91
アスベスト成形板対策マニュアル 平成 29 12

アスベスト成形板対策マニュアル...1 1 成形板等の基礎 アスベスト含有建材(アスベストの質量が当該建築材料の質量の0.1%を超えるものを

  • Upload
    others

  • View
    3

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • アスベスト成形板対策マニュアル

    平成 29 年 12 月

  • はじめに

    平成 17 年、アスベストが大きな社会問題として再燃して以降、この問題への対応が官民を問わず急速に進みました。 国は労働安全衛生法をはじめ、大気汚染防止法、廃棄物処理法、建築基準法

    などの諸法令を改正し、あらたな被害者を生じさせないためにアスベストの飛

    散防止対策を強化するとともに、石綿による健康被害の救済に関する法律を制

    定し、被害者救済制度の整備を図りました。 多くの自治体も独自の条例等により、建築物対策を中心とした被害者の発生

    防止対策を推進しました。 また、アスベストに関連する企業の中には、被害者に対する独自の救済策を

    講じるなど、工場周辺の住民をも含めた対策を講じる事例が少なくありません。 東京都では、平成元年から総合的なアスベスト対策を進めてきており、都民

    の健康と安全を確保する環境に関する条例(「環境確保条例」)では、従来から

    大気汚染防止法より広い対象について、解体時等におけるアスベスト飛散防止

    対策の遵守を規定し、国の法改正に対しても、逐次条例の整備を行っています。 法令整備が進んだ現在、これらの規定について現場で実効性を確保すること

    が今後の重要な課題といえるでしょう。 解体時等における飛散防止対策は多くの法令により規定されていますが、そ

    の対象となる建材は主に飛散性の高い吹き付け材や保温材などです。 しかし、過去に使用されたアスベスト含有建材の多くが非飛散性の建材、い

    わゆる成形板であり、日常的には飛散の危険性が少ないこれらの建材について、

    解体時等における飛散の実態や飛散防止対策の方法はよくわかっていないのが

    実情です。 そのため、東京都では平成 18 年 6 月に名古屋俊士(なごや としお)早稲田大学理工学部教授を座長としてアスベスト成形板対策検討会を設置するととも

    に、解体現場における実証実験やチャンバーにおける破砕実験などを実施して

    きました。 この検討会では建築物やアスベストに関連する多くの業界団体から委員やオ

    ブザーバーとして参加をいただき、現場において実効性のある対策について鋭

    意検討をいただきました。平成 19 年 2 月、検討会から最終報告を受け、これに基づき策定したのが本マニュアルです。 今後、このマニュアルにより成形板対策が徹底され、アスベストの飛散防止

    がより一層的確に実施されることを期待しています。

    平成 19 年 3 月 東京都環境局環境改善部

  • 改定に当たって

    解体時等におけるアスベスト飛散防止対策の更なる強化を図るため、大気汚

    染防止法の改正に合わせて、環境確保条例においても、条例に基づく作業上の

    遵守事項に作業記録の保存義務等を追加するなどの改正を行い、平成 26年 6月

    に施行されました。

    この改正を受けて、都では、初版策定以降の関係法令等の改正内容等も踏ま

    え、本マニュアルを改定することとしました。改定の内容は次のとおりです。

    ・ 大気汚染防止法第 18 条の 17 に新たに規定された解体等工事に関する調査

    及び説明等に係る事項を追加

    ・ 作業上の遵守事項に係る事項を平成 26 年 5 月 29 日東京都告示第 830 号の

    内容に合わせて整理

    ・ 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令の改正(平成 23年4月1日施行)

    及び石綿障害予防規則の改正(平成 26年 6月 1日施行)並びに関係規程の改

    正に伴い文言を整理

    ・ アスベスト成形板製品リストを削除し、石綿(アスベスト)含有建材デー

    タベース(経済産業省・国土交通省)の URLを記載

    ・ 石綿セメント円筒及び石綿含有仕上塗材の扱いについて明記

    このマニュアルにより、今後も引き続き成形板対策が徹底され、的確なアス

    ベストの飛散防止が実施されることを期待しています。

    平成 27年 1月 東京都環境局環境改善部

  • 目次

    はじめに

    1 成形板等の基礎

    1-1 成形板等の種類と用途・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

    1-2 国内建材市場におけるアスベスト含有建材の現状等・・・・・・・・・・12

    1-3 アスベストによる健康影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

    2 解体時等における飛散防止対策

    2-1 一般的な作業の流れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

    2-2 事前調査及び事前準備作業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

    2-3 設備機器類の撤去・搬出・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

    2-4 成形板等の除去方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27

    2-5 後片付け・仕上げ清掃・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39

    2-6 廃棄物の処理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40

    2-7 その他留意点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46

    3 関係法令等の概要

    3-1 工事開始前・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49

    3-2 工事中・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57

    3-3 工事完了後の措置・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62

    3-4 その他留意点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72

    参考資料

    参考資料1 アスベスト成形板に係る解体時等における飛散状況実態調査及び破砕実験

    参考資料2 国及び業界団体等の実施した調査事例

    参考資料3 アスベスト成形板対策検討会の概要

    問合せ先・届出窓口

    参考文献

    写真資料提供元一覧

  • 1

    1 成形板等の基礎

    アスベスト含有建材(アスベストの質量が当該建築材料の質量の 0.1%を超えるものを

    いう。)は、工法及び材料の見掛け密度などから、アスベスト含有の吹付け材、保温材等、

    成形板等に分類することができる。本章では、アスベスト含有成形板等の種類や用途、国

    内建材市場における流通量等を記載する。

    1-1 成形板等の種類と用途

    アスベスト含有成形板等(以下「成形板等」という。)とは、吹付け材、保温材等以外

    のアスベスト含有建材で、主に、耐火、耐久性、耐候性等を目的に、内装材、外装材、屋

    根材等に使用されている建材である。また、一部を除き、見掛け密度が概ね 0.5g/cm3以

    上であり、成形された硬い材料がほとんどである。

    大気汚染防止法では、成形板等は、同法施行規則で定める作業基準の遵守を含め、規制

    の対象外である。一方、環境確保条例においては、建築物等の解体又は改修の工事施工者

    に対して、成形板等の取扱いも含めて「作業上の遵守事項」に従って工事を施工すること

    が義務付けられている【環境確保条例第 123 条第 2 項】。ただし、成形板等のみを使用し

    た建築物等については、解体又は改修に係る飛散防止方法等計画の届出は必要ない【環境

    確保条例第 124条第 1項】。

    労働安全衛生法施行令の改正により、平成 16年 10月から、石綿セメント円筒を含む 5

    種類の成形板等の製造・使用等が禁止された。これに伴い、該当する建材の JIS 規格のう

    ち、アスベストの使用が規定されていたものについては、廃止又は 2004 年版においてア

    スベスト以外の繊維を使用するよう改正された。

    表 1-1 アスベスト含有成形板等の主な種類、用途、規制等の状況

    (東京労働局パンフレット「アスベスト対策-予防から救済まで-」をもとに作成)

    ※ JIS A 5430:2001 の規格における「繊維強化セメント板」には、成形板等に分類されるものとして、スレート波板、スレ

    ートボード(フレキシブル板・軟質フレキシブル板・平板・軟質板)、パーライト板、けい酸カルシウム板第一種、スラグ

    せっこう板がある。

    成形板等の主な種類 主な用途 規制等の状況

    石綿含有ロックウール吸音天井板 天井の吸音 概ね昭和 62年頃に製造中止 ビニル床タイル ビニル床シート 床 石綿含有のものは、昭和 63年までに製造中止

    パルプセメント板 内壁、天井、軒天 石綿含有のものは、平成 16年までに製造中止

    スレート・木毛セメント積層板 屋根の下地、壁 接着するフレキシブル板が平成 16 年に石綿含有製品の製造等を禁止

    石綿セメント円筒 煙突、ケーブル保護管、温泉の送湯管、排水管等

    石綿含有のものは、平成 16 年に法的に製造・使用等が禁止

    押出成形セメント板 非耐力外壁、間仕切り壁

    住宅屋根用化粧スレート 屋根材として張られた板の上に葺く化粧板

    繊維強化セメント板※ 屋根、外壁、内壁、天井、軒天、耐火間仕切り

    窯業系サイディング 外壁 石綿含有仕上塗材※2(吹付け施工されたものを除く。)

