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66 アジア研究 Vol. 53, No. 1, January 2007 本研究はバンコク都における露店商の事例 検証によって、その社会経済状況の解明を通 じて、残余 1) としての消極的規定をされてい た都市インフォーマルセクターurban informal sector2) を再検討し、都市インフォーマルセ クターの存続理由を提示することを課題とし ている 3) 東南アジア主要各都市においては、1980 年代後半からの急速な海外直接投資の影響に よって従来の過剰都市化over-urbanization呼ばれる状況は急速に転換しつつある。しか し、近代工業部門における労働需要は拡大 したにも関わらず、アジア諸都市の労働市場 では依然として零細自営業者等の都市イン フォーマルセクターで就業し続けている。な ぜ人々は都市インフォーマルセクターに留ま り続けるのであろうか。 従来の研究は、都市貧困urban-poor、と りわけスラムの実態調査に比重が置かれてい た。これはアプリオリに都市インフォーマル セクターを都市貧困として位置づけようとす るものであり、都市インフォーマルセクター 自体を対象とするものではなかった。また農 村都市間人口移動rural-urban migrationに研 究が偏り、都市インフォーマルセクターは、 地域格差問題として理解される傾向があっ た。そのため、都市インフォーマルセクター の存続理由は農村という外部要因によって説 明されることが多かった。 本稿での分析は、タイ バンコク都の都市 インフォーマルセクターの一種である露店商 を事例とし 4) 、所得という内部要因および社 会経済的状況に注目することによって、積極 的な就業選択要因を考察する。筆者自身が 行ったバンコク都露店商に関する聞き取り調 査結果から、都市インフォーマルセクターの 存続要因を明らかにする。 タイにおけるインフォーマルセクターに関 する先行調査 研究は国家統計局National Statistical Office, 以下略 NSO、タイ開発調査研 究所Thailand Development Research Institute, 以下 TDRI、および ILO といった組織的研究が 主流である。 NSO1994はタイにおけるインフォーマ ルセクーに関する初の公式報告書であった。 ここでの定義はインフォーマルセクターを 「小規模かつ組織化のレベルが低い経営形態 や、低賃金もしくは不確実な賃金、社会厚生 の不適用などに規定される企業体」 p. 33している。しかしながら実際の計測上の難点 から、従業員数などの指標によってイン フォーマルセクターの線引きが行われるた バンコク都における露店商の 所得に関する事例研究 水上祐二

バンコク都における露店商の 所得に関する事例研究66 アジア研究 Vol. 53, No. 1, January 2007 /ê ¾ ã V P/ì þ ç ú 本研究はバンコク都における露店商の事例

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66 アジア研究 Vol. 53, No. 1, January 2007

本研究はバンコク都における露店商の事例

検証によって、その社会経済状況の解明を通

じて、残余1)としての消極的規定をされてい

た都市インフォーマルセクター(urban informal

sector)2)を再検討し、都市インフォーマルセ

クターの存続理由を提示することを課題とし

ている3)。

東南アジア主要各都市においては、1980

年代後半からの急速な海外直接投資の影響に

よって従来の過剰都市化(over-urbanization)と

呼ばれる状況は急速に転換しつつある。しか

し、近代工業部門における労働需要は拡大

したにも関わらず、アジア諸都市の労働市場

では依然として零細自営業者等の都市イン

フォーマルセクターで就業し続けている。な

ぜ人々は都市インフォーマルセクターに留ま

り続けるのであろうか。

従来の研究は、都市貧困(urban-poor)、と

りわけスラムの実態調査に比重が置かれてい

た。これはアプリオリに都市インフォーマル

セクターを都市貧困として位置づけようとす

るものであり、都市インフォーマルセクター

自体を対象とするものではなかった。また農

村都市間人口移動(rural-urban migration)に研

究が偏り、都市インフォーマルセクターは、

地域格差問題として理解される傾向があっ

た。そのため、都市インフォーマルセクター

の存続理由は農村という外部要因によって説

明されることが多かった。

本稿での分析は、タイ バンコク都の都市

インフォーマルセクターの一種である露店商

を事例とし4)、所得という内部要因および社

会経済的状況に注目することによって、積極

的な就業選択要因を考察する。筆者自身が

行ったバンコク都露店商に関する聞き取り調

査結果から、都市インフォーマルセクターの

存続要因を明らかにする。

タイにおけるインフォーマルセクターに関

する先行調査 研究は国家統計局(National

Statistical Offi ce, 以下略NSO)、タイ開発調査研

究所(Thailand Development Research Institute, 以下

略 TDRI)、および ILOといった組織的研究が

主流である。

NSO(1994)はタイにおけるインフォーマ

ルセクーに関する初の公式報告書であった。

ここでの定義はインフォーマルセクターを

「小規模かつ組織化のレベルが低い経営形態

や、低賃金もしくは不確実な賃金、社会厚生

の不適用などに規定される企業体」(p. 33)と

している。しかしながら実際の計測上の難点

から、従業員数などの指標によってイン

フォーマルセクターの線引きが行われるた

バンコク都における露店商の所得に関する事例研究

水上祐二

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研究ノート/バンコク都における露店商の所得に関する事例研究 67

