23
<目 次> 1. データから見るアメリカの認知症高齢者 ........................................................... 1 (1) 将来推計................................................................................................. 1 (2) 年齢別発症率 .......................................................................................... 2 (3) 死因別死亡数の推移 ................................................................................ 3 (4) 認知症の原因疾患別割合 .......................................................................... 3 (5) 認知症の人の死亡場所 ............................................................................. 4 2. 認知症ケアの現状 ....................................................................................... 5 (1) 認知症高齢者の居住場所 .......................................................................... 5 (2) 家族介護等の状況.................................................................................... 6 (3) 家族介護者の年齢.................................................................................... 8 (4) 介護費用................................................................................................. 8 (5) 家族介護者等のストレス ........................................................................... 10 3. 在宅サービスプログラム .............................................................................. 11 (1) デイプログラム(日本におけるデイサービス/デイケア) .................................. 11 (2) 夕方症候群のための夜間プログラム........................................................... 11 (3) 配食サービス ......................................................................................... 12 (4) ケースマネジメント・ケアマネジメント............................................................ 12 (5) 介護補助ツール(用具)............................................................................ 13 (6) アメリカの認知症ケアにおける課題............................................................. 14 4. 公的サービスの状況 .................................................................................. 18 (1) 認知症の治療・介護に関する公的支出....................................................... 18 (2) メディケイド・プランニング.......................................................................... 19 (3) 若年性認知症への対策 ........................................................................... 20 (4) 国を挙げてのアルツハイマー病への取り組み............................................... 20 アメリカの認知症ケア動向Ⅴ アメリカの認知症ケア

アメリカの認知症ケア動向Ⅴ - DCnet2 Alzheimer’s Association. “2010 Alzheime r’s Disease. Facts and Figures.” pp28-30 3 同上 p30 介護者からみる認知症の人との続柄

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<目 次>

1. データから見るアメリカの認知症高齢者 ........................................................... 1

(1) 将来推計................................................................................................. 1

(2) 年齢別発症率 .......................................................................................... 2

(3) 死因別死亡数の推移 ................................................................................ 3

(4) 認知症の原因疾患別割合.......................................................................... 3

(5) 認知症の人の死亡場所 ............................................................................. 4

2. 認知症ケアの現状 ....................................................................................... 5

(1) 認知症高齢者の居住場所.......................................................................... 5

(2) 家族介護等の状況.................................................................................... 6

(3) 家族介護者の年齢.................................................................................... 8

(4) 介護費用................................................................................................. 8

(5) 家族介護者等のストレス ........................................................................... 10

3. 在宅サービスプログラム .............................................................................. 11

(1) デイプログラム(日本におけるデイサービス/デイケア).................................. 11

(2) 夕方症候群のための夜間プログラム........................................................... 11

(3) 配食サービス ......................................................................................... 12

(4) ケースマネジメント・ケアマネジメント............................................................ 12

(5) 介護補助ツール(用具)............................................................................ 13

(6) アメリカの認知症ケアにおける課題............................................................. 14

4. 公的サービスの状況 .................................................................................. 18

(1) 認知症の治療・介護に関する公的支出....................................................... 18

(2) メディケイド・プランニング.......................................................................... 19

(3) 若年性認知症への対策 ........................................................................... 20

(4) 国を挙げてのアルツハイマー病への取り組み............................................... 20

アメリカの認知症ケア動向Ⅴ

アメリカの認知症ケア

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1

Ⅴ アメリカの認知症ケア

1. データから見るアメリカの認知症高齢者

(1) 将来推計

アメリカ・アルツハイマー病協会の「2010 Alzheimer's Disease Facts and

Figures」によると、現在、アルツハイマー病患者は 530 万人との報告が公表され

ている。今後の見通しでは、20 年後の 2030 年に 770 万人、2050 年には 1,100 万

人になると推計されており、アメリカにおいても、わが国と同様に認知症高齢者対

策は喫緊の課題となっている。

出典:2009 Alzheimer’s Disease, Facts and Figures

アルツハイマー病患者の予測

出典: 2009 Alzheimer’s Diseas, Facts and Figures

アルツハイマー病の年間発症者数の予測

411454

615

959

0

200

400

600

800

1,000

2000 2010 2029 2050(年)

(千人)

2.7

5.1

11.0

7.7

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

2000 2009 2030 2050(年)

(百万人)

