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経営倫理学会 企業行動研究部会 日清食品ホールディングス 青山学院大学大学院 国際マネジメントサイエンス研究科博士課程 櫻井功男 ユニリーバのESG課題への取組みに関 する事例研究 20176121 A Study on Unilever’s Commitment to Sustainability Issues

ユニリーバのESG課題への取組みに関 する事例研究...経営倫理学会 企業行動研究部会 日清食品ホールディングス 青山学院大学大学院 国際マネジメントサイエンス研究科博士課程

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Page 1: ユニリーバのESG課題への取組みに関 する事例研究...経営倫理学会 企業行動研究部会 日清食品ホールディングス 青山学院大学大学院 国際マネジメントサイエンス研究科博士課程

経営倫理学会 企業行動研究部会

日清食品ホールディングス

青山学院大学大学院 国際マネジメントサイエンス研究科博士課程

櫻井功男

ユニリーバのESG課題への取組みに関する事例研究

2017年6月12日

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A Study on Unilever’s Commitment to Sustainability Issues

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本研究では、ユニリーバのサステナビリティへの取組みを,同社が主導して設立した「持続可能なパーム油に関する円卓会議(RSPO)」に焦点を当てて解き明かす。そして,本業に直結した取組みおよび他団体との連携にその秘訣があることを指摘する。

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研究テーマ

~ 本業直結の取組み&外部団体との連携 ~

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CSR (Corporate Social Responsibility/企業の社会的責任) とは

『企業の意思決定や事業活動が 社会および環境に及ぼす影響に対する 企業の責任』 ISO26000 (2010) 『持続可能な社会をつくるために企業が果たすべき責任』 海野みづえ (2009) 「企業の社会的責任CSRの基本がよくわかる本」 『社会的費用の私的費用化』 粟屋仁美 (2012)「CSRと市場」

『CSRはESG (Environmental/環境、Social/社会、Governance/ガバナンス) への対応に取り組むことと言われることも多く、企業の競争力の決定要因としても重要になっている』 (須藤秀夫 2014)

『企業活動のプロセスに社会的公正性や倫理性、環境や人権への配慮を 組み込み、ステイクホルダーに対してアカウンタビリティを果たしていくこと』 谷本寛治 (2006) 「CSR 企業と社会を考える」

はじめに

CSRの定義、概念は紆余曲折 3

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CSR活動と企業業績については、CSP (Corporate Social Performance)とCFP (Corporate Financial Performance) として、関連性の検証が試みられてきた

業績との相関関係: あり vs なし

CSRと業績には正の相関あり

加賀田(2005, 2008 )やOrlitzky et al. (2003)に見られるように、正の相関があるとする研究結果は多い。「CSR活動に取組むと収益が伸びる」という主張。

一方、相関がない(Griffin and Mahon, 1997)や負の相関がある(Jaggi and Freedman, 1992)とする研究結果もある。更には、相関はあっても、因果関係ではないとの指摘もある。

CSRと業績は無関係

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先行研究

<CSRと企業業績の関係は一定ではない>

CSR活動の領域や手法によって収益効果が異なる。 企業は、自社と社会とがWin-WinとなるCSRを目指す。

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社会課題とは? Sustainable Development Goals (SDGs)

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「サステナビリティ(Sustainability)」とは「持続可能性」と訳され,CSR(企業の社会的責任)を語る上で不可欠の概念.国連の特別委員会「環境と開発に関する世界委員会(WCED)」が1987年に出した最終報告書「Our Common Future (邦訳:地球の未来を守るために)では,人類が持続可能であるためには,「将来世代のニーズを損なうことなく現在の世代のニーズを満たすこと」が必要であるという「持続可能な開発(Sustainable Development)」の概念が打ち出された.

700社を超える会員企業のCEOに調査をしたアクセンチュアの「CEO Study」でもCEOの多くがサステナビリティを,「あったら良い」ではなく「事業戦略の一環」として捉え,それを戦略や事業に統合するのには長期的な視点が必要であると考えていることが判明.

