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国立天文台報 第3巻,15-21(1997) ガイド星探索システムの開発 青木 勉*,小俣 孝司,高田 唯史,小杉 城治, 小澤 友彦**,市川 伸一,佐々木敏由紀 (1996年10月3I日受理) Deve1opmemt of a Guide Star Search Systcm Tsutomu A0KI*,Ko}i OMATA,Tadafumi TAKATA,Georg Tomohiko OzAwA**,Shin-ichi I(二HIKAwA,and T()shiyu Abstmct A Guidc Star Scarch Sys〔cm is devc1oped wiエh thc aid()f a scrip-anguag a Data Basc M1magcment System,wc have rca1izcd quick scarch for gui Guide Star Catal()g and thc Smithsonian Astrophysica1Observatory S p1emenエc(i in()()PS(()kayama Optical Po1arimctry and Spectr()s(二()py Sy ()b・…汕)・y. 1.はじめに 1)スピーディに使える(効率がよい). 2)ミスなく使える(品質がよい). 研究成果をできる限り早く得ることは研究者に課せられ 3)余計な注意を払わないでよい(心理的に快適). た宿命である.研究のほとんどの場面を計算機によって支 4)疲れない(生理的に快適). えられている近年の天文学では,計算機システムに対して, の4点をあげている.また同書では,信頼性を確保(フー一 機能だけではなく効率も求められるようになってきている. ルプルーフ,フェイルセーフ)することはもちろんのこと 観測という研究の!フェーズに限ってみても,観測装置の として,人問の行動特性(能動ユーザ,受動ユーザ,初心 大型化によって時間当たりの価値が高くな}),観測効率と 者,熟練者によって異なる欲求と経験)や認知特性を重視 正確さを向上させて,限られたマシンタイムを有効に使え すべきこと,定性的な評価だけでなく操作時間予測による るようにすることが,その鰍則装置から最大の研究成果を 定量評価が必要であること,などが論じられている.この 得るために必要不町欠な要素となっている. ような原則を無視したUIは,操作性を低下させ,ユーザ 地上鋤則においては,織則の白動化の努力がなされつつ に不要な時間と神経を費やさせ,誤りを増やし,システム あるものの,気象状況の変化への対処など難しい点が多く およびその周閉に致命的な打撃を与える危険性を高めてし いまだ不十分である.また観測に人間が介人できる利点も まうものであり,避けねばならないものである. 捨て難く,当分は人問の介人はなくならないものと思われ グラフィカルユーザインターフェース(GUIlは図形 る.そのような状況では,計算機システムと人間の間を取 的表示を活用したUIである.図形的表示は使用したから り持つ対語型機構,すなわちユーザインターフユース といって必ずしも優れたUIが実現できるというものでは (UI)が観測能率を決定する重要な要素になっている. ない(むしろ逆効果になる場合もある)が,上にあげた UIにおいては人間工学や認知心理学の立場を重視した UIの条件・原則を満たすための有力な手段である.天文 使いやすいものが要求される.小松原1)は使いやすいUI 情報処理研究会GUIワーキンググループ(GUI,W(})で の条件として, は研究活動におけるGUIの重要性に着目し,GUIに関す *東京大学理学部天文学教育研究センター木曾観測所(Ki・(l Observatory,In・titute of Astr㎝omy,Faculty(〕f S T(〕kyo) 榊総合研究大学院大学数物科学研究科天文科学専攻(Department of Astr㎝omical Science,Graduate University

ガイド星探索システムの開発 - NAOdbc.nao.ac.jp/rep/vol3/015/RNAOJvol3p015.pdfガイト’星探索システムの閉発 2.2 データベースの構築と検索 GSSSでは目的天域のガイド星候補を画面上にプロット

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国立天文台報 第3巻,15-21(1997)

ガイド星探索システムの開発

青木  勉*,小俣 孝司,高田 唯史,小杉 城治,

  小澤 友彦**,市川 伸一,佐々木敏由紀

(1996年10月3I日受理)

Deve1opmemt of a Guide Star Search Systcm

Tsutomu A0KI*,Ko}i OMATA,Tadafumi TAKATA,George KosU(;1,

 Tomohiko OzAwA**,Shin-ichi I(二HIKAwA,and T()shiyuki SAsAK1

Abstmct

  A Guidc Star Scarch Sys〔cm is devc1oped wiエh thc aid()f a scrip-anguage fそ)r building GUI,「1七1ブ「k.Using

a Data Basc M1magcment System,wc have rca1izcd quick scarch for guide stars in an observadona川cld from the

Guide Star Catal()g and thc Smithsonian Astrophysica1Observatory Star Catalog.This systcm has l)c(ln im-

p1emenエc(i in()()PS(()kayama Optical Po1arimctry and Spectr()s(二()py System)at Okaγama Astr()physi(=al

()b・…汕)・y.

