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血清 TARC! CCL17 値がアトピー性皮膚炎(AD)の 病勢を示す指標として用いられる可能性について,こ れまでに用いられてきた血清 IgE,LDH,末梢血好酸 球数と比較して検討した.血清 TARC! CCL17 値の平 均は 213±121pg! ml であり,正常範囲の上限は,450 pg! ml であった.AD その他の皮膚疾患患者血清で健 常者の平均値より有意に高値を示したのは AD,蕁麻 疹および炎症性角化症であった.特に,ADで高値を示 した.血清 TARC! CCL17,IgE,LDH,末梢血好酸球 数について AD の重症度における各群の平均値の有 意差検定を行ったところ,IgE 以外はいずれの群にお いても有意差を認めたが,特に血清 TARC! CCL17 で 顕著であった.また,SCORADの変動はLDH,好酸球 数に比べて血清 TARC! CCL17 の方がより一致してい た.これらのことから血清 TARC! CCL17 値は AD の 皮膚病変の程度を非常によく短期的に反映する指標で あることが示唆された. はじめに アレルギー疾患の増加は世界的に指摘された問題に なっており,日本に於いても例外ではない.日本に於 いては,アトピー性皮膚炎は,その治療の主役である ステロイド外用薬による副作用の問題と相俟って社会 的な問題となっている.厚生労働省の班会議によるア トピー性皮膚炎の治療ガイドラインや日本皮膚科学会 による治療ガイドラインが公にされ,ステロイド外用 薬が治療の主体であることが一般に広く認識されつつ あることにより,やや下火になったとはいえ未だに続 いている問題である. アトピー性皮膚炎の診断は皮膚科専門医にとって は,それほど難しいものではなく,またその標準治療 も多くのコンセンサスを得ているものが公表されてお り,それに従った治療が選択される限り,それほど難 しいものではないことが多い. しかし,アトピー性皮膚炎は治癒する疾患というよ り,コントロールする疾患であり,治療が長期にわた ることが一般的である.つまり,皮膚症状が軽快・増 悪を繰り返しながら,慢性に経過する疾患である 1) .ま た,アトピー性皮膚炎の増悪因子ないし合併症として 種々の感染症などがあり,慢性の経過中にはそれによ るアトピー性皮膚炎の増悪と感染症そのものとの違い を区別することが困難な場合が少なくない. アトピー性皮膚炎の症状とその重症度については, 皮膚症状とその拡がりによって客観的に数値化する試 アトピー性皮膚炎の病勢指標としての 血清 TARC! CCL17 値についての臨床的検討 玉置 邦彦 1) 佐伯 秀久 1) 門野 岳史 1) 佐藤 伸一 2) 八田 尚人 2) 長谷川 2) 白崎 文朗 2) 島田 由佳 2) 森田 礼時 2) 西島 千博 2) 越後 岳士 2) 山田 瑞貴 2) 大石 直人 2) 中条 園子 2) 冨田 育代 2) 平野 貴士 2) 田中 千洋 2) 竹原 和彦 2) 尾藤 利憲 3) 福永 3) 堀川 達弥 3) 梅田 二郎 4) 森田 博子 4) 西野 4) 岡田 明子 4) 片岡 葉子 4) 秋永 良也 5) 占部 和敬 6) 師井 洋一 6) 国場 尚志 6) 今福 信一 6) 幸田 6) 中原 剛士 6) 深川 修司 6) 古江 増隆 6) 1) 東京大学医学部附属病院皮膚科 2) 金沢大学医学部附属病院皮膚科 3) 神戸大学病院皮膚科 4) 大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター皮膚科 5) 塩野義製薬株式会社診断薬部 6) 九州大学病院皮膚科 平成 17 年 7 月 7 日受付,平成 17 年 11 月 30 日掲載決 特別掲載 別刷請求先:(〒1138655)東京都文京区本郷 7―3―1 東京大学医学部附属病院皮膚科 玉置 邦彦 日皮会誌:116(1),27―39,2006(平18)

アトピー性皮膚炎の病勢指標としての 血清TARC …drmtl.org/data/116010027j.pdf要約 血清TARC CCL17値がアトピー性皮膚炎(AD)の 病勢を示す指標として用いられる可能性について,こ

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要 約

血清 TARC�CCL17 値がアトピー性皮膚炎(AD)の病勢を示す指標として用いられる可能性について,これまでに用いられてきた血清 IgE,LDH,末梢血好酸球数と比較して検討した.血清 TARC�CCL17 値の平均は 213±121pg�ml であり,正常範囲の上限は,450pg�ml であった.AD その他の皮膚疾患患者血清で健常者の平均値より有意に高値を示したのは AD,蕁麻疹および炎症性角化症であった.特に,AD で高値を示した.血清 TARC�CCL17,IgE,LDH,末梢血好酸球数について AD の重症度における各群の平均値の有意差検定を行ったところ,IgE 以外はいずれの群においても有意差を認めたが,特に血清 TARC�CCL17 で顕著であった.また,SCORAD の変動は LDH,好酸球数に比べて血清 TARC�CCL17 の方がより一致していた.これらのことから血清 TARC�CCL17 値は AD の皮膚病変の程度を非常によく短期的に反映する指標で

あることが示唆された.

