14
労働市場と賃金決定(労働経済学1で何を学んだか? 学ぶべきだったか?) 1.労働市場の特質(財市場や金融市場の取引とはどのように異なるか) 最も重要な点は,労働サービスの特殊性・・・それ自体が単独にあるのではなく,その提供者である個 人と不可分であること。また,そのために,労働サービスの質はその提供者の状態によって大きく変動 する。そのために,労働サービスの質を高めるようなメカニズムが労働市場に要求されること。そして, 労働サービスの特殊性として,在庫がきかないということがある(ホテルの宿泊サービスの提供や運輸 サービスにも該当する)。この特性は,不況期に大きく影響する。 2.労働供給 労働供給と賃金(労働市場の価格)の関係 また,就業状態・失業状態・非労働力状態などの関係 3.労働需要 労働需要(企業がどれだけ人を雇用するか)と賃金の関係 4.労働市場の均衡 労働市場において,供給と需要が一致する点で,均衡における賃金と雇用量が決定される。 また,最低賃金制度などの制度的な要因が,労働市場に与える影響(失業の発生など) 5.失業の発生とその内容 UV 分析(実際には,求人と求職が同時に存在している)。それについて,どのように考えるか? マクロ経済市場との関係・・・フィリップス曲線 6.賃金決定 実際には,均衡賃金ではなく,賃金には多様性がある。なぜ,異なる賃金が成立するのかについて考 える。ひとつは,職務内容のリスクである(危険な職務は高い賃金を支払う。また,危険であっても, 高い賃金の職務を求める労働者もいる)。 7.人的資本 教育と労働の質の問題 なぜ,学歴が高いと賃金が高いか?これについては,人的資本理論の考え方とともに,シグナリング の考え方もある。 8.賃金構造 労働サービスの特殊性にあったように,労働サービスの質が変わる。 企業内には,賃金構造が存在する。また,組織構造やヒエラルキーが存在する。

労働市場と賃金決定(労働経済学1で何を学んだか? 学ぶべき ... · 2018-11-21 · 労働市場と賃金決定(労働経済学1で何を学んだか? 学ぶべきだったか?)

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労働市場と賃金決定(労働経済学1で何を学んだか? 学ぶべきだったか?)

1.労働市場の特質(財市場や金融市場の取引とはどのように異なるか)

最も重要な点は,労働サービスの特殊性・・・それ自体が単独にあるのではなく,その提供者である個

人と不可分であること。また,そのために,労働サービスの質はその提供者の状態によって大きく変動

する。そのために,労働サービスの質を高めるようなメカニズムが労働市場に要求されること。そして,

労働サービスの特殊性として,在庫がきかないということがある(ホテルの宿泊サービスの提供や運輸

サービスにも該当する)。この特性は,不況期に大きく影響する。

2.労働供給

労働供給と賃金(労働市場の価格)の関係

また,就業状態・失業状態・非労働力状態などの関係

3.労働需要

労働需要(企業がどれだけ人を雇用するか)と賃金の関係

4.労働市場の均衡

労働市場において,供給と需要が一致する点で,均衡における賃金と雇用量が決定される。

また,最低賃金制度などの制度的な要因が,労働市場に与える影響(失業の発生など)

5.失業の発生とその内容

UV分析(実際には,求人と求職が同時に存在している)。それについて,どのように考えるか?

