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12 尿調23 51 51 97 65 埼玉医科大学内科学(呼吸器内科)教授 呼吸器病センター長 金澤 實 先生 (かなざわ・みのる) ◉略歴 1973 年、慶應義塾大学医学部卒業。77 年、 同大学院医学研究科修了、医学部内科学特別 研究員。79 年、英国オックスフォード大学 留学。81 年、慶應義塾大学医学部内科学助 手に復職。82 年、東京慈恵会医科大学非常 勤講師。86 年、慶應義塾大学医学部内科学 専任講師。98 年、埼玉県立循環器・呼吸器 病センター副病院長。2003 年、埼玉医科大 学呼吸器病センター呼吸器内科教授。07 年、 埼玉医科大学病院副院長、12 年、同院長代理、 現在に至る。 監 修 インフルエンザ 肺炎

インフルエンザ - 埼玉医科大学 · インフルエンザワクチン は、 ます。死亡の危険を下げることができを予防し、重症肺炎への進展やれによって、合併しやすい肺炎症化を防ぐことができます。そを予防し、感染した場合でも重インフルエンザウイルスの感染

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Page 1: インフルエンザ - 埼玉医科大学 · インフルエンザワクチン は、 ます。死亡の危険を下げることができを予防し、重症肺炎への進展やれによって、合併しやすい肺炎症化を防ぐことができます。そを予防し、感染した場合でも重インフルエンザウイルスの感染

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肺炎による死亡が急速に増加していま

す。その多くがお年寄りです。肺炎を起

こす病原菌は、肺炎球菌が最も多いので

すが、呼吸器、心臓などに持病がある人、

糖尿病や体力が低下している人などは、

ちょっとしたかぜや、冬季に猛威をふる

うインフルエンザにも注意が必要です。

 

日頃の体調管理とワクチンの接種で肺

炎の発症や重症化を予防しましょう。

 

年ぶりに

肺炎が死因の第3位に

 

約半世紀にわたって日本人の死因は、

1位「がん」、2位「心疾患」、3位「脳

血管疾患」でしたが、平成23年人口動

態統計(厚生労働省)で、51年ぶりに

肺炎が3位になり、脳血管疾患に取っ

て代わりました。超高齢社会の中で今、

肺炎患者さんが増加しています。

 

肺炎は、細菌、ウイルス、真しん

菌きん

(カ

ビ)などの病原体が肺に炎症を起こす

病気です。あらゆる年齢層に発症しま

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すが、特に重症化しやすいのがお年寄

りで、肺炎による死亡の約97%が65歳

以上の高齢者となっています。

 

原因として多いのは肺はい

炎えん

球きゅう

菌きん

やイ

ンフルエンザ菌(※冬季に流行するイ

ンフルエンザウイルスとは別の細菌で

す)などの細菌です。なかでも肺炎球

菌は毒性が強く、体力や免疫力が低下

したお年寄りの肺に感染して増殖する

と、重い肺炎を引き起こします。

 

また、お年寄りは、かぜや気管支炎

からも容易に肺炎を起こしますので、

軽いかぜといっても侮れません。

埼玉医科大学内科学(呼吸器内科)教授呼吸器病センター長

金澤 實 先生(かなざわ・みのる)

◉略歴1973 年、慶應義塾大学医学部卒業。’77 年、同大学院医学研究科修了、医学部内科学特別研究員。’79 年、英国オックスフォード大学留学。’81 年、慶應義塾大学医学部内科学助手に復職。’82 年、東京慈恵会医科大学非常勤講師。’86 年、慶應義塾大学医学部内科学専任講師。’98 年、埼玉県立循環器・呼吸器病センター副病院長。2003 年、埼玉医科大学呼吸器病センター呼吸器内科教授。’07 年、埼玉医科大学病院副院長、’12 年、同院長代理、現在に至る。

監 修

インフルエンザと肺炎

インフルエンザから

しばしば肺炎に

 

かぜとインフルエンザは、症状の強

さの違いから、よく別々の病気のよう

に扱われますが、かぜは主にウイルス

の感染によって上気道(鼻やのど)に

炎症が起きた状態をいいます。かぜの

原因となる病原体はウイルスや細菌で

すが、その種類は非常に多く、インフ

ルエンザウイルスもその一つです。

 