はじめに

アレルギー疾患の増加は世界的に指摘された問題になっており,日本に於いても例外ではない.日本に於いては,アトピー性皮膚炎は,その治療の主役であるステロイド外用薬による副作用の問題と相俟って社会的な問題となっている.厚生労働省の班会議によるアトピー性皮膚炎の治療ガイドラインや日本皮膚科学会による治療ガイドラインが公にされ,ステロイド外用薬が治療の主体であることが一般に広く認識されつつあることにより,やや下火になったとはいえ未だに続いている問題である.

アトピー性皮膚炎の診断は皮膚科専門医にとっては,それほど難しいものではなく,またその標準治療も多くのコンセンサスを得ているものが公表されており,それに従った治療が選択される限り,それほど難しいものではないことが多い.

しかし,アトピー性皮膚炎は治癒する疾患というより,コントロールする疾患であり,治療が長期にわたることが一般的である.つまり,皮膚症状が軽快・増悪を繰り返しながら,慢性に経過する疾患である1).また,アトピー性皮膚炎の増悪因子ないし合併症として種々の感染症などがあり,慢性の経過中にはそれによるアトピー性皮膚炎の増悪と感染症そのものとの違いを区別することが困難な場合が少なくない.

アトピー性皮膚炎の症状とその重症度については,皮膚症状とその拡がりによって客観的に数値化する試

アトピー性皮膚炎の病勢指標としての

血清 TARC�CCL17 値についての臨床的検討

玉置 邦彦1) 佐伯 秀久1) 門野 岳史1) 佐藤 伸一2)

八田 尚人2) 長谷川 稔2) 白崎 文朗2) 島田 由佳2)

森田 礼時2) 西島 千博2) 越後 岳士2) 山田 瑞貴2)

大石 直人2) 中条 園子2) 冨田 育代2) 平野 貴士2)

田中 千洋2) 竹原 和彦2) 尾藤 利憲3) 福永 淳3)

堀川 達弥3) 梅田 二郎4) 森田 博子4) 西野 洋4)

岡田 明子4) 片岡 葉子4) 秋永 良也5) 占部 和敬6)

師井 洋一6) 国場 尚志6) 今福 信一6) 幸田 太6)

中原 剛士6) 深川 修司6) 古江 増隆6)

1)東京大学医学部附属病院皮膚科2)金沢大学医学部附属病院皮膚科3)神戸大学病院皮膚科4)大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター皮膚科5)塩野義製薬株式会社診断薬部6)九州大学病院皮膚科平成 17 年 7 月 7 日受付,平成 17 年 11 月 30 日掲載決定 特別掲載別刷請求先:(〒113―8655)東京都文京区本郷 7―3―1

東京大学医学部附属病院皮膚科 玉置 邦彦

日皮会誌:116(1),27―39,2006(平18)

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表1 皮膚疾患の例数

例数疾患群内訳例数疾患群内訳

8湿疹・皮膚炎128(191*)アトピー性皮膚炎

2尋常性湿疹21炎症性角化症

2自家感作性湿疹18尋常性乾癬

2手湿疹2類乾癬

1慢性痒疹1扁平苔癬

1毛虫皮膚炎13蕁麻疹

5自己免疫性水疱症8慢性蕁麻疹

2尋常性天疱瘡5急性蕁麻疹

2落葉性天疱瘡 8皮膚T細胞リンパ腫

1先天性表皮水疱症3菌状息肉症

32その他2リンパ腫様丘疹症

5円形脱毛症1成人T細胞白血病

4汎発性強皮症1CD8+T細胞リンパ腫

3ベーチェット病1γδT細胞リンパ腫

3尋常性白斑

17その他

*:経過観察例の観察時点を含む例数

みがなされており,SCORAD として用いられている2).しかし,SCORAD などの算定方法が煩雑なため広く臨床現場で用いられることとなっていない.

皮膚症状以外にアトピー性皮膚炎の病勢を表す指標として,これまで血清 IgE 値,LDH,末梢血好酸球数が用いられてきた.LDH や末梢血好酸球数は症状に応じて変動するものの,その動きは必ずしも症状を鋭敏に示さないことが指摘されている.血清 IgE は,長期にわたるアトピー性皮膚炎で高値を示すとされており,事実アトピー性皮膚炎では,通常数週から月単位で増減し,短期的な治療効果の指標とはならない.これらの病勢を表すとされる指標が皮膚症状と共に鋭敏に変動するとは言い難いため,アトピー性皮膚炎の病勢を反映する臨床指標が求められてきた3).

最近の免疫学・アレルギー学の進歩と共にアトピー性皮膚炎の病態に関わる新たな分子が明らかにされ,それらについて皮膚症状との相関が検討されてきた.なかでもケモカインと呼ばれる,白血球に対して走化性を有する分子量の小さなサイトカインの血中の値については比較的よく研究されている.

我々は,これまでアトピー性皮膚炎を中心にして,TARC�CCL17 の病態への関与を検討してきており,特にアトピー性皮膚炎では血清 TARC�CCL17 値が病勢を鋭敏に反応することや,その TARC�CCL17 は主

として皮膚の表皮角化細胞が産生するものであることを示唆する結果を報告した4).また最近,アトピー性皮膚炎を含む種々の皮膚疾患における血清 TARC�CCL17 値を検討し,血清 TARC�CCL17 値が上昇するのは,ごく限られた皮膚疾患であること,特にアトピー性皮膚炎では高値を示すものが多いこと,多数例についてもやはり病勢を反映することを報告した5).

