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1 スポーツ庁委託事業 スポーツ人口拡大に向けた官民連携プロジェクト・ 新たなアプローチ展開 ― スポーツ共創人材の拡大に向けて ― 報告書 2020 年 3 月 みずほ情報総研株式会社

スポーツ人口拡大に向けた官民連携プロジェクト・ …...2020/04/27  · 下「新たなスポーツの開発事業」という。),2018年度「スポーツ人口拡大に向けた官民連携プロジェクト・

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1

スポーツ庁委託事業

スポーツ人口拡大に向けた官民連携プロジェクト・

新たなアプローチ展開

― スポーツ共創人材の拡大に向けて ―

報告書

2020年 3月

みずほ情報総研株式会社

2

1. はじめに ..................................................................................................... 1

1.1. 背景・目的 ............................................................................................ 1

1.2. 用語について .......................................................................................... 2

1.3. 本事業の位置づけ ................................................................................... 4

2. 本事業の概要 .............................................................................................. 5

2.1. 本事業の全体像 ..................................................................................... 5

2.2. 実施内容 ............................................................................................. 6

3. スポーツ共創のプロモーションの推進 ....................................................................... 7

3.1. スポーツ共創ウェブ「スポつく」の構築 ................................................................. 7

3.2. スポーツ共創ウェブ「スポつく」のコンテンツ作成 ..................................................... 10

3.3. スポーツ共創ウェブ「スポつく」の閲覧状況 ......................................................... 13

3.4. その他のプロモーション .............................................................................. 17

4. スポーツ共創人材育成ワークショップ .................................................................... 18

4.1. スポーツ共創人材育成ワークショップの目的 ....................................................... 18

4.2. スポーツ共創人材育成ワークショップ in遊学塾 .................................................. 19

4.3. スポーツ共創人材育成ワークショップ合宿 ......................................................... 28

4.4. ワークショップのその後と事業効果の考察 .......................................................... 41

5. スポーツ共創会議の開催 ................................................................................ 46

5.1. 2020 スポーツ共創会議の開催 ................................................................... 46

6. まとめ ...................................................................................................... 60

1

1.1. 背景・目的

我が国の医療費が約 42 兆円に達し,その達成が喫緊の課題である中,スポーツ人口の拡大を図り,

スポーツを通じた健康増進や疾病予防により,健康寿命を平均寿命に近づけていく社会の実現が求められ

ている。また,「スポーツ基本計画」では,成人の週 1 回以上のスポーツ実施率を 65%程度とする目標を

あげている。国民のだれもが各々の年代や関心・適性等に応じて日常的にスポーツを楽しむことのできる機

会を創出し,スポーツの実施を促していく必要がある。

こうした中,令和元年度の調査における「成人の週 1 回以上のスポーツ実施率」については 53.6%で

あり,2021 年度末までに 65%程度まで引き上げるとする第 2 期スポーツ基本計画の目標からすると,

11.4 ポイントの開きがある。また,1 年間に運動やスポーツをしておらず,今後もするつもりがない層が

15.2%存在していることも問題認識の一つである。

こうした状況に対して,既存のスポーツのみならず,親しみやすい新たなスポーツを開発・普及することなど

により,無関心層や未実施者層がスポーツに興味を持ち,実施可能なスポーツの選択肢を広げ,スポーツ

人口の拡大を図ることを本事業の目的とした。

2

1.2. 用語について

本報告書で重要なキーワードとなる用語について説明する。ここで説明に関する詳細な解説については,

「スポーツ共創ワークブック」iを参照願いたい。

1.2.1. スポーツ共創

第 2 期スポーツ基本計画の中では,「スポーツは「みんなのもの」であり,スポーツを「する」「みる」「ささえ

る」ことですべての人々がスポーツに関わっていく」と記載されており,スポーツに対する関わり方を幅広いものと

とらえ,スポーツ参画人口の拡大を目指している。スポーツを「する」「みる」「ささえる」に第 4 の軸として「つく

る」を入れることで,「する」・「みる」・「ささえる」スポーツの広がりに影響を及ぼし,スポーツ参画人口の拡大

を加速させると考える。

図表 1-1 スポーツを「つくる」による広がり

スポーツ共創とは「自分たちで自分たちのスポーツをつくること」をいう。特定のだれかが一人でつくるのでなく,

だれもが自分たちのスポーツを,みんなでつくってゆくことが重要で,その意味でも「共創」(“共に創る”)と

いう言葉も含めている。

i スポーツ共創ワークブックは以下 URL から入手可能

スポーツ庁ホームページ https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop05/list/detail/1415532.htm

スポつく:スポーツ共創ウェブ https://spotsuku.com/

する みる

ささえる

する みる

ささえる

つくる

New!

スポーツ

3

図表 1-2 スポーツ共創とは

また,スポーツ共創を実践することを「つくる(develop)」と「遊ぶ(play)」を組み合わせて「デベロップ

レイ(developlay)」と呼び,その実践者を「デベロップレイヤー(developlayer)」と呼んでいる。

1.2.2. スポーツ共創人材

スポーツ共創人材とは,スポーツ共創を自分たちのフィールドで実施する人材を指し,スポーツ共創人材

を役割から下図のように整理した。

図表 1-3 スポーツ共創人材の役割 ※出所:スポーツ共創ワークブック

つくる

試す・遊ぶ共有する

スポーツ共創 = 自分たちで自分たちのスポーツをつくること

つくったら遊んでみるみんなと共有するこのサイクルをたくさん回す

4

1.3. 本事業の位置づけ

本事業は,2017 年度「スポーツ人口拡大に向けた官民連携プロジェクト・新たなスポーツの開発」(以

下「新たなスポーツの開発事業」という。),2018年度「スポーツ人口拡大に向けた官民連携プロジェクト・

新たなアプローチ開発」(以下,「新たなアプローチ開発事業」という。)を受けて実施した。

新たなスポーツ開発事業では,「ALL for SPORTS(どんなことでもスポーツに!)」と「SPORTS for

ALL(すべての人にスポーツを!)」の 2軸の『コンセプト』に対して,更に 2種類の『実施スタイル』(「ハイ

テクノロジー」と「地域コミュニティ(シビックテック)」)をそれぞれ導入し,それらの掛け合わせによる 4 タイプ

のアイデアソン・ハッカソン・体験イベントを実施した。

新たなアプローチ開発事業では,新たなスポーツの開発事業で課題とした,スポーツ共創に関する認知

率の向上,スポーツをつくり自分たちのフィールドで展開してゆく「スポーツ共創人材」の育成のためのアプロー

チ方法を開発した。具体的には,スポーツ共創に興味を持った人がスポーツ共創を学び実践できるように手

法を整理した「スポーツ共創ワークブック」を作成し,スポーツ庁ホームページで公開した。また,スポーツ共

創人材を育成するワークショップを実施し,ワークショップ参加者が実際に自分たちのフィールドでスポーツ共

創イベントを実施する際に支援を行った。

本年度の事業では,「スポーツ共創ワークブック」を活用したスポーツ共創人材育成や,スポーツ共創に

興味を持ち始めた人がスポーツ共創とはどんなものか,またどのような事例があるのかを見つけられる「スポつ

く:スポーツ共創ウェブ」の構築を行った。

図表 1-4 本事業の位置づけ

スポーツ人口拡大に向けた官民連携プロジェクト

新たなスポーツの開発 新たなアプローチ開発 新たなアプローチ展開

スポーツクリエイションの実証(アイデアソン・ハッカソン・体験会)

人材育成ワークショップの開発 マッチングワークショップの実施 「スポーツ共創ワークブック」の作成 WEBサイト検討

新たなスポーツのプロモーションの推進 スポーツクリエイションの手法の展開

2017 2018 2019 ※本事業

スポーツ共創(スポーツをつくる)

スポーツ共創の普及方法スポーツ共創人材の育成手法

を開発するスポーツ共創人材を育てる

5

2.1. 本事業の全体像

本事業は,新たなアプローチ開発事業の成果をいかし,スポーツ共創人材の育成や,スポーツ共創ウェ

ブによるプロモーション活動を実施した。具体的には,スポーツ共創ワークショップの開発で得られたノウハウや

課題や「スポーツ共創ワークブック」を活用し,スポーツ共創人材育成ワークショップを実施した。また,「ス

ポーツ共創ワークブック」の展開も目的としたスポーツ共創ウェブの構築を実施した。また,スポーツ共創に興

味関心を持った方が,スポーツ共創人材の実践事例を聞いたり,ネットワーキングしたりできる場として

2020 スポーツ共創会議を開催した。

図表 2-1 本事業の全体像

スポーツ共創人材育成ワークショップ新たなアプローチ開発事業(昨年度事業)

