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41 明治大学政治経済学部教授 はじめに IS と「対テロ戦争」 (1)IS の誕生と米国の「対テロ戦争」 (2)AQ IS の共通点と違い 「新しい戦争」とジハード主義領域国家 (1)ジハード主義領域国家 (2)新しい戦争とグローバル化 反システム運動としての IS (1)IS と他のジハード主義領域国家の違い (2)反システム運動としての性格 IS の脅威と新しい地域協力 (1)上海協力機構 (2)ロシアのシリア介入 (3)IS の脅威と日本 文献リスト はじめに 本稿では、いわゆる「イスラム国(IS)」の脅威の本質と、それによって生じている国際 政治の枠組みの変化、および、それが日本へ与える影響について検討する。 IS と「対テロ戦争」 I S IS は、シリアとイラクの国内で1年以上にわたって 600 万人が暮らす広大な地域を実 効支配している。IS は従来の「テロ組織」とは質的に異なる存在である。 IS の源流はアルカイーダ(AQ)と通称されるグループであるが、彼らは 1980 年代の 半ばに少数のアラブ・ジハード主義者が開始した運動から生まれた。パレスチナ出身のア ブドゥッラー・アッザームが、パキスタンのペシャワールに赴き、ソ連のアフガニスタン 侵攻への抵抗運動を支援するための組織を設立したアッザームの教え子であったオサ

イスラム過激派のネットワークと現行世界秩序の変化...43 - 『国際武器移転史』第1号(2016年1月) 「イスラム過激派のネットワークと現行世界秩序の変化」(佐原徹哉)

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イスラム過激派のネットワークと現行世界秩序の変化

佐原 徹哉

明治大学政治経済学部教授

1 はじめに

2 IS と「対テロ戦争」

(1)IS の誕生と米国の「対テロ戦争」

(2)AQ と IS の共通点と違い

3 「新しい戦争」とジハード主義領域国家

(1)ジハード主義領域国家

(2)新しい戦争とグローバル化

4 反システム運動としての IS

(1)IS と他のジハード主義領域国家の違い

(2)反システム運動としての性格

5 IS の脅威と新しい地域協力

(1)上海協力機構

(2)ロシアのシリア介入

(3)IS の脅威と日本

文献リスト

1 はじめに

本稿では、いわゆる「イスラム国(IS)」の脅威の本質と、それによって生じている国際

政治の枠組みの変化、および、それが日本へ与える影響について検討する。

2 IS と「対テロ戦争」

(1)IS の誕生と米国の「対テロ戦争」

IS は、シリアとイラクの国内で1年以上にわたって 600 万人が暮らす広大な地域を実

効支配している。IS は従来の「テロ組織」とは質的に異なる存在である。

IS の源流はアルカイーダ(AQ)と通称されるグループであるが、彼らは 1980 年代の

半ばに少数のアラブ・ジハード主義者が開始した運動から生まれた。パレスチナ出身のア

ブドゥッラー・アッザームが、パキスタンのペシャワールに赴き、ソ連のアフガニスタン

侵攻への抵抗運動を支援するための組織を設立した。アッザームの教え子であったオサ

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『国際武器移転史』第 1号(2016 年1月)

