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NTT技術ジャーナル 2014.3 77
ソリューションサービスを極める
Wi-Fi関連事業の展開における 最近の取り組み
NTTブ ロ ー ド バ ン ド プ ラ ッ トフォーム(NTTBP)が提供しているWi-Fi関連の事業ドメインを図 ₁ に示
します.NTTBPでは,駅や空港をはじめ生活の導線上のさまざまな場所にAP(Access Point)を設置し,通信キャリア向けの設備卸事業,コンテンツ配信やインターネット認証を組み合わせたWi-Fiクラウド事業を中心とする
Wi-Fi関連サービスを提供しています.これらの事業の展開に向けた最近の取り組みについて説明します.■共用型APによる高品質で安定したWi-Fi 環境の実現Wi-Fiは 3 GやLTEといった携帯電
話事業で使用されているライセンスバンドと異なり,電波を送出するための無線局免許が不要である2.4 GHz帯や5 GHz帯のアンライセンスバンドを使用する通信であり,PCやスマートフォンだけでなく,ゲーム機やTV等,さまざまな機器で利用されています.また,2.4 GHz帯はBluetoothでの通信や電子レンジ,産業機械等においても使用されており,アンライセンスバンドであるがために,干渉による通信品質の劣化を回避することが重要な課題となります.
ここで,具体例として東京のある駅の近辺で2.4 GHz帯の電波強度分布を測定した結果を図 ₂ に示します.2.4 GHz帯において,すべての周波数域にわたり一定の強度以上の電波の存在が多く確認できることから,実際にこの場所には多くのAPやモバイルルータ等の無線機器が存在していることが想
図 1 NTTBPの事業ドメイン
設備卸事業(基盤事業)
NTTBP コアネットワーク NTTBP コアネットワークPOI
Wi-Fi クラウド事業
Wi-Fi クラウド
■通信キャリア向けの設備卸事業を展開■駅・空港の優良立地を中心にAPを設置■複数キャリアへ設備を貸し出し■今年度末16万APまで設置
■設備卸事業で設置したAPと,コンテンツ配信や インターネット認証等のクラウドサービスを 融合した新サービスを展開■非通信キャリアのユーザが急増
セブン&アイ・ホールディングス
任天堂
福岡市
成田国際空港 など
インターネット認証
コンテンツ配信
外部連携GW
クーポン
事例セブンイレブン様
動画配信
店舗情報
無料Wi-Fi
スタンプラリー
NTTドコモ ソフトバンク
ケイ・オプティコムUQWi-FiNTT東日本 NTT西日本
今年度末16万AP駅・空港・コンビニ等生活導線をフルカバー
東海道新幹線車内無線LANも提供
ソリューションサービスを極める
Wi-Fi クラウドサービス 認証技術
スマートフォン普及が急速に進み,多様なアプリケーションの利用に伴いモバイルネットワーク上のデータも爆発的に増加しています.NTTブロードバンドプラットフォーム(NTTBP)では,移動体トラフィックの効率的なオフロードの実現や新たな付加価値の提供を実現するために,無線 LAN(Wi-Fi:WirelessFidelity)を活用した事業を展開しています.ここでは,Wi-Fi によるアクセスを軸にNTTBPが提供しているサービス,および関連する技術について紹介します.
北ほうじょう
條 博ひ ろ し
史NTTブロードバンドプラットフォーム
NTT グループの Wi-Fi プラットフォームを支える NTTBP の取り組み
NTT技術ジャーナル 2014.378
定できます.このような環境下では,多くの機器
が帯域を奪い合うことになり,無線区間でのパケット損失等個々のエンドエンドの通信に支障をきたします.また,APでは通信に必要なSSID(Service Set Identifier)を定期的(100 ms間隔)に送出するビーコンを通じて端末に通知しますが,多くのAPが存在することにより,個々のAPが送出するビーコンにより帯域が圧迫されるという問題も生じてしまいます.
