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日本大学生産工学部研究報告A 2009年6月第42巻第1号 映像を参にした魚の群れの動作生成とその高速化 吉田典正 ,佐藤大輔 ,山下安雄 A School - Formation Algorithm of Fish in reference to a Video and its Efficient Simulation Norimasa YOSHIDA , Daisuke SATO and Yasuo YAMASHITA As lions prey on zebras,the ecosystem of living creatures that live in the sea also consists due to preying-food relation.Referring to the video of preying-food scene of an actual fish in the sea,the prey fish,such as sardine,are cornered under the surface of the sea bypredators,such as sharks or dolphins. Then theschool ofthepreyfish forms a whirlpool and preyed.Thepurposeofthis research is to develop behavioral algorithms for schools of fish,such as the formation of whirlpool and efficient school -formation algorithms.To control thebehavior oftheschool offish,weintroducethreeregions for each of individual in the school and a vector,which we call .We use the three regions for each of the three rules of the boid algorithm that are separation,cohesion,and alignment.By introducing these regions and ,we show that we can actively move each individual in the school.We also show that we can form a whirlpool of a school of fish by using .For efficient computation of the boid algorithm,we propose to use the idea of the fractal.The proposed methods can be applied to CG animations in movies, computer games, etc. Keywords: School of fish, Boid algorithm, Whirlpool, Fractal 1. はじめに 人とコンピュータとの対話が日常化した現代では,コ ンピュータで様々なものを表現するためにコンピュータ グラフィクスの技術が必要不可欠である。本研究では, 魚の群れを対象とした動作表現アルゴリズムの開発を行 う。 実際の魚の映像(例えば映画 DEEP BLUE (2004)) を参にすると,群れは次のような性質を持つことがわ かる。 (a)各個体は群れ内を移動し,各個体の移動によって群 れの形は常に変化する (b)被食者は,捕食者の有無で個体間距離を変化させる (c)被食者の群れは,海面下に追い詰められ捕食される (d)捕食者に囲まれた被食者の群れは渦を形成する (e)群れ内の個体数は,Boidアルゴリズム をリアルタ イムで動作させるのが困難であるほど膨大である Boidアルゴリズムは群れを表現する代表的なアルゴ リズムであるが,Boidアルゴリズムによる群れは実際の 27 日本大学生産工学部マネジメント工学科准教授 情報技術開発株式会社 日本大学生産工学部マネジメント工学科教授

映像を参쬠にした魚の群れの動作生成とその高速化...As lions prey on zebras,the ecosystem of living creatures that live in the sea also consists due to preying-food

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論 文日本大学生産工学部研究報告A2009年 6 月 第 42巻 第 1 号

映像を参 にした魚の群れの動作生成とその高速化

吉田典正 ,佐藤大輔 ,山下安雄

A School-Formation Algorithm of Fish in reference to a Video and its Efficient Simulation

Norimasa YOSHIDA , Daisuke SATO and Yasuo YAMASHITA

As lions prey on zebras, the ecosystem of living creatures that live in the sea also consists due to

preying-food relation.Referring to the video of preying-food scene of an actual fish in the sea,the prey

fish,such as sardine,are cornered under the surface of the sea by predators,such as sharks or dolphins.

Then the school of the prey fish forms a whirlpool and preyed.The purpose of this research is to develop

behavioral algorithms for schools of fish, such as the formation of whirlpool and efficient school

-formation algorithms.To control the behavior of the school of fish,we introduce three regions for each

of individual in the school and a vector,which we call .We use the three regions for each of the

three rules of the boid algorithm that are separation,cohesion,and alignment.By introducing these

regions and ,we show that we can actively move each individual in the school.We also show that

we can form a whirlpool of a school of fish by using . For efficient computation of the boid

algorithm,we propose to use the idea of the fractal. The proposed methods can be applied to CG

animations in movies,computer games,etc.

