17
91 トヨタ自動車における輸出と海外生産の展開* 7 はじめに 国際事業活動の動向 輸出 海外生産 輸出と海外生産 結論 t .4ny “内 4uaaτFhdnhU はじめに トヨタ自動車(以下トヨタ)の輸出と海外生産に焦点を当て、同社の国際事業活 本稿では、 日本自動車産業における 動の特徴を明らかにする。われわれはすでに石井 (2012) において、 国際化とこれを取り巻く経営環境の動向にかんして、輸出と海外生産に焦点をあてた分析をお トヨタという企業のレベ こなった。本稿はこの産業レベルの国際事業活動にかんする分析を、 ルでおこなうものである。 自動車企業の国際事業活動については、近年さまざまな観点から研究がなされている。たと えば、製品開発の国際化(岩田, 2007; 椙山, 2009;Ishii 2005 2008 Ishii 2010;Sugiyama and Heller 2004) や部品取引の国際化(朴, 2011;NobeokaandDyer 2000) 等の研究がそうで ある。このように自動車企業の国際事業活動にかんする研究は蓄積されているが、その国際事 業活動にかんする長期的な動向やこれを取り巻く経営環境については十分解明されていない。 本稿では、 1960 年代から 2011 年におけるトヨタの輸出と海外生産を中心とした国際事業活動 このことを通じて、高度経済成長期から今日に至るまでの自動車 について経時的に分析する。 企業の国際事業活動に対するわれわれの理解を深めることが本稿の目的である。 国際事業活動の動向 2 まず、 1960 年から 2011 年にかけてのトヨタの自動車にかんする圏内販売台数、輸出台数、 海外生産台数、および円相場(対米ドル)の推移からみていこう(図1)。各データは主にトヨ タ自動車ホームページ (2013 1 18 日アクセス)と統計局ホームページ (2012 5 23 キーワード:トヨ夕、自動車企業、輸出、海外生産、国際経営

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91

トヨタ自動車における輸出と海外生産の展開*

盲7 て井石

はじめに

国際事業活動の動向

輸出

海外生産

輸出と海外生産

結論

t

,.4ny“内

4uaaτFhdnhU

はじめに

トヨタ自動車(以下トヨタ)の輸出と海外生産に焦点を当て、同社の国際事業活本稿では、

日本自動車産業における動の特徴を明らかにする。われわれはすでに石井 (2012)において、

国際化とこれを取り巻く経営環境の動向にかんして、輸出と海外生産に焦点をあてた分析をお

トヨタという企業のレベこなった。本稿はこの産業レベルの国際事業活動にかんする分析を、

ルでおこなうものである。

自動車企業の国際事業活動については、近年さまざまな観点から研究がなされている。たと

えば、製品開発の国際化(岩田, 2007;椙山, 2009; Ishii, 2005, 2008, Ishii, 2010; Sugiyama and

Heller, 2004)や部品取引の国際化(朴, 2011; Nobeoka and Dyer, 2000)等の研究がそうで

ある。このように自動車企業の国際事業活動にかんする研究は蓄積されているが、その国際事

業活動にかんする長期的な動向やこれを取り巻く経営環境については十分解明されていない。

本稿では、 1960年代から 2011年におけるトヨタの輸出と海外生産を中心とした国際事業活動

このことを通じて、高度経済成長期から今日に至るまでの自動車について経時的に分析する。

企業の国際事業活動に対するわれわれの理解を深めることが本稿の目的である。

国際事業活動の動向2

まず、 1960年から 2011年にかけてのトヨタの自動車にかんする圏内販売台数、輸出台数、

海外生産台数、および円相場(対米ドル)の推移からみていこう(図1)。各データは主にトヨ

タ自動車ホームページ (2013年 1月 18日アクセス)と統計局ホームページ (2012年5月23日

キーワード:トヨ夕、自動車企業、輸出、海外生産、国際経営

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92 経営研究第64巻第 l号

アクセス)の資料にもとづいている。また、『創造限りなくートヨタ自動車 50年史J(トヨタ

自動車株式会社発行)、「自動車年鑑J(日刊自動車新聞社発行)、『主要国自動車統計J(日本自

動車工業会発行)、『自動車統計年表J(日本自動車工業会発行)、日本自動車工業会ホームペー

ジ (2012年5月23日アクセス)等も補完的に利用している。これらのデータ源は後述する図

2以降についても同様である。

図 1 トヨタの圏内販売台数、輸出台数、海外生産台数および円相場

卜万台 I m2I国内販売台数 Eコ輸出台数 園田海外生産台数 ーー円相場| 円(=1米ドル)00- ~O

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40

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図 1によると、トヨタの国内販売は 1960年代から 1970年代初頭にかけて大きく増加してい

