キトサンシートの抗菌特性

誌名誌名 鳥取県産業技術センター研究報告

ISSNISSN 13464345

巻/号巻/号 10

掲載ページ掲載ページ p. 45-48

発行年月発行年月 2008年3月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

鳥取県産業技術センター 研究報告 No.10 (2007)

(技術レポート)

キトサンシートの抗菌特性

Antibacterial Activity ofthe Chitosan Sheet

有福一郎・ 高田光*

Ichiro Arifuku， Hikaru Takada

キトサンを主原料に開発されたキトサンシートは、厚み、吸水速度、吸水倍率、ポアサイズ、湿潤強度に

おいてコラーグンシートと同等の物性を示した。本研究では、表皮感染症やニキピの起因菌などとして肌に

、 悪影響を及ぼす黄色ブドワ球菌やアクネ菌などに対するキトサンシートの抗菌特性を検証した。その結果、

キトサンシートにはコントロールと比較して 11100以下に菌数を減少させるなどの高い抗菌性が認められ

た。

The chuosan sheet which we developed showed an equal characteristic with collagen sheet in thickness， water

absorption speed， water absorption rate， pore size， wet s甘ength.And we evaluated antibacterial activity for

Staphylococcus aureus subsp. aureus and Propionibacterium acnes， Propionibacterium propionicum. As a result，

the chitosan sheet showed high antibacterial activity that decreased the number of the bacteria to less than 11100

compared with the control.

1. はじめに

カニ殻を化学処理して得られるキトサンは、食品

や工業製品、医療品、 化粧品などの分野で利用され

るようになってきたが、実際にはその需要の大半は

食品分野での利用である。

そこで、キトサンの新たな市場開拓のため、美容

用途での利用を目的にキトサンを主原料にしたシー

ト状素材を開発し、このキトサンシートの抗菌特性

を評価した 1)。

2. 実験方法

2.1 供鼠鼠料

2. 1. 1 キトサンシート

キトサンシートは、甲陽ケミカル株式会社製を使

用した。

以下にキトサンシートの製造方法を示す。

キトサンシートは、キトサンを酢酸水溶液に溶解

*甲陽ケミカル株式会社

させたキトサン溶液を袋に入れたものを板に挟んで

薄膜状に凍結する。これを袋から取り出して凍結乾

燥し、さらに温風乾燥によってキトサンを不溶化さ

せて得られる厚さ 1.5mmのスポンジ状のシートで

ある(図1)。

図1 キトサンシートの外観

-45-

2.1.2 キトサンシートの特色

キトサンシートには、 表 1に示したような特色が

ある。

キトサンシートは、表面が非常に滑らかで、肌触

りもよく、迅速な吸水速度と高い吸水量を示す。

吸水後はシノレク様p滑らかな柔軟性を有し、水分

保持能力が高く、長時間水分を保持できる。

既存のコラーゲンシートと比較しても同等の物性

を示し、平均ポアサイズは 35μmの安定した多孔構

造を持っている(図 2、図 3)。

キトサンシートの場合、酸性水溶液中で安定な物

質であれば、シート製造時に機能性成分を配合する

ことも可能である。

表 1 キトサンシートの特性

厚み(mm)

吸水速度※

吸水倍率(倍)

平均ポアサイズ(μmφ)

キトサンシート

1.5

1秒以下

45

35

コラーゲンシート

1.2

1秒以下

38

73

湿潤強度(N/cm2) 2.1 1.8

※シート上面に O.1mlの水滴を落とし、完全吸水までに要する時間

キトサンシート ー コラーゲンシート

図2 キトサンシートの特性(電子顕微鏡写真)

-46

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2000

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P・E・Di_t・rUlicron)

Total cumulative volume(mms/g): 13004.8 Tota'l specific surface area(m2!g) :44.4 Average pore diameter(Micron) :34.58 T otal porosity(%): 96.3 Bulk density(g/cmJ): 0.074 Apparent density(g/cmJ): 1.980

図3 ポロシメーターによるポアの分布測定

2.2 抗菌賦験

2.2.1 使用した菌株

キトサンシートは、 美容用途を目的に開発された

ことから、肌に悪影響を及ぼすといわれる 3種類の

細菌を用いて抗菌性を評価した。

通性嫌気性グラム陽性球菌

Staphylococcus aureus subsp. aureus (NBRCI4462)

黄色ブドウ球菌:表皮感染症、食中毒の起因菌。

嫌気性グラム陽性梓菌

Propionibacterium acnes (JCM6425)

アクネ菌:ニキピの起因菌。

Propionibacterium propionicum (JCM5830)

