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中部大学 工学部 都市建設工学科 2019 年度卒業論文概要 吹付コンクリートの背面状況が打音特性に及ぼす影響 EC16020 木下 雷千 1. 研究の背景と目的 道路付帯構造物として切土法面などに利用される「コンクリート吹付工」は、昭和 30 年代後半から施行さ 1) 、施工性の良さなどから全国的に広く施行実績もある法面保護工である。 コンクリート吹付工の欠陥の検査方法の一つに「打音検査」がある。専門技術者や熟練技術者によって検査 が行われているが、明確な判定基準がなく打音の音質等で判定しているのが現状である。それに加え、土木技 術者、コンクリート吹付工の検査技術者の高齢化・人手不足が著しい状況である。よって、打音検査における 周波数分析・判定条件の研究を進めることで、若年技術者においても内部空隙などの欠陥判定が可能となり、 道路施設の維持管理を行えるようにすることが要求されている。 既往の研究を調査したところ、吹付コンクリート工の打音特性に関する研究を見つけることができなかっ た。このため、吹付コンクリート工を打音検査の対象としている点に特色がある。また、本研究では、ひび割 れを有する吹付コンクリート板を対象としていることから、背面に空隙がある状態で打音特性に傾向が確認 できれば、実構造物背面の空隙の発見に貢献できるとともに、ひび割れ発生要因の検討にも資することができ ると考えられる。特別な技術を必要とせずに実施可能な打音検査技術の確立を目指していることから、技術が 確立されれば、道路施設の維持管理に大きく貢献することが期待される。 2. 実験概要 実構造物にはクラック、施工現場の地質など様々な条件が複合して存在している。可能な限り実構造物の状 態に近づけるため、5 種の試験体と、5 種の背面状況を作製した。 表-1 の試験体と、ステレオ IC レコーダと付属マイク、テストハンマー、 Audacity 2) (音声編集フリーソフ ト)を用いて、音声データを取得する。 打撃箇所については、一つの試験体につき 5 カ所とした。 図-1 の打点 1 を一定時間間隔空けて、約 150mm テストハンマーを振り上げ 5 回叩き、一つの音声データとし保存する。打点 25 続けた後、打点 3(図-2 撃箇所:中央)6 回目の打点とし、約 300mm テストハンマーを振り上げ、これまでより強めに叩く。打音の 強弱により、音圧(dB)や周波数(Hz)に違いが出るか照査するためである。こうして 1 つの背面状況で 1 の試験体につき、6 個の音声データが取得できる。5 種の背面状況、5 種の試験体全ての組み合わせの音声デ ータ(150 個)が取得できる。以下に打撃箇所、試験体ひびの様子、背面状況を模式図で示す。 表-1 試験体の種類と背面状況 実構造物を想定した試験体の種類 背面状況 表面にひび割れを与えていない 砂地 表面に一字のひび割れを導入 砂地に一部空洞Ⅰを導入 表面に十字のひび割れを導入 砂地に一部空洞Ⅱを導入 表面と裏面にひびを貫通させた 両端を支えて浮かせ、空隙を導入 表面を研磨 コンクリート 450mm 角、厚さ 100mm 1

吹付コンクリートの背面状況が打音特性に及ぼす影響 - chubu-univ · 2020. 3. 2. · 中部大学 工学部 都市建設工学科 2019 年度卒業論文概要

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    2019 年度卒業論文概要

    吹付コンクリートの背面状況が打音特性に及ぼす影響

    EC16020 木下 雷千

    1. 研究の背景と目的

    道路付帯構造物として切土法面などに利用される「コンクリート吹付工」は、昭和 30 年代後半から施行さ

    れ 1)、施工性の良さなどから全国的に広く施行実績もある法面保護工である。

    コンクリート吹付工の欠陥の検査方法の一つに「打音検査」がある。専門技術者や熟練技術者によって検査

    が行われているが、明確な判定基準がなく打音の音質等で判定しているのが現状である。それに加え、土木技

    術者、コンクリート吹付工の検査技術者の高齢化・人手不足が著しい状況である。よって、打音検査における

    周波数分析・判定条件の研究を進めることで、若年技術者においても内部空隙などの欠陥判定が可能となり、

    道路施設の維持管理を行えるようにすることが要求されている。

    既往の研究を調査したところ、吹付コンクリート工の打音特性に関する研究を見つけることができなかっ

    た。このため、吹付コンクリート工を打音検査の対象としている点に特色がある。また、本研究では、ひび割

    れを有する吹付コンクリート板を対象としていることから、背面に空隙がある状態で打音特性に傾向が確認

    できれば、実構造物背面の空隙の発見に貢献できるとともに、ひび割れ発生要因の検討にも資することができ

    ると考えられる。特別な技術を必要とせずに実施可能な打音検査技術の確立を目指していることから、技術が

    確立されれば、道路施設の維持管理に大きく貢献することが期待される。

    2. 実験概要

    実構造物にはクラック、施工現場の地質など様々な条件が複合して存在している。可能な限り実構造物の状

    態に近づけるため、5 種の試験体と、5 種の背面状況を作製した。

    表-1の試験体と、ステレオ IC レコーダと付属マイク、テストハンマー、Audacity2)(音声編集フリーソフ

    ト)を用いて、音声データを取得する。

    打撃箇所については、一つの試験体につき 5 カ所とした。図-1の打点 1 を一定時間間隔空けて、約 150mm

    テストハンマーを振り上げ 5 回叩き、一つの音声データとし保存する。打点 2~5 続けた後、打点 3(図-2 打

    撃箇所:中央)を 6 回目の打点とし、約 300mm テストハンマーを振り上げ、これまでより強めに叩く。打音の

    強弱により、音圧(dB)や周波数(Hz)に違いが出るか照査するためである。こうして 1 つの背面状況で 1 つ

    の試験体につき、6 個の音声データが取得できる。5 種の背面状況、5 種の試験体全ての組み合わせの音声デ

    ータ(150 個)が取得できる。以下に打撃箇所、試験体ひびの様子、背面状況を模式図で示す。

    表-1 試験体の種類と背面状況

    実構造物を想定した試験体の種類 背面状況

    表面にひび割れを与えていない 砂地

    表面に一字のひび割れを導入 砂地に一部空洞Ⅰを導入

    表面に十字のひび割れを導入 砂地に一部空洞Ⅱを導入

    表面と裏面にひびを貫通させた 両端を支えて浮かせ、空隙を導入

    表面を研磨 コンクリート

    450mm 角、厚さ 100mm

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    上記の方法で取得した音声データ(.WAV)をテキストデ

    ータ(.txt)に変換するため、音声編集フリーソフ Audacity

    を用いる。打音特性に不要なノイズの処理を終えた音声

    データを選択し、周波数解析をする。その際、表-2のパ

    ラメータの設定に留意し高速フーリエ変換(FFT)をする。

    以上の処理により音圧(dB)、周波数(Hz)のテキストデ

    ータを得る。これらのテキストデータをもとに、Excel などを用いて打音特性の傾向を検討した。

    3.試験結果

    すべてのデータにおいて打撃箇所の比較、試験体ごとの比較をし、グラフにまとめたところ、いくつかの傾

    向を得ることができた。一字のひび割れ、十字ひび割れ試験体において、空洞直上を打撃した音圧(dB)が、

    空洞の無い箇所の打撃の音圧より、高くなる傾向にある。図-3(a)、(b)は、一字ひび割れ、十字ひび割れに

    おける一定の周波数領域の最大音圧をプロップしたグラフであるが、空洞 I、空洞 II、コンクリート上の試験

    体の音圧が他に比べ 5~15dB ほど高い位置にある。十字ひび割れ試験体の打点と空隙配置の模式図を例とし

    て図-3(c)に示す。

    また、打撃箇所と試験体の種類を固定し、背面状況を変えて比較したところ、周波数-音圧グラフに、100Hz

    ~200Hz の間で試験体を浮かせた状態の音圧が一番高くなる傾向が確認できた。図-4の紫色の○のあたりが、

    100~200Hzの領域であり、オレンジの線が試験体を浮かせた状態の周波数-音圧グラフである。音圧がその範

    囲だけ高いことが分かり、音圧は約-20dB であった。試験体 5 種×6 ケ所=30 個の比較データの中、27 個にそ

    の傾向が見られた。図-4を一つの結果として記載する。空洞Ⅰ、Ⅱも含め、他の背面状況には、それらの傾向

    が確認できなかった。

    打撃箇所・順番 一字ひび割れ 十字ひび割れ 貫通ひび割れ

    図-1 試験体の打撃箇所・順番とひび割れの模式図

    空洞Ⅰ 空洞Ⅱ 背面なし

    図-2 背面状況模式図

    0.35mm 1.10mm0.25mm

    クラック

    コンクリートブロック

    表-2 データ処理パラメータ

    ノイズ低減 6

    感度 14

    サイズ 32768 平滑化 0

    FFT

    ノイズ除去サンプリング周波数

    441000

    2

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    4.結論

    本研究では、特別な技術を必要とせずに実施可能な打音検査技術の確立を目指し、吹付コンクリート板の背

    面状況が打音特性に与える傾向を検討した。空洞直上打撃の音圧の違い、吹付コンクリート板背面に空洞があ

    る場合低周波数領域での音圧がばらつくことや、背面無しの背面状況では、100~200Hz における音圧が明ら

    かに高くなることなど、いくつかの傾向、特性を確認することができた。いずれも今回の試験では、背面状況

    に周波数や音圧が大きく関係していることが分かった。これらを用いて非破壊検査で吹付コンクリート板背

    面の空洞有無の指標に成り得る。しかしながら、それらの特色は試験体の状態など、限られた条件下での傾向、

    特色で有り、様々な条件が混在する実構造物において効果的なものであるかどうかは断定できない。また、テ

    ストハンマーで打撃をする際のブレや打撃力が均一ではないため、誤差があった可能性も否めない。今後も、

    さらに多くの条件を設定し、より実構造物の状態に近づけた検討が必要である。

    参考文献

    1) 田沢雄二郎:吹付コンクリート工法、粉体工学会誌、Vol.25、No.3、pp168-174、1988

    2) 音声編集フリーソフト Audacity、https://audacity.softonic.jp(2020.1 確認)

