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1.はじめに レーザー核融合研究はレーザー技術,ターゲット技術, プラズマ診断および理論・シミュレーションによって支え られている.本論文では,ターゲット爆縮と燃料加熱実験 で最も大きな鍵を握る大出力レーザー技術について解説す る.現在,核融合用のレーザーとして用いられているのは, Nd ガラスレーザーと KrF エキシマーレーザーであり,我 が国では前者は大阪大学レーザーエネルギー学研究セン ター,後者は産業技術総合研究所および電気通信大学レー ザー新世代研究センターにおいて開発されてきた.レー ザー核融合および流体力学あるいは輻射過程などの関連す るプラズマ実験を行うには,kJ 級のレーザー出力が必要で あり,そのような大出力レーザーの開発は,主として主増 幅器の高効率・コンパクト化と多様な実験から要求される 様々な機能の導入である. 本論文ではまず第節で既存設備である激光 XII 号ガラ スレーザーに触れ,近未来の点火実証実験のためのガラス レーザー開発の進展状況を述べる.次に第節では, Super-ASHURA における高効率化と高繰り返し化技術開 発をまとめ,炉用レーザーの候補としての KrFレーザーの 可能性について述べる.近年の高速点火研究の進展によっ て,核融合用レーザーには大エネルギーのみならず,ペタ ワット(PW)級のピーク出力を有する超短パルス超高強度 レーザーが不可欠となっており,ガラスレーザーのチャー プパルス増幅とパルス圧縮技術が大いに進展している.第 節では,現在,激光 XII 号レーザーと同期して燃料加熱 実験に活用されている PW レーザーについて述べる.第節では,大出力レーザーの多機能化の中でも最も重要な照 射均一性の改善技術について概要を述べる.第節では, 世界における大出力レーザー建設の現状を紹介し,最後に それらの大出力レーザーの核融合以外の分野への応用の可 能性にふれて本論文をまとめる. 2.爆縮用ガラスレーザーシステム 2.1 大出力ガラスレーザーの歴史 ガラスレーザーはレーザーとしては古い部類に属し, 解説 1.レーザー核融合研究の進展 1.3 レーザー核融合技術の進展 大出力レーザー技術の進展 宮 永 憲 明,金 辺 1) ,奥 田 2) ,北 川 米 喜 ,中 塚 正 大 (大阪大学レーザーエネルギー学研究センター,福井大学大学院工学研究科 1) ,産業技術総合研究所 2) Progress in High-Energy Laser Technology MIYANAGA Noriaki, KANABE Tadashi 1) , OKUDA Isao 2) , KITAGAWA Yoneyoshi and NAKATSUKA Masahiro Institute of Laser Engineering, Osaka University, Suita 565-0871, Japan 1) Graduate School of Engineering, University of Fukui, Fukui 910-8507, Japan 2) National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Tsukuba 305-8568, Japan (Received 11 December 2004 / Revised 11 March 2005) The technological development of high-energy lasers is one of the key issues in laser fusion research. This pa- per reviews several technologies on the Nd:glass laser and KrF excimer laser that are being used in the current la- ser fusion experiments and related plasma experiments. Based on the GEKKO laser technology, a new high-energy Nd:glass laser system, which can deliver energy from 10 kJ (boad-band operation) to 20 kJ (narrow-band operation), is under construction. The key topics in KrF laser development are improved efficiency and repetitive operationwhich aim at the development of a laser driver for fusion reactor. Ultra-intense-laser technology is also very impor- tant for fast ignition research. The key technology for obtaining the petawatt output with high beam quality is re- viewed. Regarding the uniform laser irradiation required for high-density compression, the beam-smoothing meth- ods on the GEKKO XII laser are reviewed. Finally, we discuss the present status of MJ-class lasers throughout the world, and summarize by presenting the feasibility of various applications of the high-energy lasers to a wide range of scientific and technological fields. Keywords: high-power laser, Nd: glass laser, KrF laser, PW laser, IFE driver corresponding author’s e-mail: [email protected] *現在の所属:光産業創成大学院大学 The Graduate School for the Creation of New Photonics Industries, Hamamatsu, Shizuoka 431-1202, Japan J.PlasmaFusionRes.Vol.81,Suppl.(2005)48‐58 48

大出力レーザー技術の進展...Super-ASHURAにおける高効率化と高繰り返し化技術開 発をまとめ,炉用レーザーの候補としてのKrFレーザーの

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  • 1.はじめにレーザー核融合研究はレーザー技術,ターゲット技術,

    プラズマ診断および理論・シミュレーションによって支え

    られている.本論文では,ターゲット爆縮と燃料加熱実験

    で最も大きな鍵を握る大出力レーザー技術について解説す

    る.現在,核融合用のレーザーとして用いられているのは,

    NdガラスレーザーとKrF エキシマーレーザーであり,我

    が国では前者は大阪大学レーザーエネルギー学研究セン

    ター,後者は産業技術総合研究所および電気通信大学レー

    ザー新世代研究センターにおいて開発されてきた.レー

    ザー核融合および流体力学あるいは輻射過程などの関連す

    るプラズマ実験を行うには,kJ 級のレーザー出力が必要で

    あり,そのような大出力レーザーの開発は,主として主増

    幅器の高効率・コンパクト化と多様な実験から要求される

    様々な機能の導入である.