Keywords: School of fish,Boid algorithm,Whirlpool,Fractal

1.はじめに

人とコンピュータとの対話が日常化した現代では,コ

ンピュータで様々なものを表現するためにコンピュータ

グラフィクスの技術が必要不可欠である。本研究では,

魚の群れを対象とした動作表現アルゴリズムの開発を行

う。

実際の魚の映像(例えば映画DEEP BLUE (2004))

を参 にすると,群れは次のような性質を持つことがわ

かる。

(a) 各個体は群れ内を移動し,各個体の移動によって群

れの形は常に変化する

(b) 被食者は,捕食者の有無で個体間距離を変化させる

(c) 被食者の群れは,海面下に追い詰められ捕食される

(d) 捕食者に囲まれた被食者の群れは渦を形成する

(e) 群れ内の個体数は,Boidアルゴリズム をリアルタ

イムで動作させるのが困難であるほど膨大である

Boidアルゴリズムは群れを表現する代表的なアルゴ

リズムであるが,Boidアルゴリズムによる群れは実際の

― ―27

日本大学生産工学部マネジメント工学科准教授

情報技術開発株式会社

日本大学生産工学部マネジメント工学科教授

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魚の群れの性質(a)の映像と比較すると群れ内で個体が

移動せず不自然さがある。また,性質(b)から(e)の点を

慮した魚の群れを表現するには,なんらかの工夫が必要

である。

本研究は,魚の群れをコンピュータグラフィックスで

表現するための群れの動作アルゴリズムの開発を,実際

の映像を参 にして行うことを目的とする 。性質(a)

は,Boidアルゴリズムを基礎として各個体に群れ内を移

動させるためのベクトルを与え,状況に応じて変化させ

ることで表現する。性質(b)は,捕食者が接近した場合の

被食者の個体において,周辺に存在する仲間の数がある

一定値を満たすまで群れの中央へ向かわせることで表現

する。性質(c)は,被食者・捕食者によって異なる特性を

与えることで実現する。性質(d)は,仲間との方向および

速度を合わせる処理よりも群れの中心へ向かう処理を強

めることで表現する。性質(e)は,フラクタルを利用して

少ない個体数の群れの動作計算で多くの個体数の群れを

動作させることで実現する。本研究の成果は,提案する

手法を利用することで,実際の魚の群れやある特性を誇

張した群れの振る舞いなど,ユーザが求める魚の群れの

動作をコンピュータグラフィックスで表現することであ

る。本研究の応用は,映画のCGアニメーションの作成

や,テレビ番組のイメージ映像の作成,コンピュータゲー

ムでの群れの表現などで活用が可能である。

2.Boidアルゴリズム

Boidアルゴリズム は,群れを形成するすべての個体

においてワンステップごとに共通の単純な3つのルール

を計算して各個体の位置を求めることで群れの動作を表

現するアルゴリズムである。

Fig.1に,Boidアルゴリズムにおける整列,結合,分

離の3つのルールを示す。各ルールの処理を次に示す。

① 整列ルール

すべての仲間の移動ベクトル(方向と速度を示すベク

トル)の平 ベクトル を求める。

② 結合ルール

自己から仲間の平 位置に向かったベクトルを定数

α倍したベクトル を求める。

③ 引離しルール

仲間の各個体から自己に向かったベクトルの平 ベク

トルを定数β倍したベクトル を求める。

各ステップにおいて,各個体ごとに上記の3つのベク

トル , , を求め,これらの和を各個体位置

に足すことによって,1ステップ進められる。

Fig.2は,Boidアルゴリズムを単純に適用した魚の群

れにおいて,特定の3つの個体をA,B,Cと定め,ある

ステップと300ステップ後のA,B,Cの位置を示してい

る。Fig.2より,Boidアルゴリズムを単純に適用した群

れは,群れ内で個体が移動せず,群れの形は変化しない。

従って,Boidアルゴリズムで表現する群れは1節で述べ

た群れの性質(a)と比較すると不自然さがある。群れ内の

個体の移動を表現する研究として砂山アルゴリズムを利

用した既存の研究 があるが,本研究では更に単純な手

法で群れ内の個体の移動を表現する。

本研究では,①,②,③に示した3つのルールを基礎

とし,群れ内で各個体が移動し各個体の移動によって群

れの形が時間と共に変化する群れの表現を行う。

3.群れ内で個体が移動する群れの表現

Boidアルゴリズムはすべての仲間を対象として各

ルールの処理を行うのに対し,本研究の群れアルゴリズ

ムでは,まず Fig.3に示すように,個体を中心として

Small-Region,Middle-Region,Large-Regionの3つ

の球領域を定める。Large-regionはMiddle-Regionを,

Middle-Regionは Small-Regionを包含する。また,

Boidアルゴリズムの3つのルール(分離,整列,結合)

