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みずほリポート� 2002 年 8 月 29 日発行 02-04F アジアは再びドルペッグに戻るのか� ~通貨制度に関する議論と現実~�

みずほリポート...みずほリポート 2002 年 8 月 29 日発行 02-04F アジアは再びドルペッグに戻るのか ~通貨制度に関する議論と現実~ 【要旨】

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Page 1: みずほリポート...みずほリポート 2002 年 8 月 29 日発行 02-04F アジアは再びドルペッグに戻るのか ~通貨制度に関する議論と現実~ 【要旨】

みずほリポート�2002 年 8 月 29 日発行 02-04F

アジアは再びドルペッグに戻るのか�~通貨制度に関する議論と現実~�

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【要旨】 1.通貨危機を契機として、アジアの通貨制度に関する議論が展開されてきた。米国の経

済学者やIMF(国際通貨基金)などは、採り得る選択肢はフリーフロートかハード

ペッグのどちらかしかないと主張し(Two Corner Solutions)、日本政府などは、バスケットペッグの採用が好ましいと主張してきた。しかし、両者ともドルペッグ政策

が危機発生のひとつの要因となったということでは一致している。 2.一方、最近の為替レートの動きを観察すると、アジアがドルペッグに回帰しているよ

うに見える。アジアのドルペッグ回帰の要因については、いくつかの見方がある。代

表的なものとしては、①米国との貿易を促進させるため、②アジアの金融システムが

未成熟であるため、③ドル建て対外債務が多いため、③周辺国の対ドル固定相場制の

影響を受けているため、などがある。いずれも確定的なものとはいえないが、アジア

のドルペッグ回帰には、経済合理性が存在することは間違いない。 3.アジアはどのような通貨制度を採用すべきだろうか。米国などが主張する Two Corner

Solutions は、理論的には納得的ではあるが、現実的には問題が少なくない。ハードペッグを採用する場合は、金融システムの安定や相応の外貨準備を有することなど、

高いハードルをクリアーしなくてはならない。また、フリーフロートについても、途

上国には「Fear of Floating(フロートの恐怖)」があり、必ずしも現実的な選択肢とはいえないだろう。

4.このように見ると、バスケットペッグは有力な候補といえる。ただし、アジアがバス

ケットペッグを採用する場合にも、いくつかの検討すべき項目がある。例えば、①対

外債務の通貨別構成比を考慮すべきかどうか、②資本流入をある程度管理する必要が

あるか、③アジア域内のコーディネーションをどのように進めるか、などである。 5.いずれにせよ、アジアの通貨制度の選択は、必ずしも唯一の正解があるわけではなく、

また、ある特定の通貨制度を選択すれば、危機発生の可能性を完全に排除できるとい

うものでもない。しかし、アジアの通貨制度に関する議論と現実のギャップの間には、

アジアが抱える経済問題が幾重にも織り込まれているように見える。

富士総合研究所 調査研究部 アジア担当 主任研究員(統括) 小林 俊之 TEL: 03-3201-0524 FAX: 03-3240-8214 E-mail: [email protected]

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【目次】

1.はじめに ………………………………………………………………………………………1

2.危機以降のアジア通貨の動き (1)2度にわたるアジア通貨の調整 …………………………………………………………2 (2)ドルペッグに回帰するアジア ……………………………………………………………3

3.アジアの通貨制度に関するこれまでの議論 (1)ドルペッグの問題点 ………………………………………………………………………5 (2)Two Corner Solutionsとバスケットペッグ ……………………………………………6

4.ドルとの連動性を強めるアジア通貨 (1)マレーシアの対ドル固定相場制 …………………………………………………………8 (2)アジアのドルペッグ回帰の計量的検証…………………………………………………10

5.なぜアジアはドルペッグに回帰するのか (1)高い対米貿易依存度………………………………………………………………………14 (2)金融市場の不完全性(Original Sin Hypothesis)………………………………………15 (3)マレーシアの対ドル固定相場制の影響…………………………………………………16 (4)アジアがドルペッグに回帰することの経済合理性……………………………………17

6.アジアにとって望ましい通貨政策 (1)Impossible Trinity ………………………………………………………………………18 (2)ハードペッグを採用するための条件……………………………………………………19 (3)フリーフロートを採用する場合の問題点………………………………………………21 (4)中間的な通貨制度はアジアにとって有効か……………………………………………22

7.最後に…………………………………………………………………………………………27

参考文献 …………………………………………………………………………………………28

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【図表】

図表 1 97年以降の対ドル為替レートの推移…………………………………………………2 図表 2 99年以降の対ドル為替レートの推移…………………………………………………3 図表 3 01年以降の対円、対ドルレートの推移………………………………………………3 図表 4 アジア諸国・地域の通貨制度の変遷(IMFへの届け出ベース) ………………4 図表 5 通貨制度の分類 …………………………………………………………………………6 図表6 91年から99年にかけての世界的な通貨制度のシェア………………………………7 図表 7 マレーシアのインフレ率の推移 ………………………………………………………9 図表 8 マレーシアの外貨準備の推移 …………………………………………………………9 図表 9 マレーシアの実質実効レートと輸出伸び率の推移…………………………………10 図表 10 アジアの外貨準備(対輸入額)………………………………………………………10 図表 11 アジア通貨の対ドル・対円変動係数の推移…………………………………………11 図表 12 アジア通貨のバスケットウェイト …………………………………………………13 図表 13 アジアの品目別輸出動向(1996年)………………………………………………15 図表 14 各国の対外債務(中長期)の通貨別シェア…………………………………………16 図表 15 各国の貿易相手国シェア上位 8カ国・地域(2000年)…………………………17 図表 16 フリーフロートとハードペッグのメリット・デメリット…………………………18 図表 17 Impossible Trinity: 通貨制度と国内経済政策 ……………………………………19 図表 18 フロート下での金融政策(マンデル・フレミングモデル)………………………21 図表 19 バスケットペッグに関する整理 ……………………………………………………23 図表 20 アジア諸国の貯蓄率・投資率…………………………………………………………24 図表 21 マレーシア、タイ、インドネシアの通貨取引規制…………………………………25 図表 22 チェンマイイニシアティブの概要 …………………………………………………26

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1

1.はじめに

1997 年にアジア通貨危機が発生して 5 年が経過した。アジア諸国・地域は、外需に牽引される形で景気も回復しつつあり、また、構造改革を断行したことで、通貨危機の傷跡

からも立ち直りつつある。このため、通貨危機当時の暴動や混乱による悲惨な記憶も、徐々

に風化しつつあるように見える。 一方、一連の世界的な通貨・金融危機を契機として、国際機関、先進国政府、学会など

を中心に、安定的な国際金融システムの再構築について検討が重ねられてきた。なかでも、

アジアが再び危機に陥らないためにはどのような通貨制度が望ましいかという点について

は、活発な議論が展開されてきた。米国の経済学者やIMF(国際通貨基金)などは、採

り得る選択肢はフリーフロートかハードペッグのどちらかしかないと主張し(Two Corner Solutions)、日本や欧州などは、バスケットペッグの採用が好ましいと主張してきた。しかし、アジアが自国通貨をドルにペッグしていたこと(ドルペッグ政策)がアジア通貨危

機の主因のひとつとなったという点では、両者の間で共通の認識が形成されている。 ところが、最近の為替レートの推移を観察すると、アジアはドルペッグに回帰している

ように見える。マレーシアの対ドル固定相場制は現在も続いているが、その他のアジア通

貨も、近年ドルとの連動性を強める傾向を示している。昨年後半に円安・ドル高が進展し

たときも、アジア通貨は対ドルでは安定していたが、対円では大幅に増価した。ドルペッ

グの弊害が認識されているにもかかわらず、アジアはなぜドルペッグに回帰しているのだ

ろうか。アジア通貨危機の教訓はどうして生かされないのだろうか。 本稿ではこのような問題意識から、「アジアはなぜドルとの連動性を強めるのか」「ア

ジアにとって望ましい通貨制度は何か」という 2つの問題について、これまでに発表された研究成果をサーヴェイした上で、検討を行った。通貨制度の選択は、必ずしも唯一の正