そこで,今回は血清 TARC�CCL17 値がアトピー性皮膚炎の病勢を示す臨床指標として用いることが可能であるかについて,多施設において健常者および各種皮膚疾患と比較して検討を加えた.そしてアトピー性皮膚炎の臨床症状を鋭敏に反映する臨床指標と考えられる結果を得たので報告する.

材料および方法

1.対 象健常者群は,健康な男性 46 例(20~64 歳,平均 32.5

歳),女 性 89 例(19~57 歳,平 均 33.1 歳)の 計 135例(19~64 歳,平均 32.9 歳)であった.健常者の選定基準は,皮膚疾患およびその他の疾病がなく,身体所見が正常でありアレルギーに関する既往歴および家族歴のないものとし,臨床検査値が各施設の基準から外れ,かつ臨床的に異常と判断される被験者を除外した.

皮膚疾患患者群は,アトピー性皮膚炎 128 例(18~

玉置 邦彦ほか28

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表3 健常者における背景因子の血清TARC/

CCL17値に及ぼす影響

体重身長年齢性別

0.73720.58030.25000.7280p値

表2 年齢,身長,体重のカテゴリー分け

体重身長年齢

60kg未満150cm未満30歳未満

60kg以上80kg未満150cm以上160cm未満30歳以上40歳未満

80kg以上100kg未満160cm以上170cm未満40歳以上50歳未満

100kg以上120kg未満170cm以上180cm未満50歳以上60歳未満

120kg以上180cm以上60歳以上70歳未満

70歳以上

54 歳,平均 29.7 歳),湿疹・皮膚炎(アトピー性皮膚炎除く)8 例(25~71 歳,平均 48.6 歳),蕁麻疹 13 例

(18~54 歳,平均 29.1 歳),炎症性角化症 21 例(22~73歳,平均 53.1 歳),自己免疫性水疱症 5 例(47~61 歳,平均 60.8 歳),皮膚 T 細胞性リンパ腫 8 例(40~78歳,61.5 歳),その他皮膚疾患 32 例(22~80 歳,平均48.5 歳)の計 215 例であり,すべて当該疾患以外の疾病を有さない症例であった(表 1).

なお,本試験は,その内容について被験者本人あるいは保護者に十分な説明を行い,書面による同意の下に実施した.

2.調査項目対象者につき,①性別,②年齢,③身長,④体重,

⑤外来・入院の区別,⑥アレルギーに関する既往歴・家族歴を調査した.

3.アトピー性皮膚炎の診断および観察項目1)診断日本皮膚科学会編のアトピー性皮膚炎の診断基準6)

に基づき確定診断した.2)皮膚症状のスコアー皮膚症状のスコアーは,皮疹の面積(A)および紅斑,

浸潤�丘疹,滲出液�痂皮,搔爬痕,苔癬化,乾燥の各皮疹につき,その程度(0=なし,1=軽度,2=中程度,3=重度)の合計(B)を求め,A�5+7×B�2 により SCO-RAD として算出した2).

3)重症度重症度は SCORAD を目安(15 未満を軽症,15 以上

40 未満を中等症,40 以上を重症)とし,皮疹の程度,皮疹の範囲より軽症,中等症,重症の 3 段階に判別した.

4)経過観察アトピー性皮膚炎のうち,ステロイド外用薬および

抗アレルギー薬内服等による標準治療を行い,経過を追えたものについては臨床検査および皮膚症状のスコアーを算出した.その期間は 4 週間以内に 3 回を目安とした.

4.アトピー性皮膚炎以外の皮膚疾患の重症度診察日の皮疹の範囲と症状によって軽症,中等症,

重症の 3 段階に判別した.

5.臨床検査被験者からの採血は,血液学的検査用に EDTA・

2K 採血管,生化学的検査,免疫学的検査およびTARC�CCL17 測定用に血清分離促進剤入り採血管を用いた.

臨床検査は,赤血球数,白血球数,好酸球数(全白血球数中好酸球数百分率),ヘモグロビン,ヘマトクリット,血小板数,総蛋白,アルブミン,GOT,GPT,LDH,尿素窒素,血清クレアチニン,CRP,血清 IgE,血清 TARC�CCL17 を測定した.

TARC�CCL17 測定用血清は,血清 TARC�CCL17の測定時まで-20℃ で保存し,血清 TARC�CCL17の測定は,SD-8864(塩野義製薬)を用いた5)7).

6.解 析基準値の算出,一元配置分散分析,Welch の t 検定,

ROC 解析および単回帰分析は,データ分布の正規性を確保するため自然対数変換値を用い,平均値等の表記は元の尺度に戻した数値を記述した.2 群間の比較検定は Welch の t 検定を用いた.

ROC 解析における感度は,アトピー性皮膚炎と診断

アトピー性皮膚炎の病勢指標としての血清 TARC�CCL17 値についての臨床的検討 29

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図1 性別および年齢と血清TARC/CCL17値の関係

図2 健常者における血清TARC/CCL17値の分布

された患者のうち,TARC�CCL17 を含む検査指標の測定値がそれぞれ基準値以上であった比率,特異度は,健常者を含むアトピー性皮膚炎以外の皮膚疾患患者のうち,各検査指標の測定値がそれぞれ基準値未満であった比率とした.また,各種検定においては,p<0.05を有意とした.

