20
本稿は, 近年注目されているデザインについて, 事業イノベーションとの関連で今日的 な役割や重要性を考察し, 「思考としてのデザイン」 の視点から事業戦略やマーケティン グとの関わりを Review (概観) することを目的としている。 デザインの発想や思考は, アップル, ダイソン, サムソンなどによる事業イノベーションの高まりとともに重要性が 認識され, 筆者が専門とするブランドマネジメントでは 「事業イノベーションからのブラ ンド価値への転換」, また筆者の出自とする広告領域では, 広告会社とコンサルタント会 社との 「事業競合」 での提供スキルを巡って重要なテーマとなっている。 また公共サービ ス分野でのサービスデザインへの注目や, さらにはデザインスクールでのビジネス教育で の斬新な取り組みも紹介され, その重要性の認識は広がりつつある。 しかし, デザイン分 野と事業戦略やマーケティング分野を橋渡しする議論は少なく, 経営にとってデザインの 役割は十分に整理・解説されていないと言える 1) 。 その意味で, 本稿が焦点を当てたいの は, イノベーションがもたらすビジネス変化を辿り, そこでのデザイン概念の重要性を認識 するとともにマーケティングやブランディングとの接合から論点をまとめ, 概観することに ある。 21 先端デジタル技術による事業イノベーションの高まりとともにデザインは, 従来 の概念範囲 (ビジュアルでの記号や図案構成) を超えて, 人間の行動のインタラク ションや社会システムをも対象として組み込み, そこでの人間にとっての好ましい 体験や関わり方を導きだす設計思考という領域に拡張している。 今後, プラットフォー ム事業でのサービスが重要となる中で, デザインは人間視点からモノの見方を変え る構想力 (Human Centered Design) として事業プロセス全般に関わるとともに, 顧客との価値共創を導くアプローチとして事業スタイルや組織のあり方, さらには 社会システムや公共サービスへとその可能性を広げている。 事業イノベーションと 拡張するデザインの可能性

事業イノベーションと 拡張するデザインの可能性 › iba › journals › review › BandA_review_vol23_p21-40.pdf(3)デザインは,事業イノベーションに対してどのような戦略可能性をもたらすのか?

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� は じ め に

本稿は, 近年注目されているデザインについて, 事業イノベーションとの関連で今日的

な役割や重要性を考察し, 「思考としてのデザイン」 の視点から事業戦略やマーケティン

グとの関わりを Review (概観) することを目的としている。 デザインの発想や思考は,

アップル, ダイソン, サムソンなどによる事業イノベーションの高まりとともに重要性が

認識され, 筆者が専門とするブランドマネジメントでは 「事業イノベーションからのブラ

ンド価値への転換」, また筆者の出自とする広告領域では, 広告会社とコンサルタント会

社との 「事業競合」 での提供スキルを巡って重要なテーマとなっている。 また公共サービ

ス分野でのサービスデザインへの注目や, さらにはデザインスクールでのビジネス教育で

の斬新な取り組みも紹介され, その重要性の認識は広がりつつある。 しかし, デザイン分

野と事業戦略やマーケティング分野を橋渡しする議論は少なく, 経営にとってデザインの

役割は十分に整理・解説されていないと言える1)。 その意味で, 本稿が焦点を当てたいの

は, イノベーションがもたらすビジネス変化を辿り, そこでのデザイン概念の重要性を認識

するとともにマーケティングやブランディングとの接合から論点をまとめ, 概観することに

ある。

21

要 旨

先端デジタル技術による事業イノベーションの高まりとともにデザインは, 従来

の概念範囲 (ビジュアルでの記号や図案構成) を超えて, 人間の行動のインタラク

ションや社会システムをも対象として組み込み, そこでの人間にとっての好ましい

体験や関わり方を導きだす設計思考という領域に拡張している。 今後, プラットフォー

ム事業でのサービスが重要となる中で, デザインは人間視点からモノの見方を変え

る構想力 (Human Centered Design) として事業プロセス全般に関わるとともに,

顧客との価値共創を導くアプローチとして事業スタイルや組織のあり方, さらには

社会システムや公共サービスへとその可能性を広げている。

事業イノベーションと拡張するデザインの可能性

森 一 彦

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今日, デザイン概念は, 従来の範囲 (ビジュアルでの記号・シンボルや図案構成) をは

るかに超えて, 人間の行動のインタラクションや社会システムまでも対象とし, 人間にとっ

て独自の関わり方 (経験) を 「設計」 する思考へと領域が拡がっている。 重要なのは, 先

端技術によって予測をはるかに超えるイノベーションに直面する今日, その思考方法が,

人間の生活価値, 行動, 心理を起点とした観察・洞察により人とモノ, サービスとの意味

や関係性を類推 (アブダクション) し, 人間にとって新しい存在意義や意味を創出する

「構想力」 として, 社会変革や事業再編へのリード役が期待させている点である。 それは

一貫して人間中心 (Human Centered Design) の発想からモノの見方を変え, 今までにな

いコラボレーションを介してイノベーションを目指す点に特性がある。 こうした問題意識

から, デザインの可能性を, 以下の論点から論述する。

(1) デザインが, なぜ今日, 経営で重要テーマとなってきているのか?

(2) デザインはどのような役割を果たし, そのアプローチはどのようなものなのか?

(3) デザインは, 事業イノベーションに対してどのような戦略可能性をもたらすのか?

� デザインへの新しい文脈=どのように, デザインに注目が集まっているのか?

20世紀でもデザインは, ビジュアル, 商品パッケージ, シンボル形成など 「商業デザイ

ン」 として, 記号性からの差別化として消費を促し, 企業経営に大きな影響力をもたらし

てきた。 今日のデザインはそれとは異なる役割から注目を集めている。 その典型が, 2006

年ダボス会議での 「イノベーションと創造性」 という講演で話題となった米国のデザイン・

コンサルティングファーム IDEO Tim Brownに象徴される。 彼は, 「デザイン思考」 を掲

げ, 経済活動が知識創造やサービスにシフトする中で, イノベーションとデザインを結び

つけ, 開発プロセスの上流からデザインを活かしていく戦略的な役割を主張した。 こうし

22

行政 企業 デザイン会社 コンサルティング 教育トレンド

デザインを経営システムや公共政策への導入の提唱

イノベーション企業からのデザインへの注目, デザイナー職大量採用, 組織改編

「デザイン・イノベーション・ファーム」 の設立

事業コンサルティング会社での 「デザイン思考」の組み込み,

美術系, デザイン系大学でのビジネスコースの導入。

具体的な展開事例

◆経済産業省・特許庁「デザイン経営」 (2018)

◆内閣府・IT 推進事業本部 「サービスデザイン」(2018)

◆アップル, ダイソン,サムソンなどのデザインの活用, 戦略展開

◆ソフトウエアに関わる企業でのデザイナー大量採用, エンジニア職からの配置転換など IBM, GE, 日立・富士通, 東芝,NTT, NEC

◆中小企業, 既存の伝統産業でのデザインへの関わり (鯖江モデル, 中川政七商店)

