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2009.1 金属資源レポート 土屋 春明 北京事務所 所長 中国タングステン・モリブデンフォーラム 現在中国の独占状態にあるタングステンは、基本的には大規模な鉱床でなく、生産地は程良く世界中に分布して いた。このため埋蔵量の多くが中国にあったにも拘わらず、世界中でも生産され、かつては日本でもいくつかの鉱 山が存在した。しかし 1980 年代になると中国の外貨獲得政策に基づくタングステンの輸出攻勢が起き、タングス テン価格が下落、世界の鉱山は相次ぎ閉山に追込まれ、それ以降、市場は中国に支配されることになった。高騰を 探ると、天安門事件や輸出許可発給量の制限等、必ず原因は中国発信であり、最近では 2005 年の増値税撤廃を契 機に価格が一気に跳ね上がったことが記憶に新しい。これに追い打ちをかけるように、輸出税の賦課、課税対象品 目の追加等、中国政府による統制が止まらない。市場を牛耳った後の中国は、さらに、輸出品目への付加価値化と あからさまな行動である。そのような事情から、タングステン供給のほとんどを担う中国が開催するタングステン・ モリブデンフォーラムは日本にとっても重要な情報源として位置付けられた。 フォーラムの開催都市は洛陽で、主催者の中国有色金属工業協会代表は、「洛陽は中国史上 9 回首都となった。 今はタングステンとモリブデンで 10 回目の首都となっている。」 とオープニングスピーチで紹介するほどその重要 性を強調していた。 以下に、フォーラムで得られた中国におけるタングステンとモリブデンの概況を記すと共に、次の 5 つの報告に ついて紹介する。 ①中国タングステン産業と当面する課題 ② 2007 年の国内タングステンの消費と供給 ③中国のタングステン・モリブデン資源及びその管理政策についての分析 ④技術革新と省エネ・排出量削減により洛陽モリブデンを世界一流の鉱業グループに ⑤中国の鉄鋼産業におけるモリブデン需要とその購入モデル Ⅰ. フォーラムの概要と中国のタングステン・ モリブデン概況 - 1. フォーラムの概要 2008中国国際タングステン・モリブデンフォーラ ムは 9 月 17 ~ 19 日間に、中国洛陽にある Lee Royal Hotelで開催された。中国有色金属工業協会主催、 Beijing Antaike Information Development Co. Ltd. Shangxiang Minmetals Inc. が運営、2008 年は第 2 回目 になる。その他の協賛等は以下に列記した。参加者数 は登録ベースで 189 名、30 ~ 40 歳代の中国人が中心 で、ベースメタル関係のフォーラムとは異なり若い世 代の参加者が多く見られた。日本関係では、JOGMEC 2 名の他、日系企業から 2 名の参加があった。 主催: China Nonferrous Metals Industry Association (CNIA:中国有色金属工業協会) 運営: Beijing Antaike Information Development Co., Ltd. Shangxiang Minmetals Inc. 協賛: The People’ s Government of Luanchuan County, Henan Province China Molybdenum Co., Ltd. Jiangxi Rare Earth and Rare Metals Tungsten Group Co., Ltd. (JXTC) Jiangxi Tungsten Industry Group Co., Ltd. Chongyi Zhangyuan Tungsten Co., Ltd. Xiamen Tungsten Co., Ltd. (XTC) Advanced Technology & Materials Co., Ltd. (AT&M) 本フォーラムは 6 セッションに分かれた 17 講演 (オープニングスピーチを除く)と最終日のモリブデ ン工場見学から構成された。 - 2. 中国のタングステン・モリブデン概況 - 2 - 1. タングステン 2007 年、中国のタングステンの鉱石生産は 80,438t で 2006 年からは微増、APT ベースでは 20%の増加 をしている。総売上は 356 億元(14.16% up)、利益は 67 億元(5.56%)、輸出は 29,914t(カーバイドを含む 金属量ベース 5.66% down)である。 2008 年は、生産量は引続き微増であるが、製錬関 係段階の事業では利益は減少、カーバイド関係事業で は増加している。 北 良行 金属資源備蓄部 企画課長 83 669

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2009.1 金属資源レポート

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中国タングステン・モリブデンフォーラム

土屋 春明北京事務所 所長

中国タングステン・モリブデンフォーラム

現在中国の独占状態にあるタングステンは、基本的には大規模な鉱床でなく、生産地は程良く世界中に分布していた。このため埋蔵量の多くが中国にあったにも拘わらず、世界中でも生産され、かつては日本でもいくつかの鉱山が存在した。しかし 1980 年代になると中国の外貨獲得政策に基づくタングステンの輸出攻勢が起き、タングステン価格が下落、世界の鉱山は相次ぎ閉山に追込まれ、それ以降、市場は中国に支配されることになった。高騰を探ると、天安門事件や輸出許可発給量の制限等、必ず原因は中国発信であり、最近では 2005 年の増値税撤廃を契機に価格が一気に跳ね上がったことが記憶に新しい。これに追い打ちをかけるように、輸出税の賦課、課税対象品目の追加等、中国政府による統制が止まらない。市場を牛耳った後の中国は、さらに、輸出品目への付加価値化とあからさまな行動である。そのような事情から、タングステン供給のほとんどを担う中国が開催するタングステン・モリブデンフォーラムは日本にとっても重要な情報源として位置付けられた。

フォーラムの開催都市は洛陽で、主催者の中国有色金属工業協会代表は、「洛陽は中国史上 9 回首都となった。今はタングステンとモリブデンで 10 回目の首都となっている。」 とオープニングスピーチで紹介するほどその重要性を強調していた。

以下に、フォーラムで得られた中国におけるタングステンとモリブデンの概況を記すと共に、次の 5 つの報告について紹介する。①中国タングステン産業と当面する課題② 2007 年の国内タングステンの消費と供給③中国のタングステン・モリブデン資源及びその管理政策についての分析④技術革新と省エネ・排出量削減により洛陽モリブデンを世界一流の鉱業グループに⑤中国の鉄鋼産業におけるモリブデン需要とその購入モデル

Ⅰ. �フォーラムの概要と中国のタングステン・モリブデン概況

Ⅰ-1. フォーラムの概要2008 中国国際タングステン・モリブデンフォーラ

ムは 9 月 17 ~ 19 日間に、中国洛陽にある Lee Royal Hotel で開催された。中国有色金属工業協会主催、Beijing Antaike Information Development Co. Ltd. とShangxiang Minmetals Inc. が運営、2008 年は第 2 回目になる。その他の協賛等は以下に列記した。参加者数は登録ベースで 189 名、30 ~ 40 歳代の中国人が中心で、ベースメタル関係のフォーラムとは異なり若い世代の参加者が多く見られた。日本関係では、JOGMEC 2 名の他、日系企業から 2 名の参加があった。

主催:   China Nonferrous Metals Industry Association

(CNIA:中国有色金属工業協会)運営:   Beijing Antaike Information Development Co., Ltd.  Shangxiang Minmetals Inc.協賛:   The People’s Government of Luanchuan County,

Henan Province

  China Molybdenum Co., Ltd.   Jiangxi Rare Earth and Rare Metals Tungsten

Group Co., Ltd.(JXTC)  Jiangxi Tungsten Industry Group Co., Ltd.  Chongyi Zhangyuan Tungsten Co., Ltd.  Xiamen Tungsten Co., Ltd.(XTC)   Advanced Technology & Materials Co., Ltd.

(AT&M)

本フォーラムは 6 セッションに分かれた 17 講演(オープニングスピーチを除く)と最終日のモリブデン工場見学から構成された。

Ⅰ-2. 中国のタングステン・モリブデン概況Ⅰ-2-1. タングステン

2007 年、中国のタングステンの鉱石生産は 80,438tで 2006 年からは微増、APT ベースでは 20%の増加をしている。総売上は 356 億元(14.16% up)、利益は67 億元(5.56%)、輸出は 29,914t(カーバイドを含む金属量ベース 5.66% down)である。

2008 年は、生産量は引続き微増であるが、製錬関係段階の事業では利益は減少、カーバイド関係事業では増加している。

北 良行金属資源備蓄部 企画課長

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中国タングステン・モリブデンフォーラム

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年頭に雪害があり、2008 年前半は生産量が減っている。精鉱生産は上期 37,137t で 6.37%の減少。これにより国内価格が一時上昇したが、現在は少し下降気味。国際価格はアメリカのドルを中心とした経済の減退、輸出税の増加により若干の減少傾向にある。一方で、原料等の価格が上昇したため生産コストは増加傾向にある。

中国のタングステン企業としては、年商 10 億元を超えるものが 7 社で、うち 4 社は 40 億元を超える。この 7 社で総売上高の 50%を超える。

2007 年のタングステン産業への投資は若干過熱気味で 30 億元となり、2002 年からの合計投資額の 30%を占める。投資は探査から製錬に及ぶ。探査については、拡張、再開を含めて 8 つのプロジェクトが立ち上がり、山元での処理能力は選鉱過程までで 170 万 t 増加。なお、中国が世界のタングステンの 80%を供給している。

中国では政策として川上から川下へ向けた動きが進められてきたが、このところ付加価値化のペースが鈍っている。(1)政策等

タングステンは 1991 年に、規制すべきマテリアルとして規定され、2001 年には EL 枠が発表された。政策による規制はさらに強化され、2008 年には新しい制限が 1 月から実行されている。2007 年から実施された輸出税は 5 ~ 15%に増加している。フェロタングステン、フェロシリコタングステンは 2008 年から制限、タングステン製品 15 項目については加工貿易が禁止されている。

政策面では引続き統制が行われる見通し。2008 年の輸出枠は 14,900t で 5%の減少。輸出規制等により小規模生産者がつぶれ、包括して大きな競争力のある生産者に統合される方向にある。

(2)需要中国の需要はさらに増加、現在の市場における強い

立場もしばらく継続される模様。現在、タングステン産業界では省エネ、汚染対策、

リサイクル等の実施、低品位鉱石活用の調査等を進めている。特に、スクラップの活用が今後注目される。

中国での消費は Hard alloy(43.6%)、Special steel(33%)、Tungsten semis(14.3%)、Chemicals(9.2%)の比率である。

(3)供給中国の主要なタングステンの山元生産地は従来から

江西省、湖南省であり、両省計 84%に達する。新規地域も含めた主な生産地(省)の概要は以下のとおりである。①従来の生産地

江西省(Jiangxi Province):鉱石(37,250t)と APTの供給地であり 21 の APT 生産者で 92.7kt の能力あり。

パウダー 5,360t、カーバイド 4,693t湖南省(Hunan Province):鉱石(30,952t)その他、雲南省(Yunnan Province)、広西チワン族

自治区(Guangxi Province)が主な生産地域。②新規地域での動き

河南省(Henan Province):リサイクル関係で 2003年にChina Molybdenum Group and Xiamen Tungsten Co. が設立される。

甘粛省(Gansu Province):Xinzhou 鉱山を合弁事業として立上げる。

福建省(Fujian Province):Ninghua Hangluokeng 鉱山が立上がった。

Ⅰ-2-2. モリブデン中国のモリブデンの生産量は前年の 66,300t から

79,600t まで増加、見掛消費量は 53,000t といわれる。輸出はチリ、アメリカについでの 3 位で、世界の24%を占める。

中国は世界最大の鉄鋼消費国であり、モリブデン消費量は世界全体のモリブデン総消費量の 13%を占めているが、欧州 30%や米国 23%のレベルにはまだ及ばない。2007 年の世界全体の鋼生産量は約 13.4 億t で、モリブデンの世界総消費量は金属量換算で 20.4万 t、うち鋼鉄業の消費量は金属量換算で 15.7 万 t であった。2007 年の中国の鋼生産量は約 4.89 億 t、モリブデン総需要量は約 4.2 万 t であったが、モリブデンの鉄鋼業における消費量は金属量換算で約 3.24 万 t であった。中国のモリブデン総需要量は世界総消費量の20.6%を占めているが、世界全体のモリブデン需要量と比べるとまだその比率が小さいこともあり、将来的に大きな発展の余地があると言える。

ここ数年、中国の鉄鋼業は飛躍的な発展を遂げ、ステンレスの生産能力が大幅に拡大している。鋼生産量は 2000 年の 1.27 億 t から 2008 年には 5.35 億 t に増え、ステンレス生産量は 2007 年には 700 万 t を突破し、2010 年には 975 万 t に達することが予想されている。ここ 2 ~ 3 年のモリブデン消費量も毎年 10%以上の伸び率で拡大している。モリブデン含有ステンレスや低合金鋼、特殊鋼を中心にモリブデン需要が増え、モリブデンの国内生産量も増加傾向を維持していくことが予想される。

2007 年での使用分野の 80%が鉄鋼で 11%が化学用、このうち鉄鋼業におけるモリブデン需要はフェロ・モリブデン(FeMo)が主流で、以下のような鉄鋼製品がある。なお、中国産業全体でもモリブデン原料はフェロ・モリブデンが主要であるが、数値的に見ると86.5%から 73%に減少傾向にある。①炭素鋼: 配管用鋼管(X50-X120、含有率 Mo 0.1 ~

