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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/ Title �CT��Author(s) �, �; �, Journal �, 112(6): 724-727 URL http://hdl.handle.net/10130/2976 Right

マイクロCTを用いた上顎乳犬歯歯根吸収と後継永久歯の URLir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/2976/1/112_724.pdf · 結果の紹介 1.小児乾燥頭蓋骨による乳犬歯歯根と犬歯の位置

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,

Available from http://ir.tdc.ac.jp/

TitleマイクロCTを用いた上顎乳犬歯歯根吸収と後継永久歯の

位置に関する形態学的研究

Author(s) 坂, 英樹; 小山, 泰輔

Journal 歯科学報, 112(6): 724-727

URL http://hdl.handle.net/10130/2976

Right

はじめに

乳歯の生理的歯根吸収は,永久歯にはみられない特異的な現象である1-4)。したがって乳歯の治療を行う際には,歯根の状態や後継永久歯との位置関係を把握しておく必要がある。そこで臨床では X 線画像によって乳歯歯根の状態を診査しているが,乳前歯部では永久歯胚と唇舌的に重なるため困難である。

乳歯の生理的歯根吸収については,X 線画像を用いた研究のみならず,歯根吸収の形態学的研究も数多くなされてきた。しかし,小児顎骨を用いた形態学的研究は,研究試料として貴重なヒトの顎骨を必要とするため,現在まで坂5),Saka ら6),菊地7),北村ら8),飯田ら9),Hiraide ら10)および Lu ら11)の報告のみであり,X 線 CT を用いて三次元的に観察した研究は上岡12)の第二乳臼歯に関する報告が存在するにすぎない。すなわち,ヒト乳歯の生理的歯根吸収については未だ不明な点が多い。

そこで今回は,乳前歯の中で上顎乳犬歯に着目

し,歯根吸収と後継永久歯の関係を明らかにするため,小児乾燥頭蓋骨を試料として Micro-CT を用いて上顎乳犬歯部における顎骨内部構造を三次元的に立体構築し,歯の萌出相の推移に伴う顎骨内での上顎乳犬歯と後継永久歯の位置関係を中心に観察した。

結果の紹介

1.小児乾燥頭蓋骨による乳犬歯歯根と犬歯の位置関係の観察

試料は,当講座所蔵のインド人小児乾燥頭蓋骨16顆を用いた。これらを,上顎の歯の萌出が歯槽頂に達したものを基準として,乳中切歯から第二乳臼歯までが歯槽頂に達したもの(乳歯列期)を StageⅠ,萌出順に第一大臼歯(StageⅡ),乳中切歯(StageⅢ),および乳側切歯が歯槽頂に達した StageⅣの4期に区分して観察を行った。各期の観察で使用した頭蓋骨は各々4顆である。

これらの試料から,上顎乳犬歯と犬歯歯胚を含む骨小嚢の関係を観察するために,Micro-CT(HMX

解説(学位論文 解説)

マイクロCTを用いた上顎乳犬歯歯根吸収と後継永久歯の位置に関する形態学的研究Morphological studies of root resorption of maxillary pri-mary canines and its relation with position of successivepermanent teeth using Micro-CT

坂 英樹 東京歯科大学解剖学講座 講師略歴 坂 英樹:1990年東京歯科大学卒業,1994年東京歯科大学大学院歯学研究科

(解剖学専攻)修了,同年より東京歯科大学解剖学講座研究助手,1995年より同講座助手,1998年より同講座講師,2003年より1年間豪州・アデレード大学歯学部法歯学研究室へ研究留学。研究テーマ:小児顎骨内部構造の解析小山歯科医院小山泰輔:2003年日本歯科大学歯学部卒業,2004年日本歯科大学附属病院臨床研修医修了,2005年より東京歯科大学解剖学講座専攻生,2010年修了。

Hideki Saka

小山 泰輔Taisuke Koyama

キーワード:上顎乳犬歯,歯根吸収,骨小嚢,マイクロ CT,小児乾燥頭蓋骨Key words:maxillary primary canine, root resorption, bony crypt, Micro-CT, dry skulls of children

(2012年4月13日受付,2012年7月26日受理,歯科学報 112:724~727,2012.)