マクロ経済市場との関係・・・フィリップス曲線

6.賃金決定

実際には,均衡賃金ではなく,賃金には多様性がある。なぜ,異なる賃金が成立するのかについて考

える。ひとつは,職務内容のリスクである(危険な職務は高い賃金を支払う。また,危険であっても,

高い賃金の職務を求める労働者もいる)。

7.人的資本

教育と労働の質の問題

なぜ,学歴が高いと賃金が高いか?これについては,人的資本理論の考え方とともに,シグナリング

の考え方もある。

8.賃金構造

労働サービスの特殊性にあったように,労働サービスの質が変わる。

企業内には,賃金構造が存在する。また,組織構造やヒエラルキーが存在する。

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賃金の下方硬直性について1

賃金は,日本では毎年改定されることが一般的である。就活の資料にも,「昇給(年 1回)」のような

表現があるであろう。このように,賃金やボーナス(一時金)は,毎年変化し,固定的ではない。した

がって,「賃金の硬直性」というと,それは賃金が“動かない”ということを意味しない。

この点に関して言うと,賃金の硬直性は失業との関連で議論されている。具体的に言えば,現行の名

目賃金(もちくは,実質賃金)で働きたいと思っているにも関わらず,職のない労働者,つまり,非自

発的失業者が存在する状況のもとで,賃金が低下しない現象を賃金の下方硬直性という。

賃金の硬直的な性格を最初に強く主張したのは,J. M. ケインズである。ケインズの議論によると,労

働者は賃金の水準そのものより他企業や他産業との相対的な高さにより強い関心をもつ。そのために,

自分たちの相対的な経済的な位置を低下させるような名目賃金の切り下げには強く抵抗するという。逆

に言えば,労働者は物価水準の上昇による実質賃金の切り下げをも受け入れると,ケインズは考えたの

である。

このようなケインズの考え方は,古典派経済学の立場からみると,労働者が「貨幣錯覚」という不合

理な行動をしていることになる。古典派経済学及びその後の新古典派経済学は,賃金を消費財を購入す

るための手段として把握するからであり,重要なのは賃金による購買力であるので,物価水準で除した

実質賃金を重要と考えているとしている。

ケインズの考え方と古典派及び新古典派の考え方の違いは,結局のところ,労働者の効用関数がどの

ように特定化されるかという点に帰着する。前者は相対賃金に基づく評価を,後者は財の消費量と余暇

を重要な説明変数とする。一般均衡理論をベースとするミクロ経済学の体系は,古典派経済学的な効用

関数を基礎に構築されており,それをもとに,賃金の硬直性をどのように説明するかは,重要な課題で

あった。これらは,「マクロ経済学のミクロ基礎」といわれるテーマで研究が進展した。

暗黙的契約理論(Inplicit Contract Theory)または,暗黙契約理論

効率賃金理論

インサイダー・アウトサイダーの理論

また,オファーされる賃金に分布がある(ある金額のみではない)ことから,職探しの行動が失業期間

とそこで決まる賃金を決定していると考える理論もある。ここでは,職探しの理論(ジョブサーチの理

論)から,労働市場の特性と賃金の硬直性について考える。

1.暗黙的契約理論(Baily, M.(1974),Revuew of Econnomic Studies, 41)( Azariades, C.(1775), Journal Political

Economy, 83)

労働者は危険回避的であり,企業は危険中立的であるとする。

雇用契約に2種類あって,Aは好景気・不景気に賃金が変動するもの(たとえば,好景気に30を不景

気に20を受け取るとする),Bは好景気・不景気にかかわらず一定であるもの(たとえば,好景気でも

不景気でも25を受け取るもの)とする。

期待効用は,それぞれ,

EU_A=αU(20)+(1-α)U(30)

EU_B=U(25)

どちらが大きいかは,効用関数の形状によってきまるが,危険回避的な労働者の効用関数では,

EU_B<EU_A

となり,硬直的な賃金を選好する。

1 ここでの記述は,大橋他(1989)『労働経済学』有斐閣,および脇田(1998)『マクロ経済学のパースペク

ティブ』日本経済新聞社を参考とした。

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なぜ,この理論が「暗黙的」という言葉を使っているかについては,現実には,硬直的な賃金を書面で

契約している場合はまずないということである。企業は,ドラスティックな経営環境で,契約の変更を

余儀なくなれる場合がある。その場合は,契約の変更を考慮できるようにしておくことが,労働者にと

っても,企業にとっても,都合がよいのである。

契約理論については,たとえば,ミルグロム・ロバーツ(1997)『組織の経済学』NTT 出版(奥野他訳)

を参照されたい。

2.効率賃金

企業の生産関数が,労働者の働き方(労働効率:e)にも依存すると考え,それは,賃金水準による

と考え,Y=sF(e(w)L)

e(w)という関数を考える。e’(・)>0,e’’(・)<0。sは技術や相対価格のシフトパラメータ。

生産関数Fは,通常の仮定(F’ (・)>0, F’’ (・)<0)

すると,利潤 πは,π=sF(e(w)L) – wL

最大化の条件のひとつは,e’(w*)w*=e(w*)

ここで,なぜ賃金を上昇させると効率が上がるかについて考えると,

1)栄養

2)逆選択(賃金カットを行うと良質な労働者は転職してしまう。より高額な賃金を提示すると,多数

の労働者から良質なものを選択できる)

3)怠慢抑制

4)離職抑制(新規採用や訓練にはコストがかかる)

5)社会学的な説明(たとえば,賃金カットが一部だけであると不公平に感じ,モラルが低下する)

3.インサイダー・アウトサイダーの理論(たとえば,Solow, R. M.(1985), Scandinavian Journal of Economics,

87)

失業してアウトサイダーになった労働者が低い賃金を申し出ても,高い賃金を得ているインサイダー

労働者にとってかわることはできない。

賃金交渉に参加できるのは,企業内に留まったインサイダーのみである。また,団体交渉の当事者で

ある労働組合は,組合員であるインサイダーのみのことを考える(通常は,労働組合は企業内で雇用さ

れているもので構成されている)。組合も,組合費を支払っている組合員の経済的な利益の獲得を当然に

考える。

4.ジョブサーチの理論

主観的なオファーされる賃金分布は,通常,正規分布に近いような単峰型であり,裾野が広いものであ

ると考えられる(講義中の板書を参照)。

ここで,留保賃金(労働供給で説明した)以上がオファーされれば,就業すると考えられる。

また,いくつかの仮定がおかれる。

留保賃金は変化しない。

職探しにはコストがかかる。

失業給付(失業保険給付など)がある場合も考える。

何回でも応募できるが,予算や保有時間の制約は受ける。

一度,拒否した賃金オファーは,その後は,受諾できない。

このようなモデルを解くことにより,失業期間を説明できる。

しかしながら,実際のデータでは,失業期間を単純には説明できない----失業期間が長いほど,よい仕事

を見つけにくい。まあ,スパイク効果がみられる。

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労働時間管理(補足)

