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見本市を訪れる目的は、何だろう か。仕入れ、新しい取引先の開拓、 またファッションや新ブランドなどに ついての情報収集。どれも定番の 来場目的だが、“やった!” という達 成感が味わえるのは、有望な新ブラ ンドに出会えた時ではないだろうか。 それが、ファッション新興国のブラン ドだったら、なおさらだ。 7月のGDSに、そんな期待を抱 かせる出展があった。ポーランドの ファッショングループだ。 「クラコウ」という歴史的な靴をご存じだろうか。「シュナーベ ルシューエ」(独)、「プーレーヌ」(仏)とも言われ、15 世紀に ヨーロッパ全域で流行した、異様に爪先が長い男性靴だ。その 発祥の地が、クラコウとされている。それでこの名がある訳だが、 クラコウは、現在ではクラクフとして知られるポーランドの古都。 17 世紀初めにワルシャワに遷都されるまでポーランド王国の首都 だった。 ポーランドは、靴に所縁の深い国なのだ。 そして現在はと言うと、年間生産量 3600 万足。年間消費量 は 1 億 1000 万足。輸出は 6100 万足。これに対して輸入は 1 億 3500 万 足(データは すべてAPICCAPS 刊「World Footwear Yearbook 2015」より)。生産より輸出が多いのは、再輸出をし ているからであり、先進国型の産業構造と言える。 そんな状況を象徴するのが、CCCという靴企業。自社工場を 持つが、扱い量の70%が中国などからの輸入。そして周辺国 を含め、約 700 店舗を展開。ポーランド国内におけるマーケット シェアは、17~18%というのだ。 こうした企業の存在は、靴市場の拡大、そして成熟の方向に 向かっていることをイメージさせ、デザイン的に洗練されたブラン ドの存在を期待させる。 トレンドを適度に取り入れて洗練 そのグループは、ハッシュ・ワルソー(Hush Warsaw)・インタ ーナショナル。つまり、ハッシュ・ワルシャワ。靴やバッグのアクセ サリーブランド、及び新進気鋭のアパレルブランドを支援するイン キュベート組織。有望ブランドを紹介 する雑誌の発行、また各種の展示 会への出展支援を行っている。 GDSに出展したのは、ハッシュ・ ワルソーがアクセサリーゾーンの2014 年活躍ブランドとして選出した、靴と バッグの5ブランド。出展ホールは、 「HIGHSTREET」ゾーンの5号館。 このうち靴ブランドは、バルドウス キ(BALDOWSKI)。同 名の婦 人 靴メーカーのブランドだ。  同社は、1973 年創業。ファミリービジネスとしての創業だった が、ポーランド伝統の技術による品質とナチュラルレザー、イタリ ア人デザイナーによるデザインによって成長。現在の生産規模は、 日産 800 足と言う。 2016 年春夏コレクションは、フリンジを取り入れたフラットソー ルのリゾートスタイル・サンダル、モデレートカラーによるカラーコ ンビネーション・サンダル、またバルカナイズ風底回りデザインの スニーカー等々。2016 春夏のフ ァッショントレンドが適度に、随 所に取り入れられている。 価 格 は、FOB50~75ユーロ だ。 この他、バッグブランドでも、 プレーンなスリッポンやブーツな どを展開していた。 ポーランドらしさという点で は、もうひと味欲しい気はする が、トレンドの取り入れ方は及 第点と言える。パリで開催の中 小規模の展示会では、北欧、 また韓国やタイといったアジア諸 国のデザイナーによるブランドの 出展が目立つようになっている が、そうした中にポーランド発 の個性派ブランドが加わる日が 近いのかもしれない。 1 Dec. 2015 Publisher:Messe Düsseldorf Japan Text by Tomoko OYA (Shoes Journalist) 商品はすべて「BALDOWSKI」 ハッシュ・ワルソーは5号館に出展。 バッグブランド「MAKO」のブース 新ブランドに出会える見本市の楽しみ―― ポーランドのファッショングループ「ハッシュ・ワルソー」 FOCUS GDS ® 2016 FEB DÜSSELDORF,GERMANY 10 12

FEB FOCUS GDS 2016 - messe-dus.co.jp2015年版は、2014年の実績データの集計と分析。生産、 輸出、輸入の全世界ランキング、また大陸別の分析、それに