るが、 1970年代前半から 1980年代初頭にかけてはさほど増加していなL、。また、国内販売は

1980年代半ばから再び増加し、ピーク時の 1990年には過去最高の 2,504,291台を記録するが、

その後は 1990年代から 2000年代にかけておおむね減少する傾向にある。

国内販売にやや遅れて台数が増加しているのが輸出である。輸出は 1960年代から 1970年代

にかけては国内販売を下回っていたが、その後は順調に増加していき、 1977年に国内販売を

上回って以降は輸出が国内販売を上回る年が増えている。輸出は 1985年にピークとなってか

ら1990年代半ばにかけて再び減少するが、 1990年代後半から 2000年代半ばには再び大きく

増加している。ただし、 2009年に輸出は大幅に落ち込んでいる。

一方、海外生産は 1960年代から 1980年代にかけて徐々に増えているものの、同じ時期の圏

内販売や輸出と比べるとその規模ははるかに小さ L、。この時期のトヨタの海外生産は、主に中

南米やアジア、オセアニア等における KD生産を中心とした比較的小規模な工場であった。

したがって、当時のトヨタの生産活動は日本国内を中心としており、海外生産は非常に少ない。

しかし、トヨタが欧米市場で量産工場を展開した 1980年代半ばからは海外生産が順調に増加

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トヨタ自動車における輸出と海外生産の展開(石井) 93

し、 1990年代後半には輸出と国内生産を台数で上回り、 2000年代以降もおおむね増加してい

る。

ここでトヨタの国内生産の動向についてもう少し詳しくみてみよう。図 2は、 1960年から

2011年におけるトヨタの国内生産台数と、その中で乗用車と輸出車が占める割合(前者は乗

用車比率、後者は輸出車比率)を示している。

図 2 トヨタの圏内生産台数、乗用車比率、輸出車比率

十万台 I [二コ園内生産台数 4 ー乗用車比率(国内生産) 司ー輸出車比率(国内生産)I 45 100%

40 ー

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90%

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30%

20%

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0%

図2によると、トヨタの国内生産は 1960年代から 4,212,373台を記録した 1990年まで、ほ

ぼ増加する傾向を見せている。また、国内生産に占める乗用車の比率は 1960年代初頭は約 30%

と低かったが、その後は徐々に増加し、 1965年には 50%、1971年には 70%を超えるまで急増

している。つまり、トヨタの圏内生産では当初はトラック等の商用車が大半を占めていたが、

1960年代から 1970年代の高度成長期にかけては乗用車生産が主流となっていった。いっぽう、

国内生産に占める輸出車の割合は 1960年代当初は 10%未満と低迷していたものの、その後は

次第に増加し、 1971年には 40%、1977年には 50%を超えている。つまり、トヨタの国内生産

は当初は圏内販売向けがほとんどであったが、 1960年代から 1970年代にかけて圏内生産の約

半数を占めるまでに輸出が増加した。

また、 1973年と 1979年のオイルショック直後を除けば、 1970年代から 1980年代にかけて

の国内生産は増加し続けている。とくに 2回のオイルショックの直後は一時的に国内生産は低

迷しているが、その後はともに再び増加に転じている。オイルショックは日本企業が当時得意

としていた小型乗用車に対する海外市場でのニーズを高め、日本車の輸出を結果的に促したこ

とがその背景にあると考えられる。

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94 経営研究第64巻第l号

いっぽう、 1980年代の輸出車比率は大きな伸びがみられない。この理由としては、円高と

貿易摩擦による欧米輸出の抑制と、圏内販売の増加が考えられる。図 1にもあるように、この

時期に円高が進む中で輸出が減少し、この輸出の減少を補う形で海外生産が増えている。また、

パフツレ景気のもとで 1980年代半ばから 1990年にかけては国内販売が増加しており、この間に

国内生産に占める輸出の相対的な位置づけが低下したと考えられる。

また、国内生産は 1991年から減少しているが、 1990年代半ばからは再び増加基調となり、

4,226,137台となった 2007年には過去最高の台数となっている。ただし、リーマンショックの

あった翌年の 2009年からは、タイの大洪水や東日本大震災の影響もあり、圏内生産が大幅に

減少している。

3 輸出

次に、トヨタの輸出の動向について、輸出車の車種(乗用車と商用車)と輸出市場の観点か

ら分析していこう。

図3は、 1960年から 2011年におけるトヨタの輸出台数、輸出の中で乗用車が占める割合

(乗用車比率)と欧米市場向けが占める割合(欧米比率)を示している。

十万台

30ァー

25

20

15

10

5

図3 トヨタの輸出台数と乗用車比率、欧米比率

巳コ輸出台数 司←欧米比率(輸出) ー←乗用車比率(輸出)