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2

(2) 年齢別発症率

アルツハイマー病の発症率は、65歳から74歳で1.6%、75歳から84歳で19.4%、

85 歳以上で 42.5%となっている。75 歳からの 10 年間と、85 歳からの 10 年間で

は、発症率が2倍以上に増える。また、性別でみると、男性が 11%、女性が 16%

で、女性の罹患率が高い。

出典: 2009 Alzheimer’s Disease Facts and Figures

性別の発症率

年齢別の発症率

出典: A National Alzheimer’s Strategic Plan

19.4%

42.5%

1.6%0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

45%

65~74歳 75~84歳 85歳以上

男性 11.0%

女性16.0%

全体 14.0%

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

18%

20%

男性 女性 全体

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(3) 死因別死亡数の推移

2000 年と 2006 年の死因別死亡数を見てみると、脳梗塞、前立腺ガン、心臓病、

乳ガン等はいずれも減少している一方で、アルツハイマー病を死因とする死亡者は

増えている。

(4) 認知症の原因疾患別割合

認知症の原因疾患をみると、アルツハイマー型認知症が 70%、血管性認知症が

17%、レビー小体型等その他の疾患が 13%となっている。

死因別死亡数

出典: 2009 Alzheimer’s Disease Facts and Figures

出典: 2009 Alzheimer’s Disease Facts and Figures

認知症の原因疾患別割合

アルツハイマー型認知症

70%

血管性認知症17%

その他認知症13%

死因 2000年 2006年 増減(%)

