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経営センサー 2019.1・2 60 60 データで読み解く「東京一極集中」最新動向 人口デッドエンド化する東京の姿 ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員 天野 馨南子(あまの かなこ) 1995年東京大学経済学部卒、日本生命保険相互会社入社、99年株式会社ニッセイ基礎研究所出向。【内閣府】「地 域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017 年~)、地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と 優良事例調査 企画・分析会議委員(2016 ~ 17 年)等。【愛媛県】松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専 門部会 結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017 年度~)、法人会連合会・結婚支援ビッ グデータ活用研究会委員(2016年度~)、 【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・ 団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016 年)。日本労務学会会員、日本性差医学・医療学会会員、日 本保険学会会員、日本証券アナリスト協会検定会員 等。専門分野は、少子化対策・女性活躍推進。 30 年後も「沈まぬ街・東京」 筆者は少子化対策の分析から、この15年間、 東京において子どもが増え続けている多子化デー タを目にしていた。 2015 年国勢調査を基にした 2018 年「地域人口 推計」結果発表前に「全エリア人口減を予測した 2010 年国勢調査推計結果とは異なり、30 年後も 東京だけは人口が減らないという結果に転じる。 そして、東京の人口が減らない分、その他のエリ アは人口減少が加速する」と予想していた。 全国最低出生率・最高生涯未婚率の東京におい て子どもが増え続けるという事態は、掛け率を掛 ける母数「東京の新生児の親となる若い世代が異 常に増加している」ことを示唆している。 1 万カップル × 平均 1.5 人=赤ちゃん 1.5 万人、 7,000 カップル × 平均 2 人=赤ちゃん 1.4 万人と 「カップル規模」はエリアの出生数に大きく影響す る。また、出生率上昇は容易ではないが、個人の エリア移動は容易なため、エリア内出生数は生殖 適齢期人口の移動に大きな影響を受けることにな る。地方出身の 20 代、30 代の継続的人口流入の 結果として、その次世代である東京の子どもが増 えている、という状況が現出している。 発表された最新の地域人口推計結果では、予想 通り「東京だけ、30 年後も人口が減らない」とい う結果に変化した。 30 年後の 2045 年の総人口は 83.7%に減少。し かし東京は 100.7%に微増するとの推計結果であ り、前回推計結果からの変更は「全エリアではな く、東京だけが人口減少を長期的に逃れることに なった」である。 前回推計と総人口の減り方はほぼ変わらないの で、調査の間の 5 年間のうちに東京の人口推計が 増加傾向へと変化を遂げ、そしてこれはその分、 地方の人口減少が加速化したということである。 「東京一極集中」が5年間の間に強まったのである。 Point 2018 年に発表された最新の国勢調査結果をベースにした地域人口推計結果からは、30 年後、東 京のみ人口増加に転じることが判明した。 2017 年の人口移動分析から、東京へは同じ大都市圏もしくは陸路アクセスがよい近郊圏からの 流入が目立つ。徳島の 2017 年の人口の 1 割分の純増。 46 道府県全て東京からの男性に比べ女性の奪還率が低く、母親候補の流出は地方における出生率 上昇効果の打ち消しと男性未婚化上昇を示唆。 マネジメント

データで読み解く「東京一極集中」最新動向 - TORAY...経営センサー 2019.1・2 60 データで読み解く「東京一極集中」最新動向 人口デッドエンド化する東京の姿

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  • 経営センサー 2019.1・26060

    データで読み解く「東京一極集中」最新動向̶人口デッドエンド化する東京の姿̶

    ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員天野 馨南子(あまの かなこ)1995 年東京大学経済学部卒、日本生命保険相互会社入社、99年株式会社ニッセイ基礎研究所出向。【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017 年~)、地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016 ~ 17 年)等。【愛媛県】松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会 結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017 年度~)、法人会連合会・結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016 年度~)、【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016 年)。日本労務学会会員、日本性差医学・医療学会会員、日本保険学会会員、日本証券アナリスト協会検定会員 等。専門分野は、少子化対策・女性活躍推進。

