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バイオマスベンチャーを活用する企業の ビジネス戦略に関する動向調査 平成 25 年 1 月 31 日 株式会社旭リサーチセンター

バイオマスベンチャーを活用する企業の ビジネス戦 …3 2.調査結果 2-1国内外のバイオマスベンチャー提携企業のリストアップ (1) バイオマスベンチャーに関する追加調査

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Page 1: バイオマスベンチャーを活用する企業の ビジネス戦 …3 2.調査結果 2-1国内外のバイオマスベンチャー提携企業のリストアップ (1) バイオマスベンチャーに関する追加調査

バイオマスベンチャーを活用する企業の

ビジネス戦略に関する動向調査

平成 25 年 1月 31 日

株式会社旭リサーチセンター

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目 次 1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

1-1 調査の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

1-2 調査項目と調査方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

2.調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

2-1国内外のバイオマスベンチャー提携企業のリストアップ ・・・・・・・・・・・・ 3

2-2 国内外のバイオマスベンチャー提携企業のビジネス戦略の分析 ・・・・・・・・・ 21

2-2-1 国内外のバイオマスベンチャー提携企業のビジネス戦略に関するヒアリング調査結果 ・・ 21

(1) 国内のバイオマスベンチャー提携企業のビジネス戦略に関するヒアリング ・・・・・ 21

(a) 昭和電工ヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24

(b) IHIヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26

(c) 住友ベークライトヒアリング結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28

(d) カネカヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29

(e) トヨタ自動車バイオ・緑化研究所ヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・ 31

(f) デンソーヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33

(2) 海外のバイオマスベンチャー提携企業のビジネス戦略に関するヒアリング ・・・・ 35

(a) デュポンヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35

(3) 米国バイオマスベンチャーのヒアリング調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37

(a) Myriantヒアリング結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39

(b) Gevoヒアリング結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41

(c) Enerkemヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43

(d) Elevance Renewable Sciencesヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・ 46

(e) Agrividaヒアリングメモ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48

(f) PureVision Technology ヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50

(4) 国内外のヒアリング調査のまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53

2-2-2 バイオマスベンチャーと提携している企業の戦略に関する分析 ・・・・・・・・ 55

(1) 三菱化学のバイオマス由来製品開発の戦略とベンチャー企業との提携に関する分析 55

(2) 東レのバイオマス由来製品開発の戦略とベンチャー企業との提携に関する分析 ・・ 59

(3) 昭和電工のバイオマス由来製品開発の戦略とベンチャー企業との提携に関する分析 63

(4) DSMのバイオマス由来製品開発の戦略とベンチャー企業との提携に関する分析 ・・ 64

(5) IHIのバイオマス由来製品開発の戦略とベンチャー企業との提携に関する分析 ・・ 66

3.まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68

3-1 国内外のバイオマスベンチャー提携企業の研究開発動向とビジネス戦略の動向 ・・ 68

3-2 バイオマス由来製品ユーザーの動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69

3-3 今後のバイオマス由来製品におけるバイオマスベンチャー及び提携企業の研究開発動向と商業化の動向 70

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参考資料:バイオマスベンチャーのビジネス戦略(2011年度報告書の追加) ・・・・・・ 72

参考資料1.OPX Biotechnologies, Inc. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73

参考資料2.POET, LLC ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77

参考資料3.Zeachem Inc. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 84

参考資料4.LanzaTech ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89

参考資料5.Lignol Energy Corporation ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 95

参考資料6.Vertec BioSolvents, Inc. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 104

参考資料7.Avantium ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 108

参考資料8.BioMCN B.V. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 116

参考資料9.Chemrec AB ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 120

参考資料 10.Elevance Renewable Sciences, Inc. ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 126

参考資料 11.Algenol Biofuels Inc. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133

参考資料 12.Sapphire Energy ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 137

参考資料 13.Bio Architecture Lab, Inc. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 142

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1.はじめに

1-1 調査の目的

昨年度新化学技術推進協会が実施したバイオマスベンチャーのビジネス戦略に関する委託調査

で、各ベンチャーが商業化を急ぐ戦略として、最終製品メーカーと次々と提携していることが判

明した。そこで本調査では、逆の視点から、ベンチャーと提携する最終製品メーカー等の企業が、

これらベンチャーとの提携を選択した理由、将来計画における提携の位置づけ等を中心に国外も

含めた調査を行った。本調査は、昨年度実施したベンチャーのビジネス戦略と合わせ、今回のこ

れら企業の提携戦略とそれにかかわるビジネス戦略を把握することで、新化学技術推進協会の会

員企業が、バイオマスに関する技術開発や事業企画を行うに資することを目的とした。

1-2 調査項目と調査方法

[1] 調査項目

国内外のバイオベンチャーと提携する企業をリストアップし、バイオマスベンチャーとの提携

に係るビジネス戦略に関する動向について下記項目を調査した。

(1) 国内外のベンチャー企業と提携している企業のリストアップ

(2) 上記各企業の下記事項についてのまとめ

(a) 提携しているベンチャー企業および関連情報

(ベンチャー企業情報、提携に関連し取り組んでいる技術分野、技術的課題、ビジネス戦略)

(b) 企業情報(企業規模:人員、売り上げ、提携分野売り上げ、IPO など)

(c) 関連分野に関するその他外部機関との提携(大学、企業、公的機関、ファンド)

(3) 代表的な国内バイオマスベンチャー提携企業のビジネス戦略詳細

(4) 代表的な海外バイオマスベンチャー提携企業のビジネス戦略詳細

(5) 国内外のバイオマスベンチャー提携企業の最近の動向と見通し

(6) その他、トピックスなど

公開情報を活用するが、特に(3)(4)のビジネス構築戦略に関しては、国内外の企業へのヒアリン

グを行うとともに、(4)に関しては、海外ベンチャー(北米中心)へのヒアリングも実施した。

[2] 調査方法

(1) 国内外のベンチャー企業と提携している企業のリストアップ

国内外のバイオマスベンチャーと提携している企業の情報は、例えば石油化学会社のホームペ

ージなどを調査しても有用な情報を得ることは容易ではない。そこで、昨年度のバイオマスベン

チャーのビジネス戦略に関する調査をもとに、バイオマスベンチャーと、提携企業との関係を整

理した。

さらに、昨年度の調査に含まれていなかったバイオマスベンチャーについて追加調査を実施し

て、バイオマスベンチャーと提携企業の関係に関する情報を追加整理した。

(2) 各企業のまとめ

リストアップした企業について、下記の取りまとめを行った。

(a) 提携しているベンチャー、技術的課題、ビジネス戦略

(b) 企業情報(企業規模:人員、売り上げ、IPO など)

(c) 関連分野に関するその他外部機関との提携

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(3) 代表的な国内のバイオマスベンチャー提携企業の戦略詳細

代表的な国内のバイオマスベンチャー提携企業の戦略の詳細についてインターネット調査、文

献調査を行った。

文献調査の結果を整理した上で、さらに企業へのヒアリングを行った。

(4) 代表的な海外バイオマスベンチャーのビジネス戦略

代表的な海外のイオマスベンチャー提携企業の戦略の詳細についてインターネット調査、文献

調査を行った。

文献調査の結果を整理した上で、さらに企業へのヒアリングを行った。

(5) 国内外のバイオマスベンチャー提携企業の最近の動向と見通し

上記国内外のバイオマス提携企業の戦略の分析に加えて、北米のバイオマスベンチャーへのヒ

アリングも行うことにより、国内外のバイオマスベンチャー提携企業の最近の動向と見通しにつ

いて取りまとめを行った。

(6) その他、トピックスなど

a) バイオマス由来材料ユーザーの動向に関する調査

バイオマスベンチャーと提携した企業にとって、そのユーザーの動向がビジネス戦略に大きな

影響を及ぼす。例えば、ポリ乳酸が大量に生産できるようになったとき、自動車の内装材として

期待されたが、価格と性能が合わないため大きな広がりにはつながらなかった。そこで、ユーザ

ーがバイオマス由来製品に対して期待していることなどについて、新聞記事などを基に整理した。

また、必要に応じてヒアリング調査を行った。

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2.調査結果

2-1国内外のバイオマスベンチャー提携企業のリストアップ

(1) バイオマスベンチャーに関する追加調査

バイオマスベンチャーと提携している化学会社などを洗い出すために、昨年度の 30 社に加え

て新たに 13 社のバイオマスベンチャーのビジネス戦略について調査した。追加調査を行ったバ

イオマスベンチャーの概要を表 2-1-1 に示した。

表 2-1-1 追加調査を行ったバイオマスベンチャー

No. バイオマスベンチャー企業名 業務内容

1 OPX Biotechnologies, Inc. 糖を原料とした化学品生産(代謝工学)

2 POET, LLC エタノール生産とバイオリファイナリー(酵素による加

水分解)

3 Zeachem Inc. セルロース系バイオリファイナリー(生物化学と熱化学

の組み合わせ)

4 LanzaTech 微生物による一酸化炭素からのバイオ燃料・化学品生産

5 Lignol Energy Corporation セルロース系バイオマスからのエタノール生産(溶媒抽

出)

6 Vertec BioSolvents, Inc. バイオマスからのバイオ溶剤生産(溶剤抽出)

7 Avantium 触媒による変換

8 BioMCN 粗製グリセリンからのメタノール生産(ガス化、触媒)

9 Chemrec AB 黒液のガス化によるバイオ燃料・化学品生産(触媒)

10 Elevance Renewable Sciences, Inc. 植物油からのスペシャルティ化学品生産(触媒)

11 Algenol Biofuels Inc. 藻類を用いたエタノール生産

12 Sapphire Energy 光合成藻類によるバイオ燃焼生産

13 Bio Architecture Lab, Inc. 海藻からの化学品生産

なお、各バイオマスベンチャーの個票を参考資料に示した。

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(2) バイオマスベンチャーと提携しているメーカーの整理

43 社のバイオマスベンチャーと提携している企業の整理を行った(図 2-1-1 および表 2-1-2、

表 2-1-3 参照)。複数のバイオマスベンチャーと提携しているメーカーには、Dow Chemical(4

件)、DuPont(4 件)、三菱化学(2 件)、Solvay(2 件)などといった化学会社がある。また、

Total(2 件)、Chevron(2 件)、といった石油精製会社もあった。また、消費者への商品をビジネ

スとしている Protter & Gamble(3 件)、コカコーラ(2 件)などもあった。

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図 2-1-1 バイオマスベンチャーとメーカーその他の提携関係

三菱化学

UOP Honeywell

Total

Syngenta Ventures Solvay

Procter & Gamble

Novozymes

DuPont

Linde

Codon Devices

Dow Chemical

Cargill

Chevron

METabolic EXplorer

LS9

LanzaTech

Lignol Energy

Gevo

Cobalt technologies

Genomatica

BioMCN

Avantium

BioAmber

Amyris

Agrivida

Vertec

Elevance

OPX

Myriant

Arzeda

Algenol

Zeachem

Solazyme

Sapphire Energy

POET

Roquette

Rhodia

コカコーラ

M&G

DSM

Chrysler Group Boeing

Arkemal

Huntsman

Michelin

Monsanto

Sasol

Shell

Siemens

Unilever

クラレ

コンチネンタル航空

三井物産

帝人アラミド

昭和電工

東レ

日光ケミカルズ

Akzo Nobel

複数のバイオマスベン

チャーと提携している企業

ARCが注目した企業

複数の企業と提携しているバイオマスベンチャー

複数のバイオマスベン

チャーと提携している企業が提携しているバイオマスベンチャー

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表 2-1-2 バイオマスベンチャーとメーカーなどとの提携関係(1/8)

ベンチャー企業 提携先 内容

Amyris, Inc. Açúcar Guarani スクアレン

POET, LLC Agrivida セルロース系エタノール生産

Vertec BioSolvents, Inc. Akzo Nobel 不明

Cobalt technologies American Process Inc. (リグノセルロースからの糖生産

技術を所有)

工業規模のブタノール生産施設建設

BioAmber ARD R&D

Elevance Renewable Sciences,

Inc.

Arkema(フランスの化学会社) スペシャルティポリマー開発

zuChem, Inc. Austin Chemical Company Inc.(ヘルスケア製品) zuChem の糖を販売

Lignol Energy Corporation BAE Systems(防衛産業) バイオ化学品の応用開発

Sapphire Energy Boeing ジェット燃料開発

Amyris, Inc. Bunge Limited スクアレン

Gevo Inc. Bye Energy 航空機燃料開発で合意

BioAmber Cargill R&D

Gevo Inc. Cargill カーギルの微生物の独占使用権を得ている

KiOR Catchlight Energy(燃料会社) 燃料供給、森林バイオマス購入

Gevo Inc. CDTECH(石油化学への技術提供者) 共同開発とマーケティング

BioAmber Celexion R&D

Solazyme, Inc. Chevron 燃料分野(バイオ燃料)

LS9 Chevron(石油会社) 燃料生産

Mascoma Corporation Chevron Technology Ventures(石油会社) 原料処理およびリグニン供給

Zeachem Inc. Chrysler Group LLC(自動車) セルロース系エタノールの生産と使用

Elevance Renewable Sciences,

Inc.

Clariant International Ltd(スイスのスペシャルティ化

学品会社)

プラスチック添加剤の商業化

Agrivida, Inc. Codon Devices(エンジニアリング会社) 発酵プロセス開発

LanzaTech Codon Devices(エンジニアリング会社) 発酵プロセス開発

Amyris, Inc. Cosan スクアレン

注:黄色は複数のバイオマスベンチャーと提携している企業。緑は ARCが注目した企業。

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表 2-1-2 バイオマスベンチャーとメーカーなどとの提携関係(2/8)

ベンチャー企業 提携先 内容

Amyris, Inc. Cosan SA Industria e Comércio 潤滑油

Algenol Biofuels Inc. Cyano Biofuels GmbH エタノール生産のためのバイブリッド藻類の経験を持つ

Cyano Biofuels GmbH を買収した。

Avantium Danone(食品) 水ボトル用 100%バイオベース PEF の共同開発

BioAmber DOE R&D

Sapphire Energy DOEと USDA 次世代藻類バイオリファイナリー開発

Solazyme, Inc. Dow Chemical(化学会社) 化学品分野(誘電性液体)

OPX Biotechnologies, Inc. Dow Chemical(化学会社) アクリル酸生産技術開発

Algenol Biofuels Inc. Dow Chemical(化学会社) パイロットスケールの検討。バイオプラスチック開発。

Elevance Renewable Sciences,

Inc.

Dow Corning Corporation(シリコーンメーカー) シリコーン供給者

POET, LLC DSM(化学会社) セルロース系エタノールの商業生産

Arzeda Corp DuPont(化学会社) 穀物の収量を増加させる研究

BioAmber DuPont(化学会社) R&D

POET, LLC DuPont(化学会社) セルロース系エタノール生産

Bio Architecture Lab DuPont(化学会社) 海藻からのブタノール生産

Sapphire Energy Earthrise Nutritionals LLC スピルリナのライセンス契約

Tetramer Technologies LLC Elevance Renewable Sciences 天然油を原料とした工業原料の生産

KiOR FedEx Corporate Services(消費者) 燃料供給

Amyris, Inc. Firmenich 香料

Cobalt technologies Fluor Corporation(エンジニアリング会社) プロセス開発

Lignol Energy Corporation FPInnovations(森林研究機関 NPO) セルロースの共同商業化研究

Sapphire Energy GE Aviation/CFM International ジェット燃料開発

Amyris, Inc. Givaudan 香料

Amyris, Inc. Glycotech, Inc. スクアレン

Enerkem Inc. GreenField Ethanol(エタノールメーカー) セルロース系エタノールの商業化

Zeachem Inc. Greenwood Resources, Inc. 原料ハイブリッドポプラ供給

注:黄色は複数のバイオマスベンチャーと提携している企業。緑は ARCが注目した企業。

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表 2-1-2 バイオマスベンチャーとメーカーなどとの提携関係(3/8)

ベンチャー企業 提携先 内容

Zeachem Inc. GreenWood Tree Farm Fund 原料ハイブリッドポプラ供給

Lignol Energy Corporation HA International(鋳型供給者) リグニンの応用開発

LS9 HCL Cleantech(糖化技術) バイオリファイナリー開発

Vertec BioSolvents, Inc. Hexion Specialty Chemicals 不明

KiOR Hunt Refining(燃料会社) 燃料供給

Lignol Energy Corporation Huntsman International LLC.(差別化化学品メーカー) リグニンの用途開発

Elevance Renewable Sciences,

Inc.

Hutchinson Worldwide(断熱材メーカー) ゴム化合物

zuChem, Inc. Hydrios Biotechnology Ltd.(フィンランドの大学発ベン

チャー)

特許を全て zuChem が買収

Gevo Inc. ICM, Inc.(バイオ燃料生産会社) イソブタノール開発

METabolic EXplorer S.A. IFP PDO (1,3-propanediol)プログラム、輸送用エネルギーの開発

METabolic EXplorer S.A. INSA Toulouse 科学研究

Elevance Renewable Sciences,

Inc.

International Specialty Products, Inc.(添加材メーカ

ー)

ワックスおよび木材プラスチック用殺虫剤担体の開発

Lignol Energy Corporation Kingspan Group PLC(建設機材) リグニンを使った製品開発

Verdezyne Lallemand Ethanol Technology(酵母供給者) エタノール製造用の酵母の商業化

Gevo Inc. LANXESS 合成ゴム用にイソブタノールを供給

BioAmber Lanxess Deutschland GmbH 商業化

BioMCN Linde(ガス) 大規模バイオマスリファイナリーを建設するためのコンソー

シアムを結成

Sapphire Energy Linde Group(ガス) CO2供給システム開発

Genomatica M&G 原料供給(セルロース)

Amyris, Inc. M&G Finanziaria S.R.L 再生可能ポリマー

LS9 MAN Latin America(自動車会社) ディーゼル燃料の試験

注:黄色は複数のバイオマスベンチャーと提携している企業。緑は ARCが注目した企業。

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表 2-1-2 バイオマスベンチャーとメーカーなどとの提携関係(4/8)

ベンチャー企業 提携先 内容

Enerkem Inc. Methanex Corporation エタノールの販売

Amyris, Inc. Method Products 家庭用品

Amyris, Inc. Michelin イソプレン

BioAmber Mid-Atlantic Technology Research and Innovation Center

(MATRIC)

R&D

Sapphire Energy Monsanto 藻類遺伝子探索

Gevo Inc. Mustang Engineering, LP バイオジェット燃料に関するエンジニアリングとコンサルテ

ィング

Avantium NatureWorks(ポリ乳酸) 再生可能資源からの新世代ポリマー開発

Chemrec AB New Page(米国の製紙会社) 黒液ガス化によるバイオ燃料生産の経済性評価

Elevance Renewable Sciences,

Inc.

NL Grease, LLC(グリースメーカー) 高性能グリースの商業化

Genomatica Novamont 商業生産

Lignol Energy Corporation Novozumes(酵素メーカー) セルロース系バイオ燃料生産

POET, LLC Novozymes(酵素メーカー) セルロース系エタノール生産

Lignol Energy Corporation Pacific Ethanol, Inc. (エタノール生産者) バイオリファイナリーの統合

Avantium Pacific Northwest National Laboratory(公的研究機関) Flowrence™システムを提供

POET, LLC Perdue AgriBusiness 蒸留穀物製品ラインの国内外の飼料市場への展開

METabolic EXplorer S.A. Processium(エンジニアリング会社) 精製工程の開発

Amyris, Inc. Procter & Gamble(消費材) 消耗剤

Zeachem Inc. Procter & Gamble(消費材) バイオベース化学品共同開発

LS9 Procter & Gamble(消費材) 原油から再生可能資源への置き換え

BioAmber PTT - MCC Biochem Ltd. 商業化

Myriant Technologies PURAC(乳酸メーカー) ポリ乳酸製造用の高純度乳酸の開発

Solazyme, Inc. QVC 健康分野(スキンケア)

Cobalt technologies Rhodia(スペシャルティケミカルズ) 南米でブタノール生産

Avantium Rhodia(スペシャルティケミカルズ) バイオベースポリアミドの応用開発

注:黄色は複数のバイオマスベンチャーと提携している企業。緑は ARCが注目した企業。

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表 2-1-2 バイオマスベンチャーとメーカーなどとの提携関係(5/8)

ベンチャー企業 提携先 内容

Solazyme, Inc. Roquette(でんぷんメーカー) 化粧品分野(食品添加物)

METabolic EXplorer S.A. Roquette(でんぷんメーカー) L-メチオニンの占用実施権を与えた

Avantium Royal Cosun(食品、栄養剤) 廃棄物からバイオプラスチックおよびバイオ燃料の生産プロ

セス開発

Mascoma Corporation Royal Nedalco(オランダのエタノール生産会社) 酵母の技術のライセンスを受け、エタノール生産技術の共同

開発

Amyris, Inc. Salisbury Partners, LLC ファルネセン

Elevance Renewable Sciences,

Inc.

Saskatchewan Canola Development Commission

(SaskCanola)(植物油)

Gevo Inc. Sasol(化学会社) 溶媒用にイソブタノール供給

Solazyme, Inc. Sephora International 健康分野(スキンケア)

Amyris, Inc. Shell ディーゼル油

BioMCN Siemens 大規模バイオマスリファイナリーを建設するためのコンソー

シアムを結成

Chemrec AB SmurfitKappa(包装製品メーカー) 黒液ガス化によるバイオ燃料生産の経済性評価

Amyris, Inc. Soliance 化粧品

BioAmber Solvay(化学) 商業化

Avantium Solvay(化学) グリーンエンジニアリングプラスチックの開発

METabolic EXplorer S.A. SpecialChem マーケティングについてアライアンス

Bio Architecture Lab Statoil(石油会社) ノルウェイにおける海藻からのエタノール生産の商業化

Elevance Renewable Sciences,

Inc.

Stepan Company(スペシャルティ化学品会社) 表面活性剤、抗菌剤、ポリウレタンポリオールの評価と商業

Lignol Energy Corporation Suncor Energy Products Inc. (エネルギー会社) セルロース系エタノールのデモンストレーション工場建設

Agrivida, Inc. Syngenta Ventures(種苗会社の投資部門) バイオ化学品の原料となる植物の開発

注:黄色は複数のバイオマスベンチャーと提携している企業。緑は ARCが注目した企業。

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表 2-1-2 バイオマスベンチャーとメーカーなどとの提携関係(6/8)

ベンチャー企業 提携先 内容

LanzaTech Syngenta Ventures(種苗会社の投資部門) バイオ化学品の原料となる植物の開発

Mascoma Corporation Tamarack Energy, Inc. (新エネルギー開発会社) セルロース系エタノールの商業化

Genomatica Tate & Lyle 原料供給(デキストロース糖)

BioAmber Tereos Syral S.A. 商業化

Elevance Renewable Sciences,

Inc.

Tetramer Technologies, LLC(技術提供ベンチャー) 技術提携

Myriant Technologies ThyssenKrupp AG の部署である Uhde コハク酸の商業生産設備に関するエンジニアリング

Chemrec AB Tianchen Engineering Corporation(中国のエンジニアリ

ング会社)

黒液ガス化によるバイオ燃料生産の共同開発

Amyris, Inc. Total ディーゼル油

Gevo Inc. Total ガソリン混合用イソブタノール供給

Elevance Renewable Sciences,

Inc.

Trent 大学 戦略的提携

Sapphire Energy Tulsa 大学

Amyris, Inc. U.S. Venture, Inc. 潤滑油

Solazyme, Inc. Unilever 化学品分野(石鹸などへの応用)(誘電性液体)

Elevance Renewable Sciences,

Inc.

United Soybean Board (USB)(大豆の業界団体) 原料供給

Sapphire Energy UOP Honeywell ジェット燃料開発

Solazyme, Inc. UOP Honeywell 燃料分野(バイオ燃料)

Purevision Technology, Inc. UPS 郵便廃材のエタノールへの変換

Lignol Energy Corporation UT-Battelle, LLC(オークリッジ国立研究所) リグニン供給

Mascoma Corporation Valero Energy Corporation(石油精製会社) 商業的エタノール生産

注:黄色は複数のバイオマスベンチャーと提携している企業。緑は ARCが注目した企業。

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表 2-1-2 バイオマスベンチャーとメーカーなどとの提携関係(7/8)

ベンチャー企業 提携先 内容

BioMCN Visser & Smit Hanab 大規模バイオマスリファイナリーを建設するためのコンソー

シアムを結成

Genomatica Waste Managemen 原料供給(合成ガス)

Lignol Energy Corporation Weyerhaeuser Company(森林産品生産者) バイオリファイナリー製品の商品開発

Elevance Renewable Sciences,

Inc.

Wilmar International Limited(アジアの農業ビジネス) バイオリファイナリーを建設のためのジョイントベンチャー

設立

Elevance Renewable Sciences,

Inc.

XiMo AG(スイスの触媒会社) 天然油エステルのメタセシス触媒

POET, LLC アイオワ州立大学 セルロース系エタノール生産

Sapphire Energy カリフォルニア大学サンディエゴ校

Amyris, Inc. クラレ(化学会社) 再生可能ポリマー

Gevo Inc. コカコーラ(飲料) 100%再生可能プラスチックボトルの開発と商業化

Avantium コカコーラ(飲料) 100%植物由来 PEF の共同開発

Sapphire Energy コンチネンタル航空 ジェット燃料開発

Sapphire Energy サンディエゴ藻類バイオテクノロジーセンター

Sapphire Energy スクリプス研究所

METabolic EXplorer S.A. フランス産業革新庁 BIO2CHEM プログラムの主要マネージャー

Purevision Technology, Inc. 国立再生エネルギー実験室 大規模廃紙のエタノールへの変換

BioAmber 三井物産(商社) 商業化

BioAmber 三菱化学(化学会社) 商業化

Genomatica 三菱化学(化学会社) 製品供給

Myriant Technologies 昭和電工(化学会社) 乳酸を供給

Purevision Technology, Inc. 西部研究機関 バッチ式加水分解のベンチスケール実験

Avantium 帝人アラミド(繊維) 高性能グリーンプラスチックの開発

Gevo Inc. 東レ(繊維) プラスチック、繊維の原料の p-キシレン生産用イソブタノー

注:黄色は複数のバイオマスベンチャーと提携している企業。緑は ARCが注目した企業。

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表 2-1-2 バイオマスベンチャーとメーカーなどとの提携関係(8/8)

ベンチャー企業 提携先 内容

Amyris, Inc. 日光ケミカルズ(化学会社) スクアレン

Gevo Inc. 米国航空協会、国防総省、空軍、ユナイテッド航空 バイオジェット燃料開発

Edenspace Systems Corp なし

Evolutionary Genomics, LLC なし

Suganit Systems, Inc. なし

Cellulose Sciences

International

なし

C5•6 Technologies Inc. なし

Allopartis Biotechnologies なし

C2 Biotechnologies, LLC なし

Qteros, Inc. なし

Elcriton, Inc. なし

Trillium FiberFuels, Inc. なし

Rennovia Inc. なし

注:黄色は複数のバイオマスベンチャーと提携している企業。緑は ARCが注目した企業。

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表 2-1-3 日本のバイオマスベンチャー企業のメーカーなどとの提携関係

ベンチャー企業 提携先 内容

ネオ・モルガン研究所 IHI IHI NeoG Algae 合同会社

ジナリス 東京大学エッジキャピタル 取締役派遣

マイクロ波化学 デンソー 共同研究(藻から油を抽出)

ユーグレナ JX 日鉱日石エネルギー バイオ燃料開発の事業化に向けた共同研究パートナー

ユーグレナ 日立プラントテクノロジー バイオ燃料開発の事業化に向けた共同研究パートナー

ユーグレナ 清水建設 環境浄化技術に関する共同研究パートナー

ユーグレナ 住友共同電力 火力発電所の排ガスを用いたユーグレナの培養実験

ユーグレナ 東京都 ミドリムシを使った下水浄化の共同研究

ユーグレナ 全日本空輸 バイオ燃料、商品素材など将来的な事業の協奏に向けた資本提携

ユーグレナ 電通 バイオ燃料、商品素材など将来的な事業の協奏に向けた資本提携

ユーグレナ 東京センチュリーリース バイオ燃料、商品素材など将来的な事業の協奏に向けた資本提携

ユーグレナ インスパイア 資本提携及び経営全般における業務提携

ユーグレナ 伊藤忠商事 食品流通におけるパートナーシップ

ユーグレナ 日本コルマー 化粧品化におけるパートナーシップ

スメーブジャパン イスラエルの Seambiotic 火力発電所等から発生する大量の二酸化炭素を効率よく微細藻に与え、発育を促す

バイオマテリアルイン東京 コスモ石油 資本提携先

Green Earth Institute RITEバイオ研究グループ 共同研究

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図 2-1-2 に複数のバイオマスベンチャーと提携している企業の提携関係を提携開始年と業種で整理して示した。

石油会社では、Chevron が 2008 年に Solazyme と提携を開始したことを皮切りに、UOP Honeywell や Total も Mascoma や Gevo,Amyris

などとの提携を、2009 年を中心に開始している。これらの企業は、バイオマスベンチャーといずれも燃料に関する提携をしている。

化学会社では、DuPont が 2006 年に POET とエタノール生産で提携し、2011 年には BioArchitecture とブタノール生産で提携している。

Rhodia も 2011 年に Cobalt Tech とブタノール生産で提携している。この 2 社は、燃料に関する提携をすすめるとともに、化学品生産につい

てもバイオマスベンチャーとの提携を行っている。これに対して、Dow Chemical と三菱化学は化学品生産の分野においてのみバイオマスベ

ンチャーとの提携を進めている。化学会社 4 社が化学品生産についてバイオマスベンチャーとの提携を開始したのは、2010 年からであり、

2011 年以降に提携例が増加しているが、比較的近年に開始されていることに注目する必要があると考える。

でんぷん会社の Roquette は、自社の商材である L-メチオニンや食品添加物に関してバイオマスベンチャーと提携している。

消費材大手の P&G は、消費材の原料を有するバイオマスベンチャーと商品化に関する提携を行っている。コカコーラは、飲料プラスチッ

クボトルのグリーン化のために Avantium および Gevo と提携している。

図 2-1-2 複数のバイオマスベンチャーと提携している企業の提携関係

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年

Total

Amyris

Gevo

ブタノール

ディーゼル

石油

Chevron

LS9 Mascoma Solazyme

石油

燃料

リグニン

燃料

UOP Honeywell Solazyme

Sapphire

燃料

ジェット燃料 石油

ブタノール

化学 ポリアミド

Rhodia Avantium

Cobalt Tech

エタノール ブタノール

コハク酸

化学

DuPont

BioArchtecture POET

BioAmber

バイオマスベンチャーと提携している企業の区分:

