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館長 池辺晋一郎
パーヴォ・ヤルヴィは、今や横浜の顔です。2006 年、当みなとみらいホールでドイツ・カンマーフィルを振ったベートーヴェン交響曲全曲コンサートが、スタートでした。以来パーヴォは横浜で、常に意欲的なプログラムを展開してきましたが、ついに今回、歌劇「フィデリオ」に挑みます。ベートーヴェン音楽の集大成と言っていいでしょう。しかも、ブレーメン音楽祭、ボン・べートーヴェン音楽祭との共同主催。パーヴォそしてドイツ・カンマー管弦楽団、豪華な歌手陣 ......まさに夢のような、貴重な機会がやってきます。胸が躍るではありませんか!
■あらすじセビリア近郊の国営刑務所に、フロレスタンが閉じこめられてはや 2年。権力者ピツァロの悪事をあばいた結果の投獄だった。フロレスタンの妻レオノーレは、そんな夫を救出すべく、フィデリオという名の男をよそおい所内に潜入。そして、ピツァロの刃が夫の胸を突こうとした瞬間、圧政者の前に立ちはだかり叫ぶのだった。「まずは妻から殺しなさい!」――第九が〈歓喜〉の交響曲だとすれば、『フィデリオ』は〈自由〉の絶対擁護をうたった作品だ。刑務所にはロッコという看守長が登場するが、今回の上演ではさらに 4 年後のロッコを演じる語り手が加わる。彼はフィデリオ青年と娘マルツェリーネの結婚を企て、どうするつもりだったのか? そして権力側の命令と、おのれの良心との間で、どんな葛藤を生きたのか? ベートーヴェン唯一のオペラが、いま現代によみがえる。
@yokohamammh
『フィデリオ』プロジェクト開始!ブレーメン音楽祭より最新レポート
「あなたが誰であろうと救い出してみせます――これこそ、自由と平等の時代の誓いなのだ!」語り手がそう叫ぶと、客席から喝采がわき起こった。そしてそれが止まぬうちに、パーヴォ・ヤルヴィがタクトをおろす。フィナーレの合唱が始まったのだ。去る 9 月 25 日、ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団による『フィデリオ』公演の初回、ブレーメン音楽祭でのことである。グリム童話で有名な北ドイツの町ブレーメンは、同団の本拠地であるから、地元ファンのノリの良さという面もあろう。しかし、音楽監督パーヴォの音楽作りがなければ、どうしたってこうはならない。ナチュラル・トランペットとクラシカル・ティンパニが輪郭づける、鋭利かつ力感ある響き。それでいて内声部までくっきりと見渡せる透明感。これを通して聴く
『フィデリオ』は、とてもモダンに聞こえた。ピツァロが歌うどこか型どおりにもみえる復讐のアリアが、あんなにスリリングなものだったとは!さらにはパーヴォの真骨頂である、あのダンスを思わす音運動のしなやかさが、実力派歌手陣からのびやかな歌声を引き出す。リリコとヘルデンを一身に兼ねそなえた、フロレスタン役のブルクハルト・フリッツ。人物造形がこまやかな、ロッコ役のディミトリー・イヴァシュチェンコ。とりわけ印象的だった彼らは、嬉しいことに横浜にもやってくる。『フィデリオ』上演で悩みの種となる芝居部分を、今回「語り」に替えたのも、クレヴァーな解決法だ。語り手は「4年後のロッコ」を演じていたが、これによって物語に奥行きが増した。ひと味違った演奏会形式。ブレーメンの喝采は、横浜でも期待できるだろう。 舩木篤也(音楽評論)
①2幕フィナーレ ②集中するオーケストラ ③ピツァロのアリア ④ピツァロとロッコ
⑤レオノーレのアリア ⑥フロレスタンのアリア ⑦フェルナンド登場 ⑧友よ!鎖につながれ青ざめて