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e Book シリーズ 1 キャピラリー電気泳動入門編 ―これから CE を始める人へー 作成 日本分析化学会電気泳動分析研究懇談会 プロトコール作成委員会

キャピラリー電気泳動入門編 ―これからCEを始める人へーden-ei/SCE-homepage/how_to/01-startup.pdf · テフロンチューブ(内径:0.4 mm,外径:1

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e Book シリーズ 1

キャピラリー電気泳動入門編 ―これから CE を始める人へー

作成 日本分析化学会電気泳動分析研究懇談会 プロトコール作成委員会

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キャピラリー電気泳動入門編 ―これから CE を始める人へー

1. キャピラリーの選択 1

(文責:大阪府大 末吉)

2. キャピラリーの洗浄方法 6

(文責:大阪大 岡本)

3. 検出窓の開け方 8

(文責:愛工大 村上)

4. 泳動液の選択 10

(文責:理研 川井)

5. CE 用検出器の種類 15

(文責:近畿大 山本)

6. 試料の注入について 17

(文責:理研 川井)

7. 温度制御 18

(文責:大阪大 岡本)

プロトコール作成委員

岡本 行広(大阪大学 基礎工学研究科),川井 隆之(理化学研究所),末吉 健志(大阪府立大学

工学研究科),村上 博哉(愛知工業大学 工学部),山本 佐知雄(近畿大学 薬学部)

プロトコール監修委員

鈴木 茂生(近畿大学 薬学部),江坂 幸宏(岐阜薬科大学 薬学研究科),

北川 慎也(名古屋工業大学 工学研究科),北川 文彦(弘前大学 理工学研究科)

お問い合わせ

E-mail : esaka_AT_gifu-pu.ac.jp

(アドレス入力の際には,_AT_を@に変更して下さい)

2018 年 12 月 発行

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1. キャピラリーの選択

1

1. キャピラリーの選択

【キャピラリーの特徴】

〇基本: 市販フューズドシリカキャピラリー

・外表面: ポリイミド被覆(破損防止のため)

・内表面: 未修飾(シラノール基)

1. 特徴

・中性~塩基性条件で,陽極側から陰極側に向かう速い電気浸透流が発生

⇒ 検出部: 基本的には陰極側

・酸性条件では,陽極側から陰極側に向かう電気浸透流が抑制される

⇒ 検出部: カチオン性試料は陰極側,アニオン性試料は陽極側

【目的】測定試料に合わせて適切なキャピラリーを選択する

【手順】

基本: 市販フューズドシリカキャピラリー(内表面未修飾)

⇒ きれいなピーク ⇒ そのまま利用

⇒ 大きなテーリング,検出不可などの異常発生 ⇒ 応用へ

応用: 修飾キャピラリーの選択

試料の特徴は?

・カチオン性試料 ⇒ 正電荷修飾キャピラリー

・アニオン性試料 ⇒ 負電荷修飾キャピラリー

・タンパク質など ⇒ 中性(親水性)修飾キャピラリー

Fig. 1. 未修飾キャピラリーの長さ方向断面模式図.

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1. キャピラリーの選択

2

2. 測定対象

・各種有機・無機イオン全般に適用可能(ゾーン電気泳動に基づく分離)

⇒ 応用: 動電クロマトグラフィーに基づく中性試料分離

3. 注意点

・電気浸透流速: pH 依存性あり

・タンパク質など一部の試料: 疎水性相互作用や強い静電相互作用による非特異的吸着

⇒ 分離性能・感度・再現性の低下 ⇒ 修飾キャピラリーの選択

4. 購入

・(未処理)フューズドシリカキャピラリーなどの名称で各 CE 装置メーカから市販

・予め検出窓が開けられた CE 専用のもの以外にも,クロマトグラフィー用のフューズドシリカ製

キャピラリーカラム(内径 100 μm 以下)の流用も可能

・[応用] GL Sciences, Polymicro Technologies などから長尺(> 10 m)で購入するとさらに安価

ただし,検出窓を開ける作業が必要

〇応用: 内表面修飾キャピラリー

・修飾剤で内表面改質されたキャピラリー,試料に応じて内表面修飾法を選択.