石油

バイオマスベンチャーと提携している企業の区分:

化学

三菱化学

BioAmber

Genomatica 1,4-ブタンジオール

化学品 化学 コハク酸

Roquette

Solazyme METhabolic

食品添加物

でんぷん

L-メチオニン

Dow Chemical OPX

Algenol Solazyme 誘電性液体

アクリル

化学

ポリマー

P&G

Amyris LS9 化学品

化学品

消費材

コカコーラ

Avantium

Gevo

ポリマー(PEF)

飲料 ポリマー

バイオマスベンチャーと提携している企業の区分:

消費材

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エタノール生産に関するバイオマスベンチャーと提携企業の関係を図 2-1-3 に示した。

エタノール生産に関する技術を有するバイオマスベンチャーは、①前処理技術をもつもの、②

微生物生産技術をもつもの、③熱分解を利用するもの、④海藻を原料とするものがある。これに

対して、提携先企業としては、①化学企業、②エネルギー供給者、③エタノール生産会社、④ユ

ーザーである自動車会社、⑤エタノール生産に必要な前処理技術や酵素技術をもつベンチャー企

業があった。化学会社も燃料としてのエタノール生産で提携しており、エタノール生産について

は、燃料としてのビジネスが目指されている。

図 2-1-3 エタノール生産に関するバイオマスベンチャーと提携企業の関係

注:線の色には意味はなく、区別して見やすくするため

DuPont

DSM

化学

Methanex

Statoil

Tamarack Energy

Suncor Energy

Valero Energy

エネルギー

GreenField Ethanol

Pacific Ethanol

Royal Nedalco

エタノール生産

Chrysler 自動車

Agrivida

Novozymes

ベンチャー

Bio Architecture 海藻

POET

Zeachem

Mascoma

微生物生産

Lignol Energy 前処理

Enerkem 熱分解

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ジェット燃料およびディーゼル油生産に関するバイオマスベンチャーと提携企業の関係を図

2-1-4 に示した。

ジェット燃料・ディーゼル油生産に関する技術を有するバイオマスベンチャーは、①微生物生

産技術をもつ4社と②藻類を利用して生産するもの1社があった。これに対して、提携先企業と

しては、ジェット燃料については、①航空機エンジン生産会社、②航空機生産会社、③利用者と

しての軍および、④航空会社がある。また、ディーゼル油については①石油会社と②ユーザーと

しての自動車会社がある。

ジェット燃料およびディーゼル油については、バイオマスベンチャーと生産者およびユー

ザーとの提携が実用化に向けて進展していることが分かる。

図 2-1-4 ジェット燃料・ディーゼル油生産に関するバイオマスベンチャーと提携企業の関係

注:実線はジェット燃料に関する提携。破線はディーゼル油に関する提携。

注:線の色には意味はなく、区別して見やすくするため

Gevo

Cobalt technologies

LS9

Amyris

微生物生産

ユナイテッド航空

コンチネンタル航空

航空

MAN Latin America 自動車

米国海軍航空武器部

米国空軍 軍

GE Aviation

Bye Energy 航空機エンジン

Total

Shell

UOP Honeywell

石油

Sapphire Energy 藻類

Mustang Engineering

Boeing 航空機

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ブタノール生産に関するバイオマスベンチャーと提携企業の関係を図 2-1-5 に示した。

ブタノール生産に関する技術を有するバイオマスベンチャーは、①微生物生産技術をもつ 2 社

と②海藻を利用して生産するもの1社があった。これに対して、提携先企業としては、①石油会

社、②化学会社、③サポーターとしてのエンジニアリング会社がある。

ブタノールの用途に関しては、石油会社は当然だが、化学会社の Rhodia と DuPont も燃料を

目標にしていることが注目される。一方、ブタノールを化学品へ利用しようとしている化学会社

には東レ、LANXESS、Sasol があった。

図 2-1-5 ブタノール生産に関するバイオマスベンチャーと提携企業の関係

注:実線は化学品に関する提携。破線は燃料に関する提携。

LANXESS

東レ

Sasol

DuPont

Rhodia

化学

Gevo

Cobalt technologies

微生物生産

American Process エンジニアリング

Total

ICM 石油

Bio Architecture 海藻

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コハク酸生産に関するバイオマスベンチャーと提携企業の関係を図 2-1-6 に示した。

コハク酸生産に関する技術を有するバイオマスベンチャーは、BioAmber と Myriant の 2 社が

あり、いずれも微生物生産技術をもっている。これに対して、提携先企業としては、①農業ビジ

ネス会社 1 社、②化学会社 6 社、③商社 2社、④サポーターとしてのエンジニアリング会社 1 社

があった。

コハク酸生産バイオマスベンチャー2 社は、いずれも商社と提携しており、商社を通してか直

接かは判明しないが、複数の化学会社との提携を進めていることがわかる。

図 2-1-6 コハク酸生産に関するバイオマスベンチャーと提携企業の関係

注:線の色には意味はなく、区別して見やすくするため

三菱化学

Solvay

PTT - MCC Biochem

DuPont

昭和電工

Lanxess

Deutschland GmbH

化学

Uhde エンジニアリング

双日

三井物産

商社

Tereos Syral 農業ビジネス

Myriant

BioAmber

微生物生産

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ポリマー生産に関するバイオマスベンチャーと提携企業の関係を図 2-1-7 に示した。

ポリマー生産に関する技術を有するバイオマスベンチャーは、①微生物生産技術を持つ 3 社を

中心としているが、そのほかに②植物油を利用するもの、③藻類を利用するもの、④触媒反応を

利用するものなど、多様な技術分野からのアプローチがなされていることが特徴的である。これ

に対して、提携先企業としては、①ポリマーを生産する化学会社が多数あることに加えて、ポリ

マーの最終ユーザーである食品、飲料メーカーが参入していることが注目される。

コハク酸は PET ボトルを始めとした樹脂の原料の一つであり、消費者への訴求力が強いこと

が、コカコーラなどが関与している理由と考えられる。これはいわゆるグリーンボーナス、グリ

ーンプレミアムというバイオ由来製品のコスト競争力不足を補完するものと、日本では認識され

ている。しかし、米国におけるヒアリング調査によって、バイオマス由来ポリマー原料の化石燃

料に対するコスト競争力が、環境にやさしいというムードからくる甘さを必要としない段階に達

してきているかもしれないという感触を得た。

図 2-1-7 ポリマー生産に関するバイオマスベンチャーと提携企業の関係

注:線の色には意味はなく、区別して見やすくするため

Gevo

Genomatica

Amyris 微生物生産

Algenol 藻類

Elevance 植物油

Danone

Royal Cosun

コカコーラ

食品・飲料

Rhodia

帝人アラミド

Solvay

M&G

NatureWorks

Dow Chemical

Arkema

クラレ 化学

Avantium 触媒

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2-2 国内外のバイオマスベンチャー提携企業のビジネス戦略の分析

2-2-1 国内外のバイオマスベンチャー提携企業のビジネス戦略に関するヒアリング調査結果

(1) 国内のバイオマスベンチャー提携企業のビジネス戦略に関するヒアリング

国内でバイオマスを利活用している企業は、三菱化学、東レ、昭和電工、IHI の4社であった。

4社の会社情報とバイオマスベンチャーとの提携について表 2-2-1~表 2-2-4 に示した。

表 2-2-1 三菱化学のバイオマスベンチャーとの提携に関する個票

企業名 三菱化学

企業情報

資本金 500億円

売り上げ 20,809億円(2012 年 3月期連結)

提携分野売り上げ ケミカルズセグメント 10,075億円

ポリマーズセグメント 6,972億円

人員 27,689人(連結)

設立年月日 1950年 6月 1日

提携してい

るベンチャ

ー①

ベンチャー名 Genomatica

技術分野 植物を原料とした化学品のプロセス開発

技術的課題

植物原料から化学品を効率的に生産する発酵(製造)プロセスの設計のための

代謝経路探索に高い技術をもち、既に植物原料から 1,4-ブタンジオール、メ

チルエチルケトン等の化学品を製造するための多数の有力な特許を保有して

いる Genomatica と、石油化学製品の生産を通じて培った高度生産技術及び分

離精製技術を保有している三菱化学の両者のもつ技術を組み合わせることで、

植物を原料とした化学品のプロセス開発を加速する。

ビジネス戦略 中東、インドを含むアジアでの 1,4-ブタンジオール事業化

提携してい

るベンチャ

ー②

ベンチャー名 BioAmber

技術分野 生分解性プラスチックの植物原料化

技術的課題

バイオコハク酸の製造に成功しており、既に商業プラントを保有し事業展開を

進めている BioAmber から GS Pla®の原料であるバイオコハク酸を調達すると

ともに、BioAmber のもつバイオコハク酸の既存のプロセス技術と、三菱化学

のもつ高度生産技術及び分離精製技術をそれぞれ組み合わせることによって、

より高効率なバイオコハク酸の製造技術の確立を目指す。

ビジネス戦略 生分解性プラスチックの海外展開

関連分野に関するその他外部機

関との提携

共同研究:味の素とバイオコハク酸開発

大学(の研究):京都大学とセルロースナノファーバーの研究

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表 2-2-2 東レのバイオマスベンチャーとの提携に関する個票

企業名 東レ

企業情報

資本金 1,478億円

売り上げ 15,886億円(2011 年度連結)

提携分野売り上げ 繊維 6,384億円(2012/3)

プラスチック・ケミカル 3,978億円(2012/3)

人員 40,227人(2012 年 3月末現在)

設立年月日 1926年 1月

提携してい

るベンチャ

ー①

ベンチャー名 Gevo

技術分野 完全バイオマス原料由来ポリエチレンテレフタレート(PET)生産

技術的課題

Gevo 社がバイオマスを原料として独自に改変した微生物を用いた高効率製造

プロセスにより製造したバイオイソブタノールから、商業生産に使用されてい

る化学変換反応によって合成したパラキシレンから東レ保有の空気酸化技術

によりテレフタル酸を誘導。これと市販されているバイオエタノール由来のエ

チレングリコールを原料として、新規技術と東レ保有の重合・製膜技術により

PETを合成する。

ビジネス戦略 バイオマスポリマーを中期経営課題の中核の一つに位置付けている。

関連分野に関するその他外部機

関との提携

共同研究:白鶴酒造、三菱重工メカトロシステムズと糖液生産の研究

表 2-2-3 昭和電工のバイオマスベンチャーとの提携に関する個票

企業名 昭和電工

企業情報

資本金 1,405億円(2011 年 12月 31日現在)

売り上げ 8,541億円(2011 年)

提携分野売り上げ 化学品 1,302億円

人員 11,542人(2011 年 12月 31日現在、連結)

設立年月日 1939年 6月

提携してい

るベンチャ

ー①

ベンチャー名 Myriant

技術分野 生分解性プラスチック原料の植物化

技術的課題 生分解性プラスチックのポリブチレンサクシネート(PBS)生産に Myriant 社

のバイオコハク酸を使用する。

ビジネス戦略 生分解性プラスチックの展開

関連分野に関するその他外部機

関との提携

共同研究:協和発酵ケミカル、三菱化学などとプロパノール生産の研究

大学(の研究):北海道大学と糖アルコール生産の研究

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表 2-2-4 IHIのバイオマスベンチャーとの提携に関する個票

企業名 IHI

企業情報

資本金 957億円

売り上げ 1兆 2,218億円(平成 24年 3月期連結)

提携分野売り上げ 資源・エネルギー 3,123億円(2011年度)

人員 26,915名(平成 24年 3月末連結)

設立年月日 1889年 1月 17日

提携してい

るベンチャ

ー①

ベンチャー名 ネオ・モルガン研究所

技術分野 エネルギー

技術的課題 神戸大学発ベンチャーのG&GTが開発した燃料生産能力の高い藻(榎本藻)

の培養法を活かしてバイオ燃料を生産する。

ビジネス戦略 ジェット燃料や重油としての利用が見込まれる藻類バイオ燃料を生産する。

上記4社に加えて国内企業でバイオマスを利活用している企業に対し、バイオマスベンチャー

との提携に関するヒアリング調査を行った。

ヒアリング調査を行った企業を表 2-2-5 にまとめて示した。なお、ヒアリング調査の依頼は 12

社に行った。

表 2-2-5 バイオマスベンチャーとの提携に関するヒアリング先リスト

区分 会社名 バイオマス由来原料の利用分野

a メーカー 昭和電工 ポリエステル原料のコハク酸を Myriadから調達

b メーカー IHI 藻類による燃料生産をネオ・モルガン研究所と共同開発

c メーカー 住友ベークライト バイオマスからのフェノール類生産の検討(RITE)

d メーカー カネカ 生分解性ポリマーである PHBHの生産(理研)

e ユーザー トヨタ

f ユーザー デンソー

以下にヒアリング結果を示す。

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(a) 昭和電工ヒアリング調査結果

1.日 時: 2012 年 12 月 19 日 13:30~14:30

2.場 所: 昭和電工本社(港区芝大門 1-13-9)

3.ヒアリング先: 昭和電工 化学品事業部門 機能性高分子事業部

ビオノーレ部長 市川 靖 氏、顧問 細田 喜一 氏

IR・広報室 アシスタント・マネージャー 矢崎 朋子 氏

4.内 容:

①バイオマス活用の基本方針

生分解性樹脂「ビオノーレ」に 20 年前から取り組んでいる。ビオノーレは昭和高分子(株)が開

発した、コハク酸と 1,4-ブタンジオールから合成されるポリエステルであり、NEDO プロジェク

ト「バイオマスを原料とするコハク酸製造プロセスの開発」で量産バイオマス化の研究を行なっ

た経緯がある。

従来の原料は石油由来だが、バイオマス化を進めている。安価なデンプンを 40%混ぜ、コハク

酸をバイオコハク酸に切り替える。バイオマス度を 60~70%に上げているが、8 割まで上げてい

きたいと考えている。バイオコハク酸は自社開発も検討したが、購入に切り替えた。複数の企業

に対して必要なスペックを提示し、サンプル評価を行なった。現在もその中の数社と検討を進め

ている。バイオコハク酸の商業プラントは建設中で、2013 年稼働予定である。1,4-ブタンジオ

ールについても複数の企業で、バイオ化が検討されているが、商業生産までには、まだ数年を要

すると考えられる。将来的には、1,4-ブタンジオールもバイオマス化して、バイオマス度 100%

に持っていく方針である。

原料調達については、コハク酸と 1,4-ブタンジオール、ともに外部から購入して使用している。

その他の検討中の材料については、外部からの原料調達が基本だが、自社開発も排除していない。

サンプル評価は継続的に実施している。

②提携相手の有無と提携内容

米 Myriant 社は、「高純度バイオコハク酸」のサプライヤーである。原料としての評価を進め

て、数社のバイオコハク酸メーカーの中から採用に踏み切った。共同開発までは行っていない。

③バイオマスベンチャーに対する考え方

原料モノマーの調達先としては、高品質のものを、妥当な価格で、迅速に供給してくれるとこ

ろを採用する方針である。

バイオマスベンチャーの良いところは早いことで、一方、安定性のかける欠点もある。

④将来計画における提携の位置づけ

原料調達先としての提携を考えているが、石化原料とどう関わっていくかを考慮しながら進め

ている。

⑤その他

生分解性プラスチックの競合相手は、汎用プラスチックである。コスト競争は厳しく、デンプ

ンやポリ乳酸など安価な製品の混合も有力な手段である。実用化が進むと、価格への要求が厳し

くなる。ヨーロッパでは短期間に約 50 円/kg(0.5 ユーロ/kg)の価格低下があった。また、バイ

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オマス原料の価格は干ばつ等による食糧価格の変動の影響を強く受ける。

ビオノーレと正面から競合する特性の樹脂は少ないが、製品の価格を下げるためには、デンプ

ンやポリ乳酸の混合で対抗している。「PE+アルファ」の価格が目標で、2 倍程度には近づいてい

る。原料モノマーについて、糖の発酵生産から、将来、セルロース等の非可食原料に、さらに、

集積している廃棄物原料に移行して、価格が下がっていくことを期待している。

生分解性プラスチックの主用途はレジ袋(コンポスト袋)と農業用マルチフィルムで、ユーザ

ーとして大きいのは、イタリアの 20 万トン(PE レジ袋)と中国の 120 万トン(PE 農業用マル

チフィルム)である。ビジネスを進める上では、円のレートの影響がきわめて大きい。

ビオノーレの弱点は(脂肪族ポリエステルなので)耐熱性の弱いことである。例えば、コップに

した時、冷たい飲み物に限られ、コーヒー等を入れると収縮してしまう。コンビニ等の弁当容器

にした時、電子レンジでの加熱に耐えられない。

世の中の流れが、生分解性プラスチックからバイオマスに移行したのは、カーギルが戦略的に

PR したことも大きく影響していると考えている。

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(b) IHIヒアリング調査結果

1.日 時: 2012 年 11 月 16 日 10:00~11:00

2.場 所: IHI 本社(江東区豊洲 3-1-1)

3.ヒアリング先: IHI新事業推進部バイオプロジェクトグループ 担当部長 成清 勉 氏

主幹 阿波野 俊彦 氏

主査 江原智 久 氏

4.内 容:

①バイオマス活用の基本方針

IHI はオープン・イノベーションを標榜しており、新事業推進部では国内外でベンチャー企業

を積極的に探している。探し当てたベンチャーの一つがネオ・モルガン研究所である。

エネルギー事業は IHI にとって大きな事業領域の一つであり、その分野で新事業について検討

した結果、浮かび上がったテーマの一つがバイオマスを活用したエネルギーである。航空・宇宙

事業にも取り組んでいる IHI としては、ジェット燃料に関心があり、ジェット燃料に適している

のは、藻からの燃料である。

また、気候変動問題に関連して、環境貢献の観点から、バイオマスでカーボンニュートラルを

狙う。原料集め、処理費用など課題は多いが、バイオマスを少しずつ取り入れていく。IHI の製

品群を環境フレンドリーにする上でバイオマスは必要と考えている。

なお、IHI は、従来から微生物を扱ってきた。下水処理場の曝気槽、微生物を利用した工場排

水の処理などは伝統商品の一つである。医薬品のプラントや細胞培養のプラントも手掛けている。

②外部との提携

IHI は、榎本藻を開発した神戸大学発のベンチャー企業ジーン・アンド・ジーンテクノロジー

(G&GT)、育種技術に優れたネオ・モルガン研究所と藻類バイオ燃料に関する技術開発を共同

で実施する新会社「IHI NeoG Algae 合同会社」を 2011 年 8 月に設立した。榎本藻はポツリオ

コッカスの弱点であった増殖の遅さを改善し、雑菌に強く、光合成だけで増殖し、脂分も多いの

で非常に有望とみている。

微細藻燃料開発推進協議会は IHI が JX 日鉱日石エネルギー、デンソーと共に発起人となり、

2012 年 5 月に民間 10 社を主体としてスタートした。産官学のオールジャパンで推進することを

目指している。

NEDO のプロジェクト「木質バイオマスのガス化による SNG 製造技術の研究開発」に参加し

ている。今年度に始まったプロジェクトであり、木質チップの混焼などを研究している。ベンチ

ャー企業は参加していない。

③バイオマスベンチャーに対する考え方

バイオの分野に限らず、IHI の新事業を起こすために、大学、ベンチャーを積極的に活用して

いく。

④将来計画

化石燃料のいくばくかは替えていかなければならないが、先は長い。

藻類の培養については昨年の 8 月に活動を開始した。フラスコに LED を当てる小スケールの

実験であったが、1 年後には、屋外で太陽光を使って培養できるようになった。課題としては、

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広い培養面積の確保、撹拌動力の消費電力削減、脱水コストの削減、水と養分の循環、CO2 の調

達などがあるが、2014 年には試作品の出荷を目指している。CO2 の調達には、火力発電所に隣

接した土地が適しているが、火力発電所は消費地近くに立地しており、広い土地の確保が課題で

ある。

一方、木質チップの混焼は、IHI の技術で実用化が近い。褐炭の利用なども検討している。

⑤その他

アメリカはベンチャーが多く、資金もどんどんつぎ込まれている。サファイア・エナジーは、

ニューメキシコ州南部ルナ群で建設中だった藻類バイオマスプラントの一部稼働を開始した。

アメリカはエネルギーセキュリティを重視しており、バイオマスエネルギーを軍が高値で買って

くれるので、資金繰りにも恵まれている。

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(c) 住友ベークライトヒアリング結果

1.日 時: 2012 年 11 月 7 日 10:00~11:00

2.場 所: 住友ベークライト本社(品川区東品川 2-5-8 天王洲パークサイドビル)

3.ヒアリング先: 技術部 技師長 勝村 明文 氏

4.内 容:

①バイオマス活用の基本方針

石油原料はエネルギーセキュリティや価格の問題がある。バイオマスを石油に頼らない資源と

して使う。

住友ベークライト㈱は、熱可塑性樹脂は購入して使う立場であり、研究として取り組んでいる

のはフェノール回り。石油に頼らないフェノールの確保が一つのポイントである。

フェノール樹脂とリグニンは構造が似ているので、亜臨界水処理による木粉からのリグニン利

用に取り組んでいる。この際、コスト等の点から、モノマーまで分解するのではなく、架橋を切

って、取り扱いやすいノボラックに近い線状ポリマーに持っていく技術を開発している(NEDO

のプロジェクト)。

一方で、超臨界水技術により、フェノール樹脂を線状ポリマーに分解してリサイクルする研究

も行っている。これは、顧客から加工時に出る廃材料を回収して、リサイクルするのが出発点で

あり、静岡でパイロットプラントの運転を行っている。これは、熱硬化性樹脂もリサイクルでき

ることをアピールするために始めた。

②提携相手の有無と提携内容

バイオマスベンチャーとの提携は実施していない。

RITE(地球環境産業技術研究機構)とは、「グリーンフェノール・高機能フェノール樹脂製造技

術研究組合」を作って、非可食セルロースから、バイオプロセスにより、フェノールを製造する

技術の開発に取り組んでいる。原油から植物由来原料への原料転換、CO2削減を狙ったものであ

る。

③バイオマスベンチャーに対する考え方

アグリフューチャー・じょうえつ㈱の木粉からのフェノールを検討したことはあるが、その後、

進んでいない。

よい案件があれば検討するという立場である。

④将来計画における提携の位置づけ

フェノール関連を中心に大学との提携には注力している。

関連する研究開発を行っているベンチャーが見当たらないので、バイオマスベンチャーを探し

て提携することは当面、力を入れていない。

⑤その他

なし

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29

(d) カネカヒアリング調査結果

1.日 時: 2012 年 11 月 21 日 14:30~15:30

2.場 所: カネカ本社(大阪市北区中之島 3-2-4 朝日新聞ビル)

3.ヒアリング先: GP 事業開発部 総括グループリーダー 三木 康弘 氏

4.内 容:

①バイオマス活用の基本方針

最も力を入れているのは、生分解性ポリマーである PHBH

(Poly (3-hydroxybutyrate-Co-3-hydroxyhexanoate))

1990 年頃に、東工大教授(当時) 土肥 義治氏の微生物産生に関する学会発表に興味を抱いた

のがきっかけで、このポリマーに取り組んだ。

生分解性樹脂が社会的に話題になる以前から、基礎研究に着手し、カネカで開発してきた。

PHBH は新規なポリマーであるので、物質特許を取った。

カネカは、理研でスタートしたバイオマス活用の研究プロジェクトに研究員を派遣し、研究を

進めた。

天然の菌でのポリマー生成から始まり、組み換え菌で生産性の大幅向上を図った。

ダウン・ストリームが難しい。菌体からの溶剤抽出や界面活性剤での洗浄を中心に検討してき

た。

さらに、コンパウンディングや成型加工まで取り組み、紆余曲折はあったが、1,000t/年の生産

能力を持つパイロットプラントの建設・稼働に漕ぎつけた。

この実証設備により、サンプル供給による用途開発に注力している。

PHBH の実用化には培養技術、精製技術、粉体技術、ペレット技術、コンパウンド技術など、

多くの要素技術が必要であり、これが揃っていないと作れない。

②提携相手の有無と提携内容

バイオマスベンチャーとの提携は実施していない。

だいぶ進んだ段階(2006 年頃)で、P&G 社と共同開発契約を結び、両社の PHBH に関して保有

する生産、加工に関する技術を持ち寄り、共同して商業化を目指した。カネカが作ったサンプル

を P&G 社が評価した。用途は紙オムツなどであった。しかし、P&G 社が事業の再構築を行い、

生分解性ポリマーから撤退したため、契約は 2 年弱で解消した。その後は、カネカが独力で開発

してきた。ただ、P&G 社との共同開発は、開発の継続に対して、カーギルのポリ乳酸とともに、

追い風となった。

③バイオマスベンチャーに対する考え方

学会発表がきっかけで自社開発に取り組んだので、積極的にはベンチャー企業を探さなかった。

④将来計画における提携の位置づけ

なし

⑤その他

基礎研究から始めて、開発に長時間かかっており、PHBH の物質特許は今年の9月に切れた。

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当然、周辺特許は多数出願している。

商業化の決断をするのは、来年あたりである。原料立地を考えている。コストダウンが最大の

課題である。

日本発の本格的バイオプラはまだ登場していない本件が初めてである。「微生物産生系、生分解

性、軟質、嫌気性分解」が特徴である。水中で分解することも一つの特徴である。り、アメリカ

の軍関係が関心を持っている。欧州ではコンポスト処理が普及しているから、生ごみ袋などとし

て使える。その点でヨーロッパからの引き合いが多い。

耐久資材用とも検討しているが、価格が合わず、そう簡単には売れない。

自社開発の独自ボリマーだけに、評価用のサンプルがなかなか出せずに苦労した時期がある。

微生物産生のポリエステルで注目される企業としては、MIT の教授がスピンアウトして設立し

たメタボリックス社(Metabolix, Inc)がある。NASDAQ に上場して IPO を果たしている。カーギ

ルに続く、第 2 位の穀物メジャーのである ADM 社と合弁で TELLES 社を設立し、5 万トン/年

の設備を建設し、商業化をスタートしたてが、今年、ADM 社が手を引いて、合弁を解消した。

メタボリックス社は新たな合弁相手を探している模様であるが、かなりの痛手を被ったようで

ある。国からファンドを受け、IPO で資金を集め、大手と JB をやるなど、MOT のお手本みた

いなことをやった結果であるが、このダイナミズムはすごい。日本では無理だろう。

ソラザイムというバイオマスベンチャーも藻から油を作っているが、相当大きくなっているよ

うだ。今年から IPO で資金を集めるという。とにかくアメリカはダイナミックである。

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(e) トヨタ自動車バイオ・緑化研究所ヒアリング調査結果

1.日 時: 2012 年 11 月 8 日 15:45~16:45

2.場 所: トヨタ自動車 バイオ・緑化研究所(愛知県みよし市黒笹)

3.ヒアリング先: バイオ・緑化事業部 バイオ技術開発室長 高橋 和志 氏

バイオ・緑化事業部 企画室 総括グループ長 片山 利夫 氏

4.内 容:

①バイオマス活用の基本方針

トヨタが実現を目指すサステイナブル・モビリティ、カーボンニュートラルな液体燃料の観点

からバイオ燃料に対して可能性を検討している。

車両の走行距離と車両重量により、最適な動力源は変わる。コミュータなど小型車には EV が

向いているが、長距離では液体燃料でコスト的に合えば、リニューワブル、カーボンニュートラ

ルなものが良い。

これは、トヨタが燃料メーカーを目指すということではない。開発した技術は、エネルギー関

連の会社にライセンスアウトし、実用化していく方針である。

②外部との提携

人間の食用とはならないセルロースからエタノールを製造するプロセスを開発している。課題

は安定供給とコスト削減である。トヨタは、単位面積当たりの生産量が高く、栽培コストが低い

(4 円/kg)ネピアグラスが有望と考え、インドネシアで栽培試験を推進している。

セルロースエタノール製造プロセスにおいて、まず原料の圧搾・蒸煮を組み合わせたシンプルな

前処理工程を確立した。次の糖化・発酵工程ではトヨタ開発酵母を用い、キシロースのエタノール

変換率の大幅な向上を実現した。

トヨタは事業化も視野に入れて、エタノール製造プラントを持つ会社に、トヨタ開発酵母を提

案し、一定の評価を得ている。

③バイオマスベンチャーに対する考え方

トヨタ自身がベンチャーという姿勢で動いている。外部からのご提案は大変ありがたい。

④将来計画

2015 年までに技術を完成させ、2020 年にはトヨタの酵母を使って、エタノールを製造してい

る段階にしたい。残された課題は酵素費の低減である。

⑤その他

トヨタのバイオ・緑化事業について

【3大ビジョン】

・優れたバイオテクノロジーや緑化関連技術を開発し、事業を通して地球環境に貢献する

・地球温暖化や森林面積の減少などの問題に対応する「環境貢献型の緑化事業」を展開する

・さらには食糧問題、大気・水質汚染問題へ対応する「資源循環型新規事業」を展開する

【具体的な活動】

・屋上緑化、壁面緑化、駐車場緑化、フラワービジネス、豪州での紙パルプ用樹木の植林等

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の事業展開

・熱帯資源作物の研究開発、三重宮川での林業再生プロジェクト

・海外での植林プロジェクト(中国・フィリピン)等の社会貢献活動

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(f) デンソーヒアリング調査結果

1.日 時: 2012 年 1 月 25 日 14:30~15:30

2.場 所: デンソー本社(愛知県刈谷市昭和町)