0.8%)、高圧ボイラー管、油井用管、ドリルパイプ、厚中板等。

②ステンレス: 含有率 Mo 85%のステンレスの鋼種は316、平均含有率 Mo 2.2%である。現

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中国タングステン・モリブデンフォーラム

在、国内三大ステンレスメーカーである宝山鋼鉄、太原鋼鉄、張家港浦項ステンレスのモリブデン含有ステンレスの鋼種は 316 が主流である。

③特殊鋼: 高速度工具鋼(含有率 Mo 約 9%)、軸受鋼、高温合金鋼がある。特殊鋼 1t 当たりのモリブデン消費量は 0.2kg のレベルに達している。

今後、中国の鉄鋼業は M&A・再編・新設等の方法を通じて生産能力の拡大を図る一方で、旧式生産手段の淘汰や製品構造の最適化を進めていくことになる。中国のモリブデン需要は今後も伸びていくことが予想されるが、それは国内の鋼生産量の増加と多品種鋼及び高付加価値鋼の比重の増大と歩調を合わせる形で拡大していくものと思われる。

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中国タングステン・モリブデンフォーラム

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Ⅱ-1-1. 2008 年上期の中国タングステン産業2008 年上期、全国タングステン業の生産量は成長

を維持したが、経済効果はマイナス成長となった。特に製錬企業の利益が大幅減となった。タングステン業界全体の利益の反落速度が速まったが、超硬合金とタングステン材の企業の利益はやや増加した。

年初の雨雪凍結被害、タングステン製品の輸出関税の引上げ、ドルの持続的切下げ、世界経済の成長減速等の影響で、タングステン製品の輸出量が減少し、国内のタングステン市場価格も上昇し後やや下落した。国際価格も小幅な下落を見せた。

タングステン鉱の採掘コストが引続き上昇し、製錬企業の原料、動力、人件費も高止まりしている。(1)生産

全国のタングステン精鉱生産量は安定維持。中国有色金属工業協会の統計によると、2008 年上期の全国タングステン精鉱の生産量は 37,137t(WO3 65%)で、

2007 年同期の 39,664t より 6.37%減少した(表Ⅱ-1-1)。2008 年は、年初以来、全国タングステン精鉱生産量

は前年同期比で 6 か月連続して減少し、前 5 か月は前年比でそれぞれ 18.37%、26.53%、19.27%、12.00%、4.01%減であった。

製錬加工製品の生産量に増減があり、伸び率がやや減少した。タングステン製錬加工企業 66 社が提供したデータが示すように、前年同期比で APT+12.07%、酸化タングステン(WO3)+1.48%、タングステン粉+56.81%、炭化タングステン(WC)+31.34%、タングステン棒+13.87%、超硬合金+16.97%、タングステン線+1.92%、フェロタングステン(FeW)+18.76%と、主要タングステン製品の生産量がそれぞれ増加した。AMT と混合料の生産量は前年同期比でそれぞれ-11.12%と-1.98%であった。

Ⅱ. フォーラムにおける報告紹介Ⅱ-1. 中国タングステン産業と当面する課題中国タングステン協会 会長 周 菊秋

表Ⅱ-1-1. 全国タングステン精鉱生産量

省/自治区 2008 年 6 月 2008 年上期累計 2007 年同期比(%)江 西 3,437 18,668 7.12湖 南 2,538 11,948 -18.39広 東 249 1,222 -67.17広 西 327 1,395 30.58四 川 12 17雲 南 19 130福 建 235 781浙 江 41 70 -42.15内モンゴル 340 763 72.05河 南 405 2,045 57.31湖 北 34 98 32.30全 国 7,636 37,137 -6.37

(単位:t、WO3 65%)

(2)利益多くの企業で主営業収入が増えたが、納税額が減

少している。タングステン企業 83 社の主営業收入は前年同期比 24.12%増であったが、納税額と利益額は前年同期比で-7.49%と-21.39%であった。その内訳としては、タングステン鉱山企業 26 社、超硬合金企業 42 社、タングステン材料メーカー 3 社、フェロ・タングステン・メーカー 3 社の主営業務收入は前年同期比でそれぞれ+6.71%、+13.54%、+4.29%、+13.13%であった。

タングステン製錬企業 9 社の主営業務收入が前年同期比-33.19%となった。

タングステン鉱山企業 26 社、タングステン製錬企業 9 社、フェロ・タングステン・メーカーの利益は前年同期比でそれぞれ-0.43%、-150.73%、-23.51%となった。

超硬合金メーカー 42 社とタングステン材料メーカー 3 社の利益が前年同期比でそれぞれ+25.01%と+0.67%であった。

(3)輸出入2008 年上期、タングステン製品は輸出関税の引上

げ、元高、不安定な世界経済等の影響により、輸出業者が厳しい状況に押しやられ、輸出量が大幅に反落した。輸入は小幅な増加で、輸出の製品構造に変化が生じている。

2008 年上期、中国が輸出したタングステン製品は 12,809t(金属量、超硬合金は含まず、以下同じ)で、前年同期比で 17.53%減少した。そのうち輸出が6,466.6t で年間輸出割当額の 43.4%を占めた。輸出額は 4.42 億 US $で前年同期比 21.03%減となった。輸入品は 3,101t で前年同期比+6.31%であった。そのうち

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中国タングステン・モリブデンフォーラム

タングステン精鉱輸入が 2,493t で前年同期比+8.75%、輸入額が 0.82 億 US $で前年同期比+3.82%であった。

・ タングステン製品の輸出は以下のとおり。中間製品の輸出が主であるという局面が前年同期に比べやや改善されたが、中間製品が依然輸出総量の90.95%を占め、二次加工製品であるタングステン線とタングステン材の合計は 9.05%で、前年同期比 3.79 ポイント上昇したに過ぎない。タングステン製品は主に西欧州やアジアに輸出されているが、これらの地域向けの輸出量は全体の 78.5%を占め、前年同期比 3.3 ポイント減となった。米国向け輸出は 18.46%、その他地域への輸出が3.03%を占めた。

・ タングステン製品の輸入は以下のとおり。内訳はタングステン精鉱の輸入が 2,492.7t で輸入総量の80.38%を占め、前年同期比で 1.58 ポイント上昇した。スクラップ輸入は 171.9t で 5.54%を占め、前年同期と同水準を維持した。輸入元は主にアフリカと西欧州であり、総量の 52.51%を占めている。

(4)政策環境2008 年上期、9 部門が共同で鉱山資源開発に関する

秩序を全国的に整理・規範化を 「見直す」 アクションプランを展開し、タングステン鉱資源開発分野の各種違法行為を厳しく取り締まり、タングステン鉱採掘に対する規範整備業務における死角を取除き、資源開発の整理・統合を強力に推し進めた。

国は税制調整の手段と政策体系を改善し、輸出入税制を活用し、「高消費・高汚染・資源型」 製品の輸出を引続き抑制した。

国務院関税税則委員会が 「2008 年の関税実施案に関する通知」(税委会[2007]25 号)を下達し、2008年 1 月 1 日よりタングステン製品の輸出暫定関税を徴収することとその引上げが明確になった。

・ 2007 年 1 月 1 日から 5 ~ 15%の輸出暫定関税を実施した上で、関税税率を引上げた。タングステンを含む鉱山灰や残渣の輸出暫定税率が 10%、炭化タングステン・タングステン粉・未鍛造タングステンの輸出暫定税率が 5%、スクラップの輸出暫定税率が 15%で据え置かれた以外、三酸化タングステン・APT・AMT(2007 年 6 月 1 日徴税開始)は 5%から 10%に、フェロタングステンは 10%から 20%に、フェロ・シリコ・タングステンは 15%から 20%(2007 年 6 月 1 日に 10%から 15%に調整)にそれぞれ引上げられた。

・ 2007 年 7 月 1 日より、タングステン酸・青酸化タングステン・その他のタングステン酸化物及び水酸化物・タングステン酸ナトリウム・タングステン酸カルシウム・AMT・その他のタングステン酸塩・未焼結金属炭化物(自身の混合または金属接着剤との混合を含む)等のタングステン製品の輸出還付税を撤廃し、かつタングステン線やそ

の他タングステン製品の輸出還付税を 5%に引下げたのに続き、タングステン酸・タングステン酸ナトリウム・タングステン酸カルシウム・その他タングステン酸塩・その他タングステン酸化物と水酸化物に対し 10%の輸出暫定税率を執行した。

・ 商務部・税関総署(2007)110 号公告で、2008 年1 月 21 日よりタングステン酸ナトリウム・タングステン酸カルシウム・その他のタングステン酸塩を加工貿易禁止類商品目録に新たに加えられた。これにより加工貿易禁止類とされたタングステン商品は 15 品目となった。

・ 商務部が公布した 2008 年のタングステン製品輸出割当額指標は 1.49 万 t(金属量換算)で、昨年より 5%減少している。

・ 継続的ドル安、世界経済の減速、タングステン製品の輸出暫定関税の徴収開始と税率の引上げ、マクロ調整政策の効果の顕在化等の影響で、タングステン製品の輸出業者は厳しい環境に直面している。

Ⅱ-1-2. 需給状況及び中国のタングステン資源埋蔵量(1)中国の市場需要

2007 年、国内経済は依然急成長を維持し、GDP は11.4%成長した。全国の都市固定資産投資は 137,239億元で 24.8%増であった。全国の不動産開発投資額は25,280 億元で、30.2%伸びた。タングステン消費に直接関係する主要工業生産品の生産量はやや大きな伸び率を維持し、国内の経済成長がタングステン需要の増加を促している。

ここ数年、タングステン消費量は安定的に増加しており、2007 年の国内消費量は 2.5 万 t(W 金属量)を超え、2006 年の 2.35 万 t より 6.38%伸びた。2007 年の国外需要も依然高いレベルを維持し、全世界の消費量は 6 万 t(W 金属量)を超えた(図Ⅱ-1-1)。

2008 年上期の国内総生産は前年同期比 10.4%増で引続きタングステンの需要を牽引している。

(2)世界のタングステン消費2007 年の全世界のタングステン消費量は 65,200t で

2006 年より 5.03%増、1998 ~ 2007 年の年平均消費量の伸び率は 5.34%であった。中国消費量が全世界の38.34%を占めている。

(3)タングステンの供給状況タングステンの市場への供給は基本的に安定してい

る。2007 年、タングステン精鉱の供給と国内外市場の

需要はほぼバランスがとれていたが、ますます増強傾向にある国内の製錬加工能力と精鉱需要との間の依然矛盾が存在している。

2007 年、有色金属協会の統計による全国タングステン精鉱生産量は 80,438t(WO3 65%)であった。

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中国タングステン・モリブデンフォーラム

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2008 年上期の全国タングステン精鉱生産量は 37,137t(WO3 65%)である。

(4)中国タングステン資源埋蔵量国土資源部によると 2007 年末現在のタングステン

鉱の確認埋蔵量は 551.55 万 t で前年比 6.8 万 t・1.21%減となった。

江西省のタングステン資源埋蔵量は 96.70 万 t(WO3)で全国総量の 17.53%を占め、湖南省の埋蔵量は 192.58万 t(WO3)で全国の 34.91%を占めている。

(5)今後の展望業界の政策レベルから見ると、タングステン製品の

輸出割当額を年々減らすことは、短期的には輸出に影響が出るが、長期的に見ると、製品の構造調整を奨励し、中低レベルの製品の輸出を抑制し、一次製錬加工への盲目的な投資を制限するための重要な措置となる。輸出税還付政策から還付率の引下げ、還付税の撤廃、輸出関税の徴収という輸出関税政策の段階的調整は、製品の輸出奨励から輸出制限への重要な政策転換であり、大勢の赴くところである。また、国の外貨準備高の増加スピードを緩和し、輸出製品の構造を調整し、科学的発展と持続可能な発展を促進する上での重大な政策決定でもある。

ここ数年の国内タングステン市場の状況から見ると、国内経済は 2 ケタの成長率を維持し、2008 年上期の国内総生産も前年同期比 10.4%増となっているが、これが需要の安定成長を後押ししている。一方、国のマクロ政策の調整、採掘総量拡大傾向の抑制、関税の引上げによる輸出規制等が、産業の構造調整、輸出製品構造の最適化、輸出価格の安定的値上げを強力に促進していくものと思われる。

国際タングステン市場の状況から見ると、2001 年以前の中国の製品輸出の年間平均価格は 8,000US $/t

(金 属、 以 下 同 じ) 未 満 で あ っ た が、2006 年 に は30,000US $/t 超の 34,706US $/t となり、既に 3 年間安

定的に 30,000US $以上を維持している。これが国際市場の価格安定化のベースになっている。2008 年の世界経済は変動的で成長スピードも鈍化し、それが国際市場の需要の安定成長と安定価格にマイナス要因となりえるが、その影響は限定的なものと思われる。

国際タングステン市場価格は今後も安定的に推移し、小幅な揺れが予想される。

Ⅱ-1-3. 中国タングステン産業における課題とその対策中国のタングステン業界は(1)企業規模が小さい、

(2)数が多い、(3)産業集積度が低いという状況はやや改善されたが、まだ抜本的な改善には至っていない。

経済のグローバル化が進むにつれて、中国の大中型タングステン企業の強大化を図る上で差し迫った戦略課題は以下のとおりである。すなわち、APT・酸化タングステン・タングステン粉・炭化タングステンを原料とするハイエンド超硬合金・耐磨耗部品・バイト・切削工具・高級タングステン線・タングステン材等の製品ラインアップの充実を図り、グローバルな生産販売体制とネットワークを構築し、買収・合併等の方法で国内市場に立脚するか、または国内市場を強固なものにし、国際市場のシェアを拡大し、国内資源の整理統合を加速し、国際タングステン資源の開発利用を推進し、生産・科研・販売・投資を一体化した集約化・国際化された大型タングステン企業集団を形成する。