    本論文ではまず第2節で既存設備である激光XII 号ガラ

    スレーザーに触れ,近未来の点火実証実験のためのガラス

    レーザー開発の進展状況を述べる.次に第3節では,

    Super-ASHURAにおける高効率化と高繰り返し化技術開

    発をまとめ,炉用レーザーの候補としてのKrFレーザーの

    可能性について述べる.近年の高速点火研究の進展によっ

    て,核融合用レーザーには大エネルギーのみならず,ペタ

    ワット(PW)級のピーク出力を有する超短パルス超高強度

    レーザーが不可欠となっており,ガラスレーザーのチャー

    プパルス増幅とパルス圧縮技術が大いに進展している.第

    4節では,現在,激光XII 号レーザーと同期して燃料加熱

    実験に活用されている PWレーザーについて述べる.第5

    節では,大出力レーザーの多機能化の中でも最も重要な照

    射均一性の改善技術について概要を述べる.第6節では,

    世界における大出力レーザー建設の現状を紹介し,最後に

    それらの大出力レーザーの核融合以外の分野への応用の可

    能性にふれて本論文をまとめる.

    2.爆縮用ガラスレーザーシステム2.1 大出力ガラスレーザーの歴史

    ガラスレーザーはレーザーとしては古い部類に属し,

    解説1.レーザー核融合研究の進展1.3 レーザー核融合技術の進展

    大出力レーザー技術の進展

    宮永憲明,金辺 忠1),奥田 功2),北川米喜*,中塚正大(大阪大学レーザーエネルギー学研究センター,福井大学大学院工学研究科1),産業技術総合研究所2))

    Progress in High-Energy Laser Technology

    MIYANAGA Noriaki, KANABE Tadashi1), OKUDA Isao2), KITAGAWA Yoneyoshi*

    and NAKATSUKAMasahiro

    Institute of Laser Engineering, Osaka University, Suita 565-0871, Japan1)Graduate School of Engineering, University of Fukui, Fukui 910-8507, Japan

    2)National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Tsukuba 305-8568, Japan

    (Received 11 December 2004 / Revised 11 March 2005)

    The technological development of high-energy lasers is one of the key issues in laser fusion research. This pa-per reviews several technologies on the Nd:glass laser and KrF excimer laser that are being used in the current la-ser fusion experiments and related plasma experiments. Based on the GEKKO laser technology, a new high-energyNd:glass laser system, which can deliver energy from 10 kJ (boad-band operation) to 20 kJ (narrow-band operation),is under construction. The key topics in KrF laser development are improved efficiency and repetitive operation,which aim at the development of a laser driver for fusion reactor. Ultra-intense-laser technology is also very impor-tant for fast ignition research. The key technology for obtaining the petawatt output with high beam quality is re-viewed. Regarding the uniform laser irradiation required for high-density compression, the beam-smoothingmeth-ods on the GEKKO XII laser are reviewed. Finally, we discuss the present status of MJ-class lasers throughout theworld, and summarize by presenting the feasibility of various applications of the high-energy lasers to awide rangeof scientific and technological fields.

    Keywords:high-power laser, Nd: glass laser, KrF laser, PW laser, IFE driver

    corresponding author’s e-mail: [email protected]

    *現在の所属:光産業創成大学院大学 The Graduate School for the Creation of New Photonics Industries, Hamamatsu, Shizuoka 431-1202, Japan

    J. Plasma Fusion Res. Vol.81, Suppl. (2005)48‐5848

  • 1961年 Snitzer により開発に成功している[1].1970年以

    降,大きなレーザーエネルギーを必要とするレーザー核融

    合用[2‐4]として,固体レーザーの中でもガラスレーザー

    [5‐6]は主要な役目を果たしている.当初の核融合用レー

    ザーシステムでは主にケイ酸塩系ガラスが使用されていた

    が,非線形屈折率が小さく,高いピークパワーにより適し,

    利得の大きいリン酸塩系ガラスが使用されるようになっ

    た.近年,製造面で通常の光学ガラスのような連続溶解技

    術がレーザーガラス製造でも開発され.低コスト化に成功

    している[7].

    核融合研究用レーザーとして,1970年代から急速に高出

    力ガラスレーザーの建設が開始された.10 J,1 GWクラス

    から出発し,高出力化のために大口径ディスク増幅器

    [8,9]の開発,高性能レーザーガラス[10]の開発,スペー

    シャルフィルター[11],像転送方式[12,13]等の数多くの

    目覚しい技術開発がなされた.15年後には 100 kJ,100 TW

    のガラスレーザー[14]が出現するようになり,米国ローレ

    ンスリバモア国立研究所(LLNL)では 100 kJ の Nova[15‐

    18]が建設された.現在,米国LLNLではパルス出力1.8 MJ

    の National Ignition Facility(NIF)の建設が進んでいる

    [19,20].またフランスの LMJの建設計画[21]など,各国

    で核融合点火・燃焼を目標とする動きが活発である[22].

    我が国では阪大レーザー研で,1975年から次々と大型化が

    進み,世界初のリン酸塩ガラスレーザーシステム激光Ⅳ号

    [23]を経て激光MⅡ号[24]が建設され,1983年には 20 kJ

    激光 XII 号[25‐27]が完成し,現在でも安定に稼動してい

    る.

    2.2 激光 XII 号レーザー装置

    激光ⅩⅡ号レーザー(波長 1.053 μm)は発振器部,前置増幅器列,および12ビ-ムの主増幅器列より構成され,最

    終ビ-ム口径は 350 mm�である.主増幅器列は2台の 50

    mm�ロッド増幅器,2台の100 mm�ディスク増幅器,3台

    の 200 mm�ディスク増幅器より構成されている(Fig. 1).

    レーザーシステムとしては,主発振器とパワー増幅器から

    なるMOPA(Master Oscillator Power Amplifier)システム

    である.