3.ヒアリング先: 基礎研究所 機能材料開発部 バイオ材料研究室長 福田 裕章 氏

広報部 広報 1 室長 小島 秀治 氏

4.内 容:

①バイオマス活用の基本方針

将来のエネルギー問題への取り組みは、デンソーの研究として必要と考えている。現在取り組

んでいるテーマが(食糧と競合しない)微細藻類からの燃料製造である。

デンソーがエネルギー製造に進出することではなく、技術開発をして、出口は石油会社等と提

携していくのが基本である。そのため、JX 日鉱日石エネルギー株式会社、株式会社 IHI および

株式会社デンソーの 3 社が発起人となり、「微細藻燃料開発推進協議会」を設立し、民間企業 10

社を主体としてスタートした。

また、燃料以外に、バイオマス由来の材料の開発にも着手している。最近は、バイオマス由来

であっても、既存材料に対するコスト競争力が重要視されている。そのためには、精製工程の簡

素化がキーポイントとなる。バイオマスのメリットを生かした特性を持つ材料の開発が重要であ

る。

②外部との提携

共同研究は、過去にマイクロアルジェ等いくつかのベンチャー企業と実施してきたが、現在提

携しているのはマイクロ波化学のみである。マイクロ波は、選択的反応を実現できる特徴があり、

そこを生かして、プロセスの簡素化に期待している。

良い藻を持っているので、それを生かした提携が基本である。また、藻類からの後工程は共同

研究先が担当している。

③バイオマスベンチャーに対する考え方

良い技術、材料を提案してくれるところと提携する方針であり、特に、ベンチャーにはこだわ

らない。大学との共同研究も推進しており、開発のステージに応じて、提携先は変更する。

バイオマスから芳香核を合成するのは大きなテーマと考えている。

④将来計画

情報収集を重視しており、アメリカにも技術情報の収集拠点を設けている。

先端研究は、大学との関係を重視しており、Give & Take の「オープン戦略」を基本としてい

る。

事業化の出口は、日本を基本とし、「微細藻燃料開発推進協議会」に表れているように、フレッ

キシブルな対応を考えている。例えば、世界のジェット燃料の製造には九州と四国を合わせた面

積が要る等、立地問題は厳しい点もあるが、微細藻類にとっては日本は光も少なくない。また、

炭酸泉も原料となりうると考えている。

材料技術部では、バイオマスの活用に関して、2020 年に 100%バイオ化のめどをつける目標を

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持っている。国家プロジェクトの活用も考えている。ここでも、ベンチャーに限らず良い材料を

提供してくれるところと提携する方針である。

⑤その他

微細藻類の研究に着手した時、海洋バイオテクノロジー研究所と接触があり、そこから人材を

獲得できて、当該分野の研究者のネットワークに入れたことは開発の進展に大きな効果があった。

微細藻からのエネルギー開発のきっかけは、京都議定書の CO2 削減である。トップが CO2 削

減技術の開発を言い出し、研究者からの提案を検討し、決定された。

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(2) 海外のバイオマスベンチャー提携企業のビジネス戦略に関するヒアリング

海外企業でバイオマスベンチャーと提携を行っている企業としてデュポンのヒアリング調査を

実施した。

(a) デュポンヒアリング調査結果

1.日 時: 2012 年 12 月 6 日 13:00~14:00

2.場 所: デュポン本社(千代田区永田町 2-11-1 山王パークタワー)

3.ヒアリング先: インダストリアルバイオサイエンス事業部 マネージャー 賀来 群雄 氏

4.内 容:

①バイオマス活用の基本方針

デュポンは、事業を戦略的に展開する会社である。石油危機を受けて、1980 年代には、多くの

製品の原料として不可欠な石油確保のために、石油企業のコノコを買収した(その後、企業文化

の違い等もあり、売却)。

1990 年代には、大腸菌を使ってポリエステルの主原料である 1,3 プロパンジオール(PDO)

を製造する手法の特許を取得し、ポスト石油時代に備えて、バイオマスの活用に大きく戦略転換

した。石油は、将来いつかは枯渇するという判断でバイオマスを原料とした化学を目指している。

ダウケミカルは、石油あるいはシェールガスか使える間は石油化学でやっていくという考えのよ

うだ。

石油は価格が乱高下するが、バイオマスは安定しているのも利点である。

さらに、収益が上がっていても、将来の成長が望めない(と判断した)事業は売却し、食糧・ア

グリビジネスに集中し、さらに、工業バイオにも力を入れている。

1999 年、デュポンはパイオニア・ハイブレッド・インターナショナル社を買収。この会社の種

子の 7 割近くは、遺伝子組み替えにより害虫や雑草への耐性を向上させたものである。種子ビジ

ネスは成功している。

デュポンは、非可食のセルロースからの燃料にも注力している。化学原料よりも燃料を目的に、

トウモロコシの芯等セルロースからのエタノール製造にも世界で初めて成功している。

②提携相手の有無と提携内容

バイオマスの活用にあたっては、プロセスのトータルを持つ戦略であり、特に、「バイオマスの

確保」と「酵素」の確保に注力している。そのあとのプロセスは、既存の技術である。

「バイオマスの確保」は、エネルギー・クロップにも取り組んでいる。

「酵素」は、優れた技術を持つジェネンコア(ダニスコ)を買収した。これにより、非可食のセ

ルロースからの燃料合成への技術ベースが確立した。

③バイオマスベンチャーに対する考え方

バイオマスベンチャーとの提携にはこだわっていない。州、国、大学とは、良いテーマがあれ

ば、提携に前向きである。

④将来計画における提携の位置づけ

なし

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⑤その他

バイオマスのガス化、触媒反応には取り組んでいない。

大腸菌を使って、バイオマスからポリエステルの主原料である 1,3 プロパンジオール(PDO)

を製造する技術は大きな成果であり、7 万トン/年の規模に達している。石油に比べて、バイオ

マス原料の価格は安定しており、PDO は価格競争力もある。クラッキングでは偶数個のジオール

が主にできるが、C3 は作りにくい。また、奇数個のジオールからのポリエステルは、特徴のあ

るプラスチックであり、新機能発現の観点から取り組んでいる。

価格は変動するものであり、石油からのプラスチックから 1.2 倍までの価格なら売れるという

立場は取っていない。高価なブラスケムのバイオポリエチレンを買っているのは日本企業だけで

ある。日本には優秀な材料加工メーカーと自動車などの最終ユーザーがあるので、バイオマス由

来化学品を活かす素地がある。

アメリカのバイオマスベンチャーは、戦略的、技術的にしっかりしている。日本は、バイオ関

係の優秀な人材を受け入れる企業が少ないことが大きな問題と認識している。

中東などの安価な随伴ガスを利用するか、バイオマスを利用するかは、戦略のベースとなるタ

イムスパンの考え方に依存する。これが、デュポンとダウの戦略の差になっている。

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(3) 米国バイオマスベンチャーのヒアリング調査

日本および海外の大手企業のバイオマスベンチャー活用法を公開資料から分析することは難し

いことから、米国バイオマスベンチャーが実用化に向けたメーカーなどの企業との提携をどのよ

うに進めているかという調査を通じて、間接的にメーカー側の戦略を分析した。具体的には、化

学企業や石油化学企業、さらにはユーザーである一般消費材メーカー、自動車メーカーなどと多

数の提携を行っている米国のバイオマスベンチャーにヒアリングを実施した。

表 2-2-6 にヒアリング調査を行った米国バイオマスベンチャーを示した(なお、ヒアリング調

査の依頼は 12 社に行った)。

表 2-2-6 ヒアリング調査を実施した米国バイオマスベンチャー

ベンチャー企業 研究開発内容

a Myriant Technologies 乳酸、コハク酸などの化学品生産

b Gevo Inc. イソブタノールを始めとした化学品の微生物生産

c Enerkem Inc. 熱分解による廃棄物などのセルロース系エタノールの商業化

d Elevance Renewable

Sciences, Inc.

植物油を原料としたスペシャルティポリマー開発

e Agrivida, Inc. 植物の遺伝子操作による植物の前処理技術

f Purevision Technology,

Inc.

木材などからの糖の生産

参考のため、ヒアリングを行った米国バイオマスベンチャーの所在地を図 2-2-1 に示した。

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図 2-2-1 ヒアリング調査を行った米国バイオマスベンチャーの所在地

Agrivida

Gevo

Enerkem

Elevance

Purevision

Myriant

熱分解 前処理 発酵生産 触媒反応

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(a) Myriantヒアリング結果

1.日 時:2012 年 12 月 17 日(月)13:00~14:30

2.場 所:Myriant Corporation

1 Pine Hill Drive Batterymarch Park II, Suite 301 Quincy, MA 01269-4801

3.インタビュー先:

Mr. Alif Saleh, Vice Presidet, Sales and Marketing

Mr. Stephen J. Gatto, Chairman & Chief Exective Officer

Cenan Ozmeral, Ph. D., Exective Vice President & Chief Operating Officer

Mr. Arne Duss, SVP Strategy & Corporate Development

4.内 容:

①Myriant の技術

・微生物によるバイオマスからの化学品生産を行っている。

・コハク酸、乳酸、アクリル酸、ムコン酸、フマル酸が現在の対象である。

・コハク酸は商業化目前である。

・乳酸はライセンスアウトした。乳酸は失敗例である。月島と共同開発もしたが、コストのあう

プロセスにはならない。

・MMA も生産できる。

・現在は糖を原料としているが、5年程度でセルロースに原料転換ができると考えている。糖化

の技術はまだなく、コハク酸などを商業化するためには原料の安定供給という点から糖を使って

いる。自社でも研究しているが、デュポンなどが糖化技術を開発すればそれを使うことも考えて

いる。

②ビジネス戦略

・乳酸は PULAC にライセンスアウトしたが、基本はライセンスではなく、提携先と生産設備を

作って化学品を販売する。

・バイオ燃料ではなく化学基礎品をターゲットにしている。

・石油の使用状況を見ると、使用量は圧倒的に燃料だが、金額でみると化学基礎品の割合が高い。

すなわち高付加価値製品である。

・ドイツの Uhde は大きなパートナーである。Uhde はコハク酸を石油から生産している。Uhde

にとっても Myriant の技術を導入することでコストダウンンを図れる。

・タイの PTT も大きなパートナーである。コハク酸生産設備に必要な資金を投資し、将来アジア

地域でジョイントベンチャーを作ることも考えている。PTT はアジアで最大のグリーケミカルメ

ーカーになろうとしている。

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・Daylee も大きなパートナー。コハク酸からブタンジオールを生産しているが、Myriant のプロ

セスを採用することでコストダウンができ、お互いにメリットがある。

・日本の双日を通して、日本の化学企業を訪問した。

③その他

ア) バイオマスからの化学品生産のコストについて

・「日本ではバイオマスを原料とした化学品はコストが高いという認識がある。住友化学などは原

料の安いサウジアラビアに生産拠点を作っている。」という質問に対して、「バイオマス由来化学

品のコストが高いというのは間違いである。Myriant のプロセスでは、石油クラッキングよりも

コストが安くなる。」という答えであった。

・他のバイオマスベンチャーは、例えば発酵工程だけのコストの話をするが、精製も含めたトー

タルコストの話をする必要がある。

・Myriant は、発酵工程のチームとエンジニアリングのチーム、マーケティングのチームを編成

し、トータルのコストダウンを図っている。

・Genomatica は、発酵技術を提供しているが、実際の生産はしていない。Genomatica 方法は 2

段階プロセスだが、Myriant は1段で行う。コストに占める原料費が安い理由は、収率が高いた

めである。収率とは、精製も含めた収率であり、段数が多くなればどんどん収率が下がる。

・Bioamber の現行プロセスは大腸菌を用いており、よりコストの安い酵母のプロセスはできて

いない。

・コハク酸はもうすぐ商業化する。

・日本でバイオマスを原料とした化学品生産はありえない。タイなどで行う必要がある。

・Myriant は唯一製品の性能保証をしている。Genomatica や Bioamber は製品の保証はしてい

ない。

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(b) Gevoヒアリング結果

1.日 時:2012 年 12 月 18 日(火) 11:00~12:00

2.場 所:Gevo

345 Inverness Drive South Building C Suite 310 Engle wood, CO 80112

3:インタビュー先:

Tom Taylor, Ph. D., Applications Chemist

Jonathan O. Smith, Ph. D., Director Chemical Development

Mr. Bob Bernancki, Vice President Business Development

4.内 容:

①Gevo の技術

・Gevo は、糖からの iso-butanol 生産技術の開発を行っている。

・代謝工学と iso-butanol の分離技術を有する。

・C5、C6 を酵母で iso-butanol に変換する。

・加水分解が重要である。

・変換効率が非常に高いことが低コストで生産できる要因である。

・GIFT という分離技術もコストダウンの要素の一つ。

・GIFT は液-液分離の後に蒸留を行うもの。

・400 の特許を出願している。

・まだ、予測値だが石油から作るよりも安くできる。

・石油由来の iso-butanol 価格は、変動はあるが上昇傾向にあり、バイオ由来の iso-butanol との

価格差は年々開いてきており、今後もこの傾向が続くと考えている。

・初期投資については、既存のエタノール生産設備をほとんどそのまま転用するため、費用がか

からない。GITF を付加する。これも固定費が低い要因の一つである。

・原料の糖をトウモロコシから得るが、残渣を飼料として活用することで原料費を安くすること

ができる。糖の供給者と共同で検討している。

・当初は燃料をターゲットにしていたが、現在は化学品生産を重視するようになってきた。

②ビジネス戦略

・ビジネスモデルは、糖からの燃料を含む化学品の生産・供給である。単なる技術ライセンスで

はない。

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・7 つの市場をターゲットにしている。

・ジェット燃料が一つのターゲットであり、軍に供給契約をしている。

・燃料については、distribution agreement を結んでいる。

・バイオマスからのゴム生産については、ドイツの Lanxess と共同で検討をしている。

・コカコーラは、Bio-PX 開発に多額の投資をしてくれている。

・原料のあるところに設備を作る。より具体的には、すでにエタノールプラントがあるところで

iso-butanol を生産する。

・ポリマーを生産する場合にも立地が重要で、東南アジアでの生産を考えている。

・具体的にはマレーシアで検討を開始している。キャッサバ?を原料にする。

③その他

・当初は、燃料を第一のターゲットとしていたが、現在は、化学品生産に重点が移ってきている。

・Nature Works で働いていた人を雇用して体制を強化している。

・C4 を MMA にする技術も開発している。

・シェールガス革命は、バイオ iso-butanol にとっては追い風である。石油精製からは iso-butene

画分が多く取れるが、天然ガスからとれる割合は低い。石油を使わずに天然ガスを大量に使うよ

うになると iso-butene が不足するようになる。

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(c) Enerkemヒアリング調査結果

1.日 時:2012 年 12 月 13 日(金)14:00~15:00

2.場 所:Rose Wood Court(貸し会議室)

2101 Ceder Springs Road Suite 1050 in Dallas

3.ヒアリング先:Emerkem

Mr. S. Sam Park, Vice President, Strategic Initiatives-Asia

4.内容

①Enerkem の技術

・Enerkem の技術は、セルロース系の都市ゴミを熱分解して一酸化炭素と水素を発生させ(合

成ガス)、メタノールを生産する。その後、化学反応によってエタノールを生産する。

・最初は電柱をエタノールにすることから始めた。電柱には有害物質(コールタールのことか)

が含まれているので埋め立てするしかなかった。

・都市廃棄物だけでなく、セルロース系の廃棄物を原料とすることができる。

・合成ガスからメタノールを生産する技術は歴史のある技術であり、Enerkem の出資会社の一

つである Celanese は石炭のガス化(合成ガス)からメタノールを生産している。

・Celanese は、メタノールから酢酸を生産しているが、Enerkem は酢酸メチルを生産すること

を考えている。

注:Mr. S. Sam Park は、元 Celanese の社員で定年後 Enerkem に参加した。専門は経理。

・エタノールから川下の化学品を生産することは既存の技術で対応できる。

・現在、カナダのエドモントンでデモンストレーションプラントを稼働しており、できたメタノ

ールは、提携先の燃料会社 Methanex Corporation に販売している。しかし、現在建設中のミシ

シッピー州の商業プラントが完成した後は、Methanex Corporation からメタノールを買い戻し

てエタノールを生産する契約になっている。

・Enerkem は、化学会社かエンジニアリング会社かという質問に対しては、最初は廃棄物処理

業者でありエンジニアリング会社であったが、最近社員の意識を変えるようにした。すなわち、

化学プロセスの運転サービス会社であると定義している。

・ジェット燃料が近い将来の対象の一つである。ジェット燃料は欧州委員会の地球温暖化対策の

一つとしてバイオ燃料の導入を規定している。また IATA(国際航空運送協会)もジェット燃料

の一部をバイオ燃料にする方針を打ち出している。

・ジェット燃料の課題はコストである。エタノール 3 ㎏からジェット燃料が 1kg できる。エタノ

ールの価格が 165 ドル/トンであり、その 3 倍は 495 ドル/トンであるのに対して、現在の方法

によるジェット燃料は 200 ドル/トンになっている。

・日本では、月島機械が住宅廃材からエタノールを生産するプロジェクト(希酸-発酵法)を行っ

たり、米などからエタノールを生産したりすることが検討されているが、いずれもコストが高い

ことが課題となっている。ブラジルから輸入したほうが良いと言っている人もいるという質問に

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対しては、以下のコメントがあった。

・ブラジルの糖蜜からのエタノールは 200 ドル/トン程度である。輸入に関連したコストも考慮

すると日本での価格は 700 ドル/トンになると考えられる。これに対して Enerkem の方法では

500 ドル/トンで生産できる。

・ダウは、バイオマス原料からの化学品生産の部隊を作ってブラジルのサトウキビからのオレフ

ィン生産などを積極的に行っている。ダウがプラスチックの 10%をバイオ由来にするように政府

に働きかけることはない話ではない。

②ビジネス戦略

・自社でエタノールを生産し、市場に供給することを考えている。エタノールの販売経路は確立

しており、販売には問題がないと考えている。

・燃料会社との提携を始めている。

・課題は、エタノールの川下の化学品である。良い提携先を探索している。

③その他

・今回の調査の目的の一つは、日本企業が提携できるバイオマスベンチャーのスクリーニングで

あるが、出遅れてしまっているのではないかという質問に対しては、2 年前ではまだ実用化の可

能性がはっきりしなかったので、お金の無駄遣いになっていたと思う。いいタイミングなのでは

ないかということであった。

・Chevron や Total といった大手の石油会社は、彼らにとっては少額の、ベンチャーにとっては

多額の費用を多くのベンチャーに投資して良い技術が開発できたら取り込むという戦略をとって

いるようだがという質問に対しては、以下の回答であった。そのとおりであり、Enerkem の出

資会社の一つである石油会社もベンチャー8 社に投資している。同じような技術、分野に複数投

資している。

・バイオマス、特に都市廃棄物の利用については地方政府との提携が重要だと思う。地方政府は

雇用創出などを期待しているのかという質問に対しては、雇用創出が地方政府の目的ではない。

バイオエタノールの実証が目的である。ミシシッピー州の商業プラントはエネルギー省と農業省

から無償資金などを得ているが、これも実証が目的である。特に E10 から E15 が注目されてい

る。

・シュールガスやシェールオイルが注目されるようになってきているがどう思うかという質問に

対しては、確かにこうした燃料で十分なのでバイオ燃料はいらないのではないかという意見があ

る。しかし、自動車の排気ガス対策のためにガソリンへの炭化水素の添加、たとえば ETBE やエ

タノールの添加は必要であるので、需要はあると考えているということであった。

・ちなみに ETBE については米国だけが使える状況にある。日本が ETBE の導入に熱心である

ことは大変奇異な印象を受けるということだった。

・製鉄所の排ガス(一酸化炭素)を使って微生物でメタノールを生産する技術を開発している会

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社がある。いわゆる燃料のサプライチェーンから外れた会社に廃棄物処理から廃棄物の有効利用

というメリットを謳ったビジネスモデルの提供だがどう思うかという質問に対しては、よく知っ

ている。大変興味あるビジネスモデルである。コーキングから発生する一酸化炭素の利用は

Enerkem の検討課題の一つである。ただ、今は他の優先事項があるので手を付けることができ

ない。課題は、水素と一酸化炭素のバランスである。

・製鉄所などの排ガスや都市ゴミなどは将来も原料の安定供給元である。石油からの化学品生産

は原油価格の乱高下から製品価格も変動幅が大きいが、都市ゴミなどからの化学品は価格が安定

していることが利点となる。

・Enerkem の海外との提携に関しては、北東アジア、東南アジア、南アジアの順番である。

・北東アジアは、中国、韓国、日本の順である。

・中国に関しては、近いうちに大きな発表がある。

・日本には具体的な提携さきはまだない。メタノールを生産・販売している会社、たとえば三菱

化学などとは提携しやすいと思う。

・東南アジアとの提携は、ライセンスが主になる。

・日本ではバイオマスベンチャーが少ないこともあり、化学会社は米国のベンチャーも含めてベ

ンチャーとの提携をあまり行っていないがという質問に対しては、米国の方がベンチャーを立ち

上げやすい。エンジェルやベンチャーキャピタルからの出資を得やすい。また、日本企業は自前

で開発をする傾向がある。米国では、化学会社は基礎の基礎と応用はやるが、基礎研究はやらず

にベンチャーにやらせている。その違いではないかということであった。

注:Park 氏は日本に頻繁に出張しており、日本の状況を十分に把握しているようである。

・日本の化学会社の最大の顧客は自動車会社などであり、バイオ由来の基礎化学品ではなく、プ

ラスチックが求められている。もちろん、基礎化学品からプラスチックを作る技術は日本の化学

会社は持っているが、Enerkem はどのように関与できるのかという質問に対しては、まさに、

川下の化学会社との提携を模索しているところであるという答えであった。

・日本では、廃棄物は焼却が主だが、いくつかの障害を克服できれば急速に導入が進むと考える。

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(d) Elevance Renewable Sciencesヒアリング調査結果

1.日 時:2012 年 12 月 21 日

2.場 所:Elevance Renewable Sciences

2501 Davey Road Woodridge, Illinois 60517

3.ヒアリング先:Mr. Andrew L. Shafer

Executive Vice President, Sales & Market Development

4.内 容:

①Elevance の概要

・Elevance は、5 年前に設立された会社で、初めはカーギルの中にいた。1 年半前に新しいビル

に移った。短時間の見学をしたが、平屋の広大なビルで、複数の触媒開発の部屋、メタセシス反

応の実験室(パイロットプラントと呼んでいた)、分析の部屋などがあった。空室もあった。また、

プロセス設計担当の部屋やアドミの部屋、テクニカルサービスの部屋、マーケティングの部屋な

どがあり、空席もあった。

・従業員は 140 人。

②Elevance の技術

・メタセシス反応によって植物油を分解してスペシャルティ化学品とオレフィン、Oleochemicals

の 3 つを生産する。

・メタセシス反応というと、化学合成による低分子化合物の置換基交換をイメージするが、

Elevance の場合は、末端から 9 番目の炭素の二重結合を 1-ブテンとメタセシス反応をさせるこ

とによって、1-decene(オレフィン)と C9 エステル(スペシャルティ化学品)にする。

・1-decene はヘルスケアに利用される。

・植物油の種類によって、オレフィンとエステルの割合が違う。

・低温、低圧プロセスであり、必要なオレフィンを分離した残渣は反応器に戻して再度反応させ

る。こうすることによって転換率を高めることができ、一層の低コスト化が図れる。

・原料は植物油であり、カーギルなどから購入している。他のいくつかのベンチャーのように植

物油の搾りカスを飼料に使うことでトータルコストを下げるということはない。

・将来の重要な原料として藻類を想定している。現在は植物油を使っているので、C9 化合物で

あるが、藻類を原料にするともっと低分子化合物を生産でき、用途が広がると考えている。

②ビジネス戦略

・Willmar と 50:50 のジョイントベンチャーを作り、インドネシアに商業化プラントを建設し

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た。これが最初の商業化プラント。

・Willmar は油会社。

・パーム油を原料としている。

・Elevance は、スペシャルティ化学品を担当する。

・インドネシアを初めとして、欧州、南アフリカでの生産を検討している。もちろん単独ではな

く、油会社と共同した生産設備建設を考えている。

・バイオマスの輸送は嵩高であり、経済的にありえないが、油にしてしまえば経済的にありうる。

・2 番目の商業化プラントはミシシッピー州に建設中。

・スペシャルティ化学品としては、C9 化合物。一つの分子の中にエステル部位とオレフィン部

位を持っていることが特徴。潤滑剤や界面活性剤として良い性能を発揮する。家庭用洗浄剤メー

カーの Stepan と洗浄剤の開発を行っており、商業化を目指している。

・この C9 化合物は、化学合成が難しいので、石油由来化合物から生産しようとすると非常にコ

ストが高かった。デュポンの 1,3-BD と似た状況。

・2 分子の C9 化合物を反応させると C18 の化合物になり、エンジニアリングプラスチック(エ

ポキシ樹脂)や接着剤などへの応用ができる。C18 モノマーのような長鎖モノマーは化学的に合

成が難しく、特徴的な性能があれば、用途が広がる。

・Elevance は、あくまでもスペシャルティ化学品を自ら生産し、顧客に供給することを目指して

いる。技術提供ではない。

③その他

・「日本ではグリーン化学品は、コスト競争力がなくグリーンボーナスに頼るしかないという意見

が多い」という質問に対しては、「Elevance の基本的な考えは、機能が第1、2 番目がコスト、3

番目がグリーンボーナスである」という答えであった。

・化学会社などとの提携については、ベンチャーから大企業に働きかけることもあり、大企業か

ら問い合わせがあることもあり、両方があるということだった。

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(e) Agrividaヒアリングメモ

1.日 時:2012 年 12 月 20 日 14:00~15:00

2.場 所:Agrivida

200 Boston Avenue, Suite 3100 Medford, MA 02115

3.インタビュー先:

Dr. Michael Raab(President)

Mr. David Agneta(Vice president, business development)

Mr. Karl Ruping(inkTank, Managing Partner & Founder)

注:Mr. Ruping は、東大に留学していたことがあり、先端研で TLO 設立にも関与していたそ

うである。inkTank はベンチャー東京に事務所があり塚越氏が担当している)

4.内 容:

①Agrivida の概要

・Agrivida は、酵素の発現のスイッチとなる遺伝子操作技術によって、セルロース系バイオマス

の前処理システムを開発している。

・従業員数は 45 人。

①Agrivida の技術

・酵素の発現を制御する遺伝子制御技術を基礎としている。intein を酵素に挿入する。たとえば

70℃でスイッチがオン-オフするようにすることができる。

・植物の細胞壁分解酵素に intein を挿入しておく。通常の遺伝子操作では、植物の生育を阻害し

たりしてしまうが、Agrivida の技術では、植物の生育に全く影響を与えない。収穫後に 70℃

の条件におくと細胞壁分解酵素が働き、分解が始まる。

・400 の intein がある。現在は cis が中心だが、今後は trans が重要となる。

・穀物の細胞壁に intein が挿入された分解酵素(キシラナーゼ)を発現させておくことで、0.22

ドル/kg 糖のコストで糖を生産することができる。

・ブラジルのサトウキビからの糖生産コストは 0.44 ドル/kg。これに対して Agrivida は 0.26

を達成している。目標は 0.18

・コーンストーバーでも 0.37 でできると考えている。POET と共同で開発している。

・茎や葉などにも分解酵素を導入できる。サトウキビの場合には穂の部分と葉を畑で取り除き、

茎の部分だけを工場に持ってきて砂糖を生産している。畑に残されるバイオマスは3分の1に

もなる。これを有効利用できれば、糖の生産コストをさらに低くできる。

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②ビジネス戦略

・ビジネスは次の3分野である。

1) 超安価な糖の生産:バイオマスから 0.18 ドル/kg で糖を生産する

2) 工業用酵素

3) 動物用飼料

・Genomatica や Gevo などと共同研究を行っている。

・糖を利用する多数の川下企業との提携がビジネスモデルである。

・技術を最初にライセンスしたのは、日本の会社である。

・商社とも接触している。

・遺伝子組み換え植物であるが、すでに USDA の認可のもとにフィールド試験を 2 か所で行って

いる。

・日本では、組み換え植物に対する規制が厳しいことは承知している。しかし、日本でバイオマ

スからの糖生産をすることは考えにくい。南米やアジアなどバイオマスの豊富な場所での生産

になると考えている。

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(f) PureVision Technology ヒアリング調査結果

1.日 時:2012 年 12 月 18 日(火)14:00~15:10

2.場 所:PureVision Technology, Inc.

