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アドホックネットワークを用いた位置に依存する実空間情報の共有/提示システム
島田秀輝†, 天目隆平‡, 牧田孝嗣†, 砂原秀樹†, 横矢直和†
† 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科‡ 立命館大学 総合理工学研究機構
Location-dependent Information of Real World Sharing andPresentating System on Ad-hoc Network
Hideki Shimada†, Ryuhei Tenmoku‡, Koji Makita†, Hideki Sunahara†, and Naokazu Yokoya†
† Graduate School of Information Science, Nara Institute of Science and Technology
‡ Research Organization of Science and Engineering, Ritsumeikan University
1 はじめに
モバイルアドホックネットワーク (MANET) とは,端末に備えられた無線ネットワークデバイスを利用し,端末が自律的に構築するネットワークである.アクセスポイントを使用した1ホップのみの無線ネットワークとは異なり,無線ネットワークデバイスを装備した端末が,マルチホップでインフラ設備を用いずに通信を行う.このとき,各端末はMANETのルーティングプロトコルを利用し,経路を管理する.
また,地域情報検索サービスに代表されるように,インターネット上において実空間の位置情報を利用する仕組みが注目されている.地理的な位置情報を取得するデバイスとして,GPS,無線 LANなど数多く存在する.地理的位置情報とMANETを組み合わせた研究としては,位置情報を用いたルーティングプロトコルの研究が挙げられる.LAR(Location Aided Routing)
など数多く提案されているが,それらはルーティングパケットの削減を目標としており,アプリケーション上にて利用されていない.
本研究では,MANET を構築するユーザ端末に対して地理的位置情報を提供し,ユーザ端末が取得する位置依存情報をMANET上において共有するシステムの構築を行う.地理的位置情報を提供する仕組みとして,奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科視覚情報メディア講座において開発された「赤外線ビーコンを用いた位置同定システム」を用いる.本デバイスを用いることによって,GPSでは取得することができない屋内での位置情報が取得可能となる.また,端末間の通信はネットワークインフラを用いず,MANETの技術を利用し,マルチホップ無線ネットワークを構築し通信する.
デモンストレーションシステムでは,MANET 端末を持つユーザがその場所で取得した位置依存情報に対して位置の属性を付ける.属性が付けられた位置依存情報は近隣の各MANET
端末に送信され,各端末では,存在する場所に応じた情報が,端末に表示される.また,時間や場所によって変化しない固有の情報に関しては,事前に各端末が管理しているものとする.このように静的である建物などの情報を各端末が保持し,移動する
場所や時間に依存する動的な位置依存情報を端末間でMANET
を構成し,やり取りすることで,リアルタイムかつユーザのコンテキストに応じた情報を共有/提示する.デモンストレーションシステムにおける機能としては,以下
の項目が挙げられる.
• MANET を構成し端末間で位置依存情報を Peer-to-Peer
で共有
• 属性が付けられた位置依存情報の共有メカニズム• 赤外線ビーコンを用いた位置同定システム
現状のMANETでは,軍事/災害などの利用例は存在するが日常生活に身近な利用例は少ない.今回,奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科の視覚情報メディア講座とインターネット・アーキテクチャ講座,それぞれの研究成果を融合し,ネットワークインフラを想定しないユビキタス環境におけるMANET
の実用的な利用方法のデモンストレーションを行う.