◆IDEO (2001)LIVEWORK (2000)Engine (2003) などのデザインファーム

◆タクラム 「エンジニアリングデザイン」 (2015)WOW, Nando,

◆サービスデザイン会社(欧州で興盛となる)

◆コンサルタント系会社(アクセンチュア,デロイト, PwC) によるデザインファームの買収

◆ 「エクスペリエンス・スタジオ」 などの設置。

◆ロイヤル・カレッジオフ・アート (RCA)◆デルフト工科大学◆スタンフォード大学◆ミラノ工科大学

◆東京大学 I-School◆慶應大学システムデザインマネジメント◆京都大学デザインスクール◆立命館大学デザインマネジメント◆武蔵野美術大学造形構想学科

表1. 今日的なデザインをめぐる動き (森作成)

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たイノベーションへのリード役としてのデザインへの期待は AI, IoTなどによる事業変化

の加速とともにそれに引き寄せられるように 「産官学」 の幅広い領域から急速に高まって

いる。 こうした戦略を導く 「思考」 としてのデザインが注目され, その手法を様々な領域

で活用しようとする様々な動向が明らかになってきている。 (表1)

� テクノロジーがもたらすビジネス変化

こうしたデザインへの流れを捉えていくためにはここ10年ほどで急速に加速した先端デ

ジタル技術を介しての根底的なビジネス変化を確認しておく必要がある。 先端デジタル技

術は, サイバー・フィジカル・システム (CPS) に見られるようなリアル空間とサイバー

空間を融合し, 事業のあり方に大きな変化をもたらした。 特にソフトウエア・ツールを介

しての顧客=需要サイドのネットワーク効果から事業モデルは一変していく。 こうした経

緯に関しては先端デジタル技術がもたらした制度的変化, デバイスの進化, ユーザー世代

のシフトとともにビジネス・モデルの変容が相互に影響しあって加速した以下のような流

れが見て取れる。 (図1)

こうした流れを, Alsyyne Marshall. W. Van, et al (2018) は “PLATFORM REVOLU-

TION” としてビジネスモデルのシフトとして論じている。 それまで20世紀でのほとんど

の事業は商品を中心に構成されたパイプライン型ビジネスであり, そこでは起点となる生

産者 (商品・サービス) から到達点となる消費者へと 「パイプライン」 のような段階的に

価値が受け継がれ 「商品」 を完成するプロセスを辿る。 企業は, まずサービスや商品を設

計し, 製品を作り, それを販売先に供給し, それが消費者に届くプロセスとしてバリュー

チェーンを形成する。 パイプライン事業での焦点はモノの標準化やその生産プロセスを順

次改善することに当てられ, インターネットの役割もこうした流れでのサプライヤーの拡

事業イノベーションと拡張するデザインの可能性 23

図1. 21世紀でのビジネストレンド (森作成)

インターネット時代 2000年以降-業務改善での限界

スマートフォンの時代

3 G

4 G

IoT,AI,ロボテックスの時代

5 G

2004年-デザイン力への注目2006年ダボス会議での IDEO講演2004年 グーグル上場2004年 Facebook設立2004年-アップル i-Phone発売

2011年 『ソフトウエアが世界を飲み込む』(マーク・アンドリューセン)

事業スケーラビリティ(GAFA)

ミレニアム世代のメイン化UX (ユーザーエクスペリエンス)

ソフトウエア企業への転換(IBM-ワトソン,GE=Predix)

イノベーションへの投資シフト

プラットフォームビジネス

Everything-as-a-service(全ての産業がサービス化する)

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大, スピードアップ, コストダウンなどオペレーション側面を強く意識したものであった。

(図2)

しかし, 21世紀に入ると先端デジタル技術によるプラットフォーム型ビジネスが顕在化,

それが飛躍的に伸長し, パイプライン型ビジネスを解体代替していく。 ソフトウエアを介

してネットワークが幾何級数的に拡大し, 顧客との間でインタラクションを増加させると

ともに, 他社資源をもそこに組み込む, 「プラットフォーム事業」 (Airbnb, Uberなどに代

表される) が拡大する。 プラットフォームビジネスは, 生産者と消費者が相互にインタラ

クションを行うことにより価値共創していく場づくり事業である。 そこでは, ユーザー間

相互でのマッチングを行なわれ, 製品やサービスでの価値単位を交換しやすくし, 全参加

者にとって共通の価値基盤が創り出されていくのである。 “PLATFORM REVOLUTION”

ではプラットフォームは, 技術を介して人や組織, リソースを相互に関連付けて生態系に

してしまう特性を持ち, 以下の優位的特徴を持つことになると指摘する。

①プラットフォーム事業は, 自らが所有やコントロールしていない資源を用いて価値を

創造し, 従来の企業よりもはるかなスピードで急成長を遂げることができる。

②プラットフォームはサービス提供先である人々のコミュニティから価値を引き出す。

③プラットフォームは, ビジネスの境界線を不鮮明にし, これまでの企業の内部活動重

視から外部活動重視へと転回させる

このプラットフォーム・ビジネスは, Everything-as-a-service (全ての産業がサービス

化する) という認識の広がりとともに Google, Apple, Facebook, Amazon (GAFA) という

巨大独占的なプラットフォーマーを出現させた。 同時にビッグデータの価値が脚光が浴び

るとともに, ソフトウエアをレバレッジとする数多くのスタートアップの輩出を促し, 今

日のビジネスの様相を大きく変化させている。 日本の多くの企業がパイプライン型に留ま

るものの, 今後は 5 G導入など技術的制度の進展により大きな変曲点に向かい合わざるを

得ない状況と言える。

24

図2. パイプライン事業とプラットフォーム事業の比較 (「プラットフォーム・レボリューション」 2018監訳妹尾堅一郎解説より森作成)

ゲートキーパー ゲートキーパー ゲートキーパー ゲートキーパー

パイプライン事業

一連の活動の流れを通じて価値創出と移行を行う

価値の連鎖(バリューチェーン)

価値

設計 調達 製造 販売出荷流通

卸配送完成品メーカー

素材・部材メーカー

モノの流れ(サプライチェーン)

造り手(Producters)

顧客(Customers)

ネットワーク効果プラットフォームへの造り手・顧客の参加が多いほど価値がある

プラットフォーム事業

価値の交換・創出

プラットフォーム

Provider / owner

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� デザインが, なぜ経営で重要なテーマとなってきているのか