参加者の実践

スポーツ共創のプロモーションの推進

コラム記事化

スポーツ共創ウェブ「スポつく」の構築

スポーツ共創人材育成ワークショップin遊学塾の実施

ワークショップ参加者によるスポーツ共創の実践

スポーツ共創人材育成ワークショップi合宿2019夏の実施スポーツ共創ワークブック

スポーツ共創ウェブの検討

スポーツ共創ワークショップの開発

スポーツ共創会議 2020スポーツ共創会議の開催

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2.2. 実施内容

各プロジェクトの概要は以下のとおり。各プロジェクトの詳細は 3章以降に記載した。

スポーツ共創のプロモーションの推進 【3章】

スポーツ共創に興味関心を持った人が,スポーツ共創の情報にアクセスできるように,スポーツ共創ウェブ

サイトを構築した。スポーツ共創の概説や取組事例などを記事化したコラムを中心としたサイト構成とし,昨

年度作成した「スポーツ共創ワークブック」も本サイトからダウンロードできるようにした。

スポーツ共創人材育成ワークショップ 【4章】

スポーツ共創を自分たちのフィールドで実践する人材(スポーツ共創人材)を育成するために,2 つのス

ポーツ共創人材育成ワークショップを実施した。昨年度までの取り組みの中でニーズの高かった学校教員を

主な対象と設定した設計とした。

スポーツ共創会議の開催 【5章】

スポーツ共創実践者同士やスポーツ共創に興味関心を持った人が,スポーツ共創の実践事例を共有し,

さらなる取組深化に向けたネットワーク構築ができるように,様々なステークホルダが参加できるオープンなス

ポーツ共創会議を開催した。

7

3.1. スポーツ共創ウェブ「スポつく」の構築

昨年度事業で作成した「スポーツ共創ワークブック」の国民への展開を主目的に,スポーツ共創の WEB

サイト(以下,「スポつく」という。)を作成し,運営を行った。スポつく閲覧者が「スポーツ共創ワークブック」

にたどり着くように各ページのフッダー位置にダウンロード用のリンクをつける設計とした。

WEB サイト自体にも「スポーツ共創とは?」という説明ページをつくり分かりやすく説明をした。説明ページだ

けでは「スポーツ共創ワークブック」を使う動機として不足するため,自分たちの身近な生活や社会活動とつ

ながる道筋(ストーリー)として,コラムやニュースなどを掲載することで,読者がジブンゴト(自分事)化で

きる仕掛けとした。以下に,スポーツ共創ウェブ「スポつく」の概要を示す。

図表 3-1 スポーツ共創ウェブ「スポつく」の概要

WEB サイト名 スポつく スポーツ共創 SPOTSUKU

URL https://spotsuku.com/

構築準備期間 2019年 7月 10日から 2019年 10月 10日

運営期間 2019年 10月 10日から 2020年 3月 31日

構築ソフトウェア コンテンツ・マネジメント・システムとしてWordPress を使用

掲載コラム数 18本

8

図表 3-2 スポーツ共創ウェブ「スポつく」

スポーツ共創ワークブック

のダウンロードが可能

キーワードからコラムを

絞り込みできる

SNS へのシェアボタン

9

コラムやニュースが主体のサイトとなっているが,閲覧者は記事を読むだけでなく,自分の SNS

(Facebook,Twitter)にボタン一つでサイトや記事を投稿できるように「シェアボタン」を設けた。これらに

は自動で「#supotsuku」というハッシュタグと,URLが記載され拡散しやすい仕組みとした。また,Twitter

や Facebook などでハッシュタグを検索すればその拡散の様子を見ることができる。

図表 3-3 スポーツ共創ウェブ「スポつく」から SNS への共有機能イメージ

本サイトは,2020 年 3 月 31 日をもって閉鎖となるが,本サイト構築事業者である一般社団法人運

動会協会にて,別 URL で同内容のサイトを作成し,運用開始する予定である。スポーツ庁事業で整理さ

れたスポーツ共創にかかるコンテンツは民間事業者に引き継がれる形となった。

SNSへの共有機能

10

3.2. スポーツ共創ウェブ「スポつく」のコンテンツ作成

「スポつく」上にはコラムのページを設け,運営期間中に以下の 18記事を作成し掲載した。コラム作成は

以下のようなねらいをもって進めた。

昨年度開発した「スポーツ共創ワークブック」を国民に展開する

本WEB にたどり着かせるための話題提供

スポーツ共創を理解してもらう

スポーツ共創実践者の活動を紹介する

スポーツ共創とイベントを広報する

記事執筆そのものによる共創人材育成

記事の内容は小学校,高校,大学,研究所,地域,海外,地方行政,エンジニアリング,教育な

ど様々な分野におけるスポーツ共創活動を扱ったものである。記事執筆者や記事作成にあたりインタビューを

受けた人は,過去のスポーツ共創事業,スポーツ共創人材育成ワークショップに参加した人となっており,そ

ういった方が自ら考えて,自らのフィールドでスポーツ共創を実行した結果となっている。これはスポーツ共創と

いう文化そのものの広がりであると言える。これらの記事には,本事業についての多くの成果や課題が書かれ

ているため,この報告書と合わせてぜひ読んでいただきたい。

図表 3-4 スポつくコラム掲載一覧

掲載日

<閲覧数> 執筆者 タイトル 記事対象

2019.9.23

<38>

谷口彩(同志社大学 非

常勤講師,未来の大阪の

運動会実行委員会)

【レポート】スポーツを「つくる」! プロジェクト型の大学の

授業

大学/教育

2019.9.23

<50>

小野憲史(ゲームジャーナリ

スト)

【レポート】ワークショップ「やってみよう!スポーツ共創」

(第 20回 遊学塾学習会 in 松本)

教育/体育

2019.12.04

<193>

西翼(キュレーター,運動

会協会理事)

【レポート】新種目「校舎行動」の成り立ちから考えるス

ポーツの「育ち」。山口高校銀鐘祭(文化祭)より

高校

2019.12.05

<105>

上田 滋夢(追手門学院

大学社会学部・同大学院

現代社会文化研究科教

授)

上林 功(追手門学院大

学社会学部スポーツ文化

コース准教授)

【レポート】スポーツ共創による日台国際学術交流「未

来の日本・台湾の運動会ワークショップ」(追手門学院

大学×台湾体育運動大学 学術交流事業)

海外/大学

11

掲載日

<閲覧数> 執筆者 タイトル 記事対象

2019.12.06

<96>

吉村 秀昭(南校区まちづく

り協議会会長・一般社団法

人熱中こばやし理事)

【レポート】宮崎県小林市 南校区まちづくり協議会で

「こばやし熱中運動会をつくる!」

地方/行政

2019.12.16

<15>

編集部 【告知】2020年 1月 11日(土)「未来の体育共創サ

ミット 2020」開催

教育/体育

2020.1.09

<153>

渡邉朋也(美術家/タレン

ト)

【レポート】スポーツを共につくる人の育成「スポーツ共創

人材育成ワークショップ」

人材育成

2020.1.15 編集部 開催決定!「2020 スポーツ共創会議」(令和 2年

2月 4日 13:30 – 16:30 会場:東京ミッドタウン

日比谷)

スポーツ共創

会議

2020.1.16

<45>

編集部 【告知】開催「未来の荒川の運動会 2020」令和 2年

2月 22日(土),23日(日)

地域

2020.1.17

<52>

久保田 良輔(宇部工業

高等専門学校 制御情報

工学科 教授)

【寄稿】「KOSEN-スポーツ」新しい道具の開発という観

点からの,高専版スポーツ共創

高専

2020.1.19

<94>

柿崎俊道(編集者) IT エンジニアと共にスポーツを創る! インタビュー:泉

田隆介(フリーランスエンジニア)

IT/エンジニア

リング

2020.1.26

<131>

戸倉順平(フリーライター) 【レポート】「未来の体育共創サミット 2020」体育館会

場で行われたスポーツ共創体験と ICT体験

教育/体育

2020.1.28

<108>

編集部 【告知】令和 2年 2月 1日開催「未来の保土ケ谷の

運動会 2020」

小学校

2020.1.28

<58>

戸倉順平(フリーライター) 【レポート】全国から 31種の新しいスポーツが応募され

た「ご当地ゆるスポーツアワード 2019」開催!

コンテスト

2020.1.29

<92>

今辻 宏紀(横浜市立保

土ケ谷小学校 教諭)

【レポート】「楽しそう!」「やってみたい!」――未来の

保土ケ谷の運動会 2020 に向けた 1年の取り組み

――(保土ヶ谷小学校)

小学校

2020.2.15

<65>

今辻 宏紀(横浜市立保

土ケ谷小学校 教諭)

【レポート】いよいよ本番「未来の保土ケ谷の運動会

2020」(保土ヶ谷小学校/令和 2年 2月 1日,3

日開催)

小学校

2020.2.20

<242>

柿崎俊道(編集者) 「スポーツ共創」とは何か。 インタビュー:江渡浩一郎

(産業技術総合研究所 主任研究員)

イノベーション

/共創研究

2020.2.26

<113>

柿崎俊道(編集者) ヒューマンオーグメンテーションから導き出されたスポーツク

リエイションが,人間の能力を気づかせる インタ

ビュー:南澤 太氏(慶應義塾大学大学院メディアデ

ザイン研究科教授/超人スポーツ協会 事務局長)

大学/研究

12

図表 3-5 「スポつく」のコラムページ

コラムのSNSへのシェア

ボタン

13

3.3. スポーツ共創ウェブ「スポつく」の閲覧状況

「スポつく」にどれくらいの人数が,また,どのような人が閲覧したのか,google アナリティクス用いて確認し

た。2019 年 10 月 9 日から 2020 年 3月 12 日までのデータを確認した。期間中に合計 3,824人が

1 度訪問し,606 人が繰り返し訪問した。総閲覧数(ページビュー数)は 10,352 回で,訪問回数

(セッション)は 5,536回であった。

図表 3-6 「スポつく」の閲覧状況

14

■「スポつく」への流入経路

スポつく閲覧者の流入経路を確認すると,60.2%が SNSからの流入,16.5%がURLやブックマークな

どから直接の流入,12.2%が検索での流入,11.2%が別サイトからの流入となっていた。SNS から流入

割合が高い理由として,コラム等の記事が更新された際に,Facebook や Twitter 等の SNS によって皆

でシェアしあうことで,「スポつく」の閲覧につながっているためである。また,スポーツ共創活動及びスポーツ共

創人材育成ワークショップに参加した方が SNSでのつながりを持てていることも背景にある。

図表 3-7 「スポつく」への流入経路

流入経路をドメイン別に見ると,圧倒的に Facebook が多く,モバイルと PC 合わせて 52.84%,文

部科学省サイトから 9.59%,グーグル検索から 8.27%,Twitterからが 7.31%,YAHOO検索からが

2.92%となっていた。

図表 3-8 「スポつく」への流入経路(ドメイン別)