    外壁 石綿含有のものは、平成 18 年に法的に製造・使用等が禁止

  • 2

    1-1-1 石綿含有ロックウール吸音天井板

    石綿含有ロックウール吸音天井板は、アスベストを含有するロックウール化粧吸音板

    のことである。

    ロックウール化粧吸音板は、JIS 規格では、吸音材料(JIS A 6301)の中において、

    JIS A 9504に規定するロックウールを主材料とし、結合材、混和材を用いて成形し、灰

    華石模様、非貫通孔状、凹凸状、印刷、ラミネート及びそれらの組合せなどの表面化粧

    をしたものとされている。

    設計図書などでは、「岩綿吸音板」と記されることが多い。事務室、会議室、廊下など

    の天井に広く使用されている。屋外の軒天などに使用可能な耐湿性・耐候性のある製品

    もある。

    石綿含有ロックウール吸音天井板は、不燃性があるが、保温材、耐火被覆材及び断熱

    材には該当しない。石綿則の制定を踏まえて作成された建設業労働災害防止協会発行の

    「建築物の解体等工事における石綿粉じんへのばく露防止マニュアル」及び(社)住宅

    生産団体連合会発行の「低層住宅石綿取扱ガイド」においても、「その他の石綿含有建材

    (成形板等)【レベル 3】」に位置付けられている。

    石綿含有ロックウール吸音天井板は、その製造時期を通じてアスベスト含有率は 5%

    以下であるが、見掛け密度は 0.5g/cm3以下であるため、解体・改修に当たっては、アス

    ベストの飛散防止について、留意する必要がある。

    (提供:社団法人ロックウール工業会(写真はアスベス

    ト含有製品ではありません))

    写真 1-1 ロックウール吸音天井板

  • 3

    1-1-2 住宅屋根用化粧スレート

    住宅屋根用化粧スレート(JIS A 5423)は、セメント、けい酸質原料、繊維質原料、

    混和材料などを主原料として加圧成形したもので、主として、住宅屋根の野地板下地の

    上に葺ふ

    く化粧板として用いられる。

    基板となるスレートの原料に着色材料を混入して板の全部又は表層部を着色したもの

    や、基板の表面に印刷、塗装、吹付け、焼付け、表面に小さな凹凸模様を付ける等の化

    粧加工を行うものが多い。形状により、平形屋根用スレート(凹凸模様のあるものを含

    む。)と波形屋根用スレートに区分される。

    なお、JIS A 5423の規格名称は、1976 年の制定当初は「住宅屋根ふき用石綿スレート」、

    その後「住宅屋根用化粧石綿スレート」と称していた。

    写真 1-2 住宅屋根用化粧スレート

  • 4

    1-1-3 繊維強化セメント板

    繊維強化セメント板(JIS A 5430)は、セメント、石灰質原料、パーライト、けい酸

    質原料、スラグ及びせっこうを主原料とし、繊維等を加え強化成形させたものである。

    現行の JIS規格では、スレート(波板及びボード)、けい酸カルシウム板(タイプ 2及び

    タイプ 3)及びスラグせっこう板が規定されており、2001 年版の JIS 規格においては、

    これらに加えてパーライト板及びけい酸カルシウム板(タイプ 1)も規定されていた。

    表 1-2 繊維強化セメント板の種類、原料及び主な用途(JIS A 5430:2001抜粋)

    種 類 原 料 主な用途

    スレート

    波板

    小波

    セメント、石綿、

    その他の繊維、混

    和材料

    外壁用

    中波 屋根及び外壁用

    大波 屋根及び外壁用

    スレートボ

    ード

    フレキシブル板 内装及び外装用

    軟質フレキシブル板 内装及び外装用

    平板 内装及び外装用

    軟質板 内装及び外装用

    パーライト板

    0.5 パーラ

    イト板

    オートクレーブ養生

    したもの

    セメント、パーラ

    イト、石綿、その

    他の繊維、混和材

    内装用

    常圧養生したもの 内装用

    0.8 パーラ

    イト板

    オートクレーブ養生

    したもの 内装用

    常圧養生したもの 内装用

    けい酸カルシ

    ウム板 タイプ 1 ※

    0.8 けい酸カルシウ

    ム板

    石灰質原料(セメ

    ントを含む。)、け

    い酸質原料、石綿、

    その他の繊維、混

    和材料

    内装用

    1.0 けい酸カルシウ

    ム板 内装用

    スラグせっこ

    う板

    0.8スラグせっこう板 セメント、スラグ、

    せっこう、パーラ

    イト、石綿、その

    他の繊維、混和材

    内装用

    1.0スラグせっこう板 内装及び外装用

    1.4スラグせっこう板 内装及び外装用

    ※ けい酸カルシウム板のタイプ 2及びタイプ 3は、石綿以外の繊維を用いるものであるため、本表には掲出していない。

  • 5

    (1) スレート(波板及びボード)

    石綿含有のスレートは、セメントを主原料とし、補強繊維のアスベスト、若干の混和

    材料及び適量の水を加え、抄造(すいて製造)して板状に成形した後、所定の含水率に

    なるまで乾燥させたものである。一部にオートクレーブ処理したものもある。

    写真 1-3 スレート波板(左)及びスレートボード(右)

    (2) パーライト板

    軽量化を図るため、主原料にパーライト(重量比 20~25%)を加え、セメント及び

    アスベストとともに抄造成形したものである。主に、天井及び壁の下地材として使用さ

    れていた。

    (3) けい酸カルシウム板

    石綿含有のけい酸カルシウム板のうち、成形板等に分類される第一種は、石灰質原料、

    けいそう土等のけい酸質原料及びアスベストを主原料とし、抄造成形してオートクレー

    ブ処理したものである。スレートに比べて軽量であり、寸法の変化率が小さく、加工性

    に優れている。主として、内装の下地材として使用されている。

    なお、第一種及び第二種とは、国土交通大臣の耐火認定による区分の名称である。

    写真 1-4 けい酸カルシウム板 第一種(提供:せんい強化セメント板協会)

  • 6

    (4) スラグせっこう板

    高炉スラグ、排煙脱硫せっこう等を主原料とし、アスベスト、ガラス繊維等を補強繊

    維として抄造成形したものである。主原料の配合割合により見掛け密度をかえて製造す

    ることができるが、JIS 規格では、密度の違いにより、0.8 スラグせっこう板、1.0 ス

    ラグせっこう板及び 1.4スラグせっこう板の 3段階に区分されている。

    なお、繊維強化セメント板の変遷を以下に記す。

    現在の JIS A 5430 の規格は、使用目的が同様の製品の 4 規格を整理統合して、平成

    7年(1995年)に制定されたものである。それまでの旧 JIS規格(平成 7年以前に統合

    されたものを含む。)の推移は、表 1-3のとおりである。

    表 1-3 繊維強化セメント板(JIS A 5430)に関する JIS規格の推移

    種類名 旧規格名称 旧規格番号 廃止年 統合移行先

    スレート

    石綿スレート JIS A 5403 1995年 JIS A 5430

    石綿セメント板 JIS A 5410 1970年 JIS A 5403

    化粧石綿セメント板 JIS A 5421 1989年 JIS A 5403

    合板補強石綿セメント板 JIS A 5425 1989年 ─

    パーライト板※ 石綿セメントパーライト板 JIS A 5413 1995年 JIS A 5430

    けい酸カルシウ

    ム板

    石綿セメントけい酸カルシウム板 JIS A 5418 1995年 JIS A 5430

    化粧石綿セメントけい酸カルシウム板 JIS A 5424 1989年 JIS A 5418

    スラグせっこう板 スラグ・せっこう系セメント板 JIS A 5429 1995年 JIS A 5430

    ※ パーライト板は、製品の需要が減少し製造業者が生産を中止したため、JIS A 5430:2004 以降削除されている。

    旧 JIS規格で適用していたものの概略は、以下のとおりである。

    ○ 化粧石綿セメント板(旧 JIS A 5421)

    フレキシブル板、軟質フレキシブル板、平板等の表面に化粧を施したものである。主に、内

    外装仕上げ材として使用されている。

    ○ 合板補強石綿セメント板(旧 JIS A 5425)

    フレキシブル板と合板を接着した板である。フレキシブル板の持つ耐久性・防火性及び合板

    の持つ引っ張り・ゆがみ・曲げに強い特性を兼ね備えた材料である。主として住宅の外装用に

    使われている。フレキシブル板の種類により普通板と化粧板がある。

    ○ 化粧石綿セメントけい酸カルシウム板(旧 JIS A 5424)

    石綿含有のけい酸カルシウム板を基板とし、その表面に、印刷、化粧紙の張り付け、吹付け

  • 7

    塗装等の化粧加工を施した板である。主として、内装仕上げ材として使われている。

    以上のほか、現行の JIS規格では、吸音材料(JIS A 6301)の中で「吸音用あなあきスレー

    トボード」として規定されているが、過去に、石綿含有のスレートボードを用いた建材として

    生産されていたものの中に、「吸音用あなあき石綿セメント板」がある。

    ○ 吸音用あなあき石綿セメント板(旧 JIS A 6302)

