3
Shunsuke ( Arts ChiyodaJ ( 3331 Arts Chiyoda 55

アートとデザインの社会的活用についての研究(2) - CORE · 2017-04-13 · の中でドイツの状況と類似した地域についての調査を実施し、

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: アートとデザインの社会的活用についての研究(2) - CORE · 2017-04-13 · の中でドイツの状況と類似した地域についての調査を実施し、

研究報告記事

アートとデザインの社会的活用についての研究(2)

中西俊介

l はじめに

現代の日本では地域社会のつながりの喪失や疲弊を起因

とした様々な問題が私たちの日々の安心を脅かしている。そ

うした問題をアートやデザインの立場から考えなければならな

い時期に来ていると考えるクリエーターは多い。しかし、 具

体的に成すべき活動を見出せず、 実際の行動に移せてはい

ない場合がほとんどである。 だがそうした状況の中で、も、 一

部のクリエーターは既に自分に出来ることを理解し、社会の

中で活動を始めている。多くの場合、自らの活動を作品発表

という形式だけではなく 「コミュニティー・アート」という試

みとして、創作や表現活動を共有する体験や場を通じ地元の

交流や新しい関係作りを提案し、またそこに新たな価値観や

楽しみと出会う機会を提供している。

また一方で、諸外国と比較して日本のクリエーターは社会

に対して孤独感を持つ傾向が強い。 そのため社会での分岐

点といえる 30 歳前後で創作活動を断念することが多い。 そ

れが日本の美術やデザイン斯界の閉塞感に繋がっていると考

えられる。 しかし、クリエーター自らがアトリエを出て地域社

会との接点を見出すことで、自らの創作活動の長い持続に繋

がることが期待できる。

2. 研究の目的

近年、 美術館や各種アートイベン卜に足を運ぶ人々が着実

に増えている。 また身の回りを見ても、日増しにデザインの重

要性が高まっており、ものづくりが人々にとって身近なものに

なりつつある。 次の段階として、日常生活の中にアートやデ

ザインが無意識的に深く浸透し、 それが全体に行き渡ったと

きに、 本当の意味での豊かな社会が実現する。

本研究では、アートとデザインが地域社会において生活質

の向上の一助として活用されること、そしてクリエーターにと

って白身の社会で、の立脚点の確認という、双方に役立つ活動

を「アートとデザインの社会的活用J と定義し、その分類や

種類、 及び方法を整理することで、地域社会とクリエーター

の関係を向上させ推進することを目的としている。

3. 実施計画

3. 1 研究の概要

本研究の調査の対象は以下に記す 2 点である。

(1)日本におけるアートとデザインの社会的活用の現状調査

本研究者は 2009 年 12 月にドイツへの調査研究旅行を実施し、

日本とドイツにおいての、クリエーターの社会的立場の差異に

午NAKANISHI Shunsuke 造形デrザイン学科

注目した。日本と異なりドイツではアートについての社会的活

用度が多く見られ、地域住民との親和性も高い。 そこで、日本

の中でドイツの状況と類似した地域についての調査を実施し、

日本におけるアートとデザインの社会的活用を探る調査を行う。

(2)アート・イベント「つながり/たがやす(京都国際文化祭)」

の実施による運営内部からの調査

本研究者は 2006 年 4 月に「美術!生き残り塾」という、

若いクリエーターと共に社会と表現の接点を考える私塾を設

立した。現在、塾に所属するクリエーターは 40 名以上が在

籍。各地域で展覧会やワークショ、ノフ。を行ってきたが、次の

ステップとして地域力再生をサポートすることを目標として掲

げ·入 2010 年 4 月に外部関係者との協働を計るため、塾の上

部団体であるカルテイベーション・パートナーズを設立し、同

時にアートイベント「つながり/たがやす (京都国際文化祭) 」

プロジ、エクトをスタートさせた。表現者の社会的役割の明確

化と地域力再生の一助を目的として、 1. 滞在型スケッチ制

作、 2 各種ワークショッフ。の実施、 3 展覧会とイベントの実施、

4. 広報誌の出版、以上の 4 つの活動を実施する。

3.2 研究方法

この活動を通して、アートとデザインの表現活動が地域社

会に及ぼす影響に関する調査を行う。 また実施主体組織の

運営状況も含めたイベント実施マネージメントに関する情報も

集積する。 以上のような調査・分析を通して岡山という地方

都市におけるアートとデザインのあり方を考え、地域に還元で

きるデータベースの構築を今後の検討課題としている。

4 研究成果

( 1 ) 日本におけるアートとデザインの社会的活用の現状調査

本年は、 「3331 Arts ChiyodaJ (東京都) 、「軍艦鳥」(長崎県) 、

「瀬戸内国際芸術祭」 (香川県) の調査を実施した。 調査し

た 3 ヶ所はそれぞ、れ異なる切り口を持って社会と対峠している。

( 3331 Arts Chiyoda (東京都千代田区)(図 ! )