511 McKinley Avenue Fort Lupton, CO 80621

3.出席者:Mr. Ed Lehrburger, President & CEO

Chim Chin, PhD., PureVision’s Director of Process Development

他 1 名

4.内 容:

①Purevision の概要

・バイオマスの糖化が守備範囲。

・ただし、単なるバイオマスの前処理ではなく、バイオマスからの糖の直接生産である。

・従業員は 17 人。

・会社は 10 年以上の歴史があるが、現在の溶剤を使ったバイオマスの糖化の技術開発は 4 年前

から開始した。

②Purevision の技術

・バイオマスの糖化は、バイオマスの粉砕・微粒子化、アンモニア処理、酸処理(低分子化)、発

酵と多段の工程が必要だったが、PureVision の方式では、バイオマスをスクリューで押し出す

ときに、逆方向から溶剤を流すことで、1 段でバイオマスを糖化まで持っていく。

・バイオマスを微粒子化する必要はない。

・アンモニア処理も必要ないので、コストを低くできる。

・温度も低温でよい。

・圧力も低い。超臨界が 2000psi であるのに対して 60~80psi でよい。

・反応時間は 20 分である。超臨界は数秒で反応するが、逆に制御が難しい。20 分の反応時間は

制御しやすい。

・バイオマスに含まれる発酵阻害物質も必要に応じて分離、除去できる。

・リグニンは固液分離で分けることができる。

・溶剤は、水が主体で酸と若干の薬剤を加えている。溶剤はリサイクル可能である。したがって、

廃液も少ないため廃液処理も不要か、必要でも小さなもので十分である。

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・従来のバイオマスの糖化は、酵素タンクで液を循環して 30 日を要していたが、PureVision の

方法では 7 日で完了する。

・2013 年(2 月?)には 300 ㎏/日の生産ができるようになり、サンプル提供ができるようにな

る。2014 年には 15,000kg/日にする予定である。

・コストは 20 セント/ポンドを想定している。パイロットプラントの成績では 33 セント/ポン

ドを達成している。将来は 10 セント/ポンドを達成できると考えている。

③ビジネス戦略

・ビジネスモデルとしては、川下企業との共同開発、技術ライセンスが中心である。

・多数の化学会社、世界の 100 位以内の日本の化学会社なども接触してきている。

・Gevo とも緊密な関係を持っている。

・PureVision の守備範囲はバイオマスを糖にするところであり、そのあとの発酵や化学変換の技

術を持つ企業との提携が必要である。

・例えば、PureVision と Gevo、日本の化学会社という組み合わせもある。

・パイロットプラント(米国のこの分野でのパイロットプラントとは実験室の数リットル規模の

反応装置を指すようである)で技術の実証をしているが、糖を生産・販売するという商業化プ

ラントの建設は視野に入っていないようである。

④その他

・C5 と C6 の分離が必要だという企業もあり、分離できるがコストが高くなる。C5 も C6 も利

用できる菌があり(たとえば Gevo)分離は必要ない。

・現在は、糖を得ることが目的だが、フルフラールが重要であれば、分解をさらに進めることで

対応可能である。

・リグニンの分離は、積極的には行っていないが、自動車の軽量化にはリグニン樹脂が重要であ

る。

・さまざまなバイオマスに対応できる。例えばアジアであればパームヤシの幹などでも可能であ

る。

・日本では、間伐材などの利用も考えられるが、山から運び出すコストがかかるので、実用化は

難しいと言ったところ、その通りだが、現地で糖にしてから運搬することができるというコメン

トだった。

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・日本では、製紙会社の生き残り戦術の一つとして、パルプを化学品生産の原料とするプロジェ

クトが行われていると言ったところ、パルプから糖を作るのは容易だというコメントだった。

・JACI との提携に関心を持っており、JACI を通じて企業との提携を持てないかという質問があ

った。これに対しては、個別企業と具体的案件について直接討議する方がよいのではないかとコ

メントしておいた。

・JACI には、化学会社だけでなく、自動車や電気・電子のユーザー企業が参加していることか

ら、窓口の役割を期待しているようである。

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(4) 国内外のヒアリング調査のまとめ

(a) バイオマス(糖)を原料とした化学品生産のコスト競争力

・従来、バイオマスを原料とした化学品は、「グリーンボーナス」、「グリーンプレミアム」といっ

た、環境にやさしいことを訴えることにより、石油由来化学品よりも高くても受け入れられるの

ではないかという議論がなされていた。

・しかし、特に米国における政府の資金援助などによる糖を原料とした化学品生産のパイロット

プラントでのデータの蓄積によって、精製工程まで含めたトータルコストで石油由来化学品と同

等あるいはより低コストで生産できることが分かってきたようである。

・さらに、原油の価格は今後も上昇傾向が続くと予想されること。それに加えて、価格の変動が

激しくなると考えられる。これに対して、米国のバイオマス(糖)の価格は安定しており、セル

ロースから糖が安定供給できるようになれば、さらなる価格安定も期待できる。

・こうした条件を総合的に考え、米国のバイオマスベンチャーは、糖を原料とした化学品生産の

早期の実用化を目指している。これを「ジャンプスタート」と呼んでいた。

・この考えは、バイオマスベンチャーからの一方的な考えではないことが、国内外の大手化学会

社がコストを評価した上での原料調達先に米国バイオマスベンチャーを選び始めていることによ

って裏付けられているようである。

(b) セルロースを原料とした化学品生産

・セルロースを糖に変換する技術としては、デュポンなどが開発している酵素法以外の技術も開

発されてきているが、実用化までにはまだ時間がかかる。

・現在、糖を原料として化学品生産を商業化しようとしているバイオマスベンチャーも、自らあ

るいは他のベンチャーと共同でセルロース系バイオマスの糖化の検討を行っているが、現時点で

安定して糖を大量に供給できるのは、トウモロコシなどの食糧由来のものである。

(c) バイオマスを原料とした化学品生産の立地

・米国は糖もセルロース系バイオマスも豊富にあり、米国でのバイオマスを原料とした化学品生

産は実現可能性がある。

・その他、南米やアジアなどバイオマスの豊富にある地域が化学品生産の立地に適している。

・バイオマスは一般に嵩高いので輸送することは現実的でない。しかし、バイオマスが豊富にあ

る場所で化学品を生産して輸入することは不可能ではない。

(e) 燃料と化学品

バイオマスの利用は、バイオエタノールに代表されるように燃料生産を目標とすることが多か

った。しかし、石油由来の燃料に比べて、バイオマス由来燃料の量的な割合には自ら限界があり、

価格も比較的安い。これに対して化学品生産に必要なバイオマス量を確保することは可能であり、

価格も比較的高く設定することができる。

・米国のバイオマスベンチャーの中には、当初燃料生産を目指していたが、化学品生産に重点を

移しつつあるものもあり、化学品生産を中心に考えているものもでてきている。

(d) バイオマスを原料とした化学品の品質

・バイオマスを原料としたコハク酸については、Myriant が品質保証を行っており、用途に合わ

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せた品質が確保できるようになってきている。

(e) バイオマスベンチャーと提携企業との関係

・コストデータの開示や品質保証などが行われるようになって、従来のバイオマスベンチャーの

技術力を活用する提携以外に、バイオマスベンチャーをポリマー原料の調達先と考える企業が出

てきている。

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2-2-2 バイオマスベンチャーと提携している企業の戦略に関する分析

ベンチャー企業との提携を行っている国内外の企業の戦略を公開資料、特許の出願状況などか

ら分析した。

(1) 三菱化学のバイオマス由来製品開発の戦略とベンチャー企業との提携に関する分析

(a) グリーンポリマーの提唱

三菱化学は、2002 年頃からグリーンポリマー(再生可能資源から作られる生分解性ポリマー)

という考え方を提唱しており、2003 年に脂肪族ポリエステル樹脂「GS Pla®」の市場導入を行っ

ている。この名称は Green Sustainable Plastic からつけられたもので、“地球環境の持続”と“プ

ラスチックなしでは考えられない我々の生活”を両立させたいという理想を表したものである。

「GS Pla」は、コハク酸と 1,4-ブタンジオールを主な原料とする脂肪族ポリエステル樹脂であ

る。「GS Pla」は土中等で微生物に代謝され水と二酸化炭素に分解する「生分解性」機能を有し

ている。「GS Pla」は日本バイオプラスチック協会でグリーンプラに認定をされている(認定番

号 A52201)。

(b) グリーンポリマーの原料のバイオマス化

三菱化学は,「GS Pla」の原料を石油資源から植物資源に転換する計画を進めている。その第 1

段階は、コハク酸を植物資源から発酵法により生産することである。プラスチック中の植物由来

原料の割合を示す指標として「植物度」があるが、コハク酸を発酵法によって得る段階で「GS Pla」

の植物度は日本バイオマスプラスチック協会の基準で 48.8wt%,炭素基準で 50.0wt%となる。

2009 年 9 月 28 日 にタイの PTT 社と、植物を原料とする生分解性樹脂に関する共同事業化の

検討を開始した。これは Gs Pla およびその原料となるバイオコハク酸の開発である。

2011 年4月には、バイオコハク酸の製品供給、研究開発及び製造について、BioAmber 社およ

び同社に既に出資している三井物産と提携した。

同じ 2011 年 4 月に「GS Pla」のもう一つの成分である 1,4-ブタンジオールについて豊富な実

績と特許をもつ Genomatica と戦略的提携を開始した。

(c) 植物由来製品開発の背景

一方、三菱化学は、植物由来エンジニアリングプラスチックとして自社開発のバイオポリカー

ボネートの商業化を目指しており、2009 年にポリカーボネート樹脂パイロットプラントの建設を

行っている。「DURABIO®」という名称でサンプル出荷を行っている。

こうした新製品開発の基礎には、ポリ乳酸を用いた製品開発(主に三菱樹脂が担当)の経験が

ある。

また、京都大学の研究開発コンソーシアムの成果として、セルロースナノファイバーを使った

複合材料の開発を行っている。

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(d) 特許出願状況から見た三菱化学のバイオマス由来製品開発の戦略とベンチャー起業との提携

GS Pla に関係する特許の出願状況を図 2-2-2 および図 2-2-3 に示した。

三菱化学は、GS Pla 開発のために微生物発酵によるジオール生産やコハク酸生産の研究を自社

で進めてきていたが、2011 年に米国のベンチャー企業である BioAmber、Genomatica との提携

を決定している。

これは、自社開発の利点と、ベンチャー企業活用の利点を総合的に評価した結果と推定され、

GS Pla の商業化に向けた戦略(内製か外部資源の活用か)の一端が垣間見られる。

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図 2-2-2 三菱化学の GS Pla開発に関する特許と外部との提携の推移

特開2006-328380 ポリエステルの製造方法(三菱化学)

特開2007-197654 ポリエステル及びその製造方法(三菱化学)

特開2008-94883 バイオマス資源由来ポリエステル製フィルム及びその製造方法(三菱化学)

特開2006-321994 ポリエステルの製造方法(三菱化学) 特開2006-321995 ポリエステルの製造方法(三菱化学)

特開2006-321996 ポリエステルの製造方法(三菱化学)

特開2006-321997 ポリエステルの製造方法(三菱化学)

特開2006-327188 ポリエステルペレットの貯蔵方法(三菱化学)

特開2006-328370 ポリエステルの製造方法(三菱化学)

特開2006-328371 ポリエステルの製造方法(三菱化学)

特開2006-328372 ポリエステルの製造方法(三菱化学) 特開2006-328373 ポリエステルの製造方法(三菱化学) 特開2006-328374 ポリエステルの製造方法(三菱化学)

特開2006-328375 ポリエステルの製造方法(三菱化学)

特開2006-328376 ポリエステルペレットの貯蔵方法(三菱化学)

特開2007-197652 ポリエステル及びその製造方法(三菱化学)

特開2008-94887 バイオマス資源由来ポリエステル製シート及びその製造方法(三菱化学)

特開2008-94888 ポリエステルの製造方法(三菱化学)

特開2008-239744 ポリエステル樹脂(三菱化学)

特開2008-291243 フラン構造を含む熱可塑性樹脂(三菱化学)

特開2008-291244 フラン構造を含むポリエステル樹脂の製造方法(三菱化学)

特開2012-214817 バイオマス資源由来ポリエステル製発泡体及びその製造方法(三菱化学)

特開2011-57972 食品包装用フィルム(三菱樹脂)

特開2011-57973 デスクマット(三菱樹脂)

特開2009-41036 バイオマス資源由来ポリエステル及びその製造方法(三菱化学)

特開2009-77719 ポリエステル及びその製造方法(三菱化学)

特開2009-79057 ポリエステル及びその製造方法(三菱化学)

特開2009-95347 ポリエステルの製造方法(三菱化学)

特開2009-215564 バイオマス資源由来ポリエステル及びその製造方法(三菱化学)

特開2009-221482 ポリエステル及びその製造方法(三菱化学)

特開2009-215565 ポリエステル及びその製造方法(三菱化学)

特開2008-94884 バイオマス資源由来ポリエステル製延伸フィルム及びその製造方法(三菱化学)

特開2008-94885 バイオマス資源由来ポリエステル製射出成形体及びその製造方法(三菱化学)

特開2008-94886 バイオマス資源由来ポリエステル製発泡体及びその製造方法(三菱化学)

特開2006-328377 ポリエステルペレットの貯蔵方法(三菱化学)

特開2007-197653 ポリエステルペレット及びその貯蔵方法(三菱化学)

WO2006/115226 バイオマス資源由来ポリエステル及びその製造方法(三菱化学)

特開2006-328378 ポリエステルの製造方法(三菱化学)

特開2006-328379 ポリエステルの製造方法(三菱化学)

特開2005-139287 ポリエステルの製造方法(三菱化学)

特開2011-219409 脂肪族ジカルボン酸の製造方法(三菱化学)

特開2012-259451 有機酸生産微生物の菌体の調製法及び有機酸の製造法(三菱化学)

特開2012-67629 有機酸生産菌及び有機酸の製造方法(三菱化学)

特開2012-180306 脂肪族ジカルボン酸結晶および脂肪族ジカルボン酸の製造方法(三菱化学)

特開2010-263887 コハク酸の製造方法(三菱化学)

特開2010-100617 コハク酸およびその製造方法(三菱化学)

特開特開2007-125030 ピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子組み換え菌体による有機酸の製造法(三菱化学)

特開特開2011-103782 非アミノ有機酸生産菌および非アミノ有機酸の製造方法(三菱化学)

特開2009-65972 コハク酸の製造方法(三菱化学)

特開2012-67627 非アミノ有機酸生産菌および非アミノ有機酸の製造方法(三菱化学)

特開2012-67624 非アミノ有機酸の製造方法(三菱化学)

特開2012-67623 非アミノ有機酸の製造方法(三菱化学)

特開2008-11714 コハク酸の製造方法(三菱化学)

特開2006-320208 コハク酸の製造方法(三菱化学)

特開2006-6344 有機酸の製造方法(三菱化学)

特開2005-168401 非アミノ有機酸の製造方法(三菱化学)

特開2005-95169 コハク酸の製造方法(三菱化学)

WO2007/099867 有機酸生産菌及び有機酸の製造法(三菱化学、味の素)

WO2007/046389 コハク酸の製造方法(味の素、三菱化学)

WO2005/113745 コハク酸生産菌及びコハク酸の製造方法(三菱化学、味の素)

WO2005/113744 コハク酸生産菌及びコハク酸の製造方法(味の素、三菱化学)

WO2005/030973 発酵液からのコハク酸の精製方法(味の素、三菱化学)

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

2002年頃からGS Plaを提唱

2009 年 9 月タイの PTTとバイオコハク酸開発

2011 年 4 月 Genomaticaと 1,4-ブタンジオール

2011年 4月 BioAmberとバイオコハク酸

2003 年に味の素とバイオコハク酸開発

2004~2006年 NEDO「バイオプロセス実用化開発」で味の素とコハク酸開発

モモノノママーー

ペペレレッットト

ポポリリエエスステテルル

成成形形製製品品

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図 2-2-3 その他の三菱化学のバイオマスを原料とした化学品に関する特許出願の推移

2002年~京都大学包括的産学提携アライアンス

2007年~2010年 NEDO「変性バイオナノファイバーの製造及び複合化技術開発」

特開2011-206020 N-アルキルコハク酸イミドの製造方法(三菱化学)

特開2011-182685 エタノール製造装置及びエタノールの製造方法(三菱化学エンジニアリング、雪国まいたけ)

特開2012-218369 熱収縮性積層フィルム(三菱樹脂)

特開2012-111172 熱収縮性積層フィルム(三菱樹脂)

特開2012-6211 熱収縮性積層フィルム、並びに該フィルムを用いた成形品、熱収縮性ラベル、及び該成形品を用いた、又は該ラベルを装着した容器(三菱樹脂)

WO2005/100543 L‐乳酸の製造方法(三菱化学フーズ、月島機械)

WO2008/129833 カード用コアシート(三菱樹脂)

特開2012-7052 熱収縮性フィルム、並びに該フィルムを用いた成形品、熱収縮性ラベル、及び該成形品を用いた、又は該ラベルを装着した容器(三菱樹脂)

特開2004-263180 射出成形体(三菱樹脂)

特開2005-23250 繊維強化成形体(三菱樹脂)

特開2006-182798 樹脂組成物(三菱樹脂)

特開2012-30547 生分解性樹脂積層体およびその製造方法(三菱化学)

特開2010-184966 熱可塑性樹脂組成物および樹脂成形品(テクノポリマー、三菱化学)

特開2010-214900 熱収縮性積層フィルム、該フィルムを用いた成形品およびラベル、ならびに、該成形品及び該ラベルを装着した容器(三菱樹脂)

特開 2009-161780 繊維強化成形体(三菱樹脂)

特開2009-235172 カード用樹脂組成物及びカード用シート(三菱樹脂)

特開2010-111094 複合フィルム、該フィルムを用いた深絞り包装用底材及び深絞り成形容器(三菱樹脂)

特開2006-206913 射出成形体とその製造方法、並びに、射出成形体に用いられるペレット(三菱樹脂)

特開 2006-232929 延伸フィルム(三菱樹脂)

特開2006-291214 射出成形体とその製造方法、並びに、射出成形体に用いられるペレット(三菱樹脂)

特開2007-160635 熱収縮性空孔含有フィルム、並びにこの熱収縮性空孔含有フィルムを用いた成形品、熱収縮性ラベル、及びこの成形品を用いた、又はこのラベルを装着した容器(三菱樹脂)

特開2007-161825 熱収縮性空孔含有フィルム、並びに該フィルムを用いた成形品、熱収縮性ラベル及び容器(三菱樹脂)

特開2012-201843 共重合ポリカーボネート(三菱化学)

特開2011-241277 共重合ポリカーボネート(三菱化学)

特開2011-127108 ポリカーボネート共重合体(三菱化学)

特開2011-132316 透明樹脂組成物及び透明樹脂成形品(三菱化学)

特開2011-132538 ポリカーボネートの製造方法およびポリカーボネート成形物(三菱化学)

特開2011-132539 ポリカーボネートの製造方法およびポリカーボネート成形物(三菱化学)

特開2009-144020 ポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法(三菱化学)

特開2009-161746 ポリカーボネートの製造方法およびポリカーボネート成形物(三菱化学)

特開2011-225554 ペンタメチレンジアミンの製造方法及びポリアミド樹脂の製造方法(三菱化学)

特開2010-275432 樹脂組成物(三菱化学)

特開2007-332353 ポリアミド樹脂(三菱化学)

特開2009-191156 ポリアミド樹脂及びポリアミド樹脂組成物(三菱化学)

特開2009-235352 ポリアミド樹脂組成物(三菱化学)

特開2006-348057 ポリアミド樹脂(三菱化学)

特開2007-84936 嵩高連続長繊維及びそれを用いて得られるカーペット類(三菱化学)

特開2007-138047 ポリアミドフィルム(三菱化学)

特開2011-225851 バイオマス資源由来ポリウレタン及びその製造方法(三菱化学)

WO2010/064652 アセトンからイソブチレンを製造する方法(北海道大学、三菱レイヨン)

特開2011-1559 繊維強化複合材料及びその製造方法並びに配線基板(京都大学、ローム、三菱化学、日立製作所、パイオニア、日本電信電話)

特開2007-291076 プロピレンの製造方法(三菱化学)

特開2009-299043 微細セルロース繊維分散液、高分子セルロース複合体及びセルロース繊維の解繊方法(三菱化学)

特開2010-180416 繊維強化複合材料及びその製造方法並びに配線基板(京都大学、ローム、三菱化学、日立製作所、パイオニア、日本電信電話)

特開2007-169491 フェノール系樹脂接着剤の製造方法(三菱化学)

特開2006-35647 透明積層体(京都大学、ローム、三菱化学、日立製作所、パイオニア、日本電信電話)

特開2008-24778 繊維複合材料及びその製造方法(ローム、三菱化学、日立製作所、パイオニア、日本電信電話、京都大学)

特開2008-242154 フレキシブル基板(京都大学、日本電信電話、パイオニア、日立製作所、三菱化学、ローム)

特開2006-208982 低熱膨張性光導波路フィルム(京都大学、日本電信電話、パイオニア、日立製作所、三菱化学、ローム)

特開2006-240295 繊維強化複合材料及びその製造方法(京都大学、ローム、三菱化学、日立製作所、パイオニア、日本電信電話)

特開2006-241450 繊維強化複合材料及びその製造方法並びに繊維強化複合材料製造用前駆体(京都大学、ローム、三菱化学、日立製作所、パイオニア、日本電信電話)

特開2007-51266 繊維強化複合材料及びその製造方法(京都大学、ローム、三菱化学、日立製作所、パイオニア、日本電信電話)

特開2007-146143 繊維強化複合樹脂組成物並びに接着剤及び封止剤(京都大学、ローム、三菱化学、日立製作所、パイオニア、日本電信電話)

特開2005-60680 繊維強化複合材料及びその製造方法並びに配線基板(京都大学、ローム、三菱化学、日立製作所、パイオニア、日本電信電話)

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

ポポリリ乳乳酸酸

ナナノノセセルルロローースス

ポポリリアアミミドド

ポポリリカカーーボボネネーートト

そそのの他他

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(2) 東レのバイオマス由来製品開発の戦略とベンチャー企業との提携に関する分析

(a) グリーンイノベーション事業拡大プロジェクト

東レは、「全ての事業戦略の軸足を地球環境におき、持続可能な低炭素社会の実現に向けて貢献

していく」という経営方針のもと、バイオマス由来ポリマーの研究・開発およびポリ乳酸を中心

としたバイオマス由来材料事業の拡大を推進している。

2011 年にスタートした新しい中期経営課題“プロジェクト AP-G 2013”で掲げる「グリーン

イノベーション事業拡大(GR)プロジェクト」においても、バイオマスポリマーの拡大を、中核を

成す重要な取り組みと位置付けている。

(b) ポリ乳酸を始めとした植物由来プラスチック開発の歴史

東レは、2008 年 10 月にキヤノンとポリ乳酸をベースとした難燃性バイオマスプラスチックを

オフィス用複合機の外装部品に導入するなどポリ乳酸の用途開発の歴史を持つ。

2009 年 7 月には、ポリ乳酸や植物由来ポリエステルを使用した環境配慮型繊維の自動車内装

用途に向けた本格展開を開始した。トヨタ自動車新型レクサスに搭載。

また、2010 年 12 月、ABS 樹脂“トヨラック”の環境配慮型グレードとして、ABS 樹脂に植

物由来のポリ乳酸(PLA)を少量配合した新グレード“エコトヨラック”EC75 の本格発売を開始

した。

さらに 2012 年 8 月には生分解性のある微多孔ポリ乳酸フィルムの開発に成功し、農業用マル

チフィルムや紙おむつ・生理用品などの生活資材向けの拡大を図っている。

同じく 2012 年 8 月に、植物由来のデンプンを原料とするポリ乳酸樹脂を 50%以上の高率で使

用した環境配慮型バイオマス樹脂製品“エコディア®”の「高植物度グレード」を販売開始した。

(c) バイオマスを原料としたポリエステルの開発

2011 年 6 月に、米国 Gevo と共同でバイオマスを原料としたポリエチレンテレフタレート

(PET)ポリマーの試作に成功したと発表した。Gevo がバイオマスを原料としたイソブタノー

ルから化学変換によって合成したパラキシレンを利用したもの。

次いで 2011 年 11 には、このバイオマス由来 PET の繊維の試作に成功している。

2012 年 6 月に、Gevo 社が建設を予定しているパイロットプラントで製造するバイオマス原料

由来のパラキシレンを一定量引取るオフテイク契約を締結した。

バイオマスを原料としたポリエステルについて、東レは、共同の技術開発からバイオマスベン

チャーとの提携を始め、原料調達先として提携をすることに進んでいる。

(d) その他のバイオマス由来ポリマー開発

2012 年 2 月に味の素と “バイオベースナイロン”の共同研究契約を締結した。味の素社が植

物原料から発酵技術により製造するアミノ酸・リジンを原料としたナイロン原料、ペンタン-1,5-

ジアミンを原料としてバイオベースナイロンを事業化するものである。

(e) その他のバイオリファイナリー研究開発

2009 年 2 月、民間 6 社で「バイオエタノール革新技術研究組合」を設立し、セルロース系バ

イオエタノールの一貫製造技術に関する研究開発を開始した。

2011 年 2 月には、セルロースから低コストで高品質な糖を得る「膜利用糖化プロセス」の開発

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に成功した。2009 年度 NEDO「バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発」(先導技術開発、

2 年間)の成果を活用した。

(f) 特許出願状況から見た東レのバイオマス由来製品開発の戦略とベンチャー起業との提携

図 2-2-4 に東レのバイオマス由来製品に関係する特許の出願状況を示した。

Gevo との提携に関連したポリエステルのバイオマス化に関する特許は、2009 年に集中してお

り、比較的新しい。Gevo との提携は 2011 年であり、三菱化学と違って、自社開発か、共同開発

かといった検討の結果というよりは、ポリエステル原料のバイオマス化の課題に対する最適な手

段としてバイオマスベンチャーの活用が採用されたという印象を受ける。

なお、Gevo との提携は 2012 年には原料調達先に移行している。

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図 2-2-4 東レのバイオマス由来プラスチック開発に関する特許の出願状況(1/2)

特開 2009-132094 天然繊維ボードの製造方法および天然繊維ボード

特開 2005-155001 繊維糸およびそれを用いた布帛

特開 2002-283312 板材及びその製造方法 東レ、鹿島建設、月島機械

特開 2002-155449 織 物

特開 2002-220719 ストレッチシャツ地

特開 2002-256698 型枠材及びその製造方法 東レ、鹿島建設、月島機械

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

特開 2007-131979 セルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸、その製造方法および渦流紡績糸を用いた布帛。

特開 2005-247911 熱可塑性セルロースエステル組成物の製造方法

特開 2005-272749 セルロース混合脂肪酸エステルの製造方法

特開 2005-273129 セルロース混合脂肪酸エステル組成物からなる繊維

特開 2005-344044 セルロース混合脂肪酸エステル組成物およびそれからなる成形物の製造方法

特開 2004-196931 溶融成形用熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれからなる繊維

特開 2004-196932 吸湿熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれから得られる繊維

特開 2004-196980 成形加工性に優れた熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれから得られる繊維

特開 2003-82160 熱可塑化セルロースエステル組成物およびそれからなる繊維

特開 2003-268692 生分解性合成繊維および湿式不織布

特開 2003-335898 熱可塑化セルロースカーバメート組成物およびそれからなる繊維

特開 2003-342416 熱可塑性セルロースアセテート組成物

特開 2004-10844 熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれからなる繊維

特開 2004-131670 溶融成形用熱可塑性セルロースアセテートプロピオネート組成物およびそれからなる繊維

特開 2004-182979 熱可塑性セルロースアセテートプロピオネート組成物およびそれからなる繊維

特開 2012-201697 ポリエステル組成物の製造方法およびフィルム

特開 2011-219736 ポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物およびそれからなる繊維

特開 2006-96845 ポリエステル組成物およびそれからなる繊維、フィルム

特開 2006-219514 柔軟性ポリエステル組成物

特開 2009-286743 ジオール化合物とその製造方法および樹脂

特開 2009-286744 ジオール化合物とその製造方法および樹脂

特開 2009-286726 ジオール化合物とその製造方法および樹脂

特開 2009-286727 ジオール化合物とその製造方法および樹脂

特開 2009-286728 ジオール化合物とその製造方法および樹脂

特開 2012-17325 フルフラールの製造方法およびその装置

特開 2009-286741 ヒドロキシカルボン酸化合物とその製造方法およびポリエステル樹脂

特開 2009-286742 ヒドロキシカルボン酸化合物とその製造方法およびポリエステル樹脂

特開 2008-208499 シート状物、及びその製造方法 特開 2009-144313

植物由来成分からなる合成皮革 東レコーテックス

特開 2009-149876 植物由来成分からなる透湿性ポリウレタン樹脂 東レコーテックス

特開 2009-150038 植物由来成分からなる合成皮革 東レコーテックス

特開 2009-155645 植物由来成分からなるホットメルト接着シートおよびテープ 東レコーテックス

特開 2009-161898 植物由来成分からなる手袋インサート 東レコーテックス

特開 2008-208498 シート状物及びシート状物の製造方法

WO2009/044875 植物由来成分からなる防水加工布帛 東レ、東レコーテックス

特開 2007-169868 ダストコントロールマット

セセルルロローースス繊繊維維

セセルルロローーススエエスステテルル

ジジカカルルボボンン酸酸かかららポポリリエエスステテルル

ポポリリウウレレタタンン

2002 年 NEDO「溶融紡糸により得ら

れる天然物由来新規繊維の研究」

2011年 6月

Gevo 社と共同で、完全バイオマス原料由

来ポリエチレンテレフタレート(PET)の

重合並びにフィルムの試作に成功

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図 2-2-4 東レのバイオマス由来プラスチック開発に関する特許の出願状況(21/2)

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

特開 2010-70701 ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品

特開 2010-222721 ポリアミドモノフィラメントおよびその用途 東レ・モノフィラメント

特開 2011-52034 難燃性ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品

特開 2006-137820 ポリアミド樹脂の製造方法およびポリアミド樹脂ならびにそれからなる成形体

特開 2004-204104 ポリアミド樹脂組成物および成形品

特開 2004-339505 ポリアミド樹脂組成物および成形品

特開 2004-35705 ポリアミド樹脂組成物、その製造方法及びそれからなる成形品 東レ、昭和丸筒

WO2009/119302 ポリアミド56フィラメント、およびそれを含有する繊維構造体、ならびにエアバッグ用基布

特開 2012-34690 変異型βグルコシダーゼ、バイオマス分解用酵素組成物および糖液の製造方法 東レ、産業技術総合研究所

特開 2012-110321 エタノールの製造方法

特開 2012-200182 バイオマスを原料とする発酵装置 白鶴酒造、東レ、三菱重工メカトロシステムズ

特開 2012-200183 バイオマスを原料とする糖液製造装置 白鶴酒造、東レ、三菱重工メカトロシステムズ

特開 2011-24501 糖液の製造方法 東レ、産業技術総合研究所

特開 2011-205987 キシロース糖液の製造方法

特開 2011-223975 糖液の製造方法及び製造装置

特開 2007-176873 樹脂原料の製造方法及び樹脂とその製造方法

WO2009/110374 多糖類系バイオマス由来化合物の製造方法

WO2010/067785 糖液の製造方法

特開 2002-223770 宿主およびカダベリンの製造方法

特開 2002-223771 カダベリンの製造方法

特開 2010-29119 D-乳酸の製造方法

特開 2010-229393 ポリ乳酸系フィルム

特開 2008-213461 ポリ乳酸系樹脂積層シートおよびそれからなる成形体

特開 2008-221504 積層シートおよびそれからなる成形体

特開 2009-142210 連続発酵による乳酸の製造方法

特開 2009-262465 ポリ乳酸系樹脂積層シート

特開 2007-74939 D-乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチド、これをコードする遺伝子およびD-乳酸の製造方法