そこで,NTTBPでは干渉の回避策として,比較的干渉が少ない 5 GHz帯の周波数の使用を推進するとともに複数の事業者で共用しサービスを提供可能な共用型APを展開しています(図₃ ).共用型APでは 1 つの物理的な無線回線や物理インタフェースに対してVLANを用いて複数の論理構成に分割することで, 1 つのAPで複数の異なるSSIDを提供しています.これによ
り,無線パケットの不必要な衝突を回避し,効率的なチャネル設計を実現することで無線区間の通信品質を向上させつつ,複数の事業者によるサービスを提供することが可能となります.また, 1 つのAPを複数事業者で共有で
きるため,事業者としてもAP構築の初期コストや運用コストの負担を低減できるというメリットがあります.■クラウドサービスを融合したWi-Fiクラウド事業による付加価値提供共用型APは,前述のような品質や
図 2 電波が干渉している地点での電波強度分布
(dBm)
周波数2410 2420 2430 2440 2450 2460 2470 2480 (MHz)
‒20
‒30
‒40
‒50
‒60
‒70
‒80
‒90
電波強度
■■■■分布:少 多
アクセスネットワーク
図 3 共用型APの概要
Radius Radius Radius事業者A 事業者B 事業者C
IPアドレス:A
A事業者STA
C事業者STA
B事業者STA
IPアドレス:B IPアドレス:C
アクセスポイント
各事業者にL2サービスを提供
マルチ仮想アクセスポイント
SSID: A SSID: B SSID: C
マルチRadius事業者ごとに異なる認証処理
マルチIP1 つの物理インタフェースを論理的に複数に分離
マルチBSSID1 本の無線回線を論理的に複数回線に分離
マルチVLAN1 本の物理インタフェースを論理的に複数インタフェースに分離
BSSID: Basic SSIDSTA: Station
NTT技術ジャーナル 2014.3 79
ソリューションサービスを極める
コストの観点だけでなく, 1 つのAPにて,事業者ごとに異なるサービスを提供できるというメリットもあります.特に最近は,キャリアが提供するトラフィックのオフロードを目的とするWi-Fiサービスに加え,コンテンツ配信やインターネット認証等のクラウドサービスを融合したWi-Fiクラウド事業にも力を入れています.Wi-Fiクラウド事業では,コンビニエンスストア,自治体,地下鉄,スタジアムといった多様なエリアオーナーに対して特定スポットでの付加価値向上を提供しています(図 4 ).認証やIPアドレスの払出しを通信キャリアに委ねるAPの設備卸事業とは異なり, Wi-Fiクラウド事業ではNTTBPが提供する閉域IP網内に認証やコンテンツ配信のサーバを配備し,一定時間のフリーインターネットアクセスに加え,エリアごとに
異なるスポット的なサービスを提供できる仕組みを確立しており,多様なエリアオーナーによるWi-Fiサービスを実現しています.
ここでWi-Fiクラウド事業の実例を
紹介します.西武ドームでは,無料Wi-Fiサービスに加え,野球観戦に来たお客さまを対象にクラウドにて選手名鑑やリアルタイム対戦データなど多様なコンテンツが楽しめるサービス
図 4 ビジネスモデルの変遷
+
NTTBP ネットワーク
Wi-Fi クラウド
駅・空港 駅・空港カフェ カフェ 自治体コンビニ コンビニ
インターネット認証
外部連携GW
コンテンツ配信
NTTBP ネットワークPOI
NTTドコモ セブンスポット
MANTA Lions Wi-Fi Fukuoka City Wi-Fi
プレイヤー
これまで
国内通信キャリア
高速ワイヤレスネット接続オフロード
現在,これから
多様なエリアオーナー
特定スポットでの付加価値提供主な目的
ソフトバンクケイ・オプティコムUQWi-FiNTT東日本 NTT西日本
今年度末16万AP駅・空港・コンビニ等生活導線をフルカバー
エリアオーナーが自社顧客に対して「今だけ・ここだけ・あなただけ」の情報を配信
図 5 Wi-Fiクラウドで提供されているコンテンツ例
楽しい,便利,共有をキーワードとした多様なコンテンツを提供【 スマートフォンでのイメージ 】
①無料インターネット1回90分,1日 3回インターネットへ接続できます
⑤広告欄複数スポンサーのバナーが切り替わります
⑥カレンダーライオンズの試合日程をご紹介します
⑦グルメ西武ドーム内のグルメ情報をご紹介します
⑧ベースボールクイズ「Lビジョン」に表示されるクイズに挑戦できます
⑨ライオンズ公式サイトライオンズ公式サイトがご覧いただけます
②選手名鑑ライオンズの選手をご紹介します
③動画「Lions@YouTube」がご覧いただけます
④リアルタイム対戦データ球場で行われている試合情報をお手元にお届けします
NTT技術ジャーナル 2014.380
「Lions Wi-Fi」(図 ₅ )を提供しています.このようなエリアオーナーが利用者に対して,「今だけ ・ ここだけ ・あなただけ」の情報を配信するプラットフォームとしてWi-Fiクラウドを活用する事例が増えてきています.
