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【論 文】 大阪市立大学看護学雑誌 4 (208.3) マデリン M.レイニ ンガ-の文化的ケア理論に基づ く看護援助に関する試論 StudyontheNursingCareSupportBasedontheCulturalCareTheory by MadeleinM.Leininger 城ケ端初子1) 藤原聡子 2) 中島小乃美 3) 井上康子 4) HatsukoJogahana SatokoFujihara KonomiNakashima Yasukolnoue Abstract Thispaperfocusedonthemedica l andnursingcareprov idedinJapanforthehospita lizedpatientswithdiferentcultur a l backgrounds , a imingtoana lyzethecasesraisedasproblematicbynursesa ndtopresentdefi nitionsoftheproblemsaswellas proposa lsforthenursingcareapproaches. Inthiscontext ,Leininger'scultura l Caretheory ,whichhig hlig htsdiferentcultural backgrounds , wasappliedtoaddresstheissue.Asaresult.thefollowingthreeproblemsweremanif ested;1) basedonnurses' perceptions;2) relatedtopatient'sunderstandingandrecognition;and 3) arisinginthepatient-nurserelationship.Thepaper thenproposedthemeasuresbrtherespectiveproblems. Keywords:NursingCare , CulturalCare ,Problem この研究は、文化的に異なる国である日本で受診 し治療 ・看護 を受ける外国人の患者 と看護者 とのかかわ り合いの中 で、看護者が看護上の問題 を感 じた事例 を扱 っている。本稿の検討には異 なる文化的背景 に焦点 を当てた レイニ ンガ- の文化的ケア理論 を用いた。 その結果つ ぎの 3 点の問題があげられた。 1 )看護師の認識の問題、 2 )患者理解 と把握 に関す る問題、 3 )患者 一看護者関係構築に関する問題である。本稿で は、その間題の所在 を提示 した。 キーワー ド:看護 ケア、文化的ケア、問題 はじめに 外旅行など、外国人や諸外国の文化 ・生活に触れる機会 が増加 している。看護の領域 に於いて も、同様の傾向に 近年諸外国との間における国際交流や仕事あるいは海 ある。外国の看護職 との共同研究や看護教師間の交流な 207 9 30 日受付 207 12 10 日受理 1)大阪市立大学医学部看護学科 OsakaCityUniversitySchoolofNursing 〒545-051 大阪市阿倍野区旭町 1-5-17 2)長野県看護大学 NaganoCollegeofNursing 3) 奈良県立医科大学看護学科 NaraMedicalUniversitySch0lofNursing 4)和歌山市医師会看護専門学校 TheNursingSchoolofWakayamaCityMedicalAssociation -ll-

マデリンM.レイニンガ-の文化的ケア理論に基づく看護援助に ......人阪市立入学看護学雑誌 第4巻(2u)8.3) Ⅲ.研究方法 レイニンガ-の看護理論(Leininger,1978,1984

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  • 【論 文】 大阪市立大学看護学雑誌 第4巻 (2008.3)

    マデリンM.レイニンガ-の文化的ケア理論に基づく看護援助に関する試論

    StudyontheNursingCareSupportBasedontheCulturalCareTheoryby

    MadeleinM.Leininger

    城ケ端初子 1) 藤原聡子2) 中島小乃美 3) 井上康子4)

    HatsukoJogahana SatokoFujihara KonomiNakashima Yasukolnoue

    Abstract

    ThispaperfocusedonthemedicalandnursingcareprovidedinJapanforthehospitalizedpatientswithdifferentcultural

    backgrounds,aimingtoanalyzethecasesraisedasproblematicbynursesandtopresentdefinitionsoftheproblemsaswellas

    proposalsforthenursingcareapproaches.Inthiscontext,Leininger'sculturalCaretheory,whichhighlightsdifferentcultural

    backgrounds,wasappliedtoaddresstheissue.Asaresult.thefollowingthreeproblemsweremanifested;1)basedonnurses'

    perceptions;2)relatedtopatient'sunderstandingandrecognition;and3)arisinginthepatient-nurserelationship.Thepaper

    thenproposedthemeasuresbrtherespectiveproblems.

