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ワクチン輸送では開発段階など により、様々な温度帯のニーズが ある。来年に向け大量の出荷需 要が見込まれる中、国際サプライ チェーン全体で、対応力強化の 動きが進んでいる。 コロナ禍 コロナ禍 変わる 変わる 医薬品国際輸送 医薬品国際輸送 ワクチン需要急増も課題多く 見えた課題、供給確保と温度帯 「マイナス70 度」という新たな挑戦 日航関西エアカーゴ・システム/大隅物流/バキュテック・ジャパン/平野ロジスティクス/小松空港/ EF インターナショナル/日本通運/近鉄エクスプレス/ DHL エクスプレス/阪急阪神エクスプレス/ 郵船ロジスティクス/日陸/航空集配サービス 企業紹介 特集 昭和44年9月30日 第三種郵便物認可 禁無断転載 Ⓒ海事プレス社2020 日刊、但し土・日・祝日は休刊 KAIJI PRESS CO.,LTD. Transport & Logistics News 2020 1125

コロナ禍 医薬品国際輸送 - Daily-Cargoワクチン輸送では開発段階など により、様々な温度帯のニーズが ある。来年に向け大量の出荷需

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Page 1: コロナ禍 医薬品国際輸送 - Daily-Cargoワクチン輸送では開発段階など により、様々な温度帯のニーズが ある。来年に向け大量の出荷需

ワクチン輸送では開発段階などにより、様々な温度帯のニーズがある。来年に向け大量の出荷需要が見込まれる中、国際サプライチェーン全体で、対応力強化の動きが進んでいる。

コロナ禍コロナ禍でで変わる変わる医薬品国際輸送医薬品国際輸送ワクチン需要急増も課題多く●見えた課題、供給確保と温度帯●「マイナス70度」という新たな挑戦

日航関西エアカーゴ・システム/大隅物流/バキュテック・ジャパン/平野ロジスティクス/小松空港/EFインターナショナル/日本通運/近鉄エクスプレス/DHLエクスプレス/阪急阪神エクスプレス/郵船ロジスティクス/日陸/航空集配サービス

企企業業紹紹介介企業紹介

特 集

昭和44年9月30日 第三種郵便物認可 禁無断転載 Ⓒ海事プレス社2020 日刊、但し土・日・祝日は休刊

KAIJI PRESS CO.,LTD.Transport & Logistics News

2020年11月25日

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医薬品物流特集2 第3種郵便物認可 2020年11月25日(水)

 新型コロナウイルス感染症の爆発的な流行を受け、世界中でワクチン開発が急ピッチで進められている。国際物流の場面では、リードタイムが短い航空が主な輸送手段となり、莫大な需要が見込まれる。ドイツポストDHLが9月に発表したホワイトペーパーによると、ワクチンは今後2年で最大20万パレットが輸送され、温度管理容器での輸送は1500万回、航空輸送は1万5000便(貨物機換算)が必要になるとされている。新型コロナ禍で世界の旅客便が激減している中、輸送力の確保、繊細なワクチンの品質を守る、高度で幅広い温度管理輸送能力が問われていく。

ワクチン需要急増も課題多く見えた課題、供給確保と温度帯

 今後、コロナワクチンの調達が本格化すると見られる中、大手フォワーダーをはじめとする物流企業はその準備を始めている。ワクチン輸送では安定した輸送・保管品質が求められる一方、現状はコロナ禍で航空・海上輸送の需給が乱高下するなどの課題がある。また、いまだ各ワクチンの開発・承認動向も不透明で、どの路線でどの程度の需要が発生するのか、不明瞭な部分が多い。日系フォワーダーもタスクフォースなどの組織を立ち上げて、情報収集・整理や需要への対応を進めているところがある。

航空貨物スペース確保が焦点

 新型コロナウイルスが世界的に広まった初期にはマスクなどの個人保護具(PPE)の輸送が急増した。世界各地がロックダウンで生産活動を停止して航空貨物需要を大きく減らした中で、PPEの需要が航空貨物市場を支えていた。各国政府が調達に急いだ結果、大量のマスクが空輸され、チャーター便も数多く運航。旅客便の運休・減便でスペースが大きく縮小していたこともあり、航空貨物運賃は一時、通常時の10倍をつけるような異常事態となった。 コロナワクチンはそれに代わって航空貨物市場を動かす可能性があ

る。今後2年で最大20万パレット分、貨物機1万5000便相当 の 輸送力が必要になると見込まれている。 最大の課題はスペースの確保だ。各地での生産活動の再開で、輸送需要は秋以降に大きく回復している。第2波の感染拡大で欧州など一部において再び制限措置をとる地域もあるが、自動車関連などを中心に需要が戻っている。コロナ禍で中断されていた投資や開発で動き出しているものもある。また、航空輸送においては、海上輸送の深刻なひっ迫状況を受けて、海上から航空にシフトする動きも出ている。 ワクチンの調達では、納期の短縮や安定的なリードタイムが求められるため、航空輸送が主力になると見られる。そうした中、航空貨物の需給は急速に引き締まっており、運賃も上昇している。旅客便復便の動きは遅れており、輸送量が前年並みに戻ってきている一方で、貨物スペースは2〜3割減といった状況だ。PPEが大きく動いた春ごろには需要も減退していたが、ワクチン輸送ではスペースそのものがないという懸念が大きい。特に日本は東京五輪・パラリンピックを控えて、ワクチンの調達が急がれる。日本政府は英アストラゼネカ、米ファイザーなどから計1億人分

以上の新型コロナワクチンの供給を受けることで合意している。生産がさらに増加していく中で、スペースをいかに確保していくかが重要となる。 大手フォワーダーなどは航空機を長期契約するなど、積極的なスペース確保を進めている。仏物流大手のジオディスでは11月頭に、航空貨物機チャーターにより欧州−米国間で実施している定期航空輸送サービスを2021年も通年継続すると発表。アムステルダムとシカゴを結び、週3便で提供する。欧米系大手フォワーダーはコロナで貨物スペースが激減して以来、航空貨物機をチャーターして欧州と米国、アジアを結ぶ定期航空輸送サービスを実施しているが、来年通年でのスペース確保を公表したのは同社が初めて。同社は決定の背景としてワクチンを始めとする医療医薬の需要があるとしていた。

