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ポリファーマシーへの取り組み
鳥取市立病院薬剤部
田中康崇
ポリファーマシーへの取り組み
① ポリファーマシーの定義
② 当院におけるポリファーマシーの状況
③ 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン
④ 当院薬剤部の取り組み
⑤ 今後の課題
ポリファーマシーの定義
多剤併用(日本では6種類以上を指すことが一般的)
処方数が多いことに加えて①潜在的に不適切な処方(potentially inappropriatemedications:PIMs)が行われている②必要な薬が処方されていない③重複処方が行われている
薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の害をなすものをポリファーマシーという。
ポリファーマシーによる弊害
ポリファーマシーが起こる背景
・複数医療機関・診療科の受診
・複数医療機関の連携不足による重複投与
・他の診療科、他の医療機関の薬は変更しにくい
・患者の訴え、不定愁訴に応じての処方
・漫然投与
・処方カスケード など
処方カスケード
食欲不振 振戦 認知機能低下小刻み歩行 せん妄
長期内服
メトクロプラミド ビペリデン ドネペジル
悪化
ポリファーマシーへの取り組み
① ポリファーマシーの定義
② 当院におけるポリファーマシーの状況
③ 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン
④ 当院薬剤部の取り組み
⑤ 今後の課題
当院のポリファーマシーの状況
<対象患者>
2015年9月16日~2016年9月15日の1年
間に、6階西病棟に総合診療科で入院
した75歳以上の患者442人
(重複した患者は、最初の入院時のみを対象)
対象患者(442人)の年齢構成
58人14%
102人24%
123人27%
105人25%
46人10% 75歳~79歳
80歳~84歳
85歳~89歳
90歳~94歳
95歳~
薬剤数の割合(定期内服薬)
16.9 20.6 18.527.9
17.4
32.231.4
27.4
36.9
26.1
33.938.2
42.7
27.9
54.3
16.99.8 11.3 7.2 2.2
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
75歳~79歳 80歳~84歳 85歳~89歳 90歳~94歳 95歳~
10種類~
6~9種類
3~5種類
0~2種類
薬剤性有害事象の件数
糖尿病薬による低血糖昏睡 4件
抗血小板薬・抗凝固薬による出血 4件
降圧剤による意識障害 2件
睡眠薬・抗精神病薬による意識障害 2件
薬剤性高カルシウム血症 2件
利尿剤による低ナトリウム血症 1件
甘草による偽アルドステロン症 1件
薬剤性パーキンソンニズム 1件
ワーファリン中毒 1件
計18件
ポリファーマシーへの取り組み
① ポリファーマシーの定義
② 当院におけるポリファーマシーの状況
③ 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン
④ 当院薬剤部の取り組み
⑤ 今後の課題
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン
• 高齢者の処方適正化スクリーニングツール
• 特に慎重な投与を要する薬物のリスト
• 開始を考慮するべき薬物のリスト
• 薬剤師の役割
特に慎重な投与を要する薬物のリスト
<対象>
• 75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル(日常生活機能の低下した高齢者)
• 慢性期、特に1か月以上の長期投与
• 特に非専門領域の薬物療法
特に慎重な投与を要する薬物のリスト「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」より引用
