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― 44 ― P3- 4 【 目的 】我が国における重要かつ緊急の課題として、現在よ りさらなる高齢化にも対応可能かつ持続可能な健康長寿社会 の構築があげられており、健康寿命の延伸が大きな課題と なっている。健康寿命の延伸には、身体活動・運動習慣を維 持することが重要であるが、健康づくりに関しては、無関心 層への支援不足が指摘されている。また、ヘルスリテラシー (Health Literacy:HL)が健康と密接に関連しており、HL が高い人は、健康的な運動習慣を確立しているとされており、 近年本邦でも重要性が認識されているが、HL と運動習慣や 身体活動の行動変容の変化に関する報告は少ない。 当院では、地域住民を対象に健康祭りを実施しており、そ の際にリハビリ部では地域住民に対して、医療講話や体力測 定を実施し、HL 向上や健康寿命延伸に資する取り組みを実 施している。 今回、ロコモ度テスト実施後、身体活動や運動習慣に関す る行動変容ステージ(The stages of behavior change:SC) に対しての影響、及び HL との関連について検証した。 【 方法 】 対象は体力測定に参加した 50 名中、調査票結果に不 備の無い、地域住民 44 名(男性 18 名、女性 26 名、年齢 61.0 ± 15.3 歳)とした。対象者の基本情報と HL、身体活動と運 動習慣の各 SC を問診にて聴取、身体機能評価として、握力 測定とロコモ度テストを実施。テスト後に結果のフィード バックを行い、各 SC の状態に応じた生活や運動のアドバイ スを実施。最後に再度 SC を問診にて調査した。 SC は「身体活動 / 運動を始めるつもりはない」と回答し たものを無関心期、「身体活動/ 運動を半月以内に始めるつも り」を関心期、「身体活動 / 運動を1月以内に始めるつもり」 を準備期、「身体活動 / 運動を始めて6カ月以内」を実行期、 「身体活動 / 運動を始めて 6 ヵ月以上」を維持期と分類した。 身体活動は「18~64歳は3メッツ以上毎日約60分以上、 65 歳以上は立位で強度は問わず毎日 40 分以上」、運動習慣は 「世代共通で 30 分以上の運動を週 2 回以上」と、健康づくり のための身体活動基準 2013(厚生労働省)の基準を用いた。 HL の評価には、石川らが開発した、伝達的・批判的 HL 尺度( CCHL )を用い、5 つの質問項目(情報収集・情報選択・ 情報の理解と伝達・情報の判断・計画と行動)を5項目の 「まったくそう思わない( 1 点)」から「強くそう思う( 5 点)」 の 5 件法で回答を得て、得点から中央値を算出し、中央値以 上を高 HL、中央値未満を低 HL と群分けを行った。 統計解析は基本情報についてはχ 2 検定、Mann-Whitney の U 検定、実施前後の SC 変化は Wilcoxon の符号付順位検 定、HL の高低と無関心期群と関心期群の SC 変化との関連 は Fisher の正確確率検定を用いて検討した。なお、解析に は統計ソフトは R コマンダー 2.8.1 を使用し、危険率 5% 未 満を有意とした。 【 説明と同意 】本研究はヘルシンキ宣言を遵守し、対象者に は研究の実施内容、プライバシーの保護、自由意志による研 究参加と同意の撤回の自由、結果の公表について口頭で説明 し同意を得た。 【結果】対象者44名中、高 HL は24名(54.5%)、低 HL は 20名(45.5%)であった。基本情報および身体機能との間に は有意な関連を認めなかった。 ロコモ度テスト実施前後比較は、身体活動 SC(実施前 / 実施後)では、無関心期 13/8、関心期 2/4、準備期 5/9、実 行期 0/0、維持期 24/24、運動習慣 SC は、無関心期 15/11、 関心期 2/4、準備期 8/10、実行期 2/2、維持期 17/17 となり、 テスト後の有意な改善を認めた。 また、SC の変化と HL との関連について、無関心群と関 心期群の中で、テスト後に身体活動 SC の改善を認めた者は 7名(高 HL6名、低 HL1名)、現状維持者は8名(高 HL2名、 低 HL6名)となり、身体活動 SC 改善群と HL との間には有 意な関連を認めたが、運動習慣 SC の改善を認めた者は 4 名 (高 HL4名、低 HL0名)、現状維持者は13名(高 HL5名、 低 HL8名)となり、運動習慣 SC と HL との間には有意な関 連を認めなかった。 【考察】高 HL 住民はロコモ度テスト後に、身体活動 SC が 改善することが示唆された。高 HL 住民は、身体機能を フィードバックできる機会を経ると、適切な意思決定ができ る為、望ましい身体活動への行動変容が容易であると考えら れる。運動習慣 SC においては、年齢別等の個別性に乏しい 為に、運動習慣基準が達成困難と認識され易く、動機付けが 低い状態であり、行動変容に繋がりづらいと予測する。HL が低い場合には、目標設定が適切であっても、SC 改善は困 難が予測される。今後無関心層や低 HL 層に対して、信頼で きる情報を分かりやすく伝えることが課題と考える。 【 理学療法研究としての意義 】セラピストが地域住民に対し て、SC や HL 等のバックグラウンドを評価し、オーダーメ イドの運動・生活指針を提示することは、地域に関わる理学 療法士としての専門性を高め、かつ健康寿命延伸に寄与する と考えられる。 ロコモ度テストが身体活動・運動習慣の行動変容ステージに及ぼす影響と、 ヘルスリテラシーとの関連について ○原田 純 ( はらだ あつし ) ,吉中 一起,馬場  幸平,松崎  美穂,山田 桂士,石川 奈緒子, 四方  敏彦  奈良リハビリテーション病院 リハビリテーション部 Key word:ヘルスリテラシー,行動変容ステージ,健康寿命延伸 ポスターセッション 3 [ 生活環境 1 ]