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Page 1: FEB FOCUS GDS 2016 - messe-dus.co.jp2015年版は、2014年の実績データの集計と分析。生産、 輸出、輸入の全世界ランキング、また大陸別の分析、それに

 見本市を訪れる目的は、何だろうか。仕入れ、新しい取引先の開拓、またファッションや新ブランドなどについての情報収集。どれも定番の来場目的だが、“やった!” という達成感が味わえるのは、有望な新ブランドに出会えた時ではないだろうか。それが、ファッション新興国のブランドだったら、なおさらだ。 7月のGDSに、そんな期待を抱かせる出展があった。ポーランドのファッショングループだ。 「クラコウ」という歴史的な靴をご存じだろうか。「シュナーベルシューエ」(独)、「プーレーヌ」(仏)とも言われ、15世紀にヨーロッパ全域で流行した、異様に爪先が長い男性靴だ。その発祥の地が、クラコウとされている。それでこの名がある訳だが、クラコウは、現在ではクラクフとして知られるポーランドの古都。17世紀初めにワルシャワに遷都されるまでポーランド王国の首都だった。 ポーランドは、靴に所縁の深い国なのだ。 そして現在はと言うと、年間生産量3600万足。年間消費量は1億1000万足。輸出は6100万足。これに対して輸入は1億3500万足(データはすべてAPICCAPS刊「World Footwear Yearbook 2015」より)。生産より輸出が多いのは、再輸出をしているからであり、先進国型の産業構造と言える。 そんな状況を象徴するのが、CCCという靴企業。自社工場を持つが、扱い量の70%が中国などからの輸入。そして周辺国を含め、約700店舗を展開。ポーランド国内におけるマーケットシェアは、17~18%というのだ。 こうした企業の存在は、靴市場の拡大、そして成熟の方向に向かっていることをイメージさせ、デザイン的に洗練されたブランドの存在を期待させる。

トレンドを適度に取り入れて洗練 そのグループは、ハッシュ・ワルソー(Hush Warsaw)・インターナショナル。つまり、ハッシュ・ワルシャワ。靴やバッグのアクセサリーブランド、及び新進気鋭のアパレルブランドを支援するイン

キュベート組織。有望ブランドを紹介する雑誌の発行、また各種の展示会への出展支援を行っている。 GDSに出展したのは、ハッシュ・ワルソーがアクセサリーゾーンの2014年活躍ブランドとして選出した、靴とバッグの5ブランド。出展ホールは、

「HIGHSTREET」ゾーンの5号館。 このうち靴ブランドは、バルドウスキ(BALDOWSKI)。同名の婦人靴メーカーのブランドだ。 

 同社は、1973年創業。ファミリービジネスとしての創業だったが、ポーランド伝統の技術による品質とナチュラルレザー、イタリア人デザイナーによるデザインによって成長。現在の生産規模は、日産800足と言う。 2016年春夏コレクションは、フリンジを取り入れたフラットソールのリゾートスタイル・サンダル、モデレートカラーによるカラーコンビネーション・サンダル、またバルカナイズ風底回りデザインのスニーカー等々。2016春夏のファッショントレンドが適度に、随所に取り入れられている。 価格は、FOB50~75ユーロだ。 この他、バッグブランドでも、プレーンなスリッポンやブーツなどを展開していた。 ポーランドらしさという点では、もうひと味欲しい気はするが、トレンドの取り入れ方は及第点と言える。パリで開催の中小規模の展示会では、北欧、また韓国やタイといったアジア諸国のデザイナーによるブランドの出展が目立つようになっているが、そうした中にポーランド発の個性派ブランドが加わる日が近いのかもしれない。

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Dec. 2015 Publisher:Messe Düsseldorf Japan Text by Tomoko OYA (Shoes Journalist)

商品はすべて「BALDOWSKI」

ハッシュ・ワルソーは5号館に出展。バッグブランド「MAKO」のブース

新ブランドに出会える見本市の楽しみ――ポーランドのファッショングループ「ハッシュ・ワルソー」

F O C U S G D S®

2016FEBDÜSSELDORF,GERMANY

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Page 2: FEB FOCUS GDS 2016 - messe-dus.co.jp2015年版は、2014年の実績データの集計と分析。生産、 輸出、輸入の全世界ランキング、また大陸別の分析、それに

