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まさに新構想の教育大学が設置されるのにふさわしい場 所と言える。 1978年,上越教育大学は,教員の資質向上と初等教 育教員養成のためこの地に設立された。以来,40年を経 過したが,「現職教員を中心とする大学院と初等教育教員 養成が中心の学部」を持つ教員養成系大学としての使命 は今も変わらない。 1996年には上越教育大学,兵庫教育大学,鳴門教育 大学および岡山大学を構成大学とする「兵庫教育大学大 学院連合学校教育学研究科(博士課程)」が,教員養成 系大学としては初めて設置された。また2008年には教 職大学院制度を活用した教員養成の充実をはかるため, 新たに専門職学位課程(以下,教職大学院と記す)を設 置している。これにより現在の上越教育大学は,学部, 大学院修士課程,教職大学院と連合大学院博士課程を擁 教員養成にふさわしい自然,歴史と文化の街 上越教育大学のキャンパスがある新潟県上越市は,日 本海に面して位置し,市の中央部には関川,保倉川等が 流れ,流域には高田平野が広がっている。この広大な平 野を取り囲むように,米山山地,東頸城丘陵,関田山脈, 南葉山地,西頸城山地等の山々が連なる。海岸線には砂 浜や天然の湖沼群が点在するなど,海と山のどちらも豊 かな自然環境に恵まれている。 新潟県は上越,中越,下越の3つの地区に分かれるが, 上越市はその名の通り,上越の中心として古くから歴史 と文化を育んできた。古くは奈良時代にはこの地に国府 が置かれるとともに,国分寺が建立させている。時代が 下った1549年には上杉謙信の居城が春日山に築かれた。 当時の城下は京都に次ぐ人口を擁して,繁栄を極めた。 2019年4月大学院組織を大幅に改組。 新構想大学・上越教育大学のこれから 2018年10月,上越教育大学は記念すべき創立40周年を迎えた。この間,学校教育学部の卒業生は約6300名, 大学院を修了した学生は約7800名におよび,教員養成のリーダー的大学として確固たる地位を築いてきた。そ の上越教育大学が2019年4月大学院を大幅改組する。今回の改組がいかなる構想によるものなのか,川崎直哉 学長に聞いた。 まとめ/協同出版 企画特集

新構想大学・上越教育大学のこれから · 新潟県は上越,中越,下越の3つの地区に分かれるが, 上越市はその名の通り,上越の中心として古くから歴史

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Page 1: 新構想大学・上越教育大学のこれから · 新潟県は上越,中越,下越の3つの地区に分かれるが, 上越市はその名の通り,上越の中心として古くから歴史

まさに新構想の教育大学が設置されるのにふさわしい場

所と言える。

 1978年,上越教育大学は,教員の資質向上と初等教

育教員養成のためこの地に設立された。以来,40年を経

過したが,「現職教員を中心とする大学院と初等教育教員

養成が中心の学部」を持つ教員養成系大学としての使命

は今も変わらない。

 1996年には上越教育大学,兵庫教育大学,鳴門教育

大学および岡山大学を構成大学とする「兵庫教育大学大

学院連合学校教育学研究科(博士課程)」が,教員養成

系大学としては初めて設置された。また2008年には教

職大学院制度を活用した教員養成の充実をはかるため,

新たに専門職学位課程(以下,教職大学院と記す)を設

置している。これにより現在の上越教育大学は,学部,

大学院修士課程,教職大学院と連合大学院博士課程を擁

教員養成にふさわしい自然,歴史と文化の街

 上越教育大学のキャンパスがある新潟県上越市は,日

本海に面して位置し,市の中央部には関川,保倉川等が

流れ,流域には高田平野が広がっている。この広大な平

野を取り囲むように,米山山地,東頸城丘陵,関田山脈,

南葉山地,西頸城山地等の山々が連なる。海岸線には砂

浜や天然の湖沼群が点在するなど,海と山のどちらも豊

かな自然環境に恵まれている。

 新潟県は上越,中越,下越の3つの地区に分かれるが,

上越市はその名の通り,上越の中心として古くから歴史

と文化を育んできた。古くは奈良時代にはこの地に国府

が置かれるとともに,国分寺が建立させている。時代が

下った1549年には上杉謙信の居城が春日山に築かれた。

当時の城下は京都に次ぐ人口を擁して,繁栄を極めた。

2019年4月大学院組織を大幅に改組。

新構想大学・上越教育大学のこれから2018年10月,上越教育大学は記念すべき創立40周年を迎えた。この間,学校教育学部の卒業生は約6300名,大学院を修了した学生は約7800名におよび,教員養成のリーダー的大学として確固たる地位を築いてきた。その上越教育大学が2019年4月大学院を大幅改組する。今回の改組がいかなる構想によるものなのか,川崎直哉学長に聞いた。� まとめ/協同出版