温度管理容器の争奪戦に

 スペース確保に加えてコールドチェーン、特に温度管理容器の確保が大きな懸念事項となる。現在、開発されているワクチンのうち、先行するファイザーやモデルナなどが開発しているのがメッセンジャーRNA

(mRNA)というバイオ技術に基づくものだ。これらは新たなタイプのワ

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医薬品物流特集 32020年11月25日(水) 第3種郵便物認可

クチンで温度管理が非常に重要。医薬品の温度管理で多いプラス2〜プラス8度などの冷蔵ではなく、マイナス70度以下の超低温で保管しなければならないものが多い。 今後、超低温に対応する温度管理容器、またその保冷に必要になるドライアイスは世界的な争奪戦となりそうだ。平時には多くはない超低温での輸送需要が大量発生するために、

 ワクチン輸送では、通常で摂氏プラス2〜8度、種類や開発ステージなどによってはマイナス70度の超低温の温度管理が求められる。ある欧州系航空会社は「(超低温の温度管理輸送は)航空輸送ではなかなか確立されていない」と指摘する。従来、航空貨物輸送でメジャーな管理温度帯は、プラス15〜プラス25度、プラス2〜プラス8度、マイナス15〜マイナス25度−の3つだった。想定されるワクチン大輸送期に向け、航空大手では今年に入り、専門チームやタスクフォースを新たに設置し、ソフト、ハードの受け入れ態勢を整える取り組みを進める動きが活発化している。 従来、温度管理輸送の保冷ツールとしては、ドライアイスが多く用いられてきた。それが、これまでの下限を大きく下回る超低温の需要増で、ドライアイス以外の保冷剤を使用して輸送するパッシブ式温調ソリューションのニーズが強まっている。二酸化炭素

(CO2)排出量削減をはじめとする環境対策が企業に求められるようになり、脱ドライアイスを進める荷主が増えてきているという側面もあるよ うだ。 なぜ、パッシブが人気なのか。特にワクチン輸送では、脱ドライアイス以

容器が足りなくなる恐れがある。また、輸送先が多岐にわたると想定され、使い切りタイプのシングルユースの需要が高まるとみられる。ワクチンメーカーの輸送を手掛ける大手フォワーダーは、複数の容器メーカーからの調達が必要となる。 温度管理については、上記のスペース確保と合わせてより深刻な問題となる可能性もある。航空機には

外の点でも、その強みが発揮されているようだ。まず、現在市場に供給されている主要なアクティブ(電源を搭載する)温調コンテナでは、対応温度の下限がマイナス20度ほどであることが多い。おのずと、超低温輸送では使えない。アクティブは冷蔵庫のように機能し、電源さえあれば時間制限なく容器内の温度を調整、維持することが強みだが、冷風を循環させるなど冷却機構を使用することで、一時的に温度が上昇、低下しがちだという弱点がある。一方でパッシブは魔法瓶のような仕組みで、時間制限以内の輸送であれば、温度スパイク(急激な温度高下)が起こらない。 ワクチンなど医薬品需要は基本的に片道ビジネスだ。使い切りのシングルユース商品も多く、容器の返却が不要な点もメリットとなる。コンテナなど、繰り返し使用するマルチユースの温調ソリューションを利用する場合、在庫台数の調整などにより、発地に返却する必要があった。ところが今年は新型コロナ禍により、国際航空旅客便の供給が激減。発地への返却が困難となるケースが増えた。 これを受け、スウェーデンのエンバイロテイナーでは現在、日本含むアジア発のリース機材を、欧州、米国での現地返却に対応している。

ドライアイスの積み込み制限があり、超低温輸送でドライアイスが大量に必要となる場合、1機当たりのワクチン搭載量も制限されることになる。つまり、貨物機をチャーターしてもワクチンでスペースを埋めることはできず、複数の便に分けて輸送する必要がある。複数便のスペースが確保できるか、フォワーダーの大きな課題となる。

需要急増、温調機器 各社在庫確保へ

 温調ソリューション・プロバイダー各社に話を聞くと、特に今年春から、温調コンテナなど輸送機器の需要が増え続けている。ドイツのバキュテックによると、新型コロナ関連では、す でに韓国発で温調パレットシッパー

(7頁に詳細記事)の出荷需要が、す でに月間100個以上にのぼっているという。同社では、今後、同様のニーズが日本でも発生することを想定し、すでに同種商品在庫拡充など準備を進めている。また、その他の商品も含め、例年以上に生産量を増やしている。 アクティブ商品を展開する他社でも、徐々に在庫を拡大している状況だ。米シーセーフグローバルは「コロナワクチン関連で、航空コンテナ型、パッシブ容器ともに需要が増加している」とする。同社の場合、すでに何千台もの航空貨物ユニットを保有しており余裕があるが、追加生産台数も例年通りの規模を維持。今後の需要増に備えている。エンバイロテイナーも同様だ。すでに世界全体で6000台強の供給があるが、今年も含め、年々生産コンテナ数を拡大し続けてきている。

「マイナス70度」という新たな挑戦

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医薬品物流特集4 第3種郵便物認可 2020年11月25日(水)

 実際、コロナワクチンはいつごろから動き始めるのか。厚生労働省が取りまとめた開発状況の資料を見ると、国内開発のもの(10月23日更新)、海外開発のもの(10月29日更新)いずれも、20〜21年中に一定量を生産、供給されることになる見通しだ。海外開発分で供給契約を締結、合意

した事例を見ると、それぞれワクチン開発の成功を条件に、米モデルナから、武田薬品工業による国内での流通のもと、来年上半期に4000万回分、来年第3四半期に1000万回分の供給を受ける(10月29日契約)。 協議、合意が公表されているものでは、米ファイザーから来年6月末

