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コンクリートの微細構造観察の試み 株式会社大林組 東京本社 技術本部 技術研究所 生産技術研究部 人見尚

コンクリートの微細構造観察の試み - SPring-8support.spring8.or.jp/Doc_speaking/PDF_091030/hitomi.pdfコンクリートの微細構造観察の試み 株式会社大林組

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コンクリートの微細構造観察の試み

株式会社大林組 東京本社 技術本部

技術研究所 生産技術研究部 人見尚

コンクリートとは?

• 骨材 : 砂と石(細骨材と粗骨材)

• 接着剤 : セメント 石灰石を焼成

これらを練混ぜて自然硬化させる

コンクリート・コンクリートは様々な材料を混ぜ合わせることができる → 工業材料としては異質

・誰が作っても(一応は)できる → 自由度の多さ

セメント中のカルシウム-シリカ系化合物と反応して↓

CH(Ca(OH)2) と CSH(3CaO・2SiO2・3H2O)

なる化合物を作る↓

セメント硬化体

コンクリートはどのような材料か?

水酸化カルシウム:水溶性 カルシウムシリケート化合物:難溶性

・セメント硬化体はポーラス・骨材との接着はあまりよくない

骨材とセメントの間には遷移帯と呼ばれる粗な領域

コンクリートの劣化

初期の劣化

水和固化時の発熱と冷却における各材料の膨張収縮比の差→ ひび割れの発生

気中構造物

水中構造物

① 乾燥収縮ひび割れ② 炭酸化② 鉄筋腐食

① 表面劣化② 炭酸化(溶脱の抑制)③ 鉄筋腐食④ ひび割れ

水分の蒸散(乾燥)CO2の侵入飛来塩分(Cl-)の浸透

Ca2+の溶脱CO3

-の浸透Cl-の浸透SO4

2-の浸透

中長期的な劣化

長期的な劣化

カルシウム溶脱:カルシウム成分を地下水に溶出させポーラスに変化する →放射性廃棄物処分場

本研究の目的

・細孔構造や骨材との界面・力学的性質と空隙・化学変化のモデル化

コンクリートの耐久性能を精密に評価・予測する

既存の実験では観察不可能であった

コンクリートの空隙構造・力学的性質・物質移行経路

コンクリート内細孔構造・ひび割れを捉える

モルタル(メゾモデル)

×10-3m

コンクリート(マクロモデル)

劣化した領域

この部分の何がどのように変化したか?

力学性能と拡散性能との関係は?

コンクリートは階層構造をもつ

セメント硬化体(ミクロモデル)

×10-6m

マルチスケールアナリシスが必要

コンクリートの内部構造を見る

1.輪切りにして観察する

2.非破壊で観察する

微小厚さを研磨除去し,平滑面を出し,表面観察を行う.この繰り返し

問題点:像からどうやって空隙を判別するか?微小研磨や観察面を精度良くそろえられるか?

試験体にCT撮影を施す

問題点:線源に何を使うか試験体の大きさは?そもそもそのような装置はどこに

X線CT撮影 − SPring-8

X線CT撮影SPring-8で実験を行うことの利点1.最適なエネルギーを選択できる2.高分解能である

試料の撮影

0°〜180°まで,1500枚の透過像(レントゲン写真)を撮影し,そこから断面図を再構成する

・視野:500um× 500um →1000×1000ピクセル 0.5um/1ピクセル・最小径1.5umの細孔まで識別可能 (3ピクセル分)