1 アップルでのデザインの役割のシフト

では, このビジネス変化においてデザインがなぜ重要となってきているのだろうか。 そ

の先駆けとしてアップルの i-Phone事業展開を確認しておきたい。 アップルは1990年代で

は, 一部の熱狂的ファンを得ながらも, PCの市場では windowsに対して圧倒的な劣勢に

立たされた。 当時の PCでの競争はパイプライン事業同士の競争であり, 製品出荷の鍵を

握る OSではアップル自体がクローズ戦略 (自社内だけに限っての利用) をとり, オープ

ン化されたWindowsでの事業スケールに対抗できなかった。

しかし, 21世紀に入り, アップルはソフトウエア・ツールを共通の基盤として異なるデ

バイス間をコネクトし, PC・ウォークマン・携帯電話・時計の市場を統合的に自社の事

業領域として急速に吸収拡大していく。 アプリケーション会社へ OSをオープン化するこ

とでユーザーにとって魅力的な音楽や映像などのコンテンツを提供し, さらにそれまでに

ない独自の UX (エクスペリエンス) でデバイス間を結び, 巨大なエコシステムを生み出

したのである。 アップルは, かつて他社5社で利益の90%以上を稼いでいた携帯電話市場

を i-Phoneの登場によりネットワーク外部性を拡張させ, 自社だけで利益を92%独占する

ほどに市場構造を一変させたのである。 (図3)

注目すべきは, この展開でのデザインの役割であり, アップルのデザイナー, Jonathan

Paul Iveは, 興味深い発言をしている。

『アップルがユニークなのは, 経験の全てをデザインしているということです。 わから

ない人も多いのですが, これは非常に重要な点です。 つまりハードウエアからソフトウエ

ア, マーケティングからどうやって売るのか, オンラインで音楽をどう売り, どう音楽を

サーチするのかまでデザインする。 われわれが扱っているのはシステム全体であり, 個々

事業イノベーションと拡張するデザインの可能性 25

図3. Apple をめぐるソフトウエアを介した事業領域の拡張 (森作成)

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に独立した製品のデザインではないのです。』 AXIS 123号, 2006年10月;125

ここでのデザインとは, 製品外観や個々の製品の設計というよりも, ソフトウエアによっ

てつながった全体をユーザーの体験 (Experience) からシステム全体を構想することと言

える。 しかも, それはユーザーにそれまでにない体験を提供し, 積極的に利用を促すアク

ティベーション (活性化) への構想である。 アップルで見られるように, ソフトウエアに

媒介された製品やサービスでは異なる領域をコネクトするだけではなく, ユーザーの経験

をアクティベートさせる仕組みが成功の鍵を握る。 そのため, エンジニアリングと同時に

デザインをそこに介在させ, ユーザーにとって望ましい体験から技術を方向付け, 製品・

サービスを組み込むことが求められるようになる。 それは, 技術起点でなく体験性 (UX

=ユーザーエクスペリエンス) からエンジニアリングや事業サービスを構想し直すという

転換が起き始めたといえる。 事業起点がともすれば技術機能優先になる中で, 人間の能力

や感覚に基づく 「顧客体験」 からのシステム全体の構想へとシフトし, その構想を導くた

めにデザインが事業全体への関わる戦略的な仕組みへと引き上げられていくのである。

2 デザイン思考は世界を変える

前述した IDEOの CEO Tim Brownは, デザインの拡張を 「デザイン思考」 として概念

化し, 技術, 人間, 経済を統合的に考えていく 「人間中心」 のイノベーション・アプロー

チと規定した。 デザインの役割を産業変化や社会イノベーションなど幅広い視野から捉え

るとともに, デザインを 「経営的な思考」 として位置付け, 手法として体系化した。

Brown (2009) は, 世界の経済活動が工業生産から知識の創造やサービスの提供に移り,

事業イノベーションが広がる中で製品だけではなく, 新しいサービス, インタラクション,

娯楽, コミュニケーション, コラボレーションが戦略に含まれるようになり, そこからデ

ザインへの新たな関心が生み出されたと指摘している。 デザインはイノベーションを生み

出すために個人やチームが画期的なアイデアを生み出し, ビジネスや世界を変えていく役

割として急速に期待されるようになる。 デザインは経営での川下で外観実装を扱う 「デザ

イン・ドゥイング」 から戦略的に開発プロセスの初期の段階に組み込み, 経営全体を方向

付ける 「デザイン・シンキング」 として再規定され, 従来は軽視されてきた直感の判断や,

パターンを見分ける力, 感情的価値をもたらすアイデア, 人間中心の世界観, さらには人

間の本質そのものを思考として取り込んでいくのである。 (P 11)

デザイン思考では, 以下のような考え方が中心になって, 観察・共感・プロトタイピン

グ・ストリーテリングなどの手法を導いていく。

26

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(1) ①着想②発想③実現を往還することでイノベーションを生み出す

イノベーションを整然と順序立てられた手順ではなく, ①着想 (inspiration)=ソリューショ

ンを探し出すきっかけとなる問題や機会, ②発想 (Idealation) アイデアを創造, 構築,

検証するプロセス ③実現 (Implementation) アイデアを市場へと導く, この3つの空間

を何度も行き来し, アイデアを改良, 新たな方向性の模索を繰り返すプロセスと捉え, プ

ロトタイプを作り, 失敗は成功の早道として探索学習から改良を重ねていく。

(2) デザインに対する制約を技術・経済・人間の視点からバランスを取る

デザインに対する制約を受け入れ, それを3つの条件と照らし合わせ理解する。 ① 「技術

的実現性」 (現在, またはそう遠くない将来, 技術的に実現できるか) ② 「経済的実現性」

(持続可能なビジネスモデルの一部になるか) ③ 「有用性」 (人々にとって合理的で役立つ

か) である。 重要なのはこの3つの解決ではなく, それぞれのバランスを取り, それを制

約として組み込むことで問題を再定義し, そこをデザインの起点とする。 (図4)

(3) デザインを戦略意思決定の場に関わり, 組織全体に広げるアプローチとする

さらにデザインを, 戦略意思決定の場に関わり組織全体に広がるアプローチとする。 それ

はコラボレーティブでありながら個人の創造性を増幅させ, 予期せぬ状況にも対応できる

手法としていく。 特に21世紀のデザイナーの課題としての 「マッシブ・チェンジ (大規模

なチェンジ)」 (ブルース・マウ)2) として社会変革する構想力 (成人の識字率から地球温

暖化までの Social Issue) として広くデザインの役割を捉えていく。

� 拡張するデザインの役割;どのような役割や思考アプローチなのか?

こうしたデザイン概念の拡張の底流にはどのような流れがあるのだろうか。 そこでの中

心概念となった 「人間中心」 の考え方を, 認知科学をベースとする Norman (2015) のデ

事業イノベーションと拡張するデザインの可能性 27

図4. デザイン思考の3つの領域の交点 (Tim Brown 「デザイン思考が世界を変える」 2010より森作成)

技術, ビジネス, 人間という3つの要因の交わる点=バランスを見つけることが重要

ビジネス(経済的実現性)

技術(技術的実現性)

人間(有用性)

持続可能なビジネスモデルの一部になるかどうか

人々にとって合理的で役立つかどうか

現在, またはそう遠くない将来, 技術的に実現できるかどうか

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ザイン論を手がかりに①デザインの原理, ②デザインでのアプローチ, ③デザインが用い