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サステナビリティ(Sustainability)

サステナビリティは企業の喫緊の課題

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ユニリーバは,国連グローバルコンパクト(UNGC)との取り組みを通じて早くから持続可能な開発目標Sustainable Development Goals (SDGs)を先導してきた.同社は「持続可能な開発目標(SDGs)」に取り組む先進企業の代表格で

あり,調査機関グローブスキャンのランキングで,何年にもわたり企業の社会的責任(CSR)において世界一の評価を受

け続けている.

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ユニリーバはサステナビリティへの取組みの先端事例

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「本業を通じた取組み」

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経済同友会は、「3つの宣言」の1つに挙げている 宣言2 「本業を通じたCSRを実践する。」

自社の経営資源や強みが活かせる社会的課題を特定する本業を通じたCSRを実践することの意義は、それが得意分野であるからに他ならない。経営資源や強みを活かして社会的責任経営に取り組み、自社の成長に結びつける。また、本業を通じたCSRを実践することで、業績に左右されることなく、継続してCSRを推進することができる。

「グローバル時代のCSR - 変化する社会の期待に応え、競争力を高める -」 (2011)

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⇒ 個々のCSR活動が企業価値に与える実質的ないし 具体的な影響の度合い。 (河口真理子 2005)

マテリアリティとは?

⇒ CSR活動に戦略性を持たせ、本業を通じたCSRを

可能にするために重要。

CSRにおけるマテリアリティは、なぜ重要?

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⇒ 一定の評価・選定プロセスを通じ、CSRにおける 重要項目を決めること、またはその項目。 (安藤光展 2015)

本業を通じての取組みとマテリアリティ分析

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取締役会が、何がマテリアルで、またどの読み手を影響力があると感じているか、を明確に伝達するなら:

マテリアリティの意義と分析手法

⇒ 投資家は、取締役会がどのように重要性を判断するかの指針を手にする

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Eccles & Krzus (2015)

マテリアリティ・マトリックス: 一例: GRIはX軸に「経済、環境、社会への影響の重要性」を置き、Y軸に「ステークホルダー評価と意思決定への影響度」を置くことを推奨している

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<個別企業と業界団体>

今やCSRは個々の企業の範疇を超えると指摘し、外部組織との連携の必要性を示す。(長坂2011、谷本2013)

Porter(1998)は、同業者の協力と地理的隣接性を産業創出の源泉として挙げた。

Hoivik (2011)は、個々の企業が小さい場合、企業単独でCSRを展開してもその社会的効果が限定的であると指摘し、地理的に近接する同業の中小企業でのCSRは有効であるとする。

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先行研究

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アライアンスの利点と欠点

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利点 欠点

補完的資源へのアクセス コントロールの欠如

スピード 潜在的競合企業に対する支援

長期的な継続可能性が不確実

学習を統合することが困難

Collis & Montgomery (1998) 「資源ベースの経営戦略論」

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マテリアリティ分析 NPO/NGOとの連携 合計

あり なし

あり (実測値) 343 63 406

あり (期待度数) 175 231 406

なし (実測値) 210 668 878

なし (期待度数) 378 500 878

合計 533 731 1,284

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クロス集計:「マテリアリティ分析」と「NPO/NGOとの連携」

⇒ マテリアリティ分析をしている会社はNPO/NGOとの連携が多い

東洋経済CSRデータ (回答のあった上場企業1,284社)

カイ2乗検定 検定統計量 =415.3203 有意確率=0.00

CSR優良企業の特徴

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マテリアリティ分析 国内業界団体のCSR基準 合計

あり なし

あり (実測値) 169 237 406

あり (期待度数) 69 337 406

なし (実測値) 49 829 878

なし (期待度数) 149 729 878

合計 218 1,066 1,284

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クロス集計:「マテリアリティ分析」と「国内業界団体のCSR基準」

東洋経済CSRデータ (回答のあった上場企業1,284社)

