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コミュニティの再生への課題 第三特別調査室 山内 やまうち 一宏 かずひろ 1.はじめに 少子高齢化・共生社会に関する調査会は平成 19 年 10 月に設置され、3年間の調査テー マを「コミュニティの再生」と定め、1年目においては多文化共生社会の実現の観点から 「外国人との共生」について調査を行い、4つの柱から成る18 項目の提言を含む中間報告 を 20 年6月取りまとめた。 2年目においては、高齢化と人口減少が同時進行する中で地域コミュニティにおける互 助・共助の重要性がますます増していくとの観点から「地域コミュニティの再生」につい て調査を行い、4つの柱から成る 18 項目の提言を含む中間報告を昨年6月取りまとめた。 本年は調査会3年目の最終取りまとめの年であり、3年間を通じてのテーマである「コ ミュニティの再生」を総括することになる。そこで、本年は「少子高齢化とコミュニティ の役割」について調査を行うこととなった。 コミュニティの役割については、昨年8月総務省の「新しいコミュニティのあり方に関 する研究会」が報告書 1 (以下「報告書」という。)をまとめて指針を示している。以下、 本稿では調査会において議論される予定であるコミュニティの役割について報告書に沿っ て論点を紹介する。 2.コミュニティの現状 総務省はコミュニティを「(生活地域、特定の目標、特定の趣味など)何らかの共通の 属性及び仲間意識を持ち、相互にコミュニケーションを行っているような集団(人々と団 体)」 2 と定義し、地域性の強い「地縁団体」と特定目的に実現のために形成された「機能 団体」とに分類している 3 コミュニティは、我々が日常生活を営む上での最小単位である個人・家族という私的な ものと、政府、自治体といった公的な主体との中間的存在として位置付けられ、 「冠婚葬祭、 福祉等個人や家族のみでは対応できない事案に対処する相互扶助機能、経済活動でカバー しきれない文化や伝統といったソフト面の管理、継承を行う地域文化維持機能、まちづく りや防災等地域全体に関わる事案で地域住民の協力が不可欠な課題の調整を行う総合利害 1 『新しいコミュニティのあり方に関する研究会報告書』(平成21 年 8月 28日)(総務省) 2 総務省コミュニティ研究会第一回参考資料『地域コミュニティの現状と問題』(平成19 年 2 月 7 日) 3 機能団体のうち、地区防犯組織、まちづくり委員会、地区子育て支援グループといった集合体は地域性が強 いが、スポーツクラブ、社交サークル、動物愛護団体などは地域とのつながりは薄い。地域コミュニティと言 えば、厳密に言えば後者は除かれるが、本稿では、コミュニティ≒地域コミュニティとして論じることとする。 立法と調査 2010.1 No.300 196

