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ひずみ打消し,制動アンプの3連動式 逆立ち方式単段MOS-FET アンプの製作(3) 藤井秀夫 1.残された課題とその解決 -入出力間の浮遊結合 による撹乱 筋唄_(な動作原理で),単純(な部品 と配線で),簡単(に作れる)を旨とす る逆立ち方式単段MOS-FETパワ ー・アンプですが,連動アンプの追加 と手壇しを繰返すうちに,作業机には ヒート・シンクが入り乱れ配線が錯 そうして来ました.単段増幅と連動橋 正という2つのテーマの集戒のつもり で,えいやと完成へと持ってゆくはず のところが,またもや試行錯誤を繰返 す実験製作になってしまいました.そ して課題はまだ残されています. それでも楽音糊を受け持つ本体の 主アンプはもとどおり,たった2デバ イスだけの簡素で素朴な姿を保ってい ます,信号の経路に錯そうはみじんも ありません.連動するひずみ打消しア ンプも制動アンプも,それぞれを見れ ば求められることに素直に応える理 にかなって滴楚な内容と形のものです (そう信じます). 出発点の楽天と明快を保ちながら, 現われた課題を解決して音出しへと至 る作業を緻ナるとしましょう. さて前号までで,出力が並列は連結 される連動アンプでは,パワー・デバ イスの入出力闘帰還容量C,Sが目的の 補正動作を乱すことがわかりました. 出力点輔が一一他人の出力と自分の 出力が重なって一一大きく振れている ので楽雷増幅をはなう通常の主アン プより,回路図に現われない入出力間 の秘かな語合にはずっと神経質になら ないといけないわけです. ひずみ打消しアンプにとっては,C,S のいたずらは,ひずみ相殺という当の 役割を直接に乱す原因になります. 制動アンプでは,ダンピング・ファ クタの連続可変を目論んだ時点でG が問題になります.音量不変のまま0. F.の自在な増減を意図すると,制動ア ンプに入力ボリューム.ないしアッテ ネ一夕が必要になるのですが,この値 にいちじるしい制限が加わってしまい ます. (l)C。Sによる入出力闘結合の軽減 手法 増幅デバイスの入出力闘帰還容量 は,単純な増幅回路はとってもミラー 効果によって高周波の減衰を引起すの で,3極真空管の発明直後からすでに 問題視されていました 第1図に描くとおり,増幅デバイス には空間に存在する物体である限り避 けられない電極間静電容量力付常して います.ここには高周波電流が流れて 前段の出力逝抗に電固守下を引起すの で,入力信号電圧elを減衰させる要因 になるわけです.ところ枇対ア「ス 静電容量Clにはe~の電圧が加わるだ けなのに,帰還蓉豊Gの両端には出力 電圧もが加重され,この反転増幅器の ゲインをAとすると,(1+A)e~の電 圧が加わってしまいます.したがって C,を流れる亀流もClの(1+A)倍に なって,Aが大きければそれだけ大き く高周波入力を減衰させてしまうわけ です. この重大な躍動こ対して種々な対策 が考案されました.ここは列記してみ ましょう. 入力包極と出力電極との間にシ ールドを設ける 真空管のコントロール・グリッドと プレートとの間にシールド1・グリッド を設け,これに電子加速用の固定した ,。/冨 l Ci亥、 e=-AeI く第1図〉電園田容量によるミラー効果 138 -2000年1月号より∴ ラジオ技術

アンプの製作(3) - TOK212)reprin… · 役割を直接に乱す原因になります. 制動アンプでは,ダンピング・ファ ... をバイパスしてみました電流負帰還

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Page 1: アンプの製作(3) - TOK212)reprin… · 役割を直接に乱す原因になります. 制動アンプでは,ダンピング・ファ ... をバイパスしてみました電流負帰還

ひずみ打消し,制動アンプの3連動式

逆立ち方式単段MOS-FETアンプの製作(3)

藤井秀夫

1.残された課題とその解決

-入出力間の浮遊結合

による撹乱

筋唄_(な動作原理で),単純(な部品

と配線で),簡単(に作れる)を旨とす

る逆立ち方式単段MOS-FETパワ

ー・アンプですが,連動アンプの追加

と手壇しを繰返すうちに,作業机には

ヒート・シンクが入り乱れ配線が錯

そうして来ました.単段増幅と連動橋

正という2つのテーマの集戒のつもり

で,えいやと完成へと持ってゆくはず

のところが,またもや試行錯誤を繰返

す実験製作になってしまいました.そ

して課題はまだ残されています.

それでも楽音糊を受け持つ本体の

主アンプはもとどおり,たった2デバ

イスだけの簡素で素朴な姿を保ってい

ます,信号の経路に錯そうはみじんも

ありません.連動するひずみ打消しア

ンプも制動アンプも,それぞれを見れ

ば求められることに素直に応える理

にかなって滴楚な内容と形のものです

(そう信じます).