心臓病 710,760 629,191 ▲11.5

乳ガン 41,200 40,970 ▲0.6

前立腺ガン 31,900 27,350 ▲14.3

脳梗塞 167,661 137,265 ▲18.1

アルツハイマー 49,558 72,914 +47.1

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(5) 認知症の人の死亡場所

65歳以上の高齢者の死亡原因別に死亡場所をみると、病院での死亡が多いのは、

ガン以外の「その他」の疾患が 52.2%と5割を超えており、「ガン」は 35.4%、「認

知症」は 15.6%で、認知症の人の、病院で死亡する割合は比較的に低い。一方、ナ

ーシングホームで 期を迎える人の割合は、ガン以外の疾患が 29.0%、「ガン」が

20.6%、認知症が 66.9%となっており、認知症の人がナーシングホームで亡くなる

割合が圧倒的に高い。ちなみに、自宅で亡くなる人は、「ガン」が 37.8%で も高

い。

出典: 2009 Alzheimer’s Disease Facts and Figures

65 歳以上高齢者の死亡原因別死亡場所の内訳

15.6%

35.4%

51.7%

67.0%

20.6%

28.7%

12.7%

37.8%

16.8%

6.2%

4.7%

2.8%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

認知症

ガン

その他

病院 ナーシングホーム 自宅 その他

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2. 認知症ケアの現状

アメリカでは、多くの要介護高齢者が自宅に住み続けており、高齢者介護を担う

専門職もまた自宅での暮らしを勧めている。その理由は、何よりも高齢者自身が自

宅での暮らしを望んでおり、慣れ親しんだ環境が記憶力や集中力の衰えた人にとっ

ての安心・安全・心地よい介護の提供につながるからである。

(1) 認知症高齢者の居住場所

アメリカの認知症ケアの状況について、認知症高齢者の 7 割は在宅で過ごしてお

り、在宅では無償の介護(家族やボランティア等による支援)が中心となっている。

残りの 3 割程度は有償のサービスを受けており、平均して月間 208 時間程度のサー

ビスが利用可能となっている。但し、メディケイド受給者で認知症を発症している

場合は、在宅介護の割合が約 5 割となり、ナーシングホームへの入居者が増えてい

る。

ナーシングホーム入居希望者の状況をみると、全体の 7 割が認知機能に障害を有

しており、うち 4 割は重度の認知症である。また、ナーシングホーム入居者の約 5

割が認知症である(2008 年)。ナーシングホームには、認知症高齢者向けに整えら

れたアルツハイマー特別ユニット(特別病床)があり、2008 年 6 月現在、全米で

8.7 万床程度存在する。これは、ナーシングホーム全体の約 5%に相当するが、特

別病床は 2004 年の 93,763 病床をピークに、減少傾向にある。

出典: 2009 Alzheimer’s Disease Facts and Figures

ナーシングホーム入居希望者の認知症の有無

なし31%

重度42%

軽度/中度27%

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(2) 家族介護等の状況

アメリカの認知症ケアでは、約1千万人の家族が無償の介護を提供している。無

償の介護とは、主に家族や親族などが行う介護である場合が多いが、友人や近隣住

人が行っている場合も少なくない。2006 年の統計によると、年間総計で 85 億時間

の無償による介護の提供があったとされており、その経済価値は 944 億ドル(約 9

兆 4 千億円)に上る。介護者は1人当たり週平均 16.6 時間(年間 863 時間)を介

護に費やしていることになるが、その内の約4割は、週平均で 40 時間超にわたる

介護をしているとの研究結果も発表されている。

提供者 年間の時間 経済価値1

9,856,945 人 8,508,514,817 時間 $94,444,514,466

認知症とそれ以外の疾病に因る介護期間を較べると、認知症では 5 年以上にわた

る場合が全体の 32%を占めている。認知症の介護は、長期にわたって家族を巻き

込み、その負担は決して軽いものではない。

1 経済価値の算出の基準は、介護者 1 人当たりの無償介護 1 時間当たりの経済価値⇒

11.1 ドル。これは、アメリカの 1 時間当たり 低賃金(5.85 ドル/1 時間)とアメリカの在宅介護従事者の平均賃金(16.35 ドル/1 時間)の平均から算出している。

無償による介護の状況

出典: 2009 Alzheimer’s Disease Facts and Figures

出典: 2009 Alzheimer’s Disease Facts and Figures

介護期間

39

6

34

22

32

5

32

27

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

5年以上 1-4年 1年以下 時々

(%)

認知症(アルツハイマー病)の介護 その他の介護

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アメリカ・アルツハイマー病協会の報告書2には、介護が介護者の健康に影響を

及ぼしたり、その寿命を縮めているといった調査結果が数多く紹介されている。ま

た、認知症ケアのために、本人の配偶者や子供が仕事を辞めざるを得なくなり、家

族の経済的基盤を揺るがすような事態が生じている点も課題としてあげられてい

る3。

認知症の人と介護者との関係は、近親者(子と親・祖父母)であるケースが全体

の 7 割を占め、祖父母の割合も 20%と比較的に高い。離婚率が高いアメリカでは

家族関係が複雑になりやすく、教会区等のコミュニティ等において、孫が祖父母の

面倒を見るといったケースも多く存在するようである。

また、認知症の人本人と家族介護者との居住場所の距離については、同居が全体

の 4 分の 1 を占めているほか、20 分以内が約半数弱を占めている。全体として至

近距離に住んでいる近親者による介護のケースが多い状況がうかがわれる。

2 Alzheimer’s Association. “2010 Alzheimer’s Disease. Facts and Figures.” pp28-30 3 同上 p30

介護者からみる認知症の人との続柄 認知症の人と家族介護者との距離

同居26%

20分以内44%

20~60分以内17%

1~2時間以内7%

2時間超6%

出典: 2009 Alzheimer’s Disease Facts and Figures

親義理の親

52%

祖父母ほか20%

友人近隣住人

16%

配偶者パートナー

10%

その他・患者2%

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(3) 家族介護者の年齢

家族介護者の年齢は平均で 48 歳、50 歳から 64 歳以下の割合が約 4 割ともっと

も多い。一方、65 歳以上の割合が 14%と低く、35 歳未満の若年層の割合が 19%

と高い点は、わが国と異なるところである。

さらに、年齢を詳細に分析した結果では、アメリカの 8 歳から 18 歳までの子供

の 25 万人が、アルツハイマー病や他の原因疾患の認知症ケアを行っているとされ

ている。

(4) 介護費用

アルツハイマー病を発症している場合は、各種保険制度からの受給額が多くなる

と同時に、自己負担額も大きくなってくる。民間介護保険への加入率はまだ低く、

2005 年のアメリカ長期介護費用のわずか 7.2%しか民間介護保険で賄われていな

い。

アルツハイマー病発症の時点から死亡までにかかる介護費用は、平均で 21 万 5

千ドルという分析結果がある。このうち 4 万ドルは、薬の購入や外部者の助けを借

りる費用などの直接的なコストであり、残りの 17 万 5,000 ドルは、自宅で家族の

介護を行うために仕事を辞めたことによる間接的なコストとなっている。ちなみに、

2007 年の統計では、65 歳以上の高齢者の 1 人当たりの収入は年平均 17,382 ドル

で、1 世帯当たり 29,730 ドルとなっている。介護される者が各種保険から受ける

出典: 2009 Alzheimer’s Disease Facts and Figures

35歳未満19%

65歳超14%

50歳以上64歳以下

38%

35歳以上49歳以下

29%

平均48歳

家族介護者の年齢分布(2003 年)

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ことのできる受給額は年間 3 万ドルあまりとなっており、長期間の介護費用がかか