マ・ビンラーデンがこの運動に合流し

て、資金を提供し、アラブ諸国からの

義勇兵の募集と訓練のための施設が建

設された。その際、CIA が資金援助を

行い、パキスタンの諜報機関である統

合情報局が軍事面での支援を行ったこ

とも知られている。つまり、AQ の誕

生には元来米国が関わっていた。

アフガン戦争終結後、ビンラーデン・グループは用済みとなり、一時は消滅寸前となっ

たが、1992 年にボスニア内戦が始まると、再び米国との結びつきが生まれた。米国はボ

スニア内戦でムスリム人政府側を支援するため、ビンラーデンのネットワークを利用し、

「アフガン・アラブ」を義勇兵として送り込み、ムスリム人政府への武器密輸を行わせた

からだ。これによって欧州に足場をえた AQ は、国際的なジハード主義者の運動の中核へ

と変貌した。1995 年にボスニア内戦が終わると、AQ はチェチェン紛争やコソボ紛争に

も関与し、旧ソ連と東ヨーロッパに支部を広げながら拡大していった。

2001 年の 9.11 事件後、米国は AQ と決定的な対立関係に入り、「対テロ戦争」を開始

した。だが、皮肉なことに、米国が AQ の脅威を誇張して宣伝した結果、実体以上に肥大

化したイメージが世界各地のジハード主義者を吸い寄せることになり、AQ の勢力は拡大

した。そして、この流れの中で IS が生まれることになる。

IS の源流は、ヨルダン出身のアブー・ムサアブ・アル・ザルカヴィーがシリア北部に

作った「タワヒード(一神教)とジハード団」という組織であり、当初はごく少数のジハ

ード主義者が参加したに過ぎない。だが、2003 年に米国のイラク侵略が始まると、ザル

カヴィー・グループはイラク北部のスンナ派地域に勢力を拡大し、2004 年には AQ の正

式なフランチャイズとなった。そして、2006 年以降は AQ と袂を分かって最初は「ムジ

ャヒディン評議会」「イラクのイスラム

国」、次いで「イラクとレバントのイス

ラム国」、そして昨年の6月以降は「イ

スラム国」と名前を変えていった。名

称変更の度に組織の実態は少しずつ変

わったが、とりわけ重要なのが、2014

年の変化であり、地理的限定を示す形

容詞を取り外して「イスラム国」を名

アルカイーダ(AQ)の変遷

時期 組織実態 主な拠点

1984-1989 CIA の支援の下、アラブ諸国からアフガンに

義勇兵を送り込む団体 アフガン・パキスタン

1989-1992 湾岸戦争を機に、ビンラーデン・グループは反

米化、組織は縮小 スーダン

1992-1995 CIA と協力してボスニア内戦で義勇兵の派遣、

武器密輸を担当 ボスニア

1996-2001 CIA と協力してコソボ解放軍への武器密輸、

チェチェン紛争への義勇兵の派遣 ボスニア、コソボ、チェチェ

2001-2011 アフガン紛争後、ビンラーデン・グループは各

地のジハーディスト集団をフランチャイズ化

し、反欧米闘争を指導 アフガン、パキスタン、イエ

メン、イラク、アルジェリア、

ソマリア、ナイジェリア 2011-2014 ビンラーデン死後、ザワーヒリーの指導下で活

動を継続。 2014- IS の登場により、影響力が低下

IS の変遷

時期 名称 組織実態

1999-2004 タワヒードとジハード団 Jama’at al-Tawhid wa al-Jihad

ヨルダン人ザルカウィーが結成。アフガン内

戦に参加後、2003 年、イラク北部に拠点を移

し、テロ活動を開始。

2004-2006 イラクのアルカイーダ al-Qaeda in Iraq

テロ活動が行き詰まり、AQ 参加に加わる。

これ以後、外国人戦闘員の参加が増えるが組

織は小規模なままであった。

2006 ムジャヒディン評議会 Majlis al-Shura al-Mujahedeen

アルカイーダと袂を分かち、独自路線を開

始。

2006-2013 イラクのイスラム国 Islamic State of Iraq (ISI)

アブ・ウマル・バクダディを首長とする国家

樹立を宣言したが、支配地域はイラク北部の

一部に限定

2013-2014 イラクとレパントのイスラム国

Islamic State of Iraq and al-Sham (ISIS)

シリア内戦で支部のヌスラ戦線が拡大した

ため、これを合併。シリア東部とイラク西部

に一定の領域支配を確立。

2014- イスラム国 Islamic State イラク第二の都市モースルを制圧後、アブ・

バクル・バグダーディがカリフ就任を宣言

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『国際武器移転史』第 1号(2016 年1月) 「イスラム過激派のネットワークと現行世界秩序の変化」(佐原徹哉)