15

■「スポつく」閲覧者の訪問元エリア

「スぽつく」閲覧者がどのエリアから閲覧しているかを確認した。国別にみると,日本国内が 87.43%,次

いで米国が 8.62%,台湾 2.35 となっており,海外からのアクセスが 1 割以上あった。台湾からの閲覧が

多いのは,コラムで追手門学院大学と台湾体育運動大学との国際学術交流事業を取り扱っていることも

背景にある。

図表 3-9 「スポつく」閲覧者の国別訪問エリア

国内について見てみると,大阪市が最も多く 10.07%,次いで横浜市で 9.28%,新宿区で 7.50%,

千代田区で 7.34%,港区で 6.53%,山口市で 3.01%,名古屋市で 2.59%,渋谷区で 2.19%

となっていた。大阪市や山口市,渋谷区などこれまで「未来の運動会」が開催されてきた市区町村からの閲

覧が多く見られた。また,名古屋市でも今後「未来の運動会」の開催を計画しているところである。全体の 6

位には米国カリフォルニア州のアーバイン(Irvine)が入っている。

16

図表 3-10 「スポつく」閲覧者の市区町村別訪問エリア

17

3.4. その他のプロモーション

本事業ではスポーツ共創をより多くの方に知っていただき,「つくる」という視点からスポーツの楽しみ方を広

げもらうことをねらいとしている。そのため,スポつくやスポーツ共創人材育成ワークショップ,スポーツ共創会議

の参加者募集などの広報を,スポーツ庁のホームページや SNS からの発信,日本スポーツ協会メールマガ

ジンへ掲載,その他本事業関係者による SNS発信などで幅広く行った。

図表 3-11 スポーツ庁ホームページ・SNSでのスポーツ共創のお知らせ

18

4.1. スポーツ共創人材育成ワークショップの目的

昨年度行った「スポーツ共創イベントのディレクター・プロデューサー向けのワークショップ」を本年度は,主に

教員(地域,企業,個人の方も一部対象とする)に焦点をあてて実施した。

「つくり方のつくり方」を教えられるのがスポーツ共創人材

スポーツ共創人材とは,スポーツ共創に関わるすべて人のことを指す言葉ではあるが,加えてスポーツ共

創文化を広める役割を果たす人のことでもある。今回のワークショップでは特に後者の意味にも重点を置き,

参加者がスポーツ共創を広める人になることを目標とした。

スポーツ共創を広める人というのは,つまりスポーツ共創人材を育てられる人を指し,考え方ややり方を与

えられて伝えるだけでなく,自らが考え,自分なりに教え方もつくる「つくり方のつくり方」を教える人ということに

なる。

スポーツ共創を広めるのは学校の先生

昨年度までの事業中で,今後スポーツ共創を多くの国民に展開するには,教育現場への展開が必要で

はないかという仮説が多く聞かれた。この仮説を元に事業計画を設計した。同時期に,幸いにも体育担当

教員たちが集まる「未来の体育を構想するプロジェクト」から声がかかり,シンポジウムに本事業関係者たち

が参加する機会があった。シンポジウム参加者たちのスポーツ共創への興味は想像を超えており,続いて体

育の先生らが自主的に開催し続けてきた勉強会「遊学塾ii」から声がかかった。この「遊学塾」を本事業に活

用し,体育の先生たちを対象に「スポーツ共創人材育成ワークショップ in遊学塾」を行うこととした。

地域,学生,アートセンター職員も参加そして実践へ

また,対象を学校教員だけではなくより幅広く,そしてより深く実践的に集中して学ぶ合宿形式のワーク

ショップを,9月 14日から「スポーツ共創人材育成ワークショップ合宿 2019夏」として実施した。

ii 遊学塾:体育について学びたいという思いを持った体育教員が集い,体育授業実践について考える学習会。年 2回開催で,1回は東

京,もう 1回はその他地域。

19

4.2. スポーツ共創人材育成ワークショップ in遊学塾

昨年度までのスポーツ共創活動の中で,特にニーズが高かった学校教員を主な対象と設定し,体育担

当教員の有志からなる自主勉強会「遊学塾」と連携し,「スポーツ共創人材育成ワークショップ in 遊学塾」

を実施した。スポーツ共創人材育成ワークショップ in遊学塾の実施概要は以下のとおり。

図表 4-1 スポーツ共創人材育成ワークショップ in遊学塾の実施概要

主 催 主催 : 遊学塾 / 一般社団法人運動会協会

共催 : 未来の体育を構想するプロジェクト

日 時 2019年 8月 3日(日) 13:00~17:00

場 所 松本大学(〒390-1295 長野県松本市新村 2095-1)

参加対象 遊学塾に参加する全国の体育の先生,大学生など

参加人数 48人(募集定員 100名)

広報方法 遊学塾のウェブサイト

https://sites.google.com/view/2019sportskyoso/

チラシ

https://sites.google.com/view/2019sportskyoso/ho

me/chirasi?authuser=0

日本スポーツ協会総合型地域スポーツクラブ公式メールマガジン

https://www.japan-

sports.or.jp/Portals/0/data/kurabuikusei/MailMagazi

ne/R1/MM145_info.pdf

従来の遊学塾参加者,や体育の先生を中心に口コミで拡散。

Facebook や twitter等の SNS でも広報を行った。

スポーツ庁の公式 Twitter での拡散

20

図表 4-2 スポーツ共創人材育成ワークショップ in遊学塾の参加者

遊学塾のプログラムは午前と午後の2部に別れており,午前の部は「体育におけるボールゲームの意味を

問う」をテーマに,体育担当教員たちの実践の共有とディスカッションが行われた。この実践報告の中でも,

既に「スポーツをつくる」ことは取り入れられており,無名だったその取り組みにスポーツ共創という名前が与えら

れたのだと実感できるものだった。活動に名前が与えられたことでコミュニケーションが活発に行えるようになった

ようだ。午後から本事業のワークショップを実施した。

スポーツ共創人材育成ワークショップの参加者は 48 名で,年代別見ると,20-30 代が多く,全体の

75%を占めた。現場で,若手・中堅とされる年代の参加が多かった。勤務地・通学地として最も多かったの

は,開催場所の松本大学がある「長野県」で 27%,次いで「千葉県」「埼玉県」「神奈川県」「東京都」と

関東圏が多かった。また,「新潟県」「静岡県」「岡山県」など広く全国から参加者が集まっていることが分か

る。参加者の所属としては,「小学校」教員が最も多く 42%,次いで「大学生」なっており 25%, 「大学」

教授・准教授が 15%であった。大学生は松本大学の学部生・院生が多くを占めた。

スポーツ共創人材育成ワークショップの参加者属性・事前アンケート

21

図表 4-3 スポーツ共創人材育成ワークショップ in遊学塾の参加者属性

参加者には,事前にアンケート回答をお願いした。「スポーツ共創」を知っていた参加者は 48%,聞いた

ことがある参加者は 33%となっており,参加者での認知率は高かった。既に「授業・仕事にスポーツ共創を

取り入れたことのある」参加者は 19%,かつ,「取り入れたい」とするものは 58%あり,「スポーツ共創」の

導入について関心が高い層が参加していた。特に教育機関関係者ではその傾向が顕著であった。

図表 4-4 スポーツ共創人材育成ワークショップ in遊学塾の事前アンケート

長野県

27%

千葉県

17%埼玉県

13%

神奈川県

11%

東京都

10%

新潟県

6%

静岡県

4%

石川県

4%

岡山県

2%

山梨

2%

滋賀

2%大阪府

2%

参加者の勤務地・通学地(n=48)

-19

8%

20-24

19%

25-29

13%

30-34

10%

35-39

23%

40-44

13%

45-49

6%

50-54

6%

55-59

2%

参加者の年代(n=48)

小学校

42%

大学生

25%

大学

15%

中学校

6%

民間企業

6%

フリーランス

2%

公的施設

2%

高校

2%

参加者の所属分類(n=48)

知っている

48%内容は知らないが

聞いたことがある

33%

知らない

19%

スポーツ共創を知っていますか?(n=48)

授業・仕事に取り入

れたことがある

19%

授業・仕事に取り入れたい

58%

分からない

23%

スポーツ共創の実践について。スポーツをつくることを

授業・仕事に取り入れたことはありますか。または取

り入れたいですか。(n=48)

授業・仕事に取り

入れたことがある

23%

授業・仕事に取り入れたい

71%

分からない

6%

【教育機関関係者】スポーツ共創の実践について。

スポーツをつくることを授業・仕事に取り入れたことは

ありますか。または取り入れたいですか。(n=31)

22

講師は,「スポーツ共創ワークブック」の執筆者でもある運動会協会の犬飼博士氏が担当した。

図表 4-5 スポーツ共創人材育成ワークショップ in遊学塾

(1)オリエンテーション

参加者には運動できる服装に着替えてもらった後,オリエンテーションを実施した。まずスポーツ共創の概

要解説として,「スポーツ共創ワークブック」にもある基礎的な概要を紹介した。また,当日のスポーツ共創で

用いるレンタル運動会道具と会場体育館にある道具の共有し,スポーツ共創に慣れた IT エンジニアの泉田

隆介氏から当日使用する ICT 機器に関する紹介を行った。具体的には,スマホのセンサーから取られた,

傾き,方向,振動,音量などのデータをプロジェクターに簡単に表示する方法などを実演した。体育教育の

中でプログラミングをどのように使うのかを示す例にもなっており,参加者の大きな関心を集めた。

図表 4-6 ICT機器の実演を行う様子

スポーツ共創会議の実施内容

23

図表 4-7 当日用いた ICT機器等

(2)デベロップレイ

参加者は,スポーツをつくる(デベロップレイ)体験をしてもらうにあたり,場所,時間などの予め環境に

ある制限(ルール)を理解し,その環境制限内でアイデアを出し,チームメンバーに共有し同意をとりながら

デベロップレイを行った。ボール,マット,輪,スティック,コンピューターやスマートフォンなどその場の環境にあ

る道具を使い,試し,試作から完成へとチームで仕上げていった。1時間程度の短時間であったが,4種の

スポーツを仕上げた。その後全員で出来上がった種目を発表し,全員でプレイした。

図表 4-8 デベロップレイの様子

YCAMボール パラレルアイズ

• iPodを挿入して使用するビニールボール• iPod中の加速度センサーを使用し、ボールを振ったりする動作に対して数をカウントする

アプリが入っている• iPod本体に表示と同時に別途モニターにカウント数値が表示可能

• 4つのヘッドマウントディスプレイを1セットで使用• ディスプレイには、4人が見ている視点映像が映し出される。映像のシャフル機能もある• 自分の視点が4つの映像のどれかを見分けながら行うゲームなどに用いられる

圧力・重心を測定する機器

• 左写真の座布団には、圧力を検知するセンサーが設置されており、座布団の上に座ることで、座布団にかかる圧力や重心を測定できる

• 右の写真は、過去に開発したゲームをワークショップ内で試したもの。ルール:座布団に座っている参加者は、仲間の声掛け指示に従って、自身の重心をコントロールし、画面上に映し出されているトイレの指定ポイントに重心を合わせるゲーム。

24

当日出来上がった種目は以下のとおり。

とんでとってとりまくれ

• チームの代表が持っている棒に向かって輪を投げて、代表が棒ですくえた輪の数を競う

• 輪を投げるメンバーは、決められたエリア外から輪を投げる

• チーム代表の周りには、他チームから1名ずつ選出されたディフェンスがおり、投げられた輪をジャンプして振り払うことができる

ボールハードル

• 二人一組で行うリレー競技• 各チームから2名×5が選出され、リレー形式で最も早くゴールしたチームの勝ち

• ハードルが置かれたコースを二人ではさみ、棒でボールを叩きながらハードルを超えていく

玉当てボンボン

もちまき玉入れ

• 全員参加種目• 円エリアの中に4チームそれぞれのカラーのYCAMボールがあり、相手チームのYCAMボームめがけて玉入れの玉をなげる(玉がぶつかり振動するとカウントが上がる)

• YCAMボールのカウント数が少ないチームの勝ち

• 2チームの対戦競技• 2ステップに分けて行う• ステップ1:チーム代表は2階から体育館の中央にあるマットの上に、玉入れの玉を投げ、マット上にたくさん玉を残すようにする