    厚さ 3mm又は 4mm のフレキシブル板及び軟質に貫通した孔あけ加工をしたものである。建築

    物などにおいて、吸音を目的として使用されている。

    1-1-4 せっこうボード

    せっこうボード(JIS A 6901)は、主原料のせっこうをしん(芯)として、その両面

    及び長さ方向(成形時の流れ方向)の側面をせっこうボード用原紙で被覆した板をいう。

    せっこうボードは、防火、遮音、断熱性などが必要な場合、特に適した特性をもつ。

    主な用途は、建物の壁、天井の下地材及び仕上げ材、防・耐火構造の構成材料などで

    ある。また、接合には、くぎ、スクリュー、ステープル、せっこう系の接着剤、他の接

    着剤、はめ込み格子式の金具、クリップなどを用いて留める。

    1-1-5 窯業系サイディング

    窯業系サイディング(JIS A 5422)は、セメント、けい酸質原料、繊維質原料、混和

    材料などを主原料とし、水と混練したものを板状に押出成形して、さらに湿潤養生又は

    オートクレーブ養生したものである。主として住宅などの外装に用いられている。

    この JIS規格の名称は、1976年の制定当初は「住宅外装用石綿セメント下見板及び羽

    目板」、その後「石綿セメントサイディング」と称していた。

    JIS A 5422では、仕上げ化粧の種類によって、化粧サイディング及び現場塗装用サイ

    ディングに区分されている。

    写真 1-5 窯業系サイディング

    (1) 化粧サイディング

    工場で原料に着色材料を混入したり、板の表面に印刷、塗装及び化粧材の張り付け

    などの化粧加工を施したりするものである。

    (2)現場塗装用サイディング

  • 8

    工場であらかじめシーラーを施したもので、現場で仕上げ化粧及び化粧材の張り付

    けなどの化粧加工を施すものである。

    なお、シーラーは、セメントに含有しているアルカリが上塗り塗料や化粧材に影響

    することの防止(アルカリ止め)や、上塗り塗料が建材に吸い込まれることの防止(吸

    い込み止め)などの目的で使用される、無機質建材用の表面処理剤の一種である。

    また、窯業系サイディングには、原料によって、「木繊維補強セメント板系」、「繊維

    補強セメント板系」及び「繊維強化セメント・けい酸カルシウム板系」の 3 種類があ

    る。

    ア 木繊維補強セメント板系

    セメント等の無機結合材を木繊維又は木片を用いて補強し硬化させた板である。

    イ 繊維補強セメント板系

    セメント等の無機結合材を無機質・有機質繊維を用いて補強し硬化させた板である。

    ウ 繊維強化セメント・けい酸カルシウム板系

    セメントにけい石粉などのけい酸質原料を加えたもの、あるいはけい酸カルシウム

    などの無機結合材を無機質・有機質繊維を用いて補強し硬化させた板である。

    現在使用されている無機質繊維は、ガラス繊維、ロックウール、金属繊維などであ

    るが、平成 16年までは、これらのほかに、アスベストを使用していたものがあった。

    1-1-6 押出成形セメント板

    押出成形セメント板(ECP)(JIS A 5441)は、セメント、けい酸質原料及び繊維質原

    料を主原料として、中空を有する板状に押出成形し、オートクレーブ養生したパネルで

    ある。主として、中高層の鉄骨造建築物の外壁及び間仕切壁に用いられる。

    写真 1-6 押出成形セメント板

    1-1-7 パルプセメント板

    パルプセメント板(JIS A 5414)は、セメント、パルプ、無機質繊維材料、パーライ

    ト及び無機質混合材を主原料として抄造成形したものである。パルプは、主に古紙を処

    理したものが使われる。パルプセメント板は、軽量で加工性がよいこと及び吸水性があ

    ることから、主として、内壁、天井等の内装材に用いられている。見掛け密度による 0.8

  • 9

    板及び 1.0板、化粧加工の有無による普通板及び化粧板の区分がある。

    なお、JIS A 5414 の規格は、昭和 63 年(1988 年)に、他の 3 規格を取り込んでいる

    (表 2-5)。それまでの JIS 規格の「パルプセメント板」及び「化粧パルプセメント板」

    は、原料にパーライトを含まないものであった。

    表 1-4 パルプセメント板(JIS A 5414)に関する JIS規格の推移

    旧規格名称 旧規格番号 廃止年 統合移行先

    化粧パルプセメント板 JIS A 5420

    1988年 JIS A 5414 パルプセメントパーライト板 JIS A 5427

    化粧パルプセメントパーライト板 JIS A 5428

    1-1-8 スレート・木もく

    毛もう

    セメント積層板

    スレート・木毛セメント積層板(旧 JIS A 5426)は、木毛セメント板の両面又は片面

    にスレートボードのフレキシブル板を接着した積層板であり、主に建築物の屋根下地又

    は壁に用いられている。この JIS 規格の名称は、1977 年の制定当初から 1995 年までは

    「石綿スレート・木毛セメント合成板」と称していた。

    なお、木毛セメント板とは、JIS A 5404の木質系セメント板に規定するものをいう。

    【コラム】木質系セメント板にはアスベストは使われていない。

    木質系セメント板(JIS A 5404)は、主原料として木毛、木片などの木質原料とセメ

    ントを用いて圧縮成形したものである。主に建築物の壁、床、天井、屋根などに使われ

    ている。木質原料の形状により、木毛セメント板と木片セメント板がある。いずれも繊

    維質原料は木材であり、過去のものでもアスベストは使用されていない。

    1-1-9 ビニル床タイル・ビニル床シート

    ビニル床タイル及びビニル床シートは、ポリ塩化ビニルなどのビニル樹脂、炭酸カル

    シウムなどの充填剤及び着色剤などを配合して成形されたものである。必要に応じて、

    無機繊維系原料を加える。床タイルは正方形のもの、床シートは巻物状のものである。

    一般事務室・店舗などの床に広く使われている。

    これらは、JIS規格のビニル系床材(JIS A 5705)で規定されているものであり、JIS

    規格の上では、充填材にアスベストを含む“ビニルアスベスト床タイル”は昭和 61年 3

    月末日をもって廃止され、タイル・シート共に平成 2 年の改正で充填材にアスベストを

    除くことが明記されている。一部の床タイルの商品で昭和 62年まで、床シートの商品で

    平成元年までアスベスト含有のものが製造されていた。

    ビニル床タイルには、①ホモジニアスビニル床タイル(ビニル樹脂等のバインダーを

    多く含み柔軟性に富むもの)と②コンポジションビニル床タイル(比較的硬いもの)が

    ある。このうち、①の建材には、アスベスト含有のものはない。

  • 10

    ホモジニアスビニル床タイルの例 ホモジニアスビニル床タイルの

    施工状況例

    コンポジションビニル床タイルの例

    写真 1-7 ビニル床タイル

    (提供:インテリアフロア工業会(写真はアスベスト含有製品ではありません))

    1-1-10 石綿セメント円筒

    石綿セメント円筒(旧 JIS A 5405)は、アスベスト及びセメントを主原料として製造

    される円筒である。主に煙突として用いられているほか、地下埋設ケーブル保護管、臭

    気抜き、温泉の送湯管、排水管等にも用いられている。

    建築物と一体となっている場合は、成形板除去の原則である「成形板を破断しない方

    法での除去」ではなく、高圧洗浄機を用いて高圧水で削り取るのが一般的である。この

    際には、アスベストの大気中への飛散防止措置のみでなく、排水の処理も必要となるの

    で留意する必要がある。(2-4-2(5)排水の処理 参照)

    1-1-11 石綿含有仕上塗材

    建築用仕上塗材(しあげぬりざい、JIS A 6909)は、セメント、合成樹脂などの結合

    剤、顔料、骨材などを主原料とし、主として建築物の内外壁又は天井を、吹付け、ロー

    ラー塗り、こて塗りなどによって立体的な造形性をもつ模様に仕上げる建築材料であり、

    塗膜のひび割れや施工時のダレを防止するために、アスベストが添加剤として使用され

  • 11

    ていた時期がある。当初は専用の吹付け機器で施工されていたため、吹付材と呼ばれて

    いた時期もあるが、ローラー塗りやこて塗りで施工されている場合もある。

    このうち、吹付け工法で施工されたものでアスベストを含有する場合には、吹付け石

    綿として扱うこととされている。一方、ローラー塗りやこて塗りなど、吹付け以外の工

    法で施工されたことが明らかなものについては、大気汚染防止法及び環境確保条例にお

    ける吹付け石綿には該当せず、アスベスト含有成形板等として扱い、大気汚染防止法や

    環境確保条例に基づく届出は必要ない。なお、区市によっては条例や要綱等により届出

    等を求めている場合があることに留意し、不明な点があれば事前に相談すること。

    石綿含有仕上塗材は一般的な成形版と異なり、破断せずに除去することが困難である

    ため、作業の際には適切な飛散防止措置を講じる必要がある。国立研究開発法人建築研

    究所及び日本建築仕上材工業会が作成した「建築物の改修・解体時における石綿含有建

    築用仕上塗材からの石綿粉じん飛散防止処理技術指針」では、吹付け石綿と同様に負圧

    隔離措置を講じるか、又は隔離措置と同等の措置と判断できる工法により除去すること

    として、次の工法を提案している。

    ● 集じん装置併用手工具ケレン工法

    ● 集じん装置付き高圧水洗工法(15MPa 以下、30~50MPa 程度)

    ● 集じん装置付き超高圧水洗工法(100MPa 以上)

    ● 超音波ケレン工法(HEPAフィルタ付き掃除機併用)

    ● 剥離剤併用手工具ケレン工法

    ● 剥離剤併用高圧水洗工法(30~50MPa 程度)

    ● 剥離剤併用超高圧水洗工法(100MPa以上)