乗ることで、イラクやシリアといった地域に限定されない、世界中のムスリムを治める「カ

リフ」の国家という体裁をとることになった。

このように見ると、AQ-IS の拡大の節目節目で米国が重要な役割を演じてきたことが分

かる。AQ の誕生と飛躍の影には、米国による支援があったし、フランチャイズ組織の拡

大と成長には米国の「対テロ戦争」が関与していた。とりわけイラク侵略とシリア内戦は

IS の成長の決定的な転機であり、二つの戦争がなければ、IS がここまで拡大することな

かっただろう。このことは、米国主導の「対テロ戦争」の手法では IS を根絶することは

勿論、その勢力拡大を防ぐこともできないことを意味している。

(2)AQ と IS の共通点と相違点

AQ と IS は思想的にも組織的にも類似した存在であるが、両者の間には幾つかの重要

な差異がある。最も大きな差異は、AQ がジハード主義者のネットワークであるのに対し

て、IS は領域国家としての実体を持っていることである。そのため IS は資金面でも武力

の面でも AQ を遥かにしのぐ強大な存在となっている。

イデオロギー的に見ると、AQ と IS は共に「サラーフィ主義」と呼ばれる極端なイス

ラムの解釈を継承しているが、IS の場合は「タクフィール主義」と呼ばれる、より厳格

かつ暴力的な教義に傾斜している。「サラーフィ主義」とは、預言者ムハンマドとその直

接の後継者たち(いわゆる「正統カリフ時代」)に行われていた神の教え(イスラム)が

正しい信仰であり、これが時代を経るにつれて形骸化したので本来の姿に戻さねばならな

いという思想である。そのため、サラーフィ主義者たちは既存のイスラムの様々な形態か

ら決別し、暴力に訴えてでも「正しい信仰」を取り戻すことが必要だと考えている。こう

した思想の原型は既に 13 世紀には現れていたが、イスラム・コミュニティの主流になる

ことはなかった。18 世紀にアラビア半島中部に興ったワッハーブ運動は「サラーフィ主

義」の一種であり、その思想は現在のサウジ・アラビアに継承されているが、ワッハーブ

運動と現代の AQ-IS の潮流に直接の関係はない。AQ-IS の潮流は、「サラーフィ主義」に

加えて、正しい信仰の実現のための戦い(ジハード)がムスリム(イスラム教徒)の義務

だとする思想が重要な役割を演じており、この思想は 1960−70 年代にエジプトやシリア

のムスリム同胞団の急進派から生まれたものである。とはいえ、サウジ・アラビアが冷戦

後に旧ソ連・東欧での「イスラム復興」に資金援助をする過程で、サラーフィ・ジハード

主義の普及に手を貸したことも事実である。いずれにせよ,サラーフィ・ジハード主義は

伝統的イスラムとは無縁の存在であり、彼らをイスラムの一部と見なすことに筆者は懐疑

的である。

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『国際武器移転史』第 1号(2016 年1月)

サラーフィ・ジハード主義とタクフィール主義も同一ではない。タクフィール主義とは、

サラーフィ主義の厳密な解釈に従わない人々はカーフィル(不信仰者)であり、処刑され

ねばならないとの考えである。それ故、タクフィール主義者は、ムスリムでありながら「正

しい信仰」を行わない(と彼が考える人々)を攻撃する。その対象は、シーア派は勿論、

スンナ派の世俗主義者やスーフィズム(イスラム神秘主義)も含まれる。AQ と IS の間

の決定的な違いの一つがこれであり、AQ はサラーフィ・ジハード主義に留まる一方,IS

はタクフィール主義を全面に押し出している。その結果、両者の戦術も異なってくる。

AQ がムスリムの団結と自覚を促すために、イスラム地域を侵略するキリスト教徒やユダ

ヤ教徒との戦いを重視するのに対して、IS はむしろムスリムを主たる標的としている。

言い換えれば、AQ のテロは主に西側キリスト教諸国(「遠くの敵」)であるのにたいして、

ISは中東のムスリム、とりわけ、自己の支配地域に暮らすスンナ派ムスリム(「近くの敵」)