解があるわけではなく、金本位制崩壊後、世界の金融当局者を常に悩ませてきた問題であ

る。また、本稿のアプローチも、あくまで現時点でのアジア経済の状況を前提としたもの

であり、外部環境の変化やアジアがさらなる経済発展を実現した場合には、当然異なる視

点が必要となろう。 なお、本稿で検討対象とするアジア通貨とは、通貨危機に陥った国、およびその周辺国

の通貨であるタイバーツ、マレーシアリンギ、インドネシアルピア、韓国ウォン、シンガ

ポールドルに限定した(中国元などは対象外とした)1。

1 本稿作成に当たっては、青山学院大学国際政治経済学部の小宮隆太郎教授、中川浩宣助教授より、有益なコメントを頂いた。

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2.危機以降のアジア通貨の動き (1)2度にわたるアジア通貨の調整 この 5年間、アジア通貨は 2度にわたる調整を経験した(図表 1)。1度目は、97年 7月から 98 年 5 月まで2の「通貨危機による混乱の時期」である。通貨危機の発生により、

アジア諸国の通貨価値(対ドルレート)は、インドネシアルピアで約 2割、東南アジア通貨、韓国ウォンで 6~7 割程度にまで落ち込んだ。2 度目は、2000 年の初めから 01 年 8月まで3の「東南アジアの政情不安の時期」である(図表 2)。特に、インドネシアルピア、タイバーツ、フィリピンペソの「東南アジア 3通貨」が大幅に売り込まれた。インドネシアでは、ワヒド前大統領就任以降、政情不安や地方独立の動きが続き、タイでは、タクシ

ン首相の資産隠し疑惑が大々的に報じられ、フィリピンでは、エストラダ前大統領による

さまざまなスキャンダルが発覚し、政治の混乱が生じた。市場参加者は、このような問題

を嫌気して、東南アジア通貨を買い控えてきた。しかし、これらの調整期間を経て、アジ

ア通貨は最近になってようやく安定を取り戻し、現在は堅調に推移している。 図表 1 97年以降の対ドル為替レートの推移

0

20

40

60

80

100

120

140

1 2 3 4 5 6 7 8 910

11

12 1 2 3 4 5 6 7 8 9

10

11

12 1 2 3 4 5 6 7 8 9

10

11

12 1 2 3 4 5 6 7 8 9

10

11

12 1 2 3 4 5 6 7 8 9

10

11

12 1 2 3 4 5

1997 1998 1999 2000 2001 2002

中国元・香港ドル

台湾元

シンガポールドル

インドネシアルピア

フィリピンペソ

マレーシアリンギ

韓国ウォン

タイバーツ

通貨危機による混乱 ASEAN政情不安による混乱

(1997年7月=100)

(月/年)

(資料)Datastream

2 98年 5月、インドネシアのスハルト元大統領が辞任したことを機に、アジア通貨の混乱は一時的に安定に向かった。

3 01年1月にフィリピンでアロヨ大統領就任、01年7月にインドネシアでメガワティ大統領就任、01年 8月にタイのタクシン首相が資産隠し疑惑で無罪を獲得したことを機に、これら 3通貨の下落基調は終息した。

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3

図表 2 99年以降の対ドル為替レートの推移

60

70

80

90

100

110

120

130

140

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5

1999 2000 2001 2002

インドネシアルピア

香港ドル、中国元、マレーシアリンギ

フィリピンペソ

タイバーツ

台湾元

韓国ウォン

シンガポールドル

(1999年1月=100)

(月/年)

(資料)Datastream

(2)ドルペッグに回帰するアジア 一方、01年後半から 02年前半にかけて、急速に円安・ドル高が進んだ。01年 9月後半に円ドルレートは 1ドル=116円台であったものが、02年 1月には 1ドル=134円台を記録した。このとき、アジア通貨は対ドルでは極めて安定的に推移したが、対円では大幅に

増価した(図表 3)。

図表 3 01年以降の対円、対ドルレートの推移

90

95

100

105

110

115

120

1/1

1/15

1/29

2/12

2/26

3/12

3/26 4/9

4/23 5/7

5/21 6/4

6/18 7/2

7/16

7/30

8/13

8/27

9/10

9/24

10/8

10/2

2

11/5

11/1

9

12/3

12/1

7

12/3

1

1/14

1/28

2/11

2/25

3/11

3/25 4/8

4/22 5/6

5/20 6/3

6/17

(2001年1月1=100)

Sドル(対ドル)

   ウォン(対ドル)

  バーツ(対ドル)

Sドル(対円)

バーツ(対円)

ウォン(対円)

2001 2002

(月/日)

(年) (資料)Datastream

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通貨危機以前、アジアは実質的な対ドル固定相場制(de facto dollar pegs:以下「ドルペッグ」)を採用しており、そのことがアジア通貨危機発生のひとつの要因となった(後述)。

危機当時、アジアの通貨当局者の何人かは、非公式ながら、今後は自国通貨と円の連動性

を高めるべきだと主張していた。しかし、アジア通貨とドルとの連動性は一時的に弱まっ

たものの、最近になって再び強まる傾向を示している。図表 3からも、アジアが対円レートよりも対ドルレートの安定を優先していると見られ、換言すれば、アジアはドルペッグ

に回帰しているのではないかと推察される4。 IMF届け出ベースでのアジア諸国の通貨制度を見ると、通貨危機を境に、多くのアジ

ア諸国は変動相場制(フロート)に移行した(マレーシアだけは実質的な固定相場制に移

行)(図表 4)。しかし、実態を見ると、必ずしもアジアが完全なフロートに移行したと

はいえない。むしろ、市場介入によって、対ドルレートを安定させる傾向が強まっている

といえる。

図表 4 アジア諸国・地域の通貨制度の変遷(IMFへの届け出ベース)

国名 1991年末時点 1999年末時点 タ イ Other conventional fixed pegs

(固定相場制) Independently floating (変動相場制)

マレーシア Pegged rate in horizontal band (ターゲットゾーン)

Other conventional fixed pegs (固定相場制)

インドネシア Crawling peg (クローリングペッグ)

Independently floating (変動相場制)

韓 国 Managed float with no pre-announced exchange rate path (管理変動相場制)

Independently floating (変動相場制)

シンガポール Managed float with no pre-announced exchange rate path (管理変動相場制)

Managed float with no pre-announced exchange rate path (管理変動相場制)

中 国 Other conventional fixed pegs (固定相場制)

Other conventional fixed pegs (固定相場制)

香 港 Currency board (カレンシーボード)

Currency board (カレンシーボード)

台 湾 Managed float with no pre-announced exchange rate path (管理変動相場制)

Managed float with no pre-announced exchange rate path (管理変動相場制)

フィリピン Managed float with no pre-announced exchange rate path (管理変動相場制)

Independently floating (変動相場制)

(資料)Fischer(2001)

4 ただし、韓国ウォンについては、急速な景気回復を背景に、02年 4月以降、対円、対ドルレートとも急騰しており、他のアジア通貨と異なる動きをたどっている。

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3.アジアの通貨制度に関するこれまでの議論 (1)ドルペッグの問題点 アジア通貨危機の再発を防止するために、国際機関、先進国政府、学会などを中心に、

国際金融の制度的な枠組み(Financial Architecture)について議論が展開されてきた。例えば、IMFの資金供給機能、オフショア市場のあり方、資本移動規制の是非、などが議

論されてきた。そのなかで、「アジアにとって望ましい通貨制度は何か」という問題も、

重要な論点として採り上げられてきた。 アジア通貨危機では、自国通貨とドルを固定するドルペッグ政策が危機をもたらす要因

のひとつとなったということが、多くの専門家から指摘されており、ほぼコンセンサスと

なりつつある5。ドルペッグは、それを採用しただけで危機に陥るというものではないが、

資金の流出入を通じて通貨危機を誘発するメカニズムを内在しており、このことは、危機

当時のタイの状況を見れば明らかである。ドルペッグの問題点は、以下の 3つに纏めることができる。 第 1に、米国との貿易依存度がそれほど高くない国が自国通貨をドルにペッグした場合、主要通貨間の為替レートの乱高下によって、実効レートが不安定化する可能性がある。実

際、95年以降のドル高の進展で、バーツの実効レートは上昇し、そのことがタイの輸出競争力の減退に繋がった6。 第 2に、自国通貨がドルに固定されることで、資金の出し手、取り手ともドルと自国通貨の為替変動リスクに対する感覚が鈍る。タイでは、国内の居住者がオフショア市場から

アンカバーでドル資金を大量に調達し、長期の設備資金や不動産購入資金に充当した。こ

れにより、「期間」と「通貨」の「ダブルミスマッチ」が生じ、そのことが危機を招き、

金融セクターや実体経済に悪影響を及ぼした7。 第 3に、大量の資金流入が長期間継続することで、国内のマネーサプライ管理が十分に行われなくなる可能性がある。通貨当局は、為替市場への介入によってドルペッグを維持

