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(第 3 種郵便物認可) 4 2016 年(平成 28 年) 1 1 2 4 日(木曜日) 寿Usage-basedinsuranceInternetofThings調使FederalAviationAgency10 調使貿InformationTechnologyOperationsTechnology29 図表1 モビリティの将来像 3 4 1 2 個人所有 車の所有 モビリティの将来像 資産効率 資産効率 共有 The driverless revolution 完全自動運転社会 Incremental change クルマ保有社会 A new age of accessible autonomy 完全自動運転 カーシェア社会 A world of carsharing カーシェアリング社会 図表2 ビジネスモデルへの影響 キーとなるテクノロジー 発生するトレンド リスクの変容 自動車分野 では… 医療分野 では… 住まい / 生活では… ■ 画像認識技術・ センシング ■ 機械学習 ■ ASV 施術の進化 ■ 自動運転の実現 ■ 自動車事故が 起こらない世界 ■ 廉価な遺伝子解析 ■ 生体デバイス ■ 統合的な医療 データ ■ 遺伝子検査の普及、精度向上 ■ 遠隔医療、個別化医療の発達 ■ 予防医療、介護予防の発達 ■ 病気になる前に あらゆる措置が とれる時代 ■ レーダー・人工 衛星 ■ センシング技術 ■ 災害予知技術向上 ■ コネクテッドホームの普及 ■ 人々の生活は 常に見守られて いる世界

パラダイムシフト - Deloitte United States · 「シェアリング・エコ ウーバー(UBER、大しつつある。例えば、テムの潮流が、急速に拡る、より広範な輸送シスノミー」として知られ注

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Page 1: パラダイムシフト - Deloitte United States · 「シェアリング・エコ ウーバー(UBER、大しつつある。例えば、テムの潮流が、急速に拡る、より広範な輸送シスノミー」として知られ注

(第 3 種郵便物認可) ( 4 )2 0 1 6 年(平成 2 8 年)1 1 月 2 4 日(木曜日)

1.技術革新とリ

スク社会の変化

 以前は2年の寿命はあ

った新しい技術でも、今

では6カ月もたてば古く

さい技術になる。今日の

製造業では、第4次産業

革命(インダストリー4

・0、注1)とも言われ

る変化が進んでいる。技

術の進歩が従来の生産プ

ロセスのロジックを逆転

させるといったパラダイ

ムシフトが起こってい

る。またデジタル、フィ

ジカル(物理的)両面の

技術革新が統合する(注

2)中で、産業機械は製

品を加工するだけでな

く、製品とのコミュニケ

ーションを通じて実行す

べき作業を自ら正確に判

断できるようになるとも

いわれている。このよう

にどんどん新しい技術が

登場する結果、製造プロ

セスで発生した事故のイ

ンパクトも変化する。保

険事故の発生形態を変

え、リスクの態様を変え

てしまう。

 新しい技術は、社会の

仕組みも変えていく。ビ

ジネスエコシステムと呼

ばれる、「連携と競争の

両方を通じて新しい価値

を創造・確保する多種多

様な動作主体で構成され

る動的かつ共進化するコ

ミュニティー」が創造さ

れようとしている。この

ように、発想と可能性の

多様化が社会を変革しよ

うとしている中で、われ

われのリスクを見る視点

も変えていく必要があ

る。

 例えば、航空機の自動

操縦の一般化は、パイロ

ットが操縦する飛行機事

故の可能性を少なくし

た。しかし、この自動化

は人間につきものの誤り

(ヒューマン・エラー)

の可能性を除去したこと

を意味しない。むしろ、

われわれの誤りの発生

は、人の現場の行為の段

階から、より手前にある

われわれの設計(思考)