ポスターセッション [ 生活環境1 ] P 4 ロコモ度テストが身体活動 …kinki58.umin.jp/pdf/abstract/P3-4.pdf · テスト後の有意な改善を認めた。 また、scの変化とhlとの関連について、無関心群と関

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Page 1: ポスターセッション [ 生活環境1 ] P 4 ロコモ度テストが身体活動 …kinki58.umin.jp/pdf/abstract/P3-4.pdf · テスト後の有意な改善を認めた。 また、scの変化とhlとの関連について、無関心群と関

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P3-4

【目的】 我が国における重要かつ緊急の課題として、現在よりさらなる高齢化にも対応可能かつ持続可能な健康長寿社会の構築があげられており、健康寿命の延伸が大きな課題となっている。健康寿命の延伸には、身体活動・運動習慣を維持することが重要であるが、健康づくりに関しては、無関心層への支援不足が指摘されている。また、ヘルスリテラシー

(Health Literacy:HL)が健康と密接に関連しており、HLが高い人は、健康的な運動習慣を確立しているとされており、近年本邦でも重要性が認識されているが、HL と運動習慣や身体活動の行動変容の変化に関する報告は少ない。 当院では、地域住民を対象に健康祭りを実施しており、その際にリハビリ部では地域住民に対して、医療講話や体力測定を実施し、HL 向上や健康寿命延伸に資する取り組みを実施している。 今回、ロコモ度テスト実施後、身体活動や運動習慣に関する行動変容ステージ(The stages of behavior change:SC)に対しての影響、及び HL との関連について検証した。

【方法】 対象は体力測定に参加した50名中、調査票結果に不備の無い、地域住民44名(男性18名、女性26名、年齢61.0±15.3歳)とした。対象者の基本情報と HL、身体活動と運動習慣の各 SC を問診にて聴取、身体機能評価として、握力測定とロコモ度テストを実施。テスト後に結果のフィードバックを行い、各 SC の状態に応じた生活や運動のアドバイスを実施。最後に再度 SC を問診にて調査した。 SC は「身体活動 / 運動を始めるつもりはない」と回答したものを無関心期、「身体活動 / 運動を半月以内に始めるつもり」を関心期、「身体活動 / 運動を1月以内に始めるつもり」を準備期、「身体活動 / 運動を始めて6カ月以内」を実行期、

