挙動を示し、有効なひずみの範囲は 100%程度でしかない。一方、
図 1.1(b)には加硫ゴムの単軸引張試験の応力―ひずみ線図を示す。ゴム材料
は 600%を超える大きなひずみ範囲を示し、応力を除荷すれば元に戻るという
弾性的挙動を示す。また、ゴム材料は非常に小さい力で大きな変形を示すこと
がわかる。
図1.1(a)と(b)で縦軸と横軸のスケールがかなり違いますね。なお、本文中で金属の有効なひずみは 100% 程度と書きましたが、粒度が微細で、かつある程度以上の高温状態では数百% におよぶ塑性状態を得ることができます。こうした材料を超塑性材料といいます。
表 1.1 ヤング率と圧縮率
ヤング率[MPa] 圧縮率[MPa-1]
鉄鋼 2#105 0.6#10-5
ガラス (0.5~0.8)#105 2.7#10-5
ゴム 1~3 53.7#10-5
代表的な材料のヤング率と圧縮率を表 1.1に示す[4]。ヤング率の値を比較し
てわかるとおり、鉄鋼を引き伸ばす力とゴムを引き伸ばす力の間には 10の 5
乗のオーダーでの違いがある。一方、ゴムの圧縮率は水の圧縮率(46#10-5)
とあまり変わらず、鉄鋼と比較しても 100倍程度の違いである。圧縮率 |は
体積弾性率 Kの逆数であるので、材料が等方性で微小ひずみの範囲であれば、
ヤング率を E、ポアソン比を oとすれば、表 1.2より
第 1 章 ゴム弾性
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K E13 1 2| o
= =-] g (1.1)
の関係となる。ポアソン比でまとめると
E21
6o
|= - (1.2)
である。したがって、鉄鋼のポアソン比は表 1.1の値を代入して
..
21
62 10 0 6 10
0 35 5# # #
o= - =-
(1.3)
となり、よく知られた値と一致する。一方、ゴムのポアソン比は
..
21
61 53 7 10
0 49991055# #
o= - =-
(1.4)
であり、ほぼ 0.5に等しくなる。ポアソン比が 0.5であるということは、材料
は非圧縮(体積変化しない)ということである。
まとめると、ゴムは非常に小さい力で引き伸ばすことができるが、圧縮する
には非常に大きい力を必要とする。すなわち、変形による面圧の大きさが工業
的な利点であり、ゴムが水道の蛇口のパッキンやパイプの継ぎ目のシール材に
使われている理由である。
表 1.2 弾性定数の関係
E,o G,o E,G E,K K,G
E
ヤング率 E 2(1+o)G E EK GKG
39+
o
ポアソン比 o oG
E G22-
KK E63 -
K GK G2 33 2+-
] g
G
せん断弾性率E
2 1 o+] g G GK EEK93-
G
K
体積弾性率E
3 1 2o-] gG
3 1 22 1
o
o
-+]]
gg
G EEG
3 3 -] g K K
m
ラーメの定数E
1 1 2o o
o
+ -] ]g gG1 22o
o
- G EG E G3
2--] g
K EK K E9
3 3--] g
K G32
-