以下では,主に市販品について解説

1. 特徴

・正電荷修飾キャピラリー

・負電荷修飾キャピラリー

・中性(親水性)ポリマー修飾キャピラリー

2. 注意点

・市販品の購入(各項目を参照): 未修飾キャピラリーと比較して高価

・[応用] 自作: 調製自由度が高い反面,内表面修飾手順が煩雑,高再現性のためには習熟が必要

・[応用] ダイナミックコーティング: 調製容易,測定毎に要修飾

Fig. 2. 内表面修飾キャピラリーの長さ方向断面模式図

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1. キャピラリーの選択

3

・正電荷修飾キャピラリー

・アミノ基など正に帯電する官能基を有する化合物が内表面に修飾されたキャピラリー

・カチオン性ポリマー修飾キャピラリー

・カチオン性官能基が内表面に共有結合固定化されたキャピラリー

1. 特徴

・正に帯電した試料分子の非特異的吸着を抑制

・陰極側から陽極側に向かう速い電気浸透流が発生(未修飾時と比較して反転)

⇒ 検出部: 陽極側

2. 測定対象

・等電点の高い塩基性タンパク質・ペプチド など

3. 注意点

・負に帯電した試料に対して,静電相互作用による吸着の恐れあり

4. 購入

・ナカライテスク: COSMO(+)キャピラリー,SMILE(+)キャピラリー

・SCIEX: アミンキャピラリー

Fig. 3. 正電荷修飾キャピラリーの長さ方向断面模式図

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1. キャピラリーの選択

4

・負電荷修飾キャピラリー

・スルホ基などの負に帯電する官能基を有する化合物が内表面に修飾されたキャピラリー

・アニオン性ポリマー修飾キャピラリー

・アニオン性官能基が内表面に共有結合固定化されたキャピラリー

1. 特徴

・負に帯電した試料分子の吸着抑制

・酸性条件下でも,陽極側から陰極側に向かう速い電気浸透流が発生

(⇔ 未修飾キャピラリー: 酸性条件下で電気浸透流速度が大きく低下)

⇒ 検出部: 陰極側

2. 測定対象

・酸性条件下で負に帯電するような酸性タンパク質・ペプチドの迅速分析 など

3. 注意点

・正に帯電した試料に対して,静電相互作用による吸着の恐れあり

4. 購入

・ナカライテスク: SMILE(-)修飾キャピラリー

Fig. 4. 負電荷修飾キャピラリーの長さ方向断面模式図.

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1. キャピラリーの選択

5

・中性(親水性)修飾キャピラリー

・中性かつ親水性のポリマー*で内表面修飾されたキャピラリー

(* ポリエチレングリコール,ポリビニルアルコール (PVA),ポリアクリルアミド など)

1. 特徴

・疎水性相互作用に基づく非特異的吸着の抑制

・電気浸透流を抑制

⇒ 検出部: カチオン性試料は陰極側,アニオン性試料は陽極側に設定

⇒ 応用: キャピラリー等電点電気泳動

2. 測定対象

・疎水性相互作用による非特異的吸着が顕著なイオン性化合物全般(タンパク質・ペプチド など)

3. 注意点

・速い電気浸透流が利用できない

⇒ 試料の電気泳動移動度: 小 = 分析時間: 長

・カチオン性試料とアニオン性試料の同時分析: 困難

4. 購入

・Agilent Technologies: PVA 修飾キャピラリー,CEP 修飾キャピラリー,

μSIL キャピラリーシリーズ

・GL Sciences: ガスクロマトグラフィー用キャピラリーカラムの一部(内径 100 μm 以下)

・SCIEX: ニュートラルキャピラリー,DNA キャピラリー,N-CHO キャピラリー

Fig. 5. 中性(親水性)修飾キャピラリーの長さ方向断面模式図.