かぜ症状で受診し、普通のかぜに比

べて強い症状がみられ、インフルエン

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ザウイルスの感染が判明した場合、イ

ンフルエンザと呼ばれます。

 

普通のかぜは、のどの痛み、鼻汁、

くしゃみや咳など、上気道の症状が中

心で、高熱が出ることはなく、重症化

することもほとんどありません。

 

一方、インフルエンザは、強い悪お

寒かん

(寒け)とともに、突然38℃〜40℃の

高熱が出て発病します。のどの痛みや

鼻汁など、普通のかぜと同じ症状もみ

特集2 予防しましょう

■ かぜとインフルエンザ

られますが、頭痛や関節痛、筋肉痛な

どの全身症状が強く現れます。下痢や

腹痛がみられることもあります。

 

そして、しばしば重症化します。多

いのは肺炎の合併です。インフルエン

ザウイルスが感染して炎症を起こした

気道は、感染に対する防御機能が弱く

なっています。このとき、もともと上

気道に常在している肺炎球菌やインフ

ルエンザ菌が肺に感染し、増殖すると、

重い肺炎を引き起こします。インフル

エンザに続く肺炎は、急激に進行して

命にかかわることもあります。

 

インフルエンザといっても、ウイル

スの病原性が弱かったり、体力がある

若い人では、普通のかぜ症状と変わら

ず、インフルエンザと気づかれないこ

ともよくあります。しかし、感染力は

同じですので、かぜかな?と思ったら、

症状の強弱にかかわらず、周囲に感染

させない注意が大切です。

 

小さなお子さんでは、インフルエン

ザ脳のう

症しょうが

最も重篤な合併症で、意識障

害、けいれん、マヒなどを起こします。

特に基礎疾患のある

お年寄りは要注意です

 

お年寄りは肺炎を起こしても、高熱、

咳、痰など、肺炎の典型的な症状に乏

しく、かなり重症になるまで気づかれ

ないことがあります。

 

かぜの症状が長引いている、微熱や

軽い咳が治まらない、食欲がない、ぐっ

たりしている、呼吸が速いなどの変化

を感じたら、肺炎を疑ってすぐに受診

することが大切です。

 

お年寄りは体力や免疫の働きが低下

しているため、ただでさえ肺炎を起こ

しやすいのですが、さらに肺や心臓、

腎臓などに持病(基礎疾患)がある人、

また糖尿病の人が肺炎にかかると、重

かぜ インフルエンザ発症 徐々に 急激主症状 咽頭痛、鼻汁、咳 発熱、咳、筋肉・関節痛発熱 38℃以下 38℃以上(~ 40℃)症状の持続 3~7日 3~7日

重症化 少ない(基礎疾患の増悪)

しばしば(高齢者では生命にかかわることも)

合併症 なし 肺炎、心筋炎、脳症ワクチン なし 有効

高熱と強い全身症状があったら、インフルエンザを疑って早めに受診しましょう

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まずは日常の予防対策を

しっかり実行しましょう

 

かぜの病原体やインフルエンザウイ

ルスは、感染した人の咳やくしゃみで

空気中にまき散らされ、これを鼻や口

から吸い込んで感染します。これを飛ひ

沫まつ

感かん

染せん

といいます。

 

また、感染した人がさわった物に触

れ、何かの拍子に病原体が口から侵入

して感染することもあります。接せっ

触しょく

感かん

染せん

です。ドアのノブ、電車のつり革

症化しやすくなります。

 

肺炎の基礎疾患として最も多いのは

COPD(慢性閉塞性肺疾患。肺気腫

と慢性気管支炎)です。肺炎を起こし

て初めてCOPDだとわかるケースも

多くあります。

 

COPDの主な原因は喫煙です。喫

煙はあらゆる病気の危険因子ですが、

喫煙者は非喫煙者の約4倍の頻度で重

症の肺炎球菌感染症にかかりやすく、

かぜやインフルエンザ、肺炎、結核な

どの気道・呼吸器の病気も、年齢に関

係なく2〜4倍かかりやすくなります。

 

