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プール学院大学研究紀要 第51号 2011年,135~148 はじめに 米国のチャータースクール運動は1980年代終盤に始まる。1991年にはミネソタ州で最初のチャー ター法が成立し、翌年、最初のチャータースクール、「シティ・アカデミー」がセント・ポールに 開校した。チャータースクール萌芽期において、特別認可(チャーター)を受けた公立学校という 未知数の可能性を秘めた形態は、米国の学校教育を改革する一方策として、批判はあったが概ね期 待を持って受け入れられた。以降、いずれの政権においてもチャータースクールは教育改革の有効 な手段として推奨されてきた。なかでもオバマ政権は、「トップを目指す競争」と名うった教育改 革政策の中で、チャータースクールの充実を優先事項として掲げ、財政援助、州法における規制緩 和の要求などを通して、より積極的にこれを拡大していくことを表明している。 全体で見れば、チャータースクール在籍者は、公立学校に通う生徒のうちの5%程度でしかない ものの、現在、学校数は5000校を超え、今後さらに増加することが予測される。たとえば、ニュー ヨーク市では2010年にチャータースクールの数を現在の200校から460校へと倍増させることが決定 されたように 1) 、各州でのチャータースクール数上限廃止といった規制の緩和によって、推進派の 動きは勢いづいている。 次々と教育系「ドキュメンタリー」が制作・上映され、大衆の関心をさらっていることも見逃せ ない。『スーパーマンを待ちつつ(Waiting for Superman)』、『抽選(The Lottery)』、『カルテル (The Cartel)』、『ティーチト(Teached)』は、すべて2010年に発表され、著名な賞の受賞やメディ アの絶賛を浴びている。日本で入手可能であった『スーパーマン. . . 』のみを鑑賞したが、伝統的 公立学校の行き詰まりや既得権益の死守だけに懸命で退廃的な教員組合とそのメンバー、対照的に チャータースクールの生き生きとした献身的努力と成功が「実話」として描き出され、荒廃したア メリカの公教育を救えるのはチャータースクールしかない、という明快なメッセージを送り出して いる。こうして推進派がメディアも用いて精力的にチャーター設立を推し進める一方で、20年を経 過しての具体的例や実証研究結果を用いた批判や反対運動も高まっている。今や米国においての チャータースクールはアメリカ公教育を救うか ―ニューオーリンズの場合― 権     瞳

チャータースクールはアメリカ公教育を救うか - Poole · 2015. 3. 19. · チャータースクールはアメリカ公教育を救うか 137 民営化ではなく、市民による、市民のための民主的なモデルを提供する代替案となりえるのである。

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プール学院大学研究紀要 第51号2011年,135~148