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「2. キャピラリーの洗浄方法」のプロトコール

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2. キャピラリーの洗浄方法

[使用する器具]

テフロンチューブ(内径:0.4 mm,外径:1 mm,GL Science など)

シリカキャピラリー(内径:50 µm,外径:375 µm,モレックスなど)

シリンジ針(27G)(テルモ,テル注射針など)

フィルター(孔径:0.45 m)(ナカライ,コスモナイスフィルターなど)

シリンジ(1 mL)(テルモ,テルモシリンジなど)

工業用ドライヤー(Hakko,ヒートガンなど)

→シリンジ針とキャピラリーを接続するテフロンチューブを熱収縮させるために使用

*このサイズはあくまでも一例で,キャピラリーの外径に合わせてテフロンチューブ,シリンジ針は選

択する.

[洗浄液の一例]

1 M NaOH 水溶液、1M KOH 水溶液、1M HNO3 などの酸やアルカリ溶液

水や緩衝液はフィルター(孔径:0.45 m)でろ過後,使用

(注 1) 疎水性物質が分離の場合,メタノールやエタノールなどの有機溶媒で洗浄を行うと,

再現性よく分離分析できるときもある.

(注 2) タンパク質などの場合,界面活性剤を含む液を用いると,吸着したタンパク質を洗浄できる場合

がある.

【手順】未修飾キャピラリーの場合

〇市販装置の場合(洗浄メソッド(自動化操作)がある場合)

初めてキャピラリーを使用する場合

1. 洗浄液(下記参照)専用のバイアルをセットし,洗浄液をキャピラリーに注入(5 分程度).

2. 水(蒸留水・イオン交換水・超純水)で洗浄液を洗い流す(5 分程度).

3. 電気泳動で使用する緩衝液をキャピラリーに注入し(10分程度),キャピラリーを緩衝液で

満たし,シリカ表面の活性化完了.

4. 分離分析操作

測定間の洗浄

多くの場合は,3-4 の操作を繰り返す.

・測定間で検出時間の変動が大きい場合

→測定ごとに,1-4 操作を繰り返す.

【目的】測定の再現性確保のために

(1)安定した電気浸透流の発生

(2)キャピラリー壁面への吸着種の除去のために洗浄操作は必須

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「2. キャピラリーの洗浄方法」のプロトコール

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〇自作の装置の場合(洗浄を自動でできない場合)

1. シリンジとキャピラリーをテフロンチュ

ーブとヒートガンで接続.(図 1 参照)

2. シリンジポンプを用いて,市販装置と同

じ操作を実施.

(注 1)シリンジとキャピラリーの接続が外れ

て,洗浄液が飛び散る危険がある.このため,

パラフィルムでシリンジ/フィルター、フィルタ

ー/シリンジ針間を巻き付ける.また,防護メガ

ネを着用.

(注 2)検出窓はもろくなっているため,折ら

ないように,また汚れを付けないように注意.

【手順】(修飾キャピラリーの場合)

上記の方法と同じ.ただし,使用する洗浄液はコーティング剤の剥離,充填剤の破壊の恐れがあるた

め注意が必要

[補足説明]

シリカキャピラリーに関しては,キャピラリー選択の項目を参照

1. 電気浸透流はシラノールの数に関与する.市販のシリカキャピラリーは製造後に有機物が付着し

ている恐れがあり,かつ,シラノール基が不活化しているため,シリカキャピラリーを洗浄し,

シリカキャピラリーの表面を清浄化・活性化する.

2. タンパク質や疎水性の高い物質,正電荷の物質は,泳動中にシリカ表面に吸着する恐れがある.

測定後,これらを洗浄除去する必要がある.

図 1. シリンジ・フィルターキャピラリー接続の図

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「3. 検出窓の開け方」プロトコール

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3. 検出窓の開け方

【手順】デザインカッターを用いた作製方法

1. 開けたい部分(一般的には 3 mm 程度)にマーカーなどで印を

つける(市販装置ならばカートリッジに接続し、目印をつければ間

違えが少ない).

2. デザインカッターを用意し、顕微鏡下(実体顕微鏡で 20~40

倍)でポリイミドコーティングを剥がす.