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225-ACTIS・テスコ)にて下顎骨を除いた頭蓋骨を撮影し観察を行った。得られた Raw Data をもとに二次元スライス画像を作成し,三次元立体構築ソフト(VG Studio Max2.0,Volume Graphics)により,三次元立体構築を行い,上顎乳犬歯歯根と犬歯歯胚を含む骨小嚢の関係を前額方向(A),矢状方向

(B)および水平方向(C)に切断面を設定し観察した。各々の平面で基準となる範囲を設定し,4等分して観察可能な5平面のうち中央寄り3平面を観察部位としたが,今回はその観察範囲の中央平面を例に挙げて,4期に渡る乳犬歯歯根と後継永久歯の関係の推移を紹介する(図1)。

1)StageⅠA.犬歯骨小嚢の近遠心的位置は,下端は乳犬

歯歯根のほぼ直上に,上端はやや遠心にみられた。犬歯骨小嚢の上下的位置は,側切歯と第一小臼歯,および中切歯の歯胚よりも上方に位置していた。

B.犬歯は乳犬歯根尖舌側のやや上方にみら

れ,唇側から舌側に掛けて犬歯,側切歯,中切歯の順にみられた。

C.乳犬歯歯根の近心舌側部は側切歯骨小嚢の遠心部と近接し,犬歯骨小嚢は下端付近がみられた。

2)StageⅡA.犬歯骨小嚢の位置は,StageⅠと同様に下

端は乳犬歯歯根のほぼ直上に,上端ではやや遠心にみられたが,大きさは StageⅠと比べて上下的に成長し,隣接する骨小嚢同士が重なり,境界が不明瞭になっている部分もみられた。

B.乳犬歯歯根の舌側に犬歯と側切歯がみられた。上下的な位置関係は,犬歯が乳犬歯根尖上方に,側切歯が乳犬歯歯根舌側中央付近に存在し,犬歯は鼻腔と近接していた。唇舌的な位置関係は,犬歯が唇側寄りに側切歯が舌側寄りに存在していた。

C.StageⅠ同様に,乳犬歯歯根の近心舌側部

図1 StageⅠ-Ⅳの立体構築画像 A:前額方向 B:矢状方向 C:水平方向

歯科学報 Vol.112,No.6(2012) 725

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は側切歯骨小嚢の遠心部と近接し,犬歯骨小嚢の下端部が乳犬歯歯根と側切歯骨小嚢の間にみられた。

3)StageⅢA.犬歯の位置は StageⅡと比べて,上端がさ

らに遠心に傾斜し,骨小嚢の形が円形から長円形に変化し,第一小臼歯の骨小嚢と交通している部位もみられた。

B.StageⅡ同様に,犬歯と側切歯が乳犬歯歯根舌側中央付近にみられ,乳犬歯根尖付近の舌側が吸収していた。

C.犬歯骨小嚢は乳犬歯歯根舌面に近接し,顎骨の唇舌的位置ではやや唇側寄りにみられた。

4)StageⅣA.犬歯骨小嚢は,上端では遠心に下端では近

心に傾斜して側切歯歯根に近接し,近心部は鼻切痕と近接していた。

B.犬歯骨小嚢の上端から舌側寄りでは鼻腔の外下壁と近接し,下端では乳犬歯根尖付近の舌側に近づき歯根吸収がみられた。

C.犬歯骨小嚢は唇舌的には唇側に位置し,側切歯と乳犬歯の間にみられ側切歯歯根の唇側を囲んでいた。また同部の唇側緻密骨が吸収していた。

2.歯根面-骨小嚢間の距離計測Micro-CT で撮影した上顎乳犬歯歯根と犬歯骨小

嚢との関係を明確にするため歯根面-骨小嚢間の最短距離を計測した。計測は水平方向で行い,骨小嚢が存在する範囲のみとした。計測結果より,歯の萌出相の推移と共に歯根と骨小嚢の距離が近づくことが定量的に明らかになり,StageⅢと StageⅣの間に有意な差が認められた(図2)。