る認知症ケアでは、その差額を全て自己負担で賄わなければならない。

そのため、資産を使い切った後に適用される低所得者向けのメディケイド(詳細

は3章を参照)に移行していくケースも少なくない。

具体的なサービスにかかるコストの目安は、ホームケア 1 時間当たり 18 ドル、

デイセンター1 日当たり 64 ドルなどとなっている。大都市部の場合は下表よりも

若干相場が高く、ホームケア 1 時間当たり 20 ドル程度となっている。この場合、

実際に 24 時間住み込みの介護を依頼するような場合は、1 日当たり 12 時間労働と

みなして計算し、1 日のコストは約 240 ドル(21,600 円)程度となるのが一般的であ

る。いわゆる徘徊がある認知症の人を介護するには 24 時間体制が必要となるため、

交替制勤務として、通常は2人のケアワーカーを手配し、コストも2倍かかること

になる。

ホームケア 1 時間当たり 18 ドル

デイセンター 1 日当たり 64 ドル(認知症追加料金を請求するケースも)

アシステッドリビング 月当たり 4,267 ドル、年間 51,204 ドル

ナーシングホーム 1 日当たり 219 ドル、年間 79,935 ドル

出典: 2009 Alzheimer’s Disease Facts and Figures

出典: 2009 Alzheimer’s Disease Facts and Figures

認知症の有無別各種保険制度からの受給額 (2004 年)

(ドル)

認知症ケアにかかるコストの目安

認知症以外 認知症

   メディケア 5,272 15,145

   メディケイド 718 6,605

   民間保険 1,466 1,847

   その他 211 519

   HMO 704 410

   自己負担 1,916 2,464

   家族介護等 201 261

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(5) 家族介護者等のストレス

介護者の心身の疲労感や経済的負担も大きい認知症の在宅介護に、家族介護者の

約半数がストレスを訴えている。自由になる時間、家族関係への影響、金銭的負担

など、個々の人がそれぞれの状況で問題を抱え込んでしまいがちな状況の中、家族

等からは介護の方法や各種支援サービスに関する情報不足を訴える声が 4 割近く

に達している。同時に、メディケイドの対象に該当しない家族は、ほとんどの費用

を自己負担で賄うことになるため、経済的な支援やレスパイトケアを求める声も多

い。

出典: 2009 Alzheimer’s Disease Facts and Figures

家族介護者が抱える問題意識と求めるサービス

介護者が困っていること(2項目まで複数回答可) %

       ストレス 48

       時間不足 18

       家族関係への影響 15

       家族の時間の減少 14

       金銭的負担 13

       仕事への支障 11

       健康面への影響 5

介護者が求めているサービス %

    情報(プログラム) 38

    支援(金銭) 30

    レスパイトケア 25

    相談 22

    教育 19

    その他 7

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3. 在宅サービスプログラム

(1) デイプログラム(日本におけるデイサービス/デイケア)

在宅認知症高齢者向けのサービスプログラムは全米に存在するが、受け入れが可

能かどうかの判断は、個々の利用希望者の状態や対応力によってその都度判断され

る。このため、あらゆるレベルの認知症の人を受け入れることができるデイプログ

ラムが整備されている状況にはない。

デイプログラムでは、送迎サービスや社会的交流、食事といったプログラムを提

供することが一般的で、その内容は医学的モデルもしくは社会モデルに従って内容

が組まれている。前者はセラピー療法や医療支援を目的としており、後者は社会的

交流に焦点をあてたものである。

これらのプログラムの利用料は州により格差があり、アメリカ・アルツハイマー

病協会によると、1 日当たり 60-150 ドルである4。費用は、低所得者向け医療保険

のメディケイドから給付されたり、州・郡からの一定程度の援助があったりする場

合もあり、在宅介護で専門人材を雇う場合には約 3 倍のコストがかかることから、

費用効率の面でデイプログラムへの評価は高い。

(2) 夕方症候群のための夜間プログラム

認知症の人には「夕方症候群」と呼ばれる症状がみられることがある。この症状

に対して、医師は睡眠導入剤の使用は効果的ではないと判断する傾向にあり、現状

では、本人が覚醒している間の安全確保が主たる対処法となっている。自宅で介護

している家族にとって、夕方症候群への対応は非常に困難であるが、専門スタッフ

を雇う場合は非常に高額な出費となる。 近では、これらに対応する夜間プログラ

ムも提供されるようになったが、いまのところ数は少ない。その 1 つがニューヨー

ク市のリバーデール地区にあるヘブライホーム病院(Hebrew Home and

Hospital)であり、そこでは送迎サービス付きで、夜 7 時から朝 7 時までのプログ

ラムで運営されている 5。

4(出典)Fisher Center for Alzheimer’s Research Foundation ホームページ (http://www.alzinfo.org/alzheimers-adultdaycare.asp)