し、国内のマネーサプライに対しては「不胎化」によってその影響を遮断する。しかし、

マネーサプライ管理の限界を超えて、長期間にわたって大量の資金が流入すると、インフ

レ率や国内金利が上昇することになる。タイでは、通貨危機以前にこのような状況がみら

れ、特に、内外金利差の拡大は短期資金の流入をさらに加速する要因となった。

5 ドルペッグがどのようにして通貨危機発生を誘発したかは小林(1998)に詳しい。 6 逆にドル安が進展した場合は、アジア通貨も「つれ安」となり、アジアの輸出競争力は高まることになる。

7 対外資金取引が銀行を経由して行われた場合、ダブルミスマッチの程度はさらに大きくなり、かつ、危機が発生した場合には、銀行の不良債権問題が実体経済に深刻な影響を与えることになる。

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(2)Two Corner Solutionsとバスケットペッグ 通貨危機を教訓として、アジアはどのような通貨制度を選択すべきかということが活発

に議論されてきた。その流れは、大きく次の 3つに分けることができる。 第 1は、米国の経済学者やIMFを中心とするもので、自由な資本移動のもとで存続できる通貨制度は、完全な変動相場制(フリーフロート)か、カレンシーボード、ドル化、

通貨同盟などの厳格な固定相場制(ハードペッグ)しかなく、ドルペッグや管理フロート

などの中間的な通貨制度(ソフトペッグ)は維持できないという考え方である(Two Corner Solutions)(図表 5)。 図表 5 通貨制度の分類

フリーフロート ソフトペッグ ハードペッグ

変動相場制度

管理フロート制度

BBCルール

固定為替制度

バスケットペッグ

ドルペッグ

カレンシーボード

ドル化

通貨同盟

(資料)小川(2001)

前IMF筆頭副専務理事の Stanley Fischerは、「91年と 99年を比較すると、フリーフロートとハードペッグを採用する国は増加しているが、ソフトペッグを採用する国は減

少している(図表 6)。ソフトペッグのもとでは、資金の取り手の為替変動リスクに対する意識が薄れ、アンカバーの外貨借入が増加することになる。しかも、民間企業のそのよ

うなファイナンス行動を政策によって抑制することは難しく、結局、危機を誘発すること

になる。このため、ソフトペッグは長期的には維持できない。これは Impossible Trinity の考え方からも明らかである8。」との見解を表明した9。米国では、Two Corner Solutionsを支持し、中間的な通貨制度を疑問視する経済学者は多い。市場原理を信奉し、不透明な

為替市場への介入政策を非難する学者は、ほとんどこの考え方であるといえる10。

8 Impossible Trinityについては 5章で詳述する。 9 Fischer(2001)。 10 例えば、Dornbusch(2000)を参照。

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7

図表 6 91年から 99年にかけての世界的な通貨制度のシェア

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

ハードペッグ 中間的な通貨制度 フリーフロート

1991

1999

16%(25)

24%(45)

62%(98)

34%(63) 23%

(36)

42%(77)

(資料)Fischer(2001)

第 2は、日本や欧州を中心とした「バスケットペッグ」を支持する流れである。バスケットペッグとは、複数通貨を貿易ウェイトなどで加重平均したバスケットに自国通貨をペ

ッグする通貨制度である。01年の ASEM神戸会議では、アジアの通貨制度に関する日仏共同提案(2001)が示され、「アジアの経済状況を勘案すれば、望ましい通貨制度は、ドル、円、ユーロのバスケットに自国通貨をリンクし、バンド内で変動を許容するような管

理変動相場制である」との主張が展開された。日本の経済学者の間でも、貿易シェアをベ

ースとした通貨バスケットにペッグすれば、実効レートの変動を抑えることができること

から、バスケットペッグを支持する向きが多い11。 第 3は、両者のいずれにも属さないグループである。ハーバード大学の Jeffrey Frankelは、「途上国にとって唯一の最適な通貨制度というのは存在せず、また、通貨制度の選択

のみで危機の可能性を完全に排除することはできない。各国は自国の事情を勘案しながら、

通貨制度を選択するしかない」と述べている12。

11 通貨iが、ドル、円、ユーロの通貨バスケットにリンクしている場合、通貨iの為替レートの

変化率は次のようにあらわすことができる。

△ei=β1△eUSD+β2△eJPY+β3△eEUR

仮にi国が自国の貿易構造を勘案して、β1(ドル)=0.4、β2(円)=0.4、β3(ユーロ)=0.2

というウェイトを設定しているとすると、ドルが 10%減価すれば、通貨iの減価は4%にとどま

る(ドルペッグであれば 10%の減価)。このように、バスケットペッグは名目為替の変動を抑え、

実効レートを安定させる効果をもつ。 12 Frankel(1999)。

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4.ドルとの連動性を強めるアジア通貨 (1)マレーシアの対ドル固定相場制 アジアの通貨制度について、前述のような侃侃諤諤の議論がある一方で、実際のアジア

通貨の動きをみると、各国ともドルペッグを指向しているようにみえる。もっとも顕著に

みられるのはマレーシアで、現在でも対ドル固定相場制を維持している。 マレーシアは、98年 9月、海外の投機筋から自国通貨を防衛するために、対ドルレートを固定し(1ドル=3.8リンギ)、また、非居住者によるマレーシアリンギの取引を制限する外為管理規制の導入(オフショア市場でのリンギ取引は事実上不可能になった)、国際

店頭市場での株取引禁止、証券売却代金の本国向け送金禁止(01年 5月に撤廃)などの措置を実施した。 マレーシアが対ドル固定相場制を導入した目的は、海外での混乱から国内経済を遮断し、

米国並みのインフレ率や金利水準を実現することにあるとみられる。実際、対ドルレート

を固定したことで、マレーシアのインフレ率は安定した。98年 9月以前には 5~6%で推移していたインフレ率は、99年に入って 2%台にまで低下した(図表 7)。また、資本流出規制の効果もあり、外貨準備は 200億ドル弱の水準から、一年後には 350億ドルへと大きく上昇した(図表 8)。このように、マレーシアの対ドル固定相場制と資本規制の導入は、当初はそれなりに効果があった。 しかし、00年の後半あたりから、マレーシアを巡る状況は一変した。世界的なITブームに陰りが出るなかで、マレーシアの輸出環境は悪化に転じた。アジア通貨が全般的に減

価するなかで、対ドルレートを固定するマレーシアリンギだけが相対的に割高になり(実

効レートは上昇)、輸出競争力の低下に拍車をかけた(図表 9)。さらに、外貨準備の水準は、00年 9月ごろから 01年半ばにかけて大幅に減少し、250億ドル程度にまで落ち込んだ。この背景には、ファンダメンタルズの悪化を嫌気した投資家が、ポートフォリオ資

金の引き上げを図り、その結果、通貨当局は為替市場でドル売りリンギ買い介入を相当程

度行わざるを得なくなった、ということがある。マレーシアの外貨準備は、輸入の 4.9カ月分とアジア諸国・地域のなかでは最も少ない(図表 10)。マレーシアにとって、対ドル固定相場制を維持することは大きな負担になっているようにみえる13。 現時点で、マレーシアが対ドル固定相場制を見直す可能性は薄い。リンギの切り下げが

予想されていた 1年前と比較すると、円高の進展で実効レートの上昇圧力も弱まり、外貨準備も安定的に推移している。ただし、マハティール首相の突然の辞任発表によって、政

治が流動化する可能性があり、通貨制度見直しの機運が盛り上がることも予想される。

13 香港のカレンシーボードなどと異なり、マレーシアの固定相場制は通貨当局による市場介入によって維持される。市場介入の原資は外貨準備であり、固定相場制を維持できるかどうかは、外貨準備の水準がひとつのメルクマールとなる。

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9

図表 7 マレーシアのインフレ率の推移

▲ 3

▲ 2

▲ 1

0

1

2

3

4

5

6

7

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2

1998 1999 2000 2001 2002

マレーシアインフレ率

米国インフレ率

インフレ格差

(%)

(月/年)

(資料)Datastream

図表 8 マレーシアの外貨準備の推移

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4

1998 1999 2000 2001 2002

(百万ドル)

(年/月)

(資料)Datastream

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10

図表 9 マレーシアの実質実効レートと輸出伸び率の推移

85

90

95

100

105

110

115

9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4

1998 1999 2000 2001 2002

-40

-30

-20

-10

0

10

20

30

40

(98年9月=100) (%)

