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いわてキャリア教育の手引き -キャリア教育の推進に向けて- 平成22年8月 岩手県教育委員会 小・中学校編 《 目 次 》 01 いわてのキャリア教育 02 キャリア教育の進め方 03 キャリア教育推進委員会の設置 04 全体計画の作成 05 校内研修 06 各教科等との関連 07 キャリア教育の視点と学習指導案の作成 08 キャリア教育における体験的な学習 09 実践事例の紹介 10 キャリア教育の評価 11 いわてのキャリア教育 Q&A

いわてキャリア教育の手引き- 2 - 3 発達段階に応じたキャリア教育 (1) 小学校 児童が基本的な生活習慣や社会生活上の基礎基本を身に付け、将来の夢をもち、生き方の基

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いわてキャリア教育の手引き -キャリア教育の推進に向けて-

平成22年8月

岩手県教育委員会

小・中学校編

《 目 次 》

01 いわてのキャリア教育

02 キャリア教育の進め方

03 キャリア教育推進委員会の設置

04 全体計画の作成

05 校内研修

06 各教科等との関連

07 キャリア教育の視点と学習指導案の作成

08 キャリア教育における体験的な学習

09 実践事例の紹介

10 キャリア教育の評価

11 いわてのキャリア教育 Q&A

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01 いわてのキャリア教育

-いわてキャリア教育指針「キャリア教育の推進に向けて」より(抜粋)-

1 いわてが目指すキャリア教育

いわてが目指すキャリア教育とは、児童生徒が自己の在り方・生き方を考え、主体的に進路を

選択し、社会人・職業人として自立するための能力を学校教育活動全体で計画的・組織的にはぐ

くむことと定義し、この視点を教育活動に取り入れることを目指します。

2「いわてのキャリア教育」で育成する力

いわてのキャリア教育は、児童生徒が自己の在り方・生き方を考え、社会人・職業人として自立

するために、「総合生活力」と「人生設計力」の育成に努めます。

総合生活力とは

児童生徒が将来の社会人・職業人として自立して生きるために必要な能力です。

市民生活、職業生活、家庭生活など、社会生活の様々な場面に適切に対応できる

能力です。

①健康・体力・・・・・・基本的な生活習慣の確立、健康の増進、体力の向上、食育の推進

②豊かな人間性・・・人間関係調整能力、忍耐力、規範意識、道徳心、行動力、向上心の育成

③確かな学力・・・・・基礎学力、問題解決力、企画力、情報活用能力の育成 など

人生設計力とは

児童生徒が主体的に人生計画を立て、進路を選択し、決定できる能力です。

児童生徒を取り巻く現実の社会を知り、勤労観や職業観をはぐくみ、将来の人生

設計を主体的に決定できるようにする能力です。

①社会を把握する能力・・・現代社会(政治・経済・文化・地域社会)の理解、国際社会理解

②勤労観・職業観・・・・職業観、勤労観、職業に関する知識・技能、職業適性判断力の育成

③将来設計力・・・・・・・人生観、先見性、進路情報活用力、進路決定力の育成 など

エ ン ジ ン

ハ ン ド ル

- 2 -

3 発達段階に応じたキャリア教育

(1) 小学校

児童が基本的な生活習慣や社会生活上の基礎基本を身に付け、将来の夢をもち、生き方の基

盤をつくる時期です。

小学校では、「総合生活力」の育成に重点を置き、係活動や委員会活動などをとおして、き

まりを守ることや働くことの大切さを育てることが重要です。

また、他者との好ましい人間関係を築く中で、自分を知り、長所を伸ばそうとする意識をも

たせ、体験的な学習をとおして、「人生設計力」の基礎を築くことが必要です。

(2) 中学校

小学校で培った「総合生活力」の充実を図り、学年の進行とともに、「人生設計力」の育成

の比重が増していくことを念頭に、体験的な学習をとおして、現実の社会について学び、勤労

観・職業観を育成し、将来の目標に向かっての努力や学習の大切さを理解させることが大切で

す。

また、高校進学等の進路選択の時期であり、ガイダンスの機会を多く設け、生徒一人ひとり

に応じた「人生設計力」を育成します。

(3) 高等学校

小・中学校ではぐくんだ「総合生活力」と「人生設計力」を基礎に、新たな学習や体験を積

み重ね、自らの「総合生活力」を客観的に評価し、その向上を図るとともに、「人生設計力」

を確立させる時期です。

高等学校卒業後に就職する生徒には、「社会人・職業人として自立できる実践的な知識・技

能・態度をはぐくむ教育」、進学する生徒には、大学等卒業後を意識した、「自立に向けた自

己の将来を考えさせる教育」が重要であり、体験的な学習をとおして社会と職業への理解を深

め、社会人・職業人として自立できるように、「総合生活力」と「人生設計力」をバランス良

く育成することが必要です。

いわての児童・生徒に求められる資質(「いわてキャリア教育推進検討委員会(H21)」における協議内容より)