特開 2007-223273 吸音材

特開 2008-163072 生分解性樹脂含有フィルム

特開 2005-60689 発泡体およびその製造方法

特開 2004-194861 弾球遊技機

特開 2004-204217 ポリ乳酸樹脂組成物、その製造方法、成形品、フィルム、及びシート

特開 2004-243233 生分解性濾材

特開 2005-8712 自動車部品

特開 2005-23260 電気・電子部品

特開 2005-42104 木材代替材料

WO2004/087812 ポリ乳酸樹脂組成物、およびその製造方法、並びにポリ乳酸二軸延伸フィルム、およびそれからなる成形品

WO2007/063864 ポリ乳酸系樹脂積層シートおよびそれからなる成形体

特開 2007-182124 ポリ乳酸製自動車用マット

特開 2007-196500 複合ボードおよびその製造方法並びに遊技機部材

特開 2007-210224 繊維系ボード

特開 2007-270417 繊維系ボード、家具、遊技機および建築資材ならびに繊維系ボードの製造方法

特開 2006-289769 繊維系ボードおよびその製造方法

特開 2007-70166 カーボンナノ材料製造用の原料ガス製造方法およびその装置 衣川村、東レ、中外炉工業

2009年 2月バイオエタノール

革新技術研究組合

2008 年 NEDO「微生物機能を活用した環境

調和型製造基盤技術開発/微生物機能を

活用した高度製造基盤技術開発」

炭炭素素材材料料

ポポリリ乳乳酸酸

化化合合物物のの微微生生物物生生産産

ポポリリアアミミドド

糖糖化化ととババイイオオエエタタノノーールル

2009年 NEDO「セルロース系バイオマスの

膜利用糖化プロセスに関する研究開発」

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(3) 昭和電工のバイオマス由来製品開発の戦略とベンチャー企業との提携に関する分析

昭和電工はビオノーレという生分解性ポリマーを農業用のフィルムなどに商品展開している。

2004 年には NEDO のプロジェクト「バイオマスを原料とするコハク酸製造プロセスの開発」を

行っており、特許も出願している。原料調達については自社での生産も視野に入れているが、モ

ノマーは外部から調達している。コハク酸に関しては、米国のバイオマスベンチャーMyriant か

ら購入している。1,4-ブタンジオール化してバイオマス度 100%に持っていく方針である。

そのほか、グリセリンからのアクロレインおよびアクリル酸生産の特許が出願している。また、

プロパノールの微生物生産、糖アルコールの生産とそれに使用する組換え微生物の特許も出願し

ている。これらの特許は、大学や他の企業との共同出願となっており、外部との提携を行ってい

ることが分かる。

図 2-2-5 昭和電工のバイオマス由来製品に関する特許の出願状況

特開 2012-34605 組換え微生物

特開 2012-41335 糖アルコールの製造方法 北海道大学、昭和電工

特開 2012-41336 糖アルコールの製造方法 北海道大学、昭和電工

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

WO2009/148105 アクロレインの製造方法及びアクリル酸の製造方法

特開 2009-292773 アクロレインの製造方法及びアクリル酸の製造方法

特開 2009-292774 アクロレイン及びアクリル酸の製造方法

グリセリンからの

アクリル酸生産

特開 2005-333886 微生物によるコハク酸の製造方法

2012 年 植物由来

原料を用いた生分

解性樹脂「ビオノー

レ®」の生産を開始

2011 年 生分解

性樹脂(ビオノー

レ®)農業用フィ

ルム事業を強化

ココハハクク酸酸のの微微生生物物生生産産とと

ポポリリママーーへへのの展展開開

糖糖アアルルココーールル

ビオノーレは、コハク酸と 1,4-ブタンジオールから合成されるポリエステル

2004年 NEDO「バイオマスを原料とする

コハク酸製造プロセスの開発」

特開 2009-118806 1-プロパノールの製造方法 協和発酵ケミカル、三菱化学、昭和電工

特開 2009-247217 好気性組み換え微生物を用いる2-プロパノールの製造方法 九州大学、三菱化学、昭和電工、出光興産、協和発酵バイオ

2006 年 NEDO「バイオプロセスによるプロパノール生産に関する先導研究」

ププロロパパノノーールル生生産産

コハク酸と 1,4-ブタンジオールは外部から

購入。 Myriantはコハク酸のサプライヤー。

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(4) DSMのバイオマス由来製品開発の戦略とベンチャー企業との提携に関する分析

DSM は、バイオベース製品・サービスについて開発の方向性と取り組みについてホームペー

ジで紹介している。

資料:http://www.dsm.com//en_US/cworld/public/about/pages/dsm_biobased_productsandservices.jsp

ここでは、自社での開発と戦略的提携を並立させて紹介している。

【自社開発】

①セルロース系原材料からバイオ燃料とバイオベース化学品・材料を、争力を持って生産するこ

とができるようになってきた。

②ブレークスルーは、熱安定酵素の開発と C6 と C5 糖を同時に発酵できる酵母の開発である。

【戦略的提携】

SM は、サプライチェーンに沿った戦略的提携を進めている。

①POET-DSM Advanced Biofuels, LL

2012 年 12 月に世界最大のエタノール生産者の一つである米国のベンチャーPOET, LLC と商

業デモンストレーションを行うこととセルロース系バイオエタノールのライセンス契約を行った。

初年度は 20 百万ガロン(76,000kl)、2014 年には 250 百万ガロン(150,000kl)のエタノー

ル生産を目指している。

②DSM & Roquette

2011 年 5月にフランスのでんぷん会社であるRoquette とバイオベースのコハク酸生産プラン

トを建設すると発表した。2012 年に稼働予定で年間 10 キロトンと欧州最大規模となる。

また、バイオベース化学品のターゲットとして、上記のエタノール、コハク酸とともにアジピ

ン酸を上げている。

【アジピン酸】

DSM はアジピン酸の商業化を目指しているが 5 年はかかるとみている。

一方、POET とのエタノール生産に関する契約の前(2012 年 4 月)に発表された DSM のバイ

オベース化学品開発戦略の資料によると、開発のターゲット物質として、エタノール、コハク酸、

アジピン酸、クエン酸が挙げられており、そのうちコハク酸は開発のめどが立ったものとして紹

介され、エタノールは、注目される物質としてのみ紹介されていた(図 2-2-6 参照)。しかし、そ

の 8 か月後には、エタノール生産に関する POET との戦略的提携が発表された。

DSM は、明確にターゲット物質を選定し、他社の動向も踏まえたその実用化時期を設定して、

それに必要な手段を採用するという方針であるように考えられる。そうした背景から、アジピン

酸やクエン酸などについてもバイオマスベンチャーの技術を適宜活用していくものと考えられる。

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図 2-2-6 バイオベース化学品産業の成長の状況

ARCによる注:太字は DSM がターゲットとしていると思われる物質

薄い緑は 2012年 4月時点で DSMが商業化のめどをつけている化学品

資料:Robert Kirschbaum(DSM pen Innovation), “Sustainability as a Business Driver Fulfilling future

needs from Biomass” , Inernational Bioeconomy Forum 2012 Helsinki – April 12, 2012

http://www.vtt.fi/files/events/bioeconomyforum2012/006_Robert_Kirschbaun.pdf

糖 C2 C3 C4 C5 以上

商業化

開発段階

エタノール

1,3-プロパンジオール

乳酸

アクリル酸

エチレン

プロピレン

コハク酸

1,4-ブタンジオール

PHA

ブタノール

フマル酸

イソソルビド

レブリ

ン酸

アジピン酸

クエン酸

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(5) IHIのバイオマス由来製品開発の戦略とベンチャー企業との提携に関する分析

IHI は、新事業推進部がエネルギー事業における新規事業の検討を行って、バイオマスを活用

したエネルギーを選定し、国内外のベンチャー企業を探索した結果ネオ・モルガン研究所との提

携を開始した。

IHI のバイオマス由来製品開発に関する特許出願状況を図 2-2-7 に示した。1995 年から 2000

年に微生物による有用成分生産に関する特許が出願されているが、その後特許出願はなく、2010

年から藻類の培養、有価物の分離回収に関する装置の特許出願が増加している。

特許出願状況からみても、IHI が藻類による燃料生産について、外部の技術を導入して開発を

開始した様子が分かる。

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図 2-2-7 IHIのバイオマス由来製品に関する特許の出願状況

特開平 8-275793 微細藻類を用いた有用高分子の製造方法並びにその有用高分子を用いた製紙方法と生分解性プラスチックの製造方法 IHI、地球環境産業技術研究機構

特開 2000-139444 藻類培養装置 IHI、海洋バイオテクノロジー研究所、地球環境産業技術研究機構

特開 2010-60503 光学式油検知器 IHIエスキューブ

特開 2011-250760 照明装置および培養装置

特開 2012-10605 藻類の培養方法及び藻類培養装置

特開 2012-10606 成分回収方法及び成分回収装置

特開 2012-85538 油分分離装置及び方法

特開 2012-85539 濃縮装置及び方法

特開 2012-85540 油分抽出装置及び方法

特開 2012-115236 蓄光照明体並びに培養装置及び方法

特開 2012-136856 生物付着防止方法及び生物付着防止装置及びゲート装置 IHI、IHIインフラシステム、アイ・エイチ・アイ・アムテック

特開 2012-175964 微細藻類培養装置及び方法

特開 2012-191894 培養装置

特開平 7-289239 光合成生物の培養方法 IHI、地球環境産業技術研究機構

特開平 7-228603 改質アルギン酸及びその製造方法 IHI、高知県

1995 2000 2005 2010

藻藻類類培培養養装装置置

藻藻類類にによよるる化化学学品品生生産産

分分離離・・回回収収装装置置

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3.まとめ

3-1 国内外のバイオマスベンチャー提携企業の研究開発動向とビジネス戦略の動向

国内外のバイオマスベンチャー提携企業の研究開発動向とビジネス戦略は表 3-1-1 に示す通り、

次の4つに大きく分類することができる。なお、既存製品のバイオマス化としての提携は、撒き

餌型と一本釣り型の 2 つに小分類される。

表 3-1-1 バイオマスベンチャー提携企業の分類

大分類 小分類 企業の例

既存製品のバイオマス化

同時並行型 Chevron、Shell、UOP Honeywell など

選択型 多くの企業

三菱化学、東レなど

原料調達 昭和電工など

新製品開発 Stepan Company(スペシャルティ化学品会社)など

新規事業立ち上げ IHIなど

(1) 既存製品のバイオマス化のための提携

バイオマスベンチャーとの提携で最も多い形であり、自社が有する製品をバイオマス原料由来

ものに転換するためにバイオマスベンチャーの技術を活用しようとするものである。

こうした提携は、撒き餌型と一本釣り型に細分される。

(a) 同時並行型

Chevron や Shell、UOP Honeywell などの石油会社に見られるバイオマスベンチャーとの提携

の仕方である。エタノールやジェット燃料など同一化学物質のバイオマス由来原料化を行ってい

る複数のバイオマスベンチャーに投資をし、さまざまな技術の可能性を探っている。

一方で、燃料に関しては、国際的な規制の動向がこうした技術開発に大きな影響を与えている。

例えば、EU や国際航空運送協会(IATA)によるジェット燃料のバイオマス由来化などがある。

(b) 選択型

三菱化学や東レなどに見られる自社の製品であるポリマーの原料をバイオマス由来にするため

にバイオマスベンチャーの技術を活用するものである。バイオマスベンチャー活用のもっとも一

般的な方法と考えられてきた。

この提携にはさらに 2 つのやり方がある。1つは自社での開発を志向して徹底的な検討を行う

とともにバイオマスベンチャーの活用を検討した結果、外部の力を活用する方がよいと判断して

提携したものである。もう一つは、自社開発の検討を行いつつも、グリーン化の課題を早期に達

成するために外部の技術の活用を採用することにしたと思われるものである。

(2) 原料調達先としての提携

昭和電工が Myriant のコハク酸を調達することにした例に見られるように、自社の製品の原料

をバイオマス由来にするための原料調達先としてバイオマスベンチャーとの提携を行うものであ

る。上記選択型の東レなども、共同開発から提携を開始し、原料調達先へと移行している例が見

られる。

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こうした提携の仕方が出てきた背景には、米国バイオマスベンチャーのパイロットプラント研

究のデータの蓄積によって、トータルシステムとしてのコストが計算できるようになってきたこ

とが挙げられる。従来は、発酵工程などの化学品生産のコストだけが注目され、実用化に向けて

は実は最も重要な、精製工程を経た化学品の品質への視点が欠如した議論が散見された。しかし、

Myriantのコハク酸生産に見られるように品質を保証した上でのコストが議論できるようになり、

原料調達先としてのバイオマスベンチャーとの提携が検討できるようになった。

(3) 新規事業立ち上げのための提携

IHI とネオ・モルガンとの提携に見られるように、異業種参入などの場合に典型的にみられる

バイオマスベンチャーとの提携の仕方である。

(4) 新規製品開発としての提携

Elevance がスペシャルティ化学品会社の Stepan Companyと提携して新規洗浄剤の開発を共

同で行っている例などがある。ビジネスとしての最も望ましい形は高い利益が上がることであり、

従来にない製品を生み出すことがその鍵となる。しかし、新規製品開発には時間と経費がかかる。

Elevance は植物油といったバイオマスとしては特殊な原料を利用したバイオマスベンチャー

であり、バイオマスの化学品生産への利活用という全体から見れば例外的なものである。提携企

業の有する製品のバイオマス原料化に合うテーマがあれば成果が期待できる。

3-2 バイオマス由来製品ユーザーの動向

バイオマス由来化学品を使った製品を使って、消費者に製品やサービスを提供するユーザーに

は、バイオ燃料のように化学品そのものを使うもの(直接型)と化学品がポリマーに変換され、

ボトルに加工されたものを飲料用に使用するもの(間接型)がある。

(1) 直接型

自動車会社や航空会社などは、バイオ燃料の評価に比較的初期の段階から関与している企業が

多い。バイオ燃料は化石燃料由来の燃料と比較してコストが高い。EU などの燃料に対する規制

が実用化に大きな影響を与える。

(2) 間接型

一般消費材メーカーの P&G や飲料メーカーのコカコーラなどが、原料メーカーのバイオマス

ベンチャーに直接資金を提供している例が見られる。しかし、こうした企業は少なく、化石燃料

由来製品と同等の製品ができれば使用を検討するという企業が大半のようである。

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3-3 今後のバイオマス由来製品におけるバイオマスベンチャー及び提携企業の研究開発動向

と商業化の動向

・米国では、糖を原料とした化学品が化石燃料由来化学品とのコスト競争力を持って製造される

例が増加すると思われる。

・糖を原料とすることには、食糧との競合の問題があるという議論があるが、化学品生産に必要

な糖の量は、バイオ燃料生産に用いられる糖の量と比べればわずかなものである。

・セルロース系バイオマスを糖化する研究開発も盛んに行われているが、糖の安定的な供給源と

なる時期は見えていない。

・こうした状況を総合的に判断して、米国では、糖を原料とした化学品生産を「ジャンプスター

ト」することが喫緊の課題となっている。

・日本企業が懸念する品質も、Myriant のように製品の品質を保証するバイオマスベンチャーが

出てきた。

・こうした情勢の変化を受けて、バイオマスベンチャーと提携する企業も、バイオマスベンチャ

ーを化学品の調達先と考える企業が増えてきている。

・安価に使用できるバイオマスが乏しい日本では、化学品生産を国内で行うよりも海外で調達す

る方がよい場合も多くなると思われる。

・ただし、こうした化学品はコハク酸など一部のものであるので、その他の化学品を安定に調達

するためには、バイオマスベンチャーに働きかけて、開発段階から関与する必要がある。MMA

やフルフラールなどはバイオマスベンチャーも開発段階であり、自社の必要性に応じて、資金

をバイオマスベンチャーに投じて開発を促進するか、商品が出てきた段階で調達先として活用

するか判断することになる。

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図 3-1-1 米国バイオマスベンチャーとの提携の仕方の流れ

99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

1999年8月クリントン大統領

「バイオ製品及びバイオエネルギー

の開発・普及に関する大統領令」

2005年

エネルギー政策法

2007年 Top Value Added Chemicals from Biomass - Volume II

2004年 Top Value Added Chemicals from Biomass - Volume I

糖を原料としたバイオ燃料開発・商業化

糖を原料としたバイオ化学品開発・商業化

セルロースを原料としたバイオ化学品研究開

セルロースを原料としたバイオ燃料研究開発

ジャンプスタート

選択型(化学品ごとに開発の提携先を求める)

新規事業立ち上げ

新製品開発

同時並行型(複数のベンチャーに投資)

原料調達 既存化学品

新規化学品

バイオマスベンチャー

との提携の仕方

米国政府等の資金援助によるパイロット試験のデータ蓄積

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参考資料:

バイオマスベンチャーのビジネス戦略

(2011 年度報告書の追加)

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参考資料1.OPX Biotechnologies, Inc.

1.会社概要

OPX Biotechnologies, Inc.は、2007 年に設立された。ゲノムエンジニアリングを活用し

て再生可能化学品の生産を目指している。アクリル酸を糖から生産する技術を開発し、

2014~2016 年の商業化を目指している。2011 年からは Dow Chemical とアクリル酸の商

業化に関する共同開発を開始した。

住所 2425 55th Street, Suite 100, Boulder, CO 80301

電話 (303) 243-5190

e-mail [email protected]

ホームページ http://www.opxbiotechnologies.com/

設立年 2007 年

出資者 ベンチャーキャピタル:

Altira Group、 Braemar Energy Ventures、 DBL Investors、 Mohr Davidow

Ventures、US Renewables Group、Wolfensohn & Company, L.L.C.、X/Seed

Capital

公的資金 DOE の Advanced Research Project Agency – Energy(ARPA-E)(2010 年)

株式公開 未公開

業務内容 糖を原料とした化学品の生産

技術提携 Dow Chemical(化学会社)アクリル酸生産技術開発

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2.所有技術

OPXBIO は、EDGE™ (Efficiency Directed Genome Engineering)という微生物の改

良(代謝工学)技術を有している。通常の遺伝子操作技術に比べて 1,000~5,000 倍速い

ので、数年かかる微生物とバイオプロセスの最適化を数か月で行うことができる。さらに、

化石燃料からの化学品生産に比較して 50%以下のコストでバイオ化学品を生産すること

ができる。

特許

No. 特許番号 発明の名称

1 US2012264902 微生物の耐性と 3-ヒドロキシプロピオン酸(3-HP)の生産を向上させる

ための方法、システムおよび組成

2 WO2012129450 化学製品の微生物生産とそれに関連する組成物、方法およびシステム

3 EP2501819 有機酸と関連した化学品の生産

4 EP2501820 顔料として合成ガス構成要素または糖を使ったバイオ分子の微生物バ

イオ生産のための方法、システムおよび組成

5 CA2788045 高付加価値化学品の微生物生産と関連した組成、方法、システム

6 AU2010298004 3-ヒドロキシプロピオン酸及びその他の製品を生産するための方法

7 CA2781400 有機酸と関連した化学品の生産

8 US2012041232 バイオマスからの 3-ヒドロキシプロピオン酸バイオ生産のための組成

と方法

9 MX2011000793 微生物の耐性と 3-ヒドロキシプロピオン酸(3-HP)の生産を向上させる

ための方法、システム及び組成

10 EP2326709 微生物生産された 3-ヒドロキシプロピオン酸(3-HP)からアルデヒド代

謝物への変換の削減に関連した方法、システムおよび組成

11 WO2011063363 有機酸と関連した化学品の生産

12 EP2313491 1,4-ブタンジオールのバイオ合成バイオ生産のための方法、組成および

システム

3.ビジネスの戦略と実績

OPXBIO は、EDGE™の有効性をパイロットプラント(3トン)で証明することを当面

の目的としてきたようで、アクリル酸の生産に成功し、Dow Chemical との共同開発に結

び付けた。バイオ科学品メーカーに技術を提供することで商業化を目指していると推定さ

れる。

新聞発表から見た実績

投資家から資金と公的資金の獲得によって研究開発を進めている。外部との提携につい

ては、Dow Chemical とのアクリル酸生産の共同研究に着手した段階である。

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新聞発表から見た実績

年月日 資金獲得 研究開発・商業化 外部との提携

2009年 4月 6日 17.5百万ドルの増資を行った。

2010年 2月 9日 バイオアクリル酸の商業化プロセス開発に成功し

た。6か月のパイロットプラントでの開発で、目標

の 0.50ドル/ポンドに 85%近づいた。

2010年 4月 30日 DOE の Advanced Research Project Agency –

Energy(ARPA-E)から 6百万ドルの研究資金を

獲得した。

2011年 2月 14日 バイオアクリル酸の商業化のためのコスト目標を 18

か月で迅速に達成した。

2011年 4月 11日 Dow Chemicalと再生可能原料からのアクリル酸の工

業規模での生産工程開発で協力すると発表した。

2011年 7月 7日 再生可能化学品生産の商業化を加速するため

に、36.5百万ドルの増資を行った。

2012年 3月 27日 3,000 リットル規模でのバイオアクリル酸の商業化

に向けた重要なマイルストーンを達成した。

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4.サプライチェーンにおける OPXBIO の位置付け

OPXBIO は、EDGE™という代謝工学技術を有しており、糖を原料としたものではある

がアクリル酸の生産に成功している。

商業化へのビジネスモデルとしては、Dow Chemical をはじめとした化学品メーカーに

化学変換段階の技術を提供して商業化に貢献することを目指していると推定される。

サプライチェーンにおける OPXBIO の位置付け

技術を提供する

原料 糖化 変換 最終製品 販売

OPXBIO

Dow Chemical

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参考資料2.POET, LLC

1.会社概要

POET は、株式非公開の会社で、エタノール・バイオリファイニングを行っている。出

資者は、投資家と農民、地域住人である。

全米 7 つの州に 27 工場のネットワークを有する。

エタノール生産能力は、16 億ガロン(61 百万キロリットル)で、96 億ポンド(44 百万

トン)の高タンパク飼料と数千ポンドのバイオベース油脂および潤滑油の生産能力を持つ。

POET には 40 人の研究者がおり、2008 年の研究費は 20 百万ドルであった。

バイオベース化学品としては zein(商品名 INVIZ™)があり、石油由来のフィルムの代

替として用いることができる。

また、トウモロコシ油(商品名 Voilá™)は、ディーゼル油の原料として用いられる。

住所 4615 North Lewis Avenue, Sioux Falls, SD 57104

電話 (605) 965-2200

e-mail ホームページから

ホームページ http://www.poet.com/

設立年 1983 年(2007 年に Broin Companies から POET に改称)

出資者 投資家、農民、地域住人

公的資金 DOE(2007 年、2008 年、2009 年)

Iowa Power Fund(2008 年)

アイオワ州経済開発局(2010 年)

NSF(2005 年、2006 年、2007 年)、

株式公開 未公開

業務内容 エタノール生産とバイオリファイナリー技術開発

技術提携 DuPont:セルロース系エタノール生産

Novozymes:セルロース系エタノール生産

アイオワ州立大学:セルロース系エタノール生産

Agrivida:セルロース系エタノール生産

DSM:セルロース系エタノールの商業生産

Perdue AgriBusiness:蒸留穀物製品ラインの国内外の飼料市場への展開

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2.所有技術

他のエタノール生産者がでんぷんの分解に熱を用いているのに対して、POET は BPX

という酵素の混合物を使用して加水分解している。

特許

No. 特許番号 発明の名称

1 WO2012125739 エタノール収率を改良するためのシステムと方法

2 CA2787949 発酵工程からの湿った固形物を取り扱うための装置と方法

3 WO2012122393 物置台を改良するためのシステムと方法

4 AU2010224336 油脂組成物およびそれを生産する方法

5 WO2012103281 酵母使用の阻害物を抑制するためのシステムと方法

6 WO2012100187 発酵を改良するためのシステムと方法

7 WO2012099967 バイオマスの加水分解のためのシステムと方法

8 US2012168029 粒子状物質を輸送用コンテナに積み込むためのシステム

9 WO2012078885 原料の品質評価のためのシステムと方法

10 WO2012078882 バイオマスを収集するためのシステムと方法

11 US2012129234 バイオマスからエタノール生産を促進するためのシステムと処理

12 MX2011012376 バイオマスからエタノール生産を促進するためのシステムと処理

13 US2012086429 水分含有量測定のための方法と装置

14 CA2715072 油脂組成物およびそれを生産する方法

15 WO2012033843 油脂組成物およびそれを生産する方法

16 MX2011007148 ゼイン組成物

17 MX2011006862 エタノールと副産物の生産のためのシステム

18 MX2011009269 エタノール生産のためのバイオマスの発酵

19 WO2011159915 バイオマスの発酵

20 US2011250312 生でんぷんと選択された植物材料を使ったエタノール生産のための方

法とシステム

21 WO2011116320 バイオマスからエタノール生産を促進するためのシステムと処理

22 WO2011116317 バイオマスの処理のためのシステム

23 US2011111085 生でんぷんと分画成分を使ったエタノール生産のための方法とシステ

24 US2011097446 生でんぷんを使ったエタノール生産のための方法

25 WO2011043935 バイオマスの前処理

26 WO2011041002 粒子状物質を輸送用コンテナに積み込むためのシステム

27 EP2281898 高タンパク質蒸留の乾燥穀物とその生産

28 WO2010118369 エタノール生産を促進するリサイクル水のためのシステム

29 WO2010102060 エタノール生産のためのバイオマスの前処理のためのシステム

30 US2010202864 バイオマスを収集、輸送、処理するための搬送システム

31 US2010058649 油脂組成物とそれを回収するための方法

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32 US2005101700 バイオポリマーとそれを作る方法

3.ビジネスの戦略と実績

POET は、技術開発から建設、運転、危機管理、市場開拓までの統合されたビジネスモ

デルを有している。

セルロース系エタノールに関しては、2008 年に研究所のパイロットスケールでの生産を

開始した。DSM との提携による POET-DSM Advanced Biofuels が商業規模での生産をア

イオワ州の Emmetsburg で開始する予定である。

新聞発表から見た実績

セルロース系エタノールの開発に関しては、公的資金の獲得によって研究開発を進めて

きたが、DSM との提携によって公的資金の利用を中止した。外部との提携については、

Du Pont や Novozymes などとも共同開発していたが、現在は DSM との提携が就寝とな

っている。一方、セルロース系バイオマス原料の処理についてベンチャー企業の Agrivida

と提携を始めている。

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新聞発表から見た実績

年月日 資金獲得 研究開発、商業化 外部との提携

2004年 2月 17日 アイオワ州 Hanlontownに 45百万ガロン/年のエタノール生

産能力を持つ Iowa Ethanol, LLCを開設した。

2004年 3月 19日 アイオワ州 Ashtonに 45百万ガロン/年のエタノール生産能

力を持つ Otter Creek Ethanol, LLCを開設した。

2004年 4月 26日 サウスダコタ州 Hudsonに Sioux River Ethanol, LLCを開設

した。

2004年 11月 4日 新しい糖化技術 Broin Project X(BPX)を開発した。

2005年 3月 3日 アイオワ州 Emmetsburgに Voyager Ethanol, LLCを開設した。

2005年 5月 11日 ミネソタ州 Lake Crystal に 63百万ガロン/年のエタノール

生産能力を持つ Northstar Ethanol, LLCを開設した。

2005年 7月 1日 新しいバイオリファイナリー技術 BFRAC™を開発した。トウモ

ロコシを繊維と胚芽、内胚乳に分け、エタノールとトウモロ

コシ油などを生産する。

2006年 3月 7日 アイオワ州 Jewellに 60百万ガロン/年のエタノール生産能

力を持つ Horizon Ethanol, LLCを開設した。

2006年 5月 26日 アイオワ州 Gowrieに 80百万ガロン/年のエタノール生産能

力を持つ Frontier Ethanol, LLCを開設した。

2006年 9月 11日 大豆の前処理 SoyLink®に関する特許が登録された。米国特許

7,097,871「風味をなくした野菜粉末、方法、その製法と野菜

製粉システム」。

2006年 10月 5日 DuPont とセルロース系バイオマスからのエタノ

ール生産について提携することを発表した。

2006年 10月 28日 Novozymes とセルロース系バイオマスからのエタ

ノール生産について提携することを発表した。

2006年 12月 6日 サウスダコタ州 Mitchell に 80百万ガロン/年のエタノール

生産能力を持つ Prairie Ethanol, LLCを開設した。

2007年 5月 4日 アイオワ州Corningに60百万ガロン/年のエタノール生産能

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力を持つ工場を開設した。

2007年 6月 27日 トウモロコシの穂軸からのエタノール生産に成功した。

2007年 10月 4日 DOE とセルロース系エタノールの商業生

産に関する合意書に署名した。

2008年 1月 10日 オハイオ州 Leipsicにエタノール生産工場を開設した。

2008年 2月 20日 デンプンからのエタノール生産に関する共同研究

についてアイオワ州立大学に資金助成を行った。

2008年 4月 17日 インディアナ州Alexandriaに115百万ガロン/年のエタノー

ル生産能力を持つ工場を開設した。

2008年 9月 11日 セルロース系エタノールの商業化プロジ

ェクトに Iowa Power Fund から 14.75百

万円の資金を獲得した。

2008年 9月 11日 インディアナ州 North Manchesterに 130百万ガロン/年のエ

タノール生産能力を持つ工場を開設した。

2008年 9月 30日 オハイオ州Fostoriaに130百万ガロンのエタノール生産能力

を持つ工場を開設した。

2008年 10月 7日 セルロース系エタノールの商業化につい

てDOEから76.3百万ドルの追加資金助成

を獲得した。

2008年 10月 24日 オハイオ州Marionに130百万ガロン/年のエタノール生産能

力を持つ工場を開設した。

2009年 1月 12日 サウスダコタ州 Scotland のパイロットプラントでセルロー

ス系エタノールの商業化に向けた試験に成功した。

2009年 7月 17日 Perdue AgriBusiness と蒸留穀物製品ラインの国

内外の飼料市場への展開で提携した。

2009年 9月 28日 DOE からセルロース系バイオマス開発に

6.85百万ドルの追加支援を得た。

2009年 10月 15日 エタノール生産の副生物として Inviz を開発した。Inviz は

zeinの商品名で、プラスチック、フィルムの原料となる。

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82

2010年 1月 26日 アイオワ州経済開発局はセルロース系エ

タノールの商業化支援のために 5.25 百

万ドルの資金援助を決めた。

2011年 3月 15日 インディアナ州 Cloverdale に 27番目のエタノール工場を開

設した。

2011年 7月 7日 DOE からセルロース系エタノールの 105

百万ドルの借入保証に関する条件付き約

束の申し入れを受理した。

2011年 8月 30日 エタノール生産の副産物として、抗生物質フリーの飼料 DDGS

(dried distillers grains with solubles)を発売した。

2011年 9月 23日 DOE の 105 百万ドルの借入保証が許諾さ

れた。

2012年 1月 23日 POET-DSMは DOEの借入保証を借入前に取

り下げることにした。

2013年 1月 23日 DSM とのジョイントベンチャーPOET-DSM は 2013

年のセルロース系エタノール生産を開始すると発

表した。

2012年 3月 13日 POET-DSM は、アイオワ州 Emmetsburg でセルロース系エタノ

ールの本設備の建設を開始した。

2012年 8月 21日 バイオマス原料の処理のバイオテクノロジー開発

社である Agrivida とセルロース系エタノール生

産の共同開発契約に署名した。

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83

4.サプライチェーンにおける POET の位置付け

POET は、トウモロコシでんぷんからのエタノール生産を 27 の工場で行っており、販

路も確立しており、2013 年のセルロース系エタノールの商業化を目指している。一方、エ

タノール生産の副産物であるたんぱく質や油、zein などの商品化も進めている。

商業化へのビジネスモデルとしては、エタノール及びその副産物の生産者である。

サプライチェーンにおける POET の位置付け

生産者

原料 糖化 変換 最終製品 販売

POET

DuPont

DSM

Novozyme

Agrivida

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84

参考資料3.Zeachem Inc.