の段階に移っていること

に注意すべきである。

2.保険ビジネス

モデルへの影響

 デジタル技術の革新

は、保険契約者の選好や

行動、保険募集に関わる

コミュニケーション方法

を変えていく。新技術が

社会を変え、リスクを変

える。保険の商品設計、

リスク評価も変化する。

欧米で実施されているテ

レマティクスに基づく利

用ベース保険(U

sage-

based insurance

)商

品の導入は、車載監視装

置から収集されたデータ

を分析して、保険引受モ

デルや価格設定モデル、

およびマーケティング戦

略や顧客サービス戦略の

変革を生む。個人に直結

した新たなデータに基づ

く価格付けは、保険プー

ルの区分を変更すること

にもなる。

 無人自動車の開発は、

感知装置によるブレーキ

操作や衝突防止装置など

安全技術の急速な進歩に

よって可能になったもの

であるが、運転技術の高

い個人自動車保険の価格

を低下させた。また、自

動運転車は、事故の責任

主体を、運転をしなくな

った所有者から、メーカ

ーやソフトウエア会社へ

とシフトさせる可能性も

ある。

 「シェアリング・エコ

ノミー」として知られ

る、より広範な輸送シス

テムの潮流が、急速に拡

大しつつある。例えば、

ウーバー(UBER、注

3)やジップカー(Zi

pCar、注4)は、利

用者が自動車を所有する

代わりに他人の自動車に

乗ることを選択できるサ

ービスを提供している。

その結果、路上を走る被

保険自動車の数や個人自

動車保険の需要が減少す

る可能性があり、商品設

計や補償範囲を見直す機

会や、新興の輸送提供業

者向けの新保険を発売す

る機会が生まれると言わ

れている。これらの新技

術に伴う変化は、図表1

のように整理される。

 「モノのインターネッ

ト(In

ternet of T

hin

gs

:IoT)」として

広く知られるセンサーベ

ース技術によって変化が

引き起こされる。モノの

インターネットとは、車

からスニーカー、温度自

動調節器に至るまで、イ

ンターネットに接続され

たセンサー対応の機器の

ネットワークを意味す

る。監視装置がより多く

の種類の機械や財産、そ

して人間にさえ取り付け

られるため、リアルタイ

ムで監視する技術は保険

の境界線を超えることを

可能にし、まったく新た

なリスク評価方法を生み

出し、カスタマイズされ

た保険商品を個人顧客に

提供することも可能にす

る。こうした「接続され

た」社会の出現は、図表

2のように、最終的に住

宅保険、生命保険、医療

保険、企業保険のビジネ

スモデルに影響を与える

ものとみられる。

3.新技術に対

する規制

 一般に、目新しい技術

や製品が登場すると、

「礼賛」と「反発」の二

つの意見に分かれる。そ

して社会との間で摩擦や

軋轢(あつれき)を生む

こともある。このような

環境の中で、規制当局も

新たな課題に直面する。

変化のテンポが速く複雑

さを増す社会の中で、規

制当局は市民と公正な市

場を守る必要があるが、

規制はイノベーションや

産業創出の芽を摘むとの

批判もある。阻害と保護

の間でバランスを取る難

しさがある。つまり、規

制のタイミングが早すぎ

れば、イノベーションを

阻害するリスクを冒すこ

とになる一方、規制のタ

イミングが遅すぎれば、

消費者や市場に害を及ぼ

すこととなる。

 IoTにより、データ

の取得と無線通信を可能

にするために必要なマイ

クロチップは非常にコス

トパフォーマンスが高

く、各種接続機器におい

て当たり前に使用される

ようになった。そしてこ

れが原因で、プライバシ

ーの問題に規制当局は直

面することとなる。

 また、ドローンの潜在

的な用途を踏まえ、米連

邦航空局(FAA:F

ed

eral Aviatio

n Agen

cy

)は、10年後には3

万台(注5)以上のドロ

ーンが米国の領空を飛ぶ

ようになると見積もって

いる。例えば、FAAの

関心はアメリカの領空の

安全性維持だが、ドロー

ンの活用領域は多岐にわ

たるため、その規制の策