め、実態を反映させていない。この定義上、

インフォーマルセクターを単なる零細、低賃

金の企業と位置付けてしまっていた 5)。

他方 ILOによる研究の傾向は、インフォー

マルセクターの雇用における重要性を強調

し、その高生産性を重視する立場である。そ

して共通している政策的課題は、インフォー

マルセクターの自助努力を基本としつつ、金

融面、職業訓練といった面での支援策であ

り、インフォーマルセクターが経済成長に

とって効率的であり、非常に高い貢献を期待

することである。ILO-ARTEP(1988)では、

下請け販売等は低所得で雇用を発生させな

い、と厳しい見解を示しながらも、バンコク

都における自営業者を対象とした標本集計か

ら、「若年者及び、転入後間もない者にとっ

ては参入が難しい」、「標本の自営業者の平均

的な稼ぎは、都市における労働者の平均的賃

金よりも遥かに高額だった」、「自営業活動

は、労働者に自営する為の訓練基盤を提供す

る」という積極的な評価をし、「重要な福祉

的機能を与える」としている。インフォーマ

ルセクターを支援する為に、「商業銀行が自

営業への特別信用供与計画の立案のような建

設的役割をすることができ」、「職業訓練がこ

れら(特定の技能を必要とする)企業を促進す

る重要な役割を担う」といった政策提言の

フレームを提供したのであった(pp. 82–86)。

つまり ILOの立場は安価な福祉としてイン

フォーマルセクターを積極的に活用しようと

いうものであったと思われる。しかしこの

ILOの見解はフォーマルセクターに参入する

ことが困難な農村からの低教育水準者を前提

とした次善策として都市インフォーマルセク

ターの雇用と生産における貢献を注目したに

すぎず、90年代以降の急速な地方開発や大

学卒業者数の増加といった労働市場の変化の

下で、なぜインフォーマルセクターに就業す

るのかという点は不明である。

TDRI(1992)はインフォーマルセクターの

役割について分析し、また雇用拡大における

その潜在性について着目している。また、イ

ンフォーマルセクターを自営業、下請業、イ

ンフォーマル労働者の 3つのサブセクターに

分類し、居住地(スラム)をベースにした聞き

取り調査からインフォーマルセクターのニー

ズを探るという立場であった。TDRIによる

研究は、農村都市間労働力移動を想定してお

り、インフォーマルセクターを都市貧困問題

と一体とした視点を有している。Pawadee

(1982)、Igel(1992)、 松 薗(1989)、Somboon

(2001)などの先行研究の視点も共通してい

る。これらの研究の特徴は都市貧困問題解消

の方策としてインフォーマルセクター支援を

重視する点である。これらの研究は労働市場

における都市インフォーマルセクターの実態

を解明するのではなく都市貧困の解明を指向

することを目的としており不十分となって

いる。

その他には、Pattana(1995)、Sirisamband

(1994)、Supaporn(1998)といった女性問題か

らの視点や、Sopa & Nuchonak(2002)による

インフォーマルセクター就業における健康問

題を扱った研究がある。これらの研究も特定

の個別問題に焦点を当てているため、労働市

場における都市インフォーマルセクターとい

う視点に欠けている。

タイにおける都市インフォーマルセクター

の存続要因に関する見解を示した先行研究は

極めて少ない。ここで注目に値するのは、

Nipon(1991)によるバイクタクシーに関する

研究である。ここでは、バイクタクシーが

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68 アジア研究 Vol. 53, No. 1, January 2007

(法的な意味での)フォーマル化する際の費用

について触れ、それをインフォーマルセク

ターに留まる理由として説明している。しか

し、残る問題はなぜ新規に都市インフォーマ

ルセクターに参入するものがいるのか、とい

う点である。

また Pasuk(1993)は、インフォーマルセク

ターの経済成長における有効性を強調しなが

ら、タイにおけるフォーマルセクターの経済

成長率が高いことに注目し、インフォーマル

セクターの将来的縮小傾向を説明していた。

この説に従えば、(バーツ危機はあったものの)

