7
大成建設技術センター報 第 45 号(2012) 37-1 トンネル切羽前方の破砕帯の位置と物性分布を把握できる 弾性波探査システムの開発 予想外の破砕帯出現によるトラブルをなくすための新たな探査システム 山上 順民 *1 ・今井 博 *1 ・青木 智幸 *1 Keywords : mountain tunnel, fracture zones, exploration ahead oftunnel face, TSP, HSP, TTSP 山岳トンネル,破砕帯,切羽前方探査,TSPHSPTTSP 1. はじめに 山岳トンネルでは事前調査が十分に行われず予想外 の破砕帯などと遭遇し,難工事となる例がしばしば生 じている。山岳トンネルをより安全かつ経済的に掘削 するためには,トンネルに出現する可能性のある大規 模な破砕帯の位置や幅に関する情報を事前に把握し, 対策に役立てることが重要である。そこで,トンネル 切羽前方の破砕帯の位置と,トンネルの設計に用いら れる弾性波速度分布を把握できる新たな探査法である TTSPTunnel Transverse-array Seismic Profile)を開発し た。また,この TTSP と従来の切羽前方探査法を組合 せ,合理的に破砕帯の位置と幅を把握する破砕帯探査 システムを考案した。以下にその概要を記す。 2. 背景-トンネルの事前調査と設計- これまでトンネルの事前調査では,主として地表か らの屈折法による弾性波探査が行われ,地表踏査で得 られた岩種区分と,ここで得られた弾性波速度に基づ き,鉄道や道路の発注者が実績により整理した標準支 保パターンを選定する方法で,トンネルの設計が行わ れてきた(図-1 参照)。 しかし,地表からの探査は,土被りが大きくなるに 従い探査精度が下がるため,一般的には土被りが 200m 程度までとされており,探査の限界がある。こ のため,切羽周辺の情報を捉える上での位置的なメリ ットを生かして,坑内から TSP Tunnel Seismic Prediction)や HSPHorizontal Seismic Profilingなどの弾性波反射法を用いた切羽前方探査が行われて きた(図-2 参照)。 しかし,これらの従来法では,図-3 に示すように, 切羽前方 100~150mに関して,破砕帯の可能性のある 位置を反射面として捉えることができるが,破砕帯の 幅の推定やトンネルの設計に必要な弾性波速度分布を 精度良く把握することが出来なかった。 *1 技術センター 土木技術研究所 地盤・岩盤研究室 1.8 0.6 1.8 1.8 1.0 3.0 4.6 B-2 B-1 B-3 B-4 トンネル計画位置 3.0 3.0 弾性波速度 km/s 1.8 3.0 4.6 3.0 1.8 0.6 設計支保パターン DⅡ CⅡ B CⅡ DⅡ DⅢ ボーリング ・直接情報(コア) ・短区間 弾性波探査(物理探査) ・間接情報 ・長区間、支保パターンと対応 地表踏査 ・直接情報(露頭) ・表層のみ CⅡパターンの設計 DⅡパターンの設計 -1 トンネルの事前調査と設計 Fig.1 Preliminary survey and design in tunnelling

トンネル切羽前方の破砕帯の位置と物性分布を把握できる 弾 …...ットを生かして,坑内からTSP(Tunnel Seismic Prediction)やHSP(Horizontal Seismic

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • 大成建設技術センター報 第 45 号(2012)

    37-1

    トンネル切羽前方の破砕帯の位置と物性分布を把握できる

    弾性波探査システムの開発

    予想外の破砕帯出現によるトラブルをなくすための新たな探査システム

    山上 順民*1・今井 博*1・青木 智幸*1

    Keywords : mountain tunnel, fracture zones, exploration ahead ofatunnel face, TSP, HSP, TTSP

    山岳トンネル,破砕帯,切羽前方探査,TSP,HSP,TTSP

    1. はじめに 山岳トンネルでは事前調査が十分に行われず予想外

    の破砕帯などと遭遇し,難工事となる例がしばしば生

    じている。山岳トンネルをより安全かつ経済的に掘削

    するためには,トンネルに出現する可能性のある大規

    模な破砕帯の位置や幅に関する情報を事前に把握し,

    対策に役立てることが重要である。そこで,トンネル

    切羽前方の破砕帯の位置と,トンネルの設計に用いら

    れる弾性波速度分布を把握できる新たな探査法である

    TTSP(Tunnel Transverse-array Seismic Profile)を開発した。また,この TTSP と従来の切羽前方探査法を組合せ,合理的に破砕帯の位置と幅を把握する破砕帯探査