    Keywords:NursingCare,CulturalCare,Problem

    この研究は、文化的に異なる国である日本で受診し治療 ・看護を受ける外国人の患者と看護者とのかかわり合いの中

    で、看護者が看護上の問題を感じた事例を扱っている。本稿の検討には異なる文化的背景に焦点を当てたレイニンガ-

    の文化的ケア理論を用いた。

    その結果つぎの3点の問題があげられた。

    1)看護師の認識の問題、2)患者理解と把握に関する問題、 3)患者一看護者関係構築に関する問題である。本稿で

    は、その間題の所在を提示した。

    キーワー ド:看護ケア、文化的ケア、問題

    はじめに 外旅行など、外国人や諸外国の文化 ・生活に触れる機会

    が増加している。看護の領域に於いても、同様の傾向に

    近年諸外国との間における国際交流や仕事あるいは海 ある。外国の看護職との共同研究や看護教師間の交流な

    2007年9月30日受付 2007年12月10日受理

    1)大阪市立大学医学部看護学科 OsakaCityUniversitySchoolofNursing

    〒545-0051大阪市阿倍野区旭町1-5-17

    2)長野県看護大学 NaganoCollegeofNursing

    3)奈良県立医科大学看護学科 NaraMedicalUniversitySch00lofNursing

    4)和歌山市医師会看護専門学校 TheNursingSchoolofWakayamaCityMedicalAssociation

    -ll-

  • ど、看護教育 ・研究分野における交流は、活発に行われ

    ている状況である。

    また、臨床の場においても、諸外国の人々を患者とし

    て受け入れ看護する場合が増加傾向にあるのも事実であ

    る。しかもそれは、実際場面では、さまざまな問題に直

    面することも多くなってきている。すなわち、患者をい

    かに把握するのか、あるいは患者一看護者関係構築上の

    問題など基本的な事柄である場合が多いのである。

    そこで、本研究では、マデ リンM.レイニンガ-

    (MadeleinM.Leininger)の理論に基づき、中国人の2

    事例をもとに問題の所在を確認し文化的ケアとしての患

    者支援の方策を提示するものである。

    Ⅰ.研究目的

    本研究は、文化的に異なる国、日本で受診、治療、看

    護を受けた外国人 (中国)である患者および家族 (ある

    いはそれに代る役割を有する人)と看護者とのかかわり

    合いの中で生 じるさまざまな看護上の問題一息者把握と

    理解、看護者の認識、患者 ・看護者関係および生活全般

    に関する問題などの所在を明らかにし、患者支援の方策

    を提示した。

    Ⅱ.理論的枠組み

    レイニンガ-の看護理論は 「文化的ケア理論」と呼ば

    れるように文化的ケアの普遍性と多様性を主題としてい

    る。文化的ケアとは、レイニンガ一によれば、健康維持

    や病気、障害、死に対処したり、生活様式を高めていく

    ために個人や集団を援助し支持 し、力をつけることで学

    習し伝永された価値観、信念、パターン化された生活様

    式のことをさしている (Leininger2002,p51)0

    この文化的ケアの多様性 と普遍性を明らかにしてい

    る。多様性は、ケアについての意味やパターン、価値、

    生活様式に関する相互性や変動性を示すもので、これら

    は、ヒューマンケアの表現を助け支持するものである

    (Leininger,2002,p47)0

    普遍性は多くの文化の中で明らかにされ、人々を支持

    できるようなケアの意味、バターン、価値、生活様式や

    象 徴 で あ り、一 般 的 で 類 似 性 あ る もの で あ る

    (Leininger,2002,p47)。

    つまり、文化的ケアは、他者がよい健康を維持し、病

    気を回復し、死に立ち向かえるように支援し、その人の

    能力を高める価値観や、信念のことを示している。また、

    人間は、その文化的背景や社会的構造、世界観、環境や

    -12-

    歴史と密接不可分であることをも示すものである。レイ

    ニンガ-がその文化に適した看護ケアを提供するための

    構成要素を説明するために開発したのが、サンライズ ・

    モデルである (図 1)(Leininger,2002,p47)0

    文化ケア

    多様な医療システムにおける個人、家族、集臥 組織

    /\\一一一一一、ヽ

    菜∫-111-

    一一一●一一、ノー一一●-、ヽ′ ■ヽ ヽヽ ′ ′ヽ ヽヽ′ ′ヽ ヽ▼ ′ ヽ ヽ′l ∫ ヽ ヽ

    草 書雪 上 ..・." テム..

    t専門的 1I

    1′ l ′ ′′ヽヽ、ヽ _.1く一一_一一一 一ヽ一一一一一 ~ヽ一一●一一一

    I

    看護ケアの意思決定と行為

    Ⅰ文化ケアの保持もしくは推持文化ケアの詞並もしくは取り引き文化ケアの再パターン化もしくは再構成

    コード●-●影響 文化を アケ護看た‡し慮考図l レイキンガーのサンライズモデル

    出典 :Leininger.M.M (1992)ノ稲岡文昭監訳 (2002):レイニンガ一着

    議論一文化的ケアの多様性と普遍性,医学書院,東京,47より引用

    円の上半分は 「環境」と 「言語」を通してケアと健康に影響する要因として、世界観と文化的 ・社会的構造で

    示されている。(本稿では第 1レベルとした)これらは

    個人、家族、集団を健康で良好な健康状態にするために

    影響を及ぼしていく (本稿では第 2レベルとした)。第

    1・2レベルを通 してその文化の中での民族的 (土着

    的)、専門的システムが考えられるが、これらは相互に

    関係している (本稿では第 3レベルとした)。以上の過

    程を経て看護行為のレベルに達する (本稿では第4レベ

    ルとした)ここでは文化的に矛盾 しないケアを捷供する

    ための 3つの様式が活用される。 1)文化的ケアの保

    持/維持、 2)文化的ケアの容認/交渉、 3)文化的ケ

    アの再パターン/再構成である。

    このようにサンライズ ・モデルは、半円の上方の、文

    化的 ・社会的構造から、土着的、専門的および看護シス

    テムの中で個人や集団を通してケアの意思決定を行ない、

    実践 してい くことを示 しているのである (Leininger,

    2002.p47)0

  • 人阪市立入学看護学雑誌 第 4巻 (2u)8.3)

    Ⅲ.研究方法

    レイニンガ-の看護理論 (Leininger,1978,1984.