    激光ⅩⅡ号は1983年11月より高出力増幅試験を経て,25

    kJ 出力(当時世界最大)でのターゲット照射試験が開始さ

    れた.その後,レーザーの自動運転,レーザー波形整形器,

    高耐力無反射光学素子などが導入され,1985年には直径 38

    cmの単結晶KDP(当時世界最大)を用いた第2高調波変

    換が行われ,最大変換効率86%で 0.53 μm光(グリーン光)が供給できるようになった.また1988年には第2ターゲッ

    トチャンバーに第3高調波変換素子が設置され,ブルー光

    照射実験が開始された.その後,ターゲットへの均一照射

    技術が開発され,レーザー発振部には多種のレーザー照射

    モードに対応するようにモード同期パルス,単一縦モード

    Qスイッチパルス,広帯域レーザーパルス,部分コヒレン

    ト光の発生システムが装備されている.Fig. 2 に激光XII

    号のパルス幅に対する出力実績を示す.

    この装置は,現在世界最長寿の大型レーザー装置であ

    り,稼働開始から21年後の現在も年間スケジュールに基づ

    き安定に出力を供給しており,2004年暮れには通算3万

    ショットを超える見込みである.この激光XII 号に付随し

    て,1996年には,激光ⅩⅡ号レーザーに高速点火基礎実験

    装置としてペタワット(PW)ビームが増設された.ま

    た,2003年から,大出力レーザーの多目的利用のために以

    下に述べる LFEXレーザー(出力>10 kJ)の建設が開始さ

    れた.

    2.3 アレイ型多重パスガラスレーザー装置

    高速点火原理実証実験計画FIREX(Fast Ignition Reali-

    zation Experiment)は第Ⅰ期と第Ⅱ期に分かれており,第

    1期では立ち上り時間 1~2 ps,パルス幅~10 ps で,出力

    エネルギー 10 kJ が必要とされている.LFEXレーザー

    (Fig. 1 の写真の左側のビーム列)は広帯域チャープパルス

    増幅モード(詳細は第4節参照)でFIREX I 期に必要なエ

    ネルギーを出すことが可能であり,パルス圧縮器を付加す

    ることによって,2007年度までに最大パワー10 PW級の高

    エネルギー超高強度レーザーの完成を目指している[28].

    レーザーシステムは,高効率化と低コスト化のために

    40 cm×40 cmの角型ビームの 2×2セグメント増幅器を

    採用し,新規に考案した4回往復光路を有した増幅を行う

    Fig. 2 Pulse length dependences of output power (▲) andpulse energy (●) on GEKKO XII laser.

    Fig. 1 Photograph of GEKKO XII laser system (right side) and10-kJ PW laser system (LFEX, leftmost truss) under theconstruction.

    Commentary Progress in High-Energy Laser Technology N. Miyanaga et al.

    49

  • 方式である.ビーム数は増幅器部では4ビーム構成であ

    る.Table 1 に激光ⅩⅡ号,PWレーザー(第4節参照),

    LFEX,FIREX II 期のレーザー性能比較を示す.

    LFEXの増幅システムのコンポーネントは,2003年春か

    ら設計・開発されてきた.このレーザー増幅器は,米国で

    現在建設中の世界最大のレーザーNIFと同等の40 cm×40

    cmの角の開口である.因に,激光ⅩⅡ号の最終増幅器は

    直径20 cm,PWレーザーは35 cmであり,ともに円形開口

    である.新規増幅器には幅 81 cm,高さ 46 cm,厚み 4 cm

    の角型のレーザーガラスを採用した.Fig. 3 に LFEXに使

    用されているレーザーガラスを示す.励起光源には大エネ

    ルギーで高効率の発光を可能にするために,激光XII 号,

    PWレーザーのフラッシュランプは内径が16 mmであるの

    に対し,42 mmの大口径のもの開発した. LFEX増幅シ

    ステムのレーザーガラスの総数は32枚であり,フラッシュ

    ランプの総使用本数は216本である.総蓄積電気エネル

    ギーは,激光XII 号では 22 MJ であるが,LFEXでは 6 MJ

    まで低減させた.長パルスモードでは,4ビーム合計で激

    光XII号並みの20 kJの出力エネルギーが得られる設計であ

    る.

    LFEXレーザー増幅器は,効率を高めるために従来型の

    単独増幅器を並べた構造ではなく,上下2枚組みで横2列

    のレーザーガラスを3列のフラッシュランプ群で挟み込

    GEKKO XII PW LFEX FIREX-II

    1983 1996 2004 Planed

    System characteristics

    Number of beams 12 1 4 24

    Diameter of final amplifier cm 35 35 40×40 40×40

    Output beam size cm 20 35 40×40 40×40

    Total output energy kJ 20 4 24 (12) 144

    Energy/beam kJ 1.6 4 6 (3) 6

    Capacitor bank energy MJ 22 1.6 5.4 32.4

    Amplifier system MOPA 3 pass 4 pass 4 pass

    Laser efficiency % 0.09 0.25 0.44 0.44

    Amplifier efficiency % 0.52 1.17 2.00 2.00

    Extraction efficiency % 17.5 21.4 22.2 22.2

    Laser glass

    Type LHG 8 LHG 80 LHG 8 LHG 8

    Nd doping wt% 2 2.9 4.2 4.2

    Dimension 21×40×3.2 38×69×4.5 46×81×4 46×81×4

    Number of slabs 1/chain 8 8 8

    Total number of slabs 8 32 192

    Flash lamp

    Dimension cm 180×1.6 180×1.6 90×4.3 180×4.3

    Input energy kJ 13.7 13.7 37.5 37.5

    Energy density J/cc 37.9 37.9 17.8 17.8

    Shot life 10,000 10,000 30,000 30,000

    Current density kA/cm2 4.3 4.3 1.9 1.9

    Total number of lamps pieces 1536 120 216 720

    Amplification characteristics

    Input energy density J/cc 81 26 15 15

    Stored energy density J/cc 0.42 0.24 0.25 0.25

    Gain coefficient %/cm 8.9 5.36 5.52 5.52

    Table 1 Detailed performance of high-power Nd:glass laser systems at Osaka University.