はじめに

 米国のチャータースクール運動は1980年代終盤に始まる。1991年にはミネソタ州で最初のチャー

ター法が成立し、翌年、最初のチャータースクール、「シティ・アカデミー」がセント・ポールに

開校した。チャータースクール萌芽期において、特別認可(チャーター)を受けた公立学校という

未知数の可能性を秘めた形態は、米国の学校教育を改革する一方策として、批判はあったが概ね期

待を持って受け入れられた。以降、いずれの政権においてもチャータースクールは教育改革の有効

な手段として推奨されてきた。なかでもオバマ政権は、「トップを目指す競争」と名うった教育改

革政策の中で、チャータースクールの充実を優先事項として掲げ、財政援助、州法における規制緩

和の要求などを通して、より積極的にこれを拡大していくことを表明している。

 全体で見れば、チャータースクール在籍者は、公立学校に通う生徒のうちの5%程度でしかない

ものの、現在、学校数は5000校を超え、今後さらに増加することが予測される。たとえば、ニュー

ヨーク市では2010年にチャータースクールの数を現在の200校から460校へと倍増させることが決定

されたように1)、各州でのチャータースクール数上限廃止といった規制の緩和によって、推進派の

動きは勢いづいている。

 次々と教育系「ドキュメンタリー」が制作・上映され、大衆の関心をさらっていることも見逃せ

ない。『スーパーマンを待ちつつ(Waiting for Superman)』、『抽選(The Lottery)』、『カルテル

(The Cartel)』、『ティーチト(Teached)』は、すべて2010年に発表され、著名な賞の受賞やメディ

アの絶賛を浴びている。日本で入手可能であった『スーパーマン. . .』のみを鑑賞したが、伝統的

公立学校の行き詰まりや既得権益の死守だけに懸命で退廃的な教員組合とそのメンバー、対照的に

チャータースクールの生き生きとした献身的努力と成功が「実話」として描き出され、荒廃したア

メリカの公教育を救えるのはチャータースクールしかない、という明快なメッセージを送り出して

いる。こうして推進派がメディアも用いて精力的にチャーター設立を推し進める一方で、20年を経

過しての具体的例や実証研究結果を用いた批判や反対運動も高まっている。今や米国においての

チャータースクールはアメリカ公教育を救うか

―ニューオーリンズの場合―

権     瞳

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プール学院大学研究紀要第51号136

チョイス(選択)を巡る闘いといえば、かつての中絶問題における選択ではなく、学スクール・チョイス

校選択、つま

り、チャータースクール推進派と反対派との政治論争のことを指すようになったほどである。

 はたしてチャータースクールはアメリカの公教育の救世主となりえるのか。本稿ではニューオー

リンズ市での「改革」を事例として取り上げ、その可能性について検討したい。ニューオーリンズ

市は2005年のハリケーン・カトリーナによる被災をきっかけに、それまでの伝統的公立学校から構

成される学区が、急速にチャータースクールを中心とするものへと改変された経緯がある。市の公

立学校のうち約70%がチャータースクールという比率は全米でも例を見ない高さで、この抜本的改

革によって生徒の成績や学校の実績が向上したとして、「ニューオーリンズ・モデル」は米国内で

の関心を集めることになった2)。本稿では、まず、チャータースクールの利点と問題点について整

理し、ニューオーリンズの教育現場についての先行研究や調査を元に、チャータースクールの可能

性について考察する。

1.チャータースクールの概要

 1983年のレーガン政権が発表した『危機に立つ国家』は、1980年代初頭の同国の経済危機の要因

が教育にあるとして、学力テストの国際比較、識字率、1960年代と70年代を比較しての進学適性テ

スト(SAT)の得点の低下などを根拠に、教育改革の必要性を喚起した3)。低い基礎学力、高い中

退率、埋まらない階級および人種間に見られる学業成績の格差は、長く米国の教育課題となってお

り、どの政権においても教育改革は必至とされてきた。いずれも高い基準の設置、標準テストの導

入、市場原理と競争原理による教育の質向上、成果主義と説明責任が改革内容の定番であり、その

うちの一つにチャータースクールの導入と拡大がある。

 チャータースクール推進派のフィンらによれば、米国の教育改革がなかなか成果を上げることが

できない原因は、改革が根本的な構造を変えずに表面上の課題のみを解決することにとどまる漸増

主義に陥っているためであり、チャータースクールのような選択肢を設けることこそが抜本的改革

を可能にするという4)。チャータースクールは、希望者が考案した教育計画を教育委員会に提出し、

認可が下りれば生徒数に応じて公費の支給を受けて学校を設立・運営することができる。州法によ

る違いはあるが、学校の運営は既存の官僚的な体制から離れて、プログラム、財政計画、雇用など、

自律的に行うことが認められる場合もある。ただし、一定の成果を上げることができなければ、閉

校することが余儀なくされるという厳しい説明責任と競争にさらされることになるので、教育の質

の向上が見込まれる。また、社会経済的地位の高い家庭にしか与えられていない私立学校進学とい

う選択の自由が、貧困層やマイノリティなどにも平等にもたらされ、格差解消も期待できる。チャー

タースクールは、近代の産物である公教育制度の、中央集権的、画一的側面を否定しつつも、完全

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チャータースクールはアメリカ公教育を救うか 137

民営化ではなく、市民による、市民のための民主的なモデルを提供する代替案となりえるのである。

 一方、反対派は、チャータースクールの新自由主義による市場中心のパラダイム、競争と選択の

原理に置けば公正かつ効率的な結果がもたらされる、という主張を否定する。市場はすでに経済的・

社会的に優位な家庭には有利に働くが、貧困家庭、また貧困と多くの場合相関関係にあるマイノリ

ティには不利に働き、格差をますます拡大するのであり、伝統的な公立学校では少なくとも保障さ

れていた近隣の学校に通うという機会の平等を奪う。たとえば、アップルは、イギリスやニュージー

ランドでの研究を上げながら、学校の外の貧困や社会問題を看遇して学校選択だけが強調されれば

結果的には学校の序列化を強制し、格差を再生産することになると繰り返し述べている5)。

 また、民営化において、効率と生産性が重視される中で排除されるのはマイノリティ、貧困層、

障がいを有する生徒や保護者などの社会的弱者に限らず、伝統的公立学校で勤務してきた教職員に

も及ぶ。市場中心主義のパラダイムの中では、より効率がよく生産性の高い労働者が求められる。

より若く、より長時間働き、より安い教職員が好まれ、それは教職の専門性よりも優先される。こ

のため、チャータースクールでは教員の資格基準は緩和され、採用において教員資格が必要とされ

ない場合も多々ある。米国二大教員組合の全米教育協会(NEA)およびアメリカ教連盟(AFT)