3. 一面ずつ丁寧にはがした後、水で湿らしたキムワイプなどで丁

寧にポリイミド部分を除去する.

[補足説明]

非接触型電気伝導度検出器を用いる場合にはウインドウは不要.

【目的】キャピラリーウインドを適切に開ける

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「3. 検出窓の開け方」プロトコール

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【手順】ライターを用いた作成方法

1. デザインカッターを用いる場合と同様に,開けたい部分に印をつ

ける.

2. ライターを用いて検出窓を作製する部分をあぶって焦がす(写

真).コーティングが赤熱したのち,炭化する.小さな検出窓を開け

るためのライターであぶる際のコツは

①小さい炎であぶる.

②炎側は動かさないで,キャピラリーを近づける.

③一気に燃やさず,炎の上を前後させて燃焼を調節する.

④必要に応じて,検出窓の周囲をアルミ箔で保護する.

3. エタノールで湿らせたキムワイプを用いて焦がした部分をはが

し,検出窓の完成.

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「4. 泳動液の選択」プロトコール

10

4. 泳動液の選択

【手順】

基本的には試料名から過去の文献を検索し,最適化された分離条件を採用するのが最も簡単.

自身で泳動液を選ぶ場合,基本となる緩衝液と分離を向上する添加剤の組み合わせで考える.

ポイントは以下 4 つ.

①泳動液の pH

→ 緩衝能を持つ pH 領域か?試料が電荷を持ち,分離される pH か?

②泳動液の電気伝導度

→ 電流値が高すぎないか?

(10 ~ 30 μA 程度が望ましいが,必要に応じて 100 µA 程度を上限として最適化可能)

③泳動液と検出器の相性 → 下記一覧参照

④泳動液と分離モードの相性 → 下記一覧参照

検出器・分離モードに対応する泳動液一覧 (目安,×は一般的には用いられない組み合わせ)

CZE* CGE* cIEF* MEKC/CDEKC*

UV 可視吸収 UV 吸収を持た

ない緩衝液

分子ふるいポリ

マーを含む緩衝

キャリア

アンフォライト

SDS*や CD*を

添加した緩衝液

UV 可視吸収

(間接吸収)

間接吸収剤を

含む緩衝液 × × ×

電気伝導度

検出

低電気伝導度の

緩衝液 × × ×

蛍光検出 あらゆる緩衝液

分子ふるいポリ

マーを含む緩衝

キャリア

アンフォライト

SDS や CD を

添加した緩衝液

質量分析 揮発性緩衝液 × × ×

*分離モードについては 13 ページを参照

CZE: キャピラリーゾーン電気泳動,CGE: キャピラリーゲル電気泳動,cIEF: キャピラリー等電点電

気泳動,MEKC: ミセル動電クロマトグラフィー,CDEKC: シクロデキストリン動電クロマトグラフィ

ー,SDS: ドデシル硫酸ナトリウム,CD: シクロデキストリン

【目的】測定試料や検出器の特性に合わせて適切な泳動液を選択する

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「4. 泳動液の選択」プロトコール

11

[各緩衝液の特徴(利用可能 pH は pKa ± 1.0 程度)]

無機系緩衝液

リン酸塩緩衝液 (pKa (25 °C) = 2.1, 7.2, 12.7)

ホウ酸塩緩衝液 (pKa (25 °C) = 9.2)

1. 特徴

緩衝能が高く,また UV 吸収をほとんど持たないため,汎用的に用いられる.

2. 注意

高濃度になると電流値が上がりピークが広くなりやすいため,10~20 mM 程度の濃度から試すと良い.

有機系緩衝液

グッドバッファー (MES (pKa (20 °C) = 6.2) や HEPES (pKa (20 °C) = 7.6) など)

Tris-HCl 緩衝液 (pKa (25 °C) = 8.3)

1. 特徴

生化学分野でよく使われる中性緩衝液.濃度に対して電気伝導度が低く,電流値を抑えられるため,比較

的高濃度の緩衝液を利用できる.短波長領域で UV 吸収を持つ (<240 nm).