    (broad-band operation)

    Fig. 3 Structure of 2×2 arrayed amplifier (a) and glass slab of46×81×4 cm3 being used in LFEX system.

    Journal of Plasma and Fusion Research Vol.81, Suppl. 2005

    50

  • み,開口が2列2段の4ビーム集積型のセグメント構造と

    した.レーザーガラスの冷却速度と温度均一化による

    ショットレート向上のために新考案の可動型ガスノズルを

    装着している.また光路中には,集光特性を回折限界近く

    にまで高めるために個々のビームに2個の可変型鏡を設置

    する.

    さらに,この装置の特筆すべき光学コンポーネントとし

    てファラデー回転子がある.口径が大きくなるとファラ

    デー回転子は膨大な電源設備(コンデンサーと充電電源)と

    それに伴うコスト増大を招く.そのために,Fig. 4に示すよ

    うにファラデー回転子に超伝導磁石を世界で始めて採用し

    た.この超伝導磁石は直径 1.3 mの空間にわたって 1.6 T

    の均一磁場を作ることができ,磁場中に 2×2アレイの

    ファラデーガラスを設置して45度の旋光角を得る.

    2004年の春には,すべてのコンポーネントの開発・製造

    と,システムの設置を終えている.コンポーネントの最終

    調整と光軸調整を経て,2004年度末までに高出力増幅試験

    が終了する予定である.

    3.KrF レーザーシステム産総研では,KrF レーザードライバー技術の確立を目的

    として,電子ビーム励起KrFレーザーの高繰り返し動作技

    術の開発を進めている.この節では,高繰り返しレーザー

    装置の開発状況,および実用炉用ドライバーへの技術的見

    通しについて述べる.

    3.1KrF レーザーの高繰り返し化技術開発

    KrFレーザーはガス媒質であるため高繰り返し動作にお

    いて本質的な困難さがなく,高い内部効率を有し,大面積

    電子ビームによる大容積レーザーガスの高効率励起が可能

    なので,大口径化,大出力化が容易である.さらに燃料球

    へのエネルギー投入に有利な紫外域の波長を有し,広い波

    長幅によりレーザー光強度分布の平滑化,標的の一様照射

    が容易である等,エネルギードライバーとして優れた能力

    を有している.産総研ではこれまで開発した大口径KrF

    レーザー“Super-ASHURA”(60 cm径,レーザー出力約 3

    kJ[29])の成果を基に,レーザードライバーで必須な連続

    動作技術の確立を目的として,電子ビーム励起KrF レー

    Fig. 4 1.6-T superconducting magnet of 130-cm bore diameterdeveloped for Faraday rotator.

    Fig. 5 High-repetition-rate electron-beam-pumped KrF laser at AIST.

    Commentary Progress in High-Energy Laser Technology N. Miyanaga et al.

    51

  • ザーの高繰返し動作技術の開発に着手した[30].開発中の

    高繰り返しKrF レーザー装置(20 J,1 Hz)を Fig. 5 に示

    す.高繰り返し動作のための課題はレーザー装置各部の高

    耐力化であり,電子ビーム発生部(ダイオード)の長寿命

    化,ダイオード真空部とレーザーガスを隔てる電子ビーム

    透過膜(圧力フォイル)の冷却等の技術開発を進めている.

    高繰り返しレーザー装置の電源部では,高電圧スイッチ

    の長寿命化を目的として磁気スイッチをベースとした回路

    を整備した(Fig. 5)[30].放電式スイッチによる初段蓄積

    コンデンサーC0(30 kV,8台)の放電後,昇圧トランスお

    よび1段の磁気圧縮を経てパルス成形線路 PFLを充電し

    (300 kV,0.2 μs),さらに磁気スイッチで PFLを駆動している(300 kV,80 ns).電子ビームは真空中の陰極(平面状

    電界放出板 65×8 cm2)と陽極フォイルの間で生成し(~7

    Ω),陽極フォイルおよび圧力フォイルを通してレーザーガス(~1気圧)に打込む(Fig. 5).圧力フォイルでは電子

    ビーム透過時の加熱による張力低下が問題になるので,高

    張力(1410 MPa,800 K),耐フッ素性を有するコバルト合

    金(Havar[31])を用い,レーザーガスの対流,熱放射,お

    よびフォイル支持リブ中の冷却水循環によって冷却する.

    圧力フォイルでは高張力に基づく薄膜化(<12 μm)により電子ビーム蓄積を減らし(23 μm厚Ti相当),また両フォイル間には冷却ガスを流さずHibachi の開口率も大きいので

    (84%),既存装置と同程度の電子ビーム透過率で圧力フォ

    イルの冷却が可能である.陰極には従来のベルベットとと

    もに高耐力材料を用いた鋸歯状電界放出板も使用し,電子

    ビーム源の長寿命化を進めている[32].

    このレーザー装置において電子ビームが 1 Hz で安定に

    得られており(ジッター<10 ns[33]),レーザーガス励起実

    験等を進めている[34].レーザーガス圧力の時間変化を蓄

    積パルスエネルギーとともにFig. 6 に示す.同装置では前

    述の高耐力電子ビーム源を用いて,1 Hz の繰返し頻度で約

    1時間の連続動作を達成しており,また低出力ながら 2 Hz

    動作を開始している[32].圧力フォイルの寿命に関して

    は,これまで同一のフォイルで合計約 8,000 ショットの電

    子ビーム打込みを確認しているが,まだ耐久性に問題は見

    られていない.電子ビームエネルギーは最大580 J/パルス

    が得られており,レーザーガス中の蓄積エネルギーはFig.