る思考, という3つの論点から整理しておきたい。

1 デザイン概念の拡張

Norman (2015) は, 拡張するデザイン概念を人間の 「経験」 に基づく認知科学からの

人間とのモノの接合から説明している。 その接合では, ①テクノロジーによって生み出さ

れる人工物, ②その人工物がもたらす環境でのヒトとモノのアフォーダンス (モノと主体

の双方の性質がもたらす関係性) の変化, ③人間の心理の動き, この3つのレベルで相互

に齟齬をきたさない接合が必要となるが, Normanの問題意識は, この①�②�③は日常

生活では, どうしても障害が発生してしまうと考える点にある。 新しいテクノロジーは生

活での変化をもたらすが, そのこと自体がより良い利便性をもたらすとしても人間にとっ

ては変化に順応する心理的負担がかかり, ともすればその複雑さからフラストレーション

を抱えることになるからである。 この障壁 (へだたり) を解消し橋渡しすることがデザイ

ンの役割となると Normanは概説する。 デザインは①何が起きているのかの 「理解」 には,

シグナル (指示記号), 物語性 (概念モデル) を用い, ②どう動かすのかの 「実行」 では,

シグニファイア (認知的な手がかり), その状況での実際のモノ・コトとの対応づけ (室

内の照明器具とスイッチとの対応) などわかりやすいストーリを示して橋渡しをしていく

のである。 それは, デザインを介して技術がもたらした新しい機能付加に対し心理的な負

担を軽減し, むしろ好ましい体験への行為として設計し直すことといえる。 テクノロジー

によって一方的な強要が課されると人間は理解不能に陥りやすく, そのことでネガティブ

な情動 (無気力など) が生まれ, ヒューマンエラーが起きやすくなる。 Normanは, こう

した考えから内部のゴールと外界の環境におけるインターフェースで起きる行為の実行と

評価のプロセスから 「行為の7段階理論」 という理論モデルを提示している。 (図5)

今日では技術イノベーションにより 「人工物」 が次々と生まれ生活の複雑さが増大する

ため, 日常生活での人間の心理を理解し行為をリードすることが強く求められてくる。 こ

の視点から人間のニーズや能力, 行動に合わせてデザインする 「人間中心デザイン

28

図5. D. A. Norman 「誰のためのデザイン―認知科学のデザイン原論」 2015より抜粋

行為の七段階理論のサイクル1. ゴール (ゴールの形成)2. プラン (行為のプラン)3. 詳細化 (行為系列の詳細化)4. 実行 (行為系列の実行)5. 知覚 (外界の状態の知覚)6. 解釈 (知覚したものの解釈)7. 比較 (ゴールと結果の比較)■ 実行の橋:ゴールを達成するためにどのような行動を行うの三段階■ 評価の橋:何が起こったのかを評価する三段階外界で何か起こったのかを知覚し, 意味を理解 (解釈) しようとし,最後に起こったことを比較する。外界

評価の橋

実行の橋

ゴール

プラン

詳細化

実行

比較

解釈

知覚

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(Human-centered design)」 という思考が生まれる。 Normanは, 硬貨のサイズさえ覚えて

いれば硬貨が識別できる例示を上げ, 外界の存在する自然な制約や, 頭の中にある文化的,

慣習的な規則での知識を参照し, 人間の能力に釣り合わせてこそ実行される行為が正しく

遂行されると強調しデザインの概念の進化を以下のように捉えていくのである。 (図6)

人間中心デザインでは 「愉しめるエクスペリエンス」 を作り出すことが目指される。 「体

験」 でのインタラクション (フィット&フィニッシュー全体のバランスの仕上げ, 加速す

るときの力の感覚, シフトやステアリングのしやすさ, 機器のノブやスイッチの素晴らし

い感触) をどう認知するかで 「正か負か」 の情動が発生し, それが好ましい/嫌悪する

「記憶」 と深く結びつき, 人間の行動が左右されてしまうからである。

こうしたデザインの役割を示す好例として, Normanは家庭用サーモスタット (ネスト

社) を例示する。 それは, 赤―暖める, 青―冷すという行為をわかりやすく認知する手が

かりを表示するだけでなく, スマートフォンを介しての遠隔システムでの操作での作動行

為とつながるように設計され, さらに家のエネルギー消費量を明示することで住人に暮ら

しのストーリを与え, 省エネなどの人間の生活への望ましいモデルを伝えていくのである。

2 デザイン思考での2つの原理的アプローチ

Norman (2015) は 「デザイン思考」 での原理的なアプローチとして①ダブルダイヤモ

ンド, ②人間中心デザインの反復サイクルを説明している。 (図7)

ダブル・ダイヤモンドでは, ① 「問題の発見」 と② 「問題の解決」 にフェイズが分けら

れ, それぞれのフェイズで思考を発散・収束をくりかえす。 最初の 「問題発見」 では, 問

題をそのまま受けとるのではなく根源的に規定し直していく。 製品やサービスを人々の既

存の行動と結びつけるために 「価値だけではなく意味を作り出せるのか」 「製品と永久に

結び付く新たな行動を促すことができるのか」 「転機を生み出せるか」 などの適切な疑問を

事業イノベーションと拡張するデザインの可能性 29

図6. D. A. Norman 「誰のためのデザイン―認知科学のデザイン原論」 2015より森作成

人間のニーズ, 能力, 行動を取り上げ,それからそのニーズや能力, 行動に合わせてデザインする

トータルエクスペリエンスの質と愉しさに焦点を合わせて製品, プロセス, サービス, イベント, 環境をデザインする実践活動

人々がどうテクノロジーとインタラクションするのかに注目。目標は, 何ができるか, 何が起こっているのか, 何が今起こったのかについての人々の理解を向上させる。 前向きで, 楽しい経験を増すために,心理学, デザイン, アート, 情動の原則を利用する。

ユーザーと生産者双方の相互利益のために, 製品とシステムの機能, 価値, 外観を最適化する概念と仕様を創り出し, 開発する専門的な業務 (アメリカインダストリアル・デザイナー協会)

人間中心デザイン(Human-centered design)

エクスペリエンスデザイン

インタラクションデザイン

インダストリアルデザイン

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投げかけ, 本当は何か問題かを深く考えた上で再規定するのである。 (P 287) この 「問い」

はデザイン思考での最大の鍵となると考えられる。 なぜなら, 今日のように不確かさが増大

する状況では適切な 「問い」 の設定が解決を導くための大前提となるからである。

また 「問題解決」 では, 一つの解決策にまとめるのではなく, デザインの研究ツールを

用いて様々な解決策に向けて様々にアイデアを創出する。 対象とする母集団や人間を観察

し, 様々にアイデアを創出し, それをプロトタイプに移し替え, 満足するまでテストを繰

り返すのである。 これは一連のステージを反復するたびに進展があるのでこれらは螺旋法

と呼ばれる。 デザイン思考では, 新しいモノを社会に送り出す喜びや個人的な達成感を強

い原動力として反復を繰り返すというのである。 こうした 「適正な問い」 と 「解決への多

様なアイデア」 という2つのフレームはデザインに関するプログラムの基本となり,

<「何を?」 ではなく 「なぜ?」 を問う><目を見開いて観察する><観察やアイデアを

視覚化する><疑う―他者のアイデアをもとにする><多くのアイデアへの選択肢を求め

る><人生の意味をデザインする>など, ほとんどのデザイン手法での基本となる骨格と

してはこの2つのフェイズが潜在的には織り込まれていると言える。 (表2)