薬物 対象 主な副作用 エビデンスの質と推奨度
抗精神病薬全般 認知症患者 錐体外路障害、過鎮静、認知機能低下、脳血管障害と死亡率の上昇非定型抗精神病薬には血糖上昇のリスク
エビデンスの質:中推奨度:強
ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬
すべて 過鎮静、認知機能低下、せん妄、転倒、骨折、運動機能低下
エビデンスの質:高推奨度:強
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬
すべて 転倒、骨折。その他ベンゾジアゼピン系と類似の有害作用の可能性あり
エビデンスの質:中推奨度:強
三環系抗うつ薬 すべて 認知機能低下、せん妄、便秘、口腔乾燥、起立性低血圧、排尿病状悪化、尿閉
エビデンスの質:中推奨度:強
SSRI 消化管出血 消化管出血リスクの悪化 エビデンスの質:中推奨度:強
スルピリド すべて 錐体外路障害 エビデンスの質:低推奨度:強
抗パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)
すべて 認知機能低下、せん妄、過鎮静、口腔乾燥、便秘、排尿症状悪化、尿閉
エビデンスの質:中推奨度:強
特に慎重な投与を要する薬物のリスト「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」より引用
薬物 対象 主な副作用 エビデンスの質と推奨度
経口ステロイド薬 慢性安定期のCOPD患者
呼吸筋の筋力低下及び呼吸不全の助長、消化性潰瘍の悪化
エビデンスの質:高推奨度:強
抗血小板薬 心房細動患者 抗凝固薬の方が有効性が高い。出血リスクは同等
エビデンスの質:高推奨度:強
アスピリン 上部消化管出血の既往患者
潰瘍、上部消化管出血の危険性を高める エビデンスの質:高推奨度:強
複数の抗血栓薬の併用療法
すべて 出血リスクが高まる(12カ月以上の併用は原則行わないこと)
エビデンスの質:中推奨度:強
ジゴキシン >0.125㎎/日での使用
ジギタリス中毒 エビデンスの質:中推奨度:強
過活動膀胱治療薬オキシブチニン(経口)
すべて 認知機能低下、せん妄のリスクあり口腔乾燥、便秘、尿閉
エビデンスの質:高推奨度:強
過活動膀胱治療薬ムスカリン受容体拮抗薬
すべて 口腔乾燥、便秘、排尿症状の悪化、尿閉 エビデンスの質:高推奨度:強
特に慎重な投与を要する薬物のリスト「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」より引用
薬物 対象 主な副作用 エビデンスの質と推奨度
ループ利尿薬 すべて 腎機能低下、起立性低血圧、転倒、電解質異常
エビデンスの質:中推奨度:強
アルドステロン拮抗薬 すべて 高K血症 エビデンスの質:中推奨度:強
非選択的β遮断薬 気管支喘息COPD
呼吸器疾患の悪化や喘息発作誘発 エビデンスの質:高推奨度:強
非選択的α1遮断薬 すべて 起立性低血圧、転倒 エビデンスの質:中推奨度:強
H1受容体拮抗薬(第一世代)
すべて 認知機能低下、せん妄のリスク、口腔乾燥、便秘
エビデンスの質:中推奨度:強
H2受容体拮抗薬 すべて 認知機能低下、せん妄のリスク エビデンスの質:中推奨度:強
NSAIDs すべて 腎機能低下、上部消化管出血のリスク エビデンスの質:高推奨度:強
特に慎重な投与を要する薬物のリスト
「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」より引用
薬物 対象 主な副作用 エビデンスの質と推奨度
制吐薬 すべて ドパミン受容体遮断作用により、パーキンソン症状の出現、悪化が起きやすい
エビデンスの質:中推奨度:強
酸化マグネシウム 腎機能低下 高Mg血症 エビデンスの質:低推奨度:強
スルホニル尿素薬 すべて 低血糖とそれが遅延するリスク エビデンスの質:中推奨度:強
ビクアナイド薬 すべて 低血糖、乳酸アシドーシス、下痢 エビデンスの質:高推奨度:強
α-グルコシダーゼ阻害薬