    ● 剥離剤併用超音波ケレン工法

    ● 集じん装置付きディスクグラインダーケレン工法

    都では、これらの工法で石綿含有建築用仕上塗材する際には、装置の使用方法や剥離

    剤の適用の可否等に精通している者が、次の事項などにも留意して、現場の状況等に応

    じた粉じん飛散防止対策を適切に実施するよう求めている。

    ● 作業区画や立入禁止範囲を明確に定め、石綿くずや石綿を含有する飛沫の飛散等

    を防止するために、作業区画の床面及び壁面に(必要に応じて天井にも)プラスチ

    ックシート等による養生を行うこと。

    特に、集じん装置付きディスクグラインダーケレン工法では、壁面の凹凸の影響

    や具の取扱いによって作業中に粉じんが飛散するおそれがあるため、作業区画の全

    周(天井、床、横)を隙間なく養生すること。

    ● 集じん装置やHEPAフィルタ付き掃除機を用いる工法については、作業前、作

    業開始後に粉じんの漏洩がないことを確認するなど、排気のアスベスト除去に十分

    留意すること。

    ● 高圧水洗工法など除去に水を使用する場合には、含有する石綿の再飛散を防止す

    るため全て回収し、除去した建築材料と共にコンクリート固化して処理するなど外

    部に流出しないような措置を講じるか、凝集沈殿処理やフィルタろ過処理等で石綿

  • 12

    を除去した上で排水すること。

    ● 剥離剤を使用する工法では、ジクロロメタン等の有害性の高い化学物質を使用し

    ないよう、薬剤の選択にも十分留意すること。また、試験施工等により、除去対象

    の仕上塗材に対して十分な剥離効果を有することが確認できた薬剤を使用すること。

    ● 入隅部等(窓、柱型、軒先部分など)の除去に補助的に他の工法(集じん装置を

    用いない手工具ケレン工法など)を併用する場合には、全体又は当該部分を負圧・

    集じん装置を用いて負圧隔離するなど、必要な措置を講じること。

    ● 作業において生じる産業廃棄物については、廃棄物処理法に基づき適切に処理す

    ること。

  • 13

    1-2 国内建材市場におけるアスベスト含有建材の現状等

    1-2-1 アスベストの輸入量と建築着工床面積の関係

    アスベストは、強度を備えた微細な繊維構造を持つため、重量に対して非常に大きな

    表面積を持つ。この特性を利用して、アスベストの多くは、スレート、けい酸カルシウ

    ム板、ビニル床タイルなどの建材の繊維素材として使用されてきた。我が国におけるア

    スベストの輸入量と全国における建築物の総着工床面積の推移を比較してみると(図

    1-1)、建材への使用の多さを裏付けるように、1988 年(昭和 63 年)頃までは両者に明

    確な相関が認められる。

    我が国は、アスベストの消費量のほとんどを輸入に頼ってきた。年間の輸入量は、高

    度成長期の 1960年代に急激に増加し、1974 年の 35万トンを最高に、1970 年代及び 1980

    年代は25万トンから35万トンの高水準で推移してきたが、1990年代に入り年々減少し、

    2005 年は 110 トンとなった。1930 年(昭和 5年)から 2005 年(平成 17 年)の 76 年間

    の総輸入量は、約 988万トンとなっている。主な輸入元は、2004 年においては、カナダ

    65.7%、ブラジル 19.5%、ジンバブエ 10.6%である。

    図 1-1 日本のアスベスト輸入量と全国の建築物着工床面積の推移

    (資料:財務省貿易統計、国土交通省建築着工統計調査)

    0

    50,000,000

    100,000,000

    150,000,000

    200,000,000

    250,000,000

    300,000,000

    1951

    1953

    1955

    1957

    1959

    1961

    1963

    1965

    1967

    1969

    1971

    1973

    1975

    1977

    1979

    1981

    1983

    1985

    1987

    1989

    1991

    1993

    1995

    1997

    1999

    2001

    2003

    2005

    全国

    における着

    工建

    築物

    の床

    面積

     (m2) 棒グラフ

    0

    50,000

    100,000

    150,000

    200,000

    250,000

    300,000

    350,000

    400,000

    アスベスト輸

    入量

     (トン) 折線グラフ

    アスベスト輸入量

    着工建築物の床面積

  • 14

    1-2-2 アスベスト流入量と製品別使用割合・量の関係

    アスベスト輸入量と製品別の使用割合・量の関係を図 1-2 に示す。これによると、ア

    スベスト輸入量のおよそ9割が、建材に使用されたことがわかる。このことから、今後、

    アスベスト成形板対策の必要性がわかる。

    図 1-2 我が国における輸入したアスベストの利用状況(平成 7年度) (社)日本石綿協会

    石綿含有製品については、労働安全衛生法施行令が改正され、平成 18年 9月 1日より、

    代替化が困難な一部の製品(適用除外製品等)を除き、その製造等が全面的に禁止され

    た。適用除外製品等についても、その後非石綿製品への代替化が全て可能となったため、

    平成 24年 3月 1日の改正労働安全衛生法施行令の施行により、例外なく製造等が全面禁

    止となった。

  • 15

    1-3 アスベストによる健康影響

    現在、アスベストばく露に関連あるとして確認されている疾患としては、中皮腫、肺が

    ん、石綿肺、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚が知られている。その他、致命的な疾患で

    はないが、石綿ばく露の重要な指標として胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)がある。これらは

    いずれも空気中に浮遊するアスベストを吸入することにより発生する。

    表 1-5 アスベストばく露に関連する疾患

    疾患 原因・症状等

    中皮腫 肺を取り囲む胸膜、腹部の臓器を囲む腹膜、心臓及び大血管の起始部を覆う心膜等にできる、予後が不

    良な悪性の腫瘍である。アスベストのばく露からおおむね 20~50年後に発症する(約 40年に発症のピー

    クがある)。最初の症状は、胸膜中皮腫では息切れや胸痛が多く、腹膜中皮腫では腹部膨満感や腹痛など

    で気付くことが多い。

    肺がん アスベストが原因で生じる肺がんとそれ以外の肺がんとでは、発生部位や組織型に違いはない。アスベ

    ストが原因で生じる肺がんの場合、アスベストのばく露から肺がん発症には、通例 15~40 年の潜伏期間

    がある。

    肺がんは、喫煙をはじめとしてさまざまな原因が指摘されている中で、アスベストが原因とするものとみ

    なせるのは、肺がんの発症リスクを 2倍以上に高める量のばく露(蓄積石綿ばく露量 25本/mL×年以上)

    があった場合とするのが妥当であると考えられている。また、アスベストのばく露と喫煙の両者がそろえ

    ば、肺がん発症のリスクは相乗的に高くなることが知られている。

    石綿肺 石綿肺は、肺が弾力性を失い硬くなる肺線維症(じん肺)という病気の一つであり、アスベストを大量

    に吸引することによって発生する職業病の疾患である。アスベストの健康被害として最も早くから注目さ

    れていた。

    アスベストの吹付け作業、石綿紡績業における混綿作業などの高濃度ばく露であれば、10年未満のばく

    露期間であっても発症する。通常、アスベストばく露後 10 年以上経過してレントゲンで初期病変が現れ

    る。吹付けアスベストなどの除去作業も、高濃度のアスベストの粉じんが飛散するので、防じんマスクな

    どの着用が不適切であれば、将来、石綿肺を発症する危険性は十分にあり得る。しかし、一般環境下にお

    ける発症例はこれまでに報告されていない。

    自覚症状としては、坂道や階段を上るときなどの息切れから始まることが多く、咳や痰が続いたり、胸

    や背中に痛みを感じたりすることもある。

    良性石綿

    胸水

    アスベストの高濃度ばく露の人に比較的多くみられる非腫瘍性の胸膜炎である。胸を包む胸膜に、胸水

    とよばれる浸出液がたまる。アスベストのばく露から 10 年以内に発症することもあるが、多くは 20~40

    年後に突然発症する。発熱、咳、胸痛、息切れなどの症状で発症するが、自覚症状がない場合もある。

    胸水が認められる症例のうち、他の原因が否定され、明らかな石綿ばく露作業歴がある場合に、良性石

    綿胸水と診断できるが、石綿ばく露歴の客観的な情報がなければ、他の原因と区別して良性石綿胸水と診

    断することは非常に難しい。

    びまん性

    胸膜肥厚

    アスベストによる胸膜炎が発症すると、それに引き続き、胸膜が癒着して広範囲に硬くなり、肺のふく

    らみを障害して呼吸困難をきたす。胸部レントゲン写真上、臓側胸膜の肥厚を認めるようになるが、この

    状態をびまん性胸膜肥厚という。胸水が消退しても、程度の差はあるが、びまん性の(広範囲に拡散した)