経済成長を続けているバンコクになぜ都市イ

ンフォーマルセクターは存続しているのであ

ろうか。フォーマルセクターの経済成長率が

高いことによって都市インフォーマルセク

ターが縮小していくことの理論的な根拠はな

いように思われる。

本稿の対象とする露店商に関連する研究で

は、糸賀(1993)は、バンコク都における飲

食屋台の聞き取り調査結果から、飲食屋台の

高所得とその要因を考察している。しかし、

これは飲食屋台に限ったもので、しかもその

標本数は極端に少ない。また Sirisamband &

Szanton(1994)がチョンブリ(Chonburi)県で

の飲食屋台の総合的研究を行っている。この

調査結果からは、飲食屋台が供給者 需要者

の双方にとって有益であり、なかでも屋台商

人の高所得が示されている。これら屋台に関

する実態調査では高所得が注目されている。

いくら近代化や工業化が進展しても、仮に都

市インフォーマルセクターの所得が高いので

あれば、これが直接的な都市インフォーマル

セクター存続要因となっている可能性があ

る。そこで次節からは筆者による露店商の聞

き取り調査結果を振り返りながら、露店商の

所得に着目し、都市インフォーマルセクター

の存続要因を探っていく。

2003年 8月 21日から 9月 18日にかけて、

筆者は露店商を対象とした独自の聞き取り

調査を行った6)。調査地は、戦勝記念塔(Vic-

tory Monument)7)、プラトゥーナム(PratuNam)8)、

ウォンウェンヤイ(Wongwiangyai)9)、ホエイ

クワン(Huai Khwan)10)、ラームカムヘーン

(Ramkhamhean)11)の以上 5ヵ所である。

以上の 5箇所を選定した理由は以下の 3点

である。まず第 1に、営業時間によって著し

い所得格差が生じている可能性がある場合、

昼間営業のみの露店商の標本データのみを

もって、客観的な指標とはなりえないからで

ある12)。第2に、バンコク都内における所得

場所代、といった点で著しい格差が存在する

可能性があるため、繁華街、商業地、居住地

域といった各特性によってデータに偏りを生

じさせないためである13)。そして第 3に、各

調査地によって主要に販売される物品の種類

が異なるため、その商品によって生じるデー

タの偏在を防止するためである14)。

聞き取り調査は筆者自身による直接面接方

式を採用した。質問用紙は日本語 タイ語の

両言語で表記したが、筆者自身のインタ

ヴューと回答者の自由回答によって行われ

た。基本的には自由回答、記述式でデータを

収集したが、それを再度熟慮した分類によっ

て再整理した。標本は全部で 115人15)である。

1人当たりの面接に約 15分から 30分費やし

ている。多忙な営業所の場合は全ての質問を

する事が出来なかったため、その場合は筆者

の判断で重要な項目を選択した。調査結果は

未回答を除いているため、合計数が質問項目

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研究ノート/バンコク都における露店商の所得に関する事例研究 69

によって異なっている点は注意されたい。

まず本調査対象露店商の年齢、および男女

比、子供の有無、婚姻状況は以下の(表 1)の

通り構成されている。年齢に関しては 20代

が約 37%,30代が 33%と比較的若い労働者

が多い。出身地については、今回の調査で最

も多かったのは、バンコク都出身者であった。

教育水準と就業理由について、年代別で集

計してみた(図 1)。露店商の教育水準につい

ては、一番多かったのは小学校水準で 34%、

次いで、意外にも高等学校水準が 26%で、

中学校水準 17%、大学卒業 15%、大学在学中

5%であった。小学校水準の露店商就業者の

比率は相変わらず高いものの、高等教育、大

表 1 標本の基本的構成

階級値(歳) 0–14 15–19 20–29 30–39 40–49 50– 計

人数 2 6 42 38 22 5 115比率(%) 1.7% 5.2% 36.5% 33.0% 19.1% 4.3% 100.0%

性別 男性 女性 計

人数 56 59 115比率 49% 51% 100%

子供の有無 あり なし 計

人数 52 62 114比率 46% 54% 100%

婚姻 夫 妻 独身 計

人数 29 31 54 114比率 25.4% 27.2% 47.4% 100.0%

出身地 バンコク 北部 東北部 東部中央部

(バンコクを除く)

南部 計

人数 36 12 30 4 19 14 115比率 31.3% 10.4% 26.1% 3.5% 16.5% 12.2% 100.0%

(出所) 筆者聞き取り調査結果より作成。

図 1 年代別教育水準 就業理由

(注) 図のなかの数字は人数。(出所) 筆者聞き取り調査結果より作成。

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70 アジア研究 Vol. 53, No. 1, January 2007