- 3 -

キャリア教育の進め方02各学校におけるキャリア教育の具体的な進め方として、次の1~7について例示します。

1《理念の理解》本県のキャリア教育の理念を理解する。

「 」 。平成21年度に作成した いわてキャリア教育指針 を職員間で共通理解することから始めます

その後、以下の手順を参考にし、各学校の実態に応じて進め方を工夫します。

2《校内体制の組織化》キャリア教育推進委員会等を設置する。

、 、 、キャリア教育は 学校教育活動全体で取り組むことから キャリア教育を教育課程に位置付け

校務分掌にキャリア教育担当を設けるなど、全校的指導体制を確立し、組織的系統的に進める必

要があります (5ページ参照)。

3《課題の明確化》自校の課題を明らかにする。

キャリア教育を実践するため、各学校がキャリア教育の視点に基づいて、児童生徒に身に付い

ている資質・能力 関心・意欲・態度や自校の現状について把握するとともに、分析することに、

より自校の課題を明らかにします。

4《目標の明確化》学校が育てたい児童生徒像を明確にする。

キャリア教育を実践するため、自校の課題を明らかにし、教育活動と各学校が目指す到達目標

を明確にします。

また、学校が組織として機能するには、全職員が「教育活動を通してどのような児童生徒を育

てたいのか」という児童生徒像をもち、ベクトルを一つにして取り組むことが必要であり、職員

間で自校のキャリア教育の目標について共通理解を深めることが大切です。

5《教育活動の構造化》学校教育全体にキャリア教育を位置付ける。

学校教育目標、教育方針等に学校が育てたい児童生徒像を含んだ「キャリア教育全体計画 (6」

ページ参照)を作成し、学校教育全体の中に位置付けます。

また、児童生徒の発達段階を踏まえた自校の学習指導計画や取組内容の重点等を設定し、キャ

リア教育の視点で教育課程を編成します。このことにより、キャリア教育は、構造的・組織的・

系統的なものとなり、学校全体の取組とすることができます。

6《校内研修の組織化・具体化》キャリア教育の具体的な取組について共通理解を図る。

キャリア教育は、学校教育活動全体で取り組むことから、キャリア教育が求められる背景やそ

の意義、キャリア教育で育成すべき能力や態度などについて校内研修を実施し、キャリア教育に

ついて全職員の共通理解を図ります。

さらに、キャリア・カウンセリングに関する基本的な能力の向上のための研修も企画します。

7《評価》キャリア教育の取組について評価を行う。

キャリア教育では 「子どもの変容や成長」や「教育活動取組」について評価します。、

児童生徒がどのように変容し成長したのかを検証するには、子どもの実態に応じた到達目標の

設定が必要です。教育活動の取組については、キャリア教育の視点で教育活動が設定されている

か、指導内容や指導方法は適切であるかについて評価すること(16ページ参照)が大事な視点で

あり、定期的に評価を行い、到達目標や教育活動を繰り返し見直していくことが必要です。

- 4 -

「キャリア教育の流れ図」

( 参照)「いわてのキャリア教育指針」の理解 01

※職員間の共通理解を図る。

《理念の理解》

( 参照)キャリア教育の推進に向けた校内体制の確立 03

※キャリア教育担当やキャリア教育推進委員会を設置する。

《校内体制の組織化》

( 参照) ( 参照)全体計画の作成 校内研修04 05

キャリア教育の視点に基づいた自校の教育 キャリア教育に関する校内研修体制の確立

※組織を確立する。課題を明確化

※児童生徒の実態、保護者の要望、地域の状況 ※活動目標(ビジョン)を設定する。

等を加味する。 ※実施計画を作成する。

《課題の明確化》 《校内研修の組織化》

キャリア教育の視点に基づく学校経営計画 校内研修の実施

※職員間におけるキャリア教育に関する共通理解(学校教育目標)の作成

※学校の実態に応じたキャリア教育目標を作成 の推進を図る。

する。 ※キャリア教育に関する職員の資質向上を図る。

(キャリア・カウンセリング能力、外部団体と《目標の明確化》

の調整能力等の育成)

キャリア教育全体計画の作成 《校内研修の具体化》

※教育課程、学習指導計画と調整し作成する。

※各学年、各分掌、各教科等の年間指導計画と

の整合を図る。

《教育活動の構造化》

( ~ 参照)キャリア教育の実践 06 09

※実施内容を定期的に評価し、改善を加えながら推進する。

《実 践》

( 参照)キャリア教育実践後の評価 10

。※次年度に向けたキャリア教育全体の評価を行い、その改善を図る

《評 価》

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キャリア教育推進委員会の設置03小・中学校における組織例