出発点の楽天と明快を保ちながら,

現われた課題を解決して音出しへと至

る作業を緻ナるとしましょう.

さて前号までで,出力が並列は連結

される連動アンプでは,パワー・デバ

イスの入出力闘帰還容量C,Sが目的の

補正動作を乱すことがわかりました.

出力点輔が一一他人の出力と自分の

出力が重なって一一大きく振れている

ので楽雷増幅をはなう通常の主アン

プより,回路図に現われない入出力間

の秘かな語合にはずっと神経質になら

ないといけないわけです.

ひずみ打消しアンプにとっては,C,S

のいたずらは,ひずみ相殺という当の

役割を直接に乱す原因になります.

制動アンプでは,ダンピング・ファ

クタの連続可変を目論んだ時点でG

が問題になります.音量不変のまま0.

F.の自在な増減を意図すると,制動ア

ンプに入力ボリューム.ないしアッテ

ネ一夕が必要になるのですが,この値

にいちじるしい制限が加わってしまい

ます.

(l)C。Sによる入出力闘結合の軽減

手法

増幅デバイスの入出力闘帰還容量

は,単純な増幅回路はとってもミラー

効果によって高周波の減衰を引起すの

で,3極真空管の発明直後からすでに

問題視されていました

第1図に描くとおり,増幅デバイス

には空間に存在する物体である限り避

けられない電極間静電容量力付常して

います.ここには高周波電流が流れて

前段の出力逝抗に電固守下を引起すの

で,入力信号電圧elを減衰させる要因

になるわけです.ところ枇対ア「ス静電容量Clにはe~の電圧が加わるだ

けなのに,帰還蓉豊Gの両端には出力

電圧もが加重され,この反転増幅器の

ゲインをAとすると,(1+A)e~の電

圧が加わってしまいます.したがって

C,を流れる亀流もClの(1+A)倍に

なって,Aが大きければそれだけ大き

く高周波入力を減衰させてしまうわけ

です.

この重大な躍動こ対して種々な対策

が考案されました.ここは列記してみ

ましょう.

● 入力包極と出力電極との間にシ

ールドを設ける

真空管のコントロール・グリッドと

プレートとの間にシールド1・グリッド

を設け,これに電子加速用の固定した

,。 /冨

l、   Ci亥、

e=-AeI

く第1図〉電園田容量によるミラー効果

138       -2000年1月号より∴      ラジオ技術

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      ます.

)     そこで2 段目のソース2SKsQA(e印

原因をコンプリメンクリ・ペアが大幅

に狂っえいでひずみが多過ぎるせいと

艮晒しましたが,あれから回路をあれ

これいじくり.いろいろ知って,今と

なっては事は定かではありません.

たまたま手元にあった2SK310/

Jl17のペアは,どうやらデータ・ブッ

クに見出せる唯一ひずみ打消しアンプ

に適うパワーMOSLFETのようで

す.連動アンプに楠通した3カ月後の

技量をもって,いま一一度この石で連動

ひずみ打消しを試みようと思います.

なお,いっそう好都合ことに,ふた

たび大阪日本橋のオーディオ用半導体

の店へ足を運んでみると,それほど多

くないパワーMOS-FETペアの在

庫の一画を占めていました広く使わ

れている品種のようなので,読者の迫

製作も容易“鵡“.

(2〉 帰還容量の小さいパワーFET

をいっそう低インピーダンスで駆動

3作目のひずみ打消しアンプも増幅

回路の基職を変えず,定数の変更

140

2SA500

だけで最適状態へ括って行きます.回

路図を第4回に掲げます.増腰部の低

インピーダンス送りが求められている

都合から,実は増幅部1段目.2段目の

J-FETを高増幅度のものに変えて,

増幅部だけに局部NFBを掛ける方

策も頭に浮かんだのですがやはりや

めておきました今は素材重視を貫き

ます.

パワー段を新しい(古い)石へ交換

して,まず思案すべきは無信号直流電

流IDOの値です.2SK310/Jl17で最

初に失敗したのはImをしぼり過ぎた

せいかも知れないの“亀0.1A流しま

した.主アンプのIm0.3Aほ対して

1/3の水準です.バイアス電圧供給部

の抵抗値を変更して,ゲート電圧を4

Vまで上げます.