カイ2乗検定 検定統計量 =255.8915 有意確率=0.00

⇒ マテリアリティ分析をしている会社は国内業界団体のCSR基準を参照しているケースが多い

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マテリアリティ分析 国際業界団体のCSR基準 合計

あり なし

あり (実測値) 124 282 406

あり (期待度数) 46 360 406

なし (実測値) 22 856 878

なし (期待度数) 100 778 878

合計 533 731 1,284

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クロス集計:「マテリアリティ分析」と「国際業界団体のCSR 基準」

⇒ マテリアリティ分析をしている会社は国際業界団体のCSR基準を参照しているケースが多い

東洋経済CSRデータ (回答のあった上場企業1,284社)

カイ2乗検定 検定統計量 =216.5350 有意確率=0.00

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サステナビリティへの取組みで優良な企業は、 ① マテリアリティ分析に基づくCSR活動 (=本業に直結したCSR活動)を厳選している ② 外部団体との連携に積極的

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推定される①と②の関係:

・本業に直結した取組みなので、業界全体で取組む (業界団体)。 ・精緻な自己分析によって、自社単独での取組みの限界を認識。 ・外部団体との目的共有のため、マテリアリティ分析を求められる。

導かれる発見事項:

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研究方法および研究対象

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リサーチクエスチョン:

・ユニリーバがサステナビリティに取組む動機は何か?

・その成功要因は何か(本業との関係? 他団体への関与?)

研究方法: 事例研究

・アニュアルレポート等の公開情報および当分野に関する文献を分析

・ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスのコミュニケーション部門の責任者へのインタビュー:

伊藤征慶氏(ユニリーバ・ジャパン・ヘッドオブコミュニケーション) 2017年1月13日 実施

研究対象:

同社が主導して設立した「持続可能なパーム油に関する円卓会議(RSPO)」に焦点を当てる

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ユニリーバの事業およびサステナビリティへの取り組み

(A)会社概要

・売上10億ユーロ超の13のメガブランドを持つ. ・2016年の売上高は527億ユーロ,営業利益は78億ユーロ. ・190ヶ国の計25億人が毎日何らかの同社製品を購入 . ・同社は169,000人の従業員を抱える消費財の巨人.

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ユニリーバの事業およびサステナビリティへの取り組み

(B)サステナビリティに関するビジョン

ポールマンCEOの下,サステナビリティへの取組み強化. 2030年までにカーボンポジティブにするという目標を掲げ、財

界リーダーたちに取り組みを促す (自社が排出する二酸化炭

素の量よりも多くの二酸化炭素を吸収するか、もしくは排出量以上の再生可能エネルギーを創出する)

2010年から2020年までの間にa.ビジネスを2倍にし,b.環境負荷を半分にし,c.社会的貢献をする」をビジョンに掲げた .

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伊藤氏へのインタビューから

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地球規模でサステナビリティに関する問題が山積する中,従来のやり方ではビジネスは続けられないと認識するようになった.

自社の商品を通じて10億人に対してすこやかな生活を届けるとし,それが長期的には株主にリターンをもたらすものと位置付ける.

世界では様々な問題が生じている中,190ヶ国に向け販売活動を展開するユニリーバだからこそそれらの影響を受けやすい。その認識から,未然に防ぐべく対策としてサステナビリティへの取組みを捉えている

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事業に不可欠なパーム油

食品やシャンプー,洗剤,口紅等の化粧品の原料であり,国際取引されている植物油の65%はパーム油 .

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インドネシアとマレーシアで世界の生産量の85%を占める

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パーム油は栄養価、汎用性、土地利用の効率性で優れる

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パーム油はユニリーバに不可欠

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パーム油の最大のユーザーはユニリーバで

あり,100万トンのパーム油と派生品,および50万トンのパーム核油(石鹸の原料)を使用.

その量は世界のパーム油生産の8%に及ぶ. 使用原材料の中で最大のボリュームを占め

るのもまたパーム油.

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ユニリーバが対峙したサステナビリティ課題

パーム油をめぐる諸問題: (A)温暖化ガス (B)生物多様性 (C)先住民の保護 (D)労働者の人権蹂躙

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(A)温暖化ガス

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インドネシアでは森林伐採と泥炭地の破壊が温暖化ガス排出の原因の85%を占め,その多くがパーム油生産に起因 .