・委員長校 長

・学校の教育目標や教育課程上の位置付けを行う。 など

・渉外やPTA、地域との連携等を行う。 など副校長

・キャリア教育推進のための指導体制を整える。

・広報活動を実施する。 などキャリア教育担当

・キャリア教育の視点を踏まえた教育課程を編成する。

・キャリア教育全体計画を作成する。 など教務主任

・キャリア教育に基づく進路指導計画を作成する。 など進路指導主事

・キャリア教育の視点を踏まえた各教科等の年間指導計画を作

成する。研究主任

。・キャリア教育に関わる研究や研修の推進と評価の改善を行う

など

・キャリア教育の視点を踏まえた学年経営を企画・実施する。各学年主任

・連絡調整を図る。 など

。・各教科等や体験的な学習と関連付けた内面的価値形成を図る

・ 心のノート」の活用を図る。 など道徳教育推進教師(担当) 「

・集団活動を通して、児童生徒が現在及び将来の生き方を考え

るための工夫を図る。特別活動担当

・地域との連携及び地域行事への積極的参加を図る。 など

・探究的な学習・体験的な学習を通して、自己の生き方を考え総合的な学習の時間担当

るための工夫を図る。 など

・適切な教育相談を実施する。生徒指導主事(担当)

ど・体験 成 な等を通した規範意識の醸 を図る。

総 務 部 教 務 部 研 究 部 各 学 年 生徒指導

関係機関や地域との連携

年間指導計画の作成・職員研修の企画立案・各分掌の役割分担

計画に基づく実践

- 6 -

全体計画の作成04小・中学校における全体計画の様式例

キャリア教育全体計画作成のポイントは、次の ~ に示すとおりです。PointⅠ Ⅵ

下記「全体計画」の記述内容は、岩手県教育委員会が平成22年3月に示した「いわてキャリア

教育指針」に基づいて作成した例であり、各学校は、それぞれの実態に応じて作成します。

【 】Point Ⅰ

学校の全体教育計画を基にします。学校の教育目標と目指す子ども像の育成に向けて、キャリア教育を位置付け

ていきます。

【 】Point Ⅱ

キャリア教育の学習指導要

領上の位置付けを明記し、キ

ャリア教育の目的と内容を押

さえます。

【 】Point Ⅲ

キャリア教育学習プログラ

ムの枠組みを基に、キャリア

教育の指導目標である態度や

能力を具体化します。

【 】Point Ⅳ

学年毎や低・中・高学年毎

に指導目標を具体化して設定

します。

【 】Point Ⅴ

教科・領域等の各教育課程

におけるキャリア教育の指導

内容を挙げ、キャリア教育推

進上の方向性を示します。

【 】Point Ⅵ

実践上の配慮事項や指導上

の留意事項等を、キャリア教

育を推進していくための基盤

として押さえます。

- 7 -

校内研修05教員研修の例

教員研修の中でも、校内研修を充実させることは、各学校にとって重要なことです。校内研修

を進めることにより、全職員が協同してキャリア教育に取り組む体制の確立につながります。

ここでは、キャリア教育に関する校内研修の目的や内容について、次のとおり例示します。

(1) 「キャリア教育の意義」についての研修

① 研修の目的

・学校におけるキャリア教育の意義を理解する。

・社会の仕組みや経済社会の構造について理解を深める。

・全職員によるキャリア教育の推進についての意識を高める。

② 研修の内容

・国が主催する指導者養成研修の受講者、総合教育センターが実施する指導者養成研修や

県が実施するキャリア教育に関する研修の受講者を講師に、キャリア教育が求められる

背景や基本的な理念について学びます。

・グループに分かれてキャリア教育についてもつイメージを話し合う活動を設定します。

(2) 「目標の設定」についての研修

① 研修の目的

・自校の児童生徒の発達上の課題や育成したい能力や態度を明らかにし、目指す児童生徒

像を明らかにする。

② 研修の内容

・ いわてキャリア教育指針」を参考に、自校の児童生徒の発達上の課題や育成したい能「

力や態度について話し合い、目指す児童生徒像を明らかにするとともに、キャリア教育

の目標として設定します。

・目指す児童生徒像と各教科等との関連を考え、年間指導計画を作成します。

(3) 「キャリア教育の視点に立った授業づくり」についての研修

① 研修の目的

・キャリア教育の視点に立った授業について考え、指導計画を作成する。

② 研修の内容