100%

90%

80%

70%

60%

50%

40%

30%

20%

10%

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図3によると、先述したようにトヨタの輸出は 1960年代から 1970年代にかけて急増してい

る。 1960年に 8,397台であったトヨタの輸出台数は 1970年に 481,892台へと約 60倍もの伸び

を見せ、さらに 10年後の 1980年には 1,785,445台へと増加している。この時期の輸出の伸び

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卜ヨ夕日動車における輸出と海外生産の展開(石井) 95

は、おもに乗用車輸出の増加によるものである。乗用車比率は 1960年代前半には約 20-30%

であるが、 1960年代後半には約 60-70%まで増加し、 1970年代もこれとほぼ同じ水準で推移

している。また、欧米比率は 1960年の 8%から 1970年の 63%へと大幅に増加し、 1970年代

もこれとほぼ同じ水準が続いている。以上のことから、 1960年代から 1970年代におけるトヨ

タの輸出の伸びは、おもに欧米向けの乗用車輸出の増加によって支えられていることが分かる。

また、先述したこの時期における国内生産の伸びも欧米向けの乗用車輸出の急増によってもた

らされていたといえる。

いっぽう、 1980年代から 1990年代前半にかけての輸出は低迷し、ピークであった 1985年の

1,979,955台から 1995年の1.202.420台へ大きな落ち込みがみられる。この時期の輸出低迷の

背景には、当時の円高や貿易摩擦による輸出環境の悪化、当時トヨタが推進した欧米生産によ

る欧米輸出の一部代替等があると考えられる。 1990年代後半から 2000年代にかけてはトヨタ

の輸出は再び増加し、 2007年には過去最高の 2,666,464台を記録している。しかしながら、リー

マンショック直後の 2009年には輸出が 1,444,758台にまで落ちこんだ。翌 2010年の輸出はや

や持ち直したものの、タイの大洪水と東日本大震災のあった 2011年には 1,568,941台まで再

び減少し、 2011年の輸出も以前の水準には達していない。

1980年代半ばから 2000年代にかけての輸出は、乗用車比率も約 70%から 90%を超える水

準まで増えている。これは、米国等で高い輸入関税が設定されたピックアップ・トラックの輸

出を 1990年代以降に現地生産に切り替えていったためである。たとえば、トヨタは北米に輸

出していたピックアップ・トラックの現地生産を 1991年に開始した。また、トヨタはピック

アップ・トラックやピックアップ・トラックからの派生車(多目的車)の生産を 1980-90年

代にアジアや中南米で積極的に展開した (J11遺, 2006)。

また、 1980-90年代の輸出に占める欧米比率は 1986年に 81%という高い値を示した後は徐々

に減少し、 2010-2011年には約 50%の水準まで下がっている。この聞に欧米比率が減少した

理由の一つは、トヨタが従来の欧米輸出を一部代替する現地生産を推進したことが考えられる。

ただし、 2000年前後における欧米比率は増加基調となっている。この背景には、 トヨタの欧

米工場の新設がほぼ一段落したことと、当時の円安傾向や輸出自主規制の終了(米国は 1984

年、 EUは1999年)による輸出環境の改善等が考えられる。その後、欧米比率は 2000年代半

ばから再び低下している。これは 2000年代初頭からの円高基調による輸出採算の悪化と欧米

生産の拡充によるものだと考えられる。

続いて、日本からの輸出を仕向け地別の割合でみていこう。図 4は 1966年から 2011年にお

けるトヨタの輸出台数を市場別(北米、欧州、アジア、オセアニア、中南米、中近東、アフリ

カ)の割合で示したものである。

図4によると、 1960年代半ばから一貫してトヨタの輸出先のトッフ。でtあり続けているのは北

米市場である。 1960年代初頭の北米向け輸出は全体の 26%を占めていたが、 1970年には 50%

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96 経営研究第64巻第 1号

図4 トヨタの輸出台数の市場別割合

|ー←北米+欧州 十アジア→←オセアニア+中南米+中近東+アフリカ|70%,

60%

50%

40%

30%

20%

10%

0%

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を上回る水準まで急増し、翌 1971年には約60%を占めている。それ以降の 1970年代から 2000