高度プロフェッショナル制度

専門職で年収の高い人を労働時間の規制の対象から外す新たな仕組み(労働時間と賃金の関係が切れ

た制度)。年収1075万円以上のアナリストなどの専門職が対象。労働基準法は法定労働時間を超えて

働かせる場合、割増賃金の支払いを義務づけているが、対象となる働き手は残業や深夜・休日労働をし

ても割増賃金が一切支払われなくなる。

野党は「残業代ゼロ法案」と批判している。

経緯

2007年、第 1次安倍内閣は類似の仕組みであるホワイトカラーエグゼンプション制度を検討したが、過

労死の懸念が強く示され、法案提出に至らなかった。

2014年 4月 22日、産業競争力会議雇用・人材分科会は、「個人と企業の成長のための新たな働き方」の

ひとつとして「高度なプロフェッショナルとして活躍するようなモデル」を提起した。この考え方は、

「『ホワイトカラー・エグゼンプション』の拡大版」「『残業代ゼロ』制度」などと評される中、同年 5

月 28日の同会議で提案され、6月閣議決定された。

2015年 4月 3日、第 189回国会に労働基準法等改正案が上程され、長時間労働抑制策や企画業務型裁量

労働制見直しなどとともに高プロ新設が提案されたが、2017年 9月審議未了・廃案となり導入に至らな

かった。

2018年 4月 6日第 196回国会に提出された働き方改革関連法案に再度盛り込まれた。対象職種は証券ア

ナリスト・研究開発職・コンサルタントなど、年収は 1075万円以上が想定されている。同法案は、最終

的な適用範囲は労働政策審議会での議論を経て厚生労働省令で定める、2019年 4月施行、などとしてい

る。

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多様な就業形態(テキスト第 18 章)補足資料2

1.正社員以外の増加(テキスト図 18-1参照)

非正社員は,日本では,以前から存在した。

たとえば,女性のパート従業員は,百貨店の「大丸」が,1954 年に関西(大阪・京都)から東京へ進

出したとき,初めて募集したとされている3。

2.非正社員の区分

正規・非正規についての政府調査は,毎月行われている「労働力調査」と5年ごとの「就業構造基本

調査」が代表的である(ともに,総務省統計局によるもの)。しかし,いずれの調査でも,調べられてい

るものは,勤め先における呼称である。

2つの調査ともに,雇われている人が「正規の職員・従業員」「パート」「アルバイト」「労働者派遣事

業所の派遣社員」「契約社員」「嘱託」「その他」から,職場での呼称として一番近いものを1つ選んで回

答する。そこに「正規の職員・従業員」とは何かという説明が用意されているわけではない。

3.直接雇用と間接雇用(テキスト図 18-3参照)

指揮命令について・・・

労働基準法第 9条 この法律で「労働者」とは,職業の種類を問わず,事業又は事務所(以下「事業」

という。)に使用される者で,賃金を支払われる者をいう。

労働契約法第 2条 1項 この法律において「労働者」とは,使用者に使用されて労働し,賃金を支払われ

る者をいう。

4.多様化の背景

人材ポートフォリオ論・・・1995 年に,日経連が公表した「新時代の『日本的経営』---挑戦すべき方向

とその具体策----」があった。そこでは,「自社型雇用ポートフォリ オ」を提言した。その内容は,企業

の雇用形態を長期蓄積能力活用型,高度専門能力活用型, 雇用柔軟型の 3 層構造に編成し,この適宜

の組み合わせによって柔軟な企業経営を行うことを提言したものである。人材育成における長期雇用慣

行の意義を正しく提示することができなかったために,結局は,高度専門能力活用型のグループは育た

ず,正規雇用(長期蓄積能力活用型)と 非正規雇用(雇用柔軟型)の2極化を促進することになったと

される。

-----------

賃金に関して言えば,正規>非正規であると考えられる。その理由として,経済学ではつぎの5つの考

え方がある(どれか一つを特定できるものではない)。

①就業上の資質や働く意欲が必ずしも高くない雇用者が,非正社員には多く含まれるため(限界生産性

仮説)

②仕事の責任や負担が異なるため(補償賃金仮説または均等化差異)

③企業内訓練が異なり正社員には,企業固有のより高度な技能が蓄積されるから(企業特殊熟練仮説)

④正社員採用の内部労働市場の入り口で価格競争が制限され,正社員の賃金が高止まりしているため(内

部労働市場仮説,または雇用割り当て説)

⑤生計の主な担い手となる男性正社員に対し,補助的な労働を担う女性非正社員(パート社員)への低

賃金を社会が受容してきたとする(男性稼ぎ主モデル説)

これらの要因により,解決策は異なることに注意してほしい。

①が主要因であれば,就業以前の段階(学校教育など)での就業意欲の喚起などが必要。

2 ここでの記述や表1~3は,川口編(2017)『日本の労働市場』有斐閣 を参考として作成した。 3 誤解のないようにいうと,非正規雇用は,それ以前の日本にも存在たし,世界各国の労働市場に,同