    30年後も「沈まぬ街・東京」筆者は少子化対策の分析から、この 15 年間、

    東京において子どもが増え続けている多子化データを目にしていた。

    2015 年国勢調査を基にした 2018 年「地域人口推計」結果発表前に「全エリア人口減を予測した2010 年国勢調査推計結果とは異なり、30 年後も東京だけは人口が減らないという結果に転じる。そして、東京の人口が減らない分、その他のエリアは人口減少が加速する」と予想していた。

    全国最低出生率・最高生涯未婚率の東京において子どもが増え続けるという事態は、掛け率を掛ける母数「東京の新生児の親となる若い世代が異常に増加している」ことを示唆している。

    1 万カップル × 平均 1.5 人=赤ちゃん 1.5 万人、7,000 カップル × 平均 2 人=赤ちゃん 1.4 万人と

    「カップル規模」はエリアの出生数に大きく影響する。また、出生率上昇は容易ではないが、個人の

    エリア移動は容易なため、エリア内出生数は生殖適齢期人口の移動に大きな影響を受けることになる。地方出身の 20 代、30 代の継続的人口流入の結果として、その次世代である東京の子どもが増えている、という状況が現出している。

    発表された最新の地域人口推計結果では、予想通り「東京だけ、30 年後も人口が減らない」という結果に変化した。

    30 年後の 2045 年の総人口は 83.7%に減少。しかし東京は 100.7%に微増するとの推計結果であり、前回推計結果からの変更は「全エリアではなく、東京だけが人口減少を長期的に逃れることになった」である。

    前回推計と総人口の減り方はほぼ変わらないので、調査の間の 5 年間のうちに東京の人口推計が増加傾向へと変化を遂げ、そしてこれはその分、地方の人口減少が加速化したということである。

    「東京一極集中」が 5 年間の間に強まったのである。

    Point❶ 2018年に発表された最新の国勢調査結果をベースにした地域人口推計結果からは、30年後、東京のみ人口増加に転じることが判明した。

    ❷ 2017年の人口移動分析から、東京へは同じ大都市圏もしくは陸路アクセスがよい近郊圏からの流入が目立つ。徳島の2017年の人口の1割分の純増。

    ❸ 46道府県全て東京からの男性に比べ女性の奪還率が低く、母親候補の流出は地方における出生率上昇効果の打ち消しと男性未婚化上昇を示唆。

    マネジメント

  • 2019.1・2 経営センサー6161

    社会純増率で首位独走する東京都国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」

    より入手可能な 2006 年以降 2016 年までの推移を見ると、東京は 11 年間連続で、対前年社会純増で推移している。つまり毎年その前年よりもさらに多くの人口を東京に呼び込んでいることが示されている。

    また 2012 年以降、その社会純増率は急上昇傾向を見せ、今回の地域人口推計の基となった 10~ 15 年時点の東京における社会増加による人口増加が、その前回の推計期間(05 ~ 10 年)に比べて上昇(逓増)傾向となっている。

    その一方で、東京以外の大半のエリアが 10 ~15 年で社会純減悪化(逓減)傾向となっている。つまり、地域人口推計からは中長期的に「東京の人口繁栄の陰にシュリンクしつつある地方」の様子が浮かび上がる。このような推移を踏まえた上で、では一体、最新 17 年における東京と地方の人口移動はどのようなものであったかを見てみたい。

    2017年・東京へ向かう人々のふるさと17 年、どこから東京へ人々がやってきたかを総

    数で見てみたい(図表 1)。国のデータによれば、17 年 1 年間だけで 41 万 9,000 人が東京へ転居し

    ている。転居前エリア内訳は、東京に近い関東圏の神奈川、埼玉、千葉がベスト 3 となっている。

    ベスト 10 エリア(年 5 千人以上流入)では、三大都市を有する愛知・大阪、また地方中核都市を有するエリアからの流入が目立つ。また 1 万人未満 5,000 人以上流入エリアが 6 エリアあり、関東・中部・東北など、飛行機を利用しなくても東京への移動が負担となりにくい、比較的陸路アクセスのよいエリアが目立つ。