2. 注意

UV 検出では 240 nm 以上の波長を用いること.

揮発性緩衝液 (質量分析用)

酢酸・ギ酸・炭酸・アンモニアおよびこれらの塩

1. 特徴

質量分析に用いることができるのは揮発性成分に限定されるため,これらの揮発性緩衝液が用いられる.

10%酢酸や 1 M アンモニアのように,pH を調整せず単なる溶液で用いられることも多い.

2. 注意

緩衝能が低いため,泳動液は長期間保存せず,要時調製することが望ましい.

キャリアアンフォライト (等電点電気泳動用)

1. 特徴

両性担体であるキャリアアンフォライトを含む泳動液をキャピラリーに導入し,両端をリン酸や NaOH

などの酸・塩基溶液に浸し,電場をかけることで pH 勾配を形成できる.様々な pH 範囲のキャリアアン

フォライトが販売されており,対象試料の等電点に合わせて選択する.

2. 注意

キャピラリー内壁へのタンパク質の試料吸着が生じやすいため,吸着抑制コーティングを施したキャピ

ラリーを使用する必要がある.

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「4. 泳動液の選択」プロトコール

12

[各添加剤の特徴]

間接吸収剤

1. 特徴

UV 吸収を持たない試料を検出するため,安息香酸・フタル酸・クレアチニン・イミダゾールなどを緩衝

液に添加するか,もしくはそれ自体を緩衝液として利用する.間接吸収剤は UV 吸収を持ち,分析条件に

おいて試料と同じ電荷 (正もしくは負) を有する必要がある.

2. 注意

間接吸収法は感度が低くなりがちであるため,なるべく強い吸収を持つ間接吸収剤を低濃度 (~数 mM)

で利用することが望ましい.

分子ふるいポリマー (CGE 分離用)

1. 特徴

主に DNA や RNA などの核酸・タンパク質・糖鎖などの生体高分子を,分子サイズに応じて分離するた

め,ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体や,ポリアクリルアミド,ポリエチレ

ングリコールなどの分子ふるいポリマーが泳動液に添加される.

2. 注意

分子ふるいポリマーは粘性が高く,またキャピラリー内壁へ吸着することから添加の前後で電気浸透流

速度が大きく変化する場合が多い (一般的には抑制される).また粘性が高いため,圧力による試料注入

は適しておらず,一般的には電気的注入を用いる.

界面活性剤 (MEKC 分離用)

1. 特徴

芳香族化合物など疎水性が強く電荷をほとんど持たない試料を分離するため,ドデシル硫酸ナトリウム

(SDS) や臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム (CTAB) などの電荷を持つ界面活性剤が緩衝液に

添加される.

2. 注意

CTAB などカチオン性界面活性剤を用いる場合,キャピラリー内壁に吸着することで電気浸透流が反転

することが多い.またミセルを形成するためには,臨界ミセル濃度以上の濃度で添加をする必要がある

(例: SDS では 8.2 mM (25 °C)).10~50 mM 程度の濃度で添加されることが多い.

シクロデキストリン (CDEKC 分離用)

1. 特徴

通常の電気泳動では分離できない光学異性体を分離するため,硫酸化シクロデキストリンやジメチルシ

クロデキストリンなどのシクロデキストリン誘導体が緩衝液に添加される.その他にもキラル分離のた

めにクラウンエーテルやサポニンなどの光学活性な添加剤が使用されることがある.

2. 注意

添加剤によってはキャピラリー内壁に吸着して電気浸透流速度が変化することがある.

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「4. 泳動液の選択」プロトコール

13

[補足説明] 分離モードについて

キャピラリーゾーン電気泳動 (CZE)

CE において最も一般的に用いられる分離モード.分子サイズと電荷の比に応じて試料を分離することが

できる.

キャピラリーゲル電気泳動 (CGE)

分子ふるいポリマーを泳動液に添加し,生体高分子を分子量に従って分離する手法.