    1992,2002)をもとに、事例を展開する方法をとった。

    用いたサンライズ ・モデルを、第 1-第4レベルに分類

    し活用した。また、倫理的な配慮として、本研究で用い

    た外国人2事例は、研究としてまとめる了解を得たもの

    である。

    Ⅳ.事例紹介と患者とのかかわり

    1.事例 1)

    A 中国広州出身。30代前半、 2年前に単身で中国か

    ら日本に来てA県の会社に勤務。身長160cm、体重

    52Kg、家族は長男 (3歳)と実母 (65歳)。夫とは3年

    前に死別。現在、実母は広州で生活しており、長男の世

    話をしている。家族には、毎月Aが送金し、生計を立て

    ている。 会社におけるAの仕事ぶ りは良好で、勤勉であ

    ることが評価されている。日本語による会話は不十分で

    あるが、周囲の人と片言の日本語で会話を試みたり、身

    振り手振 りを混えて中国の習慣を伝えようとするなどの

    交流に努め、日本の文化、生活にとけこもうとする姿勢

    がうかがえる。

    Aは2004年春、会社の健康診断で急性腎炎と診断され

    入院 ・治療を受けることになった。内科病棟 4人部屋に

    入院。入院時、会社の上司が付き添い入院手続きや主治

    医からの痛状説明をAと共に受ける。看護師からは、安

    静 (トイレ以外は床上安静)と食事療法 (腎臓病食、病

    院食以外は不可、水分摂取制限)、日常生活における留

    意事項などの説明、指導を受けている。また、栄養士か

    らは具体的な病人食に関する指導、薬剤師からは、服薬

    指導など各々受けている。

    しかし、入院翌日から、度々病室に姿が見えないこと

    や、時には無断外出する等、床上安静が守られない。病

    院食も 「美味しくない」「食欲がない」とほとんど摂取

    しないまま食膳を返却したり、外から持ち込んだ食品を

    食べている場面を何度か看護師が見つけ注意している。

    時には、漢方薬 (煎 じ薬)のような臭いのする飲料水を

    飲用している。また、内服薬は、床頭台上に置かれたま

    まになっていることもあり、指示どおりの服用はできて

    いないことがうかがえる。 無断外出や床上安静が守れな

    いこと、食事療法や服薬が指示通にできないことを看護

    師に注意されるたびに 「すみません」と言うものの一向

    に改善がみられない。見舞客は、会社の同僚や、中国人

    の知人で、知人とは中国語で会話 していると同室者から

    -13-

    の情報を得ている。他の同室者とのコミュニケーション

    も概ね良好で、動けない老人の食事や身のまわりの世話

    をする等の場面があり、看護師から注意を受けている。

    この病棟では、中国人患者の入院は初めてのことであ

    り、中国語のわかる者はいない。

    2.Aのもつ看護上の問題

    病棟カンファレンスでAの看護上の問題が検討され、

    次の点があげられた。

    1)病気や治療に関する理解ができていない。

    2)中国に住む家族のことが心配であると思われるも

    のの、看護師には自分からは一言も言わない。不

    安の表現というよりは、むしろいつも笑顔である。

    3)看護師には、安静、食事、服薬、生活などに関す

    る質問など一切しない。看護師をどのような役割

    をする者ととらえているのか不明である。

    4)病気や予後および入院に伴う不安の増大、入院生

    活から来るさまざまな不都合と思えること等、自

    分から表現してこない。入院生活全般の行動から

    みて入院をどのように考えているのか理解しにく

    い。

    5)食事療法や水分摂取制限について理解できていな

    い。制限食であるにもかかわらず、おかずに醤油

    をかけたり、度々お茶や温湯を飲用する。外から

    の持ち込みもある。

    6)安静の意味が理解できていない。病棟内、病院中

    庭の散歩、時に外部より帰院する姿が看護師によ

    って観察され注意されることがあるものの謝るだ

    けで何度も繰 り返す。

    7)服薬の重要性が理解できていない。

    8)入院生活の意味の理解が不足している。

    9)日本語の理解が不十分であることから他者とのコ

    ミュニケーションがとりにくい。

    以上の看護上の問題に対する看護側の対策は、次のよ

    うである。

    1)中国語の通訳つきでAの話を聞く機会をもつ。病

    気、入院、治療、生活および予後などの再説明と、

    どの程度理解できているのか確認し、理解が不十

    分な点を補う。また、これらに対するAの気持ち

    を表出できるように配慮していく。

    2)Aの気持ち、思いを知 り、受け止め、支援してい

    く。今、一番心配していること、不安なことは何

    であるのか確かめ、それに対する対策を立てかか

    わっていく。

    3)Aの医療者に対する認識を知り、看護師に対する

  • 期待や要求などを把握する。

    4)よい患者 一看護師関係が構築できるようにする.

