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1 パターン認識を用いた 特定のベーシストの特徴の分析 日本大学 文理学部 情報科学科 松浦 佳輝

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パターン認識を用いた特定のベーシストの特徴の分析

日本大学 文理学部 情報科学科

松浦 佳輝

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背景

ベース

・・・ロックバンドにおいて重要なパート

ベースパートで奏でられるフレーズ(ベースライン)は楽曲の特徴に大きく影響を与えることも少なくない

ベースラインには、そのアーティストらしさが現れる

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背景

アーティストごとのベースラインの特徴は、不変というわけではない

● 時代の移り変わり● バンドメンバーの変更● 本人の音楽的好みの変化など

19891989年年『『Higher GroundHigher Ground』』

19991999年年『『Parallel UniverseParallel Universe』』

Red Hot Chili Peppers

Ba.Ba. Ba.Ba.

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背景

このような時系列的な変化・・・

音楽専門雑誌などで定性的に語られることはある

定量的な分析はあまり見られない

定性的な特徴の例● 歌のバックではよりシンプルでストレートに● 歌をよりサポートするベースを弾くようになる

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過去の定量的な旋律の分析

● 音楽作品の計量的特徴抽出[平野充 他、2016]

● 旋律に潜むアーティストの特徴を捉えた楽曲間類似度[鈴木崇也 他、2011]

特定のベーシストに着目した研究は少ない

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概要

調べる対象

Flea(Red Hot Chili Peppers)

音楽専門雑誌で定性的に語られているFleaの ベースラインの特徴を、定量的に分析し検証する

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対象楽曲

発売年 アルバム名 曲数

1989 Mother's Milk 13

1991 Blood Sugar Sex Magik 17

1999 Californication 15

2002 By the Way 16

2006 Stadium Acadium 28

2011 I'm with You 14

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定性的なFleaの特徴

1999年、 ギタリストのJohn Fruscianteがバンドに復帰

● 「ジョン・フルシアンテ復帰後の『カリフォルニケイション』はさらにメロディアスな楽曲が増え、アンソニーの”歌う”ヴォーカルを軸にしたサウンドは、バンドが新たなステップに進んだことを実感させる」

● 「ジョン・フルシアンテの湧き出るアイディアを具現化する形で、バンドはより歌を聴かせる方向へとシフト。同時にフリーもヴィンテージのジャズ・ベースを手に、歌をよりサポートするベースを弾くようになる」

『ベース・マガジン 2007年6月号』

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定性的なFleaの特徴

● 「バイ・ザ・ウェイは驚くほどジョンのアルバムとなった。前作のメロディ路線をさらに押し進め、(中略)たとえば”ドント・フォゲット・ミー”は狂おしくトレモロを響かせるギターが主役であり、その後ろで淡々とコード進行を担うのはフリーである。あのバキバキのチョッパー・ベースなど見る影もない」

『クロスビートファイルVol.1 レッドホットチリペッパーズ』

1999年からFleaのベースラインの特徴が変化している

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定性的なFleaの特徴

● 「高音部で和音を使ってサイド・ギター的なプレイも行なうようになっていく」

● 「曲によってはベースの役割を放棄したかのような高音部に行きっぱなしという大胆なプレイも行なう」

『ベース・マガジン 2007年6月号』

1999年以降の楽曲の方が音高の平均値が高い

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定性的なFleaの特徴

● 「フリーのベース・プレイは、それまでのスラップ一辺倒気味のプレイからよりファンクなアプローチになり、無駄をそぎ落とした2フィンガー・ピッキングを主軸に(中略)歌のバックではよりシンプルでストレートに」

● 「バンドの変化にともない、フリーのベース・プレイもかなり変化=深化しており、シンプルに弾くべき楽曲はルート弾きを主に徹底してシンプルに弾いている」

『ベース・マガジン 2007年6月号』

1999年以降の楽曲の方が隣接音と音高が変化する割合が低い

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仮説

→これらの仮説を確かめる

【仮説1】1999年からFleaの

ベースラインの特徴が変化している

【仮説2】1999年以降の楽曲の方が音高の平均値が高い

【仮説3】1999年以降の楽曲の方が

隣接音と音高が変化する割合が低い

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仮説1 検証方法

● Red Hot Chili Peppersの楽曲を、

前期:1999年より前

後期:1999年以降の2つに分ける

● 各楽曲のベースラインから特徴量を抽出● 各ベースラインが前期・後期どちらのものか識別する

【仮説1】1999年からFleaの

ベースラインの特徴が変化している

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仮説1 検証方法

発売年 アルバム名 曲数

1989 Mother's Milk  

前期:301991 Blood Sugar Sex Magik

1999 Californication

後期:732002 By the Way

2006 Stadium Acadium

2011 I'm with You

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仮説1 検証方法

● 比較するために、– 2002年を境に前期・後期を分けた場合

– 2006年を境に前期・後期を分けた場合

計3通りで識別を行う

● 1999年を境に前期・後期を分けたときの識別率が最も高かった場合

→仮説は正しい

【仮説1】1999年からFleaの

ベースラインの特徴が変化している

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特徴量

過去の文献からの引用や雑誌の内容等に基づき、

特徴量を

「音高」「音長」「頻度」に関して57個用意

(例)● 隣接音との音高の差の絶対値がiだったときの割合

(i=0, 1, ・・・, 12)● 楽曲全体の音符の長さの最頻値● 楽曲全体の音符の数

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分類の流れ

音高

音長

頻度

weka

後期

前期

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分類

● 分類器: J48, IBk(k=3), BayesNet,     MultilayerPerceptron

分類結果 [識別率]