千代田区が廃校跡を活用し、アート活動の拠点として

2010 年 6 月にオープンした複合施設。 情報配信、展示機能、

イベントスペース、カフェ等、 アート周辺領域を内包している。

指定管理者である合同会社コマンドA が中心となり、 3 1 団

体が入居して各々の社会的アート活動を多方面から行ってい

る。 その反面、地域住民との関わりは薄く、むしろ首都圏広

域からの集客を目的とした運営であるといえる。

55

Page 2: アートとデザインの社会的活用についての研究(2) - CORE · 2017-04-13 · の中でドイツの状況と類似した地域についての調査を実施し、

②軍艦島(長崎県端鳥)(図 2)

かつては炭鉱の町として栄え、日本の近代化を支えてきたが

1974 年に閉山。以来、無人島であったが、 2009 年 4 月より上

陸が正式に解禁されると、全国より大勢の観光客が押し寄せ

ている。特定非営利活動法人「軍艦島を世界遺産にする会」

により上陸ツアーが行われており、最初の一年間で 75,000 , 」

がクルーズを体験した。県内への経済波及効果は推計 17 億 8

千万円(長崎市文化観光総務課のよる試算)に上っており、負

の遺産と思われた場所を新たな視点で観光地へと変貌させた。

一過性のブームではなく、日本の高度成長を支えた文化遺産と

して、今後も一定の人気を維持し続ける可能性が高い。

③瀬戸内国際芸術祭 2010 (香川県)(図 3)

18 の固と地域から 75 組のアーテイスト・プロシ‘ェクトと 16

のイベントが参加した。 最終的に l 億円以上の黒字収支、来

場者数 94万人(当初見込み 30 万人)ということで、芸術イ

ベントとしては大成功を収めたと言って良い。 過去においても

中園地方でこれほど成功した芸術イベントは例がなく、アート

によ り地域社会が活性化したことは間違いない。 難解な現代

アートをテーマに置きつつも、地域住民や一般客まで巻き込

んだ運営は今後のスタンダードな事例となるであろう。しかし

観客の多くが岡山県から訪問するのにも関わらず今回の芸

術祭に岡山県関係者の名前を見出すことはほとんど皆無であ

る。その理由としては、 l 同時期に国民文化祭が開催された。

2. 犬島以外の住所が香川県である。 3 実行委員長が香川県

知事である。 以上の 3 点であると推論できる。 しかし地域に

根ざしたアート活動を持続的に行うには関係自治体の協力が

必要である。今後の岡山県の関わり方も模索する必要がある

であろう。

(2) アート イベン卜 「つながり/たがやす」の実施による運

営内部からの調査

本研究者が共同運営するカルテイベーション・パートナーズ

が、次年度に行われる国民文化祭・京都のプレイベン卜とし

て、アートイベント「つながり/たがやす(京都国際文化祭)」

を、京都市内と京都府和束町の 2 ヶ所を会場として実施した。

これは都市部と過疎地という対照的な地域での活動を比較

することで、活動内容や来訪者の構成等の差異を検討するた

めである。 本年の活動数と内容 (固めは以下の通り。

展覧会 IO 回

ワークショップ 8 回

機関誌発行 6 回

ライブペイント 2 回

スケッチ会 5 回

ギャラリー開設 l ケ所

アート)\ザール 2 回

!アートとデザインの社会的活用についての研究 (2) 中西俊介

56

京都市内では主に京都造形芸術大学の学外ギャラリー

「art project room ARTZONE」 (河原町三条下る) ( 図 5)