までに6000万人分のワクチンの供給を受けること(基本合意、7月31日)。英アストラゼネカから、来年初頭から1億2000万回分のワクチンの供給(うち3000万回分については来年の第1四半期中に供給)を受ける

(同、8月7日)こと—になっており、それぞれ最終契約に向けて協議が進められていく(11月上旬時点)。

来年から再来年がピークか

表1 主なコロナワクチン開発の進捗状況(国内開発、厚生労働省発表資料、10月23日時点)

基本情報 取り組み状況 目標(時期は開発者からの聞き取り) 生産体制の見通し

①塩野義製薬感染研/UMNファーマ

※組換えタンパクワクチン

ウイルスのタンパク質(抗原)を遺伝子組換え技術で作成し人に投与

動物を用いた試験で、新型コロナウイルスに対する抗体価の上昇を確認

最短で2020年内の臨床試験開始の意向。

21年末までに3000万人分の生産体制構築を目標生産体制等緊急整備事業で223億円を補助

②第一三共東大医科研

※mRNAワクチン

ウイルスのmRNAを人に投与人体の中でウイルスのタンパク質

(抗原)が合成される

動物を用いた試験で、新型コロナウイルスに対する抗体価の上昇を確認

最短で2021年3月から臨床試験開始の意向。

生産体制等緊急整備事業 で60.3億円を補助

③アンジェス阪大/タカラバイオ

※DNAワクチン

ウイルスのDNAを人に投与人体の中で、DNAからmRNAを介して、ウイルスのタンパク質(抗原)が合成される

第1/2相試験を開始済み(大阪市立大、大阪大)

次の臨床試験を2020年内に開始の意向。

タカラバイオ・AGC・カネカ等が生産予定生産体制等緊急整備事業 で93.8億円を補助

④KMバイオロジクス東大医科研/感染研/

基盤研※不活化ワクチン

不活化したウイルスを人に投与(従来型のワクチン)

動物を用いた試験で、新型コロナウイルスに対する抗体価の上昇を確認

最短で2020年11月から臨床試験開始の意向。

生産体制等緊急整備事業 で60.9億円を補助

⑤IDファーマ感染研

※ウイルスベクターワクチン

コロナウイルスの遺伝情報をセンダイウイルスに載せ、経鼻または注射で投与するワクチン人体の中でウイルスのタンパク質

(抗原)が合成される

動物を用いた有効性評価を実施中

最短で2021年3月から臨床試験開始の意向。

表2 主なコロナワクチン開発の進捗状況(海外開発、厚生労働省発表資料、10月29日時点)

進捗状況 生産・供給見通し 日本国内の状況

A ファイザー(米)※mRNAワクチン

mRNAワクチンを4種開発中。2020年7月に3万人規模での第23相試験を開始。

2020年中に100万人規模~2021年中に数億人規模を目指す。

ワクチン開発に成功した場合、日本に2021年6月末までに1.2億回分を供給する基本合意。日本国内でも第12相試験を開始。

Bアストラゼネカオックスフォード大(英)※ウイルスベクターワクチン

第1相試験完了、英で第23相試験を開始。2020年8月に米で第3相試験3万人規模を開始。

全世界に20億人分を計画、米に3億人分、英に1億人分、欧州 に4億人分、新興国 に10億人分を供給予定としている。

ワクチン開発に成功した場合、日本に1.2億回分、うち3000万回分は2021年3月までに供給する基本合意。海外からの原薬供給のほか、国内での原薬製造をJCRファーマと提携。充填等を国内4社と提携。厚労省が国内での原薬製造及び製剤化等の体制整備に162.3億円を補助(生産体制等緊急整備事業)。日本国内でも第12相試験を8月下旬より開始。

C モデルナ(米)※mRNAワクチン

第2相試験が進捗。2020年7月に3万人規模で米で第3相試験開始。

全世界に5~10億回分年の供給を計画。生産ラインの完成が2020年12月になると報道あり。

武田薬品工業株式会社による国内での流通のもと来年上半期に4000万回分、来年第3四半期に1000万回分の供給を受けることについて契約を締結。AMED(R2年度二次公募)で武田薬品工業を採択。

Dジョンソン&ジョンソン(ヤンセン)(米)※ウイルスベクターワクチン

2020年9月に第3相試験を開始。

2021年 から 大量供給( 順次、世界で年10億人規模)を目指す。

日本国内でも第1相試験を9月1日より開始。

Eサノフィー(仏)※組換えタンパクワクチン、mRNAワクチン

組換えタンパクワクチンに関して2020年第4四半期に米で第1相試験開始を目指す。mRNAワクチンに関しては2021年初頭に第1相試験開始を目指す。

組換えタンパクワクチンに関して、上手くいけば2021年下半期に実用化の見込み、と発表。

F ノババックス(米)※組換えタンパクワクチン

2020年9月に第3相試験を開始(英国)。

2020年遅くに1億回分年の生産が目標。

タケダが原薬から製造し販売予定。タケダが1年間で2.5億回分を超える生産能力を構築すると発表。生産体制に厚労省がタケダに301.4億円を補助(生産体制等緊急整備事業)。AMED(R2年度二次公募)で武田薬品工業を採択。

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医薬品物流特集 52020年11月25日(水) 第3種郵便物認可

 日航関西エアカーゴ・システム(JALKAS)は高まる医薬品貨物需要を受けて品質の維持・向上に務めるとともに、医薬品取扱施設の拡充を視野に入れている。2019年6月にはグランドハンドリング会社として日本で初めて、国際航空運送協会(IATA)の医薬品輸送品質認証「CEIVファー マ」の認証を取得。関西空港のコミュニティ「KIX Pharmaコミュニティ」の一員でもある。 社内には安全品質・人財開発部に

「医薬品輸送グループ」を設置している。月に2回の責任者会議、部長級・課長級会議を含むさまざまな機会を利用して医薬品貨物取り扱いに関するミーティングを実施。施設運営・ハンドリングに関しては、委託事業者を含む月例ミーティングを通じ