     全体の流入傾向としては①距離感にかかわらず地方中核都市のあるエリア②東京に比較的近い陸路アクセス良好なエリアということができるだろう。また流入が起こった前年の 16 年の対エリア人口東京流入数率を見ると、ほぼ対流入総数割合のランキング通りではあるが、山梨だけ 0.6%と東京への流入率が高めであることが指摘できる。山梨も東京に隣接しているため、ベスト 3 関東県に近い流出割合であることが注目される。この傾向は男女別の流入でもほぼ同じである。

    では、なぜこのような条件のエリアから流入が起こるのだろうか。転居に際しての情報収集、距離、環境変化による精神的不安、親戚・友人の居

    図表 1 2017 年年間「東京へ向かう人々」ランキング(男女計)

    順位 エリア東京都への年間流入人口

    流入総数占有率

    対 2016 年エリア人口割合

    8地方区分

    1 神奈川県 81,292 19.4% 0.9% 関東

    1万人以上流入

    東京に近い大都市圏

    2 埼玉県 57,664 13.8% 0.8% 関東3 千葉県 47,298 11.3% 0.8% 関東4 大阪府 23,656 5.6% 0.3% 近畿5 愛知県 17,701 4.2% 0.2% 中部6 北海道 14,317 3.4% 0.3% 北海道7 福岡県 14,066 3.4% 0.3% 九州8 兵庫県 12,430 3.0% 0.2% 近畿9 静岡県 11,820 2.8% 0.3% 中部10 茨城県 11,722 2.8% 0.4% 関東

    20 山梨県 4,691 1.1% 0.6% 中部 3千人以上流入

    44 徳島県 1,200 0.3% 0.2% 四国 2千人未満東京への陸路アクセスは不良

    45 島根県 1,082 0.3% 0.2% 中国

    46 鳥取県 986 0.2% 0.2% 中国

    出所:総務省「平成29年住民基本台帳人口移動報告」より筆者作成

    データで読み解く「東京一極集中」最新動向

  • 経営センサー 2019.1・26262

    住の状況等、住み慣れた環境から可能な限り距離的にも環境的にも激変ではない大都会として東京を選ぶ傾向があるように見える。

    ただし、当データはあくまで東京への流入人口の「直前住居」の流入分析に過ぎず、その人がさらにその前にどこに住んでいたかは不明である。ゆえに、地方における地方中核都市への第一ステップ移動、地方中核都市から東京への第二ステップ移動による二段階一極集中も起っていることは、考えておかねばならないだろう。

    東京へ向かう人々に、男女格差はあるか次に、あまり目にしない人口移動に関する「男

    女格差ランキング」を示してみたい(図表 2)。17 年 1 年間に東京へ向かう男性の数に対して、

    何%の数の女性が同じく東京に向かっているか、という男女差指数(東京への女性流入数/男性流入数)ランキングである。

    この指数が 100 であれば、「男性と同数の女性が、そのエリアから東京へ出て行った」、指数が100 を超える場合は、男性が出て行く以上に女性が出て行った、ということである。

    なぜ男性に対する女性の流入規模を見ているかというと、地方ではいまだに産業ならびに人口誘致政策として「男性の仕事を増やさなくてはなら

    ない」という考え方が見受けられるからである。つまり、地方では「人口流出入をどうしても男性中心ベース」で考えている様子がうかがえる。

    しかし、いくら男性をあるエリアに呼べたとしても、男性以上に女性が都会に出て行ってしまうエリア特性があると、次世代人口維持の最上流となるカップリングが成立しなくなる。そのエリアにおいてカップリングが成立しなければ、子どもが生まれず、子育て支援さえままならない。

    このことに気がつかずに男性誘致型の産業政策を続けても、その世代限りの打ち上げ花火的なエリア人口増加(加えて男性未婚化)となる。

    女性に魅力がないエリアでは生殖可能人口の男性余剰が生じ、次世代が思うように生まれてこない。もちろん、出生数を増やさなくてもエリア外から移民を呼ぶことで人口を維持することは一定程度可能である。しかしこの場合は、そのエリアを「ふるさと」とする人口は減っていくことに対しての覚悟は必要である。