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コミュニティの再生への課題

第三特別調査室 山内やまうち

一宏かずひろ

1.はじめに

少子高齢化・共生社会に関する調査会は平成19年 10月に設置され、3年間の調査テー

マを「コミュニティの再生」と定め、1年目においては多文化共生社会の実現の観点から

「外国人との共生」について調査を行い、4つの柱から成る18項目の提言を含む中間報告

を20年6月取りまとめた。

2年目においては、高齢化と人口減少が同時進行する中で地域コミュニティにおける互

助・共助の重要性がますます増していくとの観点から「地域コミュニティの再生」につい

て調査を行い、4つの柱から成る18項目の提言を含む中間報告を昨年6月取りまとめた。

本年は調査会3年目の最終取りまとめの年であり、3年間を通じてのテーマである「コ

ミュニティの再生」を総括することになる。そこで、本年は「少子高齢化とコミュニティ

の役割」について調査を行うこととなった。

コミュニティの役割については、昨年8月総務省の「新しいコミュニティのあり方に関

する研究会」が報告書1(以下「報告書」という。)をまとめて指針を示している。以下、

本稿では調査会において議論される予定であるコミュニティの役割について報告書に沿っ

て論点を紹介する。

2.コミュニティの現状

総務省はコミュニティを「(生活地域、特定の目標、特定の趣味など)何らかの共通の

属性及び仲間意識を持ち、相互にコミュニケーションを行っているような集団(人々と団

体)」2と定義し、地域性の強い「地縁団体」と特定目的に実現のために形成された「機能

団体」とに分類している3。

コミュニティは、我々が日常生活を営む上での最小単位である個人・家族という私的な

ものと、政府、自治体といった公的な主体との中間的存在として位置付けられ、「冠婚葬祭、

福祉等個人や家族のみでは対応できない事案に対処する相互扶助機能、経済活動でカバー

しきれない文化や伝統といったソフト面の管理、継承を行う地域文化維持機能、まちづく

りや防災等地域全体に関わる事案で地域住民の協力が不可欠な課題の調整を行う総合利害

1『新しいコミュニティのあり方に関する研究会報告書』(平成21年 8月 28日)(総務省) 2 総務省コミュニティ研究会第一回参考資料『地域コミュニティの現状と問題』(平成19年 2月 7日) 3 機能団体のうち、地区防犯組織、まちづくり委員会、地区子育て支援グループといった集合体は地域性が強