2 システム概要図 1に示す視覚情報メディア講座によって開発された「注釈
情報をネットワーク共有したウェアラブル拡張現実感システム」では,中央にサーバを設置し,ユーザ端末はサーバに対して自身の位置情報を送信し,その位置情報に対応する注釈情報を取得する [1].このシステムの場合,全端末はインターネット接続性が必要となり,専用のサーバを設置するなどネットワークインフラが必要という問題がある.シンポジウムなどのように一時的なイベントなどでは,インフラの設置コストが大きくなり利便性に欠ける.このような問題点を解決するために,ユーザ端末同士でア
ドホックネットワークを構築し,情報共有する仕組みを考える.ユーザ端末は,無線ネットワークデバイスを搭載しており,アドホックモードで動作させる.ネットワークインフラを用いずにユーザ端末間にて,アドホックネットワークのルーティングプロトコルを動作させることによって,独立したアドホックネット
注釈情報
データベース
+
注釈の位置
画像
映像
音声etc
ウェアラブル
PC
位置
注釈
情報
デスクトップ
PC
注釈情報
の提供者
・
・
・
・
・
・
注釈
情報
サーバ
ウェアラブル
PC
モバイル
PC 注釈
情報
ウェアラブル
PC
ウェアラブル
PCのユーザ
: 有線ネットワーク : 無線ネットワーク
図 1: 注釈情報をネットワーク共有したウェアラブル拡張
現実感システム
ワークを構築する.インターネットのような形式のネットワークとは異なり,その場で構築するためサーバなどが存在しない.そのため,端末がその移動先で取得した情報 (位置依存情報)は,アドホックネットワークに属するユーザ端末間で Peer-to-Peer
でやり取りするものとする.また,ユーザ端末での位置依存情報の提示についても考えな
ければいけない.ユーザ端末には,自身の位置を取得するためのデバイスである赤外線受光器,所在する地点の画像を撮影するためのカメラを搭載する.そして,カメラによって撮影されている現実空間の画像と共に,ユーザ端末間で共有する位置依存情報をコンテキストに応じて,利用者に提示する.デモンストレーションシステムの構成に関して,図 2に示す.後節にて,本システムの要素技術に関して説明を行う.
ユーザ端末
ユーザ端末
ユーザ端末
ユーザ端末
赤外線センサ
位置ID
注釈付加画像
学生室
帰宅
授業中
Aさんブース
Bさんブース
赤外線センサ
赤外線センサ
赤外線センサ
ユーザ端末
MANETを構築
位置ID
図 2: アドホックネットワークを用いた位置に依存する実
空間情報の共有/提示システム
3 アドホックネットワークアドホックネットワークとは,無線ネットワークデバイスを搭
載した端末が,ネットワークインフラを用いず自律的に構成するネットワークである.ネットワークインフラを構築することが不可
能である戦場における端末間での通信を行うために開発が進められ,現在では車車間通信,センサネットワークなどの分野で利用されている.このように無線端末間で自律的に通信を行うために必要となる技術としてルーティングプロトコルが挙げられる.現在も IETF(Internet Engineering Task Force)内のMANET WG
にて標準化活動が進められ,AODV[2], OLSR[3], TBRPF[4]
の 3つが RFC(Request For Comment)として発行されている.OLSRやTBRPFのようなProactive型とAODVやDSRのようなReactive型に分けられ,現在は,それぞれPMP(Proactive
MANET Protocol),RMP(Reactive MANET Protocol)にまとめられつつある.
図 3: OLSR daemon動作図
今回のデモンストレーションシステムでは,図 3 のようにUniK 大学などで開発されている OLSR daemon を用いた.OLSR daemon は様々なプラットフォームに対応する RFC準拠の仕様を備えたパッケージである.デモンストレーションシステムでは,ユーザ端末に一意なプライベートアドレスを割り当て,OLSR daemon を用い MANET を構成する.ユーザ端末の環境としては,Windows XP上にて Centrinoベースの無線ネットワークデバイスを使用し,無線ネットワークデバイスをアドホックモードで動作させている.