1.会社概要

Zeachem は、2002 年に設立された。

Zeachem は、セルロースを原料としたバイオリファイナリー技術を開発している。コロ

ラド州 Lakewood に本社を構え、カリフォルニア州 Menlo Park に研究所を持ち、オレゴ

ン州 Boardman に 25 万ガロン(94 万リットル)のデモンストレーション工場を持ってい

る。

住所 Financial Plaza I, 215 Union Blvd Ste 500, Lakewood, CO 80228-1870

電話 (303) 279-7045

e-mail [email protected]

ホームページ http://www.zeachem.com/

設立年 2002 年

出資者 ベンチャーキャピタル:

Birchmere Ventures、Firelake Capital、Globespan Capital Partners、Mohr,

Davidow Ventures、PrairieGold Venture Partners、Spring Ventures

メーカー:Valero Energy Corporation(石油精製)

公的資金 USDA(2005 年)

株式公開 未公開

業務内容 セルロース系バイオリファイナリーの開発

技術提携 Greenwood Resources, Inc.:原料ハイブリッドポプラ供給

GreenWood Tree Farm Fund:原料ハイブリッドポプラ供給

Procter & Gamble(消費材):バイオベース化学品共同開発

Chrysler Group LLC(自動車):セルロース系エタノールの生産と使用

Zeachem が獲得した SBIR 資金

研究テーマ名 助成機関 助成年 金額(ドル)

嫌気性微生物による改質を通したトウモロコシたんぱく

質の価値の改良

USDAF 2005 80,000

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2.所有技術

Zeachem は、生物化学と熱化学を組み合わせた工程を使用している。

バイオマスを分画し、キシロース(C5)とグルコース(C6)の両者を持つ糖が発酵工

程に導かれ、CO2 を発生させることなく酢酸に変換される。酢酸はエステルに変換され、

水素と反応してエタノールとなる。水素は、リグニン残渣を熱分解して得られる。残りの

合成ガスは燃焼して蒸気や発電に用いられる。

特許

No. 特許番号 発明の名称

1 NZ588804 有機酸の回収

2 NZ587093 ブタノールとヘキサノールの間接的な生産

3 NZ578813 アルコールとカルボン酸のエネルギー効率の良い生産方法

4 US2012112127 有機酸の回収

5 WO2012054400 複合抽出溶剤を用いた有機酸の回収

6 AU2011205041 有機酸の回収

7 US2011275127 エタノールの生産工程

8 US2009081749 トウモロコシの乾式製粉からのエタノール生産工程

9 CN1938257 有機酸の回収

10 AU2004200701 エタノールの生産工程

11 WO2004063312 有機酸と硝酸アンモニウムの生産

12 EP1813590 エステルの回収工程

3.ビジネスの戦略と実績

Zeachem は、石油精製会社が出資者の一つになっており、川下(販売網)を確保してい

る。さらに川上の原料を長期間安定供給できる相手を早くから確保している。政府の資金

を活用してデモンストレーション工場から商業設備の建設に進んでいる。

新聞発表から見た実績

公的資金の獲得によって研究開発を進めている。外部との提携については、原料メーカ

ーとの提携を早くから進めている。一方、出口については消費材メーカーの P&G や自動

車会社の Chrysler との提携を始めている。

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新聞発表から見た実績

年月日 資金獲得 研究開発、実用化 外部との提携

2008年 2月 11日 Greenwood Resources, Inc.とバイオリファイナリ

ーのための原料ポプラの長期契約を締結した。

2009年 1月 8日 第 3世代セルロース系エタノールバイオリファイ

ナリー建設のために 34百万ドルの増資を行った。

2009年 2月 23日 最初のバイオリファイナリー建設のエンジニアリ

ング会社として CH2M HILLを選択した。

2009年 11月 18日 25 万ガロン(94 万リットル)/年のバイオ燃料・

バイオベース化学品生産施設の建設を開始した。

2009年 12月 4日 DOEのバイオマスプログラムで25百万円の助成金

を獲得した。セルロース系エタノール生産促進の

ための助成。

2010年 2月 2日 25 万ガロン(94 万リットル)/年の施設でバイオ

リファイナリーの工業レベルの目標(速度、濃度)

を達成した。

2010年 2月 16日 セルロース系エタノールとバイオベース化学品の

ビルディングブロックである氷酢酸を生産するこ

とに成功した。

2010年 4月 21日 工業グレードの酢酸エチル生産に成功した。

2010年 5月 13日 DOEと25百万ドルのバイオリファイナリー建設補

助金の契約を締結した。

2010年 6月 2日 2011 年のセルロース系エタノール生産を目指した

オレゴン州 Boardmanの設備の起工式を行った。

2010年 6月 28日 セルロース系エタノールの商業生産規模での生産

に成功した。

2010年 12月 7日 バイオリファイナリー建設のための財政上の鍵

となるマイルストーンを達成した。

2011年 5月 17日 GreenWood Tree Farm Fund とバイオリファイナリ

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87

ー用原料のハイブリッドポプラの長期的供給につ

いて契約を締結した。

2011年 6月 1日 Procter & Gamble とバイオベース化学品の共同開

発契約を締結した。

2011年 7月 27日 USDAの Biomass Crop Assistance Programに選定さ

れた。オレゴン州のバイオリファイナリー施設の周

囲 7,000エーカーに原料となるハイブリッドポプラ

を確保する。

2011年 8月 15日 Chrysler Group LLC とセルロース系エタノールの

早期生産と使用に関する覚書を発表した。戦略的

提携の形成が開始された。

2011年 9月 28日 ワシントン大学などが主導するコンソーシアム

が USDAから 40百万ドルの資金を獲得した。バイ

オベースのジェット燃料、ディーゼル、ガソリン

の R&Dとデモンストレーションを担当する。

2011年 10月 25日 シリーズ 3の増資(19百万ドル)を行った。 オレゴン州 Boardmanの中核施設の建設が完了した。

2012年 1月 5日

2012年 1月 26日 バイオリファイナリーの商業施設建設が、USDAの

バイオリファイナリー支援プログラムの 232.5百

万ドルの借入助成に選ばれた。

2012年 2月 23日 USDA の北西太平洋地域でのバイオリファイナリ

ー工業建設促進策として 40 百万円の助成金の交

渉が確定した。

2012年 7月 26日 USDAとDOEのハワイにおける熱帯植物を用いたバ

イオ燃料開発で 6百万ドルの助成金を獲得した。

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4.サプライチェーンにおける Zeachem の位置付け

Zeachem は、セルロース(主に木材)を原料としたバイオリファイナリーを開発するこ

とを目指しており、投資家からの資金と政府からの資金で研究開発を行っている。

商業化へのビジネスモデルとしては、サプライチェーンに関与するそれぞれの企業との

アライアンスを組むことを基本としている。

サプライチェーンにおける Zeachem の位置付け

アライアンスを組んで開発する

原料 糖化 変換 最終製品 販売

Zeachem

Greenwood

Resources

GreenWood Tree

Farm Fund

Procter & Gamble

Zeachem

Chrysler Group

Zeachem

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参考資料4.LanzaTech

1.会社概要

LanzaTech は、バイオ汎用品生産のための技術を提供することを目指して 2005 年に設

立された。2005 年から 2006 年にニュージーランドのエンジェル投資家からの投資を受け、

その直後 Khosla Venturesの主導による増資とそれに次ぐ Qiming Ventures 主導の増資を

行った。最近、第 3 回目の増資を行った。新しい投資家は、マレーシアの国立石油会社の

投資部門である PETRONAS Technology Ventures Sdn Bhd とマレーシアの石化技術提供

者の Dialog Group である。

廃材などのガス化によって得られる一酸化炭素ガスを有用化学品に変換する微生物を

開発しており、製鉄所などの排ガスから化学品、燃料を生産する技術を開発している。

住所 24 Balfour Road, Parnell Auckland NZ

電話 +64 9 304 2110

e-mail ホームページから

ホームページ http://www.lanzatech.com/

設立年 2005 年

出資者 ベンチャーキャピタル:Khosla Ventures、Qiming Ventures

私企業:PETRONAS Technology Ventures Sdn Bhd(マレーシアの国立石油会

社)、Dialog Group(マレーシアの石化技術提供者)

公的資金 DARPA(2011 年)

株式公開 未公開

業務内容 微生物によって廃材のガス化による一酸化炭素や製鉄所排ガス中の一酸化

炭素からバイオ燃料・化学品を生産する技術を開発している

技術提携 Codon Devices(エンジニアリング会社)発酵プロセス開発

Syngenta Ventures(種苗会社の投資部門)バイオ化学品の原料となる植物の開発

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2.所有技術

LanzaTech プロセスは、製鉄所などから排出される一酸化炭素ガスや森林廃棄物のガス

化によって生成されるガスから付加価値のある燃料や化学品を生産する。水素やその他の

汚染物質にも耐性がある。

一酸化炭素ガスが微生物反応層の液相に導入され、化学品に変換される。

エタノールや 2,3-ブタンジオールなどの燃料やイソプレン、MEK、イソプロパノールな

どの化学品生産に応用できる。

特許

No. 特許番号 発明の名称

1 US2012040421 発酵による酸生産

2 US2011294177 最適化された発酵培地

3 US2011275053 アルコール生産工程

4 US2011269197 アルコール生産工程

5 US2011250629 アルコール生産工程

6 US2011244538 ガス状物質の発酵

US2011212433 アルコール生産工程

US2011144393 嫌気性微生物発酵によるブタンジオール生産

US2011059499 微生物アルコール生産工程

3.ビジネスの戦略と実績

LanzaTech は、バイオリアクターで工場排ガス中の一酸化炭素からバイオ燃料や化学品

を生産する技術を開発しており、中国やインドなどの製鉄会社などと現地での技術の有効

性評価を行っている。一方、ジェット燃料の実用化を一つの出口として、航空会社や行政

との評価を進めている。

こうした活動は、化学品生産のサプライチェーンの外にある製鉄会社などに排ガス処理

において新たな価値を提供することを目指すというビジネス戦略であると推定される。さ

らに、こうした新たな価値提供の有効性を示すために、ジェット燃料を初めとしたサプラ

イチェーンの中でのバイオ燃料のビジネスとしての可能性の証明を精力的に行っていると

推定される。

新聞発表から見た実績

主として投資家および将来の顧客からの研究開発を進めている。バイオ燃料の開発に関

しては、これらの資金とは別に公的資金の獲得によって評価を行っている。

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新聞発表から見た実績

年月日 資金獲得 研究開発・実用化 外部との提携

2010年 6月 21日 中国最大の鉄鋼会社である Baosteelと中国科学アカデミーとオ

フガスからエタノールを生産する技術の実用化で共同すると発

表した。

2010年 7月 13日 中国のベンチャーキャピタル Qiming

Ventures の主導で 18 百万ドルの増資を

行った。

2010年 8月 24日 ガス発酵による 2,3-ブタンジオールの生産に

成功した。

2010年 11月 19日 太平洋岸北西国立研究所と 2,3-ブタンジオールを使ったジェッ

ト燃料の開発で協力すると発表した。

2011年 1月 14日 インドの石油会社の IndianOil と燃料グレードのエタノール生

産技術のデモンストレーションに関する覚書に署名した。

2011年 2月 20日 韓国の製鉄会社 Posco と排気ガスをエタノールその他の化学品

に変換する技術の実施に関する覚書に署名した。

2011年 3月 27日 中国の鉄鋼メーカーBaosteel Group Corporation と中国科学ア

カデミーと製鉄所のオフガスからエタノールを生産する設備の

建設が始まった。

2011年 4月 5日 化学会社 LCY Chemical Corporation と燃料および化学品のキー

となるバイオベース化学品の特定で協力していくと発表した。

2011年 6月 8日 三井物産の Mitsui Global Strategic Studies Instituteと三井

グループにガス発酵技術を導入していく覚書に署名した。

2011年 6月 22日 DARPA から、一酸化炭素からジェット燃

料を生産する研究に対して資金援助を獲

得した。

2011年 6月 29日 インドの IndianOil と Jindal Steel and Power Limitedの 2社

との協力関係を加速すると発表した。

2011年 8月 15日 エンジニアリング会社の Harsco Corporation と製鉄所の排ガス

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の固定と再利用について戦略的なアライアンスを組むことを発

表した。

2011年 9月 29日 中国の企業集団 Shougang Groupとニュージーランドにある提携

先の Shougang TangMing と中国の Shougang製鉄所に商業設備を

作るためにジョイントベンチャーを設立することで合意した。

2011年 10月 11日 Virgin Atlanticは、カーボンフットプリントが 2分の 1のジェ

ット燃料を世界で初めて開発したと発表した。

2011年 11月 7日 インドの再生可能エネルギー会社 Concord Enviro Systems を

LanzaTech初の商業的顧客として獲得した。

2011年 11月 23日 Global Bioenergies S.A.と一酸化炭素からイソブテンを生産す

る方法の評価で共同すると発表した。

2011年 11月 29日 中国の石炭メーカーの Yankuang Groupと石炭ガス化から燃料と

化学品を生産することで覚書を締結した。

2011年 12月 1日 米国連邦航空局から次世代航空燃料開発に対して 3 百万ドルの

資金を得た。

2012年 1月 23日 Malaysian Life Sciences Capital Fund

の主導で 55.8百万ドルの増資を行った。

新しい投資家は、PETRONAS Technology

Ventures Sdn Bhd、Dialog Group。既存

の Khosla Ventures と Qiming Venture

Partners、K1W1も増資に加わった。

2012年 3月 18日 New Zealand Steelとその特許会社の Bluescope Steelに技術の

商業使用を認めることで合意した。2008年に New Zealand Steel

の工場に排ガスからエタノールを生産するパイロットプラント

を設置していた。

2012年 8月 13日 ナイロンメーカーの INVISTAとバイオベース・ブタジエンに焦点

を当てた共同開発契約を締結した。

2012年 10月 3日 Western Technology Investment から 15

百万ドルの負債による資金調達をした。

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2012年 11月 7日 中国の国家発展改革委員会(NDRC)によって中

国の Baosteel における排ガスからのエタノー

ル生産の商業化検討施設の開発結果が国際的

な標準に達していると評価された。

2012年 11月 12日 LonzaTech が提携している Nottingham 大学が 2.9 百万ポンドの

資金援助を受けた。

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4.サプライチェーンにおける LanzaTech の位置付け

LanzaTech は、製鉄所などの排ガスに含まれる一酸化炭素を微生物によってバイオ燃料

などに変換する技術を有している。バイオ燃料・化学品のサプライチェーンの外にいる企

業に排ガス処理から利益を生み出せるというビジネスモデルを提供することを強みとして

いるようである。その強みを強化するために、ジェット燃料としての実用化の可能性の検

討を行っていると推定される。

商業化へのビジネスモデルとしては、例えばバイオ燃料という出口があるということを

証明することで、サプライチェーンの外にいる企業を排ガス処理から生まれる利益によっ

て、原料供給者という立場でのサプライチェーンに組み込み、そのために必要な技術、シ

ステムを提供するというビジネスモデルを想定していると推定される。

サプライチェーンにおける LanzaTech の位置付け

製鉄会社などに排ガスがバイオ製品のサプライチェーンの原料に

なることを示すことでトータルソリューションを提供する

原料植物の開発 プロセス開発

原料 ガス化 変換 最終製品 販売

LanzaTech

Syngenta Ventures Codon Devices

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参考資料5.Lignol Energy Corporation

1.会社概要

Lignol は、2001 年に設立されたカナダの会社でセルロース系バイオマスからバイオ燃

料その他の化学品を生産する技術の開発を行っている。

住所 Unit 101 - 4705 Wayburne Drive, Burnaby, BC, Canada V5G 3L1

電話 (604) 222-9800

e-mail [email protected]

ホームページ http://www.lignol.ca/

設立年 2001 年

出資者 ベンチャーキャピタル:The Equicom Group Inc.

公的資金 アルバータ州政府と国立研究会議(2007 年、2007 年)

ブリティッシュコロンビア州のエタノール BC(2007 年)

ブリティシュコロンビア州革新的クリーンエネルギーファンド(2008 年)

ブリティッシュコロンビア州バイオエネルギーネットワーク協会(2009年、2009年)

ブリティッシュコロンビア州バイオマスからの液体燃料プログラム(2009年)

DOE(2007 年、2008 年)

カナダ持続可能性技術(2007 年、2009 年、2009 年、2011 年)

株式公開 未公開

業務内容 セルロース系バイオマスからのエタノールその他の化学品生産技術開発

技術提携 Suncor Energy Products Inc. (エネルギー会社):セルロース系エタノー

ルのデモンストレーション工場建設

UT-Battelle, LLC(オークリッジ国立研究所):リグニン供給

Huntsman International LLC.(差別化化学品メーカー):リグニンの用途開発

HA International(鋳型供給者):リグニンの応用開発

Weyerhaeuser Company(森林産品生産者):バイオリファイナリー製品の商品開発

BAE Systems(防衛産業):バイオ化学品の応用開発

Novozymes(酵素メーカー):セルロース系バイオ燃料生産

Kingspan Group PLC(建設機材):リグニンを使った製品開発

Pacific Ethanol, Inc. (エタノール生産者):バイオリファイナリーの統合

FPInnovations(森林研究機関 NPO):セルロースの共同商業化研究

NSERC 戦略的バイオマテリアル・化学品研究ネットワークに参加

オークリッジ炭素繊維複合材料コンソーシアムに参加

Metso Paper USA, Inc.がカナダ持続可能性技術のプロジェクトに参加

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2.所有技術

Lignol は、改良された溶媒を用いてバイオマスからセルロースやリグニン、ヘミセルロ

ースなどの構成物質に抽出して分離する前処理技術を有する(AlcellPlus™)。

セルロースとヘミセルロースは酵素によって糖に変換され発酵によってエタノールのよ

うなバイオ燃料になる。

セルロースは精製されて、繊維やナノクリスタルセルロースのようなバイオ材料にも使

用される。

高純度リグニン(HP-LTM lignin)は、再生可能な芳香族化合物として利用できる。

特許

No. 特許番号 発明の名称

1 US2012237980 リグノセルロース系原料の連続逆流有機溶解工程

2 NZ580751 リグノセルロース系原料の連続逆流有機溶解工程

3 US2012202260 リグノセルロース系原料の複合バイオエンジニアリング・ガス化

4 NZ582383 エタノール生産のための同時糖化・発酵

5 NZ581476 リグノセルロース系原料の同時嫌気性分解・発酵

6 EP2435458 天然リグニン派生物、リグニンワックス、それらの調整およびそれらの

用途

7 EP2435457 天然リグニン派生物からなる樹脂組成物

8 WO2012037668 ナフタレン酸汚染の修復

9 WO2012031356 バイオマス抽出工程

10 AU2010205870 サトウキビ全体の有機溶解バイオリファイニング

11 WO2012000093 有機溶解工程

12 WO2011150504 リグニンを用いた環境修復

13 WO2011106879 多バッチ有機溶解抽出システム

14 WO2011097721 リグニン派生物からなる炭素繊維組成物

15 WO2011097720 有機溶解工程

16 WO2011097719 リグニン派生物からなるバインダー組成物

17 US2009117226 リグノセルロース系原料の連続逆流有機溶解工程

18 CA2597135 リグノセルロース系原料の連続逆流有機溶解工程

19 US2008299628 リグノセルロース系原料の連続逆流有機溶解工程

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3.ビジネスの戦略と実績

Lignol は、エタノール販売会社との提携を早くから進めており、公的機関の資金を活用

して商業化を目指している。一方、バイオリファイナリーとしてリグニンとセルロースの

用途開発を提携先と共同で開発している。

新聞発表から見た実績

私募と公的資金の獲得によって研究開発を進めている。用途開発に関する共同研究を積

極的に拡大している。

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新聞発表から見た実績

年月日 資金獲得 研究開発、実用化 外部との提携

2007年 1月 19日 Lignol Energy Corporation(元 Santa Cruz Ventures Inc.)

は、Lignol Innovations Corporation の買収を完了した

と発表した。

2007年 2月 1日 主要投資家 The Equicom Group Inc.との関係を保持する

ことを発表した。

2007年 3月 7日 エネルギー会社 Suncor Energy Products Inc.

とセルロース系エタノールのデモンストレー

ション工場建設の第一優先権を付与する覚書

(MOU)に署名した。

2007年 3月 13日 オークリッジ国立研究所の代理としての

UT-Battelle, LLC とリグニン供給のために 3

年間で 304,437ドルの契約を結んだ。

2007年 5月 1日 進行中のセルロース系バイオマスをエタノールその他の

バイオ化学品に変換する研究開発の支援としてアルバー

タ州政府と国立研究会議から 994,620 ドルの資金助成を

獲得した。

2007年 6月 6日 DOEの小規模セルロースエタノールバイオリファイナリー

開発プログラム(30億円)応募の同意書を提出した。

2007年 6月 14日 ブリティッシュコロンビア州のエタノール BC から

150,000ドルの追加助成金を獲得した。

松くい虫被害の針葉樹などからのエタノール

生産試験に成功した。

2007年 7月 3日 Haywood Securities Inc.と 12,500,000まで私募債を募る

ことで合意した。

2007年 8月 2日 私募債募集が$14,375,000で終了した。

2007年 8月 20日 DOEのセルロース系エタノール・バイオ燃料助成プログラ

ムから 30 百万ドルの助成金を獲得した。コロラド州にセ

ルロース系エタノールのデモンストレーション工場を建

設する。

2007年 8月 30日 差 別 化 化 学 品 メ ー カ ー の Huntsman

International LLC.と高性能リグニンの用途開

発に関する覚書に署名した。

2007年 11月 6日 カ ナ ダ持 続 可能 性技 術( Sustainable Development

Technology Canada “SDTC”)から 2,749,134 ドルの追加

資金助成を獲得した。

2007年 11月 13日 アルバータ州政府からセルロース系バイオマスからエタ

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99

ノールその他の化学品を生産する技術開発のために 4.1

百万ドルの追加資金助成を獲得した。

2007年 11月 27日 ペンシルバニア州に米国の事業所を開設した。

2007年 12月 12日 ブリティッシュコロンビア技術研究所内にバ

イオリファイニング技術開発センターを開設

した。

2008年 1月 29日 DOEからセルロース系エタノール生産の商業的デモンスト

レーション工場建設のために 30 百万ドルの助成金を獲得

した。

2008年 3月 3日 ペンシルバニア州の事務所に米国のスペシャ

ルティ化学品ビジネス部署を設置した。

2008年 3月 26日 ストックオプションを供与して、100,000株を取得した。

2008年 6月 17日 ブリティシュコロンビア技術研究所内に新し

いバイオリファイナリーの工業規模のパイロ

ットプラントの建設を開始した。

2008年 7月 21日 ブリティシュコロンビア州政府の革新的クリーンエネル

ギーファンドから 1.96百万ドルの資金を獲得した。

2008年 8月 27日 セルロース系エタノールの商業規模パイロッ

ト工場の建設地をコロラド州に決定した。

2008年 9月 4日 差 別 化 化 学 品 メ ー カ ー の Huntsman

International LLCとの覚書を更新した。

2008年 9月 11日 北 米 最 大 の 鋳 型 供 給 者 で あ る HA

International と高性能リグニンの応用開発で

共同開発契約を締結した。

2008年 9月 30日 森林産品生産者の Weyerhaeuser Company とバ

イオリファイナリー製品の商品開発に関する

覚書に署名した。輸送用燃料も含まれている。

Weyerhaeuser の工場に商業規模のバイオリフ

ァイナリー工場を建設する可能性についても

評価を行うことになった。

2008年 10月 23日 Suncor Energy Inc.の子会社 Suncor Energy

Products Inc.とセルロース系エタノール開発

プロジェクトの覚書に署名した。

2008年 10月 28日 DOEと 30百万ドルの協力契約を締結した。

2009年 2月 4日 ブリティッシュコロンビア州バイオエネルギーネットワ

ーク協会から 1.82百万ドルの助成金を獲得した。

2009年 2月 9日 経済状況を鑑み、コロラド州 Grand Junction

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100

の商業規模デモンストレーション工場におけ

る Suncor Energy Products Inc.との合弁会社

設立を延期することにした。

2009年 2月 12日 私募債発行を行うと発表した。

2009年 3月 19日 カナダ持続可能性技術から 1.82 百万ドルの追加資金助成

を獲得した。

2009年 4月 1日 私募を完了した。

2009年 4月 6日 松くい虫によって枯れたロッジポールパインを含む森林

資源からセルロース系エタノールその他のバイオ化学品

を生産するために、ブリティッシュコロンビア州のバイオ

マスからの液体燃料プログラムから 3.4 百万ドルを獲得

した。

2009年 6月 8日 ブリティシュコロンビア州 Burnaby の工業規

模バイオリファイナリーパイロット工場でセ

ルロース系エタノールの一貫生産に成功した。

2009年 7月 22日 防衛産業の BAE Systemsとバイオ化学品の応用

開発に関する覚書に署名した。

2009年 9月 3日 ブリティッシュコロンビア州バイオエネルギーネットワ

ークから 1.18百万ドルの資金助成を獲得した。

2009年 9月 10日 カナダ持続可能性技術から 4.72 百万ドルの追加資金助成

を獲得した。

2010年 2月 15日 セルロース系バイオ燃料生産において

Novozymes の最新の酵素の最適化を行うための

複数年の共同研究覚書に署名した。

2010年 3月 11日 建設機材メーカーの Kingspan Group PLC と高

性能リグニンを使った製品開発に関する共同

開発契約を締結した。

2010年 5月 6日 ブリティッシュコロンビア州 Burnaby のパイ

ロットプラントでセルロース系エタノールと

リグニンの生産の運転目標を達成した。

2010年 5月 11日 知的財産の重要なマイルストーンを達成した。

2010年 5月 25日 西海岸のエタノール生産者である Pacific

Ethanol, Inc.と同社の所有するトウモロコシ

エタノール施設と Lignol の第 2 世代バイオリ

ファイナリーの統合の便益の評価に関する覚

書に署名した。

2010年 6月 10日 NSERC 戦略的バイオマテリアル・化学品研究ネ

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101

ットワークに参加した。

2010年 6月 15日 Novozymes と木材チップなどの森林残渣からセ

ルロース系エタノールを生産する研究開発契

約を締結した。ガロン当たり 2ドル以下のコス

トダウンを目指す。

2010年 10月 19日 有機溶解前処理 AlcellPlus™を開発した。

2011年 3月 17日 パイロット規模のバイオリファイナリーにお

けるNovozymesとのセルロース系エタノール生

産の主要な検討を終了した。

2011年 4月 5日 Metso Paper USA, Inc.がカナダ持続可能性技

術のプロジェクトに参加することになった。

2011年 4月 11日 最初の再生可能化学品である高性能リグニン

を用いた配向性ストランドボード製造用樹脂

接着剤の試験に成功した。

2001年 4月 14日 審理中の4つのPCT出願について肯定的な報告

書を受理した。

2011年 4月 18日 8 千万リットルのセルロース系エタノールと

55,000 トンの高性能リグニンを生産できる商

業規模バイオリファイナリーの設計が完了し

た。

2011年 4月 28日 提携先による工業製品試験のためのトン単位

の高性能リグニン販売を開始した。

2011年 6月 8日 バイオリファイニングの鍵となる米国特許「リ

グノセルロース系原料の連続逆流有機溶解工

程」が登録された。

2011年 6月 13日 いくつかの工業的な試験のために高性能リグ

ニンが提携先に発送された。

2011年 6月 20日 Novozymesが Lignolとの提携を強化し、カナダ

持続可能性技術のプロジェクトに参加するこ

とになった。

2011年 7月 15日 商業化の可能性が見えてきたため、DOEからの

デモンストレーション計画が廃止されること

になった。

2011年 7月 19日 世界的な半導体製造用レジンメーカーの HA

International LLC とのレジン開発試験に成功

した。

2011年 7月 26日 世 界 最 大 の 森 林 研 究 機 関 NPO で あ る

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FPInnovations とセルロースの共同商業化研究

契約に署名した。

2011年 9月 9日 CIBC World Markets Inc.および Capital West Partners

と戦略的投資関係を築くことで同意した。

2011年 10月 5日 高性能リグニン(High Performance Lignin:

HP-LTM lignin)が熱可塑性プラスチックとし

て使用できるという試験結果が出た。

2012年 1月 24日 新たに 4 つの特許が登録された。米国特許 3

件(リグノセルロース系原料の連続逆流有機溶

解工程、繊維状バイオマスの同時糖化・発酵、

広葉樹原料からの天然リグニン派生物)と中国

特許 1 件( リグノセルロース系原料の同時嫌

気性分解・発酵)であり、これまでの特許と合

わせて登録特許数は 7件となった。

2012年 2月 7日 カナダ持続可能開発技術から 2.06 百万カナダドルの追加

資金助成を獲得した。

2012年 4月 24日 世界的なコーティング会社に Lignolの HP-Lリ

グニン所有権の 10 トンを販売することで同意

した。試験生産のために 2トンが提供された。

2012年 5月 3日 オークリッジ炭素繊維複合材料コンソーシア

ムに参加した。

2012年 8月 14日 2.4百万カナダドルの私募と Australian Renewable Fuels

が所有する株式 11%を取得すると発表した。

2012年 8月 27日 2.46 百万カナダドルの私募が完了し、 Australian

Renewable Fuels Limited所有の株式 11%を取得した。

2012年 9月 6日 Novozymes と共同で進めていたパイロットプ

ラントにおけるセルロース系エタノール生産

の酵素の最適化に成功した。

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103

4.サプライチェーンにおける Lignol の位置付け

Lignol は、セルロース系エタノール生産を中心として、リグニンやセルロースなどを生

産することを目指しており、政府からの資金で研究開発を行っている。

商業化へのビジネスモデルとしては、エタノールのサプライヤーとの提携を構築してい

る。さらに、リグニンやセルロースの商品化についてもサプライチェーンの川下に企業と

の共同研究を進めている。

ビジネスモデルとしては、エタノールおよびバイオ化学品の生産、供給者を目指してい

るようである。

サプライチェーンにおける Lignol の位置付け

エタノールその他の化学品生産

原料 糖化 変換 最終製品 販売

Lignol

Suncor Energy Products

Pacific Ethanol

Huntsman

Internationa

l HA International

Weyerhaeuser Company

BAE Systems

Kingspan Group

FPInnovations

エタノール

リグニン

セルロース

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参考資料6.Vertec BioSolvents, Inc.