て最新情報の共有、オペレーションのブラッシュアップに務めている。 施設面では、JAL輸出貨物ターミナルに医薬品専用庫(2〜8度帯)、JALKAS 輸入貨物ビルに医薬品専用庫(15〜25度帯)および医薬品専用エリア(2〜8度帯)を確保。輸入貨物ビルの医薬品専用庫は輸出および輸入貨物の双方を取り扱っている。これにより輸出入貨物ともに、「2〜8度帯」「15〜25度帯」それぞれでの取り扱いを可能としている。 CEIVファーマに基づく取り扱いが指定されている医薬品関連輸入貨物の取扱量は月間100トンを超える月もある。 山川英道社長は「新型コロナ用ワクチン輸送に備えるとともに、今後の医薬品輸送需要の高まりを見据え

て、品質およびサービスをさらに充実することが重要だ」と説明。「現在の関西空港国際貨物地区内の施設に加えて、空港島外に目を向けて高度なスペックを備えた施設確保への本格的検討に着手している」と語る。 企画総務部(医薬品輸送担当)の川原育也部長は「医薬品貨物を取り扱うすべての担当者が温度管理輸送の重要性の理解を深めることが何より重要だ。トレーニングを通じて常に品質維持・向上に努め、それを実践している。医薬品輸送に求められる知識と作業品質を常にアップデートしている」と話す。

医薬品関連貨物対応の新施設検討▶日航関西エアカーゴ・システム

CEIVファーマ認証取得に関して日本航空貨物郵便本部長表彰を受けた。(写真左から5番目が日本航空の岩越宏雄執行役員貨物郵便本部長、6人目がJALKASの山川英道社長)

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医薬品物流特集6 第3種郵便物認可 2020年11月25日(水)

  大隅物流( 本社=茨城県稲敷市 )は、医薬品専門の貨物自動車運送事業を主力事業に、さまざまな形で医薬品の国際物流に携わっている。スイスのELPRO(エルプロ)の日本正規代理店として、貨物の温度計測などに用いる各種データロガーを販売するほか、温度管理ソリューションの開発・製造を手掛ける、独バキュテックの日本におけるコンテナ管理業務を請け負っている。 現在、大隅物流が保有する、保冷装置を搭載した医薬品専用車両は、 1トン車1台、3トン車5台、4トン車および10トン車が各5台の計16台。プラス温度帯のみに対応する1トン車以外は、マイナス20度〜プラス25度の幅で荷室の温度設定をすることができる。

 12月1日から、本社敷地内に医薬品専用温調庫「ファーマクロスドック」を運用開始する。プラス2〜8度、プラス15〜25度がそれぞれ74平方メートルの、合計約148平方メートルの施設だ。保冷剤の調温や、航空輸送される前の内国貨物としての一時蔵置などといった需要に対応する。同温調庫内で温調コンテナやボックスに移し替える「クロスドッグ」作業を行う施設として運用していく。 同施設では、出入り口に大型の扉を備えており、フォークリフトでそのまま倉庫内に入り、作業を行うことができる。床全面に特殊塗装を施し、クリーンルーム(防塵室)の環境に近づけた。また、それぞれの区画に配置した温調機器は1台ずつ単独ユニッ

トとなっており、故障しても他ユニットにより稼働するよう、GDP(医薬品の適正流通基準)上のリスクマネジメントを考慮した設計となっている。 同社は運送会社として唯一、国際航空運送協会(IATA)の 医薬品輸送品質認証「CEIVファーマ」取得を目指す、成田国際空港会社が主導する「成田空港コミュニティ」に参加している。施設整備から国際認証まで、準備に万全を尽くし、今後も安全な医薬品の国際物流に寄与していきたい考えだ。

医薬品向け温調庫稼働、CEIVも▶大隅物流

フォークリフトでそのまま「ファーマクロスドック」内に入れる

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医薬品物流特集 72020年11月25日(水) 第3種郵便物認可

 温度管理ソリューションの開発・製造を手掛ける独バキュテックの、真空断熱 パ ネ ル(VIP)と 潜熱蓄熱材(PCM)を組み合わせたパッシブ型温調ソリューションの引き合いが年々強まっている。日本法人のバキュテック・ジャパンでは、2019年の売上高は前年比10倍で、20年はそれをさらに上回った。高崎武裕カントリー マネジャー は「 可能な限り日本での在庫を増やして今後のさらなる需要増に備えている。本社でもボックス、コンテナともに増産体制に入っている」とする。 昨年から、使い切りタイプの段ポール製パレットシッパー「バキュパル(va-Q-pal)」を日本でも提供開始した。同製品の搭載容量はUSパレット1枚(1677リットル)で、外寸は

147×124×158センチ、内寸は127×104×127センチ。マイナス25〜マイナス15度、プラス2〜プラス8度、プラス15〜プラス25度を約96〜120時間維持する。この性能の高さ、取り回しの良さから人気商品となっている。 高崎マネジャーは同社製品について「魔法瓶のような仕組みで、温度スパイク(急激な温度高下)がないのが強みだ」と説明する。さまざまなサイズ、温度帯需要に合う多様な商品展開、日本人スタッフが問い合わせから受注、アフターサービス、クレームまで一貫して日本語で対応するサービスも強みとなっている。 日本では、バキュパルおよびコンテナ型「バキュテイナー(va-Q-tai ner)」シリーズは大隅物流(茨城県

稲敷市)に、シングルユースのボックス型「バキュワン(va-Q-one)」シリーズはユニトランス(大阪府茨木市)に管理業務を委託している。 現在、バキュワンは4〜74リットルの5サイズを展開。3温度帯(マイナス15〜マイナス25度、プラス2〜プラス8度、プラス15〜プラス25度)で調温済みの状態での販売も行っており、ヒット商品となって いる。