と商業施設「新風館」 (烏丸三条下る) (図 6) の 2 ヶ所を

メイン会場とした。 この場所は京都で最も通行人の多い商

業地域であるため、イベントをするだけで観客が絶えない

好立地であることが特徴である。その反面、観客の多くが

目の肥えた美術愛好家ではないため、理解しづらいものを

展示すると全く反響はない。そのため、今回は「祭り」のイ

メージ‘を持って各種のイベント(展覧会、ライブペイント、ワ

ークショ ップ、機関誌配布等) を行った。

京都府和束町は宇治市に隣接する人口 4500 人程度の山

村で、 宇治茶の高級品種を栽培する茶所である。茶畑が

京都府景観資産の第一号に選定されるなど多くの観光資産

を持つてはいるが、京都から公共交通機関で 90 分を要す

るため、茶業以外の産業が育たず、近年の過疎化が激しい

地域 (過疎地域自立促進特別措置法指定地)である。

この過疎地をクリエーターの力で少しでも活力を取り戻す

ために、地域性の高い各種イベントを実施した。 まず、地域

観光の拠点である、お土産販売所に隣接した茶倉庫を改造

してギャラリーを開設し、集客の中心とした。 その後、小学

生を対象としたワークショップ(図 7)や、和束町の住民を紹

介したハンドフボツクを制作。 また、来日したドイツ人アーテイ

スト IO 名を伴ったスケッチイベントを開催し、そこで描かれ

たスケッチの展覧会を大阪の最高級ホテルや京都府庁で行う

など、和束118 の認知度向上を目的とした活動を実施した。

5. おわりに

本プロジ、エクトは平成 23 年度国民文化祭京都のプレイベン

トの一環として実施しているため、京都府庁をはじめ、様々

な方面に協力を仰ぎながら実験的なイベントを行った。

対象地域を 2 ヶ所に絞り、行政と地域住民を巻き込んだ

活動を行った結果、地域に様ざしたアート活動を展開するこ

とができたといえる。その多くはワークショップと展覧会を中

心とした活動で、本質的な精度の高さを伴ったアー トとはいえ

ない。 しかし、住民(特に子ども)を「ものづくりj の入口ま

で誘導することが本活動の最大の目的であり、このような活

動を通して我々のようなクリエーターの存在価値を社会的に

高めていきたいと考えている。

また、国際交流も本活動と平行して行い、 ドイツより 1 0

名の若手アーテイストが 2 週間に渡って京都に滞在しながら

制作を行った。 京都造形芸術大学の学外ギャラリーで実施

した「日独交流グループ展 MITJ は、様々な方面で話題と

なり、当ギャラリーにおける年度最多観客動員数を記録した。

本年度のプロジ、エクトの成功により、次年度に実施が予

定されている「国民文化祭 2011 京都」に向けた展開に期

待が持てる結果となった。

Page 3: アートとデザインの社会的活用についての研究(2) - CORE · 2017-04-13 · の中でドイツの状況と類似した地域についての調査を実施し、

図 I 333 l Arts Chiyoda 図5 日独交流展グループ展「MIT」 (ART ZONE)

図2 軍艦烏 図6 日独交流ライブペイント(新風館)

図3 瀬戸内国際芸術祭(豊島) 図7 和束町ワークショップ

2010/4/ 会報紙r季刊』春号発行 2010/10/l l 北野商店街秋祭り子供華器演蕎WS

2010/4/24. 25 アトパザル+ぬいぐるみ制作品アニメ ションWS(北野地峨) 20 1 0ハ口/10 l l 日独吏,Ii和束町スケッチ会

2010/4/27 今宮祭りぬいぐるみ制作WS(西陣地域) 2010/10/17 新風館日独交流ライブペイント&嵐電日独主流会

2010/5/10 ~ 16 和束スケッチ展示(京都府庁) 2010/10/21 ~ 31 ドイツ若手作軍グループ展{トランスポップギャラリー)

2010/町1 5 特別美術講座小田島等x大橋裕之 2010/l 0/25 影絵WS(テアト口)

2010/5/ 18~ 6/21 和束スケッチ展示(和束茶力フェ) 20 1 0ハ 0/30、 31 アートバザールMITハンブルグ&アニメーション上映会

2010/6/5. 6 スケッチ会と茶摘み体験(和束町) 2010/ll /~ みんなの妖怪展(京橿電車内)

2010/6/27 カッパ作品展示(京都エコセンター) I 2010;11n1 秋の一般公開ぬいぐるみ制作WS(京都府庁)

2010/7/ 会報紙「季刊」夏号 I 2010;11 ;2s スケ、ノチ教室(京都府立植物園)

2010/8/7. 8 みんなの力ッパ展&ぬいぐるみ力ッパ制作WS(日吉ダム光のアートイベント) I 2010;12;5 岡山県立大宇宇生との宜敷スケッチ会

2010/8/10 ~ 15 和束スケッチ作品展示(大阪リーガロイヤルホテル) 2010/12/l l 老人会の集いでバンド漢書会(旧西陣小学校)

2010/8/15 「みんなで妖怪を描こうJ夏休み子供ライブペイントイベントIN京福皿山駅 2010ハ 2/l l 特別美術講座龍伯俊男

2010/8/23 夏休み工作教室開催(南山城村、笠置、和束町の小学生を対象) 2010/l 2/l l ぬいぐるみ制作WS(京都環境7rスティパル)

2010/9/ 会報紙「季刊J秋号 2010ハ 2/29~l/l 0 窟敷スケγチの展覧会(吉敷アイピースウエア)

2010/9/25 特別美術講座逆柱いみり(望月勝広) 201 l/l/ 会報紙『季刊J 冬号

2010/10/2 ~ 17 日独主流展ゲルブ展'MIT』晶記意冊子発売 201 l /2/ 茶倉庫ギャラリー設置

2010/10/5 日独交流京福沿線スケッチ会 2011/3/2 ~ 7 ハンブルグの作家たちの和束スケッチ展(茶書庫ギャラリー)

2010/10/6 ~ 17 カルティベーションパートナーズグループ展「ざわざわコレクションJ 201 l /3/ 和束ハンドブ‘ノク発売

図4 カルテイベー ション ・ パートナースの活動

57