    システムを考案した。以下にその概要を記す。

    2. 背景-トンネルの事前調査と設計- これまでトンネルの事前調査では,主として地表か

    らの屈折法による弾性波探査が行われ,地表踏査で得

    られた岩種区分と,ここで得られた弾性波速度に基づ

    き,鉄道や道路の発注者が実績により整理した標準支

    保パターンを選定する方法で,トンネルの設計が行わ

    れてきた(図-1 参照)。 しかし,地表からの探査は,土被りが大きくなるに

    従い探査精度が下がるため,一般的には土被りが

    200m 程度までとされており,探査の限界がある。このため,切羽周辺の情報を捉える上での位置的なメリ

    ットを生かして,坑内から TSP(Tunnel Seismic Prediction)や HSP(Horizontal Seismic Profiling)などの弾性波反射法を用いた切羽前方探査が行われて

    きた(図-2 参照)。 しかし,これらの従来法では,図-3 に示すように,

    切羽前方 100~150mに関して,破砕帯の可能性のある位置を反射面として捉えることができるが,破砕帯の

    幅の推定やトンネルの設計に必要な弾性波速度分布を

    精度良く把握することが出来なかった。

    *1 技術センター 土木技術研究所 地盤・岩盤研究室

    1.8 0.6

    1.8

    1.8

    1.0

    3.04.6

    B-2

    B-1

    B-3B-4

    トンネル計画位置

    3.0

    3.0

    弾性波速度km/s

    1.8 3.0 4.6 3.0 1.8 0.6

    設計支保パターン DⅡ CⅡ B CⅡ DⅡ DⅢ

    ボーリング・直接情報(コア)・短区間

    弾性波探査(物理探査)・間接情報・長区間、支保パターンと対応

    地表踏査・直接情報(露頭)・表層のみ

    CⅡパターンの設計

    DⅡパターンの設計

    図-1 トンネルの事前調査と設計

    Fig.1 Preliminary survey and design in tunnelling

  • 大成建設技術センター報 第 45 号(2012)

    37-2

    そこで,トンネル切羽前方の破砕帯の位置と弾性波

    速度分布をより高精度で把握できる切羽前方探査シス

    テムを開発した。

    3. TTSP 以下,TTSP の原理について記述する。図-4 に,Ⅰ

    層とⅡ層の 2 層構造の地質断面図を示す。反射法では発振・受振点を同位置(図-4 中の点 M)とすると,反射波の到達時間は測定できるが,反射点の深度が不明

    となるため,速度 V を求めることができない。そこで,実際には,同一反射点を通る複数の波を利用して,

    NMO 補正を利用して速度 V を求める。以下 NMO 補正について説明する。地表の発振点 B で発振した波が,層境界の R 点で反射し,受振点 B で受振される場合を考える。また,R 点を地表に投影した点を M とする。ここで,三角形 BRM について各辺を表示すると,図-4左下に示すように,BR=VTx/2,RM=VT0/2,BM=Lx/2となる。したがって,式(1)が成り立ち,これを T0に

    ついて,求めると式(2)となる。

    20

    22

    222

    VTLVT xx ・・・・・(1)

    22

    0

    VL

    TT xx ・・・・・・(2)

    式(2)の T0 は一定値なので,点 R で反射する複数の

    Tx,Lx の組合せを測定し(図-4 の右下オフセット波形を参照),T0が一定となる V がⅠ層の速度となる(図-4 の右下 NMO 補正後および重合後を参照)。 このように,地下の弾性波速度分布を求めるために

    は,同一反射点を通る複数の波を測定できる発振-受

    振配置をとる必要がある。そこで,切羽面を地表面,

    切羽前方を地下と考えることにより,切羽前方の弾性

    波速度分布を把握できるレイアウトとして,トンネル

    横断方向に発振孔・受振孔の配置を考えて開発したの

    発振点

    受振点破砕帯

    レイアウト

    少発振・多受振

    探査深度

    100~150m

    解析結果

    ・反射面分布

    反射面分布

    100~150m0

    切羽面

    受振孔

    発振孔(発破孔)

    破砕帯

    速度層:V

    発振点 B

    (T=0)

    受振点 B

    (T=Tx)

    M

    (T=T0)

    Ⅰ層

    Ⅱ層 反射点 R

    2xVT

    2xL

    20VT

    B M

    R

    A C A C

    M A B C M A B C ΣLx

    Tx Tx

    Lx

    Tx

    図-2 従来法(HSP)の概念図

    Fig.2 Schematic 3Dview of the conventional seismic exploration

    method(HSP)