の処理を行う際に割り当てられた各球領域内に存在する

Fig.1 Three rules of the boid algorithm

(a) Alignment (b) Cohesion (c) Separation

Fig.2 A school of fish at a certain step(left)and 300

steps later (right)

Fig.3 Three spherical regions are defined and each

rule of the boid algorithm is applied in one of

the three regions

― ―28

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すべての仲間の個体を対象として行う。具体的には,整

列ルールは,Middle-Area内の個体を対象とする。

Midele-Areaは Small-Areaを含んでいるため,Small

-Area内の個体も整列ルールの対象となる。

各個体を群れ内で移動せるために,Fig.4に示すよう

なベクトル を与える。 (定義は後述する)は,

個体の周辺に存在する仲間の状況に応じて変化させる。

各個体のワンステップの処理の流れは,Fig.5に示すよ

うに,個体の を定義した後に移動ベクトル

を求める。個体の移動ベクトルの求め方は,Middle

-Region内に存在する仲間の個体を対象としてBoidア

ルゴリズムの整列ルールを適用し,得られたベクトル

と自己が持つベクトル を足すことによって

得られるベクトル を個体の移動ベクトルとする。

本手法では,整列ルールと によって,群れの形成を

行う点で,通常のBoidアルゴリズムと大きく異なる。

個体に与えるベクトル は,Fig.5に示すように定

義される。 は,Small-Region内に仲間が存在する

場合は引離しイベントによって定義され,Small-Region

内に仲間が存在せずMiddle-Region内に存在する仲間

の数がある一定値 より小さい場合は結合イベントに

Fig.4 Vector that moves each individual in a

school

Fig.5 The computation of

Fig.6 Appearance of a school where each individual

moves independently

Fig.7 The definitions of three regions and

― ―29

(a) The definition of Small-Region

(b) The definition of Middle-Region

(c) The definition Large-Area

(d) The definition of

Page 4: 映像を参쬠にした魚の群れの動作生成とその高速化...As lions prey on zebras,the ecosystem of living creatures that live in the sea also consists due to preying-food

よって定義される。それ以外は過去の を保持する。

引離しイベントの処理は,Small-Region内の仲間の個

体を対象としてBoidアルゴリズムの引離しルールを適

用し,得られたベクトル を個体が持つベクトル

として設定する。結合イベントの処理内容は,

Large-Region内の仲間の個体を対象として結合ルール

を適用し,得られたベクトル を個体が持つベクトル

として設定する。初期状態における各個体の

は,ゼロベクトルとし最初のステップで必ず引離しイベ

ントや結合イベントが実行されるような個体の配置を行

う。

このように,本研究の群れにおける群れ内の各個体は,

Fig.6の(i)に示すように各個体が保持している に

よって群れ内を移動する。ただし,群れから離れそうに

なった個体には結合イベントが実行され,Fig.6の(ii)に

示すように定義される。また,仲間どうしが衝突しそう

になった個体には引離しイベントが実行され,Fig.6の

(iii)に示すように個体の はお互いを引離す方向に

再定義される。

本手法の群れは,Fig.3に示したSmall-Region,Mid-

dle-Region,Large-RegionおよびFig.5で使用した一

定値 の値の定義によって様々な振る舞いの群れを表

現することができる。Fig.7は様々な振る舞いをする群

れを表現した図である。Fig.7(a)に示すように,Small

-Regionの領域を小さく定義すると各個体の最小個体間

距離が小さい群れを表現でき,大きく定義すると各個体

の最小個体間距離が大きい群れを表現できる。Fig.7(b)