大気中に排出される炭素の約30%は森林によって吸収されているが,熱帯雨林の破壊により垂れ流しとなる

泥炭地とは水に浸かった土壌で,大量の炭素を含んでいる.土壌から水を抜くことで泥炭が空気に触れ酸化し,二酸化炭素が生じる.

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(B)生物多様性

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熱帯林での生物多様性は農地化のために年に1%という速度で減少.

特にインドネシアとマレーシアはそれぞれの政府の財政支援によるパーム油産業の振興(アブラヤシ農園の開墾)のためこのような傾向にある .

森林伐採はスマトラの熱帯雨林に生息するオランウータン,アジアゾウ,スマトラトラ等の希少な野生生物の生活圏を破壊する.

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(C)先住民の保護

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インドネシアとマレーシアの熱帯雨林は何百万の人々が暮らす大切な居住地でもある.

多様な文化,数百におよぶ固有の言語を持つ人々が暮らす.

インドネシアでは,何らかの形で森林に依存している人の数は2千万から1億人とも推定されている.

森林伐採が先住民を始め多くの人々の生活圏を奪う.

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(D)労働者の人権蹂躙

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パーム油のプランテーションは遠く離れた場所から労働者を連れて来ることが多い.

「楽な作業」や「豊かな生活」を謳い,騙すように外国から連れてくることが頻発.

労働者は,パスポートなどを取り上げられ移動の自由を制限されていることもある.賃金の遅延や不払いもある .

米国労働省は,強制労働や児童労働で最悪の産業の1つにパーム油産業を挙げる

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ユニリーバが対峙したサステナビリティ課題

パーム油: (A)温暖化ガスCSR (B)生物多様性 (C)先住民の保護 (D)労働者の人権蹂躙

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➡パーム油にはE(環境)とS(社会)の課題が満載

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持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO) 欧米で「パーム油をボイコットしよう」との声が大きくなるのも

無理からぬ状況. 消費者によるパーム油のボイコットは,パーム油を原料にす

る広範な商品群を持つユニリーバにとって致命傷となる. 一方,生活に密着しているパーム油を一般消費者が使うこと

を一切やめるといった選択肢は現実的ではない.

➡「もしもボイコットするのであれば,問題のある農園からのパーム油に限るべきである」との発想

環境負荷も小さく,人権等の社会的側面でも問題がない持続可能なパーム油とそうでないパーム油を識別可能にするのが「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」の初期の動機.

➡即ち,環境(E)にも社会(S)にも配慮した持続可能なパーム油を認証しようという取組み

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責任あるパーム油調達のための努力

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持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO) (A) RSPOの制度 7つの異なるステークホルダー(a.アブラヤシ生産者,b.製油業者・商社,c.消費者製品製造業,d.環境・自然保護NGO,e社会・開発NGO,f.銀行・投資家,g.小売業)によって構成される非営利団体.

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RSPO設立

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RSPO認証の8原則

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RSPOとは

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2004年に設立されたパーム油の認証機関. アブラヤシ農園から最終製品ができるまでの各工程を認証することで全

工程にわたる管理の連鎖(chain of custody)をつなげることにより,最終

製品中のパーム油の追跡を可能にしようと取組んでいる.「生産段階での認証(P&C認証)」と「サプライチェーン認証(SCCS認証)」.

RSPO自体は直接,審査・認証業務は行わず,第三者であるRSPO認定の承認機関が実施した調査結果の要約をウェブサイトで公開.

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RSPO認証には4つの方式がある. (1)農園ごとに分けてパーム油を流通させる「完全分離」方式, (2)認証農園同士のパーム油は混ぜるが,非認証パーム油と分ける「分離」方式, (3)認証パーム油と非認証パーム油を混合し,比率に応じて最終製品に表示する「マス・バランス」方式, (4)認証農園が環境価値を販売し,パーム油利用企業がそれを購入して最終製品に認証マークを付ける「ブック・アンド・クレーム(グリーンパーム)」の計4方式

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RSPO 4つの認証方式

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RSPO 4つの認証方式

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(1)リスクへの対応.