30

正しい問題を見つける 正しい解決を見つける探索 定義 展開 提供

IDEO

デザイン思考

着想(inspiration)

共感への行動観察・洞察

統合(synthesis)意味づけ

(パターン・テーマ・意味)

アイデアの創造, 実験(idealation,

experimentation)

無数のアイデアとプロトタイプ化

実現(implemantation)ベーター版から改良学習により磨きを掛ける

ベルガンティ

意味のイノベーション

批判

自分→熟考

批判

ペア→スパーリング

批判

ラジカルサイクル→議論, 衝突と談合

批判

インタプリター→質問

グーグル

SPRINT

(月)目標を決める

(火)思考を発散させる

(水)ベストを決める

(木)幻想をつくる

(金)テストをする

内部 外部

表2. ダブル・ダイヤモンドのフレームとデザイン・アプローチの構成 (森作成)

図7. D. A. Norman 「誰のためのデザイン―認知科学のデザイン原論」 2015より抜粋

◆ダブルダイヤモンド ◆人間中心のデザインの反復サイクル

正しい問題を見つける

正しい解決を見つける

選択肢

発散 収束 発散 収束

時間

観察

テスト

アイデア創出

プロトタイピング

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3 アブダクションが導く思考法

また, Normanには指摘がないが, 武山 (2017) をはじめ多くのデザイン関係者は, 思

考としてのデザインの底流には 「アブダクション」 という類推の思考法を指摘する。 有数

の認知心理学者である米盛 (2011) は, アブダクションの例示としてパースの以下の例示

をあげている。 「化石が発見される。 それは例えば魚の化石のようなものでしかも陸地の

ずっと内陸で見つかったものとしよう。 この現象を説明するために, われわれはこの一帯

の陸地がかつては海であったに違いないと考える。」 このアブダクションの推論の定式は

「驚くべき事実 Cが観察される。 しかももし Hが真であれば, Cは当然の事柄であろう,

よって Hが真で考えるべき理由がある。」 という思考法として論述している。

アブダクションは, ある驚くべき事実や変則性に観察・遭遇したときに, その事実や変則

性を説明する仮説を発見する推論と言える。 前述したデザイン思考では, 問題の発見が

「驚くべき事実や変則性の観察」, 問題の解決が 「それに対する説明仮説」 に該当する。 特

に, アブダクションでは, 直接観察 (実体験へ関わる観察手法であるエスノグラフィーな

ど) し, 異なる何種類の推論を導き出し, それをフレーミング (枠付け) として対象・動

作作用に当てはめてそこでの有効性を見出していく。 このことがプロトタイプを作成し,

それ通じての実際にテストしていく探索学習となる。 前述した米盛 (2011) は現実の人間

の思考において意味は絶えず修正・拡張されているが, そこでの最も日常的に使われる思

考法として 「帰納的, 仮説的, 類推的思惟」 (P 18) であるアブダクションによってそれ

が行われていると指摘する。 思考としてのデザインでは人間観察からユーザーの行為や人

間との関わりとして問題を技術・社会・ビジネス面から再規定するのであるが, その際に

最も日常的で人間にとって受け入れやすい類推 (アブダクション) という手法によって仮

説をつくり, 解決に向けて構想を繰り返し練っていくのである。 (図8)

� 事業イノベーションに向けて;デザインがもたらす可能性

ここまでデザインの拡張した概念やそのアプローチを辿ってきた。 では拡張されたデザ

インは今後の事業経営やマーケティングにどのような変化や可能性をもたらすのだろうか。

事業イノベーションと拡張するデザインの可能性 31

図8. 推論の分類―米盛裕二 『アブダクション―仮説と発見の論理』 (2007) より森加筆

推論(inference)

拡張的推論(ampliative inference)

分析的推論(analytic or explicative inference)

アブダクション(adduction)

帰納(induction)

演鐸(deduction)

対象+動作原理→???

結果を導く

結果→対象+???

動因を探る

働きかけを変える

結果→???+???

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本章では1) サービスでの価値共創, 2) プラットフォーム事業, 3) ビジネス組織のあ

り方の論点からそれらを取り上げ, 仮説的に考察しておきたい。

1 サービスでの価値共創の拡大

デザインは人間の 「体験」 の在り方に働きかけることで 「行動へのアクティべーション」

を生み出し, 今日の先端技術によって急速にサービス化する事業での価値共創を導いてい

く。 人間の価値に引きつけて, モノの見方を柔軟に変えることでサービスや商品をユーザー

と結びつけ, 企業と顧客との関わりをアクティブに変化させ, より広く事業イノベーショ

ンをもたらすと考えられる。

Tim Brown (2010) は, デザインを介して顧客自身がより能動的活動主体になることを

強調している。 産業革命によって消費社会が到来し, 消費による経済の規模を生み出すた

めの製品・サービスの標準化は社会に驚異的な利益をもたらしたものの, 一方で次第に消

費者が受動的になるという弊害も生み出した。 それが今日の音楽業界などで見られるよう

に, ITを介して受動的な消費から自らの経験での能動的な参加を生み出すようになって

きたと指摘し, 特に 「人々への理解や共感を利用すれば積極的な関わりを生み出す経験を

デザインできる」 と主張する。 経済の中心が製品の大量生産からサービスや経験へと進化

し, 企業と消費者がお互いを双方向のプロセスの参加者となる展開では, 社会参加型のデ

ザイン機会が拡大すると説く。 こうして 「デザインアクティヴィズム」 としてグローバル

に展開しうるソリューション事例を紹介し, 企業と顧客との関わり, 消費の在り方や社会

構成 (Tim Brownは, 新しい社会契約と呼んでいる) など社会全体をよりアクティブに

変え, 社会的価値を拡大していく可能性へとデザインの展望を広げて語っている。 こうし

た企業と顧客の関係で顧客側がアクティベートされ, それがより望ましい価値を生み出す

「価値共創」 をもたらすアプローチ (広義のサービスデザイン) としてデザインは様々な

領域に拡張していくと思われる。

Vargo and Lusch (2004) は, マーケティングでの交換をそれまでの 「モノ」 においた

Good-Dominant Logicに対してモノを含めた包括的な 「サービス」 での Service-Dominant

Logic (以下, S�Dロジック) を提唱し, 経済的, 社会的交換を広く 「サービスとサービ

スの交換」 および 「資源統合を通じた価値共創」 として見ていくことを主張した。 デザイ

ンのもたらす可能性はこの S�Dロジックと極めて親和性が高い。 Vargo and Lusch (2014)

では, 基本的前提 (FP) として掲げた以下の4つの公理に S�Dロジックは集約されてい

る (P 17)。 ① 「サービスが交換の基本的基盤である」 ② 「顧客は常に価値の共創者であ

る」 「③すべての経済的および社会的アクターが資源統合者である」 「④価値は, 常に受益

者によって独自に価値を現す現象学的に判断される」

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そこでは, 顧客をサービス交換での資源統合への価値共創者 (アクター) として捉え,