今後は、タングステンの精密加工と二次加工分野における高技術含有量・高付加価値製品をめぐる市場競争の熾烈化が予想される。(1)顕著な課題

タングステン製錬加工能力が過剰で、タングステン採掘総量も依然多く、全体的な資源利用レベルが低い。

一次タングステン製品の低レベルな重複建設が続いており、早急に製品構造の調整が必要で、粗放型経済成長方式の転換が迫られている。

産業集積度が全体的に低く、業界全体の競争力が脆弱である。

図Ⅱ-1-1. 国内タングステン消費量の推移

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市場管理が規範化されておらず、適当性競争・密輸等の問題が根治されていない。①タングステン製錬加工能力過剰の問題

 APT・タングステン粉・酸化タングステン等の一次産品とローエンド 「普及品」 超硬合金の生産能力は依然過剰であるにも拘らず、投資プロジェクトがなお増え続けており、生産能力が拡大している

(図Ⅱ-1-2)。 2007 年の統計結果は以下のとおり。  タングステン製錬企業 51 社の APT 生産能力は16.10 万 t(建設中及び建設予定の 1.4 万 t は除く)だ が、実際の生産量は 5.49 万 t しかなく、能力の 65.9%が遊休状態にある。  タングステン粉メーカー 69 社の生産能力は 5.76

万 t(建設中の 0.7 万 t は除く)だが、実際の生産量はわずか 2.19 万 t しかなく、能力の 61.97% が遊休状態にある。  超硬合金メーカー 198 社の超硬合金生産能力は3.39 万 t(建設中及び建設予定の 0.4 万 t は除く)だが、実際の生産量はわずか 1.65 万 t しかなく、能力の 51.32% が遊休状態にある。  タングステン線メーカー 33 社の生産能力は 295.6億 m(建設中のプロジェクトは除く)だが、実際の生産量はわずか 212 億 m しかなく、能力の 28.28%が遊休状態にある。  フェロ・タングステン・メーカー 7 社の生産能力は 3.1 万 t だが、実際の生産量は 1.2 万 t しかなく、能力の 61.29%が遊休状態にある。

図Ⅱ-1-2. 2007 年主要タングステン製品生産能力と生産量の比較

② 依然タングステン採掘総量が多く、全体的な資源利用レベルが低い 2002 ~ 2006 年: 全国のタングステン年間採掘総

量指標は 50,092t、実際の精鉱年間生産量は 75,762.6t で、年平均で採掘規制指標を 51.25%オーバーしている。

 2007 年: 全国の年間採掘総量指標は 59,270t、実際のタングステン精鉱年間生産量は 80,438tで、年平均で採掘総量規制指標を 35.71%オーバーしている。採掘総量規制は多少効果を挙げているものの、全体的な採掘量がまだ多過ぎる。

 ・ 調査によると、中国のタングステン資源利用率は依然低く、全国平均でわずか約 50%である。特に小規模企業の資源利用率が約 30%と低く、深刻な資源の浪費を招いている。

③製品構造の最適化問題

 ・ 高級・精密・最先端のタングステン製品の研究開発が求められている。科学技術への投資、国外の先端技術に追いつき追い越すこと、企業の自主革新能力と革新意識の強化、業界全体の国際競争力のアップ等の面で依然後れをとっており、産業構造の最適化とレベルアップの加速を妨げている。

 ・ タングステンの初・中級産品の輸出量が総輸出量の 85.8%を占め、初・中級産品の輸出を主としている局面の抜本的改善がなされていない。

 ・ 国外の先進的なタングステン工業と比べ、中国のタングステン工業は製品の最適化とレベルアップを加速し、独自の知的財産権を擁する先進的なタングステン製錬加工技術と製品を開発し、企業の資本運営能力を向上させ、国際化された管理理念を確立し、グローバルなマーケティング・ネットワークを構築し、国際市場における競争力を適宜高めていく必要がある。

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④全体的な競争力が脆弱  中国のタングステン企業は小規模で数が多く、生産集積度が低い。例えば、超硬合金企業は大小合わせて 600 余社あるが、規模が 100t 超の企業は 30 社未満である。全国のタングステン精鉱生産割当枠内の鉱山 100 余社の中で、精鉱の年間生産量が 500t 超の企業はわずか 32 社である。数社の大企業を除き、ほとんどの製錬加工企業が一次加工品を生産しており、製品のレベルと技術含有量が低い。研究開発への投入が少なく、ハイレベルな研究開発機関が少なく、ほとんどの企業で研究開発への投入が売上の1%未満で、一部その比率が 1 ~ 2%の企業もある。一方、国外の同業企業のそれは 4 ~ 5%に達している。国外企業との格差が大きく、技術革新能力が劣り、科学技術の進歩のタングステン業の経済成長への貢献度も低い。自主知的財産権を持つ高エンド製品を研究開発し、企業のコア競争力と業界全体の競争力を向上させる必要がある。

(2)対策提案① 総量規制はタングステン業の経済発展方式を転換す

る上でのキーポイントであり、各 「見直し」 措置を適切に実行し、タングステン鉱の採掘を規範化し、採掘量を抑制する。

② 科学的発展観を徹底させ、国が発表した一連のタングステン産業政策を真摯に執行し、一次産品生産能力の盲目的な拡張を抑制する。

③ 地質探査を強化し、タングステン業の持続可能な発展のための資源を確保する。

④ 市場行動を規範化し、悪性競争を抑制し、密輸を取り締まる。・ 当面のマクロ経済とタングステン業の情勢の変化

を見極め、行政管理の権威性と執行力を高め、タングステン精鉱の採掘総量を厳しく管理し、中国タングステン資源の優位性を充分発揮し、タングステン業界参入関連の措置を速やかに策定・実行し、低レベルの盲目的な重複建設を阻止し、タングステン鉱採掘における 「散在・混乱・根本を正す」 という目標を実現していく。

・ 企業自身の発展の方向性を見極め、国が発表した一連のタングステン産業政策をよく執行し、製品構造の調整、産業の最適化・レベルアップを重視し、コア競争力とリスク回避能力を高め、タングステン業経済のより良く、迅速な発展を促進していく。

・ 温家宝総理がタングステン業百年の計として提示した 「保護と合理的な開発利用の方針を堅持し、タングステン業の持続可能な発展を実現する」 という重要な指示を実行に移し、科学的発展観を実現し、企業の自主革新を加速し、業界の協調と自律を強化し、市場とタングステン価格を安定させ、調和のとれたタングステン業を確立し、業界全体で調和のとれた winwin の関係と持続可能な発展を実現する。

・ 鉱山地質探査事業を強化し、循環型経済の発展と環境保全に力を入れ、資源利用率を高め、資源の再利用とリサイクルを提唱し、最大限かつ経済的な方法で回収可能な全てのタングステン資源を回収し、既存鉱山の利用年数の延長を図る。

・ 国に対しタングステン製品加工貿易の管理を強化し、加工貿易禁止類品目に関する政策を整備し、政策によるバランシングと調整機能を発揮させることを提案する。

・ 鉱山地質探査事業を強化し、循環型経済の発展と環境保全に力を入れ、資源利用率を高め、資源の再利用とリサイクルを提唱し、最大限かつ経済的な方法で回収可能な全てのタングステン資源を回収し、既存タングステン鉱山の利用年数の延長を図る。

・ 国に対しタングステン鉱資源の備蓄制度を構築するように提案する、新たに発見された鉱区をよく保護し、大中型生産鉱区に生産模規保護区を設け、タングステン業の持続可能な発展のための資源を確保する。

・ 中国タングステン協会は引続き政府に対しタングステン業の整理統合及び総量規制と輸出管理の強化を働きかけ、中国タングステン業の全体的競争力を高め、科学的発展の促進に努める。

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Ⅱ-2-1. 2007 年の国内タングステン消費2007 年 8 月にウルムチで開催されたタングステン・

モリブデン会議における発表の中で個人的にまとめた各種資料に基づき、2006 年の国内タングステン消費数量は 25,994t、すなち 2.6 万 t と算出した。その内訳は以下のとおり。

・ 硬質合金で消費したタングステン金属量は11,505.3t・特殊鋼で消費したタングステン金属量は 8,251t・ タングステン材料で消費したタングステン金属量

は 3,714t・ タングステン化学工業で消費したタングステン金

属量は 2,524t2007 年は 2006 年と比べ様々な分野でタングステン

の消費量が大幅増となっているために、全体としての消費量が増大している。

2007 年の GDP 成長率は 11.4%で、1995 年以来、伸び率が最高の年であった。固定資産投資は 24.9%増、タングステン産業と関連のある主要工業製品の状況は、鋼 3.4%増、セメント 9.7%増、自動車 22.1%増、非鉄金属 10 種 22.6%増、原料炭 6.6%増、原油 1.6%増、マイクロ・コンピュータ 29.3%増、IC 22.6%増、携帯電話 14.3%増であった(表Ⅱ-2-1)。

国内経済の成長が引続きタングステンの消費を促していることが分かる。

Ⅱ-2.�2007 年の国内タングステンの消費と供給江西希有希土金属タングステン集団有限公司 副総経済師 祝 修盛

年度 2006 2007 対前年比固定資産投資 (億元) 109,870 137,239 +24.9%GDP 総額 (億元) 210,871 246,619 +17.0%鋼 (百万 t) 47,339.6 48,966.0 +3.4%セメント (億 t) 12.4 13.6 +9.7%自動車 (百万台) 727.9 888.7 +22.1%マイクロ・コンピュータ (万台) 9,336.4 12,073.4 +29.3%非鉄金属 10 種 (百万 t) 1,917 2,350.8 +22.6%原料炭 (億 t) 23.8 25.36 +6.6%原油 (億 t) 1.84 1.87 +1.6%IC (億個) 335.8 411.6 +22.6%携帯電話 (万台) 48,013.8 54,857.4 +14.3%

表Ⅱ-2-1. 2007 年の中国経済状況の対前年比較

(1)硬質合金2006 年の統計によると、硬質合金の生産量は 14,967t、

輸出量3,069.7tを差し引くと金属量換算で10,117tだった。硬質合金分会の統計によれば、2007 年の国内硬質

合金生産量のうち、統計のとられた 44 社の生産量は14,207.31t であったが、統計外で市場に流通したものを 2,000 ~ 3,000t とすると、総生産量は 16,500t となる。さらにそれから輸出量 3,705.13t を差し引くと 12,794.9tになり、金属量換算で 10,619.7t、前年比 502.7t の増加であった。

2007 年の鋳造炭化タングステンは 188t、すなわちタングステン金属量で 179t 増加している。

2006 年の外国企業の中国における硬質合金販売量は約 600t であったが、2007 年の外国企業のそれも同じように増加した。サンドビック社を例にとって見ても、その中国における年間販売量が 20%ずつ逓増している。成長率を 10%とすると、2007 年は約 660t、金属量で 50t 増加したことになる。

すなわち硬質合金の消費量は前年比で少なくとも732t 増加したことになる。

なお、2007 年の硬質合金のタングステン金属消費量は合計 12,237.3t だった。

(2)特殊鋼高速工具鋼:2006 年の生産量の統計は 67,380t だっ

たが、2007 年は 75,641t、8,261t 増となり、タングステン金属の消費量が 578.3t 増加した。

統計による生産量の成長率は 12.3%で、この成長率をベースに、統計に含まれていない江蘇省の丹陽飛達、丹陽精工、江蘇華久等が 2006 年に消費したタングステン金属量を約 2,800t とし、成長率を 10%とすると、280t 増加したことになる。

他鋼種の増加を考慮しなければ、高速工具鋼だけでもタングステン金属の消費が858.3t増えたことになる。

他鋼種のうち、2007 年の金型鋼は 37.8%増、合金構造鋼は 23.2%増だったが、これに基づいて計算すると、他鋼種のタングステン金属消費量は約 150t だったことになる。

以上を合計すると、特殊鋼におけるタングステンの消費は 1,008.3t 増えたことになる。

2007 年の特殊鋼におけるタングステン金属の消費量は合計 9,259.3t だった。

(3)タングステン材料タングステン材料では、タングステン線の生産量の

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伸びが比較的大きく、照明協会の統計によると、2007年のタングステン線の生産量は 241 億 m、すなわち前年の 190 億 m と比較して 26.8%増で、タングステン金属量消費は 168.8t 増であった。

高比重合金では、携帯電話の振動モータの伸びが比較的大きく約 14.3%増、その他の製品を加えると、タングステン金属消費量は 2006 年比で約 120t の増加であった。

タングステン銅・電極・電工合金の伸びは小さく、2006 年と比べ大きな差はなかった。

タングステン材料の総消費量は約290t増加している。2007 年にタングステン材料によって消費されたタ

ングステン金属量は合計 4,004t だった。

(4)化学工業2007 年は中国国内原油加工量が 4.9%増となり、タ

ングステン金属量消費もこの比率に従って 38t 増えている。他の化学工業分野で増加した消費を加えると、化学工業分野におけるタングステン金属量消費は約50t 増えたことになる。

2007 年の化学工業のタングステン金属消費量は2,574t だった。

2007 年のタングステン金属量消費は前年比で合計2,080.3t の増加であった。2006 年の金属消費量が 2.6 万 tであったので、2007 年のタングステン消費量は 2.8 万 tだったことになる(表Ⅱ-2-2)。消費構成は以下のとおりである(図Ⅱ-2-1)。