・年間指導計画をもとに、キャリア教育の視点に立って単元指導計画や一時間の指導計画

を作成します。

(4) 「家庭や地域との効果的な連携」についての研修

① 研修の目的

・家庭や地域との連携の重要性を理解する。

・家庭や地域のキャリア教育に対する理解を促進する。

・学校の特性を生かした効果的な連携の進め方について考える。

② 研修の内容

・身近な地域で働く人やキャリア教育に関する有識者等の外部人材を講師に招き、地域、

保護者、教員を対象に講演会を実施したり、話し合いを実施したりします。

(5) 「キャリア・カウンセリング」についての研修

① 研修の目的

・カウンセリングの基本を学び、その必要性について理解する。

② 研修の内容

・ビデオ視聴やその逐語録を見て、児童生徒の話を聞く際の望ましい態度や応答・在り方

について、理解を深めます。

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各教科等との関連06キャリア教育のねらいを実現させるためには、学校教育活動の様々な取組が、各学校の教育課

程に適切に位置付けられ、計画性と系統性を持って展開されなければなりません。

キャリア教育は、各学校の教科等の教育活動全体で取り組むものであり、単に、特定の活動の

みを実施したり、新しい活動を追加すれば良いものではないことに留意する必要があります。

日常の各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間等の教育活動の中で育成しようとしてい

る能力・態度について、キャリア教育の視点から、教育課程上の位置付けを見直すなどの点検・

改善が求められています。

1 各教科とキャリア教育

各教科の学習内容をキャリア教育の視点で見直し、各教科の学習が、児童生徒の生活と深く結

び付いていることや、実社会で活用されていることなどを通して、学ぶことの面白さを伝えよう

とすることが大切です。

なお、キャリア教育を推進するに当たって、各教科等の学習活動において留意すべきことにつ

いて、以下に示す資料等を参考にしてください。

(1) 「小学校・中学校・高等学校学習指導要領関係資料 (関係部分のみ抜粋)」

http://www.nier.go.jp/shido/centerhp/20kyariasiryou/20kyariasiryou.hp/1-03.pdf

「 、 」(2) 自分に気付き 未来を築くキャリア教育 -小学校におけるキャリア教育推進のために-

(国立教育政策研究所生徒指導研究センター[平成21年3月 )]

http://www.nier.go.jp/shido/centerhp/20kyariasiryou/20kyariasiryou.hp/3-10.pdf

(3) 「自分と社会をつなぎ、未来を拓くキャリア教育 -中学校におけるキャリア教育推進のた

めに-」(国立教育政策研究所生徒指導研究センター[平成21年11月 )]

http://www.nier.go.jp/shido/centerhp/20kyariasiryou/20kyariasiryou.hp/3-10.pdf

(4) 「小学校 キャリア教育の手引き (文部科学省[平成22年1月 )」 ]

http://www.nier.go.jp/shido/centerhp/21career.shiryou/honbun/koumoku/1-04.pdf

「自分に気付き、未来を築くキャリア教育」 「自分と社会をつなぎ、未来を拓くキャリア教育」 「小学校 キャリア教育の手引き」

2 特別活動とキャリア教育

(1) 特別活動は、学校や学年や学級という集団活動を通して協調、責任、役割、貢献を学び、

社会参画の力や人間関係形成の力を育てる領域です。特別活動の目標は 「望ましい集団活、

動を通して、心身の調和のとれた発達と個性の伸長を図り、集団や社会の一員としてよりよ

い生活を築こうとする自主的、実践的な態度を育てるとともに、人間としての生き方につい

ての自覚を深め、自己を生かす能力を養う (中学校学習指導要領)であり、キャリア教育。」

の目指す「総合生活力」と「人生設計力」に深い関連があります。

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(2) 集団生活において、児童生徒一人ひとりが自分の役割や責任を果たすことにより、社会性