 展示ホールのメイン通路に設定されたHIGHLIGHT ROUTEは、GDSが目指す情報発信型見本市を実現するための重要なステージだ。前号で紹介した2016年春夏ファッショントレンドも、HIGHLIGHT ROUTE上で提案されたが、まさにハイライトとして展開されたのが、「3D Technology in the Shoe Sector 」だ。 靴は、三次元の立体。すなわち、3D。ラスト、ヒール、そして靴そのもののサンプル、さらには製品の製造まで、3Dテクノロジーが革新をもたらすことは明らか。その現状と可能性をビジュアルに提示したのが、この展示だ。 展示に参加したのは、3Dプリンターのメーカーなどだが、まず紹介したいのは、スレム(SLEM)。オランダ・ヴァールヴァイクに本拠を置く、フットウエア専門学校だ。因みにヴァールヴァイクは、オランダ靴産業のかつての中心地。その歴史を留めるために靴博物館があるが、スレムは、その博物館と密接にリンクしている。 同校の教師であり、ジャーナリストでもあるニコリーネ・ファン・エンター女史は、「3Dテクノロジーは、クリエーションの幅を広

げ、靴製造に革新をもたらす不可欠の技術。スレムでは、既に3Dプリンティングを学べるコースを持っており、多くの学生が意欲的に学んでいます」と語った。 スレムの展示は、3号館のHIGHLIGHT ROUTE上で行われたが、学生が3Dプリンターで製作したソールやラストのプロトタイプ、また実際に着用が可能な靴の展示の他、3Dプリンターを導入した靴工場を具現化して見せた。 この他、イタリアの3Dプリンター・メーカーによる製品展示、3Dプリンターを動かすプログラムのデモンストレーション、さらにはオーソペディックシューズと足のスペシャリストのコラボレーションによって生まれた、3Dスキャニングと3Dプリンティング技術の連携による足と靴の適合を高めるシステムも紹介された。

 前ページに記載したポーランド靴産業データの引用元は、「World Footwear Yearbook 2015」だ。この年鑑を発行しているのは、APICCAPS(アピカップス=ポルトガル靴・皮革製品工業会)だ。 2011年から発行を開始し、それ以降、毎年GDS春夏物展で記者会見を行い、概要を公表する。つまり、2015年版は、7月のGDSで発表された。 2015年版は、2014年の実績データの集計と分析。生産、輸出、輸入の全世界ランキング、また大陸別の分析、それに国別詳細データから成っている。国別データの掲載国数は版を重ねるごとに増え、2015年版は78ヵ国。チュニジアやウガンダなども含まれている。 産業データの集計は、業界団体の重要な役割だ。例えばイタリア靴メーカー協会も、年鑑の形に綴り公表している。 しかし自国に留まらず、世界各国のデータを収集し、それを分析している例は、希有だ。

 統計データは、マーケティングの基礎。生産量がどのように推移しているか、どの国(産地)の生産が伸び、あるいは落ち、またどの国が、どこから多くを輸入し、どこに多くを輸出しているのか…。こうしたことがつかめなかったら、産地戦略や販売戦略は立てられない。 APICCAPSは、大きな仕事をしていると言えるが、そのお膝元のポルトガルに見本市は、もうない。GDSが、この年鑑に着目しなかったら、ジャーナリストでさえ、その存在を知り得ないかもしれない。 「World Footwear Yearbook」は、下記ページで、有料で入手できる。http://www.worldfootwear.com/store.asp?link=Store

「FOCUS GDS」の内容、またGDSについて、ご質問やご要望がありましたら、ご遠慮なく下記までお問い合わせください■㈱メッセ・デュッセルドルフ・ジャパン 東京都千代田区紀尾井町4-1 ニューオータニガーデンコート7F TEL:(03)5210-9951 FAX:(03)5210-9959 e-mail:[email protected] 担当=橋木雅弘

すべて2015年2月展

靴製造の未来を示唆する「3Dテクノロジー」にフォーカス

GDSが着目する希有な靴産業データ集「World Footwear Yearbook」

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3号館HIGHLIGHT ROUTE上で行われたスレムの展示