卒者の比率も高いことが示された16)。注目に

値するのは 20代である。20代の教育水準の

構成比は全体 41人中で、高等学校水準が

36%、大卒で 19%であり、高い教育水準が示

された。

次に職業選択の動機について、回答者の約

46%が「自由だから」と述べている。続いて、

18%が「収入面で良い」であった。「生活苦

職業選択の余地なし」と回答した者はわずか、

13%に過ぎなくなっている。若年層のほうが

消極的な職業選択の理由である「生活苦 選

択の余地なし」の比率は減少しており、それ

と比例して「自由だから」、「収入面で良い」

の比率が上昇している。この傾向は、先の年

齢階層別教育水準比率とも対応している。

続いて露店商の開業年数は年齢構成が 20

代、30代が多かったことに起因すると思わ

れるが、やや短期の者が多いといえる。開業

年数 1–4年が 40%、続いて 5–9年という中期

が約 20%に上った(表 2)。

1週間の労働日は約 6–7日という結果で

あった(表 3)。露店商の営業時間については、

平均で 11.5時間、最頻値でも 11時間であっ

た。営業時間には、朝方と夜型がある。

一見同じように公有地の露店商に見えるの

だが、営業場所は、私有地と回答したものが、

37%。公有地と回答したものが、63%であっ

た(表 4)。公有地という回答の多くは歩道で

あり、その他とは陸橋、バンコク都が用意し

た公設市場等 17)である。ここで、注目に値

するのは、露店商は私有地と回答していなが

ら、実際は歩道、公有地にまたがっているよ

うなケースである。本来、歩道を占有するも

のは、誰もがテサキットに登録 清掃料金の

支払いという義務が生じる。しかしながら、

私有地の軒先を借りる場合は、多少歩道には

み出していた場合も目こぼしされる場合が多

いようである。

次に、露店商の経営状況をみてみよう(表

5)。まず 1日当たりの投資額については、平

均で 1080B、最頻値でも 1000Bであり高額で

あった。

売上に関する質問は、「幅があり過ぎる」

と答えたものが多かったため、「売上が良い

とき、悪い時という」形式の質問にしてある。

ここで注意して欲しいのは、露店商はある程

度、投資、売上、利益といったことを混同し

ている点である。それは、帳簿をつけていな

い為である。また、ある者は計算を 1ヶ月単

表 2 勤続年数

勤続(開業)年数 人 比率

1年未満 10 10.30%1–4年 39 40.20%5–9年 19 19.60%10–19年 13 13.40%20年以上 16 16.50%計 97 100.00%

(出所) 筆者聞き取り調査結果より作成。

表 3 営業日数と営業時間

営業時間(h)

週当たりの労働日(日)

平均 11.5 6.6中央値 11 7最頻値 11 7最小 4 3最大 19 7標本数 111 112

(出所) 筆者聞き取り調査結果より作成。

表 4 営業場所

私有地公 有 地

計(歩道)(その他)

人 43 72 58 14 115比率 37.4% 62.6% (50.4%)(12.2%) 100.0%

(出所) 筆者聞き取り調査結果より作成。

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研究ノート/バンコク都における露店商の所得に関する事例研究 71

位で計算し、或る者は 1日単位であり、1週

間である場合もある。その為、ここでの投資、

売上、所得というのは完全に正確なものでは

ないかもしれない。

1日当たり平均売上額の平均を計測してみ

ると 1734B、最頻値で 1000Bという結果で

あった。次に、最大売上で平均を計ってみる。

すると、平均で 1907B、最頻値で 1000Bで

あった。最小売り上の平均値で 1534Bであ

り、最頻値は同じく 1000Bとなった。

そして、露店商の月収(利益)に関しては、

平均で 14950B、最頻値で 10000Bという結果

になった。この場合も同様に「一定ではない」

と回答したものが多く、その場合も考慮し、

「収入が良い時」と、「収入が悪いとき」とい

う場合でも回答を求めた。ここで、注目に値

するのは、最小で月 600Bという貧困者がい

る一方で、最大では 60000Bという富裕な者

が存在している多様性である。

「収入が良い時」における露店商の平均

月収は平均で約 16000Bであり、最頻値は

10000Bであった。「収入が悪い時」における

露店商の平均月収は約 14000Bであり、最頻

値では変わらず 10000Bという結果になった。

場所代と税金の支払いについては表 6にま

とめてある。場所代を「支払っている」と回

答したものは、69%であり、「支払っていな

い」と回答したものは、31%であった。高い

割合で場所代を支払っていないことがわかる。

場所代の月額は平均で 4110B、最頻値で

1000Bであった。私有地、軒先を借用してい

るものの方が、支払額が多いという傾向があ

る。私有地の場合の平均値で、月額約 5300B

で、バンコク都に支払っている場合は、約

2000Bであった。バンコク都の「清掃サービ

ス料金」を支払っている場合は、バンコク都

の規定により占有面積に応じての支払額が決

定されている18)。

税金の納付については、「している」47%、

表 5 営業状況

1日あたり投資額(バーツ)

1日当たりの売上額(バーツ) 月収(バーツ)

平均売上 最大売上 最小売上 平均月収 最高月収 最小月収

平均 1080.5 平均 1734.8 1907.4 1534.0 平均 14952.8 16150.7 14050.7中央値 475 中央値 1000 1000 1000 中央値 10000 10000 10000最頻値 1000 最頻値 1000 1000 1000 最頻値 10000 10000 10000最小 20 最小 80 80 80 最小 600 700 300最大 10000 最大 8500 10000 7000 最大 60000 60000 60000標本数 62 標本数 62 62 62 標本数 71 71 71