は確かなものとなります。社会性を身に付けるには、児童生徒が互いの特性を認め合い、与

えられた役割を自覚し、責任をもって仕事を果たす経験を積み重ねていくことが必要です。

(3) 特別活動は学級や学校という集団の中で生じる生活上の問題を自主的、自治的に解決する

ことを主な学習内容としており 「総合生活力」の育成に繋がります。、

学校は生活の場であり、解決しなければならない問題は身の回りの現実的な問題であり、

これまでの経験を生かし、それぞれの力を発揮し、望ましい集団活動を通して、教え合い、

学び合い、助け合いながら実践的に取り組むことができるよう、支援することが大切です。

3 総合的な学習の時間とキャリア教育

(1) 総合的な学習の時間の目標は「横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して、自ら課題

を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育

成するとともに、学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究的活動に主体的、創

造的、協同的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにする 」こ。

とであり、これは 「社会の一員として自立的に自己の人生を方向付ける 」というキャリア、 。

教育の考え方と一致します。

(2) 年齢や価値観が異なる他者とかかわり、様々な考え方や生き方があることを知ることは、

学ぶことの意義を再確認し、進路や生き方についての選択肢を広げることになります。仕事

やその人の生き方に触れ、大人と自分の生き方を結び付け、現在や将来について考えること

はキャリア教育における「人生設計力」の考え方と一致します。

(3) 総合的な学習の時間における職場体験等の体験的な学習は、児童生徒の発達段階に配慮し

ながら 「総合生活力 「人生設計力」の育成という視点を踏まえ、活動のねらいを明確にし、 」

て、その内容や方法を十分検討する必要があります。

キャリア教育を狭義に捉え、総合的な学習の時間に実施する体験的な学習のみでキャリア

教育とすることのないよう留意が必要です。

4 道徳教育とキャリア教育

(1) 道徳教育の目標は 「学校の教育活動全体を通じて、道徳的な心情、判断力、実践意欲と、

態度などの道徳性を養うこととする 」となっており、これは、よりよい生き方を求め実践。

する人間の育成を目指すというキャリア教育にも共通することです。

(2) 遊びや日常生活における手伝い、学校での係活動、清掃活動、勤労生産的な活動や地域で

、 、の活動等について様々な役割を経験しながら 内面的な価値形成に深くかかわる道徳教育は

自己の生き方・在り方を考えるキャリア教育の考え方と共通しています。

総合的な学習の時間と特別活動の違いとは

総合的な学習の時間も特別活動も、自己の生き方を考えたり深めたりすることがねらいとなっていますが、

違いを示すとすれば、総合的な学習の時間は、横断的総合的・探究活動を通して問題を解決する資質能力を育

成すること、特別活動は、望ましい集団活動を通して、自主的・実践的な態度を育成することとなります。

また、総合的な学習の時間における探究活動とは、①課題設定、②情報の収集、③整理・分析、④まとめ表

現の学習の繰り返しであり、特別活動における望ましい集団活動とは、①学級活動、②児童会・生徒会、③学

校行事となります。

- 10 -

キャリア教育の視点と学習指導案の作成07○指導目標、活動内容、指導方法を明確に押さえましょう。○多様な学習活動を取り入れ、児童生徒の主体的な学習を促しましょう。○家庭や地域などとの連携を図りましょう。○実践活動だけでなく、事前や事後の活動も重視しましょう。○教科・領域や総合的な学習の時間との関連を押さえながら、組織的・系統的な指導を目

指しましょう。○小学校・中学校・高等学校との連携を図りましょう。

○キャリア教育の視点を取り入れた学習指導案作成のポイントは次のとおりです。各教科等における授業は、そのねらいを達成することが第一となりますが、キャリア

教育と関わる授業を計画する場合は、学習指導案の中にキャリア教育とのかかわりについて示すことが必要です。特にも、教科等の指導目標や評価にキャリア教育の視点から見た目標や評価を加えることにより、より明確な授業を展開することができます。

