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福島の進路 2019. 7 40 福島県では、ふくしまに想いを寄せる方々の協力を得ながら、ふるさと復興の決意 を新たに、ふくしまから“共に”新たな何かをはじめる活動として「ふくしまから はじめよう。プロジェクト」を展開しています。 福島県の取り組み・施策シリーズ 只見線の復旧に向けた 地元の思い JR 只見線は、福島県の会津若松駅と新潟県の 小出駅を結ぶ全長135.2㎞の路線です。沿線を流 れる只見川には、10基のダムと水力発電所があり、 発生した電力は主に首都圏に供給されています。 只見川の水力発電開発は、戦後の経済復興期に おける産業界の電力需要や家庭用電熱需要の急激 な高まりを受け、国策として進められてきました。 ダム建設地は険しい山岳地帯であるため、まず 資材運搬のための軌道施設が建設されます。この 鉄道が後に国鉄に引き継がれ、只見線として新潟 県小出駅まで結ばれます。只見線は、まさに戦後 日本の復興及び経済成長を支えるという、重要な 役割を果たしてきました。 また、沿線地域は国内有数の豪雪地帯であり、 新潟・福島豪雨から8年 「只見線」の全線再開に向けて 福島県 只見線再開準備室 只見線に並行する国道252号は、冬期間、福島・ 新潟県境(六十里越)が通行止めとなります。こ のため、冬期間は只見線が福島県只見町と新潟県 魚沼市を結ぶ唯一の交通手段であり、地域にとっ て大切な生活の足となっています。 さらには、只見線は秘境を巡るローカル線とし ても人気が高く、只見川や河畔に点在する集落、 雄大な山々が四季を通じておりなす車窓からの絶 景は、多くの方々に愛されています。 只見線は、秘境を巡るローカル線として人気が高く、四季を通じた絶景は多くの方々に愛されて います。2011年7月に発生した豪雨災害で大きな被害を受け、一部区間はバスによる代行輸送が続 いていますが、被災から7年となる2018年6月、只見線の全線復旧への地元の強い思いが実を結び、 2021年度中の全線再開を目指し復旧工事が始まっています。 全線再開に向け、只見線復旧を起爆剤とした地方創生に、地域一丸となって取り組んでいます。 ホームページで詳しい情報を公開しています。 只見線ポータルサイト 検索 冬の第一只見川橋りょう(三島町)

新潟・福島豪雨から8年 「只見線」の全線再開に向けてfkeizai.in.arena.ne.jp/wordpress/wp-content/... · 鉄道が後に国鉄に引き継がれ、只見線として新潟

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福島の進路 2019.740

 福島県では、ふくしまに想いを寄せる方々の協力を得ながら、ふるさと復興の決意を新たに、ふくしまから“共に”新たな何かをはじめる活動として「ふくしまから はじめよう。プロジェクト」を展開しています。

福島県の取り組み・施策シリーズ

只見線の復旧に向けた地元の思い

 JR 只見線は、福島県の会津若松駅と新潟県の

小出駅を結ぶ全長135.2㎞の路線です。沿線を流

れる只見川には、10基のダムと水力発電所があり、

発生した電力は主に首都圏に供給されています。

 只見川の水力発電開発は、戦後の経済復興期に

おける産業界の電力需要や家庭用電熱需要の急激

な高まりを受け、国策として進められてきました。

 ダム建設地は険しい山岳地帯であるため、まず

資材運搬のための軌道施設が建設されます。この

鉄道が後に国鉄に引き継がれ、只見線として新潟

県小出駅まで結ばれます。只見線は、まさに戦後

日本の復興及び経済成長を支えるという、重要な

役割を果たしてきました。

 また、沿線地域は国内有数の豪雪地帯であり、

新潟・福島豪雨から8年「只見線」の全線再開に向けて

福島県 只見線再開準備室

只見線に並行する国道252号は、冬期間、福島・

新潟県境(六十里越)が通行止めとなります。こ

のため、冬期間は只見線が福島県只見町と新潟県

魚沼市を結ぶ唯一の交通手段であり、地域にとっ

て大切な生活の足となっています。

 さらには、只見線は秘境を巡るローカル線とし

ても人気が高く、只見川や河畔に点在する集落、

雄大な山々が四季を通じておりなす車窓からの絶

景は、多くの方々に愛されています。

 只見線は、秘境を巡るローカル線として人気が高く、四季を通じた絶景は多くの方々に愛されて

います。2011年7月に発生した豪雨災害で大きな被害を受け、一部区間はバスによる代行輸送が続

いていますが、被災から7年となる2018年6月、只見線の全線復旧への地元の強い思いが実を結び、

2021年度中の全線再開を目指し復旧工事が始まっています。

 全線再開に向け、只見線復旧を起爆剤とした地方創生に、地域一丸となって取り組んでいます。ホームページで詳しい情報を公開しています。 只見線ポータルサイト 検索

冬の第一只見川橋りょう(三島町)

福島の進路 2019.7 41

福島県の取り組み・施策シリーズ

新潟・福島豪雨による被災

 2011年7月に新潟・福島豪雨が発生し、只見

線は鉄橋の流出や土砂崩れによる線路の崩壊な

ど、甚大な被害を受けました。特に会津川口・只

見駅間は被害が大きく、只見川に架かる第五、第

六、第七の橋りょうが流失したほか、第八只見川

橋りょう付近でも盛土の崩壊などが起きました。

 災害後、JR 東日本の懸命な復旧作業により、

只見線の大部分で運行が再開されましたが、会津

川口・只見駅間は、現在でも不通となっており、

バスによる代行輸送が続いています。

只見線復旧に向けた地元の取り組み

 地元では会津川口・只見間の復旧に向けて、さ

まざまな取り組みを行ってきました。

 国及び JR 東日本に対する只見線の早期復旧に

向けた要望とあわせて、復旧費用を支援するため、

2016年度までに約21億円の只見線復旧復興基金の

積み立てを行いました。

 また、只見線の復旧・復興に対する理解と支援

の輪を広げることを目的に、2014年に只見線応援

団を設立し、現在、会員数は6万人を超え、全国

流失した第七只見川橋りょう(金山町)