    (a) 打撃箇所 2 打音特性 (b)打撃箇所 4 打音特性 (c)打点と空隙配置

    図-3 十字ひび試験体の打撃箇所、打点と空隙配置

    図-4 貫通ひび試験体・打撃箇所 2における背面状況を変化させたときの音圧-周波数関係

    砂上

    空洞Ⅰ

    背面無しコンクリ上

    空洞Ⅱ

    1 2

    3

    4 5

    3

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    2019 年度卒業研究論文概要

    砂防堰堤の初期ひび割れが耐荷力に及ぼす影響に関する研究

    EC16023 久米 修平

    1. 序論

    我が国では,土砂災害が年々増加し,防災上の観

    点から砂防堰堤の重要性が高まっている。

    既往の研究 1)で町らは,これまでに,高さ 7m の

    砂防堰堤(垂直壁)を対象に 3 次元温度応力解析に

    よるひび割れ指数の算定を行った。解析では,堤体

    中心部でひび割れ指数が材齢 250 日程度で 0.8 程度

    となり,自己収縮と温度応力による初期ひび割れの

    発生の可能性が高いという結果を示したものの,実

    構造物で計測したひずみと外観からはひび割れの

    発生が認められない結果となり,解析との差異が確

    認された。そこで本研究では、砂防堰堤の初期ひび

    割れの発生をより詳細に把握することを目的とし

    て JCMAC3-U により、ひび割れ幅解析を行った。ま

    た、堤体内部に生じた初期ひび割れが堤体の耐荷力

    に及ぼす影響を把握することを目的として、

    JCMAC3-U により、初期ひび割れを考慮した耐荷力

    解析を行った。

    2. 解析概要

    2.1 解析モデル化

    図 1に解析対象としたウルシ谷砂防堰堤第一垂直

    壁の A ブロックを示す。図 2 に解析モデルを示す。

    3 次元の形状を考慮するため,ソリッド要素による

    3 次元解析モデルとした。A,B ブロックの境界には,

    目地材を介しているため,境界条件を「自由」とし

    た。岩盤との境界条件は,「2016 年制定 コンクリー

    ト標準示方書」2)の地盤条件を参考に,軟岩相当の

    剛性を 2000N/mm2 とした。

    2.2 温度解析の解析条件

    コンクリートの配合は,表 1に示す。現場に納入

    する 21-5-40BB の示方配合を考慮した。コンクリー

    トの打設日,打込み温度,外気温は計測結果を反映

    した。熱物性値は,ASTEA-MACS を用いた既往の研

    究の堤体温度に影響する表 2 の項目に対し,「マス

    コンクリートのひび割れ制御指針 2016」3)で示され

    る標準値の範囲内で熱特性値の変更したものを用

    いて温度解析を行った。

    2.3 応力解析の解析条件

    JCMAC3-U による応力解析を行い,ASTEA-MACS

    との解析結果を比較し,ひび割れ指数にて評価した。

    また,温度応力,自己収縮,クリープおよび自重の

    図 1 解析対象とした砂防堰堤の形状寸法

    図 2 リフト割

    表 1 コンクリートの示方配合

    W/C

    (%)

    単位量(kg/m3) f’ck(i)

    (N/mm2) W C S G

    59.8 150 251 894 1108 21

    表 2 熱物性値の設定値

    2000

    5300

    76

    00

    10

    00

    =6

    00

    0

    80

    08

    00

    16

    00

    60

    0076

    00

    2000

    2000

    2550

    3100

    3650

    4200

    4750

    ▽656.740

    ▽662.740

    ▽664.340

    上流

    XY

    Z

    2000

    5300

    76

    00

    10

    00

    =6

    00

    0

    80

    08

    00

    16

    00

    60

    0076

    00

    2000

    2000

    2550

    3100

    3650

    4200

    4750

    ▽656.740

    ▽662.740

    ▽664.340

    上流

    XY

    Z

    項目 標準値 フィッティング前 フィッティング後

    コンクリートの熱伝導率 (W/m・℃) 2.6~2.8 2.7 2.6

    コンクリートの比熱 (kJ/kg・℃) 1.05~1.26 1.15 1.26

    コンクリート表面の熱伝達率(W/m2・℃) 5~14 14 8

    下流側埋設型枠の熱伝達率(W/m2・℃) - 8 6

    4

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    2

    影響を考慮した。なお,クリープの影響を有効弾性

    係数により考慮している。

    2.4 ひび割れ幅解析の解析条件

    ひび割れ幅解析には,JCMAC3-U の JCMAC3B ソ

    ルバーを使用した。解析条件は応力解析と等価であ

    り,使用するコンクリート構成則が異なる。本検討

    では,若材齢時のひび割れ発生を含むコンクリート

    の非線形挙動を評価するために,硬化コンクリート

    用の構成モデルである格子等価連続体モデル 4)に,

    Solidification concept5)を導入した式の材齢依存型 3

    次元構成則 6)を使用した。本構成則では,クリープ

    の影響を考慮できない。地盤は弾性体とした。

    2.5 耐荷力解析の解析条件

    初期応力を考慮の場合と,健全な場合の耐荷力解

    析を実行した。後者では自重の影響が前者のものと

    等しくなるように,各リフト 7 日に自重を作用させ

    た。図 3に荷重載荷状況を示す。躯体に作用する土

    圧並びに静水圧と等価な一定分布荷重を重心位置

    に作用させた後,土石流衝撃に相当する荷重を 7 リ

    フトに載荷した。なお,図 2に示す地場要素を考慮

    している。これは,別途,滑動について検討した結

    果,安全率 4 を用いても土石流衝撃力の設計荷重

    2148kN に対して安全である結果が得られたためで

    ある。そこで本検討では,堰堤の滑動および転倒が

    生じないとの仮定の下で耐荷力解析を実施した。

    3. 解析結果と考察

    3.1 温度解析結果の相違と考察

    ASTEA-MACS と JCMAC3-U の解析結果では,

    JCMAC3-U の方が ASTEA-MACS より僅かに温度が

    高い結果となった。温度の微小な相違が出たのは,

    ASTEA-MACS では新旧コンクリート要素が共有す

    る節点の初期温度を,新旧コンクリート温度の平均

    値をとっているのに対し,JCMAC3-U では旧コンク

    リート温度を初期値に設定しているためだと考え

    られる。しかし,両解析ソフトの温度誤差は微小で

    あるため,特に問題がないものと判断した。

    3.2 応力解析結果の相違と考察

    ひび割れ指数が最小値を示した 4 リフトを着目し

    たひび割れ指数履歴図(図 4)を比較しても両解析

    ソフトの結果にほとんど相違はなかった。また,有

    効ひずみを比較した結果,温度解析では微小な相違

    がみられたが,応力解析では結果が一致しているこ

    とから,本研究でも JCMAC3-U を用いても問題ない。

    図 3 荷重載荷状況

    表 3 解析ソフトによる温度差の一覧

    図 4 ひび割れ指数履歴図

    図 5 ひずみ計位置

    Ph1+Peh

    Pv1+Pev

    Ph2

    Pv2

    土石流荷重 371.62kN/m

    一定荷重

    記号荷重

    (kN/m)

    Pv1 14

    Pv2 3.03

    Ph1 39.9

    Ph2 8.65

    Pev 9.76

    Peh 8.37

    静水圧

    土圧

    漸増荷重

    6リフト

    JCMAC3-U ASTEA-MACS 差

    2L内部 53.97 53.69 0.28

    2L表面 42.84 42.38 0.46

    4L内部 64.85 63.83 1.02

    4L表面 45.52 44.95 0.57

    6L内部 64.51 63.38 1.13

    6L表面 44.97 44.44 0.53

    7L内部 61.75 64.16 0.59

    7L表面 45.98 45.41 0.57

    経過日数(日)

    ひび

    割れ

    指数

    経過日数(日)

    ひび割れ指数

    ASTEA-MACS

    JCMAC3

    中央表面 2m

    上流側

    xyz

    5

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    3.3 ひび割れ幅解析結果の相違と考察

    解析対象とした砂防堰堤では,コンクリートのひ

    ずみが計測されている。(図 5)

    図 6に 400 日経過時の 0.2mm 以上のひび割れ発生

    状況を示す。ひび割れは,躯体内部から生じており,

    1 リフトでは,中央部にて鉛直方向のひび割れの発

    生が予測された。このひび割れは直ちに上方に進展

    せず,150 日程度で上方に進展し,表面部方向にも

    到達した。主たるひび割れは,3 リフトと 4 リフト

    の打継ぎ面で生じ,70 日頃に図 7中の中央計測点下

    部で生じたひび割れが躯体内部で対称面方向に進

    展し,130 日ほどで表面まで貫通するとともに,300

    日以降に大きく開口することが予測された。袖部の

    7 リフト下部にも中央で水平ひび割れの発生が確認

    でき,わずかに表面にまで進展した。

    図 7に,荷重載荷前のひび割れ性状を示すが,ひ

    び割れ幅解析では,内部において水平方向に最大

    10mm 以上のひび割れの発生が予測された。この理

    由の 1 つにひび割れ幅解析ではクリープの影響が考

    慮できないことが考えられる。クリープの影響を無

    視した際のひび割れ指数の経時変化を図 8 に示す。

    図から,クリープの影響を無視することで,ひび割

    れ指数が 0.22 ほど低下しており,本解析対象構造物

    ではクリープの影響が大きいことが分かる。

    3.4 耐荷力解析結果の相違と考察

    図 9に初期応力を考慮した場合と健全な無損傷の

    躯体に土石衝撃荷重に相当する荷重を漸増作用さ

    せた際の荷重-変位関係の比較を示す。なお,図中

    の解析モデル上の点の位置は,変位を使用した節点

    位置であり,荷重-変位関係の色と対応している。

    なお,荷重最大点は,解の収束が取れた最終点とし

    た。図より,健全な場合は,ほぼ弾性的な荷重-変

    位関係を示し,初期応力を考慮した場合は,大きく

    剛性が低下する結果が得られた。初期応力を考慮し

    たことにより,耐荷力は健全と比較して 4000kN ほ

    ど低下したが,設計荷重の 2148kN に耐えられる結

    果が得られた。 図 10に,健全な躯体の土石流荷重

    作用時の破壊性状を示す。図には,破壊時の袖部下

    部の 6 リフト天端と上流側の鉛直方向全ひずみ分布

    を示している。荷重増加に対してほぼ線型的な挙動

    を示し,10000kN を超えたあたりで上流側から見た

    図 6 荷重載荷前のひび割れ性状

    図 7 荷重載荷前の損傷状況

    (変形と全ひずみ分布)