はホームページなどによる公式見解で、いずれもチャータースクール支持を表明しているものの、

教職についての専門性の否定、雇用を脅かすようなチャーター化への大幅な移行に対して、多くの

現場では伝統的公立学校教員や組合の激しい反発が見られる。

 主な批判のもう一つは、身内優先主義、バルカニゼーション、人種隔離主義として指摘されるよ

うに、チャータースクールが公立学校でありながら、特定の集団の価値や利益につながるのではと

懸念される教育内容を置くこと、あるいは生徒の構成に人種やエスニックグループによる大きな偏

りが生じていることについてである6)。これは右派や左派の両側から危惧されている。たとえば、

左派は中流階級や白人を囲い込むようなチャータースクールや、キリスト教保守派による宗教色の

濃い学校の存在をあげ、右派は黒人中心主義やラテン系中心カリキュラム、あるいはハワイの先住

民やネイティブアメリカンといった、特定の集団の価値観が全面的に強調されるカリキュラムに公

的資金を投じることについて批判している。

 教育改革センター(CER)によると、チャータースクールは40州とワシントンDCで約5500校が

おかれ、約170万人の生徒が在籍している7)。チャータースクールが占める割合が多い学区は、順

にニューオーリンズ(71%)、ワシントンDC(38%)、デトロイト(36%)と、都市部に顕著であ

る8)。総合的にみれば、チャータースクールに通う生徒の半数以上は非白人の生徒で、アフリカ系

(32.0%)、ラテン系(24.6%)、アジア系(3.1%)、その他(2.9%)で、白人は(37.4%)となっている。

伝統的な公立学校の人種構成は、米国の人口比率を反映して、アフリカ系(16.5%)、ラテン系(18.9

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プール学院大学研究紀要第51号138

%)、アジア系(3.5%)、その他(3.7%)で、白人は(57.3%)9)であるから、チャータースクール

におけるマイノリティの比率の高さが伺われる。これはチャータースクールの多くが都市部に置か

れていること、また、貧困層やマイノリティの教育を目的とした学校が開設されていることが影響

している。

 チャータースクールは運営組織のタイプによって、独立型、営利組織運営型、非営利組織運営型

の3つに大別されるが、このうち、7割以上は地元の保護者やコミュニティによって立てられる

独立校で、以下、非営利組織(15.8%)、営利組織(12.9%)と続く10)。エジソン・スクール社、ナ

ショナル・ヘリテージ・アカデミーズ社などで知られる営利団体は、チャータースクール設立時か

ら1990年代半ばまでは増加傾向にあったが、営利組織の教育への介入に対する批判や、成果が上げ

られなかったことなどが原因して低迷している11)。これと入れ替わるように、2000年に入ってから

増加しているのが、ナレッジ・イズ・パワー・プログラム(以下KIPP)、アチーブメント・ファー

スト、アンコモン・スクール、アスパイヤーなどの非営利組織である。非営利団体の多くは、貧困

層およびマイノリティの教育を使命として草の根的な運動から始まり、次第にネットワーク化して

複数の学校を運営するまでに発展したものが多い12)。

 全般的に、非営利組織によるチャータースクールは高い評価を得ている。たとえば、今やブラン

ド校となったKIPPは現在100以上のフランチャイズ校を持ち、オープンアドミッションのための抽

選の様子や、長い待機者リストからは、保護者たちからの人気の高さが伺われる。KIPPの成果に

ついては、数学や読解における成績向上、低い退学率という実績が示されている。しかし、一方で、

障がいのある生徒や英語ができない生徒の在籍率が低いことから、オープンアドミッションであり

ながら設備や専門家の不足を理由に入学に制限が設けられていること、多額の寄付などによる財政

的援助によって、一般の公立学校より一人あたりに充てることのできる教育費が多いこと、中途退

学した生徒数を埋める措置をとっていないことなども指摘されており13)、その効果について慎重に

検討する必要性が求められている。

 近年では、特定の州や事例研究だけではなく、より包括的で長期的調査研究が行われるようになっ

た。まず、ジマーら(2009)は14)、8州において長期的な調査を行い、伝統的公立学校とチャー

タースクールに在籍する生徒の成績の比較検討を試みた。この調査では、両者に大差は見られない

こと、しばしば心配されてきたようなチャータースクールが伝統的公立学校の成績優秀者たちを取

り上げるというような現象は起きていないこと、人種的な階層化は見られないことが指摘された。

また、限られたデータではあったがチャーターのハイスクールを卒業した生徒は大学進学の比率が

比較して高いことも示された。

 ジマーらの研究も踏まえながら、15州とワシントンDCを含めた、これまででもっとも大規模な

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チャータースクールはアメリカ公教育を救うか 139

全国調査の報告(2009)がスタンフォード大学の教育成果研究センター(Center for Research on

Education Outcomes、以下CREDO)15)によるものである。この調査では、チャータースクールと

伝統的公立学校に通う生徒の各州のアチーブメントテストの成績の伸びを比較した場合、伸びがほ

ぼ同じかチャータースクール在籍者の方が悪いという結果が提示された。ただし、この結果は州ご

とにばらつきが見られ、チャータースクールの方が良い成果を上げている州があること、またそこ

には州のチャーター法との相関が見られることも指摘されている。さらに、この調査では、貧困家

庭の生徒の成績、英語学習が必要な生徒の成績は、チャータースクールにおいて伝統的公立学校に

通う生徒より伸びが見られたが、アフリカ系とラテン系の生徒の伸びは伝統的学校に劣るという結

果も示された。本稿で事例として取り扱うニューオーリンズ市を含むルイジアナ州については、総

合的な結果とはほぼ真逆の状況、つまりチャータースクールの生徒の成績のほうが良いという結果

が示されたが、これについては後述する。

 生徒の成績比較ではなく、人種やエスニックグループ、経済的背景などの特性に関する統計を

用いて、チャータースクールにおける人種統合・隔離の状態を明らかにしたのが、カリフォルニ

ア大学ロサンジェルス校の公民権プロジェクト(UCLA Civil Rights Project)である。この調

査(2010)からは、チャータースクールには、伝統的公立学校よりも特定の人種・エスニックグ

