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1 モンスーンアジアの水問題(2) モンスーンアジアの水問題(2) 「世界の水問題」の中での「アジアの水問題」 モンスーンアジアの水問題は何によって特徴付けられるか -安定帯と変動帯における水問題の相違- 湿潤アジアに特有な水文・水資源問題の事例 新疆ウイグル自治区・タリム盆地(タクラマカン沙漠)の オアシスの特徴 カラコルム山脈 天山山脈 タリム盆地 カシュガル 崑崙山脈 西域南道 天山南路

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モンスーンアジアの水問題(2)モンスーンアジアの水問題(2)

• 「世界の水問題」の中での「アジアの水問題」

• モンスーンアジアの水問題は何によって特徴付けられるか-安定帯と変動帯における水問題の相違-

• 湿潤アジアに特有な水文・水資源問題の事例

新疆ウイグル自治区・タリム盆地(タクラマカン沙漠)のオアシスの特徴

カラ

コル

ム山

天山山脈

タリム盆地

カシュガル

崑崙山脈

西域

南道

天山南路

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乾燥・半乾燥変動帯の特徴

変動帯の乾燥・半乾燥地域では、安定帯と異なる特徴をもつ。その詳細な整理は今後の課題とするが、中国の新疆ウイグル自治区・タクラマカン沙漠 にそうした例を見る

多雨地帯

乾燥・半乾燥地帯

変動帯の乾燥地とオアシスータクラマカン沙漠

カシュガル郊外:カラコルム山脈-山岳沙漠/扇状地-オアシス-沙漠

カラコルム山脈

山岳沙漠

扇状地

オアシス

沙漠

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人工衛星LANDSATで見るカシュガル南部周辺雪を頂くカラコルム山脈-山岳沙漠-扇状地-オアシス

ケイズ河

カラコルム

山脈

山岳

沙漠

オアシス

扇状地

ケイズ河(扇状地河川):規模は違うが、日本の東海扇状地河川、北陸扇状地河川に似た河道状況

ケイズ河の取水堰

扇頂での取水は、扇状地河川に共通な取水方式

扇状地河川ケイズ河の河道(勾配90/1と急流)

黒部川扇状地

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安定帯沙漠オアシスとの相違:融雪洪水予報、扇状地河道の安定化等、治水対策が重要

ニヤとホータンの間に位置するケリヤ河の聖牛水制(この辺り、水田地帯)

ニヤ~ホータン間のシルクロードを直撃する融雪出水(2002年6月)

ホータン~カシュガル間の道路に設けられた融雪出水排水路

••欧米では、特殊な水循環過程をもつ石欧米では、特殊な水循環過程をもつ石灰岩地帯を対象に灰岩地帯を対象に““石灰岩地帯水文学石灰岩地帯水文学((KarstKarst hydrologyhydrology))”” なる分野が成立なる分野が成立

しているしている

••変動帯/火山地帯は、特殊な水循環過変動帯/火山地帯は、特殊な水循環過程と土砂生産・流出過程をもっており、程と土砂生産・流出過程をもっており、““火山水文学(火山水文学(volcanic hydrologyvolcanic hydrology))””の体系化が待たれるの体系化が待たれる

Mt. Fuji and its springs

変動帯と安定帯とでの水文・水資源学研究上の相違

“火山水文学”の成立へ

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変動帯と安定帯とでの水文・水資源学研究上の相違

土砂生産/流出の相違

• 安定帯での土砂生産の主体は、雨滴による土壌剥離と地表流による侵食-“Universal Soil Loss Equation (USLE)”として定式化

• 変動帯では、侵食のほかに、山地崩壊/地滑り、火山噴火、土石流などの不連続な土砂生産の効果が大きい -難しいが、これらの見積もりが必要

地滑り 火山噴火 土石流

日本の経験とその発信、特にアジアに向けて

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日本は、近代化の過程における水分野での様々な経験を基に国際貢献が可能ー特に、アジア途上国への貢献.

我が国は、伝統技術から世界最先端技術まで、ハード・ソフト両面にわたって多彩な社会基盤技術があり、自己の近代化の成功と失敗を踏まえて、西欧文明と異質の文明をもつ開発途上国、ことにアジアモンスーン地域や地震多発地帯の国々の近代化と開発に馴染みやすい技術を開発・移転する可能性をもった国である。(「科学技術基本計画に基づく分野別推進戦略」 総合科学技術会議 平成13年9月 “社会基盤分野” p.89)

水分野、中でも「総合的水管理/流域管理」における日本の経験-特に、第2次大戦後の急激な変化-

・ 戦後復興期の深刻な水害と食糧不足・ 高度経済成長期の水不足、水域汚染と公害・ 都市水害の激化・ 山地災害への対応・ 環境の保全・回復への試み

日本における水政策の展開経緯(1)

<第2次大戦後>

-戦後復興期~高度成長前期(治水/利水問題への対応)-

1950 国土総合開発法 河川流域総合開発事業

1953 治山治水基本対策要綱 河川流域単位の国土保全

1956~1958 工業用水法・工業用水道事業法 地下水から表流水への転換・地盤沈下対策

1957 特定多目的ダム法 治水と利水の調整・統合

1958 公共用水域水質保全法・工場排水規制法 (地域指定、罰則なし)

1960 治山治水特別措置法・治水特別会計法 森林保全、砂防、治水による国土保全、治水長期計画の基礎

1961 水資源開発促進法・水資源開発公団法 流域(主要水系)単位の水需要計画、利水部門間、地域間の協力

1963 第一次下水道整備五ヵ年計画 衛生改善、水質浄化の基礎

1964 新河川法 水系一貫の治水・利水計画

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日本における水政策の展開経緯(2)