• 残りのメンバーは、相手チームの玉がマット状に乗らないようにディフェンスする

• ステップ2:マット上に残った玉だけを用いて、圧力センサーマットへ玉を投げつけ、その圧力数値の合計値が高いチームが勝ち

25

(3)ワークショップの最後の振り返り

当日のデベロップレイ体験での「アイデア出し→試作→完成→皆でプレイ」の一連の行為について,振り

返りを行った。振り返りの方法としては,まず話すのではなく,まずは書くことで共有した。書いた言葉を参加

者全員で共有し,そこから議論を行った。ただし,当日はデベロップレイとできた種目の体験に,想定以上

の時間を要してしまったため,実施した内容を振り返る時間を十分に取ることができなかった。当日参加者か

ら出た問いは以下のとおり。

図表 4-9 振り返りで出た問い

図表 4-10 振り返りで出た参加者の問い

26

ワークショップのインパクトと教育現場での継続

スポーツ共創の考え方は,自分たちで未来の体育をつくっていこうと集まった積極的な教員たちのニーズと

マッチし,強いインパクトを与えるワークショップになった。「授業をつくること」と「スポーツをつくること」,「それを

学んだ生徒たちはどうなっていくのか」などの問から教員たちが考え始めた。そのインパクトは,続く「スポーツ共

創人材育成ワークショップ合宿 2019夏」への継続参加と,2020年 1月に行われた「未来の体育共創サ

ミット」での発表にみられる。

※本ワークショップの様子は,スポつくや Yahoo!の記事としても掲載された。

◯スポつく記事 【レポート】ワークショップ「やってみよう!スポーツ共創」(第 20回遊学塾学習会 in 松本)

https://spotsuku.com/column/55

◯テクノロジーとゲームデザインで変わる運動会~第 20回遊学塾学習会 in松本レポート

https://news.yahoo.co.jp/byline/onokenji/20190814-00137962/

27

本ワークショップ参加者に,事後アンケートに回答いただいた。回答結果は以下のとおり。

「スポーツ共創を現場でいかせるか」の質問に対して,「現場でいかしたいが,スポーツ共創のことを勉強す

る必要がある」との回答が最も多く,約6割を占めた。半日のワークショップのみでは,実践レベルの理解や

スキルに自信が持てない参加者が多かったと考えられる。

一方,「本ワークショップを友人や同僚にすすめたいか」の質問に対して 11段階(0~10点)での回答

をみると,10 点・9 点の高得点を付けた参加者の割合が 47%と高く,本ワークショップへの満足度の高さ

や,今後のアクションに向けた意向が伺えた。

図表 4-11 事後アンケート結果

1

3

2

16

3

1

1

0 5 10 15 20

既に現場(授業等)でスポーツ共創を活かしている

現場でスポーツ共創を活かす予定がある

現場で活かすための調整を始める

現場で活かしたいが、スポーツ共創のことを勉強する必要がある

現場で活かしたいが、自分の現場ではハードルが高い

現場で活用したいとは思わなかった

その他

人数

スポーツ共創はあなたの現場(授業等)で活かせますか?

10点

27%

9点

20%8点

23%

7点

7%

6点

14%

5点

3%

2点

3%1点

3%

スポーツ共創ワークショップを親しい友人や同僚にどの程度

おすすめしたいと思いますか?0から10までのいずれかの

数字に○をつけてください。

(n=30)

参加者の事後アンケート

28

4.3. スポーツ共創人材育成ワークショップ合宿

スポーツ共創人材の育成を目的としたワークショップを,より深く実行力の高い形で行うために,2泊3

日の合宿形式でワークショップ(以下,「本合宿」という)を実施した。スポーツをつくる(スポーツ共創)を

体験するだけでなく,参加者自らがスポーツ共創活動を実践していくために必要なアクションプランを立て,

「なぜスポーツ共創を行うのか」「なぜ自分が行うのか」を参加者皆で徹底的に問い直す「てつがく対話」にも

注力した。本ワークショップの参加者の中心は教員だけでなくスポーツ団体,パーソナルトレーナー,民間企

業,学生など多岐に渡った。

スポーツ共創人材育成ワークショップ合宿 2019夏の実施概要は以下のとおり。

図表 4-12 スポーツ共創人材育成ワークショップ合宿 2019夏の実施概要

イベント名 スポーツ共創人材育成ワークショップ合宿 2019夏

主 催 主催:一般社団法人 運動会協会

協力:未来の体育を構想するプロジェクト

日 時 2019年 9月 14日-16日 3日間の合宿

場 所 お茶の水女子大学附属小学校

(〒112-0012 東京都文京区大塚2丁目1−1)

参加対象 スポーツ共創を教育現場に取り入れたい方。

未来の運動会など,スポーツ共創イベントを開催したい方。

学校の先生,スポーツインストラクター,教育関係者,地域体育会の関係者,運動会実

行委員,医療・看護・リハビリ事業関係者,施設指定管理者,スポーツ企業の社員,エ

ンジニア,ゲームクリエイター,自分でスポーツをつくってみたい方等

参加費 なし ※交通費・宿泊費等は参加者が負担

申込み方法 ウェブサイトから申込みフォームにて申込み受付を行った。

※本合宿では,申込みの際に参加事由,本合宿後にどのような実践を行う予定か,と

いった内容をフォームに記載いただいた。

参加人数 28人(募集定員 40名)

広報方法 ウェブサイトを作成

https://sites.google.com/view/2019sportskyoso/

※本ワークショップ合宿の概要説明を掲載

29

Facebook や Twitter等の SNS でも広報を行った。

30

本合宿では,参加者が自分の現場でスポーツ共創を考え実行し,また,スポーツ共創人材を育成でき

る(「つくり方のつくり方」を考えられる)人を育てることを目標とした。8 月 3 日に松本大学で実施した「ス

ポーツ共創人材育成ワークショップ in 遊学塾」は体育担当教員を対象にしたものだったが,本合宿は基本

的にすべての人を対象にした。遊学塾でワークショップに参加した教員の中で,更に深く学ぶために引き続き

参加した方も多かった。

本合宿では,スポーツ共創人材での4種の役割(プロデューサー,ディレクター,ファシリテーター,デベッ

ロプレイヤー)のうち最終的にプロデューサーやディレクターを育てることをした。ディレクターやプロデューサーは

スポーツをつくれる環境内だけでなく,その周辺社会との接点をつくる必要があるため,より高い客観的視座

を獲得しなくてならない。

図表 4-13 スポーツ共創人材の役割 ※出所:スポーツ共創ワークブック ※再掲

また,3日間の長期合宿形式をとった理由は下記のとおり。

人材育成をする方法自体もまだ研究初期段階,参加者と共につくる必要があること

人間が情報を得て,考え,理解し,自分の言葉をつくる(言語化する)には時間がかかること

同じ目標に向かう仲間であっても信頼関係を築くには時間がかかること

人数制限からイノベーターやアーリーアダプター(実行意識の高い方を)を優先すること

本合宿の目的

31

本合宿には 28名の参加があり,年代別に見ると 30代が多く,全体の 50%を占めた。10代や 20代

の参加者も25%あり,高校生や高専生,大学生・大学院生などの学生も参加していた。参加者のうち教

員は 34%,教員以外は 64%で,学生や地域でスポーツ共創を行いたい人など様々であった。実際に集

まった参加者は小学校教員,アート関係者,高校生,大学生,J リーグクラブ経営者,スポーツトレー

ナー,理学療法士,地域へいかしたい方,企業の事業開発者などでとてもバラエティある参加者構成に

なった。大学生や大学院生では,「スポーツ共創」を研究テーマとして扱っている方もいた。スポーツ共創への

参加経験がないものが 54%と半数以上を締めていた。

図表 4-14 本合宿の参加者属性

10代

11%

20代

14%

30代

50%

40代

14%

50代

11%

参加者の年代(n=28)

教員以外

64%

教員

36%

参加者属性(n=28)

なし

54%

あり

46%

スポーツ共創の経験(n=28)

参加者の属性

32

(1)合宿 1日目(9月 14日(土)) : 「考えること」を獲得する

合宿初日は,オリエンテーションと参加者同士の自己紹介(参加動機の発表)を行った上で,「てつが

く対話」を経験した。また,参加者に事前課題として作成を課していた「アクションプラン」の発表を行っても

らった。

図表 4-15 合宿 1日目のタイムスケジュール

13:30~14:00 概要説明

14:00~14:20 いままでにつくられた新しいスポーツ(YCAMボールを使った競技)を体験。

13:30~14:30 参加者がそれぞれ自分の参加動機とアクションプラン発表・共有

※参加者には事前課題として

14:30~15:30 考え方と対話の練習(てつがく対話)

【思考するとはどういうこと~体験フェーズ~】

・質問ゲーム ・ミニ哲学対話

(講師 安本志帆)