「他者あるいは自身の便益のために, 行動やプロセス, パーフォーマンスを通じて, 自ら

の能力 (知識やスキル) を活用する」 サービスを通じて交換が成立すると論じる。 資源に

は, 「オペランド資源 (行為が施される必要のある資源)」 と 「オペラント資源 (価値を創

造するために他の資源に行為を施すことができる資源) があり, オペラント資源=人間の

コンピタンス (ナリッジとスキル) が, 価値創造で利用されていくと指摘した上でそこで

の企業と顧客の関係を, 「生産者→消費者」 という一方向的ではなく, 「プロバイダーとユー

ザー」 両者を兼ねるサービスの 「アクター・トゥ・アクター (A2A)」 という動的な関係

として読み解いていく。 お互いがアクターとして新たな文脈価値が創造されるためにデザ

インは動的関係へとアクティベートさせていく構想をもたらし, テクノロジーを人間価値

で包み込む文脈創造の担い手として重要になると考えられるのである。 こうした企業と顧

客の関わりはデザインを介して, 今までの事業構造を根底的に異なる関係へ転じていく可

能性があると思われる。 (図9)

2 プラットフォーム・ビジネスでの多様化

また, 移動通信の規格が第5世代 (5 G) へと移り, 遅延なき高速化, 接続拡張, 知能

化する中で, プラットフォームはさらに拡大し, 価値共創の領域はサイバー空間全体に広

くデータと結びついての価値化が予想される。 そこでの機能を人間に近づけ新しい意味を

もたらすアプローチとしてデザインはさらに重要になると考えられる。 ��������& ��

Voima (2017) は, 価値共創を, ① Providerと② Customerの立場での領域 (Sphere) と

③その両方に重なる共有領域 ( joint Sphere) にカテゴリ分けした。 プラットフォーム事

業はまさにジョイント領域での共創を加速する仕組みであり, 5 Gによりネットワーク効

事業イノベーションと拡張するデザインの可能性 33

できる限り合理的に顧客の購買行動をコントロールするアプローチ主体化(セグメントテーション)

価値提供

図9. 企業と顧客の関係のシフト (森作成)

価値共創

企業producer

できるだけ買ってくれそうな顧客層=売る対象査定(ターゲッティング)

顧客Customer

モノを売る<交換価値>

買ってくれそうなモノ (商品) を

届ける(ポジショニング策定)

マーケティング・コミュニケーション (広告やプロモーション) による顧客が買いたくなる購買促進

より満足の高いサービスを実現したいユーザーとそれをサポートするプロバイダーが共創

より望ましい経験 (UX=エクスペリエンス) の提供から,

お互いの資源を統合してサービス価値を創りだす

企業provider

顧客User

顧客の目標をともに達成するパートナー

顧客は価値共創の担い手

Actor 2 Actor(ステークホルダー化)

サービス経験の魅力化<使用価値>

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果はこれまで以上に, ユーザー側からの強い参画意向によるサービス経験の質に左右され

るようになると考えられる。 IoT, AI, ロボテックスなどコミュニケーション技術と連携し

た接点 (タッチポイント) は飛躍的に拡大し, ここでの体験が, ①インタラクションの頻

度, ②経験の質, ③つながりの多様性により, 次々と塗り替えられる。 そこでのインタラ

クションでは, 介在するステークホルダー間での利害関係を調整し, 相互のメリットをシェ

アリングする必要があると考えられ, その意味でデザインは, この活動の全域を世界観と

して表現し構造化していくための重要なアプローチとなってくると思われる。 (図10)

3 事業プロセスのシフトと組織論

さらに, デザインは, 事業プロセスでの手順を変化させ, ビジネス展開での流れや, そ

れを巡っての組織の編成や連携のあり方, 個々人の働き方を水平的にシフトさせていく可

能性を持つ。 琴坂 (2018) は戦略性を 「事業の将来的な道筋だて」 を軸として規定してい

るが, 今後のビジネスの道筋立てから見た戦略性は, ユーザーを 「体験」 へと起点となっ

てプロセスが転換されていくと考えられる。 そこでは, ユーザーの成果 (Outcome) や顧

客価値をもたらす顧客体験のデザインが最初に構想され, それを通じてビジネスモデルや

マーケティングが練り直され, サブスクリプションなど具体的な顧客との関係性に踏み込

んだ事業スタイルへと展開が及ぶと推測される。 人間の価値を洞察するデザインの役割が

出発点となり, 人間的, 社会的なインタラクションでの展開として事業プロセス全搬の再

編が起きてくると思われる。 (図11)

この再編においては, Peter Merholz, Skinner Kristin (2017) が指摘するように 「デザ

イン組織」 は全方位的になり, デザインから各セクションが連携して関わるようなコラボ

レーションとしての水平的な組織構造へのシフトと考えられるのである (図12)。 思考と

してのデザインを共有することで顧客価値が発想起点となって事業プロセスの仕組み自体

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ICT (情報技術) の発展と普及によるサービスのネットワーク化, 複合化

図10. 企業と顧客のジョイント領域の拡大と事業変化 (Gro�nroos & Pa�ivi Voima をベースに森作成)

より広い文脈価値をデザインすることでのサービスの広がり多様な個人や集団, 組織間のネットワークから関係性やインタラクションを起こしていく

独自の価値創造=リアルな価値

制度, 文化, 歴史からの文脈価値

タッチポイントの範囲の拡大

サービスの利用や提供への参加影響を及ぼす様々な主体の関わり ステークホルダー化

Provider Sphere Joint Sphere Customer Sphere生産―潜在的価値 インタラクションによる

価値創造=価値共創

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が変化し, 業務の流れ, 組織編成, 個々人の働き方全般に関わるプロセスは水平化が促さ

れていくと考えられる。 さらに武山 (2017) は 「サービス・デザイン」 では, 行為のイン

タラクションから対峙する変化や複雑性を解決するためには, コミュニティや組織自らが

変化することが必要であると指摘しているが, そのためにも持続的変化を生み出す組織そ

のもののデザインが検討され, 水平的な組織文化の醸成というテーマに向かい合うことに

なると指摘している。 この意味で, 水平的で異質な能力を掛け合わせていくネットワーク

に対応する能力に向けてデザイナーを育成する仕組みも求められてくると思われる。

� デザインがリードするイノベーション領域

最後に今まで述べてきた 「思考としてデザイン」 が事業イノベーションやそこでのプリ

ンシプル (原理) を再創造していると考えられる領域について紙幅が許す限り粗描してお

きたい。

1 先端デジタル技術領域=エンジニアリングデザイン

先端デジタル技術の進化により, エンジニアリングとデザインの融合の領域が生まれて

いる。 タクラム田川 (2015) は, 以下のように BTCモデルを, デザインエンジニアリン

事業イノベーションと拡張するデザインの可能性 35

図12. ピーター・メルホルツ, クリスティン・スキナー 「デザイン組織のつくりかた」 より抜粋

デザイン

販売

サポート

マネジメント

マーケティング

エンジニアリング

製造

デザイン

マネジメント

マーケティング

エンジニアリング

製造

販売

サポート

図11. ビジネス・フローでの変化 (森作成)