企画特集

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今後とも教育分野,学校現場の要請・ニーズに応えるべ

く大学改革を行っていきます。」

全国から上越キャンパスに集まる理由

 上越という,新潟県内の一地域が校名につくだけに,

地元出身者が大半を占めていると思いきや,資料を見て

意外なことが分かった。現在在籍する大学院学生,611

名(うち現職教員109名,2018年1月1日現在)を出

身都道府県別にみると,北は北海道から南は九州・沖縄

まで,何と40近い都道府県から学生が集まっているこ

とだ。教職大学院はすでに全都道府県に設置されている

にもかかわらず,はるばる上越の地を選んでいるのであ

る。この点や現職教員が多いことを見ても,上越教育大

学大学院の教育実績が高く評価されている証明と言える

だろう。

 さすがに最も多かったのは地元・新潟出身者の158名

だが,実は2番めに多かったのは東京の107名である。

北陸新幹線を利用すれば,東京駅から大学の最寄り駅で

ある上越妙高駅までは片道約1時間50分。主たる生計

を維持するために職業に就いている方,疾病等のため,

毎日の通学が困難な場合,標準修業年限2年を超えて,

3年または4年にわたって計画的に教育課程を履修する

長期履修制度もある。また現職教員としての経験年数や

資質を考慮,入学前の教員としての実務経験等に相当す

る業績を単位認定し,実習科目の一部を履修したものと

みなし,1年で修了することを可能にしたプログラムも

ある。県境を越えての通学も十分に可能だ。

する,「教育の総合大学」としての体制を整えることとな

った。

 この上越教育大学が次の新しいステージに踏み出そう

としている。大学院を中心に大規模な組織変更を行うも

のだ。学部学生定員,大学院学生定員はそれぞれ160名,

300名と変わらないが,現在60名の教職大学院を170名

と大幅に拡充,その機能の充実をはかる一方,修士課程

は定員130名とする。教育研究に今まで以上に特徴を持

たせ,教職大学院と修士課程の両輪で,さらなる強みを

発揮する予定だ。今回の組織変更の狙いを同大の川崎直

哉学長はこう説明する。

 「教職大学院は,学部教育の内容を高度に学ぶためのコ

ースや領域に特化した形で配置。また従来は修士課程で

学んでいた学校現場での臨床場面や授業研究,子どもの

発達や学校教育において必要となる様々な連携などにつ

いても,機能を拡大して学ぶことができるようにします。

 大学院修士課程では,5種類の免許が取得できる特別

支援教育や,近年注目されている健康や食に関する学び,

臨床心理士や今年から国家試験が始まった公認心理師の

受験資格取得にも対応するコースや領域,各教科の内容

や指導方法を深く研究・学習するためのコースの他に,

国際教育や日本語を中核とするコースや,現職教員が働

きながら夜間や休日などにフレックス制度を利用して学

ぶことができる教職キャリアコースを設置します。

 こうした改革を本学は2019年度から行うわけですが,

現職教員の再教育・研修という使命にあわせ,少子化の中,

教職に対して強い意欲を持ち,教育界を支えていく人材

を養成し,輩出するという大きな使命を強く認識しながら,

教育界を支えていく人材を養成し,輩出する使命は今後も変わりません。

1952年新潟県生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科博士課程修了(工学博士)。高知大学助教授,上越教育大学教授,同副学長などを経て,2017年4月より同学長に就任。

上越教育大学学長 川崎 直哉

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てきた教育の臨床研究と理論的な考察を学校教育の現場

の中で活かしながら,「即応力」「臨床力」「協働力」の

3つのコンセプトに迫る教員養成のためのコースである。

 現代教育課題研究コースは,さらに発達と教育連携,

道徳・生徒指導に分かれている。前者は教師と子ども・

地域社会との連携という視点に立ち,教育学や心理学の

立場から,教育のあり方を追求する。後者は規範的意識

や道徳的実践力の育成,不登校やいじめ問題の予防・対

応など生徒指導上の課題について追究する。どちらも容

易に解決できる問題ではないが,今日的な重要な課題で

ある。教育現場への研究の成果の還元が期待される。

 長期履修学生制度に基づく「教育職員免許取得プログ

ラム」を利用すれば,3年間で幼稚園,小学校,中学校,

高等学校の一種免許状の他,専修免許状も取得すること

ができる。教職に関する高度な専門知識を修得するとと

もに,得意分野を持った小学校教員や中学校教員等を目

指すことが可能になる。

 「毎年の入学定員300人自体にも大きな意味があります。

通常の大学院が定員数十名であるのに比べかなり大きな

規模になりますが,そのため様々な学生がいます。北は

北海道から南は九州・沖縄まで,全国各地から集まって

いるのもそうですが,経歴も多彩です。出身学部も教員

養成系だけに限らず,いろいろな学生がいますし,中に

は大学院に進学して初めて教員免許を取得する学生もい

ます。ストレート学生,現職教員が互いに刺激を受ける

ことができる環境と言えます。」(川崎直哉学長)