    図 8 クリープがひび割れ指数に及ぼす影響

    図 9 荷重-変位関係の比較

    図 10 最大荷重時の破壊性状(健全)

    中央部下流表面

    x

    z

    A

    A

    A-A

    変形200倍

    50 100 150 200 250 300 350 400

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1

    1.2

    1.4

    1.6

    1.8

    2

    0

    ひび

    割れ

    指数

    経過日数(日)

    クリープの影響あり

    クリープの影響なし

    0

    2000

    4000

    6000

    8000

    10000

    12000

    0 1 2 3 4

    破線:初期応力有実線:初期応力無

    変位(mm)

    荷重

    (kN

    )

    設計荷重2148kN

    6リフト天端

    1000 100800 600 400 200 0

    )(

    6

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    4

    袖部左下部で曲げひび割れが急激に開講するとと

    もに,袖部右側にもひび割れが進展することで曲げ

    破壊の様相を呈した。なお,袖部右側は弾性の地盤

    要素と接していることから,その部位にもずれによ

    るひび割れが発生している。

    図 11に,一例として荷重 P=5330kN 時のひび割れ

    性状を示す。図中の矢印はひび割れ開口方向を意味

    している。図 7では,ひび割れが水平に躯体を貫通

    する図となっているが,x-y 平面上の断面では,対

    称面側では 3 リフト天端でひび割れが水平方向に開

    口しているのに対し,地盤側では,高さ方向で 1 要

    素上の 4 リフト最下端要素で水平方向に開口してい

    る。このようなひび割れ開口部位の違いにより,土

    石流相当荷重の増加による断面力に抵抗している。

    荷重増加に対して,ひび割れ幅解析で予測された 3

    リフト上面のひび割れ発生位置でひび割れが開口

    する曲げ変形が卓越するが,最終的には,荷重

    P=6530kN を超えた際に,図 12(b)の赤丸部位でひび

    割れが大きく伝播することで,解の収束が得られな

    くなった。

    以上のように,本検討範囲内では,初期応力を考

    慮しない場合,土石流衝撃荷重に対して袖部下部で

    曲げひび割れが開口することで破壊が生じ,初期応

    力を考慮した場合には,ひび割れ幅解析でひび割れ

    開口が予測された 3 リフト上面でひび割れが開口し

    て破壊に至った。なお,本検討では地盤要素を弾性

    体とし,堰堤と地盤境界面には境界面要素を設けず

    節点を共有していることから,地盤要素が躯体の耐

    荷機構や耐荷性能に大きく影響を及ぼしていると

    考えられる。そのため,地盤の弾塑性挙動や躯体と

    地盤境界面の適切なモデル化が必要と考えられる。

    4. 結論

    無筋のマスコンクリート構造物である砂防堰堤

    を対象にひび割れ幅解析を行い,耐荷力解析を行っ

    た結果,以下のことが明らかとなった。

    初期応力を考慮しない場合,土石衝撃荷重に相当

    する漸増載荷荷重の増加に対してほぼ線形的な挙

    動を示し,10000kN を超えたあたりで,上流側から

    見た袖部左下端部で曲げひび割れが開口するとと

    もに,袖部右側にもひび割れが進展することで曲げ

    破壊した。

    初期応力を考慮した場合は,ひび割れ幅解析でひ

    び割れ開口が予測された 3 リフト上面でひび割れが

    開口して 6500kN を超えたあたりで破壊に至った。

    初期応力を考慮したことにより耐荷力は,健全なも

    のと比較して 4000kN ほど低下したが,設計荷重の

    2148kN に耐えられる結果となった。

    参考文献

    1) 町勉ほか:打設間隔を短縮して試験施工した砂

    防堰堤垂直壁の温度応力解析とモニタリング,

    土木学会第 74 回年次学術講演会, 第 6 部門,

    pp.701-702, 2019.9

    2) 土木学会「2017 年制定 コンクリート標準示方

    書」

    3) 日本コンクリート工学会「マスコンクリートの

    ひび割れ制御指針 2016」

    4) Ishikawa, Y. et al.: Modeling of uni-axial constitutive

    law in early age concrete based on solidification

    concept, Proc. of Concreep7, pp.393-398, 2005

    5) 田辺忠顕ほか:初期応力を考慮した RC構造物の

    非線形解析法とプログラム,技法堂出版,pp.201-

    314,2004.3

    6) 伊藤 睦ほか:初期応力を考慮した RC構造物の

    耐荷力手法の構築,コンクリート工学年次論文

    集,Vol.34,No.2,pp.19-24,2012

    図 11 ひび割れ性状(P=5330kN 時)

    (a)P=5330kN 時 (b)破壊時

    図 12 破壊性状

    3リフト天端面 4リフト再下端要素上面

    xy

    z

    7

  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    2019年度卒業研究論文概要

    付着喪失を模擬した RCはり部材のせん断耐荷機構の実験的評価

    EC16042 永田 開士

    1. 序論

    構造物を新設する時代から構造物を適切に維持し長期的に使用する時代へと移り変わっている。特に、四方

    を海で囲まれたわが国では、塩害による鉄筋腐食劣化が大きな問題となっており、体系的な取り組みがなされ

    ている1)。せん断耐荷性能に着目した研究では、鉄筋腐食に起因して主鉄筋の付着劣化が生じることによりア

    ーチ耐荷機構が形成され、非腐食時よりも耐力が増加する報告が多い2),3)。このように既往の研究により、鉄

    筋腐食がRC部材のせん断耐荷性能に及ぼす影響は定性的に評価されつつあるが、現状においても定量的評価

    には至っていない。その理由は、鉄筋腐食がRC部材の耐力に影響する主たる劣化・損傷要因が、鉄筋の断面

    減少、鉄筋とコンクリート間の付着劣化、腐食膨張に伴うコンクリートのひび割れの3種であり、これら個々

    の要因が互いに影響を及ぼしているためであると考えられる。加えて、鉄筋腐食状況が一様ではないこともそ

    の要因と考えられる。そのため、まずは個々の要因がRC部材の耐荷性能にどの程度影響を及ぼすのかを把握

    する必要があると考えられる。そこで本研究では、鉄筋腐食を生じたRCはり部材のせん断耐荷性能について、

    主鉄筋の定着性能という観点から実験的に評価することを目的とする。具体的には、鉄筋腐食による部分的な

    付着喪失がRCはり部材のせん断耐荷機構に及ぼす影響を実験的に評価した。

    2.試験概要

    2.1 検討内容

    鉄筋腐食による付着劣化状況は、健全な状態と付着が全く存在しないアンボンド型の間に存在するはずであ

    る。そこで本研究では、はり全体で付着が健全な状態と全く付着が存在しない状態の試験体の載荷実験を通じ

    て、付着の有無が RCはり部材のせん断耐荷機構に及ぼす影響を評価することとした。ここでは、せん断スパ

    ン比も実験変数とした。また、はり内部で部分的に鉄筋腐食が顕著化する場合を想定して、部分的な付着喪失

    を模擬した RCはり試験体の載荷実験を通じて、部分的な付着劣化が RCはり部材のせん断耐荷機構に及ぼす

    影響を実験的に評価する実験も実施することとした。

    2.2 試験体概要

    図-1に、RCはり試験体諸元を示す。断面は 120mm×200mmで、有効高さ 170mmの位置に D16鉄筋を 2

    本配置している。支間長は 1200mmである。本研究で

    は表-1に示すコンクリートの配合を用いて、同一の

    コンクリートで 6体の試験体を作製した。

    図-2 付着喪失部位と鉄筋ひずみ計測位置

    付着切れ400mm

    付着切れ200mm

    2d切れ200mm

    1d切れ200mm

    図-1 試験体諸元

    (mm)

    CL

    600100

    2D-16

    170

    3030 30

    120

    60

    8

  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    本研究では、図-2 に示すように鉄筋腐食による付着喪

    失を、鉄筋にビニールチューブを通すことで模擬した。付

    着劣化が鉄筋ひずみの応答に与える影響を評価するため

    に、スパン中央部、スパン中央から左右 260mm、430mmの

    位置にひずみゲージを貼る。健全試験体、はり全体で付着

    劣化を模擬した試験体をそれぞれ 2体作製し、図に示すよ

    うに荷重載荷位置を変更することで、せん断スパン比が耐

    荷機構の変化に及ぼす影響を評価する。また、支点から 1d

    および 2d位置を中心に、それぞれ 100mmの部分的な付着

    喪失を模擬した試験体を作製する。なお、部分的な付着喪

    失試験体の載荷位置は、はり全体で付着喪失を模擬した試

    験体の載荷実験結果に基づいて決定する。

    3.実験結果

    3.1圧縮強度

    コンクリートの圧縮強度は、試験体と同時に作成したテ

    ストピースより求めた。テストピースはφ10cm×20cm の

    ものを計 10本作製し、それぞれ圧縮試験を求めた。テスト

    ピースの圧縮試験結果より 10 本の平均値は 186.8kN とな

    った。これより、コンクリート圧縮強 23.8N/mm2となる。

    3.2載荷試験後のひび割れ発生状況、荷重変位関係

    完全定着試験体は式(1)より載荷位置 400mmの斜めひ

    び割れせん断力が 61.4kN、載荷位置 200mm の斜めひび割

    れせん断力が 56.0kNとなった。また図-4のⅠとⅤからわ

    かるように最大荷重は 400mmのもの 74.9kN、200mmのも

    のが 55.5kNという結果になった。図-4のⅠとⅤの違いと

    してⅠに比べてⅤの最大荷重の方が大幅に上回っているこ

    とが分かる。理由として、支点から載荷位置までの距離が

    短いほうが割れづらいからである。また変位に関してもⅤ

    の方が大きなふり幅をしていることが分かる。図-5 のⅠ

    とⅤからわかるように完全付着試験体の破壊モードは斜め

    引張破壊であることが分かる。

    dba

    d

    dpcfVc ww

    4.175.0

    101002.0

    41

    3

    31

    31

    ' 式(1)