1.はじめに                       1)スピーディに使える(効率がよい).

                              2)ミスなく使える(品質がよい).

 研究成果をできる限り早く得ることは研究者に課せられ    3)余計な注意を払わないでよい(心理的に快適).

た宿命である.研究のほとんどの場面を計算機によって支    4)疲れない(生理的に快適).

えられている近年の天文学では,計算機システムに対して,  の4点をあげている.また同書では,信頼性を確保(フー一

機能だけではなく効率も求められるようになってきている.  ルプルーフ,フェイルセーフ)することはもちろんのこと

観測という研究の!フェーズに限ってみても,観測装置の   として,人問の行動特性(能動ユーザ,受動ユーザ,初心

大型化によって時間当たりの価値が高くな}),観測効率と   者,熟練者によって異なる欲求と経験)や認知特性を重視

正確さを向上させて,限られたマシンタイムを有効に使え   すべきこと,定性的な評価だけでなく操作時間予測による

るようにすることが,その鰍則装置から最大の研究成果を   定量評価が必要であること,などが論じられている.この

得るために必要不町欠な要素となっている.         ような原則を無視したUIは,操作性を低下させ,ユーザ

 地上鋤則においては,織則の白動化の努力がなされつつ   に不要な時間と神経を費やさせ,誤りを増やし,システム

あるものの,気象状況の変化への対処など難しい点が多く   およびその周閉に致命的な打撃を与える危険性を高めてし

いまだ不十分である.また観測に人間が介人できる利点も   まうものであり,避けねばならないものである.

捨て難く,当分は人問の介人はなくならないものと思われ    グラフィカルユーザインターフェース(GUIlは図形

る.そのような状況では,計算機システムと人間の間を取   的表示を活用したUIである.図形的表示は使用したから

り持つ対語型機構,すなわちユーザインターフユース  といって必ずしも優れたUIが実現できるというものでは

(UI)が観測能率を決定する重要な要素になっている.    ない(むしろ逆効果になる場合もある)が,上にあげた

 UIにおいては人間工学や認知心理学の立場を重視した   UIの条件・原則を満たすための有力な手段である.天文

使いやすいものが要求される.小松原1)は使いやすいUI  情報処理研究会GUIワーキンググループ(GUI,W(})で

の条件として,                    は研究活動におけるGUIの重要性に着目し,GUIに関す

*東京大学理学部天文学教育研究センター木曾観測所(Ki・(l Observatory,In・titute of Astr㎝omy,Faculty(〕f Sci・nce,The Um・ersity of

T(〕kyo)

榊総合研究大学院大学数物科学研究科天文科学専攻(Department of Astr㎝omical Science,Graduate University for Advan(=ed Stu(lies)

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青 木 勉・他

る調査・研究および共同開発を行なってきた.その活動の

一環としてTcl/Tkを用いた実用的なGUIの開発を進め,

GUIの有効性とGUI構築ツールとしてのTc1/Tkの評価

も合わせて進めることにした.Tc1/Tkは,J.0usterhout

等2jによって開発されたGUI構築のための開発環境であ

る.Tc1(ToolCommandLanguage)はスクリプト言語

             Guide S屹r Se汕c11SystGm(GSSS)

装を試みた.

2.1GU1(グラフィカルユーザインターフェイス)

 GSSSの操作及びオートガイダーの制御の一部を行う

GUIの開発にはTc1/Tkを用いた.また,データベース

アクセスや座標変換等の処理を行うプログラムはC言語

     1Te1e㏄opG ComtmI Sys蛇m

○則e8c。

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図1.GSSSのプロセス構造及びデータフロー概念図.

  図中で中央右の縦線はGSSSと望遠鏡コントロールの境界を表している.