4 位置依存情報共有メカニズム本デモンストレーションシステムでは,端末間でやり取りす
る情報として,位置に依存する情報を対象とする.MANETの特徴として,インフラを必要としないことが挙げられる.そのため,電池電源の問題は存在するが,ネットワーク,電源といったケーブル類に縛られることなく端末を持ち運びできる.端末を持ち運ぶことによって,ユーザは移動先にて様々な情報を取得することができる.我々は,このような位置に依存した情報を表 1のように二つ
のタイプに分類し,それぞれを異なる方法で管理し,MANET
の環境に対応させることにする.一つ目は,静的な位置依存情報である.これは,住所や建物の情報といった案内板などに書かれている,一度設定されると時間が経過したとしても変化が少ないとされる情報を示す.変化量の少ない静的な情報も,MANET
を構成するユーザ端末間でやり取りする仕組みも考えられるが,そうすることによって,後述する変化量の大きい動的な位置依存情報の交換に不都合になると問題である.そこで,本デモン
表 1: 位置依存情報の分類
タイプ 時間的変化量 管理方法 情報の例
静的 小さい 各端末内で管理 部屋配置情報動的 大きい MANET内で共有 イベント情報,評判情報
ストレーションシステムでは,このような静的な情報は,あらかじめユーザ端末が保持するものとする.
一方,ユーザ端末が移動先で生成する動的な位置依存情報という情報も存在すると考えられる.静的な位置依存情報とは異なり,時間変化によって内容が変化し,また,情報作成者のコンテクストによって変化する情報のことである.
本デモンストレーションシステムでは,ユーザ端末間でMANET を構築しネットワークを形成するため,ネットワークインフラを用いない.そのため,端末が提供/取得する位置依存情報を管理するサーバの利用は想定されない.そこで,この位置依存情報をユーザ端末間で Peer-to-Peerで共有することを考える.また,MANET端末間で情報共有を行うため,無線状態が不安定であり,リンク状態が頻繁に変化する.その結果,各ユーザが生成した位置依存情報を自身のみで管理すると,リンクが切断された際に,他の端末が参照できなくなる.そのため,他の端末にデータの複製を持たせる必要がある.今回のシステムでは,複製データの配置問題に関しては未実装であるが,今後,研究を進める予定である.
5 赤外線センサを用いた位置同定
本デモンストレーションでは,環境中のウェアラブルコンピュータのユーザの位置を赤外線センサを利用して同定する [5].図 4に屋内環境でのユーザ位置同定に用いる赤外線センサを示す.赤外線センサは,環境に設置され,位置 IDの送信に用いる赤外線ビーコン送信機と,ユーザが装着し送信機から送られる位置 IDの識別が可能な赤外線ビーコン受信機から構成される.赤外線ビーコン送信機は,図 5に示すように環境中の天井等に設置される.各送信機からは,その送信機が設置された地点を示す位置 ID を含むビーコンが常時送信され,ユーザが装着する受信機がビーコンを受信することでユーザ位置を離散的に特定する.
赤外線ビーコン送信機から送信される赤外線ビーコンには指向性がある.赤外線ビーコンを受信可能な範囲は,送信機を設置する環境によって異なる.提案システムで用いる送信機のビーコンの送信範囲は,図 5に示すように通常の屋内環境の天井に設置した場合,受信機が取り付けられる高さで半径約 1メートルの円になるように送信範囲の調節を行っている.また,赤外線発光部を遮光物で覆うことで送信範囲をさらに狭めることが可能である.
(a) 赤外線ビーコン送信機
(b) 赤外線ビーコン受信機
図 4: 赤外線センサ
6 デモンストレーションシステムの流
れ前節までに述べたような技術を用い,本デモンストレーショ
ンシステムは構成されている.本節では,システム全体の流れについて述べる.システムを動作させる際に必要な準備事項は以下のとおりである.
• 赤外線ビーコン送信機の設置• 赤外線ビーコンの受信範囲と位置 IDと場所の対応付け
• 位置 IDに対応する静的な位置依存情報の生成
屋内にて位置情報を取得するために赤外線ビーコン機器を利用する.そのため,赤外線ビーコン送信機を会場に設置する必要があるが,AC 電源だけでなく,乾電池でも動作し,サイズも7.5cm× 5.0cm× 3.0cmと小型であるので,環境に依存せず簡便に設置することが可能である.また,端末に関してであるが,専用端末を用いなくても,端
末を新規に追加する場合,無線ネットワークデバイスを装備していれば,下記の設定を行うことによって,システムに参加することができる.