    6 の圧力パルス波高から 280 J/パルスと計算される[35].

    1 Hz 動作での飽和レーザー増幅は未着手であるが,この結

    果は全ガス断面積(19×29 cm2)で十分な飽和増幅を行った

    場合(内部効率9%/60 cm径増幅器[36]),パルスあたり

    25 Jのレーザー光を1 Hzの繰返し頻度で連続的に取り出す

    ことに相当する.

    圧力フォイルについては,1 Hz 動作でフォイル冷却性能

    の評価を進めている.冷却水循環およびレーザーガス自然

    対流の下で行ったフォイル温度の赤外線計測結果を計算結

    果とともにFig. 7 に示す[37].横軸は圧力フォイルにおけ

    る電子ビームの平均蓄積パワー Pdep(単位面積パルス蓄積

    エネルギー×繰返し頻度),縦軸は電子ビーム注入口(4.2

    ×11 cm2)の中央における圧力フォイルの温度��(1 Hz

    での上下限)である.実験結果は計算結果(定常熱計算)で

    ほぼ説明されており,2 Hz 程度までは自然対流でもフォイ

    ル温度が張力を考慮した許容範囲(~800 K[31])に納まる

    見通しである.現在�����0.1~0.2 W/cm2,���500~700

    K の範囲で実験しているがフォイルの劣化は見られてい

    ない.電子ビーム注入口の中央(��最大)における圧力フォ

    イルの冷却機構は,フォイル両面からの熱放射とレーザー

    ガス中の自然対流がともに50%程度と概算される[37].他

    方,炉用ドライバー条件下でさらに高繰り返し化した場合

    (����~1.0 W/cm2,~5 Hz)には,レーザーガスの循環に

    よって対流冷却を増強しフォイル温度を現状に維持するこ

    とになる.既に強制対流の下でレーザーガス流を機械的に

    乱流と層流に切り替え,フォイル冷却とレーザー増幅を交

    互に行う方式が実験されている[38].現在,冷却システム

    の簡素化のためにフォイルおよびレーザーガス容器の放射

    率増加による放射冷却の促進,および高����領域での冷却

    性能評価のための 2 Hz 定格動作実験を進めている.

    装置を大型化した場合に関しては,電源部における PFL

    Fig. 6 Temporalevolutionof the laser-gaspressureanddepos-ited electron-beam energy per pulse in the gas.

    Fig. 7 Pressure-foil temperature (Tp) vs. average depositedelectron-beam power per area in the pressure foil (Pdep).Measured peak and valley temperatures are shown assolid dots and open circles, respectively. Calculated val-ues shown as solid lines correspond to two anode-foiltemperatures (Ta)assumed to be Ta = 300 K and Ta =Tp.

    Journal of Plasma and Fusion Research Vol.81, Suppl. 2005

    52

  • 充電回路の簡素化により高いドライバー効率が得られると

    見積もられる.磁気パルス圧縮では磁気スイッチのエネル

    ギー損失を考慮し一般に圧縮比を5程度とするため,大型

    装置では PFL充電側で圧縮段数が増加しエネルギー転送

    効率が著しく低下する.しかし電子ビームダイオードに供

    給するエネルギーを多数のPFLに分割し,また高速大電流

    スイッチの使用により縮小された各PFLの容量を��から

    直接短時間で充電することが可能になる[39].この回路構

    成をFig. 8 に示す.この回路では��と PFLを線形誘導電

    圧重畳器(LIVA)で直接接続し,圧縮段数の削減によりエ

    ネルギー転送効率を向上させ,また昇圧トランス(漏れリ

    アクタンス)の排除も PFL充電時間の短縮を容易にしてい

    る.この回路構成により��からダイオードまで80%以上の

    エネルギー転送効率,レーザー光出力まで 5.5%以上の

    レーザー装置総合効率が試算されている[39].

    3.2 炉用レーザードライバーとしての技術的見通し

    以上,高繰り返しKrF レーザーの概要を述べた.パルス

    パワーに関しては磁気スイッチをベースとした回路で高繰

    り返し化,高耐力化が可能であり,初段スイッチの固体化

    [40]により一層の長寿命化が見込まれる.また多数の小容

    量PFLを通してエネルギーを並列転送することにより,大

    出力,高繰り返し回路においても高効率化が可能である.

    電子ビーム源に関しても高耐力化が図られており,電界放

    出等,電子放出板の加工技術は多数あるので[41‐43],大面

    積電子ビーム源の長寿命化は可能であろう.圧力フォイル

    に関してはドライバーで想定される温度領域において高張

    力フォイルの耐久性が確認されつつあり,またドライバー

    の熱負荷条件においてもレーザーガスの強制対流あるいは

    放射冷却により温度管理が可能と予測される.その他光学

    窓の高耐力化等,レーザーシステム全体の長寿命化を図る

    必要があるが,現在進行中の各種技術開発を通してレー

    ザードライバーで要求される大エネルギー,長寿命,高効

    率,高繰り返し動作が可能な核融合用KrFレーザーの基礎

    技術が確立されるものと期待される.

    4.加熱用ペタワットレーザーシステム世界最高出力のプリパルスのないPWレーザーシステム

    が2002年に阪大レーザー研で完成し,稼働している.出力

    0.9 PWのNdガラスレーザーであり,高密度プラズマ加熱,

    粒子加速,超高強度電磁波と物質相互作用などの基礎研究

    に利用されている[44].その特徴の第1は,光パラメト

    リックチャープ増幅法(OPCPA)を大強度レーザーシステ

    ムに初めて導入し,プリパルスを主パルスの 1.5×10-8 以

    下に抑えたことである[45].直径 94 cmの平面回折格子対

    を用いてダブルパス圧縮法によって,口径 50 cmのレー

    ザービームを 470 fs に圧縮し,それによって 0.9 PWを得

    た.そして,軸外し誘電体多層膜反射放物面鏡により 2.5

    ×1019 W/cm2にまで集光される.第2の特徴は,ペレット

    ターゲットを爆縮する激光XII 号レーザーと完全同期して

    動くことである.これによって,ターゲット爆縮直後の停

    留相(stagnation phase)のタイミングに合わせて,正確に

    PWレーザーを照射できるようになった.