    付着切れ全スパンは、図-4のⅡとⅥより、400mmの載

    荷位置の場合に最大荷重値が 64.7kNであった。それに対

    して載荷位置 200mmのものが 56.7kNであった。鉄筋が

    健全なものに比べて載荷位置 400mmのものに関して耐力

    は大幅に低下している。理由としては付着が切れているた

    め健全なものよりも体力が低下する。本来非完全定着試験

    表-1 コンクリートの配合

    図-4 荷重と変位関係

    図-5 試験体のひび割れ図

    1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    0

    変位(mm)

    荷重(

    kN)

    IIV

    IIV

    IIIVI

    9

  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    図-6 荷重と鉄筋ひずみ関係

    体はすべてが腐食している状態を作らなければならないが、両端を腐食させずに圧縮試験を行った結果、図-

    5のⅡのように両端の部分から支点にひび割れが入り、想像する形にならなかった。理由としては、支点から

    外側の距離が短すぎたためである。本来、非完全定着試験体の破壊モードはそれぞれ左スパン、右スパンに横

    に伸びるひびが入るため、付着割裂破壊であることが分かる。

    部分的付着試験体に関しては図-4のⅢとⅣより 1d 切れ 2d 切れともに載荷位置は 200mmであり,最大荷

    重は、1d切れのものの最大荷重値が 68.8kNであった。それに対して 2d切れのものが 99.2kNであった。図-

    4からⅢに比べてⅣの方が荷重に関しても、変位のふり幅に関しても大幅に上回っていることが分かる。また

    鉄筋が健全なものや非完全付着のものに比べて最大荷重が大幅に上回っていることが分かる。原因としては

    り全体で耐えた為だと推測している。部分的付着劣化の破壊モードは、図-5ⅢとⅣより載荷点が圧壊してい

    るためせん断圧縮破壊であることがわかった。圧壊した部分は図-5のⅢとⅣの赤いマークがついている部分

    がせん断圧縮破壊され圧壊しているところである。

    3.3荷重-鉄筋ひずみ関係

    ひずみ関係の結果に関して、実験の作業段階でひずみゲージが壊れているものが多々あり、本来の実験結果

    とは少し異なっていたかもしれない。このことを踏まえて以下の実験結果になった。

    完全定着試験体については、荷重レベルが小さい段階では、ひずみ分布は上に凸の放物的な分布を示してお

    り、支点外の領域まで荷重伝達されていないことが分かった。これは荷重の載荷に伴ってスパン内部で付着切

    れが生じ、定着領域において鉄筋力を保持していると考える。また図-6の(a)と(e)を比べてみると、荷

    重の大きさはあまり変わらないが、(a)は鉄筋ひずみが約 800μであるが(e)はすべての鉄筋ひずみが 1000

    μを超えている。原因として曲げモーメントが大きくなると比例してひずみも大きくなるので載荷位置

    200mmのほうの距離が短いので荷重が大きく、ひずみも大きいとわかった。

    非完全定着試験体については、図-6の(b)と(f)を比べてみると、最大荷重値はお互いに変わらないが、

    (b)の方がひずみは大きくなっていることが分かる。支点間のひずみ勾配が緩やかになり、荷重の増加に伴

    (a) (a) (a) (a) (b) (c)

    (d) (e) (f)

    10

  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    い一様化した。図-6の(b)と(f)を比べてみると健全なものと同様で支点から載荷位置までの距離が(b)

    の方が長いので荷重が少なく、ひずみが変化していると考えられる。

    部分的定着試験体については、図-6(d)ではひずみが増加し続けていることが分かる。それに対し、(c)

    では全体で比べてみてもひずみが非常に小さいことが分かる。定着領域まで荷重伝達がなされると、定着不良

    を生じているから、主鉄筋の引き込みにより、はりは、破壊に至っており、定着性能が耐荷正常に極めて大き

    な影響を及ぼしている。(c)の鉄筋ひずみと荷重の関係を見てみると、2、3、4 番のひずみは荷重が少なく、

    ひずみが大きいという結果になっている。(c)の試験体は、内にある 2つのひずみは定着しており、外 2つの

    ひずみが付着劣化を模擬しているものである。そのため真ん中にある 3番にひずみは除いて内にある 2番と 4

    番のひずみは荷重が少なく、ひずみが大きくなっている。

    4.結論

    本研究では鉄筋腐食を生じた RC はり部材のせん断耐荷性能に及ぼす鉄筋腐食の影響に評価したものであ

    る。以下に本研究で得られた知見を示す。

    (1)鉄筋腐食を生じた RC はり部材のせん断耐荷力はせん断スパンの付着が低下した場合において、定着が

    十分確保されれば、アーチ耐荷機構が形成され健全時よりも耐力が増加する場合がある。

    (2)鉄筋ひずみの最大値は変わらないが、載荷位置 400mm、200mmともに健全なものの方は変位が少ない。

    逆に付着劣化がある方は、変位が大きく、戻りが悪いと考えられる。部分的付着劣化についても腐食率が

    高ければ高いほど変位が大きくなることが分かる。

    (3)完全定着不良が生じている場合においては、アーチ機構が形成される過程で鉄筋が抜け出し健全時より

    も耐力は低下することを示す。

    (4)付着喪失部位の分布の変化によってひびの角度や発生場所が変わった。それに伴ってはり部材の耐力や

    ひずみに影響を及ぼした。

    参考文献

    1) 村上祐貴・大下英吉・鈴木修一・堤知明:鉄筋腐食により定着不良を生じた RCはり部材の耐荷性状評価,

    土木学会論文集 E2,Vol.67,No.4,pp.605-624,2011

    2) 松尾豊史・酒井理哉・松村卓郎・金津努:鉄筋腐食した RC はり部材のせん断耐荷機構に関する研究,コ

    ンクリート工学論文集,第 15 巻第 2 号,pp.69-77,2004.5

    3) 大屋戸理・金久保利之・山本康彦・佐藤勉:鉄筋の腐食性状が鉄筋コンクリート部材の曲げ性状に与える

    影響,土木学会論文集 E,VoI62,No.3,pp.542-554,2006.8

    11

  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    2019年度卒業研究論文概要

    鉄筋とコンクリート間の付着モデルの開発

    EC16046 野中 萌生

    1. 序論

    一般に,鉄筋コンクリート(RC)構造物の挙動を評価する場合,鉄筋とコンクリートは完全付着として取

    り扱い,付着の特性については,Tension Stiffening効果を考慮したコンクリートの引張応力とひずみの関係な

    どによって間接的に考慮される1)。しかしながら付着特性は,鉄筋降伏以前の変形やひび割れ性状,あるいは

    破壊モードに影響を与えると考えられることから,解析によってRC構造物の挙動を正確に予測するためには,

    より適切な付着モデルの導入が必要である。そこで本研究では,新たな付着モデルを研究室で開発を進める解

    析コードに導入することを目的とする。既往の両引き試験結果2)と解析結果を比較することで,提案する付着

    モデルの妥当性,コンクリート要素寸法や鉄筋の配置位置が解に及ぼす影響について検討を行った。

    2.解析概要

    2.1 付着モデルの概要

    図-1に付着モデルの概要を示す。本モデルでは,すべりをコンクリート要素内の鉄筋節点位置のコンクリ

    ート仮想節点の変位と鉄筋節点変位の相対変位と仮定した。また鉄筋要素に沿ったすべり分布を鉄筋位置の

    すべり量を線形補完することで定義している。図中の ][Q は,コンクリートおよび鉄筋節点変位とすべり量を

    関連付けるマトリクスであり, ][D は付着応力-すべり関係マトリクスである。本付着モデルによる付着剛性

    マトリクスは,Gauss-Legendreの積分公式を用いて鉄筋側面積 sA で積分することで求められる。鉄筋軸方向

    の付着応力-すべり関係には,島らが提案する付着応力

    -すべり-鉄筋ひずみ関係3)を準用し,鉄筋直交方向は,

    コンクリートの変形に鉄筋が追随する弾性モデルとし

    た。このように本モデルは,一般的なコンクリート節点と

    鉄筋節点をリンクバネで結合するモデルではなく,付着

    応力-すべり関係に鉄筋ひずみの影響を取り入れること

    ができる点などに特徴がある。なお,島らのモデルでは,

    すべり量はあるコンクリート中で鉄筋が動かない点を基

    準とした鉄筋各点の変位量と定義している。これは,本付

    着モデルでのすべり量と定義が異なるので,本モデルで

    は,付着強度の増減が制御可能な強度パラメータαを付

    着応力-すべり-鉄筋ひずみ関係に導入した。

    2.2 解析対象と検討内容

    本研究では,玉井らの両引き試験2)を解析対象とした。

    図-2に,両引き試験の供試体寸法と側面のメッシュ分割

    例と断面分割例を示す。供試体はコンクリート角柱の中

    心に鉄筋が1本埋め込まれており,鉄筋比とコンクリート

    強度がそれぞれ0.6%,25MPaおよび1.0%,45MPaの供試体

    をNo.1,No.2と称す。鉄筋の種類はいずれの供試体もSD50

    が使用されており,鉄筋径,ヤング係数,降伏強度,ひず

    図-1 付着モデルの概要

    図-2 試験体寸法と断面分割例(No.2)

    i ii

    T

    isbond

    s

    s

    c

    bond

    s

    s

    c

    QDQAK

    U

    U

    U

    K

    F

    F

    F

    2

    1

    2

    1 ][

    1

    2

    鉄筋要素

    コンクリート仮想節点

    200 15

    0

    2700

    長手方向は50mmで等分割

    250 200

    (mm) No.1 No.2

    I37.5-50

    C50-40

    20mm 20

    mm

    200mm

    15

    0m

    m

    C150-200 I75-100

    V50-50

    L37.5-40 C20-20 L20-20

    V20-20 I20-20

    V10-10

    12

  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    み硬化開始ひずみ,ひずみ硬化率はそれぞれ19.5mm,190GPa,610MPa,1.4%および5.9GPaである。なお,養