(出所) 筆者聞き取り調査結果より作成。

表 6 場所代と税金の支払い状況

場所代支払い 支払う 支払ってない 計

人数 77 35 112比率 68.8% 31.3% 100%

場所代月額(バーツ) 全体 所有者

地権者 バンコク都

平均額 4116.2 5366.7 2023.1人数 68 36 26

税金の納付 している してない 計

人数 49 56 105比率 46.7% 53.3% 100%

(注) 場所代の支払いに関して、所有者とバンコク都双方に支払っている場合は全体の支払額の平均を算出する際には含めているが、その支払いの内訳が不明なため、支払い相手別の平均支払額には算入していない。

(出所) 筆者聞き取り調査結果より作成。

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72 アジア研究 Vol. 53, No. 1, January 2007

「してない」53%という結果になった。ただ、

ここも少々複雑な事情がある。続いて、税金

の種類は、「清掃税」、「営業税」、「規律税」、

「場所代」といった回答がほとんどであった。

これは、露店商が税金と認識しているにも関

わらず、実際は「バンコク都清掃サービス料

金」であり、税金ではない。実際に、「法人

税」、「個人所得税」19)を支払っているのは稀

であった。

1. 露店商の所得の位置づけ

本節では露店商の所得に着目して分析を進

めていく。まず露店商の所得水準がバンコク

都においてどのように位置づけられるのか把

握しよう。ここではあえて議論を単純化し、

バンコク都の平均賃金水準と比較してみる20)。

Labor Force Surveyの 2002年第 4四半期版か

らバンコク都産業別平均賃金を概観しよう

(表 7)。この統計では従業員規模による平均

賃金区分が不明なためタイ政府定義による

フォーマルセクター、インフォーマルセク

ターの判断は難しい。規模別賃金については

現在、公式統計は発表されていない。

バンコク都における平均賃金は 10725バー

ツである。政府被用者平均で 16217バーツ、

民間被用者平均で 9502バーツであった。最

も被用者数が多い製造業で 8191バーツ、政

府系製造業でも 14818バーツであった。民間

の金融で 22271バーツ、商業 車両修理等で

10797バーツであり、政府系公務 防衛 社

会保障関係で 15110バーツ、教育で 17611

バーツである。

上記のバンコク都における平均賃金と比較

すると、露店商の所得水準が比較的高いこと

がわかる。表 5で示したように、調査結果で

の露店商の平均所得は、バンコク都平均賃

金、および民間平均賃金を超えている。ここ

では一時点における所得の比較を示している

に過ぎず、生涯所得や付加給付、雇用の安定

性といった長期的視点から露店商がどのよ

うに位置づけられるかを示しているわけでは

ない。

図 2では、露店商の所得を階層別に分類し

てみた。すると、8千バーツ未満、1万 5千

バーツ未満、および 3万バーツ以上の度数が

高かった。3万バーツ以上という水準は注目

に値する。表 7でのフォーマルセクターと思

われる民間 金融や政府系被用者のほとんど

よりも高い水準となっている。他方で 8千

バーツ未満はバンコク都の平均賃金を下回っ

ている。このように高所得 低所得が混在し

ている点から露店商の所得における偏差は高

いことが窺える。

2. 露店商の所得決定要因

露店商の所得偏差が高いとして、それはど

のような要因によって決定しているのであろ

うか。月収と関係すると思われる幾つかの項

目で散布図を作成した(図 3)21)。

まず開業年数と平均所得の相関関係を調べ

てみた。もしある場所での固定客等が露店商

の所得と相関関係があるのであれば、露店の

開業年数と平均所得で正の相関関係を示すは

ずである。また、露店商の売れ筋等の営業情

報、露店営業という特殊な熟練が重要であっ

ても、開業年数と所得は正の相関関係を示す

はずである。散布図をみるとバラツキが多

い。相関係数を計算すると、−0.01142であり

有意ではない。同様に年齢と平均所得につい

ても−0.0677であり相関は認められなかった。

年齢や営業年数といった経験値が所得水準に

影響があるわけではなかった。次に営業(労

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研究ノート/バンコク都における露店商の所得に関する事例研究 73

働)時間と平均月収の相関分析を行った。こ

の散布図を注目しても分かるように、これら

両者には相関関係が無く分散するという傾向

であった。この両者の相関係数は −0.2032で

あり有意ではなかった。平均月収と投資額の

相関に着目した場合も法則無く分散するとい

う傾向が示された。この両者の相関係数は

0.22537であり有意ではなかった。労働時間

や投資額といった営業上の違いが所得水準に

影響を与えているわけではない。

図 4において所得と教育水準の関係に注目

した。平均値では、「小学校以下」9202B、「中

学校卒」16020B、「高等学校卒」16500B、「大

卒」で 20595Bという結果であった。標本数

図 2 露店商の所得分布

(出所) 筆者聞き取り調査結果より作成。

表 7 バンコク都の平均賃金

2002年第 4期産業全体 政府 民間

被用者計(単位 1000人)

平均賃金(バーツ)

被用者計(単位 1000人)

平均賃金(バーツ)