に示すように,Middle-Regionの領域を小さく定義する

と各個体の方向およびスピードが不 一な群れを表現で

き,大きく定義すると各個体の方向およびスピードが

一な群れを表現できる。Fig.7(c)に示すように,Large

-Regionの領域を小さく定義すると群れの分裂が起こり

やすい(群れが結合しにくい)群れを表現でき,大きく

定義すると群れの分裂が起こりにくい(群れが結合しや

すい)群れを表現できる。Fig.7(d)に示すように, の値

を大きく定義すると各個体の平 個体間距離が小さい群

れの表現でき,大きく定義すると各個体の平 個体間距

離が大きい群れを表現できる。

4.捕食-被食シーンの表現

一般に,生き物が群れを形成する利点として攪乱効果

が知られている。攪乱効果 とは,似た個体が似た動きを

行っているとひとつの個体に狙いを定めにくく捕食され

にくいという効果である。魚の群れは,海や河川という

3次元空間内で形成されるため,攪乱効果は絶大な効果

を発揮すると えられる。

1節の群れの性質(b)で述べたように,被食者の魚の群

れは捕食者が周辺に存在すると個体間距離を縮める。こ

れは,個体間距離を縮めることで群れの利点である攪乱

効果を最大限に発揮して捕食回避を行うためだと えら

れる。本研究では,周辺に捕食者が存在しない場合は被

食者の を小さく定義し,捕食者が存在する場合は被食

者の を大きく定義することで,1節の群れの性質(b)

に示した被食者の個体間距離の変化を表現する。

被食者において Fig.8(a)に示すように個体を中心と

した球領域Predator-Regionを定め,この領域内に捕食

者が存在する場合は(b)に示すように捕食者とは逆の方

向に最大スピードで移動させることで捕食回避行為を表

現する。

1節の群れの性質(c)に示したように,被食者の群れは

複数の捕食者によって海面下に追い詰められて捕食され

る。これは,被食者の群れを海面下に追い詰めることで

海面がひとつの壁となり,群れの攪乱効果が低減し,捕

食者の捕食行為が容易になるためだと えられる。本研

究では,Fig.9に示すように捕食者には被食者の群れの

下から上方向でゆるやかな突入を繰り返させることで被

食者の群れを海面下に追い詰める特性を与える。一方,

被食者にはひとつの群れを海中で維持させる特性を与え

る。このようにして,1節の群れの性質(c)で述べたよう

な捕食者と被食者の争いを表現する。

5.渦を 慮した群れの表現

1節の群れの性質(d)に示したように,実際の被食者の

群れは捕食者に囲まれて行き場を失うと渦を形成する。

渦が形成される過程の映像は入手することができなかっ

たため,渦が形成される詳細なメカニズムは明らかに

なっていないが,本研究では渦が形成される理由を次の

(a) Predator-Region (b) Evasion against being preyed

Fig.8 Evasion behavior against being preyed

Fig.9 Predators cornering prey fish under the sur-

face of sea

― ―30

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2つと仮定する。

(i) 速い速度を保つ(ひとつの個体に狙いを定めにくい

という撹乱効果を効果的に発揮するため)

(ii) 群れの中央へ向かう(捕食される確率が低く,仲間

の動きを察知しやすいため)

本研究では,自己の周辺に捕食者が存在しない場合は

3節で述べた通常の群れの動作を行い,周辺に捕食者が

存在する場合は後述する渦を 慮した群れの動作処理を

行う。

渦を 慮した群れにおける各個体のワンステップの処

理を Fig.10に示す。Fig.10(a)より,最初に個体の速度を

最大速度に固定することで前述した(i)を 慮する。次に,

Small-Region内に仲間が存在する場合は衝突回避を

行った移動ベクトルを求め,Small-Region内に仲間が

存在しない場合は群れの中央へ向かった移動ベクトルを

求める。衝突回避を行った移動ベクトルの求め方は,Fig.