すべて 下痢、便秘、放屁、腹満感 エビデンスの質:低推奨度:強
SGLT-2阻害薬 すべて 脱水、便秘、性器感染症のリスク エビデンスの質:中推奨度:強
インスリン すべて 低血糖のリスクが高い エビデンスの質:中推奨度:強
認知機能低下を理由とした「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」の代表的薬物
「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」より引用
薬物 対象 主な副作用・理由 エビデンスの質と推奨度
抗精神病薬全般 認知症患者 認知機能低下、錐体外路症状、過鎮静、脳血管障害と死亡率の上昇非定型抗精神病薬には血糖値上昇のリスク
エビデンスの質;中推奨度;強
ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬
すべて 認知機能低下、過鎮静、せん妄、転倒・骨折、運動機能低下
エビデンスの質;高推奨度;強
三環系抗うつ薬 すべて 認知機能低下、せん妄、便秘、口腔乾燥、起立性低血圧、排尿症状悪化、尿閉
エビデンスの質;高推奨度;強
パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)
すべて 認知機能低下、せん妄、過鎮静、便秘、口腔乾燥、排尿症状悪化、尿閉
エビデンスの質;中推奨度;強
過活動膀胱治療薬オキシブチニン(経口)
すべて 認知機能低下、せん妄のリスクあり、口腔乾燥、便秘の頻度高い、尿閉
エビデンスの質;高推奨度;強
H1受容体拮抗薬(第一世代)
すべて 認知機能低下、せん妄のリスク、口腔乾燥、便秘
エビデンスの質;中推奨度;強
H2受容体拮抗薬 すべて 認知機能低下、せん妄のリスク エビデンスの質;中推奨度;強
開始を考慮するべき薬物のリスト
「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」より引用
薬物 推奨される使用法(対象となる病態・疾患名)
エビデンスの質と推奨度
Lードパ 精神症状あるいは認知機能障害を合併するか、症状改善の必要性が高い高齢パーキンソン病患者
エビデンスの質:高推奨度:強
ACE阻害薬 心不全、誤嚥性肺炎ハイリスクの高血圧(脳血管障害と肺炎の既往を有する高血圧)
エビデンスの質:高推奨度:強
ARB 心不全に対してACE阻害薬に忍容性のない場合 エビデンスの質:高推奨度:強
スタチン 冠動脈疾患の二次予防、及び前期高齢者の冠動脈疾患、脳梗塞の一次予防
エビデンスの質:高推奨度:強
前立腺肥大症治療薬(α1受容体遮断薬)
前立腺肥大症による排尿障害特に尿閉の既往がある場合
エビデンスの質:高推奨度:強
関節リウマチ治療薬 活動性の関節リウマチの診断がついたとき エビデンスの質:高推奨度:強
薬剤師の役割
• 漫然と繰り返し使用されている薬を薬剤師が見直すことは有効か?
• 用法など複雑な処方に対して、薬剤師が医師に提言することは有効か?
• 多剤併用に対して薬剤師が介入することで、医療費及び薬物有害事象の発現の軽減に有効か?
推奨度はすべて強
ポリファーマシーへの取り組み
① ポリファーマシーの定義
② 当院におけるポリファーマシーの状況
③ 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン
④ 当院薬剤部の取り組み
⑤ 今後の課題
当院薬剤部の取り組み
平成28年度診療報酬改定で、薬剤総合評価
調整加算が新設され、全国的にポリファーマシー対策の動きが加速している。
当院では平成28年6月より、医師と薬剤師が協働し、薬剤総合評価調整加算の算定を開始。
薬剤総合評価調整加算
[算定点数]
250点(退院時に1回)
[算定要件]
入院前に内服を開始して4週間以上経過した内服薬が6種類以上処方されていたものについて、退院時に処方される内服薬が2種類以上減少し、その状態が4週
間以上継続すると見込まれる場合に算定。ただし頓服薬については内服薬の種類から除外する。
薬剤総合評価調整加算までの薬剤師の役割