「身体活動 / 運動を始めて6ヵ月以上」を維持期と分類した。 身体活動は「18~64歳は3メッツ以上毎日約60分以上、65歳以上は立位で強度は問わず毎日40分以上」、運動習慣は

「世代共通で30分以上の運動を週2回以上」と、健康づくりのための身体活動基準2013(厚生労働省)の基準を用いた。 HL の評価には、石川らが開発した、伝達的・批判的 HL尺度(CCHL)を用い、5つの質問項目(情報収集・情報選択・情報の理解と伝達・情報の判断・計画と行動)を5項目の

「まったくそう思わない(1点)」から「強くそう思う(5点)」の5件法で回答を得て、得点から中央値を算出し、中央値以上を高 HL、中央値未満を低 HL と群分けを行った。 統計解析は基本情報についてはχ2検定、Mann-Whitney

の U 検定、実施前後の SC 変化は Wilcoxon の符号付順位検定、HL の高低と無関心期群と関心期群の SC 変化との関連は Fisher の正確確率検定を用いて検討した。なお、解析には統計ソフトは R コマンダー2.8.1を使用し、危険率5% 未満を有意とした。

【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言を遵守し、対象者には研究の実施内容、プライバシーの保護、自由意志による研究参加と同意の撤回の自由、結果の公表について口頭で説明し同意を得た。

【結果】 対象者44名中、高 HL は24名(54.5%)、低 HL は20名(45.5%)であった。基本情報および身体機能との間には有意な関連を認めなかった。 ロコモ度テスト実施前後比較は、身体活動 SC(実施前 /実施後)では、無関心期13/8、関心期2/4、準備期5/9、実行期0/0、維持期24/24、運動習慣 SC は、無関心期15/11、関心期2/4、準備期8/10、実行期2/2、維持期17/17となり、テスト後の有意な改善を認めた。 また、SC の変化と HL との関連について、無関心群と関心期群の中で、テスト後に身体活動 SC の改善を認めた者は7名(高 HL6名、低 HL1名)、現状維持者は8名(高 HL2名、低 HL6名)となり、身体活動 SC 改善群と HL との間には有意な関連を認めたが、運動習慣 SC の改善を認めた者は4名

(高 HL4名、低 HL0名)、現状維持者は13名(高 HL5名、低 HL8名)となり、運動習慣 SC と HL との間には有意な関連を認めなかった。

【考察】 高 HL 住民はロコモ度テスト後に、身体活動 SC が改善することが示唆された。高 HL 住民は、身体機能をフィードバックできる機会を経ると、適切な意思決定ができる為、望ましい身体活動への行動変容が容易であると考えられる。運動習慣 SC においては、年齢別等の個別性に乏しい為に、運動習慣基準が達成困難と認識され易く、動機付けが低い状態であり、行動変容に繋がりづらいと予測する。HLが低い場合には、目標設定が適切であっても、SC 改善は困難が予測される。今後無関心層や低 HL 層に対して、信頼できる情報を分かりやすく伝えることが課題と考える。

【理学療法研究としての意義】 セラピストが地域住民に対して、SC や HL 等のバックグラウンドを評価し、オーダーメイドの運動・生活指針を提示することは、地域に関わる理学療法士としての専門性を高め、かつ健康寿命延伸に寄与すると考えられる。

ロコモ度テストが身体活動・運動習慣の行動変容ステージに及ぼす影響と、ヘルスリテラシーとの関連について

○原田 純(はらだ あつし),吉中 一起,馬場  幸平,松崎  美穂,山田 桂士,石川 奈緒子,四方  敏彦 奈良リハビリテーション病院 リハビリテーション部

Key word:ヘルスリテラシー,行動変容ステージ,健康寿命延伸

ポスターセッション3 [ 生活環境1 ]