    生は,No.1が気中,No.2は水中で実施されている。

    2.1に示したように,島らと本付着モデルとではすべりの定義が異なるため,強度パラメータαを導入して

    いる。本研究では,No.2の試験体を対象として,鉄筋とコンクリート間の付着特性を解析的に評価し,解析結

    果と試験結果を比較することで,パラメータαを同定する。また,定式化の過程で,鉄筋要素がコンクリート

    要素を通過する位置に応じて,付着に伴う等価節点力が作用するコンクリート節点が異なる。そこで,図-2

    に示す様々なコンクリート要素寸法ならびに鉄筋配置状況のメッシュ分割モデルを用いて,メッシュ分割が

    解に及ぼす影響を評価する。図-2において,要素分割の名称は,例えばC-50-40は,鉄筋要素はコンクリート

    要素の中心を通過し,50,40はそれぞれ通過する要素の縦および横の要素寸法を意味する。鉄筋要素がコンク

    リート要素内部を通過する際は,付着の等価節点力は位置に応じてコンクリート要素8節点に分配される。

    また,図-2では長手方向は50mmで等分割としているが,100mmおよび30mmで等分割したモデルを用い

    て側方メッシュ分割が解に与える影響を評価する。

    3.解析結果

    3.1 断面メッシュ分割および鉄筋配置位置の影響評価

    図-3 に断面メッシュ分割と鉄筋配置位置がそれぞれ異な

    るモデルの解析における鉄筋ひずみ分布を示す。鉄筋ひずみ

    分布の各グラフは,平均ひずみを 0.25~2.0%とした場合を示

    している。(a)と(b)のモデルの解析結果には違いがほとんど

    みられないが,(c)のようにコンクリート要素寸法が小さいモ

    デルでは結果が上手く表れなかった。これは,付着に伴う等価

    節点力が作用するコンクリート要素が小さいため,早く付着

    が切れたためだと考えられる。よって,提案する付着モデルの

    断面コンクリート要素寸法は, 50mm~70mm程度が妥当であ

    ると考えられる。

    3.2 側方メッシュ分割の影響評価

    図-4 に側方を 30mm,50mm および 100mm で等分割した

    モデルの解析における鉄筋ひずみ分布を示す。なお,断面のメ

    ッシュ分割には同一のものを使用した。要素分割を粗くする

    ほど,ひび割れ発生数が減少する傾向がみられた。これは,要

    素分割を細かくあるいは粗くした場合,解析モデル上の節点

    数は増加,減少し,その影響により結果を過大にあるいは過少

    に評価したと考えられる。

    3.3 強度パラメータαの同定

    強度パラメータαを同定するため,供試体 No.1を対象にα

    を 0.5~1.0に変化させて解析を行った。解析では,3.1で妥当

    とした要素寸法の三種類のモデル,3.2で用いた三種類の側方

    メッシュ分割モデルを使用した。

    図-5に引張荷重,鉄筋の平均応力,コンクリート平均応力

    -平均ひずみの関係の試験結果と解析結果を示す。なお,これ

    らの解析結果にはαを変化させた影響がほとんどみられなか

    ったため,一例としてαを 0.9とした時の解析結果を示す。鉄

    (a)L 50-50

    (b)V 66.6-62.5

    (c)C 20-20

    図-3 鉄筋ひずみ分布

    (断面メッシュ分割,鉄筋配置位置の影響)

    長手方向距離(mm)

    鉄筋のひずみ(μ

    )0

    0.5

    1

    1.5

    2

    2.5

    3

    0 270 540 810 1080 1350 1620 1890 2160 2430 2700

    0.25 0.50 1.00 1.50 2.00 εy εh

    長手方向距離(mm)

    鉄筋のひずみ(μ

    )

    0

    0.5

    1

    1.5

    2

    2.5

    3

    0 270 540 810 1080 1350 1620 1890 2160 2430 2700

    0.25 0.50 1.00 1.50 2.00 εy εh

    長手方向距離(mm)

    鉄筋のひずみ

    (μ)

    0

    0.5

    1

    1.5

    2

    2.5

    0 270 540 810 1080 1350 1620 1890 2160 2430 2700

    0.25 0.50 1.00 1.50 2.00 εy εh

    13

  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    筋とコンクリートの付着作用のために,ひび割れ発生後も

    Tension Stiffening効果によって,鉄筋コンクリート要素の引張

    剛性は鉄筋単体の引張剛性よりも高い。図-5試験結果の下段

    はコンクリートが鉄筋降伏後においても引張力を負担し,

    Tension Stiffening効果が存在することを示しており,急激に低

    下する傾向はみられず,平均ひずみが 2%近くに達してもコン

    クリート引張強度の約 10%の Tension Stiffening 効果が存在し

    ている。したがって,鉄筋が降伏しても図-5試験結果の上段

    において鉄筋コンクリート要素の引張剛性は鉄筋が弾性域に

    ある範囲のみでなく、降伏後に至っても鉄筋単体の引張剛性よ

    り高くなっている。これらの特徴を解析においても再現するこ

    とができ,付着の特性をよく評価できているといえる。

    図-6に試験結果とαを 0.9 とした時の解析結果の一例を示

    す。(a)の鉄筋ひずみ分布は,分布図の形状,ひび割れ発生数

    ともに試験結果をよく模擬している。なお,αの値が 0.9 より

    も小さい,あるいは大きいと試験結果を模擬しなかった。各解

    析結果の特徴として,ひずみ分布では,ひびわれ発生前後でひ

    ずみが大幅に増減した。これは,コンクリートのひびわれ発生

    に伴う軟化過程における,ひずみの局所化が発現したと考えら

    れる。すべり分布については,ひびわれ発生直前にすべり量が

    大きくなったが,ひびわれの発生に伴い減少した。付着応力分

    布については,すべり分布と同じような傾向を示した。以上よ

    り,ひずみ分布図,ひび割れ発生数の結果を考慮してαは 0.9

    で妥当とした。しかし,かぶり厚の異なる供試体 No.2 を対象

    に同様の解析を行ったところ,ひび割れ発生数を過大に評価し

    た。これはαを 0.5,0.6程度に低減することで,試験結果を再

    現することができたが,供試体のかぶり厚によってαの妥当値

    が異なる結果となった。

    表-3に各解析モデルのひび割れ発生数を示す。ひび割れ発

    生数以外にαの影響がほとんどみられなかったため,表-3を

    用いてαを同定する。なお,α=0.5~0.8 に関しては解析結果

    にほとんど差がなかったため,表には,αを 0.7 ,0.9, 1.0と

    した場合の解析結果を示している。断面,側方のメッシュ分割

    によらずαが小さいほど,すなわち鉄筋とコンクリート間の付

    着強度が低下するほど,ひび割れ発生数が減少する傾向にある

    ことがわかる。また,3.2で示したように,側方のメッシュ分

    割によりひび割れ発生数が増減するが,表にあるように要素寸

    法に応じたαの設定で適切に評価することができた。

    4.結論

    本研究では,新たな鉄筋とコンクリート間の付着モデルを開

    発し,解析手法の特徴の把握および妥当性を検証するためのモ

    デル解析を行い,以下の結果を得た。

    (a)側方 30mm

    (b)側方 50mm

    (c)側方 100mm

    図-4 鉄筋ひずみ分布

    (側方メッシュ分割の影響)

    図-5 引張荷重,鉄筋の平均応力,コン

    クリート平均応力-平均ひずみの関係

    (左:実験 右:解析)

    長手方向距離(mm)

    鉄筋のひずみ(μ

    )

    0

    0.5

    1

    1.5

    2

    2.5

    3

    0 270 540 810 1080 1350 1620 1890 2160 2430 2700

    0.25 0.50 1.00 1.50

    長手方向距離(mm)

    鉄筋のひずみ(μ

    )

    0

    0.5

    1

    1.5

    2

    2.5

    3

    0 270 540 810 1080 1350 1620 1890 2160 2430 2700

    0.25 0.50 1.00 1.50 2.00 εy εh

    長手方向距離(mm)

    鉄筋のひずみ(μ

    )

    0

    0.5

    1

    1.5

    2

    2.5

    3

    0 270 540 810 1080 1350 1620 1890 2160 2430 2700

    0.25 0.50 1.00 1.50

    鉄筋単体

    14

  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    本付着モデルで得られた解析結果は試験結果を模擬し,RC構造物の付着特性を適切に評価することができ

    たが,強度パラメータαの妥当値が,解析対象とする供試体のかぶり厚により異なる結果となった。また,鉄

    筋要素配置状況の違いによる解への影響はあまり見られなかったが,断面コンクリート要素寸法が極端に小

    さいと適切な結果が得られなかった。側方のメッシュ分割に関しては,要素寸法に応じたαの設定で適切な評

    価が可能だった。以上より,パラメータαの設定には十分に留意する必要があるとともに,αの推定には今

    後より詳細な検討が必要であると考える。

    参考文献

    1) 飯塚 敬・ 檜貝 勇・斉藤 成彦:かぶり厚の影響を考慮した異形鉄筋の付着応力-すべり-ひずみ関係,土

    木学会論文集 E2 (材料・コンクリート構造) 67 巻 2 号, pp . 280-296,2011

    2) 玉井 真一 ・ 島 弘 ・ 出雲 淳一 ・ 岡村 甫:一軸引張部材における鉄筋の降伏後の平均応力―平均ひず

    み関係,土木学会論文集,第 378 号 V 6, pp. 239-247,1987

    3) 島 弘・周 礼良・岡村 甫:マッシブなコンクリートに埋め込まれた異形鉄筋の付着応力-すべり-ひず

    み関係,土木学会論文集,第 378 号 V 6, pp. 165-174,1987

    表-3 各解析モデルのひび割れ発生数

    断面α 0.7 0.9 1 0.7 0.9 1 0.7 0.9 1

    クラック数 3 3 6 3 4 6 4 4 6断面α 0.7 0.9 1 0.7 0.9 1 0.7 0.9 1

    クラック数 4 6 8 3 6 8 3 6 8断面α 0.7 0.9 1 0.7 0.9 1 0.7 0.9 1

    クラック数 6 8 10 6 8 10 4 8 9

    側方100mmL50-50 V66.6-62.5 C66.6-50

    側方50mmL50-50 V66.6-62.5 C66.6-50

    側方30mmL50-50 V66.6-62.5 C66.6-50

    試験結果(ひび割れ 5本) (a)鉄筋ひずみ分布

    (b)すべり分布 (c)付着応力分布

    図-6 鉄筋ひずみ分布,すべり分布,付着応力分布

    長手方向距離(mm)

    鉄筋のひずみ(μ

    )