被用者計(単位 1000人)

平均賃金(バーツ)

計 2,905.7 10,725.4 411.2 16,217.0 2,494.5 9,502.9農林業 13.5 52,989.0 0.7 15,000.0 12.8 4,384.6水産業 2.3 5,196.1 – – 2.3 5,000.0鉱業 1.1 45,017.9 – – 1.1 10,494.1製造業 960.1 8,628.8 6.6 14,818.6 953.5 8,191.7電気 ガス 水道 11.9 28,016.5 11.9 29,725.4 – –建設 167.5 10,456.1 4.4 17,177.6 163.1 8,970.0商業 車両修理等 499.1 10,456.4 1.2 13,916.4 497.9 10,797.2ホテル 飲食業 182.9 7,376.2 – – 182.9 7,004.5運輸、倉庫、通信 182.7 15,744.5 54.6 18,789.5 128.1 12,232.2金融 107.4 20,709.0 13.8 20,498.3 93.6 22,271.2不動産 180.9 10,516.9 7.8 16,277.9 173.0 10,638.7公務、防衛、社会保障 180.0 15,687.3 179.3 15,110.9 0.7 13,000.0

教育 129.7 13,336.7 80.4 17,611.2 49.3 11,778.5保険 社会福祉 69.2 13,866.6 33.3 11,148.1 35.9 12,169.5その他 地域的、社会的、個人的なサービス

88.7 8,334.6 16.0 7,657.9 72.7 8,190.7

使用人 124.4 4,640.7 – – 124.4 4,286.9国際組織 機関 0.7 25,949.6 0.7 80,000.0 – –不明 3.7 10,374.7 0.4 10,000.0 3.3 14,614.0

(出所) Labor Force Survey 2002年第 4四半期版より作成。

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74 アジア研究 Vol. 53, No. 1, January 2007

が少ないとはいえ、教育水準と所得に明確な

正の相関が現れている。なぜ、所得と教育水

準の相関が生じるのだろうか。推測的な議論

となるが、次のことを付言しておく。露店商

は営業活動に或る程度の能力を有することが

重要となる。例えば仕入れ品の質を判断し、

値段、量の計算といった思考能力である。ま

た販売には顧客との値段交渉も重要であり、

顧客の購買意欲を刺激するように商品説明を

しなくてはならない。販売時に顧客を満足さ

せる能力が固定客を増やすことにも関わる。

こういった露店営業上の能力は単に営業年数

を積み重ねた経験ではなく学校教育によって

開化していた可能性があると考えられる。

図 3 月収と営業に関する散布図

(出所) 筆者聞き取り調査結果より作成。

図 4 教育水準別平均月収

(注) 短大 師範学校卒は大卒に算入した。(出所) 筆者聞き取り調査結果より作成。

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研究ノート/バンコク都における露店商の所得に関する事例研究 75