消費量(t) 構成比(%) 前年構成比(%)硬質合金 12,237.3 43.6 44.3特殊鋼 9,259.3 33.0 31.0タングステン材料 4,004 14.3 14.3タングステン化学工業 2,574 9.2 9.7

合計 28,074.6

表Ⅱ-2-2. 2007 年中国タングステンの各種消費分野における消費量とその割合

図Ⅱ-2-1. 中国タングステンの各種消費分野が占める割合

Ⅱ-2-2. 2007 年の国内タングステン原料の供給(1)タングステン精鉱の供給量

上記の消費構成に基づきタングステン精鉱の供給量を換算すると、以下のようになる。硬質合金: 12,237.3t、タングステン精鉱の実収率を

93%として計算すると、25,550.3t のタングステン精鉱が必要になる。

特殊鋼: 9,259.3t、タングステン精鉱の総合実収率を94%として計算すると、19,126.8t のタングステン精鉱が必要になる。

タングステン材料: 4,004t、タングステン精鉱の総合実収率を 93%として計算すると、8,360t のタングステン精鉱が必要になる。

タングステン化学工業: 2,574t、タングステン精鉱の総合実収率を 95%として計算すると、5,261.1t のタングステン精鉱が必要になる。

合計 58,298.2t のタングステン精鉱が必要になる。外国企業が中国で販売する硬質合金量 660t、タング

ステン精鉱量換算 1,143.8t を差し引くと、国内で消費するタングステン精選量は合計 57,154.4t となる。

中国の輸出量を考えると、タングステン精鉱の供給はかなりの数量になる。

2007 年のタングステン製品の輸出量は金属量 30,021.2tで(硬質合金は除く)、その内訳は以下のとおりである(表Ⅱ-2-3)。

換算すると、合計 68,162.1t のタングステン精鉱が必要になる。

内需と輸出に必要なタングステン精鉱量は合計125,316.5t となる。

(2)タングステン精鉱の消費を補充するための方法①輸入

 2007 年の輸入量とタングステン精鉱換算量は表Ⅱ-2-4

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に示すとおりである。  タングステン精鉱の輸入だけでも 9,310.8t になり、その他のタングステン製品の精鉱換算量が 1,280.3tで、合計 10,591.1t であった(表Ⅱ-2-4)。

②廃タングステンの利用  原生タングステン価格が下っているが、廃タングステン由来の製品の品質は原生タングステンを加工したものよりも悪いことは間違いなく、価格差が縮小傾向にあることもあり、2007 年の廃タングステン利用量の増加幅は小さかった。やはり前年の21.4%の利用率で計算すると、国内タングステン精鉱消費における廃タングステン消費はタングステン精鉱 12,231t に相当する。

以上 2 項目のタングステン精選量の合計は 22,822.1t。2007 年の国内タングステン精鉱の実質供給量は

102,494.4t。公表された統計数量の 80,438t と 2.2 万 t の差がある。江西省の統計によると、2007 年の江西省の APT 生

産量は 5.68 万 t で、タングステン鉄・タングステン酸・

メタタングステン酸アンモニウム等その他のタングステン製品の生産量を計算に入れなくても、8.18 万 t のタングステン精鉱原料が必要になり、公表されているタングステン精鉱の生産量は明らかに少ないことになる。

Ⅱ-2-3. 2007 年の国内タングステン原料の供給構造(1)企業のタングステン原料品種構造の変化

産地におけるタングステン工業の構造的な変化によって、中国タングステン工業の原料供給が品種的に大きな変化が生じている。

中国のタングステン工業は単純なタングステン精鉱の生産から、タングステン中間製品の生産及びタングステン加工の方向に発展してきている。1980 年代以前には以下に挙げるタングステン製錬・加工企業がいくつか形成されていた。すなわち、1950 年代に建設された株洲硬質合金庄、贛州精選廠、大連硬質合金廠、本渓タングステン・モリブデン材料廠、吉林鉄合金廠、牡丹江北方工具廠、西安華山機械製造廠等である。

1960 年代には自貢硬質合金廠、南昌硬質合金廠、上海硬質合金廠、上海タングステン・モリブデン材料

タングステン製品名 輸出量 必要なタングステン精鉱量タングステン酸 1,161.3 1,728.8三酸化タングステン 4,653.7 7,514.4上記以外のタングステン酸化物及び水酸化物 7,267.5 11,735.0APT 5,526.3 7,824.5タングステン酸ナトリウム 249.6 318.1メタタングステン酸アンモニウム 1,778.4 2,508.1その他のタングステン酸塩 0.2 0.3タングステン鉄 6,628.3 10,189.1タングステン粉 1,473.2 3,043.2炭化タングステン 2,935.8 5700.6それ自体あるいは金属粘結剤と混合した未焼結金属炭化物 3,487.3 6,483.3タングステン条材、棒材、型材・異型材、板材、片材 951.7 1,987.1タングステン線 576.9 1,217.6その他のタングステン製品 630.9 1,265.0硬質合金 3,705.1 6,647.0

合計 - 68,162.1

表Ⅱ-2-3. 2007 年タングステン製品輸出と必要なタングステン精鉱量(単位:t)

表Ⅱ-2-4. 2007 年の輸入量とタングステン精鉱換算量(単位:t)

タングステン製品名 輸入量 タングステン精鉱換算量タングステン精鉱 9,310.8 9,310.8三酸化タングステン 1.6 2.6APT 15 21.2タングステン酸ナトリウム 1 1.3メタタングステン酸アンモニウム 10.3 14.5その他のタングステン酸塩 0.2 0.3タングステン鉄 243 373.5タングステン粉 51.3 106炭化タングステン 28.2 54.8それ自体または金属粘結剤と混合した未焼結の金属炭化物 277.1 520.7末鍛造タングステン 19.4 40.5タングステン条材、棒材、型材及び異型材 69.4 144.9

合計 - 10,591.1

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廠、龍岩粉末冶金廠、贛州タングステン・モリブデン材料廠、北京硬質合金廠、天津津東化工廠、太原硬質合金工具廠、株洲タングステン・モリブデン材料廠、中南大学粉末冶金廠、長沙特殊硬質合金廠、南寧硬質合金廠、成都硬質合金工具廠、峨嵋鉄合金廠、宝鶏非鉄金属加工廠、江蘇東台タングステン酸廠等が次々に建設された。

1970 年代には無錫ボーリング工具廠硬質合金分廠、済南冶金科学研究所、大余非鉄金属選鉱冶金廠、北京タングステン・モリブデン材料廠、廊坊タングステン・モリブデン材料廠、国営建昌機械工場特殊工具分廠等が建設された。

1980 年代に建設されたものとしては、贛州 801 廠のタングステン生産ライン、山東文登化工廠、厦門タングステン製品廠、崇義冶金化学製品廠、清河県硬質合金廠、江漢石油ボーリングビット粉末冶金廠がある。

これらの企業のうち津東化工廠、東台タングステン酸廠、大余非鉄金属選冶廠、801 廠、山東文登化工廠、厦門タングステン製品廠、崇義冶金化工廠以外は、タングステン精鉱を使って輸出用の APT、タングステン酸、酸化タングステンを製造し、吉鉄(吉林鉄合金股份公司)と峨鉄(峨眉鉄合金(集団)股份有限公司)のタングステン鉄以外は、全てタングステン精鉱を購入して硬質合金またはタングステン条材・線材・材料を製造していた。この時点では、製錬企業も加工メーカーもタングステン原料にタングステン精鉱を使っていた。

ところが、1990 年代以降、こうした状況に変化が起こり始めた。

1990 年代には無錫恒豊硬質合金製品有限公司、天工実業集団公司、飛達工具公司、厦門春保精密タングステン鋼製品公司、贛州南方非鉄金属製錬所、華興タングステン製品有限公司、江西佳潯タングステン業有限公司、北京天龍タングステン・モリブデン科技有限公司、安泰科技股份有限公司難溶分公司、衡陽市南東非鉄金属有限公司、恵州金菱非鉄金属製錬所、潮州翔鷺タングステン業有限公司等が建設された。

2000 年初頭には、江西耀升工貿発展有限公司、贛県世瑞鉱山物製品貿易有限公司、贛州江タングステン合金有限公司、贛州市信達タングステン・モリブデン有限公司、贛州遠馳新材料有限公司、江西鑫盛タングステン業有限公司、贛北タングステン業有限公司等が次々に建設された。

この時点で企業が必要とするタングステン原料に以下のような変化が起こり始めた。① 贛州南方、華興、佳潯、恵州金菱、翔鷺、南東、耀

昇、世瑞、鑫盛、贛北等の APT メーカーが増え、これらの企業が硬質合金メーカーとタングステン材料メーカーに APT または酸化タングステンを供給するようになった。

② 恒豊、天龍、安泰科技、遠馳等の新興タングステン加工メーカーがタングステン精鉱に替わって、APT または酸化タングステン、タングステン粉、

炭化タングステンを原料にするようになった。③ 倒産した津東と東台以外の従来 AP だけを製造して

いた厦門タングステン業、山東文登、大余(現在は偉良)、崇義(現在は章源)等の企業が、タングステン粉、炭化タングステン、さらには硬質合金、タングステン材料に生産転換を図った。

④ 1990 年代以降に設立された APT メーカーも急速にタングステン粉や炭化タングステン加工製品の製造を進めている。これらには南東、耀昇、世瑞、贛州南方(現在は特精)、翔鷺がある。

⑤ 一貫してタングステン精鉱を原料として使ってきたいくつかのメーカーが、APT または酸化タングステンを原料として購入するようになった。こうしたメーカーには自貢、大連、中南大学、文登、春保がある。2007 年にはこのような構造的な変化が顕在化した。

APT の製造がタングステン精鉱の産地で集中的に行れるようになったために、タングステン精鉱の産地から遠いタングステン加工メーカーのタングステン精鉱の購入が難しくなり、産地の製錬所から APT または酸化タングステンを購入しなければならなくなった。

2007 年現在、全国の APT メーカーは合計 51 社、生産能力は 16.62 万 t である。タングステン精鉱の産地である江西省、湖南省、広西自治区、雲南省のAPT メーカーの生産能力は 13.32 万 t で生産能力の80.1%を占めている。産地以外の APT メーカーはおおよそ以下のような状況にある。①清河等のように廃タングステンを原料として使う②廊坊のように他企業のために代理加工を行う③春保のようにラインが遊休状態になっている④ 厦門タングステン業や大連のようにタングステン資

源産業に業務を拡大している。

(2)原料供給地域の分布と変化(2-1)従来の原料供給地域①江西省

 江西省のタングステン工業は全国のタングステン製錬・加工企業向けタングステン精鉱原料の供給省という位置付けで、1990 年代には既に大規模なタングステン製錬のための拠点が建設され、2000 年以降はタングステン粉・炭化タングステン・硬質合金等を製造するようになり、今や省内外の企業向けに APT・タングステン粉・炭化タングステン等のタングステン原料を提供するまでになっている。現在、江西省には APT メーカーが合計 21 社(全

国既存 APT メーカーの 41.2%)あり、生産能力は 9.27万 t で全国の 55.8%を占めている。江西省が公表した2007 年のタングステン粉生産量は 5,360t、炭化タングステン生産量は 4,693t で、共に商品量であることを考慮すると、APT の需要量は最多で 14,310t になる。江西省の 2007 年の APT 輸出割当量は 1,408t であることから、2007 年に生産した 56,836t のうちの 4.11 万 tは省外企業に販売しなければならないことになる。

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タングステン粉や炭化タングステンに加工されたタングステンについては、江西省は今でも量的に省内だけではまかないきれないほどのものを抱えている。江西省が公表している統計では、硬質合金の生産量は977t、タングステン線 175t、タングステン棒 88t という状況であり、せいぜい 300t 余りのタングステン粉と 900t 余りの炭化タングステンがあればよいことになる。江西省の 2007 年のタングステン粉と炭化タングステンの輸出割当量は 792t であり、公表されたタングステン粉の生産量に同省で炭化タングステン加工に使用される量が含まれていることを考慮すれば、少なくとも 4,900t のタングステン粉と炭化タングステンを省外に販売していることになる。

以上のようなことから、江西省は既に国内最大のAPT・タングステン粉・炭化タングステン供給拠点になっていることが分かる。

なお、江西省は APT・タングステン鉄・メタタングステン酸アンモニウム・タングステン酸等の生産用に少なくとも 9 万 t のタングステン精鉱が必要だが、江西省自体が生産するタングステン精鉱量は、有色金属協会の統計によれば 37,250t になっているが、もしそうだとすれば、省外から少なくとも 5 万 t のタング

ステン精鉱を購入しなければならないことになることから、江西省には中国最大のタングステン精鉱購入省という側面も持っていることが分かる。②湖南省

 湖南省も徐々にタングステンの大産地として頭角を現し始めている。2007 年の統計では、タングステン精鉱の生産量は 30,952t と、既に江西省の生産量に近づいている。表Ⅴ-4 から湖南省のタングステン精鉱生産量の伸びが非常に速く、逆に江西省は年々減少していることが分かる。新田嶺鉱区の統合と一部鉱山の能力拡大工事が竣工した暁には、湖南省のタングステン精鉱の生産量が今後も継続的に増えていくものと思われる(表Ⅱ-2-5)。なお、湖南省ではタングステン製錬・加工業も発展