    0

    0.5

    1

    1.5

    2

    2.5

    3

    0 270 540 810 1080 1350 1620 1890 2160 2430 2700

    0.25 0.50 1.00 1.50 2.00 εy εh

    長手方向距離(mm)

    すべり量

    (mm)

    -5

    -4

    -3

    -2

    -1

    0

    1

    2

    3

    4

    5

    0 270 540 810 1080 1350 1620 1890 2160 2430 2700

    0.25 0.50 1.00 1.50 2.00

    長手方向距離(mm)

    付着応力

    (MPa)

    -8

    -6

    -4

    -2

    0

    2

    4

    6

    8

    0 270 540 810 1080 1350 1620 1890 2160 2430 2700

    0.25 0.50 1.00 1.50 2.00

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  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    2019年度卒業研究論文概要

    付着が RCはり部材の挙動に及ぼす影響の数値解析的検討

    EC16047 長谷川 雄也

    1. 序論

    コンクリート構造物の長寿命化が求められ,鉄筋が腐食した鉄筋コンクリート(RC)構造物の保有耐荷性

    能評価が求められている。これまで、鉄筋が腐食した RC 部材の耐力は、コンクリート表面のひび割れ幅や本

    数を腐食の程度の指標としてきたが、それらの測定だけでは必ずしも腐食の程度と耐力が対応しないことが

    分かっている 1)。そのため、鉄筋腐食した RC 部材の耐力の定量的評価を目的に、実験的、数値解析的検討 2),3)

    が実施されているが、現状においても定量的評価には至っていない。その理由は、鉄筋腐食状況が一様ではな

    いことに加え,鉄筋腐食が RC 部材の耐力に影響する主たる劣化・損傷要因が、鉄筋の断面減少、鉄筋とコン

    クリート間の付着劣化、腐食膨張に伴うコンクリートのひび割れの 3 種であり、これら個々の要因が互いに影

    響を及ぼしているためであると考えられる。そのため、まずは個々の要因が RC 部材の耐荷性能にどの程度影

    響を及ぼすのかを把握する必要があると考えられる。そこで本研究では、永田の RC はり部材の載荷実験 4)を

    解析対象として,付着強度が RC はり部材の挙動に及ぼす影響と付着喪失部位が RC はり部材の挙動に及ぼす

    影響を数値解析的に評価することを目的とする。

    2. 解析対象と解析概要

    2.1解析対象とした実験の概要

    解析の対象とした RC はりの諸元 4)を図-1に示す。幅 120mm、高さ 200mm の断面に有効高さ 170mm の

    位置に D16 鉄筋を 2 本配置している。コンクリートの圧縮強度と鉄筋の降伏強度はそれぞれ 23.8 N/mm²およ

    び 490 N/mm²であり,せん断スパン比を約 3 とすることで,健全な状態では斜め引張破壊するように設計され

    ている。またこの実験では,図-2に示す位置の鉄筋にビニールチューブを被せることで、コンクリートと鉄

    筋間の付着喪失部位を設けている。なお,図中の〇印は鉄筋のひずみ計測位置を意味している。実験で確認さ

    れた破壊モードは,I は斜め引張破壊,II および III はせん断圧縮破壊,Ⅳは付着割裂破壊であった。

    2.2解析概要

    数値解析には LECOM 5)に野中の付着モデル 6)を導

    入した解析ツールを使用した。野中の付着モデルで

    は,付着応力-滑り関係に,島ら 7)が提案する付着応

    力-すべり-鉄筋ひずみ関係に,付着強度の増減設

    図-2 解析モデルと付着喪失部位

    I:健全

    II:付着切れ1D

    III:付着切れ2D

    IV:付着切れ全スパン

    付着喪失部位

    I:付着モデル・埋込鉄筋モデルD16鉄筋

    ひずみ計測位置1 2 3

    4 5

    図-1 RCはり部材の諸元 4)

    (mm)

    ひずみゲージCL

    200400100

    2D-16

    17

    0

    3030 30

    120

    60

    430

    260

    16

  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    定を可能とする係数αが導入されている。このため,本解

    析ツールでは,任意の位置に配置した鉄筋とコンクリート

    間の付着特性を容易に設定することが可能である。

    本研究は、鉄筋腐食による付着劣化がその程度や分布状

    況によって RC はり部材の挙動にどのように影響するかを

    検討する。

    具体的には、RCはりの引張鉄筋の赤色で示されている部

    分を付着喪失部位とし、付着を完全にない状態とした数値

    シミュレーションを実施した。また、付着応力を変化させ

    た場合に RC はり部材の挙動にどのように影響するかを検

    討するために、健全な RC はり部材を対象に、付着応力α

    を 0.5、0.6、0.7、0.8、完全付着と変化させた。さらに、付

    着損失の分布を変化させた場合の RC はり部材の挙動の変

    化を検討するために、付着喪失部位を変数とした載荷実験

    の数値解析を行った。この場合、Ⅱの 1D とはスパン間を 7

    等分割にした場合の 1 区間分を 1D とし、Ⅲの 2D は 2 区間

    分とした。この時、1D は約 171.5mm となる。加えて、スパ

    ン内の付着をすべて切った付着切れ全スパンの場合も検討

    した。

    3. 解析結果

    3.1 付着モデル導入の有用性の確認

    解析方法の妥当性を確認するために、健全な部材を対象

    とした解析結果を示す。図-3は健全な部材を対象とした荷重-変位関係のグラフである。右の荷重-変位関

    係のグラフよりせん断耐力は実験と解析の結果は概ね近い値となったことがわかる。また、二羽式によるせん

    断耐力は 56.0kN となったため、本研究で実施した解析方法の妥当性が示された。

    3.2 付着強度特性が RCはり部材のせん断挙動に及ぼす影響

    図-4 に埋込鉄筋の場合と付着の場合のひび割れ分布の変化及び付着劣化の分布を変化させた場合のひび

    割れ図を示す。埋込の場合ではひび割れの分布が淡くはっきりと表れていなのに対し、付着の場合は 20kN か

    ら最大荷重時まではっきりとひび割れが分散していることがわかる。また、付着応力を変化させた場合の結果

    から付着応力を変化させても結果に変化は見られなかった。したがって、付着切れ 1D 及び 2D と付着切れ全

    スパンの付着応力をα0.6 とした。

    図-3 Iの荷重-変位関係

    (a)埋込鉄筋要素

    (b)付着鉄筋要素

    (c)実験結果

    図-4 ひび割れ性状の比較

    FEMOS : POST-PROCESSOR FOR F.E.M

    X

    Z

    TIME 2.40E+01

    CASE NO. 84

    -2.00E-04

    0.00E+00

    2.00E-04

    4.00E-04

    6.00E-04

    8.00E-04

    1.00E-03

    1.20E-03

    1.40E-03

    1.60E-03

    1.80E-03

    FEMOS : POST-PROCESSOR FOR F.E.M

    X

    Z

    TIME 2.40E+01

    CASE NO. 84

    PRINC T.STRA 1.77E-03

    FEMOS : POST-PROCESSOR FOR F.E.M

    X

    Z

    TIME 2.40E+01

    CASE NO. 88

    -5.00E-04

    0.00E+00

    5.00E-04

    1.00E-03

    1.50E-03

    2.00E-03

    2.50E-03

    3.00E-03

    3.50E-03

    FEMOS : POST-PROCESSOR FOR F.E.M

    X

    Z

    TIME 2.40E+01

    CASE NO. 88

    PRINC C.STRA 3.21E-03

    図-5 Ⅱ、Ⅲ、Ⅳの荷重-変位関係

    1 2 3 4 5 6 7 8

    20

    40

    60

    80

    100

    0

    中央変位(mm)

    荷重(k

    N)

    解析実験

    II

    1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    0

    中央変位(mm)

    荷重(k

    N)

    解析実験

    III

    1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    0

    中央変位(mm)

    荷重(k

    N)