年代半ばにかけての北米向けの割合はほぼ 40%から 60%の間で推移していている。しかし、

2000年代後半から北米向けの割合は減少傾向となり、 2011年には 31%まで低下している。た

だし、 2011年の時点でも北米向け輸出はトヨタの輸出の中で最も高い割合を占めている。

1960年代後半から 2011年にかけて北米に次いで輸出が多いのは欧州市場である。欧州向け

は1960年代後半には輸出全体の 10%程であったが、 1970年代以降は 20%前後で推移し、大

半の年において北米輸出に次ぐ規模となっている。これらのデータは、図 3でもみたように、

欧米市場が 1970年代から今日にかけてトヨタの主要な輸出市場であり続けていることを示し

ている。

1960年代後半においてトヨタの輸出における割合が比較的高いのは、オセアニア向けとアジ

ア向けである。これらの市場向けの輸出は 1966年時点ではともに輸出全体の約 20%を占めて

おり、北米向けの割合に匹敵する水準であった。しかし、その後 1970年代にかけて輸出全体

の中でオセアニア向けとアジア向けが占める割合はともに減少し、それ以降は両市場ともおお

むね 10%を下回る水準となっている。また、中南米、中近東、アフリカの各市場向けの輸出

は、一時期を除けば、輸出全体に占める割合はおおむね 10%前後またはそれ未満で推移して

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トヨタ自動中ーにおける愉 11\ と海外生産の展開(石~m 97

いる。

4 海外生産

続いてトヨタの海外生産の動向について詳しくみていこう。先述したように、トヨタの海外

生産は輸出環境の悪化によって北米生産を開始した 1980年代以降に本格化したのが一つの大

きな特徴である。

図5は1965年から 2011年におけるトヨタの海外生産台数と国内生産台数、海外生産全体に

占める欧米生産の割合(欧米比率)を示したものである。

十万台

50

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図5 トヨタの海外生産と圏内生産、欧米比率

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図5によると 1965年から 2011年までのトヨタの海外生産はほぼ一貫して増加している。同

社の 1965年における海外生産台数 12,446台はこれと同じ年の圏内生産台数 477,643台を大き

く下回っている。しかし、 2007年の海外生産台数は 4,501,268台となり、これは同年の国内生

産台数 4,226,137台を上回っており、その後は 2011年まで海外生産が国内生産を上回る状況

が続いている。また、この期間で海外生産がもっとも多い 2007年の台数は、 1965年の海外生

産の約 360倍となっている。ただし、リーマンショックの直後の 2009年や、東日本大震災お

よびタイの大洪水が発生した 2011年には海外生産の大幅な落ち込みも見られる。

海外生産の中で欧米生産が占める割合は 1960年代後半から 1980年代初頭にかけてはほぼ

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98 経営研究第64巻第 1号

図6 トヨタの海外生産における市場別割合

-e-北米 4 ー欧州 唱ーアジア →←オセアニア 唱ーヰ玉南采 4 ーアフリカ70%

60%

50%

40%

30%

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10%を下回っており、当時の海外生産は非欧米市場が主であった。しかし、 1980年代前半か

ら欧米生産の割合は急増し、 1989年には 50%を越え、 1998年には海外生産全体のほほ、 4分の

3を占めている。ただし、 2000年代半ばからは欧米生産が海外生産全体に占める割合が減少し

ており、 2010年には値が 50%を下回っている。

また、トヨタの海外生産の動向は市場別に異なる特徴がみられる。

図6は、 1965年から 20日年におけるトヨタの海外生産台数について市場別(北米、欧州、

アジア、オセアニア、中南米、アフリカ)の割合で示したものである。

図7は、 1965年から 2011年におけるトヨタの海外生産台数を市場別(北米、欧州、アジア、

オセアニア、中南米、アフリカ)に示したものである。

まず、近年トヨタが現地生産に力を入れてきたのが北米市場である。北米生産は 1980年代

半ばまではほとんどなかった(メキシコ生産が 1969年から 75年に一部ある)0GM社との合

弁 NewUnited Motor Manufacturing Inc. (NUMMI)の設立を機にトヨタの北米生産は

1985年から増加し、 1986年には海外生産全体に占める割合が最多となった。北米生産は 1984

年の O台から 1986年には 205.854台となり、トヨタの海外生産全体の約 46%を占める規模と

なっている。 NUMMIが設立された当時は、同工場はトヨタの海外工場の中でもっとも大規

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トヨタ自動車における輸出と海外生産の展開(石井) 99

図7 トヨタの市場別海外生産台数

十万台 1 -9ー北米 4ト欧州 司 F アジア →←オセアニア 4ト中南米 ......アフリカ20 1

18

16

14

12

10

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模な量産工場であった。 トヨタは NUMMIに続いてケンタッキー工場やカナダ工場での生産