①持参薬報告書を作成し、用法・用量、相互作用、重複等の問題がないか確認
②年齢、既往歴、検査値、有害事象の有無、服薬状況などを確認
③PIMs(潜在的に不適切な処方)を確認⇒ポリファーマシーであるかの判断
④PIMsを内服していた場合は、患者or家族に減薬の意思を確認
⑤処方変更によるメリットと病態悪化のリスクを考察
入院 退院
医師と協議 算定依頼
持参薬の確認と評価
再評価
薬剤総合評価調整加算を行った症例①
<87歳 女性>4/18)タール便・精査目的で入院患者背景)脳梗塞後遺症・認知症・自宅・要介護5血液検査値)5/7)Cr0.47 AST16 ALT6近医処方薬継続 【バイアスピリン・オメプラゾール・ラニラピッド・ピタバスチン
抑肝散・ミヤBM・ミオナール・アデホスコーワ・ベルソムラ】4/25~他院薬終了→ 当院処方に切り替え
(ミヤBM・ミオナール・アデホスコーワ・ラニラピッドは中止)4/29~酸化マグネシウム開始4/30)退院 【バイアスピリン・ネキシウム・ピタバスチン・抑肝散
酸化マグネシウム・ベルソムラ】
★薬剤総合評価調整加算を算定(9種類→6種類へ減少)(理由:不要のため中止)
薬剤総合評価調整加算を行った症例②
<91歳 女性>6/7)急性上気道炎で入院患者背景)Af・OMI・CKD・認知症・自宅・要介護4血液検査値)6/7)Cr1.71 K6.0血液検査値)6/11)Cr1.00 eGFR39×(1.11/1.73)≒25.0 K5.2 AST40 ALT31近医処方薬中止【バルサルタン・ルプラック・スピロノラクトン・プラザキサ75㎎×2・ファモチジン20㎎
カルベジロール・ベタヒスチン・セファドール】
6/8~トラセミド・ファモチジン・カルベジロール・セファドール開始6/11~ファモチジン→ ラベプラゾールに変更6/13~プラザキサ再開予定→ リクシアナ30㎎で再開6/24 退院) 【トラセミド・カルベジロール・セファドール・ラベプラゾール・リクシアナ】
★薬剤総合評価調整加算を算定(8種類→5種類へ減少)(理由:副作用のため中止 + 不要のため中止)
薬剤総合評価調整加算の算定件数
平成28年度 45件 (4.5件/月)
平成29年度 35件 (2.9件/月)
平成30年度 58件 (4.8件/月)
算定件数にマイナスの影響を与える要因
① 算定条件
② 医師の心理
③ 算定の見落とし
④ PIMs(潜在的に不適切な処方)の見落とし
当院薬剤部の取り組み
算定の見落としの解消<方法>
・ (6/1~)他院の定期内服薬が6種類以上ある場合は、持参薬報告の薬剤師コメント欄に 【ポリファーマシー】と記載。
<目的>
・病棟担当薬剤師のポリファーマシーへの意識を高める。・退院時に、他院持参薬と当院切り替え処方との剤数の比較を意識して行うようにし、算定漏れを防ぐ。
当院薬剤部の取り組み
PIMsの見落としの解消
<方法> (7/1~)下記を各病棟薬剤師に配布
・特に慎重な投与を要する薬物のリスト(高齢者の安全な薬物療法ガイドライン)
・多剤投薬の患者に対する病院薬剤師の対応事例集(日本病院薬剤師会学術委員会)
・PIMsの具体的例 (当院の事例)
<目的>
薬剤師間で事例を共有して、PIMsに対する知識を
高める。
ポリファーマシーへの取り組み
① ポリファーマシーについて
② 当院におけるポリファーマシーの状況
③ 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン
④ 当院薬剤部の取り組み
⑤ 今後の課題
今後の課題
医師の心理に対して
・高齢者薬物療法適正化チームの創設
・ポリファーマシー削減チームの創設
<問題点>
・費用対効果
・誰が処方変更についての紹介状を書くのか
今後の課題
病棟薬剤師による処方提案の強化
①持参薬報告に『ポリファーマシー』と記載
②初回面談で、患者or家族に減薬希望を確認
③削減候補薬の選定(有害事象の被疑薬・PIM)
④服薬指導レポートの充実
⑤主治医に処方提案を行う
⑥事例を薬剤部内で共有
薬物療法全体の適正化・薬剤費の削減
ご清聴ありがとうございました。