    では対男性・女性流出過剰エリアはどの程度存在するのだろうか。

    17 年において、グロスベースで男性よりも多くの女性が東京へ流入したエリアは秋田、岩手、長野、新潟、山形、の東北エリア 3 県、中部エリア2 県、計 5 県である。いずれも大都市圏ではなく、

    図表 2 2017 年年間「東京へ向かう人々」男女格差ランキング(女性/男性、%)

    順位 都道府県 男性流出 女性流出女性 /男性

    女性高流出傾向度8地方区分

    1 秋田県 1,374 1,592 115.9% 東北男性よりも女性の方が

    多く東京へ流出

    東北エリアが目立つ

    2 岩手県 1,739 1,835 105.5% 東北3 長野県 3,587 3,656 101.9% 中部4 新潟県 3,535 3,590 101.6% 中部5 山形県 1,509 1,517 100.5% 東北6 徳島県 600 600 100.0% 四国

    全国平均 218,753 200,530 91.7%

    41 佐賀県 740 625 84.5% 九州・沖縄女性よりも男性の東京

    流出傾向が強い

    近畿エリアが目立つ

    42 奈良県 1,264 1,052 83.2% 近畿

    43 滋賀県 1,242 1,012 81.5% 近畿

    44 大阪府 13,253 10,403 78.5% 近畿

    45 愛知県 9,939 7,762 78.1% 中部

    46 広島県 3,514 2,742 78.0% 中国

    出所:総務省「平成29年住民基本台帳人口移動報告」より筆者作成

    マネジメント

  • 2019.1・2 経営センサー6363

    新幹線等、東京へのアクセスが陸路で良好なエリアといえる。またいずれも農業主力エリア、と見ることができるだろう。

    ランキング下位からは対女性・男性流出過剰エリアも分かる。指数 85%未満となっているエリアは 6 エリアで、佐賀、奈良、滋賀、大阪、愛知、広島となっている。いずれも西日本エリアで佐賀以外は農業優勢県とはいえないエリアである。

    東京への男性を超える女性の移動発生は「東京に陸路アクセスのよい農業優勢エリアから」女性を超える男性の移動は「農業非優勢東京遠隔エリアから」起こりやすいようである。

    女性流出優勢エリアにおいては、サービス産業の在り方、農業の女性従事の親和性強化を検討する必要性があるように思われる。ランキングを「ふさわしい仕事がないため女性が地元から出て行くのではないか」という視点で見てみることが、地方人口の将来動向を考える上で必要であるだろう。

    デッドエンド化する東京~徳島県の1/10の人口ペースで純増中

    17 年において東京への他のエリアからの流入は41 万 9,000 人、逆に東京から都外に流出した人口は 34 万 4,000 人であり、東京流入人口の 82%し

    か東京から地方流出していない。年間人口純増の規模イメージ的には、わずか 1

    年で、徳島(都道府県人口ランキング 44 位)県民の 10 人に 1 人分、人口が増えたことになる。

    このことからも、東京が全国の移動人口のデッドエンド(行き止まり)化している様相が垣間見えてくる。

    ここで、17 年、男女計で東京からどの道府県へ人々が流出していったのかを今度は見てみたい(図表 3)。上位 7 エリア(神奈川・埼玉・千葉・大阪・愛知・北海道・福岡)が 1 万人以上の男女が東京から流出している先で、いずれも政令指定都市をもつ大都市エリアばかりである。特に神奈川と埼玉は流出人口全体の約 2 割ずつの 6 ~ 7 万人の転居先、東京からのメジャー引越先であった。

    注意したいのは、上位 3 エリアは東京の通勤通学ベッドタウンエリアも含まれており、夜間のみ人口の移動も少なくない。

    東京から 5,000 人以上 1 万人未満流出しているエリアは 6 エリアあり、東京への通勤通学にはやや遠い関東エリア、ならびに陸路アクセスの良好な中部エリアがメインである。いずれにしても、東京に近いことが東京からの転出条件の大きな要素となっているようである。

    図表 3 2017 年年間「東京から流出してゆく人々」ランキング(男女計)順位 エリア 都外流出総数 割合 8地方区分

    1 神奈川県 74,333 21.6% 関東

    1 万人以上

    関東エリア多い三大都市大都市圏

    2 埼玉県 60,466 17.6% 関東3 千葉県 46,307 13.5% 関東4 大阪府 16,029 4.7% 近畿5 愛知県 12,690 3.7% 中部6 北海道 10,239 3.0% 北海道7 福岡県 10,191 3.0% 九州・沖縄8 茨城県 9,796 2.8% 関東