輸出前年比伸び率(右目盛)

実質実効レート(左目盛)

(年/月)

(資料)Datastream、IIFデータベース

図表 10 アジアの外貨準備(対輸入額)

   (単位:億ドル、カ月分)外貨準備 輸入額 外貨準備比率① ② ①÷②×12

マレーシア 304 739 4.9韓 国 1,028 1,411 8.7香 港 1,112 2,010 6.6台 湾 1,222 1,072 13.7

シンガポール 754 1,159 7.8タ イ 324 620 6.3

インドネシア 273 307 10.7フィリピン 134 296 5.4中 国 2,122 2,436 10.5

(注)・外貨準備は2001年12月末、輸入額は2001年通年。   ・外貨準備比率は外貨準備が輸入額の何カ月分に相当する    かを計算したもの。 (資料)富士総研「Asian Quarterly Review」

(2)アジアのドルペッグ回帰の計量的検証 マレーシア以外のアジア通貨も、最近ドルとの連動性を強めており、あたかもドルペッ

グに回帰しているように見える。 前述の通り、アジア通貨は 01 年半ばごろからドルに対して安定を取り戻したが、円安が進展した 01 年 9 月から円に対しては上昇傾向をたどった。このことは、アジア通貨が

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ドルとの連動性を強めていることの証左であり、換言すれば、アジアのドルペッグ回帰を

示すものといえる。このことは、次の 2つの単純な計量的手法によって確認することができる。

① 変動係数の推移 図表 11 は、アジア通貨の対ドルレートの変動係数から対円レートの変動係数を差し引いたものを月別に集計し、グラフ化したものである(数値は 3 カ月移動平均)14。変動係

数の差がゼロより大きければ円との連動性が強く、ゼロより小さければドルとの連動性が

強いということを示している。危機以前、アジアはドルペッグ政策をとっていたことから、

アジア通貨のドルとの連動性は円よりも強かったが、危機発生から 98 年までは逆に円との連動性が大きく強まった。しかし、98年後半ごろからアジア通貨の乱高下は終息し、対円・対ドル変動係数はほぼ拮抗する形で推移したが(ただし、対ドル固定相場制を採用し

たマレーシでは、リンギの対ドル変動係数はゼロのため、両者の差は常にマイナスとなっ

ている)、01年半ば以降、アジア通貨はドルとの連動性を強め、変動係数はマレーシアリンギの水準に近づいて推移している(この傾向は、タイバーツ、シンガポールドルで顕著)。

図表 11 アジア通貨の対ドル・対円変動係数の推移

▲ 2

▲ 1

0

1

2

3

4

5

6

3 4 5 6 7 8 910 11 121 2 3 4 5 6 7 8 9

10 11 121 2 3 4 5 6 7 8 9

10 11 121 2 3 4 5 6 7 8 9

10 11 121 2 3 4 5 6 7 8 9

10 11 121 2 3 4 5 6 7 8 9

10 11 121 2 3 4 5

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002

タイバーツ

マレーシアリンギ

韓国ウォン

シンガポールドル

対ドル変動係数 > 対円変動係数    (円との連動性が強い)

対円変動係数 > 対ドル変動係数    (ドルとの連動性が強い)

(月/年)

(資料)Datastream

14 変動係数(coefficient of variation)とは、標準偏差を平均値で割り、100を掛けた統計量である。一般に為替レートのボラティリティーは標準偏差で示されるが、ここでは対ドルレート、対

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② 仮想バスケットにおける通貨ウェイトの推計 次に、各国が主要通貨(ドル、円、ユーロ)のバスケットに自国通貨ペッグさせている

(すなわちバスケットペッグを採用している)と仮定し、そのウェイトを回帰分析で推計

してみた。アジア通貨がドルペッグに回帰しているとすれば、仮想バスケットのドルのウ

ェイトが高まると予想される。 本推計では、アジア通貨の変化率を被説明変数とし、ドル、円、ユーロの変化率を説明

変数とする回帰式を推計した。ただし、それぞれの通貨の為替レートはスイスフランをニ

ューメレールとし、為替レートの変化率は自然対数の較差とした15。

回帰式: △ei=α+β1△eUSD+β2△eJPY+β3△eEUR+ε (△e:為替レートの変化率、α:定数項、β:通貨のバスケットウェイト、ε:誤差項) この推計結果が図表 12である。ここから、対ドル固定相場制を維持しているマレーシア以外、タイやシンガポールでも、自国通貨の対ドル連動性が高まる傾向にある。ただし、イ

ンドネシアルピアについては、ドルのバスケットウェイトは高まってはいるが、決定係数

はそれほど高くなく、また、韓国ウォンは今年4月以降に対ドルレートが上昇し、ドルと

の連動性は低まった(対円レートも上昇したことから、円との連動性も低下している)16。 このように、総じてアジア通貨の対ドル連動性は高まっているといえる。アジアが再び

ドルペッグに回帰しているのではないかとの見方は、00年にMcKinnon(2000)、Kawai and Akiyama(2000)などでも指摘されていた。しかし、当時と比べて、アジア通貨のドルとの連動性はさらに強まり、その傾向は 01 年後半からの円安局面でさらに顕著なものとなった。

円レートのボラティリティーの比較を行うために、変動係数を用いた。

15 McKinnon(2000)、Kawai and Akiyama(2000)でも、同じ推計手法を用いて、アジア通貨がドルとの連動性が高まっていることを示した。

16 韓国ウォンの急騰以前について、例えば、02年 1月 1日から 02年 4月 18日までの期間で同様の推計を行うと、ドルウェイトが 0.86、円ウェイトが 0.44、自由度修正済み決定係数が 0.91となる。

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図表 12 アジア通貨のバスケットウェイト

観測期間 定数項 米ドル 日本円 ユーロ 補正 R2 観測数

タイバーツ96/2/1 - 96/12/31 0.000 0.828 0.114 0.038 0.996 23997/1/1 - 96/12/31 -0.039 0.392 0.677 0.097 0.172 26198/1/1 - 98/12/31 0.025 0.471 0.338 1.036 0.313 26199/1/1 - 99/12/31 0.002 1.131 -0.288 0.263 0.597 26100/1/1 - 00/12/31 -0.010 0.602 0.128 0.157 0.768 26001/1/1 - 01/12/31 0.003 0.590 0.307 0.312 0.731 26102/1/1 - 02/5/31 0.004 0.769 0.271 -0.040 0.962 86インドネシアルピア96/2/1 - 96/12/31 -0.003 1.110 -0.052 -0.015 0.944 23997/1/1 - 96/12/31 -0.055 0.570 0.518 0.358 0.078 26198/1/1 - 98/12/31 -0.065 -3.978 1.136 6.105 0.123 26199/1/1 - 99/12/31 0.025 1.629 -1.151 0.613 0.213 26100/1/1 - 00/12/31 -0.022 0.746 0.421 0.217 0.441 26001/1/1 - 01/12/31 0.005 -0.944 0.797 1.841 0.152 26102/1/1 - 02/5/31 0.031 0.709 -0.215 0.282 0.693 86

マレーシアリンギ96/2/1 - 96/12/31 0.002 1.020 0.137 -0.205 0.959 23997/1/1 - 96/12/31 -0.032 1.067 0.516 -0.019 0.547 26198/1/1 - 98/12/31 -0.007 -0.336 0.204 1.443 0.088 26199/1/1 - 99/12/31 0.000 1.000 0.000 0.002 1.000 26100/1/1 - 00/12/31 0.000 1.000 0.000 0.000 1 26001/1/1 - 01/12/31 0.000 1.000 0.000 0.000 1 26102/1/1 - 02/5/31 0.000 1.000 0.000 0.000 1 86

韓国ウォン96/2/1 - 96/12/31 -0.005 0.843 0.323 -0.037 0.891 23997/1/1 - 96/12/31 -0.035 0.095 0.967 1.181 0.142 26198/1/1 - 98/12/31 0.014 0.558 0.207 1.583 0.282 26199/1/1 - 99/12/31 -0.005 1.197 0.345 -0.079 0.746 26100/1/1 - 00/12/31 -0.005 1.009 0.285 -0.086 0.885 26001/1/1 - 01/12/31 0.003 0.619 0.669 0.265 0.858 26102/1/1 - 02/5/31 0.002 0.218 0.381 0.532 0.536 86シンガポールドル