    胸膜肥厚を残す。

    びまん性胸膜肥厚は、原因不明のものやアスベストばく露とは無関係なものもあり、石綿ばく露歴の客

    観的な情報がなければ、他の原因によるびまん性胸膜肥厚と区別してアスベストによるものと判断するこ

    とは難しい。

  • 16

    2 解体時等における飛散防止対策

    2-1 一般的な作業の流れ

    成形板等の除去作業手順について、事前準備から廃棄までの一般的な手順を示す。

    各段階における右欄には、内容及び関係法令を記載した項目の番号を示す。

    ①事前調査

    設計図書及び現場調査等による成形板等の有無の調査

    調査結果の説明及び掲示

    ⇒詳細な内容 2-2-1~7

    ⇒関係法令 3-1-1

    ②事前準備作業

    作業計画書等の作成 必要機器・資材の準備

    ⇒詳細な内容 2-2-8~10

    ⇒関係法令 3-1-2~4

    ③除去作業準備

    養生の実施 仮設工事の実施 設備機器等撤去作業

    ⇒詳細な内容 2-3~4

    ⇒関係法令 3-2-1

    ④除去作業

    成形板等の湿潤化 成形板等の除去

    ⇒詳細な内容 2-4

    ⇒関係法令 3-2-1

    ⑤清掃等

    器具、保護衣等の付着物の除去 施工区画内の清掃 養生・仮設物等の撤去

    ⇒詳細な内容 2-4~5

    ⇒関係法令 3-2-2~3-3

    ⑥搬出・廃棄

    安定型・管理型埋立処分場において 最終処分

    溶融処理又は無害化処理

    ⇒詳細な内容 2-6

    ⇒関係法令 3-3

    図 2-1 成形板等の除去作業手順

  • 17

    2-2 事前調査及び事前準備作業

    解体・改修を行おうとする建築物等のアスベスト含有建材の使用状況については、

    環境確保条例及び石綿障害予防規則(以下「石綿則」という。)で事前調査を義務

    付けていたが、平成 26 年 6 月 1 日の改正大気汚染防止法施行により、大気汚染防

    止法においても、解体等工事の受注者に対し、事前調査の実施、調査結果の発注者

    への説明及び工事現場への調査結果の掲示が義務づけられた。また、解体等工事を

    請負契約によらないで自ら施工する者には、事前調査の実施と調査結果の掲示が義

    務付けられた。この調査結果の説明及び掲示は、当該工事が特定工事※に該当しな

    い場合(アスベスト含有建材が使用されていない、成形板等のみが使用されている

    等)であっても必要となる。【大気汚染防止法第 18条の 17】

    ※特定工事

    特定建築材料(吹付石綿又は石綿含有断熱材、保温材、耐火被膜材)が使用されている建築物等

    を解体、改造、又は改修する作業(特定粉じん排出等作業)を伴う建設工事をいう【大気汚染防止

    法第 18条の 15】。大気汚染防止法に基づく届出及び作業基準の対象となる。

    また、事前調査は、不十分であると石綿を飛散させるおそれがあるため、国土交

    通省が創設した「建築物石綿含有建材調査者講習登録規程(平成 25 年 7 月 30 日、

    国土交通省告示第 748 号)」により登録された者又はこれと同等以上の知識・経験

    を有する者が実施することが望ましい。

    事前調査は、原則として下記のフローに基づいて行う。

  • 18

    図 2-2 事前調査のフロー

    アスベスト

    含有の有無?

    アスベスト含有と

    みなすか?

    設計図書等(仕様書・施工記録・維持保全記録等)

    による使用建築材料の確認及び、現場目視による

    確認

    試料採取・材質分析

    含有なしと証明できない

    あり

    はい

    いいえ

    なし

    アスベスト 含有の有無?

    アスベスト飛散防止対策

    を行い、除去する アスベスト含有建材を含まない、

    通常の解体工事を行う

    あり

    なし

    アスベスト含有なしと証明できた場合のみ

  • 19

    2-2-1 調査対象の施設

    アスベストの使用範囲は、建築物だけでなく、化学プラントなどの「建築物以

    外の工作物」にも広範囲に及んでいる。このため、大気汚染防止法、条例の規制

    対象は、「建築物その他の工作物【大気汚染防止法】」、「建築物その他の施設【環

    境確保条例】」と規定されており、建築物(建築基準法第 2条第 1号に規定する建

    築物)に加えて、土地に接着して人工的作為を加えることによって成立した施設

    等すべてが対象である。

    ただし、大気汚染防止法では、事前調査の対象については「特定工事に該当し

    ないことが明らかな平成 18年 9月 1日以降に建設された建築物等は、事前調査等

    の対象から除く。」とする除外規定を設けている。【大気汚染防止法第 18 条の 17、

    施行規則第 16条の 5】

    なお、石綿則においては、事前調査対象は

    ①建築物、工作物、または船舶(鋼製の船舶に限る。)の解体・破砕等作業(石綿

    等の除去作業を含む。)