より持続可能な生産者を選択することで,安定した原材料調達に対するリスクや,疑惑がもたれる生産者からの調達によるブランドへのリスクなどからの回避につながる.

(2)差別化.

認証マークなどを取得することにより競合他社との差別化や販促に活かす.

(3)企業ポリシーとの整合性.

現行の企業経営やCSR方針との整合性や一貫性を保つ.

➡パーム油問題に対する関心の高まりからイギリスをはじめとするヨーロッパ諸国では関係業界全体でRSPOを支持するようになった.また,最も大量にパーム油を消費する中国,インドにおいても産業界を中心に対応を模索する動き

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(B) 認証パーム油の普及 企業にとってのRSPOへの参加動機

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認証パーム油の普及

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農産品調達、森林破壊、人権は同社の重要課題

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(C)ユニリーバが果たした主導的役割 ユニリーバはRSPO設立に主導的な役割を果たした。主要原料パーム油

の持続可能な調達を目的に,ユニリーバが世界自然保護基金(WWF)と共に関連企業を巻き込んで設立したのがRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)。

RSPOがパーム油生産の国際基準を作り、その基準が後に認証制度の世界標準になった 。ユニリーバが作ったパーム油生産の国際基準が認証制度全体のモデルとなり,世界標準となったとも言える。

同社では,早くから再生可能なパーム油に向けての社内基準を持っていたが,その基準を社外に公表し広めていく方が良いとの判断に至った。

サステナブルなパーム油への取組みで主導的立場を取ってきた結果,RSPOの初代議長にはユニリーバの代表者Jan Kees Vis が就任。

2015年,ユニリーバは消費財産業において認証パーム油の最大の使用者 。

“Unilever Sustainable Palm Oil Sourcing Policy 2016”で5つの宣言。(1)パーム油生産において森林破壊をしない,(2)泥炭地での開発をしない,(3)搾取をしない,(4)小農家に配慮しながらの社会&経済への寄与する,(5)透明性を確保する。

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(D)他社,他産業への波及効果 ユニリーバが主導して設立したRSPOは他産業を含む「CSR調

達」全般にも波及. 花王は,2014年に原材料調達ガイドラインを改定し、2020年

までに消費者向け製品に使用するパーム油は農園まで追跡可能なものを購入するとのパーム油調達の方針を定めた .

ユニリーバのRSPO設立を模してトヨタでは自動車のタイヤの原料となる天然ゴムの国際基準の設立に動く .

住友林業では輸入材に対してFSC(Forest Stewardship Council/森林管理協議会)などの認証木材の取り扱いを拡大

イオンでは水産資源の認証であるMSC(Marine Stewardship Council/海洋管理協議会)認証やASC(Aquaculture Stewardship Council/水産養殖管理協議会)認証の取り扱いの強化. 44

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効果

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RSPOのサプライチェーン認証を通じて、透明性と追跡可能性が確保されるようになった.

➡環境と社会を守る企業イメージの醸成

小規模農家は、RSPOの認証を受けるようになってから、収入が増えている .

WWF Indonesia (2014) “Palm Oil Sustainability” Appropriate Technology, Vol 41, No.1 pp12-13

➡主原料であるパーム油の安定供給

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おわりに

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「大学生が選ぶ働きたい会社のランキング」では世界34カ国で1位. ➡ 就職先としての高い人気は,サステナビリティに対する同社の取組みを好感してのものである.優秀な社員を惹きつけることはユニリーバの次の成長の糧にもなる.

➡ 本業に連動した対応とおよび他団体との連携が成功の鍵となる.