5(出典)ヘブライホーム病院ホームページ

(http://www.hebrewhome.org/nightprograms.asp)

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(3) 配食サービス

認知症の人は、食事をする能力や意思がなくなることがある。配食サービスは古

くからあるサービスの1つで、1 日 1 食以上の食事を高齢者の家に届けるものであ

る。無料もしくは非常に低価格で提供され、食事を届ける人が日常的に受け取る人

の状態を観察できる点に特徴がある。食事を届ける人は、受取人に必ず会って渡す

よう指示されており、もし会えなかった場合には、彼らを派遣している団体や機関

に報告することが義務付けられている。

(4) ケースマネジメント・ケアマネジメント

アメリカでは、要介護者や家族が必要とする介護ニーズとサービス提供者とを結

び付けることは難しい。なぜならば、高齢者介護や医療・看護サービスを提供する

様々な団体・機関が存在し、サービスが断片的に行われているからである。州は、

郡、市、町、村、小村落などで構成されており、それぞれが個別に提供している公

的サービスに加えて、民間サービス、非営利団体、医師や看護師、弁護士といった

専門家、施設や機関などが様々なサービスを展開している。要介護者や家族は、自

分自身もしくは家族に介護が必要になってから初めてこれらのサービスを知るこ

とになるが、あまりに数が多く複雑なため、その選択においてはお手上げの状態と

なってしまう。

そこで、要介護者や家族のニーズに合わせてケアを組み立てていくのが、ケース

マネジャーやケアマネジャーと呼ばれる専門家たちである。ケースマネジャーやケ

アマネジャーは、顧客となる要介護者ならびにその家族に対し、福祉サービスを紹

介したり、受給権のあるサービスを紹介して、手続きの手伝いや緊急時の対応を行

っている。

ケースマネジャーは通常、病院や社会福祉機関に勤めるソーシャルワーカーや看

護師のことを指し、主に一連のサービスに関する査定や申し込み手続きの手伝いを

行っている。ケアマネジャーは単一家族を顧客として個人的に従事しているソーシ

ャルワーカーや看護師で、ケースマネジャーに比べると、より広い範囲の問題を取

り扱っているが、その分利用料は高額になる。

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(5) 介護補助ツール(用具)

技術の進歩によって認知症の人や高齢者の生活が大きく改善している。以下に、

そのいくつかを紹介する。

①Safe Return(セーフ・リターン:安全に家に帰るための補助具)

認知症ケアの も初期の段階では、米国アルツハイマー協会によって運営され

ている Safe Return プログラムがある。これは、身分証明のコードや通話料無料

の電話番号が記載されたバッジやブレスレットを身に着けるというものである。

認知症の人が道に迷った際にこれらを身につけていれば、発見者がその電話番号

に連絡をすると、コード番号から家族と連絡がとれる仕組みとなっている。更に

そのデータベースには、その人の住所・名前に加えて、通常、主治医や診断内容、

服薬情報などを含む医療情報が書き込まれており、その人が意識不明の状態でも

役立つ情報が得られる。

②PERS-Personal Emergency Response System(携帯救急応答システム)