している。株洲の硬質合金工業を中心に APT 生産能力は既に 3 万 t 超、硬質合金の生産能力は 9,100t 超となっている。また辰州鉱業が業務を拡大してタングステン製錬を行うようになっている他、衡陽地区の南東・創大・春昌・世紀特殊、株地区の精誠・華信・長鷹・精工等の民営企業も一定規模の製錬加工能力を備えるようになっている。なお、炎陵や安化には廃タングステン利用基地が建設されている。

表Ⅱ-2-5. 近年の江西省と湖南省のタングステン精鉱生産量の比較(単位:t)

年度 2004 2005 2006 2007湖南省 19,993 21,369 27,001 30,952江西省 50,968 44,744 40,142 37,250湖南/江西(%) 39.2 47.8 67.3 83.1

③その他の地区  例えば雲南省や広西省がある。紫金集団が雲南省麻栗坡に進出し、7 月 28 日には広西省に有色金属集団が設立された。この 2 省のタングステン資源が江西省に見られたような発展の道を歩むことは間違いないように思われる。麻栗坡では既に APT 製造ラインが完成し、平桂飛蝶の APT 製造ラインは珊瑚鉱の生産が回復したことで原料が確保されるようになっている。

(2-2)新たな原料供給地域①河南省

 洛陽の欒川モリブデン業集団と厦門タングステン業が協力して、2003 年 5 月に白タングステン回収製造ラインを建設した後、2006 年 7 月には処理量を 4,500t から 15,000t まで拡大し、2007 年にはさらにもう 1 本の 15,000t 白タングステン回収製造ラインを単独で建設し、白タングステン生産量を 5,000t超に増やしている。  欒川地域の他の企業も続々と白タングステン回収事業に参入しているので、河南省のタングステン精鉱の伸びはまさに推して知るべしという状況にある。  白タングステン回収と同時に、欒川地域では既にAPT 製錬製造ラインの建設も始まっている他、タ

ングステンの付加価値加工産業の発展も計画されている。

②甘粛省  甘粛省有色金属地質探査局傘下の甘粛九州鉱業調査有限責任公司、甘粛祁龍実業有限責任公司会社と甘粛建新実業集団有限公司が合弁で設立した新洲鉱業有限公司が、2007 年下期に処理量 27 万 t の採掘選鉱工事を完成し、国土資源部の認可を得ている。年間生産量指標は 1,500t である。計画に従い次は4,000t の APT 製造ラインを建設することになっている。

③福建省  厦門タングステン業が株式支配をしている寧化行洛坑タングステン鉱山が、2007 年 11 月 1 日に竣工式典を行った。黒白タングステンの総埋蔵量 30 万t という国内十大タングステン鉱区の一つである行洛坑タングステン鉱区から生産されるタングステン精鉱は 3,600t 超、タングステン中鉱は 5,000t 超で、厦門タングステン業にとって原料がより確実に保障されることになる。  タングステン精鉱の現地消化の傾向がますます顕著になり、タングステン精鉱生産地には必ずタングステン製錬と加工メーカーがあるような状況になっ

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ている。以上のような状況を受けて、国内で流通しているタングステン原料が APT と酸化タングステンになっているが、今後はさらに進んで国内で流通するタングステン原料の主役がタングステン粉または炭化タングステンに変わっていくものと思われる。  国内タングステン原料の供給構造の変化によって、タングステン製錬一次製品の生産能力が拡大している。2007 年に新設または能力が拡張されたAPT 製造ラインは 6 本を数え、生産能力が 1.5 万 t増えている。また建設中または拡張中のものが 3 本あり、生産能力は 1.2 万 t となっている。新設タングステン鉄製造ラインは 1 本で、生産能力は 3,000t

である。2007 年に新設または拡張されたタングステン粉製造ラインは 7 本で、生産能力は 1.33 万 t である。建設中または建設を計画しているものが 3 本あり、生産能力は 9,000t となっている。  過剰な生産能力は、公共資源の浪費であると同時に、川上の原料と後続製品とで市場を争奪するところとなり、それが市場価格の変動もたらし、市場の安定が破壊されることにもなりかねない。この点はタングステン業界及び政府が十分に注意を払い、解決のための措置を講じていていくべき大きな問題であると考える。

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Ⅱ-3-1. �中国のタングステン・モリブデン資源の状況及びその傾向

(1)中国のタングステン・モリブデン資源の現状中国にはタングステン鉱の産地が 363 か所知られて

いる。確認済み資源埋蔵量:551.55 万 t(WO3)、基礎埋蔵量:240.87 万 t、埋蔵量:139.86 万 t といわれる。

一方モリブデンは産地が 359 か所といわれ、確認

済み資源埋蔵量:1,136.00 万 t(Mo)、基礎埋蔵量:431.68 万 t、埋蔵量:213.72 万 t がある。以下にその生産地を示すが、タングステンは湖南省、江西省で52%、モリブデンでは河南省、吉林省で 47%を占める

(図Ⅱ-3-1)。

Ⅱ-3. 中国のタングステン・モリブデン資源及びその管理政策についての分析国土資源部情報センター資源分析室 主任 曹新元

図Ⅱ-3-1. 中国のタングステン鉱とモリブデン鉱確認済み資源埋蔵量の地域分布

(2)�中国タングステン・モリブデン資源の優位性の減衰

中国タングステン・モリブデン資源の優位性の減衰が起きていると言われる。たとえば、資源埋蔵量総量は増えているが、伸び率が低下している、埋蔵量採掘量比が下り続け、世界の平均水準を大きく下回っている、資源埋蔵量の利用度が強化される一方で、予備資源のゆゆしい不足が見られる等の兆候としてこれらが見られる。

図Ⅱ-3-2 及び図Ⅱ-3-3 にタングステン及びモリブデンの中国の資源埋蔵量の推移を示す。

(3)資源量の低下資源埋蔵量の利用度が強化される一方で、予備資源

のゆゆしい不足が見られる① 中国のタングステン鉱の開発利用度は高く、94%の

タングステン鉱基礎埋蔵量が既に開発占用されている。2006 年を例にとると、既に既利用鉱区は 218

図Ⅱ-3-2. タングステン資源埋蔵量の推移

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か所、確認済みの資源埋蔵量は 424.26 万 t で総確認済み資源埋蔵量の 76%を占めている。そのうち基礎埋蔵量は 226.35 万 t で総基礎埋蔵量の 93.8%を占める。

② モリブデン鉱の開発利用度も非常に高い。同様に2006 年のデータを見てみると、既利用モリブデン鉱区は 165 か所、確認済み資源埋蔵量 714 万 t、全体の 65.25%を占めている。そのうち基礎埋蔵量は260.47 万 t で、全体の 68.36%を占める。

③ 中国のタングステン鉱・モリブデン鉱の資源潜在力は大きい  タングステン鉱については、全国の未確認タングステン鉱資源量は約 700 万 t で、確認済み保有資源埋蔵量の倍以上、基礎埋蔵量の 3 倍弱になっている。タングステン鉱潜在地区は主に南嶺地区・新疆・甘粛に分布している。モ リ ブ デ ン 鉱 に つ い て は、「全 国 鉱 物 資 源 計 画

(2008 ~ 2020 年)」 では、20 か所近いタングステン 鉱・モリブデン鉱の全国重点探査区について言及し、それらの主なものは以下のとおり。

・ 新疆若羌県白干湖地区タングステン錫鉱重点探査区、

・ 甘粛粛南県小柳溝-塔爾溝タングステン・モリブデン銀鉱重点探査区、

・ 内蒙古呼倫貝爾(ホロンバイル)市梨子山-阿爾山鉄銅モリブデン金銀鉱重点探査区、

・ チベット扎囊県克 -冲木達-尼木県衝江-庁宮銅モリブデン金鉱重点探査区、

・ 遼寧葫蘆島市八家子-楊家杖子鉛亜鉛モリブデン鉱重点探査区、

・ 河南廬氏- 川地区鉛亜鉛銀モリブデン鉱重点探査区、

・ 江西崇義-大余-上犹県老庵里-牛角 タングス

テン錫鉱重点探査区、・広東平遠地区モリブデン鉄鉱重点探査区等。

Ⅱ-3-2. タングステン・モリブデン資源と産業管理政策についての分析

タングステン・モリブデン資源と産業管理政策について、鉱業権の管理、産業政策(外商投資産業指導目録)、採掘総量規制、輸出割当制、関税政策の面から説明をする。

1999 年、国土資源部は 「希土等(希土・タングステ ン・錫・アンチモン・石炭・モリブデン・重晶石・蛍石)の 8 鉱種に対し暫定的に採掘許可証の交付を停止することに関する通知」 を公布した。

希土・タングステン等の 4 鉱種の新規採掘プロジェクトについては、暫定的に採掘許可証の認可及び交付を禁止し、用地の認可も暫定的に禁止する。鉱山建設規模が中小型の石炭・モリブデン等の 4 鉱種の新規採掘プロジェクトについては、暫定的に採掘許可証の認可及び交付を停止し、用地の認可も暫定的に禁止する。

2006 年、国土資源部は 「探査許可証・採掘許可証権限の規範化に関する問題についての通達」 を公布、その内容はタングステン・モリブデン鉱の探査及び採掘に関わる。

「通達」 の第一部 「探査・登記」 中の第三条と第四条の規定は以下のとおり。第三条: 「タングステン・錫・アンチモン・希土鉱物

の探査投資が 5 百万 ・ 人民元(5 百万 ・ 人民元を含む)または探査区域の面積が 15km2

(15km2 を含む)の探査プロジェクトについては、国土資源部が探査許可証を交付し、その他は省級人民政府国土資源主管部門に授権して探査許可証を交付する。」

図Ⅱ-3-3. モリブデン資源埋蔵量の推移

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第四条: 「油頁岩・金・銀・プラチナ・マンガン・クロム・コバルト・鉄・銅・鉛・亜鉛・アルミ・ニッケル・モリブデン・燐・カリウム・ストロンチウム・ニオブ・タンタルの探査投資が5 百万 ・ 人民元(5 百万 ・ 人民元を含む)の探査プロジェクトは、国土資源部が探査許可証を交付し、その他については省級人民政府の国土資源主管部門に授権し探査許可証を交付する。

(1)鉱業権の管理第二部 「採掘・登記」 の第十条と第十一条の規定は以下のとおり。第十条: 「タングステン・錫・アンチモン・希土鉱床

の埋蔵量規模が中型以上のもの(中型を含む)については、国土資源部が採掘許可証を交付し、その他については省級人民政府の国土資源主管部門に授権し採鉱査許可証を交付する。」

第十一条 :「金・銀・プラチナ・マンガン・クロム・コ バ ル ト・ 鉄・ 銅・ 鉛・ 亜 鉛・ ア ル ミ・ ニッケル・モリブデン・燐・カリウム・ストロンチウム・金剛石・ニオブ・タンタル鉱床の埋蔵量規模が大型以上のもの(大型を含む)については、国土資源部が採掘許可証を交付し、その他については省級人民政府の国土資源主管部門に授権し採掘許可証を交付する。

外商投資による鉱物資源の探査採掘は、外商投資産業指導目録の関連規定に合致していなければならず、本通達が内資探査採掘について規定している許可証交付権限に基づき探査・採掘許可証を交付する。

(2)産業政策外商投資産業指導目録(2007 年改訂)

禁止類目録の最新規定では継続して外商投資による希土の探査、採掘、選鉱及び放射性鉱物の探査、採掘、選鉱を禁止すると同時に、「タングステン・モリブデン・錫・アンチモン・蛍石の探査、採掘を禁止する」 という内容が追加された。なお、2004 年版目録においては、後者は制限類に分類されていた。

(3)採掘総量規制2002 年より全国鉱物資源計画及び国内外の鉱物資

源需給動向に基づき、国は希土・タングステン・錫・アンチモン・石炭・モリブデン・重晶石・蛍石等の採掘量過剰の 8 鉱種に対しマクロコントロールを実施しているが、中でも採掘総量がマクロコントロールの主な政策手段になっている。採掘総量の規制は、国土資源部が年間採掘総量指標を省(区・市)に下達し、省

(区・市)国土資源主管部門が逐一各鉱山の年間採掘量を査定する。採掘総量指標には主採掘指標と総合利用回收(指標)がある。

2008 年のタングステン精鉱総量:66,850t(WO3 65%)

内訳: 主採掘タングステン59,440tで2007年比8.45%増

   総合利用回收 7,410t で 66.14%増

総合利用回收指標の伸び率がタングステン鉱の主採掘指標より明らかに高いことから、目下、国が採掘総量規制政策によってタングステン鉱の総合回收利用を奨励していることが容易に理解できる。特に随伴タングステン、低品位タングステンの総合回收利用及びタングステンの採掘、選鉱総合回收率の向上を奨励している。

(4)輸出割当制中国はタングステン・モリブデン鉱製品に対し積極

的な割当制を実施している。すなわち、国外市場の容量及びその他の状況に基づいて実施される輸出割当量による管理である。中国は 2003 年にはタングステン、2007 年(中期)にはモリブデンに対しそれぞれ輸出割当制を実施した。各輸出企業の輸出割当量は国の商務部門が各方面の状況を鑑み確認・公布する。2008年の中国の輸出割当量はモリブデン金属 26,300t、タングステン金属 14,900t になっている。