2SK310/J117の交換コングクタ

ンスは0.7Sです.前号の2SK2467

〝440の4Sより小さいので,増幅郡

の利得を上げる必要があります.単純

に利得を稼ぐなら2段目のドレイン

抵抗を増す榊ナで事足りますが,送り

アンプの回路

てしまえば

i張消しになり

抵抗1.5kQ

をバイパスしてみました電流負帰還

が除かれ,小さなドレイン抵抗で商利

得が稼げるはずです.2段目の増幅度

が変勤しやすくなるでしょうが,もの

は試しです.やってみると増幅度の不

安定が目に見えて増す風はなく,VR。

400nで最適利得が得られました.前

号に比べて半減です.寄生発振院止抵

抗の1600(330f)2本並列)勧口味し

ても,60%弱への減少です.

C,。の方は,NチャネルPチャネル

の計290pFから28pFへと1/10に

減っていますから,インピーダンス減

少と合わせれば出力点らの入力ゲー

トへの撹乱作用は1/20に抑えられた

計算になります.

(2)ひずみ打消し効果

6550A-6GW8の連動真空管アン

プ以来幾度も独立管によるひずみ打

消しを試みて来ました.

電気的特性の向上がオーディオ・ア

ンプの音質向上に直話するものでない

ことを踏まえつつも,目前の自作の一

一それもまったくの無帰還の-アン

ラ ジオ技術

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2s K 246 7            (              _+3W

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輯 1。, RD6.22

[㊥ 劉 00  “_鮒

VJ\く第8図〉舘勘アンプの回路図

上部FETのゲートにはバイアス用

ツェナ一・ダイオードの6Vを1段の

ノイズ・フィルタを介して与えます.

これでソース電圧,すなわち下部

FETのドレイン電圧も約4Vになり

ます.IDOO.3Aとすれば下の2SK

2467/J440の無信号ドレイン損失は

1.2Wとわずかです.上部FETの大

きな放熱板に並べて取りつけて熱結合

するより,小さな放熱器を背負あせて

独立させる方が好ましいかも知れませ

ん.

カスコード電力増幅器設計の安めと

目される下部デバイスのドレイン電圧

が そばにあったツェナ一・ダイオー

ドでたまたま決まった休の4Vで果

してよいものか,これは次は点検しま

す.

(2)カスコード・アンプ単独の出力特

制動アンプに要求している最大電力

は,今のところ主アンプと同一規険の

約30Wです.8裏目こ30Wを供給す

るドレイン交流出力電流は2Aです

から,半波ピークは2.8Aで,Im0.3

Aを加算すると上下の石に流れる最

大ピーク電流は3.lAの計算です(ダ

ンピングファクタ2までの補正なら,負

荷の1/4への低下までこのピーク電流

で役目を果せます).これだけの電流を

4Vという低いドレイン電圧の下で供

SEP 2014

給する能力が2SK2467/J440にあ

るかどうかが気掛かりなところです.

他方では電源電圧を4V削られた上

部のSK1530/J201が最大出力電力

を大きく減らしはしないか心配です.

いずれの心記も,実際に動かしてみ

れば諒かめられます.制動アンプを単

独で動作させてみましょう.

K2467/J440の宙流入力特性は

K1530/J201と大差ないので,改造後

恐れずに屯源を入れ,バイアス調整し

ます.安定度の大幅な向上を期待しま

したが,やはり電源投入後10分ほど

はImが約20%じわじわ増大します.

その後の安定度は前作よりよさそうで

す.安定を待って正弦信号を入力して

みます.この折は,ソース部の電流検

出抵抗を短絡しておきます.

80負荷に対する単独のひずみ寧特

性は第9回のとおりで,OW付近まで

前号の制動アンプに近似のひずみ率を

示しており,それ以上でおもむろにひ

ヰ∴∴∴一  一

(np) 青ヽ言下買上

ずみの増加を見せていますが,許容範

囲内でしょう.最大出力も32Wから

28Wへの容認できる減少度は収まっ

ています.最大出力付近のクリップは

真空管アンプのようにソフトです.

負荷抵抗を下げての単独試験は避け

ておきます.主アンプとの連動なしに

重い負荷を駆動して無闇に入力を上げ

てゆくと,出力電流がどんどん増しま

す.2SK2467/J201の電流容量の規

格を越える危険があります(このよう

な事態を想定すれば,もう少し最大定

格の大きな石を選択すべきかも知れま

せん).

制動アンプ単独の損隠周波数特蛙は

第10回のとおり,極めて優秀です.カ

スコードならではのものでしょう.実

はこの試験をl度目は主アンプの入力

を切る榊ナで行ってしまい,5kHz付

近から下降の見え始めるひどい高域減

衰に仰天したものです.恥しながら長

い間原因がわかずMOS-FET内部

のインタタタンスまで疑ったものでし

た ようやく気付いて主アンプ入力を

アースへ落とすと,理不尽は消えまし

た読者にはおわかりのことでしょう.

閲放された高インピーダンスのゲート

へCr。を通じて制動アンプの出力が回

り込み,主アンプが打消し方向へ働い

ていたというわけです.