<第2次大戦後>

-高度成長後期以降(地域/環境問題の顕在化)-

1967 公害対策基本法

1970 水質汚濁防止法 一律基準と上乗せ基準による工場廃水等の規制

1970 流域別下水道整備計画 流域単位の水質管理の嚆矢

1972~1973 琵琶湖総合開発特別措置法・水源地域対策 水源地域と下流受益地との

特別措置法 連携・交流

1974 渇水調整協議会の設置要請 渇水時の利水者間の調整

1977 総合治水対策 について河川審答申 都市河川における流域対策

1984 湖沼水質保全特別措置法 水質の総量規制

1987 超過洪水対策としての高規格堤防推進の提言 築堤事業と市街地再開発事業との連携

日本における水政策の展開経緯(3)<第2次大戦後>

-バブル形成/崩壊期・停滞期(地域・環境問題の解決重視)-

1988 発電水利権の更新時における 渓流部の無水・減水区間の緩和河川維持流量放流の確保

1991 近自然型の川づくり推進の提言 河川の自然生態系の保全・回復

1993 清流ルネッサンス事業 河川水質改善へ向けての関連部局の連携

1994 洪水ハザードマップの公表 地域防災と洪水災害に対する自己責任

1995 水道水源二法 水道水源保全のための水道部局と河川・下水道部局との連携

1997 河川法改正 河川環境の保全を目的に加え、地域住民参加を規定

1998 健全な水循環系構築に関する 流域総合水管理へ向けた水関連関係省庁連絡会議の発足 省庁部局の連携・協働の始まり

1999/2001 食料・農業・農村基本法の改正/ 外部環境との調和への配慮を規定土地改良法の改正

2001 土砂災害防止法 危険地区の指定、住宅等の立地規制、避難体制の整備等を含むソフト対策

2003 特定都市河川浸水被害対策法 河川、下水道、都市計画および地方自治体の役割分担と連携を規定

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モンスーンアジア諸国への発信に向けて

・一連の流れとして見れば、急激な社会の変化に対して適切に対応.総合水管理/流域管理のツールは整いつつある.(世界的に見ても誇れる)

・それぞれの施策の意図、科学技術的背景、経過と効果などについての評価・検証が必要

・アジア途上国では、日本が戦後50年余に経験し対処してきた水問題に一挙に対応を迫られている.日本の成功と失敗事例を参考としながら、いかにより短期間に改善する方策を適用できるかが鍵.

・日本の最新の技術を途上国に適用することは無理.途上国の実情にあった技術(アジアの知恵に学ぶ)の適用と開発が必要.これらは、日本に逆輸入される可能性.

流域計画管理論ー世界の灌漑ー

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地球上に存在する水の大部分は海水で、淡水は2.5%

淡水の3分の2は氷河の氷、3分の1は地下水地表水(湖、沼、河川)は0.0075%

地球上の水の状態

数千年 30年 20年

加速する世界の水使用量

7割

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世界の耕地面積と1人当たり耕地面積の推移

耕地面積の増加が人口の増加に追いつかない

18%の灌漑耕地で世界の食料生産量の約4割を生産

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耕作地面積率(1度グリッド)

*世界の水消費の約70%は農業用水であり、農作物の約40%は灌漑で栽培

*灌漑農地の大部分(70%)がアジアに集中

灌漑耕地面積率(1度グリッド)

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全球灌漑要求水量分布I0実験 10年平均

全球灌漑要求水量分布

①②

① ②

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274,166138,989世界の灌漑耕地面積

1999年1961年

(単位:千ha)

世界の穀物生産量とかんがい耕地面積の推移

1人当たりの耕地面積が少ないアジアとヨーロッパで灌漑率が増加

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年降水量と年可能蒸発散量の差の分布

カナート:竪坑を設け、地中に、横に数百mから数十kmのトンネルを掘って地下水を集める。

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通常時は水が流れない涸れ川に堰を設け、洪水期に取水する

Water Harvesting:降水を集めるため、一定の広さの土地を

確保し、その土地の窪みや低部で耕作を行う

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キネレット・ネゲブ国営水路(イスラエル)

イスラエルでは、冬季に比較的まとまった降水がある北部のガリレー湖から、国を縦断する約200kmの水路を通して、年間3億トン以上の水を、

中部のテルアビブや降水がほとんどない南部のネゲブ砂漠に導水している。

平均:580mmシェラネバダ山脈:2000mm以上中・南部:250mm以下

米国カリフォルニア州の年平均降水量

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カリフォルニア州の主要水利施設

北部の降水を巨大なダム群によって貯水し、全長710kmのカリフォルニア水路等で導水し、300万haを

超える耕地を灌漑している。約90万haの灌漑耕地が塩

類集積の影響を受けている。

オーストラリアの南東内陸部のマレー川流域(年降水量約400mm)では、遠方の

巨大なダム群から導水する灌漑システムによって、約12万haの水田地帯を開発。

広大な水田からの水の地下浸透が進んだため、周辺の畑地や樹園地に湿害や塩害が生じるようになった。地下水を強制排水しているが、塩類を多量に含む排水は下流河川に放流できず、農地を買収して設けた2100haもの広大な蒸発池に送水して蒸発

させている。

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米国中部では、テキサス州北部からオクラホマ州、カンサス州、コロラド州、ネブラスカ州に至るオガララ帯水層の地下水を利用した「センターピボット方式」による大規模農業が展開。降水によって涵養される水量の約3倍にものぼる年間222億トンの地

下水を汲み上げているため、地下水位の低下が問題となる。揚水コストの上昇等により、同帯水層に依存する多くの農民が、灌漑農業を放棄している。