また,西武ドームのような野球場は狭い範囲に多くの利用者が密集するというエリアであるため,エリア設備にも工夫を施しています.図 ₆ に示すように, 1 つひとつのAPがつくるエリアを小セル化し,その設置密度を上げることで数万人規模のユーザ利用を想定した通信容量とカバレッジを確保しています.
次に共用APやWi-Fiクラウドの利点を活かし,認証を共通化したJapan Connected-Free Wi-Fi(表)について紹介します.このサービスは主に外国人観光客向けに無料Wi-Fiの利便性向上を目的に,スマートフォン向けのアプリケーションとして2013年の11月から提供を開始しました.このアプリケーションを利用すると,初回起動時にメールアドレス等を登録するだけでさまざまなエリアで提供されている異なる無料Wi-Fiサービスを統一的に利用できます.これはクラウドサービスで提供している認証基盤を活用し,かつアプリケーションのほうで認証処理を自動化することで,異なるエリアにおいてそれぞれサービス登録することなくサービスを受けられるようにしています.
「つながりやすさ」の向上に向けて
NTTBPでは,Wi-Fiの高速化への対応のほかにも,利用者に対してつながりやすい無線環境の提供に向けて,最新技術の活用についても検討を進めています.
その 1 つがSIM認証* 1やPasspoint* 2
の活用による,Wi-Fi接続の自動化です.これまでWi-Fiを利用するためには,提供元のWebページを通じてログイン処理等,利用者が決められたIDやパスワード等を入力することで接続を確立していました.SIM認証を適用することでWi-Fi利用時にその都度ID等を入力することなく認証を行うこともできますし,Passpointを活用することで利用者の意向や提供元のポリシーに基づいた最適なネットワークの自動検出や選択が可能となります.これらを併用することで利用者は無線レイヤの通信を意識することなくWi-Fiに自動接続することが可能になります.
また,NTTBPではエンドエンドの通信をシームレスに行うための技術の活用についても検討を進めています.
Wi-Fi自動接続による課題として,Wi-Fiエリアへの侵入 ・ 離脱時の自動接続による低品質エリア(図 ₇ )への対処や利用者端末でのWi-Fiと 3 G/LTE切替に伴うセッション断への対応等が挙げられます.
Wi-Fiエリア侵入 ・ 離脱時の課題に関しては,APのカバー範囲の境界近辺に顕著であり,想定しているスループットを得られないという状況になります.特にエリアの端点に存在する利用者を認識し,Wi-Fiへの接続を制限するといった無線ネットワーク側でこ
*1 SIM認証:接続端末の認証方式の1つであり,端末内のSIMカードの情報を用いて認証を行います.
*2 Passpoint:Wi-FI Allianceが推進する認定プログラムの1つであり,ネットワークの自動検出・選択機能やプロバイダ間のローミングなどをサポートしています.