を1988年に開始し、 1989年には北米生産がトヨタの海外生産の過半数を占めるまでになった。

また、 1990年代も北米は現地生産がもっとも多い市場であり続けているが、 2000年代にかけ

て北米生産の台数は増えているものの、これが海外生産全体で占める割合は減っている。この

低下は、後述するように 2000年代に入ってアジアと欧州の現地生産が大幅に伸びたことによ

るものである。さらに、 2008年のリーマンショックやその後の品質騒動、東日本大震災等の

影響によって北米生産の規模は減少し、これが海外生産全体に占める割合も 2011年に約 30%

へと減っている。

北米市場に次いで現地生産が近年拡大してきた市場は欧州である。 トヨタは 1968年よりポ

ル卜カソレ企業への部分出資を通じて商用車の現地生産を開始し、 1970年代は欧州生産が海外

生産全体の約 10%を占めていた。しかし、 1980年代に入ると他市場での生産の伸びに対して

欧州生産は低迷し、その後 1990年代初頭までは欧州生産が海外生産全体で占める割合は数%

という水準が続いた。しかし、トヨタは 1992年に英国工場での生産を開始し、その後もトル

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100 経営研究第64巻第 l号

コ工場やフランス工場、チェコ工場(プショー・シトロエンとの合弁)を設立し、欧州生産が

大きく増加した。その中で海外生産全体に占める欧州、|生産の割合は 1990年の約 2%から 2006

年には約 24%へと大きく伸びている。この時期の欧州生産を台数でみると、 1990年の 20,400

台から 2007年の 1,014,223台へと約 50倍もの大幅な増加となっている。この欧州生産の急増

の背景には、 EU市場の拡大と経済成長があった。しかしながら、 2008年のリーマンショック

を境に欧州生産は減少に転じ、 2011年の生産台数は 855,402台となり、これが海外生産全体

に占める割合は約 17%にまで低下している。

今日のトヨタの海外生産においてもっとも大きな割合を占めているのはアジア市場である。

1960年代後半から 1980年代半ばにおいてトヨタの海外生産の中でアジア生産が占める割合は

比較的高く、おおむね 20%から 40%の水準で推移している。また、 1980年代半ばから 1990

年代半ばにかけてもアジア生産の台数は増える傾向にあるが、この時期には北米生産の急増も

あってアジア生産が海外生産全体に占める割合は 20%を下回っている。さらに、 1997年から

1998年にかけてアジア生産の台数は減少し、これが海外生産の中で占める割合も約 10%まで

減っている。この減少は 1997年にタイを中心にはじまったアジア通貨危機と、これを契機と

したアジア市場の経済低迷に起因していると考えられる。しかし、 1990年代末から 2000年代

にかけてアジア生産は再び大幅に増え、 2009年以降でみるとアジアは海外生産全体に占める

割合がもっとも多い市場となっている。 2010年には海外生産全体でアジア生産が占める割合

は全体の 40%を超えている。翌 20日年にはタイの大洪水等によりアジア生産は海外生産全体

に占める割合と生産規模が減少しているが、アジアは依然として現地生産がもっとも多い海外

市場である。

1960年代後半から 1970年代において現地生産がアジア市場に次いで多いのはオセアニア市

場である。とくに 1965年のオセアニア生産が海外生産全体に占める割合は約 42%と各市場の

中でもっとも大きい値となっている。ただし、この時のオセアニア生産の台数は 5,240台であ

り、同じ年のトヨタの圏内生産台数 477,648台と比べるとはるかに規模が小さし、。その後のオ

セアニア生産は 1979年の 58,697台まで増加しているが、 1980年代から 1990年代にかけては

10万台を上回る年は 1度しかなし、。また、 2000年代に入ってからもトヨタのオセアニア生産

は10万台前後で推移している。このように、 1990年代から 2000年代にかけて他市場での生

産台数が大きく増える中でもオセアニア生産の伸びは小さく、岡市場の生産台数が海外生産全

体に占める割合も数%となっている。

オセアニア生産と同様に 1960年代から 1970年代にかけて海外生産全体に占める割合が比較

的高いのはアフリカ生産である。トヨタは 1962年に南アフリカでの現地生産を開始し、 1960

年代後半から 1980年代半ばに現地生産を拡大し、 1984年と 1985年のアフリカ生産は海外生

産全体の 3割以上を占めている。しかし、その後のアフリカ生産は 10万台程度で推移すると

ともに、これが海外生産全体に占める割合は徐々に低下し、 2000年代は数%という状態が続

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トヨタ lヨ動車における輸出と海外生産の展開(石井) 101