在宅救急時に対応する。利用者は、救急応答システムに発信するボタンがつい

たネックレスや腕時計を身に着ける。自宅で生活していて助けが必要になった時

に、電話回線を通じて緊急対応機関への通報や、家族や近所の人などに助けを求

めることができる。

③自動薬取り出し容器

決められた薬の量を決められた時刻に取り出すための機器である。服用時刻が

くると知らせ、容器から薬が取り出されたかどうかを確認し、そうでない場合は

人が電話で呑み忘れを知らせてくる。もちろんこれは絶対確実な方法ではなく、

その人が確かに服用したかまでを確かめることはできないが、多くの場合におい

て有効な手段である。

④GPS 付き携帯電話

現在地を探知する機能のついた携帯電話サービスである。

大手電話会社の Verizon が Family Locator Service(家族の位置確認サービ

ス)と呼ばれるサービスを提供している。携帯時には有効であるが、携帯の確認

や充電管理を忘れると、全く意味を成さなくなる。

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⑤ホームセンサー

ゼネラル・エレクトリックはクワイエット・ケア(QuietCare:室内徘徊確認

機器)というシステムを提供している。このシステムを使うことにより認知症の

人の家の中での動きを把握することができる。そのデータはサーバーに送られ、

不規則な動きがないかを分析し、もし何か問題があれば介護者にすぐ報告される。

他にも睡眠パターンや、シャワー、トイレの使用をモニターするシステムもある。

認知症ケアは、家族介護者にも介護専門家にとっても、大変な困難とストレス

を伴うものであり、アメリカでは上記の器具等の他にも、介護者に対して様々な

指導やサポートを促すインターネット上のサイトが数多く存在する。その多くは、

民間の非営利団体が提供しており、その 1 つの Dorot という団体は、介護者に対

して電話でのサポートを提供している。電話サポートは、本人を家に残して外出

できないようなケースにおいて、非常に有効な支援となっている。

(6) アメリカの認知症ケアにおける課題

①介護される者と子ども世帯を隔てる距離

過疎地域から若い世代が出て行くという現象はアメリカでも起こっており、国

土の広さが、高齢者介護における家族からの支援をさらに難しいものにしている。

家族と遠く離れたところで暮らす高齢者は、様々な困難を抱えているのが現状で

ある。

②認知症の人の権利擁護

認知症高齢者が、自立した生活が難しくなったときには、後見人を探して悪意

のある者から自らを守るプロセスを、法律に則って活用することができる。難し

いのは、認知症高齢者自身にもプライドと自主性があり、周囲が不安に思っても

干渉されたり援助されたりすることを受け入れないようなケースである。原則的

に、裁判所は、「切迫した障害の危機」がない限りは干渉しないという姿勢をと

る。アメリカでは、たとえ認知症であっても自己決定が重んじられ、その結果と

して重大な危害が及んでしまうこともやむを得ないとする現状がある。

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ⅰ事前指示書

事前指示書は、「自分で判断が出来ない」もしくは「判断したくない」時に、

決断する権限の一切を、別の個人に委任するための法的な書類である。

医療委任状 自分に代わって医療上の判断を行う者を指定する書類。

生前遺言 医療委任をした人や医療者に、ある一定の状況下において何をし

てもらいたいか、してもらいたくないかを具体的に示す。

委任状 自分に代わって財政的・法的な判断をしてもらう人を指定する書

類。

事前指示書は州によって様々な形式があり、また弁護士を通じて個別に作成す

る人も多い。「何をどうしたいのか」を明確に記す必要があり、自分が判断でき

なくなった時にのみ、効力を発揮するよう作成することもできれば、たとえ自分

で判断できる状況であったとしても、委任者に任せるよう指示をすることもでき

る。本人が法的能力を失ってしまうと(後見人を選任後)、本人による手続きが

出来なくなるため、重度の認知症の人の場合は、法律的に第三者への権限委譲が

認められない場合も少なくない。

また、事前指示書を準備する前に判断能力が低下してしまった場合、医療機関、

介護施設とも 善の治療・看護を尽くす方向で進めるが、経済的な理由や、身体

的苦痛を伴う治療を続けなければならない場合など、様々なケースにより必要に

応じて、家族や弁護士が裁判所に判断をあおぐこともある。

ⅱ後見人

アメリカの法定後見制度は、内容・手続き方法ともに各州が定めている。後見

人の手続きを行うことは、自己決定と自己選択を放棄することを公に宣言するこ

とになり、認知症であっても高齢者の心に傷を残す重大な出来事となる。このた

め、後見人の必要性については専門家を交えての慎重な検討が行われている。後

見人の申立権者に制限は設けられていないが、後見人をつけるまでのプロセスは

非常に複雑で、論争も起こりやすく、決着がつく前に高齢者に事故が起きてしま

うこともある。

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③車の運転の危険と交通手段の確保

認知症の人が車を運転することは大変危険であり、交通手段の確保は非常に複

雑かつ困難な問題につながっている。現状では運転能力が低下しているにも関わ