キャピラリー等電点電気泳動 (cIEF)

キャピラリー内部に pH 勾配を形成し,タンパク質・ペプチドなどを pI に対応した位置に収束させる手

法.pI に応じた分離や等電点の解析に使用される.

ミセル動電クロマトグラフィー (MEKC)

泳動液にミセル (擬似固定相) を添加し,試料が擬似固定相へ取り込まれる強さ (主に疎水性) の違い

に応じて分離を行う手法.

シクロデキストリン動電クロマトグラフィー (CDEKC)

泳動液に光学認識能の高いシクロデキストリン (擬似固定相) を添加し,試料が擬似固定相へ取り込ま

れる強さの違いに応じて光学異性体分離を行う手法.

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「4. 泳動液の選択」プロトコール

14

【参考資料】

試料・検出器の対応一覧表 (目安,×は一般的には用いられない組み合わせ)

UV 可視吸収 UV 可視吸収

(間接吸収)

電気伝導度

検出 蛍光検出 質量分析

金属イオ

ン・無機陰

イオン

× 〇 〇 ×

(ICP-MS な

ど特殊な装

置が必要)

有機酸・ア

ミン

〇 〇

(蛍光標識が

必要)

〇 糖 (要誘導

体化)

ペプチド・

タンパク質

核酸

(DNA・RNA

など)

× ×

×

疎水性化合

物 (泳動液

に界面活性

剤を添加す

る必要有)

(界面活性剤

の部分注入

などが必要)

試料・分離モードの対応一覧表 (目安,×は一般的には用いられない組み合わせ)

CZE CGE cIEF MEKC/CDEKC

金属イオン

×

×

×

有機酸・ア

ミン

〇 糖 (要誘導

体化)

ペプチド・

タンパク質 〇

核酸

(DNA・RNA

など) × ×

×

疎水性化合

物 × 〇

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「5. CE用検出器の種類」プロトコール

15

5. CE 用検出器の種類

【手順】

〇試料の量・濃度が十分に高く(mM~µM),紫外・可視に吸収を持つ場合

→ 紫外-可視吸光

〇試料の量・濃度が低い,紫外・可視に吸収がない場合

→ 蛍光検出

表 1 CE で用いられる主な検出器の特徴

検出方法 検出下限の目安 主な測定対象

紫外-可視吸光 10-5 M - 10-7 M 有機溶媒,有機化合物,タンパク質,DNA

蛍光検出 10-9 M - 10-15 M 糖,糖鎖,タンパク質,DNA,アミノ酸,ペプチド,脂肪族アミン

電気伝導度 10-6 M - 10-8 M 無機イオン、アミノ酸

質量分析 10-8 M - 10-12 M イオン性化合物、代謝産物

【各検出器の特徴】

紫外-可視吸光検出

1. 特徴

・汎用性が最も高く市販されている装置ではあらかじめ備え付けられている.

・10-5 M 程度の高濃度の試料が必要.

・未知試料に対して連続スペクトルが取れる.

2. 測定対象

・芳香環や多重結合を有する分子.

・DNA やタンパク質などの生体高分子(260-280 nm).

・重金属イオン,金属錯体.

蛍光検出

1. 特徴

・最も高感度な検出(レーザーを用いれば pM レベル)が可能.

・ほとんどの場合蛍光標識化が必須.

2. 測定対象

・有機化合物であれば何らかの蛍光標識後に測定が可能.

【目的】測定試料の特性に合わせて適切な検出器を選択する

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「5. CE用検出器の種類」プロトコール

16

質量分析

1. 特徴

・分子量情報が得られる.

・生体成分などの一斉解析が可能.

・カチオン種の検出は比較的容易.

・紫外可視などで検出したピークの分子量解析が可能.

2. 測定対象

・イオン性化合物,とくに代謝産物などバイオ系の分析.

補足:その他の検出方法

間接検出

1. 特徴

・泳動用緩衝液に蛍光試薬などの色素を添加する.

・試料がウインドウを通過すると信号強度が低下し,この負のピークをもとに定量を行う.

2. 測定対象

・糖など紫外吸収や蛍光を持たない試料.