様の労働者は見いだせる。参考文献として,小池和男(2016)『「非正規労働」を考える:戦後労働史の視

角から』名古屋大学出版会を揚げておく。

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②であれば,仕事に対する選好に応じて自由に移動できる労働市場の整備が必要。

③であれば,非正規雇用者に対する職業訓練の充実こそが重要。

④が主因ならば,雇用保護や参入制限を含む,正社員に対して付与されている既得権を解消される法制

度の構築などが解消策となる。

⑤に対しては,非正規が事実上の身分差として許容されることのないよう,性別役割分担の考え方の解

消などの社会的な啓発活動や適切な社会規範の形成が必要である。

契約期間について4

正社員は,無期雇用であると言われる(定年はある)。それに対して,非正社員は有期雇用であるとされ

ている。呼称も曖昧であるので,無期・有期を働き方の相違として考える。

表1 「正規・正規以外」「一般常雇・臨時雇・日雇」「無期・有期の契約」による区分

雇用者総

数(役員を

除く)

一般常雇 臨時雇・日雇

無期・正規 有期・正規 無期・正規以

有期・正規以

外 正規 非正規

万人 構成 万人 構成 万人 構成 万人 構成 万人 構成 万人 構成 万人 構成

2013年 5210 100.0 3173 60.9 120 2.3 579 11.1 866 16.6 10 0.2 461 8.8

2014 5249 100.0 3160 60.2 117 2.2 587 11.2 954 18.2 10 0.2 421 8.0

2015 5293 100.0 3179 60.1 123 2.3 602 11.4 963 18.2 11 0.2 415 7.8

2016 5381 100.0 3224 59.9 131 2.4 607 11.3 1001 18.6 10 0.2 407 7.6

総務省統計局「労働力調査」による

表2 雇用形態(呼称)と雇用契約期間の関係

総数

[万人]

(構成比)

無期契

有期契

有期雇用契約年数 わから

ない 1年以下 1 年超 3

年以下

3 年超 5

年以下

その他

雇用者全体 5354

(100.0%)

3670

(68.5)

1212

(22.6)

819

(15.3)

185

(3.5)

55

(1.0)

154

(2.9)

445

(8.3)

正社員 3311

(100.0)

3054

(92.2)

135

(4.1)

44

(1.3)

31

(0.9)

22

(0.7)

38

(1.1)

121

(3.7)

非正社員 2043

(100.0)

616

(30.2)

1076

(52.7)

774

(37.9)

154

(7.5)

32

(1.6)

116

(5.7))

323

(15.8)

パート 956

(100.0)

371

(38.9)

438

(45.9)

339 56 9 34 135

(14.1)

アルバイト 439

(100.0)

157

(35.7)

149

(33.8)

114 16 3 16 128

(29.1)

派遣社員 119

(100.0)

18

(15.5)

84

(70.7)

67 10 2 5 16

(13.1)

契約社員 291

(100.0)

-

( - )

270

(92.6)

171 47 9 42 19

(6.7)

嘱託社員 119

(100.0)

18

(14.7)

95

(79.4)

61 18 8 8 6

(5.3)

その他 119

(100.0)

52

(43.6)

41

(34.9)

23 7 2 11 20

(16.6)

総務省統計局「就業構造基本調査」(2012)より

4 契約期間について考えることは,不安定雇用に関する誤解を取り除いていくうえでも意味をもつ。「正

社員」をいったん雇うと,一定の要件を満たさない限り,容易に整理解雇できないという解雇権濫用法

理が確立していることは,社会のなかで一定程度知られている。一方,「非正社員」であれば,すぐに解

雇できると思っている人も多い。しかし実際には,労働契約法には,契約期間中の解雇については,第

17条に「期間の定めのある労働契約について,やむを得ない事由がある場合でなければ,その契約期間

が満了するまでの間において,労働者を解雇することができない」と記されている。さらに解雇の困難

さを背景に「必要以上に短い期間を定めることにより,その有期労働契約を反復して更新することのな

いように配慮しなければならない」とも明記している。

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賃金プロファイル

表3 雇用形態・契約期間別にみた勤続年数と所定内賃金プロファイル

(規模 1000人以上, 2017年)

区 分 勤続年数計 0年 1~2

3~4

5~9

10 ~

14年

15 ~

19年

20 ~

24年

25 ~

29年

30 年

以上

所定内

給与額(千円)

正規・無期 375.4 256.9 269.2 290.0 314.3 362.7 407.3 446.3 479.2 495.6

正規・有期 322.4 305.4 339.0 340.1 331.3 336.0 312.7 382.0 311.6 287.9

正規以外・無期 213.4 225.7 211.1 202.1 208.0 200.5 203.5 225.0 284.3 274.3

正規以外・有期 221.9 215.5 221.8 215.4 214.9 218.3 215.1 221.6 237.6 278.0

上記のデータをわかりやすいように,グラフで概形を示すとつぎのようになる。

正規と正規以外には,概形でも大きな違いがある。

スキルを要すると考えられる高度人材が多くを占めていると考えられている「正規・有期」で雇用する

場合,能力を市場価値に連動し,勤続年数には影響しない賃金を支払う傾向が強まっていると考えらえ

る。

0.0

100.0

200.0

300.0

400.0

500.0

600.0

1 2 3 4 5 6 7 8 9

勤続年数

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若年層の就業問題(テキスト第19章補足)

1.若年層の就業について何が問題か?