(5)関税政策関税政策は間接的に商品の輸出入総量を調節し、そ

れにより産業及び資源の動向に影響を与えるための重要な手段の一つである。資源状況がますます厳しさが増す中、中国政府はしばしば関税という方法によってタングステン・希土・モリブデン等の希少金属製品の輸出のハードルを引上げ、国内の乱採掘によるバランスを欠いた輸出を制限し、これらの戦略的資源が過度に消費されないように保護を行っている。2007 年 6月 1 日より、国務院関税税則委員会はタングステン・モリブデン・希土等の希少金属の製品に対し 15%の輸出暫定関税を実施し、酸化モリブデン・モリブデン酸アンモニウム・モリブデン酸ナトリウム等の製品には 5 ~ 15%の輸出関税を課している他、2008 年 1 月1 日からは酸化モリブデン・モリブデン鉄等の 9 種のモリブデン製品に 15 ~ 20%の輸出関税を課している。

Ⅱ-3-3. 中国タングステン・モリブデン資源の管理及び産業管理政策の動向

(1)探査と採掘のハードルをさらに引上げるタングステン・モリブデン資源及び産業の発展形勢

に基づき、最近は国家発展改革委員会と国土資源部が頻繁に意思疎通と調整を行っているが、その中で発展改革委員会は鉱物探査・採掘のハードルを設け、それを引上げていくことを提案している。主に国有地探査機関と国有大型企業に傾斜させることを提案している。

(2)資源政策と対外貿易政策の協調現在実施している希土・タングステン・錫・アンチ

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モン・インジウム・モリブデン・タルク・フッ素石・マグネシウム砂・白銀等の輸出制限類鉱物に対する輸出割当制が WTO 規則に合致しないとして国外に非難と不満が広がっているが、商務部門の専門家の多くは国土資源部がタングステン等の鉱物に対して行っている採掘総量規制措置のほうが WTO 規則に対応する上で割当制よりも有利であると考えており、2 つの 「部」がこうして鉱物資源の採掘と輸出に関し相互に制限的政策をとり、協力して国益を守っていくことを提案している。その他の輸出制限類鉱物資源にも厳しく採掘を規制する管理政策を実施し、川下の鉱物製品の輸出を制限している鉱物についても抜本的な採掘規制措置を行っていく。

(3)�国は 「保護性採掘を行う特定鉱物の探査開発管理規則」 の公布を予定

現在、国土資源部は 「保護性採掘を行う特定鉱物の探査開発管理弁法」 を起草中であり、保護型採掘を行

う特定鉱物の管理を強化していく。既にそれぞれ 14か所の関連省(区)の国土資源管理部門及び関連業界の意見を募集しており、近々公布される予定である。①保護性採掘を行う特定鉱物を線引きした。② 保護性採掘を行う特定鉱物に対しては計画的な探査

と開発を実施し、国土資源部が責任をもって鉱物ごとに計画を作成し、探査・採掘の登記、認可を担当する。

③ 保護性採掘を行う特定鉱物に対し採掘総量規制を実施する。

④ 保護性採掘を行う特定鉱物に対し原産地管理を実施する。

⑤ 保護性採掘に共生・随伴特定鉱物採鉱権の設定及び採掘管理についても特別規定を設ける。

⑥ 鉱山採掘企業の保護性採掘を行う特定鉱物の総合採掘と総合利用については、下達される保護性採掘の特定鉱物採掘総量に従って生産を制限する。

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Ⅱ-4-1. 洛陽欒川モリブデン集団公司の概要1969 年に創業した洛陽欒川モリブデン業集団公司

は、主にモリブデンとタングステンの採掘及び選鉱、製錬、製品加工を行う大型総合鉱山企業であり、傘下に支社、子会社、株式支配権を有する会社、資参入している会社等合計 16 社を擁している。現在、1 日当たりの採掘・選鉱能力 30,000t、1 年当たりのモリブデンの製錬能力 15,000t、酸化モリブデンの焙焼能力20,000t、年間製品加工能力 1,000t、1 日当たりの灰重石回収能力 30,000t という中国最大のモリブデン生産企業である。埋蔵量では、同グループの三道庄鉱山のモリブデン埋蔵量が世界の上位を占め、タングステン埋蔵量は世界第 2 位となっている。

洛陽モリブデンは豊富な資源と優れた管理システムによって業績を伸ばし、収益も年々増え、全国大企業集団トップ 500 社の 68 位にランキングされ、全国収益トップ 200 社の 90 位で、河南省では唯一 100 位以内にランキングされた企業となっている。2007 年 4月に香港での株式上場を果たし、その後の企業価値は既に 800 億元を超え、世界の鉱業分野トップ 500 社の30 位にランキングされている。

2003 年から 2007 年までのグループの販売収入額は181.83 億元、利益総額は 70.97 億元、輸出による外貨創出額は 640 百万 US $、納税総額は 44 億 7,000 万元と跳躍的発展を遂げ、中国モリブデン業界の新たなリーダーとして各国同業者の注目を浴びている。

以下、洛陽モリブデンの現況について数字を使って紹介する。

プロジェクトと生産能力の拡大によって、目下の 1日当たりの採掘・選鉱能力を 30,000t に、モリブデン鉄の年間生産能力を 12,000t に、酸化モリブデンの年間生産能力を 20,000t にし、国内最大の生産規模と生産能力を誇る。

資産運用戦略を強化し、最短の時間で香港証券取引所メインボードへの上場を果たし、香港 H 株上場最短記録を更新した。株式引受率は 94.5%に達し、香港市場の上場企業のトップである。IPO 調達総額は 8,100百万 HK $(香港ドル)で河南省過去最高を記録した。

国際的な新技術である非安定型硫酸製造技術を導入して製錬排煙対策を施し、全国初の環境配慮型モリブデン製錬プラントを建設した。これにより製錬プラントの排煙がほぼゼロエミッションとなり、国の排出基準を満たす全国唯一のモリブデン製錬プラントになっている。

国内トップレベルの研究センターには 1,200 万元余の試験設備があり、研究開発用ハードウェアではレアメタル業界屈指である。同センターは国から国家級モリブデン・タングステン材料製品加工研究所に認定されている。

技術革新により国内で唯一の 25㎏モリブデンの引抜加工ラインを開発した。この加工ラインは中国有色金属協会によって 2007 年科学技術賞一等賞に選ばれている。

2007 年、グループの生産と経営は安定かつ大幅な成長を実現した。利益総額は 30 億元で河南省工業企業のトップを占めた。

また、中南大学と共同で空洞処理技術を開発した 「潜在的危険性のある金属鉱物資源の安全採掘及び災害コントロールに関する研究」 は、2007 年の科学技術コンテストで国家科学技術進歩賞二等賞に選ばれた。なお、独自に開発した内熱式回転炉を用いた製錬技術とモリブデン精鉱の回転式フラッシュ蒸着直燃型焙焼法は第 9 回全国技術発明賞一等賞に輝き、河南省科学技術庁によって国内モリブデン製錬業の新技術に認定された。広範囲において技術改造とグレードアップによって設備レベルが年々向上し、目下、国内第一位、世界的にもトップレベルにある。また、中周波数帯焼結技術を改良して国内最大の焼結容量を持つ中周波数型焼結炉を製造している。さらに、国内初の新しいスクリュー式押し出し成形技術を開発し、製品品質が大幅に向上した。なお、制度やシステム、運転モデル等の面でも刷新及び改善を図った結果、市場経済への適応が可能な管理システムがほぼ整備され、経営管理の規範化と管理レベルが向上している。管理能力も高く評価され、「全国企業現代化管理成果国家級二等賞」 に選出されている。

2008 年年初から 6 月までの同グループの営業総額は50.02 億元、利益総額は 17.40 億元、輸出による外貨創出額は 122 百万 US $、納税額は 11.34 億元に達し、世界をリードする大型先進鉱業グループに向けてより着実な一歩を踏み出している。

Ⅱ-4-2. イノベーションで企業の総合力をアップイノベーションは洛陽モリブデンが安定成長してい

くための原動力であり、企業活力を維持するための源泉となる。当グループはその成長過程において常に科学的発展観を堅持し、科学技術に裏打ちされた強大な企業を創出するという戦略の下で、積極的にイノベーションを推し進め、先進的かつ適用的な新しい設備・材料・製造プロセスを使ってきた結果、注目に値する経済効果と社会利益を生み、世界トップレベルの技術を有するモリブデン生産企業への成長を果たした。(1)先進的かつ安全な大型露天掘り鉱山を実現

露天掘鉱山の建設においては先進的な技術と管理理念を以って取り組んでいる。露天掘鉱山の建設は 2001年・2002 年・2005 年に跳躍的発展を遂げた。2001 年の 1 日当たりの生産能力は 5,000t であったものが、

Ⅱ-4. 技術革新と省エネ・排出量削減により洛陽モリブデンを世界一流の鉱業グループに洛陽欒川モリブデン業集団株式有限公司 常務副総経理 李 発本

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2002 年には 8,000t、2005 年には 15,000t にまで達し、その後 8 か月も経たないうちにさらに 30,000t となり、予定よりも 21 か月早く生産目標を達成させた。この間に先進的な坑道発破技術を用いて、河南省過去最大規模の発破を 3 回にわたっている。特に 2004 年 5 月22 日の 「中原最大の爆破」 における爆薬の充填量は700t を超える規模となった。なお、同技術は河南省科学技術庁の技術鑑定に合格している。露天掘発破法に関して研究開発された 「露天掘・ベンチカットにおける深孔発破新技術」 は国の非鉄金属工業科学技術賞一等賞に評され、省冶金建材産業科学技術進歩賞では二等賞を受賞している。また、施工管理面でも思い切った改革を行い、剥土工程を外部に発注することで建設投資を節約し、剥土作業が加速された。

古く多数の小規模な乱掘に等しい坑内掘が行われたという歴史的な原因から、露天掘採掘範囲内には不規則な空洞が大量に存在し、鉱山採掘の安全性という面で大きな脅威となっていることから、一時期露天掘鉱山は権威筋から採掘禁止を言い渡されていた。そのため、同グループが行った 「三道庄鉱山露天採掘範囲内の空洞処理に関する試験研究」 は省冶金庁科学技術賞一等賞に評された他、市科学進歩賞二等賞、省科学進歩賞三等賞を受賞した。また、「坑道発破処理及び複雑な大規模空洞の研究プロジェクト」 を実施し、大規模な空洞処理技術を掌握することになった。中でも震動落下作用を使った技術は国内初のものであり、国内外の同類鉱山での普及が期待できる。なお、同技術は河南省科学技術局の専門家による技術鑑定に合格している。

鉱山生産の安全性を確保し、鉱山の資源利用率を高めるための取組みとして、ボーリング探査法、高密度電気探査法、地震探査法、3 次元レーザー探査法等の探査方法を用いて空洞の位置や幾何学形状を明らかにした後に、3 次元レーザースキャナーと地中音響探知機で岩盤の移動や破壊状況を常時監視している。こうした取組みは露天掘鉱山が安全かつ迅速に秩序ある操業を達成する上での保障となっている。

新技術・新方法・新設備の研究応用によって、閉鎖の危機に瀕していた鉱山が活性化し、今や 1 日当たりの採掘量が 30,000t 超の安全で先進的な大型露天掘鉱山に生まれ変わっている。

(2)選鉱・製錬・製品加工が急速に発展安全かつ先進的な大型露天掘鉱山の建設が、洛陽モ

リブデンの飛躍的な成長の強固なベースになっていると同時に、選鉱・製錬・製品加工分野におけるイノベーションによってグループ全体がめざましい発展を遂げている。2002 年、洛陽モリブデンはロシアの国家非鉄金属冶金設計研究院やアモイ・タングステン業、長沙有色金属設計院等と共同で試験を重ねた末、灰重石回収技術の開発に成功した。灰重石の回収に関する研究は全くゼロからスタートであったが、この技術

によってそれまで毎年約 8,000t の灰重石が“ずり”となり回収されずにいた状況を一変することとなった。2003 年には米国 EMCOR 社が開発したカラム浮選機によるモリブデン浮選技術を改良し、選鉱会社 3 社における試験に合格し、それらの選鉱会社 3 社と株式支配している 3 社に対し全面的に普及させていった。これにより年間電力消費量が 40%以上、労働力の 1/3が削減され、回収率が 6 ポイントアップし、精鉱品位が 5.4 ポイント上昇、年間利益総額が数千万元増額となるという効果が上がり、中国のモリブデン選鉱技術に革命の嵐を巻き起こした。モリブデンの製錬過程で排出される大量の有害ガスが環境を汚染するという周知の難題については、研究員を科学研究所等に勉強に行かせたり、著名な専門家を招いて現場で指導に当たってもらったりする等の対策を講じている。こうした研究分野の取組みを通じ、集塵脱硫技術によって環境汚染問題が解決され、排ガスを回収・再利用することで硫酸の生産が可能となり、企業に科学的発展観や循環型経済を徹底させる上での一つのモデルを提供している。