図 6 高密度エリアを考慮したAP配備
エリア設計概要図 ドーム型球場におけるAP設置
今までのソリューション
APのセル
今回のソリューション
高密度なエリア設計
【上半分カバー】•高指向性アンテナを 設置
【下半分カバー】•指向性パッチアンテナを 設置
【中段部カバー】•指向性パッチアンテナを 使用
表 JapanConnected-FreeWi-Fiサービスの特徴
JapanConnected-FreeWi-Fi 参考:従来のブラウザ利用(個々のエリア)
ユーザ登録 アプリ初回起動時のユーザ登録(1度だけ)のみで全サービス利用可能 各サービスごとにユーザ登録が必要
登録制限 登録期限は無制限(₉0日間接続がない場合,再度登録が必要)
各サービスごとに設定された登録期限後に,再度ユーザ登録が必要
利用制限 各サービスごとの利用時間および回数制限が適用
エリア検索 全エリアの住所や地図をアプリから一元的に確認
各事業者(エリアオーナー)のホームページ等で個別に確認
NTT技術ジャーナル 2014.3 81
ソリューションサービスを極める
の 問 題 を 回 避 す る 技 術 に 関 し て,NTT研究所とも連携し検討を進めています.
さらに複数のアクセス回線の切替に関 す る 課 題 に 対 し て は,MPTCP
(Multipath TCP)* 3や,ANDSF(Access Network Discovery and Selection Function)* 4,SaMOG(S2a Mobility Based on GTP & WLAN access to EPC)* 5等さまざまな方式の検討を進めています.その一例として図 8 にIP
レイヤでのシームレスな通信を実現するMPTCPの概要を示します.MPTCPはサーバと連携し,利用者端末側で複数のIPアドレスを併用した通信を実現する技術であり,無線レイヤの切替時に適用することで,IPアドレスの変更に伴うエンドエンド通信の切断回避や複数のアクセス網を併用した品質向上への活用が期待できます.
今後の展開
Wi-Fi関連サービスを提供し始めてから約12年が経過しましたが,技術の進歩は早く,通信速度も802.11b規格の11 Mbit/sか ら 始 ま っ た 無 線 接 続サービスも,最近では802.11ac規格に対応した最大1.3 Gbit/sの高速なサービスも提供され始めつつあります.さらにWi-Fi接続時の処理を自動化する
SIM認証やPasspointといった技術の導入により,よりつながりやすいWi-Fiサービスへと進化を遂げつつあります.これからはつながりやすいネットワークを提供するだけでなく,個々のユーザに対していかに付加価値を提供していくかが大きな課題だと考えています.また, 6 年後には東京でビッグイベントが行われることから,今後は外国人観光客の増加が予想され,観光地や競技場といったさまざまな場所においてさらに便利な無線サービスを提供することも重要な課題です.今後も場所や利用者の特徴に応じたきめ細かいサービスの迅速な提供を目指していきたいと考えています.
北條 博史
Wi-Fi を快適に利用してもらうためには,利用者が接続するネットワークを意識することなく,QoE の高いネットワーク体験を享受できることが重要です.無線アクセス方式をはじめ,エンドエンドで品質の高いサービスを迅速に提供していきたいと思います.
◆問い合わせ先NTT ブロードバンドプラットフォームサービス開発部TEL 03-6810-2628E-mail info_srvdev ntt-bp.com
図 7 自動接続による課題
端末がエリアを横切るときのWAN回線LTE接続 LTE接続
課題①エリア侵入時の低品質
課題②エリア離脱時の低品質
Wi-Fi スループットLTEスループット(一定と仮定)
△回線切替
AP
△回線切替
スループット
Wi-Fi接続
LTEスループットWi-Fi スループットユーザの体感スループット
図 8 シームレスな通信の実現に向けた技術の活用案
端末
3G/LTEサービス網(3G/LTE)
Wi-Fiサービス網
3G/LTEとWi-Fiを併用して通信(切替時の断時間なし)
(Wi-Fi)
アプリ
MP-TC
PMP-TC
P
MP-TC
P
TCP/IP
TCP/IP
サーバ
サーバAP
*3 MPTCP:RFC6824で規定されているTCPの拡張であり,ピア間のTCPコネクションを複数パスにて実現することでスループットの向上やネットワーク障害への耐性を向上させます.
*4 ANDSF:携帯電話のアクセスネットワークや,Wi-Fi等のアクセスネットワークの接続ポリシーを携帯端末に提供する機能です.
*5 SaMOG:3GPPで標準化に向けて議論されているWi-Fiと3Gもしくは,Wi-Fiネットワーク間をシームレスにハンドオーバするための技術です.