年齢別失業率の状況(JIL-PT5のwebサイトより) なお,テキスト図9-2も参照。

5 JIL-PTとは,(独)労働政策研究・研修機構

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国際労働機関(ILO)は,2017年の世界の若者の失業率は 13.1%,前年比 0.1ポイント上昇としている。

中南米や中東諸国の景気低迷などで,失業の長期化,意欲喪失などを指摘している。

ジョブホッピングと言われるほどに,転職が激しい。← 良・悪は判断は?

注)日本では,若年者の雇用保護はない(非常に弱い)→非正規労働の長期化

2.NEETの問題

NEET(ニート)とは,もともとイギリスで使われるようになった用語で,「Not in Education, Employment or

Training」の略。「教育を受けているわけでもなく、就業者でもなく,就業訓練を受けているわけでもな

い人」のことを指していたが,日本におけるNEET(ニート)とは、「働く意欲のない、無気力な若者」

のように伝えら,本来の意味とは異なることが問題であり,行政機関では,別の言葉を用いる傾向がみ

られる。・・・労働問題というより,教育・社会問題。

3.氷河期世代の問題

就職氷河期の存在

溶けない氷河期(就職年:学卒年の影響が持続する)

cf. 内部労働市場

学卒一括採用

中途労働市場が十分できあがっていない(非正規雇用)

という問題

4.フリーターの問題

テキストには,フリーターの問題が取りあげられている。これらのフリーターの問題の大きな部分が

就職氷河期および溶けない氷河期の問題によっている。

女性労働と雇用差別(テキスト第20章補足)

差別の経済学6

なぜ,差別がおこるか?

嗜好の差別

dを差別係数(discrimination coefficient)として,

wW = wB(1+d)

d > 0

しかしながら,生産性が同じであっても,安価な賃金の労働者を偏見により雇用せずに,高価な賃金

の労働者を雇用する雇用主は,いずれ,市場の理論により,撤退を余儀なくされる。

統計的差別(statistical discrimination)

----説明については,テキスト p.156-158 による----

しかしながら,男女賃金格差は,差別だけによるものではない。技能が異なるので,限界生産性が異

なる部分がある。したがって,どちらの要素が大きいかを調べることは有用である。

賃金関数の推計…たとえば,賃金関数を推計する。一般に,賃金wと人的資本を表す変数 S[公的教

育年数や企業内教育訓練の量を表す変数(勤続年数など)]との関係を計量経済分析により推定する。

6 差別の経済学は,もともと,米国で人種間の差別問題に対する理論として発展した。たとえば,Gary

Becker (1971), The Economics of Discrimination, 2nd ed., University of Chicago Press, (1st ed., 1957).

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w=α+βs のような関数型,または,つぎのような関数型7 ln(w)=α+βs [ここで ln( )は自然対数

を表す]などを推計し,つぎのように分解することで,差別による格差を推定できる。

Oaxaca Decomposition

男性の賃金関数を wM=αM+βMsM

女性の賃金関数を wF=αF+βFsF

男女賃金格差 ∆�̅� = 𝑤𝑀̅̅ ̅̅ − 𝑤𝐹̅̅ ̅̅ = 𝛼𝑀 + 𝛽𝑀𝑠𝑀̅̅̅̅ − 𝛼𝐹 − 𝛽𝐹𝑠𝐹̅̅̅

= (𝛼𝑀 − 𝛼𝐹) + (𝛽𝑀 − 𝛽𝐹)𝑠𝐹̅̅̅ + 𝛽𝑀(𝑠𝑀̅̅̅̅ − 𝑠𝐹̅̅̅)

差別による格差 (𝛼𝑀 − 𝛼𝐹) + (𝛽𝑀 − 𝛽𝐹)𝑠𝐹̅̅̅

技能に基づく格差 𝛽𝑀(𝑠𝑀̅̅̅̅ − 𝑠𝐹̅̅̅)