であり,Tk(Too1kit)はTc1の拡張でウィンドウ上での

GUI構築ツールである.

 本論文は,現在の観測において多大な時間と労力を費や

している視野確認とガイド星選択の能率向上を目指した観

測支援システムで,GUIを用いかつデータベースとの連

携を実現したガイド星検索システム(GuideStarSearch

System;GSSS)について論じたものである.本論文の第

2章ではGSSSの構成と各機能について,第3章では

GSSSを実際に岡山天体物理観測所の91センチ望遠鏡に

適用した例について述べる.第4章では今回の開発を総括

するとともに,GUlの有効性とTcl/Tkの評価について

述べる他,今後の展開の方向について論じる.

2.システムの構成

 GSSSを構成するソフトウエアは大別すると2つの機能

をもっている.目的天域の中心座標と検索領域,等級範囲

等を入力して,目的天域のガイド星候補を検索・表示する

機能と表示された候補からガイド星を指定してオートガイ

ダープローブを制御する機能である.本システムの開発に

あたって,前者については汎用性を重視した開発を行い,

後者については実際の観測に応用することとし,岡山天体

物理観測所の偏光撮像装置(OOPS:第3章参照)への実

で開発した.GSSSソフトウエアの構成を図1に,実際の

制御画面を図2に示す、GSSSの主プログラム(sview)

は各種ルーチンに対して統括的な制御を行っており次のよ

うに動作する.SVieWは起動後初期値をパラメータファイ

ルから読み込む.初期値には各観測装置で異なるガイダー

プローブの可動エリアやガイド星の等級範囲,目的天体の

カタログ分点などが記載されている.これらはGUI画面

に自動的に読み込み表示される.ユーザーはGUI画面上

から目的天体の中心座標を人力,あるいは望遠鏡制御と連

携して(望遠鏡位置等のステータスを自動的に読み込む機

能によって)座標を設定し,目的に合ったガイド星カタロ

グを指定する.次にガイド星を表示するための『G()』ボ

タンを押下することによって,・VieWはデータベース検索

ルーチン(Starget)を起動し,これらのパラメータを渡

す.Stargetはガイド星候補を検索し,リストファイルに

出力する.次にガイド星の赤経,赤緯からX-Y座標への

変換ルーチン(geo_transform)を呼び出し星野テーブル

を作成する.ガイド星描画プロセス(star_p1ot)がこの

テーブルを元に星像位置をガイダーの稼動範囲などのオー

バーレイ上にプロットする.これらがGSSSの星像検索

から表示までの一連の動作である.

1^

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ガイト’星探索システムの閉発

2.2 データベースの構築と検索

 GSSSでは目的天域のガイド星候補を画面上にプロット

するために星の座標,光度,型などをデータベース化して

いる.また,GSSSではデータベースマネージメントシス

テムとして市販のSYBASE(SYBASE System1O〕を利

用し,省力化をはかるとともに信頼性と高速検索を確保し

ている.星のデータベースの元データとして,Guide Star

同一天域が複数枚の乾板に写っている場合がある)にはカ

タログ上で前に位置するものを採用した、GSCからデー

タベースに入力した星数は約1644万である.次に,SAO

からは,番号,赤経,赤緯,固有運動,光度,スペクトル

型を抜き出してデータベースに入力している.SA()の場

合は・全天を対象とし,入力した星数は約26万である.な

お,GSSSでは特に高い位置精度は要求していないことか

..

“ ....

図2.(左)GSSS主画面.

    検索条件指定、カタログ選定を行う.GOボタンの押下によってConvertフィールドの分点に変換さ

    れた座標が表示されるとともに,検索を開始し,ガイド星野描画プロセスを起動する.   (右) ガイド星摘画両面.

    ガイド星候補と,ガイダープローブ’町動範囲,視野のけられ範囲が表示される.マウス操作によりガ

    イド星を選択する、SELECTボタンでガイダープローブ位置を設定し,EXECボタンでガイダープ    ローブ移動コマンドを発行する.

Catalog3’5==のVersion1.ユを主とし,輝星を補うために

Smithsonian Astmphysical Observatory Star Catalog

(SAO)のJ2000版を使用している.