結 果

1.健常者の血清 TARC�CCL17値について(1)背景因子(性別,年齢,身長,体重)の影響について

健常者における,連続数値で示される年齢,身長,体重についてはカテゴリーにわけた後,一元配置分散分析により,性別については Welch の t 検定により,それぞれの平均値の均一性を評価した(表 2).

その結果,血清 TARC�CCL17 値に,性,年齢,身長

および体重による有意差は認められなかった(表 3).健常者における性別,年齢毎の血清 TARC�CCL17

値を図 1 に示した.(2)血清 TARC�CCL17の基準値健常者における血清 TARC�CCL17 値の分布より,

平均値+1.96σ より基準値(正常範囲の上限)を求めた(図 2).

その結果,血清 TARC�CCL17 の基準値は 450pg�ml(例数:135,平均値:213pg�ml,標準偏差:121pg�ml)であった.

2.健常者および各皮膚疾患患者群の血清 TARC�CCL17値(1)各種皮膚疾患患者群の血清 TARC�CCL17値各皮膚疾患患者群における血清 TARC�CCL17 値を

平均値±標準偏差により図示した(図 3).血清 TARC�

玉置 邦彦ほか30

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表4 アトピー性皮膚炎に対する無病正診率および

有病正診率

アトピー性皮膚炎患者

健常者

41例128例450pg/ml未満血清TARC/CCL17 150例7例450pg/ml以上

無病正診率=128/(128+7)×100=94.8%

有病正診率=150/(150+41)×100=78.5%

図3 健常者および各皮膚疾患患者群における血清TARC/CCL17値の平均値と標

準偏差

図4 アトピー性皮膚炎およびアトピー性皮膚炎以外

における血清TARC/CCL17,血清IgE,LDH,好

酸球のROC曲線

CCL17 値について,健常者群と各皮膚疾患患者群との間で Welch の t 検定により血清 TARC�CCL17 値を比較検定した結果,アトピー性皮膚炎,蕁麻疹および炎症性角化症において有意差が認められた.

特に,アトピー性皮膚炎の血清 TARC�CCL17 値(1,236±2,065pg�ml)は,健常者のそれ(213±123pg�ml)に比して,平均値にして約 6 倍であった.一方,蕁麻疹および炎症性角化症については,それぞれ 1.67 倍および 1.65 倍であった.(2)重症度と血清 TARC�CCL17値健常者の血清 TARC�CCL17 値と有意差が認められ

たアトピー性皮膚炎,蕁麻疹および炎症性角化症について,それらの重症度と血清 TARC�CCL17 値との

Spearman の順位相関係数を求めたところ,アトピー性皮膚炎のみが有意な正の相関(rs=0.6424,p<0.0001)が認められた.蕁麻疹および炎症性角化症の相関係数は,それぞれ rs=0.3299(p=0.2710),rs=0.1500

(p=0.5162)であった.

アトピー性皮膚炎の病勢指標としての血清 TARC�CCL17 値についての臨床的検討 31

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表5 ROC曲線における曲線下面積と感度・特異度

特異度感度カットオフ値曲線下面積検査項目

83%83%414pg/ml0.90血清TARC/CCL17

83%83%240IU/ml0.91血清IgE

74%75%196U/l0.82LDH

81%81%3.80%0.89好酸球

図5 健常者およびアトピー性皮膚炎患者の重症度毎における血清TARC/CCL17値

図6 健常者およびアトピー性皮膚炎患者の重症度毎における各検査値のカットオフ

値(血清TARC/CCL17;450pg/ml,LDH;200U/l,好酸球数;6%)に対

する比

(3)無病正診率および有病正診率血清 TARC�CCL17 の基準値(450pg�ml)を用いて,

血清 TARC�CCL17 値が 450pg�ml 未満の健常者の割合を無病正診率,450pg�ml 以上のアトピー性皮膚炎患者の割合を有病正診率として求めた.

その結果,無病正診率が 94.8% であり,有病正診率が 78.5% であった(表 4).

3.アトピー性皮膚炎における血清 TARC�CCL17値と他の検査値(血清 IgE,LDH,好酸球)の比較(1)ROC 曲線( receiver operating characteristic

curve)による比較アトピー性皮膚炎患者群と健常者を含むその他の皮

膚疾患患者群の 2 群に分け,血清 TARC�CCL17 値とその他の検査値(血清 IgE,LDH,好酸球)の ROC

玉置 邦彦ほか32

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図7 アトピー性皮膚炎における分布と軽症・中等症のカットオフ値

図8 アトピー性皮膚炎における皮膚症状のスコアー(SCORAD)

と血清TARC/CCL17値の関係

表6 軽症・中等症のカットオフ値と臨床症状

との一致率

臨床症状

中等症以上軽症

20例(15.7%)

45例(70.3%)

700pg/ml未満血清TARC/CCL17 107例

(84.3%)19例

(29.7%)700pg/ml以上

曲線を求めた(図 4).各検査指標の ROC 曲線における曲線下面

積および得られた感度および特異度は表 5 に示すとおりであり,血清 TARC�CCL17 および血清 IgE の感度および特異度は,それぞれ,いずれも 83% であり,LDH および好酸球に比してアトピー性皮膚炎の鑑別能が高かった.(2)重症度群間における血清 TARC�CCL17値および他の検査値(血清 IgE,LDH,好酸球)の比較

健常者およびアトピー性皮膚炎の各重症度群(軽症群,中等症群,重症群)における血清 TARC�CCL17値の平均値±標準偏差は,それぞれ 213±121pg�ml,503±422pg�ml,1,363±1,388pg�ml および 4,484±6,452pg�ml であり,健常者群を含むいずれの群間においても有意差が認められた(図 5).