    そのためには、Aが心を開いて話ができる雰囲気

    づくりと看護師が積極的にコミュニケーションが

    とれるように心がける。

    5)中国に住む家族や会社の同僚、中国人の知人との

    交流の機会を多くもつようにする。

    6)中国の文化、中国人の気質や習慣を知ることや中

    国語が理解できるように努力する。まず、看護と

    してレイニンガ-の看護論を活用する。

    中国系米国人の文化における文化的ケアの意味と行為

    の様式 (Leininger,2002,p198)は表 1のようである。

    表 1 中国系アメリカ人の文化

    文化ケアの意味と行為の様式

    1.他者へ奉仕 (セルフケアではなく)

    2.権威や老人の尊重

    3.権威、老人、政府役人への従順 (子供をそのように教

    育する)

    4.監督 :傍 らで、また遠方から見守る

    5.薬草治療、民間療養 (鍍治療など)への依存

    6.他者に対する地域全体での援助

    7.勤勉な労働と社会への貢献

    出典 :Leininger,M.M (1992) 稲岡文昭監訳 (2002):レイニンガ-香

    護論一文化的ケアの多様性と幣逼惟,医学書院,東京,47より引用

    上記の項目は現在のAの看護にとって重要なことであ

    る。 Aのもつ看護上の問題に対 して本人と通訳を通して

    話し合ったところ次のことが明らかになった。

    1)病気のこと、治療 (食事 ・服薬 ・安静)のことは

    よく理解できていない。身体的に苦痛もないのに、

    何故、床上安静なのか ?何故、水分制限するの

    か ?自国では、腎臓病では漢方薬を飲用する習慣

    がある。 また、湯ざまLやお茶を飲むことは体に

    良いとされているので、それをやめることはでき

    ない。

    2)これから先、仕事が続けられるか否か不安である。

    生活設計が立てられない状況にある。病気を早 く

    治して、一日も早く仕事に復帰 したいと思い、自

    国で良いとされている薬草や食事療法、湯ざまし、

    お茶を飲用してきた。

    3)経済的に困る。実母と息子への生活費の送金がで

    きないことが気がかりである。また、入院費の支

    払いなども気にかかる。

    4)看護師からは、食事、安静、服薬の注意を受ける

    -14-

    ことが多かった。また、自分で動けない同室者へ

    の世話も禁止される等、やってはいけない禁止事

    項ばかりであるが、何か自分にあった方法があれ

    ば教えてほしいと思っている。

    5)無断外出は良くないことであるが、中国の知人の

    ところに行って、中国式の食事と漢方薬 (煎じ薬)

    を作ってもらうために出かけていた。このことは

    自分が健康を取 りもどすために大切なことであ

    る。この知人と会うことで気持ちが落ち着き支え

    られてきた。これは自分にとって大切にしたいこ

    となので続けてきた。看護師に話せば禁止される

    と思い言えなかった。

    6)中国人の生活習慣も大事にしたい。このことを看

    護師にも分かってほしい。

    看護師側が看護上の問題 と思われた点をAと話合い、

    内容を確認し、再度指導を通して患者の思いを聞くこと

    ができ、そこから得た情報を盛 り込んだ看護計画を立案

    した。レイニンガ-は 「看護ケア行為は、あくまでも看

    護師 とクライエ ン トの共 同参加 であって看護介入

    (nursingintervention.)ではない」と言っている

    (Leininger,2002,p61)ことをふまえた計画立案である。

    看護計画

    看護診断 :文化の異なる日本における入院に関連したノ

    ンコンプライアンス

    看護目標 :Aの希望を取 り入れた治療、入院生活に患者

    自身が積極的に参加できる。

    看護計画 :1.十分にコミュニケーションがとれる機会

    を作る。

    2.食事、安静、服薬、生活に対して理解を

    深めるために中国語の通訳を交えて十分

    に説明する機会を増やすと共に理解の程

    度を確認し、不足点は補う。

    3.食事療法では、栄養士とも相談し、中国

    式食事も盛 り込めるように工夫する。湯

    ざまし、お茶、漢方薬 (煎じ薬)につい

    ても水分の 1日摂取量とあわせて指導

    し、協力を得るようにする。

    4.家族、知人、同僚との交流の機会を増や

    す (電話、手紙などを含む)0

    5.病気、治療および今後の見通 しについて

    通訳をまじえて主治医から再度説明して

    もらう。

    6.経済的なことは会社側と相談し、具体的

    な方策を立て実行する。

  • 大阪市立大学看護学雑誌 第 4巻 (2(カ8.3)

    以上の計画にそって看護が展開された。その結果Aは

    安静、食事、服薬および生活について積極的に参加する

    ようになり、病気の回復が促進され退院となった。

    2.事例 2)

    B 中国吉林省出身。30代前半経産婦、妊娠34週、身

    長168cm、非妊時体重58Kgで現在70Kg。児のNST所見

    は問題なく良好で、児の推定体重2400g。Bは 1年前

    (2(氾3年に)中国で見合いLB県の桃農家に嫁いできた.