を抑圧している。

AQ と IS のもう一つの違いは、「イスラム国家」建設の方法論を巡るものである。サラ

ーフィ主義者は「正しい信仰」の確立にはカリフに導かれたムスリム・コミュニティー(ウ

ンマ)の復興が必要だと考えているが、AQ はその前提として、ウンマの覚醒が優先され,

その素地の上にカリフの登場が起こると考えている。つまり、AQ は、カリフは必要だが

時期尚早だと考えているといえる。一方の IS は、まずカリフ国家を樹立し、それをウン

マに拡大する戦略を提唱しており、この考えに従って、メソポタミアに誕生した領域国家

を海外に広げようとしている。つまり、IS は AQ が漠然とした将来の理想と考えていた

「カリフ国家」を現実のものとして実現した(と考えている)といえる。このことが、IS

が AQ を凌ぐ数多の支持者を惹き付ける理由である。

こうした思想的・戦略的な差異は、両者の戦術にも現れている。AQ は、主として、少

数の戦闘員による破壊活動、つまり、テロ戦術を採用しているが、IS はテロだけでなく、

軍隊による大規模な軍事作戦も展開している。その結果、IS は強固な領域国家の樹立に

成功したのである。

3 「新しい戦争」とジハード主義領域国家

(1)ジハード主義領域国家

サラーフィ・ジハード主義者が領域国家を樹立したのは IS が初めてではない。ジハー

ド主義者が領域国家を建設する動きは、1980 年代末にまで遡ることができる。次頁の表

は 2014 年までのジハード主義者による領域国家樹立の動きを纏めたものである。この表

を見ると、これまで 18 件の試みが記録され、時代を追うごとにジハード主義者たちの勢

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『国際武器移転史』第 1号(2016 年1月) 「イスラム過激派のネットワークと現行世界秩序の変化」(佐原徹哉)