いが、スポーツクラブ、社交サークル、動物愛護団体などは地域とのつながりは薄い。地域コミュニティと言

えば、厳密に言えば後者は除かれるが、本稿では、コミュニティ≒地域コミュニティとして論じることとする。

立法と調査 2010.1 No.300 196

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調整機能といった役割を果たしてきた。」4

しかしながら、コミュニティが直面している現状をみると、都市部では地縁的なつなが

りや共通の価値観の希薄化により、また地方、特に過疎地では人口減少・高齢化によりそ

の存続自体が危うくなっている。他方、平成の大合併に伴い市町村規模が拡大したため、

住民と地方自治との溝が大きくなった、へき地等周辺部が取り残されるとの懸念が現実化

している。また少子高齢化の進展や女性の社会参加の拡大につれて、これまでは主として

家庭内において対応されてきた育児や介護の外部化が進み、公共サービスに対する要求も

高まっている。これまで私的活動で行われてきたことが公的部門に対応が求められるよう

になり、「公共」の範ちゅうが拡大しているが、昨今の地方自治体の苦しい台所事情からそ

のような需要に十分に応えることが困難になっている。

報告書では、このような状況の下、コミュニティの今後の在り方として、「地域コミュ

ニティやNPO、その他の住民団体など公共サービスの提供主体となり得る意欲と能力を

備えた多様な主体が、自ら、地域の課題を発見し解決することを通じて、力強く「公共」

を担う仕組みや、行政と住民が相互に連携し、ともに担い手となって地域の潜在力を十分

に発揮し、地域力を創造する仕組みを作っていくことが求められる。」5としている。

3.今後期待されるコミュニティ像

コミュニティは、行政との関係では、行政側からの要請の伝達や住民の意向の取りまと

め等の行政と住民の連絡調整機能、行政側に代わって簡単な道路補修、まちの清掃等を行

う行政補完機能を担ってきたが、地域のきずながぜい弱となり隣近所との関係が希薄化す

るにつれて、それら機能を果たすことに支障を来し、また行政側でも財政難や組織の縮小・

統合等でこれまでのように対応することが困難となり、新たな行政とコミュニティの関係

の構築が必要な時期となっている。

(1)基本的視点

「公共」という概念の転換

報告書ではそれを「『新しい公共空間』の形成」と表現している。コミュニティが

変容する一方で育児や介護等で地域に期待するニーズが高まる中で、行政を中心とす

る公共サービスが限界にある以上、「公共」の在り方を見直すべきということである。

公共サービスは行政から提供されるものという発想を転換し、これまで行政が担って

きた公共サービスの守備範囲を見直すということである。とはいうものの、公共の領

域をすべて私的活動へ委ねることは適切ではなく、行政が一定の関わりを持ちつつコ

ミュニティ等がこれまで行政が担ってきた公共サービスを担うことで、「地域にふさ

わしい多様な公共サービスが適切な受益と負担のもとに提供されるという公共空間

4 拙稿「少子高齢化時代におけるコミュニティの役割」『立法と調査』第228号(2009.1)189~190頁 5 前掲脚注1 2頁

立法と調査 2010.1 No.300 197

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(=「新しい公共空間」)を形成していく」6としている。

多様な人材の結集による地域力の創造

コミュニティに今後求められる役割のもう一つ視点として、地域を活性化させる人材

力の結集とその活動拠点の提供がある。現在、活性化している地域とそうでない地域と

の差異は、地域を引っ張るリーダーや中核的グループの存在が大きい。報告書では地域

での人材力を地域資源の活用ための根源的要素とした上で、コミュニティにおいて地域

人材が地域の有形無形の資源を活用しながら活動を展開しており、コミュニティが地域

の活力向上等地域に共通する目的を共有し、相互に役割分担しながら結集していくこと

ができるような仕組みの構築を求めている。

(2)新しい「地域協働体」の構築

報告書においては、行政、コミュニティ、住民の新たな連携について「地域協働体」と

いう概念を提唱している。

公共サービスの提供主体

コミュニティは、前述のとおりこれまで行政と住民の連絡調整機能、行政補完機能

を果たしてきたが、過疎化に伴う人口減少や都市においては地域のきずなのぜい弱化と

連帯感の希薄化による町内会等地縁団体への加入率の低下7により担い手不足、活動停

滞に陥っており、その一方、特定の目的・テーマを持ち活動しているコミュニティやN

PO、商店街、マンション管理組合等が地域の様々なニーズに対応した多様なサービス

を提供する主体として登場している。このような組織に今後新しい地域協働体の主体と

して公共サービス提供の一翼を担うことが期待される。

新しい仕組み

「地域協働体」は、地域の多様な主体が力を結集し、相互に連携・分担して住民ニー

ズに対応した公共サービスの効果的・効率的な提供を総合的、包括的にマネージメント

する組織となることが期待される。既存の町内会、青年団等の地縁団体との関係では、

それらが地域住民を網羅的にカバーしていることから情報提供活動で連携が可能であ

り、また地縁団体の代表者を地域協働体のメンバーとして取り込むことや地縁団体に地

域協働体としての機能を担わせることも考えられる。また、地域性はないが特定目的を

有する機能団体との関係では、地域協働体の活動テーマごとに設けられた部門との協力

関係を結ぶことで連携していくことが可能である。さらに、市町村等行政との関係では、

地域協働体の立ち上げの際、市町村がリーダーシップを発揮して準備・検討の場を設け

たり、コーディネーターとしての職員の派遣、初期費用の負担等、人材面、資金面での

援助を行うことが望ましい。報告書では、「その際、地域住民等の問題意識を醸成し、

その積極的な参加を得るためには、地域の抽象的な連携や地域のつながりということに

とどまらず、例えば、防犯・防災活動や高齢者の孤独死対策など、地域住民等のニーズ

6 前掲脚注1 4頁 7 都市においてコミュニティが成立しにくい状況となっている要因については、拙稿(前掲脚注4)191頁(脚

注5)を参照願いたい。

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を踏まえた課題を地域住民等に投げかけるのが重要」8と指摘している。

昨今、企業ガバナンスや情報公開に世間の注目が集まっているが、地域協働体におい

ても同様に適切なガバナンスの確保が求められよう。意思決定過程での公平性の確保や

会計管理での透明性の確保、説明責任の履行等が実現されることが必要である。

地域自治区との連携

平成 16 年の地方自治法改正により地域自治制度が創設され、住民自治の強化や行政

との協働等を目的として「地方自治区」が設置できることとなった9。地域自治区には、

「地域協議会」が設置され、地域の意見の取りまとめや協働活動のかなめとなるため、

地域協働体が創設されれば地域自治区と有機的に連携して、前者が住民による地域の公

共サービス提供を担う実行組織として、後者が行政とのパイプ役としてそれぞれ機能を

果たすことでより有効な住民自治や協働活動が可能となり、両者の構成メンバーに重複

を持たせること等により連携の強化が図られる。両者の対応関係、立ち上げ、創設の前

後関係について報告書では、地域の実情に応じて多様なものが考えられるとしている。

図表1 「地域協働体」と地域自治区の連携(イメージ)