に分けることができる8。

日本の男女間賃金格差についても,この分解をつかった研究がいくつかある。

中田(1997)の研究では,男女間格差 0.649 うち男女差別要因 0.2825であり,格差のうち 43.5%を占め

るとしている。なお,データソース『賃金構造基本調査』1993年,100人以上規模,常用雇用者。

田中(2002)は,男女間格差 0.495 うち男女差別要因 0.1014であり,格差の 20.5%を占めるにすぎない

としている。データソースは,『賃金構造基本調査』1985年である。さらに,同データの 1994年を用い

た研究では,18.6%として,差別要因は減少しているとしている。

さらに,『賃金構造統計調査』2000年を用いた研究である川口(2005)では,男女間格差 0.3921 うち男

女差別要因 0.2109であり,格差の 64.2%を占めており,同 2006年を用いた藤井(2010)では,男女間格差

0.3756うち男女差別要因 0.2518であり,格差の 67.0%と,差別要因は広がっているとの計測もある。

収入を個人にたずねる『就業構造基本調査』をもとにした研究では,金子・杉橋(2003)が,男女間格

差 0.987で,うち,差別要因が 0.540であり,格差の 54.7%を占めるとしている。データソースは『就業

構造基本調査』1997年リサンプリングデータである。

他に,日本版 General Social Survey (JGSS) の第 1 回調査(2000 年)、第 2 回調査(2001 年),第 3 回

調査(2002 年)をプールしたデータを用いた野崎 (2006) では、格差に占める属性格差16の割合を37.16%

と報告しており,差別要因は,62.8%となる。

【男女雇用機会均等法】

〈雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律〉が正

式名称。

勤労婦人福祉法(1972年)に代わって,1985年5月成立9,1986年4月1日施行。女子差別撤廃条約

の批准(1985年)を直接的契機として制定された。募集,採用,配置,昇進に関する男女の機会均等努

力を企業に義務づけ,また教育訓練や福利厚生,定年・退職・解雇に関する差別を禁止した。しかし,

前者に関する罰則規定を欠くことや賃金についての規制がないことなどからさまざまな批判をあびた。

これを受けて,1997年6月改正(1999年4月1日施行)。従来の努力目標を明確な禁止規定とすること

やセクシュアル・ハラスメントの防止のための配慮義務を使用者に課す一方,労働基準法上の女子保護

規定が撤廃されることになった。2007年改正は男女双方に対する差別を禁止し,差別禁止の対象を追

加・明確化した。具体的には降格,職種変更,雇い止め,雇用形態の変更,退職勧奨,配置における業

務の配分,権限の付与における差別を禁止した。

7 ミンサー型という。ミンサーは米国の経済学者の名前。 8 Oaxaca分解により,米国でBlack-Whiteの賃金格差を研究した結果によれば,教育・年齢・性別・居

住地域・職種を調整しても,1995年時点で,賃金格差の対数値の格差について,BlackがWhiteより-

0.211である。そのうち,技能による生産性格差は-0.114であり,人種による格差は-0.098であるとし

ている(Borjas[2016],Labor Economics, 7th ed., McGraw-Hill, p.387より)。 9 1985年までを〈国連婦人の 10年〉とした。

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高齢者の就業(テキスト第21章補足)

高年齢者の就業意欲

雇用対策の法制史

1966年「雇用対策法」において,中高年齢の雇用対策に関して,1つの章を設け,適職の選定,雇用率

の設定等について規定。

1971年「中高年齢者等の雇用促進に関する特別措置法」(中高年法)が成立し,そのなかでも,適職の

開発,適職と選定された職種における中高年齢者雇用率の制度が定められた。

この時期には,外部労働市場の存在を念頭において中高年齢者の雇用促進が検討されていた。

1976年10「中高年法」改正 この法律改正で,高齢者を 55歳以上とした。職種に関わりなく従業員総数

に高齢者雇用率を乗じた数の高齢者を雇い入れる制度に改められた。

1986年「中高年法」が改正され,「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年法)に名称変更。

60歳定年を努力義務とした。これにより,高年齢者雇用率制度は廃止された。また,この改正によって,

シルバー人材センター11は法制化された。

1994年「高年法」改正12により,60歳定年の義務化が定められた(1998年 4月施行)。

2000年 老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢引き上げをうけて,高年法が改正され,①定年の

65歳以上への引上げ,②継続雇用制度の導入,③定年制の廃止,のいずれかの措置(高年齢者雇用確保

措置)を講ずることが努力義務とされた。

2004年「高年法」改正では,65歳未満の定年を定めている事業主に対して,上記①~③のいずれかの措

置が義務化された。

2012年には,これまで労使協定による選定基準の設定を認めていた上記②の継続雇用制度について,希

望者全員の継続雇用を義務とした。

雇用状況

厚生労働省の平成 29年「高年齢者の雇用状況」(2017年 6月 1日現在)の結果(従業員 31人以上の

企業 156,113社の状況をまとめたもの)では,

10 1973年の石油ショックにより,中高年齢者について希望退職の募集や解雇が行われるようになったこ

とに留意 11 1975年,東京都においてシルバー人材センターのさきがけとなる「高齢者事業団」が創設された。1980

年度から国の補助事業として「シルバー人材センター」の名のもと全国的に事業展開され、1986)年に事業

が法制化された。 12 この後,老齢厚生年金の定額部分支給開始年齢が引き上げられた。

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1 定年制の廃止および 65歳以上定年企業は計 30,656社(対前年差 2,115社増加)、割合は 19.6%(同

0.9ポイント増加)このうち、(1)定年制の廃止企業は 4,064社(同変動なし)、割合は 2.6%(同 0.1ポイ

ント減少 )、 (2)65歳以上定年企業は 26,592社(同 2,115社増加)、割合は 17.0%(同 1.0ポイント増加)