第○学年 ○○科学習指導案1 題材名

2 題材設定の理由【 】(1) 題材観 Point Ⅰ① 題材観、生徒観は、教科等との関わりを中心に示します。

、 。(2) 生徒観 ② 題材観 生徒観ともにキャリア教育との関わりを端的に加えて示します

(3) 指導観【 】Point Ⅱ① 指導観について、教科等との関わりを中心に示します。

② キャリア教育に関わる指導の構想についても示します。小項目を設定する方法も考えられます。

3 指導目標【 】Point Ⅲ① 教科等における指導目標を中心に示します。② キャリア教育に関わる指導目標についても示します。

4 指導計画【 】Point Ⅳ① 教科等における指導計画を中心に示します。② ①における指導計画にキャリア教育との関連を示すことが考えられます

5 本時について(1) 目標

【 】Point Ⅴ① 教科等における本時の目標を中心に示します。

② キャリア教育に関わる本時の目標を一つ程度加えて示します。

(2) 展開【 】Point Ⅵ

① 教科等のねらいを中心に展開をまとめます。② キャリア教育との関わりについても端的に示します。

(3) 評価【 】Point Ⅶ① 教科等の具体の評価規準を示します。② キャリア教育に関わる評価についても示します。

- 11 -

キャリア教育における体験的な学習08、 、 、 、 、キャリア教育にかかわる体験的な学習には インタビュー 社会人講話 職場見学 職場体験

ボランティア活動、上級学校見学等が考えられます。

小学校・中学校・高等学校と発達段階に応じて様々な社会人と触れ合うことによって、多くの

社会人の考え方に触れることがキャリア教育のねらいでもあります。

中学校における職場体験では、社会人として身に付けるべきことの学習、働くことの意義や様

々な職業を知る学習など、現実の社会を体験的に学ぶことができます。

緊張感の中での経験は、心に大きく響くものです。職場体験では多くのものを学ぶことができ

ますが、中でも、社会人の一員として多くの人と触れ合う貴重な機会を得ることができます。

体験的な学習の実施にあたり、次のことに留意が必要です。

・児童生徒の発達段階に応じた活動のねらい及び内容を設定すること

・ 事前・事中・事後」の指導 「直前・直後」の指導など、各段階における指導の在り方を「 、

明確にすること

《 体 験 的 な 学 習 の ね ら い を 明 確 に す る 》

( )○ 社会人として 身に付けるべきことの学習 【総合生活力】 豊かな人間性

人とのかかわりやコミュニケーションについて学ぶ。

(社会を把握する能力)○ 現実の社会を学ぶ学習 【人生設計力】

組織の役割、社会(国際社会)における役割を知る。

(勤労観・職業観)○ 勤労観をはぐくむ学習 【人生設計力】

働くことの意義や役立つ喜びを実感する。

(勤労観・職業観)○ 職業観をはぐくむ学習 【人生設計力】

様々な職業について知る。

- 12 -

~県内小・中学校の学校公開校等の実践より~09 実践事例の紹介

雫石町立西根小学校 第1学年家庭ではたらく人の様子を知り、仕事の大いえのしごと

生活科切さに気づく力をはぐくむ

家族は最も身近な「働く人」である。家庭での仕事や家族に目を向け、自分の生活が家族に支えられていることに気づき、家族のために役に立つことができた自分に自信をもたせることがねらいである。

家族からの手紙も、希望通りの内容を、それぞれの子どもに合った形で書いて頂き、家族の役に立った喜び、働くことの楽しさを十分に味わわせることができた。

二戸市立御返地小学校 第4学年身近な産業や職業の情報を集め、憧れとす

ボランティア総合的な学習の時間る職業をもち、働くことの苦労を知る

福祉施設で働く人「介護職員 「生活相談員 「介護支援専門員 「介護」 」 」職員 「事務員」の仕事について、調べてきたことを発表する。施設訪問」での施設利用者との交流体験を想起しながら、働く職員の気持ちを考え、働く喜びや苦労に気づくことができる。この単元は、体験的な学習をとおして人とのかかわりを学んだり、福祉の仕事について理解を深めたり、一人一人が課題をもち解決を図ることができる題材である。

雫石町立西根小学校 第5学年働く人達について調べ、仕事の大切さに気職人ザ探検隊

総合的な学習の時間づき、夢や希望をもつ力をはぐくむ

「ホテルで働く人の話を聞いたり、ビデオを見たりしながら、調べる内容を「フロント 「厨房 「レストラン 「客室」の4つにした。」 」 」

見学の際は、働く人の「苦労 「努力 「喜び」についても調べた。」 」見学後は 「表情 「姿勢 「言動」について感じたことや感想も含めて、 」 」

発表を行った。子どもたちは、苦労や努力することがあっても、仕事にこだわりや誇りをもっていきいきと働いていることがわかったようだ。

釜石市立釜石小学校 第6学年キッズマートお店で働くことの楽しさ・大総合的な学習の時間

お店を開こう変さを実感

、 、 。キッズマート学習では はじめに 郷土釜石の産業について学習をした「わかめの芯抜き体験 「橋野どんぐり広場でソバ、枝豆の収穫体験 「サ」 」ンフィッシュでお店の苦労や工夫の取材」等々の実施に体験も行った。

また、自分たちの会社を設立し、学区の青葉通りで自分たちの店を開いた。仕入れやお客様の対応の仕方、宣伝の仕方等、商品を売るのは予想以上に難しかった。キッズマートの学習を通して、仕事の大変さを実感するとともに、多くの温かい人柄に触れ、自分の仕事に生きがいをもって働く人の姿を見ることができた。