ループが集中していることが浮かび上がった。特にチャータースクールに通う黒人生徒の7割が、

在籍者の90%以上がマイノリティの生徒で占められている「非常に分離されたマイノリティ・

チャータースクール」に通い、ラテン系のおよそ半数も、生徒の90%がマイノリティという学校に

通う。この研究グループは、経済的背景や人種によって不利な立場に置かれている人々へも学校選

択の権利を保障するというチャータースクールが、実際は人種隔離の状態を永続化し、格差と不平

等を拡大していると指摘した。彼らはこの調査報告書のタイトルが示すとおり、チャータースクー

ルがもたらしたのは「平等なき選択」であったとし、「チャータースクールの政治的成功は公民権

における失敗」16)と非難して、より人種統合を目指すための基準を設置するよう訴えている。

 このように包括的研究の蓄積は進んでいるものの、非常に多様なチャータースクールについて、

ひとまとめにした結論を出すことは難しい。また、研究方法や結果、その解釈を巡っては、いまだ

それぞれの立場や見解からバイアスがかかった受け止め方、あるいは批判がなされることが多々あ

る。ニューオーリンズの事例についても同様に、評価が分かれており判断がつきにくいが、いくつ

かの先行研究を参考にその成果について検討したい。

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2.ニューオーリンズの事例

 ルイジアナ州のニューオーリンズ学区は、チャータースクールが全校数の71%と全米で突出して

いる17)。これは、2005年8月末に米国南東部を襲ったハリケーン・カトリーナ直後の教育改革の結

果による。ハリケーンは1500人以上の死者、150万人以上の被災地からの離散という大きな被害を

出した。なかでもルイジアナ最大の町ニューオーリンズは陸上面積の8割が水没し、48万人だった

市の人口は現在でも34万人までにしか回復していない。被災直後の復興政策についてはいまだ進ん

でいないという批判がある中で、教育改革はきわめてスピーディーに着手され、1年も経たないう

ちにニューオーリンズの公立教育組織図はすっかり塗り替えられた。

 ハリケーン以前のニューオーリンズは、低学力、人種と階級による教育の二極化という米国の、

特に都市部の学校に見られる教育問題の典型を抱え持っていた。さらにニューオーリンズの教育委

員会(オーリンズ郡教育委員会、OPSB)は財政破綻に加えて不透明な会計に疑惑が持たれており、

被災前から捜査や第三者組織による調査の対象となっていた18)。ニューオーリンズ学区の半数以上

の学校は、ルイジアナ州教育局によって「学術的に受け入れがたい」と見なされていたし、公立学

校の生徒の半数以上が算数と英語の基礎力に欠け、2004年の高校卒業試験では、生徒のうち、英語

では96%、数学では94%が「基礎」未満のレベルであった19)。このような恒常的教育不振の状況を

改善する対策の一つが、2003年にルイジアナ州が「失敗しつつある学校」の再生を目的として設置

した「再生学校区(RSD)」である。これにより、2004年には1校、2005年3月には4校が、RSD

の管轄へと引き渡され、チャータースクールとして改組されることが決定されていた20)。

 人種の偏りもニューオーリンズでは顕著であった。ルイジアナ州でもっとも早く人種統合が開始

された学区であったが、公立学校への黒人生徒の増加にしたがって、白人生徒の私立学校入学の増

加、あるいは白人家族が学区を離れるという、ホワイト・フライト現象が見られるようになる21)。

公立学校に占める黒人生徒の割合は1980年代には85%、被災前の2004年には94%で、白人生徒はお

よそ3%しか在籍していなかった。また、公立学校の77%の生徒が、昼食の無料または減額対象

者、つまり貧困家庭のこどもたちであった。2005年の同市の人口比率を見ると、アフリカ系は

65%、貧困ライン以下の家庭の子どもは40%であったことから、公立学校に黒人および貧困家庭の

生徒が集中していたことがわかる22)。2004年には、ニューオーリンズの三分の一の生徒は私立学校

に在籍していたが、この比率は全国平均の3倍である。また、私立学校在籍者数のうちの半数は白

人で占められおり、同一地域内での人種構成の差は明白である。ニューオーリンズには古くからカ

トリック系学校が多いという特性もあり、経済的な余裕のある非白人家庭もできるだけ評判の悪い

公立校を避けて私立学校を選択する。そのためニューオーリンズの公立学校はますます貧困層とア

フリカ系が集中するという状況にあった。

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チャータースクールはアメリカ公教育を救うか 141

 カトリーナ後の教育改革は、ルイジアナ州、ニューオーリンズ市長ネイギン率いるチーム(ニュー

オーリンズ復活委員会)を中心に進められた。ハリケーンの2か月後には、それまでOPSBの管轄

下にあった118の伝統的公立学校のうち102校が、RSDへと移管され、年内に2校、翌年1月までに

17校、新年度を迎える9月には31校と続々とチャータースクールが開校された23)。ブッシュ政権の

「落ちこぼれを作らないための初等中等教育法」の予算から、チャータースクールの再建と増設の

ために、被災直後に約2千万ドル、さらに翌年には2千4百万ドルの財政援助も行われた24)。こう

して被災前は一桁に過ぎなかったチャータースクールの数は、2010-2011年度では、公立学校88校

のうちの57校を占めるようになり、現在では7割を超える生徒が通うまでに成長した25)。

 2010年度現在、OPSBは、5つの伝統的公立学校と11校のチャータースクールを管轄している。

RSDの管轄下には、23校の伝統的公立学校と46校のチャータースクール、さらに、ルイジアナ初等

中等教育委員会(BESE)が直接管轄するチャータースクールが3校ある(図1)。ニューオーリ

ンズ教育委員会下の伝統的公立学校とチャータースクールの一部、およびBESE下のチャータース

クールの一部は入学時に選抜が行われるが、RSD管轄下の学校はオープンアドミッションである。

ただし、チャータースクールには規模に応じた定員があり、希望者多数の場合は抽選による選考が

行われる。ニューオーリンズのチャータースクールのほとんどは非営利組織によって運営されてお

り、独立型、地元のアルジャーズ・チャータースクール協会に所属する独立型の学校、および前述

のKIPP、ファーストラインスクールなどのような、ネットワーク化し、フランチャイズ校を持つ

ような非営利組織による学校がある。

26)