図 5: 赤外線ビーコン送信機の設置例
• 位置依存情報交換用ソフトウェアのインストール• 赤外線ビーコン受信機とWebカメラを,端末にUSBケーブルで接続
• IPアドレスなど無線ネットワークデバイスの設定を行い,MANETのルーティングプロトコルを実行
ユーザ端末はMANETを構築しているため,事前の設定を省略すべきである.しかし,他の無線インフラへの影響,セキュリティの問題などを回避するために,本システムでは無線チャネル,WEPなど最低限の無線ネットワークデバイスの設定を行っている.
図 6: デモンストレーションシステム実行画面
システム全体の流れは以下のようになる.また,実行画面は,図 6のようになる.
1. ユーザ端末では MANETのルーティングプロトコルが動作しており,近隣の端末とネットワークを形成している.
2. 搭載された赤外線ビーコン受信機を用いて,各所に設置された赤外線ビーコン送信機からの赤外線ビーコンを受信し,ユーザ端末は自身の位置情報 (赤外線送信機の位置 ID)を取得する.
3. ユーザ端末では,位置 IDを受信することにより,その場所に対応付けられたメッセージが表示される.これによって,ユーザはその場所に依存した情報を参照する.
4. ユーザは,移動先にて情報の入力を行い位置依存情報を作成する.この際,作成された位置依存情報には,ユーザの位置情報の属性が付けられる.
5. 位置情報の属性が付けられた位置依存情報は,近隣のMANETを構成する端末に送信される.
6. 各端末は,その位置に移動した際に,対応する位置依存情報を参照する.
7 おわりに本稿では,奈良先端科学技術大学院大学の二つの研究室で作
り上げたプロジェクトによる成果に関して述べた.アドホックネットワークの技術は,ルーティングプロトコルなどの標準化活動が着々と進行する中,利用例となる目立ったアプリケーションが登場していないというのが現状である.今回,MANET端末間でやり取りする情報として,位置依存情報に着目した.そして,その位置依存情報に対する位置の属性を付けるために,赤外線ビーコンを利用したユーザ位置同定手法を利用した.このように,センサを設置し,端末に固定的な情報を持たせるのみで,小さいエリアながら,簡易に位置依存情報を共有できるシステムを構築することを示した.今後の課題としては,位置依存情報の複製方式の導入,小型
端末への対応などを考えている.
謝辞本研究の一部は,文部科学省 21世紀 COEプログラム (研究
拠点形成費補助金) の研究助成によるものである.ここに記して謝意を表す.
参考文献[1] K. Makita, M. Kanbara, N. Yokoya : “Shared annotation
database for networked wearable augmented reality sys-
tem”, Proc. 5th Pacific Rim Conf. on Multimedia, Vol. 3,
pp. 499-507, (2004).
[2] C. Perkins, E. Belding-Royer, S. Das : “Ad Hoc On
Demand Distance Vector (AODV) Routing”, RFC3561,
http://www.ietf.org/rfc/rfc3561.txt, (2003).
[3] T. Clausen, P. Jacquet : “Optimized Link State Rout-
ing Protocol (OLSR)”, RFC3626,
http://www.ietf.org/rfc/rfc3626.txt, (2003).
[4] R. Ogier, F. Templin, M. Lewis : “Topology Dissem-
ination Based on Reverse-Path Forwarding (TBRPF)”,
RFC3684, http://www.ietf.org/rfc/rfc3684.txt, (2004).
[5] R. Tenmoku, M. Kanbara, N. Yokoya : “A Wearable Aug-
mented Reality System Using Positioning Infrastructures
and a Pedometer”, Proc. IEEE Int. Symp. on Wearable
Computers, pp. 110-117, (2003).