最後に露店商における独占と競争を検討し

ておこう。露店商の営業には一般的に競争は

存在する。なぜなら数メートルも離れない場

所において、無数の露店が同様の商品が販売

しているからである。露店商同士の競争だけ

でなく、小規模商店、コンビニエンス スト

アやスーパーマーケットなど大手流通チェー

ン店においても同様の商品が販売されている

場合が多い。そのため独占ないし寡占による

利益を享受することは難しい。そもそも、多

くの露店において定価は存在せず、顧客との

1対 1の値段交渉によって販売価格は決定す

る22)。条件が折り合わなければ顧客はすぐに

他の露店に逃げていってしまう。この点では

露店商は競争的といえる。

しかし販売地に関して部分的に独占に近い

状況は存在すると考えられる。露店商営業は

占有する販売地の条件によって有利 不利が

生じる。販売地はより人目につき、面積が大

きい方が集客に有利である。また公有地か私

有地かによって場所代の支払額が異なり所得

に影響を与える。許可される公有地には限度

があるため、全ての露店商がバンコク都に登

録し、安価な場所を確保できるわけではな

い。この場所の確保に際して古参の露店商が

縄張りを形成しているかどうかはデータ制約

上窺い知ることは出来ない。建前上は公有地

の使用許可は行政上の判断に委ねられている

し、公有地 私有地も双方にも有利 不利な

販売地は存在する。縄張りの存在とその所得

への影響を論じることは本稿では差し控え

たい。

本稿で得られた結論は以下の 2点である。

第 1に、露店商の平均所得水準は相対的に高

い点である。筆者による調査から得られた露

店商の平均所得水準 1万 4千バーツは、Labor

Force Surveyにおけるバンコク都の平均賃金

である 1万バーツより高かった。付加給付や

雇用の継続性、生涯所得といった長期的な観

点からは留保が必要であるが、露店商の所得

面は、ある程度高い水準にあることが分かっ

た。露店商の事例のみによってタイの都市イ

ンフォーマルセクター全体を論じることは飛

躍があるが、相対的に高い賃金を獲得可能な

ことが都市インフォーマルセクターを存続さ

せている一要因であると推察される。

第 2に、露店商の所得の偏差が高い点であ

る。3万バーツを超える高所得と、8千バー

ツ未満の低所得者が混在している。その所得

格差決定要因は「開業年数」、「年齢」、「労働

時間」、「投資額」ではなく、教育水準であっ

た。学校教育によって培われた能力が所得へ

の影響力を持っていたと考えられる。教育に

よって培われた能力を発揮して、最大限の所

得を得ることが可能であることが 20代、30

代の高学歴者が露店商に参入する要因といえ

る。タイにおいて教育水準は年々上昇し、大

卒者数も増加しているが、その高学歴化する

労働力がフォーマルセクターで就業するとは

限らない。学歴に応じた高所得を獲得できる

のであれば露店商も就業先として有力な選択

肢となり得るからである。

若干推測的な議論であるが付言しておく。

バンコク都における露店商の事例から発見さ

れた事実は「逆転した労働市場」の可能性を

示唆している。都市インフォーマルセクター

の中でも、露店商などのいくつか職業は、

フォーマルセクターに就業するための待機の

場でも残差でもなく、むしろフォーマルセク

ターより高所得で望ましい就業先である。バ

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76 アジア研究 Vol. 53, No. 1, January 2007

ンコク都における露店商の属性はそれを裏付

ける。出身地は北部や東北部ではなくバンコ

ク都が最も多い。教育水準は高卒以上が半数

を占め、とりわけ 20代では高卒以上が大半

である。バンコクにおける露店商は従来の都

市インフォーマルセクターから変容しつつあ

ることを示している。

(注)1) Harris & Todaro(1970)、ILO(1972)、Sethuraman(1976)等の代表的研究では近代工業部門に就業できない流入者の生存の場として解釈していた。2) 本稿では都市インフォーマルセクターと仮称する。都市インフォーマルセクターの概念、定義はそれ自体が議論の対象であり、この用語の使用には一定の留保が必要である。この定義をめぐる論争は鳥居 積田(1981)が詳しい。本稿においてはこの定義を巡る議論に深入りすることは避けたい。ひとまず本稿では都市インフォーマルセクターを主に都市における零細的な自営業者と定義する。従来は社会保障や労働法の不適応、登録の有無、市場の性質、労働者の属性といった条件によってフォーマル インフォーマルの線引きが行なわれてきた。労働者にとっての線引きは、都市のフォーマルな近代部門で継続的雇用によって賃金を獲得している者と、それ以外の全ての都市雑業層に分類される。従来は都市雑業層として分類されてきた、零細企業 中小企業での不安定な雇用は、部分的に存続していくものの、途上国における社会保障制度の拡張や労働法の徹底などによってその労働上の問題は縮小していくと考えられる。しかし法人形態をとらない零細自営業者 及び家族労働者にとっては収入の不安定性や長時間労働等の労働問題は継続していくからである。3) 本稿は 2004年度アジア政経学会全国大会での発表をまとめたものである。本論文における質問表調査結果の詳細は、横浜国立大学国際社会科学研究科修士論文(水上、2004)を参照。4) 研究対象の選択に関しては幾つかの理由がある。まず、バンコクは東南アジアにおける典型的な首座都市(primate city)と見なされており、過剰都市化の文脈でインフォーマルセクターに関する研究蓄積がある。今回聞き取り調査対象を露店商にした理由は、self-employedの状態が多く、経済学理論が想定したインフォーマルセクターの実像に近いと思われるからである。なお本稿における「露店商」は「屋台」と判断がつかないケースも多い。5) それでも、従業員数 10人未満という指標は一定の合理性を有していた。それはタイにおいては、従業員 10人未満の民間事業所は社会保障法の適用外となっていたからである。しかし現在では社会保障法の改正によって被用者社会保障制度は従業員数 1

名でも強制加入方式に変更になった。6) なお 2003年時点でのバンコク都テサキットの内部資料によると、バンコク都に登録されている露店商の数は 2万 6千人である。ただし、テサキット内部の者に質問すると実際には公共の場所で営業を行なっている違法な露店商を含めた場合、集計の 3倍程度になるのではないかとの回答であった。なぜなら移動式販売等の営業形態である場合には登録が難しいという実態がある。このように露店商の母数の特定には曖昧さが付きまとうため、本稿における調査も統計的な精度を欠いてしまう問題がある。7) 戦勝記念塔周辺は、戦勝記念塔を中心としたロータリーであり、バンコク都のバス交通の中心地である。この周辺は、BTS高架を不法占拠しながら販売をする者が多い。しばしば、このBTS歩道では、テサキット(バンコク都行政執行官)が頻繁に違法販売者を取り締まっている。この地域の営業時間は一般的に午前 7時から午後 8時となっている。8) プラトゥーナムは古くからの衣類問屋街の商業地域であり、プラトゥーナム交差点の北側の歩道、バイヨークスカイホテル、インドラリージェントホテル周辺を中心に小規模衣類問屋が軒並ぶ。ここでの発見は一見公共の歩道 道路に見える場所が実際は,私道であった点である。この地域の営業時間は午前 8時から午後 8時である。9) ウォンウェンヤイ地区は、タークシン将軍の銅像を中心にした大ロータリーがあり、このロータリーに沿いながら多様な露店商が営業している。ここはバンコク都でも下町という雰囲気である。この地域の営業時間は、午前 9時から午後 8時といった日中営業を行う者と、午前 2時から正午までの早朝営業を行う者がいる。