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プール学院大学研究紀要第51号142

 ニューオーリンズ・モデルの成果については、成績の向上を持って概ね成功したと見なされてい

る。まず、ルイジアナ州の4年生、8年生対象に行われるルイジアナ教育アセスメントプログラム

テスト(LEAP)や高校生用の卒業評価試験(GEE)のスコアについて、2005年から2010年の推移

を見ると、いずれにおいても大幅に伸びが見られる。LEAPは5段階評価で、上から上級、精通、基

礎、基礎前、不十分となっており、最低限の知識とスキルがあると見なされる「基礎」以上が望ま

しいとされる。その「基礎」以上の理解があると見なされる割合を比較すると、4年生の言語に

ついては2005年の43%から2010年には62%、数学は47%から59%、8年生の言語は36%から50%、

30%から50%といずれも向上している。さらに、10年生のGEEのスコアも、言語40%から52%、数

学39%から61%と伸びが見られる27)。

 チャータースクールと伝統的公立学校を比較した場合はどうか。前述のCREDO(2009)の調査で

は、チャータースクールは全体として伝統的公立学校と同じかそれ以下の成果しか上げていないと

指摘されたが、州によってばらつきがあり、ルイジアナ州を含む5州ではチャータースクールの方

が良い結果を出している。ルイジアナでは、チャータースクールの生徒は伝統的公立学校の生徒よ

り、算数と読解の成績の伸びが有意に高く、アフリカ系、低所得の家庭の生徒についての同科目の

伸びも高い。ラテン系の生徒については算数のみに非チャーター校より伸びが見られた。また、

チャータースクールでの1年目の成績は非チャーター校とさほど変わらないが、2年目、3年目と

年数が増えるごとに、成績の伸びが見られた28)。さらに前節で述べたニューオーリンズの管轄や区

分によって比較すると、OPSB管轄下の学校の成績がもっとも高く、ついで、BESE下にあるチャー

ター、もっとも成績が悪いのが、RSD管轄下の伝統的学校となっている29)。

 もともと成績優秀者に対する教育を念頭に置いて一部に入学選抜をおいているようなOPSBや

BESE下の学校の成績平均が良いのは当然であるが、チャータースクールの好成績については注意

深く解釈する必要もある。たとえば、チャータースクールには特別なニーズを持つ生徒の数が少な

い。これは、専門家の不在や施設の不備を理由に、入学志望の段階で受け入れが難しいことが伝え

られ、事前に排除が行われるためであると考えられる。また見込みのある生徒や家庭を選んで非公

式のリクルートが行われるケースもある。さらに、独自に作成した基準によって、態度や意欲のな

い生徒を退学処分にすることもできる。このため、どのような生徒でも受け入れる伝統的公立学校

よりは、成績の向上が数字に出やすくなる。また、ニューオーリンズ学区全体の成績が向上してい

る点についても、被災後ニューオーリンズを離れて戻らなかった人々との関連性という点で疑問も

残る。公立学校に通う生徒数は2004年は65,000人であったのが、被災後の2006年は25,600人にまで

減少し、2011年では39,739人である30)。最も被害を受けた貧困層が市を離れたままという見解もあ

り、それが公立学校の成績にどのように関係するかは不明であるが、無視できない要素である。

 一般に、チャータースクールの方が伝統的学校より成績向上が見られるのは、長い学習時間の設

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チャータースクールはアメリカ公教育を救うか 143

定、カリキュラムや指導の工夫、規律など、アカウンタビリティのために各学校が努力するためと

推測されているが、チャイルドレスとウェバー(2011)は、ニューオーリンズでの成功の要因が

改革精神にあふれた起業家たちによるリーダーシップと優れた人材の補パイプライン

給線にあると分析してい

る31)。ニューオーリンズの組織改革の一つは、被災を理由としてのこれまでの教職員全員7500人

の解雇であった。新規募集により旧教員が公立学校に復帰するケースもあったが、不足を埋めるた

めに、たとえば、「新しい学校のための新しいリーダー(2000年設立)」、「ティーチフォーアメリカ

(1990年設立)」、あるいはもっと地元の「ニューオーリンズのための新しい学校(2006年設立)」な

どの非営利組織を通して教員採用が行われた。主として貧困層へ良い教育を行うことを目的とする

このような組織は、企業による寄付によって運営費をまかないながら、大学を卒業したばかりの若

手を一定期間、全米の困難校に派遣する。参加者に教員免許の必要はなく、各団体の独自プログラ

ムで行われる教員研修を受講し、派遣地に赴く。参加者の多くは有名大学の卒業生で、組織の主旨

に賛同し、契約期間の間働く。短期間であるとはいえ、こうした組織での経験はキャリアアップに

もつながるため志願者は多いという。チャータースクールにとっても、このような人材を採用する

メリットは大きい。一日の学習時間が伝統校より長く設定され、アカウンタビリティを果たすため

に、アドミニストレーターにも教員にも厳しい条件が求められるチャータースクールでは、まだ家

庭を持たず、長時間の労働もいとわない前向きな若手は歓迎される。さらに州政府にとって、莫大

な人件費をアウトソーシングで削減することができるとあっては、たとえ専門性への疑問が残ると