    図-3 従来法(HSP)の特徴

    Fig.3 Schematic diagram and characteristics of the conventional

    method(HSP)

    図-5 新開発法(TTSP)の概念図

    Fig.5 Schematic 3Dview of the proposed seismic exploration

    method(TTSP)

    図-4 反射法で速度分布を求める方法

    Fig.4 Method to determine the velocity in the reflection method

    切羽面

    発振孔(発破孔)

    受振孔

    破砕帯

    T0

  • 大成建設技術センター報 第 45 号(2012)

    37-3

    が TTSP(Tunnel Transverse-array Seismic Profile)である(以下,TTSP と表記する,図-5,図-6 参照)。

    TTSP では,理論上,トンネル横断方向に削孔する発振孔と受振孔の長さを長くするに従い,切羽前方の

    探査深度が長くなる。しかし,現場での適用を考える

    と,時間の制限として,休工日前の夜勤で発振孔と受

    振孔を設置する必要がある(3 時間/1 孔程度)。また,探査深度の制限として,最低 1 週間以上の掘削進行距離(1 日のトンネル掘進長を 5m とすると 35m 以上)を確保することが必要である。 以上を満たす条件として,約 20m の削孔長(探査深度約 50m)を設定した。

    4. 実証実験 TTSP の切羽前方探査法としての有効性を確認する

    ために,実証実験を 2 回実施した。以下に,実証実験の概要を示す。 4.1 実験サイトの概要 滋賀県北部の道路トンネルで,幅約 9m,延長約1800m,最大土被り約 200mである。地質は,中生代の美濃-丹波帯の頁岩を主体とした混在岩であり,亀

    裂が多いのが特徴である 1)(図-7 参照)。

    4.2 第 1 回実証実験 2) TTSP の有効性を評価することと,現場適用に際しての課題を抽出することを目的として,実証実験を行 った。実証実験位置を図-7 に示す。 4.2.1 実験方法 同一切羽位置から,図-8 に示すレイアウトで,新開

    発法として TTSP,従来法として HSP を実施した。TTSP は,発振孔と受振孔ともに AGF 鋼管で保孔した。受振孔にハイドロフォンを挿入し,発振孔において 1m間隔(装薬量 50g)で順次,発破を行った。HSP は,3 成分受振器を側壁に設置し,側壁から 1.5m の発振孔で発破(装薬量 50g)を行った。この 2 手法による予測結果を,事後調査結果と比較して検証することとし

    た。ここで事後調査結果とは,トンネル掘削後の底盤

    で実施した屈折法弾性波探査による弾性波速度分布と

    掘削中の切羽観察結果のことである。 4.2.2 実験結果

    TTSP の発振孔と受振孔の削孔長が,ビットの摩耗による削孔不能が原因で,予定削孔長 20m に対し,約10m となった。このため,探査深度が予定深度 50mに対して約 25m と短くなった(図-9 参照)。

    従来法(HSP)

    新開発法(TTSP)

    受振点発振点

    発破受振器設置 火薬挿入

    トンネル底盤で速度の実測約100m区間

    トンネル底盤で速度の実測約100m区間

    ①予測 同一切羽位置で 従来法と新開発法を実施

    ②実測掘削中の観察

     掘削後の弾性速度

    頁岩主体 チャート緑色岩

    砂岩主体

    100m

    第2回実証実験時の切羽位置掘削方向

    トンネル位置で破砕帯を確認した調査ボーリング

    第1回実証実験時の切羽位置

    トンネル位置

    頁岩主体 チャート緑色岩

    砂岩主体

    100m

    第2回実証実験時の切羽位置掘削方向

    トンネル位置で破砕帯を確認した調査ボーリング

    第1回実証実験時の切羽位置

    トンネル位置

    図-8 第 1 回実証実験のレイアウト平面図

    Fig.8 Layout plan of the first pilot test

    図-7 実証実験実施位置(地質縦断図)1)

    Fig.7 Location of pilot tests conducted(the geological map in longitudinal section)

    破砕帯

    弾性波速度

    発振点

    受振点 レイアウト

    多発振・多受振

    探査深度

    50m(削孔20mの時)

    解析結果

    ・反射面分布

    ・切波前方の弾性波速度分布0 50m

    20m

    低速度=軟質

    硬質

    軟質

    図-6 新開発法(TTSP)の特徴(平面図)