力が拡大し、一定の成功を収める

傾向を見ることができる。とりわ

け 2011 年のいわゆる「アラブの

春」以降、ジハード主義領域国家

の建設が加速化している。2011 年

以前の 30 年間で 11 例であったも

のが、2011 年以降の4年間で既に

7つの試みが報告されている。

ジハード主義領域国家の殆どは、

ごく限定的な地域を支配したに過

ぎず、その統治も短命に終わっている。2011 年以前の成功例といえるのは、アフガニス

タンのタリバンとソマリアのアル・シャバブだけであり、何れも長期間の安定支配には失

敗し、その支配領域もアフガニスタンやソマリアという国民国家の一部にしか及ばなかっ

た。だが、2011 年以降は、IS やボコ・ハラムのように複数の国家に跨がる領域支配を実

現する例も見られるようになった。

(2)新しい戦争とグローバル化

ジハード主義領域国家の出現の背景を理解するには、比較紛争学が警告する「新しい戦

争」について目を向ける必要がある。第二次世界大戦後、従来型の国家間戦争は激減し、

代わって非国家主体が関与する紛争が増加してきた。とりわけ、冷戦後になると、国家間

戦争はほぼ姿を消し、紛争の殆どが政府と反政府勢力の間で行われる内戦となり、さらに

は、政府が関与しない非国家主体同士の紛争が益々増加するようになっている。紛争は、

正規軍を中心とした組織された軍隊によって、一定のルール(国際法等)に従って行われ

る武力行使から、非国家主体同士による無秩序な「私戦」に変わりつつある。こうした「新

しい戦争」は、軽火器主体の低強度紛争であり、地理的にも限定され、戦闘員の死者数は

相対的に少ないが、その反面、発生の頻度は高くなり、長期化する傾向があり、本来は保

護されるべき非戦闘員(民間人)の犠牲者が増加している。

「新しい戦争」が増加した原因として指摘されているのが、国民国家の二重の摩耗であ

る。1980 年代以降のいわゆる「グローバル化」により、国民国家が果たしてきた役割が

衰退し、その結果、統治が機能不全を起こす現象が世界中で見られるようになった。その

極端な例が、いわゆる「破綻国家」であるが、「破綻国家」状態に至らずとも、世界中の

あらゆる国家が多かれ少なかれ同質の問題に直面している。まず、国家は、統治のメカニ

ジハーディスト国家 Jihadist Proto-States 名称 地域 期間 領域支配 民政機構 外国人兵士

× クナル首長国 アフガニスタン、クナル州 1989-91 限定的 未確認 なし

× インババ・イスラム共和国 エジプト、カイロ近郊インババ地区 1989-1992 限定的 存在 なし

× 武装イスラム集団 アルジェリアの一部 1993-1995 限定的 存在 少数

○ タリバン アフガニスタン 1994- 存在 存在 多数

× アンサール・アル・イスラム イラク北部のホワラム地区 2001- 限定的 存在 少数

△ イラクのイスラム国 イラクのスンニー派地区の一部 2004-2008 一時的 存在 多数

× パキスタン・タリバン運動 パキスタンの一部 2006- 一時的 不在 多数

○ アル・シャバブ ソマリア南部・中央部 2009- 存在 存在 多数

× カフカース首長国 コーカサス北部の一部 2007- 一時的 存在 少数

× ファタハ・イスラム レバノンの一部 2007 限定的 不明 少数

× アラーの戦士団 ガザ地区の一部 2009- 一時的 不在 未確認

× アラビア半島のアルカイーダ イエメン南部 2011-2012 存在 存在 少数

× イスラム・マグリブ諸国のアルカイーダ マリ北部 2012-2013 存在 存在 少数

△ ヌスラ戦線 シリアの一部 2012 – 存在 存在 多数

○ イラクとレパントのイスラム国 シリアとイラクの一部 2013 – 存在 存在 非常に多数

△ イスラム国リビア州 リビアの一部 2014 – 存在 存在 相当数

× イスラム国シナイ半島州 エジプト、シナイ半島の一部 2011 – 不在 不明 少数

○ ボコ・ハラム ナイジェリア北部 2014 – 存在 存在 相当数

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『国際武器移転史』第 1号(2016 年1月)

ズムの国際化、あるいは「グローバル・スタンダード」の強要によって、独自の政策をと

り得る余地が狭まっている。「人権」や「民主主義」の規範が上から強要されることで、

統治と法の支配が揺らぐという逆説的な現象が起こってきている。さらに、「ワシントン・

コンセンサス」に代表される国際金融資本による国内市場の門戸開放圧力により、脱工業

化や窮乏化も進んでいる。従来の「国民経済」は風化し、生産と消費の分離が甚だしくな

り、緊縮財政により公的セフティネットも機能しなくなっている。「自由」の名の下で進

められる規制緩和により資本の利潤追求への歯止めが効かなくなる反面、労働運動や働く

者の権利は「抵抗勢力」として弾圧・縮小され、窮乏化と「格差社会」つまり階級分化が

進行している。

こうした傾向は世界全体で見られ、富の大部分が「1%」に独占され,「99%」が貧

困に喘ぐ状況は、「途上国」だけでなく「先進国」でも共通して観察されている。「グロー

バル化」の恩恵は多国籍企業の管理職のように多文化・多言語を体現し、国民国家の枠を

超えてビジネスを展開する人々に独占され,国家の枠内に留まる旧エリートは没落し、労

働者階級一般に搾取が強化されている。こうした変化により、従来普遍的と思われてきた

「民主主義」や「人権」といった価値観への信頼は薄れ、民族や宗教といった特殊な価値

観に多くの人々が惹き付けられるようになっている。

国家の統治力が低下した結果、組織犯罪が横行し、国境が形骸化することで国際犯罪が

蔓延している。こうして、武装勢力が領域支配を行う素地が生まれるのだ。

4 反システム運動としての IS

(1)IS と他のジハード主義領域国家の違い

「新しい戦争」では、非国家主体が紛争の主役となるが、彼らが戦争を継続するには一

定の領域支配が必要である。領域支配を行うことで、住民の財産(現金・不動産・動産等)