の個人や法人から約2億3千万円を超える寄附を

お寄せいただいています。

 このほか、只見線の利活用促進の取り組みとし

て、住民による積極的な利用を呼びかけるととも

に、子どもたちを対象としたツアーや車両ラッピン

グなど、地域が一丸となって取り組んできました。

只見線の復旧(上下分離方式)

 地元として只見線を支えていくという強い意思

と覚悟の下、県及び会津17市町村は、2017年3月

に只見線を上下分離方式により鉄道で復旧するこ

とを決定しました。

 上下分離方式とは、地元自治体が線路や駅舎な

どの鉄道施設等を保有管理し、JR 東日本が列車

を運行する形態のことで、JR と地元自治体とが

上下分離方式により運行を行うことは、全国初の

試みとなります。

上下分離方式のイメージ

〈第2種鉄道事業者〉上

保有●乗務員(運転士、車掌)●駅係員●車両等、運転に必要なもの

下〈第3種鉄道事業者〉

保有●線路や駅舎に係る土地等●線路、駅等の鉄道施設

福島の進路 2019.742

福島県の取り組み・施策シリーズ

 上下分離方式では、地元が鉄道施設等の維持管

理を行うため、維持管理経費の負担が発生します。

将来にわたり負担が生じる上下分離方式を受け入

れることは、大変重い決断です。しかし、人口減

少・高齢化が進行する会津地域にとって、今まさ

に有効な手立てを講じなければ、地域の衰退が加

速してしまうという強い危機感の下、地域のシン

ボルである只見線を地方創生を成し遂げるための

起爆剤として、鉄道で復旧させる決断をしました。

只見線の復旧と将来を見据えた利活用

 地元の覚悟が実を結び、2017年6月、県と JR

東日本とが基本合意書及び覚書を締結し、只見線

を上下分離方式により復旧することを正式に決定

しました。

 そして、2018年6月、金山町で復旧工事起工式

が執り行われ、現在、2021年度中の全線再開を目

指し、復旧工事が行われています。

 只見線は復旧に向けて動き出しましたが、本当

の意味での復興は、まさに今がスタートラインで

す。只見線は JR 東日本管内でも利用状況の厳し

い路線であり、今後は、いかに只見線の利活用を

2018年6月復旧工事起工式(金山町)

促進し、会津地域全体の振興を図っていくかが重

要となります。

只見線の利活用

 2017年度に県、沿線自治体、有識者等で構成

する只見線利活用プロジェクトチームを中心に、

「只見線利活用計画」を策定しました。

 計画では、只見線が「日本一の地方創生路線」

として、生活、観光、教育、産業面で、地元を始め、

多くの方々に愛され、何度でも乗りたい路線、何

度でも訪れたい地域となることを目指しています。

 また、目指すべき姿を実現するため、地域資源

を生かした企画列車や学習列車の運行、奥会津の

景観整備、二次交通の確保など、9つの重点プロ

ジェクトを掲げ、地域が一丸となって推進してい

くこととしています。

 只見線利活用計画は、「只見線ポータルサイト」

からご覧いただけます。

 https://tadami-line.jp/

只見線ポータルサイト 検索

只見線利活用計画のイメージ

福島の進路 2019.7 43

福島県の取り組み・施策シリーズ

主な取り組み

 現在、県や沿線自治体では、只見線利活用計画

に基づき、さまざまな取り組みを行っています。

 2018年度に実施した企画列車は、列車内や停車

駅で地酒や食の振る舞い、伝統芸能の披露など、

会津ならではの体験をセットにした企画を行い、

5回の運行で、1,265名の方にご利用いただきま

した。

 今年度は、運行回数を拡大し、さらに多くの方

にご利用いただけるよう、現在、準備を進めてい

ます。

 また、沿線地域には、自然・景観・歴史・暮ら

しなど、数多くの資源があります。只見線の利活

用を促進するとともに、次代を担う子どもたちの

生きる力を育むため、県内小学校や特別支援学校

等を対象として、これらの地域資源を生かした学

習列車を実施し、特色ある体験学習を行っていま

す。

 今年度は、42校、1,900名を超える多くの申し込

みをいただいており、地元の皆様にもご協力いた

だきながら、子どもたちの受入れを行っています。

企画列車の車内

おわりに

 只見線を復旧させたいという地元の強い意思

と覚悟の下、県及び会津17市町村が一致団結し、

数々の困難を乗り越えたことで、只見線の復旧が

始まりました。

 復旧工事は着実に進んでいますが、只見線の復

興は、これからの取り組みにかかっています。日

本一の地方創生路線を実現するためには、地元企

業や団体、県民の皆様と共に、只見線の利活用に

取り組んでいくことが重要だと考えています。

 県では、地元や只見線に思いを寄せる多くの

方々と共に、2021年度の全線再開と、その先を見

据え、引き続き、只見線の利活用、さらには会津

地域の振興に全力で取り組んでまいります。

学習列車と地元のおもてなし

虹のかかった夏の第三只見川橋りょう(三島町)