考えることを体得します。答えがない状態を獲得。

今回講師から出された最初の問は「はじまり」とは何ですか?であった

15:30~16:10 【思考するとはどういうことか~実践フェーズ①~】

・各々自分の考えてきたアクションプラン発表して共有します。同時に参加者同士

の人となりがわかり,信頼関係の構築をすすむ

16:20~17:30 【思考するとはどういうことか~実践フェーズ②~】

・気になるアクションプランについて,みんなで対話をする

~19:00 自由対話

合宿 1日目でこれまでのスポーツ共創人材育成ワークショップと異なるアプローチとして,「てつがく対話」を

取り入れ,「考える」とはどういうことであるかを体験してもらった。講師の安本氏から,「てつがく対話のルール」

についての説明を受けたあと,『「はじまり」とは何か?』という問いについて対話を行った。

<てつがく対話のルール>

1. 何を言ってもいい

2. 人を否定したり茶化したりしない

3. 発言せず,ただ聞いているだけでもいい

4. お互いに問いかけるように心がける

5. 知識だけでなく自分の経験にそくして話す

6. 話がまとまらなくてもいい

7. 意見がまとまらなくてもいい

8. 分からなくなってもいい

本合宿の実施内容

33

図表 4-16 合宿 1日目の様子

概要説明の様子 YCAM ボールを使った競技 合宿の様子

てつがく対話の様子 “考えながら動く” 参考文献

アクションプラン発表の様子

34

(2)合宿 2日目(9月 15日(日)): ハッカソンと運動会を両方つくってみて考える

合宿2日目は,チームに別れてハッカソン(デベロップレイ)とつくった競技(スポーツ)を行う運動会の

運営を体験してもらった。ハッカソンや運動会の運営にあたり,参加者には事前にチームファシリテータや,運

動会の運営等に関する役割分担を割り振った。参加者は,ハッカソンと運動会運営を体験し,振り返りを

行った。合宿2日目のタイムスケジュールは以下のとおり。

図表 4-17 合宿 1日目のタイムスケジュール

9:00~10:00 集合し説明とアイデア出し

準備運動 アイデア出し,4チームにわける

10:00~12:00 スポーツ共創 デベロップレイ 4種目つくる

13:00~15:30 4種目の小さな運動会を運営してみる

15:30~16:30 体育館撤収と休憩

16:30~17:10 デベロップレイヤーとしての振り返り

17:10~17:40 ファシリテーターとしての振り返り

17:40~18:10 ディレクター,プロデューサーとしての振り返り

~19:00 自由対話

参加者は身体を動かすことを楽しみながらも,自分が行っていることを客観し,考えるようになっていった。

同時にスポーツのメカニクスや危険について学んだ。新しいスポーツをつくることと危険について,冒険遊び場

などでの経験が豊富な NPO法人日本冒険遊び場づくり協会代表の関戸博樹iii氏にリスクベネフィットマネー

ジメントの講師として参加してもらった。振り返りプロセスでは,参加者たちが「自分が何を学びにきたのか」を

自分なりにつかみ始めた。具体的には,スポーツをつくることはゲームデザインであること,運動会は1年に1

度起こる小さな社会であること,運動とスポーツは違うということ,考えていたことをやってみて確信をつかむこ

と,参加者それぞれ様々なことを学び考え獲得し始めた。講師の犬飼から「ファシリテーターは環境係である」

と提示され,参加者はその意味について,スポーツ共創体験や自問自答,参加者同士での対話によって

理解を深めていった。

iii NPO法人日本冒険遊び場づくり協会 http://bouken-asobiba.org/

35

図表 4-18 合宿 2日目の様子

説明の様子 ICT ツールの説明 アイデア出し

デベロップレイの様子 デベロップレイの様子 デベロップレイの様子

エンジニアも交えたワーク チームファシリテータ 運動会体験

運動会体験 運動会体験 振り返り

振り返り

36

振り返り時に参加者同士で気づきを共有するために書き出しメモ

図表 4-19 ファシリテーター向け資料

37

(3)合宿3日目(9月 16日(祝)): 体験を振り返り,アクションプランをつめていく

合宿3日目は,初日に発表したアクションプランを更新して発表してもらった。最終日には参加者が徹底

的に考えた結果をアウトプットしてもらった。今回は主に講師と全体に向かって発表を行い,意見がある人が

順番に話した。このアクションプランを起点に参加者たちが実践をしていくことになる。

「何を」「いつ」「どこで」「だれと」といった実施内容を具体化するパートだけでなく,「なぜあなたが」やるのか

についても深く考えてもらった。各参加者が自分たちのフィールドで実施するに向けて,自分自身深く考えて

おくことが,周囲への説明,関係者の巻き込み,実施のモチベーション維持にもつながるためである。また,

実施にあたり「課題になることは何か」さらに「なぜそれが課題となるのか」と問いを重ね,参加者が実践する

際の実行力を高められるようにした。

参加者はアクションプランを発表した後,講師や他の参加者からレビューを受けた。講師や他の参加者か

らのさらなる問いを受け,再度アクションプランを練り直す参加者も多かった。こういったアクションプランをアウト

プットし,考え,ブラッシュアップしていくプロセスを通じて,参加者は自身の作成したアクションプランを腹落ち

させていった。

アクションプランを発表し終えた参加者には修了式として,修了証を渡した。

図表 4-20 合宿 3日目の様子

アクションプラン発表の説明 アクションプラン発表の様子 修了証の授与

38

図表 4-21 最終日のアクションプランシート

■事後配布資料

本合宿参加者向け Facebook コミュニティを作成した。講師である犬飼から主に学校教員向けの資料と

して以下の資料『実装式「共創性」を育むプロジェクトの手順と先生の役割例』を共有した。合宿参加者

は,この Facebook コミュニティ内でも事後に考えたことなどを共有しあった。

39

図表 4-22 合宿の事後配布資料

40

「本ワークショップは思っていたとおりの内容でしたか」を 0~10 の 11 段階で評価してもらったところ,おお

むね思っていた内容と回答した参加者が多いものの,3 や 4 をつける参加者も見られた。思った以上に「考

える・問う」ことに注力されていると感じ取った参加者が存在した。「本ワークショップの満足度」についての 11

段階(0~10点)評価をみると,10点・9点の高得点を付けた参加者の割合が 67%と高い。

図表 4-23 事後アンケート

「スポーツ共創はあなたの現場で活かせるか」を聞いたところ,45%は「活かす予定がある」と回答。また,

「調整を始める」は次いで高く 20%。本ワーショップ参加者の多くが実践に向けて活動をすすめることが分かっ

た。「本ワークショップを友人や同僚にすすめたいか」の質問に対して 11 段階(0~10 点)での回答をみる

と,10 点・9点の高得点を付けた参加者の割合が 88%と高い。本ワークショプは 2泊 3日であり,事前

審査ありとしており,けして必要な参加ハードルを設定しているものの,周囲の者へおすすめしたいとする参

加者が多かった。

図表 4-24 事後アンケート

0 0 0

1 1

0

1

4

8

6

3

0

2

4

6

8

10

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

Q2.ワークショップは、思っていた通りの内容でしたか。

n=24

0 0 0 0 0

1

0

2

5 5

11

0

2

4

6

8

10

12

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

Q3.ワークショップの満足度を教えて下さい。

n=24

0 0 0 0 0 0 0 0

3

5

16

0

5

10

15

20

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

Q6.スポーツ共創ワークショップを親しい友人や同僚にどの

程度おすすめしたいと思いますか。

n=24

11

6

3

4

0 5 10 15

1_現場でスポーツ共創を活かす予定がある

2_現場で活かすための調整を始める

3_現場で活かしたいが、スポーツ共創のこと

を勉強する必要がある

その他

Q5.スポーツ共創はあなたの現場(授業等)で活かせますか。

人数

n=24

事後アンケート

41

4.4. ワークショップのその後と事業効果の考察

4.4.1. ワークショップ参加者のスポーツ共創の実践

2 つスポーツ共創人材育成ワークショップを終えて,参加者たちはそれぞれの現場でたくさんの実践を行っ

た。これら参加者の実践の一部については,スポーツ共創ウェブ「スポつく」にもコラムとしてレポートされ,

2020 スポーツ共創会議でも発表された。詳しくは,添付資料のレポートなどを参照。以下その一覧。

山口高校 2年生 廣田裕也:『文化祭でのスポーツ共創』

(スポつくコラム) 【レポート】新種目「校舎行動」の成り立ちから考えるスポーツの「育ち」。山口高校銀鐘祭(文化祭)より

武庫川女子大学 4 年生 辰巳遥:『スポーツ共創イベント Sports DIY の主催運営』,『大阪の未

来の運動会でのファシリテーション』,『武庫川女子大の運動会の実行委員』

#4 スポーツ共創人材合宿で学んだ10のこと武庫川女子大学 4年生 辰巳遥

https://note.com/tatsuhall/n/nb2fd1c56a85d?fbclid=IwAR3-kziUxWGQnvpGDOZyS9Bcg14nScgWMMUpwf52s6EDMQCHsfl5u24FOlo

南校区まちづくり協議会 小笠原賢一,スポーツパーク BASIS 藤原和将,

一般社団法人 熱中こばやし 吉村秀昭:『宮崎県小林市 こばやし熱中運動会の開催』

(スポつくコラム)【レポート】宮崎県小林市 南校区まちづくり協議会で「こばやし熱中運動会をつくる!」

42

筑波大学附属坂戸高等学校 保健体育主任教諭 藤原 亮治:

すべての枠組みを超えるスポーツ共創 PBL での地球市民性の熟成を図る

横浜市立白幡小学校 主幹教諭 玉置哲也:

「ドッヂボールはクラスの全員が楽しく遊べない!!」という問題意識を解決するために「クラス全員が楽しめる

ドッヂボール」を共創する活動

株式会社 START 腰塚準二:『ルールメーカーズ』の企画

日比谷のビル内にあるインキュベーション施設 BASE Q にて地域の子供たち向けのイベントとしてスポーツ

共創イベント「ルールメーカーズ」を実施。20名ほどの親子が集まり新しい遊びをつくることを楽しんだ。

43

埼玉県立吉川美南高等学校 松下 祐樹/Circle of Life 水野碧里 :高校での教育

千葉大学教育学部附属小学校 永末大輔:

小学校の体育でのスポーツ共創事業。保護者も巻き込んでのスポーツ共創を実施。スポーツ共創未経

験の先生が「スポーツ共創ワークブック」を手元に置き,生徒に授業を行ったところ,「スポーツが形になり,

結果的にすごく使える教科書でした」とフィードバックがあった。

保土ヶ谷小学校 今辻宏紀:『未来の保土ヶ谷の運動会』

4 年生が学年をあげて総合の時間をつかって,企画,運営,イベント経営を行った。保土ヶ谷の街にで

かけスポンサーを集め,バザーで資金を集めるなどの事前準備を行った。運動会の種目もすべてつくり,保

土ヶ谷の多くの市民が参加する運動会になった。

(スポつくコラム)

【レポート】「楽しそう!」「やってみたい!」――未来の保土ケ谷の運動会 2020 に向けた 1年の取り組み――(保土ヶ谷小学校)

【レポート】いよいよ本番「未来の保土ケ谷の運動会 2020」(保土ヶ谷小学校/令和 2年 2月 1日,3日開催)

44

山口情報芸術センター 原泉:

『2020年 5月 4日-6日 第 5回スポーツハッカソンと未来の山口の運動会』

山口市で行われる「YCAM ハッカソン」,「未来の山口の運動会」の運営に関わる。

https://www.ycam.jp/events/2020/yamaguchi-future-sports-day/

45

4.4.2. 事業後のまとめ

Sports in Life 「スポーツをつくる」から「社会/生活をつくる」へ

過去 3 年間スポーツ共創ワークブックや上記のワークショップを続けてきた。遠方のイベントやワークショップ

合宿等に高いコストを取って参加してくれる人たちをまず優先して,いっしょに「スポーツ共創」そのものを共創

してきた。

「スポーツはつくれる」と知った人々は,つくったスポーツが自分用だけではなく他人との関係の中にもあること

に気がつく。はじめは斬新で奇抜な提案に聞こえる「スポーツはつくれる」を少し深く考えてみると,「スポーツは

既につくられてきたから存在する」「スポーツで何かをつくってきた」ことに考えが及ぶ。人類はずっとスポーツで何

かをつくってきたと言えるため,特に斬新でも奇抜でもないことになる。

では人類はスポーツで何をつくっているのか?