    最初にPWレーザーを完成させたのは,米国LLNLのM.

    Perry らである[46].パルス幅 440 fs,エネルギー 660 J

    で1.5 PWであったが,ノバビームの1ビームを借用したも

    ので,かえってノバレザーそのものと協同はできず,単独

    運転しかできない.その後,NIF 建設のためにシャットダ

    ウンされた.一方,阪大では60 TWの激光MII号レーザー

    (GMII[47])に引き続き,100 TWレーザー PWモジュール

    [48]の成果を基に PWレーザーを完成させて,高速点火方

    式の可能性を初めて実験的に示した[49‐51].なお,英国ラ

    ザフォードアップルトン研究所にも2003年にPWレーザー

    が完成している.

    Fig. 9(a)はPWレーザー装置のブロック図である.フロン

    トエンドはNdガラスモード同期発振器,パルスストレッ

    チャー,2段OPCPAからなり,ガラスレーザー増幅部は

    ロッド増幅器,カセグレイン型ディスク増幅器,スペー

    シャルフィルター SF350,ファラデー回転器FR200から構

    成されている.出力ビームはビーム伝搬部に設置した可変

    鏡で波面補正処理をした後に,パルス圧縮部,集光部へと

    導かれる.増幅部では PWの出力を得るためにスペクトル

    狭帯域化を抑え,また,集光性能を確保するためにB積分

    値を抑えることを目標とした.パルス圧縮用回折格子は世

    界最大の直径 94 cmである.表面の光学損傷閾値 400 mJ/

    cm2によって圧縮器出力は 500 J に制限される.激光XII

    号ターゲット I室内に配置された圧縮容器,集光容器の写

    Fig. 8 Conceptual design of a high-efficiency, high-repetition-rate pulsed power system for a 65 kJ KrF laser module of a multi-megajoule laser-driver system.

    Commentary Progress in High-Energy Laser Technology N. Miyanaga et al.

    53

  • 真をFig. 9(b)に示す.

    Fig. 10(a)は PWレーザーの主増福器である.カセグレイ

    ン望遠鏡の主鏡と副鏡の間に口径35 cmのディスク増幅器

    が4台直列に並べられている.Fig. 10(b)は増幅ビームの断

    面像であり,鋸歯状開口と空間周波数フィルタリング(5

    節参照)によってエッジ付近の回折リングが抑制されてい

    る.また,増幅部,圧縮部での波面歪みを補正して集光性

    能を向上させるために,Fig. 11 に示す直径 40 cmの可変鏡

    をパルス圧縮部の直前に導入した.

    高速点火の原理を実証するには,爆縮相,停留相のどの

    タイミングでPWレーザーを照射すべきかが重要な鍵とな

    る.停留相は約100 ps続くので,爆縮用のGXIIレーザーと

    PWレーザーの同期精度は10 ps以下でなければならない.

    これを実現するため,PWレーザーのフロントエンドから

    チャープパルス光の一部取り出し,GXIIレーザーの種光と

    した.これにより完全同期システムが構築可能となった.

    Fig. 12 は PWレーザーの集光性能をX線ピンホール像に

    よって観測したものである.焦点深度はレーリー長(400

    μm)に一致し,最高輝度の集光位置は-1.4 mmのところであった.

    以下に,PWレーザーの主要達成値を上げる.

    � チャープパルス増幅出力:1.1 kJ� プリパルス比:1.5×10-8(フロントエンドのOPCPAによる)

    � 出力スペクトル幅:>3.6 nm,B積分値:<1.4 rad� フィリングファクター:0.62(鋸歯状開口とギャッシュロッドガラスの導入による)

    � 圧縮パルス幅:470 fs,集光エネルギー:420 J� エンサークルドエネルギー:20%(直径 30 μm),集光

    強度:2.5 ×1019W/cm2

    � PWレーザーと激光XII 号ビームとの同期ジッター:<10 ps

    5.レーザービームの均一化制御技術レーザー核融合では爆縮用レーザーの照射不均一性を

    1%以下に抑える必要があり,この節では照射均一性改善

    Fig. 9 (a): Diagram of the PW Laser configuration. (b): Compression chamber of PW laser of which dimension is 11.5 m in length and2.7 m in diameter.

    Fig. 10 (a) Four modules of the 350-mm disk amplifier in the PW main amplifier. (b) Near field pattern measured at 567-J output en-ergy.

    Journal of Plasma and Fusion Research Vol.81, Suppl. 2005

    54

  • のためのビーム制御技術に関して述べる.均一照射の要素

    技術は,個々のビームの強度分布および波面一様性の改善

    と多ビーム照射におけるランダム干渉スペックルの低減に

    大別できる.