(出典) 総務省「新しいコミュニティのあり方に関する研究会報告書」(平成 21年 8月 28日)36頁

8 前掲脚注1 31頁 9 平成 19年 10月 1日時点で、全国で 123の自治区がある。この地方自治法による地域自治区以外にいわゆる

合併特例法による地域自治区があり、これは合併後、市町村単位が広域化して市町村の消滅や行政が遠くなる

ことへの住民感情に配慮して設置されるものである。

立法と調査 2010.1 No.300 199

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(3)コミュニティの抱える課題

地域自治区、地域協働体が機能しても住民に一番近いところにいてその意向を集約した

り協力を要請したりするコミュニティが元気でないと、真の意味での住民自治、コミュニ

ティの再生は絵に描いた餅となる。コミュニティが抱える課題は存在場所や活動目的等が

千差万別ゆえに数え切れないが、大体、以下の点に集約できる。

リーダー、人材

まず、高齢化、過疎化の進行によりコミュニティにおいてリーダーに負担が集中する

とともに、人材難から後継者不足となり、持続可能な活動が困難となっていることであ

る。健康な高齢者の柔軟な就労を可能とするとともに、人材の確保、リーダーの育成が

急務である。報告書では、人材不足への対応として子どもや若年層が中心となって実

行・参加できる行事・イベントを立ち上げることを提案している10。ただし、限界集落

等、人材そのものが涸渇している地域もみられ、早急な対応が求められる。

資金面

次に、活動資金の不足が挙げられる。今後、地方財政がますます逼迫化することが懸

念される中で、コミュニティ活動が継続されていくためには安定した活動資金の確保が

必須である。報告書では、「地域コミュニティ税」を創設して地域協働体に交付したり、

コミュニティ助成事業を活用する事例を紹介している11。人材面や資金面でのネックに

ついては、市町村や公務員OB、NPO等の協力・支援により解決が図られることが期

待される12。

個人情報、プライバシー

最後に個人情報保護の問題がある。個人情報保護法制は、個人の権利・利益をその侵

害から守ることを目的としているが、コミュニティ活動に際して、例えば防災や高齢者

福祉に関して、居住者情報や高齢者の健康状態の把握が必要となるが、個人情報保護と

の観点から支障を来したり、時間・手間を要したりすることが多いとの報告もあり、何

らかの対応が求められる。この問題について報告書では、まず当該情報が自治体の個人

情報保護条例で制限されているものなのか、医師や社会福祉士等法律による守秘義務で

制限されているものか仕分けることが必要であり、前者の場合であれば自治体の個人情

報保護条例や審査会での対応で、一定の場合について個人情報の提供を可能とするよう

措置することで解決を図ることが考えられるとしている。

10 リーダーの育成について、『地域の高齢化対策と地域振興施策に関する調査報告書』(みずほ情報総研:参議

院第三特別調査室委託 平21.3)(115頁)では、今後は国・地方公共団体・中間支援組織が、人材の育成をよ

り積極的に支援し、認定する仕組みを構築する必要があり、また有為な人材に適切な報酬が支払われることが

望ましいとの提言を行っている。 11 活動資金については、前掲報告書(脚注10(117頁))では、民間資金を地域振興に呼び込むための枠組み

づくりを提言しており、具体的には地域振興に貢献するソーシャルエンタープライズの活動に係る損金算入の

拡充、企業従業員のボランティア活動を促進するための税制面での優遇措置等を紹介している。 12 公務員の地域の公共活動への参加については、報告書では、より積極的に評価することが重要としつつ、公

務として参加するのか、個人的活動とするのか区別することが必要であり、市町村等においてルール化すべき

としている。

立法と調査 2010.1 No.300 200

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以上の課題に対し、地域協働体は、資金や人材等の経営資源の供給の核となり得るもの