および身体(人身売買・難民ビジネス、兵士としての徴用等)、地下資源などのアセット

の長期的な接収・強奪が可能となり、密輸等を通じた外部アセットとの関係も維持できる。

だが、こうした恐怖支配を長期的に維持するには、一定の正当性も必要である。そのため

民族や宗教といった非条理な価値観が使われるが、サラーフィ・ジハード主義はそうした

価値観の一つである。

IS は、ジハード主義領域国家の一つだが、従来のものとは大きく異なる特徴を持つ。

それは、中央集権的国家機構を備えていること、「国家」を名乗りつつも「国境」を認め

ない超域性を持つこと、および、外部アセットの活用の巧みさである。

IS は、「カリフ・イブラヒム」を名乗るアブ・バクル・アル・バグダーディーとそれを

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『国際武器移転史』第 1号(2016 年1月) 「イスラム過激派のネットワークと現行世界秩序の変化」(佐原徹哉)

補佐する「シューラ」という合議体の下に、省庁に当たる

複数の「ディワーン」を置いている。これらが中央政府の

役割を果たし、その下で支配地域が幾つかの州に分けられ、

それぞれが中央から任命されたワーリー(総督)によって

統治されている。こうした集権的なシステムは、従来のジ

ハード主義領域国家の殆どが実現できなかったメカニズ

ムである。

もう1つの特徴である超域性は、次のようなメカニズムで動いている。IS は 2014 年6

月に「カリフ制国家」を宣言した後、シリアやイラクの外側にも「カリフ」の支配地域を

広げようとし始めた。その方法は、征服によって領土を拡大するのではなく、他の地方に

「カリフ」の権威を及ぼすことでその地域を「カリフ国」の一部に取り込むことである。

その結果、シリアやイラクの枠組みを越えた非常に広い範囲に IS の海外属州ができつつ

ある。

IS の海外属州は、現在、11 を数えるが、その成立過程には2つのパターンが見られる。

多くは AQ のフランチャイズ組織が IS に衣替えしたもので、テロリスト・ネットワーク

の延長に過ぎないが、西アフリカのように比較的強力な領域支配を実現している例もある。

西アフリカにはボコ・ハラムとして知られるジハード主義者の集合体が力をもっていたが、

その一部が IS に忠誠を誓い、IS の「西アフリカ州」を名乗っている。もう一つは、リビ

アのように、IS の帰還兵が組織を樹立する例である。リビアは、カッザーフィー政権の

もとでイスラム主義者が徹底的に弾圧されていたが、政権崩壊後の混乱状況の中でシリア

からの帰還兵が実効支配地域をつくり、海外属州を宣言した。同じことはイエメンなどで

も見られる。IS が各地のジハード主義者運動の間で権威を高めていくと、益々多くの属

州が誕生するであろう。属州の拡大がグローバルな秩序を動揺させ、それを利用して IS

の属州が更に増えるという可能性は否定できない。

言い換えれば、IS の拡大はシリアとイラクに築いた拠点を中心に征服地を広げるだけ

でなく、遠く離れた場所のジハード主義者の運動を結びつけることでも進行している。今

の所、「カリフ・イブラヒム」の権威はサラーフィ・ジハード主義者の一部にしか浸透し

ていないが、その権威が一般に浸透するようなことになれば、アフリカから極東にいたる

広大な地域が「カリフ国」の支配下に入る可能性も否定できない。IS の脅威の本質はこ

の点にあるといえる。

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『国際武器移転史』第 1号(2016 年1月)