10(b)に示すように,通常の群れの動作と同様に を

再定義し,個体の移動ベクトルを求める。群れの中央へ

向かった移動ベクトルを求める処理は,Fig.10(c)に示す

ように,Large-Region内の仲間の個体を対象として

Boidアルゴリズムの結合ルールを適用し,得られたベク

トルとワンステップ前の自己の移動ベクトルを足したベ

クトルを個体の移動ベクトルとする。

このように,衝突しそうな個体が存在する場合は通常

通り仲間の方向およびスピードに合わせながら衝突回避

を行う。衝突しそうな個体が存在しない場合は仲間の方

向やスピードに依存せず直接群れの中央へ向かわせる処

理を行うことで1節の群れの性質(d)で述べた群れの渦

の表現を行う。

6.フラクタルによる群れ

本研究の群れの動作アルゴリズムでは,各個体が自己

の周りの仲間の個体の情報を得るために,ワンステップ

ごとにすべての個体にアクセスしている。本研究の群れ

における,群れ内の個体数とワンステップの処理時間の

グラフは Fig.11に示すように群れ内の個体数の2乗に

比例したグラフとなる。

1節の群れの性質(e)で述べたように実際の魚の群れ

内の個体数は膨大である。そこで本研究では,フラクタ

ルを利用して少ない個体数の動作計算で多くの個体数の

群れを表現する。本研究のフラクタルを利用した群れの

表現は,Fig.12(a)に示すように,少ない個体数の仮想の

群れを仮定し,仮想の群れに(b)に示すフラクタルの処理

を適用し,より多くの個体数の群れを表現する手法であ

る。フラクタルの処理は,Fig.12(i)に示す仮想の群れの個

体の配置場所を(ii)に示すようにスケーリングした場所

を求め,求めた各場所のそれぞれに(i)の配置を適用する

ことで(iii)を得る。そして,(iii)に示した9つの配置場所

に個体を描画するものである。

Fig.12はフラクタルの群れにおける仮想の群れ内の

個体の移動が描画する群れに及ぼす影響を示した図であ

Fig.10 One simulation step of an individual when

forming a whirlpool

Fig.12 Representation of a school of fish using the

fractal

Fig.11 The processing time with respect to the

number of individuals

― ―31

(a) One step of an individual when forming a whirlpool

(b) The redefinition of

(c) Generation of toward the center of the school

(a) A school of fish is generated by the fractal

(b) Generation by scaling and copying

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る。Fig.13より,仮想の群れ内のひとつの個体の移動は,

実際に描画する群れ内におけるグループの移動と各グ

ループ内の個体の移動という2種類の移動を引き起こ

す。従って,比較的高速に計算できる個体数の仮想の群

れにフラクタルを適用することで,仮想の群れ内の個体

数以上の群れであり,尚且つ仮想の群れ内の個体の移動

以上に複雑な個体の移動を行う群れの表現が可能であ

る。

群れの動作アルゴリズムにフラクタルを適用することFig.13 Influence caused by the fractal

Fig.14 Captured images and the graph of processing time with respect to the number of individuals using the

fractal

― ―32

(b) The movement of child is

also affected by its parent

(a) The movement of a

individual

(j) A whirlpool is formed

(h) A school of fish is cornered by the predator under the surface of the sea

(f) A school of fish is split into two schools in front of the wall

(d) A school in which each individual actively moves

(b) The movement of specific individuals

(iii)60 steps later(ii) 30 steps later(i) A certain step

(iii)20 steps later(ii) 10 steps later(i) A certain step

(iii)80 steps later(ii) 40 steps later(i) A certain step

(iii)80 steps later(ii) 40 steps later(i) A certain step

(iii)240 steps later(ii) 120 steps later(i) A certain step

(k) A school of fish composed of 400 individuals generated by the proposed fractal-based boid algorithm

(i) A school of fish is cornered under the surface of the sea

(g) As the predator approaches,each individual gets closer to each other

(e) A school in which each individual actively moves

(c) A school of fish in which each individual does not move actively

(a) A school of fish generated by the proposed method

(iii)20 steps later

(iii)100 steps later

(iii)240 steps later

(iii)240 steps later

(iii)240 steps later

(m) A school of fish based on the fractal

(ii) 10 steps later

(ii) 50 steps later

(ii) 120 steps later

(ii) 120 steps later

(ii) 120 steps later

(l) A whirlpool

(i) A certain step

(i) A certain step

(i) A certain step

(i) A certain step

(i) A certain step

(iii)240 steps later(ii) 120 steps later(i) A certain step

(n) The computation time of the fractal-based boid algorithm

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によって,非常に大規模な動作計算をすることが可能と

なるが,現状では,今後改善しなければならないいくつ

かの課題もある。例えば,数十万匹以上の魚の群れによ

る渦の形成をフラクタルで表現できなかったり,フラク

タルによる群れが視点近傍にある場合には不自然さが目

立つ場合がある。現状では,フラクタルによる動作アル

ゴリズムは,群れが視点から遠方にある場合に有効であ

ると えられる。

7.実行結果

実行結果をキャプチャした画像を Fig.14に示す。Fig.