    解析実験

    実験:付着割裂破壊

    IV

    17

  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    3.3 Ⅳの定着部で付着割裂破壊についての評価

    付着切れ全スパンの試験体では図-5のⅣのグ

    ラフにあるように、解析値よりも大幅に低い値で

    定着部での付着割裂破壊に至った。これはスパン

    内が無筋状態となるため、はりが脆弱的に挙動

    し、はり端部の鉄筋の定着部に引張力が伝達され

    ることからこのような破壊に至ったのだと考え

    られる。

    3.4 付着喪失部位が RCはり部材のせん断挙動

    に及ぼす影響

    図-6を見ると、付着劣化分布の違いで、破壊カ所のひび割れ幅、ひび割れの角度、ひび割れの発生場所に

    違いがあることが分かる。

    また、健全な部材は付着損失がある部材に比べて、最大荷重時のひび割れ幅が小さいことが分かる。更に付

    着損失部位が広がるほど、ひび割れはスパン中央付近に集まり、ひび割れの角度も小さくなっている。

    これは、図-7 の圧縮力の流れの違いによるものである。まず、破壊カ所のひび割れ幅が変化した理由は、

    図-7を見るとⅡ、Ⅲに比べてⅠでは圧縮力が部分的に集中していることが分かる。それによりⅠでは、圧縮力が

    集中した場所で小さなひずみでも破壊が生じたのだと考えられる。

    同様に、ひび割れの角度、発生場所の違いも圧縮力の発生位置の変化により、角度、発生場所の変化が生じ

    たのだと考えられる。

    3.5 せん断耐力の評価

    図-5より、ⅠとⅡのせん断耐力が健全よりも大きく、Ⅲの結果では 100kN 近い値となっている。これは圧縮

    力の流れの図から、アーチ機構が形成されたことによるせん断耐力の増加であることが分かる。アーチ機構が

    形成されたことにより圧縮力が載荷点付近に集まり斜めひび割れ上部の載荷点付近のコンクリートが圧壊し、

    せん断圧縮破壊が生じることでせん断耐力の低下が大幅に抑制されたのだと考えられる。

    3.5 付着喪失部位の鉄筋ひずみの評価

    付着喪失部位の鉄筋ひずみは引張鉄筋の定着により、一様の引張力が作用しているため一定であることがえ

    られた。図-9に解析より得られた鉄筋ひずみとその発生位置の関係を示す。Ⅰでは付着喪失がないため、ひず

    みが一定にはならない。その一方で、付着喪失のあるⅡ、Ⅲ、Ⅳでは付着喪失部位でのみひずみが一定となっ

    図-6 解析によるひび割れ図

    0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

    )(10 3

    2.0 2.0 6.0 0.1 4.1 8.1 0.2

    )(10 2

    5.0 5.0 5.1 5.3 5.4 5.5

    )(10 2

    5.65.2

    20kN 50kN 最大荷重時

    I:埋込

    I:付着

    II

    III

    IV

    図-7 圧縮力の流れ

    Ⅰ 2523

    21

    19

    17

    15

    13

    11

    9

    7

    5

    3

    1

    0.1

    )/( 2mmN

    18

  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    ていることが確認できる。

    4.結論

    本研究では、付着劣化の度合いや分布状況によって RC はり部材の挙動にどのような影響を及ぼすのかを数

    値解析的に検討した。その結果得られた知見を以下に示す。

    (1) 付着モデル導入の有用性の確認から、埋込モデルと付着モデルを比較した場合、付着モデルではひび

    割れが分散する。

    (2) 付着特性が RC はり部材のせん断挙動に及ぼす影響では、斜め引張破壊をする場合には、付着強度の

    変化は解析結果に影響を及ぼさない。

    (3) 付着喪失部位が RC はり部材のせん断挙動に及ぼす影響は、付着喪失部位の違いによってひび割れの

    幅、角度、発生場所および耐荷力の増加を評価できた。耐荷力の増加はアーチの形成状況が変化し、

    より広い範囲で応力を受けている部材が耐荷力の増加がみられることを評価できた。

    最後に、付着切れ全スパンでは試験体は解析による耐力よりも低い荷重により定着部で付着割裂破壊が生

    じたがこれは付着喪失部位があると定着領域まで荷重が伝達されるため、はり端部から鉄筋の抜け出しが生

    じてしまうからであるその現象を解析上で表現すべく付着応力や定着部の鉄筋方向を微小に変化させたが表

    現することはできなかった。これは、本研究で使用した解析ツールでは鉄筋の節などを表現することが難しく

    それに対応する応力などが考慮されなかったためであると考えられる。

    【参考文献】

    1) 大屋戸理明・金久保利之・山本泰彦・佐藤勉:鉄筋の腐食性状が鉄筋コンクリート部材の曲げ性状に与え

    る影響,土木工学論文集,Vol.62 No.3,pp.542-554,2006.8

    2) 松尾豊 史・ 酒井理哉・ 松村 卓郎・ 金津 努:鉄筋腐食 した RC はり部材のせん断耐荷機構に関する研

    究、コンクリート工学論文集,第 15 巻第 2 号,pp.69-77,2004.5

    3) 村上 祐貴・董 衛・大下 英吉・鈴木 修一・堤 知明:鉄筋腐食により定着不良を生じた RC はり部材の耐

    荷性状評価,土木学会論文集 E2,Vol.67,No.4,pp.605-624,2011

    4) 永田開士:付着喪失を模擬した RC はり部材のせん断耐荷機構の実験的評価,2019 年度中部大学卒業論文

    5) 石川靖晃・伊藤睦・荒畑智志・河合真樹・原健悟:コンクリート構造物建設工程シミュレータの開発-各

    種初期応力影響下の保有耐荷力解析プラットフォーム-,J-STAGE 53 巻 2 号,pp172-180,2015

    6) 野中萌生:鉄筋とコンクリート間の付着モデルの開発、2019 年度中部大学卒業論文

    7) 玉井真一・島弘・出雲淳一・岡村甫:一軸引張部材における鉄筋の降伏以後の平均応力―平均ひずみ関係

    土木学会論文集 第 378 号/V-6 pp239-247 1987 年 2 月

    (a)付着切れ 1D (b)付着切れ 2D (c)付着切れ全スパン

    図-9 ひずみ-位置関係

    200 400 600 800 1000 1200 1400

    500

    1000

    1500

    2000

    2500

    0

    ひずみ(μ)

    位置(mm)

    y

    20kN 50kN Pmax

    IV

    200 400 600 800 1000 1200 1400

    500

    1000

    1500

    2000

    2500

    0

    ひずみ(μ)

    位置(mm)

    y

    20kN 50kN Pmax

    III

    200 400 600 800 1000 1200 1400

    500

    1000

    1500

    2000

    2500

    0

    ひずみ(μ)

    位置(mm)

    y

    20kN 50kN Pmax

    II

    19

  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    2019 年度卒業研究論文概要

    ポストテンション PC部材の構造性能評価技術の開発

    EC16054 松岡 璃音

    1. 序論

    本研究では,鋼材の腐食等の経年劣化が生じたポストテンション方式のプレストレストコンクリート(PC)

    構造物の残存性能評価が可能な解析技術の開発を主眼とし,まずは,基本的なポストテンション方式の PC 部

    材の性能が評価可能な解析技術の開発を目的とする。具体的には,緊張時にはアンボンド状態でプレストレス

    を導入でき,グラウト後は PC 鋼材とグラウト間の付着を適切に考慮できる解析技術の枠組みを構築すること

    を目的とする。構築した解析技術を用いて,既往のグラウト区間を変数とした載荷実験 1)の解析を実施するこ

    とで,本解析手法の妥当性や改良点について検討を行った。

    2. 解析概要との試験概要

    ポストテンション PC 部材の構造性能評価技術の開発にあたり,野中の付着モデル 2)を用いた。緊張時は付

    着をゼロとしたアンボンド状態とし,緊張後,グラウトによるボンド状態を考慮するために,付着剛性を導入

    した。本研究では,PC 鋼材とグラウト間の付着挙動に,付着強度を 30%まで低減させた島ら 3)が提案する鉄

    筋とコンクリート間の付着応力-すべり-ひずみ関係を準用した。荷重載荷時には,緊張時のすべり量,鋼材

    ひずみを初期値として付着応力を評価している。なお,解析モデルでは,シースおよびグラウトをモデル化し

    ていない。構築した解析手法の妥当性を評価するために,本研究では図-1の梅原らの載荷試験結果¹⁾を対象

    とした。この実験では,付着状態をパラメータとした断面 150×200mm で支間 2200mm のポストテンション

    式 PC はり部材の載荷試験が行われている。断面図心から 30mm 下に配置された PC 鋼棒にはφ11mm の

    SBPR1080/1230 が使用されており,本研究ではその応力-ひずみ関係をトリイニア型でモデル化し,緊張力は,

    3400μの初期ひずみで与えた。コンクリートとグラウトの圧縮強度は, 29.4N/mm2および 14.7N/mm2である。

    3. 解析結果

    図-2に緊張後のコンクリートの変形と応力分布および PC 鋼材のひずみ分布を示す。図より,PC 鋼材の

    ひずみは部材内で一定であり,ほぼ所定の 3400μとなっている。また,偏心軸圧縮力に伴うアーチ状の変形

    状態およびコンクリートの応力分布も評価できている。

    図-3に Case ⅰ~ⅳの荷重-中央変位関係を示す。解析と実

    験を比較すると解析値の方が実験値より低くなった。これ

    は,解析では PC 鋼材の降伏が早期に生じたためで,実際の

    降伏強度は 1080N/mm2より高いと推測される。

    図-4 に Case ⅰ~ⅳの荷重-PC ひずみ関係を示す。図を見

    て分かるように PC ひずみが 2000μ を示しているが,プレス

    トレイン分(3400μ)をシフトしているため,実際の降伏ひず

    みは 5400μ である。全長がボンドの Case ⅰの PC ひずみが一

    番大きい。Case ⅱが降伏とほぼ同時に破壊している。また,図

    -4 の実験値では,Case ⅳの一部に膨らみがある。これはボ

    ンド部分がほかに比べ短く,グラウトが滑ることで,平均的

    に PC 鋼材が伸びたため数値が急に上がったと考えられる。

    図-5に 20kN 時の PC ひずみ分布を示す。Case ⅰでは,支

    点の初期ひずみから中央の載荷点下のひずみになっている。

    図-1 PC鋼材の付着状態

    PC鋼材

    100 100

    単位(mm)

    ボンド

    アンボンドcaseⅰ

    caseⅱ

    caseⅲ

    caseⅳ

    750 750

    700

    900 900

    2200

    20

  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    Case ⅱでは,初期ひずみの 3400μ から一様にひずみが増えて

    いる。Case ⅲでは,中央がアンボンド,両端部がボンドのた

    め,支点の初期ひずみから Case ⅰと同じように増加し,途中か

    らアンボンドに変わるため Case ⅰほどひずみは大きくならな

    いがアンボンド区間は一様になる。Case ⅳは Case ⅲのボンド

    とアンボンドが逆になるため,両端部のアンボンド区間は,

    一様にひずみが増加し,中央のボンド区間は,Case ⅰと同じ載

    荷点下でひずみが最大となった。

    図-6に Case ⅰ~ⅳの部材軸方向のひずみ分布(変位 25mm

    の最大荷重時)を示す。Caseⅳのみ 4 か所でひび割れが起き

    ている。これは,付着強度を低くしたらひび割れは減るので梅原らが行った実験は付着強度が低かったと考え

    られる。そのため,PC 鋼材とグラウト間の付着挙動を精度よく表現する必要がある。

    4. 結論

    本研究では,付着モデルを応用して緊張時はアンボンド状態で,グラウト後は付着挙動を考慮できるポスト

    テンション PC 部材の解析技術を構築した。本解析手法は,緊張状態を適切に評価でき,グラウトによる一体

    化も適切に評価できることを確認した。解析精度向上には,PC 鋼棒の摩擦や,グラウトとの付着挙動の適切

    なモデル化が必要である。

    参考文献

    1) 梅原秀哲・藤田宗寛・上原 匠:PC はりの曲げ挙動に与える鋼材の付着状態に関する研究,コンクリート

    工学年次論文集,Vol.13,No.2,pp.695-700,1991

    2) 野中萌生:鉄筋とコンクリート間の付着モデルの開発,2019 年度中部大学卒業論文,2020

    3) 島 弘・周 礼良・岡村 甫:マッシブなコンクリートに埋め込まれた異形鉄筋の付着応力-すべり-ひずみ

    関係,土木学会論文集,第 378 号 V 6, pp. 165-174,1987

    図-2 緊張後の状況 図-3 荷重-変位関係(左:実験,右:解析)