    25才の時、中国人の前夫との間に3900gの男児を出産 し

    ていた。この男児はBの中国の両親が中国で育てている。

    既往歴なし。

    一週間前の定期健診で、血圧140/90mmHg尿蛋白 (+

    2)が認められ、検査入院し腎機能検査の結果がでた。

    CCr40mL、BUN27mg、血中クレアチニン2mg/dl、尿

    酸値6mg/dl、生化学検査Ht36%であるため、妊娠高血

    圧性腎症の管理目的で2004年10月13日 (35過 0日)に入

    院した。入院時夫が付き添い来院したが、夫は中国語が

    理解できず、Bは日本語が十分に理解できない状態であ

    る。主治医からは、症状および治療や今後の注意点など

    の説明がなされ、助産師からは、夫とBに対 して、入院

    生活や看護の説明がされた。 しか し、Bにはその内容が

    十分に理解できなかった様子で、検査のための蓄尿は、

    翌日までに2回程度 しかできていなかった。また、夫か

    らの妻に対する説明も期待できないので、Cが入院生活

    や看護の説明を中国語で再度行うことになった。CはK

    大学看護学部に所属する教員で、病院で学生の実習指導

    をしてお り、中国の留学経験を持つ者である。

    入院生活の説明を中国語でCが再度行った。18日に行

    った血液検査の結果から腎機能の悪化が認め られるた

    め、36過での帝王切開が決定し、通訳付 きで医師から説

    明がなされた。

    Cは入院時にBの病室に挨拶に行き、Bから出産に関

    する計画を聴いた。その内容は、入院中の食事は特に中

    国の出産の習慣に従い、冷水は飲まず、中国の実家から

    赤砂糖 と粟を送ってもらい、産後はこの粟とゆで玉子を

    食べるつもりだと話 した。また、日本に来てから香菜が

    食べられないのでつらいという。この助産院は選択メニ

    ューを採用 してお り、和 ・洋 ・中華の3種類の中から希

    望できたものの粟とゆで玉子中心の食事は考慮されては

    いなかった。妊娠35過であること、高血圧性腎症である

    ことから、治療食の対象となるので、Bの希望が取 り入

    れることが可能であるか否かについて、カンファレンス

    が持たれた。この助産院では、中国人の分娩が多いもの

    の看護側は中国語の分かる人はいない。Cは主治医、看

    -15-

    護部長および栄養士 と相談 し中国の習慣である分娩後の

    赤砂糖 と粟、ゆで玉子の食事を採用することになった。

    また、香草は乾燥 したものが日本で販売されていること

    がわかり販売店の所在地を伝えた。

    Bは帝王切開手術で、3300gの男児を出生 した。その

    当日から、血栓症予防のためパルンカテーテルを着けた

    まま離床訓練が実施された。この訓練についてBは泣き

    ながら、「中国だったら出産 した人には、優 しくしてく

    れるのに、みんなが動け動けって言うの。体がつらいの

    に」と言う。中国では分娩後 1ケ月は安静にし、家族か

    ら大切にされ栄養価の高い食事を食べる習慣がある。

    手術後、腎炎の症状が軽快 し、普通食になった時点で、

    医師の許可を得て、本人の希望を取 り入れ持ち込み食を

    続けることにした。Bは2日間は粟のおかゆに赤砂糖が

    入ったもので、ゆで玉子を三食ともに食べた後、病院食

    に移行 した。また、一週間日は母児同室指導を行ない、

    授乳の方法をCの通訳のもとに進め10日目に退院した。

    Cは再度血栓症の危険性を説明しながら、体位変換や

    B自身が行なう清拭を支援 した。

    また、中国では水を大切にする習慣があ り、清拭 も少

    量の水量で行なうので、助産院では多量の温湯を用いて

    清拭することに驚いている。

    この事例で、看護 ・助産側が看護上の問題と思ったの

    は次のことである。

    1)Bは日本語がわからないので妊娠高血圧性腎症お

    よび入院生活の説明がなされたがBには正確に伝

    わっていない。また、夫は中国語が理解できない

    ので、説明を受けた内容を妻に伝えることが困難

    である。夫自身も、妊娠、分娩、入院生活に関す

    る理解は十分とはいえない状況である。

    2)蓄尿などの説明も結果から見れば了解できていな

    いことがわかる。言葉の通 じない人にどのように

    伝えるかが課題である。

    3)食事に関する習慣の違いがある。中国の習慣を取

    り入れたいBの思いを助産院で個人の希望をどこ

    まで取 り入れた食事の工夫と配慮ができるかであ

    る。

    また、飲水はBの健康生活に重要な意味をもち、

    湯ざまLやお茶を好む習慣があることをどのよう

    に盛 りこめられるかである。

    4)分娩後の安静に関する認識の違いについての問題

    がある。中国における分娩後の安静や他者から大

    事にされる習慣 と日本における早期離床のズレは

    大きいものがある。看護 ・助産師は血栓症予防の

  • ために早期離床をすすめたい思いが強い。Bは休

    がつらいのに動けという助産師の指導に自国と比

    較し泣いている状況にある。

    5)B自身のもつ情報の不足に関する問題がある。

    Bの妊娠 ・分娩に関する知識、食事や早期離床

    に関することなどの情報が足 りない。情報不足、

    理解不足が適正な判断ができないことにつながっ

    ている。

    以上の看護上の問題に対 して、次の対策を立案 した。

    1)夫の同席を得て、妊娠高血圧性腎症について通訳

    つきで再度主治医から説明し、理解を得る。

    2)蓄尿や生活指導を通訳つきで説明し理解を促す。