(2)反システム運動としての性格

IS が保有する外部アセットの象徴は、外国人傭兵である。IS には百以上の国々から戦

闘員が参加しており、その中にはヨーロッパ、北米、オセアニアのようなキリスト教地域

も含まれている。そうした人々のネットワークが IS の戦闘力を支えるとともに、帰還兵

が本国でプロパガンダ活動をすることで更に外部アセットが増加するというメカニズム

も知られている。外国人傭兵のネットワークは武器の密輸やシンパの寄付といった形でも

IS を支えている。

IS に参加する外国人戦闘員の経歴は多種多様であり、彼らが IS に共鳴する原因を特定

することは難しい。だが、IS の発するメッセージには近代(モダニティ)そのものの否

定、あるいは反帝国主義、反資本主義とも読み取れる内容が含まれている。バグダーディ

ーが「カリフ」就任時に行った演説の中にも、「文明、平和、共存、自由、民主主義、世

俗主義」は「偽りのスローガン」であるという表現が見られる。悪名高い古代遺物の破壊

も、普遍的な価値観との決別というメッセージとして読み取ることが可能である。こうし

たメッセージは、グローバル化のそれとは好対照をなしており、グローバル化の犠牲とな

っている人々を惹き付ける可能性は否定できない。

5 IS の脅威と新しい地域協力

(1)上海協力機構

IS の拡大がこのまま続いてゆくならば、世界各地でサラーフィ・ジハード主義者の脅

威が増大するであろう。しかし、米国が主導する「有志連合」は IS との戦いで成果を上

げることができずにいる。そのため IS の脅威に晒される国々では、米国を頼らない独自

の試みが始まっている。2015 年5月には、アラブ連盟のもとアラブ行動軍をつくる構想

が発表されたし、同時期に、北アフリカの難民問題を憂慮する南欧の諸国の突き上げによ

って、EU の枠内に行動軍を結成する計画も発表された。これらは何れも実現にはいたっ

ていないが、従来とは異なる国際政治の枠組みが、IS の登場に刺激されて進みつつある

兆候と見ることができる。

こうしたテロに対する地域協力の中で一番成功しているのが上海協力機構であろう。上

海協力機構は、ソ連崩壊後に独立した中央アジアの国々の安全保障、とりわけ、サラーフ

ィ・ジハード主義の脅威との戦いを目的に結成されたものである。中央アジアの国々は、

アフガニスタンやパキスタンなどのジハード主義者の温床に隣接しており、90年代には

深刻な脅威に晒されていた。独立直後の中央アジア諸国は、国境管理や統治システムが脆

弱であるだけでなく、国民の多数がムスリムで経済的にも急激に窮乏化していた。これら

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『国際武器移転史』第 1号(2016 年1月) 「イスラム過激派のネットワークと現行世界秩序の変化」(佐原徹哉)

はジハード主義者の浸透にとって理想的な環境でもあり,彼らが領域支配に成功する危険

性も高かった。ロシアと中国は、これらの国々が破綻国家化するのを恐れ,「テロリスト」

と戦うための枠組みとして「上海ファイブ」を結成し、それにウズベキスタンが加わって

上海協力機構が成立した。

上海協力機構の初期の活動は、地域反テロ機構(RATS)の結成とそれを通じた治安情

報の共有が主であり,このメカニズムがジハード主義のテロの脅威を押え込むことに成功

したことが参加国の信頼醸成に寄与し,組織の役割が拡大することになった。上海協力機

構には、2016 年からインドとパキスタンが正式加盟すると見られており,ユーラシア大

陸の大部分を網羅した地域機構へと変貌しようとしている。上海協力機構の例は、テロと

の戦いが国際政治の枠組を変えた事例であり、今後、IS の脅威が拡大してゆけば、類似

の地域機構が結成される可能性は否定できない。

(2)ロシアのシリア介入

上海協力機構での積極的な役割に見られるように、ロシアの「イスラム・テロ」に対す

る恐怖心は欧米とは比較にならないほどに大きい。ロシアにはムスリム多数派地域が複数

存在しており、多くの「イスラム・テロリスト組織」が活動している。IS がロシア国内

で属州を樹立すれば、連邦の解体に繋がりかねない。

ロシアのシリア介入はこうした文脈で理解すべきである。メドヴェージェフ首相が「国

内でテロリストと戦うより外で戦ったほうが合理的である」と発言しているように,シリ

ア介入は国内のテロ対策の延長として位置づけられている。

ロシアの介入は、一方的な空爆に終始している米国とは対照的に、十分な準備とホスト

国との連携の下で開始された。ロシアは軍事活動を始める前に、イランとイラクとシリア

の諜報機関との連携を提案し、バグダードに対テロの情報交換メカニズムを設置した。さ

らに、地上戦ではイランが主導するシーア派国際義勇軍がシリア軍を支え、ロシアは空爆

に徹するという役割分担もはっきりしている。シリアのアサド政権とは一枚岩とは言えな

いクルド人との連携も確保しており、政治的な解決のフレームワークも出来上がっている。

このまま順調に行けば、ロシア主導でシリア和平が実現するであろう。

(3)IS の脅威と日本

こうした中東での動きは日本の将来とも無縁ではない。上海協力機構の成功により,中

露枢軸が確立しつつあり、ユーラシア経済統合も進展している。この動きに乗り遅れれば,

日本は「アジアの孤児」になってゆくだろう。

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『国際武器移転史』第 1号(2016 年1月)