 データベースを構築する際には様々な用途に活用するこ

とも考慮し,データベース上でGSCとSAOは別テーブ

ルとして構築している、先ず,GSCに対しては,元デー

タから赤縫,赤緯,光度,カラーバンド,分類の項目を抜

き出してデータベースに入力できる形式へ変換した、当面

使用しないと思われる南天のS5230帯以南(赤緯一52度

30分以南)は省略した.また,ユつの星に対して複数の

データがある場合(GSCは乾板から作成されたもので,

ら星の固有運動は考慮していない、

 検索の高速化をはかるため,データベース上で赤経十赤

緯の複合インデックスを作成した.複含インデックスの場

合にはデータベース上でインデックスがデータと同程度の

容量を占める(GSCとSAOの合計でデータ300MBに対

してインデックス250MB)が、その効果は絶大である.

検索実験(使用計算機1富士通S-4/5;Sun Sparc-5互換

器〕では,1度角の領域(赤遺近辺)の星を検索(結果は

ファイル出力)するのにインデックスなしで480秒かかる

のに対して,インデックス(α,δ〕をつけると4秒で終’r

することが分かった.また,極付近の検索では,複合イン

r17一

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青 木 勉・他

デックスの順序も重要であることが分かった.すなわち,

赤緯十89度以北の領域の星を検索するのに,(α,δ)のイ

ンデックスでは470秒要するのに対して,(δ,α)のイン

デックスでは1秒で済む(インデックスなしでは490秒)

のである.

 こうして構築したデータベースは,サーバーマシンの上

で利用できるのはもちろんであるが,SYBASEのOpen

C1ientというオプションパッケージを使えばサーバー以外

のマシンからも容易に利用することができ,実運用の

フェーズでは負荷分散やセキュリティの面で有効である.

 データベースからのガイド星の検索プログラム

(starget)の開発には,前述の()p㎝Clientの中のDB-1ib-

raryからC言語のインターフェースを用いた.これに

よって,C言語でプログラムを書くことで,直接データ

ベースから情報を検索できるようになり,検索した情報を

さらに編集加工することも可能となった.Stargetで行っ

ている処理を順を追って記すと以下のようになる.sview

から目的天域の中心座標,分点,検索範囲,検索するガイ

ド破候補天体の最大等級と最小等級,及び検索するカタロ

グの指定((三SCとSAOの指定)を受け取り,そのうち

中心座標をJ2000の値に変換してからデータベース検索を

かける.これは,データベースの持っている位置情報が,

すべてJ2000で表記されているからであり,もちろん,今

後他のカタログをデータベース化する際には,J2000で統

一することが望ましい.検索領域にある全ての天体が抜き

出された後,観測時の分点に位置情報を変換することを

行っている.これは,観測時の分点で天体の位置を表示す

る方が,実際の観測の場で,取得画像(ガイダーモニター

データなど)との比較やガイダープローブの制御にあたっ

て便利だからである.

 ガイド展検索プログラムから出力されるデータテーブル

には,天体名,分点(観測時の分点),赤経,赤緯,赤経

方向固有運動,赤緯方向固有運動(固有運動に関しては,

将来性を考慮し項目のみを設けている),等級,形態,及

び,スペクトル型(色)の項目がある.形態は,銀河,変

光星,重星などを他の星と区別するために使用する予定で

ある.また,スペクトル型によって表示色を変化させるこ

とができるので,特定のスペクトル型の星だけを目立たせ

るような表示が可能である.これは特殊な波長感度特性を

持つようなガイド系のモニター表示のエミュレートの際に

有効な手段と考えられ,将来の拡張を考慮してデータに含

ませている.

2.3星野表示座標系への変換

 GSSSで用いている座標系には1)天球座標系(赤経,

赤緯,座標分点),2)ガイド星野座標系,3)マウス座

標系,4)ガイダープローブ座標系がある.天球座標系は,

前章で述べたようにデータベース検索の中でデータ抽出時

に用いている.一・方,ガイド星野座標系はガイド星表示の

ために用いられている.GSSSでは天球座標とマウス座標

系および装置固有のガイダープローブ座標系を同…の平面

座標に変換し表示している.このガイド星野座標系からマ

ウス座標系(ディスプレー表示系)への変換及びマウス座

標系からガイダープローブ座標系への変換は次章で述べる

ガイド星描画の中で実現しているI

 ガイド星野座標系への変換処理は,ガイド星検索プログ

ラムから出力されるガイド星候補天体の座標テーブルを入

力としてプロットテーブルにしてファイルに出力している.

geo_transformでは,現在,天球座標を視野中心での接平

面に投影する変換のみにとどめている.装置固有の投影法

を要求する場合には,ge〇一ransfomの拡充で対応できる.