    ②吹付け材、保温材等の封じ込め・囲い込み作業

    であり、大気汚染防止法のような建設年月日による除外規定は設けていないので

    注意されたい。【石綿則第 3条第 1項】

    2-2-2 事前調査における発注者側の責務

    工事受注者が適正にアスベスト飛散防止措置を行うことができるよう、大気汚

    染防止法では、事前調査の対象である解体等工事(2-2-1 参照)の発注者に対して、

    調査に必要な費用を適正に負担することその他必要な措置を講じ調査に協力する

    ことを義務付けている。【大気汚染防止法第 18条の 17第 2項、石綿則第 8条及び

    第 9条】

    また、石綿則では、事前調査対象である作業(2-2-1 参照)を行う仕事の発注者

    は、その仕事の受注者に対し、設計図書、過去の調査記録等石綿等の使用状況に

    係る情報を通知するよう努めること【石綿則第 8 条】、注文者は、石綿等の使用

    の有無の調査等の方法、費用又は工期等について、法及びこれに基づく命令の規

    定の遵守を妨げるおそれのある条件を付さないように配慮しなければならないこ

    とを規定している。【石綿則第 9条】

    2-2-3 事前調査の項目

    調査項目は、以下のとおりである。なお、大気汚染防止法では特定建築材料(吹

    付け石綿及び石綿含有断熱材等)の有無等を調査することを求めているが、石綿

  • 20

    則では成形板等を含めた全てのアスベスト含有建材について調査する必要があ

    る。

    ア アスベスト含有建材の使用の有無。

    イ 使用されている場合のアスベスト含有建材の種類。

    ウ アスベスト含有建材の施工箇所(部屋名及び天井・壁・梁・柱・床などの箇

    所名)。

    エ アスベスト含有建材の量(施工されている表面積及び厚さから求める。)又

    は面積(施工されている表面積)。

    なお、この段階で次の事項も確認しておく。

    (1)アスベスト含有建材の施工箇所・施工状況を確認し、これに基づき、対象

    建材の除去方法及び、養生の仕方を検討する。

    (2)アスベスト含有建築物の解体工事にあたっては、事前に説明会等の実施を

    義務付けている区市があるので、事前に確認する。

    2-2-4 設計図書等及び現場目視による調査

    アスベスト含有建材が使用されているかどうかの調査は、まず、建築や改修当

    時の材料、工法などが記載されている設計図書等(建築意匠設計図、竣工図、仕

    上げ表、仕様書、施工記録、維持保全記録、竣工後の改修工事記録など)から、

    石綿を含有する可能性のある建材を洗い出し、建築年次とアスベスト含有建材の

    製造時期との照合を行って、アスベスト含有の有無を把握する。

    アスベスト含有建材の商品名は、意図的にアスベストを含有させなくなったも

    のでも同一商品名が使用されている場合が多いので、必ず建築年次などを考慮し

    て判断する。

    アスベスト含有建材の商品名とその製造時期などの情報源としては、「石綿(ア

    スベスト)含有建材データベース」(国土交通省、経済産業省)を活用されたい。

    現場目視での調査により、アスベスト含有建材の使用箇所がその種類からある

    程度特定されることが多い。特に、平成元年 7月以降に生産された成形板等につ

    いては、“a”マークを調べることによってアスベスト含有の識別を行うことが

    できる。

    商品名や“a”マークが明らかでないときは、設計図書等及び現場目視による

    調査だけでは、アスベスト含有の有無の確認は極めて困難である。これらの調査

    のみでは、アスベスト含有なしの証明ができない場合は、次に示す材質分析を行

    うか、アスベスト含有とみなし、アスベスト飛散防止対策を行う。

    http://www.asbestos-database.jp/

  • 21

    【コラム】“a”マーク

    アスベスト含有建材を製造する業界においては、平成元

    年 7 月からの製造分では質量で 5%を超えるもの、平成 7

    年 1月 26日からの製造分では 1%を超えるものに対して、

    自主的に 20mm×20mm の大きさの“a”の文字を押印など

    により表示している。従って、このマークがあれば、アス

    ベストが含有されていることになる。

    2-2-5 材質分析による調査

    (1) 分析方法

    建築用や設備用の材料が質量で 0.1%を超えて石綿を含有しているか否か

    の判定方法として、最も確実な方法は、材料の一部を採取して、JIS 規格に

    基づく材質分析(JIS A 1481‐1,2,3「建材製品中のアスベスト含有率測定方

    法」)もしくは厚生労働省通達「天然鉱物中の石綿含有率の分析方法について」

    (平成 18 年 8 月 28 日付基安化発第 0828001 号)による分析を行うことであ

    る。この分析は高度の技術が必要とされることから、専門的な測定機関(公

    益社団法人日本作業環境測定協会のホームページhttp://www.jawe.or.jp/に

    例示)に依頼する必要がある。

    (2) 試料採取時の留意点

    ア 国家検定合格の防じんマスクを着用する。

    イ 採取箇所を湿らせてから採取する。

    ウ 採取により石綿含有の可能性のある建材に損傷を与え、粉じんが飛散し

    やすい状態となるため、採取後は、補修を行うなどの措置を講じる。

    エ HEPAフィルタ付真空掃除機で、発生する粉じんを吸引しながら採取する

    ことが望ましい。

    2-2-6 発注者への説明

    解体等工事の受注者は、当該解体等工事が特定工事に該当するか否かの調査結

    果について、発注者に対し、必要な事項を記載した書面を交付して説明しなけれ

    ばならない。【大気汚染防止法第 18条の 17】

    ●説明時期【大気汚染防止法施行規則第 16条の 6】

    特定工事に該当する場合は、特定粉じん排出等作業開始日の 14日前または特定

    工事開始日のいずれか早い日までに、事前調査結果と届出に必要な事項について

    説明を行う。

    特定工事に該当しない場合(アスベスト含有建材が使用されていない、アスベ

    スト含有成形板のみの使用の場合等)は、工事の開始の日までに事前調査結果の

  • 22

    説明を行う。

    ●説明事項【大気汚染防止法施行規則第 16条の 7,8】

    ア 調査を終了した年月日

    イ 調査方法

    ウ 調査結果

    エ 特定粉じん排出等作業の種類

    オ 特定粉じん排出等作業の実施の期間

    カ 特定粉じん排出等作業の対象となる建築物等の部分における特定建築材料の

    種類並びにその使用箇所及び使用面積

    キ 特定粉じん排出等作業の方法

    ク 特定粉じん排出等作業の対象となる建築物等の概要、配置図及び付近の状況

    ケ 特定粉じん排出等作業の工程を明示した特定工事の工程の概要

    コ 特定工事を施工する者の現場責任者の氏名及び連絡場所

    サ 下請負人が特定粉じん排出等作業を実施する場合の当該下請負人の

    現場責任者の氏名及び住所

    2-2-7 調査結果の記録及び掲示

    (1) 記録

    労働安全衛生法第 28条第 1項の規定に基づく技術上の指針である「建築物等

    の解体等の作業及び労働者が石綿等にばく露するおそれがある建築物等におけ

    る業務での労働者の石綿ばく露防止に関する技術上の指針」(以下「技術上の

    指針」という。)において、調査結果は、以下の項目について記録しておかな

    ければならないとしている。

    ア 事業場の名称

    イ 建築物等の種別

    ウ 発注者からの石綿等の使用状況の通知の有無

    エ 調査方法及び調査箇所

    オ 調査結果(分析による調査を行った場合はその結果を含む)

    カ 調査者氏名及び所属

    キ 調査を終了した年月日

    ク その他必要な事項

    事前調査結果の記録については、技術上の指針において 40 年間の保存を規定

    している。また、工事の発注者及び建築物等の所有者も同様に調査結果を 40 年

    保存することが望ましいとしている。

    (2) 掲示

    平成26年6月1日の改正大気汚染防止法の施行により、解体等工事の受注者等

    (施工者)は、法に基づき事前調査を行うとともに、調査を実施した解体等工事

    エ~サは 特定工事に該

    当する場合

  • 23

    を施工するときは、調査結果を掲示板により公衆に見やすいよう掲示することが

    規定された【大気汚染防止法第18条の17第4項】。この掲示は当該工事が特定工

    事に該当しない場合にも必要となる。【大気汚染防止法施行規則第16条の9及び

    第16条の10】

    また、事前調査結果の掲示については、石綿則、技術上の指針にも規定が設け

    られている【石綿則第3条第3項、技術上の指針2-1-4(2)】。それぞれの掲示事

    項は次のとおりである。

    【大気汚染防止法】

    ア 調査結果(当該工事が特定工事に該当するか否か)

    イ 調査を行った者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代

    表者の氏名

    ウ 調査を終了した年月日

    エ 調査方法

    【石綿障害予防規則、技術上の指針】

    ア 事業場の名称

    イ 調査方法及び調査箇所

    ウ 調査結果(分析による調査を行った場合はその結果を含む)

    エ 調査者氏名及び所属

    オ 調査を終了した年月日

    カ その他必要な事項

    大気汚染防止法では、掲示については具体的な様式を定めておらず、石綿則

    などの他法令等に基づく掲示に追記する形式で表示しても差し支えないとして

    いる。また、他法令等に基づく掲示の内容と重複する事項を重複して表示する

    必要はない。(平成26年5月29日付環水大大発第1405294号「大気汚染防止法の

    一部を改正する法律の施行等について」)

    なお、一部の特別区や市では、独自の条例又は要綱に基づき、掲示板の設置

    や住民説明会の開催等を義務付けているので、確認が必要である。(表3-9「解

    体等工事に当たり、アスベストに係る届出や事前周知の実施等を義務付けてい

    る区市(参考)」参照。)

    2-2-8 石綿作業主任者の選任・職務、作業計画の作成、呼吸用保護具及び保護

    衣の着用等

    (1) 石綿作業主任者の選任・職務

    石綿作業主任者技能講習修了者から石綿作業主任者を選任する。石綿作

    業主任者は労働者が石綿粉じんにばく露しないように、作業の方法を決定

  • 24

    し、労働者を指揮する等の重要な職務を与えられており、作業の全体にわ

    たって中心的な役割を果たす。【石綿則第 19条、第 20条】

    (2) 作業計画の作成

    石綿作業主任者が中心となり作業計画を作成する。作業計画には以下の

    事項を盛り込み、関係労働者全員に周知する。必要に応じて近隣住民への

    説明会を実施する。【石綿則第 4条】

    ア 安全管理体制

    イ 作業方法、順序

    ウ 粉じんの発散防止、抑制措置

    エ 労働者の粉じんばく露防止措置

    オ 隔離、立入禁止措置

    カ その他

    写真 2-1 立入禁止の掲示例 写真 2-2 呼吸用保護具の例

    (3) 呼吸用保護具及び保護衣等

    石綿障害予防規則第 14条・第 44~45条に従い適正に使用すること。ま

    た、P38「【コラム】防じんマスクを選ぶ」を参照のこと。

    【コラム】リスクアセスメントとリスクコミュニケーション

    アスベスト含有建材の除去作業では、リスクアセスメントは事前調査にあた

    る。建物のアスベスト含有建材の部位と量を的確に把握することがその基本で

    あるが、含有している石綿の種類と含有率もリスク評価のための資料となる。

    例えば、発がん性の高いアモサイト含有建材の除去作業では、より高いリス

    クに対応するために、手ばらしと散水に加えて外部に飛散しないよう養生を確

    実に行うことが必要である。

    更にリスクアセスメントの結果を近隣住民に公開し、住民との対話と合意(コ

    ミュニケーション)により対策を決定した場合には、『リスクコミュニケーショ

    ンができた』といえる。

  • 25

    このプロセスは煩雑のように見えるが、石綿対策工事のレベルを上げ、住民

    とのトラブルを避けるという意味でも重要である。

    2-2-9 湿潤化のための設備及び清掃道具の用意

    噴霧器・散水用ホース等、湿潤剤(粉じん飛散抑制剤)及び清掃道具を準

    備する。

    写真 2-3 噴霧器の例 写真 2-4

    HEPAフィルタ付真空掃除機の例

    2-2-10 その他の必要な設備

    作業者休憩所、洗眼・洗身・うがいの設備、更衣設備等を設置し適切に管

    理運用する。

    【コラム】作業者の休憩所等の設置

    これらの設備は通常の解体・除去作業では設置されないことも多いと思われ

    るが、アスベスト含有建材の除去作業では、労働者は発がん性の高い石綿を取

    り扱うことから大きなストレスにさらされる。付着した石綿粉じんを除去して、

    石綿粉じんに汚染されていない衛生的な場所で休憩をとることがストレスから

    の回復を助け、作業の効率も上がる。

  • 26

    2-3 設備機器類の撤去・搬出

    2-3-1 撤去すべき設備類

    作業場内の清掃を行ってから、設備機器類の撤去を開始する。

    照明器具、ビルトインエアコン(組込み型のエアコン)、キッチン、洗面

    化粧台、ユニットバス、便器及び配管等の成形板等の除去作業に支障のある

    と考えられる設備類を事前に撤去する。

    事前に撤去する利点は、建設混合廃棄物量の削減にもつながると共に、成

    形板等を破砕することなく除去しやすくなることである。

    2-3-2 留意事項

    (1)作業の際は、釘・ネジ等で成形板等にキズ等を付けないよう丁寧に撤

    去する。

    (2)蛍光管は、ダンボール箱等に詰め集積する。

    (3)設備機器類にアスベスト、PCB、フロンガス等の存在が明らかな場合は、

    関連法令等に準じて適切な処置をしなければならない。

    写真 2-5 照明器具の撤去状況

  • 27

    写真 2-6 照明器具の撤去状況

    (提供:社団法人住宅生産団体連合会)