定には、既存の規制担当

領域との調整が必要とな

る。農家のための正当な

用途があると考えられる

他、地域の警察も薬物の

製造施設を特定するため

にドローンを使用したい

と考える可能性がある。

その場合、市民のプライ

バシーや人権に関する多

様な議論が起こることが

想定されている。

 個人に関わる新たなリ

スク情報は、リスクの評

価を変える要素となる。

保険のプライシングは、

数理をベースにしており

リスクプールが変われば

価格も変わる。ただ、個

人に関するデータの適切

な利用といった要素につ

いて、社会性の強い保険

制度において、契約者保

護、個人情報の利用に関

する社会的適切性など検

討すべき要素は多く、規

制上の取り扱いも含め、

さらなる論議が進められ

ていくこととなろう。今

後の保険事業の運営は、

これまで経験したことの

ない規制の動きも取り込

んでいく必要がある。

(つづく)

 (注1)ドイツ貿易・

投資振興機関(GTA

I)「INDUSTRI

E4・0―未来のスマー

トな製造」2014年7

月1日

 (注2)フィジカルな

機器に搭載したセンサー

と生成データを集めるネ

ットワーク技術によっ

て、デジタルとフィジカ

ルの分野が連動する。結

果、製造のバリューチェ

ーン(設計・開発から、

製造、販売、サービスま

で)を通じて、情報技術

(Inform

ation Tech

nology

:IT)と運用

術(O

perations

Technology

:OT)

の統合が起こる。

 (注3)携帯アプリか

ら呼ぶことのできるハイ

ヤー紹介サービス。支払

いもアプリで実施する。

 (注4)必要なとき、

必要なだけ自動車を時間

所有する会員制のカーシ

ェアリング制度

 (注5)現在、米国上

空を飛んでいる航空機の

数は、7000機と言わ

れている。

 (文中の意見に当たる

部分は執筆者個人のもの

であり、所属する組織の

ものではありません)

 ◆この連載は隔週木曜

日に掲載します。

連載 

保険ERM基礎講座 《第29回》

パラダイムシフト(その4)

有限責任監査法人トーマツ  

ディレクター 

後藤 茂之

図表1 モビリティの将来像

車の操作

自動運転

運転支援

ドライバー

3 4

1 2

個人所有車の所有

モビリティの将来像

低低 高高資産効率資産効率

共有

The driverless revolution完全自動運転社会

Incremental changeクルマ保有社会

A new age ofaccessible autonomy

完全自動運転カーシェア社会

A world of carsharingカーシェアリング社会

図表2 ビジネスモデルへの影響

キーとなるテクノロジー 発生するトレンド リスクの変容

自動車分野では…

医療分野では…

住まい /生活では…

■ 画像認識技術・センシング

■ 機械学習

■ ASV 施術の進化■ 自動運転の実現

■ 自動車事故が起こらない世界

■ 廉価な遺伝子解析■ 生体デバイス■ 統合的な医療データ

■ 遺伝子検査の普及、精度向上■ 遠隔医療、個別化医療の発達■ 予防医療、介護予防の発達

■ 病気になる前にあらゆる措置がとれる時代

■ レーダー・人工衛星

■ センシング技術

■ 災害予知技術向上■ コネクテッドホームの普及

■ 人々の生活は常に見守られている世界

【後藤茂之氏プロフィ

ル】

 大手損害保険会社お

よび保険持ち株会社に

て、企画部長、リスク

管理部長を歴任。日米

保険交渉、合併・経営

統合に伴う経営管理体

制の構築、海外M&

A、保険ERMの構

築、グループ内部モデ

ルの高度化、リスクア

ペタイト・フレームワ

ーク、ORSAプロセ

ス整備に従事。IAI

S、Geneva A

ssociatio

n、EAICなどのE

RM関連パネルに参

加。現職にて、ERM

高度化関連コンサルに

従事。

 大阪大学経済学部卒

業、コロンビア大学ビ

ジネススクール日本経

済経営研究所・客員研

究員、中央大学大学院

総合政策研究科博士課

程修了。博士(総合政

策)。