しても採用しない手はない。ただし、現在の教育成果のいかんに関わらず、人材のアウトソーシン

グについては強い批判もあり、今後、長期的な効用と弊害について調査を要する。

 一方で、最も問題とされるのが、人種や階層による隔離の状況である。ミネソタ大学ロースクー

ルの人種・貧困問題研究所(IRP、2010)32)は、ニューオーリンズの新しい公立学校システムは、

教育機会の平等を提供していないと指摘している。IRPは、改革後の新しいシステムは、「分離す

れども平等」という名の階層システムを作り出し、少数のマイノリティを優秀な学校に送ることに

成功しているが、もっと多くの貧困層、マイノリティの生徒を底辺校に落とし込むことになったと

強く批判している。

 たしかに、改革後も公立学校に通う生徒の90%以上はアフリカ系アメリカ人で、人種分離の状況

はハリケーン以前と変化がない。特にRSDの非チャータースクールにおける黒人の在籍率は、他の

タイプの学校と比較して97%ともっとも高い33)。入学選抜のある学校、定員のあるチャータース

クールとは違い、RSDの伝統的公立学校は義務教育の対象となる生徒を全員受け入れなくてはなら

ない。そのため、保護者が積極的に学校選択に関わらなかった場合、希望のチャーターの抽選に漏

れた生徒、入学選考の不合格者、あるいは長時間の勉強に耐えきれずにチャーターを退学したか、

退学処分を受けた生徒が通うという、いわゆる「残りもののための学校」とならざるをえない34)。

2010-2011年度には約8800人の生徒、ニューオーリンズの公立学校在籍者の22%がこのRSD伝統

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プール学院大学研究紀要第51号144

的公立学校に在籍しているが、人種的偏りに加えて、このタイプの学校は、昼食プランの受給者が

99%と最も高く、標準テストの成績はどのタイプの学校の生徒よりずっと悪い35)。

 また、学内の環境や、生徒への扱いについても疑問の声があがっている。たとえば、RSD下の学

校では、2007-2008年度において生徒のうち28.8%、全国平均の4倍が停学に処され、全国平均の

10倍にも上る2.6%の生徒が退学処分を受けているが、これらの数は被災前よりもずっと高い。そ

の上、RSDでは、学内の安全確保のために、ハリクーン以前と比べてはるかに高額の予算を用いて

刑務所のような設備を置き、大勢の学内治安担当者を採用するようになった。2008-2009年度の間

に、RSDで使われた安全のための費用は換算すると生徒一人あたり690ドルで、これはカトリーナ

以前のオーリンズ郡教育学区の時代と比較して15倍にものぼる36)。

 以上のような状況から、RSDの特に非チャータースクールに在籍する、貧しいマイノリティの多

くにとって、学校選択は教育の質の向上をもたらしたとは言い難く、むしろ悪化した環境に押し込

む、あるいはさらに学外に排除するというようなことさえ起っているのではないかと危惧される。

おわりに

 ニューオーリンズの教育改革はまだ道途中である。たとえ、この改革がクラインがいうところの

「惨事便乗型資本主義」37)の信望者によって始められたとしても、おそらく現場では経済、社会的

に不利益な家庭背景を持つ生徒のためにという志を持つ人々が、一生懸命に教育に携わっているで

あろう様子もうかがい知れる。成績が成果の指標であるならば、確かにニューオーリンズのチャー

タースクールは成果をあげており、学区全体の平均値そのものを引き上げ、「すべてにおいて標準

以下」と批難され続けていたニューオーリンズの教育を、一挙に「模倣すべきモデル」としての地

位に格上げした。だが、その一方でますます疎外される人々を生み出す状況も報告されていること

に触れずに、この改革が「ニューオーリンズ公教育にとって最高のことであった」38)と賛辞を送る

のは早計である。それどころか、この10年の間にチャータースクールに批判的な論客が述べるよう

な傾向が明らかに見えてもきている。以下に本稿の結論のようでもあり、また今後の予言のようで

もある、アップルの声を引用したい。

市場は、<組織的に>社会経済的地位(以下、SES)のより高い家庭を、彼らの知識と物

的資源を通じて特権化する。これらは選択を最も行使するような家庭である。労働者階

級、貧民、あるいは有色の大多数の生徒に対してそこを抜け出す能力を与えるよりも、そ

れは他民族の生徒のいる学校や公立学校から退出する能力を高いSESをもつ家庭に対して

与えるのだ。激しくなった競争という状況のもと、このことは翻って、貧しい生徒や有色

の生徒が多く通う学校が、ここでもまた組織的に不利になり、高度のSESをもつ家庭と白

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チャータースクールはアメリカ公教育を救うか 145

人の生徒が多い学校は、市場の競争力の効果から免れることができるという衰退のスパイ

ラルを作り出す。「ホワイト・フライト」は、それゆえ、大部分は経済力によってすでに

優位にある学校の相対的地位を引き上げる。「他者」のための学校教育は、さらに両極化

され、下降線をたどり続けるのだ39)。

もちろん、ニューオーリンズでの現在の問題は、RSDの非チャータースクールであって、これら

をチャータースクールにしてしまえば解決するのではないか、という楽観的な意見もあろう。だ

が、義務教育であるかぎり、どこかに受け入れ可能な学校を残さなくてはならず、これが誰にとっ