14(a)に本研究の群れの様子を示し,(b)に本研究の群れに

おいて特定の個体を示した様子を示す。これにより,各

個体が群れ内で移動し,群れの形が時間と共に変化する

様子がわかる。Fig.14(c)の群れは,各個体のSmall

-Region領域を広く の値を大きく定義し,常に結合イ

ベントと引離しイベントが繰り返される群れを作成した

様子を示している。この群れはBoidアルゴリズムの群

れと同様に群れ内で個体が移動せず群れの形は一定とな

る。Fig.14(d)(e)の群れは,Small-Region領域を狭く

の値を小さく定義することで,各個体の引離しイベント

と結合イベントが実行される割合を低くした群れを作成

した様子を示しており,これらの群れは各個体が群れ内

を移動する。ただし,(d)の群れはMiddle-Regionの領域

を広く定義して各個体の方向および速度が 一な群れを

表現した様子であり,(e)の群れはMiddle-Regionの領

域を狭く定義して各個体の方向および速度が不 一な群

れを表現した様子である。Fig.14(f)の群れは,Large

-Region領域を狭く定義して壁に衝突する直前にひとつ

の群れが2つの群れに分裂する様子を示している。(g)は

捕食者が接近することで被食者の群れが個体間距離を縮

める様子,(h)は被食者の捕食回避行為の様子を示してお

り,(i)は被食者の群れが海面下に追い詰められる様子を

示している。Fig.14(j)は被食者の群れが渦を形成する様

子を示している。Fig.14(k)はフラクタルの群れにおいて

仮想の群れの個体数を20とし,個体数400のフラクタル

の群れを表現した様子である。Fig.14(l)は渦を斜めから

見た様子,(m)は個体数10000のフラクタルによる群れの

様子を示しており,(n)はフラクタルの群れのワンステッ

プの処理時間のグラフを示す。

8.まとめと今後の展望

本研究では,実際の魚の映像を参 にし,様々な群れ

の動作アルゴリズムの開発を行った。1節に述べた魚の

群れの持つ性質(a)-(e)を仮定し,これらの性質を表現す

るアルゴリズムを構築し,プログラムとして実装した。

Boidアルゴリズムを基礎として各個体に与えた群れ

内を移動させるためのベクトルを状況に応じて変化させ

ることで性質(a)に示した群れ内の個体の移動を既存の

研究に比べて単純な手法で表現した。個体の周辺に存在

する仲間の数がある一定値を満たすまで群れの中央へ向

かわせることで性質(b)に示した被食者の個体間距離の

変化を表現した。魚種ごとに異なる特性を与えることで

性質(c)に示した海面下に追い詰められる捕食-被食

シーンを表現した。仲間と方向および速度を合わせる処

理よりも群れの中央へ向かう処理を強めることで性質

(d)に示した被食者の群れの渦の形成を表現した。フラク

タルを利用して少ない個体数の群れの動作計算で多くの

個体数の群れを動作させることで性質(e)を実現した。

今後の課題としては,渦の形を実際の形に近い逆円錐

型に近づけること,フラクタルによる群れと通常の群れ

との切換アルゴリズムの構築,フラクタルの群れを利用

した渦の形成などがあげられる。

謝辞

本研究の一部は,平成17年度~18年度の文部科学省

科学研究費補助金基盤(C)課題番号17500077より支援を

受けた。ここに,謝意を表する。

参 文献

1) Craig W.Reynolds,“Flocks,Herds,and Schools:

A Distributed Behavioral Model”, Computer

Graphics (Proc.SIGGRAPH),Vol.21,No.4, Jul.

1987,pp.25-34.

2) 松延直美,水森龍太,蔡東生,“自己組織化理論を用

いた群れのアニメーション生成”,情報処理学会グラ

フィクスとCAD研究会,122,2003,pp.59-64.

3) 佐原雄二,細見正明,“メダカとヨシ-水辺の健康度

をはかる生き物-”,岩波書店,2003.

4) 佐藤大輔,吉田典正,“魚の群れを対象とした捕食-

被食シーンのリアルな表現”,画像電子学会第34回

年次大会,2006,pp.71-72.

5) 佐藤大輔,吉田典正,魚の群れの捕食-被食シーン

における動作のリアルな表現,情報処理学会グラ

フィクスとCAD研究会,Vol.2006,No.199,2006,

pp.77-82.

(H20.12.10受理)

― ―33

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