これらの変換処理機能は,UNIXのパイプによって起動

されており,任意の座標変換を目的に合わせて何重にも組

み合わせて使用することができる.GSSSは,使用望遠鏡

を特定せずに汎用であることを目指しているので,変換プ

ロセスが自由に選択,及び,作成できることは重要な要件

である.

 geo」ransfomでは,座標変換機能とともにグラフィッ

ク表示用の項目を設定する機能も併せ持っている.そのた

め,Starget出カテーブル,及ぴ,プロットテーブルは

ヘッダーとボディという2つのフィールドを確保し,ヘッ

ダー部にはグラフィック表示するために必要な最小限の項

目が設定されている.表示視野中心の天球座標,視野の大

きさ,表示する天体の明るさの範囲,及び,座標分点であ

る.プロットテーブルのボディ部は,天体名,X座標,Y

座標,天体の表示サイズ,表示形状,及び,表示色から構

成される.座標やサイズは,表示視野が中心からX,Y

方向ともに半径1になるよう正規化され,天球座標系,マ

ウス座標系,ガイダープローブ座標系から独立させている.

2.4 ガイド星野描画

 座標変換されてプロットテーブル形式に出力された指定

天域のガイド星データを読み込み描画する機能は,独立し

たプロセスstaLp1otとして開発されている.star_p1otは,

主プログラムから呼び出されてバックグランドで動作する

ため複数動作することが可能である.star_plotでは,ガ

イダープローブ移動域や視野範囲等の構成部品のデータを

初期設定ファイルから読み込み描画する.ガイダープロー

ブ移動域や視野は,天球の軸に対して回転していることも

あるので,描画する際にはこの回転補正を行っている.

 staしplotでは星野表示画面上でガイダープローブを希

望するガイド星位置に設定することが可能である.描画さ

れた星野内のガイド星から該当位置をマウスでピックする

事によって,ピック位置に最も近いガイド星を選択するこ

とができる.選択されたガイド星はブリンク表示によって

容易に確認できる.また,ガイダープローブ位置は,マウ

一18一

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ガイト’掃探索システムの開発

スボタン操作によって,任意の位置に設定することも町能   に運用している岡山観測所91センチ望遠鏡偏光撮像炎概

である一                        (O()PS)について紹介する.

                             O(〕PSは,91センチ望遠鏡、オートガイダ…一,偏光分

○』.‘二」=

SY8ASEサーパー

188omドーム内

      イーゲ’

GSO.SAOの ・デ_タベ_ス  イド

馴1印竈示蠣作■京鵬

■■     I ■ ■  ■ …  ■ ■  ■  山 ■L

「 岡山OOPS用ガイド星検寮システム棚念図

1其13.OOPSに実装されたGSSSのハードウェア及び機能構成図.

関4一()OPSに実装されたGSSSを用いた観測制御画面.

  左端にGSSSの稼動している計算機、その右にOOPS  制御用計欝機,か一トガイダー制御用PC,望遠鏡制

  御用PCと並んでいる.観測噺はOOPS制御糊計算機  で基本的な観測操作が可能である.

表1.com_utilでの通信メ■ノセ…シ

(ロガーへの通信伝文〕

  1ogg巳r get TEL_RA

  1ogger get TEL_DC

  logger get TEL_EQUIN

  quit

(装置制御系Contoop昌への通信伝文)