    3)中国の食習慣をもり込んだ食事を工夫する。また、

    水分の摂取についてもBの希望をもり込む。

    4)早期離床の意味と必要性について通訳つ きで再度

    説明し、理解を得る。

    5)Bの持つ疑問や不安などについて通訳つきで答え

    てい く。

    以上の 2事例をレイニンガ-のサンライズ ・モデルに

    添って検討すれば、次の通 りである。尚、ここでは、サ

    ンライズ ・モデルを4レベルに区分 して活用 した。

    1)第 1レベル

    サンライズ ・モデルの上半分の部分で 「環境」 と

    「言語」を通 してケアや健康に関係する要因が数項

    目あげられている。これらをまとめて世界観 と文化

    的 ・社会的構造 として表現されている。世界観は、

    その人をとりまく世界や生活についての価値観を作

    り上げるための世界を見る方法であ り、文化的 ・社

    会的構造はその文化におけるさまざまな要因でその

    人がおかれた環境の中で、どのように行動するかに

    影響するものである (Leininger,2002,p52)0

    2事例はともに中国人として約30年間、中国の文

    化の中で家族 とともに生活 してきた。文化的 ・社会

    的構造の影響を受けながら、中国人としての価値観

    を持ち、その価値観に基づいて物事を考え、判断し

    行動につながっているのである。従って、その人の

    考えや判断は行動を手がか りとして、推測 し、確認

    しながらケアしなければならない。

    また、 2事例に影響を与えている文化的 ・社会的

    構造要因のうち、家族的 ・社会的要因、文化的価値

    観と生活様式および経済的 ・教育的要因は重要な意

    味を有 している。一人の人間として健康をいかに維

    持するのか、その認識と行動は、これらの環境要因

    と密接なつなが りにあり、それは大 きくその人の世

    界観に影響を及ぼしていくことにも関係 していくの

    である。事例 1・2の世界観 と文化的 ・社会的構造

    は表 2の通 りである。

    表2 世界観と文化的 ・社会的構造

    事 例 1 事 例 2

    ・中国に家族をおき、文化の異なる日本に仕事のために来てい

    る。 日本語の理解は不十分である。周囲の人達とコミュニケ

    ーションをとる努力をしている。

    ・病気、治療の理解が不足し、食事、服薬、安静および入院生

    活の決まりが守れない

    ・漢方薬の飲用、腎臓病食よりも中国式の健康食品をもりこん

    だ食事を希望している。

    ・自分の考えを積極的に表現しない。

    ・中国で見合いし文化の異なる日本の桃農家に嫁いできた。日

    本の家族は中国語が話せない。Bは日本語の理解ができない。

    ・分娩 ・産樽期は安静にして栄養の豊かな食事をとるものであ

    ると認識している。

    分娩後の早期離床が理解できず、「大事にしてくれない」と

    泣いている。

    ・冷水は体に悪いのでとらない。湯ざまLとお茶のみ飲用。食

    事は中国式の特別な食事を希望している。

    ・自分の考えや希望を率直に表現する。

    2)第 2レベル

    看護の対象 となる個人 ・家族 ・集団 ・組織に関す

    るもので、健康な生活を送れるか否かに影響を与え

    る部分である。

    3)第 3レベル

    その文化における民族的 (土着的)および専門的

    ケアシステムに関する情報で、この事例の場合、中

    -16-

    国文化で培われてきた民族的ケアシステムが垂要点

    である。 事例 1・2のシステムは表 3の通 りである。

    4)第 4レベル

    看護行為 レベルである。対象に必要な援助の決定

    と実施のレベルである。

    ここではレイニンガ-は 3つの生活様式を示 した。

    すなわち、 1)文化的ケアの保持もしくは維持、2)

  • 人阪市_-tl/A.大学看護学雑誌 第4巻 (2008.3)

    表 3 民族的 ・専門的ケアシステム

    事 例 1 事 例 2

    ・中国の食品をもりこんだ食事は体に良い。

    ・水分摂取は大切。お茶の飲用は体内の不要物を洗い流すので

    体に良い。

    ・漢方薬の飲用は、健康にとって大切である。

    ・体を動かす (運動)ことは健康回復によい方法である。

    ・病気治療のための服薬 ・食事 ・安静 ・生活面におけるケアが

    重要である。

    ・中国野菜は体に良いので、日本での販売ルー トを知りたい。

    ・冷水は体によくない。湯ざまし、お茶の飲用が望ましい。

    ・漢方薬もよい

    ・分娩後 1ケ月は安静にし、栄養をとることが大切である。 早

    期離床なんてとんでもない。

    ・分娩 ・産樽における食事 ・安静 ・生活のケアが重要である。

    表4 文化的ケアの様式

    事例様式 事 例 1 事 例 2

    1文化的 ・Aが病気を回復していけるように援助行動をとるo ・Bが正常分娩および良好な産樽ができるために体調をと

    ・病気、治療、予後について理解でき、回復のために必要 とのえるo

    なことが実施できるo ・食事に関する本人の希望を取 り入れた病院食にするo

    ケア ・食事、水分摂取など規則を守りつつ可能な限り本人の希 ・湯ざまし、お茶の飲用を確かめながら飲用できるように

    の保 望を取り入れていくo するo

    持/維持 ・漢方薬は主治医の許可される範囲内で飲用できるように ・患者に必要性を十分に説明をし、理解を得て早期離床をするo l日量の確認をし、制限量を守れるようにする〇・安静を守れるようにするo すすめていくo