であり、また外部からの支援の受け皿として機能することが期待でき、さらに個人情報保

護法制に関しては、研修会の開催やマニュアル作成等を通じて制度の周知を図る際に役立

つであろう。

4.少子化・高齢化とコミュニティ

少子化や高齢化への対応については、国や自治体の施策といった政策的対応と住民レベ

ル、草の根レベルでの地味で地道な活動との融合が不可欠である。その際、受け皿となる

のが自治会、地区子育て支援グループ等のコミュティであり、ハード的にもソフト的にも

少子化・高齢化に対しきめ細かいメニューの提供を実施する単位・主体としての役割を担

っており、今後、少子高齢化が一層進展するとすればコミュニティの重要性は一層高まる

ものと思われる。また、これと並行して、コミュニティの持続可能性に対する行政の支援

策の必要性も拡大せざるを得ない。

少子高齢化・共生社会に関する調査会では、今後、以下のような観点から議論されるこ

とが予想される。

(1)育児・介護

まず、育児・介護の社会化

である。戦前までは大勢が同

じ屋根の下で生計を共にし、

家事や育児、家業労働の分担

が行われ、また隣近所におけ

る互助・共助も盛んであった

が、戦後、都市化の進展、地

域社会の連帯感の希薄化、核

家族化の進展、親子三世代同

居世帯の減少により、育児、

介護は専ら家庭や身内で行わ

れてきた。しかし、老親のみ

世帯、単身世帯の増加や女性

の社会進出によりもはや家庭内でそれらに対応することは困難となった。図表2及び3は、

我が国世帯の推移と全世帯に占める高齢者単独及び夫婦のみ世帯の割合について表したも

のであるが、核家族化により世帯数は一貫して増加しているが、一世帯当たりの人数は減

少し、また単独世帯も増加傾向にある。さらに、高齢者夫婦のみの世帯が全世帯の4割近

くとなり、高齢者の独り暮らしも15%を超えている。介護を必要とする高齢者に身内がい

ない、もしくは遠隔地にいる、女性が仕事に就くため子どもの面倒を見てもらいたいが、

任せられる祖父母が同居していない等、もはや家族のみでの対応は困難な状況で、再び地

域や社会でバックアップすることが必要となってきている。

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0.5

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50,000

60,000 図表2 我が国の世帯の推移

総数(戸) 単独世帯(戸) 1世帯当たり平均人員(右軸)(単位:人)

(出典)国立社会保障・人口問題研究所HP

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もちろん、介護保険、育児

介護休業法、介護福祉士制度、

保育制度の充実等、現行の介

護、育児のための社会的枠組

みはそれを必要とする人々を

支えている。ただ、今後需要

がますます増え、かつ多様化

してくることを考えると、地

域コミュニティが現行施策と

連携し補完し合いながらカバ

ーしていくことも多くなって

こよう。

(2)子ども、高齢者の安心・安全

次に、コミュニティが子どもや高齢者の居場所作りに貢献していることである。両親が

就業している子どもや定年後企業をリタイヤした高齢者は生活の基盤が現在居住している

地域となる。日常のほとんどの時間を自宅周辺の

地域で過ごすのである。コミュニティは子ども会

活動、お祭り、サークル活動といった地域におけ

る各種行事、諸活動の運営母体として、子どもや

高齢者に娯楽や社交の場の提供を通じて社会との

つながりを実感させる安心感や生き甲斐を提供し、

安心安全に日常を過ごす居場所を提供する役割を

果たしている13。

(3)貧困と格差及び虐待

最後に、子ども、高齢者の貧困と格差及び彼ら

に対する虐待問題である。現在、若者の貧困と格

差の拡大については社会問題となっている。

子どもの貧困については、親の経済状況が反映

することから最近の厳しい経済環境により悪化し

ている。OECDの貧困率でみると、我が国の子

どもの貧困率は図表4から分かるように 14%へ

増加しておりOECD平均を上回っている。貧困

により十分な学習機会が失われ、また健康的も情

13 全国老人クラブ連合会によると、平成20年 3月末日現在、クラブ数 122,153、会員数 7,623,972 人であり、

また社団法人全国子ども会連合会によると、平成16年 10月現在、子ども会数12,370、会員数4,397,886人、

支える育成者・指導者1,367,678人 が加入している。

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40

図表3 全世帯に占める高齢者単独及び夫婦のみ世帯の割合(%)

ひとり暮らし

夫婦のみ

(出典)図表2と同じ

オーストラリア 12 -1.2オーストリア 6 6.0ベルギー 10 -0.8カナダ 15 2.2チェコ 10 1.7デンマーク 3 0.8フィンランド 4 2.1フランス 8 0.3ドイツ 16 5.1ギリシャ 13 0.9ハンガリー 9 -1.6アイスランド 8 ..アイルランド 16 2.3イタリア 16 -3.4日本 14 1.6韓国 10 ..ルクセンブルク 12 4.5メキシコ 22 -3.8オランダ 12 1.0ニュージーランド 15 2.3ノルウェー 5 0.9ポーランド 22 ..ポルトガル 17 0.0スロバキア 11 ..スペイン 17 1.9スウェーデン 4 1.5スイス 9 1.2トルコ 25 5.0イギリス 10 -3.6アメリカ 21 -1.7OECD平均 12 1.0 (出典)OECD統計

2000年代半ば

1990年代半ばからの変化

 図表4 子ども貧困率国際比較(%)

立法と調査 2010.1 No.300 202

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緒的にもゆとりのある成長過程を経ないと、高収入で安定的な職業への就業機会に恵まれ