  ・㎝tOOP・昌etg・id・・_・SX

  contoop;set gu三der_y$y

  quit

3、外部インタフェースと岡山天体物理観測所にお

  ける使用例

 今回開発したGSSSでガイド星選択操作を行うには,

ガイダー装置制御系との接統が必嬰である.また,ガイド

星野を望遠鏡指向位置に設定するためには,望遠鏡制御系

との接続も必要である.これらの外部接続用インタフ。、一

スは,それぞれの観測システムでの違いを吸収する必襲が

あり,各観測システムでのカスタマイズが求められる.こ

こでは,外部接続月=1インタフェースを実装し,実際の観測

光撮像装置を統合的に制御するシステムと1、.て禦11’さオ1.一

運用されている(佐々木他け,    .二1ノニ■暑.i青={を」’∴

御するプロセスは.ローカルな楕1」御ととも;二1ポ■・1ダー

上に存在する他のプロセスからの制御を受けf寸けるたぜバ’1,

RPC(Remote1〕ro(=edureCan)でのメソセー一’∵  二:r

ポートを設けている.このRPCポー一トを上11い’〔,メド

ダープローブ制御や望遠鏡位構読み込みのための二堕佑’’プニ

グラム/com_uti1)を新規に開発した.ピom」エ1れ主バ’

プ接統によりサブプロセスとしてSVieWやSτar、山=〕1O,か■一■

起動される.ネットワークからの制御では送信され.1い’・・

セージの認証機能がOOPS制御システムには組..みj、!ま1わ.

ているので,通信を可能とするために,c㎝、、...Uti1や

O()PS制御システムに登録した.

一]9・…

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青 木 勉・他

 Com_utilは,単独で動作するプログラムとして作成さ

れ,入力されたメッセージ(表1)に記述されている送信

先プロセス名に従ってメッセージ送信先を振り分けている.

オートガイダープローブ制御については,00PS装置制

御プロセスcontoopsに送信し,望遠鏡位置読み込みのた

めには,O()PS・望遠鏡に関するステータスデータを一一括

管理しているステータスロガーに問い合わせを発行して必

要な望遠鏡位置情報(赤経,赤緯,座標分点)を取得して

いる.

 com_utilは,00PS制御システムのデバッグや動作確

認を行う汎用のプログラムとしても使用可能なように製作

された.そのため,TrY端末での会話型通信機能やX

WindowSystemでの表示機能も併せ持つように作られて

いるが,GSSSでは基本入出力のみの使い方で用いられて

いる.

 ガイダー装置制御系や望遠鏡制御系との接続のために,

外部接続用インタフェースとして,OOPSでは,com.

_uti1を実装したが,他の望遠鏡において用いる場合にも,

この外部インタフェースの実装をそれぞれのシステムにあ

わせて行えば,00PSで実現したことと同等の処理が期

待できる.

4.まとめと今後の展開

4.1 GSSSのUlとしての評価

 今回開発したGSSSを観測効率を高めるためのUIとし

ての評価をしておく.まず,GSSSの導入によって岡山天

体物理観則所の91センチOOPSにおけるガイド星導入の

作業がどう改善されたかを述べる.

(導入前)ガイダープローブを可動範囲で縦横に動かし,

     ガイド星が入ってくるのをひたすら待つ.目的

     天体の数が多くない場合はあらかじめパロマー

     チャートのコピーあるいはDigitizedSky

     Survey3)の画像を用意し,ガイド星の位置をは

     かってスケール変換をした上でガイダープロー

     ブをその位置に動かす(ただし分点の関係で南

     北が少しずれるなど精密にはかるのは容易では

     ない).

(導入後)GSSSの開発によって特別な準備をすることな

     く容易に精密にガイド星の導入ができるように

     なった.特に,目的天体が多い場合や,気象条

     件の変化などに応じて目的天体を変更する場合

     への対応が容易である点が大きな利点である.

このように,GSSSは観測効率を大幅に改善するものであ

ることがわかる.

 次に「使いやすいUIの条件・原則」に照らしあわせた

評価をする.GSSSの岡山天体物理観測所OOPSにおけ

る実装では,星野表示を行なう時に必要な操作は『Get一

TelPos』ボタンおよび『Go』ボタンの押下のみ(人間が

数値を入れる必要は通常はない)であり,また,ガイダー

プローブの移動はマウスのクリック2回(確認を兼ねてい

る)のみの操作である.したがって,GSSSは,小松原1)

による4条件をすべて満たしているUIであることが言え

よう.しかし,東・小松原9)はUIの詳細な評価基準とし

て,

 1.画面の明瞭性.

 2.一貫性.

 3.ユーザとシステムとの合致性.

 4.惰報のフィードバック.

 5.システムの明快性.

 6.システムの機能の適切性.

 7.柔軟性と制御感.