岩手県立総合教育センター小学校キャリア教育・実践の手引き2

第1~6学年学級活動生き方を学ぶ

実 践 編

下記URL参照

http://www1.iwate-ed.jp/tantou/kyouka/seika/career_es/career_es_tebiki2.pdf

- 13 -

久慈市立侍浜中学校 第3学年「私たちの暮らしと民主政治」の学習を通

知る権利社会科して 「学びの必然性」の指導を工夫する、

導入段階で「もしもニュースが無かったら?」というビデオ資料を提示

し、関心意欲を高め、ニュースの必要性を理解させる。

展開の段階で「ニュース報道の在り方とその必要性」について、かつて

の日本と比較して理解を深めさせる。

キャリア教育の視点として 「情報公開制度」や「プライバシー」に関、

するビデオを活用し、情報収集や探索能力に関連づけて学習した。

久慈市立侍浜中学校 第2学年「連立方程式」の学習を通して 「実生活、

つぼの中の球数学科への活用」を図る

「 」 、 。玉入れゲーム を行いながら本時の課題を提示し 意欲の喚起を図る

「玉入れゲーム」から玉の個数の関係を2元1次方程式でたてられるこ

とに気づかせ、実生活の事象を数学的に考えて簡単に方程式に表せること

を目指した。

実生活に関連した題材や日常及び職業に関係する教材を活用することに

より、学習が将来につながるよう工夫が必要だと感じた。

二戸市立御返地中学校 第3学年人間関係づくりや集団への適応能力の大切

社会の一員学級活動さを理解し、自分のあり方生き方を考える

マナーについての事前調査結果及び新聞や雑誌の記事を用いて、迷惑に

ならないという視点で考えさせる。社会の一員としてどんな生き方がある

のか意見発表を行い、社会人に求められる行動について考える。外部講師

により、仕事とは別に地域や社会のために活動をしている人がいることを

知る。助け合いや譲り合いが大切であることに気づかせ、自分にできるこ

とを考え、社会人としての生き方について考えをまとめる。

キャリア地域で活躍する人の講演会 久慈市市立侍浜中学校

アップトーク

働く人々が自分の仕事について、どのように考え、どのように取り組ん

でいるかを知ることにより、職業や勤労に対する理解を深め、自分の将来

について、考える。

この講演会は、保護者や地域の方々の協力により、パネルディスカッシ

ョン形式で、テーマごとに一人一人に話していただくとともに、それぞれ

の職業ならではの特徴をパフォーマンスしていただいた。

- 14 -

盛岡市立仁王小学校とんとん仁王 子ども主体による一連の活動を組織的に経

特別支援学級第1~6学年験することによって、自立的な生活に必要

生活単元学習まんをひらこう な事柄を実際的・総合的に学ぶ

子どもたちの思いをもとにして、校内に中華まんのお店を開くため、国

語科でのレシピ作り・招待状作り、算数科での計量等、教科と関連付けな

、 。がら 生活単元学習を中心とした1ヶ月間に渡る一連の活動に取り組んだ

当日は、盛岡視覚支援学校や山岸小学校の子どもたちと協力しながら開店

し 「自分から 「自分で 「精一杯 「みんなと」取り組む充実感や満、 」、 」、 」、

、 。足感 取り組んだことに対して感謝される喜びを味わうことにつながった

職業調べや,職場体験学習を通して,学校 北上市立上野中学校職場体験を生活や職業選択のさらなる充実に生かす。 特別支援学級第2学年

通して

デイケアの職場体験学習が近づき,教室では生徒と教師が職業について

話し合ったり,お願いの仕方を学習したり,利用者へのプレゼントを準備

したりした。職場体験学習では,一緒に折り紙をしようと笑顔いっぱいで

利用者にかかわっていこうとする生徒の様子があった。利用者の喜ぶ姿を

見て,人に喜ばれることの幸せを感じ,人のために活動する事の大切さや

感謝される喜びを体験し,大きな満足感を得ることができた。

畑活動(サツマイモ 、加工(スィートポ 県立気仙光陵支援学校目指せ! )

テト 、販売活動を通して、働くことの意 第1・3学年)

味・金銭の扱い方を知る。 生活単元学習回転ずし

回転寿司で食事することを目標に、自分たちで植え、収穫したサツマイモ

をスィートポテトに加工し、販売した。これらの活動を通して、目標をもっ

て働くことや、手に入れた金銭の扱い方や大切さを学習した。

最後に目標の回転寿司店に行っておなかいっぱい食べることで、働くこ

とで得られる喜びを実感できた。

進路学習を通して、これからの自分を見つ 県立花巻清風支援学校

め、働くことの意味を学び、働く意欲を育これからの自分てる 中学部

「これからの自分」を考え、自己実現していくために、進路学習の中で

働くことの意味を学び、高等部や施設・作業所の見学を通して、自分の中

で将来のイメージを育てる。また、木工班・カレンダー班・リサイクル班

・工芸班の4つの作業班を設け、作業学習(週2回3・4校時)や年2回

の校内実習(1回2週間)を通して、挨拶や言葉遣い、働き続ける意欲と

体力など働くために必要な力を身に付けていく。

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キャリア教育の評価10キャリア教育の評価については、各学校におけるキャリア教育指導目標と、それを具体化した