    Fig.6 Schematic diagram and characteristics of the proposed

    method(TTSP)

    約 10m

    (探査深度約 25m)

  • 大成建設技術センター報 第 45 号(2012)

    37-4

    HSP の結果を図-9 の上段に示す。赤色と黒色の縞模様として得られた探査結果のうち,特に明瞭なものを

    反射面として 7 箇所抽出した。 TTSP の結果を図-9 の中段および図-10 に示す。図-10

    は,縦長のオフセット波形(オフセット波形について

    は図 -4 を参照)を速度 4000km/s~ 4600km/s まで100km/s 間隔で 7 個並べたものである。ここでは,1 つのオフセット波形は 16 のトレースからなっている。図-9 の中段に示した速度分布のグラフは,図-10 に示した速度値毎のオフセット波形の中から,波形が横に揃

    っている速度(RMS 速度という)を選び(図-4 で T0が一定となることなる速度を求めるのと同じ意味,こ

    こでは A,B,C の 3 点を選んだ),この速度を Dix の式を用いて区間速度へ変換して求めた。

    事後調査の結果,今回の実験の探査区間には,明瞭

    な破砕帯は認められなかったが,破砕帯に相当すると

    評価しても良いと考えられる区間(弾性波速度が相対 的に低く,切羽観察による地山評価が悪い区間)が確

    認された。HSP による予測では,この破砕帯相当区間に,反射面(破砕帯の手前側で赤色の硬質から軟質へ

    の反射面,破砕帯の奥側で青色の軟質から硬質への反

    射面)が確認された。このように HSP については,破砕帯端部を境界面として捉えていることが確認された。 TTSP による予測は,事後調査結果とほぼ同じ位置

    (切羽距離約 30m)で弾性波速度の境界(実測で

    4.4km/s から 3.8km/s に対し,予測で 4.5km/s から3.8km/s)が確認された。 4.2.3 第 1 回実証実験のまとめ TTSP については,探査深度 25m 程度までの弾性波速度分布を精度良く捉えられることが確認された。し

    かし,発振孔と受振孔が予定削孔長に到達せず,探査

    深度が予定の半分となった。削孔方法を改良し,探査

    深度の長距離化を図ることが課題となった。 また,今回の実験では,探査区間に明瞭な破砕帯が

    認められなかったので,次回は探査区間に明瞭な破砕

    図-9 第 1 回実証実験結果

    Fig.9 Result of the first pilot test

    図-10 TTSP のオフセット波形データ

    Fig.10 Offset seismic data of TTSP

    掘削実績地山良好区間 地山良好区間破砕帯相当区間

    TTSP予測値(弾性波速度)

    屈折法実測値(弾性波速度)

    5

    4

    3

    2

    1

    5

    4

    3

    2

    1

    Vp=4.5km/sVp=3.8km/s

    Vp=4.4km/sVp=3.8km/s

    TTSP≒ 実測値

    20 40 60 80 100 120 140(m)切羽 0

    硬質→軟質 反射面軟質→硬質 反射面

    HSP予測(反射面位置平面図)

    HSP≒ 破砕帯相当位置

    A

    B

    C

    時間

    (msec)

  • 大成建設技術センター報 第 45 号(2012)

    37-5

    帯が分布するサイトで実験することとした。 4.3 第 2 回実証実験 3) 第 1 回目の実験の課題を克服し,TTSP の有効性を評

    価することを目的として,実証実験を行った。 4.3.1 第1回実験からの改良点

    TTSP に関しては,発振孔と受振孔の削孔長さを予定の 20m(探査深度 50m)とするために,硬岩対応ビットへの改良を行った(図-11 参照)。また,HSP に関しては,トンネル坑内からのノイズを低減するために,

    受振器を岩盤中の深度約 3m に設置した(図-12 参照)。 さらに,探査区間内に破砕帯が分布する実験配置と

    なるように,施工前の地表からの調査ボーリングで,

    トンネル通過深度に破砕帯が確認されている箇所が探

    査区間内に入るように探査位置を設定した(図-7 参照)。 4.3.2 実験方法

    同一切羽位置から,図-13 に示すレイアウトで,TTSP の他,従来法として HSP を実施した。HSP については,受振器の設置方法に改良を加えたため設置に

    時間がかかる。このため,第 1 回の実証実験の発振点

    の数と受振点の数を逆転させ,改良型 HSP としてのレイアウトとした(図-13 参照)。これ以外の実験仕様や実験結果の検証方法は,第 1 回目と同様である。 4.3.3 実験結果