W/C40%モルタル W/C60%モルタルW/C50%モルタル

X線CT撮影例

試料:電気化学的促進試験で作成

変質モルタルW/C 50%変質モルタルW/C 40%

明るさ

ピクセル数

白で表示黒で表示

輝度分布

結果から空隙を取り出すW/C40%モルタル W/C60%モルタルW/C50%モルタル

W/C50% 変質モルタルW/C40% 変質モルタル

空隙の空間構造と質が分かる1普通ポルトランドセメント W/C 0.5

健全セメント硬化体 溶脱セメント硬化体

粗大空隙

全空隙

空隙の空間構造と質が分かる2

低熱セメント+フライアッシュ W/C 0.5

健全セメント硬化体

全空隙

溶脱セメント硬化体

粗大空隙

1.新しい解析手法複雑境界条件や移流を考慮FEMや差分法でない解析法

2.劣化状態把握の高精度化劣化状態に応じた物性の把握X線CTによる空隙の把握(従来法は1cm以上の幅)

コンクリート内細孔構造・ひび割れを扱う

モルタルとしての拡散係数

ペーストとしての拡散係数

モルタル

(メゾモデル)

セメントペースト(ミクロモデル)

コンクリート(マクロモデル)

溶脱した領域

この部分の拡散係数は?

溶脱・変化の状況

溶脱・変化の状況

コンクリートの劣化・溶脱の解析

細孔中のイオンの移動から正確な拡散係数を求める

格子ボルツマン法(LBM)+X線CT+マルチスケール解析による

耐久設計・耐久性予測システム

・物質の移行解析:格子ボルツマン法

・真の拡散係数:SPring-8 のX線CT像からの細孔モデル

X線CTの成果の活用

イオンの浸透度合いの定量評価

LBM → 複雑境界中の拡散解析を可能に

コンクリート中の物質移動解析には拡散係数など物性値が必要↑これまでは,マクロな実験より定めた(誤差が多い)

マイクロ構造中の拡散を解きイオンの浸透度合いを評価

500ピクセル分 500立方立体格子 空隙中の拡散 拡散係数の近似

0

5

10

15

20

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

溶脱

標準養生

Ca濃

度 [mmol/l]

深さ方向 [mm]

その例として 溶脱によるセメント硬化体の変化を考察

解析結果 ー イオンの浸透しやすさ

0

5

10

15

20

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

溶脱

標準養生

Ca濃度 [mmol/l]

深さ方向 [mm]

0

5

10

15

20

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

溶脱

標準養生

Ca濃度

[mmol/l

]

深さ方向 [mm]

普通ポルトランドセメント 低熱ポルトランドセメント+フライアッシュ

普通ポルトランドセメント;溶脱によって,浸透しやすくなる

低熱ポルトランドセメント+フライアッシュ;溶脱での変化は少ない,

もともと浸透しやすさは大きい

更なる試み ー 化学成分の空間分布

X線吸収係数による画素数のヒストグラム(縦軸対数表示)

この部分の違いは?

セメントの硬化過程で成分が変わる

空隙

青黒 緑 白

X線吸収係数

画素数

ケイ素成分やエトリンガイドなど

CSH(I,II) 未水和セメント

CH

空隙

青黒 緑 赤 白

画素

これらの構成物割合の差がピークとなって現れるのでは?

セメントペースト中の水和物分布(推定)

材齢28日材齢2日

・未水和セメントと思われる領域が材齢経過で減少

・CHは未水和セメントに接して存在

しきい値を設け物質ごとに着色表示

S・エトリンガイドなど: 青CSH: 緑CH: 赤

未水和セメント: 白

まとめ

SPring-8においてコンクリートのX線CT観察を行った.

1.非破壊でのモルタル内部の観察が可能

2.3次元での内部構造の検討が可能

3.CT像より空隙の径のヒストグラムの分布がわかる

4.空隙には連続するものと独立したもの(気泡状)のものが混在

→ X線CT観察のみが得られる多くの有用な知見

応用として

5.CT像より,拡散係数などの物性値を算出できる

6.高精度なコンクリート劣化の評価・予測に有益

7.成分分析にも応用可能の可能性が

謝辞

• 本研究は,SPring-8における課題研究課題番号:2006A0205,2006B0157 ,2007A1951,2007B1819においてBL20XUおよびBL47XUを用いた成果です。

ここに銘記し,謝意を表します。