いている。

最後に中南米生産は、 1980年代まで現地諸国における工業化政策によって自動車輸入が制

限され、現地生産車にも高い部品等の国産化率が求められた。このため、トヨタは早い段階か

ら各国で小規模な現地生産を展開した。とくに、 トヨタ初となる海外生産拠点 Toyotado

Brasil Ltda.社を 1958年にブラジルで設立し、翌 1959年から同拠点での車両生産を開始した。

中南米生産がトヨタの海外生産全体に占める割合は 1965年には 10%を超え、 1970年代から

1980年代にかけては 10%前後で推移した。しかし、中南米生産が海外生産全体に占める割合

は1990年代から 2000年代にかけて欧米生産やアジア生産の急増の中で徐々に低下し、全体の

数%という水準が続いている。

5 輸出と海外生産

前節までの分析から、トヨタの輸出と海外生産にかんするいくつかの特徴が明らかになった。

輸出については 1960年代後半以降に欧米向けを中心に急増し、 1980年代から 1990年代には

円高や貿易摩擦等で一時低迷したものの、今日でも欧米輸出は輸出全体の過半数を占めている。

いっぽう、海外生産は 1960年代後半から 1980年代初頭においてはアジアやアフリカ、オセア

ニアといった非欧米市場が中心であった。しかし、 1980年代半ばから 1990年代にかけてトヨ

タは輸出の一部を代替する形で欧米生産を開始し、その後これを強化していった。また、 1990年代

終わりから 2000年代においてはアジア生産も急増しており、 2009年以降はトヨタの海外生産

全体の中でアジア生産がもっとも高い割合を占めている。

これらの輸出と海外生産は、少なくとも近年の欧米やアジアの市場においてトヨタが現地販

売車を確保するための主要な手段であったと考えられる。海外で販売する車両は、輸出や海外

生産とは別に、他社への委託生産、 OEM調達、第三国から現地への輸出等によっても確保で

きる。しかし、日本の自動車企業がこれらの手段によって確保した海外販売車は、輸出や海外

生産に比べるとごく一部にすぎないと考えられる。たとえば、 1980年代から 1990年代に日本

の自動車企業が日米欧市場で実施した委託生産や OEM調達は、例外的に多い場合でも年間数

万台、それ以外の大半は年間数千台と少規模である(石井, 2003)。また、筆者の調べた範囲

では日本自動車企業の海外工場は立地市場への車両供給を主な目的として設立されるのが一般

的であり、他市場への輸出を主目的とすることはほとんどなL、。

では、トヨタは海外販売車の供給手段として、輸出と海外生産のどちらをより重視してきた

のだろうか。このような海外販売車の供給手段は市場によって違いがあるのだろうか。以下で

は、トヨタの海外生産と輸出とのかかわりについて市場別の動向を分析する。

図8は、 1983年から 2011年におけるトヨタの海外生産台数を輸出台数で割った比率(海外

生産対輸出比率)を市場別(北米、欧州、アジア、海外全体)に示したものである。海外生産

対輸出比率が低い場合は当該市場の販売車はおもに輸出によって供給されており、この値が高

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102 経営研究第64巻第1号

図8 トヨタの海外生産対輸出比率(北米、欧州、アジア、海外全体)

現地生産対輸出比率

12

10

8

6

4

2

|4←北米 ー・ー欧州 『炉アジア ー』海外全体|

AFAFSS22S AP SAPSSS Sss sssssss 、ν 、ν 、ν 、ヤ、ν 、ν 、v 、v 、ν 、ν 、v 、ν"¥> ・v ・v ・V "¥>