96/2/1 - 96/12/31 0.002 0.888 0.116 0.059 0.969 23997/1/1 - 96/12/31 -0.012 0.811 0.191 0.064 0.799 26198/1/1 - 98/12/31 -0.005 0.180 0.409 1.028 0.574 26199/1/1 - 99/12/31 0.002 0.721 0.007 0.351 0.769 26100/1/1 - 00/12/31 -0.001 0.807 0.095 0.090 0.911 26001/1/1 - 01/12/31 0.000 0.353 0.361 0.496 0.810 26102/1/1 - 02/5/31 0.002 0.713 0.371 0.003 0.920 86 (資料)Datastreamより算出

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5.なぜアジアはドルペッグに回帰するのか 非公式にではあるが、通貨危機直後には、アジアの中央銀行幹部や政府要人の間から、

アジア通貨はドルよりも円との連動性を高めるべきだとの意見が聞かれた。しかし、明確

な通貨政策の変更が発表されたわけではないにもかかわらず、前述のデータを見る限り、

アジア通貨は足元で再びドルとの連動性を強めている。アジアは、なぜドルペッグに回帰

しているのだろうか。その要因として、次のような点が指摘されている。 (1)高い対米貿易依存度

Jadresic et al (1999)によれば、単一通貨にペッグする国は、一般に次のような特徴を有する。①国際資本市場との連関性が薄い、②ペッグする国との貿易シェアが高い、③

金融政策の独立性に固執しない、④経済や金融システムがペッグする国に依存している、

④財政政策が柔軟、⑤労働市場が柔軟、⑤十分な外貨準備を有する、などである。特に、

通貨のペッグと、ペッグ対象国との貿易依存度の間には強い連関性がある。 翻って、この点をアジアに当てはめると、00 年のアジアの対米輸出シェアは 21.4%、輸入シェアは 13.7%であるのに対して、対アジア向け輸出シェアは 33.4%、輸入シェアは33.7%を占めている17。この数字だけを見ると、アジアの対米貿易依存度は必ずしも高い

とはいえない。一般的にも、アジアでは域内の貿易依存度が強いと理解されている。 しかし、輸出品目の詳細を見ると、アジアの対米輸出は最終消費財、資本財の割合が多

いが、一方でアジア域内向け輸出は素材・部品が多い(図表 13)。このことは、米国がアジア全体にとっての「輸出の最終アブソーバー」であることを意味する18。すなわち、米

国向け輸出が好調であれば、域内での素材・部品の輸出が増加するという関係が少なから

ずある。最近では、アジアの内需も拡大する傾向にあり、米国への依存度も弱まる傾向が

見られる。しかし、基本的には、アジアにとって米国が極めて重要な市場であることには

変わりはなく、アジアが対ドルレートをペッグし、対米輸出を増強したいというインセン

ティブがあることを無視することはできないだろう。

17 アジアは韓国、シンガポール、香港、台湾、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンの合計。資料は、関税・外国為替等審議会(2002)。

18 詳しくは杉浦(2000)をご参照。

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15

図表 13 アジアの品目別輸出動向(1996年)

<NIES> (単位:億ドル)

米国 EU 日本 NIES ASEAN 中国素材・部品 374 138 153 350 272 267

資本財 233 45 63 75 70 71消費財 210 128 66 69 26 27その他 14 8 68 77 63 35合 計 831 319 350 571 431 400

<ASEAN>米国 EU 日本 NIES ASEAN 中国

素材・部品 158 86 115 252 73 33資本財 103 17 56 37 10 3消費財 164 98 59 60 14 3その他 42 35 169 108 41 29合 計 467 236 399 457 138 68

<中国>米国 EU 日本 NIES ASEAN 中国

素材・部品 105 84 109 268 34資本財 68 25 30 66 9消費財 226 129 211 330 13その他 140 100 86 166 5合 計 539 338 436 830 61

(資料)杉浦(2000)を参考に作成。

(2)金融市場の不完全性(Original Sin Hypothesis)

McKinnon(2000)によれば、もともとアジアは「ドル本位制(East Asian dollar standard)」である。すなわち、アジア諸国が抱える対外債務の大半はドル建てであり、基本的に期間と通貨のダブルミスマッチを起こしやすい構造にある。しかも、民間の銀行

や企業は為替リスクをヘッジする意志がないのではなく、金融市場の未成熟さから、ヘッ

ジコストがあまりに高すぎるという問題を抱えている(=Original Sin: 原罪19)。このよ

うな状況において、通貨当局は自国通貨の対ドル為替レートを安定させることを優先させ

ることになり、その結果、アジアはドル本位制となった、というのがMcKinnon論文の大まかな趣旨である。 このような考え方は納得的ではある。しかし、実体と照らし合わせて見ると、2 つ点で問題がある。第1に、アジアの場合、必ずしもすべての対外債務がドル建てであるわけで

はない(図表 14)。また、アジアでは、為替リスクのヘッジ手段が全くないとはいえない。このことから、Original Sin Hypothesisがアジアにおいて成立しているかどうかは議論の余地がある。ただし、近年対外債務に占めるドル建てシェアが増加する傾向にあり、この

19 Original Sin Hypothesisを初めて主張したのはEichengreen and Hausmann(1999)である。このような形でダブルミスマッチが生ずるケースにおいて、有効な解決策はドル化、もしくは通

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面から、アジア通貨の対ドル連動性が高まっているという可能性は無視できないだろう20。 図表 14 各国の対外債務(中長期)の通貨別シェア

  (単位:%)   1990年    1995年    1999年ドル 円 ドル 円 ドル 円

タ イ 15.8 42.9 27.1 47.9 44.2 46.3マレーシア 31.8 36.5 48.5 34.6 60.0 29.9インドネシア 20.9 34.6 21.5 35.3 47.4 35.2

韓 国 33.0 31.5 38.5 38.2 72.5 21.1

(資料)World Bank “Global Development Finance 2001”

第 2に、ドルペッグの問題でも指摘したように、通貨当局が為替変動リスクを負うことで、資金の出し手、取り手の双方にモラルハザードが生じ、その結果、ドル建て債務がさ

らに増加するだろう。すなわち、ドル建て債務があるからドル本位制を採用し、そのこと

がさらにドル建て債務を積み上げるという悪循環に陥る可能性がある。通貨危機の教訓か

ら、このような理由でアジアがドルペッグに回帰しているのであれば、それ自体は全くの

「愚策」であり、即座に納得しがたい面がある。 (3)マレーシアの対ドル固定相場制の影響 福田・計(2001)は、マレーシアが対ドルレートを固定したことによって、シンガポールドルやタイバーツがドルとの連動性を高めることになったと指摘し、実証的にこの仮説

を検証している。 図表 15は、00年の各国の貿易相手国シェアを示したものであり、このうち、網掛け部分は実質的に対ドル固定相場制をとる国・地域である。例えば、シンガポールにとって、

米国との貿易シェアは 16.2%だが、貿易相手国上位 8カ国のなかで実質的に対ドルレートを固定している国・地域のシェア合計(米国を含む)は 43.6%にのぼる。シンガポールの最大の貿易相手国はマレーシアで、同国の貿易シェアは 17.6%を占めている。もし、シンガポールが実効レートの安定に高いプライオリティーを置いているとすれば、98年にマレーシアが対ドルレートを固定した段階で、対ドルレートを安定させるインセンティブが高

まることになる。さらに、タイにとっては、シンガポールが日本、米国に次ぐ第三の貿易

相手国である。マレーシアが対ドルレートを固定したことで、シンガポールが自国通貨の

ドルとの連動性を高めれば、タイも実効レートを安定させるためにドルとの連動性を強め

貨同盟であると主張している。

20 対外債務総額の通貨別内訳については、詳細な資料を入手することは難しい。世界銀行の「Global Development Finance」でも、中長期の対外債務については通貨別のシェアが記載されているが、短期債務を含めた対外債務全体についての資料は入手困難である。

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ることが必要となる。このように、相互依存の強いアジアでは、一国の為替政策の変更が

周辺国の為替政策に影響を及ぼす可能性がある。この意味で、福田・計論文の主張は説得

力を持つ。 図表 15 各国の貿易相手国シェア上位 8カ国・地域(2000年)

(単位:%)       タ イ       マレーシア      シンガポール       韓 国貿易相手国 貿易シェア 貿易相手国 貿易シェア 貿易相手国 貿易シェア 貿易相手国 貿易シェア