安保法制の議論の中で明らかとなったように、日米同盟は、アメリカのグローバル戦略

の中で中国とロシアを抑えるために、韓国、オーストラリア、フィリピンといった米国の

軍事同盟を横につなげる要に位置づけられている。しかし、韓国やオーストラリアは、こ

うした米国の思惑を熟知した上で、中国とも良好な関係を維持し、バランスをとろうとし

ている。米国はそれ故に日本に頼らざるを得ないのだが、日本の支配層は、それを日本の

地位の向上だと誤解しているようだ。米国の日本重視は、米国のリーダーシップの低下の

結果であり、日本の将来にとってはマイナスとなるだろう。仮に、米国が中国との妥協路

線に転換した場合、日本は単独で中国と対決することにもなりかねない。

他方、米国の「対テロ戦争」がこのまま続く場合も、日本が抱えるリスクは拡大する。

安保法制が想定するように、日本軍が米軍と一緒に軍事活動をすることになれば、日本兵

が「後方支援」を担当することになるだろう。だが、「対テロ戦争」で最も危険なのは後

背地域をパトロールする「後方支援」である。アフガン戦争で NATO 加盟国の兵士の多

くが「後方支援」活動中に戦死している。IS の脅威が拡大し、米国の「対テロ戦争」が

それに伴って強化されることになれば、世界各地で日本兵が殺されることが日常化するか

もしれない。あるいは、「対テロ戦争」参加の報復として、日本国内で大規模なテロ事件

が起こるかもしれない。

いずれにせよ,IS の脅威の拡大は、日本を巡る国際関係を変化させ,日本の戦争コス

トを飛躍的に増大させることになるだろう。

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History of Global Arms Transfer, 2016 No.1 History of Global Arms Transfer, 2016 No.1

Global Jihadi Network and Its Impact on the Changing World Order

Sahara, Tetsuya Professor, Lit.D, Faculty of Political Science and Economics, Meiji University

Since its inauguration of self-claimed “Caliphate,” “Islamic State (IS)” has been posing

growing threats to the global security and existing world order. By scrutinizing its ideological propensity, statecraft and expansion strategy, while putting emphasis on the comparison with its Jihadi forerunner Al-Qaeda, this article highlights the core of IS threats as its possibility of expanding offshore “provinces.”

Since the end of the 1980s, jihadi proto-states are proliferating over the poverty ridden anarchic Muslim regions in the North Africa, Middle East and Central Asia. Albeit short-lived, some of them succeeded in establishing more or less systemized Sharia rule over a certain amount of territories. Compared with those antecedents, IS shows by far formidable resilience with centralized and somewhat stable administrative mechanisms and rich and constant flow of external resources in the form of foreign mercenaries, smuggled arms and ammunition and affluent donations. By combining its internal and external assets, IS now strives to accomplish its eternal objective, i.e. unification of Muslim umma under the resurrected caliphate.

As the US led coalition has hitherto shown no impressive record in fighting against IS, the threat of jihadi takeover of additional swathe of land is strongly felt among the countries with sizable Muslim population. This led them to consider ad-hoc joint measures to combat against jihadists and several yet abortive plans of new regional cooperation have surfaced. In this regard, the conspicuous records of Shanghai Cooperation Organization merit attention. Starting from moderate attempts of security information exchange, SCO has grown into a political-economic regional structure that can rival the EU or NATO. IS and its possible extension into the other Muslim regions may precipitate the similar organizations as SCO and give birth to a new multipolar global system. The negative side effects of the consequence loom large in the future of Japan. As Tokyo has casted die for unconditional support of the US global strategy, its future lies in a narrow pass that leads either to the total isolation among its neighbors or ever lasting attrition dictated by Washington in the name of the “war against terror.”