全体計画に基づき 「児童生徒の成長や変容」と「教育活動の取組」の観点で行います。、

「児童生徒の成長や変容」では、児童生徒の実態に応じた到達目標の設定が必要であり 「教育、

活動の取組」では、キャリア教育の視点で教育活動が計画・実施されているか、指導内容や指導

方法は適切であるか、について評価することが大切です。

また、定期的に評価を行い、到達目標や教育活動を繰り返し見直していくことも重要です。

1 児童生徒の成長や変容の評価

児童生徒の成長や変容を検証するためには、児童生徒の実態に応じた成長や変容の到達目標を

設定し、その目標に対し、育成したい能力や態度等がはぐくまれているかを確認することが大切

です。

具体的には、児童生徒一人ひとりの行動観察記録、取組の感想、自己評価、児童生徒が取り組

んだ課題の記録カード等、様々な資料を活用して目標の達成状況を把握することが必要です。

2 教育活動の取組についての評価

キャリア教育の視点で取り組まれている教育活動の評価は、児童生徒に対する評価だけではな

く、キャリア教育の目標達成のために、教育活動の指導計画に基づき、指導内容、指導方法が適

切に実施されているかを確認するために重要です。

具体的には、活動内容が児童生徒の発達段階に相応しいか、指導方法が適切か、課題解決や体

験的な学習として充実しているか等、目標達成のための指導の在り方や指導組織がキャリア教育

活動全体の実践や活動として適切に位置付けられているかを確認するために必要です。

各学校においては、自校の取組や校内研修の在り方について 「チェックシート」等を作成し、、

評価を改善に生かすことも大切です。

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11 いわてのキャリア教育 Q&A Q1 小学校段階でのキャリア教育は早すぎるのではないですか?

小学校段階は、児童が基本的な生活習慣や社会生活上の基礎基本を身に付け、社会や職業に対して興

味・関心を高め、将来の夢やあこがれをもち、努力する態度を培うなど、社会で自立して生きていくた

めの基礎をつくる時期です。

このような小学校段階の特性から、小学校におけるキャリア教育は「総合生活力」の育成に重点を置

き、各教科・領域との関連を図り、係活動や委員会活動などを通して、きまりを守ることや働くことの

大切さを感じさせ、進んで働く態度を育てることが重要です。

また、友達との好ましい人間関係を築く中で、自分を知り、長所を伸ばそうとする意識をもつように

し、自然体験やボランティア活動、身近な職場を見学するなどの体験的な学習をとおして、社会や仕事

との関わりに気付くなど、「人生設計力」の基礎を築くことが必要です。

このようなことから、小学校の心身の発達に応じたキャリア教育は必要であり、決して早すぎるもの

ではありません。

Q2 従来の進路指導とキャリア教育はどう違うのですか? 中学校・高等学校の進路指導は、本来、「生徒が自らの生き方を考え、将来に対する目的意識をもち、

自らの意志と責任で進路を選択決定する能力・態度を身に付けさせることができるよう、指導・援助す

ること」とされています。この進路指導の定義・概念は、キャリア教育と大きな差異はなく、進路指導

はキャリア教育の中核をなすものです。 しかし、これまでの進路指導はいわゆる「出口指導」にとどまる傾向が見受けられる面もありました。 キャリア教育は、高校等の受験指導や就職の斡旋指導を目的とするものではなく、児童生徒が社会を

力強く生きていくために必要な資質や能力を、全教育活動を通じて身に付けさせようとするものです。 本県のキャリア教育は、市民生活、職業生活、家庭生活など、社会生活の様々な場面に適切に対応で

きる能力としての「総合生活力」と、高校や大学等の卒業後を見据え、将来の人生設計を主体的に決定

することができる能力である「人生設計力」の育成を目指しています。 Q3 中学校の職場体験と高等学校のインターンシップとはどう違うのでしょうか?

中学校における職場体験活動は、働くことの意義や様々な職業、仕事を知るきっかけとしながら、実

社会の現実に迫ることであり、高等学校におけるインターンシップは、将来進む可能性のある職業に関

する活動を試行的に体験することを通して社会人・職業人への移行準備に役立てることです。

それぞれの中心的な課題は、発達段階に応じたものとなっており、この点が両者の主な違いと言えま

す。

Q4 キャリア・カウンセリングとはどのようなものですか。

キャリア・カウンセリングとは、児童生徒が学校生活で遭遇する課題や問題を積極的に解決する中で、

問題対処の力や態度を発達させ、自立的に生きていけるよう支援するため個別またはグループ別に行う

指導・援助のことです。その際、小・中学校では、学校生活の基礎となる教師への信頼や学ぶことへの

喜びを体験する大切な時期であることから、児童生徒と教師が、暖かな人間関係を築くことが大切です。

中学校においては、生徒一人ひとりの将来の生き方や進路に関する悩みや課題を受け止める姿勢が大切

となります。その上で、生徒が自己の可能性や適性について自覚を深めさせ、自ら積極的に進路を選択

できるよう支援することが求められます。

岩手県教育委員会事務局

学校教育室産業教育担当

〒020-8570 盛岡市内丸 10-1

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