ここ数年来、洛陽モリブデンでは 6 か所の選鉱場で全自動化を進め、モリブデン精鉱の品位を 47%から57%に向上させた。酸化モリブデンの品位もそれまでの 51 ~ 57%から 57 ~ 60%にアップし、主力製品が内外顧客の好評を博している。2006 年には洛陽高科公司が年産 160t の新プロセスによるモリブデン線生産ラインの稼動を開始している。新プロセスは超音波オンライン加熱法と圧延加工法を用い、わずか 4 分で直径 50mm のモリブデン棒を直径 5.8mm のモリブデン線に加工することができる。これは世界でも初の試みであると同時に、国内にも大きな影響を与えたということで河南省ハイテク技術企業に選出されている。また、これら独自のイノベーション以外に、海外からも積極的に先進設備を導入している。スウェーデン製破砕設備の導入でモリブデン原鉱の処理量が 60%アップし、年間利益額が 3,000 万元増えた。特に万 t級及び 5,000t 級の選鉱プラントの建設に当たっては、世界トップクラスのモリブデン選鉱所を建造するという目標を掲げ、米国、ドイツ、スウェーデン等の先進的な浮選機やシックナーを導入している。これらの取組みにより、グループ傘下の選鉱所の環境、省エネ、増産、品質が、国内モリブデン業界の先端レベルにまで引上げられている。

また、イノベーションによって原鉱・精鉱・尾鉱のオンラインによる品位測定が可能になり、これにより作業工程が大幅に安定し、エネルギー消費量も削減できるようになった。作業員の労働強度や作業環境も改善され、処理効率、実収率、製品品質が大きく向上した。2003 年から 2007 年までの 5 年間のグループの販売収入総額は 181.83 億元、利益総額は 70.97 億元、輸出による外貨創出総額は 640 百万 US $、納税総額は44.7 億元に上った。まさに跳躍的飛躍を遂げたと言う

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にふさわしく、中国モリブデン業界のリーダーとして世界の同業者の注目を集めている。イノベーションによって洛陽モリブデングループは今まさに世界トップレベルの鉱業グループへの道を歩んでいる。

Ⅱ-4-3. �省エネルギー・汚染物排出量削減で安定成長の道を

洛陽モリブデンは企業の成長プロセスにおいて一貫して科学的発展観を堅持し、創造的な発想や特色あるマネジメント方法を以って企業イメージの向上と自己研鑽の道を探ってきた。「人間中心、環境保護に配慮した鉱山建設」 というモットーの下で、環境保全型鉱山や調和のとれた企業の創設に努め、「高効率、低エネルギー消費、低汚染物排出」 の持続可能な発展が可能な工業化への道を歩み始めている。(1)�環境にやさしい鉱山の建設し、調和のとれた企

業へモリブデンとタングステン資源を節約し、最大限環

境を保護し、最高の利益を挙げることが洛陽モリブデンが存続し成長する上での根本となる。長年にわたって洛陽モリブデンは生産活動において資源の再利用という原則に則り、省エネ・排出削減を進め、循環型発展を目指してきた。実際の企業活動においては、節約と開発、保護と拡張の両立を重んじる鉱山開発ビジョンに基づき、資源実収率と利用率を最大限高める努力をしている。また、鉱山の寿命を延長するために、6年間に 8 億元弱の資金を投じて、露天掘の規模を 6 倍に拡張して坑内掘を全面的に閉鎖した。露天掘鉱山の建設という目標を実現し、企業の持続的かつ調和的発展に向けての条件を整えている。

洛陽モリブデンのトップは経済的な成長以外に、鉱山の生態系保護にも大きな関心を寄せており、「金山や銀山は必要だが、緑の山と清流も大切だ」 という思想を掲げて持続可能な発展の道を歩み始めている。2005 年以降、「生態環境を護り、美しい自然を再生する」 という考え方から生態系の修復と環境美化に注力し始めている。鉱山における水土保持及び土地再開墾関連の国の規定に基づき、鉱山公園の建設のための全体計画を策定している。造園会社に設計を依頼し、鉱山の生態環境保全事業に着手し、ヒマラヤスギ、タイワンネズミサシ、サルスベリ、ニセアカシアヒレリ等の 10 余りの山岳地に適した鑑賞用樹種合計 50 万株余りを植栽し、植栽面積は 57 万 m2 に上る。公園内では喬木と潅木が混在し、花々と緑の木々が美しい景観を織りなしている。こうした取組みは先進的かつ調和のとれた鉱山を建設し、企業の持続可能な発展を実現する上で大きな意義を持つものだと言えよう。

(2)クリーン生産を実現し、節約型企業を目指す洛陽モリブデンは生産の全過程においてクリーン生

産を実現し、節約型企業を目指して積極的に以下のような努力を続けている。

① プロセスフローと持ち場ごとの作業内容を厳密に定め、省エネと廃棄物の再利用を進め、資源の無駄使いを根絶することで、生産コストを抑え、利益を向上させる。

② 省エネ技術の研究と応用に力を入れ、グループ全体に省エネ技術を浸透させる。選鉱企業が全工程を自動制御化し、年間 10%以上の節電を実現し、製品実収率を 85%以上にアップした。また、全ての大型電機にコンバータを付け、年間電力消費量を 300万 kWh 削減した。新設の 1 日当たり処理量が 5,000t級の選鉱所で世界最先端技術を用いた自吸式浮選機を導入し、年間の電力消費を 15%カットした他、従来の乾燥技術の替わりに蒸気乾燥機を採用することで年間石炭消費量を 60%以上削減した。

③ 工業排水や採掘・選鉱時の固形廃棄物に対し 「資源化・無公害化・減量化」 処理を施し、世界トップクラスの尾鉱シッキング技術の導入によってプラント内の水の再利用を実現させた。再利用率が 92%に達し、年間で汚水排出量を 3,564 万 t 削減し、汚水排出ゼロがほぼ達成されている。また、破砕装置には除塵機を付けることで、年間粉塵排出量を 1,000t削減した。さらに選鉱の際に使う薬剤による周辺環境への影響を低減するために、抑制剤として従来使っていた劇薬のシアン化ナトリウムを汚染の少ないメルカプト酢酸ナトリウムに切り替えた。グループ傘下の製錬企業は 2,580 万元を投じて 「回転窯によるモリブデン精鉱焙焼時の排煙を利用した硫酸製造技術」 によって年間 6,500t の二酸化イオウの排出量削減が可能となり、全国のモリブデン製錬企業の中で唯一汚染排出量が国の基準を満たしている製錬企業になっている。現在建設中の年産 4 万 t 規模のモリブデン転換装置は、世界有数野モリブデンメーカーである米国 Phelps Dodge(現 FCX)との共同建設による大型のモリブデン製錬装置であり、それには現目下世界最先端レベルの省エネ・エコタイプの高効率多胴型ボイラーを用いた焼結技術が採用され、大気汚染物質の排出をゼロに近づけ、「環境配慮型のモリブデン産業」 を確立している。製錬時の汚染排出基準をクリアすると同時に、製錬

技術の改良とバージョンアップも進めている。独自に開発した 「内熱式回転炉」 による製錬技術と 「モリブデン精鉱の回転式フラッシュ蒸着直燃式焙焼設備及びプロセス」 によって焙焼・製錬能力が従来の 2.5 倍アップし、年間焙焼能力が 20,000t に、製錬能力が 12,000tにそれぞれ伸び、中国最大のモリブデン製錬装置になっている。

Ⅱ-4-4. 今後の発展戦略高みに立って初めて遠くが見渡せるものである。省

及び市の全体的な手配や上場後の投資家への誓約内容を自社の成長方針の中に取込み、2008 年度及び今後 5年間の全体目標を以下のように定めている。

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① 早急に生産経営型企業から資本運用型企業への転換を図る。利益の拡大のみを追求する成長パターンから、利益と生産額の両方を拡大させる方向へとシフトする。従来の単一的なモリブデン・タングステン産業から多様な金属分野に発展していく。

② モリブデンを主に、タングステンと貴金属を両翼とし、技術革新の道を歩み、環境にやさしい鉱山を建設し、国内外の市場シェアを高め、洛陽モリブデン集団を世界トップレベルの特殊金属と貴金属鉱業グループに育てていく。

③ 2008 年度の販売収入目標は 100 億元以上、2010 年には 150 億元以上、2012 年には 300 億元以上にまで増やす。洛陽モリブデンを優位性が顕著、特色が鮮明、技術力のある、高収益、低資源消費、低汚染の、人的資源を十分に活用し、人と自然の共生を目指す工業分野における新型企業を目指す。

こうした成長目標に沿って先進的な企業マネジメン

ト制度の充実を図り、マネジメント方法の改善が利益の向上に結びつくように努める。企業管理レベルの向上を目指し、常に生産コストの削減に努め、企業リスクに対する抵抗力を高めていく。一方で情勢に機敏に対応し、鉱物資源の大企業グループへの集約化を図る国の優遇政策を活用しつつ、その良好な融資環境を活かして資本運用面を強化し、成長パターンを転換していく。対外協力を強化し、戦略的協力パートナーとの連携を強め、連合・合併・株式支配等の方法を通じて資源の統合に注力し、低コストの成長を実現する。全国範囲で統合の対象を求め、金・銀・インジウム・チタン等の希少金属資源を扱う企業の買収を進め、企業が持続的かつ健全に発展していくために十分な資源を確保する。国内の資源統合を早急に進めつつ、世界にも目を向け、海外へ広く門戸を開く姿勢を堅持しながら国際化の道を歩む。「走出去(海外進出)」 戦略を積極的に推し進め、国際的な一流興業グループを目指す。

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Ⅱ-5-1. 中国の鉄鋼産業におけるモリブデン需要モリブデンは合金鋼を製造する際に鋼に添加される

元素であり、鋼の強度や耐食性、耐摩耗性、急冷度、溶接性、耐熱性等の諸性質を強化できることから、鉄鋼業で広く使用されており、同業界のモリブデン需要量が国内総需要量の 77%を占めている。また、モリブデン消費の内訳は合金鋼約 43%、ステンレス約23%、工具鋼及び高速度鋼約 5%、鋳込み約 6%となっている。中国鉄鋼業におけるモリブデン需要はモリブデン合金鉄が主流で、以下のような鉄鋼製品がある。炭素鋼: 配管用鋼管(X50-X120、含有率 Mo 0.1 ~ 0.8%)、

高圧ボイラー管、油井用管、ドリルパイプ、厚中板等。

ステンレス: モリブデン含有率 85%のステンレスの鋼種は 316、平均モリブデン含有率は2.2%である。現在、国内三大ステンレスメーカーである宝山鋼鉄、太原鋼鉄、張家港浦項ステンレスのモリブデン含有ステンレスの鋼種は 316 が主流である。

特殊鋼: 高速度工具鋼(含有率 Mo 約 9%)、軸受鋼、高温合金鋼がある。特殊鋼 1t 当たりのモリブデン消費量は 0.2kg のレベルに達している。

中国鉄鋼業のモリブデンに対する品質要件は以下のとおりである(表Ⅱ-5-1)。

Ⅱ-5. 中国の鉄鋼産業におけるモリブデン需要とその購入モデル宝山鋼鉄原料購入センター原料二部 総経理 張 栄海

表Ⅱ-5-1. 国内主要鉄鋼メーカーのモリブデン合金鉄に対する品質要件及び年間需要量

企業名 基本銘柄モリブデン品位要件

(単位:%)2008 年の年間需要量予測

(単位:t)

宝山鋼鉄 FeMo60-B 60 ~ 62 10,000興澄鋼鉄 FeMo60-A/B/C 55 以上 6,000太原鋼鉄 FeMo55-B 55 以上 5,000武漢鋼鉄 FeMo60-B 58 ~ 62 4,200南京鋼鉄 FeMo55-A 55 以上 2,500馬鋼 FeMo55-A 55 ~ 65 2,500舞陽鋼鉄 FeMo55-B 55 以上 2,200鞍鋼 FeMo55-B 58 ~ 62 2,000張家港浦項ステンレス FeMo60-B 60 以上 2,000大冶特殊鋼 FeMo55-B 55 以上 1,500衡陽鋼管 FeMo60-C 55 ~ 65 1,000貴陽特殊鋼 FeMo60-B 60 以上 1,000中国首鋼 FeMo60-B 60 以上 800湖南華菱湘潭鋼鉄 FeMo60-C 55 ~ 65 700広州聯衆ステンレス FeMo60-B 55 ~ 65 400包頭鋼鉄 FeMo60-B 約 60 600攀枝花鋼鉄 FeMo60-C 約 60 400石家荘鋼鉄 FeMo60-C 55 ~ 65 350杭州鋼鉄 FeMo55-B 55 以上 350

合計 - - 43,500

国内主要鉄鋼メーカーの購入基準はそれぞれ異なり、銘柄としては FeMo60-A、B、C と FeMo55-A、Bがある。また、モリブデン品位の限定範囲にもばらつきが見られ、最も厳しい要件は宝山鋼鉄の 60 ~ 62% Mo(62%を超えても価格は変わらない)で、その他の鉄鋼メーカーは 55% Mo 以上、58 ~ 62% Mo、55 ~65% Mo、60% Mo 以上と幅を持たせている。国内鉄鋼メーカーが購入基準の中でモリブデン品位に関する基準に幅を持たせているのは、目下の国産フェロ・モリブデン中のモリブデン含有量が均一でないことを考慮してのことであるが、購入基準に幅をもたせることは、国内フェロ・モリブデンメーカーの品質の向上と製鋼時のモリブデン添加量の抑制という点で不利であり、大なり小なり製鋼時のモリブデンの浪費を招くこ