J48 IBk BayesNetMultilayerPer

ceptron

2:42:4 76%76% 78%78% 73%73% 84%84%

3:3 61% 54% 61% 63%

4:2 65% 55% 62% 50%

【仮説1】1999年からFleaの

ベースラインの特徴が変化している→実証された

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仮説2,3 検証方法

前期・後期で特徴が変化している

→対応する特徴量が、識別する際に効果的

→効果的な特徴量を分析することで検証する

【仮説2】1999年以降の楽曲の方が音高の平均値が高い

【仮説3】1999年以降の楽曲の方が

隣接音と音高が変化する割合が低い

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仮説2,3 検証方法

MIDIでは、音高をノートナンバーとよばれる数字で表す

● ノートナンバー

・・・ピアノの鍵盤の中央のドを60として、そこから半音ずつ  順に低音は0まで、高音は127までの各鍵盤に割り振  られた数字のこと

 シ♭(58) → シ(59) → ド(60) → ド♯(61) → レ(62)

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仮説2,3 検証方法

【仮説2】音高の平均値が、前期 < 後期

【仮説3】音高があまり変化しない→同じ音高が続きやすい   

隣接音の音高差の絶対値が0だったときの割合 に着目する

【仮説2】1999年以降の楽曲の方が音高の平均値が高い

【仮説3】1999年以降の楽曲の方が

隣接音と音高が変化する割合が低い

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属性選択

● 属性選択

・・・分類する際にどの特徴量が効果的なのかを   調べることができるもの

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属性選択

決定木(J48)で属性選択を実行

属性検証:WrapperSubsetEval

Classifier:J48

検索方法:BestFirst● 楽曲全体の音高の平均値

● 隣接音の音高差の絶対値が0だったときの割合

● 隣接音の音高差の絶対値が3だったときの回数

● 全使用音高における頻出音高上位5位までが占める割合

計4個

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属性選択の結果を反映した分類

決定木による属性選択で選ばれた4つの特徴量でwekaによる分類を行うと・・・

識別率:82%(全ての特徴量を用いたときは76%)

4つの特徴量だけで良い結果が得られた

→効果的な特徴量だと考えられる

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決定木

first:前期second:後期

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決定木 前期

(1)楽曲全体の音高の平均値

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決定木 後期

(2)隣接音の音高差の絶対値が0だったときの割合

(3)全使用音高における頻出音高上位5位までが占める割合

(1)楽曲全体の音高の平均値

【仮説2】1999年以降の楽曲の方が音高の平均値が高い

→実証された

【仮説3】1999年以降の楽曲の方が

隣接音と音高が変化する割合が低い→実証された

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結果

● 前期の曲

→音高の平均が低いベースラインが多い

● 後期の曲

→音高の平均が高く、

 同じ音を続けて弾いているベースラインが多い

Ba.Ba.

Ba.Ba.

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今後の課題

● 他の特定のベーシストや一般的なベースラインとの比較

● 音色、奏法についての特徴の分析

・・・Fleaはスラップ奏法を多用する特徴がある

指弾き、ピック弾き、スラップ奏法など奏法による違い

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まとめ

音楽専門雑誌で定性的に語られているFleaの特徴を  定量的に分析し、確かめた

1999年、 ギタリストのJohn Fruscianteがバンドに復帰

1999年からFleaのベースラインの特徴が変化している

1999年以降の楽曲の方が音高の平均値が高い

1999年以降の楽曲の方が隣接音と音高が変化する割合が低い

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[付録] 特徴量「音高」1/2

特徴量の名前

音高

楽曲中の全入力における音高の平均値同じ音高が続いた回数隣接音との音高の差の絶対値がiだったとき

の回数(i=0・・・12の13種類)隣接音との音高の差の絶対値がiだったとき

の割合(i=0・・・12の13種類)隣接音との半音進行の割合隣接音との順次進行(3度未満)の割合隣接音との跳躍進行(3度以上)の割合

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[付録] 特徴量「音高」2/2

特徴量の名前

音高

隣接音との6度以上の跳躍進行の割合隣接音とのオクターブ進行の割合隣接音との音高の差の絶対値が13 以上の

進行の割合出現回数の多い音高1位と2位の音高差ルート音の割合音長を考慮した音高の平均値

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[付録] 特徴量「音長」

特徴量の名前

音長

楽曲全体での音符の長さの平均値

楽曲全体での休符の長さの平均値

隣接音と音長が異なる割合

楽曲全体での音符の長さの最頻値

楽曲全体での休符の長さの最頻値

16分音符が出てくる割合

8分休符が出てくる割合

16分休符が出てくる割合

曲の長さ(秒数)

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[付録] 特徴量「頻度」

特徴量の名前

頻度

楽曲全体の音符の数1小節あたりの音符の数の平均値1小節あたりの休符の数の平均値1秒あたりの音符の数の平均値1秒あたりの休符の数の平均値全使用音高における頻出音高上位i位まで

が占める割合(i=1・・・5の5種類)全使用音高における頻出音高1位の平均周期