まとめ

今回の観察で,後継永久歯については歯胚でなく骨小嚢を対象とした。これは永久歯胚が乾燥頭蓋骨顎骨内部では固定されていないため,正確な位置を同定できない。したがって上顎乳犬歯歯根とその後継永久歯である犬歯骨小嚢との位置関係を観察した。

過去に当教室では,上顎骨の骨小嚢が歯牙萌出相

の推移と共に形や大きさ,およびその位置が変化することを報告している5,6,10,13-15)。

川嶋13)は,上顎骨小嚢の位置変化について観察し,乳歯列期より歯の萌出相の推移と共に,中切歯から第一小臼歯にかけて犬歯以外は下方へ広がりを見せるが,犬歯は上方に存在して萌出直前で下降してくると述べている。また乳歯列期では,すべての骨小嚢が顎骨に対してかなり大きいため近遠心的な配列がずれて重なっているが,側切歯萌出期以降で直線的な配列に近づくと述べている。

花井15)は,永久歯胚を含む骨小嚢の上端部と下端部の発育は,中切歯と第一小臼歯は上端部では変化なく下端部が下降し,側切歯は上端部が上行し下端部は変化なく,犬歯は上端部が上行し下端部が下降すると述べている。

今回の観察結果は,これらの報告とほぼ同様であった。特に上顎犬歯骨小嚢は,上端部と下端部の成長がみられただけでなく,上端部が遠心に下端部が近心に傾斜している他の部位にない所見を認めた。全ての歯種の中で,犬歯は全長が最も長くまた萌出するまで高位に存在し,上内側部に鼻腔があるためその鼻腔を避ける必要がある。Linden ら16)

は,小児顎骨の内部を観察し,犬歯の位置は梨状口の幅の影響を受けると述べている。これらのことから,犬歯が上顎骨内で成長するには,近遠心的に傾斜する必要があると考えられた。

上顎乳犬歯の歯根吸収は,根尖付近の舌側から開始していた。Linden ら17)は,乳犬歯の歯根吸収は,犬歯歯冠外形に一致していたと述べている。犬歯を含む骨小嚢は,他の永久歯よりも高位にあり舌側に位置していたことから,根尖の舌側付近から歯根吸収が開始したと考えられた。同じ前歯部では,平出ら10)は,上顎乳切歯の歯根吸収を観察し,乳中切歯では歯根の舌側面から吸収が始まり,乳側切歯

図2 上顎乳犬歯歯根と犬歯骨小嚢間の最短距離

坂,他:上顎乳犬歯歯根吸収と後継永久歯の形態学的研究726

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では中切歯の成長の影響を受けて歯根の近心舌側面から吸収が始まると報告している。これらのことから,前歯部の乳歯歯根吸収は,後継永久歯だけではなく隣接する永久歯も関係することもあり,各々吸収パターンが異なることが明らかになった。

上顎と下顎を比較すると,Lu ら11)は,下顎で犬歯骨小嚢の上端,下端ともに成長を認めたと報告している。これは今回の上顎での観察結果と同様であった。しかし,下顎では乳犬歯直下に位置していた犬歯骨小嚢が,成長とともに遠心舌側に移動することから,下顎乳犬歯の歯根吸収は遠心舌側面から始まると述べている。一方上顎では犬歯骨小嚢が非常に高位にあり,さらに近遠心的に傾斜しているため,側切歯が萌出した時期でも,根尖付近の一部に歯根吸収がみられただけであった。したがって乳犬歯の歯根は,上下顎において後継永久歯骨小嚢の位置が異なることから吸収開始の部位も異なることが確認できた。

また,歯根面-骨小嚢間の距離計測の結果から,StageⅢ以降では,乳犬歯の歯根面と犬歯骨小嚢との距離は近づくことが定量的に示された。

文 献1)Orban, B. : Resorption and repair on the surface of theroot. J Am Dent Assoc 15:1768-1777,1928.