    5.1 ビーム一様性の改善

    核融合用レーザーのように大口径で多数の光学素子を用

    いる多ビームシステムでは,コスト低減のために光学素子

    の波面性能に過度の要求はできず,ビームの一様性,すな

    わちコヒーレンスの確保には空間周波数フィルタリング

    [52]と能動光学素子(可変形鏡)が用いられる.大まかな

    役割分担は,前者が高空間周波数の擾乱の除去であり,後

    者が低周波の位相擾乱の除去である(可変形鏡の詳細は4

    節を参照).高空間周波数成分には,光学素子のレーザー損

    傷によって発生するもののほかに,レーザービーム自身が

    有する成分がある.一般の産業用レーザーではガウス型

    ビームが多く用いられるのに対して,核融合用レーザーで

    は増幅器口径を有効利用するためにスーパーガウス型ビー

    ムを伝搬させる.空間周波数フィルターは2枚の凸レンズ

    を無焦点系に組んだものであり,レンズの焦点面(フーリ

    エ変換面)に置いたピンホールによって高空間周波数成分

    を除去する.ピンホールサイズは回折限界の40倍程度であ

    る.したがって,スーパーガウス型ビームエッジの強度分

    布が傾斜する幅はビーム直径の1/40程度となる.このよう

    なスーパーガウス型ビームを得る方法として,Fig. 13 に示

    すような鋸歯状アパーチャがあり,これを空間周波数フィ

    ルターの入射側に置く.鋸歯状構造の半径方向のサイズ

    �に対応する空間周波数成分はピンホールを通過可能と

    し,周方向の周期�に対応する空間周波数成分はピンホー

    ルをで遮断するように設計する.単純なハードアパーチャ

    では同図(c)のように回折リングが発生するのに対して,鋸

    歯状アパーチャでは同図(d)のように強度擾乱が抑制され

    る.

    5.2 干渉スペックルの低減

    多ビームによるターゲット照射では,ビーム間干渉とい

    う本質的な問題が存在する.特に球ターゲットの表面で

    は,多ビームのランダム干渉によってランダムスペックル

    パターンが必ず発生する.このとき,隣接ビームのなす角

    度が大きいために,スペックルパターンの空間強度分布に

    は,低周波から極めて高周波までの広範囲の空間周波数ス

    ペクトルが存在する.そのために,必然的にスペックルの

    平滑化が不可欠となり,レーザービームの時間周波数領域

    での広帯域化(以下単に広帯域と記す)が必要となる.つ

    まり,2つの相反する性能であるのコヒーレントと広帯域

    化のバランスをとりながら,増幅・伝搬と高調波変換を行

    う必要がある.ターゲット爆縮ではそのごく初期段階での

    照射不均一性インプリントの低減が不可欠であり,加速段

    階では比較的低空間周波数の照射不均一性に起因する流体

    不安定性の低減が重要である.この観点から,激光XII 号

    ではレーザー整形パルスのフット部にはインコヒーレント

    に近い部分コヒーレント光(PCL :PartiallyCoherentLight)

    [53‐55]を利用し,主パルス部ではスペクトル分散レー

    ザー光(SSD : Smoothing by Spectral Dispersion)[56‐58]を

    用いている.

    5.3 部分コヒーレント光 PCL

    PCLは広帯域レーザーの空間コヒーレンスを低下させる

    Fig. 11 40-cm deformable mirror. Silica plate is 7 mm in thick-ness and 40 cm in diameter and is driven by 37 actua-tors connected to a personal computer.

    Fig. 12 X-ray pinhole photographs of high power shots. Dis-tance between the parabola mirror and target ischanged from 2.2 to 0.7 mm before the calculated fo-cal point. The best point was -1.4 mm.

    Fig. 13 Serrated aperture (a), zoom-in picture of aperture edge(b), beam pattern with hard aperture (c), and beam pat-tern with serrated aperture (d).

    Commentary Progress in High-Energy Laser Technology N. Miyanaga et al.

    55

  • ことによって得られる.まず,短パルスレーザー光(パル

    ス幅 100 ps 程度)を単一モード光ファイバーに注入し自己

    位相変調する.100 ps パルスの場合,ファイバー中での非

    線形相互作用は自己位相変調とラマン散乱が競合し,得ら

    れるスペクトル幅の上限は 1 nm以下である.スペクトル

    幅 0.6 nm程度のチャープパルスを回折格子対で10 ps程度

    に圧縮した後,ビーム口径を広げて回折格子に入射し,回

    折光の空間的スキューを利用して 50 ps の矩形パルスを発

    生させる.これを階段屈折率型の多モード光ファイバーに

    入射して空間的スキューの情報を消すことによって,パル

    スのどの時刻においても同じスペクトル幅と統計的性質を

    もたせることができる.さらに光ファイバーからの出射パ

    ルスを導波路で分岐し,個々に強度を調整するとともに 50

    ps ステップの遅延時間をつけて合成することによっ

    て,2~3 ns 程度の整形パルスを得ることができる(Fig.

    14(a)参照).こうして得られたパルスをさらに回折限界の

    80倍の発散角をもつ階段屈折率型の多モード光ファイバー

    を通過させ,その出射ビームの中央部(60倍の発散角に相

    当)を抜き出して増幅する.激光XII 号の最終増幅器の出

    射パルスは飽和増幅の影響を受けて矩形パルスとなる.

    Fig. 14(b)はそのようにして発生させた PCLを第2高調波

    に変換し,ランダム位相板[59]を通して集光したときのパ

    ターンを示している.この例では,1ビームの集光不均一

    性は時間の 1/2 乗に反比例して減少し(標準偏差�∝(コ

    ヒーレンス時間/積分時間)-1/2),パルス幅 1.6 ns の間に�=3.5%に達する.なお,Fig. 14(b)で���������(第2高調

    波の波長����0.527 μm,集光F値��������)は約700 μm(激光XII 号爆縮実験での標準ターゲット直径)に相当す

    る.