    5千人以上

    東京に近いエリアが多い

    9 静岡県 8,936 2.6% 中部10 兵庫県 7,688 2.2% 近畿11 宮城県 6,228 1.8% 東北12 長野県 5,824 1.7% 中部13 栃木県 5,333 1.6% 関東

    44 島根県 716 0.2% 中国

    2千人未満45 和歌山県 702 0.2% 近畿

    46 鳥取県 633 0.2% 中国出所:総務省「平成29年住民基本台帳人口移動報告」より筆者作成

    データで読み解く「東京一極集中」最新動向

  • 経営センサー 2019.1・26464

    男性のみ、女性のみの東京からの流出を個々に見ると、流入と同じく男女ともベスト 3 はやはり関東(神奈川、埼玉、千葉)であるが、男女の流出規模には相違がある。

    男性では 1 万人未満 5,000 人を超える移動がベスト 3 以下でさらに 6 エリア存在するのに対し、女性では 2 エリアしか存在しない。女性流出先 2つは三大都市圏エリア大阪、愛知である。このことから、男性に比べ女性は、徹底して再度大都市エリアに流出しているようである。女性流出=「大都市間移動」の様相であり、また、女性が 5,000人未満 2,000 人以上流出のエリアからは、男性に比べより東京近距離エリアへの移動が見て取れる。東京から流出する女性は、あまり遠方への転居を選択しないようである。

    東京都は「地方女性デッドエンド化エリア」男性に対して女性がどの程度の割合で東京から

    人口流出しているのか(地方への東京人口誘引度合い)の男女差指標(東京からの年間流出女性数/男性数、以下「女性誘引力」とする)を見てみたい(図表 4)。

    女性誘引力の全国平均を見ると、83.1%である。全国的に見ると地方は東京から女性を呼ぶ誘引力が、男性への誘引力の 8 割程度にとどまっていることになる。つまり、地方エリアは東京の女性に

    対するアピール力が総じて弱い(地方の男性重視誘引特性)。

    女性誘引力が最も少ないグループは 70%を切っている。つまり、男性を 3 人呼び寄せられるのに対して女性は 2 人程度といったイメージである。女性誘引力が 70%未満エリアは少ない順に島根、三重、香川、愛知であり、これら 4 県は全国的に見ると東京から男性を呼ぶ誘引力と女性を呼ぶ誘引力の格差が大きなエリアといえるだろう。

    しかも、女性誘引力が全国平均以下のエリアが圧倒的に多く、計算上平均を引き上げているのは対東京流出入人口規模が大きい関東 3 エリア(神奈川・埼玉・千葉)である。

    残念ながら、東京に対して、女性誘引力が男性誘引力を凌駕する(指標が 100 を超える)エリアは 1 つもない。まさに東京は「全国の女性人口のデッドエンド化」が著しいエリア、地方女性デッドエンド化エリアなのである。

    男性へのアピールの約 9 割に近い女性誘引力をもつエリアは、格差ランキング下位の関東の東京隣接 3 エリア(神奈川・埼玉・千葉)、そして大阪を除く近畿 3 エリア(奈良・京都・兵庫)、そして、長野、徳島の計 8 エリアである。注意すべきは、あくまでもこの指標は東京からの「誘引力の強力さ」大小そのものは示してはいない。全体の誘引力の強度はさておき、誘引力の男女格差だけ見て

    図表 4  2017 年年間「東京から流出してゆく人々」男女差ランキング(格差の大きい順・流出女性/流出男性、%)