一方,血清 IgE,LDH および好酸球についても,同

様に,各群の平均値について比較検定を行った結果,LDH および好酸球は,いずれの群間においても有意差が認められたが,血清 IgE については,中等症と重症の間で有意差は認められなかった.

更に,いずれの各群間においても,その平均値に有意差が認められた血清 TARC�CCL17,LDH および好酸球につき,重症化に伴う変化の鋭敏さを比較した.各検査値のカットオフ値(血清 TARC�CCL17:450pg�ml,LDH:200U�l,好酸球:6%)に対する各群における各検査値の比を求めたところ,いずれの群にお

アトピー性皮膚炎の病勢指標としての血清 TARC�CCL17 値についての臨床的検討 33

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図9 治療経過における皮膚症状のスコ

アーと各検査値

Ratioは各検査値のカットオフ値(血清

TARC/CCL17:450pg/ml,血清IgE:

170IU/ml,LDH:200U/l,好酸球数:

6%)に対する比

いても,血清 TARC�CCL17 は LDH および好酸球より鋭敏な上昇を示しており,特に重症群においては,カットオフ値の約 10 倍の変化を示した.これに対し,LDH および好酸球はいずれの群においても,その変化は 2 倍以内であった(図 6).

4.アトピー性皮膚炎の病勢指標および治療効果確認としての血清 TARC�CCL17値(1)軽症および中等症のカットオフ値アトピー性皮膚炎の軽症群と中等症群の血清

TARC�CCL17 値より,ROC 曲線を用いて求めたカッ

トオフ値は 721pg�ml であった.従って,両群のカットオフ値を 700pg�ml(感度:70%,特異度:67%)とした.

このカットオフ値を用いて,臨床症状(軽症,中等症以上)との一致性を検討した結果,軽症および中等症以上の一致率はそれぞれ 70.3% および 84.3% であった(図 7,表 6).(2)皮膚症状のスコアー(SCORAD)との相関性アトピー性皮膚炎において,血清 TARC�CCL17 値

と皮膚症状のスコアー(SCORAD)との Spearmanの順位相関係数を求めたところ,有意な相関(rs=

玉置 邦彦ほか34

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図10 治療経過における皮膚症状のスコアーと各検査値

Ratioは各検査値のカットオフ値(血清TARC/CCL17:450pg/ml,血清IgE:170IU/ml,

LDH:200U/l,好酸球数:6%)に対する比

0.6286,p<0.0001)を示した(図 8).また,血清 TARC�CCL17 値と皮膚症状のスコアー

の算出に用いられる病変の範囲および皮疹の程度とのSpearman の順位相関係数を求めたところ,それぞれ有意な正の相関(病変の範囲:rs=0.5982,p<0.0001,皮疹の程度:rs=0.5568,p<0.0001)を示した.(3)治療経過と血清 TARC�CCL17値アトピー性皮膚炎 28 例につき,治療経過において皮

膚症状のスコアー(SCORAD)と血清 TARC�CCL17値の関係を検討した.方法としては,時点 j における患者 i の血清 TARC�CCL17 値の自然対数値 yij を応答変数とし,皮膚症状のスコアー(SCORAD)Sij を固定効果,患者 Pi を変量効果とした混合効果モデル(yij=全平均+β・Sij+Pi+誤差)を設定し,皮膚症状のスコアー(SCORAD)の推移に伴う血清 TARC�CCL17値の変動を検討した.

アトピー性皮膚炎の病勢指標としての血清 TARC�CCL17 値についての臨床的検討 35

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図11 治療経過における皮膚症状のスコアーと各検査値

Ratioは各検査値のカットオフ値(血清TARC/CCL17:450pg/ml,血清IgE:170IU/ml,

LDH:200U/l,好酸球数:6%)に対する比

その結果,このとき固定効果である皮膚症状のスコアー(SCORAD)の係数 β は有意であった(p 値<0.0001).同様に血清 IgE,LDH および好酸球につき解析した.その結果,LDH と好酸球についても皮膚症状のスコアー(SCORAD)の係数 β は有意であった(共に p<0.0001).しかし,血清 IgE 値は有意でなかった.

次に,血清 TARC�CCL17,LDH,好酸球それぞれの推移パターンと皮膚症状のスコアー(SCORAD)の推移パターンにつき類似性を検討するため,これら皮膚症状のスコアー(SCORAD)と検査項目のそれぞれにつき,患者ごとの経過データに単回帰モデル y=a+bxをあてはめて回帰係数 b を求め,患者ごとに求めた皮膚症状のスコアー(SCORAD)の回帰係数と血清TARC�CCL17 値,LDH および好酸球それぞれの回帰係数との相関係数を算出した.その結果,血清 TARC�CCL17 値,LDH および好酸球の相関係数は,それぞれ0.8121(p<0.0001),0.2768(p=0.1540),0.7303(p<0.0001)であり,血清 TARC�CCL17 値との相関係数が最も 1 に近かった.