10) ホエイクワン地域は、ディンデン交差点の北東に位置し、公団ホエイクワン団地とホエイクワン市場を中心にして露店商が多数存在する。ホエイクワン団地まで続く夜間市場は午前 5時くらいまで営業しており多くの買い物客で賑わっている。

11) ラームカムヘーン地域はラームカムヘーン公開大学を中心にデパート、小規模雑貨、衣料品店舗などが軒を連ねる。この地域は学生居住者が多く存在する。この地域の営業時間は午前 10時から午後 10時が一般的である。

12) これら調査地で夜間営業が主体なのは、ホエイクワン地区だけである。聞き取り調査は、ホエイクワン地区では、深夜から早朝にかけて行い、その他は早朝から夕方にかけて行っている。

13) 戦勝記念塔及び、プラトゥーナーム地区はバンコク都の商業地域に位置する。ウォンウェンヤイ、ラームカムヘーン、ホエイクワンは居住地と呼べるだろう。結果的には、戦勝記念塔で、平均月収約 1万 2千、ラームカムヘーンで約 2万、ウォンウェンヤイで約 1万 2千、プラトゥーナームで約 1万 3千、ホエイクワンで約 2万であった。

14) 戦勝記念塔で対象露店商が販売していた商品を列挙すると、フルーツ、サンダル、衣類、スナック、

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研究ノート/バンコク都における露店商の所得に関する事例研究 77

傘、靴、玉子、土産、子供用電動玩具、地図、飲料、携帯電話装飾品、生地であった。ラームカムヘーン地区での商品はフルーツ、衣類、食事、ポスター、電話製品、スナック、靴、時計、サンダルであった。ウォンウェンヤイでは、野菜、豚肉、フルーツ、寝具、仏教用品、干物、鮮魚、錠前、時計、衣類、飲料、ビデオテープ、眼鏡、靴、ベルトであった。プラトゥーナームでは、ビニール袋、フルーツ、飲料、鞄、靴、衣類、財布、スナック、ベルト、土産であった。ホエイクワンは、惣菜、料理、スナック、衣類、電話製品、携帯電話装飾品、VCD、DVD、眼鏡、時計、財布、香水であった。

15) その地域の内訳は、戦勝記念塔 22人、ラームカムヘーン22人、ウォンウェンヤイ22人、プラトゥーナム 25人、ホウィクワン 22人である。正確なバンコク都の露店数が把握できれば、当該調査における信頼度も確認できるのであるが、違法な屋台及び、民間地を借りている屋台を合計した数は不明である。そのため母数が特定できない。

16) この結果は一見、ラームカムヘン大学の影響を受けるラームカムヘン地区を対象としているからに思えるが、実際に大卒者が多かった場所は戦勝記念塔及びホエイクワンであった。

17) 公設市場といっても多くは公道 歩道と区別がつかない。だが、公設市場の場合は、地面に黄色い線や数字が書いてあることが多い。

18) これは「屋台等の清掃サービス料金の徴収に関する規則」による。そこでの規定は、「面積 1平方メートル以内で 1ヶ月 150B」「一平方メートルを超える場合は 0.5平方メートルあたり 75Bの加算」とある。また、無許可営業による罰金をテサキットに支払っている場合は、最大の課徴金の 10分の 1を徴収するのが慣例になっていて、それが約 300Bということになるらしい。

19) 現行の個人所得税制度では、原則として、年額10万B未満の純所得で 5%、10万B以上 50万B未満の純所得で 10%という規定になっている。しかしながら、徴税制度の未整備によって、10万B未満の場合は徴税されないのが実態となっている。

20) 現在のところ、タイのフォーマルセクターの一般的定義である従業員数 10人以下という雇用規模は統計上の記載がないために、バンコク都の平均賃金を指標とせざるを得なかった。当然、この統計には本稿で意味しているインフォーマルセクターに相当する被用者が含まれているため重複している可能性は否定できない。

21) 本稿で取上げた幾つかの項目以外にも「活動地域への居住年数」や「職住地距離」等様々な要因によって影響を受けている可能性もあるが、データ制約上断念せざるを得なかった。

22) 衣服や電化製品といった商品については交渉制が主流であるが、飲料やフルーツなどは定価販売を行なっている。普段は定価販売を行なっている場合でも購入数量や固定客といった条件によって値引き交渉は行なわれる。

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