    2文化的 ・Aが病気回復するために本人と話合い、ライフスタイル ・Bが分娩 .産樽がよい状態で迎えられるように本人と話

    の再構築や変更をして適応できるようにするo 合い、よい方法を検討し適応できるようにするo

    ・Aの生活習慣を尊重しながら入院生活に適応できるよう ・Bの分娩後の安静に関する意識を変えるように働きかけ

    ケア にするo るo

    の調 ・中国の食品をもりこんだ病院食を工夫するo ・食事は中国式の食品を取り入れたもので工夫するo

    整/敬り引き3文化的 ・漢方薬は主治医の許可範囲内でとれるようにするo ・漢方薬も本人の希望をとり入れられるように工夫するo

    ・お茶などの水分摂取量を本人の希望をもりこみながら、 ・分娩後は早期離床がその後の体に良い事を説明し、理解

    守れるようにする〇・安静、気分転換の方法を工夫する〇・Aが生活様式を見なおし積極的に本人の協力を得て、実 を得て、行動を修正できるようにする〇・Bが生活様式を見なおし、積極的に参加できることを目

    行に移すことができるo 指すoこの場合、本人の協力が必要な条件となるo

    ・中国式食料品をもりこんだ病院食に満足しつつ病院食を ・生活習慣を見なおし、よりよい状態で分娩、産樽ができ

    ケア とるo るようにするo

    の再 ・お茶などの水分制限を了解し、 1日の許容量を守りなが ・冷水は体に悪いので飲まない○お茶、湯ざまLを飲用す

    ′ヾ夕 ら、床上安静を守るo るo

    ーン/再構成 ・家族との交流 (手紙、電話)会社の友人、中国の知人の ・分娩後の早期離床の意味と良い点を了解し、積極的に取

    見舞いと協力を得て、生活に変化と規模地の安定が得ら り組めたo

    -17-

  • 文化的ケアの調整もしくは取 り引き、 3)文化的ケ

    アの再パターン化もしくは再構成である。

    以上の過程を経て事例 1・2の文化を重視した看

    護ケアを提供することになるのである。 2事例の生

    活様式は表 4の通 りである。あくまでも看護師はA、

    Bと話合い積極的な参加を得て、協力しながらその

    文化に適したケアの提供が大切なのである。

    V.考察

    事例 1、 2ともに中国から異なる文化の日本に来て、

    言語、生活習慣など環境がまったく異なる中で生活 し、

    入院した例である。また、それを受け入れる病院と助産

    院は中国語の話せる職員がいないこと、中国人の入院に

    関するさまざまな習慣や考え方および価値観が異なる状

    況で、A、Bと医療側との間の考え方、とらえ方のズレ

    やコミュニケーションの不足などもあった。

    2事例に共通する主なる問題は次の 3点である。

    1)看護師 ・助産師側の認識の問題

    事例 1では病気に関する理解不足、服薬、食事、安静

    などの規則が守れず入院生活のきまりも守れない。同室

    者の世話をする。入院に関する不安や心配はあると思わ

    れるのに、自発的には質問も訴えもない。いつも笑顔で

    ある。注意されても謝るだけで行動の変容は見られない。

    このようなAの姿勢や行動から、看護師は何を考えてい

    るのかわからないと考えている。 また、現段階における

    入院は、きわめて重大な意味を持つものであるにもかか

    わらず、「病気や治療、それに伴うさまざまな規制も守

    れない」「注意しても謝るだけで何の改善もみられない」

    などの受け止め方をしている。

    事例 2では中華食を準備 しているにもかかわらず、中

    国の習慣に添った食事を希望するBとの意識のズレがあ

    る。また、早期離床でも、自国での考え方と異なる思い、

    つらく泣いているBと、血栓症予防のために、早期離床

    は必要であるとする看護 ・助産師側の考えのズレが見ら

    れる。調整が必要である。

    さらに、蓄尿についても、その意味と方法が理解でき

    ていないことがうかがえる。また、妊娠高血圧性腎症に

    関する理解不足も推察できる。看護 ・助産師は 「説明し

    ても実行できない」と受け止めている。

    事例 1・2に共通するのは、対象者に対する看護 ・助

    産師側の捉え方の不足である。何よりもまず、患者や妊

    婦の行動の意味を探 り、内容の理解度の確認や疑問点あ

    るいは不安な気持ちを引き出せるようなかかわりが必要

    -18-

    である。その場合、 2事例とも異なる文化で育った人で

    あることを考慮に入れなければ、対象者の思いに近づ く

    ことはできない。レイニンガ-は、ケアの碇供者とケア

    を受ける人の間に文化的価値観の差異と類似が、世界中

    のどの文化にもみられる (Leininger,2002,p49)と述べ

    ている。その結果、文化的に違和感のあるケアを受ける

    ことにつながれば、文化的葛藤、ノンコンプライアンス

    行動、文化的ス トレス、過負荷、その他すでに看護サー

    ビスでみ られ る ような さまざ まな行 動 が起 きる

    (Leininger,2002.p41)と述べている。

    看護 ・助産師が対象を文化の異なる中で生活してきた

    人として、その背景を理解 し、その国の生活習慣と行動

    の意味を理解できるように努めることが大切である。中

    国人の文化的ケアの意味と行為の様式の活用が求められ

    ていると考えている。

    2)患者把握と理解不足に関する問題

    事例 1では注意 しても改善がみられない患者に対 し

    て、看護者側は重ねて注意し、規制に合った行動が取れ

    るように促 している。改善できる方向をめざしているも

    のの、患者にとっては注意されても中国の考えに添った

    病気回復に必要なことを実行するために食事、漢方薬、