治療経過として重症から軽症,重症から中等症,中等症から重症,中等症から中等症,および中等症から軽症に推移した代表 9 例を図 9,図 10 および図 11 に示した.x 軸は経過の日数,y 軸は各検査値のカットオフ値(血清 TARC�CCL17 : 450pg�ml,血清 IgE : 170

IU�ml,LDH : 200U�l,好酸球:6%)に対する比(Ra-tio)として示した.

図 9 に示すように重症から軽症と治療効果があったものでは,皮膚症状のスコアー(SCORAD)と血清TARC�CCL17 値がよく連動して変化していた.図 10は治療にそれほど反応しなかった例であるが,やはり皮膚症状のスコアー(SCORAD)と血清 TARC�CCL17 値がよく連動して動き,増悪する場合(c)にもそれをよく反映していた.図 11 は比較的症状が軽度なものを示すが,ここでも血清 TARC�CCL17 値がよく皮膚症状のスコアー(SCORAD)と連動した動きを示した.

考 察

本研究において,我々は血清 TARC�CCL17 値がアトピー性皮膚炎の病勢を表す指標として用いる可能性について,これまで用いられてきた血清 IgE,LDH,末梢血好酸球と比較し,次のことを明らかにした.(1)19 歳から 64 歳までの健常者の血清 TARC�

CCL17 値は 213±121pg�ml(MV±SD)であり,平均値+1.96σ より求めた基準値(正常範囲の上限)は 450pg�ml であった.この基準値を用いたアトピー性皮膚炎に対する無病正診率および有病正診率はそれぞれ94.8% および 78.5% であった.

玉置 邦彦ほか36

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(2)健常者,アトピー性皮膚炎患者,その他の皮膚疾患患者の血清 TARC�CCL17 値を求めたところ,健常者の平均 TARC�CCL17 値に対して有意に高値を示していたのはアトピー性皮膚炎,蕁麻疹および炎症性角化症であった.しかし,その程度はアトピー性皮膚炎では約 6 倍であったのに対し,蕁麻疹と炎症性角化症では 2 倍以内であった.更にそれぞれの重症度とSpearman の順位相関係数を求めたところ,アトピー性皮膚炎のみが有意な正の相関を認め,血清 TARC�CCL17 はアトピー性皮膚炎に特異性が高いことが示唆された.(3)ROC 解析から求めた血清 TARC�CCL17 およ

び血清 IgE の感度および特異度はそれぞれいずれも83% であり,LDH および好酸球に比べてアトピー性皮膚炎の鑑別能が高いと考えられた.(4)血清 TARC�CCL17,血清 IgE,LDH,好酸球に

つき,健常者群およびアトピー性皮膚炎の各重症度群(軽症,中等症,重症)における平均値の有意差検定を行った結果,血清 TARC�CCL17,LDH,好酸球はいずれの群間においても有意差を認めたが,血清 IgEは中等症と重症の間で有意差が認められなかった.しかし,LDH,好酸球では軽症,中等症および重症のいずれにおいてもカットオフ値の 2 倍程度であった.これに対し,血清 TARC�CCL17 値は 10 倍と顕著な差がみられた.(5)血清 TARC�CCL17 値の 700pg�ml はアトピー

性皮膚炎の軽症と中等症以上を判定する上で,参考になる値と思われた.(6)血清 TARC�CCL17 値は皮膚症状の程度を表す

SCORAD と有意な相関(V=0.6286,p<0.0001)を示した.(7)アトピー性皮膚炎患者の治療による SCORAD

の変化を血清 TARC�CCL17,血清 IgE,LDH,好酸球の動きとともに追ってみたところ,SCORAD の変動とともに血清 TARC�CCL17 値が変動することが示された.LDH,好酸球にもその傾向はみられたが,血清 TARC�CCL17 値の方がより一致していた.

アトピー性皮膚炎をはじめとした皮膚疾患においては,肝臓や腎臓など他臓器の障害における臨床検査と比較すると臨床指標としての臨床検査として信頼に足るものが極めて少なく,そのため,それに代わるものとして皮膚症状を数値化して用いることが行われてきた.アトピー性皮膚炎における SCORAD や乾癬における PASI スコアーなどは,その代表である.最近に

なって,天疱瘡や類天疱瘡などの自己免疫疾患においてはそれらの対応抗原が明らかにされたことから,その対応抗原である Dsg1,Dsg3,あるいは BP180 に対する自己抗体を ELISA で測定することが可能となり,それらの疾患の病勢を表す臨床検査として用いられるようになっている8)9).

アトピー性皮膚炎においても,血清 IgE,LDH,好酸球に加えて,最近の免疫学・アレルギー学の進歩に伴い,その病態に関与していると考えられる分子が明らかになり,アトピー性皮膚炎の診断および病勢を表す指標としての有用性について報告されるようになった.それらは sIL-2R や ECP,MBP,EDN などの好酸球顆粒に含まれるもの,sICAM-1 や sELAM-1 などの細胞接着分子,sCD23,sCD14,IL-4,IL-8 など多数にわたる3).

我々もケモカインに注目し,前述した TARC�CCL174)10),MDC11)の他,Eotaxin-312),CTACK�CCL2713),MEC�CCL2814)などについて,アトピー性皮膚炎の血清中の値について検討し,診断や病勢判定に用いられる可能性について検討してきた.