日 本 19.5 米 国 18.8 マレーシア 17.6 米 国 20.2米 国 16.7 日 本 16.7 米 国 16.2 日 本 15.7

シンガポール 9.4 シンガポール 16.5 日 本 12.3 中 国 9.4香 港 4.9 台 湾 4.6 香 港 5.3 台 湾 3.8

マレーシア 4.9 韓 国 3.8 台 湾 5.2 香 港 3.6台 湾 4.5 タ イ 3.7 中 国 4.6 ドイツ 2.9中 国 3.6 香 港 3.7 タ イ 4.3 シンガポール 2.8韓 国 2.6 中 国 3.5 韓 国 3.6 インドネシア 2.5小 計 66.1 小 計 67.9 小 計 65.4 小計 61.1

うち実質ドル 30.0 うち実質ドル 25.9 うち実質ドル 43.6 うち実質ドル 33.2 (資料)IMF “Direction of Trade Statistics Yearbook”, Datastream

しかし、前述のバスケットウェイトの推計結果によれば、02年のタイバーツのバスケットにおけるドルのウェイトは 0.77 であるが、タイの貿易相手国上位 8 カ国に占める実質ドルペッグの国の割合は 0.45(30.0÷66.1)と、依然として大きな乖離がある。マレーシアの対ドル固定レートは両通貨のドルペッグ回帰に影響を及ぼしたと思われるが、これだ

けですべて説明するには無理があるといえる。 (4)アジアがドルペッグに回帰することの経済合理性 このように、上記の 3つの考え方はそれぞれ理論的な説明力を有するものの、有力な要因を特定するには至らなかった。これ以外にも、例えば、貿易の決済通貨がドル建てであ

ることなどもその根拠となり得るかもしれない。しかし、アジアがドルペッグに回帰する

には、それなりの経済合理性が存在するということはいえそうだ。このことが意味するこ

とは、アジア通貨危機の教訓としてドルペッグの非を認めるとしても、アジアがドルペッ

グに回帰する根本的な要因取り除かない限り、アジア通貨はドルとの連動性を強めること

になる、ということである。前述の 3つの要因を勘案すれば、アジアがドルペッグへの回帰を断念するためには、①アジア域内の貿易面での相互依存の一層の進展、②アジアの金

融市場の整備(ヘッジ手段の充実など)、③アジア域内での通貨制度のコーディネーショ

ン促進、などの施策が必要となろう。 ただし、通貨制度の選択は、このような部分均衡的なアプローチもさることながら、広

くマクロ経済全般への影響を考慮すべき問題でもある。次章では、アジアにとって望まし

い通貨制度は何かという問題について検討する。

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18

6.アジアにとって望ましい通貨政策 (1)Impossible Trinity 米国で主張されているような、フリーフロートかハードペッグかというような二者択一

の通貨制度選択の議論(Two Corner Solutions)はアジアに馴染むのだろうか。ここで、フリーフロートとハードペッグのメリット・デメリットを整理してみた(図表 16)。

図表 16 フリーフロートとハードペッグのメリット・デメリット

フリーフロート ハードペッグ メリット

【マクロ経済】 対外的ショックに対して、為替レートの変動で、低コスト、高スピードで調整することができる。 【ミクロ経済】 為替リスクを適切にマネージするインセンティブが高まり、金融の健全性が維持される。 【経済政策】 金融政策の独立性を維持できる。 【金融の安定性】 投機の可能性を排除できる。

【マクロ経済・政策】 ペッグ対象の通貨を名目アンカーとすることで、インフレを抑えることができる(ペッグ対象国が健全なマクロ政策を実施していることが前提)。 【ミクロ経済】 企業の投資、貿易を阻害する取引コスト・為替リスクを低減することができる。 【金融の安定性】 通貨の信認を高めることができる。

デメリット

【マクロ経済・ミクロ経済】 短期的には為替レートのヴォラティリティーが高まる可能性がある。そのため、為替の変動によって、企業の投資、貿易の採算が確定しにくく、また、対外債務の返済負担が為替レートの変動によって変わる可能性がある。

カレンシーボードの場合 【マクロ経済・政策】 外貨準備とハイパワードマネーが厳格にリンクされているため、裁量的な金融政策や金融機関への緊急融資などは行えない(中央銀行は Lender of Last Resort 機能を放棄せざるを得ない)。また、公定平価や制度の変更を簡単に行うことはできない。

(資料)Bird and Rajan(2001),Fischer(2001), Frankel(1999), 白井(2002)などを参考に作成。

フリーフロートにもハードペッグにも、それぞれにメリット、デメリットが存在する。

しかし、なぜ米国の経済学者やIMFなどは、フリーフロートかハードペッグしか採り得

る選択肢がないと考えるのだろうか。この背景にある考え方が“Impossible Trinity(もしくは「マンデルの三角形」)”である。これは、為替レートの安定、独自の金融政策、

自由な資本移動、という 3つの目標を同時に達成することはできない(どれかひとつを放

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棄せざるを得ない)というものである。 図表 17は、Impossible Trinityについて、3つの政策オプションを分かりやすく示したものである。3 つの政策オプションとは、①完全な資本規制を行うことで、独自の金融政策と為替レートの安定を実現する(三角形の頂点)、②変動相場制を採用することで、独

自の金融政策、自由な資本移動を実現する(三角形の左側)、③通貨同盟(ハードペッグ)

を採用することで、為替レートの安定と自由な資本移動を実現する(三角形の右側)、の

3つである。さらに、資本移動性(Capital Mobility)が高まることによって、3つの政策オプションのうち、①を採用しにくくなり(三角形内部の矢印)、その結果、②、③のど

ちらかを選択せざるを得なくなる。これが、Two Corner Solutionsの根拠である。 図表 17 Impossible Trinity: 通貨制度と国内経済政策

完全な資本規制98年9月の      (外国との資本移動放棄)マレーシア

独自の金融政策      為替レートの安定

      資本移動性の高まり

    変動相場制     通貨同盟    (為替の安定放棄) 自由な資本移動    (金融政策の自由度放棄)

     Two Corner Solutions

(資料)Frankel(1999)に加筆

(2)ハードペッグを採用するための条件 ところで、アジアがハードペッグを採用することは可能だろうか。ハードペッグとは、

香港などで採用しているカレンシーボードや、エクアドルなどで行われているドル化、欧

州で行われている通貨同盟などを指す。 カレンシーボードのようなハードペッグを採用することのメリットは大きく 2 つある。

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ひとつは為替変動リスクを低減させることができることであり、もうひとつは金融政策の

ための名目アンカーを得ることができることである。特に、インフレバイアスの強い国に

とっては、後者のメリットは大きい。このことから、ハードペッグ採用の誘因は決して小

さくはない。インドネシアも通貨危機発生直後にカレンシーボード21の採用を検討したこ

とがあった(結局、採用は見送られた)。 しかし、カレンシーボードでは外貨準備とハイパワードマネーが厳格にリンクされてい

るため、裁量的な金融政策や金融機関への不良債権処理のための緊急融資などを行うこと

はできない。換言すれば、中央銀行は「最後の貸し手機能(Lender of Last Resort)」を放棄せざるを得ない。また、公定平価や制度の変更を簡単に行うことはできないという問

題もある(Exit 問題)。このことから、ハードペッグを採用するためには、①金融システムが健全であること、②外貨準備が潤沢にあること、③通貨の信認が相応に維持されてい

ること、などの条件が必要である22。このように見ると、現時点でアジアがハードペッグ

を採用するということはそれほど容易なことではないだろう(ただし、金融システムが安

定した段階では可能かもしれない)。 さらに、カレンシーボードを採用しても、危機に陥る可能性を完全に払拭することはで

きない。このことは、02年にカレンシーボードを採用していたアルゼンチンが危機に陥ったことからも明らかである。Two Corner Solutionsを主張する経済学者も、アルゼンチンの危機以降、そのトーンが若干鈍っているとの印象は拭えない。アルゼンチンでも、外貨

準備とハイパワードマネーは厳格にリンクされていた。しかし、ペソの切り下げ間近との

観測が広まると、居住者が銀行預金を取り崩し、その資金をドルに転換するという動きが

加速した。結局、外貨準備でハイパワードマネーをカバーしたとしても、預金通貨すべて

をカバーすることは不可能であるため、このような形での銀行預金の流出を止めることは

できなかった。居住者が国内通貨を信用できなくなるような事態が発生した場合、カレン

シーボードも危機発生の防波堤とはなり得ないということが図らずも実証された。 このように見ると、ハードペッグを採用することは、現時点でのアジアにとっては難し

い面が少なくない。

21 カレンシーボードは 2つの特長を有する。第 1に、公定平価で外貨と邦貨の交換が自由に行われる。第 2に、ハイパワードマネーの新規発行は、外貨準備の増加分を上限に、厳しく制限されている。このため、カレンシーボードを採用している国は、①裁量的な金融政策は行われない、②外為市場への介入も行われない、③ペッグした通貨発行国並みにインフレを抑えることができる、④公定平価を容易に変更できない、などの制約を課せられることになる。