    図-4 荷重-PCひずみ関係(左:実験,右:解析) 図-5 20kN時の PCひずみ分布

    0 400 800 1200 1600 2000 24000

    500

    1000

    1500

    2000

    2500

    3000

    3500

    4000P

    Cひずみ(μ)

    位置(mm)5 10 15 20 25 30 35

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    0

    中央変位(mm)

    荷重(k

    N)

    (i) (ii)(iii) (iv)

    5 10 15 20 25 30 35

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    0

    中央変位(mm)

    荷重(k

    N)

    (i) (ii)(iii) (iv)

    実験

    2000 4000 6000 8000 10000

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    0

    20003400

    5400

    緊張

    y

    (i) (ii)(iii) (iv)

    荷重(k

    N)

    PCひずみ(μ)

    500 1000 1500 2000 2500 3000

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    0

    (i) (ii)(iii) (iv)

    荷重(k

    N)

    PCひずみ(μ)

    実験

    0 400 800 1200 1600 2000 2400

    3400

    3600

    3800

    4000

    4200

    4400

    4600

    (i) (ii) (iii) (iv)

    PCひずみ(μ)

    位置(mm)

    図-6 25mm時のひび割れ性状

    (部材軸方向ひずみ分布)

    0.1)(10 2

    5.0 0.2 5.3 0.5 5.6 0.8

    case i

    case ii

    case iii

    case iv

    21

  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    2019 究論文概要

    付着喪失とかぶり剥落を模擬した RCはり部材のせん断耐荷機構の実験的評価

    EC16061 山田 武

    1. 研究の背景と目的

    コンクリート構造物は適切に設計施行された場合には非常に高い耐久性に富む構造であり,我が国ではコン

    クリート構造物が多くの土木構造物に用いられてきた。高度成長期に建設した数多くの社会基盤施設の供用期

    間が 50 年を超えており,適切な維持管理がより一層重要となっている。コンクリート部材の劣化問題で最も

    重要なものの一つとして鉄筋の腐食があり,鉄筋の腐食は塩害及び中性化が主な原因である。鉄筋の腐食によ

    り腐食生成物が生成され,腐食生成物が増えるにつれて,鉄筋周囲のコンクリートに膨張圧が生ずる。膨張圧

    によりコンクリートにひび割れや剥離が発生し,コンクリートひび割れ発生後は,腐食因子の浸透が進行しや

    すいために,鉄筋の腐食速度が加速し,コンクリートとの付着低減,鉄筋断面積減少などが生じることで,部

    材としての機能が著しく低下する 1)。

    これまで,鉄筋が腐食した RC はり部材の耐力は,コンクリート表面のひび割れ幅や本数を腐食の程度の指

    標とした実験が積極的に行われてきた。ひび割れの計測は実際の構造物でも計測可能であるが,腐食の程度に

    必ずしも対応しないため,耐力の評価に至っていない²⁾³⁾。鉄筋腐食状況が一様ではないこともその要因と考え

    られる。そのため,まずは個々の要因が RC 部材の耐荷性能にどの程度影響を及ぼすのかを把握する必要があ

    ると考えられる。

    本研究では,鉄筋腐食を生じた RC はり部材のせん断耐荷性能について,主鉄筋の定着性能およびかぶりコ

    ンクリートの剥落という観点から実験的に評価することを目的として課題に取組む。

    2.試験概要

    2.1 検討内容

    式(1)のせん断強度算定式によれば,せん断スパンが 500mm の Vc=32.9kN となりせん断スパンが 400mm の

    場合は 36.3kN となった。Vc は支点反力だから 2 倍して実験値より少し低い安全側の値となる。したがって圧

    縮鉄筋はせん断強度に影響を及ぼさない。しかしながらかぶりの剥落を模擬し,さらに鉄筋とコンクリートの

    付着の有無により数値に変化がみられるかもしれない。また,ひび割れ発生状況や荷重作用時の挙動に変化が

    出るかもしれない。測定項目としては荷重,ひずみ,スパン中央のたわみ,支点沈下量とした。コンクリ

    ートの収縮・膨張によって RC はり供試体のひずみを,支間中央位置に貼り付けた電気抵抗式ひずみゲー

    ジ(ゲージ長:2 ㎜)で測定した。強度特性として,圧縮強度を測定した。

    dba

    d

    dpcfVc ww

    4.175.0

    101002.0

    41

    3

    31

    31

    '・・・・・(1)

    2.2 試験体概要

    図-1に RC はり試験体諸元を示す。図に示すように,本研究で採用するはりは,予めかぶりコンクリート

    が無いものとする。実験で使用した試験体寸法は 120×200×1400mm で,2D16 鉄筋を配置した試験体を合計で

    6 体の試験体を作製した。圧縮強度発現状況を調べるために,圧縮強度測定用テストピースを同一コンクリー

    トで作製した。本来鉄筋を腐食させるものだが,腐食させるのが困難なため鉄筋にゴムテープを定着させ腐食

    があると仮定した。

    22

  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    かぶりの無い健全試験体,はり全体で付着劣化

    を模擬した試験体をそれぞれ 2 体作製し,図-

    1,図-2に示すように荷重載荷位置を変更する

    ことで,せん断スパン比が耐荷機構の変化に及

    ぼす影響を評価する。また支点から 1d と 1d お

    よび 2d 位置を中心に,それぞれ 100mm 部分的

    な付着喪失を模擬した試験体を作製する。なお,

    部分的な付着低下試験体の載荷位置も図に示す

    ように載荷位置を変更する。ひずみを計測する

    ために,スパン中央部,スパン中央から左右

    200mm,400mm の位値に合計 5 か所に電気抵

    抗線式ひずみゲージ(ゲージ長:2mm) を貼り付

    けた。

    図-2 に付着損失を模擬するためにゴムテー

    プを定着させた位置を示す。

    3.実験結果

    3.1テストピースの圧縮強度

    はり試験体と同一のコンクリートを使用して作

    製したテストピースの圧縮試験から得られた圧

    縮強度は 28.68N/mm2となった。

    3.2荷重-変位関係

    図-4に荷重と変位の関係を示す。等曲げ区間

    が 200mm(Ⅰ)と 400mm(Ⅴ)の健全な試験体は斜

    め引張破壊となり 400mm(Ⅴ )の最大耐力は

    107.1kN となり,200mm(Ⅰ)は 74.1kN となった。

    内側の付着切れを模擬した試験体(Ⅲ)と外側に付

    着切れを模擬した試験体(Ⅳ)どちらも載荷位置

    は 200mm で行い内切り(Ⅲ)の最大耐力は 71.9kN

    となりこの試験体も斜め引張破壊した。外切り

    (Ⅳ)の最大耐力は 84.6kN となりこの試験体も斜

    め引張破壊となった。部分的に付着損失を模擬した場合,健全なものとおおきな違いは見られなかった。全体

    で付着喪失を模擬した 2 本の試験体の一つである等曲げ区間 400mm の試験体(Ⅵ)の最大耐力は 76.2kN となり

    破壊モードが付着割裂破壊となった。等曲げ区間 200mm の試験体(Ⅱ)の最大耐力は 45.5kN となりこの試験体

    の破壊モードも付着割裂となった。やはり健全な試験体の最大耐力と比較した場合全体で付着損失の起きてい

    る試験体が劣っている。

    表-1示方配合表

    C(kg) W(kg) S(kg) G(kg) s/a(%)

    322 203 749 1004 43

    密度 3.16 1 2.62 2.55

    図-3 付着

    図-2 付着切れ位置

    CL

    100500100

    2D-16

    20

    0

    30 30

    120

    (mm)

    200mm 200mm

    ひずみゲージ

    1 2 3

    図-1 RCはり試験体諸元

    Ⅰ:健全 200mm

    Ⅵ:全切れ 400mm

    Ⅲ:外切れ 200mm

    Ⅳ:内切れ 200mm

    Ⅴ:健全 400mm

    Ⅱ:全切れ 200mm

    23

  • 中部大学 工学部 都市建設工学科

    3.3鉄筋ひずみ-荷重関係

    図-5 に示す健全な試験体の電気抵抗ひずみゲージの最

    大値は 1200μ となりと全体で付着損失を模擬した試験体の

    電気抵抗式ひずみゲージの最大値は 800μ となった。また,

    健全な試験体は位置によりひずみの大きさが異なり変位も

    3.3mm ほどある。一方付着の切れている試験体は位置によ

    るひずみのかかり方に大きな違いがなく変位も 3mm と健

    全な試験体に比べ抑制されている。また,部分的に付着を

    切った(Ⅲ)と(Ⅳ)はその他のひずみゲージ比べひずみゲー

    ジ②の位置のひずみが小さくなっている。この位置はゴム

    テープを定着させた位置とほぼ一致する。加えて付着を完

    全に切った(Ⅱ)と(Ⅵ)を健全な試験体(Ⅰ),(Ⅴ)と比較する。健全(Ⅰ)の荷重が 60kN の時にひずみの数値は 750μ

    だが全切れ(Ⅱ)の荷重は 40kN の時に 750μ かかっていることが分かる。また,健全(Ⅴ)の荷重が 60kN の時に

    500μ かかっているが全切れ(Ⅵ)は 40kN の時に 500μ かかっている。

    3.4ひび割れ発生状況

    図-6載荷試験後のひび割れ発生状況を青線で示した。それぞれの供試体の側面を比較してみると,健全

    なものと部分的に付着が切れている供試体側面は,載荷点から支点に向かって斜めにひび割れが入っているの

    が分かる。また,等曲げ区間に曲げひび割れが発生した後にはりは破壊に至った。健全な 2 本と部分的な付着

    損失を模擬した試験体の破壊モードは斜め引張り破壊であると判断される。

    一方,付着を完全に断った供試体側面を見ると載荷位置に関係なくどちらも載荷点寄りに縦にひび割れが起

    きているのが分かる。さらに両サイドから水平にひび割れが発生し破壊に至った。このひび割れ性状から付着

    裂破壊を生じていると判断される。ひび割れの数も他の 4 本の試験体に比べ少ないことが分かる。

    I:200健全 II:200全切れ III:200内切れ

    IV:200外切れ V:400健全 VI :400全切れ

    図-5 荷重-鉄筋ひずみ関係

    500 1000 1500 2000

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    0

    鉄筋ひずみ(μ)

    荷重

    (kN)

    1 2 34 5

    I:200健全

    500 1000 1500 2000

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    0

    鉄