皮口腔内の常在菌で、放線菌症、 i戻管炎の起因菌。

2.2.2 培養条件

S. aureusは、 表2に示した培地で培養した。

表2 S aureusの液体培地組成

Polypepton 10 g

Yeast extract 2g

MgS04・7H20 1 g

Distilled water 1 L

pH 7.0

前培養は、凍結保存しておいた菌株を液体培地に

接種し、 370

Cにおいて約 17時間振とう培養した。

研究報告 No.10 (2007) 鳥取県産業技術センター

の生菌数を平板培養法により計測した。P. acnes及びP.propionicumは、表 3に示した半流

P. acnes及びP.propionicumの場合、 24穴マイク動培地で培養した。

ロプレートに入れたシート上に前培養した菌液 0.1尺 acnes及び Ppropionicumの半流動培地組成表3

ml及び半流動培地 0.4mlを添加した後、マイクロプ

レートをアネロパック ・ケンキで嫌気条件とし、370C59 g

2g

1 L

GAM broth

で3日間嫌気培養した。Agar

Distilled water

前培養した菌液は、表 5に示した平板寒天培地に

よって初発菌数を測定した。前培養は、凍結保存しておいた菌株を半流動培地

に接種し、 370

Cにおいて約 24時間静置培養した。

表5P acnes及びPpropionicumの平板寒天培地組成

59 g

15 g

1 L

GAM broth

Agar

Distilled water

評価用シートの調製2.2.3

ゲ一フコキトサンシートの他に、抗菌試験には、

ンシート、局方ガーゼを用いた。

キトサンシートおよびコラーゲンシートは予め、P. acnesの場合の初発菌数は 1.2x 103 cfu/ml前後、

エチレンcm角にカットし、シート、ガーゼとも 1X 105 cfu/ml P. propionicumの場合は 5.9X102

""'1.2 オキサイドガスにより滅菌したものを用いた。

であった。コフキトサンシートは 2キ文、抗菌試験の際には、

シート内の生菌数を測定するため3日間培養後、ーゲンシートは 3枚、ガーゼは 8枚重ねにしたもの

シート内の菌を生理食塩水で洗い出し、培養後

の生菌数を平板培養法により計測した。をシート内部にエチレンオキサイドガスが残留しな

いよう十分エアレーションしてから用いた。

結果と考察

各シート男IJのグラム陽性通性嫌気性球菌丘aureus

3. 生菌数の測定

S. au陀 usの場合、試験管に入れたシート上に前培

養した菌液 0.1ml及び増殖培地 0.4mlを添加し、

2.2.4

における接種 24時間後の初発菌数の生菌数に及ぼ

す影響を図 4に示した。370Cで24時間静置培養した。

109

108

107

10S

105

1Q4

(一

E3』心)採担

制

前培養した菌液は、表4に示した平板寒天培地に

よって初発菌数を測定した。

S. aureusの平板寒天培地組成

Polypepton

Yeast extract

10 g

2g

1 g

1し

表4

ガーゼコテザンシート・5cfu/ml Control キトサンシート

口40cfu/m1

103 MgS0407H20

Distilled water

15 g

pH 7.0

Agar

S. aureusにおける初発菌数の影響図4

S. aureusの場合の初発菌数は、 40c白Imlまたは 5

5 cfu/mlのS. aureusでは、初発菌数が 40cfu/ml、cfu/mlであった。

キトサンシートの生菌数が最も

低く、増殖が抑制されてた。次いでコラーゲンシー

47-

どちらの場合でも、24時間培養後、シート内の生菌数を測定するため

シート内の菌を生理食塩水で洗い出し、培養後

キチン ・キトサンシンポジウム(日本キチ第 20回トが低く、やや増殖が抑制されていたが、ガーゼに

ン ・キ トサン学会主催)において口頭発表した内容は、増殖抑制作用は認められなかった。

を取りまとめたものである。各シート別のグラム陽性通性嫌気性球菌 S.aureus

グラム陽性嫌気性梓菌 P.acnes の接種 24時間後、

献文propionicumの接種3日後の 3菌株に対す及び P.

1)高田光，有福一郎;キトサンシートの抗菌特性，キる生菌数を図 5に示した。

12， 2， p. 182-183， (2006). チン ・キ トサン研究，

1010

109

1()8

107

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105

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ロガー寸f図コラーヴ曾ン~ート-キトサンシートロControl

3種類の菌株に対する各シート別の生菌数図5

キ トサンシートの場合、コン トロールと比較して、

丘 aureusでは、 9.9X 107 cfu/ml から 2.5x 105 cfu/ml

に、P.acnesでは、2.9x 109 cfu/mlから 3.8X 106

propionicumでは、6.4X 108 c白Imlか

ら4.5x l06 cfu/ml に、菌数が 1/100以下に大きく減

cfu/ml に、P.

少していた。

コラーゲンシートの場合、 S.aureusでは、9.9X 107

cfu/mlから 9.4X 106 cfu/mlに、菌数が 1110程度減少

prOplOnlCUm する傾向が認められたが、P.acn回やP.

などの嫌気性菌で、は僅かに減少する程度で、あった。

3菌株とも菌数に減少は認められなガーゼには、

かった。

以上の結果より 、美容用途向けに開発されたキト

サンシート には、表皮感染症の原因となる s.制問凶

(黄色ブ ドウ球菌)やニキビの原因となる P.acn白

propionicumに対して、菌数を 11100(アクネ菌)、P.

以下に減少させる高い抗菌性があることが確認され

た。

おわりに

本研究成果は、 2006年 8月に福井市で開催された

-48-

4.