(3)制動馳

ひずみ打消しアンプの改善によって

なおさら特性の美鹿さを増した2連

動アンプは制動アンプを連結し,カス

コード回路の正否を確かめます.

電流一電圧誤詮検出ブリッジのアー

ムはもとどおり第7図の定数とし,D.

i i i制 あり

i

i i ( I i i

-● 定 格 負 荷 8o

I

なしIi

づ“ I嶋 なし

g

i

P

あり

=aI ○

4  6  8 10   2   4  6  8 100 ”∴ 2 ノ  4  6 8 10k  2    4  6 8 1

周波数(Hz)

〈第11図〉ひずみ打消し.制動アンプ運動時の周波数特性

143

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D.F.が2より0で生々しくて輝きを

増すと感じるのに,トランペットに代

わるとD.F.0では色がきつくて,制

動を増す方が鮮かに歌ってくれます.

でもしばらく聴き入るうちにはD.F.

0の音に迫真を覚え,もっと長く音に

ひたった後では,ふたたびD.F.2の

方がうるおいに富むと感じていたりし

ます.

ぽんとうの評価は,音ではなく曲に

ひたりながらやらなければならないと

痛感します.しかし最近の私の作業室

周辺の音醤環境はいよいよ悪く,曲に

ひたるのが一苦労です.今春(5月号),

「高度電子技術時代の人権と文イ軸なる

「文を著わして以来公櫻関員とその

雇われ要員が規膜をふくらませ,作業

や往来継持古への嫌がらせをますます

“懇財’なものとしています.とある喫

茶店の窓際の席でこの稿獲顔己しよう

としたところ,ペンを握る街路と部屋

をし.きる壁が低周波振動を始め,これ

はたまらんと席を移れば工事要請の

連絡を受けたと称する作業員が入って

来て店内でドリル音を立て始めまし

た街路では音響技術に視覚技術を加

え,車を運転すれば周囲を数台のそれ

と貸しき車両が取り囲みます.前だけ

でなく前の前の輔までそうだという

のがみそです.1台が飛び出して目を

引きつけて,反対側が飛び出して来る

といった運動受法もあります.

それでも不快を追いやるのむ音楽

ひとしきり集中への努力を払った後で

は,音楽は変らない一一のやいっそう

の美しきを現わしてくれます.

アンプへ戻りましょう.総じて制動

なしではくちびるを感触し,制動を増

せば曲を聴きます.

制動した音が活気を失わずに潤おい

と透明感を加えて,倖峨Iなしの音の生

気や輝きとの差を好みの範囲内に収め

ているとすれば そしてそれが連勤方

式のもたらしたものだとすれば期待し

たとおりといえますが,そう言明する

のはいささか我田引水が過ぎるでしょ

う.

真空管の811Aシングル・アンプと

SEP 2014

〈写真1〉(D80負荷,100Hz方形波応答

li

〈写真妙(D20負荷,10kH乙DFOの応答

〈写真3〉①0.2FIF負蘇10kHz,DFlの麻答

聴き較べてみると,81lAの方が清純

で,MOS-FETアンプは艶っぽい

一一強調すれば官能的な一一音を出し

ます.

最後に,制動アンプの連動という制

作テーマは反するのですが,くちびる

を感触するD.F.0の音色にまかせ

て,あの激しく根源的な黒人の抵抗音

楽,アピー・リンカンの「Weinsist!」

を葵でました一一一編集子から,Fさん

は数少ない音楽がお気に入りのようで

すね,とからかわれましたが.乗るほ

つれて手が穀)いて,制動アンプの入力

線を切り換えて主アンプともども楽音

の増幅は集中させました.「気に音量

が増します.肉声が聴こえて来ました.

叫びやうめきや呼気や吐息があまりは

生々しく,フレーズごとにそこにいる

のかと,ぎょっとします.私の鼓動も

②80負荷,10kHz方形波応答

(920負荷,10kHa DF2の応答

②0.2F.Fi10kHz,DF2の応答

高なり,汗ばんで来ます.そして希望.

はるかな,見知らないのに親しい過去

であり未来である土地に運ばれてゆき

ます.

音楽がかつて生きた,あるいは生き

る魂の叫びや無言を運ぶとすれば ど

こに潜ませているのか∴電気計測にか

からない,旋律の期待と不意との揺れ,

協奏の対比と親和との交代,律動との

英和や合一がつくる共時でしょうか.

背後に秘められた者と私たちの内側の

ものとがその願望ゆえに共振し,心象

と物象のはざまに進路を開けるのでし

ょうか.そして喜びや悲痛,僚恋やひ

たむきな希求が.その開閉の形さえ,

語られない孤独の奥さえ.聴く者のう

ちに浸入するのでしょう.そして,私

たちの体の中で眼を開けるのです,私

たち自身と区別できない形で.

145