2)Kronfeld, R. : The resorption of the roots of deciduousteeth. Dent Cosmos 74:103-120,1932.

3)Ten Cate, A.R. : Orban’s Oral Histology and Embryol-ogy. 10th ed.(edited by Bhaskar S.N.),361-374,The C.V. Mosby Co., St. Louis., 1986.

4)永谷 敏:ヒト乳歯歯根吸収に関する知見補遺.歯科医学,51:859-865,1988.

5)坂 英樹:上顎第二乳臼歯歯根吸収に関する形態学的研究.歯科学報,94:911-940,1994.

6)Saka, H., Kikuchi, A., Ide, Y. : A morphological study ofroot resorption of the maxillary first deciduous molars.Bull Tokyo Dent Coll, 37:137-144,1996.

7)菊地敦子,坂 英樹,井出吉信:下顎第一乳臼歯歯根吸収 に 関 す る 形 態 学 的 研 究.歯 科 学 報,99:137-155,1999.

8)北村 新,坂 英樹,井出吉信:下顎第二乳臼歯歯根吸収に関する形態学的研究.小児歯誌,38:548-561,2000.

9)飯田哲也,坂 英樹,井出吉信:Micro-CT による下顎乳切歯歯根吸収と後継永久歯の位置に関する研究.小児歯誌,40:19-31,2002.

10)Hiraide, Y., Saka, H., Tamatsu, Y., Akinobu, U., Yan-agisawa, N., Ide, Y. : Root resorption of maxillary primaryincisors in relation to position of successive permanentincisors by Micro-CT. Pedi dent J, 18:15-23,2008.

11)Lu, W-Y. , Saka, H., Tamatsu, Y., Nakahara, K., Age-matsu, H.,Ide, Y. : The morphological analysis of root re-sorption of mandibular primary canines and their rela-tionship with the position of successive permanent teethusing Micro-CT. Pedi dent J, 19:187-195,2009.

12)上岡 斉:乳臼歯とその後継永久歯との位置関係について-X 線 CT による第二乳臼歯と第二小臼歯の三次元的観察-.奥羽大歯学誌,32:67-78,2005.

13)川嶋 勲:永久歯萠出相の推移に伴う上顎骨小嚢の位置の変化について.歯科学報,76:1041-1098,1976.

14)庵原靖之:小児上顎骨の内部構造に関する研究,2.骨小嚢の形と大きさ並びに緻密質の厚径について.歯科学報,78:587-641,1978.

15)花井正二:萠出相の推移に伴う小児上顎骨内の永久歯芽の成長と位置の変化について.歯科学報,76:1351-1412,1976.

16)Linden, F. P. G. M. and Duterloo, H. S. : Development ofthe Human Dentition-An Atlas. 158, Harper&Row, Hager-stown, 1976.

17)Linden, F. P. G. M. and Duterloo, H.S. : Development ofthe Human Dentition-An Atlas. 160, Harper&Row, Hager-stown, 1976.

本論文は,下記学位論文の内容を解説した。The morphological studies of root resorption of maxillaryprimary canines and their relation with the position ofsuccessive permanent teeth using Micro-CT, Saka H,Koyama T, Tamatsu Y, Usami A, Ide Y., Pediatric DentalJournal21;145-153:2011.

別刷請求先:〒261‐8502 千葉市美浜区真砂1-2-2東京歯科大学解剖学講座 坂 英樹

歯科学報 Vol.112,No.6(2012) 727

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