    外出は避けられないことであった。実情を話しても理解

    が得られないと考え、看護師に対 して一切質問や相談を

    しないようになってしまっている。

    事例 2では食事、蓄尿、早期離床などに関する妊娠 ・

    産樽期の患者に対して、看護師 ・助産師は看護上、問題

    を感じている。文化的な背景および言語の違いからくる

    認識と行動に対応できているとはいい難い。

    2事例ともに文化の異なる日本で担っている多 くの負

    担、文化の違いから来る習慣や行事、言語の違いから家

    族や周囲の人達、看護師や助産師との会話も円滑に行か

    ない不安な思い等の、身体的、精神的、社会的に病んで

    いるAと家族があり、出産という慶事ではあるが、文化

    の違いによる問題に直面しているBの状況においでは、

    十分に考慮した文化的ケアが必要である。

    この 2事例では中国語による通訳を交えて相手のニー

    ドに合った説明や指導を行ない、病気や分娩に伴う入院

    生活に関する理解度の確認および指導が重要なことであ

    った。

    3)患者一看護者関係構築に関する問題

    2事例ともに患者一看護者関係は成立 しているとはい

    い難い。

    患者像の把握および患者理解が不足 していることは、

  • 人阪市立大学看護学雑誌 第4巻 (2008.3)

    患者一看護者関係にも悪影響を及ぼしている。また、患

    者とのかかわり合いの場面に於いても、患者の言動に注

    目し、十分な文化的背景や、その意味を考えるよりはむ

    しろ看護師からAに対して一方的に注意し、禁止する方

    向になったことは、両者のよい関係作 りを困難にしてい

    るといえる。

    レイニンガ-は、従来、看護ケアは、他者のためのも

    のと考えられてきたが、現在において看護師と対象者が

    共同参加して、協力し合い行うものである (Leininger,

    2002,p48)と述べている。看護師と対象者が共同して看

    護ケアに取 り組むためには、よい患者一看護師関係を構

    築する必要がある。 レイニンガ-は、文化を考慮した有

    益な看護ケアは、その人の文化的ケアの価値観、表現、

    パターンを、看護師がその人々と共に認識し、適切で有

    用な方法を用いた時にのみ有効である (Leininger,2002,

    p49)と述べていることからも、推察することができる。

    以上、患者とかかわりをもつ過程の中で、文化の異な

    る国で育った患者を看護する場合、主に、 1)看護師 ・

    助産師側の認識に関すること、 2)患者把握と理解不足

    に関すること、 3)患者一看護者関係構築に関すること

    の3点が認められた。

    患者支援の方策としては、次の3点があげられる。

    1)対象の文化、習慣、価値観、信条、生活様式など文

    化を尊重した情報を収集し、統合し患者理解すること。

    2)看護職は欧米や日本文化を基準にするのではなく、

    対象の国の文化を認め、受入れ、看護者としての認識

    を持つこと。

    3)患者一看護者関係の構築には、相互の信頼関係が基

    礎となるので対象の文化を尊重したかかわり合いにつ

    とめること。

    以上のように対象が外国人である場合、その人の文化

    に適した看護ケアは、対象に勇気を与え自立を促すこと

    につながる。また、それは看護職にとっても意義あるこ

    とになるものと思われる。

    -19-

    Ⅵ.おわりに

    中国人で、文化の異なる日本で暮らし、病気、治療お

    よび分娩のために入院し、看護師 ・助産師側が看護上の

    問題があるとした2事例とのかかわり合いの状況を分析

    した結果主に3点が明らかになった。これらの点は患者

    理解の不足や看護者と患者との認識のズレ、文化的背景

    の理解不足によるところが大きい。

    レイニンガ-が指摘するように、看護師は民族的ケア

    をほとんど理解せず、価値があると見なしていない

    (Leininger,2002,p64)こともうかがえた。また、患者

    は、看護師がより自分に接近し、より広い世界観を理解

    してくれることに非常に積極的な感情、誇り、希望を表

    現し (Leininger,2002,p64)、自分達に適したケアを提

    供してくれるためには自分達の文化的概念、信念、生活

    様式を十分考慮してくれなければならないと考えている

    (Leininger,2002,p64)などと述べてお り、看護師、助

    産師には患者の思いを知 り受けとめられるようなかかわ

    りが求められていると思われる。

    患者の生活してきた国の文化、価値観、信条、生活様

    式などを知 り、その文化に適した看護を提供することが、

    これからの看護職にはますます重要になるものと考えて

    いる。

    引用文献

    Leininger,M.M (1978).Transculturalnursing:

    Concepts,theories,andpractices.NewYork:Wiley

    Leininger,M.M (1984).Transculturalnursing:An

    overview.NursingOutlook,32,72-73.

    Leininger,M.M (1992).CultureCareDiversityand

    Universality:A theoryofnursing.New York:

    NationalLeagueforNurslngPress.●

    Leininger,M.M (1992)/稲岡文昭監訳 (2002):レイ

    ニンガ-看護論一文化的ケアの多様性と普遍性,医学

    書院,東京.