そして血清 TARC�CCL17 値がアトピー性皮膚炎の病勢を鋭敏に反映し,アトピー性皮膚炎をモニターする上で有用である可能性が高いと考えた.

血清 TARC�CCL17 値が他のケモカインを含めたマーカーと比較して特徴あるのは,血小板中に含まれ,しかもアトピー性皮膚炎で多量に含まれていることである.藤澤らは,アトピー性皮膚炎患者の TARC�CCL17,MDC および Eotaxin について,血清と血漿における値を比較している.それによると MDC,Eotaxinは両者に大きな差はなかったのに対し,TARC�CCL17は血清値が血漿値に比較して有意に高値を示していた.そして,この差はアトピー性皮膚炎患者の血小板に含有される TARC�CCL17 を反映していることを明らかにした10).このことは,血漿と血清で同様の傾向を示すことを明らかにしたばかりでなく,アトピー性皮膚炎では血小板中に TARC�CCL17 が含まれており,血清ではそれを加味した値としてでてくることを意味している.従って,臨床指標として考えた場合,血清として採取することの簡便さを考えると重要な知見と思われる.

本研究においては,ステロイド外用薬を主体にした標準治療による治療効果を SCORAD として算定し,血清 TARC�CCL17,LDH,好酸球,血清 IgE 値などとの変動についても検討し血清 TARC�CCL17 値が症状

アトピー性皮膚炎の病勢指標としての血清 TARC�CCL17 値についての臨床的検討 37

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を鋭敏に反映することを明らかにした.我々は既に,アトピー性皮膚炎のモデルマウスであ

る NC�Nga マウスでステロイド外用薬により皮膚症状が軽快し,皮膚における TARC�CCL17 発現抑制がみられることを示した15).また,ヒトアトピー性皮膚炎においてもステロイド外用薬による治療で血清TARC�CCL17 値が低下することも示した4).更に,アトピー性皮膚炎由来の末梢血単核球からのダニ抗原刺激による in vitro での TARC�CCL17 産生がデキサメタゾンやタクロリムス,シクロスポリンによって著明に抑制されることを明らかにした.タクロリムスとシクロスポリンは NFκB 活性を著明に抑制したがデキサメタゾンではその抑制はごく軽度であったため,デキサメタゾンによる TARC�CCL17 産生抑制は NFκB以外の経路が主体であると考えた16).

TARC�CCL17 のケラチノサイト(KC)からの産生については HaCaT 細胞を用いて検討し,IFN-γ とTNF-α で刺激した場合の TARC�CCL17 産生が NF-κB や p38MAPKinase 阻害薬によって抑制されることを明らかにした.更にロキシスロマイシが TARC�CCL17 産生を抑制することを示すと共に,これは p38MAPKinase のリン酸化および NFκB の活性化を抑制するためであることも明らかにした17).

従って TARC�CCL17 産生抑制機序は細胞によっても,また薬剤によっても異なる可能性が示唆される18).このような関係を明らかにする目的で我々は最近,表皮に TARC�CCL17 を過剰発現するトランスジェニックマウスを作成した.このマウスは血清中のTARC�CCL17 が高値になる.このマウスに種々の刺激を与えることによってアトピー性皮膚炎様の皮膚病変を作成し,血清中の TARC�CCL17 などケモカインをはじめとしたものとの関係を明らかにすることができ,臨床指標として用いられる分子についての研究も進むものと考えている19).

以上のことから,血清 TARC�CCL17 値は,アトピー性皮膚炎の皮膚病変の程度を非常によく,しかも短期間に反映する指標であると考えられた.

従って,アトピー性皮膚炎の皮膚病変をモニターする上で有用であると考えた.加えて,血清 TARC�CCL17 値の 700pg�ml が軽症と中等症以上を区別する値としてよいと思われ,治療を考える上でも参考にしうるものと思われた.

また,アトピー性皮膚炎以外の皮膚疾患で高値を示すものが限られていることを考えると,アトピー性皮膚炎と診断する上でも参考にしうるものと思われる.

文 献

1)古江増隆:アトピー性皮膚炎,玉置邦彦総編集:最近皮膚科学大系,第 3 巻 湿疹・痒疹・瘙痒症・紅皮症・蕁麻疹,中山書店,東京,2002, 42―48.

2)Severity scoring of atopic dermatitis : the SCO-RAD index. Consensus Report of the EuropeanTask Force on Atopic Dermatitis . Dermatology ,186 : 23―31, 1993.

3)古江増隆:アトピー性皮膚炎とは,玉置邦彦,中川秀己,古江増隆:アトピー性皮膚炎とステロイド外用療法,中外医学社,東京,1998, 2―78.

4)Kakinuma T, Nakamura K, Wakugawa M, et al :Thymus and activation regulated chemokine inatopic dermatitis : serum TARC level is closely re-lated with disease activity. J Allergy Clin Immunol,107 : 535―541, 2001.

5)Tamaki K, Kakinuma T, Saeki H, et al : Serum lev-els of CCL17�TARC in various skin diseases , JDermatol in press.

6)日本皮膚科学会:アトピー性皮膚炎の定義・診断基準,日皮会誌,104 : 1210, 1994.