2 希望者全員が66歳以上まで働ける継続雇用制度を導入している企業は8,895社(同1,451社増加 )、

割合は 5.7%(同 0.8ポイント増加)

3 70歳以上まで働ける企業は 35,276社(同 2,798社増加)、割合は 22.6%(同 1.4ポイント増加)

外国人労働の問題(テキスト第22章補足)

よく知られているように,日本は,労働者としての外国人の受け入れにあたり,入国当初から永住資

格を認める移民政策をとっていない。しかし,日本では,在留期間の更新回数に原則として制限を設け

られていないため,永住許可に求められる継続滞在年数の条件を満たしやすいなど,他国に比べても入

国後の永住許可の取得が容易な面がある。

外国人労働者の問題は,労働法というより,出入国管理及び難民認定法(「入管法」と総称される)の

規制が大きい。入管法は,①入国を認めるか,②入国を認めた場合の滞在をどう管理するか,③入国・

滞在を認められない場合にどう対応するか? に焦点をあてる。

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外国人労働者の選択に係る手法の整理13

①就労できる資格要件の設定・・・在留資格制度,特徴として個人が就労可能なカテゴリーに入ることを入

国・滞在の条件とする。アメリカや日本など。労働市場のニーズに合わせてカテゴリーを設定できる。

②ポイント制・・・一定の(累積)ポイントに達したものに許可する制度。高度な専門を有する人材を対象に

することが多い。移民を対象にすることが多い。カナダ,オーストラリア,イギリス14など。入国基準

の透明性が高い15。

③労働許可制・・・当該外国人の具体的雇用による労働市場への影響を評価して,入国・滞在を許可する制

度。アメリカ,ドイツ16など。国内労働者の失業や労働条件の低下を防ぐという意味がある。

④雇用許可制・・・国内での労働力確保が困難な分野について,国内労働者の雇用努力義務などを雇用主側

に要件を守らせることを通じて受け入れを許可する。韓国,台湾など。雇用主の責任を問いやすい。

⑤技能移転のための制度・・・日本における「外国人技能実習制度」がこれにあたる。

⑥外国人雇用税制度・・・雇用主等に外国人雇用税を課すことで経済的な規制をかける制度。シンガポール

など。

最近の動き

2018年 7月 12日,2月の経済財政諮問会議における首相の指示により,経済産業省は,「新たな外国人

材受入れ制度の検討経緯及び概要」をとりまとめた。以下,それによる。

(1)一定の専門性・技能を有する外国人材を受け入れる新たな在留資格の創設

① 受入れ業種の考え方・・・生産性向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお、当該業種の存

続・発展のために外国人材の受入れが必要と認められる業種において。

② 政府基本方針及び業種別受入れ方針・・・受入れに関する業種横断的な方針をあらかじめ政府基本方針

として閣議決定するとともに、当該方針を踏まえ、法務省等制度所管省庁と業所管省庁において業種の

特性を考慮した業種別の受入れ方針(業種別受入れ方針)を決定し、受け入れる。

③ 外国人材に求める技能水準及び日本語能力水準・・・外国人材に求める技能水準は、受入れ業種で適切

に働くために必要な知識及び技能とし、業所管省庁が定める試験等によって確認する。また、日本語能

力水準は、日本語能力試験等により、ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力を有する

ことが確認されることを基本としつつ、受入れ業種ごとに業務上必要な日本語能力水準を考慮して定め

る。ただし、技能実習(3年)を修了した者については、上記試験等を免除する。

④ 有為な外国人材の確保のための方策・・・有為な外国人材に我が国で活動してもらうため、今後、外国

人材から保証金を徴収するなどの悪質な紹介業者等の介在を防止するための方策を講じるとともに、国

外において有為な外国人材の送り出しを確保するため、受入れ制度の周知や広報、外国における日本語

教育の充実、必要に応じ政府レベルでの申入れ等を実施するものとする。

⑤ 外国人材への支援と在留管理等・・・新たに受け入れる外国人材の保護や円滑な受入れを可能とするた

め、的確な在留管理・雇用管理を実施する。

⑥ 家族の帯同及び在留期間の上限・・・以上の政策方針は移民政策とは異なるものであり、外国人材の在

留期間の上限を通算で5年とし、家族の帯同は基本的に認めない。ただし、新たな在留資格による滞在

中に一定の試験に合格するなどより高い専門性を有すると認められた者については、現行の専門的・技

術的分野における在留資格への移行を認め、在留期間の上限を付さず、家族帯同を認めるなどの取扱い

を可能とするための在留資格上の措置を検討する。

13 早川智津子(2017)「外国人労働者」日本労働法学会編『労働法のフロンティア』講座労働法の再生,

第 6巻所収,第 1表より作成, 14 EU域外からの外国人労働者について(離脱前) 15 日本は,2012年,高度人材を対象に,年齢,学歴,職歴等のポイントの合計が一定点数を超えた者に