パレットシッパーも提供開始▶バキュテック

昨年からの新商品「バキュパル」の売れ行きも好調だ

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医薬品物流特集 92020年11月25日(水) 第3種郵便物認可

 平野ロジスティクス関西支店は高まる医薬品取り扱い需要に対応するべく、専用車両の導入、社内教育に注力するなど品質向上に務めている。国際航空運送協会(IATA)の医薬品輸送品質認証「CEIVファーマ」取得に向けた準備も着々と進めており、2021年の認証取得を目指している。 平野ロジスティクス関西支店は現在、関西空港対岸にあるりんくう国際物流センターにオフィスを構えている。関西空港内には第2国際貨物代理店ビルで保税倉庫を運営。保税蔵置場面積は746平方メートル(うち屋外268平方メートル)。昨年7月に保税蔵置許可を取得した。 医薬品関連貨物の取り扱いにあたっては現在、大型車(10トン車)や4トン車を含めて専用車両を充実

させている。関西エアポート、同空港の医薬品専用共同定温庫「Kix-Medi ca」、 同定温庫 を 運用 し て い るCKTSのロゴを施した「Medica号」も運行している。作業時間を短縮するため、製薬会社の強い希望で採用したエアジョルダー搭載の専用車両も強みだ。同車両にはサーキュレーターを装着しており、庫内温度がより安定する構造となっている。 平野ロジスティクスの医薬品関連輸送には、フォワーダーをはじめとする物流会社、製薬会社の事業案件も多い。田中基康・西日本担当営業部長兼関西支店長は「医薬品関連輸送の引き合いは増加傾向にある。例えばIATAのCEIVファーマ認証取得企業の輸送を受託するにあたっての品質協定書の締結案件も増えている。

製薬会社との直接取引を通じて医薬品を取り扱うためのノウハウを蓄積し、品質を着々と高めてきた。CEIVファーマ認証の取得過程を含めて、さらなる品質向上、社内体制の強化に務めたい」と強調する。 西端純一支店長代理は「医薬品取り扱いに関しては、求められる品質が年々高まっている。それを常に先取りして社内手順・基準を更新することが重要と考えている。ハードおよびソフトともに一層の品質向上を図っていく」と強調する。今後の医薬品取扱需要の高まり、さらには新型コロナウイルス用ワクチン需要といった動向を注視しながら体制を充実させる方針だ。

CEIVファーマ認証取得目指す▶平野ロジスティクス

医薬品専用車両を充実させている

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医薬品物流特集10 第3種郵便物認可 2020年11月25日(水)

  小松空港は、1994年にカーゴルックス航空による欧州向け国際航空貨物便が就航し、2011年から同社の北米便が就航。さらに16年に、シルクウェイウエスト航空によるアゼルバイジャン便が就航した。 小松空港の特徴は日本の中央に位置し、全国からの集荷・配送の利便性が高いこと、地方空港(小さな空港)ならではの迅速・丁寧な貨物の取り扱いに定評があることが挙げられる。北陸地域だけではなく、東京圏や中京圏、関西圏からバランスよく集荷されており、丁寧な貨物の取り扱いが必要となる精密機械部品などが全国から集まる。温度変化に敏感な医薬品も、取り下ろし後、15分程度で冷蔵庫に入るスピーディーな取り扱いが荷主企業からも好評を得ている。医薬品に限

らず温度管理に関しても大規模空港と比べて非常に環境が良い。 貨物専用機のスポットからわずか100メートルの距離に貨物上屋があり、取り降ろし後、すぐに冷蔵倉庫や5台のコンテナ型冷凍・冷蔵庫に収められる。 小松空港では、荷主に対して大規模空港からの切り替えを提案。温度データーロガーを付けて、大規模空港と小松空港で同時に試験輸送を行ったところ、大規模空港で温度逸脱が発生したが、小松空港ではそのようなことは起こらなかった。小さな空港であるがゆえに貴重な貨物に目がよく行き届き、貨物の取り扱いが丁寧かつスピーディーに行われている。通関などの手続きが速い要因の一つにもなっている。

 カーゴルックス航空は14年1月に航空会社として初の欧州連合(EU)・GDP認証ホルダーになっているが、05年から医薬品の温度管理輸送に本腰を入れ、実績を積み増してきた。こうしたカーゴルックス航空のクールチェーンを小松空港が支えている。 小松空港の貨物担当者は「小松空港では、現在、新たな貨物専用機のスポットを整備しており、さらなる国際航空貨物の拠点化を進めている。関心のある方は、試験輸送の助成制度もあるので、大規模空港からの切り替えを試してもらいたい」と話す。

迅速・丁寧なハンドリングに強み▶小松空港

小松空港は国際航空貨物の拠点化を進めている

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医薬品物流特集 112020年11月25日(水) 第3種郵便物認可

 海上コンテナのトレーディングを中心に事業展開しているEFインターナショナルは、新型コロナウイルス用ワクチン輸送に対応するリーファーコンテナの販売に力を入れている。 現在、EFインターナショナルはISO国際海上コンテナなどの売買、リースおよび付帯業務、コンサルタント業務などを手掛けており、世界的な輸送用冷凍・冷蔵機器メーカーであるサーモキング社(THERMO KING)の日本代理店も務めている。 サーモキング社のリーファーコンテナの主力商品は「スーパーフリーザー」(SUPER FREEZER)とマグナム・プラス(MAGNUM PLUS)の2種類。このうちスーパーフリーザーは1996年に生産を開始。マイナス60度の超低温冷凍性能(設定範囲=マイナス10度〜同60度※摂氏、以下同)が特色だ。マグナム・プラスは2009年に生産を開始。温度設定範囲はプラス30度〜マイナス40度となっている。これらリーファーコンテナは厳密な温度管理が求められるさまざまな輸送に対応するコンテナとし