22 インドネシアで危機発生後にカレンシーボードの採用が検討された。しかし、当時のインドネシアは、外貨準備が大幅に減少し、金融システムは不安定化し、外貨準備が大幅に減少していた。このため、そもそもカレンシーボードを採用するための条件を十分に満たしていなかったと考えられる。

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(3)フリーフロートを採用する場合の問題点 それでは、アジアはフリーフロートを採用するべきなのだろうか。フロートの最大のメ

リットは、金融政策の自由度を維持することができることであり、簡単にいえば、景気が

減速する局面で金融を緩和することができるということであり、このことは、マンデル・

フレミングモデルからも明らかである。図表 18 の左側図表の通り、フロート下で金融緩和を行うと、LM曲線が下方にシフトし、均衡点はE0からE1にシフトする。この状況では、金利低下によって経常収支は悪化し、為替レートは減価する。その結果、IS曲線は次第に右方にシフトし、新たな均衡点はE3となり、国民所得はY0からY3に増加する。しかしながら、通貨当局が為替レートを市場の動きに任せ、自らは金利の調整のみを行う場

合、国内均衡、対外均衡を同時に満たす金利に水準に到達しない可能性がある(不安定均

衡のケース、図表 18の右側図表)。 図表 18 フロート下での金融政策(マンデル・フレミングモデル)

Interest rate

I I' I'' M M'

r0 E0 E3 r2 E2 r1

E1 L

L' '0 S S' S''

Y0 Y1 Y2 Y3 Income ① 金融緩和によってLM曲線が下方シフト:

LM⇒L’M’ ② 経常収支悪化によって為替が減価し、IS曲線

が右方にシフト: IS⇒I’’S’’ ③ 国民所得は増加する:Y0⇒Y3 ※ 変動相場制の下での金融政策は効果がある。

Interest rate

Y Y'

F

p''

r0 P0 p*

Y p'

Y' F '0

R0 Nominal andReal Exchange rate

YY曲線上では国内均衡が維持され、FF曲線上では対外均が維持される。 ① 労働力が増加した場合、YY曲線は下方シフ

トする:YY⇒Y’Y’ ② 均衡点は P0から P*に移行すべきだが、通貨

当局が金利のみを調整する場合は、均衡点はP*に移行せず、発散してしまう可能性がある:P0⇒P’⇒P’’

※ 変動相場制の下では不安定均衡のリスクがある。

(資料)Kenen(2000)

しかし、フロートにはこのようなメリットがあるにもかかわらず、途上国がフリーフロ

ートを採用する可能性は小さい。Calvo and Reinhart(2001)では、途上国がフリーフロートを採用できない理由を「Fear of Floating(フロートの恐怖)」という言葉で説明して

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いる。すなわち、多くの途上国では、政策に対する信認が不十分であり(lack of credibility)、このため、その国の政策担当者は、金利の不安定性か、為替の減価かという究極の選択を

迫られることになる。その場合、政策担当者は、金利が不安定になっても為替の安定を選

択するだろう。なぜなら、為替の安定によって当該国は名目アンカーを得るが、金利が安

定してもそのような効果は得られない。このように、途上国は信認が不十分であることか

ら、通貨の変動を恐れる傾向が強いというのがこの論文での趣旨である。 Fear of Floatingは、途上国の通貨制度選択に関する最近の議論ではキーワードとなりつつあり、時には拡大解釈されるケースも見られる。Bird and Rajan(2002)では、途上国が為替変動を恐れる要因として、次のような点を指摘している。①為替の変動が大きい

ことは、収益が確定しないために貿易や投資の阻害要因となる(為替のヴォラティリティ

ーと貿易量の間には逆相関の関係があるとの実証分析もある)、②先進国は自国通貨で対

外借入を行うことができるが、途上国は外貨建て対外債務を累積するため、為替の大幅な

変動は対外債務の返済負担に直接影響を及ぼす。 さらに、Fischer も、途上国が為替の大幅な変動を恐れることに一定の理解を示している。前述の論文でも、「政策担当者が名目為替、実質為替の変動に神経質になることは、

それほど不思議なことではない。なぜなら、名目為替の変動はその国のインフレに影響を

及ぼし、実質為替の変動はその国の資産価格や資源配分に影響する。そのため、為替市場

への介入で為替レートの安定化を図ることや、インフレターゲッティングなどを併用する

ことには、相応の効果が見込める」と述べている。 このように、途上国がさまざまな理由からフリーフロートを採用することは難しいとい

うことは、ある程度コンセンサスを得ているように見られる。米国が主張する Two Corner Solutions も、理論的にはある程度納得はできるものの、現実的には難しい面が多いといえよう。Frankelも、「金融市場が統合するにしたがって、為替の安定を諦めるか、金融政策の独立性を諦めるかということになろう。しかし、そのことはその中間を否定するも

のではない。為替の変動を抑えるような管理フロートを否定する論理は存在しない」と述

べている。 (4)中間的な通貨制度はアジアにとって有効か こうみると、アジアが実際に選択できる通貨制度は、中間的な通貨制度、例えば、日本

政府が主張するような「バスケットペッグ」が有力といえるだろう。ここで、バスケット

ペッグについて、もう一度整理し、アジアがこの通貨制度を採用する場合の問題点を検討

してみよう(図表 19)。

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図表 19 バスケットペッグに関する整理 項 目 内 容

① 概要 貿易経済関係などで主要通貨を加重平均した通貨バスケットに自国通貨をリンクする通貨制度。

② メリット

通貨の過大評価、過小評価を防ぐような伸縮性を維持することができる。

Trade-weighted basis でバスケットを構成することで、実効レートを安定させることができる。

③ デメリット

単一通貨ペッグよりも透明性が低い(バスケットのウェイトを公表しないなど)。

投機の可能性を完全に排除することはできない。 為替レートが金融政策の名目アンカーとならない。

④ その他(BBCルール)

Williamsonは、バスケットペッグをさらに拡大した「BBCルール(band, basket, crawl)」を提唱している。これはすなわち「バンド付きバスケットペッグ」と「クローリングペッグ」を併せたもので、実効為替レートと実質為替レートを同時に安定させることを狙いとしている(前述の日仏共同提案は「バンド付きバスケットペッグ」であり、BBCルールはこれにインフレ調整機能を付加したものである)。

(資料)白井(2002)、伊藤(2002)、Ministry of Finance(2001)、Williamson(2000)

バスケットペッグは、当該国の貿易ウェイトによってウェイト付けした

(Trade-weighted basis)バスケットに、自国通貨をリンクさせる通貨制度である。この最大のメリットは、主要通貨間の為替が変動しても、実効レートを安定させることができ

るということであり、これにより、前述のドルペッグの問題点を排除することができる。

01年の ASEM神戸会議では、日本とフランスより、アジアでの通貨バスケット採用に当たっての共同提案が行われた(この提案では、ドル、円、ユーロの通貨バスケットにアジ

ア通貨をリンクさせ、ある一定のバンド内で為替の変動を許容するようなシステムが望ま

しいと結論付けている)23。 また、Williamson(2000)は、バスケットペッグをさらに拡大した「BBCルール(band,

basket, crawl)」を提唱した。これはすなわち「バンド付きバスケットペッグ」と「クローリングペッグ」を併せたもので、実効為替レートと実質為替レートを同時に安定させる

ことを狙いとしている(日仏共同提案はバンド付きバスケットペッグの採用であり、BB

Cルールはこれにインフレ調整機能を付加したものである)。 このように、ある程度裁量的余地を残した、緩やかな形でのバスケットペッグであれば、

十分維持可能と考えられる。しかし、仮にアジア諸国がバスケットペッグを採用する場合、

次の 3つのポイントには留意すべきではないだろうか。

23 Ministry of Finance(2001)

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① 債務面も考慮してバスケットウェイトを決定すべき 実効レートの安定だけを目的に、Trade-weighted basisで単純にバスケットウェイトを算出する方法でよいのだろうか。これまでも検討してきたように、政策当局者は輸出競争

力を一定に維持することだけでなく、対外債務の安定的な返済という面にも留意するはず

である。したがって、McKinnonが指摘している点を勘案し、債務の通貨構成比も考慮して、バスケットウェイトを決めるべきではないだろうか。ただし、貿易シェアと通貨別対