それは実践的にスポーツをつくる行為を続けていると,他人と共に共有するルールや道具などのモノや時間

,場所,規則をつくっていると気づく。競争であっても,ダンスや歌のように勝敗のないものであってもだ。

そこから更に対話や自問自答をしていくと,更に客観した視座が得られ,ルール,道具,体育館やスタ

ジアムなど建築,街や公園など都市,学校での教育,イベントもつくることのできるスポーツの一部であると

気づく。

スポーツをつくっていたはずが,つくっているのは社会そのものだとなってくるのだ。

ここまで客観ができるようになったときに,スポーツという文化は,生きることそのものだと腑に落ちてくる。ま

さに Sports in Life(スポーツ・イン・ライフ)。そして,スポーツもライフも一人で独創するものでもなく,み

んなで共創するものであるということにたどり着つく。

スポーツ共創ワークブックやスポーツ共創人材育成ワークショップでは,こうした頭や体内の出来事であるテ

クニックを外在化させ,テクノロジーにして,みんなで使えるようにもしてきた。スポーツ共創ワークブックにも書

いた「つくって」,「遊んで(試して)」,「共有する」 そしてまた「つくる」 このサイクル。

スポーツ共創が当たり前になった社会とは,スポーツで社会や生活をつくるのが当たり前になった社会であ

ろう。

今回の事業を通じて多くの方々とスポーツをつくることを超えて,一緒に社会をつくり共に生きていく仲間を

見つけられたように感じる。

生活とスポーツが溶けていくような事業を,今後も皆と続けて行くことこそが,スポーツ人口を減らささず増

やすことになるのだろう。

46

5.1. 2020 スポーツ共創会議の開催

スポーツ共創実践者やスポーツ共創に関心を持ち始めた企業・団体等が,相互に情報交換を行い,

ネットワーク化する場を提供することを目的に,スポーツ共創実践者の実践事例発表,パネルディスカッショ

ンの 2部構成とするオープンな情報発信の場として「2020 スポーツ共創会議」を開催した。スポーツ共創会

議では,実践者の生の声に触れることで,参加者によりスポーツ共創の理解を深めてもらえるものとした。

2020 スポーツ共創会議の実施概要は以下のとおり。

図表 5-1 2020 スポーツ共創会議の実施概要

イベント名 2020 スポーツ共創会議

目的 スポーツ共創実践者やスポーツ共創に関心を持ち始めた企業・団体等が,

相互に情報交換を行い,ネットワーク化する場を提供すること

ターゲット 2020 年にスポーツで盛り上げたいと思っているが,具体的にやることが決まっ

ていない自治体,企業,団体

日程 2020年 2月 4日(火) 13:30 ~ 16:30 (13:00開場)

場所 東京ミッドタウン日比谷 8F 日比谷三井カンファレンスルーム

開催内容

① 趣旨説明・概要紹介

② スポーツ共創実践者の事例紹介

③ パネルディスカッション

④ ネットワーキング (閉会後)

主催・共催

主催:スポーツ共創会議

共催:一般社団法人 運動会協会,一般社団法人 超人スポーツ協

会,三井不動産株式会社,株式会社みずほ銀行,みずほ情報総研株

式会社

協力:未来の体育を構想するプロジェクト

参加費 なし

参加人数 50名

申込み方法 以下サイトから申込み受付を行った

https://2020sportscocreation.peatix.com/

2020 スポーツ共創会議の実施概要

47

図表 5-2 2020 スポーツ共創会議の申込みサイトのイメージ

2020 スポーツ共創会議の当日のタイムスケジュールは以下のとおり。

図表 5-3 2020 スポーツ共創会議のタイムスケジュール

13:00~ 開場

13:30~13:40 開会,事業紹介

13:40~14:40 実践者発表 part1

14:45~15:45 実践者発表 part2

15:50~16:30 パネルディスカッション

16:30~17:15 ネットワーキング

事業紹介をスポーツ庁,みずほ情報総研から行った後,実践者発表では 12 名の方に登壇いただき,

取り組み事例発表いただいた。以下に,登壇者のプロフィールを示す。

2020 スポーツ共創会議の実施内容

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- 事業説明 -

久田 晴生氏

(スポーツ庁健康スポーツ課連携推進係 係長)

長崎県立諫早高等学校,長崎県立佐世保西高等学校,長崎県教育委員会を経て,

2019年度より現職。高等学校勤務中はソフトボール部を指導し,生徒をインターハイ,国

体にも導いた。現在は,「スポーツ人口拡大に向けた官民連携プロジェクト・新たなアプローチ

展開」などを担当。

- 実践者発表 part1 -

犬飼 博士氏

(運動会協会 理事/運楽家)

つながりと笑顔を生むツールとしてゲームとスポーツに着目。e スポーツの 世界大会の予選を国

内で開催し日本代表を引率,大会運営等を手がける。スポーツと IT を融合した「e スポーツ

グラウンド」や「スポーツタイムマシン」等の作品発表。現在は「未来の運動会プロジェクト」にて遊

ぶこととつくることを自然と行うデベロップレイヤーを育成中。現代的なスポーツマンシップとしてス

ペースマンシップを提唱。

南澤 孝太氏

(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)教授/超人スポー

ツ協会 事務局長)

2010年 東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了,博士(情報理工学)

触覚技術を活用し身体的経験を伝送・拡張・創造する身体性メディアの研究開発と社会実

装, Haptic Design を通じた触感デザインの普及展開,新たなスポーツを創り出す超人ス

ポーツやスポーツ共創の活動を推進。

澤田 智洋氏

(世界ゆるスポーツ協会 代表理事)

1981年生まれ。幼少期をパリ,シカゴ,ロンドンで過ごした後 17歳の時に帰国。2004年

広告代理店入社。映画「ダークナイト・ライジング」の『伝説が,壮絶に,終わる。』等のコピー

を手がける。2015年にだれもが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ」協会を

設立。これまで 80以上の新しいスポーツを開発し,10万人以上が体験。海外からも注目を

集めている。

酒井 重義氏

(NPO法人 jude3.0 代表理事/未来の体育を構想するプロジェクト)

東北大学法学部・同大学院法学研究科修士課程修了。都内の法律事務所に勤務した

後,近年の脳科学などから社会をよくするポイントは「運動」と「つながり」を軸にした教育・福祉

の再構築にあるとの認識に至り,福祉系ベンチャー企業における運動プログラム導入支援,

発達障害児向け運動療育福祉施設の運営などを経て,2015年 1月,judo3.0 を設

立。日本から世界に普及した柔道をベースにしたグローバルかつインクルーシブな教育づくりに取

り組む。

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松下 祐樹氏

(埼玉県立吉川美南高等学校教諭/未来の体育を構想するプロジェクト)

埼玉県公立高校の保健体育科教員。部活動では野球部の顧問を務めている。以前は東京

都の小学校で5年間教員をしていた。楽しく学びのある体育の授業にするにはどうしたら良いの

かということや,それを実現するための教員を取り巻く環境などについて日々考えている

- 実践者発表 part2 -

天利 哲也氏

(大日本印刷株式会社 コンテンツコミュニケーション本部)

2007年入社,2016年からスポーツビジネスに携わる。自身のフェンシング経験から,手軽に

運営でき,だれでも安全に体験ができるスマートフェンシングを開発。様々なイベントに「身近で

はないスポーツの体験」という新しいコンテンツを提供。また在学中に国際審判ライセンスを取得

し,仕事と並行して,フェンシング/車いすフェンシングの国際審判員として活動中。競技発展

に向けてもフェンシング/車いすフェンシング協会と連動しスマートフェンシングを活用。

平野 賢氏

(株式会社 no new folk studio プロダクトマネージャー)

1980年和歌山県田辺市生まれ。慶應義塾大学大学院開放環境科学にて,人間工学を

専攻。ORPHE TRACK を一人でも多くのランナーに知ってもらい,使ってもらうための企画,

販売計画,アプリの UI/UX改善に取り組んでいる。趣味はランニング。学生の頃に立ち上げ

たランニングサークルは全国に 5,500名のメンバーがいる。フルマラソンで 2時間 30分を切る

ことを目標に日々トレーニングに励む。

久保田 良輔氏

(宇部工業高等専門学校 制御情報工学科 教授)

2006年 九州工業大学大学院情報工学研究科博士後期課程修了,博士(情報工

学)。宇部高専では計算知能や信号・画像処理アルゴリズムに関する研究に従事し,新しい

道具の開発に焦点をあてた高専版スポーツ共創(KOSEN-スポーツ)を提唱。PBL型の科

目として KOSEN-スポーツを実施している。

中川 隆義氏

(株式会社みずほ銀行 名古屋中央法人部 部長)

1991年入行。2016年からは渋谷,2019 からは名古屋,において法人営業部長を勤め

る。「メガバンクが知見とネットワークを活用して,社会課題の解決に主体的に参画。この CSV

アプローチがメガバンクの新しい社会的存在価値に。」をモットーに活動中。行政や企業のみな

らず教育機関や NPOなどと連携して共創活動を推進。

鈴木 達也氏

(三井不動産株式会社 商業施設本部アーバン事業部 主事)

2011年入社。関西支社にて総務・経理,商業施設の開発・運営を担当した後,2018

年から名古屋久屋大通公園の再開発プロジェクトのチームリーダーとして事業者選定時から担

当。Park-PFI制度を活用した日本最大規模の公園リニューアルを通じ,新たな公園の価値

を提供できるよう事業を推進中。

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腰塚 準二氏

(株式会社 START 代表取締役/コミュニケーションデザイナー)

「笑顔を増やしたい」をモットーに広告業界へ転身。課題抽出や戦略設計,企画立案,制作

運営など,トータルでのコミュニケーション設計を得意とし,様々な企業や団体のサポートを行

う。また,社会課題解決や豊かな未来創造のためのアプローチとして,スポーツ共創に着目。

スポーツの枠にとらわれない「ルールメイク」を基本とした活動『ルールメーカーズ』を展開し,遊び

や運動~社会の仕組みづくりまでを見据えて,より多くの方々との共創にチャレンジしている。

江渡 浩一郎氏

(産業技術総合研究所 主任研究員/慶應義塾大学 SFC 特別招聘教授

/メディアアーティスト)