 教育実習は大学の附属学校・園の他,上越市,妙高市,

糸魚川市および柏崎市等の公立学校から協力を得ており,

大学が指定する学校で行うことになる。

 カリキュラムが充実しているだけではない。サポート

体制も充実している。高度な専門知識と実践力を備えた

小学校教員や中学校教員等として学校現場の第一線に立

って活躍するための支援として,講義棟1階のキャンパ

スライフスクエア内にある教育支援課,学校実習推進室,

学生支援課およびプレイスメントプラザで連携した支援

体制をとっている。

 これら各課・室では,学生生活全般を適切かつ円滑に

送るための支援を行っている。特にプレイスメントプラ

ザでは,教員就職に関する教員採用選考試験対策講座や

 一方,学生に勉学と生活に適した環境を提供するため,

学生宿舎も設置している。単身者用(男子棟,女子棟)

の他,家族と同居する学生のための世帯用学生宿舎,外

国人留学生や外国人研究者のための国際学生宿舎もある。

世帯用学生宿舎の近くに大学の附属幼稚園があり,そこ

に入園する大学院生の子どももいる。

毎年の入学定員300名が持つ意義とは

 2019年4月から教職大学院は,定員60名が170名と

大幅に規模を拡大するが,単に増員しただけではない(注:

それにともなって大学院修士課程は定員240名を130

名に縮小。2つを合わせた定員300名は変わらず)。従

来は教育臨床コースと教育経営コースの2つに分かれて

いたものを教科教育・学級経営実践コース,先端教科・

領域開発研究コース,学習臨床・授業研究コース,現代

教育課題研究コースの4つに再編されることになった。

 例えば,教科教育・学級経営実践コースでは数ヶ月間

連携協力校等に入り,教科指導力と学級経営力を鍛える。

学校現場で起きている課題に対応し,これまで蓄積され

■大学院学生の出身地都道府県別在学者数

新潟県 158名 京都府 10名 滋賀県 2名

東京都 107名 大阪府 8名 奈良県 2名

石川県 47名 茨城県 7名 栃木県 1名

長野県 44名 山梨県 7名 三重県 1名

埼玉県 25名 宮城県 6名 和歌山県 1名

群馬県 21名 福岡県 6名 鳥取県 1名

神奈川県 21名 沖縄県 6名 島根県 1名

北海道 15名 山形県 5名 岡山県 1名

千葉県 14名 福島県 5名 山口県 1名

富山県 14名 兵庫県 5名 愛媛県 1名

静岡県 13名 長崎県 3名 大分県 1名

愛知県 12名 秋田県 2名 熊本県 1名

岩手県 10名 岐阜県 2名 外国 24名

大学院合計 611人

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就職ガイダンスを実施。教員を目指す学生を強力にサポ

ートしている。また,キャリアコーディネーター(公立

学校の校長経験者)が,就職・進路の相談や教員採用試

験対策の個別指導も行っている。こうした様々なサポー

ト体制によって教員就職率が80%を超えるという好結

果につながっていると言える。

東京にサテライトオフィス,海外留学もある

 地方に設置された国立の教員養成系大学というとその

地域に限定されているイメージがあるが,上越教育大学

では東京都港区に東京サテライトオフィスを設置。教育

研究活動,情報の収集・発信の拠点として,教育の進展

および社会との連携に資することを目的としたものだ。

各種講座,研修やセミナーの開催・入試情報の収集,同

窓会等の活動にも利用されている。

 また近年は国際化も進んでいる。学内に国際交流推進

センターを設置し,大学の特徴を活かしながら,海外の

大学間交流協定校との学生および研究者間の国際的な交

流をはかっている。それ以外にも「異文化コミュニケー

ション能力と異文化理解マインド」を持った教員を養成

するため,海外教育(特別)(実践)研究,海外(実践)

フィールド・スタディといった現地で短期間の研修を行

う授業科目を開設している。

 外国人留学生も多数受け入れており,国費留学生,外

国政府派遣外国人留学生,私費外国人留学生を受け入れ,

研究生を含め約40名が在籍している。学内に「留学生

交流プラザ」が設置されていて,日本人学生との交流行

事も多数行われている。

 「『ぜったい先生になりたい人のための大学』。本学の

2019年の大学案内の表紙にはそんな文字が印刷されて

います。1978年の設立以来,上越教育大学は教員養成

を目的に歩んできました。教員養成と教育実践研究の拠

点となることは今後も変わりませんが,教師や教育を取

り巻く環境は時代とともに大きく変わりつつあります。

 しかし,どのような時代になっても,教師1人1人が

教育現場で子どもたちと向き合っていくことに変わりは

ありません。これから教育現場に出ることに不安を感じ

ている人もいるかもしれませんが,設立からすでに40

年を経過し,学部の卒業生は約6300名,大学院の修了

生は約7800名におよび,全国各地で活躍しており,高

い評価をいただいています。そんな先輩方も皆さんを後

押ししてくれます。教員志望の方,教員を目指すかどう

か迷っている方,ぜひ本学で学んでみませんか。上越教

育大学は皆さんの期待に応えてくれる大学です。」と川

崎直哉学長はエールを送っている。

留学生交流プラザ

プレイスメントプラザ

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募集人員

(後期募集)

5人

5人

若干人

14人

14人

20人

17人

22人

10人   

jue_kyoshokukatei1811_ol.pdf 1 2018/12/14 10:58