    5.4 スペクトル分散レーザー光 SSD

    SSDは増幅・伝搬と波長変換まではコヒーレントであ

    り,集光パターンはインコヒーレントに近い特性を有する

    レーザー光である.SSDレーザー光の概念はFig. 15(a)に示

    すようなものであり,数GHz~20 GHz で位相変調された

    ビームを回折格子で回折させることによって得られる.こ

    のとき,スペクトル分散方向に時間遅れ(ビーム断面の傾

    斜)が生じるので,回折ビーム断面には異なった波長の光

    が配列する.この色配列の空間周期は位相変調の時間周期

    とスペクトル分散方向の時間遅れで決まる.また,SSD

    レーザー光のスペクトル角度分散をKDP(KH2PO4)などの

    波長変換素子の位相整合条件に合わせることによって,広

    帯域でも高効率の波長変換が可能となる.Fig. 15(a)では2

    段変調の直交2方向スペクトル分散の例を示しており,出

    力ビームの遠視野パターンは正方形の領域に位相変調に伴

    うサイドバンド周波数成分が碁盤目状に並ぶ.したがっ

    て,この2方向SSDビームをランダム位相板あるいはキノ

    フォルム位相板[60,61]を通して集光すると,遠視野パ

    ターンにはサイドバンド配列に起因する周期性が発生し,

    特定の空間周波数における流体安定性を生起する恐れがあ

    る.この周期性を低減するには,変調器の段数を3段に拡

    張し,3つの変調器の変調周期の最小公倍数ができるだけ

    大きくなるようにし,各々の変調周波数に対応するスペクFig. 14 Example of shaped PCL pulse (a) and irradiancepattern

    observed with an RPP (b).

    Fig. 15 Principle of one directional SSD (a), far-field patternwithout RPP (b) and far-field pattern with RPP (c).

    Fig. 16 Full scope of NIF system (a) and beam staging of NIFbeam line (b).

    Journal of Plasma and Fusion Research Vol.81, Suppl. 2005

    56

  • トル分散の方向を120°ずつ回すことによって,Fig. 15(b)

    のように6角形の領域内に比較的不規則にサイドバンド成

    分を配列させることができる.このような3方向SSDビー

    ムをランダム位相板を通して集光すると,Fig. 15(c)のよう

    に一様な集光パターンを得ることができる[62,58].

    6.海外における開発動向1990年代までに核融合反応の点火に必要なプラズマ温

    度,密度はそれぞれ独立にではあるが,阪大レーザー研に

    おいて達成された.その結果を受け,間接照射型の核融合

    方式で,核融合パラメータの同時達成と10-20の中程度の

    核融合利得実証に向けて,出力2MJ級の超大型ガラスレー

    ザーが米国 LLNL(NIF: National Ignition Facility,196ビー

    ム,1.8 MJ)[63]とフランス,ボルドーの原子力研究所

    (LMJ: Laser Mega Joule,240ビーム,2.4 MJ)[64]で建設さ

    れつつある.中国においても60ビームシステム(神光 III

    号,60ビーム,120 kJ)が成都近辺の綿陽市の国立レーザー

    核融合研究所に建設中である.

    NIF レーザーは口径 35 cmの矩形ビームシステムであ

    り,ディスク増幅器は4段2列のアレイ構造を有してい

    る.照射均一性を高めるため,僅かに波長の異なる4ビー

    ム(2×2アレイ)を単位として48クワッド(quad)で構

    成されている.主増幅部は多重パス増幅部とその後のブー

    スター増幅部からなる.2004年までのビームライン試験で

    は,基本波で 21 kJ(192ビーム換算で 4MJ),緑色変換後で

    11.4 kJ(同 2.2 MJ),青色変換後では 10.4 kJ(2 MJ)と基本

    仕様を達成している.2007年から実験に入り,2010-13年

    の核融合利得実験を目指す.Fig. 16 に全景図と主増幅器部

    以降のビームライン構成を,Fig. 17 には増幅器ヘッド構造

    と出力ビームパターンを示す.

    7.まとめ2000年代に入り,阪大の直接照射型研究でピコ秒パルス

    による高速点火方式が提案され,実験結果もこの方式によ

    る高効率,高利得の優位性を示しつつある.高速点火実験

    に必要な高エネルギーPWレーザーの建設も,阪大の10 kJ

    /10 ps システムに続いて,世界各国(米国ロチェスター大

    学,中国上海光機所等)で同様の計画が進展しつつある.こ

    のようなガラスレーザーの大出力化開発と並行して,KrF

    レーザーでは主として高効率・高繰り返し化技術に主眼を

    おいて着実な成果が上がっている.

    核融合研究用レーザーシステムの開発は,その当初より

    高出力レーザー開発の牽引車と言われてきた.パルス幅が

    ピコ秒以下の超強度レーザーを含めて応用範囲を考えてみ

    ると,MJ級のレーザーは未だ他に比類を見ないものであ

    る.Fig. 18 に将来における高出力レーザーの応用範囲を

    レーザーパラメーターマップにして示し,核融合研究用

    レーザーの位置を併せて示した.科学課題,技術課題共に

    現在のレーザーでは実行できないものであり,パワーフォ

    トニクスが新しい高密度レーザーエネルギー学を開拓する

    道を先導することが期待される.

    謝 辞KrF レーザーの研究は,原子力委員会の評価に基づ

    き,文部科学省原子力試験研究費により実施されたもので

    ある.

    参 考 文 献[1]E. Snitzer, Phys. Rev. Lett. 7, 444 (1961).[2]D.C. Brown, High-Peak-Power Nd: Glass Laser Systems

    (Springer, New York, 1981).[3]Selected Papers on High-Power Lasers : SPIE vol.MS43,

    Fig. 17 (a): 4×2 arrayed amplifier head, (b): assembled 4×1 laser slabs, and (c): 35-cm beam pattern of green (second harmonic, left)and blue (third harmonic, right) beams.

    Fig. 18 Application map of ultra-high-power laser.

    Commentary Progress in High-Energy Laser Technology N. Miyanaga et al.

    57

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