    実験結果を図-14 に示す。TTSP の発振孔と受振孔は, ビットの改良により,予定削孔長の 20m に到達することができた(削孔時間も 3 時間/1 孔程度)。このため,探査深度も予定深度の 50m となった。

    今回の探査区間中に位置する地表からの調査ボーリ

    ングで確認された破砕帯は,切羽観察結果(図-14 の掘削実績参照)では,切羽距離 35~45m の幅 10m 程度であると評価した(切羽距離 28~35m は局部的な軟質部であり,ここでは破砕帯と評価しない)。 この破砕帯の弾性波速度は,事後のトンネル底盤で

    の屈折法弾性波探査の結果,上記の局部的な軟質部を

    伴う区間を含めて,速度層 2.9km/s と低速度を示した。また,破砕帯と湧水の関係は,破砕帯掘削中に濁水処

    理施設の処理量が増加したことや,ロックボルトの湧

    水箇所と湧水量が増加したことから,湧水を伴う破砕

    帯であると考えられる。したがって,今回の実験では,

    幅約 10m の湧水を伴う明瞭な破砕帯を探査区間内に設定することができた。 この事後調査結果に基づく破砕帯と予測結果につい

    て考察する。まず,改良型の HSP に関しては,破砕帯の手前側の境界部で硬質から軟質へ変化する反射面

    (図-14 中の反射面②),破砕帯の奥側の境界では軟質から硬質へ変化する反射面(図-14 中の反射面④)として捉えることができた。 また,TTSP では,破砕帯の手前側の境界を,切羽

    距離 35m 地点で弾性波速度の低下箇所として捉えることができたが,奥側の切羽距離 45m 地点の境界は捉えることができなかった。切羽距離 45m 地点については,探査可能深度の限界付近であり,探査精度が低下した

    発振点

    受振点

    発振点

    受振点

    発振点

    受振点

    発振点

    受振点

    時間(

    ms)

    時間

    (ms) 波形不明瞭

    波形明瞭

    発振点

    受振点

    発振点

    受振点 探査深度 増加探査深度

    約20m

    約10m

    図-11 硬岩対応ビットへの改良

    Fig.11 Improvement on drill bit for hardrock

    図-12 ノイズ低減のための改良

    Fig.12 Improvement in installing sensors for noise reduction in HSP

    従来法(HSP)

    新開発法(TTSP)

    受振点発振点

    トンネル底盤で速度の実測約100m区間

    トンネル底盤で速度の実測約100m区間

    ①予測 同一切羽位置で 従来法と新開発法を実施

    ②実測掘削中の観察

     掘削後の弾性速度

    削孔ビット 削孔ビット

    硬岩対応

    受振センサー

    (壁面に設置)

    図-13 第 2 回実証実験のレイアウト平面図

    Fig.13 Layout plan of the second pilot test

    約 20m

    (探査深度約 50m)

    受振センサー

    (岩盤中に設置)

  • 大成建設技術センター報 第 45 号(2012)

    37-6

    可能性がある。 以上,第 2 回実証実験より,幅 10m 程度の湧水を伴

    う明瞭な破砕帯について,改良型 HSP の反射面位置ならびに,TTSP の速度分布から,破砕帯の出現位置,および概略の幅(予測幅約 15m に対し実測幅約 10m)を予測することができたと評価できる。TTSP の探査可能深度の限界付近の精度低下の可能性に関しては,今後

    も精度の把握と向上に取り組みたいと考えている。

    5. 破砕帯探査システムの考案 5.1 システムの特徴 TTSP は,破砕帯の位置と幅を調べる際の検出精度は高いものの,探査深度が 50m 程度と短い。一方,従来法の HSP では,破砕帯の幅に関する情報を得ることが出来ないが,探査深度は 100m以上を見込むことが出来る。 そこで,この2つの手法の長所を生かした破砕帯探

    査システムとして,従来法で得られる反射面分布から,

    破砕帯が分布する可能性がある箇所を抽出し,詳細調

    査の実施位置を決める概略調査と,TTSP による弾性波速度分布から,破砕帯の詳細位置と幅を把握する詳細

    調査を組合せる方法を考案した(特許出願済み)。 5.2 システムの適用 図-15 に,切羽前方 100mに 2 本の破砕帯がある場合

    での適用イメージを示した。切羽から 50m以内の 1 本目の破砕帯 1(図-15 参照)は,1 回目の従来法とTTSP で位置と幅が把握され,必要に応じ,破砕帯に対する対策を行いながら掘削を進める。切羽前方 50~100mの 2 本目の破砕帯 2 については,1 回目の従来法で,存在の可能性が確認されているため,図-15 の切羽