て世界的に活用されている。 さらにサーモキング社はこのほど、スーパーフリーザーの機能をさらに向上させて、マイナス70度の温度管理が可能となった。船社や物流企業により長年使用されてきた信頼性をベースとしながら、ワクチン輸送の要件を満たした「マイナス70度」の温度管理を20フィート仕様のリーファーコンテナで実現。コールドチェーンを途切れさせることなく、コンテナ船による海上輸送、鉄道、陸上輸送などのモードでも安定したワクチン輸送を提供できる。また、THERMO KING社製の発電機を併用すればシャーシによる陸上輸送中でもさらなる安定した温度維持が可能だ。 EFインターナショナルの阿部竜士執行役員営業第三部部長は「長年ご愛顧いただいているスーパーフリーザーの性能が向上して『マイナス70度』の温度管理が実現した。製薬会社の工場からワクチンを接種する方々の手元に至るまで、一貫した温度管理輸送サービスの提供が可能だ。ワクチン輸送は人々の健康を守るための重要なミッション。

使命感をもってワクチン輸送に貢献できれば、と考えている。」と話す。 営業第三部 の 大和田千鶴氏は

「スーパーフリーザーは輸送だけではなく、超低温の『保管機能』を提供するコンテナとしての活用も可能だ。例えば新型コロナ用ワクチンを提供するにあたって、病院などワクチンを一時的に保管するための設備としての活用にも、その威力を発揮することが期待されている」と説明する。

▶EFインターナショナル

スーパーフリーザー

マグナム・プラス

「マイナス70度」でワクチン輸送に貢献

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医薬品物流特集 132020年11月25日(水) 第3種郵便物認可

 日本通運は医薬品を重点強化産業の1つに据えて体制整備を進めている。GDP(医薬品の適正流通基準)の要求事項をハード、ソフト両面で実現してより安心・安全な医薬品供給が可能な医薬品サプライチェーンネットワークを国内外で構築し、高い専門性と厳格な品質管理が求められる医薬品の物流ニーズに応える。 医薬品分野の強化を進めるため、今年7月に新設組織として「医薬品事業部」「医薬品物流品質保証室」を設置した。オペレーション体制、人財育成および品質保証体制などを全社統一の基準で推進する。 国内ネットワークについては、核となる医薬品専用施設4拠点(東日本、西日本、九州、富山)が来年初頭までに順次稼働する予定だ。10月には第

一弾として福岡県北九州市の「九州医薬品センター」が竣工した。GDPに基づく品質管理に加え、医薬品供給のBCPへの対応、従来、顧客それぞれで実施していた倉庫での保管および輸送の共同化や、車両のラウンドユースによるトラックドライバー不足への対応、業務効率化が可能なプラットフォームを構築する。医薬品専用車両も50台以上を導入し、来年2月に本格的なサービス開始を控える。 海外でも、世界各地のインフラ・輸送力を組み合わせたネットワークの整備・強化、GDP認証の取得を進めている。欧米主要都市やインドでの取得実績があり、さらなる認証拠点拡充とともにアジア各国での取得も計画する。また、米国では医療・医薬品に特化した物流会社MDロジスティ

クスを子会社化した。引き続きM&Aを含めて世界各地での保管配送ロジスティクス強化も進める。 IoTやブロックチェーンといった先端技術を活用したデジタルプラットフォームも構築。温度管理をはじめとした物流情報を閲覧・管理できるもの。エンド・ツー・エンドでの物流情報を捉え、貨物追跡や業務効率化に貢献する。まず来春にトレーサビリティ提供サービスから開始するが、同PFでは将来的に、商流領域でのサービス展開、またオープン化で関係者が共同利用できるような仕組みの構築も進めていく。

国内外で医薬品SCネットワーク構築▶︎日本通運

国内で医薬品専用施設の開発を進める。写真は九州医薬品センター

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医薬品物流特集14 第3種郵便物認可 2020年11月25日(水)

 近鉄エクスプレス(KWE)は新型コロナウイルス感染症ワクチンの輸送取り扱いに対応するためのタスクフォース(TF)を組織した。今後見込まれる輸送スペースや温度管理容器の不足、品質や安全性確保などの課題への対応を図るとともに、需要の取り込みを行っていく。 タスクフォースはヘルスケア担当チームに通関、スペース調達、ヘルスケア専用施設の担当者を加えて組織した。製薬企業などへヒアリングを進めて需要の特定・把握を図るとともに、定例会議を実施し、各部署や世界各地のヘルスケア担当者と連携を図り、輸送需要への対応を行っている。 ワクチン輸送は品質やスピードが求められ、航空貨物での輸送が中心になると見られる一方、旅客便の復

便は進んでおらず、スペース不足が懸念される。また、温度管理コンテナについても不足が深刻化する懸念もある。KWEのタスクフォースには仕入れ担当者も参加しており、本格的な調達が開始される前段階において航空会社や温度管理容器プロバイダーとの情報交換を進めている。 ヘルスケア関連のノウハウも生かせる。同社は医療医薬の輸入取り扱いを得意としており、数十名のヘルスケア専門通関チームを擁し、国内法令に精通した通関士による申告・書類業務を行い、上屋・倉庫業者、配送業者への温度管理指示も的確に行っている。保管・配送などのロジスティクス業務についても、ヘルスケア専用施設である千葉・市川市の第4原木ターミナルを中心に実績を積み上げ

ている。同施設では、冷蔵・冷凍・超冷凍の各種温度帯に対応可能だ。 ワクチン対応は今後、子会社の近鉄ロジスティクス・システムズ(KLS)との連携も図っていく。KLSは治験や検体、診断機器などの医療・医薬関連品の国内輸送を取り扱っており、温度管理輸送やコンプライアンス対応のトレーサビリティに定評がある。ワクチン輸送に向けて安全性や透明性の向上を図っていく。同社ではPCR検査検体の取り扱い実績も増えており、ワクチン輸送の課題への対応とともに拡大を進めていくという。

ワクチン対応強化でTF組織▶近鉄エクスプレス

ヘルスケア部門の拡大に取り組むKWE(左3名)・KLSのメンバー

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医薬品物流特集 152020年11月25日(水) 第3種郵便物認可