電気伝導度(非接触型)

1. 特徴

・ウインドウが不要.

・汎用性が高く,特に無機イオンの検出に有用.

・他の検出器との併用が可能.

2. 測定対象

・全てのイオン性化合物.

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「6. 試料の注入について」プロトコール

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6. 試料の注入について

【手順】

全自動 CE 装置を利用する場合

⇒ 圧力注入 もしくは 電気的注入

手製 CE 装置を利用する場合

⇒ 落差法 もしくは 電気的注入

[各試料注入法の特徴]

圧力注入

1. 特徴

汎用性が最も高く,市販されている装置ではあらかじめ備え付けられている.

注入量は印加圧力と注入時間に比例する.

2. 注意

通常,キャピラリー全長の 0.5%以下となるように注入量を調整する.

(例: 内径 50 µm・全長 60 cm のキャピラリーにおいて,0.5 psi (35 mbar)・5 秒で約 5 nL 注入)

試料に含まれる夾雑物が多い場合,ピークが太くなり分離能が低下することがある.

注入量が少ない場合は再現性が低いため,定量分析の際には濃度既知の内標準物質を添加することが望

ましい.

電気的注入

1. 特徴

市販されている装置ではあらかじめ備え付けられている.

キャピラリーゲル電気泳動など粘性の高い泳動液以外ではほとんど用いられない注入法.

2. 注意

試料に含まれる夾雑物によって注入量が変動するため,未精製試料を測定する場合は注意が必要.

(一般的に,1~5 kV・5~30 秒程度の注入を行うことが多い)

落差法

1. 特徴

試料注入時にキャピラリーインレットの高さを上げ,重力を利用して試料を注入する方法.

注入量は落差と注入時間に比例する.

基本的には圧力注入と同じ特徴の注入法.

(一般的に,落差 10~20 cm・10~30 秒程度の注入を行うことが多い)

【目的】試料や装置に合わせて適切な試料注入法を選択する

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「7. 温度制御」プロトコール

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7. 温度制御

【手順】

〇市販装置の場合

→測定する温度に設定(メーカによって異なるが 10~60℃まで調整可能)

〇自作の装置の場合

→ファンを設置,キャピラリーを温度設定された水浴に浸すなどして測定.あるいは,これら温度制

御装置なしで測定

[補足説明]

市販装置には下記の 3 種類の温度制御方法がある.

1. ファンによる空気循環

2. 液体(冷媒)使用

3. ペルチェ素子の使用

温度制御装置のない自作の装置の場合に注意する点

1. 低電圧で操作.

2. 内径の小さな(*)キャピラリーを選択.

3. 電気伝導度の高いイオンを含む溶液の場合は,イオンの濃度を極力低く抑える.

4. 電気伝導度の低いイオンを含む溶液,MOPS, MES などの双性イオンを含む電気伝導度の低い

緩衝液の使用.

5. キャピラリー長さを長くする.

*用いる泳動液中のイオン濃度が 0.01 M 程度以下なら,キャピラリーの内径は 100 μm 程度で問題が

生じないと報告されている.

温度変化の分離への影響

電場印加により,ジュール熱が発生.このジュール熱の発生は

1. 溶液の温度上昇に伴う,溶液の粘度の低下を引き起こす.つまり,これにより電気泳動速度が変

化.

2. 温度上昇に伴い,キャピラリー内に温度分布が形成,これがピークのブロード化(分離能の低

下)をもたらす.

3. 温度変化に伴い,電気泳動速度が変化するため,検出時間の再現性が悪化.また,圧力注入によ

る試料導入の場合,試料導入量にばらつきが生じ,定量の再現性が悪化.

【目的】

*測定の再現性を確保(検出時間,ピーク面積)

*分離性能の維持(理論段,分離度,固定相との相互作用)

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「7. 温度制御」プロトコール

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4. 温度上昇により,タンパク質の構造変化を誘起(変性)する問題がある.また,MEKC やアフィ

ニティー電気泳動の際,ミセルやリガンドとの相互作用力が変化し,分離性能が劣る恐れもあ

る.