  • 28

    2-4 成形板等の除去方法

    2-4-1 概要

    成形板等は、破砕・切断等の物理的力を加えなければ、通常アスベストの飛散は

    無いと考えられる。したがって、除去にあたっても、破砕・切断等を行わないで手

    作業で行うことが原則である。

    【コラム】アスベストの特徴

    アスベストは、断熱性、絶縁性等に富み、しかも安価であるため、様々な建材等

    に使用されている。アスベストを含む成形板等を破砕するとアスベストが飛散する

    が、非常に小さいため目には見えない。しかも、無色、無臭であり、長時間空気中

    に漂うという性質があるので、飛散させないようにすることが重要である。

    成形板等の除去時のポイントは次のとおりである。

    (1)成形板を湿潤化させること。

    (2)破砕しない方法で除去すること。

    (3)作業個所に、作業に適した養生を行うこと。

    (4)作業者は、保護具を着用すること。

    (5)散水を行う場合は、アスベスト含有排水の適正な処理を行うこと。

    成形板等の除去に係る措置として、作業上の遵守事項では次のとおり定めている。

    【作業上の遵守事項第 2 2及び 4】

    (1)防じんシートその他の資材を使用して、工事現場に覆いをすること。

    (2)粉じんの飛散を防止するため、散水その他の方法により、工事現場を湿潤

    化すること。

    (3)石綿含有成形板を除去するときは、薬剤等で湿潤化した後に行い、当該石

    綿含有成形板を破断しない方法で除去すること。

    なお、石綿含有仕上塗材(1-1-11)など、この遵守事項により除去することが極

    めて困難であり、破断することがやむを得ない場合には、適切な飛散防止措置を講

    じること。

    また技術上の指針においては、次のとおり定めている。【技術上の指針 2-3】

    (1)大きさから運搬に支障をきたす等やむを得ない場合を除き、破砕等を行わ

    ずに除去すること。

    (2)せん孔箇所等への適量の水又は薬液の散布による湿潤化を行うこと。

    (3)石綿等の粉じんの飛散を防止し、関係者以外の入場を制限するため、作業

    場所の周囲を養生シート等で囲うことが望ましいこと。

  • 29

    これらのポイントに留意し適切な措置を行えば、解体等工事の現場からアスベス

    トが飛散するおそれはないと考えられるが、都ではさらに作業上の安全性を確保す

    るため、環境確保条例にて石綿の飛散の状況の監視を義務付けている。【環境確保

    条例第 123条第 2項及び同施行規則第 59条】

    具体的な作業方法の選定と留意点について以下に述べる。

    2-4-2 作業方法の選定と留意点

    (1) 成形板等の湿潤化【作業上の遵守事項第 2 2、技術上の指針 2-3(2)】

    ア 水噴霧

    水噴霧は低コストで排水処理も不要であるが、一般的な状況では湿潤剤よりも

    飛散防止効果は低いと考えられる。成形板の種類により、表面に噴霧しても内部

    へ浸透しない場合があることから、あらかじめ現場で試験的に内部への浸透状況

    を把握することが必要である。(下記 ☆浸透性の試験(例)参照。)

    建材への浸透が表面的に悪くても、除去作業中について噴霧を行い、万一破砕

    する場合には破断面を速やかに湿潤化することで、アスベストの飛散を少なくす

    ることができる。

    イ 湿潤剤の噴霧(写真 2-7)

    アスベスト用の湿潤剤(粉じん飛散抑制剤)は多くの製品が流通しているが、

    一般にはアスベスト含有吹付け材除去工事などで、吹付け材に浸透させて飛散防

    止することを目的としている。

    しかし、成形板等であっても建材に十分浸透するならば、飛散抑制の効果は大

    きいと考えられる。

    作業現場においては、まず試験的に成形板の表面へ湿潤剤を噴霧し、内部へ浸

    透する状況を把握した上で除去作業を行うことが必要である。(下記 ☆浸透性の

    試験(例)参照。)

    【コラム】アスベストの人体影響等

    アスベストは、肺がん、中皮腫等の原因となり、アスベストのばく露から 10年以

    上経過してから発症するという特徴がある。

    また、クロシドライト、アモサイトはクリソタイルよりも発がん性が高いといわ

    れており、クロシドライト、アモサイトを含有している成形板については飛散防止

    対策に特に注意することが必要である。

  • 30

    なお、建材への浸透が表面的に悪くても、除去作業中に湿潤剤の噴霧又は水の

    噴霧を行い、万一破砕する場合には破断面を速やかに湿潤化することで、アスベ

    ストの飛散を少なくすることができるのは、水の噴霧と同様である。

    ☆ 浸透性の試験(例)

    湿潤剤等の浸透性を判断する方法としては、まず除去対象成形板等に、湿潤剤

    等を噴霧し、付着状況について注視する。浸透性が良ければ、付着した湿潤剤等

    は表面から消滅していく。湿潤剤の仕様(湿潤量・時間)が明らかな場合は、こ

    れに従った後、手ばらしにより対象成形板等を除去し、HEPAフィルタ付真空掃除

    機で局所吸引しながら又は透明なビニル袋内で、対象成形板等を破砕し、浸透状

    況を確認する。これにより、内部まで十分浸透させるに必要な噴霧量・浸透時間

    を確認し、除去作業に活かすこととする。

    写真 2-7 湿潤剤の噴霧

    【コラム】湿潤剤の使用

    湿潤剤は、一般に水と比べて建材への浸透性(浸透時間)が優れていることから、

    アスベストの飛散を防止する観点からは、湿潤剤を使用することが望ましい。

    しかし、湿潤剤は水と同様散布面が滑りやすい場合がある等の短所もあり、高所

    における除去作業等においては危険防止対策に十分に留意することが必要である。

    また、使用する湿潤剤は、ホルムアルデヒド放散等級区分が F☆☆☆☆であり、

    VOC混入割合も 1%以下等低いものが望ましい。

  • 31

    【コラム】事前の湿潤化と除去作業中の湿潤化

    湿潤剤等が、成形板内に確実に浸透する場合は、事前に建材表面へ噴霧すること

    で飛散防止の効果は得られる。

    さらに、あらかじめ湿潤化した上で、除去時にも噴霧を行うことで、より高い飛

    散防止効果を得ることができる。

    ウ 散水

    湿潤化に散水を用いる方法は、使用水量が多いため、使用中の建物の内装材の

    改修工事などには採用できない場合があるが、解体現場でビニル床タイルを除去

    するような場合は、十分な散水を行い除去作業を実施することができる。

    この場合も破断面が確実に湿潤化するように、除去作業中のきめ細かな対応が

    必要である。高圧洗浄機をスレート板などの湿潤化に使用するとアスベストを飛

    散させるので、高圧洗浄機は使用しないこと。

    写真 2-8 ビニル床タイルに撒いた湿潤剤

    【コラム】噴霧と散水

    噴霧とは、霧状にして散布することを言う。散水に比べ、少ない量で湿潤が行え、

    特に壁・天井については施工しやすい。

    散水の場合、排水の処理の問題(2-4-2(5)排水処理を参照)を考慮すると、十

    分な噴霧により湿潤化する方法が合理的である。

  • 32

    (2) 除去作業【作業上の遵守事項第 2 2、技術上の指針 2-3(1)】

    ア 原形のままの手ばらし

    成形板の除去作業は原則として手ばらしにより、原形を保ったまま行う。

    成形板を固定しているネジをはずすための電動ドライバー等の使用など、必要

    最低限の工具を用いた除去方法であり、アスベストの飛散を最小限にすることが

    できる。

    ただし、ネジ部などにおいては作業により飛散の可能性があるため、特に入念

    に湿潤化する必要がある。

    写真 2-9 除去した成形板は手渡しで降ろす

    (提供:社団法人住宅生産団体連合会)

    【コラム】成形板の投下等は厳禁(写真 2-9)

    手ばらしにより丁寧に除去した成形板等を高所から投下するなどにより破損して

    は意味がない。除去した成形板は、手渡しによって破損しないように注意して保管

    場所まで運搬することが重要である。(高所の場合は、揚重機等を使用する。)

  • 33

    写真 2-10 ネジの取り外し及び手ばらしによる除去の共同作業

    (提供:社団法人住宅生産団体連合会)

    イ バール等を用いた除去作業

    成形板が接着されている等により、除去のためにやむを得ずバール等で破砕せ

    ざるを得ない場合は破砕箇所を極力最小限とする。

    破砕にあたり、成形板全面を十分湿潤化し、また内部への浸透が悪い建材の場

    合は、作業中に湿潤剤や水を噴霧し、極力飛散を防止する。

    また、除去作業終了後は、HEPA フィルタ付真空掃除機により作業場内の換気及

    び清掃を行う必要がある。

    【コラム】バールと手ばらし(写真 2-10,2-11)

    「手ばらし」とは、「成形板等の原形を保ったままで除去すること」を指して

    おり、決して、「バール等を手で持って成形板等を破砕して除去する作業」の意

    味ではない。

    アスベストを周辺環境へ飛散させないだけでなく、作業を行う者自身がアスベ

    ストを吸い込まないよう、丁寧な「手ばらし」により、除去することが重要であ

    る。

  • 34

    写真 2-11 原形のままの手ばらし(外装)