てもあきらかな「残りもののための学校」になりはしないか。また、成績による成果を求めるあま

りに不適格者を閉め出すことが本当に適切な教育なのかどうか、そもそも成績だけのアカウンタビ

リティだけを求めることが本当に教育的なのか、という議論も根強い。設置後まだ間もないチャー

タースクールは、今のところはまだ革新的でプレッシャーにも負けない起業家精神、あるいは宣教

師的な献身でもって成果をあげているかも知れないが、やがて人も学校もバーンアウトするかもし

れず、政府からの財政援助もいつまで続くかわからないという不安が常につきまとう。市場まかせ

の不安定さの中で、成果があげられないとして学校が閉鎖となった場合、不利益を被るのは生徒、

それもおそらく最も不利益な環境に置かれた生徒である確立は非常に高い。

 近年、これまでになく経済格差が可視化され疑問の声があがる米国で、さらに両極化へと導くや

もしれぬ学校制度を拡大していくことが果たして適切な選択なのか。成績向上という側面だけでな

く、「組織的に不利な」学校を取り巻く諸問題についての言及なしに、ニューオーリンズ・モデル

を称えて採用することは大きな危険をはらんでいると言えるだろう。

1) Jennifer Media, “New York State Votes to Expand Charter Schools,” N���Y����T ��, 2010. 5. 28, アクセス日 2011. 9. 20, http://www.nytimes.com/2010/05/29/nyregion29charter.html?ref=education

2) たとえば、Stephen Maloney, “Nation’s Charter School Leaders Focus on New Orleans,” N���O���� �

C ���B�� �, June 1, 2007.3) The National Commission on Excellence in Education, “A nation at risk : The imperative for educational

reform,” Washington, DC, 1983.4) フィン・チェスター、マンノ・ブルーノ、グレッグ・バネリック『チャータースクールの胎動―新しい公

教育をめざして』青木書店、2001.5) マイケル・アップル『右派の/正しい教育:市場、水準、神、そして不平等』第二版、世織書房、2008.6) 高野良一「小さなチャータースクールの現実と可能性」、『法政大学文学部紀要第48号』、137-161、法政大

学文学部、2003. 前掲フィン他、p. 3677) The Center for Education Reform, “Facts,” http://www.edreform.com/issues/choice- charter-schools/

facts/アクセス日 2011. 9. 20.8) Scott S. Cowen Institute for Public Education Initiatives, “NOLA by the Numbers: School Enrollment &

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Demographics,” Tulane University, March 2011.9) National Alliance for Public Charter Schools, “The public charter school dashboard: A comprehensive

data resource from the national alliance for public charter schools,” http://dashboard.publiccharters.org アクセス日 2011. 9. 20.

10) 同上、2010年度データ参照。11) Julie Bennett, “Brand-Name Charters: the franchise model applied to schools,” E������� �N���, 28-

34, Summer, 2008 ; Gary Miron and Jessica L. Urschel, “Profiles of nonprofit education management organizations: 2009-2010” National Education Policy Center, 2010. こうした複数の学校を管理・運営する組織は、教育経営組織(Education Management Organization, EMO)と呼ばれる。EMOをすべて一括して「公立学校を経営する民間組織、あるいは会社」と定義し、その中で、営利、非営と分類することがある一方で、非営利組織のみを区別して「チャーター経営組織(Charter Management Organization, CMO)と分類する場合もある。あるいは、単に「ネットワークチャーター」と呼ばれることもある。

12) National Resource Center on Charter School Finance and Governance, “Mapping the Landscape of Charter Management Organizations : Issues to Consider in Supporting Replication,” March 26, 2010.