COPDは今、中高年から高齢にか

けて患者数が急増しており、日本人の

死因の第9位(男性に限ると7位)に

浮上してきました。今後、COPDに

合併する肺炎の増加が心配されます。

 

また、誤ご

嚥えん

性せい

肺はい

炎えん

にも注意が必要で

す。口の中には飲食物の残りカスや多

種多様な菌が常に存在しています。高

齢者では、これを唾液といっしょに吸

引したり誤嚥したりして肺炎を起こす

ことがあります。

 

脳卒中の後遺症がある人や寝たきり

の人では、嚥えん

下げ

運動がうまくできず、

飲食物や唾液、胃液などを気道に吸い

込んで起きることも少なくありません。

肺炎を予防しましょう

お年寄りは、症状がはっきり出ないことが少なくありません

■ 肺炎が疑われる症状

・寒けや震えを伴う高熱(38℃以上)が続く・強い咳・痰が透明ではなく、黄色や緑色、鉄さび色 ・咳込むと胸に痛みを感じる・息切れ、息苦しさ、ひどい場合は呼吸困難・呼吸や脈拍の増加・顔色がわるい・食欲がない、元気がない・意識がもうろうとしている

■ 肺炎が重症化しやすい人

・ 65歳以上・慢性呼吸器疾患(COPDなど )の患者さん・糖尿病の患者さん・ 養護老人ホームや長期療養施設などに入居している人・慢性心不全の人・肝硬変など慢性肝疾患の人・免疫抑制療法のため感染症にかかりやすい人・脾臓摘出などで脾機能不全のある人

(日本呼吸器学会 成人市中肺炎診療ガイドラインより作成・改変)

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など感染源は至る所にあります。

 

インフルエンザのシーズンは特に、

外出時はマスクをつけましょう。また、

一年を通して、外出から帰ったら、必

ず手洗いとうがいをしてください。

 

規則正しい生活と栄養のバランスの

とれた食事、適度の運動をして、体力

を落とさないようにしましょう。基礎

疾患がある人は、きちんと治療を続け

て、安定した状態を維持してください。

口の中を常に清潔にしておく口腔ケア

も大切です。

ワクチンの接種で

積極的な予防を

 

インフルエンザワクチンは、

インフルエンザウイルスの感染

を予防し、感染した場合でも重

症化を防ぐことができます。そ

れによって、合併しやすい肺炎

を予防し、重症肺炎への進展や

死亡の危険を下げることができ

ます。

 

肺炎球菌ワクチンは、肺炎球

菌の感染を予防し、肺炎の発症

や重症化を防ぎます(※すべての肺炎

を予防するものではありません)。1

回の接種で5年間効果が持続するとい

われます。

 

重い持病のある人の場合、1回目の

接種から5年以上経過した人を対象に

再接種も勧められています。

 

さらに、インフルエンザと肺炎球菌

の両方のワクチンを接種することで、

より肺炎予防の効果が高まるとされて

います。インフルエンザワクチンは、

流行前の接種が効果的で、年1回の接

種が必要です。肺炎球菌ワクチンは季

節を問わず接種可能ですから、インフ

ルエンザワクチンの接種時期に合わせ

て併用接種するとよいでしょう。

 

どちらのワクチンも安全性は高く、

接種後に接種部位の軽い腫れや痛み、

熱感などが出ることがありますが、通

常2〜3日で治まります。

 

インフルエンザワクチンでは、すで

に65歳以上の高齢者および前ページ下

表の「肺炎が重症化しやすい人」の条

件にあてはまる人を対象に公費助成制

度が導入されています。

 

肺炎球菌ワクチンも現在、全国の約

三分の一以上の自治体で

公費助成を受けられるよ

うになり、さらに多くの

自治体に広がることが期

待されます。

 

特に肺炎が重症化する

リスクの高い人は、イン

フルエンザや肺炎を防ぐ

ために、ぜひ積極的に併

用接種を受けていただき

たいと思います。

日常の注意とワクチン接種で

■ 肺炎を予防しましょう

・規則正しい健康的な生活を送りましょう・喫煙する人は、禁煙しましょう・誤嚥を防ぎましょう・口の中を清潔に保ちましょう・基礎疾患をしっかり治療しましょう・ 高齢の人は、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの接種を受けましょう