とになる。2008 年の各国内鉄鋼メーカーのフェロ・モリブデ

ン需要を見ると、ここ 2 ~ 3 年、太原鋼鉄と張家港浦項ステンレスの需要が急増しているが、これは主に両社のステンレス生産量が伸びていることによる。また興澄鋼鉄も多品種鋼や特殊鋼、高圧ボイラー管の生産量が増加したことでフェロ・モリブデンの需要が大幅増となっている。なお、鞍鋼、馬鋼、邯鄲鋼鉄、南京鋼鉄、攀枝花鋼鉄、済南鋼鉄でも配管用鋼管の生産量の増加に伴いフェロ・モリブデンの需要が顕著な伸びを示しており、配管用鋼管生産能力の急速な拡大が国内のモリブデン需要を大きく牽引していることが分かる。1996 年から 2001 年にかけて宝山鋼鉄と武漢鋼鉄によって生産された X60 と X70 の配管用鋼管が、そ

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れぞれ陝西省-北京間のパイプラインと 「西気東輸(西部地域で生産した天然ガスを東部地域に送る)」 プロジェクトに使用されて以来、国内鉄鋼メーカーが次々に配管用鋼の開発を始め、今では鞍鋼、馬鋼、邯鄲鋼鉄、南京鋼鉄、攀枝花鋼鉄、済南鋼鉄、太原鋼鉄等で様々なグレードの配管用鋼管が生産できるようになっている。中でも武漢鉄鋼、鞍鋼、南京鋼鉄でフェロ・モリブデン需要が増えているのは主に配管用鋼管の生産量が増えたことによる。

中国のモリブデン需要は今後も伸びていくことが予想されるが、それは国内の鋼生産量の増加と多品種鋼及び高付加価値鋼の比重の増大と歩調を合わせる形で拡大していくものと思われる。

ここ数年、わが国の鉄鋼業は飛躍的な発展を遂げ、ステンレスの生産能力が大幅に拡大している。鋼生産量は 2000 年の 1.27 億 t から 2008 年には 5.35 億 t に増え、ステンレス生産量は 2007 年には 700 万 t を突破し、2010 年には 975 万 t に達することが予想されている。今後、中国の鉄鋼業は M&A・再編・新設等の方法を通じて生産能力の拡大を図る一方で、旧式生産手段の淘汰や製品構造の最適化を進めていくことになる。

政府が国内鉄鋼産業に対するマクロコントロールを強化し、粗鋼製品の輸出を制限して優良かつ高品質な鉄鋼製品の輸出を奨励している中、国内の鉄鋼メーカーは鉄鋼製品の製品構造の最適化や多品種鋼の比重の拡大、技術革新等によって競争力を高め、利益拡大を図っていくことが予想される。

潜在需要の増大が引続きモリブデン需要を牽引していくものと思われる。モリブデン含有ステンレスや低合金鋼、特殊鋼を中心にモリブデン需要が増え、モリブデンの国内生産量も増加傾向を維持していくことが予想される。エネルギー分野では、天然ガスと石油の需要が増え続けているが、地球規模の環境保護が叫ばれている中でクリーンエネルギーである天然ガス使用量の大幅増が予想されるが、それにより石油及び天然ガスの配管用鋼管の生産が牽引されていくものと思われる。中国の天然ガスパイプライン建設は高度成長期を迎えており、長距離、大輸送量、高圧輸送という特徴がある。配管用鋼管の将来的な総需要量は年間 400万 t が見込まれているが、これによりモリブデン需要の急増が見込まれている。石油天然ガス業界は既にモリブデン需要の重要分野となっているが、最近はディーゼルエンジン駆動による自動車産業や原子力発電、航空産業もモリブデン需要の重要業種になりつつある。

中国は世界最大の鉄鋼消費国であり、モリブデン消費量は世界全体のモリブデン総消費量の 13%を占めているが、欧州(30%)や米国(23%)のレベルにはまだ及ばない。2007 年の世界全体の鋼生産量は約 13.4億 t で、モリブデンの世界総消費量は金属量換算で20.4 万 t、うち鋼鉄業の消費量は金属量換算で 15.7 万 tであった。2007 年の中国の鋼生産量は約 4.89 億 t、モ

リブデン総需要量は約 4.2 万 t であったが、モリブデンの鉄鋼業における消費量は金属量換算で約 3.24 万 tであった。中国のモリブデン総需要量は世界総消費量の 20.6%を占めているが、世界全体のモリブデン需要量と比べるとまだその比重が小さいこともあり、将来的にまだ大きな発展の余地があると言える。なお、ここ 2 ~ 3 年、中国のモリブデン消費量は毎年 10%以上の伸び率で拡大している。

2008 年は国内外の経済で様々な不確定要素に見舞われているが、中国経済も欧米諸国の経済疲弊、ドル安、米国のサブプライムローン問題、石油価格の高騰、人民元切り上げ等の影響を受けて製品輸出が伸び悩んでいることに加え、国内のインフレ圧力により、GDP成長率が現在の 11%から 9%か 10%まで下がるという予測がなされている。世界経済の成長率も、2008年下期もこのまま縮小することが予想されており、2007 年の 5%から 2008 年は 4.1%、2009 年は 3.9%にまで下がるだろうと言われている。なお、2008 年第 4四半期の前年同期比は 2007 年の 4.8%から 2008 年には 3%まで下がるが、2009 年には 4.3%にまで回復するというはっきりとした形の予測もなされている。

鉄鋼市場もまた複雑な市場圧力に曝されており、鋼材を消費する川下産業の伸び率がどれも 20%未満になっている(汎用設備製造業 18.4%、交通運輸設備製造業 15.8%)。この他にも以下のようなデータがある。すなわち、① 2008 年 7 月の全国工業ボイラー生産量の伸び率が

前月比 2.6 ポイント減②民用鋼質船舶生産の伸び率も前月比 10 ポイント減③ 金属切削工作機械生産の伸び率が前月比 4.3 ポイン

ト減④全国の各種乗用車の販売額が前期比 2%近くの減少⑤ 普通乗用車の販売額も前期比 16.78%減と伸び率が

急激に縮小している。⑥ 主要都市における住宅市場に顕著な冷え込みが見ら

れ、不動産開発会社の資金回収に深刻な影響が出ており、それが固定資産投資全体の実質成長率の減少を招いている。

⑦ 国内外の諸々の不確定要素によって鉄鋼業の生産能力の拡大が制限されている。

⑧ 鉄鉱石・石炭・コークス・石油価格の高騰してい る。

⑨ 電力不足が生産能力を拡大する上でのネックとなっている。2008 年上期の全国総発電量は前年に比べ12.9%の伸び率であったが、この伸び率は前年比 3.1ポイント減となっている。7 月の総発電量は前年比8.1%増であったが、伸び率は前年比 7.4 ポイント減となっている。

⑩ 2008 年下期には深刻な電力不足量が予想されているが、国はまず鉄鋼業等の電力消費量の大きい産業への電力供給を削減してくるものと思われる。

⑪ 2008 年下期には地震被災地の復興に必要な物資や

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発電用石炭の輸送が重点となり、交通運輸手段の不足が見込まれているが、これも鉄鋼生産に影響を及ぼすことになるものと思われる。

⑫ 国は 2008 年下期も貨幣引き締め政策を継続し、インフレ抑制に重点を置くことが予想されているが、こうしたことに起因する資金不足によって生産能力の拡大に影響が出るものと思われる。

⑬ 鉄鋼メーカーが流動資金不足に見舞われる。特に中小企業の原料・燃料購入のための資金繰りが困難になる。

⑭ 地方政府は国が推し進める旧式生産手段の淘汰を受けて経済成長モデルを転換し、環境保護と GDP 成長を両立させることを模索しているが、各地域と国家発展委員会との間で交わされた責任書では多くの旧式生産手段が淘汰されることになる。

⑮ 2008 年の中国鉄鋼製品生産量の伸びがペースダウ ン し て い る。1 ~ 7 月 の 粗 鋼 生 産 量 の 合 計 は308,292,000t で、伸び率は前年比 9.3%増であったが、2007 年の粗鋼生産量の伸び率は 2006 年に比べて 15.7%増であった。

⑯ 2008 年 1 ~ 7 月 ま で の 鋼 材 の 生 産 量 の 合 計 は351,797,300t で伸び率は前年比は 11.7%増であった。

⑰ 2008 年 7 月の粗鋼生産量の伸び率が初めて 1 桁台に落ち込み、鋼材生産の伸び率も粗鋼生産量の伸び率を下回る数字となっている。現在、中国の鉄鋼業界は厳しい市場の状況に加え、

鉄鋼大国から鉄鋼強国へと変貌する歴史的なチャンスかつ重要な変革期を迎えていると言える。こうした世

界の鉄鋼産業の潮流に対応していくために、国内の1,000 万 t クラスの鉄鋼集団は M&A と再編、技術改造を通じて超大規模化や循環経済への移行を図り、品質向上と製品構造の最適化や安定した原料供給拠点の確保に努め、ユーザーと間に戦略的協力関係を築き、自前の研究機関を強化し、高い資質を備えた人材の育成を進めている。従って、鉄鋼生産における主原料の一つとしてモリブデン業界も進んで意識改革を行い、サプライチェーンと共に発展していくという理念と意気込みの下で、コストや品質、技術開発、サービス等の分野で新機軸を打ち出し、絶えず変化している市場ニーズに対応していくことが求められている。

Ⅱ-5-2. �宝山鋼鉄のモリブデン使用状況とその需要見込み

宝山鋼鉄は国内最大のフェロ・モリブデンの消費企業であり、高級鋼の生産ではモリブデンが幅広く使われている。その主な需要先としては宝鋼分公司、特殊鋼分公司、不銹鋼(ステンレス)分公司がある。主要鋼種には以下がある。

炭素鋼: 配管用鋼管(X50-X120、含有率 Mo 0.1 ~0.8%)、高圧ボイラー管、油井用管、ドリルパイプ、厚中板等。

ステンレス:鋼種 316(平均含有率 Mo 2.2%)特殊鋼: 工具鋼及び高速度鋼(含有率約 Mo 9%)、

軸受鋼、高温合金鋼。近年の宝山鋼鉄におけるフェロ・モリブデンの需要

状況は以下のとおりである(表Ⅱ-5-2)。

年度 宝鋼分公司 特殊鋼分公司 不銹鋼分公司 合計 前期比伸び率(%)2006 4,745 1,800 160 6,705 152007 5,540 2,180 190 7,910 182008 6,030 2,750 720 9,500 20

表Ⅱ-5-2. 宝山鋼鉄のフェロ・モリブデンの需給状況

(1)�宝山鋼鉄の発展戦略におけるフェロ・モリブデンの需要予測

2007 年、宝山鋼鉄は新たな発展戦略を打ち出した。すなわち 「規模拡大」 という基本路線に加え、「高品質化+規模拡大」、「M&A・再編と新設」 を方針とする成長戦略である。今後 5 年間の目標として、鉄鋼の生産規模を 2007 年の 2,800 万 t から 2012 年には 8,000万 t 超のレベルに高め、販売収入額を 500 億 US $以上に拡大し、世界の鉄鋼メーカートップ 3 に名を連ね、フォーチュン・グローバル 500 社の 200 位以内に入り、総合的な競争力を高め、中国鋼鉄業界の発展を牽引していくことを掲げている。

2008 年の宝山鋼鉄の鋼総生産量は約 3,200 万 t で、フェロ・モリブデンの需要量は 1 万 t 弱に達することが見込まれているが、これは国内フェロ・モリブデンの年間総需要量 4 万 t 余りの約 25%を占める。宝山鋼鉄の鋼生産量の急成長、高品質鋼製品生産力の拡大、

原料購入の一元化が推進される中で、フェロ・モリブデンの需要は今後も引続き増加傾向を維持していくものと思われる。

(2)国内のフェロ・モリブデンの購入方法現在の調達方法は次のとおり。

①入札  鞍鋼に代表される入札による購入方法は、毎月の使用量を当月の適当な時期に 1 回または数回の入札を行って購入する方法で、入札プロセスにおいて供給側と需要側双方による協議システムが確立されている。入札による購入価格は基本的に応札された最低価格となる。入札による購入では、公開・公平・公正の購入原則が十分に実行されることになる。

②協議による購入及び入札或いは相見積の併用  宝山鋼鉄、太原鋼鉄、武漢鋼鉄、張家港浦項ステンレス等に代表される方法である。国内モリブデン

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2009.1 金属資源レポート108

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業界の有力企業と長期契約を結び、一定の購入量を維持し、需給双方で 「強強協力」 を行う他、入札または相見積による購入方法を組み合わせて、市場からも一定割合の購入量を確保する。購入価格は市場の動向に則るという原則によって決められると同時に、常に価格設定のための原則を最適化する。国内鉄鋼メーカーは自社の管理条件や購入上の特徴

に基づき最も適した購入方法によって購入・供給を行い、フェロ・モリブデンの購入コストを効果的に抑制する努力をしている。

(3)�フェロ・モリブデンの購入方法は市場の需給環境の変化に合わせて調整と最適化を図る

2008 年は、国内フェロ・モリブデン輸出は関税が20%に引上げられたことと輸出割当制の影響で輸出価格が競争力を失い、輸出量が目立って減少し、国内市場の競争が熾烈さを増している。2008 年下期の国内市場は供給過剰の傾向にあり、国内モリブデン市場は明らかに買い手市場の様相を呈しているが、フェロ・モリブデンの購入方法は市場の需給環境の変化に合わせて相応の調整と最適化が図られるものと思われる。

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