 ドイツポストDHLは今年9月3日、新型コロナウイルスのワクチン輸送に関するホワイトペーパー(白書)を発表した。世界最大手の物流事業会社がいち早くまとめた白書は大きな注目を集めた。白書によると、今後2年でのワクチンは100億回分に上り、その輸送規模は、最大20万パレット、温度管理容器で1500万回、航空(貨物機換算)は1万5000便。温度管理では一般的な2〜8度帯に加え、RNAタイプなどでマイナス70度、最大マイナス80度の超低温管理が必要とした。 世界規模での安定的なワクチンサプライチェーン(SC)構築に向け、各国・地域で官民でのパートナーシップ確立を焦点とする。気候・天候への対応、品質保証・管理、通関手続き、インフラ未発達の地域でのエンドユーザーへの配送・一時保管、再冷却、さらに静脈物流

までが求められる。 同社カスタマーソリューションズ & イノベーション(CSI)のアジア太平洋地域バイスプレジデントでライフサイエンス&ヘルスケア部門代表を務めるレオノラ・リム氏は「当社はライフサイエンス分野で20年以上の経験があり、9000人を超える専門スタッフによるコミュニティを確立している。倉庫や配送網などの物理的なインフラに加えて、世界各地で118カ所に専任者を配した特別施設がある。それらをワクチン輸送に活用していく」とし、「インフラのどこにギャップがあるのかを特定し、それを埋めるための対応を、対話を通じて進めていく」とする。 DHLエクスプレスは従来からライフサイエンス業界向けサービスで「DHLメディカルエクスプレス」を提供してきた。冷凍(マイナス20度)、冷蔵(2

〜8度)、常温(15〜25度)の3温度帯に対応し、冷凍と冷蔵では自社開発の専用梱包資材を活用する。取扱対象品目は、生物由来物質カテゴリーBに分類される検体(国連規格UN3373に該当)、治験薬、検査キット、医薬品原料など。最優先のハンドリングを行い、選任スタッフが集荷・配達を担当。輸送管理センターでは現地の交通状況を24時間モニタリングし、不測の事態に際して、代替輸送手段・冷蔵施設の手配などの対処を指示する。 培った実績と知見を新型コロナのワクチン輸送に生かしていく。

世界的ワクチンSC構築に貢献を▶DHLエクスプレス

DHLメディカルエクスプレスでは自社開発の専用梱包資材を活用する

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医薬品物流特集16 第3種郵便物認可 2020年11月25日(水)

 阪急阪神エクスプレスは医療医薬分野で高度な物流管理に強みを持つ。IATA CEIV Pharma( 以下、CEIVファーマ)認証をベースに品質の維持・向上を図っていく。現在、先行する西日本地区に続き、東日本地区でも品質認証の取得準備を進めており、全国での対応を強化する方針だ。 同社は長年にわたり、医薬品や医療機器の輸出入通関、ロジスティクス業務を手掛けてきた。西日本の3営業部を担当する勝井啓介執行役員は「安定的な成長が見込める産業であり、拡販を図っていきたい」とさらなる拡大に意欲を示す。特に重視するのは品質面。関西地区では輸出入、ロジ、通関、品質管理の各部署の担当からなるプロジェクトチームが品質維持/サービス向上と新規顧客の開拓に努めている。同社は2019年6月に関西国際空港コミュニ

ティの初期メンバーとしてCEIVファーマ認証を取得。以降、月次で品質会議を開催して、品質目標に対する実績、顧客からのフィードバック、逸脱事例の検証、その後のCAPA(Corrective Action & Preventive Action、是正処置及び予防処置)の取り組みなどから業務実績を検証・評価し、品質の維持、向上に努めている。また成田空港でのCEIVファーマ認証取得も、通関と輸出入営業部隊のメンバーで構成するプロジェクトチームを立ち上げ、取り組みを加速させている。 認証取得と併せ、医薬品輸送に特化した教育プログラムの構築、物流・サプライチェーンの可視化(リスク管理、トレーサビリティ)に注力していくほか、海外、特に欧州現地法人との連携を強化して輸出入ともにGDPに準拠した輸送体制の構築を図るなど、オペ

レーションの強化・改善も進めていくとしている。寺﨑正彦東日本輸入ロジ営業部長は「輸入通関から配送まで顧客要望に合致したオーダーメイドの高品質なサービスを提供できる点も強みとなっている」と話す。輸出でも、今夏より米国向け医薬品のトライアル出荷を実施、「保冷シミュレーション梱包」を提案し、温度逸脱なく輸送を完遂している。顧客の製薬会社とのGDP品質協定書や輸送計画書に基づく業務フローを着実に遂行するとともに、各ベンダーとの連携を密にして、輸出入・ロジスティクスの一貫物流サービスを提供していく。

認証取得で品質維持・向上へ▶阪急阪神エクスプレス

関西地区では輸出入、ロジ、通関、品質管理の各部署の担当者でプロジェクトチームを組織し、品質向上と営業展開を進めている

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医薬品物流特集 172020年11月25日(水) 第3種郵便物認可

 郵船ロジスティクスは、医薬品に精通した専門チームを国内外で編成し、組織力で品質向上に努めている。関西空港で他社に先駆けてIATAのCEIVファーマを取得し、今年、関空近隣施設に「医薬品専門チーム」を新設。空港外の配送も含み、ドア・デリバリーまで品質を担保するオペレーション体制を確立した。成田空港でも今年度内のCEIV取得を目指す。 関空では「KIX Pharmaコミュニティ」に加わり、2018年9月にコミュニティ参加6社の中で最初にCEIV認証を取得した。今年、関空対岸のりんくう地区の「西日本営業本部航空オペレーションセンター」に「専門性の高いスキルを持つ人員で構成する医薬品専門チームを立ち上げた」