    順位 エリア 男性流出 女性流出 女性 /男性女性低帰還度 8地方区分

    1 島根県 433 283 65.4% 中国

    女性流出は男性の 6割台

    2 三重県 1,059 701 66.2% 近畿3 香川県 891 615 69.0% 四国4 愛知県 7,494 5,196 69.3% 中部

    全国 187,715 156,070 83.1%

    39 兵庫県 4,172 3,516 84.3% 近畿

    40 京都府 2,426 2,070 85.3% 近畿

    41 徳島県 418 359 85.9% 四国

    42 千葉県 24,737 21,570 87.2% 関東

    43 長野県 3,106 2,718 87.5% 中部

    44 奈良県 750 667 88.9% 近畿

    45 埼玉県 31,928 28,538 89.4% 関東

    46 神奈川県 38,705 35,628 92.1% 関東

    出所:総務省「平成29年住民基本台帳人口移動報告」より筆者作成

    マネジメント

  • 2019.1・2 経営センサー6565

    いるものである。

    東京都の「人口牧場エリア」はどこか最後に、17 年 1 年間において東京に送り込んだ

    人口をどの程度東京から取り戻しているか(流出/流入、奪還率とする)を見てみたい(図表 5)。取り戻せていないエリアほど、東京に次世代人口を貢ぐ「東京の人口牧場化」しているといってよいだろう。

    17 年年間ベースでは埼玉だけが奪還率が 100%を超える対東京「奪還勝者」となっている。千葉がほぼ 100%に近い奪還率、神奈川、沖縄が 9 割程度の奪還率である。

    全国平均だけ見ると約 8 割、年内に奪還しているように見えるものの、図表 5 から奪還を牽引しているのは関東を主とする特定エリアのみであることが明確となっている。

    一方、東京からの奪還率が 6 割を切るエリアも4 エリア存在する。青森、新潟、岐阜、和歌山で、東京人口デッドエンド化、次世代人口のための人口牧場化にかなり寄与している。東京からの奪還率が 7 割に満たないエリアが実に 27 エリアにものぼることから、いかに東京が全国からの人口の行き止まりとなって一極集中が進んでいるかが示されている。

    女性が嫌うエリアに、出生数の未来なし東京からの人口奪還率を次に男女別に計算して

    みることにする(図表 6)。一目で分かるように、地方エリアは、圧倒的に

    男性を中心に呼び戻している様子がうかがえる。全国平均で見ても奪還率は男性 85.8%、女性

    77.8%であり、8 ポイントの差がある。しかしこれをエリア別に見ると、埼玉こそ男女とも 100%以上の奪還率を見せているが、他のエリアはほぼ男性奪還が優勢となっている。

    8 割以上奪還できているエリアは男性では 11 エリアあるのに対し、女性ではわずか 4 エリアである。一方で 6 割以下の奪還率エリアは、男性は 2エリアにとどまるが、女性にいたっては 17 エリアにのぼっている。

    地方部は統計的には「女性は男性ほどいらない」という政策をとっているかに見える状況である。しかし、繰り返しになるが、

    エリアの子どもの数=「エリアの母親の数」×出生率である。

    地方の政策関係者から「経済政策と、結婚・出産のような社会政策は別ものである」という声を聞くことがある。

    この声は、恐らく「母親候補の県外流出による母数減少」が地域ベースでは出生数に大きな影響をもたらすことへの無理解からくる議論であろう。

    母親候補の女性が仕事や居場所を求めてエリア外へどんどん流出する中で、いくら出生率政策だけ見ていても、エリア下に生まれる子どもたちは減るばかりである。

    データで読み解く「東京一極集中」最新動向

    図表 5 2017 年年間 東京流出/東京流入「東京からの奪還率」ランキング(%)順位 道府県 8地方 東京へ流入 東京から流出 奪還率(流出/流入)

    1 埼玉県 関東 57,664 60,466 104.9%2 千葉県 関東 47,298 46,307 97.9%

    3 神奈川県 関東 81,292 74,333 91.4%

    4 沖縄県 九・沖 4,922 4,298 87.3%

    5 茨城県 関東 11,722 9,796 83.6%

    6 全国 419,283 343,785 82.0%

    44 青森県 東北 4,321 2,576 59.6%

    45 新潟県 中部 7,125 4,230 59.4%

    46 岐阜県 中部 3,094 1,759 56.9%

    47 和歌山県 近畿 1,305 702 53.8%

    出所:総務省「平成29年住民基本台帳人口移動報告」より筆者作成

  • 経営センサー 2019.1・26666

    単年移動だけを見ても、ほとんどのエリアが東京に「母親候補」を流出させ、多くを取り戻せていない。東京が全国最低出生率と多子化の両立している状況を支えているのが地方から流入する母親候補たちであることを示す 1 データである。