 8.エラー対策とエラー修正.

 g.ユーザガイダンスとサポート.

の9点をあげている.これらの基準に関しての評価では,

例えば(操作は非常に単純であるが)ヘルプ機能が不十分

であるなど,必ずしもすべて満足しているわけではなく,

今後の課題であろう.

4.2 GU1構築ツールとしてのTc1/Tk

 GUI構築のためのツールとしてのTc1/Tkについて,

GSSSの開発を行なって得た定性的な評価として以下の点

が上げられる.

 1.比較的小さな規模なら容易に素早くGUIソフトウ

   エアが開発できる.

23

7.

インタープリターなのでデバッグ作業が容易である.

変数がすべて文字とみなされるので数値の扱いに注

意が必要である.

変数の独立性が十分でなく,プログラムのパッケー

ジ化には注意を要する.また,そのため大きなプロ

グラムは作りにくい.

インタープリターなのでプログラムが大きくなった

場合に実行速度に不安がある.

フリーソフトであるために無料で入手できるが,頻

繁に行なわれるバージョンアップによる機能の変更

に追随するのが難しい

独特の言語仕様なので慣れるのに時間がかかる場合

がある.

GUI構築ツールとして例えばOSF/Motifを使う場合より

も開発作業が容易であるが,一…方上に述べたように,いく

つかの欠点(困難)もあることがわかった.

4.3今後の展開

 岡山天体物理観測所00PSへの実装をもって今回の開

発は一応の終了をみたが,観測効率を高φるためのUIと

しては,更なる展開が必要である.観測星野の確認用とし

一20一

Page 7: ガイド星探索システムの開発 - NAOdbc.nao.ac.jp/rep/vol3/015/RNAOJvol3p015.pdfガイト’星探索システムの閉発 2.2 データベースの構築と検索 GSSSでは目的天域のガイド星候補を画面上にプロット

ガイド星探索システムの開発

てその機能を高めるためには,より現実に近い星野表示機

能を盛り込む事が望まれる.具体的には,画像データとし

てDigitizedSkySurvey(DSS)等を用い,この画像表示

に視野サイズやPosition Ang1e等をオーバーレイするこ

とで,望遠鏡を含む観測装置の状態をわかりやすく示す事

が求められよう.しかし,この実装に対してTc1/Tkでは,

いくつかの困難がある.例えば,画像の表示において

F1exib1e Image Transport System(FITS:We11s et al.1o))

やIRAF(Tody川)形式の画像データを読み込む事は現

在のTc1/Tkの標準的な機能では行えないのが現状である.

また,他のフォ・一マットにおいて読み込まれた画像データ

に対しても,一般的な統計的処理が行えない.しかし,画

像の表示,処理を含め様々な面においてTc1/Tkの拡張が

進められており,Tc1/Tk拡張機能の利用を検討すること

も必要であろう.

 観測を行うときに,操作上ほとんど同一の環境を実現す

る汎用性の高い制御ソフトウエアを利用できるようになれ

ば,正確で効率の高い操作が可能となる.GSSSはそうし

た視点を持ちながら開発されたものである.ガイド星の検

索のためにデータベースの構築が必須であるものの,

GSSSは多くの観測所でも利用可能なソフトウエアになっ

ている.既に木曽観測所においてもGSSSを利用する準

備を行っている.

 GSSSが目指した観測効率の向上(視野確認とガイド星

探索・導入)という初期の目的は成し遂げられたと言えよ

う.今後は,上で述べた課題の解決を目指すともに,

GSSSの理念や技術を観測の他のGUIにも応用していく

ことが必要であろう.

謝辞

 本研究は,文部省科学研究費補助金(06554001.

07304024および08640335)および国立天文台共同開発研究

の援助を得て行なわれた.本システムで使用しているデー

タベースの元データは国立天文台天文学データ解析計算セ

ンターのカタログデータセンターから入手した(GSC;カ

タログ番号1220,SAO;カタログ番号1ユ31A).本研究は

天文情報処理研究会GUI-WGの活動に基づくものであり,

本研究の遂行にあたってはGUI-WGの諸氏,特に申村京

子氏,浜部勝氏,吉田道利氏の御支援御協力をいただいた.

この場を借りて深く感謝する.

参考文献

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一21一