東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。博士(情報理工学)。産総研で

は「利用者参画によるサービスの構築・運用」をテーマに研究を続ける。2017年,科学技術

分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(理解増進部門)受賞。

実践者発表の発表概要は以下のとおり。

(1) 犬飼 博士氏

運動会協会はニコニコ学会β運動会部からと続く団体である。3 年前より新たなスポーツ開発事業,新た

なアプローチ開発事業,本事業に取り組んでおり,未来の大阪の運動会,スポーツ共創ワークブックの執

筆,スポーツ共創人材育成ワークショップなどの実施してきた。スポーツをつくるというのは大きくなりすぎするた

め,運動会に注目している。運動会が一つの小さな社会と言えるだろうと考えている。スポーツ共創によって,

だれかにやらされるものではなく,地域独特のスポーツが誕生していけばいいと思っている。

スポーツ共創を世界中に発信し輸出できると面白い。オリンピック・パラリンピックと合わせて未来の運動会

を開催したい。そのために,一緒に取り組む人,スポンサーを募集している。スポーツをつくるという文化を日

本から発信できると面白い。そもそも,これまでもスポーツはだれかがつくったはずであるが,クリエイターが増え

ていっていない。

図表 5-4 犬飼氏の講演の様子

実践者発表

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(2) 南澤 孝太氏

もともと体育は得意でなかった,一方つくることは好きだったので,AR・VR,身体能力を高める技術,遠

隔ロボット等の人間拡張の技術を研究している。人間拡張を研究している人間がスポーツに対して何ができ

るのか考えた結果 2014 年くらいに超人スポーツ協会を立ち上げた。最先端テクノロジーとスポーツを組み合

わせる活動をしている。リオ五輪の閉会式を見た時に,日本に求められているものは,単にスポーツすること

ではなく,クールな新しいテクノロジー,かっこよいスポーツを提案することと考えた。拡張技術は単に体に身に

つけるものだけ得なく,道具を拡張させる,場所や環境を拡張させることもそうだ。様々な障害を持つ方に

対して,新たな技術を用いたり,新たなルールをつくったりすることによって克服したい。スポーツを実施するこ

とだけでなく,観戦も拡張させていて行きたい。横浜ベイスターズと連携した「超野球プロジェクト」では,ホー

ムランが打てるバットや,豪速球が投げられるスーツのほか,観客が一体となれる観戦体験などがあった。福

祉という分野では,渋谷区の「超福祉展」と連携した。いろんな人がインクルーシブに参加できる新しいス

ポーツを都市の中で展開する。地域との連携も重要で,岩手県と連携している。岩手国体を開催する際に,

新たな文化,産業をつくっていこうということで,岩手発超人スポーツプロジェクトを進めた。スポーツをつくると

いうだけでなく,自分たちの住んでいる地域の文化や特性を再認識する機会になる。新しい時代の新しいス

ポーツをつくっていきたい。スポーツを「する」・「みる」・「ささえる」の軸に,デザイナー,クリエイター・エンジニア・

アーティスト・製造業などが「つくる」という軸から参加することでスポーツは広がりを見せる。

図表 5-5 南澤氏の講演の様子

(3) 澤田 智洋氏

普段は,マーケティングと福祉の仕事をしている。周りに身体障害者が多いため,健常者と障害者の線

引きは流動的と感じており,自身も障害者ではないかと考えるようになった。自身のマイノリティ性を見つめな

おしている時に,運動音痴が思いついた。SDGsは盛り上がっているが,運動音痴だから故に社会から疎外

されている自分にとって,社会イシューからはずれているのではなないか,自分も社会イシューになりたいと考

えた。運動音痴という名前が良くないということで,一番はじめにやったことは「スポーツ弱者」というスポーツマ

イノリティだと定義した。苦手な方,障害のある方,妊娠している方,けがをした方などを「スポーツ弱者」。

「ゆる」というのは非常に好きな言葉で,インクルーシブだと考えている。この「ゆる」を使って「スポーツ弱者」を

救いたい。世界ゆるスポーツ協会では様々な方と連携しながら,スポーツをつくっている。厚生労働省と組ん

だり,地方行政と組んだり,企業のアセットを生かし NEC の顔認証機能を用いたゆるスポーツもある。世界

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展開をしており,シンガポールでは日本よりも許容度が高い。ゆるスポーツは,スポーツを山に例えたときに,

より高いところを目指す TOP SPORTS【得点を狙う】に対して,裾野を広げる目的で【接点を狙う】POP

SPORTS を目指している。いかに多くの接点を狙うか。ゆるスポーツと企業との関わり方として,企業マーケ

ティングの視点からは4つあり,1 つはブランディング,2 つめプロダクト・サービスの PR,3 つ目は CSR や

CSV で,SDGs の効果もあり要望が増えている。4 つ目は,企業内活性化・チームビルディングを目的とし

たものだ。

スポーツマイノリティの力で世界をより面白くしていきたい。

図表 5-6 澤田氏の講演の様子

(4) 酒井 重義氏,松下 祐樹氏

「未来の体育を構想するプロジェクト」の大きな取り組みの一つとして 2020年 1月 11日に開催した「未

来の体育共創サミット 2020」について,動画で紹介した。当サミットでは,小学校教員や理学療法士など

複数のメンバーがスポーツ共創の体験ブースを開いていた。また,サミット以外の取り組みで,小学校や高

校の授業の中で,スポーツ共創を行っているメンバーがいることをご紹介いただいた。

【酒井氏】 発達障害のお子さんも参加できるように,ワークショップ「道場でできる運動遊びをつくってみよ

う」を実施している。道場でできる運動遊びを体験した後,グループワークを行い,自分たちで運動遊びをつ

くり発表する。発達障害では,社会性やコミュニケーションの問題だけでなく,身体障害としてとらえた方が良

い側面があることが分かった。例えば,コミュニケーションの問題かと思ったら,実際は触られることが嫌であっ

たなどの事例もある。また,「できた」「できる」という達成感を感じ,楽しめることが重要。柔道をはじめ地域

のスポーツのコミュニティ,運動できる環境が少なくなっている。子供だけのクラブ,世代が分断されている既

存の状態では立ち行かなくなっている。各世代が一緒にできるスポーツを,既存スポーツの中でもつくっていか

なければならない。スポーツ共創はその武器になると考えている。

【松下氏】 体育の学習指導要領に則り進める必要があるので,「体つくり運動」単元にあてて,4 時間

の時間でスポーツ共創を授業で実施した。スポーツ共創の講師として,Circle of Life の水野氏にも来てい

ただいた。最後の4時間目には自分たちのつくったスポーツを説明し,互いにつくったスポーツを交換し,体験

する授業設計とした。創り出す経験が生徒に良かった。生徒からは,考えることの楽しさ,つくったスポーツを

伝える難しさなどの感想があった。授業でつくったスポーツの完成度は高いものではないが,スポーツをつくるこ

と自体に教育的価値があったと考える。一方,新しい取り組みで教える側での課題も感じられた。

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図表 5-7 酒井氏(左),松下氏(右)の講演の様子

(5) 天利 哲也氏

フェンシングはオリンピックのメダリスト輩出もあって,認知度は高まったが,だれでも気軽に体験できるもの

ではなかった。フェンシングの普及を目的に,気軽に体験できるものとしてスマートフェンシングを開発した。ス

マートフェンシングは小学生からフェンシング選手も体験可能で,通常のフェンシングと異なり,フェンシングの

選手の顔・表情が見えることもポイント。実際にフェンシング選手にやっていただくと,実際のフェンシング技など

も行うことができる。イベント等で多く体験いただいており,車椅子フェンシグも可能。また,通常フェンシグは

1 対1で行うものだが,複数人での対戦が可能となっており,様々な使い方ができる。IOC のトーマス・バッ

ハ会長(元フェンシング選手)にも体験いただいた。

スマートフェンシングのアイデアを思いつた際に SNS で発信したところ大きな反響を得たため,会社に提案

したが受け入れられなかった。自腹での開発を続け,体験者数を増やしていった。トライアンドエラーで続けた

結果,現在では,会社の事業として進めている。スマートフェンシングをきっかけにフェンシングを始める子供

も出てきた。大日本印刷として実施しているだけでなく,選手のセカンドキャリアや,地域活性化にも活用で

きると良いと考えている。今後,更に手軽にできるように,スマートフォンなどでできるようなものが開発できる

とよい。また,フェンシングの技術を能力評価できるものも開発したい。フェンシングの競技人口拡大につなげ

ていきたい。

図表 5-8 天利氏の講演の様子

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(6) 平野 賢氏

ランニング歴は 30 年くらいで,走るのがとても好き。2019 年度から no new folk studio にジョインし

た。no new folk studioは履いているだけで,スポーツから日常生活まで,あらゆる足の動きをセンシング

して記録できるシューズ ORPHE TRACK を開発,発売している。主な市場はランナー(世界のランニング

市場 2.8兆円,日本約 900万人)。多くのランナーは膝の痛みを抱えている。トップアスリートはモーション

キャプチャ等でランニングフォームを確認するが,だれでも手軽にランニングフォームを確認できるものとなってい

る。(当日は,スマートフォンアプリとシューズを用いたデモを実演いただいた。)シューズは,足のどこから着

地するかによって光り方を変えることができる。シューズを履いて走ることで,記録を取ることができ,脚力,

反発力,左右バランスなどの評価を見ることができる。また,ラップ,足のどこから着地いているのかなどを確

認できる。ORPHE TRACKは 2019年 11月から正式に販売を開始している。

ORPHE TRACK を用いて新しいマラソン大会の形もあるのではないか,例えば,タイムによる表彰からラ

ンニングフォームによる表彰する,また,着地によって参加者全員で音楽をつくるアイデアも考えた。マラソン

は個人スポーツと言われているが,こういった形で一体感を生むことができるのはないかと考えている。

図表 5-9 平野氏の講演の様子

(7) 久保田 良輔氏

高専にてスポーツをつくる取り組みを行っている。高専では,普通の勉強もあるが,専門の勉強も1年生

の段階から行っている。高専でやるスポーツ共創を「KOSEN スポーツ」と呼んでいる。もともと,高専ではつく

ることをやっているが,なぜ高専でスポーツをやろうと思ったか,それは能動的学習(アクティブラーニングなど)

を求められており,PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)の充実化したい,また地域との接点として行っ