    地方がどんなに男性誘致経済政策を進めても、女性はさほど戻ってはこない。「男に仕事を。そうすれば嫁がついてくる」懐かしき時代は、専業主婦理想女性が激減した

    90 年代に終焉した。母親候補女性たちが東京というデッドエンドに流入し続けている原因に地方エリアは早急に気がつかなくてはいけないかもしれない。東京は、国内最高の未婚率・国内最低の出生率という悪条件をかいくぐり、何とか出産にい

    たらねばならない、という大変過酷な世界である。人口問題から考えると、東京 69 自治体の出生率は過密度と負の相関があり、ニッセイ基礎研レポート 2017 年 8 月 14 日号の重回帰分析結果でも、東京の過密化解消は、東京の出生率上昇の重要ファクターであることが示されている。

    つまり東京一極集中は、決して「東京ひとり勝ち」の構図ではないのである。「過疎化する地方と過密化で出生率が下落する東京の人口双方とも沈み」状況を表しているに他ならない。

    東京 VS 地方ではなく双方協調し、将来の目指すべき人口配置を考えることが必要である。

    * 詳しいデータにつきましては、ニッセイ基礎研究所ホームページの下記の記事をご参照ください。 「データで見る『東京一極集中』東京と地方の人口の動きを探る-地方の人口流出は阻止されるのか-」 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=59261?site=nli(上・流入編) https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=59330?site=nli(下・流出編)

    マネジメント

    図表 6 2017 年・年間「東京からの人口奪還率」ランキング(%)順位 道府県 男性流出 男性流入 奪還率 順位 道府県 女性流出 女性流入 奪還率

    1 埼玉県 29,326 31,928 108.9% 1 埼玉県 28,338 28,538 100.7% 9 割以上奪還

    男性5 女性32 千葉県 24,477 24,737 101.1% 2 千葉県 22,821 21,570 94.5%3 神奈川県 42,074 38,705 92.0% 3 神奈川県 39,218 35,628 90.8%

    4 茨城県 6,045 5,490 90.8% 4 沖縄県 2,322 1,951 84.0%

    5 沖縄県 2,600 2,347 90.3% 5 総数 200,530 156,070 77.8%

    6 長野県 3,587 3,106 86.6% 6 茨城県 5,677 4,306 75.8% 9 割未満8割以上奪還

    男性7 女性1

    7 群馬県 3,308 2,859 86.4% 7 長野県 3,656 2,718 74.3%

    8 富山県 1,123 964 85.8% 8 京都府 2,944 2,070 70.3%

    9 全国 218,753 187,715 85.8% 9 栃木県 3,384 2,379 70.3%

    10 栃木県 3,460 2,954 85.4% …

    11 山梨県 2,358 1,936 82.1% 31 徳島県 600 359 59.8% 奪還 6割以下

    男性 2女性17

    12 静岡県 6,134 5,002 81.5% 32 岡山県 1,549 905 58.4%

    … 33 愛媛県 1,184 691 58.4%

    … 34 滋賀県 1,012 574 56.7%

    … 35 長崎県 1,253 707 56.4%

    … 36 鳥取県 470 263 56.0%

    … 37 島根県 506 283 55.9%

    … 38 岩手県 1,835 1,020 55.6%

    … 39 宮崎県 1,248 693 55.5%

    … 40 福島県 2,989 1,656 55.4%

    … 41 三重県 1,274 701 55.0%

    … 42 山形県 1,517 810 53.4%

    … 43 青森県 2,137 1,125 52.6%

    … 44 新潟県 3,590 1,878 52.3%

    … 45 岐阜県 1,471 765 52.0%

    46 奈良県 1,264 750 59.3% 46 和歌山県 609 314 51.6%

    47 和歌山県 696 388 55.7% 47 秋田県 1,592 818 51.4%出所:総務省「平成29年住民基本台帳人口移動報告」より筆者作成