7)Fujisawa T, Nagao M, Noma Y, et al : Elevatednormal serum levels of thymus and activation-

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8)Amagai M, Komai A, Hashimoto T, et al : Useful-ness of enzyme-linked immunosorbent assay

(ELISA)using recombinant desmoglein 1 and 3for serodiagnosis of pemphigus . Br J Dermatol ,140 : 351―357, 1999.

9)Amo Y, Ohkawa T, Tatsuta M, et al : Clinical sig-nificance of enzyme-linked immunosorbent assayfor the detection of circulating anti-BP180 autoan-tibodies in patients with bullous pemphigoid . JDermatol Sci., 26 : 14―18, 2001.

10)Fujisawa T, Fujisawa R, Kato Y, et al : Presenceof high contents of thymus and activation-regu-lated chemokine in platelets and elevated plasmalevels of thymus and activation-regulated che-mokine and macrophage-derived chemokine inpatients with atopic dermatitis. J Allergy Clin Im-munol, 110 : 139―146, 2002.

11)Kakinuma T, Nakamura K, Wakugawa M, et al :Serum macrophage-derived chemokine(MDC)

玉置 邦彦ほか38

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Key words :

levels are closely related with the disease activityof atopic dermatitis. Clin Exp. Immunol, 127 : 270―273, 2002.

12)Kagami S, Kakinuma T, Saeki H, et al : Significantelevation of serum levels of eotaxin-3�CCL26, butnot of eotaxin 2�CCL24 in patients with atopicdermatitis : serum eotaxin-3�CCL26 levels reflectthe disease activity of atopic dermatitis. Clin Exp.Immunol, 134 : 309―313, 2003.

13)Kakinuma T, Saeki H, Tsunemi Y, et al : Increa-sed serum cutaneous T cell-attracting chemokine

(CCL27)levels in patients with atopic dermatitisand psoriasis vulgaris. J Allergy Clin Immunol,111 :592―597, 2003.

14)Kagami S, Saeki H, Kakinuma T, et al : Significantelevation of serum levels of MEC�CCL28 in pa-tients with atopic dermatitis , psoriasis vulgarisand bullous pemphigoid . J Invest Dermatol ,124 :1088―1090, 2005.

15)Vetergaard C, Yoneyama H, Murai M, et al : Over-

production of Th2-specific chemokines in NC�Ngamice exhibiting atopic dermatitis-like lesions , JClin Invest, 104 : 1097―1105, 1999.

16)Furukawa H, Nakamura K, Zheng X, et al : En-hanced TARC production by dust-mite allergensand its modulation by immunosuppressive drugsin PBMCs from patients with atopic dermatitis. JDermatol Sci., 35 : 35―42, 2004.

17)Komine M, Kakinuma T, Kagami S, et al : Mecha-nism of thymus and activation regulated chemo-kine(TARC�CCL17)production and its modula-tion by roxithromycin. J Invest Dermatol, 125 : 491―498, 2005.

18)玉置邦彦:TARC�CCL17 と皮膚疾患,アレルギー科,20 : 221―227, 2005.

19)Tsunemi Y, Saeki H, Nakamura K, et al : Transge-nic mice overexpressing CCL17�TARC exhibitenhanced Th2 response and reduced Th1 re-sponse to haptens, submitted for publication.

Serum TARC�CCL 17 Levels as a Disease Marker of Atopic Dermatitis

K. Tamaki1), H. Saeki1), T. Kadono1), S. Sato2), N. Hatta2), M. Hasegawa2), F. Shirasaki2),Y.Shimada2), R. Morita2), C. Nishijima2), G. Echigo2), M. Yamada2), N. Oishi2), S. Nakajo2),I. Tomita2), T. Hirano2), C. Tanaka2), K. Takehara2), T. Bito3), A. Fukunaga3), T. Horikawa3),

J. Umeda4), H. Morita4), H. Nishino4), A. Okada4), Y. Kataoka4), Y. Akinaga5), K. Urabe6),Y. Moroi6), N. Kuniba6),S. Imafuku6), F. Kohda6), T. Nakahara6), S. Fukagawa6)and M. Furue6)

1)Department of Dermatology, Fuculty of Medicine, University of Tokyo,2)Department of Dermatology, Kanazawa University, School of Medecine,

3)Department of Dermatology, Kobe University, School of Medicine,4)Department of Dermatology, Osaka Prefectural Medical Center for Respiratory and Allergic Diseases,

5)Diagnostics Department, Shionogi & Co., Ltd.,6)Department of Dermatology, Kyushu University, School of Medicine

(Received July 7, 2005 ; accepted for publication November 30, 2005)

We have previously shown that the serum TARC�CCL17 level reflects the disease activity of atopic der-matitis(AD). In this study we further examined this phenomenon in a larger number of patients and con-firmed it. Furthermore, in a longitudinal study of patients with AD, serum TARC�CCL17 levels was examinedand compared to other various laboratory markers such as serum LDH, serum IgE, and eosinophil number inperipheral blood. We found that serum TARC�CCL17 levels reflected the disease activity of AD most sensi-tively than the other laboratory markers. These results indicate that serum TARC�CCL17 levels can be usedas a novel laboratory marker to reflect the disease activity of AD.

(Jpn J Dermatol 116 : 27~39, 2006)TARC�CCL17, atopic dermatitis, laboratory marker, disease activity

アトピー性皮膚炎の病勢指標としての血清 TARC�CCL17 値についての臨床的検討 39