ている。KOSEN スポーツでは,低学年ではルールの創造のみ,高学年になると道具の作成も行う。2~5

年生が参加できる単元となっており,いろんな学年の生徒がその時に持っている知識と技術を用いて作成し

ていく。授業は「スポーツ共創ワークブック」にある,ルール編と道具編を使って行う。180 分×15 回により構

成される PBL プログラムとなっている。KOSEN スポーツを,教育プログラムとしてみると,学年横断型 PBL

との整合が高い。地域貢献の一環としては,成果を小・中学校や市民向けイベントとして実践できる。今後

の展開としては,小中学校での体験型 PBL プログラムを実施したり,他高専や他地域に向けた展開したり

できると良いと考えている。

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図表 5-10 久保田氏の講演の様子

(8) 中川 義隆氏,鈴木 達也氏,腰塚 準二氏

【中川氏】スポーツ共創という新しい取り組みに,大企業がどのように関わると,社会持続性につながるか

という視点で取り組んでいる。銀行は新たな価値を求められており,社会的課題を解決するという観点から

メガバンクとしても取り組んでいる。まず,行政や地域と連携していく,ビジネスプラットフォームをつくっていく。

こういった座組の中で,スポーツ共創は社会課題を解決する一つの方法論として考えている。昨年度までは

渋谷支店に勤めており,その際には「未来の渋谷の運動会」,「超福祉展」などのスポーツ共創に取り組ん

できた。今は,名古屋支店に席を移し,ソーシャルイノベーション活動の中で,三井不動産の鈴木氏とつな

がり,街の未来とスポーツ共創活動をつなげることで,久屋大通公園の再開発プロジェクトを盛り上げること

ができるのではないかと考えている。具体的には,「未来の名古屋の運動会」を実施し,社会課題を発信し

ていきたい。

【鈴木氏】三井不動産は久屋大通公園の指定管理者として,新たなにぎわいを生んでいきたい。公園と

いう大きな資産であり,これをいかにいかすかが重要。広場についてもこれまでよりも,皆さんに使っていただ

けるような環境づくりをしていきたい。

【腰塚氏】コミュニケーションデザイナーとして,地域を活性化したいと思い,三井不動産,みずほ銀行と

つながり,スポーツ共創をいかしたいと考えた。これまでのスポーツ共創の取り組みは,東京ミッドタウン日比

谷で作年夏開催された夏休み親子向けのスポーツ共創体験イベント「ルールメーカーズ」などの取り組みを

行っている。子供は,普段大人が真剣に遊んでいる姿を見ることができないので,新鮮に感じてもらえた。ま

だ,スポーツ共創は十分に周知されていないので,例えば,オリンピックのキャンプ地でスポーツ共創活動を

行っていく「2020 スポーツ共創キャンププロジェクト」を実施できればと考えている。多くの人を巻き込みながら,

進めていきたい。

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図表 5-11 中川氏,鈴木氏,腰塚氏の講演の様子

(9) 江渡 浩一郎氏

産総研で創造的な場を支える仕組みが研究テーマであったが,今では「共創」と呼ばれるようになった。ニ

コニコ学会 βを提唱し,様々な活動を行ってきた。その中で,犬飼氏からユーザが新しい運動会をつくっても

良いじゃないかという提案があり,今の「未来の運動会」につながっている。2013 年から「共創」という言葉を

使い始めたが,今は「共創型イノベーション」という言葉で説明している。ユーザがイノベーションの場に参加し,

開発やサービスを創出することを「共創型イノベーション」と呼んでいる。

「共創」とは何ですかと尋ねられることがある。「共創」と「協業」はどう違うのか,例えば,ある製品を開発

しようと思うときに,自分ではできないから開発してもらう,販売してもらう,これも協力している。得られる利

益が見えており,予め得られる利益を分け合うことに主眼が置かれている場合が「協業」であり,一方,利

益が出るかもわからない,見えていないときに「共創」という。利益は見えていないが,でもやりたいという場合

に,一本の指揮系統に収まらずに,各々が全体の状況みつつ,各々の考え方で,一つのプロジェクトに取

り組むことを「共創」と思っている。そのためには一つの目標が必要で,これを「共通善」と呼んでいる。何が共

通善であるのかを見つけることが大事なのではないか。

今は「Tsukuba Maker Fare」に力を入れている。このイベントは「つくりたいからつくった人」を集めたもの

で,やらされている人はいない。社会的に意義があるから研究をすると言うが,熱意が見えないことがままあ

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る。やりたいから研究していると言う人を集め,研究を進めたいと思っている。これはスポーツ共創とは少し離

れてしまったが,共創の取り組みとして紹介した。

図表 5-12 江渡氏の講演の様子

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実践者発表の後は,登壇者によるパネルディスカッションを行った。パネルディスカッションの進行は南澤氏,

犬飼氏に行ってもらった。

スポーツ庁久田氏からは,「スポーツ共創のうねりが来ている。できる応援をしていかなければならい。」とコ

メントがあった。学校教員の松下氏からは,「教員という立場から,スポーツ共創に可能性や手ごたえを感じ

ている。一方で,同僚の先生への説明が大変。スポーツ共創のことを分からない方が多く,協力をお願いす

ることが難しい。また,生徒の反応は,今までにやったことがなく面白いという生徒もいれば,普通にサッカー

をやりたいという生徒もいて混沌としている」とあった。澤田氏からは「ゆるスポーツをつくる際には,人を笑わせ

ることを意識している。笑顔では足りない。」,「スポーツ共創は新しいムーブメントだが,本日の講演を聞くと

均一性がある。本日の登壇者をみると全員男性である。どのように多様性をもたせられるか」と発言があった。

この発言を受け,スポーツ共創活動を実践しており,当日は参加者として来場していた Circle of Life の

水野氏にも急遽登壇いただき,「理学療法士として働く中でスポーツ共創の可能性を感じており,選手が

引退後にスポーツに関わる機会,療養の中でもスポーツを取り組む人がおり,活用が考えられる」とコメント

があった。また,久保田氏からは「つくることが得意な人はロボットやプログラミングの機会があるが,スポーツ

共創は,そうでない人につくってみようかという機会を提供できる」,犬飼氏からは「通常つくったら自分のもの

となるが,(つくった)スポーツはみんなのものという文化がある」,酒井氏からは「既存のスポーツに対して,

スポーツ共創がいかにインパクトを与えられるかが重要」,江渡氏からは「新しいもの,価値をつくる上で大切

なこととして,フォロワーシップが大事。先頭に走る人を育てるのと同時に一緒に走って行く人を育てることも大

事。」とあった。

民間企業の視点として,平野氏からは「スポーツ競技だけに特化するのでなく,エンターテイメント性も」,

腰塚氏からは「スポーツを手法として,どういかすかがポイント」といった発言もあった。

パネルディスカションでは,短時間ではあったが,登壇者間のやり取りの中で参加者は多くの気づきを得ら

れたと考える。

図表 5-13 パネルディスカッションの様子

パネルディスカション

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2020 スポーツ共創会議の会場には,大日本印刷のスマートフェンシングの体験スペースを設置してもらっ

た。参加者は開会前や休憩中,閉会後の空いた時間で,多くの方が体験を行った。

図表 5-14 スマートフェンシング体験の様子

スマートフェンシングの体験スペース

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本事業では,スポーツ共創ウェブ「スポつく」の構築,スポーツ共創人材育成ワークショップ,スポーツ共創

会議の開催を行った。

スポーツ共創ウェブ「スポつく」は,様々な執筆者にスポーツ共創事例の取材,コラム記事化を行っても

らった。スポーツ共創活動を実践する人が増え,小学校,高校,高専の学校授業,大学の特別講座,

大学の国際交流プログラム,地域のつながりを高めるための運動会,ご当地ゆるスポーツアワード,体育担

当教員の自主勉強会など実践事例は多岐に渡り,これら事例を様々な執筆者が各々の視点からスポーツ

共創の魅力や成果,課題を記事化した。また,先んじてスポーツ共創を牽引してきた産総研江渡氏,超

人スポーツ協会南澤氏のほか,エンジニアとしてスポーツ共創に関わる泉田氏へのインタビュー記事は読み応

えもあり,面白いものになっている。スポーツ共創に関心を持った方にとって,スポーツ共創の理解を深められ,

より関心が高まり,やってみたいという気持ちを引き上げるものとなった。

スポーツ共創人材育成ワークショップでは,今年度は学校教員を主な対象と設定した。これからの体育を

考える体育担当教員からなる「遊学塾」や「未来の体育を構想するプロジェクト」と蜜に連携し,開催した。

今年度は,実践に向けたアクションまでつなげることを重要視しており,「なぜやるのか」を深く問うために「考

えること」を学ぶステップとして,「てつがく対話」を導入した。「てつがく対話」が参加者に与えたインパクトは大

きく,参加者は自問自答を繰り返し,参加者同士で対話を行うことで,ディープシンク(深く考えること)

を学び,スポーツ共創の実践に活かしていった。実際に,参加者は自分たちのフィールドでスポーツ共創の

実践を始めている。ワークショップ参加者は信頼関係でつながり,これからはスポーツ共創人材を育てていくだ

ろう。主な対象としていた学校教員も,学校の授業の中に取り入れ,つくったスポーツで地域とつながる取り

組みを行っている。

スポーツ共創会議では,スポーツ共創実践者に事例発表を行ってもらった。登壇者は,スポーツ共創を

展開している運動会協会,超人スポーツ協会,世界ゆるスポーツ協会のほか,公教育現場から高校教

員,高専教授,民間企業からはみずほ銀行,三井不動産,大日本印刷等の大企業やベンチャー企業

の no new folk studioなどが登壇した。各々が取り組んできたスポーツ共創について共有し,参加者から

は「思っていた以上に深い気づきが得られた。まだ自分の中で整理できていないが,多くのインプットをもらった」

とのコメントも聞かれた。

スポーツ人口拡大に向けた官民連携プロジェクトとして,3年間取り組みを続け,「スポーツはつくれる」,

「スポーツにつくるという関わり方がある」という文化が少しずつではあるが広がってきた。スポーツ共創のアクショ

ンを伴うためスポーツ共創人材は一気に増えることはないが,熱は冷めることなく新しい価値を生み出してい

く人材として,彼らは次のスポーツ共創人材を育てていくだろう。本事業でも主な対象としていた教育領域に

ついて,多くの方が可能性を感じ取っていた。Society5.0 で活躍できる人材を育てるとされる STEAM 教

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育やプログラミング教育,総合的な探求の時間など,今,子供たちに求められる学校教育にスポーツ共創

はうまく当てはまる。また子供だけでなく,大人のリカレント教育にも活用できるであろう。民間企業の視点か

ら見るとスポーツ共創という新しい価値は,企業が社会とつながり,持続性をもって社会課題に取り組んで

いく一つの手法となるだろう。

2020 年 2 月からコロナウイルスの感染拡大により東京オリンピック・パラリンピックは 2021 年へ延期が決

まった。人類としてコロナウイルスに打ち勝った後にむかえる東京オリンピック・パラリンピックで,日本の文化とし

て「スポーツをつくる」「スポーツ共創」を世界に発信できることに期待したい。スポーツを「つくる」という軸を入れ

ることで,スポーツへの関わりは多様化される。これまでスポーツに関わらなかった,関われなかった人も積極

的にスポーツに関われるようになってもらいたい。そうすることで,スポーツを楽しむ人が増え,より豊かな生活

をおくれる社会をめざしたい。