対して在留の優遇措置を与える高度人材ポイント制度を導入。その後,2013年に,日本語能力や日本の

大学などで学位取得に対してポイントを引き上げる要件緩和を行った。さらに,2014年に入管法を改正

して,在留資格に「高度専門職」(1号と 2号に分かれる)を加え,2017年 4月 26日,ポイント制度を見

直したうえで,一定の高度人材には1年の滞在で永住許可を認めるなどの「日本版高度外国人材グリー

ンカード」を創設した。 16 EU域外からの外国人労働者について

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(2)従来の外国人材受入れの更なる促進

留学生の国内での就職を促進するため、在留資格に定める活動内容の明確化や、手続負担の軽減などに

より在留資格変更の円滑化を行い、留学生の卒業後の活躍の場を広げる。また、「高度人材ポイント制」

について、特別加算の対象大学の拡大等の見直しを行う。これらの前提として、日本語教育機関におい

て充実した日本語教育が行われ、留学生が適正に在留できるような環境整備を行っていく。さらに、留

学生と企業とのマッチングの機会を設けるため、ハローワークの外国人雇用サービスセンター等を増設

する。また、介護の質にも配慮しつつ、相手国からの送出し状況も踏まえ、介護の技能実習生について

入国1年後の日本語要件を満たさなかった場合にも引き続き在留を可能とする仕組みや、日本語研修を

要しない一定の日本語能力を有するEPA介護福祉士候補者の円滑かつ適正な受入れを行える受入人数

枠を設けることについて検討を進める。このほか、クールジャパン関連産業の海外展開等を目的とする

外国人材の受入れを一層促進するための方策や、我が国における外国人材の起業等を促進し、起業家の

受入れを一層拡大するための方策について検討を進める。

(3)外国人の受入れ環境の整備

上記の外国人材の受入れの拡大を含め、今後も我が国に滞在する外国人が一層増加することが見込まれ

る中で、我が国で働き、生活する外国人について、多言語での生活相談の対応や日本語教育の充実をは

じめとする生活環境の整備を行うことが重要である。このため、2006 年に策定された「『生活者として

の外国人』に関する総合的対応策」を抜本的に見直すとともに、外国人の受入れ環境の整備は、法務省

が総合調整機能を持って司令塔的役割を果たすこととし、関係省庁、地方自治体等との連携を強化する。

このような外国人の受入れ環境の整備を通じ、外国人の人権が護られるとともに、外国人が円滑に共生

できるような社会の実現に向けて取り組んでいく。なお、法務省、厚生労働省、地方自治体等が連携の

上、在留管理体制を強化し、不法・偽装滞在者や難民認定制度の濫用・誤用者対策等を推進する。

障害者雇用の問題(テキストにはない)

障害者雇用義務制度17・・・障害者に対する一般就労移行支援政策の中心として障害者雇用率制度(以下で

は,単に「雇用率制度」と呼ぶ)が存在する。

雇用率制度は,使用者に対して障害者を一定割合雇用することを義務づけるいものであり,障害者に

対して特別な採用枠(いわゆる「障害者枠」)を設定するものである。非障害者の雇用機会を制約するこ

とから,見方を変えれば逆差別となる疑いがある18。

雇用率制度は,1976年に努力義務から義務規定に変更された。同時に,身体障害者雇用納付金制度が新

設された。これは,法定雇用率未達成の事業主から身体障害者雇用納付金を徴収し,法定雇用率以上の

雇用を達成している事業主に対して身体障害者雇用調整金等の助成金を支給する制度である。

法定雇用率は,1987年に政令 285号により,官公庁(非現業)2.0%,官公庁(現業)1.9%,民間企

業 1.6%,特殊法人 1.9%とされた。また,すべての障害者を対象することとなり,根拠法の名称も,「障

害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)に変更された。2013年改正では,精神障害者

も雇用率制度の算入対象とされ,同時に,法定雇用率も,国・特殊法人・独立行政法人 2.3%,民間企業

2.0%となった(障害者の法定雇用率計算について,週所定労働時間 20~30時間のパート労働者を 0.5

としてカウントできるようになった)。

2018年 4月から,0.2%ポイントアップして,法定雇用率は,国・地方公共団体等 2.5%(都道府県の

教育委員会は 2.4%),民間企業は 2.2%となった。さらに,2021年 4月までには 0.1%ポイントの引き上

げが予定されている。さらに,対象民間企業の規模も拡大し,従業員数 50人以上から 45.5人以上とさ

れた(0.5があるのは,前述のように,たとえば,パート従業員を 0.5と数えるため)。

納付金は,現時点で,不足1人に対して月額 5万円である(常用雇用者 100人以上の企業から徴収,

それ以下の規模では徴収はされていない),調整金の支給は,超過1人あたり 2万7千円である(他にも,

障害者多数雇用企業には,報奨金があるが,詳細は,厚生労働省のwebサイトを参照)。

17 ここでの記載は,中川純(2017)「障害者雇用制度の理論的課題」日本労働法学会編『労働法のフロン

ティア』講座労働法の再生,第 6巻所収を参考とした。 18 雇用率制度(disability quotas)を逆差別とする見方は,少数民族に対するクォータ制が逆差別されて

いる米国では一般的なものとなっている。