技術・原料 UX人間としての体験

モノ サービス

事業戦略(商品戦略)

顧客価値

マーケティング戦略(販売―競合への STP)

ビジネスモデル(マーケティングはその一つの要素)

コミュニケーション(ポジショニング)

価値共創

事業起点(事業資源)

戦略フレーム(モノの販売)

顧客接点(購買)

事業起点(顧客資源)

戦略フレーム(サービス・プラットフォーム)

顧客接点(サービス体験)

デザイン・アイデア・ビジネス戦略・クリエイティブ

(策定)

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グとして提唱している。 (図13) その背景にあるのは, ハードウエアがエレクトロニクス

を介してインターネットと接続され, ソフトウエアがバーチャルからリアルへとその影響

を広げ, 身体や環境を取り込むようになったため, イノベーションではこれに関わる領域

すべての要素を同時に考え, 価値へと転換する能力が求められるようになっている点であ

る。 今後の商品は機能スペックではなく, ユーザーエクスペリエンスという軸で評価され,

体験やストーリーの重要性が増すため, デザインエンジニアリングとしてデザインとエン

ジニアリングの両方の知識経験を持つデザイナーが必要となると説くとともに, デザイン

では発想をビジネス, テクノロジー, クリエイティブという3要素を調和的に関わらせて

いくことになるためそれらをつないでいく組織が求められている主張している。 これらの

主張は, 「デザイン経営」 として提示され, 先端のエンジニアリングとさらにはブランディ

ングとの結びつけを提唱している。 (経済産業省・特許庁 2018)

2 スタートアップ領域=アントレプレナーとしてのデザイン

またアントレプレナーシップから思考としてデザインの概念が活用されている動きもあ

る。 Tom & David kelly (2014) はクリエイティブによる 「自己効力感」 で周囲を変えてい

く力を説いた。 『自分には周囲の世界を変える力がある。 自分の創造力を信じることこそ,

イノベーションの 「核心」 をなすものなのだ。』 Sarasvathy, S. D (2008) ではこうしたデ

ザインの自己効用と同じ起点から 「エフェクチュエーション」 という概念が提示され, ア

ントレプレナーのマインドセットが形成され予測が困難で, しかもコントロールができな

い状況でもネットワークを介して周囲に働きかけ, 未知なる領域での環境で生き残り, そ

こでの自己を生かしうる意思決定を 「デザイン」 として呼び, そのアプローチから事業イ

ノベーションを探求している。

上記のエフェクチュエーションでは, 自己の内にある手段から目的を生み出し, 自ら適

合する環境を作り出し, 企業の (組織) 構造を変える 「構想力 (Design)」 を資源とする。

そのため, ソト (市場分析) への適応するために競合に対する自己の強みを求めるのでは

なく, ウチ (開発の動機) の体験起点からインサイド文脈を極め人間にとっての今までに

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図13. 田川欣也 「デザインエンジニアリングの実践」 一橋ビジネスレビュー2015 SPR 62巻4号より抜粋

Business

ビジネスクリエイティブ

ビジネステクノロジスト

Technology Creativeデザインエンジニアリング

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ない価値を発見実現する中でステークホルダー化されたファン (共感する顧客) との共創

による異質な市場の形成が目指される。 既にスノーピーク, バミューターというデザイン

を介して新しい独自の境界接点を発見し, 様々なファンとの共感からバウンダリー・オブ

ジェクトを介して事業開発する展開も出てきているのである。

3 公共領域=サービスデザイン

さらに社会全体がサービス化する中で 「サービス・デザイン」 は, 公共領域にも広がり

つつある。 武山 (2017) では, サービスデザインを人や道具, メディア, 施設などのユー

ザーとサービスの多様な接点 (タッチポイント) におけるインタラクションを包括的に扱

うデザイン分野と定義され, そこでのポイントは, ユーザー中心, 共創, インタラクショ

ンの連続性, 物的証拠, ホリスティクな視点と指摘する。 ここでのサービス・デザインは,

企業だけではなくむしろ公共サービスに広がりつつある展開が注目される。 公共サービス

も同じように新しい先端技術によるサービス提供が求められているからである。 Birgit

Mager (サービスデザインネットワーク代表, ケルン国際デザイン大学教授) は, 技術革

新によって民間のような透明性, スピード, 選択, カスタマイズ性での体験が公共部門の

サービス提供にも求められてくるとその背景を説き, 世界的に見ても, 公共サービスに対

する経済的負担は圧迫し, 公共サービスでは市民たち自身が新たな価値を見出す協働, 共

創が鍵を握っていると指摘している。 公共政策レベルでもユーザーとしての人 (国民・市

民・住民) がもっと受け入れやすい政策や, 政策の改善に向けて, ユーザー目線を持ち政

策全体に関わる 「思考」 としてデザインの活用に注目が集まっている。 日本政府でも 「官

民データ活用推進基本法 「世界最先端 IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画に

サービスデザインに基づく業務改革 (BPR) が閣議決定され, デザインに期待が寄せられ

ている。 ここでは公共サービスを含めて Birgit Magerが指摘したサービスデザインが持つ

視点をあげておきたい。 (表3)

事業イノベーションと拡張するデザインの可能性 37

図14. サラス・サラスバシー 「エフェクチュエーション」 より抜粋

◆エフェクチュエーション (effectuation)

手段を評価する・自分は何者か・何を知っているのか・誰を知っているのか

スタート

何ができるのか既知の/新たに出会う人々との相互作用

パートナーコミットメント獲得

新たな目的

新たな手段資源のサイクルを拡大

制約のサイクルを集約

新たな企業・新たな製品・新たな市場

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� 再び, 思考としてのデザインとは

今日の事業イノベーションでは顧客体験として人間の内なる価値に共感し, それを起点

に事業を構想する 「思考」 としてのデザインが求められている。 第4次産業革命とも称さ

れる先端テクノロジーにおける変化は, 産業を超えて社会全体システムとして人類が経験

したことがない変曲点を迎えると Klaus Schwab (2016) は指摘しているが, 少なくとも今

後, 先端技術と共存しそこでの人間にとっての意味や価値を引き出すことは誰にとっても

日々向き合う最大のテーマとなると思われる。 その意味で人間への視点からモノの見方を

変えていく構想力としてのデザインは今後, ますます重要なアプローチとなるのではない

だろうか。 Alice Rawsthornは “Design as an attitude” (姿勢としてのデザイン) として社

会, 政治, 経済, 科学, 技術, 環境, その他―が人々にとってプラスに働くように翻訳す

る≪変革の主体≫としてのデザインを主張し商業的制約にとらわれず, 社会でより影響力

をもつ役割を強調した。 とりわけ, 企業や組織の活動が, 組織間のネットワーク, 協働,

パートナーシップ構築といった新しい社会局面へ向け変化する中で, 創造的な活動から人々

が自らの未来を自らの力で創り出していくアプローチが求められ, 個々人のレベルで思考

としてのデザインへの 「姿勢」 を体得する必要が高まると思われる。 本稿が, そうした流

れでの新しい展開への一助となれば幸いである。

1) 鷲田祐一は, 日本でのデザインと経営での研究は世界の流れから遅れており, デザインに対

する旧来的な 「モノの色, 形」 という考え方から脱することができないため, デザインとマー

ケティングや経営学との有効な研究連携が実現してこなかったと指摘している。 マーケテイン

グジャーナル 「デザインとイノベーションに関する最新の研究の取り組み」 Vol 38, No 1)