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取材先および主な参考文献 取材先: 伊藤征慶(ユニリーバ・ジャパン・ヘッドオブコミュニケーション)2017年1月13日 参考文献: Khan, Mozaffar N., George Serafeim, and Aaron Yoon. "Corporate Sustainability: First Evidence on Materiality." Hans Harmen Smit et al. (2013) Breaking the Link between Environmental Degradation and Oil Palm Expansion: A Method for Enabling Sustainable Oil Palm Expansion PLOS ONE, Vol. 8, Issue 9, 1 Harvard Business School Working Paper, No. 15-073, March 2015. J. Pretty et al.(2008) Multi-year assessment of Unilever’s progress towards agricultural sustainability II: outcomes for peas (UK), spinach (Germany, Italy), tomatoes(Australia, Brazil, Greece,USA), tea (Kenya, Tanzania, India) and oil palm (Ghana) INTERNATIONAL JOURNAL OF AGIULTURAL SUSTAINABILITY 6 (1) 63 J Jordan Nikoloyuk, Tom R. Burns and Reinier de Man (2010) “The promise and limitations of partnered governance: the case of sustainable palm oil” CORPORTE GOVERNANCE 62 Meloni, M.J. and Brown, M.E., (2006) “Corporate social responsibility in the supply chain: and application in the food industry”, Journal of Business Ethics, Vol.68 No. 1, pp.35-52 N. Leila Trapp (2012) “Corporation as climate ambassador: Transcending Business sector boundaries in a Swedish CSR campaign” Rublic Relations Review 38 (2012) pp458-465 Peter Lund-Thomsen and Khalid Nadvi (2010), “Global Value Chains, Local Collective Action and Corporate Social Responsibility: a Review of Empirical Evidence ”Business Strategy and the Environment Bus, Strat. Env. 19, 1-13 (2010) Ruchi Tewari & Taal Pahak (2014, “Sustainable CSR for Micro, Small and Medium Enterprises, Journal of Management & Public Policy, Vol.6, No. 1,December 2014, pp34-44 Tingting Chen, Anna Larsson, Cecilia Mark-Herbert (2014), “Implementing a collective code of conduct-CSC9000T in Chinese textile industry” Journal of Cleaner Production 74 (2014) pp35-43 Unilever Annual Report and Accounts 2016, p1“About us”、p23 Financial Review WWF Indonesia (2014) “Palm Oil Sustainability” Appropriate Technology, Vol 41, No.1 WWFジャパン(公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン)2013「持続可能なパーム油の調達とRSPO」

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荒木茂善(2009),『サステナビリティと本質的CSR 環境配慮型社会に向けて』p27,拓殖大学政経学部編,三和書籍 河口真理子 (2005) SRIの新たな展開―マテリアリティと透明性― 大和総研 2005年9月29日 川村雅彦(2015)『CSR経営 パーフェクトガイド』ウィズワークス株式会社 株式会社日本総合研究所(2014)『平成25年度 地球温暖化問題等対策調査(環境情報を始めとする非財務情報に係る国際的な企業評価基準に関する調査事業)報告書』 企業活力研究所(2014)『企業の社会的責任に関する国際規格の適切な活用のあり方についての調査研究報告」

企業と社会フォーラム編(谷本寛治ほか)(2012)『持続可能な発展とマルチ・スタイクホルダー』 千倉書房

須藤秀夫(2014)、『CSR(企業の社会的責任)とSRI(持続可能性と責任ある投資) ―世界的な盛り上がりと立ち遅れている日本―』、西南女学院大学紀要Vol.18.2014

高橋浩夫(2016)『戦略としてのビジネス倫理入門』 丸善出版

田島英一・山本純一(2009)、『協働体主義―中間組織が開くオルタナティブ』慶應義塾大学東アジア研究叢書 堤弘明 (2007)『CSRを考える:欧米企業にみるCSR企業間連携の事例 』 日経CSRプロジェクト

長坂寿久 (2011)『NGO・NPOと企業協働力 CSR経営論の本質』 明石書店

日経エコロジー2016年3月, p34-35

ロバート・G・エクレス、マイケル・P・クルス著、北川哲雄監訳(2015)『統合報告の実際』原文はThe Integrated Reporting Movement, Robert G. Eccles, Michael P. Krzus (2015)

安田洋史(2006)、『競争環境における戦略的提携 その理論と実践』NTT出版

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