い場合は当該市場の販売車はおもに現地生産によって供給されていると考えられる。

まず、海外市場全体における海外生産対輸出比率は、 1966年は 0.22、1970年は 0.16、1980

年は 0.14、1990年は 0.55、2000年は1.15、2010年は 2.55とほぼ増加する傾向にある。海外

市場全体の値が 1を超えた 1995年以降は、トヨタの海外販売車の過半数は海外生産によって

確保されていると考えられる。 2011年の値は 2.45であり、今日のトヨタの海外販売車の 3分

の2以上は海外生産によって供給されている。

市場別の海外生産対輸出比率でみるともっとも値が高いのはアジア市場であり、 1956年の

値は 0.34、そして 1989年の値は 1を上回り現地販売車の過半数が現地生産となっている。ま

た、アジア市場の海外生産対輸出率は、 1990年代半ばから 2000年代にかけては欧米市場より

も大幅に高い値となっている。 2011年にアジア市場の値は 8.51となり、アジア市場の販売車

10台のうちほぽ9台が現地生産となっている。

北米市場の海外生産対輸出比率はアジア市場の値よりも低い。とくに、 1960年代から 1980

年代初頭における北米市場の値はほとんど Oであり、当時の現地販売車はほぼ輸出によって確

保されていたことがわかる。北米生産を開始した 1985年の値は 0.06となり、この年以降の値

は徐々に増加していき、 1を上回った 1993年には現地販売車の過半数が現地生産車となった。

そして、 2011年には値が 2.43となり、今日ではトヨタの北米販売車の 3分の 2以上が現地生

産となっている。

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トヨタ自動車における輸出と海外生産の展開(石井) 103

欧州市場の海外生産対輸出比率は、アジア市場や北米市場の値と比べて全体的に低い。まず、

欧州市場の値は 1968年という比較的早い段階に 0.03となっているが、その後も 1993年まで

は0.1を越えることはない。この時期の欧州市場の値はアジア市場の値を下回っている。また、

1985年までは欧州市場の値は北米市場の値よりも高いが、それ以降は欧州市場の値は常に北

米市場の値を下回っている。しかし、欧州市場の値も 1990年代後半から 2000年代にかけて次

第に増加し、値が 1を上回った 2003年からは現地販売車の過半数が現地生産となっている。

さらにその後も欧州市場の値は増加し、 2005年から 2010年までは北米市場の値を上回ってい

る。とくに 2009年の欧州市場の価は 3.26となり、現地販売車の 4分の 3以上が現地生産となっ

ている。しかしながら、 2010年から 2011年にかけては欧州市場の値は1.91にまで減少し、

再び北米市場の値を下回る水準となっている。

最後に、トヨタと日本自動車企業全体の海外生産対輸出比率について、近年トヨタが輸出と

海外生産で重視してきた欧米市場の値を比較しておこう。図9は1983年から 2011年における

トヨタと日本自動車企業全体(トヨタを含む)の海外生産対輸出率について、北米市場と欧州

市場の値をそれぞれ示したものである。北米市場におけるトヨタの値はトヨタ北米、日本企業

全体の値は日本企業北米、欧州市場におけるトヨタの値はトヨタ欧州、|、日本企業全体の値は日

本企業欧州、|と示している。

北米市場における海外生産対輸出比率は、トヨタと日本企業全体の間であまり大きな差はな

図9 トヨタと日本自動車企業全体の海外生産対輸出比率(北米市場と欧州市場)