らず、認知症の人自身が認識していないケースも多く、常に見守りが必要となる

家族にとっては負担の多い問題といえる。

ニューヨーク市やロサンゼルスなどの大きな都市は別にしても、アメリカでは

他の国々と比較して公共交通機関があまり発達しておらず、郊外や田舎では車が

なければ移動の手段がほとんどない。車の運転は、自立した生活に欠かせない道

具であり、車はまさに市民の「足」となっている。そのため、運転ができなくな

ったり、運転する権利を取り上げられてしまったりする場合、本人が受ける精神

的ダメージは相当大きいことと予想される。

アメリカ・アルツハイマー病協会や NPO などでは、①家族の家までの道のり

を忘れてしまう、②信号に気づかない、③運転中にいらいらしたり、混乱したり

する、④ギアとブレーキを間違える、などといった症状が出たら、運転をあきら

めるべきとの警告を出しており、また家族や介護者に対し、もし本人がどうして

も運転をあきらめない場合には、法的な手段に出たり、車を隠したり、医師に運

転不許可の宣告をしてもらうなどといった、積極的な手段を用いることも勧めて

いる6。

認知症の人の運転で も問題となるのは、本人が事故にあったり亡くなったり

するリスクと、他人をも事故に巻き込んでしまう危険があることである。認知症

の人の運転を止めるための手段を講じなかった場合、その家族が事故の責任と賠

償を被ることになる場合もある。

そうした事態を受け、認知症と診断した患者を医師が州に報告することを求め

る新しい規則が用いられるようになっている。州によっては、運転免許を自動的

に無効にするか、もしくは運転免許試験を再受験させることを義務付けている。

運転ができなくなった場合には、代用手段が必要となるが、多くの地域では、

公共交通機関ではカバーしきれない場所で高齢者用の移送サービスなどを行っ

ている。これは、小型バスで一定のルートや病院など特定の場所への往復運行を

するサービスで、通常は良心的な価格で提供されている。しかし、サービスの回

6(出典)アルツハイマー病協会ホームページ

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数や行き先が限定されていることなどの欠点もある。

また、有志のボランティアによる移送サービスもあり、必要としている高齢者

とボランティアとを結びつけるプログラムを提供する NPO が、全土で増えてき

ている。このプログラムには、認知症の人の社会的交流の機会が増える上に、本

人の様子をボランティアが観察することができるという付加価値もある。

当然のことながら、各地域にタクシー会社が数多くある。料金が高いと感じら

れるかもしれないが、車を所有するコストを考慮すれば経済的である。

④ニーズに対応したサービス提供体制の拡充

アメリカの高齢者介護において主要な財源となっているメディケイドは、運営

する 50 州それぞれで制度が異なっている。州ごとに、サービスの内容や提供体

制で格差がある。しかし、全国的に課題とされていることは、メディケアのサー

ビス内容がアルツハイマー病や他の認知症の人の特別なニーズに対応するもの

となっていない点や、介護者を長期的に支援するものではない点などである。

また、都市部と過疎地域のサービスの供給量、およびシステムについても大き

な格差が生じている。アメリカは日本とは比較にはならないほど広く、公共の交

通機関も発達していない。また、概してホームヘルパーの報酬は自分の車を持つ

ほどに高くないという実情にも影響される。田舎に暮らしている認知症の高齢者

は、自宅でホームヘルプサービスを利用すること自体が難しくなっており、働き

たいと思っている人がいるにも関わらず、在宅介護のニーズに対応できない現象

が起きている。

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4. 公的サービスの状況

(1) 認知症の治療・介護に関する公的支出

認知症の人の治療や介護に要した公的支出額は 1,480 億ドル(2005 年)で、メ

ディケアが 910 億ドル、メディケイドおよびナーシングホームにかかった費用が

210 億ドル、その他人件費等が 365 億ドルとの内訳である。

メディケア、メディケイドにおける認知症関連支出見通しは、2010 年の 154 億ド

ルから 20 年後の 2030 年になると 443 億ドル、2050 年になると 1,167 億ドルに達

すると推計されている。

(億ドル)

メディケア 910

メディケイド/ナーシングホーム 210

人件費等 365

合計額 1,485

出典: 2009 Alzheimer’s Disease Facts and Figures

出典: A National Alzheimer’s Strategic Plan

認知症の治療・介護の公的支出 (2005 年)

メディケア・メディケイドにおける認知症関連支出見通し

216

443

778

980

1167

332

154

261

613

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050

(10億ドル)

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アルツハイマー病の治療や介護に要する支出が大きくなる原因には、認知症の人