外債務構成比をどのような割合で加重平均するのか、対外債務に短期債務をどの程度織り

込むのかなど、技術的な問題は残る24。 ② 資本流入をある程度管理する必要あり どのような通貨制度を採用したとしても、それだけで危機の発生を防止できるとは限ら

ない。ソフトペッグにしろ、ハードペッグにしろ、通貨をペッグをする限りにおいて、投

機に晒される可能性を完全に払拭することはできない25。むしろ、アジアが危機の再発を

防止するためには、健全なマクロ経済運営を実施することと同時に、国内の高い貯蓄率を

有効利用し、海外からの短期資金の流入をある程度制限することが必要だろう。アジア諸

国の貯蓄率は 30%以上あり、国内の資金を有効活用するだけでも高い成長を維持することは可能である(図表 20)。

図表 20 アジア諸国の貯蓄率・投資率

     (単位:%)     1997年      2000年  2002年(見込み)

貯蓄率 投資率 貯蓄率 投資率 貯蓄率 投資率韓 国 32.5 34.2 30.9 28.7 30.0 29.5台 湾 26.4 24.2 24.8 22.8 26.6 23.5香 港 31.1 34.5 32.2 27.5 30.0 29.0

シンガポール 52.1 39.2 49.8 31.3 52.0 32.5タ イ 32.5 33.3 30.0 22.0 33.1 27.5

マレーシア 43.9 43.0 46.9 27.0 46.1 26.2インドネシア 31.5 31.8 22.0 17.9 21.3 17.0フィリピン 14.2 24.8 17.0 17.6 15.5 19.0

中 国 41.5 38.2 38.0 37.1 38.5 37.2

(資料)ADB “Asian Development Outlook 2001”

24 貿易シェアと債務シェアをどのように加重平均し、通貨バスケットを設定するかは、各国の政策プライオリティーに依存すると考えられる。

25 フリーフロート以外の通貨制度を採用する場合、通貨危機に陥る可能性を完全に払拭することはできない。人為的に為替レートを一定に保とうとすれば、通貨の過大評価、過小評価という問題が生じる可能性がある。

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このような観点から、これまで資本規制の是非について議論されてきた。しかし、かつ

てマレーシアで採用されていたような資本流出規制ではなく、タイやインドネシアで実際

に行われているような、非居住者との為替取引に対する規制強化(いわゆる「通貨の非国

際化策」)も考慮すべき選択肢といえる。例えば、タイでは、居住者から非居住者への信

用供与は厳しく制限されている。このため、海外の投資家がタイへ投資するためにバーツ

資金を無尽蔵に調達することは不可能となった。また、インドネシアでは、シンガポール

などのオフショア市場でルピア取引を行うことが禁止された。このような動きは、通貨危

機の発生をある程度抑制することにはなる(ただし、アジアに進出している企業にとって

はさまざまな不便が生じることになるだろう)(図表 21)。 図表 21 マレーシア、タイ、インドネシアの通貨取引規制

マレーシア タイ インドネシア

居住者(銀行)⇔居住者 容 認

(実需の裏付け要)

容 認 (実需の裏付け要)

容 認 (実需の裏付け要)

居住者(銀行)⇔非居住者

禁 止 条件付容認 ① 居住者から非居住者へのバーツ建て信用供与は1相手先グループあたり5千万バーツが上限。

② 居住者から非居住者への当日物・翌日物バーツ売り為替は禁止(但し実需のエビデンスがある場合は可)。

条件付容認 ① 居住者から非居住者への先物ドル売り取引は3百万ドル相当を残高上限とする(他のデリバティブ取引残高と合算。但し、ヘッジ目的の場合はエビデンスがあれば許容)。

② 居住者から非居住者への先物ルピア売り取引は制限なし。

非居住者(銀行)⇔非居住者 禁 止 自 由 禁 止 (資料)小林(2001)

③ アジア域内のコーディネーションを行うべき さらに、アジア域内で通貨政策を協調させることの必要性も高まるだろう。前述のとお

り、域内で異なる通貨制度が並存することによる弊害は無視できない。例えば、マレーシ

アのみが対ドル固定相場制を維持しつづければ、他の国がバスケットペッグを採用しても、

実質的にドルペッグになってしまうという可能性は否めない。このことから、通貨制度に

関して、域内コーディネーションを進めることの重要性は高いといえる。その意味では、

マレーシアだけではなく、中国や香港などを含めて議論が展開されるべきだろう。ひとつ

の考え方としては、アジアの貿易シェアがかなり類似していることから、共通バスケット

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に各国がペッグするというやり方(Common Basket Peg)も検討に値するだろう26。 さらに、アジアがバスケットペッグを採用する場合、市場介入資金を確保することも必

要となるだろう。一国だけで市場介入資金(=外貨準備)を確保できれば問題はないが、

必要資金を相互に融通する「チェンマイイニシアティブ」をさらに充実させることも、危

機再発の可能性を減じるためには有効な手立てといえるだろう(図表 22)。 図表 22 チェンマイイニシアティブの概要

   (単位:億ドル)

30

日 本 タ イ ASEANスワップ協定35 10

30 70 30

マレーシア

中 国 フィリピン

インドネシア

韓 国 シンガポール

:締結済み:現在交渉中

(資料)財務省

26 Kusukawa(1999)を参照。

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7.最後に

通貨危機から 5年が経過し、アジアも本格的な景気回復が期待されている。それ自体は好ましいことではあるが、通貨危機の教訓を踏まえるならば、やはりアジアが改善すべき

問題は少なくない。通貨問題もそのひとつである。 特に、ドルペッグ政策には少なからず問題があった。カレンシーボードのような厳格な

対ドル固定相場制とは異なり、人為的な市場介入によって通貨の固定することには、危機

を誘発する可能性がある。例えば、ファンダメンタルズが悪化しても為替レートを一定に

維持すれば、当該国の通貨が過大評価され、投機筋がその通貨を売り浴びせることで危機

が発生することになる。しかも、カレンシーボードを採用していたアルゼンチンが危機に

陥ったことで、ハードペッグが必ずしも安定的な通貨制度であるとはいえなくなった。結

局、アジアはFear of Floatingによってフリーフロートを採用できない以上、伸縮的な通貨制度を採用せざるを得ない。その意味で、日本がかねてより主張している「バスケット

ペッグ」は、アジアの実情に沿って考えれば有力な選択肢のひとつであるといえる。 しかし、アジアがなぜドルペッグに回帰しているのかを考えてみると、それなりの経済

合理性が存在する。基軸通貨国であり、アジアで生産する製品の最終消費地である米国は、

アジアにとって最も重視すべき存在であることは間違いない。また、ドル建て対外債務が

多いことも事実である。結局、好むと好まざるとにかかわらず、アジアはドルを意識せざ

るを得ないのである。反米的なマハティール首相も、マレーシアリンギをドルに固定せざ

るを得ないことから見ても、このことは明らかである。したがって、ドルペッグを否定す

ることはたやすいが、アジアが自国通貨をドルにペッグせざるを得ない現実から目をそら

すべきではない。 アジアがバスケットペッグを採用する場合、いくつかの技術的な問題があることについ

ては前章で述べたが、もうひとつの重要な問題は、バスケットは金融政策上の名目アンカ

ーにはなり得ないということである。本稿では、バスケットペッグを採用した場合の金融

政策のあり方について詳細な検討ができなかったが、かなり窮屈な運営を迫られる可能性

がある。ひとつの方策としては、バスケットに対するバンドをある程度余裕を持たせ、一

方で金融政策についてはインフレターゲットのような目標値を設定することが考えられる。

しかし、その場合でも、どのようにして政策の透明性と通貨の信認を得るかは、別途詳細

な検討が必要とされるだろう。 ただし、どのような通貨制度を採用しても、健全なマクロ経済政策を続けていかない限

り、通貨危機に陥るリスクを払拭することはできない。その意味では、アジアにおける通

貨制度の選択の問題は必ずしもトッププライオリティーではない。しかし、現在見られる

ようなアジアの通貨制度に関する議論と現実のギャップの間には、アジアが抱えるさまざ

まな経済的問題が「縮図」のごとく織り込まれているように見える。その意味で、アジア

が抱える課題は依然として少なくはない。

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2002年8月発行 調査研究部 アジア担当

主任研究員(統括) 小林俊之

電話 03-3201-0524 Ⓒ富士総合研究所 2002 無断転載を禁ず