    (提供:社団法人住宅生産団体連合会)

    ウ 機械を用いた除去

    ビニル床タイルの除去では、接着が強いため、電動ケレン等の機械を用いて作

    業を行わざるを得ない場合がある。

    その場合は、あらかじめ成形板等の全面を散水等により十分に湿潤化するが、

    内部への浸透が少ないことも考えられることから、作業中は HEPAフィルタ付真空

    掃除機の使用(写真 2-12)又は湿潤剤や水を噴霧しながら除去作業を行う等、飛

    散を極力防止することが重要である。

    また、改修であるため十分な散水ができない場合も、水等の噴霧を行い、作業

    中は HEPAフィルタ付集じん機の使用又は湿潤剤や水を噴霧しながら除去作業を行

    う等、飛散を極力防止することが重要である。また、電動工具等を使用した場合

    は、粉じんの飛散が特定建築材料の除去工事レベルになることも考えられること

    から、養生についても、特定建築材料除去時の養生に準じて行うことが望ましい。

    この際使用した養生シートは、内側に折りたたみ、プラスチック袋に入れて適正

    に処分する。除去作業終了後は、HEPA フィルタ付真空掃除機により作業場内の換

    気及び清掃を行う必要がある。

  • 35

    写真 2-12

    HEPAフィルタ付真空掃除機を使用しながらのビニル床タイル除去作業

    (3) 養生【作業上の遵守事項第 2 4、技術上の指針 2-3(3)】

    ア 建物外部の作業場の養生

    解体等工事においては、アスベスト対策のほか、一般粉じんの飛散防止や騒音

    対策、安全確保などのために工事現場外周を防じんシートなどにより覆いをする。

    この養生に当たっては、より効果的な飛散防止のため、建物の高さより高い位置

    まで覆いを行う。

    ただし、成形板等の小規模な改修工事など、部分的な養生を行うことにより外

    部への飛散が防止できる場合は省略することができる。

    イ 建物内部の作業場の養生

    特定建築材料の除去工事においては、作業場を完全密閉し、負圧を保つよう排

    気装置を設置するなど、厳密な養生(隔離)が必要である。

    成形板等の除去工事においても、工法や建材の種類などによる飛散の可能性の

    程度にあわせ、適切な養生を行う必要がある。

    例えば、内装材の改修に際して、湿潤化の徹底及び手ばらしによる原形を保っ

    た除去などにより、アスベストの飛散量が低い場合は、作業場の窓等の開口部の

    目張りなどの養生を行うことで万一の時の外部への飛散防止措置とすることがで

    きる。

  • 36

    ただし、成形板等を破砕してしまった場合は、除去作業終了後、HEPA フィルタ

    付真空掃除機による作業場内の換気及び清掃を行う必要がある。

    また、原形を保ったままの除去作業が困難で、湿潤化の効果も期待できないな

    どの場合は、特定建築材料の除去工事に準じた養生を行うことが必要である。こ

    の際使用した養生シートは、内側に折りたたみ、プラスチック袋に入れて適正に

    処分する。

    (4) 保護具等の使用(写真 2-13)

    除去作業を行う者は、呼吸用保護具を着用しなければならないが、呼吸用保護具

    は正しいサイズのものを正しく着用しなければ保護具の意味がない。特に初めて呼

    吸用保護具を着用したときは、かなりの割合で漏れがある。熟練者に指導を受けな

    がら着用することが重要である。

    これは単に呼吸用保護具などを使用していれば良いということではなく、全員が

    保護具を正しく着用し、特に呼吸用保護具は装着前に点検し、漏れチェック(フィ

    ットテスト)を行っていることを確認する。

    保護衣についても粉じんの付着しにくい材質のものを選ぶことが重要である。作

    業着は現場で私服と着替え、通勤に使用したり自宅に持ち帰ったりしてはならない。

    事業場に持ち帰り、まとめて洗濯する場合であっても、作業場で HEPA フィルタ付

    真空掃除機で付着した粉じんを吸引してから現場から持ち出すこと。

    また、安全上支障がない場合は保護眼鏡の着用を行うことが望ましい。

    写真 2-13 保護具等 (提供:社団法人住宅生産団体連合会)

  • 37

    【コラム】防じんマスクを選ぶ

    アスベスト含有建材の除去作業で多く使用されている取替え式防じんマスク

    のフィルタは、性能により粒子捕集効率 99.9%以上(RL3 又は RS3)と粒子捕集

    効率 95.0%以上(RL2又は RS2)の 2種類がある。

    成形板の除去作業(レベル 3)では、発じんの少ない場合(気中の石綿繊維濃

    度 150本/ℓ以下)は、粒子捕集効率 95.0%以上のフィルタの半面形の取替え式

    防じんマスクの使用が可能とされている。

    実際の作業現場では、除去中の作業現場の石綿濃度は不明であり、2 種類の防

    じんマスクを使い分けることの煩雑さや間違いを防ぐためにも、99.9%以上の捕

    集効率のある RL3又は RS3のグレードの高い防じんマスクを使用するのが望まし

    い。

    (5) 排水の処理

    成形板等の除去時に散水を行う場合は、排水の処理が必要となる場合があること

    から、除去作業は湿潤剤等の噴霧により行う方法が合理的である。

    なお、散水を行い、排水中にアスベストが混入することが想定される場合、また、

    真にやむを得ない事情により成形板等を高圧水で削り取る場合(建築物と一体にな

    った石綿セメント円筒の除去等)においては、排水からアスベストが再飛散するこ

    とを防止するための適切な排水処理を講じなければならない。

    排水処理作業としては以下のような流れが一般的である。

    ア 排水が外部に流れ出ないよう、散水箇所の下部に堰を設けて排水溜めを設置し、

    さらに排水が染み出さないようにシート等で排水溜めを覆う等の対策を講じた

    後、成形板等の除去作業を行う。

    イ 生じた排水は、必要に応じて沈殿処理等を行った後に、関係法令に留意した上

    で適正に処理する。

    2-4-3 具体的な作業例

    (1) 内装の天井・壁の解体・改修

    ア 除去作業に先立ち、窓、換気扇等外部につながる部分について養生を行う。

    石こうボードが使用されている場合や巾木がある場合は、石こうボードや巾木

    を撤去してから成形板を除去する。

    イ 湿潤剤等を除去する成形板等に十分噴霧する。特に、ネジ部分は入念に噴霧を

    行い、湿潤剤等が十分成形板等に染込んだことを確認した後、除去作業を行うこ

    ととする。成形板等の内部に浸透するまでに必要な時間や量は、あらかじめ現場

    で試験を行い把握しておくこと。

    ウ 除去作業は、まずネジ等を外し、手ばらしにより成形板等の原形を保って除去

    することとする。バール等の使用は、手ばらしするに際して成形板等を浮かせる

    場合に限る等必要最小限とする。(写真 2-14)

  • 38

    エ 天井等高所の場合、除去した成形板等を降ろす作業は手渡しで行い、破損しな

    いよう慎重に扱う。投下等は成形板等が破砕されるので、行ってはならない。

    オ 万一、バール等の使用時に成形板等が破砕した場合は、養生等を解く前に、HEPA

    フィルタ付真空掃除機により作業場内の換気及び清掃を行う必要がある。

    カ 解体等で、十分な散水を行うことにより湿潤化して除去作業を行った場合は、

    排水についての処理を適切に行うことを考慮する必要がある(P36 (5)排水の

    処理参照)。

    キ 原形を保って除去した成形板等は、廃棄に当たっても原形を保ったまま行う必

    要がある。湿潤化し、そのままプラスチックシートに梱こ ん

    包して、産業廃棄物とし

    て処理する。

    写真 2-14 原形のままの手ばらし(内装)

    (提供:社団法人住宅生産団体連合会)

    (2) 内装の床の解体・改修

    ア 除去作業に先立ち、窓、換気扇等外部につながる部分について養生を行う。

    イ 解体現場でビニル床タイル等の成形板等を除去する場合は、湿潤化に十分な散

    水を行うことができる。この場合、十分な散水を行うとともに、除去作業時につ

    いても除去部分に水等を噴霧するか、あるいは HEPA フィルタ付真空掃除機で局

    所集じんしながらの作業を行うことが望ましい。なお、改修時などで散水が行え

  • 39

    ない場合は、「(1)内装の天井・壁の解体・改修」に準じた対策を行う。

    ウ 散水に使用した水については、排水についての処理を適切に行うことを考慮す

    る必要がある(2-4-2(5)排水の処理を参照)。

    エ 除去作業終了後、湿潤な状態のうちに除去した成形板等を原形のままプラスチ

    ックシートで梱包する。その後、HEPA フィルタ付真空掃除機で作業場内の換気

    及び作業場内十分な清掃を十分に行う。梱包した成形板等は作業場内を清掃した

    後搬出する。

    (3) 外装の壁・軒天及び屋根等の解体・改修

    ア 解体時は作業場外周の養生を行うが、外部にアスベストが全く飛散しないよう

    に養生することは困難