13) Gary Miron, Jessica L Urschel, and Nicholas Saxton �W����M����KIPP �W�����A �S ��������S ���� ��

C��������������A ������� ��� ��S������F � � ���� College of Education and Human Development, Western Michigan University, March 2011.

14) Zimmer, Ron, Brian Gill, Kevin Booker, Stephane Lavertu, Tim R. Sass and John Witte. “Charter Schools in Eight States : Effects on Achievement, Attainment, Integration, and Competition,” RAND Corporation, 2009.

15) Center for Research on Education Outcomes (CREDO), “Multiple Choice: Charter School Performance in 16 States,” CREDO, Stanford University, June 2009.

16) Erica Frankenberg, Genevieve Siegel-Hawley, and Jia Wang, “Choice without Equity : Charter School Segregation and the Need for Civil Rights Standards,” The Civil Rights Project, 2010.

17) 前掲、 “NOLA by the Numbers : School Enrollment & Demographics.”18) Scott S. Cowen Institute for Public Education Initiatives, “The State of Public Education in New Orleans:

Five Years After Hurricane Katrina,” Tulane University, July 2010.19) 同上.20) Scott S. Cowen Institute for Public Education Initiatives, “The Recovery School District in New Orleans

2003-2011,” Tulane University, 2011.21) Carl L. Bankston and Stephen J. Caldas, A �T��������D�����T���P������ ��F����������S������D���������� �

� �L����� �, Vanderbilt University Press, 2002.22) 前掲、“The State of Public Education in New Orleans : Five Years After Hurricane Katrina.” 23) Luis Mirón, “The Urban School Crisis in New Orleans : Pre-and Post-Katrina Perspectives,” Journal of

Education for Students Placed at Risk, Volume 13, Issue 2-3, 2008 ; Boston Consulting Group, Greater New Orleans Education Foundation, Tulane University, Scott S. Cowen Institute for Public Education Initiatives, New Orleans, City Council. Education Committee “The State of Public Education in New Orleans: A Report,” Boston Consulting Group, 2007.

24) Leigh Dingerson, “Dismantling A Community Timeline,” H ����S������J��� ��, V. 90, n2, p8-15, Dec2006-Jan 2007, University of North Carolina Press.

25) Scott S. Cowen Institute for Public Education Initiatives, “The 2011 State of Public Education in New Orleans,” Tulane University, 2011.

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26) 同上、p. 2を参照して筆者が作成。27) 前掲 “The State of Public Education in New Orleans : Five Years After Hurricane Katrina”28) Center for Research on Education Outcomes (CREDO), “Charter School Performance in Louisiana,”

CREDO Stanford University, June 2009.29) Scott S. Cowen Institute for Public Education Initiatives, “NOLA by the Numbers: High-Stakes Testing,

2010-2011,” Tulane University, May 2011.30) 前掲、“The 2011 State of Public Education in New Orleans.”31) Stacey Childress, James Weber, “Public Education in New Orleans: Pursuing Systemic Change through

Entrepreneurship,” Harvard Business School, Mar 31, 2010.32) Institute on Race and Poverty, “The State of Public Schools in Post Katrina New Orleans : The Challenge

of Creating Equal Opportunity,” University of Minnesota Law School, May 15, 2010.33) 前掲、 “NOLA by the Numbers: School Enrollment & Demographics.”34) American Teacher, “Dual and unequal systems undermine learning in New Orleans,” September 1, 2007.35) 前掲、“NOLA by the Numbers: School Enrollment & Demographics.”36) Elizabeth Sullivan and Damekia Morgan, “Pushed Out : Harsh Discipline in Louisiana Schools Denies the

Right to Education: A Focus on the Recovery School District in New Orleans,” National Economic and Social Rights Initiative (NESRI) & Families and Friends of Louisiana’s Incarcerated Children (FFLIC). Spring 2010.

37) ナオミ・クライン 『ショック・ドクトリン―惨事便乗型資本主義の正体を暴く』岩波書店、2011.38) Nick Anderson, “Education Secretary Duncan calls Hurricane Katrina good for New Orleans schools,”

W��� ��� �P��, 2010.1.30, アクセス日2011.9.20, http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/01/29/AR2010012903259.html

39) 前掲、マイケル・アップル、p. 83.

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(ABSTRACT)

Can Charter Schools Save American Public Schools?

A Case Study in New Orleans

KWON Hitomi

  This article examines the education reform in New Orleans, Louisiana after the devastating

Hurricane Katrina in 2005. The number of charter schools in New Orleans has sprung up to

over 70%of public schools, now the largest number in the U.S., and the reform has been praised

as a successful model. School performance and the results of standardized tests actually show

great improvement, especially among charter school students; nevertheless, lower test scores, a

high concentration of black students and students in poverty are found in the Recovery School

District non-charter schools, administrated by the Louisiana Department of Education for the

purpose of taking over “academically failing schools.”

  Although charter schools are believed to be innovative alternatives to increase the school

choice among parents regardless of color and class, and to improve the quality of education,

many argue that market principles often lead to even greater stratification, and do not offer

choice to those placed in the bottom of the social hierarchy. The case study of New Orleans

shows that although the overall performance has improved, the stratification has also deepened.