    掘削実績

    【地山評価点】2

    3

    4不良

    良好

    【地質平面図】

    TTSP予測値(弾性波速度)

    屈折法実測値(弾性波速度)

    5

    4

    3

    2

    1

    5

    4

    3

    2

    1

    Vp=3.6km/s Vp=3.4km/s

    Vp=3.5km/s Vp=3.3km/s

    Vp=3.7km/s

    20 40 60 80 100 120 140(m)切羽 0

    ③ ④

    ⑥HSP予測値

    (反射面位置平面図)

    Vp=2.9km/s

    図-14 第 2 回実証実験結果

    Fig.14 Result of the second pilot test

    軟質部

    硬質部

    粘土介在割れ目

    方解石介在割れ目

    硬質→軟質 反射面軟質→硬質 反射面硬質→軟質 反射面軟質→硬質 反射面

    破砕帯

    探査範囲約100m(概略調査)

    探査範囲約50m (詳細調査)

    TTSP 1回目

    0m

    従来法

    50m 100m

    探査範囲約50m (詳細調査)

    TTSP 2回目

    破砕帯

    対策工

    図-15 破砕帯探査システム適用イメージ(平面図)

    Fig.15 Application image of the fracture zone exploration

    system

    破砕帯

  • 大成建設技術センター報 第 45 号(2012)

    37-7

    前方 50mから,2 回目の TTSP を行い,破砕帯 2 の位置と幅を把握し,必要があれば,これに対する対策を

    行いながら掘削を進める。 このシステムを用いることで,図-16 上に示すような,

    予想外の破砕帯の出現によるトラブルを未然に防ぎ,

    図-16 下に示すような対策工を遅滞なく実施することが出来るため,安全性の向上が期待できる。

    6. まとめ 発振孔と受振孔のレイアウトを工夫し,トンネル切

    羽前方の破砕帯の位置と,トンネルの設計に用いられ

    る弾性波速度分布を把握することができる新たな探査

    法である TTSP を開発した。 2 回の実証実験の結果,幅 10m 程度の湧水を伴う明

    瞭な破砕帯について,HSP の反射面位置ならびに,TTSP の速度分布から,破砕帯の出現位置,および概略の幅(予測幅約 15m に対し実測幅約 10m)を予測する

    ことができた。 さらに,HSP と TTSP の長所を生かして合理的に破砕帯の位置と幅を把握する破砕帯探査システムとして,

    従来法の HSP で得られる反射面分布から,破砕帯が分布する可能性がある箇所を抽出する概略調査と,TTSPで得られる弾性波速度分布から,破砕帯の詳細位置と

    幅を把握する詳細調査を組合せる方法を考案した。

    7. おわりに TTSP を採用することにより,破砕帯の位置と幅が

    把握可能となるため,適切な対策の準備により安全性

    を向上することが期待できる。今後は,新規案件の特

    に土被りの大きい山岳トンネルで積極的に適用してい

    く予定である。

    謝辞

    本研究は,椿坂トンネルを実験の場所として使用さ

    せていただいた。また,公益財団法人深田地質研究所

    とサンコーコンサルタント株式会社の皆様には,全体

    計画からデータの取得,解析に関して多大なるご協力

    をいただいた。ここに記して,感謝の意を表します。

    参考文献

    1) 平成 15 年度 第 R2-2 号 国道 365 号 補助道路改築設計業務委託設計報告書 トンネル詳細設計編 平成 16 年9 月 滋賀県, pp.398.

    2) 山上順民,今井博,城まゆみ,青木智幸,友野雄士,三谷一貴:切羽前方探査の精度比較実験,土木学会第 66 回年次学術講演会,III-091,pp.181-182,2011.

    3) 今井博,山上順民,友野雄士,青木智幸:横断測線を用いたトンネル切羽前方弾性波探査法の開発, 土木学会第

    67 回年次学術講演会,印刷中,2012.

    ・切羽の押出し・切羽の崩落

    長尺鏡ボルト工

    長尺先受け工

    破砕帯

    破砕帯

    図-16 破砕帯による切羽崩壊(上)と対策例(下)

    Fig.16 Collapse of the tunnel face in a fracture zone (above)

    and an example of typical measure (below)