( 西日本営業本部大阪支店営業一

課・髙島勇介課長)。配送品質を備えるトラック会社と保冷輸送などに係る「サービスレベルアグリーメント」を明文化し、契約を結ぶ。「CEIV認証の基準に応じるトラック会社と提携し、(外注となる)ドア・デリバリーまで顧客に求められる品質に対応したサービスを提供している」(同支店営業二課・後藤洋介課長)。 「成田空港コミュニティ」にも参加している。既に、2月にIATAの監査を受け、年度内のCEIV取得に向けて品質関連のドキュメンテーションの調整などの準備を進めている。東日本第二営業本部産業第二支店医薬品営業課の宇田川貴司課長は「(CEIVなどの)認証取得は製薬会社の信頼度を高めることにつながる」と話す。 郵船ロジは、特に欧州での医薬品

物流に強 い。欧州域内5万地点 の医療・医薬品の定温混載輸送サービス「ファーマ・スーパーハイウェイ」では、クロスドック五十数カ所、車両1500台を活用して年約200万パレットを運ぶ。蘭ローゼンダール、ベルギー・アントワープには医薬品専用倉庫を置く。同社の「グローバルヘルスケアチーム」は世界中でのGDP認証取得・準拠を推進し、日本、欧州に加えて米国で積極的に実施している。グローバル組織「GHQ」のBD&SCSグループ・ヘルスケアチームの星野張浩氏は「GDPは各地で目標を設定して推進している」と言う。

専門チーム編成、認証取得・準拠推進▶郵船ロジスティクス

蘭ローゼンダールの医薬品専用倉庫

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医薬品物流特集18 第3種郵便物認可 2020年11月25日(水)

 日陸は今年6月に危険物に関わる医薬品に特化した物流施設「土気流通センター」を開設した。危険物施設では数少ない、流通・加工(検品、ラベル貼付、仕分け作業など)が可能な施設となっており、ワンストップサービスを提供する。11月には保税蔵置場の認可も取得した。 同社は医薬品分野の拡大を進めており、得意とする危険物の知識や取り扱いノウハウを生かしたサービスを提供するため、同施設を新設した。土気緑の森工業団地(千葉市)内の敷地約4万9000平方メートルの用地に建設。危険物、一般品を取扱う施設で構成されている。医薬品の適正流通基準(GDP)の要件を満たしており、薬剤師も2名が常勤する。危険物施設は入庫から出庫まで、衛生状

態を保ちつつ、流通加工まで提供できるのが特徴だ。同社の吉川一良営業統括部営業二部副部長によると、衛生管理された危険物施設で流通加工ができる施設は全国でも数少ないという。防爆仕様とする必要がある中、何重もの防虫・防塵対策を講じた。照明や作業用ライトからフォークリフトに至るまで全て防爆対応のものを整備している。 吉川副部長はさらに、施設規模や温度管理設備にも自信を示す。「各棟に自動ラックを導入し、効率も高めている。施設面積は非公表だが、医薬品関連危険物の営業施設としてここまでの規模のものはほとんどない」とする。温度管理についても施設内は空調を完備するほか、複数の保冷施設があり、1〜30度の管理ニー

ズに対応できる。さらにパートナー企業で医薬品輸送の専門運送業者である葛生運送との連携により、集荷・配送までのエンド・ツー・エンドでの温度管理サービスも提供可能だ。 アルコール消毒液などの取り扱いが好調で施設は既にほぼ満床の状況。今後は流通加工が必要な案件を獲得し、さらなる施設の有効活用を進めていく方針だ。さらに、保税の機能を生かし、輸出入貨物の一貫物流のニーズにも応えていくとする。吉川副部長は「流通加工作業をメインに考えている。実績を積み、その上で増床や、ノウハウの横展開などを検討していきたい」と話す。

危険物医薬品専用施設が開業▶日陸

土気流通センター

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医薬品物流特集 192020年11月25日(水) 第3種郵便物認可

 航空集配サービスは医薬品の取り扱い拡大に向けてサービス拡充を進める。GDP(医薬品の適正流通基準)やコンプライアンスに対する意識の高まりから求められる品質向上・衛生管理の徹底を図っているほか、直近では成田空港近郊の拠点で医薬品専用倉庫を拡充した。今後は荷主の多様なニーズへの対応として、医薬品に適した梱包サービスやトラック輸送の強化を図っている。 成田空港外に構える成田ロジスティクス支店では医薬品専用の3温度帯倉庫「KCOLD」を運営している。同倉庫は従来温度管理施設として利用していた一部を、2018年に医薬品専用としたもの。GDP基準に準拠した品質の物流サービスが提供できるのが特徴で、多数の製薬メー

カーの監査実績を持つ。また、GDPやCEIVファーマの認証を持つ企業が指定倉庫としても利用している。 引き合いは年々増加しており、需要への対応として今年度に入りスペースを拡張した。医薬品以外の用途で使用していた1区画(255平方メートル)を医薬品の衛生基準に対応するよう改修した格好だ。現在のKCOLD の倉庫面積は、冷蔵(2〜8度)が466平方メートル、定温(15〜25度)が264平方メートル、冷凍

(マイナス20度)が23平方メートル。前室(66平方メートル)も設けられており、貨物が直接、外気に触れない仕様となっている。 梱包サービスの強化にも取り組んでいる。コンテナや容器/資材メーカーの開拓や関係強化を図り、アク

ティブ/パッシブでの温度管理輸送のノウハウ蓄積を図る。同社の川嶋健善執行役員・東日本営業本部成田ロジスティクス支店副本部長・支店長は「輸送容器も多様化しており、顧客も選択肢が増えている。それらに対応するとともに、貨物の特性に併せたパッケージを含めた物流提案ができる体制を構築する」と話す。 今後はトラック輸送の拡充を図っていく方針だ。川嶋執行役員は「集荷・配送のニーズも増加している。車両の増強により、エンド・ツー・エンドの物流サポートを強化していきたい」と意気込む。

ニーズ対応で梱包・輸配送強化▶航空集配サービス

川嶋健善執行役員(中央)ら東日本営業本部で医薬品拡大に取り組むメンバー

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