現地生産対輸出比率 |ー←トヨタ北米-()・日本企業北米一・ートヨタ欧州-E]-日本企業欧州3.51

3

2.5

2

1.5

1

0.5

。。3 、~ ~x, へ。, n..'ll 玄喜b、~ 、、~ ~x, へ。コ ε~ ,.$王 、c、、、降 、!o へ。, ~'ll .~ .'¥-

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104 経営研究第64巻第 I号

く、ほぼ同じような変化を見せている。ただし、 1990年代から 2000年代半ばにかけては、日

本企業全体の値がトヨタの値を上回る年が多くみられる。また、 2009年から 2011年にかけて

は、トヨタの値が日本企業全体の値をやや上回っている。

海外生産対輸出比率の変化についてトヨタと日本企業全体の間でより大きな違いがみられる

のは欧州市場である。まず、全体的に値が増加する趨勢にあるという点では、トヨタと日本企

業全体の動向はほぼ共通している。ただし、 1983年から 2003年にかけては日本企業全体の値

がトヨタの値を常に上回っている。しかし、トヨタの欧州生産が本格化した 2000年代初頭か

らは同社の値が大きく増加している。 2004年から 2011年にかけてはトヨタの値が日本企業全

体の値を上回っており、とくに 2000年代半ば以降に両者の値は大きな聞きがある。よって、

この時期のトヨタは他の日本自動車企業よりも積極的に欧州生産を展開しているといえよう。

6 結論

以上の分析から高度成長期から今日に至るまでのトヨタの国際事業活動、とくに輸出と現地

生産にかんするいくつかの特徴が明らかになった。

第ーに、 1960年代から 1970年代にかけて欧米市場向けの乗用車を中心に輸出が急増したこ

とである。このことは、 1970年代から 1980年代における貿易摩擦や、それ以降の輸出を代替

するための欧米生産にもつながったと考えられる。この欧米市場における現地生産が本格化す

るにつれて、 1980年代半ば以降の欧米輸出は減少していた。

第二に、 1980年代から 2000年代半ばにかけて欧米生産が大きく増加したことである。とく

にトヨタは北米生産を 1980年代から強化しており、 1990年代から 2000年代初頭にかけては

海外生産全体の過半数を北米生産が占めていた。欧州生産については 1990年代から 2000年代

半ばまで大幅に増加し、一時はトヨタの海外生産全体の 20%以上を占めていた。ただし、リー

マンショック後の経済低迷や東日本大震災、アジア生産の急増等によって、トヨタの欧米生産

が海外生産全体で占める割合は 2000年代に減少していた。

これらと関連して、第三に、欧米市場における販売車両の供給パターンに変化が見られたこ

とである。すなわち、欧米市場において販売車両を確保する主な手段は、 1960年代から 1980

年代にかけては日本からの輸出であったが、 1980年代後半以降は現地生産にシフトした。

1960年代から 1980年代初頭までは北米市場における販売車両はほとんどが日本からの輸出で

あった。しかし、 1980年代半ばから北米市場への輸出を代替する現地生産が増えたことで、

北米販売車は 1993年に過半数が、そして 2009年には 3分の 2以上が現地生産車となった。ま

た、 1960年代末から開始した欧州生産も当初は規模が小さく、 1990年代初頭までのトヨタの

欧州販売車はほとんどが日本からの輸出であった。しかし、トヨタは 1990年代半ばから欧州

生産を本格化させ、欧州販売車は 2003年に過半数が、また 2006年には 3分の 2以上がそれぞ

れ現地生産車となった。このように今日の欧米市場におけるトヨタの販売車両の大半は現地生

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トヨタ自動車における輸出と海外生産の展開(石井) 105

産となっている。

第四に、アジア市場においては、欧米市場とは異なる特徴がみられた。まず、トヨタは 1960

年代からアジアにおいて現地生産を積極的に展開しており、 1960年代後半から 1980年代前半

におけるアジア生産は海外生産全体のほぼ 3~4 割を占めていた。アジア市場における販売車

両の中で現地生産車が占める割合も、 1989年という早い段階に半数を超えていた。これは現

地販売車を当初はほぼ輸出によって確保した欧米市場の特徴とは異なる。また、その後もトヨ

タはアジア生産を拡大し、 2009年からは海外生産全体の中でアジア生産の規模がもっとも大

きな割合を占めている。また、 1990年代半ば以降はアジアで販売する車両の 9割以上が現地

生産車となる状況が続いており、これは今日におけるトヨタのアジア市場の販売車両にかんす

る特徴となっている。

以上のトヨタの国際事業活動にかかわる発見事実は、われわれが日本自動車企業の国際事業

活動の研究を今後進めるうえでは、さまざまな示唆をもつであろう。また、本稿の発見事実か

らは、トヨタの輸出や海外生産の動向、さらにはこれらの戦略的な意味合いが市場や時期によっ

て異なることも伺える。加えて、トヨタと日本自動車企業全体の聞では、国際事業活動にかん

する動向において共通している面とそうでない面があることも明らかになった。今後は、これ

らの発見事実を踏まえたうえで、日本自動車企業の国際事業活動にかんする研究を進める必要

があるだろう。

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*本研究は、科研費(基盤研究 (B)11003946ならびに 12022956、および基盤研究 (C)12008181)の助成

をi尋ている。

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トヨタ自動車における輸出と海外生産の展開(石井) 107

Evolution of Toyota's export and overseas production

Shinichi Ishii

Summary

This paper analyzes the evolution of the export and overseas production of

Toyota Motor Corporation from the 1960s to the 2000s. One of the traits of

Toyota's exports is that its volumes to western markets increased drastically

from 1960s to 1970s. However, Toyota also increased its production volume post

the mid -1980s in North America and post 1990s in Europe by partly alternating

its exports from Japan to address the appreciation of the Japanese yen and trade

conflicts. In addition, Toyota emphasized production rather than exports since

the 1960s, which increased in Asia. In fact, its Asian production volumes have

been outstanding compared with other markets since the 1990s.

Key words: Toyota, Automobile manufacturer, Export, Oveaseas production,

International business