1.会社概要

Vertec BioSolvents は、トウモロコシや柑橘類の果実その他の原料からバイオベースの

溶剤を製造・供給している。乳酸エチル、脂肪酸メチルエステル、d-リモネン、エタノー

ルの 4 つの主要な成分を基に溶剤を生産している。

Vertec の溶剤は、インクや農業製品、特殊コーティング、ペンキやコーティングライン

の洗浄、プラスチックのリサイクルなどに使用されている。

住所 1441 Branding Lane, Suite 100, Downers Grove, IL 60515 USA

電話 (630) 960-0600

e-mail [email protected]

ホームページ http://www.vertecbiosolvents.com/

設立年 1997 年

公的資金 DOE(2001 年、2002 年、2006 年、2007 年)

株式公開 未公開

業務内容 バイオマスからバイオ溶剤を生産し、販売している

技術提携 Akzo Nobel、Hexion Specialty Chemicalsその他

Vertec BioSolvents が獲得した SBIR 資金

研究テーマ名 助成機関 助成年 金額(ドル)

バイオ溶剤のための進歩した膜(Phase1) DOE 2001 100,000

バイオ溶剤のための進歩した膜(Phase1) DOE 2002 0

コーティング、樹脂、バイオベース材料のためのバイオ溶

剤(Phase1)

DOE 2006 100,000

コーティング、樹脂、バイオベース材料のためのバイオ溶

剤(Phase2)

DOE 2007 734,000

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2.所有技術

Vertec は溶剤混合物とその応用に関する 5 つの特許を所有しているとホームページで紹

介している。

Vertec のホームページに記載されている特許

No. 特許番号 発明の名称

1 USP6,096,699 環境にやさしい溶剤

2 USP6,191,087 環境にやさしい溶剤

3 USP6,284,720 環境にやさしいインク洗浄調剤

4 USP 6,797,684 改良された洗浄力と溶解性を持つ乳酸エステルと D-リモネンのバイオ

溶剤組成物

5 USP 6,890,893 乳酸エステルと他のエステルのバイオ溶剤用の臭いの少ない組成物

特許検索結果

No. 特許番号 発明の名称

1 WO2012002977 ケトンを置換するための溶媒混合物

2 MX2009001181 臭いが少なく性能が強化された乳酸エステルとアルコールの組成物

3 WO2006065935 植物の成長制御剤としての液体製剤

4 WO03077849 改良された洗浄力と溶解性を持つ乳酸エステルと D-リモネンのバイオ

溶剤組成物

5 US2006199736 環境的に温和なバイオ活性製剤

6 WO03016449 乳酸エステルと他のエステルのバイオ溶剤用の臭いの少ない組成物

7 MXPA02002182A 環境にやさしい溶剤

8 ZA200201439 環境にやさしい溶剤

9 WO0174984 環境にやさしいインク洗浄製剤

3.ビジネスの戦略と実績

Vertec は、バイオベースの溶剤を生産し、販売している。また、顧客からの要望に応え

た少量生産も行っている。

新聞発表から見た実績

新聞発表は少なく、実態がよくわからない。

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新聞発表から見た実績

年月日 資金獲得 研究開発、商品化 外部との提携

? Akzo Nobel、Hexion Specialty Chemicalsその他と提

携した。

2006年 DOEから 2つの SBIRを獲得した。

2008年 4月 28日 トルエンを置換するバイオベース ELSOL™-LQ を開

発した。

2011年 2月 15日 高価な d-リモネンを置き換えるバイオベース DLR

製剤を開発した。

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4.サプライチェーンにおける Vertec の位置付け

Vertec は、バイオベースの溶剤を開発し、生産・販売している。

すでに商業化しており、ビジネスモデルとしては、製品の販売である。

サプライチェーンにおける Vertec の位置付け

製品を開発、生産、販売する

原料 変換 最終製品 販売

Vertec

Akzo Nobel

Hexion Specialty

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参考資料7.Avantium

1.会社概要

Avantium は、Royal Dutch Shell から 2000 年にスピンアウトして設立された。触媒技

術を活かして、次世代のバイオベース化学品、ポリマーの開発・商業化を目指している。

住所 Zekeringstraat 29, 1014 BV Amsterdam, The Netherlands

電話 (0)20 586 8080

e-mail [email protected]

ホームページ http://avantium.com/

設立年 2000 年

出資者 ベンチャーキャピタル:Aescap Venture、Capricorn Cleantech Fund、ING

Corporate Investments、 Navitas Capital、 Sofinnova Partners、 Aster

Capital、De Hoge Dennen

公的資金 なし

株式公開 未公開

従業員数 120 人

業務内容 触媒技術によるバイオマス、化石資源の有価物への変換技術の開発

技術提携 Royal Cosun(食品、栄養剤):廃棄物からバイオプラスチックおよびバイオ燃料の生産プ

ロセス開発

NatureWorks(ポリ乳酸):再生可能資源からの新世代ポリマー開発

帝人アラミド(繊維):高性能グリーンプラスチックの開発

Solvay(化学):グリーンエンジニアリングプラスチックの開発

Rhodia(化学):バイオベースポリアミドの応用開発

コカコーラ(飲料):100%植物由来 PEFの共同開発

Danone(食品):水ボトル用 100%バイオベース PEFの共同開発

Sasol(化学):Fischer-Tropsch法による液体燃料生産

BP(石油):石油化学および医薬分野での戦略的研究協力

Rahu Catalytics(触媒):触媒設計

Petrobras(石油):触媒技術開発

Chevron Energy Technology Company(石油):触媒開発

積水化学(化学):触媒開発

CRI Catalyst Company LP(触媒、シェルグループ):エチレンオキサイド触媒の共同開発

CRI/Criterion Inc.(触媒、シェルグループ):Flowrence™ systemを販売・提供

Sinopec(石油):Flowrence™ systemを販売・提供

Pacific Northwest National Laboratory(公的研究機関):Flowrence™システムを提供

IFP Energies nouvelles(民間研究機関):ハイスループット技術での提携

ユトレヒト大学:Flowrence技術を合成ガス変換開発に導入

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2.所有技術

Avantium は、化石資源とバイオマス原料の両者を触媒変換する技術を有している。

バイオマスに関しては、YXY という技術を有している。YXY は、植物由来の糖をビル

ディングブロックであるフラン化合物に変換する技術である。YXY の主な化合物はフラン

ジカルボン酸(FDCA)であり、これは PET 樹脂の原料であるテレフタル酸に容易に変換

できる。また、ポリエチレンフランジカルボン酸(PEF)と呼ばれる PET の代替品の開

発を行っており、PEF はボトルやフィルム、繊維に応用できる。

Avantium は、触媒化学反応およびその装置、システムに関する特許を多数有している。

バイオマスに直接関連する特許には、5-ヒドロキシメチルフルフラールと 5-アルコキシメ

チルフルフラールエステルに関するものがあっ(太字で示した)た。

特許

No. 特許番号 発明の名称

1 WO2012047095 並行反応器の流体流速測定のためのシステムと方法

2 MY137974 金属銅と少なくとも一つの金属からなるクロムなし触媒

3 EP2409204 微小流体応用のための流量制御装置と並行した実験の複数実行のため

のシステム

4 MY144083 化学実験を行うためのシステムと方法

5 US2011267918 化学反応を提供するための撹拌システムと方法

6 NL2004165 トライボロジー試験を行うためのシステムと方法

7 US2011211067 試料分析装置と試料の分析方法

8 NL2002365 流れの分岐器と反応装置

9 US2010087312 金属銅と少なくとも一つの金属からなるクロムなし触媒

10 NL2002365 流れの分岐器と反応装置

11 NL2002368 複数試料の相挙動試験を同時に行うためのシステムと方法

12 KR20080075096 溶解曲線と準安定領域検出のためのシステムと方法

13 US2010105147 腐食シミュレーターと対応する方法

14 WO2008108639 カルバマゼピンの共晶形成

15 KR20080010405 化学実験を行うためのシステムと方法

16 ZA200708777 化学実験を行うためのシステムと方法

17 WO2008035960 共晶の調製方法

18 US2011009295 システムと加熱ブロックと方法

19 WO2007104515 5-ヒドロキシメチルフルフラールの有機酸エステル合成のための方法

とその利用

20 WO2007104514 5-アルコキシメチルフルフラールエステル合成方法とその利用

21 US2007112527 潤滑油開発のための予測技術

22 US2007202024 分子固体における相変態

23 WO2008035959 試料組成を抽出する方法

24 US2009205412 固体、望ましくは結晶を調達し分析する方法

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25 US2006234366 交差結合された酵素凝集体

26 US2006153743 並行化学反応実験、特に結晶化実験を行うための装置と方法

27 US2006098192 特に分光分析と顕微鏡分析における複数の固体状態試料の調製システ

28 RU2378044 化学反応を実行するためのシステムと方法

29 US2005169815 化学実験のためのシステム

30 US2004252580 バッチ反応システム

31 US2004186298 スルファミン酸の分割剤としての新規使用

32 NO20041786 透過回折分析を行うための方法

33 US2004202573 反応装置の組み立て

34 EP1589463 分子的実体設計方法

35 NO20041602 触媒の調製方法

36 US2004156756 実験、特にハイスループット実験を行うためのシステム

37 US2005002487 出力回折分析を行うための方法

38 WO2005066112 アミドの触媒還元のための方法

39 WO2005058498 アルカンまたはアルケンの酸化とアンモ酸化のための触媒

40 EP1691921 アルカンまたはアルケンの酸化とアンモ酸化のための触媒

41 US2004045498 多成分系の結晶化における光学収率のスクリーニング

42 US2004014225 重縮合触媒をスクリーニングするための方法と装置

43 WO03066850 交差結合酵素凝集体とその交差結合剤

44 WO03067354 化学反応を行うためのシステムと方法

45 WO03047744 ライナーを有する反応容器

46 EP1450942 (準)バッチ反応システム

47 WO03095087 サンプル採取装置

48 EP1506053 サンプル採取装置

49 WO2004042051 交差結合酵素凝集体のライブラリーを作るための方法とシステム

50 EP1432979 透過回折分析を行うための方法

51 WO2004026460 化学実験を行うための方法と装置

52 EP1427527 結晶体を調製する方法

53 WO03018532 ニトリル水素化のための担持触媒

54 WO2004014543 実験室反応器への試薬の導入

55 WO2004014542 2 つの連結された容器を用いた化学実験の実施

56 WO2004011134 複数の異なるマイクロ反応器における化学反応を行うためのシステム

57 WO03011458 複数の担持触媒の調製のための方法

58 WO2004009230 サンプル採取装置

59 ZA200205054 液体分注装置

60 US2003015239 圧力制御器

61 EP1392620 スルファミン酸の分割剤としての新規使用

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62 WO02092221 実験、特にハイスループット実験を行うためのシステム

63 EP2263790 反応装置の組み立て

64 EP1392429 実験、特にハイスループット実験を行うためのシステム

65 EP1392428 ハイスループット実験に適したシステム

66 DK1392429 ハイスループット実験に適したシステム

67 WO03082465 メタラシルセスキオキサンを用いた焼成担持触媒の調製方法

68 WO02076595 撹拌される物質のパラメーター計測のための撹拌装置と方法

69 EP1333348 背圧制御器

70 EP1327877 複数試料の出力回折分析を連続的に行うための方法

WO02053278 多数容器配列

US2002085446 反応容器配列

EP1317954 バッチ反応システム

EP1321183 ライナーを有する反応容器

EP1584611 多成分系の結晶化における最適収率のスクリーニング

EP1308716 透過回折分析を行うための方法

WO0226386 統合された容器、少なくとも 1 つの反応容器の搬送装置の組み立てと化

学物質を搬送するための統合された容器搬送装置

EP1295638 触媒の調製方法

EP1288188 担持触媒組成物とその調製工程と、担持触媒組成物の利用

EP1283073 容器内での担持触媒の調製方法

WO0206802 有機化合物の結晶化条件のスクリーニング

EP1264814 アミンを基礎とした分割剤

EP1280599 一つあるいはそれ以上のガスの電気化学的生成のための装置と方法

注:太字はバイオマス利用に直接関連するもの

3.ビジネスの戦略と実績

Avantium は、触媒技術を提供することにより提携先とバイオマス利活用の商業化を目

指している。

新聞発表から見た実績

増資を行うことによって研究開発を進めている。外部との提携については、Royal Cosun

や NatureWorks、帝人アラミド、Solvay といった化学会社とバイオプラスチックの共同

開発を行っている。また、コカコーラや Danone といった飲料メーカーとペットボトル代

替品の開発を共同で進めている。

Page 115: バイオマスベンチャーを活用する企業の ビジネス戦 …3 2.調査結果 2-1国内外のバイオマスベンチャー提携企業のリストアップ (1) バイオマスベンチャーに関する追加調査

112

新聞発表から見た実績

年月日 資金獲得 研究開発・商業化 外部との提携

バイオマス関係 その他触媒技術など

2007年 4月 17日 Sasolと Fischer-Tropsch法による石炭また

は天然ガスからの液体燃料生産に関する共

同研究を行うことを発表した。

2007年 4月 24日 酸化触媒の設計などを行っている Rahu

Catalyticsと長期的提携契約に署名した。

2007年 7月 9日 新規バイオ燃料開発状況を発表した。

2006 年から触媒システムの開発を行

っている。

2007年 10月 16日 BP との石油化学および医薬分野での戦略的

研究協力を 3年間延長すると発表した。

2007年 10月 22日 次世代バイオ燃料の将来性

から IPOを計画していると発

表した。

2007年 10月 22日 バイオ燃料 Furanics のエンジンテス

トを行った。

Flowrence™ system をシェルグループの

CRI/Criterion Inc.に販売・提供する契約を

締結した。

2007年 10月 31日

2007年 11月 15日 景気後退を受けて IPOを取り

下げた。

2007年 12月 6日 Petrobras と触媒技術開発で共同研究を開

始した。

2008年 9月 2日 Chevron Energy Technology Companyと石油

およびガス化学における触媒開発へのハイ

スループット技術の応用サービス提供契約

を締結した。

2008年 10月 29日 18 百万ユーロの民間資金調

達に成功した。

2008年 11月 18日 Nanoflow 技術に基づく新規腐食評価

技術を発表した。

2009年 9月 21日 食品、栄養剤メーカーの Royal Cosun

と廃棄物からバイオプラスチックお

よびバイオ燃料の生産プロセス開発

で提携することを発表した。

Page 116: バイオマスベンチャーを活用する企業の ビジネス戦 …3 2.調査結果 2-1国内外のバイオマスベンチャー提携企業のリストアップ (1) バイオマスベンチャーに関する追加調査

113

2009年 6月 24日 米 国 Pacific Northwest National

Laboratory に Flowrence™システムを

提供した。バイオ燃料・化学品研究加

速のため。

2009年 7月 9日 NatureWorksと再生可能資源からの新

世代ポリマーに関して協力関係を結

んだ。

2010年 3月 15日 燃料生産と不純物除去を行う次世代

Flowrenceを発表した。

2010年 5月 19日 バイオマテリアル及び燃料の新ビル

ディングブロックとなるYXYを発表し

た。

2010年 10月 6日 帝人アラミドと高性能グリーンプラ

スチックの共同開発に入った。

2010年 10月 14日 YXYのパイロットプラントの建設をオ

ランダ Geleen の Chemelot site で開

始した。

2010年 10月 8日 サ ウ ジ ア ラ ビ ア の King Abdullah

University of Science and Technology が

Flowrence®を買収した。

2011年 4月 7日 Flowrence™ systemを Sinopecに販売・提供

する契約を締結した。

2011年 4月 28日 Chemelot siteの YXYポリエステルパ

イロットプラントが始動に成功した。

2011年 6月 9日 YXY技術の展開のために30百

万ユーロの増資を行った。

2011年 6月 23日 積水化学と触媒開発で共同開発契約を締結

した。

2011年 7月 7日 Solvay とグリーンエンジニアリング

プラスチックの共同開発に入った。

2011年 11月 18日 YXYのディーゼル油混合テストで良好

な結果が得られた。

2011年 12月 8日 YXYパイロットプラントが公式に開設

された。

2011年 12月 15日 コカコーラと 100%植物由来のプラス

チックであるPEFの共同開発契約に署

名した。

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114

2012年 3月 3日 ユトレヒト大学が Flowrence 技術を合成ガ

ス変換開発に導入した。

2012年 1月 24日 Solvayグループの Rhodiaとバイオベ

ースポリアミドの応用開発で共同研

究に入った。

2012年 3月 22日 食品会社の Danone と水のボトル用の

100%バイオベース PEF の共同開発契

約を締結した。

2012年 1月 26日 民間研究機関の IFP Energies nouvelles と

ハイスループット技術での提携を広げた。

2012年 10月 16日 シェルの子会社の CRI Catalyst Company LP

とエチレンオキサイド触媒の共同開発を広

げることを発表した。

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115

4.サプライチェーンにおける Avantium の位置付け

Avantium は、触媒技術を提携先に提供することで研究開発を支援するビジネスモデル

を取っている。化石燃料を原料とした提携も Sasol、BP、Shell、Petrobras、Chevron 、

Sinopec、積水化学などの化学会社と行っている。

バイオマスに関しては、Solvay や NatureWorks、帝人アラミドなどの化学会社とバイ

オプラスチックの共同開発を行っており。また、コカコーラや Danone などの飲料メーカ

ーとペットボトル代替品の開発を共同で進めている。

Avantium のサプライチェーン上のビジネスモデルは、変換工程における技術の提供で

ある。

サプライチェーンにおける Avantiuma の位置付け

技術を提供する

原料 変換 最終製品 販売

Avantium

Royal Cosun

NatureWorks

帝人アラミド

Solvay

Rodia

コカコーラ

ポリマー

Sasol

Danone

Royal Cosun

燃料

BP

医薬・化学

積水化学

Rahu

Petrobras

Chevron

Shell

触媒開発

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116

参考資料8.BioMCN B.V.

1.会社概要

BioMCN B.V. (Bio-Methanol Chemie Nederland) は、2006 年に設立されたオランダの

ベンチャー企業である。

BioMCN は、世界最大の第 2 世代バイオ燃料生産者であり(25 万 kl/年)、植物油生産

の残渣であるグリセリンからメタノールを生産している。

住所 Transistorstraat 31, NL-1322 CK Almere, Netherland

電話 (596) 647700

e-mail [email protected]

ホームページ http://www.biomcn.eu/

設立年 2006 年

出資者 ベンチャーキャピタル:Waterland Private Equity

公的機関:Investment and Development Agency of North Netherlands (NOM)

企業:帝人(繊維)、Econcern(エネルギー)

株式公開 未公開

業務内容 粗製グリセリンからバイオメタノールを生産する。

技術提携 2011 年 2 月、Linde、Visser & Smit Hanab、Siemens とともに大規模バイオ

マスリファイナリーを建設するためのコンソーシアムを結成。Deifzijl 工場

に隣接して建設する予定。

2.所有技術

BioMCN は、バイオディーゼル工場からの粗製グリセリンを精製して、蒸発させ、クラ

ッキングして合成ガスを得る。この合成ガスからバイオメタノールを生産する。

特許

見つからなかった

3.ビジネスの戦略と実績

BioMCN は、技術開発よりも、既存技術、設備を活用してバイオメタノールを生産し、

供給させることを最優先している。

新聞発表から見た実績

BioMCN は、2008 年に 20 キロトンのパイロットプラントでのバイオメタノール生産に

成功した後、200 キロトンの生産設備の建設を進め、2010 年から稼働を始めた。その後、

原料確保や販路の拡大のために、外部との提携を活発化させてきている。

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新聞発表から見た実績

年月日 資金獲得 研究開発 外部との提携

2008年 3月 30日 20 キロトンのパイロットプラントでバ

イオメタノール生産に成功した。

2008年 8月 19日 粗製グリセリンを精製、蒸発して合成ガ

スを製造する装置の建設を開始した。

2008年 10月 30日 JPB Logistics が BioMCN の工場に隣接してグリセリン貯蔵用のタンクター

ミナルを建設する。

2009年 3月 5日 持続可能なエネルギー会社である

Econcernが出資者に加わった。

2009年 4月 14日 水処理会社 North Water と排水処理の契

約を締結した。

2009年 7月 11日 85%バイオメタノール(M85)に改造され

た日産 350Zがラリーで 1位になった。

2009年 7月 14日 200 キロトンのバイオメタノールプラン

トが稼働を始めた。

2009年 10月 9日 バイオメタノール生産の燃料としての天然ガス確保のために Summit Energy

との関係を保持。

2009年 10月 28日 バイオエタノール 85%(M85)の日産 350Z

がラリーで優勝した。

2010年 6月 25日 世界最大の第 2世代バイオ燃料工場(25

万キロリットル)が開設した。

2011年 2月 11日 BioMCNと NOMは、Linde、Visser & Smit Hanab、Siemensとともに大規模バ

イオマスリファイナリーを建設するためのコンソーシアムを結成すること

になった。Deifzijl工場に隣接して建設する予定。

2011年 9月 22日 Suiker Unie が生産したバイオガスを GasTerra が搬送・供給し、BioMCN が

バイオメタノールを生産する同意書が署名された。

2011年 11月 1日 燃料電池生産会社の米国 IdaTech plcがバイオエタノールと脱イオン水の混

合物である Bio-HydroPlusが適用可能であると発表した。

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2011年 12月 21日 BioMCNと Nordic greenは、北欧、バルト 3国でのバイオメタノールを販売

の契約を締結した。燃料電池用は全世界。

2011年 12月 21日 Vertis Environmental Finance と中央ヨーロッパにおける代理店契約を締

結した。

2012年 4月 5日 ED&F Manとアルゼンチンからのグリセリン供給の契約を締結した。

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4.サプライチェーンにおける BioMCN の位置付け

BioMCN は、粗製グリセリンから合成ガスを生産し、バイオメタノールを生産する。

商業化へのビジネスモデルとしては、他社から原料を調達してバイオメタノールを生産

し、販売会社に販売を行わせる。原料供給については、Suiker Unie が生産したバイオガ

スを GasTerra に搬送・供給させたり、ED&F Man にアルゼンチンからグリセリン供給を

させたりしている。販売については、Nordic green や Vertis Environmental Finance と

いった販売会社と地域を分けた契約をしている。

サプライチェーンにおける Agrivia の位置付け

バイオメタノールを生産する

原料 ガス化 変換 最終製品 販売

BioMCN

Suiker Unie、GasTerra

ED&F Man

Nordic Green

Vertis

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参考資料9.Chemrec AB

1.会社概要

Chemrec AB は、Jan-Erik Kignell の黒液ガス化特許を基に 1989 年に設立された。

Chemrec は、パルプ・製紙工場の黒液をガス化してバイオ燃料および化学品、例えばジ

メチルエーテル、メタノール、合成ディーゼル油、合成ガソリンを生産する技術を開発し

ている。

住所 Floragatan 10B SE-114 31 Stockholm, Sweden

電話 +46-8-440 4060

e-mail [email protected]

ホームページ http://www.chemrec.se/

設立年 1989 年

出資者 ベンチャーキャピタル:

Vantage Point Venture Partners、Volvo Technology Transfer、Environmental

Technologies Fund

私企業:Nykomb Synergetics(ガス化技術を有する非公開会社)

公的資金 スウェーデンエネルギー庁(2008 年、2009 年)、欧州委員会(2011 年)

株式公開 未公開

業務内容 黒液のガス化によるバイオ燃料・化学品生産

技術提携 New Page(米国の製紙会社)経済性評価

SmurfitKappa(包装製品メーカー)経済性評価

Tianchen Engineering Corporation(中国のエンジニアリング会社)共

同開発

Volvo(自動車):トラックによる実車試験

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2.所有技術

Chemeric は、 A300 Booster 、 OX450 Booster 、 P500 Expansion Unit 、 P2000

Replacement Unit、X2000 Combined Cycle Unit という黒液をガス化するための酸素供

給反応システムを有している。

特許

No. 特許番号 発明の名称

1 US2012073772 亜硫酸粘性液体のガス化

2 BRPI0615287 黒液のためのガス化反応器内の化学的バリアの準備方法、化学てきガス

化反応器、反応器のバリア層、およびそのようなバリア層のためのビル

ディングブロックの製造方法

3 WO2004051167 エネルギー含有燃料のガス化または酸化のための装置

4 SE0301326 パルプ工場においてエネルギーバランスの維持との組み合わせにおい

て合成ガスを製造する工程

5 US6780211 使用済み液体のガス化装置

6 US6500301 使用済み液体のガス化装置

7 US6790246 使用済み液体のガス化装置

8 WO0137984 パルプ生産から得られる残渣生成物のガス化のための反応器内のセラ

ミック絶縁体

9 WO0127384 ガス化工程の飛散灰からの化学品回収のための方法と準備

10 US7217302 使用済み液体のガス化の間の固体及びガス状態材料の冷却工程

11 SE523518 パルプ廃液の酸化時に発生するガスから得られる硫酸と過酸化水素の

反応によって調製されるカロ酸を用いる硫酸塩パルプなどの漂白工程

12 US5556605 硫黄化合物の分離方法

13 US5660685 ガス化炉に生成された硫化水素ガスのリサイクルを伴う黒液のガス化

14 FI945406 使用済み液体のガス化のための反応器内装置

15 SE9403931 ガス化反応器のための装置

16 US5683549 対になった流体ノズルを用いたセルロース系使用済み液体の部分燃焼

のための工程

17 NO942067 蒸解液の調製のための工程

18 FI942026 炭素質材料のガス化

19 WO9429517 セルロース廃液、特に黒液のガス化のための反応器

20 NO940150 ガス流体から溶融粒子を分離するための方法および装置

21 NO940149 使用済み液体からの化学品およびエネルギー回収方法

22 US5405496 硫酸塩パルプ蒸解のための高い硫化性を持つ蒸解液を調製する工程

23 WO9324704 セルロース廃液から化学品およびエネルギーを回収するための工程

24 AU3963793 セルロース廃液から化学品およびエネルギーを回収するための工程

25 LV5303 硫酸液を調製するための化学品および方法

26 FI925435 黒液の部分燃焼からの工程ガスの精製

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27 NO924582 ナトリウム化合物の水溶液を生成する方法

28 SE9203297 黒液ガス化からのガスの精製

29 NO923053 炭素質原材料の熱分解方法および量産のための反応器

30 EP0642611 可燃性ガスからエネルギーを回収するための工程

31 FI922288 硫酸塩パルプ蒸解のための高い硫化性を持つ蒸解液を調製する工程

32 US5370771 低周波の音波を用いた使用済み液体からのエネルギーと化学品を回収

する工程

33 EP0496320 生産量制御回路

34 CN1057500 セルロース廃棄物の部分燃焼のための工程

35 ID969 パルプ廃液からの化学品回収

3.ビジネスの戦略と実績

Chemerec は、デモンストレーションプラントを次々と建設することで商業化を目指し

ている。

デモンストレーションプラント建設の実績

施設名 能力 場所 建設年

大気圧パイロットプラント 3tDS/24h(0.5Wth) SKF, Hofors 1987

ブースターデモンストレーション

施設

75tDS/24h(11MWth) AssiDomän, Frövi 1991

加圧空気吹き込みパイロットプラ

ント

6tDS/24h(1MWth) Stora Enso,

Skoghall

1994

商用ブースター工場 300tDS/24h(50MWth) Weyerhauser,

New Bern

1996

加圧酸素吹き込み再建設パイロッ

10tDS/24h(1.5MWth) Stora Enso,

Skoghall

1997

再建設第 2 世代商用ブースター工

300tDS/24h Weyerhaeuser,

New Bern

2003

加圧酸素吹き込み開発工場(DP-1) 20tDS/24h(3MWth) Kappa Kraftliner,

Piteå

2005

新聞発表から見た実績

出資者の資金と公的資金の獲得によって研究開発を進めている。外部との提携について

は、米国企業やスウェーデンの製紙関連企業と提携しており、中国のエンジニアリング会

社との共同開発も始めている。

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新聞発表から見た実績

年月日 資金獲得 研究開発・商業化 外部との提携

1987年 スウェーデンのHoforsにパイロットプラントを建設

した。

1991年 スウェーデンの Frövi にパイロットプラントを建設

した。

1994年 スウェーデンのSkoghallにパイロットプラントを建

設した。

1996年 米国の New Bernに商業化推進のための施設を建設し

た。

2003年 New Bern に第 2世代セラミック内張り施設を再建設

した。

2005年 スウェーデンのBLG研究開発プログラムが始動した。

2005年 スウェーデンの Piteå に加圧開発施設を建設した。

2007年 6月 24日 Volvo Technology Transfer と VantagePoint

Venture Partners が黒液ガス化技術に投資し

た。

2007年 8月 22日 米国の製紙会社 New Page とミシガン州 Escanaba で

デモンストレーションプラントの経済性評価を行う

ことに合意した。

2007年 12月 スウェーデンの Pitea の高温ガス化施設で 3,695 時

間の累積稼働時間記録を達成した。

2008年 1月 14日 国際的な包装製品メーカーのSmurfitKappaとスウェ

ーデンの Pitea のクラフト裏張り工場でデモンスト

レーション施設の経済性評価を2008年春に行うこと

で合意した。

2008年 4月 2日 スウェーデンエネルギー庁は、Piteå に DME合

成施設を建設することに 100 百万クローネの

支援を行うことになった。

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2008年 9月 9日 欧州 28百万ユーロバイオ DMEプロジェクトの一環と

して、Chemerec が世界初のバイオ DME 燃料施設(日

産 4~5トン)を建設することになった。

2008年 12月 2日 既存の出資者から 20 百万ドルの資金を獲得し

た。

2009年 2月 24日 米国子会社 Chemrec USA Inc をシカゴ郊外に設置す

ることになった。

2009年 3月 31日 スウェーデンエネルギー庁に新エネルギー技

術の資金援助申請を完了するように要請され

た。

2009年 6月 12日 Piteå での合成ガス生産の稼働時間が累積 10,000 時

間を達成した。

2009年 9月 28日 スウェーデンエネルギー庁は、バイオ DMEとバ

イオエタノール生産のデモンストレーション

施設を Örnsköldsvik に建設することに対して

資金援助をすることを決定した。

2010年 9月 9日 世界初のバイオ DME生産施設が Piteå に落成した。

2011年 1月 26日 欧州委員会は第 2 世代バイオ燃料開発の支援

を承認した。

2012年 4月 24日 中国の Tianchen Engineering Corporationと共同開

発契約を締結した。

欧州バイオ DME プロジェクト:欧州第 7 次フレームワークプログラムとスウェーデンエネルギー庁の支援のもとに 2008 年~2012 年に実

施されたプロジェクト。参加企業は、Chemrec、Volvo(自動車会社)、Preem(石油会社)、Total、Haldor Topsoe(触媒メーカー)、Delphi

Diesel Systems(米国 Delfi の子会社)、ETC(Energy Technology Centrein Piteå)

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4.サプライチェーンにおける Chemerec の位置付け

Chmeric は、製紙工場の黒液をガス化する技術および装置を開発しており、製紙会社な

どへの技術および設備の納入を目指しているように思われる。そのために、バイオ DME

の生産のデモンストレーションと Volvo とのトラックによる実車試験なども行っている。

商業化へのビジネスモデルとしては、黒液のガス化とバイオ燃料・化学品生産用の技術

ならびに設備の供給であると考えられる。

サプライチェーンにおける Chmerec の位置付け

技術および装置を供給する

原料 ガス化 変換 最終製品 販売

Chemerec

New Page

SmurfitKappa

Tianchen Engineering Corporation

経済性評価

装置開発

Volvo

実車試験

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参考資料 10.Elevance Renewable Sciences, Inc.

