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(キーワード) 節電対策、省エネルギー、タスク・アンビエント照明 1.はじめに 東日本大震災後、節電対策として、多くのオフ ィスで照明の間引き点灯が行われた。間引き点灯 の省エネ効果は大きいが、消灯した器具直下が暗 くなるなど、望ましくない光環境を形成する。こ の問題は、日本のオフィスでは天井に器具を均等 配置し、手元の明かりもその照明で確保する全般 照明方式が一般的であることから生じている。 これに対し、手元の明かりは十分に確保しつつ も省エネの観点から有効と考えられているのが、 欧米では普及しているタスク・アンビエント照明 方式である。個々のデスク照明(タスク照明)で 手元の明るさを確保し、周辺の明るさはやや落と した照明(アンビエント照明)とするもので、不 在時のデスク照明も消灯できる。すなわち適時適 所適光の考え方に沿った方式であり、適切に計画 することで、省エネ性に加え明暗バランスの良い 視環境形成が可能であるが、単なる照明方式の導 入では光環境の快適性が不十分となりがちである。 本報では、わかりやすい例として、省エネ性を 重視して導入したタスク・アンビエント照明につ いて、少ない消費のまま快適性を向上させるため の改修を行い、評価が向上した事例を紹介する。 2.タスク・アンビエント照明の更なる改修事例 実際のオフィスで、 LED光源による省エネルギー を重視したタスク・アンビエント照明を導入し、 その後、明るさ感を向上させるためにさらに改修 した(図1)。消費電力をできるだけ増やさず空間 の明るさ感が得られるよう、アンビエント照明で 壁面・天井面の暗い部分への照射を加えた。また、 改修前後で消費電力及び執務者の評価を調査した。 調査の結果から、改修後のタスク・アンビエント 照明方式の消費電力を全般照明方式に比べ低く抑 えたまま、空間の明るさ感等の執務者の評価は大 幅に向上させ得ることが示された(図2)。 改修前 改修後 1 改修前後のタスク・アンビエント照明 0 5 10 15 20 どちらでもな執務室全体の照明の満足度 執務室全体の明るさ感 机上面の明るさ 高評価 低評価 タスク照明 アンビエント照明 17W/13W/7W/机上面照度 全般もしくは アンビエント照300 lx Hf蛍光灯全般照明 LED全般照明 LEDタスク・アンビエント (改修前) 750 lx 750 lx 750 lx 750 lx LEDタスク・アンビエント (改修後) (推定) (推定) 350 lx 5W/(評価値は推定) (評価値は推定) 消費電力密度(W/㎡) 2 照明方式・省エネ性・評価の関係 3.おわりに オフィスの省エネのためにタスク・アンビエン ト照明方式は有効といえるが、本稿の事例で示し たように、光環境の質に対する十分な配慮が、快 適性を両立させるために必要である。なお、本研 究は国土交通省「平成22 年度建築基準整備促進補 助金事業,業務用建築物のためのエネルギー消費 量評価手法に関する基礎的調査」(代表者:東京 電機大学 射場本忠彦)の調査結果を活用した。 オフィスのタスク ・ アンビエント照明 による省エネルギーと快適性の両立 住宅研究部 住環境計画研究室 主任研究官 (博士(工学)) 三木 保弘 - 90 - 調4. 研究動向・成果

オフィスのタスク・アンビエント照明 による省エネ …研究動向・成果 オフィスのタスク・アンビエント照明 による省エネルギーと快適性の両立

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Page 1: オフィスのタスク・アンビエント照明 による省エネ …研究動向・成果 オフィスのタスク・アンビエント照明 による省エネルギーと快適性の両立

●研究動向・成果

オフィスのタスク・アンビエント照明

による省エネルギーと快適性の両立

住宅研究部 住環境計画研究室 主任研究官 三木保弘(博士(工学))