2) マウの考えでは, デザインによる公益 (=パブリック・グッド) を目指し, デザインが世界

全体に及ぼす良い効果こそを推進しなくてはならない。 マウはそれらを, 世界をマッシヴに変

革しうる可能性を持つデザインとして未来へ向けて発信している

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表3. Birgit Mager (Service Design Network 代表) の講演 (2018年11月) より森転記

Product

(モノ)

Output

(生産能力)

Transaction

(取引)

Supplier

(供給力)

Solution

(解決されるコト)

Outcome

(プロデュース能力)

Relation

(関係)

Network

(パートナー)

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参 考 文 献

Alsyyne Marshall. W. Van, Parker Geoffrey. G. Choudary Sangeet Paul (2016) 『パイプライン型事

業から脱却せよプラットフォーム革命』 有賀裕子訳Diamond Harvard Business Review 2016年

Alice Rawsthon “Design as an attitude” 『姿勢としてのデザイン』 フィルムアート社 2018年

Alsyyne Marshall. W. Van, Parker Geoffrey. G., Choudary Sangeet Paul “PLATFORM REVOLU-

TION” 『プラットフォーム・レボリューション―未知の巨大なライバルとの競争に勝つために』

妹尾堅一郎監訳 ダイヤモンド社 2018年

Brown Tim (2009) “CHANGE BY DESIGN How Design Thinking Transforms Organization and

inspires Innvation” 『デザイン思考が世界を変える』 千葉敏生ハヤカワ新書 2010年

Boeijen Annemiek V, Daalhuizen Jaap, Zijlatra Jelle, Schoor Roos V (2013) 『デザイン思考の教科

書』 2015日経 BP社

Christian ��������(2007) “Service management and marketing : customer management in service

competition” 『北欧型サービス志向のマネジメント』 近藤宏一監訳, 蒲生智哉訳 ミネルヴァ書

房 2013年

Christian ��������& ��Voima “ritical service logic : making sense of value creation and co-

creation 2013

Kelly Tom and David (2013) “Creative Confidence” 『クリエイティブマインドセット 想像力・

好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法』 千葉敏生日経 BP社 2014年

Marc Stickdorn, Schneider Jakob (2011�2) “THIS IS SERVICE DESIGN THINKING―領域横断的

アプローチによるビジネスモデルの設計” BNN社 2013年

Norman Donaid A (2013) “THE DESIGN OF EVERYDAY THINGS Reviersd and Expanded Edition”

『誰のためのデザイン・認知科学者のデザイン原論』 野島久雄訳新曜社 2015年

Klaus Schwab (2016) “The fourth Industrial Revolution” 『第四次産業革命 ダボス会議が予測する

未来』 世界経済フォーラム翻訳 2016年 日本経済新聞出版社

Knapp Jake, Zeratsky John, Kowitz Braden “SPRINT How to Solve Big Problem and Test New Idea

in Just Five Days” 『SPRINT最速仕事術』 櫻井裕子訳ダイヤモンド社 2017年

Kumar Vijay (2013) “101 Design Method” 『101デザインメソット』 渡辺典子訳英治出版 2015年

Peter Merholz, Skinner Kristin “ORG DESIGN FOR DESIGN ORGS” 「デザイン組織の作り方」

ビー・エヌ・エヌ新社 2017年

Pinheiro Tenny “THE SERVICE STARTUP Design Thinking Gets Lean” 『サービススタートアッ

プ』 武山政直監訳 早川書房 2015年

Sarasvathy, S. D (2008) “Effectuation Elements of Entrepreneurial Expertise” 『エフェクチュエー

ション 市場創造の実効理論』 加護野忠男監訳 高瀬進 吉田真満梨訳 碩学社 2015年

Vargo Stephen L and Robert F. Lusch “Evolving to a New Dominant Logic for Marketing” Journal of

Marketing 68 January 2004

Vargo Stephen L and Robert F. Lusch “SERVICE-DOMINANT LOGIC, Premise, Perspective,

Possibilities” CAMBRIDGE University Press 2014 井上崇道監訳庄司真人, 田口尚史訳 「サー

ビス・ドミナント・ロジックの発想と応用」 同文館出版 2016年

事業イノベーションと拡張するデザインの可能性 39

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Verganti Roberto (2016) “OVERCROWDED Designing Meaningful Product in a World Awash with

ideas” 『”突破するデザイン』 八重樫文監訳, 安西洋之監訳 2017日経 BP社

Verganti Roberto (2009) “DESIGN-DRIVEN INNOVATION” 『デザイン・ドリブン・イノベーショ

ン』 佐藤典司監訳 岩谷昌樹, 八重樫文監訳 2016年 クロスメディアパブリッシング,

Service design IMPACT REPORT 「PUBLIC SECTOR」 日本語版監訳小山田那由 他 2017 Oct

Ver 11

井上崇通, 村松潤一編著 (2010) 「サービスドミナントロジック―マーケティング研究への新た

な視座」 同文館

琴坂将広 (2018) 「経営戦略論」 東洋経済新報社

田口尚史 (2017) 「サービス・ドミナント・ロジックの進展―価値共創プロセスと市場形成」 同

文館出版

武山政直 (2017) 「サービスデザインの教科書:共創するビジネスのつくりかた」 NTT出版

村松潤一編著 「価値創造とマーケティング論」 同文館出版 2015

田川欣也 「デザインエンジニアリングの実践」 一橋ビジネスレビュー 2015 SPR

米森裕二 (2007) 「アブダクション, 仮説と発見の論理」 勁草書房

米森裕二 (1981) 「パースの記号学」 勁草書房

マーケテイングジャーナル 「デザインとイノベーションに関する最新の研究の取り組み」 Vol 38,

No 1 2018年

日経デザイン 「デザイン思考の次―社内にいかに定着させるかがカギ」 Jan 2019年

謝辞

本稿は, もともと関西学院大学経営戦略研究科 (IBA) でのデザインに関する自主的読書会

がきっかけとなり, レビューを思い立った。 メンバーである小池愛さん, 森口文博さん, 金崎

傳さん, 湧井恵さん, 山尾高広さんとの議論から様々な示唆を得た。 また, 多摩美術大学吉橋

昭夫准教授には読書会に駆けつけていただき, デザイン理論や実務で多大な教示をいただいた。

皆様にこころから感謝申し上げる次第である。

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