1.会社概要

Elevance Renewable Sciences, Inc.は、2004 年の DOE からの研究費助成をきっかけと

して 2007 年に設立された。

Elevance は、大豆やカノーラなどの植物油をスペシャルティ化学品に変換することに成

功している。

住所 2501 Davey Road, Woodridge, IL 60517

電話 (866) 625-7103

e-mail [email protected]

ホームページ http://www.elevance.com/

設立年 2007 年

出資者 ベンチャーキャピタル:TPG、Naxos Capital Partners

私企業:Total Energy Ventures(石油会社の投資部門)、Cargill(穀物会

社)、Materia(触媒技術を有する私企業)

公的資金 DOE(2004 年)

株式公開 未公開

業務内容 植物油からのスペシャルティ化学品生産

技術提携 Arkema(フランスの化学会社)スペシャルティポリマー開発

Clariant International Ltd(スイスのスペシャルティ化学品会社)プラスチック

添加剤の商業化

Hutchinson Worldwide(断熱材メーカー)ゴム化合物

International Specialty Products, Inc.(添加剤メーカー)ワックスおよ

び木材プラスチック用殺虫剤担体の開発

NL Grease, LLC(グリースメーカー)高性能グリースの商業化

Stepan Company(スペシャルティ化学品会社)表面活性剤、抗菌剤、ポリウ

レタンポリオールの評価と商業化

Dow Corning Corporation(シリコーンメーカー)シリコーン供給者

Saskatchewan Canola Development Commission(SaskCanola)(植物油):原

料油

Tetramer Technologies, LLC(技術提供ベンチャー)技術提携

Trent 大学 戦略的提携

United Soybean Board (USB)(大豆の業界団体)原料供給

Wilmar International Limited(アジアの農業ビジネス)バイオリファイナ

リー建設のためのジョイントベンチャー設立

XiMo AG(スイスの触媒会社)天然油エステルのメタセシス触媒

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2.所有技術

Elevance は、植物油をスペシャルティ化学品に変換する触媒技術を有している。

特許

No. 特許番号 発明の名称

1 KR20120086312 天然油原料からの燃料生産とリファイニング方法

2 WO2012129490 官能基化されたポリマー

3 US2012225944 パラフィンワックスに対するトリアシルグリセロールを基礎とした代

替品

4 AR080843 天然油原料からの燃料生産とリファイニング方法

5 WO2012071306 実質的にファット・ブルームのない脂質ベースのワックス組成物および

その製造方法

6 US2012071676 オレフィンメタセシスを通した内部アルケンとエチレンからの末端ア

ルケン合成

7 WO2012006324 メタセシスされた天然油とアミンから生成されたワックスおよびその

製造方法

8 MX2011005525 酸素開裂反応を通した天然油原料からのジェット燃料生産方法

9 MX2011005524 メタセシス反応を通した天然油原料からのジェット燃料生産方法

10 WO2011143037 天然油をベースとしたマーキング組成物およびそれらの製造方法

11 AT530604 ワックス組成物およびワックス組成物の調製方法

12 WO2011112486 実質的にファット・ブルームのない脂質ベースのワックス組成物および

その製造方法

13 AT519725 水素化を含むメタセシス方法およびそれに関連する組成物

14 CN102123979 オレフィンメタセシスを通した内部アルケンからの末端アルケン合成

15 US2011165529 ワックスおよびワックスベース製品

16 US2011160472 メタセシス原料を処理するための化学的方法

17 BRPI0708675 メタセシスされた不飽和ポリオールエステルからなる組成物

18 BRPI0707714 抗菌組成物、方法、システム

19 EP2292697 メタセシスとメタセシスに似た製品を含むろうそくおよびろうそくワ

ックス

20 MX2010001615 メタセシス原料の処理のための熱的方法

21 MX2009013820 ろうそくのような圧縮成型されたワックス品に使用する複合ワックス

組成物

22 US2010132250 小さな粒子からなる顆粒ワックスおよびそれらから作られる滑らかな

面を持つ圧縮ろうそく

23 US2009264672 メタセシスによる有機化合物の製造方法

24 US2009119977 トリアシルグリセロールを基礎としたろうそくワックス

25 US2009048459 水素化メタセシス製品の製造方法

26 WO2008140469 抗菌組成物、方法、システム

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128

27 WO2008060383 メタセシスによる有機酸および有機アルデヒド組成物の製造方法

28 EP2076483 メタセシスとヒドロシアン化による有機化合物の製造方法

29 US2008064891 環状オレフィンと種油および同類品との開環交差メタセシス反応

30 EP2046908 メタセシスされた不飽和ポリオールエステルワックスからなるンツ溶

解性接着剤組成物

31 US2009126602 メタセシスされた不飽和ポリオールエステルからなる着色剤組成物

32 US2007227400 表面コーティング組成物及び方法

33 US2007039237 トリアシルグリセロールを基礎としたワックス組成物

34 US2005060927 コンテナろうそくに使われるトリアシルグリセロールを基礎としたワ

ックス

35 US2007270621 工業化学品の製造方法

3.ビジネスの戦略と実績

Elevance は、費用対効果のよいスペシャルティ化学品を提供することでポリマーメーカ

ーなどの川下企業のビジネスに関与することをビジネスモデルとしている。

新聞発表から見た実績

公的資金の獲得と投資家からの資金によって研究開発を進めている。触媒技術を有する

企業や大学との共同研究も行っている。また、川下企業との提携を精力的に行っている。

生産設備の建設も行っており、自らバイオリファイナリー生産を行うことも視野にある

ようである。

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新聞発表から見た実績

年月日 資金獲得 研究開発・商業化 外部との提携

2008年 4月 16日 カーギルとろうそくなどのワックス製品の欧州向け市場

調査を行うことで合意した。

2008年 9月 9日 ダウコーニングとパーソナルケア領域での天然由来材料

のマーケティングで共同することを発表した。

2008年 10月 22日 Clemson大学発ベンチャーのTetramerと新規再生可能製品

(ワックス)の開発と商品化で提携すると発表した。

2009年 2月 10日 NatureWax™がコーティング剤の国際的な評価に

適合した。

2009年 7月 16日 カノーラ油からの再生可能化学品開発に対

してサスカチュワン・カノーラ開発委員会

から250,000カナダドルの資金を獲得した。

2009年 10月 21日 Trent 大学バイオマテリアル研究所と 100 万ドルの提携を

行うと発表した。

2009年 12月 4日 再生可能油から高付加価値化学品およびバ

イオ燃料を生産するデモンストレーション

設備の設計に関して DOE から 2.5 百万ドル

の資金援助を獲得した。

2009年 12月 29日 大豆油からの鉱油代替品開発に対して米国

大豆委員会から 109,500 ドルの資金を獲得

した。

2010年 6月 2日 Atkins & Pearceと NatureWax®のアジアでの展開での提携

を拡大した。

2010年 6月 14日 新しいワックス NatureWax® Elite を発表した。

2010年 6月 28日 農業会社 Wilmar International Limited と世界規模のバ

イオリファイナリーを建設するためにジョイントベンチ

ャーを設立すると発表した。

2010年 7月 7日 ドイツの Evonik Industriesからメタセシス触媒の米国特

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130

許のライセンスを受けた。

2010年 10月 26日 スペシャルティ化学品・中間体メーカーの Stepan Company

と新規表面活性剤、抗菌剤、ポリウレタン用ポリオールの

評価と商業化に関する共同開発に合意した。

2010年 12月 8日 Dow Corning と開発したパーソナルケア製品の性能強化の

ための添加剤を発表した。

2010年 12月 21日 100百万ドルの増資を行った。

2011年 2月 14日 触媒ベンチャーの XiMo AGのメタセシス触媒に関する特許

のライセンスを受けた。

2011年 4月 5日 スペシャルティ化学品供給者の International Specialty

Products Inc.と農薬のキャリヤーとしてのワックスの評

価と商業化に関する覚書を締結した。

2011年 4月 11日 グリースメーカーの NL Grease LLCと潤滑剤開発で共同す

ることを発表した。

2011年 5月 10日 Royal DSM N.V.とバイオベースのスペシャルティ熱可塑性

材料の開発で協力することを発表した。

2011年 5月 18日 スペシャルティ化学品の 500トンの生産ラインを

完成させた(従来は 20トンの生産ライン)。

2011年 6月 7日 Natchez にある Delta BioFuels の施設を買収し

た。225 百万ドルを投じてバイオリファイナリー

施設に変更する。

2011年 6月 21日 輸送機部品メーカーの Hutchinson Worldwide とゴム化合

物の加工助剤で協力することを発表した。

2011年 7月 13日 スペシャルティ化学品メーカーの Clariant International

Ltdと再生可能製品において共同する契約を締結した。

2012年 2月 27日 Arkema と再生可能スペシャルティポリマーの開発と生産

で世界的な提携をしていくと発表した。

2012年 4月 10日 XiMo AG と天然油をメタセシス化する技術で重要

な進展があったと発表した。

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2012年 7月 10日 104百万ドルの増資を行った。

2012年 7月 13日 ハイスループット実験装置メーカーの hte AG とバイオベ

ースのスペシャルティ化学品開発で共同すると発表した。

2012年 8月 31日 IPOを取り下げた。

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4.サプライチェーンにおける Elevance の位置付け

Elevance は、投資家からの資金と政府からの資金で植物油をスペシャルティ化学品に変

換する研究開発を行っている。

商業化へのビジネスモデルとしては、川下企業との共同開発を行うことを基本としてい

るようである。ただし、商業化の施設の建設も行っており、バイオリファイナリー製品の

供給も行う予定であると考えられる。

サプライチェーンにおける Elevance の位置付け

共同開発およびスペシャルティ化学品の供給

原料 変換 最終製品 販売

Elevance

Arkema

Clariant International

Dow Corning

Saskatchewan Canola

United Soybean

Hutchinson Worldwide

ポリマー

ゴム

添加剤

International Specialty Products

ワックス

Wilmar International Limited

Stepan Company

NL Grease, LLC

グリース

表面活性

バイオリファイナリー

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参考資料 11.Algenol Biofuels Inc.

1.会社概要

Algenol は、2006 年に設立された。ウエスタンオンタリオ大学の Paul Woods が 1984

年に発明した藻類を用いたエタノール生産技術 DIRECT TO ETHANOL®を基礎としてい

る。

住所 28100 Bonita Grande Drive, Suite 200, Bonita Springs, FL 34135

電話 (239) 498-2000

e-mail [email protected]

ホームページ http://www.algenolbiofuels.com/

設立年 2006 年

出資者 投資家

公的資金 DOE から 25 百万円(2009 年)

フロリダ州 Lee 郡から 10 百万円(2010 年)

株式公開 未公開

業務内容 藻類を用いたエタノール生産技術の開発

技術提携 ダウ(化学会社):パイロットスケールの検討。バイオプラスチック開発。

Linde(ガス・エンジニアリング会社):バイオ燃料生産における CO2 と O2 の

管理を共同開発

Cyano Biofuels GmbH:エタノール生産のためのバイブリッド藻類の経験を

持つ同社を買収した。

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2.所有技術

Algenol は、DIRECT TO ETHANOL®技術という藻類にエタノール生産技術の特許を取

得している。この技術によって年間1ヘクタール当たり、1 ドル/1 ガロン以下でエタノ

ールを生産できる。これは、藻類を死滅させることなく回収できることと、下降流技術を

使った光バイオリアクターによって達成されている。

特許

No. 特許番号 発明の名称

1 US2012232315 蒸気圧縮水蒸気蒸留

2 US2012220027 混合のための磁気的に結合されたシステム

3 US2012171752 CO2 固定吸着再生のための水/炭酸塩蒸留および光合成独立栄養生物へ

の CO2 供給

4 EP2464726 代謝が改良されたエタノール産生宿主細胞、宿主細胞の生産方法、宿主

細胞の形質転換のための構成物、および宿主細胞を用いたエタノールの

生産方法

5 US2012137727 水から溶媒を分離するための圧縮と濃縮を伴う膜強化蒸留

6 MX2010008721 遺伝子操作された光合成独立栄養生物

7 US2010068801 エタノールを分離し、除去することで遺伝子的に強化された光合成微生

物による毎日の連続的なその場エタノール生産を行うための閉鎖系光

バイオリアクターシステム

8 MX2009003668 エタノール生産のための閉鎖系光バイオリアクターシステム

3.ビジネスの戦略と実績

Algenol は、パートナーやジョイントベンチャー出資者、その他の特許実施権者に装置、

専門知識、ノウハウを提供することをビジネス戦略としている。すでにメキシコの

BioFields S.A.P.I. de C.V.に特許をライセンスしている。BioFields は、Comisión Federal

de Electricidad の発電所の近くに 55,000 エーカーの利用権を有しており、エタノール生

産施設の建設を開始するために必要な環境アセスメントを 2012 年に取得した。米国、ア

ジア、南アメリカ、アフリカ、欧州の企業とも商業化の検討を行っている。

DIRECT TO ETHANOL®は、エタノール生産であるが、ジェット燃料とディーゼル油

にポートフォリオを拡大している。

新聞発表から見た実績

公的資金の獲得によって研究開発を進めている。外部との提携については、ダウとバイ

オリファイナリーの共同開発を行っていた。

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新聞発表から見た実績

年月日 資金獲得 外部との提携

2009年 6月 29日 ダウが Algenol とパイロットスケールの藻類バイオリファイナリーを建設す

る計画を発表した。

2009年 11月 18日 ガス・エンジニアリング会社の Linde と Algenol は、バイオ燃料生産におけ

る CO2と O2の管理について共同開発することに同意した。

2009年 12月 4日 Algenol は DOE から統合バイオリファイナリーの建設と雇用創出のための資

金 25百万ドルを獲得した。

2010年 3月 2日 Algenolはフロリダ州 Lee郡行政委員会と 2010年に工業施設を建設すること

で合意し、10百万ドルの助成金を得ることになった。

2010年 11月 16日 フロリダ州 Lee 郡を統合バイオリファイナリーの拠点にすると発表。DOE の

資金援助を受け、ダウの支援の下に施設を建設する。

2011年 3月 1日 Algenol は、エタノール生産のためのバイブリッド藻類の経験を Cyano

Biofuels GmbHを買収したと発表した。

2011年 10月 24日 フロリダ州 Lee郡の工業施設の建設に着工した。 ダウとの共同開発は終了し、今後はスペシャルティプラスチック・フィルム

の開発に移行していく。

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4.サプライチェーンにおける Algenol の位置付け

Algenol は、Algenol は、パートナーやジョイントベンチャー出資者、その他の特許実

施権者に装置、専門知識、ノウハウを提供することを商業化へのビジネスモデルとしてい

る。

従って、サプライチェーンにおける位置づけとしては、藻類によるエタノールその他の

生産におけるライセンス供与である。なお、川上の原料に関して、Linde とガスの管理に

ついて共同開発を行っており、川下の製品群についてはダウとバイオリファイナリー、ポ

リマー開発を共同で行っている。

サプライチェーンにおける Algenol の位置付け

技術をライセンスする

原料 培養 分離・精製 最終製品 販売

Algenol

ダウ Linde

ガス管理 バイオリファイナリー、ポリマー

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参考資料 12.Sapphire Energy

1.会社概要

Sapphire Energy は、2007 年に設立された藻類による燃料生産技術を開発している企

業である。すでにオクタン価 91 のガソリン、89 のディーゼル油、そしてジェット燃料を

開発している。

住所 4 San Diego, CA

電話 (858) 768-4700

e-mail [email protected]

ホームページ http://www.sapphireenergy.com/

設立年 2007 年

出資者 ベンチャーキャピタル:ARCH Venture Partners、The Wellcome Trust、Cascade

Investment, LLC、Venrock

私企業:Arrowpoint、Monsanto

公的資金 NSF(2009 年)、HHS(2009 年)

株式公開 未公開

従業員数 150 人以上

業務内容 光合成藻類によるバイオ燃焼生産

技術提携 政府機関:DOEと USDA(次世代藻類バイオリファイナリー開発)

研究所:スクリプス研究所、サンディエゴ藻類バイオテクノロジーセンター

大学:カリフォルニア大学サンディエゴ校、Tulsa大学

私企業:コンチネンタル航空、Boeing、GE Aviation/CFM International、Honeywell’

s UOP ジェット燃料開発

Monsanto 藻類遺伝子探索

Linde Group CO2 供給システム開発

Earthrise Nutritionals LLC スピルリナのライセンス契約

Sapphire Energy が獲得した SBIR 資金

研究テーマ名 助成機関 助成年 金額(ドル)

工業的酵素と進歩した脂質バイオ燃料の共生産(PhaseⅠ) NSF 2009 100,000

藻類ベースの膜たんぱく質発現システムの開発(PhaseⅠ) HHS 2009 100,000

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2.所有技術

Sapphire Energy は、藻類バイオによって燃料を生産する技術を有している。

特許

No. 特許番号 発明の名称

1 US2012253056 バイオマスからの油性化合物

2 US2012252054 Scenedesmus sp.と Dunaliella sp.の葉緑体ゲノムの形質転換のための

システム

3 US2012231546 新規アセチル CoA カルボキシラーゼ

4 NZ589879 光合成微生物の凝集誘導

5 NZ583682 ゲノム DNA の大断片の捕獲と修飾と、合成葉緑体を持った微生物の構築

システム

6 NZ583620 光合成微生物を用いた有機燃料製品の生産方法

7 AU2011213006 ストレスに誘導された脂質トリガー

8 US2012220021 除草剤耐性微生物

9 AU2012201883 バイオマスからの油性化合物回収工程

10 US2012190872 バイオマスからの油性化合物回収工程

11 WO2012088546 再生可能資源からの芳香族化合物生産

12 EP2463370 バイオマス分解酵素を生産するための遺伝子修飾された微生物の利用

13 NZ583754 炭化水素原料の精製方法

14 NZ583701 光合成微生物による分子の生産

15 US2012116138 燃料精製のための油成分の調製方法

16 US2012094386 光合成微生物の耐塩性操作

17 AU2010295660 耐塩性微生物

18 US2012058535 原核生物と真核生物におけるバイオ燃料生産

19 AU2009333461 葉緑素またはフェオフィチン含有バイオマスからの窒素の除去

20 AU2009333021 遺伝子操作された除草剤耐性藻類

21 EP2342344 ゲノム DNA の大断片の捕獲と修飾と、合成葉緑体を持った微生物の構築

システム

22 US2011151515 真核藻類における FC 融合たんぱく質の生産

23 WO2011063284 光合成微生物における治療用たんぱく質の生産

24 GB2475435 不可欠な葉緑体遺伝子を含有するシャトルベクターを使った製品の生

25 US2010297749 バイオ燃料生産の方法とシステム

26 WO2010111707 イソプレノイド生産変異酵素とその利用

27 WO2010077638 バイオ反応器内の光輸送

28 WO2010051489 遺伝子操作された藻類からなる動物飼料

29 US2010050301 ゲノム DNA の大断片の捕獲と修飾と、合成葉緑体を持った維管束植物の

構築システム

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30 WO2010019813 遺伝子操作された光合成微生物による脂肪酸の生産

31 CN101544918 M15-M85 自動車アルコールエステル燃料とその調製方法

32 US2009269816 ゲノム DNA の大断片の捕獲と修飾と、合成葉緑体を持った微生物の構築

システム

33 GB2464264 葉緑体複製シーケンスからなるベクター

3.ビジネスの戦略と実績

Sapphire Energy は、バイオ産業製品のサプライチェーンを横断したアライアンスを組

むことで商業化を目指している。技術をライセンスする。

新聞発表から見た実績

投資家からの資金と公的資金の獲得によって研究開発を進めている。生産技術開発に関

するものが多い。外部との提携については、ジェット燃料について航空会社などとの提携

を行っている。

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新聞発表から見た実績

年月日 資金獲得 研究開発・商業化 外部との提携

2008年 5月 28日 世界で初めて再生可能なオクタン価 91 のガソリン

を藻類から生産した。

2008年 9月 17日 グリーン粗製製品の商業化のために 100万ドル

に増資するための投資組織を作った。

2009年 1月 7日 Boeing と GE Aviation/CFM International 、

Honeywell’s UOP との協力の下でコンチネンタル航

空がジェット燃料によるデモンストレーション飛行

を行った。

2009年 9月 18日 藻類燃料自動車が 3,750マイルの全米横断旅行を完

遂した。

2009年 12月 4日 米国再生・再投資法とバイオリファイナリー援

助プログラムの一部として 104.5百万ドルの資

金を獲得した。

2011年 5月 8日 藻類遺伝子探索について Monsanto Companyと複数年

の共同研究に入った。

2011年 5月 11日 Linde Group と商業規模のオープンポンド式藻類燃

料回収設備への CO2 供給システムの複数年の共同開

発に入った。

2012年 2月 29日 スピルリナおよびその製品のメーカーである

Earthrise Nutritionals LLC とライセンス契約を結

んだ。

2012年 4月 2日 144百万ドルの増資を行った。

2012年 8月 27日 藻類エネルギーの商業デモンストレーション施設

が運転可能になった。

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4.サプライチェーンにおける Sapphire Energy の位置付け

Sapphire Energy は、藻類によるバイオ燃料生産の商業化を目指しており、2010 年に

ニューメキシコにデモンストレーション設備の建設を開始し、2012 年 8 月から商業化の

ためのテストに入っている。

商業化へのビジネスモデルとしては、バイオ燃料の生産、供給を目指しているようであ

る。

サプライチェーンにおける Sapphire Energy の位置付け

バイオ燃料を生産し、供給する

原料 培養 回収・精製 最終製品 販売

Sapphire Energy

UOP Honeywell

GE

コンチネンタル航空

Boeing

ジェット燃料

Linde

Monsanto

遺伝子探索

ガス供給システム

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142

参考資料 13.Bio Architecture Lab, Inc.

1.会社概要

Bio Architecture Lab, Inc.(BAL)は、2008 年に設立された。

BAL は、海藻から化学品・燃料を生産する技術を開発している。

住所 604 Bancroft Way, Suite A, Berkeley, CA 94710 USA

電話 (510) 704-1516

e-mail [email protected]

ホームページ http://www.ba-lab.com/

設立年 2008 年

出資者 ベンチャーキャピタル:

Aurus Bios、Austral Capital、Statoil Venture、X/Seed Capital

公的資金 NSF(2005 年、2006 年、2007 年)、DOE&USDA(2008 年)

株式公開 未公開

業務内容 非可食性バイオマスから糖を生産するコストを下げるための植物の改良技

術の開発

技術提携 Statoil(石油会社)ノルウェイにおける海藻からのエタノール生産の商業化

DuPont(化学会社)海藻からのブタノール生産(DOEから 9百万ドルの資金を獲得)

Butamax(DuPontと BPのジョイントベンチャー)技術の商業化

Logos大学(チリ)藻類からの燃料生産

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2.所有技術

BAL のコア技術は、海藻の糖質を再生可能な化学中間体に変換するものである(特許か

ら推定すると 5-ヒドロキシピリジン-2-カルボン酸のようである)。この中間体は、化学品

と燃料の両者に転換可能である。60 件以上の特許を出願している。

原料は海藻(の糖質)である。海藻は、①発酵可能な糖質を 60%以上含有する、②リグ

ニンがない、③生育のための土地が不要、④淡水が不要、⑤海洋汚染を改善するといった

利点があり、低コストで大容量のバイオマス資源である。

特許

No. 特許番号 発明の名称

1 US2012329115 染色体 DNA 統合方法

2 WO2012142326 アルギン酸塩からの 5-ヒドロキシピリジン-2-カルボン酸の生産方法

3 US2012142081 汎用化学品の生物合成

4 US2011256595 バイオ燃料生産

5 WO2011044279 汎用化学品生産のための微生物システム

6 MX2010008023 アルコール脱水素酵素の単離とその使用

3.ビジネスの戦略と実績

BAL は、水産養殖会社やアカデミア、産業界に多数の共同研究者を持っており、経済性

評価やサプライチェーン開拓を行っている。

新聞発表から見た実績

BAL は 2008 年に設立された新しいベンチャーであり、ベンチャーキャピタルの投資に

よって研究開発を進めている。

外部との提携については、化学会社の DuPont とイソブタノール生産で、ノルウェイの

石油会社 Statoil とエタノール生産で共同開発を行っている。チリの政府からの資金を得

て、チリにパイロットプラントを建設している。

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新聞発表から見た実績

年月日 資金獲得 R&D・商業化 外部との提携

2009年 11月 22日 Statoil venture の管理会社の Energy Capital

Managementは、Austral CapitalとX/Seed Capital

とともに 8百万ドルの増資を行った。

2010年 3月 2日 DuPont が DOE の ARPA ( Advanced Research

Projects Agency-Energy)と次世代バイオ燃料(イ

ソブタノール)生産について技術投資契約を結ん

だ。BALもこのプログラムに参加する。

2010年 9月 15日 ノルウェイの石油会社 Statoil と海藻からの低コス

トエタノール生産に関する戦略的提携を結んだ。

2011年 12月 16日 チリでバイオ燃料生産の実験施設の建設を開始し

た。2012年に稼働を開始する予定。

2012年 1月 19日 バイオ燃料・化学品生産技術に必要な海藻からの

糖抽出をする微生物を開発した。

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145

4.サプライチェーンにおける BALの位置付け

BAL は、海藻の糖類を化学中間体に変換する技術を有しており、パイロット研究を始める段階

にある。DuPont などと共同開発を行っている。

商業化へのビジネスモデルとしては、中間体以降の川下会社に技術を提供することと推定され

る。

サプライチェーンにおける BALの位置付け

技術を提供する

原料 変換 最終製品 販売

BAL

Statoil

DuPont

エタノール

ブタノール