のほとんどが医療を必要とする他の症状を併発していることが挙げられる。65 歳

以上でメディケアを受給しているアルツハイマー病患者の 95 パーセントが、少な

くとも 1 つ以上の併発症を有しており、その症状の進行とともに投薬管理などの支

援も不可欠になる。認知症の人に不可欠な薬の飲み忘れがあると、避けられたはず

の症状が緩和されず、さらにコストのかかる治療が必要になる。また、複数の疾病

に対する投薬があると薬の相互作用のリスクがあり、それによってコストの高い入

院や健康障害が発生する可能性も高くなる。

メディケアやメディケイドなどの公的保険の給付内訳を見ると、認知症の人は、

他の患者に比べて、病院・外来・ナーシングホーム・在宅ケア・医薬品のすべての

項目についてコストが高くなっている。メディケイドの実績では、認知症関連の総

支払額(2004 年)は 23,631 ドルで、認知症以外の支払いの 6,236 ドルに較べると

かなり高額である。

1990 年代後半になると、メディケイドはナーシングホームの費用増加に伴う支

出の圧縮を図るために、在宅介護における給付の範囲を拡げて施設から在宅への移

行を積極的に推進した。これにより、施設介護の費用が減少する一方で、在宅介護

の割合は 1996 年の 21%から 2006 年の 39%へと大きく伸びている。

(2) メディケイド・プランニング

州政府はメディケイドの対象の厳格化を図る一方で、受給者側からは、メディケ

イドの受給資格を確保しつつ、自分の資産を保護しようとする動きが出てきている。

その方法の一つは、専門弁護士に「メディケイド・プランニング」を依頼し、子供

等に個人の資産を移動して自己資産を少なく見せる方法である。これは、メディケ

イドは申請時、5 年前までさかのぼって資産をチェックされるため、5 年後に申請

出典: 2009 Alzheimer’s Disease Facts and Figures

ヘルスケアサービスへの支払額(2004 年)

病院 外来/医師等 SNF 在宅ケア 医薬品

認知症患者(アルツハイマー含む) 7,663 4,355 3,030 1,256 2,509

非認知症患者 2,748 3,097 333 282 1,728

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することを目的に資産をあらかじめ他人名義に変更しておくというもので、メディ

ケア受給後は医療・介護にかかる費用はメディケイドで保障してもらい、資産は資

産で別途保護しておくという方法である。一般的に、5 年間の老人ホームの費用は

50 万ドルに達すると言われているほど高額である。多くのアメリカ人たちが資産

保護を目的にメディケイド・プランニングによる「抜け道」を使うなど、政府との

「いたちごっこ」が続いている。

(3) 若年性認知症への対策

アメリカにおいても若年性認知症の対策は喫緊の課題となっている。認知症の人

のための福祉手当は通常 65 歳以上の人に限定されている。社会保障庁7には障害者

福祉手当があり、障害者認定が行われると、退職後に得られる収入と同等のレベル

の金額を受給することができる。しかし、若年性認知症の多くのケースにおいて申

請は却下されることが多く、上訴後に改めて認定されるという状況が続いてきた。

上訴のプロセスは認知症の人にとってかなり難しい手続きであることから、2010

年 3 月 1 日、社会保障庁は早期発症型のアルツハイマー病を特別手当の対象と見な

すことを決定した。これにより申請手続きは、相当に早まるものと考えられる。

しかし、米国全体としてみると、まだまだ若年性認知症に関心があるとはいえず、

米国アルツハイマー協会ですら、若年性認知症をサポートするグループは、一部地

域の部会に留まっているのが現状である。

(4) 国を挙げてのアルツハイマー病への取り組み

アルツハイマー病の生物医学研究に対する連邦の投資額は、2003 年に 6 億 5,800

万ドルとなったが、それ以後は、景気の低迷等も重なって 2007 年には名目値で 6

億 4,500 万ドルに後退している。アメリカ政府の発表によるインフレ率をもとに、

生物医学研究への投資額を計算すると、連邦による資金投入は 2003 年から 17.5%

目減りしている。

現在、連邦政府がアルツハイマー病の画期的な治療法の開発を促進するために投

資する金額は年間 10 兆ドルを下回る程度である。こうした水準の連邦政府の取り

7 社会保障庁(Social Security)では、老齢年金、遺族年金、障害年金の 3 つの社会保障を

管轄している。

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組み状況に対して、米国アルツハイマー協会や Alzheimer’s Study Group(アルツ

ハイマー研究グループ)は危機感を示しており、「アルツハイマー病解決プロジェ

クト(A National Alzheimer’s Strategic Plan)8」といった政策提言を行っている。

8(出典)アルツハイマー病協会ホームページ

(http://www.alz.org/documents/national/report_ASG_alzplan.pdf)

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<参考文献> 2009 Alzheimer’s Disease Facts and Figures, Alzheimer’s Association A National Alzheimer’s Strategic Plan, Alzheimer’s Association Legal and Financial Planning for People with Alzheimer's Disease, National Institute on Aging, The U.S. National Institute of Health アルツハイマー病協会ホームページ(www.alz.org) Fisher Center for Alzheimer’s Research Foundation ホームページ

(http://www.alzinfo.org/) ヘブライホーム病院ホームページ(http://www.hebrewhome.org)

<調査協力> Mark Zilberman geriatric care management,founding Northstar Care and Guidance,

杉村 真美氏 HEIAN;Healthy & Inspiring Aging Network 代表

進藤 由美氏 早稲田大学大隈記念大学院公共経営研究科

株式会社ニッセイ基礎研究所