ないことも多く、格差の固定化につながるおそれがある。また貧困は、児童虐待の要因と

もなりうる。図表5にあるように件数は急増しており、両者の因果関係については、まだ

立証されたとはいえないが、様々な調査において貧困と児童虐待の関連性について認めら

れるようになってきている14。

高齢者の貧困については、高

齢者の3割弱が暮らし向きが苦

しいと感じており15、ジニ係数

で見ると再分配前の当初所得で

一般世帯が 0.4252 であるのに

対し、高齢者世帯は0.8223と格

差が大きい16。また、高齢者に

対する虐待も増加傾向にあり、

特に被害者の8割が女性であり、

さらに約7割が要介護認定者で

あるとの問題もある。児童にお

いても言えることであるが、経

済的困窮や生活上のストレスは

子どもや高齢者、特に高齢女性

といった社会的弱者にしわ寄せ

が行き、虐待や介護・養育上の

不作為という行動となって現れ

る。

これらの問題は、言うまでもなく第一義的には、社会政策や福祉政策で国、自治体等の

行政においてきちんと対応すべき事柄であるが、それでも発生する貧困のセーフティネッ

トとしてコミュニティの果たすべき役割は重要である。特に、虐待については身近にいる

コミュニティが対応できることが多い。コミュニティは子どもや高齢者に近くにいるから

こそ彼らを見守り、救いの手を差し伸べることができるのである。

5.おわりに

我が国の人口は2005年をピークに減少しており、今後もこの傾向は続く見通しである。

合計特殊出生率は戦後、トレンドとして減少し続け、2005 年には 1.26 と過去最低を記録

し、その後若干改善傾向は見られるものの依然として厳しい状況にあり、ここ2、3年の

14 子どもの貧困については、小林美津江「格差と子どもの育ち」『立法と調査』第298号(平21.11)が詳しい。 15『生活実態に関する調査』(平成20年) (内閣府)

16『平成21年度版高齢社会白書』(内閣府)42頁 なお、社会保障給付等の再分配が実施された後では、格差

は改善されているが、一般世帯に較べると格差は拡大している。

図表5 児童虐待相談対応件数の年次推移

(出典)少子化白書(平成20年度版)内閣府

図表6 高齢者虐待の相談・通報件数、虐待判断件数

相談・通報件数 虐待判断件数 相談・通報件数 虐待判断件数

20年度 451件 70件 21,692件 14,889件

19年度 379件 62件 19,971件 13,273件

増減 72件 8件 1,721件 1,616件

(増減率) -19.0% -12.9% -8.6% -12.2%

(出典)厚生労働省

養介護施設従事者等によるもの 養護者によるもの

立法と調査 2010.1 No.300 203

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改善傾向に関する政策的効果について疑問視する声もある17。「若者層の絶対数が少なくな

ったという現実を見れば、今後どれだけ出生率を上げる努力をしたところで、終戦直後の

驚くべき出生率(1947 年の合計特殊出生率は 4.54 人)にでもならない限り、現在の人口

規模を維持することはできない。」18

さらに先日の世論調査では、若者が子どもを持ちたがらないとのショッキングな結果が

発表された19。これからの少子高齢化社会をコミュニティが支えていくこととなるが、将

来人口見通しがさらに下方修正されるようなことがあれば、コミュニティ自体が消滅の危

機に瀕することになろう。コミュニティの再生のためには、これ以上の少子化傾向に歯止

めを掛けなければならない。

(内線 3142)

17 政府は「全体にはまだ少子化傾向に歯止めは掛かりませんけれども、三年連続わずかずつでも合計特殊出生

率が上がっていったというのは、少しは政策の成果が上がってきた」(舛添厚生労働大臣「第171回国会参議院

厚生労働委員会会議録第13号 25頁(平21.6.4)」)と政策効果をPRしているが、「ここ数年の合計特殊出生率

の上昇は、主に晩婚化によってもたらされた可能性が高い」(小峰隆夫「出生率の回復は本物か」『JCER日

本経済研究センター会報』(2008.8))との研究結果もある。 18 「人口減少下における地域再生の在り方に関する調査」(日本経済研究所:参議院第三特別調査室委託 平

18.1)18頁 19 『男女共同参画社会に関する世論調査』(内閣府)(平成21年 12月 5日)では、結婚しても必ずしも子ども

を持つ必要がないと考える人が4割を超え、20~30歳代では過半数となっている。

立法と調査 2010.1 No.300 204