(キーワード) 節電対策、省エネルギー、タスク・アンビエント照明

1.はじめに

東日本大震災後、節電対策として、多くのオフ

ィスで照明の間引き点灯が行われた。間引き点灯

の省エネ効果は大きいが、消灯した器具直下が暗

くなるなど、望ましくない光環境を形成する。こ

の問題は、日本のオフィスでは天井に器具を均等

配置し、手元の明かりもその照明で確保する全般

照明方式が一般的であることから生じている。

これに対し、手元の明かりは十分に確保しつつ

も省エネの観点から有効と考えられているのが、

欧米では普及しているタスク・アンビエント照明

方式である。個々のデスク照明(タスク照明)で

手元の明るさを確保し、周辺の明るさはやや落と

した照明(アンビエント照明)とするもので、不

在時のデスク照明も消灯できる。すなわち適時適

所適光の考え方に沿った方式であり、適切に計画

することで、省エネ性に加え明暗バランスの良い

視環境形成が可能であるが、単なる照明方式の導

入では光環境の快適性が不十分となりがちである。

本報では、わかりやすい例として、省エネ性を

重視して導入したタスク・アンビエント照明につ

いて、少ない消費のまま快適性を向上させるため

の改修を行い、評価が向上した事例を紹介する。

2.タスク・アンビエント照明の更なる改修事例

実際のオフィスで、LED光源による省エネルギー

を重視したタスク・アンビエント照明を導入し、

その後、明るさ感を向上させるためにさらに改修

した(図1)。消費電力をできるだけ増やさず空間

の明るさ感が得られるよう、アンビエント照明で

壁面・天井面の暗い部分への照射を加えた。また、

改修前後で消費電力及び執務者の評価を調査した。

調査の結果から、改修後のタスク・アンビエント

照明方式の消費電力を全般照明方式に比べ低く抑

えたまま、空間の明るさ感等の執務者の評価は大

幅に向上させ得ることが示された(図2)。

改修前 改修後

図1 改修前後のタスク・アンビエント照明

0

5

10

15

20

1 2 3 4

どちらでもない

執務室全体の照明の満足度

執務室全体の明るさ感

机上面の明るさ

高評価

低評価

タスク照明

アンビエント照明

17W/㎡

13W/㎡

7W/㎡

机上面照度

全般もしくはアンビエント照度

300 lx

Hf蛍光灯全般照明 LED全般照明 LEDタスク・アンビエント(改修前)

750 lx 750 lx750 lx 750 lx

LEDタスク・アンビエント(改修後)

(推定) (推定)

350 lx

5W/㎡

(評価値は推定) (評価値は推定)

消費電力密度(W/㎡)

図2 照明方式・省エネ性・評価の関係

3.おわりに

オフィスの省エネのためにタスク・アンビエン

ト照明方式は有効といえるが、本稿の事例で示し

たように、光環境の質に対する十分な配慮が、快

適性を両立させるために必要である。なお、本研

究は国土交通省「平成22 年度建築基準整備促進補

助金事業,業務用建築物のためのエネルギー消費

量評価手法に関する基礎的調査」(代表者:東京

電機大学 射場本忠彦)の調査結果を活用した。

オフィスのタスク ・ アンビエント照明による省エネルギーと快適性の両立

住宅研究部 住環境計画研究室  主任研究官(博士(工学))

三木 保弘

●研究動向・成果

効果的なヒートアイランド対策の

ための都市計画に関する技術の開発 都市研究部 都市開発研究室 主任研究官鍵屋 浩司(博士(工学))

建築研究部 環境・設備基準研究室 室長足永 靖信(工学博士)

(キーワード) ヒートアイランド、風の道、シミュレーション、都市計画

1.はじめに

国土技術政策総合研究所は、建築研究所の研究

協力を受けて、効果的なヒートアイランド対策を

計画的に実施できるように国土交通省関係部局等

と連携して地方公共団体等向けのシミュレーショ

ンツールや都市づくりのガイドラインを提供する

ための研究プロジェクトを行っている。

2.ヒートアイランド対策としての風の道

ヒートアイランド対策として注目されている風

の道の実態とその効果を解明するために、東京臨

海・都心部の街路やビル屋上等190カ所で実施した

大規模な気象観測や、スーパーコンピュータによ

る数値シミュレーションに取り組んだ。

例えば、東京駅周辺の大規模再開発に伴う風の

道の効果は、広範囲にわたって風通しが良くなり、

気温が最大2℃下がることが予測できた(図1)。

図1 風の道の効果のシミュレーション例

3.都市計画に関する技術の開発

地方公共団体等が都市計画において、緑化や保

水性舗装、風の道などの様々な対策効果を予測で

きるように、スーパーコンピュータの計算プログ

ラムをパソコンソフトに組み込んで、地区スケー

ルの対策効果を予測できるシミュレーションツー

ルとして実用化した。このソフトは東京都千代田

区や大阪市、北九州市などで活用されている。

さらに、シミュレーションによって気温分布や

風の流れなどの熱環境を見える化して都市計画の

参考にできるように、都市環境気候図という環境

地図集を試作した。図2は、風の道などの対策効

果に基づいて、地区の対策方針を示した例である。

図2 都市計画のための都市環境気候図の試作例

4.成果と今後の展開

成果は、国土交通省の低炭素都市づくりガイド

ラインのほか、東京都や千代田区等の地方公共団

体のまちづくりガイドラインやヒートアイランド

対策計画、地元のまちづくり協議会による東京

駅・日本橋川周辺の将来像の検討に活用された。

今後は、低炭素都市づくりと連携して効果的に

対策を実施できるように都市計画運用指針等への

さらなる施策反映や開発した技術の普及を目指す。

【参考文献】

1) 国総研プロジェクト研究報告 第20号、都市

空間の熱環境評価・対策技術の開発、2008.1

2) 国総研資料 第583号、地球シミュレータを

用いた東京23区全域における高解像度のヒ

ートアイランド数値解析、2010.3

- 90 -

環境と調和した社会の実現

4.

研究動向・成果